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「平成 29 年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (分散型システムに対応した技術・制度等に係る調査)」 報告書 2018 3 株式会社日本総合研究所

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Page 1: 2018 年3 月 - Minister of Economy, Trade and Industry · 医療・ヘルスケア分野におけるユースケースの評価:治験データ管理プラッ ... 27年度に実施した「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する

「平成 29 年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備

(分散型システムに対応した技術・制度等に係る調査)」

報告書

2018 年 3 月

株式会社日本総合研究所

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目次

本調査研究の背景及び目的 ................................................................................. 1 分散型システムを活用したユースケースの作成・具体化及び評価 .......................... 2 2.1. システム評価の対象となるユースケースの選定............................................. 4

システム評価の対象となるユースケースの分野・テーマの選定 ................... 4

選定した分野・テーマにおけるユースケースの選定 .................................. 12

2.2. 分散型システムを活用したユースケースのシステム評価 ............................... 27

医療・ヘルスケア分野におけるユースケースの評価:治験データ管理プラッ

トフォーム ....................................................................................................... 27

物流・サプライチェーン・モビリティ等分野におけるユースケースの評価:

EV バッテリーライフサイクル管理プラットフォーム ........................................... 33

スマートプロパティに関するユースケースの評価:スマートトークンプラッ

トフォーム ....................................................................................................... 38

法制度面での課題調査 ...................................................................................... 44 3.1. 分野横断的な論点 ...................................................................................... 44

3.2. 個別分野における論点 ............................................................................... 56

医療・ヘルスケア分野における論点 ......................................................... 56

物流・サプライチェーン・モビリティ等分野における論点 ......................... 61

システム構築に必要となる要素技術 ................................................................... 69 4.1. ブロックチェーンの課題と解決技術 ............................................................ 69

4.2. 性能効率性 ............................................................................................... 69

4.3. 保守・運用性 ............................................................................................ 72

4.4. セキュリティ ............................................................................................ 76

4.5. まとめ ...................................................................................................... 84

4.6. 用語集 ...................................................................................................... 85

まとめ ............................................................................................................. 89 5.1. ブロックチェーン技術を実装するにあたっての有用な取組 ........................... 90

5.2. ブロックチェーン技術の社会実装を促進するために必要となる更なる取組 ..... 91

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システム評価軸の運用方法、ビジネス面での今後の取組課題 ..................... 91

法制度面の今後の検討課題 ...................................................................... 91

技術面の今後の取組課題 ......................................................................... 93

(参考資料)ブロックチェーン法制度検討会について ......................................... 96

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本調査研究の背景及び目的

IoT、ビッグデータ、人工知能といった破壊的イノベーションによる「第 4 次産業革命」とも呼ぶべ

き大変革が世界的に進みつつある状況にあって、これら技術等の発展がどのような経済・社会的イ

ンパクトをもたらすかを迅速に把握し、これに向けて国としてどのような対応を取っていくべきかを早

期に検討することが重要である。このような状況の中、ビットコイン等の仮想通貨に使用されている

ブロックチェーン技術は、その構造上、従来の集中管理型のシステムに比べ、①『改ざんが極めて

困難』であり、②『実質ゼロ・ダウンタイム』なシステムを③『安価』に構築可能という特性を持つこと

から、IoT を含む非常に幅広い分野への応用が期待されている。

上記背景を踏まえ、平成 27年度に実施した「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する

国内外動向調査」」1においては、社会に与える可能性のあるインパクトを整理するとともに、当該技

術が影響を与え得る市場規模を算出し、およそ 67 兆円と見積もっている。また、平成 28 年度には、

ブロックチェーン技術の特性を正しく評価し、既存の技術・システムとの比較を可能とする評価軸の

整備に関する調査を実施し、「ブロックチェーンを活用したシステムの評価軸 ver1.0」(以下、「ブロ

ックチェーン技術を活用したシステム評価軸」という。)2を策定したところである。

一方、非金融領域を含む幅広い分野でのブロックチェーンを活用したシステムの社会実装を

進めるためには、さらなる検討が必要である。まず、「ブロックチェーン技術を活用したシステム評価

軸」を策定したところではあるが、評価軸に加え、ユースケースごとに変わりうる評価方法(測定方

法等)を例示することで、当該評価軸の活用を促進していくことが必要である。また、利活用が期待

されているスマートコントラクトの民事訴訟上の証拠能力の明確化など法制度面の検討の必要性

が指摘されてきたところである。さらに、我が国の強みである暗号技術等を有する大学・研究所等

の学術界の活動支援の必要性が指摘されている。

そこで、本調査研究は、以下の事項を調査・検討し、ブロックチェーンを活用したシステムの社会

実装を後押しすることを目的とする。

① 分散型システムを活用したユースケースの抽出及び評価

② 法解釈の明確化、規制緩和・制度化のあり方等の法制度面での課題調査

③ システムを構築する際に必要となる要素技術の整理

1 経済産業省(2016)「平成 27 年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技

術を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書」

< http://www.meti.go.jp/press/2016/04/20160428003/20160428003-2.pdf> 2 経済産業省(2017)「平成 28 年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を

活用したシステムの評価軸整備等に係る調査)調査報告書」

<http://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170329004/20170329004-2.pdf>

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分散型システムを活用したユースケースの作成・具体化及び評価

本章では、システム評価の対象となるユースケースを選定し、「ブロックチェーン技術を活用した

システム評価軸」を用いたシステム評価を実施した。

「ブロックチェーン技術を活用したシステムの評価軸」は、システムベンダーなどが「既存システム

にブロックチェーン技術を活用したシステムに置き換える場合の比較評価」や「ブロックチェーン技

術を活用したシステムの実証試験結果の評価」などを行う際に使用することを想定して策定された

3。評価軸は、複数の評価項目の総体であり、具体的には、「品質」、「保守・運用性」及び「コスト」

に関する項目で構成されている(表 1)。これらは、既存システムとの比較のしやすさや網羅性を担

保するため、既存のシステム・ソフトウェアに関して作成された評価指標等 4から、ブロックチェーン

技術やその特性と関係性の強い項目を抽出することによって作成されている。

表 1 「ブロックチェーン技術を活用したシステムの評価軸 ver. 1.0」 評価項目

システム評価軸の策定にあたっては、網羅性を担保することにより、様々なブロックチェーンシス

テムの評価に活用できるようにすることを目的としている。実際に評価を行う際に用いるデータ等の

項目である「評価指標」やデータ等を具体的に測定するための方法(データを求めるための関数

やその計算方法を含む)である「評価方法」については、ユースケースやブロックチェーン基盤、評

価の目的に応じて、異なると考えられる。

そのような違いを踏まえ、システム評価軸において、「評価指標」や「評価方法」は、「本評価軸を

活用する際の留意点、備考等」として、示されるにとどまっている。そのため、実際にブロックチェー

3 経済産業省・前掲注(2)37 頁 4 具体的には、ISO/IEC 25010 (サービス及びソフトウェア製品)及び IPA(システム・リファレンス・マニュアル、第 4

章保守・運用、2005 年)を基に作成されている。

大項目 中項目 小項目

品質

性能効率性

処理性(スループット)ネットワーク性能ブロック確定性能参照性能

相互運用性 相互運用性(既存システム)相互運用性(他ブロックチェーン)

拡張性

処理性能向上性ネットワーク性能向上性

容量拡張性ノード数拡張性

信頼性

成熟性可用性

障害許容性回復性

セキュリティ

機密性インテグリティ否認防止性真正性

移植性 適応性置換性

大項目 中項目 小項目

保守・運用性 保守・運用性

モジュール性再利用性解析性修正性試験性

コスト

研究開発 ブロックチェーン基盤サブシステム

実装ハードウェアソフトウェアシステム実装

保守・運用 運用保守

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ン技術を用いたシステムを評価するためには、システムに必要な機能や性能といった「システム要

件」を明らかにし、適切な評価指標等を定める必要がある。

なお、今後、ブロックチェーン技術を活用したシステムの社会実装を進めるためには、ブロックチ

ェーン技術の特性や限界の理解を広げることが重要であるとの指摘があり、システム評価軸はブロ

ックチェーン技術の理解を深めるために有効であると期待されている 5。

本調査研究では、以上の「ブロックチェーン技術を活用したシステム評価軸」の特徴を踏まえて、

ユースケースごとに変わりうる評価方法(測定方法等)の例示、網羅性の検証を行うこと、またブロッ

クチェーン技術の理解を深め社会実装を促進することを目的として、システム評価を実施した。

まず、各分野・テーマにおけるシステム要件の差異が生じること等の観点から、システム評価の

対象とする分野・ユースケースの絞りこみを行い、ブロックチェーンシステムの社会実装に向けた検

討状況を踏まえて当該分野・テーマに関するユースケースを選定した。次に、選定したユースケー

スそれぞれについてブロックチェーンに参加するステークホルダーや記録するデータの種類など

について具体化を行い、ネットワーク構成などのシステム構成といった評価の前提条件を明確化し

た。最後に、机上評価を実施し、具体化した「評価項目」(システム要件)に照らし合わせて、当該

ユースケースに対してブロックチェーン技術を活用することが望ましいか否かを検討した(図 1)。

図 1 分散型システムを活用したユースケースの作成・具体化及び評価の実施プロセス

5 経済産業省・前掲注(2)59 頁

• 先進的な取組を行っている企業(ベンチャー等)にヒアリングを行い、ユースケースを具体化

システム構成の設計

システム評価

• 上記ユースケースを検討している企業に対してヒアリングを実施し、評価の前提となる、システム要件の定義やシステム構成の設計を実施

• システム評価軸の評価項目をシステム要件を踏まえて具体化• 具体化した評価項目を基に机上評価を実施• 評価結果を解釈し、ブロックチェーンの実装の可否を検討

システム評価対象の選定

• ブロックチェーン技術の活用が期待される分野におけるブロックチェーンシステムの社会実装に向けた検討状況等の観点から、システム評価の対象とする分野・ユースケースの絞りこみを実施

ユースケース具体化

対象ごとの検討

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2.1. システム評価の対象となるユースケースの選定

本節では、システム評価の対象となるユースケースを選定するための検討を行った。ブロックチ

ェーン技術を活用したシステムの評価の対象となるユースケースの選定にあたっては、ブロックチ

ェーンの活用が期待される分野・テーマの絞り込みを行い、絞り込んだ分野・テーマに関して、社

会実装が進む可能性の高いユースケースを選定した。国内で検討されているブロックチェーン技

術のユースケースに加えて、日本に比べて活用が進んでいる海外におけるユースケースを調査し、

その特徴を明らかにすることで、国内において社会実装が進む可能性の高いユースケースを検討

した。

システム評価の対象となるユースケースの分野・テーマの選定

経済産業省が実施した「平成 27 年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備

(ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)」6では、ブロックチェーン技

術の活用が期待される有望な事例として「価値の流通・ポイント化、プラットフォーム」、「権利証明

行為の非中央集権化の実現」、「遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現」、「オープン・高効率・

高信頼なサプライチェーンの実現」及び「プロセス・取引の全自動化・効率化の実現」が掲げられて

いる。一方で、ブロックチェーン技術の利活用は日進月歩で進められていることから、平成 27 年度

調査を踏まえつつ、国内で検討がなされているユースケースを調査した。また、今後ブロックチェー

ン技術の社会実装が進むと考えられる分野を選定するため、海外における利活用の直近の状況も

参考にした。なお、海外のブロックチェーン技術の活用事例は、その数が多いため、海外の調査レ

ポート等を活用して、活用が多い分野を調査した。

ブロックチェーン技術を用いた実証実験支援や開発研修などを行っている NTT テクノクロス社は、

ブロックチェーン技術を活用したユースケースとして、仮想通貨以外に医療や保険、サプライチェ

ーン、IoT、民泊やカーシェアといったシェアリングエコノミーなどの分野を挙げている 7。

図 2 NTT テクノクロス社によるブロックチェーン技術の活用分野

6 http://www.meti.go.jp/press/2016/04/20160428003/20160428003-2.pdf 7 NTT テクノクロス「NTT TechnoCross Fair 2017 ミニセミナー講演資料ブロックチェーン活用事例」

<https://www.slideshare.net/ssuser70f2c8/ss-80047422>

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一方で、ブロックチェーンに関する調査・研究を進めている三菱総合研究所は、ブロックチェー

ン技術のもたらす社会インパクトと導入ステータスについて分析を行っている。8その中で社会的イ

ンパクトの大きい分野として、公共サービスや政府、証券取引所の他に、IoT や医療・教育、サプラ

イチェーンなどの分野を挙げている。公共サービスや政府、証券取引所、サプライチェーンの分野

に関しては、日本においても海外においても取り組まれているが、その他の医療・教育、IoT といっ

た分野では海外で取り組みが進むものの、国内では取り組みが進んでいないとしている。

図 3 ブロックチェーンの社会インパクトと導入ステータス

2017 年12 月時点での国内においてブロックチェーン技術の活用に向けた検討を行っている事

例の整理を行った。表 2 に示されたとおり、物流・サプライチェーン・モビリティ等が多い。「医療・

ヘルスケア」、「エネルギー」などの産業セクターごとにブロックチェーン技術の活用が検討されて

いる。

8三菱総合研究所(2016)「ブロックチェーン技術の真の実力―金融分野にとどまらないイノベーションの可能性」

MRI マンスリーレビュー2016 年 4 月号

http://www.mri.co.jp/opinion/mreview/pdf/mr201604.pdf

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表 2 国内においてブロックチェーン技術の活用が検討されているテーマ

大分類 小分類 概要

医療・

ヘルスケ

治験データ管理

システム

- 治験データの登録・閲覧をネットワーク上で行うプラットフォームを、ブロ

ックチェーン技術を用いて実装することが検討されている。新薬認可機

関もネットワークに接続し、薬の承認までをブロックチェーン上で実施す

る構想を描いている 9。

医療機関カルテ

共有システム

- ブロックチェーン技術を用いて、病院の電子カルテや薬局の処方箋デ

ータなど、医療機関ごとに分散されていた情報を患者本人が権限を与え

た医療機関内で共有閲覧・書き込み可能とするシステムが検討されてい

る。サービス普及により、例えば初めてかかる病院・医師から、各種情報

を基に適切な診療を受けられることが期待される 10。

物流 ・サ

プライチ

ェーン・モ

ビリティ等

BtoC 小売のトレ

ーサビリティ

- 製造者が製品を製造した時点からの所有者の履歴をブロックチェーン

上で管理することで、消費者の手に渡った後も偽物製品の検知が可能

な所有権管理システムが検討されている 11。

食の安全関連トレ

ーサビリティ

- 安心・安全かつ高価値な野菜提供のために、生育作業履歴、流通履

歴、資材調達履歴などの情報を、ブロックチェーン技術を利用して管理

するトレーサビリティプラットフォームが開発されている 12。

CtoCサービスのト

レーサビリティ

- チケット購入者が通知したブロックチェーン上のアドレスに入場権を付与

し、購入者が所有するスマートフォンなどの端末内で生成された唯一の

「鍵」によって、その権限を証明する仕組みを実現する技術が発表され

ている。正規の販売代理店以外のルートで取得したチケットの信頼性が

損なわれ、不正な転売の抑止につながることが期待される 13。

スマート宅配ボッ

クス

- 通信可能な宅配ボックスに荷物を納入する際にブロックチェーン上に納

入記録及び施錠記録が書き込まれ、荷物を受け取る利用者がスマート

フォンからブロックチェーン上に解錠を要求することで、宅配ボックスが

解錠され、また荷物の受領が記録されるシステムに関する実証実験が行

われている 14。

9 Astabision「医学的エビデンスに基づき、スマートフォンアプリで不眠症治療を実現-サスメド株式会社 上野太郎」

<http://astavision.com/contents/interview/4085>、及びサスメド株式会社へのヒアリング 10 GMO インターネット株式会社 プレスリリース<https://cloud.z.com/jp/news-ep/20170720blockchain/> 11 慶應義塾大学 プレスリリース<https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2017/7/10/170710-1.pdf> 12 株式会社オプティム プレスリリース<https://www.optim.co.jp/news-detail/24220> 13 GMO インターネット株式会社 プレスリリース<https://www.gmo.jp/news/article/?id=5781> 14 株式会社ウフル プレスリリース<https://uhuru.co.jp/news/press-releases/20170620/>

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大分類 小分類 概要

携帯電話の修理

における契約情

報処理

- 携帯電話の店頭修理申し込みから完了までの工程における、リアルタイ

ムな情報共有及びオペレーションの効率化にブロックチェーン技術を適

用することが検討されている 15。

電力融通取引

- 電力の消費者とプロシューマー(太陽光発電など、自身で発電した電気

を消費し、余剰分は売電する生産消費者)が電力を直接取引するプラッ

トフォームをブロックチェーン技術で実装する。16

- 類似の取り組みとして、アグリゲーターを介し、節電要請により各家庭の

家電を制御させる実証実験が行われいる 17。

保険 保険金支払い査

定情報流通

- 傷害保険金請求書に記載の医療機関に対し、ブロックチェーン上で医

療情報(入通院期間など)の提供を要求・受領するなど、保険会社が公

的機関に情報提供を依頼するシステムが検討されている 18。

IoT IoTデバイス管理・

制御

- 世界中の IoT 機器をセキュアに監視・管理・制御するブロックチェーンの

利用を促進する取り組みが一部で見られる 19。

- M2M 通信における 1 円未満の超小額決済(マイクロペイメント)の実装も

検討されている 20。

ス マ ー ト

プロパテ

コンテンツの利益

分配・利用許諾管

- 利用者が権利者に利用許諾を行い、権利者が直接ライセンス発行を行

うプラットフォームが研究されている 21。

議決権行使シス

テム

- トークンを議決権として使用することにより、データ改ざんができない公

正で透明性の高い投票システムの実現しようとする実証実験が行われて

いる 22。

15 KDDI 株式会社 プレスリリース<http://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2017/09/27/2694.html> 16 東京電力ホールディングス株式会社 プレスリリース

<http://www.tepco.co.jp/press/release/2017/1443908_8706.html> 17 株式会社エナリス プレスリリース<https://www.eneres.co.jp/news/release/20170609.html> 18 東京海上日動保険株式会社 プレスリリース

<http://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/170124_001.pdf> 19 ニュースイッチ「国内 IT 大手、「ブロックチェーン」技術を IoT や基幹システムなどに転用」

<https://newswitch.jp/p/5138> 20 シビラ株式会社 プレスリリース<http://sivira.co/pr/press/20171011-01-ja.html> 21 NTT 技術ジャーナル(第 27 巻 第 5 号)「競技の感動を世界中で共有できるサービスに向けた技術開発」

