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- 1 - 1. イントロダクション 1.1 研究目的 安定核同士の核融合反応や直接反応過程によって生成することができる原子核は限られ ているので、より広い核図表の領域に渡って研究を進めるには不安定核ビームが必要であ る。現在、 5.3 MeV/u 17 N 二次ビームによる二次核融合反応実験を行い、中性子数 83 の魔 法数 82 近傍の同調体である、 142 Pr141 Ce140 Le の高スピンアイソマーを探索する実験を今 後予定している。しかし核物理センター(RCNP)の不安定核ビームコースである EN コー スでは、今まで数十 MeV/u 程度の高エネルギー領域の二次ビーム開発が行われていたので、 5.3 MeV/u の低エネルギー二次ビームの輸送は初の試みとなり、ビームラインを最適化する 必要がある。そこで EN コースで 17 N 二次ビーム輸送の光学系の条件を確定し、二次ビーム の量・純度・質ともに最良の条件を求める実験を行う。確立した条件で二次ビームを用い た核融合反応を 130 Te 二次ターゲットと起こし、生成核から期待される線をゲルマニウム Ge)検出器で観測する。 1.2 中性子数 83 同調体の高スピンアイソマー[1] 今回実験する 142 Pr141 Ce140 Le の励起状態はほとんどわかっていない。そのため今回は それらの励起状態を研究するためのビーム開発を行う。これらの核子は高スピンアイソマ ーが存在する可能性があり、非常に興味深い。以下に一般的なアイソマーと高スピンアイ ソマーについて説明する。 1.2.1 アイソマー(核異性体) アイソマー(核異性体)は、原子核の励起準位で寿命が長いもののことを指す。それ はアイソマー準位の遷移確率が異常に小さいことが原因であり、その原因によって、低 エネルギー遷移アイソマー、スピンギャップアイソマー、K-アイソマー、シェイプアイ ソマー、高スピンアイソマーに分類される。 1.2.2 中性数 83 同調体と高スピンアイソマー 中性子数 83 同調体で 144 Pm[2]145 Sm[3]146 Eu[4]147 Gd[5][6]148 Tb[7]149 Dy[7]150 Ho[8]151 Er[9][10]と系統的に高スピンアイソマーが存在することが過去の成果から分かってい る。 高スピンアイソマーのスピンとパリティは、 150 Ho 151 Er を除き、奇核で 49/2、奇奇核 27 である。高スピンアイソマーの半減期は~10nsec から~sec (60Z66)であった。

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Page 1: 1. イントロダクション - Osaka Universityadam.phys.sci.osaka-u.ac.jp/file_seika/graduation_thesis...1. イントロダクション 1.1 研究目的 安定核同士の核融合反応や直接反応過程によって生成することができる原子核は限られ

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1. イントロダクション

1.1 研究目的

安定核同士の核融合反応や直接反応過程によって生成することができる原子核は限られ

ているので、より広い核図表の領域に渡って研究を進めるには不安定核ビームが必要であ

る。現在、5.3 MeV/u の 17N 二次ビームによる二次核融合反応実験を行い、中性子数 83 の魔

法数 82 近傍の同調体である、142Pr、141

Ce、140Le の高スピンアイソマーを探索する実験を今

後予定している。しかし核物理センター(RCNP)の不安定核ビームコースである EN コー

スでは、今まで数十 MeV/u程度の高エネルギー領域の二次ビーム開発が行われていたので、

5.3 MeV/u の低エネルギー二次ビームの輸送は初の試みとなり、ビームラインを最適化する

必要がある。そこで EN コースで 17N 二次ビーム輸送の光学系の条件を確定し、二次ビーム

の量・純度・質ともに最良の条件を求める実験を行う。確立した条件で二次ビームを用い

た核融合反応を 130Te 二次ターゲットと起こし、生成核から期待される線をゲルマニウム

(Ge)検出器で観測する。

1.2 中性子数 83 同調体の高スピンアイソマー[1]

今回実験する 142Pr、141

Ce、140Le の励起状態はほとんどわかっていない。そのため今回は

それらの励起状態を研究するためのビーム開発を行う。これらの核子は高スピンアイソマ

ーが存在する可能性があり、非常に興味深い。以下に一般的なアイソマーと高スピンアイ

ソマーについて説明する。

1.2.1 アイソマー(核異性体)

アイソマー(核異性体)は、原子核の励起準位で寿命が長いもののことを指す。それ

はアイソマー準位の遷移確率が異常に小さいことが原因であり、その原因によって、低

エネルギー遷移アイソマー、スピンギャップアイソマー、K-アイソマー、シェイプアイ

ソマー、高スピンアイソマーに分類される。

1.2.2 中性数 83 同調体と高スピンアイソマー

中性子数 83 同調体で 144Pm[2]、145

Sm[3]、146Eu[4]、147

Gd[5][6]、148Tb[7]、149

Dy[7]、150Ho[8]、

151Er[9][10]と系統的に高スピンアイソマーが存在することが過去の成果から分かってい

る。

高スピンアイソマーのスピンとパリティは、150Ho と 151

Er を除き、奇核で 49/2、奇奇核

で 27 である。高スピンアイソマーの半減期は~10nsec から~sec (60≦Z≦66)であった。

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高スピンアイソマーの励起エネルギーは 8.5~9.0MeV と近接している。励起エネルギー

がほぼ一定となる原因は、陽子数が 64 から 60 へ減尐するにつれて、陽子数 64 のシェ

ルギャップエネルギーが 2.4 MeV から 1.6 MeV に減尐するためであると考えられて

いる[4]。

DIPM 計算[7]の結果による理論的な研究の結果、高スピンアイソマーより低いスピン状

態ではほぼ球形である原子核が、高スピンアイソマーの状態で急にオブレート変形して

いることが分かっている。高スピンアイソマーより高いスピンの状態では、コアの外に

ある核子(価核子)のスピンが原子核の対称軸方向に整列し、核子(価核子)の軌道が

赤道面上に集中して波動関数の重なりが大きくなる。すると、原子核はオブレート型(変

形パラメーター~-0.20)に変形し、高スピン状態は励起エネルギーが下がる。このよう

に、原子核が急激に変形することによって高スピンアイソマーが出現する。

以上より 142Pr、141

Ce、140Le の高スピン状態が存在することが期待され、その研究が必

要である。

1.3 ビーム開発の必要性

17N ビームを開発するに当たって、次のような重要な課題がある。

①17N 二次ビーム純度の向上

17

N 二次ビームに一次ビームや他の生成物が混じると線計測の妨げとな

る。特に一次ビームは 17N 二次ビームに比べて非常に大きく、散乱による

混入も無視できない。ビームの散乱は単純に予測できないため、17N ビー

ム以外がほとんど二次ビームに混じらない最適条件を実験で求める。

②17N 二次ビームサイズの調整

二次ターゲットのサイズ25 以下にビームを収束させないとターゲット

以外と反応してできた線を検出してしまう。これまで EN コースは高エ

ネルギーでの実験が行われ、高エネルギーでの光学系は確立されている

が、まだ今回の実験のエネルギー領域での EN コースの光学系は確立され

ていないため、確認を行う。

③17N 二次ビーム量の増加

二次核融合反応の反応断面積は小さいため、二次ビーム量を尐しでも多

く得る必要がある。しかし一次ターゲットを厚くするほど、ビームのエ

ネルギーや角度の広がりが大きくなる。そのため、現実的な一次ターゲ

ットの厚さでより多くの二次ビーム量が得られる条件を探す。

EN コースでは 17N 二次ビームの実績はないので、これらの条件を同時に達成するため

には 17N 二次ビームテスト実験を行う必要があった。まず、2 章、3 章、4 章で今回の実

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験で用いる原理、実験装置、及び測定方法を示したあと、これらがどの程度問題となる

のかとその解決案を 5 章の実験準備で、その結果と考察を 6 章の実験と結果に示す。

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2. 低エネルギー二次ビーム

2.1 二次ビームの生成方法

現在、主に用いられている二次ビームの生成方法は以下の二種類がある。以下にそれ

ぞれの長所と短所、及びそれぞれの方法を用いている実験施設、そして今回用いなかっ

た理由を記す。[11]

(1) Target Fragmentation (TF)方式

長所:エネルギーと角度のそろった分解能の高いビーム

短所:ビーム引き出しに時間がかかる・化学的性質に依存

主な実験施設 :TRIUMF、JAEA、KEK、Louvain、ISOLDE、GANIL 等

今回用いなかった理由:生成される二次ビームのエネルギーが低く、再加速が必要

(2) Projectile Fragmentation (PF) 方式

長所:引き出し時間が短い(100ns 程度)・元素に依存しない

短所:エネルギーと角度分解能が悪い

主な実験施設 : RIKEN、 MSU、 GANIL、 GSI 等

今回用いなかった理由:生成される二次ビームのエネルギーが高く、減速が必要

今回の実験では、低エネルギーの二次ビームが必要となる。過去に行われていた二次

ビーム生成方法とは異なる、移行反応を用いた二次ビーム生成・輸送に今回初めて挑戦

した。

2.2 直接反応と核融合反応

今回の実験では、18O 一次ビームを用いて直接反応を起こし、それによって生成した 17

N

二次ビームを用いて核融合反応を起こす。図 1 に一次反応と二次反応の模式図を示す。

直接反応は、入射粒子とターゲットの核子が 1,2 回程度の衝突の後に粒子が放出される

反応である。この反応ではエネルギーや粒子の移行は比較的小さいため、生成核子の質

量とエネルギーは入射粒子の状態とターゲットのみによって決まる。今回の実験では、18O

一次ビームと一次ターゲット 9Be による直接反応を起こし、18

O は陽子 1 個を放出して17

N になり、反跳核として 10B を生成する。今回のように1個もしくは数個の核子を交

換する直接反応は特に移行反応と呼ばれる。

核融合反応は、入射粒子とターゲットの核子が複数回衝突することによって起こる。

入射粒子とターゲットが互いに融合して複合核を作り、直接反応の衝突時間より比較的

長い時間存在した後に核子や核破砕片などを放出する。生成核子の質量とエネルギーは

複合核の特性によって決まり、その複合核を形成した入射粒子とターゲットからは決ま

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らない。この実験では、17N 二次ビームと二次ターゲット 130

Te による核融合反応を起

こし、17N と 130

Te の複合核 147Pr

*が生成する。その複合核 147Pr

*は中性子過剰で非常に不

安定な為に、中性子を 5 個放出して 142Pr となる。その生成核から放出される線を測定す

ることで何が生成されたか識別できる。

図 1 (a) 一次反応と (b) 二次反応 の模式図

2.3 双極電磁石によるビームの分離

双極電磁石によって粒子が受ける磁場を B、双極電磁石の曲率半径を、荷電粒子の価

数を q、運動量を p とすると、

q

pB …(式 1)

