2018 2019 年度経済見通し - fujitsu · 米株価急落と適温経済の持続性. 2. 月. 2...

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1 20182019 年度経済見通し 2018214株式会社富士通総研 1 世界経済金融政策正常化でも同時拡大は崩れず 米株価急落と適温経済の持続性 2 2 日に発表された市場予想を上回るアメリカの平均時給の伸びは、 FRB の利上げペース加速 を連想させることで長期金利上昇を招き、ダウ工業株は急落した。株価下落は各国の市場に波及し、 世界的に相場が不安定化している。これまで米経済は、景気が良くなっても低金利が続く「適温経 済」と呼ばれる状況にあった。今回の事態によって、これまで謎とされてきた物価停滞について、 労働需給が引き締まれば賃金が上がり、物価の上昇圧力も高まっていくという当たり前の方向性が 見えた。 好景気と低インフレの共存について、イエレン前議長は答えを示さないまま退任したが、イエレ ン前議長が市場安定に配慮し、極めて緩やかな利上げに留めたことが、空前の株高を呼び、現在の 混乱の伏線となっていることは否定できない。想定以上にインフレ圧力が強まり、 FRB が利上げに 出遅れたと市場が感じるようになれば、今回のような株価調整は避けられなくなる。景気が良くな っても低金利が続く適温経済は、もとより永遠に続くものではなかった。 アメリカの実体経済は引き続き好調で、先行きは減税の効果に加え、やがてはインフラ投資の拡 大も計画されている。そうした過程でインフレ圧力が高まっていくことは必至であり、 FRB にとっ ては、イエレン前議長時代の緩やかな引き締めから脱却して、平時モードの利上げペースに徐々に 移行していくことが必要になる。今回の事態の本質は、利上げの遅れが招いた株価高騰の調整であ ると考えられ、リーマンショック時のような実体経済の急激な縮小をもたらす前兆とは捉えられな い。 世界経済の同時拡大と市場の加熱 アメリカのみならず、各国の市場も多かれ少なかれ調整を必要としていた。 2017 年は世界 30 国以上で株価指数が最高値を更新し、世界の株の時価総額は名目 GDP の規模を超えた。この規模 を超えると、やがては株価調整が必要となるシグナルとされる。金融緩和が続く中で、あふれるマ

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2018・2019 年度経済見通し

2018年2月14日

株式会社富士通総研

1 世界経済─金融政策正常化でも同時拡大は崩れず

米株価急落と適温経済の持続性

2 月 2 日に発表された市場予想を上回るアメリカの平均時給の伸びは、FRB の利上げペース加速

を連想させることで長期金利上昇を招き、ダウ工業株は急落した。株価下落は各国の市場に波及し、

世界的に相場が不安定化している。これまで米経済は、景気が良くなっても低金利が続く「適温経

済」と呼ばれる状況にあった。今回の事態によって、これまで謎とされてきた物価停滞について、

労働需給が引き締まれば賃金が上がり、物価の上昇圧力も高まっていくという当たり前の方向性が

見えた。

好景気と低インフレの共存について、イエレン前議長は答えを示さないまま退任したが、イエレ

ン前議長が市場安定に配慮し、極めて緩やかな利上げに留めたことが、空前の株高を呼び、現在の

混乱の伏線となっていることは否定できない。想定以上にインフレ圧力が強まり、FRB が利上げに

出遅れたと市場が感じるようになれば、今回のような株価調整は避けられなくなる。景気が良くな

っても低金利が続く適温経済は、もとより永遠に続くものではなかった。

アメリカの実体経済は引き続き好調で、先行きは減税の効果に加え、やがてはインフラ投資の拡

大も計画されている。そうした過程でインフレ圧力が高まっていくことは必至であり、FRB にとっ

ては、イエレン前議長時代の緩やかな引き締めから脱却して、平時モードの利上げペースに徐々に

移行していくことが必要になる。今回の事態の本質は、利上げの遅れが招いた株価高騰の調整であ

ると考えられ、リーマンショック時のような実体経済の急激な縮小をもたらす前兆とは捉えられな

い。

世界経済の同時拡大と市場の加熱

アメリカのみならず、各国の市場も多かれ少なかれ調整を必要としていた。2017 年は世界 30 カ

国以上で株価指数が最高値を更新し、世界の株の時価総額は名目 GDP の規模を超えた。この規模

を超えると、やがては株価調整が必要となるシグナルとされる。金融緩和が続く中で、あふれるマ

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ネーは原油、非鉄、貴金属などの商品にも流れ込んだ。世界経済の同時拡大が進み、エネルギー需