<http://www.ntt.co.jp/journal/1505/files/jn201505010.pdf> 22 インフォテリア株式会社 プレスリリース<https://www.infoteria.com/jp/news/press/2017/06/01_01.php>

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大分類 小分類 概要

不動産の権利処

- 物件情報の一元管理に加え、閲覧権限の設定や所有権の移転情報な

どを、ブロックチェーン技術を用いて記録しようとする試みが見られる 23。

- 民泊物件の権利移転への活用を検討する事例もある 24。

データ流通プラッ

トフォーム

- 蓄積したデータの信頼性を維持したまま、特定の相手とだけデータ取引

を可能にするデータ共有システム 25。

- 事例としては、損害保険会社と鑑定間で手配や鑑定の進捗状況等にお

ける情報共有をブロックチェーン技術により実現することを目的とした実

証実験が行われている 26。

デ ジ タ

ル ・ ア イ

デンテ ィ

ティ

KYC プラットフォ

ーム

- ビザ、公的身分証等を用いた本人確認手続きを、ブロックチェーン技術

を利用したプラットフォームによって高度化する実証実験が行われてい

る 27。

転職活動におけ

る証明書管理

- 転職活動者と企業の採用担当者を利用者として想定し、履歴書公証デ

ータベースにおけるブロックチェーン技術の活用を検証する取り組みが

行われている。公的証明書の収集における労力軽減や、査証リスクの低

減が期待される 28。

シェアリングサー

ビス向け本人確認

サービス

- CtoC のマッチングや取引を行う複数のシェアリングサービスにおいて、

ブロックチェーン技術を利用しセキュアにシェアリングサービス提供企業

間で共有の ID を発行する実証実験が行われている 29。

ポイント・

地域通貨 ポイント管理

- ポイントの発行・管理を行うプラットフォームにブロックチェーン技術を適

用する技術検証が行われている 30。

- またブロックチェーン技術を用いて、自治体や企業が簡易に独自ポイン

ト、地域通貨を発行することを可能とする技術が開発されている 31。

23 株式会社 LIFULL プレスリリース<https://lifull.com/news/10219/> 24 株式会社シノケングループ プレスリリース<http://www.shinoken.co.jp/Presses/get_img/343/file1_path> 25 FUJITSU JOURNAL「ブロックチェーン技術の応用が実現する異業種間でも安心安全なデータ利活用」

<http://journal.jp.fujitsu.com/2017/08/22/01/> 26 三井住友海上火災保険株式会社 プレスリリース<http://www.ms-ins.com/news/fy2017/pdf/0601_1.pdf> 27 デロイト トーマツ グループ プレスリリース

<https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20170721.html> 28 株式会社リクルートホールディングス プレスリリース

<https://recruit-tech.co.jp/news/images/20160425_PressRelease.pdf> 29 株式会社ガイアックス プレスリリース<https://www.gaiax.co.jp/news/press/2016/04271/> 30 株式会社日立ソリューションズ プレスリリース

<http://www.hitachi-solutions.co.jp/company/press/news/2017/0208.html> 31 GMO インターネット株式会社 プレスリリース<https://www.gmo.jp/news/article/?id=5770>

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また、bolten-consulting社が独自に構築するブロックチェーン技術の活用事例のデータベース

を基に調査した結果 32によれば、2017 年 10 月時点で活用が多かったのは金融分野で、同社のデ

ータベースに記録されたブロックチェーン技術の活用事例 410 件のうち 25%程度を占めていた。次

に多かったのがサプライチェーン関連の活用で、公共・エネルギーなどの分野でも活用が多い 33

(図 4)。

図 4 bolten-consultin による海外も含めたブロックチェーン活用業種

以上をふまえて、ブロックチェーン技術の社会実装が期待される分野・テーマを表 3 のとおり、整

理した。

表 3 ブロックチェーン技術の社会実装が期待される分野・テーマ

分類 分野・テーマの特徴 ブロックチェーン

活用の意義 活用検討事例(一部)

活用

が 期

待 さ

医療・ヘルス

ケア

センシティブデータであ

りかつ改ざんされた場

合の影響が多大

データが改ざん不可能

治験データ管理プラットフォー

医療機関カルテ共有システム

32 Bolten-consulting(2017)” BLOCKCHAIN ASA GAME CHANGERFORSUPPLYCHAIN MANAGEMENT

ANDTRANSPORT LOGISTICS” <https://www.decentralized.com/wp-content/uploads/2017/12/Frank-Bolten-

Blockchain-in-Use_the-Most-important-projects.pdf> 33 3 番目に多い「Enterprise」は、電子契約書や会計システムなど業務システムへのブロックチェーンの活用事例を

包含する。なお、本調査の基になっているデータベースは、同社が重要なプロジェクトと判断したものを掲載してお

り、実際にブロックチェーンが活用されている事例は、更に多いものと考えられる。

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分類 分野・テーマの特徴 ブロックチェーン

活用の意義 活用検討事例(一部)

れる

分野 物流・サプラ

イチェーン・モ

ビリティ等

多様なステークホルダ

ーが関与しているた

め、トレーサビリティの

確保が困難

多数のステークホルダ

ーが関与する中で改ざ

ん防止可能

食品トレーサビリティ

製造業におけるトレーサビリテ

公共

公証力を有する前提と

してデータの完全性が

必要

データが改ざん不可能 公的 ID、登記、政府調達等の

システムに活用

分野

横断

テ ー

IoT

今後通信端末・トランザ

クションの増大が想定

セキュリティの確保

デバイス間での直接取

引可能

アクセス権限が改ざん

不可能

M to M 少額取引

IoT デバイス管理・アクセス制

スマートプロ

パティ

権利やモノの流通の促

権利のトークン化による

流通の促進

中央集権的なデータベ

ースが不要なことによる

低コストな権利管理の

実現

コンテンツの利益分配・利用許

諾管理

不動産の権利処理

データ流通プラットフォーム

シェアリングエ

コノミー

透明性の高いシェアリ

ングの実現

プロシューマーによる非

中央集権的なサービス

の実現によるプラットフ

ォーマーの恣意的な運

営の排除

民泊、ライドシェア、カーシェア

医療・ヘルスケア分野については、治験データ、診療録、医薬品情報などデータが改ざんされ

た場合、人体や生命に危害が発生するため、ブロックチェーンの改ざん不可能という特徴が生きる

分野である。

また、物流・サプライチェーン・モビリティ等の分野については、安全に取引がなされるためには

取引にかかる物・情報の真正性が求められ、また問題が発生した際のトレーサビリティが必要な分

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野であり、ブロックチェーンのトレーサビリティの確保が可能という特徴が生きる分野である 34。

公共分野については、官民で、公的な証明サービスや政府調達等に活用しようという取組が海

外では進みつつある。仮想通貨に代表されるようにブロックチェーン技術は、非中央集権であり、

究極的には国家の裏づけを排除する可能性があるが、既存の公的な証明サービス等が存在せず、

公的な機関への信頼が低い新興国での導入などが検討されている。

一方で、分野横断的なブロックチェーン技術の活用も進みつつある。IoT については、今後通信

端末・トランザクションの増大が想定されるなかで、機器間で直接通信することが求められており、

そのためのアプリケーションとして、プログラムをブロックチェーン上に記録することで自動的に処理

が可能なスマートコントラクトを用いることが期待されている。

また、トークンに権利や価値を記録し、権利等の所在を対外的に証明しながら、当該トークンを

転々流通させるスマートプロパティに関する取組が進みつつある。ブロックチェーン技術により、権

利等の所在の記録それ自体については改ざん不可能であることはもとより、仲介者を排除するた

め低コストで権利等を流通させることができるためである。

なお、シェアリングエコノミーについては、上述の海外調査で分野として掲げられていないが、ブ

ロックチェーン技術の非中央集権性が生きる分野として、諸外国においては活用がなされ始めて

いる。例えば、ライドシェアやカーシェア等の労働力や物のシェアリング(共有)に活用されている。

以上を踏まえて、本調査研究では、システム評価の対象として、個別の産業分野として、活用が

進みつつある物流・サプライチェーン・モビリティ等分野、データの改ざん不可能性が強く求められ

る医療・ヘルスケア分野を取り上げる。加えて、産業横断的なテーマとして、日本においてもブロッ

クチェーン技術の活用テーマとして期待されているスマートプロパティを取り上げる。IoT に関して

は、今後の活用が非常に期待されているが、システム要件は個別分野におけるユースケースに応

じて異なるため、システム評価の対象から除外した。

34 エネルギーについては、スマートメーターやスマートグリッドなど電力の情報通信化が進んでおり、消費者間で

の余剰電力の直接取引などにおけるスマートコントラクトによる自動化などが検討されているが、エネルギー分野は、

EV 自体を蓄電システムとして活用する V2H(vehicle to home)や EV の充電管理・決済など直接的・間接的にモビ

リティ分野と係わることが今後多くなると予想される。そのため、「物流・サプライチェーン・モビリティ等」に含めて、法

制度面での課題調査において検討した。

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選定した分野・テーマにおけるユースケースの選定

社会実装が期待されるユースケースを選定する観点から、国内の活用事例に加えて、上記にお

いて選定した分野・テーマに関連する海外におけるユースケースを調査し、システム評価の対象と

なるユースケースを抽出した。ブロックチェーン技術の活用目的、社会的価値、将来性などを総合

的に検討し、将来的に現実の実装につながっていくものとなるか評価し、抽出にあたっての参考と

した。

医療・ヘルスケア分野におけるユースケース

医療・ヘルスケア情報は、改ざんされた場合に生命や人体への被害に与える影響が甚大であ

ることなどからブロックチェーン技術の活用の検討が国内外で進められている。主なブロックチェー

ン技術の活用としては、臨床データ、診療情報、ヘルスケア情報の共有をステークホルダー間で

行うユースケースが検討されている。

臨床データの共有については、治験依頼者や医療機関によって臨床データの改ざんが行わ

れ、当該データに基づいて新薬等の承認がなされた場合、実際に薬等の効果がでないだけでなく、

副作用などが発生する可能性もあり、生命や人体に及ぼされる影響は甚大である。そのため、改ざ

ん不可能であるブロックチェーン技術の活用が期待されている。

また、医療情報やヘルスケア情報の共有について、医療情報は機微性の高い情報であり、第

三者へ提供がなされる場合、本人の同意に基づくことが各国で求められている。そのような背景も

あり、ブロックチェーン技術、特にスマートコントラクトを活用し、医療データにアクセスできる人を自

動的に管理する仕組みが検討されている。ブロックチェーン技術の利用により、医療情報へのアク

セスを改ざん不可能な形で記録として残すことができ、医療情報が不正に使用されていないかとい

う個人の不安を解消することができると期待されている。

以上を踏まえて、国内及び諸外国において検討がなされつつある臨床データの共有に関する

ユースケースとして、治験データ管理プラットフォームを取り上げる(表 4)。

表 4 医療・ヘルスケア分野におけるブロックチェーン技術の社会実装が期待されるユースケース

分類 事業者 概要

臨床データ流通

サスメド株式会社

(治験データ管理プラ

ットフォーム)

【構想段階】

- 治験データの登録・閲覧をネットワーク上で行うプラットフォー

ムをブロックチェーン技術で実装することを目指しており、特許

を申請済み。

- 将来的にはモバイルデバイスや認可機関などもブロックチェー

ン上に加え、各プロセスを革新することを想定している 35。

35 Astabision「医学的エビデンスに基づき、スマートフォンアプリで不眠症治療を実現-サスメド株式会社 上野太

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分類 事業者 概要

OKEIOS

(eios.BC)

【検討・実証段階】

- 治験や医薬品の開発・製造支援を行うアイロムグループと提携

し、医療データを一元管理できるプラットフォーム「eios.BC」を

開発している。

- 「eios.BC」はブロックチェーン技術を用いて構築されており、患

者側への仮想通貨発行によるインセンティブ付与、改竄や不

正アクセスに対する高い堅牢性を特長とする 36。

IBM、FDA

(FDA-IBM project)

(アメリカ)

【検討・実証段階】

- IBM は米国食品医薬品局(FDA)との研究イニシアチブを締

結、ブロックチェーン技術を使用して、安全で効率的でスケー

ラブルな健康データの交換を行う。

- 臨床試験情報の他、電子医療記録、ゲノムデータ、モバイル機

器、ウェアラブル、IoT 機器からの健康データなどのデータ交

換を検討する予定である 37。

Pfizer、Amgen

Sanofi

(アメリカ、フランス)

【構想段階】

- 製薬大手 3 社が、ブロックチェーン技術を利用して新薬の治験

のスピードアップに共同で取り組むと報じられた。

- ブロックチェーン技術を用いたシステムを用いることで、データ

の断片化や、匿名性を確保した上で治験に適した患者の選定

が可能になるとしている 38。

Greg Irving

(イギリス)

【検討・実証段階】

- 臨床試験データの管理にブロックチェーン技術を活用し、安全

な臨床情報の管理に有効とする研究を実施している 39。

Global Cannab

(カナダ)

【検討・実証段階】

- 大麻のサプライチェーン管理に加え、医療用大麻の解禁に向

け、ブロックチェーン技術を利用した臨床試験データプラットフ

郎」<http://astavision.com/contents/interview/4085>、及びサスメド株式会社へのヒアリング 36 オウケイウェイヴ プレスリリース<http://www.nse.or.jp/listing/search/files/140120171017492072.pdf> 37 IBM ”IBM Watson Health Announces Collaboration to Study the Use of Blockchain Technology for Secure”

Exchange of Healthcare Data」<http://www-03.ibm.com/press/us/en/pressrelease/51394.wss> 38 Coindesk ”Big Pharma Seeks DLT Solution for Drug Costs”

<https://www.coindesk.com/blockchain-day-big-pharma-seeks-dlt-solution-drug-costs/> 39 The Economist”Better with bitcoin Blockchain technology could improve the reliability of medical trials”

<https://www.economist.com/news/science-and-technology/21699099-blockchain-technology-could-improve-

reliability-medical-trials-better>

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分類 事業者 概要

ォーム構築に取り組んでいる 40。

健康記録保管と

個人管理

Medicalchain

(アメリカ)

【検討・実証段階】

- ブロックチェーン技術により、健康記録を安全に保管し、医師、

病院、研究所、薬剤師、健康保険会社などが、患者の許可を

得た上でレコードにアクセスするための仕組みを検討してい

る。

- 現在、資金調達のために ICO が開始されている 41。

openPDS/SafeAnswer

(アメリカ)

【構想段階】

- 患者個人がヘルスケアのメタデータ(患者の姓名、入院日な

ど)を、セキュアに研究機関などに共有する「 openPDS

/SafeAnswers」 42に、ブロックチェーン技術を導入することで、

データの信頼性を担保する研究が行われている 43。

Healthbank

(スイス)

【検討・実証段階】

- ヘルスケアデータのセキュアな管理と、同意管理機能によるス

マートなデータ提供を可能にするプラットフォームを提供してい

るが、サービス拡張のためにブロックチェーン技術を用いた

様々なデータ(ゲノムデータや IoT 機器から得たデータなど)の

統合について調査研究を実施している 44。

精密医療向けデ

ータ流通基盤

Health Linkages

(アメリカ)

【検討・実証段階】

- ブロックチェーン技術を用いて、精密医療におけるデータ分析

に寄与する、データの収集・履歴管理・暗号化に寄与するプラ

ットフォームを検討している 45。

- 個人が第三者の評価などを基にデータ提供先を信頼できるか

どうか判断するのではなく、ブロックチェーン技術を用いて管理

した情報を基に、自動でデータ提供の可否が判断することが

40 Global Cannab ホームページ<https://cannappscorp.com/opportunity/> 41 Medicalchain ホームページ<https://medicalchain.com/ja/> 42 Yves-Alexandre de Montjoye, Erez Shmueli, Samuel S. Wang, Alex Sandy Pentland. (2014)”openPDS:

Protecting the Privacy of Metadata through SafeAnswers” 43 Zhu Yan, Guhua Gan, Khaled Riad(2017)”BC-PDS: Protecting Privacy and Self-Sovereignty through

BlockChains for OpenPDS” 2017 IEEE Symposium on Service-Oriented System Engineering (SOSE) 44 Healthbank ホームページ<https://www.healthbank.coop/2015/09/01/healthbank-health-data-lab/> 45 Silicon Valley Tours”Health Linkages: Secure Data Management for Healthcare Institutions”

<https://www.siliconvalley.tours/profile/health-linkages/>(accessed: 2018.03)

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分類 事業者 概要

出来るとしている 46。

Health Wizz

(アメリカ)

【検討・実証段階】

- 個人がブロックチェーン上にヘルスケアデータを管理するモバ

イルアプリケーションの提供を検討している 47。

- その中で医療関連研究者、製薬会社、保険会社に加え、精密

医療提供者にデータを提供し、その対価を得るデータマーケッ

トを構築、イーサリアムベースのスマートコントラクトにより、トー

クンと健康データを交換するプラットフォームを構想している。

- 2017 年 11 月、イーサリアムベースのトークンを発行し、ICO を

実施した 48。

薬品トレーサビリ

ティ

Blockpharma

(フランス)

【検討・実証段階】

- ブロックチェーン技術を使い、セキュアに薬物トレーサビリティ

確保を可能とするプラットフォームを構築している。

- QR コードを用いた製薬会社のデータベースに接続可能なイン

ターフェイスを開発した 49。

Hyperledger Project

(アメリカ)

【検討・実証段階】

- Linux Foundation が中心となり開発がされている、エンタープラ

イズ向けブロックチェーン技術、Hyperledger のユースケースの

1 つとして薬品偽装の防止が挙げられており、Accenture など

がブロックチェーン技術の活用を検討している 50。

- 米国では医療用医薬品に個別の番号を付けてサプライチェー

ンを管理することを求める法律(DSCSA)の成立を受け、医薬

46 Healthcare IT News”Blockchain is proving itself for real-world healthcare applications”

< http://www.healthcareitnews.com/news/blockchain-proving-itself-real-world-healthcare-applications> 47 Health Wizz ホームページ<https://www.healthwizz.net/>(accessed: 2018.03) 48 PR Newswire”Health Wizz Launches Decentralized Mobile Platform to Enable Patients to Take Control Over

Their Health Data”

<https://www.prnewswire.com/news-releases/health-wizz-launches-decentralized-mobile-platform-to-enable-

patients-to-take-control-over-their-health-data-300563347.html>(accessed: 2018.03) 49 Becker’s Hospital Review”25+ blockchain companies in healthcare to know | 2017”

<http://www.blockchaincompany.info/post/6464759/highly-recommended-25-blockchain-companies-in-

healthcare-to-know>(accessed: 2018.03) 50 Coindesk”Hyperledger Project Explores Fighting Counterfeit Drugs with Blockchain”