とあらわすことができ、粒子の質量を m とすると、Bは非相対論的には m/q に依存する。

このため、ビーム中に複数の粒子が存在する場合でも、双極電磁石によって磁場を加え

ることで、質量数と価数の比が異なるものを分離することができる。よって、双極電磁

石を通すことで二次ビーム中に混じった一次ビームを除去することができる。また逆に、

印加した磁場の大きさから双極電磁石を通過した粒子の運動量を求めることもできる。

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2.4 ディグレーダーの効果

物質中でのエネルギー損失は Z2/E(透過する粒子のエネルギーに対する陽子数の二乗

の割合)と物質の厚さに依存する[12]。この効果を用いるのがディグレーダーであり、デ

ィグレーダーは金属の薄膜 (今回は Al) である。ディグレーダーを置くことによる主な利

点は2つある。

ひとつは、2 個の双極電磁石の間にディグレーダーを置くことによってビームの純度を

上げることができることである。図 2 にその模式図を示した。先に説明したように、双

極電磁石 D1 で Bが違うものを分離することができる。しかし、Bがほぼ等しいものは

分離することができず、D1 中では同じ軌道となる。そのような粒子は、2 個目の双極電

磁石の前にディグレーダーを置くことで、エネルギー損失が粒子によって異なるために

ディグレーダー透過後は 17N

7+とは違う Bになるため、2 個目の双極電磁石によって分け

ることができるようになる。

もうひとつは、ディグレーダーの厚さをかえることによって二次反応に適切な二次ビ

ームのエネルギーを選ぶことができることである。一次ビームのエネルギーが一定であ

るとき、一次ターゲットと F2 のディグレーダーの厚さをかえると二次ビームのエネルギ

ーは変化する。二次反応を起こすために適したエネルギーが既知である場合には、F2 の

ディグレーダーを透過した後、そのエネルギーの値となるように F2 のディグレーダーの

厚さをかえてやればよい。また、一次ターゲットの直前の F0 にディグレーダーを置く場

合には、一次ビームのエネルギーを変化させることができる。

また、今回使用した EN コースは、ディグレーダーの厚さ d0とビームの透過長 R の比

d0/R が 0.3~0.6 の場合に最適化されるように設計されている。ビームの透過長 R はビー

ムが止まることなく物質中を透過できる最大の長さであり、粒子の種類とそのエネルギ

ーに依存している。このため、ディグレーダーの厚さが d0/R が 0.3~0.6 に入るように設

定する必要がある。

ディグレーダー中及び検出器中でのエネルギー損失の計算には主に LISE の ATIMA 1.2

LA-theory を用いた[13]。

図 2 2 個の双極電磁石 D1, D2 とディグレーダーの効果の模式図

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3 実験装置と較正方法

3.1 EN コース

実験は吹田キャンパスの核物理研究センターRCNP (Research Center for Nuclear Physics)

の EN コース[14]で行った。図 3 に RCNP ビームラインと EN コースの概略図を示す。実

験期間は 2008 年 1 月 30 日 9 時~2 月 3 日 9 時の 5 日間であった。

AVF サイクロトロンで 9.1 MeV/u まで加速した 18O 一次ビームを EN コースまで導き、

F0 で厚さ 15 m もしくは 50 m の 9Be ターゲットと反応させ、17

N を生成した。その 17N

二次ビームを F2 まで輸送し、F2 に設置した二次ターゲット natTe と反応させ、その反応

の生成核から放出される線を Ge 検出器によって測定した。一次ビームの平均強度は 0.75

pA であった。

図 3 RCNP ビームラインと EN コース図

F0, F1, F2 はビームの収束点、D1, D2 は双極電磁石、Q1~Q7 は四重極電磁石、SX1~

SX3 は六重極電磁石

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測定に用いた検出器は、二次ビームの調整用に SSD 4 台、PPAC 3 台、PSD 1 台で、

線の検出用に Ge 検出器 14 台、BGO 6 台であった。図 4 にビームの調整に用いた検出器

の配置を、表 1 に一部の検出器のサイズや設置位置等を示す。二次ビーム調整の際には

二次ターゲット位置に PSD を置いて二次ビームの位置を測定し、二次ビーム量測定の際

には二次ターゲット位置に鉛ストッパーを置いて 17N を止めて崩壊後の線を測定した。

また、F0 の一次ターゲット直前には、一次ビームの角度を調整することができる swinger

と、一次ビームのエネルギーを調整するためのディグレーダーが設置されており、一次

ターゲット直後には F0 スリットが設置されている。この EN コースは F0、F1、F2 が厚

い壁によって仕切られているためにバックグラウンドが軽減されている。

図 4 EN コースのチェンバー内に設置した検出器

EN コースの F1, F2 にあるチェンバー内にそれぞれスリットや検出器が設置されている。

また、F2U チェンバーのすぐ上流には F2 左右スリットがある。

表 1 検出器のサイズと設置状況

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3.2 ビームモニター系検出器

3.2.1 SSD (Solid State Detector)

半導体検出器。半導体(Si)結晶中に電子正孔対を作るのに必要なエネルギーが小さく、

エネルギー分解能に優れる。その有効厚の違いにより粒子のエネルギー損失(ΔE)測定、

粒子の全力学的エネルギー(TKE)測定に用いた。

SSD のエネルギー較正には一次ビームを用いた。一次ビームを各 SSD まで双極電磁石

を用いて運び、そのときの B値からエネルギーを求め、SSD 中でのエネルギー損失と実

際に得られたエネルギースペクトルを比較することによって較正を行った。

3.2.2 PPAC (Parallel Plate Avalanche Counter)

ガス位置検出器。電極間にガスを注入した多数の比例計数管を数 mm 間隔で平面上に

設置し、検出器に入射した粒子の二次元の位置情報を高時間分解で得ることができる。

今回の実験では SSD と組み合わせて使用することで粒子識別を行った。また、PPAC 二枚

を使うことで粒子の軌跡を予測した。

PPAC の右、左、上、下に設置された各カソードからの出力をそれぞれ XR、XL、YU、

YDとし、それぞれのゲインを AR、AL、AU、AD 、中心位置からのオフセットを Xoffset、

Yoffset 、x, y 方向の実質の長さを Lx, Ly とすると PPAC に入射した粒子の位置は

offset

LLRR

LLRR XXAXA

XAXALxx

…(式 2)

offset

DDUU

DDUU YYAYA

YAYALyy

…(式 3)

により求められる。このゲインとオフセット、実質の長さを求めるために位置較正が必

要になる。PPAC の位置較正はオンラインとオフラインの両方で行う。

まず、オフラインの位置較正方法について説明する。各 PPAC に等間隔 (2.5 mm) で穴

が開いているマスクをつけ、前方に線源 241Am を置き、カソードのエネルギースペクト

ルからカソードのゲインのずれを測定した。マスクには中央ともう 1 箇所穴をふさぐこ

とで、上下左右が判別できる。さらに PPAC 直前のスリットを狭めることで、スリットの

中央と PPAC の中央が合っていることを確認した。

オンラインでは、一次ビームを PPAC に通し、直前のスリットを±1 mm まで閉めて x

方向の原点があっていることを確認した。

3.2.3 PSD (Position Sensitive Detector)

位置感受型半導体検出器。位置情報とエネルギー情報の両方を同時に得られることが

特徴である。今回使用した PSD は 1 つのカソードと 4 つのアノードからなり、図 5 に PSD

の写真を示す。C はカソード、A1~A4 は4つのアノードである。カソードの信号からは

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他の半導体検出器と同様に、入射粒子のエネルギースペクトルが得られる。A1~A4 のア

ノードの信号からは入射した粒子の位置情報を得ることができる。PSD の x, y 方向の実

質の長さをそれぞれ Lx, Ly, 各アノードから出力される電流量を X1, X2, X3, X4、それぞれ

のゲインを A1, A2, A3, A4、オフセットを Xoffset、Yoffset とすると、粒子の入射位置 x, y は

offsetX

XAXAXAXA

XAXAXAXALxx

44332211

22114433 …(式 4)

offsetY

XAXAXAXA

XAXAXAXALyy

44332211

44113322 …(式 5)

によって得られる。これも PPAC と同様にゲインやオフセットの値を求めるために位置較

正が必要になる。

この SSD の厚みは 325 m、x, y 方向の長さはともに 45 mm。ただし、直線性が保証さ

れているのは中央の 21.6 mm×21.6 mm の範囲のみで、PSD の中央から逸れればそれだけ

一次近似式からずれる。[15]

図 5 今回使用した PSD の写真

PSD の位置較正は、241Am の線 5.48 MeV ではエネルギーが低すぎて位置分解能が悪

いためにビームを用いた。まず、PSD に等間隔 (3 mm 間隔) のマスクをつけ、F2 にフォ

ーカスさせ二次ターゲット位置において広がりを持っている二次ビームを PSD に照射し

た。そのマスクの位置が上の式 4 及び式 5 から得られた位置と合うようにゲインと実質

長さ、オフセットの値を決定した。

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3.3 線検出器

3.3.1 Ge 検出器

半導体検出器。Ge 検出器のバンドギャップは 0.7 eV である。小さなバンドギャップに

より、優れたエネルギー分解能(数 keV)を得られるため、線の測定に適している。ただ

し、バンドギャップが小さいので室温では熱雑音がのってしまう。そのため、液体窒素

で冷やして使用する。

今回用いた Ge 検出器のプリアンプにはトランジスタリセット型の検出器が 2 台ある。

このタイプのプリアンプの場合、高い計数率でもパイルアップを抑えることができる。

ただし、電荷を開放するときに波形が乱れるため、電荷を開放するときにはデータをと

らないようにする工夫が必要となる。この手法については 3.4 で示す。

3.3.2 BGO

シンチレーション検出器。ビスマスジャーマネイト Bi4Ge3O12(BGO)は比較的光収率が

小さいためエネルギー分解能は悪いが、結晶の密度が大きいので光電吸収率が高く、検

出効率に優れる。

今回の実験ではこの BGOの高い検出効率を生かしてコンプトンサプレッサーとして用

いた。

3.3.3 コンプトンサプレッション

高エネルギーの線がつくるコンプトン連続部は計数率の小さなほかの線の検出のバ

ックグラウンドになる。コンプトン散乱で Ge 検出器の外に逃げてしまった線を BGO で

検出する。このときの Ge 検出器のデータを使わないことで、コンプトン連続部を減らす

ことができる。このようにしてコンプトン連続部を減らすことをコンプトンサプレッシ

ョンという。

3.4 回路図

図 6 にモニター系検出器の回路図、図 7 に Ge 系検出器の回路図を示す。

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図 6 モニター系検出器回路図

図 7 Ge 系検出器回路図

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まず、図 6 のモニター系回路のエネルギー信号について説明する。プラスチックシン

チレーター以外のモニター系検出器のエネルギー信号は Shaping Amplifier (Amp) で整形

されてから CAMAC の Analog-to-Digital Converter (peak-hold, ADC) に送られる。エネルギ

ーが高すぎて飽和してしまうものは、Ampを通る前にAttenuator (Att.)を通るようにした。

プラスチックシンチレーター (Pla) のエネルギー信号は Discriminator (Discri.)に通してか

ら、CAMAC の Analog-to-Digital Converter (charge- sensitive, QDC) に送られる。

続けて、図 6 のモニター系回路のタイミング信号について説明する。プラスチックシ

ンチレーター以外のモニター系検出器のタイミング信号は Timing Filter Amplifier (TFA)で

整形されてから、Constant Fraction Discriminator (CFD) に通されてノイズを落とし、

Fun-in-Fun-out (Fi/Fo)で一つにまとめられている。プラスチックシンチレーターのタイミ

ング信号は Discri.を通ってから、Fi/Fo に入る。Fi/Fo のあとの Coincidence (Coin.)におい

て Interrupt Register (I.R.)と Output Register (O.R.)を用いて、CAMAC でデータを取ってい

る間は次の信号を取らないようにしている。そうやって作ったタイミング信号は、Gate

Generator (G.G.)によってエネルギー信号に合った時間幅に合わされ、ADC, QDC のトリガ

ーになっている。実験中はトリガーに加えられない信号はFi/Foから抜いておいた。また、

複数の信号をトリガーに参加させた場合にどの検出器由来であったかわかるように、CFD

out をそれぞれ Coincidence Register (C.R.)につないだ。また、RF の信号は Discri.によって

適当な矩形波にされた後に TDC に入っている。

次に、Ge 系回路のエネルギー信号について説明する。各 Ge 検出器のエネルギー信号

はAmpで整形されてからCAMACのADCに送られる。BGOのエネルギー信号はP.M.Amp

で整形されてから CAMAC の QDC に送られる。また、F2DPPAC と同時計測を行うとき

には F2DPPAC のエネルギー信号とタイミング信号も取る。

最後に、図 7 の Ge 系回路のタイミング信号について説明する。各 Ge 検出器のタイミ

ング信号は TFA, CFD を通ってから、一方は Fi/Fo に送られて他の Ge 検出器のタイミン

グ信号をまとめられており、もう一方は CAMAC の TDC に送られる。BGO のタイミン

グ信号も CAMAC の TDC に送られる。 Ge 検出器のうちトランジスタリセット型の2台

については、Reset 信号が Discri.に通されてからそれぞれのエネルギー信号の CFD の

anti-gateに送られ、Reset信号が出ている間はタイミング信号を取らないようにしている。

Fi/Fo のあとはモニター系と同様に I.R.と O.R.につないだ後、ADC,QDC のトリガーにな

っている。

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4.ビームのモニター方法

4.1 粒子識別

二次ビーム中には目的となる 17N 以外の様々な粒子が含まれている。それらの中から目

的となる粒子だけを選び出して数え上げる必要がある。そこで、粒子に依存する性質を

測定し粒子を特定することを粒子識別という。今回は次の三つの性質を用い粒子識別を

行った。

1. 物質中のエネルギー損失(ΔE)