要やインフラ投資が増すとの思惑もこれら相場を押し上げた。

IMF が 1 月 22 日に発表した世界経済見通しでは、世界経済の成長率は 2018、2019 年ともに

3.9%と、昨年 10 月時点からそれぞれ 0.2 ポイント上方修正された。アメリカについては、法人税

率引き下げを中心とする税制改革によって内需が刺激されると見込んでいる。世界経済はアメリカ

をはじめ、ユーロ圏、中国、日本とすべての成長エンジンが点火した状態にあるのが現在である。

また、IMF の推計によると、日米欧先進 39 ヵ国の需給ギャップは、リーマン危機直後の 2009

年にはGDP 比-3.9%と需要不足に陥っていたが、2018年は 0.1%とプラスに転じる見込みである。

これまでスロートレードと言われ、回復が遅れていた世界の貿易数量も最近は回復の勢いを増して

いる。

金融政策正常化の必要性

世界経済の回復加速は、今年に入り、FRB のみならず、ECB や日銀の量的緩和縮小観測も高め

ていた。1 月 11 日に公表された ECB の昨年 12 月の理事会議事録に、2018 年の早い段階でフォワ

ード・ガイダンスの見直しを検討すべきとの記述があることが伝わると、ECB が想定より早く利

上げに動く可能性が取り沙汰された。また、日銀が 1 月 9 日の公開市場操作で超長期国債の購入額

を減らしたことは、将来の緩和修正のサインと受け取られた。ゼロ%程度としている長期金利の誘

導目標を早期に引き上げる可能性である。ECBも日銀もその後に早期の緩和縮小観測は打ち消した

ものの、今年に入り長期金利は上昇傾向を辿っていた。その流れを加速させたのが、前述のアメリ

カの 1 月の雇用統計の発表であった。

世界同時好況は、アメリカ、ユーロ圏、日本における金融政策正常化への慎重な姿勢が支えてき

た面が強く、それが株価上昇を持続させてきた。好況にもかかわらず物価上昇圧力が弱いままだっ

たため、金融引き締めペースは緩やかなものにとどまり、長期金利は低位安定状態となっていた。

しかし、景気拡大が続くにつれ、早晩、緩めの金融引き締めとの両立は難しくなっていく。

まずはアメリカ、ユーロ圏で、これまで景気拡大に比して緩やかであった金融緩和縮小ペースを、

加速させる必要が生じた。日本は物価上昇が鈍く、緩和縮小は手付かずであるが、最近では、長期

金利の誘導水準引き上げの可能性に言及する審議委員も現れた(鈴木人司審議委員、2 月 8 日記者

会見)。そこで、引き締めの遅れが招いた株価上昇の調整が、アメリカから始まり世界に波及する形

になっている。これはより端的に言えば、過剰なマネーによって引き起こされた世界の株価上昇を

調整する動きである。

アメリカの金利上昇に伴いドル高が進んだ場合、新興国は資金流出と債務負担拡大の二つのリス

クを負い、世界経済の不安定要因になる。後者については、最近、新興国の政府、企業による債券

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発行が活発化しており、低金利に悩む投資家が高利回りを求めてこれら債券を購入していたが、多