<https://www.coindesk.com/hyperledger-counterfeit-drugs-blockchain/>(accessed: 2018.03)

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分類 事業者 概要

品の履歴をブロックチェーンで追跡する仕組みが提案され、実

証実験が進んでいる 51。

物流・サプライチェーン・モビリティ等分野におけるユースケース

サプライチェーンにおけるブロックチェーン技術の活用にあたってのメリットとしては、製品などの

来歴を、改ざん不可能な形で、ステークホルダー間で共有することが可能になることが挙げられる。

ブロックチェーン技術の活用により、信頼のおける組織が存在しなくとも、ブロックチェーン上に記

録されたデータが改ざんされてないことが保証され、信頼して取引を行うことができるため、市場が

活性化することが期待される。

例えば、英国のスタートアップ Everledger は、ダイヤモンドの来歴を記録し、真贋証明を行うブロ

ックチェーンシステムを構築しており、現在 100 万個以上のダイヤモンドの情報が記録されている

52。ダイヤモンドの取引にあたって、原産地等の証明書の偽造による詐欺やそれに伴う保険金の支

払などにより、業界全体として多額のコストが発生している 53。同社によれば、原産地の証明書は、

依然として紙ベースで管理されており、紛失や偽造等が発生しているとされる。そのため、ブロック

チェーン上に原産地証明書や取引履歴を記録することで、改ざん不可能な形でダイヤモンドのバ

イヤー等の間で来歴情報を共有することが可能となり、信頼してダイヤモンドの取引が行われること

が期待されている。

また、電気自動車(EV)のバッテリーの残存価値 54利用予測情報をブロックチェーン上で管理す

ることで、EV の所有者、EV バッテリーの回収事業者間の取引を円滑化しようという検討がなされて

いる。EV バッテリーは、残存価値が 6 割程度になると回収・交換されるが、回収した EV バッテリー

のモジュール(電池をいくつか組み合わせたもの)を組みかえることで、バッテリーの容量が EV に

比べて少なくて済む太陽光発電の蓄電システムなど、他の用途に利用することができると期待され

ている。このとき、あらかじめバッテリーの残存価値が正確に把握され、かつ改ざん不可能な形で

EV バッテリーを組みかえる事業者に伝達できれば、EV バッテリーの選定プロセスを効率化するこ

とができ、EV バッテリーの二次利用市場の創出に寄与することが期待される。

51 日経デジタルヘルス「ブロックチェーンは医療にどう活用できるのか」

<http://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/feature/15/050200094/011900011/?ST=health&P=4> 52 Everledger ホームページ<https://www.everledger.io/>(accessed: 2018.03) 53 Everledger 社によれば、保険業者は、年間 500 億ドルのコスト負担を強いられていることが指摘されている。

<https://www.everledger.io/>(accessed: 2018.03) 54 残存価値とは、バッテリーの劣化状態を表す値をいい、以下の数値で表される。:

SoC(State of Charge)= 初期満充電容量(Ah) / 残容量

SoH(State of Health)= 劣化時満充電容量(Ah)/初期満充電容量(Ah)

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以上を踏まえて、新たな市場の創出に寄与すると考えられる、EV バッテリーライフサイクル管理

プラットフォームをユースケースとして取り上げることとする(表 5)。

表 5 物流・サプライチェーン・モビリティ等分野におけるブロックチェーン技術の社会実装が期待

されるユースケース

分類 事業者 概要

物流システム効

率化

セイノーホールディン

グス

【検討段階】

- 「セイノー アクセラレーター 2017」において、総エントリー74

社の中からテックビューロの「mijin ブロックチェーン」を採択、

実証実験の検討を開始 55。

- mijin ブロックチェーンは、非改ざん性とユーザ認証・暗号化に

優れたプライベート型ブロックチェーンであり、物流システムの

バックエンドとして活用されると考えられる。

セゾン情報システムズ

パルコ

【実証段階】

- ブロックチェーンテクノロジーを活用した宅配ボックスと、パルコ

が運営する WEB 通販サービス「カエルパルコ」とを連携した実

証実験を実施 56。

- ブロックチェーン上に納入記録及び施錠要求を管理、利用者

は、個人のスマートフォンからブロックチェーン上に解錠を要

求、荷物の受領が記録される

食品トレーサビリ

ティ

ウォルマート、IBM

(アメリカ)

【構想段階】

- ウォルマート、IBM、清華大学は、サプライチェーンに沿って

IoT センサーを使用して中国の豚肉を追跡したブロックチェー

ンパイロットの協力を開始 57。

- Dole、Driscoll‘s、Golden State Foods、Kroger、McCormick

and Company、Nestlé、Tyson Foods、Walmart ともグローバル

サプライチェーンにて協力。

Provenance 他 10 社

(イギリス)

【実証段階】

- ブロックチェーン技術を使い、農作物の生産から小売までの食

55 Mijin プレスリリース <http://mijin.io/ja/917.html>(accessed: 2018.03) 56 GMO インターネット株式会社、GMO グローバルサイン株式会社、株式会社ウフル、株式会社セゾン情報システ

ムズプレスリリース <http://home.saison.co.jp/company/news/pdf/2017/pr170620_01.pdf>(accessed:

2018.03) 57 ZDNet Japan「IBM、ウォルマート、清華大学らがブロックチェーン活用で連携--中国の食の安全向上へ」

<https://japan.zdnet.com/article/35112080/>(accessed: 2018.03)

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分類 事業者 概要

品の来歴管理を行う実証プロジェクトを開始 58。

- 産地や食品の偽装を防止するのみならず、ブロックチェーン上

に記録された生産者の生産情報を活用して、生産者に対して

融資を実行することも検討している。

電通国際情報サービ

ス、Guardtime、

シビラ、宮崎県 東諸

県郡 綾町

【実証段階】

- 肥料や農薬の使用状況などの生産管理情報をブロックチェー

ン上に記録するシステムを開発 59。綾町では、肥料や農薬の

使用状況などの基準を定めており、基準をクリアした農産品に

は、認定マークと ID が付与される。この ID をあわせて、ブロッ

クチェーン上に記録し、消費者が閲覧できるようにすることで、

綾町の有機農産品の安全性をアピールする狙い。

製造業サプラチ

ェーン管理・製

品利用状況管理

KAULA

【構想段階】

- 中国政府のバッテリー3 法(EV バッテリーの高品質化、違法改

造・放棄の防止を目的に利用者情報の記録、メーカーの技術

情報公開などを課す)を背景に、所有権・使用権の移転の記

録にブロックチェーン技術を活用することを検討 60。

- 現在、EV のバッテリーの二次利用が期待されているが、EV バ

ッテリーの残存価値・利用予測情報をブロックチェーン上で管

理することで、EV バッテリーの所有者、EV バッテリーの回収事

業者、バッテリーの再販事業者間の取引を円滑化しようという

検討が同社によってなされている。

Innogy

(ドイツ)

【検討・実証段階】

- フォルクスワーゲン・ファイナンシャル・サービシズとBigchainDB

と協力して、車両の利用履歴管理するプラットフォームを構築

61。

- 摩耗する前に部品を交換することができるため、自動車はより

安全になる。

58 ケンブリッジ大学“Blue chips and startups launch new fintech pilot for more sustainable supply chains at the

One Planet Summit”< https://www.cisl.cam.ac.uk/business-action/sustainable-finance/banking-environment-

initiative/news/blue-chips-and-startups-launch-new-fintech-pilot >(accessed: 2018.03) 59 シビラ株式会社 プレスリリース<http://sivira.co/pr/press/20161019-01-ja.html>(accessed: 2018.03) 60 KAULA 株式会社ホームページ <https://kaula.jp/ja/>(accessed: 2018.03) 61 BigchainDB ブログ < https://blog.bigchaindb.com/digitizing-vehicles-the-first-blockchain-backed-car-

passport-b55ead6dbc71>(accessed: 2018.03)

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分類 事業者 概要

- 自動車がどこでどのように使われたかを追跡するテレマティクス

データが組み込まれており、消費者は、その履歴に基づいて、

いつでも車の再販価値を予測。

日立製作所

【検討・実証段階】

- サプライチェーン分野でのブロックチェーン技術の活用促進に

向けて、トレーサビリティ管理システムのプロトタイプを開発。自

動車メーカーと部品メーカーを結ぶサプライチェーンで、製品

販売、部品や材料調達などの情報をブロックチェーン技術で

管理する 62。

Wipro

(アメリカ)

(SIer)

【検討・実証段階】

- ブロックチェーン技術を用いたサプライチェーンの可視化、追

跡に関するソリューションを提供している 63。

- 特に航空分野における部品サプライヤーの品質証明取得(耐

空性証明書類)を対象としたソリューションでは、部品のライフ

サイクルを追跡、スマートコントラクトによって、不良部品の保守

と修理を容易にする。

- バーコード/ QR コードの出荷トランザクションを用いる。

- 他に偽造防止、3D プリンター向けのソリューション等。

真贋証明 Everledger

(イギリス)

【実装段階】

- 価値のある商品を追跡及び保護するためのデジタル、グロー

バル元帳を目指す。高級品の出所を追跡・記録し、顧客やこれ

らの資産を追跡したい他のステークホルダーに情報を提供す

る 64。

- ダイヤモンドの鑑定結果・所有者・保険情報の管理などを行う

サービスを提供している。

62 日立製作所 プレスリリース <http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2017/05/0509.html>(accessed:

2018.03) 63 Wipro ホームページ <https://www.wipro.com/>(accessed: 2018.03) 64 Everledger ホームページ<https://www.everledger.io/>(accessed: 2018.03)

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スマートプロパティに関するユースケース

スマートプロパティに関する国内外のユースケースとしては、知的財産などの無形資産、動産

や不動産などの有体物に関する権利の証明などがある。国内外問わず活用が進みつつあるのが、

デジタルコンテンツや書類のハッシュ値をパブリック型ブロックチェーンに書き込みものである。書

き込まれた文書等のハッシュ値にタイムスタンプが付与されるため、文書等の存在の証明に活用さ

れている。

一方で、海外では、不動産、芸術品、車など様々な「物」の所有権をトークン化し、小口化して流

通させるためのプラットフォームの構築が検討されつつある。改ざん不可能で、ブロックチェーン上

の記録自体は二重譲渡が不可能であるという特徴を生かして、様々な資産の流動性を高めること

ができると期待されている。一部のサービスでは、特定の物の取引に限らず、汎用的なプラットフォ

ームの構築が検討されており、今後そのようなサービスが増えると予想される。

公開情報ベースでは、国内におけるトークンによる物の権利証明や移転に関するユースケース

は少ないが、ヒアリングを行うなかで、物も含めて、権利・価値証明、移転等にブロックチェーン技

術(特に、トークン)の活用を検討していると回答する事業者は多かった。

そこで、海外におけるユースケースを参考に、海外において検討がなされつつある、「物」に関

する所有権のトークン化に関するユースケースの作成を行った(表 6)。

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表 6 スマートプロバティ分野におけるブロックチェーン技術の社会実装が期待されるユースケー

分類 事業者 概要

知財管理

Binded

(アメリカ)

【実装段階】

- ブロックチェーン上に著作権の恒久的な記録を作るシステムを開

発。著作者が著作物をアップロードすると、著作物(主にデジタ

ルコンテンツ)の画像のハッシュ値がブロックチェーン上に書き込

まれる。ユーザは、著作物の第三者による使用履歴を確認するこ

とができる(ブロックチェーン基盤としてビットコインを使用)65。

- 朝日新聞などから総額 95 万ドルの資金調達を実施した 66。

Bernstein

(ドイツ)

【実装段階】

- 発明、デザイン、その他の知的財産に関するドキュメントの存在

証明をブロックチェーン技術により行うシステムを開発 67。

- ブロックチェーン上には、ドキュメントのハッシュ値を記録する(ブ

ロックチェーン基盤としてビットコインを使用)。

Stampery

(スペイン)

【実装段階】

- 機密文書、公的な証明が必要な書類等の存在証明をブロックチ

ェーン技術により行うプラットフォームを開発 68。

- ブロックチェーン上に書類等のハッシュ値を記録することで、書

類等の存在を証明する。

- API を提供し、ブロックチェーン上の記録を外部サービスに提供

している。

筑波大学システム情

報工学研究科

【実証段階】

- 消費者がインターネット上などにおいてコンテンツを生成するメ

ディアである CGM(Consumer Generated Media)向けの著作権

管理技術を研究。

- ブロックチェーン上にコンテンツのハッシュ値、作者氏名などをタ

イムスタンプ付きで記録することで、著作権の権利者を証明する

仕組みを構築した。

- 上記システムの実証実験において、折り紙の折り図の著作権管

65 Binded ホームページ <https://binded.com/>(accessed: 2018.03) 66 Techcrunch「著作権管理ブロックチェーンの Binded が、朝日新聞などから 95 万ドルを資金調達」

<https://jp.techcrunch.com/2017/05/26/20170525binded/>(accessed: 2018.03) 67 Bernstein ホームページ<https://www.bernstein.io/>(accessed: 2018.03) 68 Stampery ホームページ< https://stampery.com/features>(accessed: 2018.03)

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分類 事業者 概要

理に活用し、1 件当たりの申請コストが 0.4 円、申請時間が平均

10 分という結果を得ている 69。

動産・不動産の

権利処理・投資

市場

Everledger

(イギリス)

(再掲)

【実装段階】

- 価値のある商品を追跡及び保護するためのデジタル、グローバ

ル元帳を目指す。

- 生涯にわたり高価値品の出所を不変的に追跡し、顧客やこれら

の資産を追跡したい他のステークホルダーに情報を提供する。

- ダイヤモンド鑑定・所有者・保険情報の管理などを行うサービス

を提供している。

LAToken

(所在国不明)

【検討・実証段階】

- あらゆる資産の記録をトークン化して取引可能にするプラットフォ

ームの構築を検討。トークン化して、権利を細分化し、資金の少

ない個人投資家でも投資可能にすることを目指している。現在

は、株式に関してのみ取引可能 70。

- 2018 年には、不動産や芸術品の価格に連動したトークンの取引

を開始する予定となっている。

Bitcar

(オーストラリア)

【構想段階】

- スーパーカーやクラシックカーなど高級車の所有権をトークンに

記録するシステムの開発を検討 71。(ICO 実施)

- 権利を小口化し、高級車の分散所有を可能にすることを目指し

ている。高級車の所有者は、高級車の展示等により発生した利

益の分配を受けることが可能である。

- 高級車(トークン)の取引をスマートコントラクトで自動的に実行す

ること、特定の運営主体を想定せず、自律的に取引がなされるシ

ステムの構築が目指されている。

Chromaway

(スウェーデン)

【実証段階】

- 不動産の登記システムをブロックチェーン上に構築。

- 不動産の購入者、売り手、不動産業者、銀行、エスクロー・エー

ジェント、公的機関など多数のステークホルダーが不動産取引に

69 高 月菲、張 丘平、延原 肇(2016)「ブロックチェーンによる分散型タイムスタンプとその折り紙著作権保護への

応用」情報処理学会第 78 回全国大会 70 LAToken ホームページ<https://sale.latoken.com/jp/>(accessed: 2018.03) 71 Bitcar ホームページ<https://bitcar.io/>(accessed: 2018.03)

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分類 事業者 概要

介在する中で、契約や手続書類をスマートコントラクトにて記述、

処理することで、手続が効率化 72。

BrickBlock

(ドイツ)

【構想段階】

- ブロックチェーン上に取引プラットフォームを構築し、不動産や

ETF(Exchange Traded Fund、上場投資信託)などの資産管理を

検討(ICO 実施)73。

- スマートコントラクトを使用し、資産担保型トークン(PoA Token)に

よる仮想通貨の換金を行うことで、法定通貨為替手数料を排除

する仕組み。

- 投資対象は専門家によって入念に審査され、またリスクに応じて

ランク付けされる。

ALANT

(アメリカ)

【構想段階】

- 個々の不動産シェアを示すトークンをリスト化し、流動性のある市

場取引、仲介者不要のP2P賃貸サービス(民泊サービスの代替)

の開発を検討。(ICO 実施)

- レビューと物件リストの真正性の担保も行う。

不動産情報管理

(所有権、利用

履歴など)

カイカ

AMBITION

LIFULL

テックビューロ

【実証段階】

- 株式会社 LIFULL、株式会社カイカ、テックビューロ株式会社は

空き家情報、修繕・リフォーム履歴、住宅評価情報、広告履歴な

ど、官民のデータベースに散在する不動産情報をブロックチェー

ンに集約する実証実験を実施 74。

- 株式会社 AMBITION と株式会社カイカが行った実証実験で

は、不動産賃貸権利の発行・流通・譲渡がブロックチェーン上で

管理できることを確認 75。

- 電子化された契約手続き及び情報の保持、契約金及び家賃の

仮想通貨決済が有用であると判断。

積水ハウス 【実証段階】

72 ChromaWay ホームページ <https://chromaway.com/>(accessed: 2018.03) 73 Brickblock ホームページ <https://steemit.com/cryptocurrency/@heavey/brickblock-ico-the-future-of-etf-

trading >(accessed: 2018.03) 74 テックビューロ株式会社 プレスリリース<https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000064.000012906.html

>(accessed: 2018.03) 75 株式会社カイカ プレスリリース<http://www.caica.jp/wp-

content/uploads/pdf/2017/20170220_1_oshirase.pdf>(accessed: 2018.03)

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分類 事業者 概要

bitFlyer - プライベートブロックチェーン技術「miyabi」による賃貸住宅の入

居契約等の情報管理システムを検討 76。

シノケン

チェーントープ

【実証段階】

- 民泊物件におけるブロックチェーン技術を活用したサービス開発

を開始している 77。独自通貨も発行。

76 株式会社 bitFlyer プレスリリース <https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000023233.html

>(accessed: 2018.03) 77 シノケン プレスリリース <https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000021725.html>(accessed: 2018.03)

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≪ご参考≫ブロックチェーン技術の活用方法の展望

システム評価におけるユースケースの検討とは別に、ブロックチェーン技術の利活用を展望する

ための検討を行った。国内におけるブロックチェーン技術の活用を検討している事業者を集めた、

小規模なピッチイベントを開催するとともに、諸外国におけるブロックチェーン技術の活用事例を参

考にし、ブロックチェーン技術の新たな活用方法について検討を行った。小規模なピッチイベント

では、凸版印刷株式会社及び株式会社シーエーシーから P2P 保険へのブロックチェーン技術の

活用、株式会社ハウインターナショナルから電子投票へのブロックチェーン技術の活用について、

報告頂いた。

シェアリングエコノミー 凸版印刷株式会社及び株式会社シーエーシーは、同じ種類の保険の加入者同士を繋いで保

険リスクをシェアしあう、P2P 保険へのブロックチェーン技術の活用を検討している。P2P 保険は、•

友達・知人同士や同種のリスクに対する保険に興味のある個人がグループを作り、保険料を拠出

する仕組みで、一定期間事故等が発生しなかった場合、拠出した保険金からキャッシュバックを受

けることができる。保険会社にとっては、加入者同士が勧誘しあう事で、マーケティングコストの削減

が可能であり、友人・知人同士で加入する場合には、保険金詐欺や保険金の不正請求を減らすこ

とができるといったメリットがある。

凸版印刷株式会社及び株式会社シーエーシーは、このような P2P 保険の仕組みに、ブロックチ

ェーン技術を活用したシステムを開発した。具体的な仕組みは、以下の通りである。(図 5)