2. 全力学エネルギー(TKE)

3. 粒子の双極電磁石後の中心軌道

また、ΔE と TKE の予測には設定した Bより計算した。設定した Bにより粒子の運

動量は選択されている。また、TKE は粒子の質量に依存する。

4.1.1TKE-ΔE 測定

荷電粒子の物質中のエネルギー損失は次のように表され、物質の厚さ d、粒子の原子番

号 Z、TKE に依存する。(ベーテ・ブロッホの式)

…(式 6)

そこで、ΔE と TKE を二枚の SSD を用いて同時に測定することで粒子を特定することが

できる。また、粒子がΔE 検出器で止まらないように配慮した。

4.1.2 PPAC-SSD 測定

位置検出器である PPAC と SSD を組み合わせることで、PPAC 上での粒子の位置を見な

がら粒子を特定することができる。これは TKE-ΔE 測定と異なり、ビームラインの中心

軌道を通ってきた粒子のみを選んで粒子識別できるため、ビーム開発に向いていると考

えられる。今回の PPAC-SSD 測定には F2UPPAC と F2DSSD を用いた。

4.2 Tracking

二次ターゲット位置の前に 2 枚の PPAC を置くことで、二次ターゲット位置におけるビ

ームの広がりを推測することができる。これを Tracking と呼ぶ。図 8 にそれを模式的に

あらわしたものを示す。

まず、粒子は F2 チェンバーの上流側に設置された F2UPPAC に入り、続けて粒子は下

流の F2DPPAC に入る。この F2UPPAC 上の位置と F2DPPAC 上の位置を1イベントごと

に直線で結び、その直線と二次ターゲット位置平面との交点をプロットしたものが

TKE

dZE

2

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Tracking である。これを用いて 2 次ターゲット位置におけるビームの広がりを求めること

ができる。

図 8 Tracking の模式図

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- 16 -

5 実験準備

5.1 二次ビーム生成のために

5.1.1 必要な二次ビーム量の見積もり

今回二次核融合反応において目的としている生成核は、今回の反応における反応断面

積は 5.2.2 に示すように、250 mb と非常に小さい。さらに、この生成核の高スピン状態の

研究を行うために、線の同時係数を行わなければならない。このため、104 pps 以上の 17

N

二次ビーム量が必要となる。

5.1.2 一次反応における生成核種の見積もり

一次反応では、一次ビームとして 9.1 MeV/u の 18O

6+、一次ターゲットに 15 m, 50 m

の 9Be を用い、特に 9

Be ( 18

O, 17

N) 10

B の反応によって生成される 17N

7+を二次ビームと

して生成する。この反応による Q 値は-9356 keV で、一次ターゲットには厚みがあ

ることを考慮にいれると、一次反応後に得られる 17N のエネルギーは 15 m の 9

Be タ

ーゲットのときで 8.1MeV/u、50m の 9Be ターゲットのときで 7.7 MeV/u である。

この反応と競合する生成核として、18O が中性子 1 個を放出して生成する 17

O、18O が

粒子 1 個を放出して生成する 14C などが特に得られると予想される。二次ビームに

これらの 17N 以外の生成物や一次ビームが大量に混じると、二次核融合反応による

線測定の際に 17N による反応以外に由来する線が検出されてしまうために測定の妨

げとなる。このため 17N 二次ビームとこれらの生成物や一次ビームを分離する努力を

しなければならない。

5.1.3 LISE による見積もりとの比較

一次反応による生成物のエネルギーを、非相対論を用いて求めた。実験系における一

次ビームの入射エネルギーを E1、反応の Q 値を Q、各粒子の質量と速度を図 9 のように

定義すると、反応生成物のエネルギーE3 は、

cos

22112

4321

4311

21

43

41

4321

42

2

21

31

3

QMQMEMMMMM

MMME

MM

QMM

ME

MMMM

MM

MM

MME

…(式 7)

とあらわせる。[付録 A] また、実験系における一次ビームの進行方向からの生成核の軌

道のずれは

sin

'sin

3

31

v

v …(式 8)

とあらわせる。図 10 (a)に、これらによって求められた、一次ビームが 9.1 MeV/u のとき

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の生成核 17N と 10

B のエネルギーの角度依存性をプロットしたものを示す。また、図 10(b)

に相対論を用いて LISE[13]によって計算した場合のグラフを示す。(a)と(b)の差は、ター

ゲットやディグレーダーの厚みの誤差によるエネルギー損失の広がりに比べて小さい。

このため今回の実験の予測値としては非相対論による計算を元とした。また、Q 値には17

N の励起状態を考慮に入れていないため、実際の 17N のエネルギーは広がりを持つ。最

も 17N 二次ビームの収量が多いエネルギーはこの計算からずれる可能性があるため、実際

の 17N 二次ビームのエネルギーを実験的に確認する必要がある。

図 9 一次反応

(a)は実験室系、(b)は重心系における、一次反応に関する粒子の質量、速度、角度の定義

を示したもの、(c)はその速度と角度の関係を幾何的に示したもの。

図 10 一次反応における角度エネルギーの関係

(a)が式 7 及び式 8 を用いて非相対論で計算した場合、(b)が LISE を用いて相対論で計算

した場合。実線が 17N、点線が 10B を示す。

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5.1.4 一次反応の角度依存

図 11 に、9Be (

18O、17

N) 10

B の直接反応における微分散乱断面積の角度依存性を示す。

計算には DWBA を用いた。これによれば、最も多くの 17N が得られると予想される角度

は入射ビームに対して 28 mrad のところである。しかし、一次ターゲットから双極電磁石

D1 までのビームの輸送において、ビームラインに対して横方向±20 mrad、縦方向±14 mrad

を超える範囲で入射した粒子は D1 直前のスリットで切られてしまうので、一次ターゲッ

トから D1 までのビームラインに入射した粒子のうち、ビームラインに対して大きな角度

を持っているものは D1 まで到達できない。この為、17N の収量を上げるためにはビーム

ラインに対して一次ビームに角度を持たせて入射させることが有効であると考えられる。

また、一次ビームに角度を持たせることで、F1 以降に一次ビームが混じる確率も低下す

る。

図 11 17

N が生成される反応の微分断面積(実験室系)

横軸は実験室系での角度[mrad]、縦軸は微分断面積[mb/sr]。0~20 mrad の範囲を赤色で示す。

実線が角度に関する微分断面積で、28 mrad (点線部分)で最大となる。

5.1.5 光学系の見積もり

二次ビームは、一次ターゲットやディグレーダーを透過するために広がりを持つ。そ

のため、ビームをコース中の四重極電磁石や六重極電磁石で磁場によって曲げて、二次

ターゲット位置に収束させる必要がある。四重極電磁石や六重極電磁石はレンズのよう

な役割をする。このときの電磁石の磁場強度は、EN コースでは既に高エネルギー(数十

MeV /u 程度)のビームでは確立されている[16]が、今回のように低エネルギーのビームで

は未確認であるためにビームの収束確認が必要となる。初期値として、高エネルギーの

ビームにより確立された計算から磁場強度を求めて設定した。

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5.1.6 一次ターゲットとディグレーダーの厚さ

今回の実験では 17N 二次ビーム量は 10

4 pps 以上が求められている。このために一次タ

ーゲットの 9Be の厚みは 15 m 程度以上が必要だと見積もった。できうる限り多くの 17

N

二次ビーム量を得たいが、ターゲットが厚くなるほど一次反応におけるエネルギーの広

がりや角度の散乱を無視できなくなるため、今回の実験では一次ターゲットとして 15 m

と 50m の 2 種類の 9Be を用意した。一次ターゲットは熱による破損を防ぐために水冷し

ている。

17N 二次ビームは 5.2.2 に示すように 5.3 MeV/u のエネルギーが要請されているため、一

次ターゲット中でのエネルギー損失を考慮してディグレーダーの厚みを決める必要があ

った。これより、15 m の 9Be ターゲットのとき Al ディグレーダーは 94 m、50 m の

9Be ターゲットのとき Al ディグレーダーは 51 m のものを使用した。また、このときに

d0/R は 0.3~0.6 の範囲に入っていた。

5.1.7 Bによる二次ビームの分離

高エネルギーのビームにより確立された光学系の計算から、双極電磁石D1でBを 17N

7+

にあわせた場合、一次反応によって生成された生成物や一次ビーム由来の 18O が分けられ

るかどうか計算した。図 12 に D1 の出口での各粒子の存在位置を示す。これは一次ター

ゲットの 9Be が 50 m の場合で、横軸は D1 の中心を 0 としたときにビーム上流から見て

右を正に取っている。ビームの広がりとして、一次反応が一次ターゲットの表面で起き

た場合と中央で起きた場合とターゲットを抜ける直前で起きた場合を考えた。この計算

によれば、D1 直後のスリットを±35 mm まで閉めれば 17N

7+以外の粒子はそれより下流に

は混じらないことになる。ただし実際には一次ビームが二次ビームに比べて 107倍もある

ために、一次ターゲット中でのエネルギーストラグリングによって一次ビームのごく一

部が散乱してたまたま 17N

7+と等しい Bも取りうる。それらは 2.4 に示したように、ディ

グレーダーと双極電磁石 D2 を用いて分けることができる。

図 12 双極電磁石 D1 の出口における、一次反応による生成物と一次ビームの粒子の

ビーム上流側から見た存在位置

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5.2 二次核融合反応のために

5.2.1 二次ターゲット

二次核融合反応の生成量を増やすため二次ターゲットはできるだけ厚くし、バッキン

グですべての生成核を止められる厚さにしたい。ただし、不安定核ビームを用いる場合、

ターゲットは不安定核ビームが通り抜ける厚さに設定する必要がある。これは不安定核

ビーム自身の数は二次核融合による生成核の数より圧倒的に多く、不安定核ビーム自身

の崩壊による線、線が二次核融合由来の線を隠してしまう恐れがあるためである。17N

二次ビームは不安定核ビームなので、17N が抜け、生成核 142

Pr が止まるように、今回二

次核融合反応に用いる 130Te ターゲットは 10 [mg/cm

2]、27

Al バッキングは 7.6 [mg/cm2]に

設定した。このときの厚さは、ターゲットをビーム軸に対して 45°傾けて置くことを考

慮しての実質の厚さである。

17N 二次ビームが二次ターゲットを抜けるように設定したが、このターゲットをチェン

バーに固定するための 27Al フレームは 17

N 二次ビームを抜けるようにはできなかった。

そのため、ビームがフレームで止められてしまわないように、ビームはターゲットの大

きさに収束させなければならない。

5.2.2 二次反応における生成核種の見積もり

まず CASCADE[17]による反応断面積の計算結果を図 13 に示す。

図 13 CASCADE による反応断面積の計算

赤線が今回目的とする 142Pr

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今回目的とする領域では CASCADE の計算結果は実際の実験値に比べおよそ1核種分経