くがドル建てのため、ドル高局面では債務負担が膨らむことになる。しかし、ユーロ圏の緩和縮小

ペースの加速観測の高まりによってユーロ高が進んだことで、今回は必ずしもドル高は進んでおら

ず、後者のリスクは今のところ顕在化していない。

試されるパウエル議長の手腕と米経済の先行き

2 月 5 日に就任したパウエル FRB 議長は、株価急落に見舞われた市場の動揺を抑えつつ、先行

きの適切な利上げシナリオを描けるか、早速その手腕を問われる形となっている。利上げペースの

加速は、株価急落という形ですでに市場に折り込まれた形になるが、市場の動揺を抑えるため、当

初の予定通り今年も 3 回利上げするとの方針は堅持しつつも、3 月の利上げは急がずに先送りする

という選択肢もある。

しかしこれに伴い、インフレを放置すると市場が受け止めれば、減税や先行きのインフラ投資拡

大による景気過熱を見越して、長期金利上昇が加速する懸念もある。今回の株価急落の発端は、1

月の平均賃金の予想以上の伸びであったため、この流れが 2 月も続くかを見極め、続く場合には、

3 月に見込まれていた利上げを先送りしない選択が賢明と思われる。

利上げペースの加速は、トランプ大統領推し進める景気刺激策を相殺する形にはなる。しかし、

9 年目に入ったアメリカの景気拡大を加熱によって腰折れさせないためには、金融政策を平時モー

ドに切り替えていく必要がある。たとえ、それが一時的に株式市場の動揺を招いたとしても、イエ

レン前議長が宿題として残した金融引き締めペースと実体経済加熱とのギャップを埋めていく作

業がパウエル議長に求められている。米経済が過熱することなく、今後も拡大を続けていくことに

成功すれば、アメリカを牽引役に世界経済もまた拡大を続けていくというシナリオは今後も見直す

必要はないと思われる。

ここで改めて米経済の状況を確認しておくと、アメリカの 10~12 月期の実質 GDP 成長率は前

期比年率 2.6%と前期(同 3.2%)より鈍化したものの拡大が続き、2009 年 7 月から始まった景気

拡大は 9 年目に入った。過去 3 番目の長さである。個人消費が同 3.8%と前期(同 2.2%)と上回

り、設備投資(同 6.8%)、輸出(同 6.9%)も堅調に推移した。2017 年通年の成長率は前年比 2.3%

と前年の 1.5%を上回った。1 月の PMI は 59.1 と、引き続き高水準となっている(図表 1)。

FRB が物価の目安とする個人消費支出(PCE)物価指数は前年比 1.7%と、目標の 2%には届か

なかったが、前期同 1.5%から加速した。一方、1 月の雇用統計は、景気の動向を反映しやすい非農

業者部門の就業者は、前月比 20 万人の増加と前月から伸びが加速し、さらに、前述のように平均

時給が前年比 2.9%と 2009 年以来およそ 9 年ぶりの高い伸びとなり、今回の株価急落の発端とな

った。

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(出所)ISM、Markit、中国国家統計局、中国物流購入連合会

ECB の量的緩和も終了へ

ユーロ圏の 10~12 月期の実質 GDP 成長率は前期比年率 2.3%と、前期(同 2.9%)から伸び率

は鈍化したものの、19 四半期連続でプラスを維持した。失業率は引き続き低下傾向にあり、個人消

費、設備投資とも回復が続いている。1 月の PMI も 59.6 と高水準を保っている(図表 1)。2017 年

通年の成長率は 2.5%と、金融危機前の 2007 年の 3%成長には及ばなかったものの、金融危機後で

最も高くなった。

欧州委員会が 2 月 7 日に発表した経済見通しでは、ユーロ圏の 2018 年の実質成長率は 2.3%と

11 月時点から 0.2 ポイント上方修正され、2019 年については 2.0%と 0.1 ポイント上方修正され

た。消費者物価は、2018 年は 1.5%と 0.1 ポイント上方修正され、2019 年は 1.6%と据え置かれ

た。

ECB は堅調なユーロ圏景気を受けて物価の先行きに自信を深めており、今年 1 月から月額 300

億ユーロと資産買い入れ額を半減させ、少なくとも 9 月まではそれを継続する方針である。利上げ

は 2019 年春頃との見方が優勢であったが、前述のように 1 月 11 日に発表された議事要旨で、フ

ォワード・ガイダンスの早期見直しの検討について話し合われていたことがわかると、ユーロ圏の

債券利回り上昇とユーロ高が進んだ。

ドラギ総裁は 1 月 25 日に理事会後の記者会見で、フォワード・ガイダンスの見直し検討はまだ

始めておらず、今年中に利上げする可能性もほとんどないとし、ユーロ高を牽制した。しかし、ユ

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08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 (年)

図表1 米欧中のPMI

アメリカ

中国

ユーロ圏

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ーロ圏の景気は堅調であり、このまま順調に推移すれば、3 月にもフォワード・ガイダンスの見直