① 保険加入者のグループのマッチングを実施し、スマートコントラクトにより保険契約及びグルー

プの共有口座を作成する(保険契約は、コントラクトコードとして記述される)。

② グループの共有口座が作成されたら、トークンを口座にプールする。

③ 事故等が発生した場合には、保険金を共有口座から保険金が事故等の相手方に支払われる。

④ 一定期間無事故の場合には、共有口座からキャッシュバックを受けることができる。

一連の手続きは、全てスマートコントラクトにより実行されるため、保険会社や保険仲介会社の業

務効率化が期待されている。

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図 5 凸版印刷株式会社・株式会社シーエーシー P2P 保険の実証スキーム 78

資産の記録としてのトークンの活用 株式会社ハウインターナショナルは、ビットコインを活用した電子投票システムCongreChainを構

築した。CongreChainは、ビットコインの取引データ上に追加のデータ格納し、資産を表現するため

のプロトコルである Open Asset Protocol を用いて実装されており、投票権の発行、投票の推移や

委譲等の記録を行うことが可能となっている。Open Asset Protocol を用いることで、ビットコインの

特徴を生かすことが出来、二重投票の不可能性、なりすましなど不正投票権の発見、非中央集権

でデータを維持することができるといった特徴を持っている。

今後のブロックチェーン技術の可能性として、著作権、不動産など現実世界の「モノ」の権利証

明などへの活用が期待されるとの報告があった。

78 凸版印刷株式会社、株式会社シーエーシー プレスリリース

<http://www.cac.co.jp/news/topics_171017.html>(accessed: 2018.03)

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2.2. 分散型システムを活用したユースケースのシステム評価

システム評価の前提となるシステムの構成を設計するため、選定したユースケースを具

体化した。参加するノードやブロックチェーン上で共有される情報などについて、関連する

事業者にヒアリングを行い、ユースケースの具体化を行い、システムの構成を設計した。設

計したシステムの構成を踏まえて、「ブロックチェーン技術を活用したシステム評価軸」79を活用

し、システム評価を行った。以下では、「医療・ヘルスケア分野」、「物流・サプライチェーン・モ

ビリティ等分野」、「スマートプロパティ」に関するユースケースについて、システム評価の結果を示

す。

医療・ヘルスケア分野におけるユースケースの評価:治験データ管理プラットフォーム

ユースケースの具体化

治験の実施にあたっては、製薬企業から医療機関に対して治験の依頼が行われ、医療機関が

治験を実施する。治験の進捗管理は、書類の整備や実地でのモニタリングなど非常に労働集約的

になされることなどから、近年、製薬企業側は、CRO(Contract Research Organization:医薬品開

発受託機関)と呼ばれる企業に対して、治験のマネジメントを委託している。CRO は、治験の実施

計画書の作成、医療機関への訪問等による治験の進捗状況の確認、データの解析などの業務を

行う。

一方で、医療機関側においても、SMO(Site Management Organization:治験施設支援機関)と

呼ばれる治験の実施を支援する企業に委託することが多くなってきた。SMO は、治験責任医師の

指示のもと、治験実施計画書や症例報告書作成の補助、依頼者(製薬企業)への治験実施状況の

報告など治験業務全般にわたって治験責任医師を支援する業務を行う。

現状の治験の実施プロセスについてみると、(図 6)のようにまず製薬企業から業務を受託した

CRO が医療機関に治験の実施を依頼する。CRO は、製薬企業や医療機関と調整の上、治験実

施計画書などの書類を作成する。治験が始まると、CRO は、定期的に医療機関を訪れ、原資料

(症例報告書)における治験実施結果の確認などのモニタリング業務を実施する。SMO は、医師に

よる症例報告書の作成を補助するとともに、モニタリングの受付等の対応を行う。なお、電子的に

治験関連データを登録・閲覧できる EDC(Electronic Data Capture)システムを用いた治験のモニ

タリングもなされつつあり、治験業務の効率化に向けた取組が進みつつある。具体的には、医師が

EDC に症例を登録し、CRO が EDC を閲覧し、治験の実施状況を確認することができる。

このようなプロセスで治験は実施されるが、治験は長期間にわたり実施され、書類の整備や実地

でのモニタリングなど医療機関側、製薬企業側双方にとって時間・コストがかかる構造となっており、

最終的に新薬の承認を得るために、治験の実施結果に対して結果 q を改ざんする誘因が存在す

79 出典:経済産業省・前掲注(2)

表 3-1 評価軸:品質(47 頁)

表 3-2 評価軸:保守・運用(52 頁)

表 3-3 評価軸:コスト(56 頁)

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ることが指摘されている 8081。

そのような中で、治験の実施結果やモニタリングの内容をブロックチェーンに記録し、医療機関、

SMO、CROが共有する仕組みの開発を医療スタートアップであるサスメド株式会社 82が検討してい

る。EDC と同様に、医師が症例を登録し、CRO が当該システムを用いてモニタリングするためのシ

ステムであるが、ブロックチェーン技術を活用することで、データの改ざんが防げることが期待され

る。また、製薬会社や CRO、SMO に加えて、医薬品等の承認審査機関である独立行政法人医薬

品医療機器総合機構(PMDA)をノードに加えることで、不正への抑止が働くと期待される。

図 6 治験データ管理プラットフォームのサービスモデル

80 加えて日本においては、SMO 及び CRO が同一の企業グループとなっている場合があり、実質的な利益相反構

造が存在するとの指摘がある。 81 製薬企業が医療機関に依頼する治験(企業治験)に関する、直近の改ざん事件としては、SMO である株式会社

エシック社による患者日誌の書き換えなどがある。

薬事日報「止まらぬ治験不正に歯止めを」<https://www.yakuji.co.jp/entry48303.html>(accessed: 2018.03)

その他、製薬企業からの依頼を受けずに実施する医師主導型の臨床試験における不正事件として、ディオバン事

件がある。同事件は、ノバルティスファーマ社が製造・販売する降圧剤「ディオバン」の医師主導型臨床試験に、同

社社員が統計解析者として臨床研究に関与した結果利益相反が発生し、臨床研究に関する論文のデータ、画像

等に対する改ざんなどの不正行為が発生したもの。

厚生労働省「高血圧症治療薬の臨床研究事案を踏まえた 対応及び再発防止策について (報告書)」平成 26 年

4 月 11 日 高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する 検討委員会 参考資料 1 82 サスメド株式会社<http://susmed.co.jp/>(accessed: 2018.03)

製薬会社 CRO(医薬品開発受託機関)

医療機関・臨床試験センター

認証機関(PMDA)

⑧承認申請

①業務委託

⑦治験実施結果の報告

SMO(治験施設支援機関)

各種業務支援

⑨認可

②治験の依頼、④実地モニタリング ⑥臨床データの提供

不正防止、信頼性確保のための業務履行にコストがかかる

現状の治験データ流通プロセス

医療機関・SMO

製薬会社

認証機関(PMDA)

製薬会社

CRO(医薬品開発受託機関)

ブロックチェーンを活用した治験データ管理システム

ステークホルダー間で記録を確認することで抑止機能が働く治験データの改ざんが技術的に防止可能となる

③治験の実施④実施結果の記録

ブロックチェーンによる治験データの共有

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システム構成の設計

治験データ管理のユースケースをブロックチェーンで実装する場合のシステム構成例を以下に

示す。

図 7 治験データ管理プラットフォームのシステム構成例

本システムは、治験実施計画に沿って各種治験データを登録・参照・管理するブロックチェーン

システムである。治験データとしては、医薬品の効果や副作用を確認する臨床試験で収集する情

報を想定している。治験に関わる各社で台帳を管理するコンソーシアム型のブロックチェーン構成

とし、機密性の高い臨床データを扱うため、閉域網を使用する IP-VPNで各社のネットワークを繋ぐ

構成とする(図 7)。

項目 要件性能 • 年平均600件の治験に関する臨

床データの登録が可能であることデータの秘匿 • 匿名性を確保されていれば、

暗号化は不要可用性 • 参加会社のシステム障害で

サービス停止しないこと運用・保守性 • 参加者追加の際に

サービス停止しないこと

治験責任・分担医師

医療機関

BCサーバ

台帳

Firewall

Firewall

治験参加者

臨床データ登録

IP-VPN 2

CRC

SMO

BCサーバ

台帳

Firewall

Firewall

登録支援クエリ回答

CRA

CRO

BCサーバ

台帳

Firewall

Firewall

治験実施計画登録モニタリング報告

治験担当者

製薬会社

BCサーバ

台帳

Firewall

Firewall

認証機関担当者

PMDA

BCサーバ

台帳

Firewall

Firewall

治験認可 クエリ発行

公開鍵証明書認証局

専用線

IP-VPN 1

システム構成 主なシステム要件

項目 方式ブロックチェーンプラットフォーム

• コンソーシアム型(Hyperledger Fabric)

ブロックチェーン構成

• 各ステークホルダーで台帳を管理

ネットワーク構成

• 各社のDMZにBCサーバを設置• 専用線でIP-VPNサービスに接続(冗長化)

コントラクト(ルール)

• 事前に登録した治験実施計画に沿ったデータのみ登録可

データ • 治験実施計画• 症例報告/臨床データ(個人特定情報を削除し、暗号化はしない)

システム概要

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システム評価軸を用いたシステム評価

システム構成をもとに机上評価した結果を以下に示す。

表 7 治験データ管理プラットフォームのシステム評価結果

評価項目 (机上)評価結果

品質 性能効率性 処理性能 年平均 600 件 83の治験に関する臨床データの登録が可能であること

Hyperledger Fabric のベンチマーク結果 84から秒間千件以上のスループットの実現は可能。

ネットワーク性能

BC サーバ間のネットワーク性能がボトルネックとならない十分な帯域を確保すること

性能評価を行い、十分な帯域が確保できる IP-VPN サービスを使用する。

ブロック確定性能

30 秒以内に確定した登録データが参照可能であること

Hyperledger Fabric ではブロック生成期間(トランザクション発生後の何秒以内に新規ブロックを生成するのか)の設定が可能であるため、実現は 可能。(生成期間のデフォルト値は 2 秒)

参照性能 従来の Web システムと同程度の応答時間であること

BC ノードを DB と捉えることで従来の Web・AP・DB システムと同じ参照性能があると想定することが可能。 ただし、データ参照時には複数の BC ノードからデータを読み取り検証する必要がるため、その分参照性能が落ちることを考慮する必要がある。

相互運用性 相互運用性 (既存システム)

HPKI 等の電子証明書基盤との連携が可能であること

公開鍵証明書をサーバに配ることで連携可能。

相互運用性 (他ブロックチェ

ーン)

本システムでは他のブロックチェーンシステムとの連携は必要ではない

拡張性 処理性能向上性

ノード追加が可能であること 製薬会社毎にブロックチェーンネットワークを形成することで、拡張可能。1 つのネットワーク内の最大ノード数は性能評価で確定させる必要がある。 (複数ネットワークに参加する PMDA、医療機関のノードの処理性能がボトルネックになる可能性があるため、サーバのスペックについて考慮が必要)

ネットワーク性能 向上性

容量拡張性

ノード数拡張性

信頼性 成熟性 ブロックチェーン基盤ソフトウェアで使用されている暗号技術が実績のある技術であること

Hyperledger Fabric でサポートされている鍵暗号アルゴリズムは、ESDCA(楕円曲線暗号、Bit 数256/384)であり、電子政府推奨暗号の 1 つである。

可用性 参加会社のシステム障害でサービス停止しないこと

Hyperledger Fabric では、事前設定する承認ポリシーを満たすことが可能なノードが稼動している限りはサービス停止しない。 本システムにおける例として PMDA、製薬会社もしくは CRO、医療機関もしくは SMO の 3 つから承認を得ることを承認ポリシーと設定した場合には PMDA のノードを二重化することで、単一ノード障害でサービス停止することはない。

障害許容性 サービス停止となる障害ノード数に単一障害で達することがないこと

Hyperledger Fabric の承認ポリシー設定に依存するが、PMDA、製薬会社もしくは CRO、医療機関もしくは SMO の 3 つから承認を得ることを承認ポリシーと設定した場合には PMDA のノードを二重化することで、単一ノード障害でサービス停止することはない。

83 参考:独立行政法人医薬品医療機器総合機構「治験計画届出件数」(薬物の試験計画届出件数の推移)

<https://www.pmda.go.jp/files/000217911.pdf>(accessed: 2018.03) 84 参考:IBM「Hyperledger Fabric: A Distributed Operating System for Permissioned Blockchains」

<https://arxiv.org/pdf/1801.10228v1.pdf>(accessed: 2018.03)

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評価項目 (机上)評価結果

回復性 BC ノード障害後にサービス停止せずに復旧可能であること

Hyperledger Fabric では、障害ノードを再起動することで復旧可能。障害時のデータも同期が取られる。

セキュリティ 機密性 データの秘匿化が可能であること (本システムの要件ではない)

データのハッシュ化、及び、暗号化することで秘匿可能。 ただし、ハッシュ化の場合は、別途、関係者間で元データの共有が必要。 暗号化の場合は、別途、関係者間で復号鍵の共有が必要。

インテグリティ メンバーシップ管理機能を有していること

Hyperledger Fabric では、コントラクト管理者と利用者を分けて管理可能。

否認防止性 事象又は行為が後になって否認されることがないよう、事象又は行為が引き起こされたことが証明できること

本システムでは、信頼のおける医師により自らの電子署名とともに登録される臨床データを改ざん困難なブロックチェーンに格納することで否認防止性・真正性を確保する。Hyperledger Fabric では、承認者の署名が付いたデータを全ノードで共有するため改ざんが困難。 (改ざんするには、全承認者の署名を取る必要がある)

真正性 データの正しさを証明できること

移植性 適応性 標準的なOSを用いたシステムとすること

一般的な Linux OS を用いたシステムであるため、適応性あり。

置換性 他のブロックチェーン基盤ソフトウェアに置換可能であること

現時点ではブロックチェーン基盤の標準が存在しないため、置換性を担保することは不可である。

保守・運用性

保守・ 運用性

モジュール性 システムの構成要素がモジュール化されていること

Hyperledger Fabric では、コンセンサス方式はモジュール化されており、変更可能である。

再利用性 システムの構成要素が他のシステムで再利用可能であること

ブロックチェーン基盤ソフトウェア以外の UI 等は再利用の可能性がある。

解析性 障害発生時にどのノードで何があったのかが分かること

各ノードのブロックチェーン基盤ソフトウェアのログ、及び、コントラクトコードのログで解析可能。

修正性 サービスを止めずにシステムの修正が可能であること

Hyperledger Fabric では、サービス稼動中にコントラクトコードの修正が可能。 ただし、コントラクトコードの修正の際には参加者の合意・了承を得る必要がある。

試験性 サービス開始前にテスト可能であること

サービス開始前にシステムテストだけではなく、十分な試行を実施する必要がある。

コスト 研究開発 ブロックチェーン基盤

コストが明確になること 既存のブロックチェーン基盤ソフトウェアを使用することで新規研究開発費を極小化。

サブシステム

実装 ハードウェア 各参加組織で BC サーバ、BC 呼出システムの構築費を負担。 ソフトウェア

システム実装

保守・運用 運用 各参加組織で IP-VPN サービス利用料を負担。

保守 各参加組織で自社の BC サーバの保守費を負担。

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品質 性能においては、年間 600 件の治験を管理するためには、1 件の治験あたり 100 名の治験者

参加者が 3 ヶ月に 1 回の臨床データを採取・登録する場合を仮定した場合には、約 670 件/日の

データ登録処理性能が必要となる。この場合は、秒間数千件以上のベンチマーク結果を持つブロ

ックチェーン基盤ソフトウェア(例えば、Hyperledger Fabric 等)を用いることで要件を満たすことが

可能である。

拡張性においては、本システムでは製薬会社毎にブロックチェーンネットワークを形成することで

拡張していくことが可能である。その際には、1 つのネットワーク内の最大ノード数や複数ネットワー

クに参加する PMDA、医療機関のノードの処理性能を、性能評価をもとに検討する必要がある。

信頼性の可用性を向上させるためには、ブロックチェーン基盤ソフトウェア毎に適切なパラメータ

設定、及び、ノードの冗長化が必要となる。例えば、本システムで想定している Hyperledger Fabric

においては、承認ポリシー設定を適切に設定し、必要なノードを冗長化することが必要である。

PMDA、製薬会社もしくは CRO、医療機関もしくは SMO の 3 つから承認を得ることを承認ポリシー

と設定すると、PMDAのノードを二重化することで、単一ノード障害でサービス停止することをなくす

ことが可能となる。

セキュリティのデータ秘匿化については、本システムでは必須要件ではないが、必要に応じてア

プリケーションの実装にてデータのハッシュ化、暗号化することにより対応可能である。ただし、ハッ

シュ化の場合は別途、関係者間で元データの共有が必要である。また、暗号化の場合は別途、関

係者間で復号鍵の共有が必要となる。

保守・運用性 ブロックチェーンシステムの保守・運用性においてはサービスを止めないで運用を続けることが重

要である。従来のシステムにおいては、サービス利用の少ない時間帯に閉塞を行い、アプリケーシ

ョンの修正を行うことが一般的であるが、ブロックチェーンシステムにおいては各組織が分散して運

用しているノードを一斉に閉塞かけることは非常に困難である。この点を考慮した場合、ブロックチ

ェーンシステムにおいてはサービスを停止せずにアプリケーションとなるコントラクトコードの修正が

可能であることが望ましい。本システムで想定している Hyperledger Fabric では、サービス稼動中

にコントラクトコードの修正が可能であるため、コード修正に伴うサービス停止は無い。ただし、コン

トラクトコードの修正の際には、ブロックチェーン参加者の合意・了承を得ることも検討が必要である。

コスト ブロックチェーンシステムにおいては、分散してシステム運用を行うため、各社のサーバ構築、運

用、保守のコストを各社が負担する必要がある。また、本システムにおいては IP-VPNサービスの利

用料も各社で負担する必要がある。

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物流・サプライチェーン・モビリティ等分野におけるユースケースの評価:EV バッテリー