験的にエネルギーの低い方にずれる。そこで、今回用いるターゲット中でのエネルギー

損失がおよそ 1 MeV/u であることを考え、142Pr の生成量が最大になるように 17

N 二次ビ

ームのエネルギーは 5.3 MeV/u に設定した。

次に 142Prの生成量を見積もる。17

N二次ビーム量を2×104 pps、130

Teの厚さを10 mg/cm2、

142Pr の反応断面積を 250 mb とすると、毎秒 0.2 個の 142

Pr が得られると計算できる。

5.2.3 Ge ボールの設計

今回の実験では目的とする原子核(142

Pr)の生成量が小さいため、高い検出効率だけでな

く、高い S/N が必要であった。そこで、今回の実験では BGO コンプトンサプレッサーつ

きの Ge 検出器を 6 台と鉛シールド付きの Ge 検出器を 8 台配置した。14 台の Ge 検出器

の配置を表 2 に示す。極座標 r、、の取り方は図に示す。実際のセットアップを図

に示す。

表 2 Ge 配置

図 14 座標定義

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図 15 Auto CAD での設計(左)と実際のセットアップ(右)

この配置は Auto CAD を用いて設計した。最も近いものでターゲット中心から 7 cm、最

も遠いものでも 12 cm の距離に配置した。これは検出器を 1°傾けるだけで隣の検出器と

干渉するほど密集した状態である。また、それぞれの検出器が占めている立体角は重な

らない[付録 B]。

実験前の見積もりでは検出効率は 1.4%(1333 keV)であった。

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6 実験と結果

最大の 17N ビーム量となる条件を探し、ターゲットでビームをできるだけ収束させると

いう目的を、次のように課題を設定し解決することで達成する。表 3 に課題とその具体

的な解決方法を示す。

表 3 課題と解決法

課題 解決法

純度 一次ビームに角度をつける

収束 四重極電磁石・スリットを微調整

ビーム量 運動量分布測定

上記の解決策を次の三条件で試し、もっともよい条件を確定し二次核融合実験の測定

を行う。各条件は一次ターゲットの厚さの違い、また F0 にディグレーダーを挿入するこ

とにより一次ビームのエネルギーを下げるという点がそれぞれ異なる。表 4 に一次ター

ゲットとディグレーダーの厚みの組合せを示す。また、F0 ディグレーダー無しの場合は

一次ターゲットとディグレーダーの組合せによって F1 後の 17N 二次ビームのエネルギー

は 5.3MeV/u に統一されている。

表 4 一次ターゲットとディグレーダーの厚み

一次ターゲット厚 F1 ディグレーダー厚 F0 ディグレーダー

15m 94m なし

50m m なし

50m m あり

これらを踏まえた実験の実際の流れと、その実験に際しての各条件などを表 5 に示す。

表 5 実験の流れと今回の実験条件

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6.1 検出器の較正

6.1.1 モニター系検出器

(i) SSD のエネルギー較正

一次ビームを用いて F1,F2 の SSD のエネルギー較正を行った。まず、一次ビームに含

まれていた 12C

4+、18O

6+の Bに F1 の PPAC を用いて D1 の Bを合わせ、フルビームの 10-8

倍の一次ビームを F1 の SSD に通してエネルギースペクトルを取った。次に 15 m の一次

ターゲット 9Be を入れ、一次ビームに含まれる 12

C6+、18

O8+の Bに F1 の PPAC を用いて

D1 の Bを合わせ、フルビームの 10-8 倍の一次ビームを F1 の SSD に通してエネルギース

ペクトルを取った。Bからエネルギーを逆算して、SSD によるエネルギースペクトルの

ピーク位置とプロットしてエネルギーの一次の換算式を作った。F2 の SSD においても同

様に行った。図 16 にスペクトルのピーク位置 [ch] とビームのエネルギー [MeV] をプ

ロットしたものを示す。F1 の SSD でずれは 1%以下、F2 の SSD でずれは 0.2 %以下であ

った。

図 16 SSD のエネルギー較正とエネルギー較正式

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(ii) PPAC の位置較正

まず、オフラインで位置較正をした。各 PPAC に等間隔 (2.5 mm) で穴が開いているマ

スクをつけ、前方に線源 241Am を置き、カソードのエネルギースペクトルからカソード

のゲインのずれを見た。マスクの穴は中央ともう 1 箇所ふさがれており、その位置から

上下左右を判別できた。図 17 に F1PPACにマスクをつけたときの位置スペクトルを示す。

図 17 F1PPAC にマスクをつけたときのグラフ。

(a) が x 方向、(b) が y 方向への射影で、横軸は mm、縦軸はカウント数。

(c) はその二次元図で、横軸、縦軸ともに mm である。

この方法によって得られた位置スペクトルのピーク位置とマスクの位置のずれを図 18

に示す。F1PPAC は x 方向±20 mm で 0.4 mm 以下、y 方向±20 mm で 0.6 mm 以下、F2UPPAC

は x 方向±20 mm で 0.3mm 以下、y 方向±20 mm で 0.4 mm 以下、F2DPPAC は x 方向±22.5

mm で 0.3 mm 以下、y 方向±22.5 mm で 0.25 mm 以下であった。F1PPAC は中心から 40 mm

以上離れると大きくずれるが、今回の実験では中心から離れたところでの位置精度は必

要ないために±20 mm の範囲で位置較正式を求めた。さらに PPAC 直前のスリットを左右

±5 mm に狭めたときに PPAC で得られた像を確認し、スリットの中心と PPAC の中心が合

っていることを確認した。

ビームを用いても較正式の確認を行った。フルビームの 10-8 倍の一次ビームを PPAC に

通し、直前のスリットを±1 mm まで閉めて x 方向の原点があっていることを確認した。

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図 18 PPAC での位置較正式からのずれ

スリットの位置から、位置較正式により求めた値をひいたものをそれぞれプロットした。

(iii) PSD の位置較正

PSD は 241Am の線 5.48 MeV ではエネルギーが低すぎて信号とノイズが競合し、位置

分解能が 6 mm 以上と悪かったため、ビームを用いて位置較正を行った。ただし、PSD を

二次ターゲット位置に置いた場合、二次ターゲット位置直前のダクトが30 であるために

その範囲でしか較正できなかった。

PSD に等間隔 (3 mm 間隔) のマスクをつけ、F2 にフォーカスさせ二次ターゲット位置

において広がりを持っている二次ビームを PSD に照射した。式 4 及び式 5 から位置情報

を求め、x 方向は PPAC と同様に一次式で近似した結果、ずれは 0.3 mm 以下となったが、

y 方向では同様に一次式で近似すると 1 mm 以上ずれた。図 20 にこの場合の計算値と位

置のずれを示す。これは、今回 PSD は、設計の問題上ビームの位置に比べて 7 mm 上寄

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りに設置したため、ビームは PSD の中央からかなり離れた位置にも照射され、y 方向を

一次式で近似するには不十分な範囲においても位置較正が必要になったためだと考えら

れる。中心から 10 mm 以上ずれたところから直線性が悪くなり、また、x=0 でのずれと

x=10 でのずれは同様でないために、y 方向の位置較正には、20 本の一次式を用いた。図

19 に示す。 ある点の位置を求めるとき、20 本の中から近い 2 本の一次式を用いて較正

することで、y 方向の位置較正式からのずれは 0.4 mm 以下に抑えることができた。図 21

に最終的に使用した直線式と位置のずれをプロットしたものを示す。

図 19 y 方向の位置較正に、上の赤や青の四角で囲んだ部分での直線式を用いた。

それぞれの x の値の場合で、y 方向の直線性が良い 6 ~-9 mm の点から求めた直線 (赤)

と直線性が悪い-9~-24 mm の点から求めた直線 (青)を用意した。

図 20 直線式 1 本だけを用いて y 方向の位置較正をした場合の PSD の実験値と計算値の

ずれ

-10 mm の辺りから大幅に直線性を失う。

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図 21 PSD の位置較正に最終的に使用した式からのずれ。

(a) は1本の直線式からの x 方向のずれを、x 方向の位置に対してプロットしたもの。

(b) は x 方向に 11 本、y 方向に 2 本に分けた 20 本の直線式からの y 方向のずれを y 方向

の位置に対してプロットしたもの。誤差バーは位置分解能。

6.1.2 Ge 検出器

エネルギー較正と検出効率の導出には実験後に測定した 152Eu 線源のデータを用いた。

エネルギー較正の較正式は1次式を用いた。検出効率はべき乗関数でフィッティングし

た。その結果、1500 keV まではどの Ge 検出器もエネルギー較正からのずれは 0.5 keV 以

内、1333 keV での全 Ge 検出器の全検出効率は 2.2(2) %[付録 C]であった。また、各 Ge 検

出器のエネルギー分解能についても付録 C で説明する。

6.2 二次ビームの純度

6.2.1 一次ビームの角度の調整

今回の実験ではイオン源から 18O 一次ビームに 12

C4+ビームが混ざっていた。この 12

C4+

が一次ターゲット中で、17N

7+と Bがほぼ一致する 12C

5+に変化し、二次ビームにも 12C ビ

ームが混入した。図 22 (a)に示す通り、12C

5+の量は 17N

7 の 1000 倍程度であった。

そこで一次ビームを除去するために、F0 にある swinger 電磁石で一次ビームを曲げ、入

射角度を 44 mrad にし、一次ビームは一次ターゲット直後のスリットで止めた。このとき、

二次ビームは図 23 に示すような角度分布をもつため、収量はあまり減尐しない。このた

め、一次ビームの角度をふることによって、図 22 (b)に示すように、F2 での 12C

5+の量は17

N7+の 1/10 にまで減らすことができた。

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図 22 一次ビームに角度をつける前後での粒子識別

F1 左右スリット±35 mm 、F2 左右スリット±10 mm で測定をおこなった。

(a) : 一次ビームに角度をつける前

(b) : 一次ビームに角度をつけた後

図 23 実験室系における微分断面積の角度依存性

赤線の範囲が今回選択した範囲。

17N7+

12C5+

12C5+

17N7+

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6.2.2 粒子識別

実験中の F2 における TKE-ΔE 測定と PPAC-SSD 測定により次の結果を得た。

(i) TKE-ΔE 測定

(ア) 一次ターゲット厚 15m の場合

実験で得られた TKE-⊿E 測定と、設定した Bを基に計算した TKE-⊿E 予測図を見比べ

ることにより二次ビームの粒子識別を行った。図 24に TKE-ΔEの予測図及び測定結果を、

表 6 に TKE 及びΔE の中心値の比較を示す。

TKE-ΔE測定の予測図

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60 80 100 120

E [MeV]

⊿E

[MeV

]

図 24 一次ターゲット厚 15m TKE-ΔE 測定の予測図と測定図

(a-1)TKE-ΔE 予測図 (a-2) TKE-ΔE 測定図

表 6 TKE-⊿E 測定の予測と実測の中心値一覧(単位は MeV)

TKE(実測) ⊿E(実測) TKE(予測) ⊿E(予測) 17

N7+

97 56 87.8 56.9 12

C5+

69 43 63.5 43.2 14

C6+

N/A N/A N/A N/A 15

C6+

N/A N/A N/A N/A

この結果から二次ビームに一次ビームである 18O

8+が一切混入していないことが分かる。

しかし実験前に全く予期していなかった一次ビーム由来の、17N

7+と Bの等しい 12C

5+の混

入を避けることはできなかった。また図 24 中の赤い点線で囲った部分の粒子はエネルギ

ーが低く、薄い SSD で停止してしまった粒子である。そのために、赤い点線より左上の

領域には粒子が見えることはない。図 25 に粒子ごとに上記の TKE-⊿E 測定図を、TKE 軸

と⊿E 軸にそれぞれ射影した図を示す。

12C

5+

15C

6+

14C

6+

17N

7+

18N

7+ 17N

6+

18O

7+

17O

7+

18O

8+

17O

8+

図(b)

17N7+

12C5+

TKE [MeV]

⊿E

[MeV

]

図(a)

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- 31 -

図 25 一次ターゲット厚 15m TKE-ΔE 測定図の各粒子の各軸への射影図

(a) 17

N7+射影図(TKE 軸)(b)

17N

7+射影図(ΔE 軸)

(c) 12

C5+射影図(TKE 軸)(d)

12C

5+射影図(ΔE 軸)

(a)、(b)で二つの極大値を持つ理由の考察は後述の運動量分布測定で行う。

TKE [MeV] ⊿E [MeV]