し検討を開始し、その後見直し、9 月まで月額 300 億ユーロの資産買い入れを継続した後は年内に

も買い入れ停止、来年春から夏にかけて利上げというシナリオが考えられる。このところの世界的

株安はこうしたシナリオの逆風となるが、ECB の場合も FRB と同様、景気回復に見合った金融政

策正常化が求められつつある段階にあり、市場に過度に配慮して引き締めを遅らせることは、望ま

しくないと考えられる。

債務圧縮を図る中国経済

中国の 10~12 月期の実質 GDP 成長率は前年比 6.8%と前期から横ばいとなった。2017 年通年

の成長率は前年比 6.9%と 7 年ぶりに前年を上回った。2016 年は同 6.7%と 26 年ぶりの低い伸び

にとどまったこともあり、2017 年の成長率目標は「6.5%前後」とされたが、それを上回った。2017

年は 5 年に 1 度の共産党大会の年に当たり、景気安定を演出するためインフラ投資が増やされたこ

とに加え、世界経済の回復によって輸出が増えたことも成長率を押し上げた。

好調な輸出により、元急落や資金流出のリスクが和らぎ、当局は、2017 年 5 月から実施してい

た人民元の基準値の算出方法を元に戻すことで、元高誘導を緩和することとした。元高誘導を可能

にする基準値算出方法は、資本流出規制の実施と併せ、2017 年以降、為替を元高方向に戻す効果を

もたらした。これに伴い元買いドル売り介入の必要性が薄れたことで、2017 年末の外貨準備は 3

年ぶりに前年末を上回った。中国経済の回復ぶりは、こうした変化からもうかがえる。

しかし 2018 年は、借り入れに依存した経済からの脱却を目指す当局の方針もあり、2017 年の成

長率を下回る可能性が高い。債務を圧縮し金融リスクを抑制する方針の下、例えば、理財商品の販

売抑制が求められており、これまで往々にして行われてきた理財商品の元本保証を禁じる方針も示

された。これらの措置により、無理な資金調達が控えられ、過剰投資が抑制されることを狙ってい

る。こうした一連の金融リスク抑制策の下、大都市を中心に生じている住宅バブルについても、徐々

に火消しが行われていく可能性が高いと考えられる。2018 年は、2017 年にアクセルを踏んだ分、

スピード調整が目立つようになると考えられる。

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2 日本経済─景気拡大はさらに持続

10~12 月期の実質 GDP 成長率は、前期比 0.1%(同年率 0.5%)と前期(前期比 0.6%)から伸

びは鈍化したものの、8 四半期連続でプラス成長となった。輸出の高い伸びが続いたほか、設備投

資は5四半期連続の増加となった。個人消費も天候不順で落ち込んだ前期から回復した。以下では、

最近の経済状況を確認しつつ、今後の行方を探っていこう。

輸出、生産は増加

外需については、日銀ベースの実質輸出は、10~12 月期は前期比 2.4%と高い伸びとなり、2 四

半期連続の増加となった(図表 2)。アメリカ向け、EU 向けが引き続き増加基調にあることに加え、

このところ中国や NIEs・ASEAN 向けの伸びが著しい。中国向けでは半導体製造装置や産業用ロ

ボットなどの資本財や、新型スマートフォン向けの電子部品など情報関連が急激に伸びている。財

別では自動車関連の輸出も好調で、世界経済の同時拡大を背景に、輸出は今後も増加を続けていく

と考えられる。

10~12 月期の生産は前期比 1.7%と、内外需の増加により 7 四半期連続の増加となった(図表

2)。これは、1999~2000 年にかけての 8 四半期連続以来の長期にわたる回復である。業種別では、

はん用・生産用・業務用機械(同 4.2%)、輸送用機械(同 3.1%)が全体を押し上げた。はん用・