ライフサイクル管理プラットフォーム

ユースケースの具体化

2020 年から 2025 年にかけて使用済みの電気自動車(EV) 85が増加すると予測されている。日

本自動車工業会の推計 86によれば、2025 年には約 50 万台の使用済みの EV が発生すると予測

されている。また、年間の約 30 万台(2016 年)87と日本の 15 倍程度の中国においては、更に多く

の廃バッテリーが出回ることになる。

一方で、バッテリー容量の保証期限を迎えた EV やメーカー保証によるバッテリー交換等で発

生する電池をリユースするビジネスモデルが検討されている。EV のバッテリーは通常、バッテリー

の劣化状態である残存価値が 6 割から 7 割程度になると交換される。一般に、EVのバッテリーは、

モジュールと呼ばれる電池が数十個組み合わされたものになる。太陽光発電システムの蓄電池な

ど他の用途であれば、残存価値が少なくても十分に機能するため、交換される EV のバッテリーか

らモジュールを取り出し、組み替えることで他の用途への再利用が可能となる。

バッテリーの回収に関し、図 8のように現在はEVメーカーがバッテリーを自主回収しており、EV

メーカーが出資する事業者がモジュールの組み替えを行っている。しかし、今後大量に使用済み

バッテリーが出回ることが予想されるため、EV 所有者が所在する地域の自動車解体事業者や回

収事業者等が回収を行い、モジュールを組み替える再販事業者に回収したバッテリーを販売する

ことが予想される 88。

このとき、バッテリーを分解して、モジュールを組みかえる再販事業者は、バッテリーの安全性の

観点から、再利用にあたって残存価値が同程度であるモジュールを組み合わせる必要がある。そ

のため、再販事業者が回収事業者等から使用済みバッテリーを買い取る際に、あらかじめ再販事

業者が残存価値を把握することができれば、モジュールの組み合わせを最適化することができる可

能性がある。したがって、回収事業者及び再販事業者双方が、使用済みバッテリーの正確な残存

価値を共有できれば、使用済みバッテリーを適正価格で取引することができるようになるとともに、

使用済みバッテリーの効率的な利活用を促進することができると考えられる。

そこでブロックチェーンを活用し、バッテリーの残存価値、所有者等の情報を関係者事業者間

で共有することで、バッテリーの回収が効率化し、バッテリーの二次利用市場を立ち上げることが可

能となり、太陽光発電の蓄電システムなど様々な市場にインパクトを与えると考えられる。なお、EV

バッテリーの残存価値は、バッテリー内の湿度や温度によって、値が変化する。そのため、湿度や

温度といった情報もブロックチェーン上に記録する必要がある。

85 自動車の所有者が廃車にすることを決めた自動車をいう。 86 一般社団法人日本自動車工業会「次世代車の適正処理・再資源化及び新冷媒の取り組み状況」産構審・中環

審第 45 回合同会議資料 87 International Energy Agency「Global EV Outlook 2017」 88 公益財団法人ちゅうごく産業創造センター「中国地域における自動車用二次電池及び太陽光発電関連装置の

リユース・リサイクル産業の創出に向けた可能性検討調査」<http://ciicz.jp/jigyo/pdf/nen/h23-1.pdf>(accessed:

2018.03)

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図 8 EV バッテリーライフサイクル管理プラットフォームのサービスモデル

EV完成車メーカー

EVの販売

EV所有者・利用者

回収・解体事業者中古車販売事業者

バッテリー回収

EVの普及に伴い使用済みバッテリーが大量に発生再利用に必要なバッテリーの残存価値データを適正に

把握・共有する仕組みが存在しないあらかじめ適正な残存価値が把握できるため、バッテリーの回収・買取プロセスが効率化

現状のEVのバッテリー二次利用市場

個人

バッテリー残存価値共有システム

加工・再販事業者

EV完成車メーカー EV所有者・利用者

回収・解体事業者中古車販売事業者 加工・再販事業者

①バッテリーの残存価値を測定

ブロックチェーンで共有

②残存価値データに基づき、バッテリーを選別・回収

③残存価値データに基づき、バッテリーを買取

残存価値が同等なバッテリーを組み替えて、販売

太陽光発電システム等向け蓄電池の販売バッテリー組替え

EVの販売

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システム構成の設計

EV バッテリーライフサイクル管理のユースケースをブロックチェーンで実装する場合のシステム構

成例を以下に示す。

図 9 EV バッテリーライフサイクル管理プラットフォームのシステム構成例

本システムは、各 EV からのデータを収集する IoT エッジサーバから各車のバッテリー残存価値

データを登録し、関係各社でリアルタイムにデータ参照が可能なブロックチェーンシステムである。

エッジサーバは各車から送信される様々なデータを収集し、バッテリー残存価値データのみをブロ

ックチェーンに書き込むためのデータ集約、及び、中継機能を担う。本システムでは、エッジサーバ

側とデータを参照する各社で台帳を管理するコンソーシアム型のブロックチェーン構成とし、比較

的安価に構築可能なインターネット VPN で各社のネットワークを繋ぐ構成とする。

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システム評価軸を用いたシステム評価

システム構成をもとに机上評価した結果を以下に示す。

表 8 EV バッテリーライフサイクル管理プラットフォームのシステム評価結果

評価項目 (机上)評価結果

品質 性能効率性 処理性能 10万台の電気自動車から 1日1KB の残存価値データの登録が可能であること (1.16 件/秒)

Hyperledger Fabric のベンチマーク結果 89から秒間千件以上のスループットの実現は可能。

ネットワーク性能

BC サーバ間のネットワーク性能がボトルネックとならない十分な帯域を確保すること

性能評価を行い、十分な帯域が確保できるインターネット VPN サービスを使用する。

ブロック確定性能

30 秒以内に確定した登録データが参照可能であること

Hyperledger Fabric ではブロック生成期間(トランザクション発生後の何秒以内に新規ブロックを生成するのか)の設定が可能であるため、実現は 可能。(生成期間のデフォルト値は 2 秒)

参照性能 従来の Web システムと同程度の応答時間であること

BC ノードを DB と捉えることで従来の Web・AP・DB システムと同じ参照性能があると想定することが可能。 ただし、データ参照時には複数の BC ノードからデータを読み取り検証する必要がるため、その分参照性能が落ちることを考慮する必要がある。

相互運用性 相互運用性 (既存システム)

IoTエッジサーバとの連携が可能であること

エッジサーバがブロックチェーンのクライアントとなり、データを登録することで連携可能。

相互運用性 (他ブロックチェ

ーン)

本システムでは他のブロックチェーンシステムとの連携は必要ではない

拡張性 処理性能向上性

ノード追加が可能であること EV メーカー毎にブロックチェーンネットワークを形成することで、拡張可能。1 つのネットワーク内の最大ノード数は性能評価で確定させる必要がある。 (複数ネットワークに参加するノードの処理性能がボトルネックになる可能性があるため、サーバのスペックについて考慮が必要)

ネットワーク 性能

向上性

容量拡張性

ノード数拡張性

信頼性 成熟性 ブロックチェーン基盤ソフトウェアで使用されている暗号技術が実績のある技術であること

Hyperledger Fabric でサポートされている鍵暗号アルゴリズムは、ESDCA(楕円曲線暗号、Bit 数256/384)であり、電子政府推奨暗号の 1 つである。

可用性 参加会社のシステム障害でサービス停止しないこと

Hyperledger Fabric では、事前設定する承認ポリシーを満たすことが可能なノードが稼動している限りはサービス停止しない。 本システムにおける例として 3 社以上の承認を得ることを承認ポリシーと設定した場合には単一ノード障害でサービス停止することはない。

障害許容性 サービス停止となる障害ノード数に単一障害で達することがないこと

Hyperledger Fabric の承認ポリシー設定に依存するが、3 社以上の承認を得ることを承認ポリシーと設定した場合には単一ノード障害でサービス停止することはない。

回復性 BC ノード障害後にサービス停止せずに復旧可能であること

Hyperledger Fabric では、障害ノードを再起動することで復旧可能。障害時のデータも同期が取られる。

89 参考:IBM「Hyperledger Fabric: A Distributed Operating System for Permissioned Blockchains」

<https://arxiv.org/pdf/1801.10228v1.pdf>(accessed: 2018.03)

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評価項目 (机上)評価結果

セキュリティ 機密性 データの秘匿化が可能であること (本システムの要件ではない)

データのハッシュ化、及び、暗号化することで秘匿可能。 ただし、ハッシュ化の場合は、別途、関係者間で元データの共有が必要。 暗号化の場合は、別途、関係者間で復号鍵の共有が必要。

インテグリティ メンバーシップ管理機能を有していること

Hyperledger Fabric では、コントラクト管理者と利用者を分けて管理可能。

否認防止性 事象又は行為が後になって否認されることがないよう、事象又は行為が引き起こされたことが証明できること

本システムでは、各車の電子署名とともに IoT エッジサーバを経由して登録される残存価値データを改ざん困難なブロックチェーンに格納することで否認防止性・真正性を確保する。 Hyperledger Fabric では、承認者の署名が付いたデータを全ノードで共有するため改ざんが困難。 (改ざんするには、全承認者の署名を取る必要がある)

真正性 データの正しさを証明できること

移植性 適応性 標準的なOSを用いたシステムとすること

一般的な Linux OS を用いたシステムであるため、適応性あり。

置換性 他のブロックチェーン基盤ソフトウェアに置換可能であること

現時点ではブロックチェーン基盤の標準が存在しないため、置換性を担保することは不可である。

保守・運用性

保守・運用性

モジュール性 システムの構成要素がモジュール化されていること

Hyperledger Fabric では、コンセンサス方式はモジュール化されており、変更可能である。

再利用性 システムの構成要素が他のシステムで再利用可能であること

ブロックチェーン基盤ソフトウェア以外の UI 等は再利用の可能性がある。

解析性 障害発生時にどのノードで何があったのかが分かること

各ノードのブロックチェーン基盤ソフトウェアのログ、及び、コントラクトコードのログで解析可能。

修正性 サービスを止めずにシステムの修正が可能であること

Hyperledger Fabric では、サービス稼動中にコントラクトコードの修正が可能。 ただし、コントラクトコードの修正の際には参加者の合意・了承を得る必要がある。

試験性 サービス開始前にテスト可能であること

サービス開始前にシステムテストだけではなく、十分な試行を実施する必要がある。

コスト 研究開発 ブロックチェーン基盤

コストが明確になること 既存のブロックチェーン基盤ソフトウェアを使用することで新規研究開発費を極小化。

サブシステム

実装 ハードウェア 各参加組織で BC サーバ、BC 呼出システムの構築費を負担。 ソフトウェア

システム実装

保守・運用 運用 各参加組織でインターネット VPN サービス利用料を負担。

保守 各参加組織で自社の BC サーバの保守費を負担。

品質 性能においては、10 万台の電気自動車から 1 日 1 回(1KB)の残存価値データの登録が可能な

処理性能を必要とする。この場合は、秒間数千件以上のベンチマーク結果を持つブロックチェー

ン基盤ソフトウェア(例えば、Hyperledger Fabric 等)を用いることで要件を満たすことが可能である。

拡張性においては、本システムでは EV メーカー毎にブロックチェーンネットワークを形成すること

で拡張していくことが可能である。その際には、1 つのネットワーク内の最大ノード数や複数ネットワ

ークに参加するノードの処理性能を、性能評価をもとに検討する必要がある。

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信頼性の可用性を向上させるためには、ブロックチェーン基盤ソフトウェア毎に適切なパラメータ

設定、及び、ノードの冗長化が必要となる。例えば、本システムで想定している Hyperledger Fabric

においては、承認ポリシー設定を適切に設定し、必要なノードを冗長化することが必要である。3 社

以上の承認を得ることを承認ポリシーと設定する場合、単一ノード障害でサービス停止することをな

くすことが可能となる。

保守・運用性 2.2.1 と同様にサービスを止めないアプリケーション修正が必要であり、Hyperledger Fabric では

実現可能である。

コスト ブロックチェーンシステムにおいては、分散してシステム運用を行うため、各社のサーバ構築、運

用、保守のコストを各社が負担する必要がある。また、本システムにおいてはインターネット VPN サ

ービスの利用料も各社で負担する必要がある。

スマートプロパティに関するユースケースの評価:スマートトークンプラットフォーム

ユースケースの具体化

大都市圏や政府の補助を受けた地域において、リアルデータを活用したスマートシティ開発が

進められている。例えば、高松市では水位センサーや潮位センサー等を河川や護岸に設置し、デ

ータを IoT プラットフォーム上に収集・解析することで、早期の災害対策を実現するという実証実験

を実施している 90。その他の先進的な自治体、地域においても IoT を活用した街づくりが進められ

ている 91。

一方で、日本全国に普及させようとした場合、自治体及び民間事業者側の財政面への課題が

存在する。総務省の調査によれば、地域での ICT 利活用による事業を進める上での課題として、

導入・運用コストが高いと回答した自治体が 80%以上となっており、財政面での課題がもっとも高

かった 92。費用対効果が不明確といった課題も掲げられており、データの蓄積とともに多種多様な

サービスが実現される IoT を活用したスマートシティの開発については、導入前に効果が見えにく

い部分があり、大きな問題となりうる。そのため、センサーデバイスの設置費用などのイニシャルコス

トをどのようにして調達するかが課題となる。

そこで、スマートシティ開発を予定している自治体や企業、住民などの個人が IoT を活用したス

マートシティ開発プロジェクを提案し、トークンを発行することで資金調達を行うプラットフォームを

90 日本経済新聞<http://www.soumu.go.jp/main_content/000496324.pdf> (2017 年 10 月 14 日)(accessed:

2018.03) 91 NEC、さくらインターネット株式会社プレスリリース

<https://jpn.nec.com/press/201712/20171205_02.html>(accessed: 2018.03) 92 総務省(2015)「2014 年度地域におけるICT利活用の現状等に関する調査研究」

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構築することにより、センサーデバイスの費用などに対する資金を調達する仕組みを検討した。

プロジェクト提案者がデバイスの所有や利用に関する権利を紐付けたトークンを発行し、トークン

の保有割合に応じて、デバイスの利用や収集されるデータから収益を得ることができることをインセ

ンティブに、個人投資家がトークンを購入する。個人投資家からプロジェクト提案者に対して支払

われた仮想通貨を原資として、プロジェクト提案者は、プロジェクトに必要なセンサーデバイスを購

入する(仮想通貨は、外部の仮想通貨交換所で現金に換金されることを想定)。(図 10)

このように、ブロックチェーン技術を活用することで、プロジェクトオーナーは各デバイス設置の初

期投資(=初期トークン総額)を迅速に調達可能となり、補助金等に頼らないスマートシティ開発の

実現が期待される 93。

図 10 スマートトークンプラットフォームのサービスモデル

93 EV チャージステーションを地域住民で設置し、トークンの保有割合に応じて、EV チャージステーションの利用

権や利用料収入を得るといった活用の仕方も想定される。

プロジェクト提案者

④デバイス購入・設置

個人投資家

①プロジェクト提案+

トークン発行

②仮想通貨による支払

・設置デバイス一覧(種類、設置場所、生成データ)・データ購入予定者・潜在データ購入顧客・プロジェクト予算(=初期トークン総額)(プランナーが値付け)

センサーデバイスA

データ購入者デバイス利用者

Aトークン:30

③予算確保

Aトークン:20 Aトークン:50

トークン2次流通 共同所有

⑥データ対価支払い・分配

⑤データ収集やデバイスの利用

Aトークン:100

スマートシティ開発を予定している自治体や企業住民など個人

アプリケーション事業者、データ解析事業者等

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システム構成の設計

スマートトークンのユースケースをブロックチェーンで実装する場合のシステム構成例を以下に示

す。

図 11 スマートトークンプラットフォームのシステム構成例

本システムは、プロジェクト提案者が個人投資家から資金調達を行うためのトークン管理ブロック

チェーンシステムである。運用中のパブリック型ブロックチェーン上にコントラクトコードとなるアプリ

ケーションを配置する構成とする。本システムでは、運用中のパブリック型ブロックチェーンとして汎

用性の高いイーサリアム本番ネットワークを使用することを想定する。

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システム評価軸を用いたシステム評価

システム構成をもとに机上評価した結果を以下に示す。

表 9 スマートトークンプラットフォームのシステム評価結果

評価項目 (机上)評価結果

品質 性能効率性 処理性能 ビットコインの最大スループットである秒間 7 件の処理性能があること

イーサリアムの本番ネットワークではビットコイン以上のトランザクション数を処理できているため、実現は可能。

ネットワーク性能

BC サーバ間のネットワーク性能がボトルネックとならない十分な帯域を確保すること

既存のイーサリアム本番ネットワークに依存する。

ブロック確定性能

30 秒以内に確定した登録データが参照可能であること

イーサリアムのコンセンサス方式はビットコインと同じPoW(Proof of Work)であるため、同程度の確定性能は実現可能。(ただし、ブロック生成間隔は平均 15秒であり、ビットコインの 10 分と比較して短いが、何ブロックをもって確定とみなすかは取引者間で決める必要がある)

参照性能 従来の Web システムと同程度の応答時間であること

BCノードをDBと捉えることで従来のWeb・AP・DBシステムと同じ参照性能があると想定することが可能。 ただし、データ参照時には複数の BC ノードからデータを読み取り検証する必要がるため、その分参照性能が落ちることを考慮する必要がある。

相互運用性 相互運用性 (既存システム)

IoT システムとの連携が可能であること

IoT システムがイーサリアムのクライアントとなり、データを登録することで連携可能。

相互運用性 (他ブロックチェ

ーン)

本システムでは他のブロックチェーンシステムとの連携は必要ではない

拡張性 処理性能 向上性

ノード追加が可能であること 仮想通貨として運用されているイーサリアム本番ネットワークを利用するため、イーサリアムの拡張性に依存。 ネットワーク

性能向上性

容量拡張性

ノード数拡張性

信頼性 成熟性 ブロックチェーン基盤の実績があること

イーサリアム本番ネットワークは仮想通貨基盤として2015 年から運用されている。

可用性 単一障害においてサービス停止しないこと

仮想通貨として運用されているイーサリアム本番ネットワークを利用するため、イーサリアムの可用性/障害許容性/回復性に依存。 (イーサリアムがサービス停止しない限り、本システムもサービス停止しない)

障害許容性 サービス停止となる障害ノード数に単一障害で達することがないこと

回復性 BC ノード障害後にサービス停止せずに復旧可能であること

セキュリティ 機密性 データの秘匿化が可能であること (本システムの要件ではない)