TKE [MeV] TKE [MeV]

図(a) 図(b)

図(c) 図(d)

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- 32 -

(イ) 一次ターゲット厚 50m の場合

図 26 に TKE-ΔE の予測図及び測定結果を、表 7 に TKE 及びΔE の中心値の比較を示

す。

TKE-ΔE測定の予測図

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60 80 100

E [MeV]

⊿E

[MeV

]

図 26 一次ターゲット厚 50m TKE-ΔE 測定の予測図と測定図

(a)TKE-ΔE 予測図 (b) TKE-ΔE 測定図

表 7 TKE-⊿E 測定の予測と実測の中心値一覧(単位は MeV)

TKE(実測) ⊿E(実測) TKE(予測) ⊿E(予測) 17

N7+

96 56 90.9 54.8 12

C5+

72 42 65.7 41.3 14

C6+

84 42 81.0 37.1 15

C6+

78 44 75.6 42.1

(ア)と同様に二次ビームに一次ビームである 18O

8+が一切混入しておらず、12C

5+が混入

している。また、(ア)の場合と異なり、14C

6+、15C

6+が観測されている。これは一次ビーム

である 18O からそれぞれ 4

He、3He が抜けた 14

C および 15C が、物質中での相互作用により

電荷分布が変化し電荷が 6+になったものだと考えられる。図 27 に粒子ごとに上記の TKE-

⊿E 測定図を、TKE 軸と⊿E 軸にそれぞれ射影した図を示す。

図(b) 17

N7+

12C

5+

TKE [MeV] ⊿

E[M

eV

]

12C

5+

15C

6+

14C

6+

17N

7+

18N7+ 17N6+

18O7+

17O7+

9B4+

14C

6+

15C

6+

図(a)

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- 33 -

図 27 一次ターゲット厚 50m TKE-ΔE 測定図の各粒子の各軸への射影図

(a) 17

N7+射影図(TKE 軸)(b)

17N

7+射影図(ΔE 軸)

(c) 12

C5+射影図(TKE 軸)(d)

12C

5+射影図(ΔE 軸)

(e) 14

C6+射影図(TKE 軸)(f)

14C

6+射影図(ΔE 軸)

TKE [MeV] ⊿E [MeV]

TKE [MeV] ⊿E [MeV]

図(a) 図(b)

図(c) 図(d)

TKE [MeV] ⊿E [MeV]

図(e) 図(f)

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cou

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- 34 -

(ウ) 一次ターゲット厚 50m と F0 ディグレーダーで一次ビームのエネルギーを下げた場

図 28 に TKE-ΔE の予測図及び測定結果を、表 8 に TKE 及びΔE の中心値の比較を示

す。

TKE-ΔE測定の予測値

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

0 20 40 60 80 100 120 140

TKE [MeV]

⊿E[M

eV]

図 28 一次ターゲット厚 50m &F0 ディグレーダーTKE-ΔE 測定の予測図と測定図

(a) TKE-ΔE 予測図 (b) TKE-ΔE 測定図

表 8 TKE-⊿E 測定の予測と実測の中心値一覧(単位は MeV)

TKE(実測) ⊿E(実測) TKE(予測) ⊿E(予測) 17

N7+

84 68 79.3 64.4 12

C5+

79 45 57.3 49.9 14

C6+

63 50 70.7 43.0 15

C6+

N/A N/A N/A N/A

この条件でも以前の場合と同様の粒子が観測されているが、散乱された 18O ビーム由来

だと思われる粒子のため TKE-⊿E 図で幅広く分布している。また、14C

6+と 15C

6+の各粒子

も観測されているが、(イ)の場合に比べはっきりと分かれていない。これは一次ビーム

のエネルギーの広がりの影響だと考えられる。図 29 に粒子ごとに上記の TKE-⊿E 測定図

を、TKE 軸と⊿E 軸にそれぞれ射影した図を示す。

12C5+

15C6+

14C6+

17N7+

18N7+ 17N6+

18O7+

17O7+

18O8+

17O8+

図(b)

17N7+

12C5+ 14C6+

TKE [MeV]

⊿E

[MeV

]

図(a)

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- 35 -

図 29 一次ターゲット厚 50m& F0 ディグレーダー

TKE-ΔE 測定図の各粒子の各軸への射影図

(a) 17

N7+射影図(TKE 軸)(b)

17N

7+射影図(ΔE 軸)

(c) 12

C5+射影図(TKE 軸)(d)

12C

5+射影図(ΔE 軸)

(e) 14

C6+射影図(TKE 軸)(f)

14C

6+射影図(ΔE 軸)

TKE [MeV] ⊿E [MeV]

TKE [MeV] ⊿E [MeV]

図(c) 図(d)

図(a) 図(b)

TKE [MeV] ⊿E [MeV]

図(e) 図(f)

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- 36 -

(ii) PPAC-SSD 測定

図 30 に典型的な PPAC-SSD 測定による粒子識別の方法を示す。縦軸に PPAC 上での位

置 X [mm]、横軸に SSD で測定された粒子のエネルギーE [MeV]を示す。

図 30 一次ターゲット厚 50m PPAC-SSD 測定図の各粒子の各軸への射影図

(a) PPAC-SSD 同時測定図

(b) 12

C5+射影図(TKE 軸)(c)

12C

5+射影図(ΔE 軸)

(d) 17

N7+射影図(TKE 軸)(e)

17N

7+射影図(ΔE 軸)

図(a) 17N

7+

12C

5+

PPAC X [mm]

PPAC X [mm] E [MeV]

PPAC X [mm] E [MeV]

E [

MeV

]

cou

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cou

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cou

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cou

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図(b) 図(c)

図(d) 図(e)

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- 37 -

これから X 方向の収束があまりよくないことがわかる。この解決のため、ビームのサ

イズの調整及び評価を 6.3 で行った。

6.2.3 ビーム純度の考察

各条件における最終調整後の二次ビーム純度は図 31、図 32 のようになった。

図 31 各ターゲット条件の最終調整後の 17N 二次ビーム純度

図 32 各ターゲット条件の最終調整後の二次ビーム成分

純度(%)

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- 38 -

この結果を見て分かるように、一次ターゲット厚 50m と F0 ディグレーダーで一次ビ

ームのエネルギーを下げた場合がもっとも 17N の純度が高い。これは一次ビーム由来の

12C

5+のエネルギーが 18O と同様に F0 ディグレーダーで落ちたことにより 12

C5+の Bが変

化し、途中のスリットで切られたためだと考えられる。しかし、次回の実験では一次ビ

ームへの 12C の混入はなくなっていること、また F0 ディグレーダー有り場合では 12

C で

も 17N でもないその他の粒子も数多くあることから、この条件を採用すべきではない。よ

って以下 F0 ディグレーダーのない場合のみを考えていく。

一次ターゲット厚 50m、15m の両条件は二次ビーム中の 17N の純度に大差がない。

よってビーム量が多い条件を最終条件として実験を進めていった。

また 12C

5+が無いとして各成分の純度を再計算することで、次回の実験では表 9 に示す

ような結果が期待できる。

表 9 各条件の純度まとめ

条件 17

N 純度 その他粒子純度

A 63% 37%

B 77% 23%

C 73% 27%

条件 A:一次ターゲット厚 50m & F0 ディグレーダー

条件 B:一次ターゲット厚 50m、条件 C:一次ターゲット厚 15m

6.3 二次ビームサイズの調整

6.3.1 磁場の調整

最初は、計算によって求めた磁場の値になるように四重極電磁石と六重極電磁石の電

流値を設定した。計算は高エネルギーのビームによって確立されたものを用いた。

まず、15 m の9Be ターゲットを置いて双極電磁石 D1 の Bを 17N

7+に合わせ、y 方向

の収束に効く四重極電磁石 Q2 の磁場を計算値の周辺で変化させ、最も F1PPAC における

y 方向のビームの広がりが小さくなる電流値に決定した。次に、双極電磁石 D2 の Bを

ディグレーダー透過後の 17N

7+に合わせ、y 方向の収束に効く四重極電磁石 Q5 の磁場を計

算値の周辺で変化させ、最も Tracking における y 方向のビームの広がりが小さくなる電

流値に決定し、続けて x 方向の収束に効く四重極電磁石 Q6 の磁場を計算値の周辺で変化

させ、最も Tracking における x 方向のビームの広がりが小さくなる電流値に決定した。

その際の四重極電磁石の電流量とビームの幅をプロットしたものを図 33 に示す。

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- 39 -

図 33 四重極電磁石の調整

青が x 方向、赤が y 方向の F1PPAC または Tracking のの値。(a) は Q2 の電流量を変えた

場合、(b) は Q5 の電流量を変えた場合、(c) は Q6 の電流量を変えた場合。

それぞれ赤矢印が示すところの磁場を採用した。(b)および(c)については元の計算値と採

用した磁場の値は一致。(a)については元の計算値を黒矢印で示した。

図 33(a)の Q2 の磁場の値を変えた場合については、今までの計算とは異なる磁場の値

でもっともよく収束しているように見えたが、この調整で使用していた F1 の PPAC は位

置分解能が非常に悪くなっていたことが後でわかったため、最適な条件を選べていない

可能性がある。図 33(b)および(c)の Q5 と A6 の磁場の値を変えた場合は、もともとの計算

値で最もよく収束して見えた。(b)の図では、矢印より絶対値の大きな電流を流した場合、

y 方向の Tracking によるビームのが計算により求められないほど大きくなったため、矢

印の示す値を採用した。(c)の図では、矢印の示す値より絶対値の小さな電流を流した場

合、x 方向のは若干小さくなるが y 方向のが極端に大きくなったため、矢印の示す値を

採用した。図 34 に、磁場の調整が終った後に最もよく収束して見えた磁場の値にしたと

きの Tracking の像を示す。

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図 34 四重極電磁石を調整し終えた直後の Tracking による像

(a) が x 射影、(b) が y 射影、(c) が二次元図。

6.3.2 スリット幅の変更

F1 のスリット幅は、双極電磁石 D1 の Bによる分離の予測を元にして左右±35 mm に

設定した。これに伴い、F0 のスリットはエネルギーアクセプタンスを考慮して左右±4.8

mm、上下±3.1 mm に設定した。F2 のスリット幅については次のような調整を行った。

二次ターゲット位置に PSD を用意し、F2 には何も検出器を入れず、F2 の左右スリット

の幅を変えながら PSD 上でのビームサイズを見た。その後、F2 の PPAC2 枚を入れ、F2

の左右スリットの幅を変えながら Tracking の像と PSD の像を同時に測定し、比較を行っ

た。

まず、F2 スリット幅に対する二次ターゲット位置で得られるビーム量の変化について

説明する。F2 のスリット幅を狭めていき、PSD において25 に入る 17N 二次ビーム量が

どのように変化するかを見た。図 35 に、スリットを狭めたときの 17N 二次ビーム量の変

化と、25 に入る割合の変化をプロットしたものを示す。

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図 35 F2 の左右のスリット幅と収量の変化及びターゲットに入る割合