生産用・業務用機械は半導体製造装置や産業用ロボットが好調であり、輸送用機械は国内拠点への

生産移管が伸びを支えている。一方、電子部品・デバイスは同 0.2%と 2 四半期ぶりの低下、情報

通信機械は同-1.5%と 2 四半期連続の低下となって、情報関連の勢いはなくなっている。

出荷・在庫バランスは、出荷の伸びが在庫の伸びを上回る状態が続いていたが、このところ在庫

の伸びの高まりにより、ゼロ近傍に近づいている(図表 3)。情報関連の在庫積み上がりによる。今

のところ情報関連の輸出は好調であり、生産調整に至るリスクは小さいと考えられる。大手メーカ

ーの新型スマートフォンの売れ行き不振といったマイナス要因はあるが、現在は電子部品・デバイ

スの需要は、データセンターや車載向けなども伸びており、スマホ依存度は低下している。製造工

業予測指数は、1 月前月比-4.3%、2 月同 5.7%となっており、振れはあるが生産は先行きも増加が

見込まれる。

設備投資については、先行指標である機械受注は 10~11 月平均の 7~9 月期に対する伸び率は

3.1%となり、7~9 月期の前期比伸び率 4.7%に続き増加基調にある。11 月の機械受注額は 2008 年

6 月以来の水準となり、リーマンショック後で最高となった。一方、一致指標である資本財総供給

は 10~12 月期は-0.3%と 2 四半期連続でマイナスとなったが、基調としては増加傾向にあり、月

次ベースでは足元で上向いている(図表 4)。日銀短観(12 月調査)の 2017 年度設備投資計画

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(出所)日本銀行「実質輸出入」、経済産業省「鉱工業指数統計」

(出所)経済産業省「鉱工業指数統計」

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(2010=100)

(年)

図表2 実質輸出と鉱工業生産指数

実質輸出(季調値)

鉱工業生産指数

(季調値)

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-10

-5

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(前年比、%)

(年)

図表3 出荷・在庫バランス

出荷-在庫

出荷

在庫

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(出所)内閣府「機械受注統計」、経済産業省「鉱工業指数統計」

(出所)内閣府「消費総合指数」、「消費動向調査」、日本銀行「消費活動

指数」 (注)1.消費者態度指数は、調査方法の変更に伴い、不連続が生じている 2.消費活動指数は、旅行収支調整済(除くインバンド消費・含むア

ウトバウンド消費)

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(2010=100)(百億円)

(年)

図表4 機械受注と資本財総供給

機械受注(船舶・電力を除く民需、季調値、左目盛)

資本財総供給(季調値、右目盛)

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(2014=100)

(年)

図表5 消費者態度指数と消費総合指数

消費者態度指数(季調

値、左目盛)

消費総合指数(実質、

季調値、右目盛)

消費活動指数(実質、

季調値、右目盛)

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は、昨年度や過去平均に比べ力強いスタンスを維持している。GDP の設備投資の概念に近いベー