データのハッシュ化、及び、暗号化することで秘匿可能。 ただし、ハッシュ化の場合は、別途、関係者間で元データの共有が必要。 暗号化の場合は、別途、関係者間で復号鍵の共有が必要。

インテグリティ メンバーシップ管理機能を有していること

イーサリアムの機能でコントラクト管理者と利用者を分けることはできないため、別途、作り込みが必要。

否認防止性 事象又は行為が後になって否認されることがないよう、事象又は行為が引き起こされたことが証明できること

本システムでは、既存の仮想通貨基盤を用い、仮想通貨と同等のトークン管理を行うことで否認防止性・真正性を確保する。

真正性 データの正しさを証明できること

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評価項目 (机上)評価結果

移植性 適応性 標準的なOSを用いたシステムとすること

一般的な Windows、Linux OS を用いたシステムであるため、適応性あり。

置換性 他のブロックチェーン基盤ソフトウェアに置換可能であること

現時点ではブロックチェーン基盤の標準が存在しないため、置換性を担保することは不可である。

保守・運用性

保守・運用性

モジュール性 システムの構成要素がモジュール化されていること

モジュール性は特にない。

再利用性 システムの構成要素が他のシステムで再利用可能であること

ブロックチェーン基盤ソフトウェア以外のUI 等は再利用の可能性がある。

解析性 障害発生時にどのノードで何があったのかが分かること

各ノードのブロックチェーン基盤ソフトウェアのログ、及び、コントラクトコードのログで解析可能。

修正性 サービスを止めずにシステムの修正が可能であること

イーサリアムでは、サービス稼動中にコントラクトコードの修正が可能。 ただし、コントラクトコードの修正の際には参加者の合意・了承を得る必要がある。

試験性 サービス開始前にテスト可能であること

サービス開始前にイーサリアムテストネットワークで十分な試行を実施する必要がある。

コスト 研究開発 ブロックチェーン基盤

コストが明確になること 既存のブロックチェーン基盤ソフトウェアを使用することで新規研究開発費を極小化。

サブシステム

実装 ハードウェア 運用済みのパブリック型ブロックチェーンを利用することで極小化。 ただし、AP の開発は必要。

ソフトウェア

システム実装

保守・運用 運用 各利用者でインターネット接続費を負担。

保守 全体統括者が AP 保守費を負担。

品質 トークン管理システムの性能要件として運用実績が高い仮想通貨ビットコインと同等、もしくは、

それ以上と想定した。その場合、本システムで使用するイーサリアム本番ネットワークは 2017 年 7

月時点でビットコイン以上のトランザクション数(50 万件/日以上)を処理できているため、十分に実

現可能と考えられる。

その他の拡張性、信頼性、セキュリティについては、使用するバブリック型ブロックチェーンに依

存する。そのため、パブリック型ブロックチェーン自体がサービス停止すると、本システムもサービス

停止することは考慮が必要である。

保守・運用性 アクセスコントロール、及び、サービス停止を伴わない修正については、使用するパブリック型ブ

ロックチェーンの機能に依存する。本システムで使用するイーサリアムでは、コントラクトコード管理

者と利用者を区別してアクセスコントロールする機能は有していないため、別途アプリケーション開

発で作り込みが必要である。また、イーサリアムではサービスを止めずにアプリケーションの修正が

可能であるが、他のユースケースと同様に利用者の合意・了承を得ることについては検討が必要

である。

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コスト 既に運用中のパブリック型ブロックチェーンを利用することで台帳管理を行う必要がないため、

初期導入コストを非常に抑えることが可能である。実際には、全体を統括する組織・運用体にてア

プリケーションの開発、各ノードへのアプリケーション配備、及びアプリケーションの保守を行うコスト

が発生する。

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法制度面での課題調査

本章においては、ブロックチェーンを活用したシステムの社会実装を促進することを目的として、

法解釈の明確化のみならず、規制緩和・制度化のあり方や推奨される実務的な取組について議論

を行った結果について述べる。法制度上の課題については、システム評価の対象となったユース

ケースに関する法制度上の課題の議論に加えて、社会実装にあたって障害となりうる法制度上の

課題として、事業者や有識者へのヒアリング等の結果、指摘された事項についても議論を行ってい

る。なお、議論にあたっては、弁護士、学識経験者、ブロックチェーンに係わる民間団体、民間企

業等からなる検討会を開催した(検討会の詳細は、第 6 章参考資料を確認されたい)。

以下では、まず、分野横断的な論点に関する議論結果を示す。そのうえで、個別のユースケー

スによって問題となる業法規制など法制度上の課題が異なる可能性があることから、システム評価

の対象となったユースケースに関連する分野におけるユースケースについて、法制度面でも議論

を行った。

3.1. 分野横断的な論点

ブロックチェーンのような分散型システムについては、既存の法制度が当該技術の利用を想定

していない可能性があり、ブロックチェーン技術を用いた法律行為の有効性や適法性に関して、そ

の解釈が不明確となり得る。まず、法令で書面交付義務等がある書面に関して、ブロックチェーン

技術を用いた電磁的記録の授受で代替することの適法性に関する基本的な考え方について議論

を行った。また、スマートコントラクト及びトークンに関しては、分野を問わず広く活用が期待されて

いることから、法的な効力について議論を行った。

また、分散型システムであるブロックチェーン技術の開発においては、開発者コミュニティの貢献

が大きい一方で、各人の法的責任の所在が不明確であり、萎縮効果が働くことが懸念される。そこ

で、システムの瑕疵による損害の発生に関する開発者コミュニティの民事的責任について議論を

行った。

最後に、ブロックチェーンの開発や利用は国境を越えてなされていることから、国内法に関する

検討に加えて、国際司法の観点から準拠法に関する議論を行った。

書面の交付等に係わる論点

平成 13 年、「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関す

る法律」(以下、「IT 書面一括化法」という。)が制定され、特定商取引法や割賦販売法など 50 本も

の個別法を改正する形で、書面による交付等について、顧客の承諾があれば書面に代えて電磁

的方法による交付等が認められた。また、平成 16 年には、「民間事業者等が行う書面の保存等に

おける情報通信の技術の利用に関する法律」(以下、「e-文書法」という。)が制定された。e-文書

法主務省令に掲げられた法令については、IT書面一括化法同様、書面により保存、作成、縦覧等

又は交付等(以下、「保存等」という。)すべきものとされていた文書を、電磁的記録により保存等す

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ることができるようになり、IT 化の対象が広がった。

e-文書法において利用可能な電磁的記録の方法及び要件等は、主務省令に委任されている

が、政府全体の整合性を保つため、内閣官房により「主務省令の作成要領」94が作成されている。

同要領においては、e-文書法第6条に基づき、書面に代えて、電磁的記録に記録されている事項

を交付し、もしくは提出し、又は提供する(以下、「交付等」という。)ための電磁的方法に関して、こ

れを主務省令に規定する際の参考として、次に掲げる方法が示されており、多くの主務省令にお

いて同様の規定が定められている。

イ 民間事業者等の使用に係る電子計算機と交付等の相手方の使用に係る電子計算機とを接

続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル

に記録する方法

ロ 民間事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された書面に記載す

べき事項を電気通信回線を通じて交付等の相手方の閲覧に供し、当該相手方の使用に係る

電子計算機に備えられたファイルに当該事項を記録する方法

「主務省令の作成要領」や個別法令のガイドライン等では、イに掲げる方法として、電子メールな

どで、相手方のパソコンのフォルダに電磁的記録を送る方法を想定しているとの記載がある。また、

ロに掲げる方法としては、「自分のホームページに電磁的記録を掲載し、それを交付等の相手方

がダウンロードできる状態に置く」クライアント・サーバ型システムを用いた方法を想定しているとの

記載がある。そこで、ブロックチェーンを用いて電子データや電子化された文書を交付等すること

は、e-文書法における電磁的記録による交付等として評価できるのか、という問題が発生しうる。

まず、e-文書法が交付等の技術的要件を主務省令に委任した理由は、民民間の取引に関して

具体的な技術的要件についてまで政府が権利義務関係を創設・変更すべきでないこと、技術進歩

が早く、取引の実態に応じて情報通信技術の普及等が異なるため、主務大臣が責任を持って判

断すべきこと等が理由である 95。そのため、e-文書法は、ブロックチェーンのような新しい技術を用

いることを直ちに排除する意図はないと考えられる。

そこで、次に、ブロックチェーンについて、実質的に見て、電磁的記録による交付等の手段とし

て認めて差し支えないかが問題となりうる。e-文書法において電磁的記録による交付等が認められ

たのは、仮に電磁的記録による交付等が認められなかった場合、「一度電子的に保存された媒体

を書面に出力したうえで交付するという手続きが必要となり、保存の電子化」96という法の意義が損

なわれるためである。一方で、前記「主務省令の作成要領」においては、特にイ又はロの二つの方

法を定めた趣旨は示されていないが、電磁的記録による交付等が認められた趣旨を踏まえれば、

相手方が保存することができる方法であればよいと解される。この点、ブロックチェーンにより電磁

94 内閣官房情報通信技術(IT)担当室(2005)『逐条解説 e-文書法』株式会社ぎょうせい、115 頁-142 頁 参考資

料⑬ 95 内閣官房情報通信技術(IT)担当室・前掲注(94)38 頁 96 内閣官房情報通信技術(IT)担当室・前掲注(94)35 頁

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的記録の交付等を行ったとして、相手方がこれを保存できないということはないと考えられる。

最後に、前記「主務省令の作成要領」に定められた技術的要件に関して、ブロックチェーンを文

理解釈上認めることができるかが問題となりうる。

ここで、前記イ又はロにいう「民間事業者等の使用に係る電子計算機」については、必ずしも当

該民間事業者等が保有している必要はなく、使用していればよいと解される。例えば、電磁的記録

を掲載するためのホームページを構築する際、レンタルサーバを使用することは広く行われている。

また、「民間事業者等の使用に係る電子計算機」は、交付等の相手方が使用するものと同一であ

っても構わないものと解される。例えば、クラウドストレージサービスを使用している民間事業者が、

クラウドに交付等の対象となる電磁的記録をアップロードし、当該ストレージを使用している交付等

の相手方が当該書面をダウンロードする場合がある。

ブロックチェーンについては、分散型システムとして各ノードが記憶領域を共有していると考える

ことができ、交付等の相手方の使用に係る電子計算機と「民間事業者等の使用に係る電子計算機」

が同一であるようなクラウドストレージサービスと同様と考えられる。ブロックチェーンにおいて、仮に

書面の保存等の義務が課された書面を代替する電磁的記録が生成された場合には、「民間事業

者等の使用に関わる電子計算機」に対応する電磁的記録が作成され、かつ、その直後に交付等

の相手方の使用に係る電子計算機において当該記録が閲覧可能になることによって、前記イにい

う「使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子

計算機に備えられたファイルに記録する」か、少なくとも前記ロにいう「電気通信回線を通じて交付

等の相手方の閲覧に供し、当該相手方の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該事

項を記録する方法」に該当する状況になっていると考えられる。

以上を踏まえると、ブロックチェーン技術による電磁的記録の交付等は、クラウド型のシステムと

変わらず、一般論としては、e-文書法及び主務省令の範囲内で適法となるシステムを構成できると

解釈する余地は十分あるものと考えられる。なお、個別法の施行令においては、「主務省令の作成

要領」で示された例とは異なる内容の規定を置いているものがあるため、ブロックチェーン技術の

実装にあたっては、個別の法令を確認するとともに、必要に応じて適法性について所管省庁に確

認することが必要である。

スマートコントラクトに関する論点

スマートコントラクトは、極めて多義的な概念として用いられており、専門家の間で合意された定

義は存在しない。もともとは、プログラム化された契約として、1990 年代後半に、法学者・暗号学者

の Nick Szabo 氏により提唱された概念であり、概念自体は、ブロックチェーン以前から存在してい

た 97。一方で、ブロックチェーン技術を活用したスマートコントラクトに限っても、多様な意味で用い

られている。技術的な観点から見れば、ブロックチェーン上で動作するコンピュータプログラムであ

り、処理の条件を記述したプログラム (コントラクトコード)それ自体がブロックチェーンに書き込まれ、

97 Nick Szabo(1997)"Formalizing and Securing Relationships on Public Networks"Internet economics and

Security <http://ojphi.org/ojs/index.php/fm/article/view/548/469>(accessed: 2018.03)

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入力されたデータに基づき、処理が自動的に実行されるもの、として考えることができる。また、ブロ

ックチェーン上に記録されたプログラムにおける処理の条件が法的な意味での契約を意味する場

合に限定して、論じられることもある。また、法的な意味でのスマートコントラクトについては、紙媒体

の契約書を単純に電子化し、ブロックチェーン上に当該電子媒体のハッシュ値等を記録するもの

まで含んで論じられる場合もある。

本稿では、「プログラミング言語又は機械語で記述された契約をブロックチェーン上に保存し、シ

ステムの参加者によって機械的に有効性が確かめられ、自動的に契約が履行されるプログラム」を

指すものとしてスマートコントラクトを捉えることとした。つまり、プログラミング言語によって契約に係

る処理の条件(ロジック)を記述したコードを、ブロックチェーン上に保存し、当該コードに関してマ

イニング等により承認を受け、外部から情報を参照して条件が満たされたときに、自動的に処理が

実行されることとなるプログラムを対象としている。例えば、電子商取引にスマートコントラクトを用い

るようなユースケースを考えると、処理の条件として、売買を行う当事者が売値・買値、目的物およ

びその数量をあらかじめコードとして記述し、当該コードをブロックチェーン上に記録する。目的物

や売値・買値が一致した場合、自動的に取引が成立し、自動的に決済が完了するようなコードであ

る。なお、ブロックチェーン技術の活用方法として、自然言語で記述された契約書またはそのハッ

シュ値をブロックチェーン上に記録することが行われているが、今回は議論の対象外とした。

契約成立の有効性 法律上契約が有効に成立するためには、契約当事者の意思の合致が必要となる。一方で、スマ

ートコントラクトは、プログラミング言語又は機械語で契約条件が記述され、条件が満たされた場合、

自動的に契約が成立し履行される。このようにプログラミング言語又は機械語で記述され、自動的

に契約が成立するスマートコントラクトは、当事者の意思の合致があったものとして、契約として法

律上有効なものと評価できるかが問題となりうる。

当事者の意思表示がなされ、かつそれが一致したものと評価されるには、あらかじめ、「機械語

で記述されたコントラクトが、当事者の一定の指示に基づいて、動作を行うことにより自動的に契約

がなされる」という基本的な仕組みを、契約当事者が認識した上で、スマートコントラクトの利用に合

意している必要があるものと考えられる。動作の結果について改めて明示的な承諾を行うことは必

要ないが、サービスの説明やシステム利用にあたっての約款・契約、社会的な共通理解などにより、

合意成立の基礎となる社会的な共通理解がなされることが求められる。

なお、特に、事業者が消費者と契約を行う場合には、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関

する法律」第 3 条により、消費者に対して契約の申込み等を行う意思の有無及び内容について確

認を求める措置を講じるなどしなければ、消費者に重過失があった場合でも消費者から錯誤の主

張が可能となることに留意が必要である。例えば、消費者がスマートコントラクトの実行を指示する

際に、どのような内容のスマートコントラクトが実行されるかを、画面上に表示していないと、実行後

に、消費者からこのスマートコントラクトの実行結果は、当該消費者が意図したものでなく、錯誤が

あるので無効である、との主張がなされ、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する法律」第 3

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条が適用される場合には、この錯誤の主張が認められる可能性がある。このため、送信ボタンが存

在する同じ画面上に意思表示の内容を明示する等の対処を行った場合には、同法に基づく錯誤

の主張が許されなくなるので、どこからが契約成立なのかを明らかにしておく必要性がある。その意

味では、スマートコントラクトを実装する事業者が、リスクを事前に認識した上で、インターフェイスを

設計する必要がある。消費者とのインターフェイスは、自然言語で容易に契約内容等を理解可能

なものにする必要がある。なお、錯誤主張との関係では、そもそも各別かつ明示の方法により、消

費者側の主体的意思が形成され、確認措置を不要とする意思の表明がされるように、スマートコン

トラクト利用者に対する説明とともに、仕組みへの理解を促進するという対策により、錯誤の主張が

頻発しないよう、対応することも考えられる。

証拠力 民事的な紛争が発生した際、提出されたコントラクトコードが事実の証明に役に立つか(実質的

証拠能力)を判断する前提として、当該コードが真正に成立したものであるか(形式的証拠力)が

問題となりうる。そこで、形式的証拠力及び実質的証拠力それぞれについて議論を行う。

■ 形式的証拠力

私文書に関しては、「本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと

推定」される(民事訴訟法第 229 条第 1 項)。一方で、電子署名及び認証業務に関する法律(以

下、「電子署名法」という。)第 3 条では、電磁的記録に関しては、本人による電子署名が行われて

いるときに、真正に成立したものと推定される。この点、認定認証事業者が提供する証明を受けた

場合は、本人による電子署名がなされたことが証明されるが、それ以外の場合には、電子署名を

「行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとな

るもの」であることを立証しなければ、真正に成立したものと推定されない。このような電子署名法の

要件を満たす電子署名を利用する取引は極めて少なく、認定も容易ではない。また、電子署名の

有効期限の経過後の有効性等課題も少なくないとされている。裁判実務上は、例えば電子メール

に電子署名が付いていないことをもって成立の真正が争われることは少ないとの指摘がある(なお、

「故意又は重大な過失により真実に反して文書の成立の真正を争ったときは」過料に処せられる

(民事訴訟法第 230 条第 1 項))ものの 98、電子署名法の要件を満たす電子署名の利用がされな

い場合には、いわゆる二段の推定が働く余地がないことからすると、理屈の上ではブロックチェー

ンの利用者に若干のリスクが残ると考えられる。例えば、ダイヤモンドの譲受契約について、実印で

押印がされている紙の契約書で行う場合と、ブロックチェーン上のスマートコントラクトにより実行す

る場合とを比較する。譲受人が譲渡人に対してダイヤモンドの引渡請求訴訟を提起したところ、譲

渡人が契約の不成立を主張したというケースでは、紙の契約書の場合、譲受人は、契約書の印鑑

が譲渡人の印章の印影と同じであることを立証すれば、二段の推定により契約書の成立の真正が

推定され、譲渡人の側で例えば印章の盗用等について反証できない限り、譲受人の請求が認めら

98 増島 雅和(2017)「ブロックチェーン技術を用いたスマートコントラクトの検討」NBL 2017 年 3 月号 No.1093

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れることとなる。これに対し、ブロックチェーン上のスマートコントラクトのみで契約が成立した場合に