(a) が収量の変化、(b) がターゲットに入る割合。

収量の変化として、17N 二次ビーム量の割合が F2 の左右スリットが全開 (±35 mm) の

ときに対してどう変化するかをプロットした。±16 mm 辺りまではスリットを狭めても収

量はほとんど変化しないが、スリットを±10 mm にしたときには 71 %となり、± 5 mm に

したときには 37 %まで減尐する。

ターゲットに入る割合として、あるスリット幅のときに30 に入る粒子数に対する25

に入る粒子数をプロットした。ターゲットに入る割合が大きくなれば二次ターゲットの

フレームに当たってバックグラウンドを作る確率が減尐する。スリットが全開のときは

78 %だが、スリットが±10 mm のときは 88 %、スリットが±5 mm のときは 91 %まで改善

された。

次に、PSD と Tracking の比較の結果について説明する。図 36 に、PSD のみで測定

した場合、PPAC2 枚によって Tracking を行った場合、PPAC2 枚を F2 に入れたままの状態

で PSD で測定した場合の x 射影を示す。どのスペクトルも F2 の左右スリットが±8 mm の

場合である。25 の二次ターゲットに入りうる二次ビーム量は、PPAC が入っていないと

きに対して、PPAC 2 枚による Tracking のときには 54 %、PPAC2 枚通ったあとの PSD の

ときには 37 %まで減尐していた。

図 36 PSD と Tracking の比較

それぞれ、(a)は PPAC が入っていない PSD、(b)は PPAC2 枚による Tracking、

(c)は PPAC2 枚が入っている PSD の x 射影。

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- 42 -

6.3.3 ビームサイズの考察

(i) PSD と Tracking の比較

F2 に PPAC を設置せずに、二次ターゲット位置の PSD で 17N 二次ビーム量を測定した

ときに比べ、二次ターゲット位置で得られると予想される 17N 二次ビーム量は、Tracking

を用いた場合は 54%、PPAC2 枚設置したあとの PSD では 37%の 17N 二次ビーム量となっ

ていた。この理由について考察する。図 36 に示したように、PPAC が入っていない場合

の PSD では、F2 チェンバーには何も検出器を入れていないため、二次ビームはダクトに

当たることなく、ダクトの30 以内にビームは収まっていた。しかし、F2 に 2 枚の PPAC

を置いて Tracking を行った場合や、PPAC2 枚が上流に入っているときの PSD による 17N

二次ビーム量測定では、ビームが PPAC を透過する際に角度に広がりを持ってしまうため

に、PPAC が入っていない PSD の像に比べて広がってしまったと考えられる。特に PPAC2

枚後の PSD の像は、二次ターゲット直前のダクトにビームが当たってしまっているため

に 15 mm のところで PSD の x 方向の像が切られてしまっていた。図 36(a)のときで x 方

向のは 6.2 mm、(b)のときで x 方向のは 9.1 mm、(b)のときで x 方向のは 9.6 mm であ

った。

ただし、F2 のスリット幅を狭くしていないときには、二次ターゲット位置前のダクト

部分が細いために PSD にはそのダクトの範囲30 に入った粒子の位置しか知ることがで

きない。これに対して Tracking を用いた場合にはダクト部分に当たるであろう粒子の位

置を知ることができ、さらに F2 から二次ターゲット位置までの間での粒子数の減尐を求

めることができる。このため、磁場の調整は Tracking を用いて行うのが適当だと判断し

た。

(ii) ビームサイズと四重極電磁石の磁場調整

Tracking を用いて、Q2、Q5、Q6 の磁場の調整を行い、計算値の周辺で最もビームが収

束しているであろう値に設定した。しかし、収束していると言っても x 方向のが 7.5 mm、

y 方向のが 10.6 mm なので、二次ターゲットサイズ25 mm に十分収束しているとは言え

ない。

収束が良くない原因の一つとして考えられるのは、収束点が二次ターゲット上でない

ということである。図 37 に F2 の 2 枚の PPAC から得られた、F2UPPAC 以降のビーム中

の粒子の軌跡をプロットした。x 軸の 0 の位置に F2UPPAC が、490 の位置に F2DPPAC が、

2080 の位置に Tracking から求めた二次ターゲット位置での粒子の位置がプロットされて

いる。点は適当に 100 イベント選び、イベントごとに F2UPPAC での位置、F2DPPAC で

の位置、Tracking から求めた位置をプロットした。x 方向、y 方向ともに二次ターゲット

位置では収束しておらず、特に y 方向は F2UPPAC と二次ターゲットの間で収束してしま

っており、上下が反転していた。

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図 37 F2PPAC による収束位置の評価

0 の地点に F2UPPAC 上の位置、490 の地点に F2DPPAC 上の位置、2080 の地点に Tracking

による位置の、(a)は x 方向、(b) は y 方向をプロットした。

(iii) ビームサイズとスリット幅

今回は、二次ビームがターゲット中もしくはターゲットフレームで止まってしまい 17N

の β 崩壊による線及び線が測定の妨げとなってしまった。今実験の核融合反応実験の際

には F2 スリットは±20 mm に設定されていた。このスリット幅を狭めていけば、見たい

信号の数に対して 17N によるバックグラウンドを落とすことができると考えられる。しか

し、二次ビームの収量を 63 %犠牲にして F2 のスリットを±5 mm まで閉めたとしても、タ

ーゲットに当たる二次ビーム量に対して、ターゲットフレームには 1/10 も二次ビームが

当たってしまうために、今回の二次核融合反応の散乱断面積は非常に小さいことから 17N

によるバックグラウンドを見たい信号に対して十分落とせたとは言えない。また二次ビ

ームの収量をあまりに犠牲にしてしまうと、散乱断面積が小さいために二次核融合反応

において目的の核が十分量得られない可能性もある。また、四重極電磁石の磁場の値に

ついても、収束点が二次ターゲットより上流にあることから最適な値を選べていないこ

とがわかる。十分に二次ビームの収束を行うことができるのならば、スリット幅を狭め

ていく必要性はかなり小さくなるだろう。

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6.4 二次ビームの量

6.4.1 ビーム調整中の二次ビーム量の変化

(i) 規格化

ビーム調整中の測定ではその目的にあった一次ビーム量に適宜変化させていたため、

一次ビーム量は常に一定ではない。また、一次ビーム量の推移を適切に把握しなければ、

各々の測定で得られた二次ビーム量を規格化することはできない。今回一次ビーム量の

指標として、EN コースの F0 スリットに当たった一次ビームの電荷量を Beam Current

Integrator を用いて測定した。この回路はある電荷量を単位として計数する。その 1 カウ

ントを以下 1 B.C. (Beam Current)として表記する。一次ビーム量を導く具体的な計算は以

下のようになる。

[pps]ビーム量OXN 818

TQ…(式 9)

Q : 8×電気素量[C]、T : 計測時間(Real Time) [s]

N : 測定された B.C.カウント数[B.C.]、X : 1カウント当たりの電荷量[C/B.C.]

まず、フルビームで二次核融合反応生成物のγ線を観測した Run 2008 の結果よりフルビ

ーム時の一次ビームの量は 4.7×1012

pps であることが分かった。次に、1B.C.=10-8

C をビー

ム調整中の測定に用いて得られた一次ビーム量の推移を図 38 に示す。

図 38 18

O8+一次ビーム量の推移

この結果から、ビーム調整中の一次ビームがフルビームの何分の一かが分かり、測

定された 17N

7+のビーム量を規格化して比較することができる。

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- 45 -

(ii)二次ビーム量推移

上記の方法を用いて調整中の一次ビーム量を規格化した。これからフルビーム時に

期待される各調整中の二次ビーム量を一次ビームの場合と同様に導出した。なお、一

次ターゲット 15m の場合のビーム調整及び運動量分布測定時のビーム量が導出でき

ていないのは、正確な計測時間(Real Time)が測定されていなかったためである。

図 39 フルビームで期待される 17N ビーム量

表 10 フルビームで期待される 17N ビーム量

条件 目的 F2 L・R スリット幅

(i) A 運動量分布測定 狭(10mm)

(ii) A ビーム調整 開放(35mm)

(iii) B 運動量分布測定 狭(10mm)

(iv) B ビーム調整 開放(35mm)

(v) A ビーム調整 開放(35mm)

条件 A:一次ターゲット厚 50m

条件 B:一次ターゲット厚 50m & F0 ディグレーダー

(i)

(ii)

(iii)

(iv)

(v)

17Nビーム量

[pp

s]

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6.4.2 運動量分布測定

直接反応で生成された 17N

7+二次ビームは、一次ターゲットが厚みを持っていることか

ら運動量に分布を持っている。そこでスリット幅を狭くして Bを様々に変化させること

でビームラインの中心軌道を通る 17N

7+の運動量を選択し、実際に運動量分布を測定する

ことができる。その分布よりスリットを開放した時に 17N

7+ビーム量が最大となる Bを得

ることができる。

(ア)一次ターゲット厚 15m の場合

図 40 に一次ターゲット厚 15m の場合の運動量分布を示す。

図 40 一次ターゲット厚 15m 運動量分布測定

またこの結果から中心軌道を通る 17N の Bを、調整前から-2%振った場合最大のビーム

量となる。スリットを開放することで、調整前の振り幅-4%から 0%、つまり 0.77996 Tm

から 0.81246 Tm の Bを選択したことになる。

Bの振り幅が-2%のときが極小値を持つという特異な分布を持っていることが分かる。

これは TKE-ΔE 測定においてみられた二つの山と関連づけて考えることにより、-3%に極

大を持つ山が 18N に、-4%に極大を持つ山が 17

N にそれぞれよってできたものだと考える

ことができる。その場合、上記の中心軌道を通る 17N の Bは適切なものではなくなるが、

上記の Bの設定のまま実験を進めた。またこの問題に関しては、6.4.4 で考察する。

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- 47 -

(イ)一次ターゲット厚 50m の場合

図 41 に一次ターゲット厚 50m の場合の運動量分布を示す。

図 41 一次ターゲット厚 50m 運動量分布測定

この結果から中心軌道を通る 17N の Bを、調整前から-1.5%振った場合最大のビーム量

となる。スリットを開放することで、調整前の振り幅-3.5%から 0.5%、つまり 0.793453 Tm

から 0.863344 Tm の Bを選択したことなる。

(ウ)一次ターゲット厚 50m と F0 ディグレーダーで一次ビームのエネルギーを下げた場

図 42に一次ターゲット厚 50mで F0にディグレーダーを入れた場合の運動量分布を示

す。

図 42 一次ターゲット厚 50m & F0 ディグレーダー 運動量分布測定

この結果から中心軌道を通る 17N の Bを、調整前から-1%振った場合最大のビーム量とな

る。スリットを開放することで、調整前の振り幅-3%から 1%、つまり 0.741201 Tm から

0.771766 Tm の Bを選択したことになる。

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- 48 -

6.4.3 Ge 検出器による 17N 二次ビーム量の測定

17N 二次ビーム量は、不安定核である 17

N の崩壊後に放出する線強度から求めること

ができる。そこで二次ターゲット位置に置いた鉛キャッチャーで 17N 二次ビームを止め、

Ge 検出器で線を測定した。17N の半減期は 4 秒であり、ビームを鉛キャッチャーに十秒

程度照射すると崩壊数とビーム量とが平衡状態になる。このため 17N 二次ビーム量は Ge

検出器での線のカウント数から簡単に計算できる。17N 二次ビーム量を Npps]、のカ

ウント数を N[count]、Live Time を t [s]、の強度比を I 、Ge 検出器の検出効率をとす

ると、17N 二次ビーム量は

It

NN

N17 …(式 9)

となる。

17N の decay scheme[18]を図 43 に示す。今回は 17

N の崩壊後の 871 keV、2184 keV の

線を用いてビーム量を計算した。次に鉛キャッチャーでビームを止めた測定で一次ター

ゲットが 15m と 50m のそれぞれについてエネルギースペクトルを図 44 に示す。最後

に二次ビーム量の計算結果を表 11 に示す。

図 43 17

N の decay scheme[18]

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図 44 由来の線ピークのフィッティング

(a) : 一次ターゲット 15m、871 keV の線のフィッティング

(b) : 一次ターゲット 15m、2184 keV の線のフィッティング

(c) : 一次ターゲット 50m、871 keV の線のフィッティング

(d) : 一次ターゲット 50m、2184 keV の線のフィッティング

赤 : BGO つき Ge 検出器

青 : BGO なし Ge 検出器

表 11 二次ビーム量の計算

一次

ターゲット

[m]

検出器 エネルギー

[keV] 検出効率 カウント

17N ビーム量

[pps]