ス(全産業+金融機関のソフトウエア・研究開発を含む設備投資(除く土地))では、昨年度実績の

0.4%の後、今年度は 7.7%の強い計画となっている。企業の設備投資意欲は、人手不足に対応する

省力化投資などを中心に強く、オリンピック関連の再開発投資も出てきている。企業収益が 2 年連

続で過去最高になる見通しであることも、先行きの設備投資を後押していくと考えられる。

消費は持ち直し

消費は、GDP の速報値に近い消費総合指数は 10~12 月期前期比 0.6%、供給側の統計だけを合

成して GDP の確報値に近い数値が得られる消費活動指数は 0.2%とともに増加した(図表 5)。自

動車、家電の買い替え需要が耐久財の伸びを支えている。自動車はメーカー側の一時的な供給要因

によって減少したが、先行きは持ち直していくと考えられる。サービスは増加傾向を続けており、

半耐久財も、飲食料品などが夏場の天候不順からは受けた悪影響からは脱した。マインド指標も改

善傾向にある(図表 5)。消費の先行きは、良好な雇用環境に支えられる形で、緩やかな増加基調を

辿っていくと考えられる。

雇用は 12 月の失業率は 2.7%と、引き続き構造失業率を下回る低い水準で推移している。有効求

人倍率は 1.59 倍と前月比 0.03 ポイントの上昇となり、バブル期のピークである 1990 年 7 月の

1.46 倍を 9 ヵ月連続で上回る高水準を維持している。一方、12 月の正社員の有効求人倍率は前月

から 0.02 ポイント上昇して 1.07 倍となり、2004 年 4 月の調査開始以来の最高水準を更新した。

景気回復の持続に伴い、企業が正社員を増やし人材を囲い込む動きを活発化させている。日銀短観

(12 月調査)では、雇用人員判断 DI でみた人手不足感もさらに強まった。労働力率は、2012 年

末をボトムに、女性や高齢者を中心に上昇傾向が続いている。

このように労働需給は逼迫度合いを強めており、失業率や有効求人倍率はバブル期の水準に達し

ている。しかし、雇用判断 DI や長期失業率はまだその水準には至っておらず、その意味で労働市

場にはなお余裕はある。今後も 0%代後半とされる潜在成長率を上回る成長が続いていくと予想さ

れるため、労働需給はさらに引き締まり、人手不足感も強まっていくと考えられる。

景気は 2012 年 12 月に回復に転じ、この 12 月で拡大期間が 61 ヵ月となり、バブル景気(1986

年 12 月~1991 年 2 月、51 ヵ月)、高度成長期のいざなぎ景気(1965 年 11 月~1970 年 7 月、57

ヵ月)を抜き抜き、戦後 2 番目の長さに達した。さらに 2018 年 12 月まで続けば、2008 年のリー

マンショック直前まで 73 ヵ月に及んだ戦後最長の景気拡大に次ぐ長さとなる。12 月の景気動向指

数では、CI 一致指数が 120.7 となり、これまで最高だった 1990 年 10 月の 120.6 を上回り、現行

統計(1985 年 1 月)以来の最高水準となった。世界経済の回復や堅調な内需に支えられる形で、

景気拡大はなお続く可能性が高い。

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3%賃上げ要請と所得政策の有効性

このように景気は、労働需給の逼迫を伴いつつ、長期間にわたる拡大が続いているが、賃金の伸

びは依然として鈍い。12 月の実質賃金は前年比-0.5%と 2 ヵ月ぶりの減少となり、賃金上昇はなお

物価上昇に追いついていない。12 月の名目賃金(現金給与総額)は、前年比 0.7%と 5 ヵ月連続の

増加幅となったものの、消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く総合)が同 1.3%と上昇したことに

より、実質賃金がマイナスとなった。

こうした中、今年の春闘で政府が 3%の賃上げを要請し、企業がそれにどれだけ応じるかが注目

されている。過去における物価と春季賃上げ率の関係を見ると、賃上げは物価上昇に遅行している

(図表 6)。2018 年度の春季賃上げ率は、2017 年度の物価持ち直しや労働需給の一段の引き締まり

具合を勘案すると、2017 年度の 2.11%を上回る可能性が高い。

労務行政研究所が毎年実施している「賃上げ等に関するアンケート調査」(2018 年調査は労働側、

経営側、専門家 470 人が回答)では、2018 年度の春季賃上げ率予想は 2.13%となっているが、過

去 10 年平均では、実際の賃上げ率は予想値を 0.13 ポイント(0.01~0.23 ポイント)上回る結果と

なっている(2017 年度は 0.11 ポイント)。この経験則を適用すれば、2018 年度の春季賃上げ率は、

2.2~2.3%程度に落ち着く可能性が高い。政府要請の 3%は下回るが、5 年連続の 2%超の賃上げと

なる。

日本におけるインフレ予想は、過去の物価上昇の実績に強く縛られる適合的期待になっていると

言われ、春季賃上げ率も過去の物価上昇実績に基づいて決められる傾向が強い。それを打破する一

つの方法は、政府が企業に対し賃上げのプレッシャーを高めることである。3%という具体的な数

値を挙げて経済界に要請したのは今年が初めてであり、政府が所得政策に踏み込んだ形になる。低

インフレ予想が定着した経済においては、所得政策もデフレ脱却の一つの手段となる。ただし、所

得を上げても企業の仕事が増えない場合には、利益を圧迫するだけとなり、長続きする政策ではな

い。根本的には、マクロの総需要を拡大させる必要があることはいうまでもない。

続投後の黒田総裁の課題

黒田総裁の任期が今年 4 月で切れるが、続投との方針が固まった。これまでの黒田総裁の実績に

ついては、2%こそ達成できてないものの、景気拡大の長期化を支え、デフレではない状況に転換

させたのは大きな貢献であった。逆に、早期に 2%を達成した場合には、日銀はすぐに引き締めに

転じることになり、景気拡大が短期間で途切れてしまうことになりかねなかった。

2 年を 2%で達成すると当初言ったのは、これまでの金融政策を抜本的に変え、市場の期待を転

換させる上で非常に有益であった。しかし、2016 年 9 月の総括検証で分析したように、その後、

様々な要因が 2%の早期達成を妨げ、現在に至っている。現在は、2%の物価目標は、事実上、中

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(出所)厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」、