は、ブロックチェーンへの譲渡人のノードから権利移転に関する書き込みがあることを立証するだ

けでは契約の成立を証明したとは言えず、この書き込みが譲渡人の意思に基づくものであることを

も立証できて初めて、契約の成立を証明できることとなる。そうすると、ブロックチェーンの場合には、

ブロックチェーンへの書き込み本人の意思に基づくことを立証できるようにしなければ、紛争が生じ

た場合に十分に権利移転が立証できないリスクが残ると考えられる。

■ 実質的証拠力

実質的証拠力の判断は、裁判官の自由な心証に委ねられる(自由心証主義)。機械語で記述さ

れたコードについて、実際に裁判所に証拠として提出したとしても、可読性がないため証拠として

認められないのではないかといった指摘がある。

消費者と事業者間での契約については、実務上の取組として、自然言語で記述されたインター

フェイスを通じて契約を成立させたことの記録に関して、消費者及び裁判官が見て分かる形態であ

ることが、証拠として認められるために最低限必要となる。

また、ブロックチェーンの基盤(いわゆる非決定論的な基盤 99)の中には、実行環境に依存する

情報をもとに計算するものがあり、それらは実行環境に応じて実行結果が異なる可能性がある。そ

のため、非決定論的に記述されたコードを裁判所に証拠として提出した際に、契約成立時点と異

なった実行結果となりうるものがあり、当該証拠を見ても、成立したはずの契約内容が記載されて

おらず、成立したとされる契約の証拠書類としての価値が認められないことがあるのではないかと

の指摘がある。そのため、非決定論的な基盤を採用する場合には、契約がなされた時点での実行

結果の証跡を保存しておくことが重要との指摘があった。具体的には、ソースコードの断面をそれ

ぞれ保管しておき、かつソースコードをコンパイルして合意した内容を実行し、保存する。さらに、

当該結果とコードがブロックチェーンに記録されていれば、証拠として利用できる状況であることが

明確になると考えられる。なお、少額取引でブロックチェーンを使用する場合などについては、厳

密な証跡の取得は、コストとして見合わなくなる可能性がある。このような場合に保存を行わないこ

とで、コストは削減されるが、訴訟が発生した際に一定のリスクが存在するため、費用対効果を検討

の上、判断することが望ましいとの指摘があった。

トークンに係わる論点

Initial Coin Offering(ICO)として、トークン発行による新たな資金調達手段が注目を集めている。

一方で、トークンの用途はこれに留まらず、様々なトークンが発行され始めている。本稿では、トー

99 異なった実行結果になり得る非決定的なコードとは、サーバの時間やサーバで生成した乱数などの実行環境に

依存する情報をもとに計算するコードのことである。また、決定的なコードとは、固定値の入力パラメータのみで計算

され、どの実行環境でも結果が同じになるコードのことである。

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クンの法的性質を整理するとともに、ICO 以外の活用の可能性をも促進する観点から、トークンの

法的課題を整理することとする。

トークンの類型と権利性・法令の適用関係 ヒアリングを行った民間事業者からは、トークンの法的位置付けが不明確であり、実装にあたっ

て活用を躊躇しているとの指摘があった。そこで、以下ではトークンの類型化を行い、法令の適用

関係やトークンの権利性について議論を行った。

一般的に定まった定義はないが、本項では、トークンを、価値に関する電磁的な台帳上の記録

であり、保有者から第三者へ移転可能なもの、として検討する。なお、本報告書では、トークンには、

様々な形態があるが、主なものとして、ビットコインなどの送金及び決済手段として使用される通貨

型トークン、イーサリアムなどのブロックチェーンプラットフォームを利用する際に支払うプラットフォ

ーム利用型トークン、権利や財産的価値を台帳として記録したものやトークンの保有量に応じて配

当を受けることができるアセット型のトークンがあると整理した(表 10)。

表 10 トークンの機能による分類 類型 機能 具体例

通貨型 決済手段 ビットコイン 等

プラットフォーム利用型 ブロックチェーンプラットフォームの利

用料

Gas(イーサリアムの使用料)

アセット型 権利・財産的価値を記録したもの 共同所有、登記 等

通貨型は、送金及び決済手段として利用する性質を有するものを指しており、台帳には、台帳

参加者の ID 等、トークンの保有量等が記録されている。この点、資金決済法では、仮想通貨には、

物品の購入・サービスの利用等の対価の弁済のために、不特定の者に対して使用することができ、

かつ不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる電子的に記録された財産的価値

であり、電子情報処理組織を用いて移転することができる「1 号仮想通貨」、不特定の者を相手方と

して 1 号仮想通貨と交換でき、電子情報処理組織を用いて移転できる「2 号仮想通貨」があるとさ

れている(資金決済法第 2 条 5 項)。本報告書作成時点では、実務的には、仮想通貨に該当する

範囲は極めて広く解釈されているようであり、流通の可能性があるトークンについては、一般論とし

て仮想通貨該当性の検討が必要と思われる。トークンがこれらの仮想通貨に該当する場合、①仮

想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換、②それらの行為の媒介等、③前記①・②の行為に関

して行う利用者の金銭又は仮想通貨の管理を業として行う事業者は、仮想通貨交換業の登録を要

する(資金決済法第 2 条 7 項、第 63 条の 2)。なお、仮想通貨に該当するトークンについては、い

わゆるプレセールと称して限定された第三者に対してトークンを発行ないし販売する場面を含めて、

登録を受けた仮想通貨交換業者に委託してトークンを販売する場合を除いては、第三者にトーク

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ン販売する発行体は、発行体自体について登録が必要と実務的に考えられていることに注意が必

要である。

次に、トークンに対する所有権又は債権による保護の可能性についていえば、トークンそれ自体

は電子的に記録されたデータであるところ、所有権の対象は有体物である(民法第 85 条)ため、デ

ジタルデータであるトークンは民法上の所有権の対象とはならない。他方、債権による保護につい

ては、仮想通貨交換業者を介して仮想通貨の取引を行うかにより異なる。仮想通貨交換業者を介

して仮想通貨の取引を行う場合、利用者は、当該事業者との契約に基づく返還請求権に準じた債

権を有していることが一般的と考えられる。その一方で、特定の運営者が存在しない分散型の取引

所を利用して取引を行う場合には、仮想通貨交換所が利用者に対して引渡債務を負担するかは、

議論があるところであり明確な裁判所の判断は示されていない状況にある。

一方で、プラットフォーム利用型も、資金決済法の仮想通貨に該当する可能性があることは通貨

型の場合と同様である。所有権・債権等の構成による保護の可能性も通貨型と同様である。他方、

発行されるトークンについて対価が支払われており、発行者又は発行者以外の第三者から物品を

購入し、サービスの提供を受ける際の代価の弁済に使用できる場合、前払式支払手段に該当する

可能性もある(資金決済法第 3条)。この場合、発行者は資金決済法に従い届出又は登録を要し、

発行保証金の保全に関する義務等が課せられる。なお、前払式支払手段に該当する場合は、資

金決済法上の仮想通貨には該当しないものとされている 100。

アセット型トークンのうち、所有権・債権等の権利者等を記録するような台帳として利用するもの

についても、資金決済法の仮想通貨又は前払式支払手段に該当する可能性がある。所有権・債

権等の構成による保護の可能性については、記録する権利又は価値の内容により多岐に渡るもの

の、基本的には通貨型と同様と考えられる。なお、慣習などソフトローにより、一般に権利として認

識されているものがある。例えば、商法における有価証券の電子化が進められている一方で、倉荷

証券などについては商慣習で規律されており、これを電子化して良いのかわからないという議論が

ある。

アセット型トークンのうち実質的な配当を行うものについては、金融商品取引法第 2 条 2 項 5 号

の集団スキーム持分に関する規制に該当する可能性があり、2017 年 10 月 27 日に金融庁が公表

したICOに関する注意喚起文 101においても「ICOが投資としての性格を持つ場合、仮想通貨によ

る購入であっても、実質的に法定通貨での購入と同視されるスキームについては、金融商品取引

法の規制対象となると考えられます」としている。集団スキーム持分に該当する場合、当該トークン

の購入者の募集行為を行うには原則として第二種金融商品取引業の登録が必要となり、有価証券

である当該トークンの売買の市場を開設するためには金融商品取引所としての免許を要する。ま

た、送金及び決済手段として使用しうる場合等には、資金決済法上の仮想通貨に該当する可能性

もある。ただし、有価証券に該当する場合は、兼業規制などとの関係があること、二重に規制を課

100 金融庁 2017 年 3 月 24 日付パブリックコメント回答「資金決済に関する法律(仮想通貨)関係 No.37」 101 金融庁「ICO(Initial Coin Offering)について~利用者及び事業者に対する注意喚起~」

<https://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency/06.pdf>(accessed: 2018.03)

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す必要性が低いことなどから、仮想通貨に該当しないと整理することが望ましいとの指摘があった。

表 11 各類型の法的性質

類型 関連する権利、法令等

所有権・債権等による保護 金融規制法の適用可能性

通貨型 所有権は認められない。

債権、知的財産権等の構成により

保護される可能性あり。

資金決済法上の仮想通貨

プラットフォーム利用型 資金決済法の仮想通貨又は前払式

支払手段に該当する可能性あり。

実質的な配当を行う場合、資金決済

法の仮想通貨に加えて金融商品取

引法集団投資スキーム持分に該当

する可能性あり。

アセット型

以下では、今後、様々な活用が期待されるアセット型トークンに関して、トークンが移転した際の

権利の移転について議論する。

アセット型トークンの移転と権利移転 適切に仕組まれたブロックチェーンでは、①改ざん不可能、②ネットワーク上において転々と流

通されることができる、③二重に使用することが困難、④トークン保有者が権限又は権利の正当な

保有者であることを明らかにする、という性質を持たせることが可能である。

例えば、ビットコインのような仮想通貨では、プライベートキーを有するものが権利者であって、

二重譲渡の問題は生じにくい(なお、プライベートキー自体を 2 人以上に譲渡した場合や、ブロック

が分岐する場合の問題もあり、二重譲渡が一切起こらない訳ではない)。一方で、このようなトーク

ンに、債権・動産・不動産などの権利を紐づけるアセット型トークンの場合、そもそもトークンにアセ

ット上の権利をどのように紐付けられるかという問題に加え、トークンを移転したことにより真に権利

が移転するのか、また対抗要件が具備されるのか、という問題が生じうる。以下、各権利に関して、

個別に議論を行う。

■ 債権

まず債権については、当事者がトークンを有するものが債権者である、という合意をなすこと自体

は有効であり、また、トークンの移転により債権が移転する、という予めの合意もそれ自体は有効と

思われる。

他方、トークンホルダーが権利を移転するにはトークンの移転が必須であってトークンと切り離し

ては権利を移転できないという「権利とトークンの一体化の合意」や、権利の二重譲渡があった場合

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に、トークンのプライベートキーを有する者が正当な権利者であるという「対抗要件の合意」が有効

かについては疑義がある。

前者は通常の債権とは異なる新たな権利の組成ではないかとも考えられ、また後者については、

日本法上、債権の対抗要件が債務者に対する通知・承諾(第三者対抗要件は確定日付ある通知・

承諾)(民法第 467 条)、又は、金銭を目的とする指名債権については動産及び債権譲渡特例法上

の登記による第三者対抗要件(同法第 3条、4 条) が認められているのに対し、新たな対抗要件制

度を当事者が合意により創出するものではないか、という疑義が生じる。

この点、仮にこれら二つのような合意が認められないとすると、例えばトークンホルダーがトークン

とは別個に権利を譲渡した場合にどうなるのか、トークンホルダーによるトークン譲渡後に旧トーク

ンホルダーが権利の差し押さえを受けた場合にどうなるのか、旧トークンホルダーが破産をした場

合に破産管財人との関係がどうなるのか、等の問題が生じ、場合によりトークンの譲渡を受けてい

た者が権利を第三者に対抗しえない、ということになり、取引の安全を害する可能性がある。

■ 動産

動産については、目的物を引渡す(占有を移転する)ことが対抗要件となる(民法第 178 条)。こ

の引渡しには、現実の引渡し、占有改定による引渡し、指図による引渡し、簡易の引渡しの方法が

認められている。また、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律

(以下、「動産及び債権譲渡特例法」」という。)により登記を受けた動産については、引渡しがあっ

たものと見做され、対抗要件を具備する。

動産のトークン化を考えた場合、例えば SPC102を設立し、SPC が動産を保有し、トークンを発行

する、その上でトークンホルダーが動産の所有権を有し、かつトークンの譲渡があった場合には指

図による占有移転による引渡しがあったものとする、などの合意をすることが考えられる。但し、この

ような指図による占有移転の合意が擬制的にすぎないか、トークンホルダーにより他の方法により

動産譲渡がなされた場合、やはりトークンと権利の分離が起きてしまうのではないか、などの問題が

生じる。

また、そのほか実際の動産を管理する SPC が当該動産を第三者に譲渡した場合、即時取得を

した第三者には対抗できない点も課題である。

■ 不動産

不動産のトークン化についても、例えば SPC を設立し、SPC が不動産を保有し、トークンホルダ

ーが所有者である、とする仕組みを組成することが考えられる。

しかしながら、日本法上、不動産の移転の対抗要件は不動産登記によってのみ行われるところ

(民法第 177 条)、トークンの移転によって不動産所有権が移転する、ということを対抗要件にするこ

とはできないと考えられる。

以上のように、権利のトークン化を考えた場合、日本法上、トークンの移転では対抗要件が具備

102 SPC(special purpose company, 特定目的会社)とは、限定された目的のために設立される会社である。

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されず、トークンホルダーと実際の権利者が異なることが生じうる、という問題が指摘された。この点

に関しては、そもそも民法上、トークンのようにプライベートキーの占有によってのみ権利者が明ら

かになる、という仕組みは想定されておらず、日本がブロックチェーン大国となるためには、ブロック

チェーン上の「トークン」の移転を認めるなど権利移転要件を創設するための、民法改正、又は何ら

かの特例法の制定を議論すべきである、と指摘があった。

また、特例法を制定しないまでも、不動産の登記所のシステムから API で登記の情報とトークン

の記録を相互に更新していくことで、登記とトークンの記録を一致させ、結果として第三者への対

抗要件が具備される、という方法も検討の方向性として考えられる。なお、合意した形跡があり、特

殊な場合を除いてスマートコントラクトが実行されると権利移転する、ということが言えればよいとい

った指摘もあった。

トークンの差押 ブロックチェーンに権利を載せたトークンをどう差し押さえるのかというトークン自体の執行可能

性の問題となりうる。これについては、東京地判平成 28 年 10 月 14 日をもとにした返還請求権の

差押の事件が参考になる 103。このもととなる事件は、高齢者に対して「転売すれば、利益を得ること

ができる」などと次々に勧誘し、実勢価格の約 30 倍の単価で売却し、1500 万円ほどをだまし取っ

たという事件である。被害者が、詐欺を行ったものに対して請求訴訟を行い確定した。その判決を

もとに差押を行ったという事案である。

この案件において、被害者は債権者として、第三債務者たる仮想通貨の交換所に対して、債務

者の有する仮想通貨の返還請求権を差し押さえている。さらに、「第三債務者への送達以後も債

務者がネットワーク上のアカウントやウォレット等のサービスを自由に利用できるとなれば、債務者

の処分禁止効や第三債務者の弁済禁止効がない(ダダ洩れ)状態になる。そこで、第三債務者とな

った仮想通貨交換業者としては、民事執行法第 145 条 I 項違反や執行妨害などの無用な争いに

巻き込まれないためには(略)、民事執行法上の弁済禁止義務の付随義務として、提供しているア

カウントやウォレット、サービスを中断、停止、あるいは削除することが必須である。」として、それら

に対する配慮をなした上で差押をしている。

トークンに対する差押といっても、交換所等の何らかの中間的な事業者を経由する場合につい

ては、その事業者等に対する返還請求権を差し押さえるということで対処しうる場合も相当あるよう

に考えられる。

では、債務者の唯一の資産が、ブロックチェーン上で保管されていたらどうするのか。結局、司

法権の行使から免れる財産を認容することになるのではないか、仮想通貨がその意味で治外法権

となってしまうのではないか、という疑問がある。この場合は、いわゆる執行不能となってしまい、結

局は間接強制しか方法がないということになってしまうものと考えられる。

103 藤井裕子(2017)「仮想通貨等に関する返還請求権の債権差押え」金融法務事情 2079 号、6 頁

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分散型システムにおける法的責任に関する論点

分散型のアプリケーションである DApps(Decentralized Applications)104に関しては、特定の運営

主体が存在せず、開発はコミュニティによって行われる。このとき、スマートコントラクトに関してバグ

など、不正確なプログラムによって誤った取引がなされて損害が発生した場合など、ブロックチェー

ンを活用したサービスに関して、売主の行動により金銭的又は物理的な被害が買主に生じた場合、

ブロックチェーンの構築やサービスの提供に貢献した個人は、民事的な責任(不法行為責任等)を

負いうるか、という問題が発生しうる。

まず一義的には、当該個人において、民法第 709 条の定める故意・過失があるか、という点が

問題になりうる。個人において、自己が開発したプログラムにより、第三者の権利が侵害されること

について、そもそも予見可能性があったかといった点を含めて問題になると考えられる。一般的に

は、瑕疵が内在するプログラムによって、企図しない取引がなされたことによって発生した損害とブ

ロックチェーンの構築者の行為の因果関係も問題となる可能性がある。

この論点については、そもそもオープンソースソフトウェアを含めた。コミュニティや複数人が開発

に参加するプログラムの瑕疵に関する法的責任の議論がまだ十分に進んでおらず確定的な方向

性に言及することが難しいことから、今後早急に議論が進められることを望む声があった。

準拠法に係わる論点

ノードが分散しており、人々が世界中に点在している状況下で、国際的な観点で、何を準拠法と

し、意思の合致はどの法律で考えるべきかという問題が発生しうる。

まず、上記のように世界的に参加者がいるブロックチェーン上の法律問題を考えるにあたっては、

厳密に見る場合には、(1)どこの誰が(どの国の裁判所か、行政機関か)(2)どのような法律問題

(刑事法であるのか、民事法であるのか、行政に関する法律なのか)を、検討するのかということに

よって、左右されることになる 105。

その意味で、厳密な分析は極めて難しいが、むしろブロックチェーン上の法律問題については、

基本的に当事者の合意で解決をなそうという性質が合致すると考えられる。

例えば、我が国において、契約の成立や効力が議論されている場合においては、当事者が契

約締結時において、適用地を選択した場合には、当該土地の法律が準拠法とされる(法の適用に

関する通則法-以下、「法適用通則法」という-第 7 条)。これに対し、準拠法の選択がない場合

には、法律行為の当時において、法律行為の成立及び効力は、法律行為に最も密接な関係があ

る地の法によることとなる(同法第 8 条 1 項)。この密接関連性に関しては、同法同条 2 項におい

104 DApps とは、開発者コミュニティなど非中央集権的な主体により構築されたアプリケーションであり、トークンを報

酬として、中央の管理主体なく、アプリケーションの構築が行われる。 105 この点について「電子商取引及び情報財取引等に関する準則 改訂案」(平成 22 年 8 月)は、我が国での考