15 BGO つき

Ge 検出器

871 1.01×10-2

9477 1.3(4)×104

2184 4.95×10-3

515 1.4(4)×104

15 BGO なし

Ge 検出器

871 2.25×10-2

23153 1.4(3)×104

2184 1.02×10-2

1287 1.7(3)×104

50 BGO つき

Ge 検出器

871 1.01×10-2

20255 2.7(8)×104

2184 4.95×10-3

1300 3.4(10)×104

50 BGO なし

Ge 検出器

871 2.25×10-2

53628 3.2(6)×104

2184 1.02×10-2

3102 3.9(8)×104

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- 50 -

ビームが広がっているとBGOつきのGe検出器はBGOおよびそのコリメーターによっ

て影ができ、検出効率が落ちることは定性的に説明できる。そこで今回は BGO をつけて

いない Ge 検出器による線ピークのカウント数から 17N 二次ビーム量を計算した。また、

この実験中モーター駆動用電源を入れたままにしていたため、ノイズがのってしまい、

エネルギー分解能が悪い。このため 870 keV の線のピークでは近くのエネルギーのピー

クとうまく分離することができず、バックグラウンドがきれいに引けていない。以上の

ことから今回の実験では、二次ターゲット位置での 17N 二次ビーム量は BGO をつけてい

ない Ge 検出器の 2184 keV の線について出すことにした。その結果は一次ターゲットの

厚さが 15m のとき 1.7(3)×104 pps、50m のとき 4.0(8)×10

4 pps となった。

6.4.4 ビーム量の考察

(i) 運動量分布測定・及び TKE-⊿E 測定で見られた特異な構造についての考察

運動量分布測定・TKE-⊿E 測定で見られた極大を二つ持つ構造についてその理由を

いくつか考察した。表 12、図 45 に一次ターゲットが 15m の場合の二つの極大の TKE

と⊿E の関係を記す。

表 12 二つの極大の TKE と⊿E

粒子 TKE [MeV] ⊿E [MeV]

17N

7+ 97.5 57.9

不明 88.5 65.8

図 45 (ア)一次ターゲット厚 15m 運動量分布測定

(イ)一次ターゲット厚 15m TKE-ΔE 測定図の TKE 軸への射影:B

の中心値を(ア)の-2%としてスリットを開放した測定

一つ目の山

二つ目の山

一つ目の山

二つ目の山

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(ア)18N

7+と 17N

7+の混合の可能性

設定した Bにおける 18N

7+の TKE と⊿E の値が観測された一つ目の山と一致する。こ

のことから Ge 検出器による 18N

7+が崩壊したあとのγ線を測定したが、粒子識別でえ

られた 18N

7+の収量と Ge 検出器による収量が全く一致しない[付録 D]。加えて生成され

うる過程が起こる確率が低いと考えられるため、17N

7+と比較できる量ほど観測される

とは考えにくい。よって 18N

7+ではないと考えられる。

(イ) DWBA 計算により予測される 17N

7+の分布の角度依存性

直接反応により生成される 17N

7+は DWBA 計算によれば角度分布を持っている。その

予測により考えられる 17N

7+のエネルギー分布は図 46 のようになり、考えられる図 45

に見られる一つ目の山と二つ目の山の間は、実験で観測された二つの山のエネルギー

差よりはるかに小さい。よってこの可能性は低いと思われる。

(ウ)の励起状態の可能性

実験で観測された二つの山のエネルギー差との励起状態と基底状態のエネルギー

差はどれも一致しない。この可能性は低いと思われる。

結論

以上の考察から

以外の山が何であるかを同定することはできなかった。よって、

運動量分布測定で選んだ中心値の磁場とは矛盾するが、以下のの収量計算は全て一

つ目の山を含んでいない。また、一次ターゲットm の場合ははっきりと 17N

7+以外の

山が何の粒子なのかわからないが、ガウス分布の対称性を仮定して分別し、収量を計

算した。

図 46 17

N のエネルギーと生成量の関係

赤色部分が今回選択した範囲。

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(ii)ターゲットの厚さと 17N 二次ビーム量

図 47 にそれぞれのターゲットの厚さのとき、フルビームで期待される 17N 二次ビーム

量を示す。

図 47 フルビームで期待される各条件でのビーム量

一次ターゲット厚 50m と 15m の厚さの比は 3.3:1 であるのに対し、ビーム量は 2.8:1

になり一次ターゲットの厚さとビーム量が比例していない。この理由を考える。

生成される二次ビームは一次ターゲット中でエネルギー損失を受ける。一次ターゲット

のどの部分で反応するかの違いにより、生成された二次ビームはエネルギーに広がりを

持つ。つまり、ターゲットの厚さが厚くなればなるほど二次ビームのエネルギーの広が

りは大きくなる。その結果、薄いターゲットに比べ厚い一次ターゲットで生成された二

次ビームは様々な Bを持つため、双極電磁石の効果によりビームライン中での輸送効率

が落ちる。そのためターゲットの厚さとビーム量が比例しないという結果が得られたと

考えられる。

(iii) PPAC-SSD による測定と Ge 検出器による測定結果の比較

50m の一次ターゲットを用いたときに得られた 17N 二次ビーム量は、PPAC-SSD の同

時測定からは 3.5×104 pps、Ge 検出器による測定からは 4.0×10

4 pps と求められた。また、

F2UPPAC から F2DSSD および二次ターゲット位置までのトランスミッションの考察から、

PPAC-SSD の同時測定で得られるビーム量と Ge 検出器による測定で得られるビーム量は

ほぼ一致すると言える[付録 E]。これを考慮すると、2 つの方法から得られた 17N 二次ビ

ーム量は誤差の範囲内で一致している。

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- 53 -

6.5 二次核融合反応

二次ターゲット位置に natTe ( ~10mg/cm

2 ) + Al バッキング( 20 m )を設置し、Ge 検出器

で線を測定した。今回、テスト的に PPAC を入れた状態でも、Ge 検出器で線を測定し

た。F0、F1 スリット幅は固定で、F0 上下スリットは±3.1 mm、F0 左右スリットは±4.8 mm、

F1 左右スリットは±35 mm とした。 F2 スリットは PPAC なしのとき上下左右±20 mm、

PPAC ありのとき上下左右±5 mm とした。測定は PPAC なしで 10.5 時間、PPAC ありで

9.9 時間行った。用いた 17N 二次ビームは、純度が 24%、二次ターゲット上でのエネルギ

ーが 5.3 MeV/u でビーム強度は 4×104 pps であった。今回目的とする 142

Pr の level

scheme[19]を図 48 に示す。

図 48 142Pr の level scheme[19]

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6.5.1 コンプトンサプレッションの効果

二次ターゲット位置に 60Co の線源を置いてコンプトンサプレッションの評価をするた

めのスペクトルを測定した。そのスペクトルが図 49 である。

図 49 コンプトンサプレッション

赤:コンプトンサプレッションをかける前

青:コンプトンサプレッションをかけた後

コンプトンサプレッションは BGO の TDC で Ge 検出器の ADC に veto をかけるという

方法で行った。

実験前に行った BGO のサプレッションのテスト(今回用いた BGO とは別の型)では

peak/total がサプレッションの前後で 15%から 40 %へ変化したのに対して、実験後に行っ

たこの測定では 11%から 16%への変化であった。たしかにコンプトン連続部は減尐して

いるのだが、ややサプレッションの効き方が弱いように思われる。これは BGO の光電子

増倍管に加えた電圧が最適な電圧値より小さかったためであると考えられる。

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6.5.2 線スペクトルと二次ビームによる反応

PPAC なしの実験時の Ge 検出器による測定のエネルギースペクトルを図 50 に示す。

図 50 PPAC なしの実験時の線エネルギースペクトル

一般的な核融合反応に用いられる一次ビーム 109

pps に対して、今回用いた 17N 二次ビ

ームは 4×104 pps と 5 桁も小さいビーム量である。しかし、この量の二次ビームでも図

51 に示すように、27Al(バッキングやフレームに含まれている)の直接反応後の線が確

認できた[付録 F]。また 17N と 27

Al による反応で得られる生成物を CASCADE によって計

算した結果[付録 G]、27Al(

17N、6n)

36Cl が起きている可能性が予測されたが、実際、過去

に報告されている 36Cl の励起状態からの線のエネルギーと一致する非常に小さなピーク

が、図 52 に示す 6 本あるように見えた[付録 F]。小さいとはいえ、6 本もの 36Cl の線が

同時に確認できたということは、フレームやバッキングに含まれる 27Al と 17

N 二次ビー

ムが核融合し、27Al(

17N、6n)

36Cl の二次核融合反応が起こっていた可能性が高い。

ただし、今回目的としていた 142Pr については低エネルギーであるため、バックグラウ

ンドが大きく、まだピークとバックグランドを分離できていない[付録 F]。この大きなバ

ックグラウンドを取り除き、ピークを取り出せるようにすることが今後の課題である。

1

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図 51 27

Al の励起状態[18]と線

赤で囲った線が今回確認できた線

図 52 36

Cl の励起状態[18]と線

赤で囲ったエネルギーの線がピークの可能性のある線

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7 課題

7.1 線スペクトルの解析

線スペクトルにおいてバックグラウンドを軽減させるために、PPAC の位置情報、RF

との時間差、-マトリックスなどで条件をかけることにより、さらなる解析を進めてい

く。

7.2 必要な二次ビーム量の再考

実験前の予測において、必要な二次ビーム量の見積もりは粗いものであったので、こ

の実験結果を踏まえ、GEANT により見積もりを行ったり、バックグラウンドの見積もり

を行ったり、実験結果から cross section を求めるなどを行い、142Pr の-解析ができるため

に最低限必要な 17N 二次ビーム量を改めて計算する必要がある。また、BGO をつけて S/N

を上げる方が良いのか、BGO を外して検出効率を重視するほうが良いのかもシミュレー

ションを行う必要があると考えられる。

7.3 二次ビームの質の向上

二次核融合反応におけるバッグラウンド除去の為には二次ビームスポットサイズの調

整が必要だが、収束条件の最適化やスリット幅の決定はまだ完全ではない。特にスリッ

ト幅については二次ビームの収量との兼ね合いもあるために、今後より詳細に解析を進

めてより適切な値を決める必要がある。

7.4 モニター系検出器と Ge 検出器の同時計数

PPAC と Ge 検出器、および SSD と Ge 検出器の同時計数の可能性について現在検証中

である。PPAC と Ge 検出器の同時計数によっては、二次ビーム由来の線を特定すること

ができる。また、SSD と Ge 検出器の同時計数によっては、二次核融合由来の線を特定

することができる。このため、S/N を向上することができると考えられる。ただし、PPAC

との同時計数においては、PPAC 中で二次ビームが広がってしまう。また、SSD との同時

計数においては、SSD をバッキングに使うために二次ターゲットの厚さに制限が設けら

れてしまう。さらに、モニター系検出器は個数に上限があるために性能を上げてフルビ

ームに耐えうるようにする必要がある。

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8 まとめ

中性子数 83 の原子核の高スピン状態を研究するために、AVF サイクロトロンからビー

ム量0.75 pnA、エネルギー9.1 MeV/uの 18Oビームを用いた 17

N二次ビーム開発を行った。

用いた反応は 9Be (

18O,

17N)