「毎月勤労統計」、総務省「消費者物価指数」 (注)1.2017年度のCPI、所定内給与は当社見通し

2.2014年度のCPIは、消費税率引き上げの影響を除くベース

(出所)内閣府「消費動向調査」 (注)調査方法の変更に伴い、不連続が生じている

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

1.5

1.6

1.7

1.8

1.9

2.0

2.1

2.2

2.3

2.4

2.5

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17

(前年比、%)(前年比、%)

(年度)

図表6 物価と賃金

春季賃上げ率(左目盛)

所定内給与(右目盛)

CPI(除く生鮮食品、右目盛)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

08 09 10 11 12 13 14 15 16 17

(%)

(年)

図表7 1年後の物価上昇予想世帯の割合

上昇すると予想する世帯

2%以上上昇すると予想する世帯

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長期の目標と位置づけられ、それに向けて現状の金融政策を維持する段階に入っている。物価上昇

期待はなかなか上がらない状況にあるが(図表 7)、景気拡大を持続させ、賃金の本格的上昇を伴う

物価上昇を中長期で実現していくのが、現在の日銀が求められている方向である。

空前の人手不足であるにも関らず賃金上昇の伸びが低い要因については、様々な要因が指摘され

ている。しかし、最も単純に考えれば、日本の労働市場にはまだ若干の余裕があり、賃金を大幅に

引き上げなければ人材を確保できないほどに切迫していない状態にあるためとも捉えられる。一足

早く、宅配や運送業界では賃金や労働条件を大幅に改善しなければ人材を確保できない状態に陥っ

た。景気拡大を持続させることで賃金上昇をより明確なものとし、消費者の所得を増やすことで企

業がコスト転嫁しやすくして、デフレに舞い戻らない経済構造に変えることが、黒田総裁の次の 5

年の最初の課題となる

消費税率引き上げ延期リスクと残された政策手段、出口

ただし、その際、2019 年 10 月に予定される消費税率の 10%への引き上げが、景気の逆風とな

るリスクは存在する。現在のような景気回復が続けば増税は十分可能であるが、仮に、アメリカ、

ユーロ圏の金融政策正常化が世界経済を腰折れさせるような事態に至った場合には、消費税率引き

上げ延期も視野に入る。ただし現時点では、アメリカ、ユーロ圏が金融政策のスムーズな正常化に

成功し、世界経済の同時拡大が続くことを想定しており、そのようなリスクは極めて低い。

仮に世界経済が腰折れし、デフレ脱却が危うくなった場合、日本銀行が次に取り得る手段は、政

府が国債発行で新たな財政支出や減税を行う一方、日銀が国債購入額を増やすという、政府と日銀

が一体となった需要拡大策が考えられる。この場合、政府債務がさらに積み上がるとともに、ヘリ

コプターマネー的な色合いがかなり強まることになる。しかし、総需要を確実に増加させることで

一定のインフレ率を確保し、中長期的に政府債務の GDP 比が低下する道筋を示せれば、こうした

施策に打って出ることも可能と考えられる。ただし、このような施策まで必要になる可能性は現時

点では低い。

一方、景気拡大が続く場合でも、現時点で量的質的緩和(QQE)の出口を語ることは、黒田総裁

がこれまで一貫して主張してきた通り、時期尚早と考えられる。多くの識者が指摘する通り、金融

緩和の出口に向かう際には、日銀は赤字を計上することになる(超過準備の付利を引き上げる一方、

日銀保有国債の利回りが低いことによる逆ざや)。しかし、デフレから脱却した暁に、日銀が相応の

利回りがつく国債を買える状況に変われば、長期的に見て日銀は利益を得られる。出口で直面せざ

るを得ない日銀の一時的な赤字は、日銀がこれまで大胆な金融緩和で日本経済を支えてきたことの

証左でもあるが、その支えが成功すれば長い目で見て少しずつ解消される性質のものであるとの認

識に立てば、大きな問題にはならない。

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成長率は 2018 年度 1.3%、2019 年度 0.9%

今後の日本経済は、世界経済の回復に伴う輸出増加が続き、消費や設備投資など内需も底堅く推

移し、回復が続いていくと考えられる。労働需給のさらなる逼迫を受け、賃金も緩やかに上昇して

いくと見込まれる。先行きの物価上昇期待も持ち直し、消費者物価も緩やかに上昇していくと予想

される。実質 GDP 成長率は 2017 年度 1.7%、2018 年度 1.3%と堅調な成長が続くと見込まれる。

2019 年 10 月の消費税率引き上げは、駆け込み需要とその反動、増税に伴う実質所得の減少を通

じ景気の撹乱要因となるが、2014 年 4 月の引き上げ時よりは引き上げ幅が小さく、かつ軽減税率

が適用されることもあり、悪影響は小さいと考えられる。消費税率引き上げ後も景気は腰折れせず、

2019 年度の成長率は潜在成長率程度の 0.9%になると予想される。

消費者物価(除く生鮮食品)上昇率は、2017 年度 0.7%、2018 年度 1.0%、2019 年度 1.7%(消

費税率引き上げの影響を除くベースでは 1.2%)になると見込まれる。

参考文献

バーナンキ,ベン・S(2017)「日本の金融政策に関する一考察」『金融研究』10 月

原田泰(2017)「わが国の経済・金融情勢と金融政策─福島県金融経済懇談会における挨拶要旨─」日本銀行 Web

Site、11 月 30 日

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予測表

年度

2017 2018 2019 2017 →予測 2018 2019 2020

予測 予測 予測 10-12 1-3 4-6 7-9 10-12 1-3 4-6 7-9 10-12 1-3

実質 GDP

(年率)

1.7 1.3 0.9 0.1 0.4 0.4 0.3 0.3 0.4 0.6 0.7 -1.3 0.0

- - - 0.5 1.6 1.5 1.1 1.3 1.6 2.3 2.6 -5.2 0.2

個人消費 1.1 0.9 0.4 0.5 0.2 0.3 0.2 0.3 0.2 0.7 1.3 -3.2 0.1

住宅投資 0.2 -0.4 2.6 -2.7 -0.6 0.0 0.1 1.7 3.5 2.3 1.1 -6.4 -2.7

設備投資 3.3 2.8 2.2 0.7 0.5 0.9 0.6 0.6 0.7 0.7 1.0 -0.5 0.0

在庫投資(寄与度) 0.0 0.1 0.0 -0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.2 0.2 0.0

政府消費 0.4 0.6 0.8 -0.1 0.5 0.0 0.2 0.2 0.3 0.1 0.2 0.2 0.2

公共投資 1.4 -0.8 1.4 -0.5 0.3 -0.2 0.0 0.0 0.3 0.4 0.5 0.5 0.6

輸出 6.4 3.9 2.4 2.4 0.4 0.9 0.6 0.6 0.8 0.5 0.6 0.6 0.5

輸入 4.1 2.7 2.1 2.9 0.1 0.5 0.4 0.9 0.9 0.8 1.5 -2.4 0.5

名目 GDP 1.7 1.8 2.0

GDP デフレータ 0.1 0.5 1.1

[実質 GDP 寄与度]

内需 1.3 1.1 0.9

外需 0.3 0.2 0.1

鉱工業生産 5.0 3.1 2.0

CPI(除く生鮮食品) 0.7 1.0 1.7

失業率 2.8 2.7 2.6

経常収支 22.3 21.6 22.4

円ドルレート 111.0 111.5 112.0

[前回予測(2017.12.8)]

実質 GDP 2.0 1.3 -

名目 GDP 2.1 1.7 -

(注)各需要項目は前期比。経常収支は兆円。

≪本件に関するお問い合わせ先≫

株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員 米山秀隆

電話:03-5401-8392(直通)

E-mail:[email protected]

≪報道関係者お問い合わせ先≫

株式会社富士通総研 事業推進本部)広報

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