10B である。 17

N 二次ビームの評価には SSD、PPAC、PSD

及び Ge 検出器を用いた。17N 二次ビームとして、純度 24%、ビーム量 4×10

4pps を得る

ことができた。ただしビームサイズはターゲットサイズまで絞れていないため、今後の

検討が必要である。

また、このようにして開発した 17N 二次ビームを用いて 130

Te ( 17

N, 5n) 142

Pr の二次核

融合反応を起こし、Ge 検出器で線を測定した。目的としていた 142Pr の線はまだ確認で

きていないが、ターゲットフレームやターゲットのバッキングの 27Al との反応による

線は確認することができた。二次核融合反応による線を解析できるようにするために、

より S/N を向上させる手法を今後考えていく。

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9 謝辞

今回の卒業研究では多くの方々にご助力いただきましたことを深く感謝します。

4年生が加速器を用いた実験ができるように尽力された下田先生と小田原先生には感

謝しきれません。個性豊かな下田研究室のみなさんにも感謝申し上げます。実験手法や

パソコンによる解析方法などを丁寧に教えてくださいました福地博士(また息子自慢聞

かせてください)、実験準備で多くのご指導を賜り、またデータ解析の準備を整えてくだ

さいました鈴木博士(これからも下田研をよろしくお願いします)、修士論文でお忙しい

中、実験の手伝いをしてくださった M2 の堀さん(大阪でお待ちしてます)、増江さん(大

吟醸ごちそうさまでした)、実験解析でお忙しい中、実験に不慣れな4年生のために頻繁

に実験準備に付き合っていただきました M1 の田尻さん(これからもスマートでいてくだ

さい)、倉さん(お礼は卒業式の写真でいいですか)、お菓子の差し入れや、暖かい応援

をいただきました今井さん(またミニスポーツ大会やりましょう)、亀井さん(これから

も飲み会参加してくださいね)、本当にありがとうございました。

後述になりまいたが、ビームを出していただいた RCNP のスタッフの方々、Ge ボウル

の製作にご協力いただき、また pre AMP を貸していただきました東北大の皆様、Ge 検出

器の架台作りでご尽力いただきましたリフテックの方々、架台の調節を行っていただい

た技官の坂本氏、natTe のターゲットを作っていただき、実験にも参加していただきまし

た郷農先生、Ge ボウルの写真をいただいたり、anapaw の使い方をご指導いただきました

井手口講師、SSD を提供していただきました若林博士、MCA を貸していただいたり、数々

の助言をいただきました古川博士(お酒はほどほどに)、その他今回の実験を支えてくだ

さった皆様にも厚くお礼申し上げます。

多くの方々のサポートの下で事故もなく今回の実験を行えましたことを改めて深く感

謝いたします。今後も得られた結果から解析を進め、次回の実験に役立てて行きたいと

思います。

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10 参考文献

[1] 堀稔一 増江俊行 田尻邦彦 卒業論文(2006)

[2] T. Murakami et al., Z. Phys. A345 (1993) 123.

[3] A. Odahara et al., Nucl. Phys. A620 (1997) 363.

[4] E. Ideguchi et al., Z. Phys. A352 (1995) 363.

[5] R. Broda et al., Z. Phys. A305 (1982) 281.

[6] O. Bakander et al., Nucl. Phys. A389 (1982) 93.

[7] X. H. Zhou et al., Phys. Rev. C61 (1999) 014303.

[8] T. Sasaki master thesis Kyushu-university (2003).

[9] S. Andre et al., Z. Phys. A337 (1990) 349.

[10] C. Foin et al., Eur. Phys. J. A8 (2000) 451.

[11] 下田正 物理学輪講(2006)

[12] R.M.Sternheimer et al., Phys. Rev. B26 (1982) 6067

[13] http://groups.nscl.msu.edu/lise/lise.html

[14] T.Shimoda et al., NIM B 70 (1992) 320

[15] T.Yanagimachi et al., NIM A275 (1989) 307

[16] S.Mithuoka et al., NIM A 372 (1996) 489

[17] F. Puhlhofer et al., Nucl. Phys. A280 (1977) 267

[18] Table of Isotopes CD ROM Edition Version 1.0

[19] K.H.Schedl et al., Z. Phys. A272(1975) 417-420

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11 付録

付録 A 一次反応による生成物のエネルギー算出の詳細

一次反応における生成物のエネルギーを算出した際の式の詳細について説明する。重

心系に換算して計算を行った。各粒子の質量と速度を図 9 のように定義した。

重心系の質量を 21 MMMG とすると、M2 が静止している (v2=0) ので、実験室系

の運動量の総和と重心系の運動量の総和が等しいことより、重心系の速度 VG は

1

21

1 vMM

MVG

…(1)

また、実験室系のエネルギーの総和と重心系のエネルギーの総和が等しいことから、

重心系で 18O と 9

Be が持っている運動エネルギーの和 E0は実験室系における一次ビーム

の入射エネルギーを E1とすると、

2

102

1GG VMEE …(2)

一次反応において、18O と 9

Be が持っている運動エネルギーと反応による Q 値が反応に

使われ、17N と 10

B の運動エネルギーになることから、

2

44

2

330 '2

1'

2

1vMvMQE …(3)

重心系では運動量の総和は 0 なので、

0'' 4433 vMvM …(4)

また、非相対論においては一次ビームの入射エネルギーE1 は

2

1112

1vME …(5)

よって、(3) 式に(1)、(2)、(4) 、(5) 式を代入することにより、重心系での 17N の運動

エネルギーE3’は、

Q

MM

ME

MMMM

MME

43

3

1

4321

32

3 ' …(6)

図のような幾何学的関係にあることより、重心系における 17N の速度 v3’を実験室系に

おける速度 v3 に換算すると、

cos'2' 3

2

3

22

3 vVvVv GG …(7)

よって、実験室系での 7N の運動エネルギーE3 は次のようにあらわせる。

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cos

22112

4321

4311

21

43

41

4321

42

2

21

31

3

QMQMEMMMMM

MMME

MM

QMM

ME

MMMM

MM

MM

MME

…(8)

また、入射ビームに対する二次ビームの散乱角度は、正弦定理から

sin

'sin

3

31

v

v …(9)

とあらわせる。

付録 B 検出器の配置図

Ge 検出器の配置の詳細図を示す。図 53 に検出器の配置図(骨組)を、図 54 に立体角が

重複していないかどうかの確認に用いた図を示す。

図 53 Ge ボール設計図

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図 54 立体角の確認

付録 C Ge 検出器(エネルギー較正、エネルギー分解能、検出効率)

6.1.2 で省略した、エネルギー較正のパラメータ( 1 次の係数:a 、0 次の係数:b )、実

験値のエネルギー較正式からのずれを表 13、図 55 に示す。このエネルギー較正式を用い

て計算した 1333 keVの線( LEPSは 121 keVの線)でのエネルギー分解能を表 14に示す。

また検出効率のグラフを図 56 に示す。図 56 中の p0、p1 はべき乗関数( = p0×E p1

検出効率、E:エネルギー)でのフィッティングのパラメータである。

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図 55 実験値のエネルギー較正式からのずれ

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表 13 エネルギー較正のパラメータ

SLOT a b

1 4.89340(10)×10-1

5.4(17)×10-1

2 4.92440(10)×10-1

-1.6(2)

3 4.86015(8)×10-1

-2.2(14)×10-1

4 4.95265(10)×10-1

4.7(17)×10-1

5 4.94157(11)×10-1

2.5(2)

6 4.90983(9)×10-1

2.1(2)

7 4.94233(10)×10-1

3.3(2)

8 4.95458(10)×10-1

1.0(2)

10 5.01278(9)×10-1

1.6(2)

11 5.03310(10)×10-1

4.2(2)

12 4.92095(11)×10-1

-3.6(2)

13 4.95213(9)×10-1

-7.5(2)

14 4.77641(10)×10-1

1.2(2)

表 14 1333 keV の線のエネルギー分解能(LEPS は 121 keV の線)

SLOT FWHM[keV]

1 2.35

2 2.61

3 2.10

4 1.97

5 2.49

6 2.83

7 2.16

8 2.55

10 (LEPS) 1.14

11 3.17

12 (LEPS) 1.01

13 2.64

14 3.45

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図 56 検出効率曲線

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付録 D Ge 検出器の測定からの 18N ビーム量

TKE-E 測定や PPAC-SSD 測定によると、18N が二次ビームに含まれている可能性が

あった。そこで二次ターゲット位置での 18N の収量を Ge 検出器で測定した。図 56 に 18

N

の Decay scheme、図 57 に Ge 検出器による線スペクトルを示す。

図 57 18N の Decay scheme [18]

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図 58 18N,17N 由来の線ピーク

もし二次ビームに 18N が含まれていた場合、図 58 に示すような線のピークが見えるは

ずである。図 43 より 17N の 2184 keV の線の強度比は 0.34 %、図 57 より 1982 keV の

線の強度比は 83.2 %である。また、1982 keV、2184 keV の線の Ge 検出器での検出効率

はそれぞれ 1.6%、1.5%であった。図 58 から 2184 keV、1982 keV の線のピークの面積を

求めると、それぞれ 16036 カウント、743 カウントであった。このカウント数と線強度比

と検出効率とでビーム量を計算し、比較すると 18N は 17N の~10-4 倍のビーム量となるが、

TKE-E 測定やPPAC-SSD 同時測定で見えている 2 本のピークの面積の比はこれを再現し

ていない。

付録 E F2 から二次ターゲットまでのトランスミッション

PPAC-SSD 同時測定と Ge 検出器による測定から得られた二次ビーム量を比較するとき、

PPAC-SSD 同時測定には F2DSSD に入る二次ビームが F2UPPAC によって広がっている

という効果が含まれているが、Ge 検出器による測定の際には F2PPAC は設置していないた

めに単純に比較できない。そのためここでは F2UPPAC の位置から F2DSSD 及び二次ター

ゲット位置までのトランスミッションについて考察する。

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まず、F2UPPAC の位置から F2DSSD までのトランスミッションについて考察する。図

59(a)のように、F2UPPAC を通った後に F2DSSD を通る割合を求めたい。この考察には、

F2UPPAC でトリガーをかけて F2UPPAC と F2DPPAC の二枚で同時に計測を行ったデー

タを用いた。F2 のスリットが±20 mm のときの F2UPPAC から F2DSSD へのトランスミ

ッションを求めるために、解析の段階において次の二つを仮定した。

仮定1:F2 スリットと F2UPPAC 間は十分に狭く、F2 のスリットを±20 mm まで狭め

ることと、スリット幅が広いときに F2UPPAC に±20 mm 以内に粒子が入ったと

いう条件を与えることはほとんど等価とみなせるとした。

仮定2:F2DSSD と F2DPPAC 間は十分に狭く、F2DSSD に入る二次ビーム量と、

F2DPPAC に入った粒子のうち F2DSSD のサイズに入るという条件を与えたとき

の粒子数はほとんど等価とみなせるとした。

以上の仮定の元で、F2UPPAC を通った後に F2DPPAC を通った二次ビーム量の割合は、

89%であった。統計誤差は 0.2%未満である。しかし、仮定 1,2 が実際には十分に成り立っ

ていないため、このことから生じる誤差が数%程度あると見込まれる。

次に、F2UPPAC の位置から二次ターゲット位置までのトランスミッションについて考察

する。図 59(b)のように、F2UPPAC の位置を通過して二次ターゲット位置にある PSD に

入る割合を求めたい。このため、F2UPPAC における二次ビーム量を求めたものと、PPAC

は設置せずに PSD のみで二次ビーム量を求めたものとを 6.4.1 と同様にして一次ビームで

規格化して比較した。その結果、F2UPPAC で得られる二次ビーム量に対して、二次ターゲ

ット位置の PSD で得られる二次ビーム量の割合は、87%であった。ただし、規格化に用い

た一次ビームの有効数字が小さいために統計誤差だけでも 10%程度ある。

これらから、PPAC-SSD 同時測定で得られるビーム量と二次ターゲット位置で得られる

ビーム量は誤差の範囲内で一致する。

図 59 F2UPPAC から、(a)は F2DSSD まで、(b)は PSD までの

ビームのトランスミッションを模式的に示したもの

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付録 F 線スペクトル

図 60、図 61 に、6.5.2 節で説明した、17N 二次ビームと Al の反応により得られた直接

反応過程後に放出された線と、17N+

27Al の核融合反応により生成された 36

Cl による線を

確認したスペクトルを示す。図 62 に 142Pr の線である 268 keV と 553 keV 近傍の拡大図

を示す。

図 60 27

Al のクーロン励起からの線

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図 61 36

Cl の励起状態からの線

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図 62 142Pr の線のエネルギー近傍拡大図

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付録 G CASCADE による計算

図 63 に、二次核融合反応において、17N とバッキングである Al が反応した場合に生成

される粒子を、CASCADE[17]によって計算したものを示す。横軸が 17N の入射エネルギ

ー、縦軸が散乱断面積で、散乱断面積が大きいもののみプロットした。

図 63 CASCADE による 17N と Al との二次反応による生成物の計算