え方を述べたあとに、これは「当該紛争について我が国の裁判所に訴えが提起された場合についての我が国の立

場からの判断であることに注意する必要がある。すなわち、当該紛争について外国の裁判所に訴えが提起された

場合には、当該外国の法に従って、国際裁判管轄が認められるかどうかや、どの国の民法や商法が適用されるか

について判断されるのであり、その結論が我が国のそれとは異なる可能性もあるのである。」と論じている(同 10

頁)。

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て、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、給付を行う当

事者の常居所地法を最も密接な関係がある地の法と推定するとの定めがある。

もっとも、このような説明は、我が国において、契約の成立や効力が議論されている場合の処理

ということになる。しかしながら、契約をめぐって紛争が起きた場合に、我が国のような国際私法に

関するアプローチがすべての国で同一であるという保障はない。実際には、ブロックチェーン上の

アプリケーションの提供者(以下、プロバイダーという)の常居所地法が適用され、また、執行等の

関連からプロバイダーの常居所を管轄する裁判所において裁判が行われるものと考えられるが、

理論的には紛争の解決が図られる裁判所と適用される法は全く別の問題ということになる。

その意味で、どの国で一定の法律関係の解決が図られるのかというのが、実際としては先に来る

のであり、その場合、特にプラットフォームをなしている上記プロバイダーの指定する裁判所が紛争

の解決を図ることになろう。その場合、その国の国際私法の考え方で法律問題の性質決定及び準

拠法が指定されるのであるが、そのこと自体は、一般の取引と変わることはないといえる。

基本的には、当事者間の合意を尊重する方向性は、どの国においても採用されている手法であ

るといえる。準拠法を指定しない者は、それが上記の枠組みにおいて、みずからの利益になるとい

うことであろう。

上記のように、実際に法の適用されるルールは明確であったとしても、実際にわが国の司法制

度が利用されるのか、というのは全く別の問題である。アジアの各国との間で、判決の執行の可能

性が乏しいこと、判決例の公開があまり進展していないこと、証拠の開示制度がないことなどが、わ

が国の司法制度の問題として指摘されることがあり、これらの問題点を克服していくことによって、

事業者が紛争解決のプラットフォームとして日本の裁判所を利用するようにならなければならないと

の意見も聞かれた。

3.2. 個別分野における論点

個別分野のユースケースについて、ブロックチェーン技術の社会実装にあたって法制度上の課

題に関する議論を行った。

医療・ヘルスケア分野における論点

医療に係わる情報については、生命又は人体に影響を及ぼすことが多いため、真正性や完全

性が求められる。そのため、情報の取扱いや情報システムの構築・利用に関して、他の分野と異な

る扱いが法令等において求められているところである。そこで、医療・ヘルスケア分野固有の法制

度上の課題の有無、内容について、治験データ管理プラットフォーム及び医療カルテの共有シス

テムを取り上げ議論を行った。

治験データ管理プラットフォーム

システム評価を行った治験データ管理プラットフォームを社会実装する上で法制度上の課題に

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関して議論を行った(ユースケースの詳細は、2.2.1.(1)を参照されたい)。

書面の保存、交付等に係わる論点 医療機関、治験依頼者等による治験の実施基準等を定めた「医薬品の臨床試験の実施の基準

に関する省令」(平成 9 年厚生省令第 28 号。以下「GCP 省令」という。)では、原則として治験依

頼者(製薬企業)が「モニタリングを実施する場合には、実施医療機関において実地に行わなけれ

ばならない」とされている(GCP 省令第 21 条第 2 項)。ただし、「他の方法により十分にモニタリング

を実施することができる場合には、この限りではない」(GCP 省令第 21 条第 2 項)とされており、例

外的に実地以外の方法によることが認められている。

実地以外の方法によりモニタリングが行える場合として、中央モニタリングが認められている。中

央モニタリングは、「治験の方法(評価項目等を含む。)が簡単であり、参加実施医療機関の数及

び地域的分布が大規模であるなどのために、実施医療機関等への訪問によるモニタリングが困難

である治験」において行われる例外的な方法であり、「治験責任医師等又は治験協力者等の会合

及びそれらの人々に対する訓練や詳細な手順書の提供」、「統計学的にコントロールされた方法で

のデータの抽出と検証」、「治験責任医師等との電話、ファックス等による交信等の手段」を併用し、

治験の実施状況を調査し、把握する方法である(厚生労働省通知「医薬品の臨床試験の実施の

基準に関する省令」)。

統計学的にコントロールされた方法でのデータの抽出と検証は、サンプル SDV(Source

Document Verification)と呼ばれており、治験の効率化の観点から導入が期待されている。特に、

サンプル SDVの実施にあたっては、電子的に治験関連データを登録・閲覧できるEDC(Electronic

Data Capture)システムの導入が、欧米の製薬企業において進められているところである 106。なお、

本ユースケースも、EDC に位置付けられるものであるが、ブロックチェーン技術を用いることで、効

率的なモニタリングの実施のみならず、治験データの不正な改ざんの防止が期待できる。

治験依頼者から指名されるモニターは、モニタリング報告書 107を治験依頼者に提出しなればな

らないとされており(GCP 省令第 22 条第 2 項)、当該規定においては書面による提出が想定され

ている。しかし、e-文書法を受けて制定された「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間

事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令」(平成 17 年 3 月 25

日厚生労働省令第 44 号。以下、「省令 44 号」という。)において、GCP 省令第 22 条 2 項につい

て、書面による提出に代えて、電磁的記録により提出することが認められている。そのため、EDC

106 リモート SDV について、日本国内において導入が進まない理由として、治験依頼者側での導入コスト及び医療

機関側のオペレーションコストの高さである。ブロックチェーン技術を用いて容易に使えるようになることをポイントと

してビジネスを始める場合、利活用者がコストを感じずに着手できるような分かりやすさがあれば、医療機関側も導

入に踏み切りやすいとの指摘がある。 107 モニタリング報告書には、モニタリングを行った日時、モニタリングの対象となった実施医療機関、モニターの氏

名、モニタリングの際に説明等を聴取した治験責任医師等の氏名、モニタリングの結果の概要、前項の規定により

治験責任医師に告げた事項、並びに実施医療機関における治験がこの省令又は治験実施計画書に従って行わ

れていないことを確認した場合講じられるべき措置及び当該措置に関するモニターの所見を記載しなればならな

い。(GCP 省令第 22 条第 2 項)

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により、モニターや医療機関が治験関連データを登録・閲覧することが可能となっている。このとき、

メール等の手法が想定されている省令 44 号第 11 条第 1 項第 1 号イ、又はクラウド・ウェブページ

の閲覧等が想定されている同号ロ 108に掲げられた方法により行わなければならないとされており、

ブロックチェーンにより電磁的な記録としてのモニタリング報告書の提出が認められるかが問題とな

りうる。

GCP 省令に基づき治験関連文書の交付及び保存の方法、留意事項等を定めた厚生労働省事

務連絡「治験関連文書における電磁的記録の活用」に関する基本的考え方」では、具体的な交付

の方法として、「e-メールに添付し交付」、「DVD-R等を交付」、「クラウド等システムに対して、ア

ップロードし、受領者がダウンロードする方法により交付」を例示している。ただし、これは例示であ

り、これに限るものではないと解される。また、実質的な機能として求められるのは、「書面の交付等

に係わる論点」で論じたとおり、相手方に到達し、保存等できることであり、ブロックチェーンによる

電磁的記録の交付等は、これを満たす。最後に、ブロックチェーンが該当しうると解釈できるかが問

題となりうる。省令 44 号第 11 条を見ると、「主務省令の作成要領」と同じ規定となっている。ブロッ

クチェーンについては、「書面の交付等に係わる論点」で論じたとおり、クラウド等のシステムと変わ

るところなく同様の論理で解釈可能と考えられる。

その他の論点 以上の検討のように、ブロックチェーン技術固有の法制度上の論点は、多くないと推測される。

実際にブロックチェーン技術を実装する場合には、クラウドコンピューティング、その他 IT に関する

既存の法令、ガイドライン等を遵守していくことが望ましい。

医療情報の共有システム

ユースケース概要 医療情報の有効活用等に向けて診療録や処方箋等の医療情報の電子化が進められている。

一方で、改ざん等がなされた場合に生命・人体に影響を及ぼすリスクがある医療情報については、

法令等において、データの真正性等の情報セキュリティの確保が強く求められているところである。

そのようななかで、診療情報や処方箋を、医療機関、薬局、保険会社等の間でブロックチェーン技

術を用いて共有することで、クライアント・サーバ型システムでの実装に比べて、より安価に、かつ

108 省令 44 号 第 11 条

「民間事業者等が、法第 6 条第 1 項の規定に基づき、別表第 4 の 1 及び 2 の表の上欄に掲げる法令のこれら

の表の下欄に掲げる書面の交付等に代えて当該書面に係る電磁的記録に記録されている事項の交付等を行う場

合は、次に掲げる方法により行わなければならない。

一 電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの

イ 民間事業者等の使用に係る電子計算機と交付等の相手方の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回

線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法

ロ 民間事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された書面に記載すべき事項を電気通信

回線を通じて交付等の相手方の閲覧に供し、当該相手方の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該

事項を記録する方法(法第六条第一項に規定する方法による交付等を受ける旨の承諾又は受けない旨の申出を

する場合にあっては、民間事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルにその旨を記録する方法)」

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改ざん不可能な形で医療情報を関係者間で共有することが可能になると考えられる 109。

個人情報保護法上の論点 医療情報の共有システムは、医療機関、薬局等、複数のステークホルダーで医療情報が共有さ

れるため、各ステークホルダーは、個人情報取扱事業者として義務を課されられることとなるが、新

たにノードが加わった場合、個人情報の共有に関して、第三者提供となるのか等の論点が存在す

る。このとき、ブロックチェーン上で診療録等の情報を共有する場合、ブロックチェーン上では、診

療録等の医療情報のハッシュ値のみを共有し、分散型のサーバ等により個別に医療情報を送信

する場合が考えられる。それぞれ、共有される情報、医療情報の共有範囲が異なることから、以下

では分けて議論する。

■オンチェーン 110で医療情報を送受信する場合

患者、医療機関、薬局、保険会社等の間で、医療情報を共有するにあたって、医療情報そのも

のをブロックチェーン上に記録する方法が考えられる。この場合、パブリック型のブロックチェーン

で実装した場合、医療情報が不必要に不特定多数の者に共有されるため、プライバシーに対する

リスクが高いことから、将来的な可能性を否定するものではないが、この点に対する具体的な手当

てが考案されていない現時点においては適当ではないとも考えられる。そこで、コンソーシアム型

のブロックチェーンで実装した場合について、個人情報保護法上の問題を議論する。

当初、ブロックチェーンに参加している医療機関等による個人情報の取得に関しては、クライア

ント・サーバ型システムによって実装したものと相違なく、取得時における本人同意の取得等が求

められる。一方で、新たにノードが追加される場合に、当該ノードへの医療情報の送信に関して、

既存のノードに情報を開示することが許されるのか、という論点が存在する。

ノードが後から追加される場合としては、例えば地域医療連携のように、かかりつけの医院から

他の医院の紹介があり、当該他の医院に診療録を共有し、診療後、当該他の医院、薬局、かかり

つけの医院で、電子処方箋が共有されるような場面が想定される。このとき、既存のノードから第三

者提供となる場合には、例えば、既存の全てのノードに対する記録義務、新規のノードに対する確

認・記録義務が課されうるのではないかとも考えられる。

110 定まった定義は存在しないが、ここではブロックチェーン上に直接記録されるやり取りをオンチェーンといい、ブ

ロックチェーン外に記録される取引をオフチェーンという。

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図 12 ノードが追加された場合の個人情報保護法上の義務

そもそも、第三者提供ではなく、最初に受診した医療機関が他のノードをすべて委託先として扱

うことがあるのではないか、という指摘があった。この場合は、第三者への提供とはみなされず、個

人情報保護法第 25 条及び第 26 条における確認・記録義務が適用されないとも考えられる。しか

し、当該医療機関が他のノードに対する委託先管理を、適切に実施することができるかを検討する

必要がある。

確認記録義務との関係では、最初に医療機関を受診した時点等で同意を得ることにより、本人

に代わって情報を提供するとして、確認・記録義務を免れる余地がないか、という指摘があった。医

療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス 44 ページにおいては、

「医療・介護関係事業者が患者・利用者本人からの委託等に基づき当該本人の個人データを第三

者提供する場合は、当該個人情報取扱事業者は「本人に代わって」個人データの提供をしている

ものである。したがって、この場合の第三者提供については、記録義務は適用されない。」として、

医療機関等が患者等に提供する医療サービスのうち、「他の病院、診療所、助産所、薬局、訪問

看護ステーション、介護サービス事者等との連携」や「他の医療機関等からの照会への回答」が含

まれるとされている。このため、あらかじめ上記のような情報連携として許容される情報提供もありう

るが、当該患者への医療・介護サービスに必要な範囲を超えた範囲のノードに情報が共有される

場合には、やはり確認・記録義務が生じるのではないかと考えられる。

なお、第三者提供に際しての記録義務、追加されたノードにおける第三者提供を受ける際の確

認・記録義務が課される場合については、後述するパーソナルデータストア(PDS)等の仕組みや

個人情報保護法 25 条に定められた事項をブロックチェーンに記録することにより、ノードの参加者

に対する義務を履行する上でのコストを減らしつつ、適法に医療情報を共有することが可能となる

との指摘がある。

医療機関A 医療機関B

薬局

・本人同意の取得・第三者提供時の記録義務

・本人同意の取得・第三者提供時の記録義務

第三者提供を受ける際の確認記録義務

既存のノード 新規のノード

④医療情報の送信

④医療情報の送信

①医療情報の送信

例:診療録を共有例:診察

他の医院を紹介

アクセス権限管理サーバー

②権限付与依頼 ③権限付与

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■オフチェーンで医療情報を送受信する場合

一般に、ハッシュ値は、記号・数値のランダムな組み合わせであり、当該情報のみでは、特定の

個人を識別することはできない。そのため、診療録などの医療情報が記録された媒体又は医療情

報それ自体のハッシュ値を全ノードで共有しておき、求めに応じて、診療録等を分散型サーバで、

医療機関と薬局等の特定の関係者間で共有する場合には、当該ハッシュ値は特定の個人を識別

しないため、個人情報には該当せず、ハッシュ値の共有に関して個人情報の第三者提供に係わる

本人同意は不要と考えられる(例えば、医療情報をハッシュ値とすると、医療情報のハッシュ値をノ

ードとして参加する全医療機関、薬局などで共有する場合を想定。医療情報は、各参加者のサー

バ間で個別の送受信する)。

物流・サプライチェーン・モビリティ等分野における論点

本項においては、物流・サプライチェーン・モビリティ等分野における法制度上の課題等につい

て検討する。 物流・サプライチェーン・モビリティ等分野の法制度検討会では、ユースケースとして、

システム評価の対象となった「EV バッテリーライフサイクル管理」及び電力融通取引を取り上げる。

EV バッテリーライフサイクル管理

システム評価の対象となった EV バッテリーライフサイクル管理に関する法制度上の論点につい

て議論を行った(ユースケースの詳細は、2.2.2.を参照されたい)。

計量法に係わる論点 EV バッテリーの安全性の確保のため、製造、販売、流通、利用までのライフサイクル全体にわた

って、所有者の情報をブロックチェーンに記録・管理し、また、残存価値、利用予測をAIで解析し、

当該データをブロックチェーンに書き込み、活用する手法を議論した。

残存価値の活用にあたっては、ブロックチェーン上の書き込まれたデータの耐改ざん性のみな

らず、残存価値データの計測自体が正しいことが求められる。 適正な計量の実施の確保を目的と

した法令として計量法が存在するが、バッテリーの残存価値データの計測は、適用外と考えられる。

計量法施行令を改正してバッテリー残存価値予測エンジンを「特定計量器」に加えるべきか。ある

いは、加えなくともよいかという論点が存在する。

計量法は、計量の基準を定め、適正な計量の実施を確保する法律である(同法第 1 条)。このた

めに、取引もしくは証明における計量に使用され、又は主として一般消費者の生活の用に供される

計量器のうち、適正な計量の実施を確保するためにその構造又は器差に係る基準を定める必要

があるものとして政令で定めるものを「特定計量器」としている。この特定計量器は、国や自治体等

が精度を確認した計量器を使用すること等を義務づけることで、正確な計量を確保している。特定

計量器は、検定・検査の技術基準に合格し、証印が付されたものでなければ、原則、取引・証明に

使用できない。残存価値データは、バッテリーの劣化状態を表すものであり、以下のような式により

算出される。

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SoC(State of Charge)= 初期満充電容量(Ah) / 残容量

SoH(State of Health)= 劣化時満充電容量(Ah)/初期満充電容量(Ah)

本件ユースケースに関しては、2.2.2.(1)に示すとおり、バッテリーマネジメントシステム(BMS)と

呼ばれる、バッテリーの充放電等を管理するシステムからデータを得て、残存価値を計測すること

になる。

図 13 「EV バッテリーライフサイクル管理」のシステムイメージ 111

ここで、特定計量器に当該機器(システム)を指定するかは、通常であれば、バッテリーの残存価

値を計測するための機器の適正な計量の実施を確保することによる一般消費者の保護と特定計

量器に指定することにより発生する各種義務に関する事業者のコストを比較考量して決定すること

となるが、本件に関しては、特定計量器に指定することで、適正な計量が実施されていると残存価

値の利用者に示すことができ、翻って本件システムの導入が進む可能性も考えられる。現状、EV

メーカー等により計測されているバッテリーの残存価値データの測定方法は、ブラックボックス化し

ており、正確に計測されているか不明確であるといった指摘があり、また残存価値を計測する機器

を製造している企業からは、当該機器を特定計量器に指定され、計量標準となることで、お墨付き

を得ることができるため、事業戦略上好ましいとの意見もあった。このように、ブロックチェーン技術

固有の法制度上の論点ではないが、特定計量器として指定できるよう、検討を進めるのもよいので

はないかといった意見があった。

製造物責任に関する論点 我が国において、スモン事件、カネミ油症事件などの深刻な危害が発生する事件が相次いだこ

111 カウラ株式会社 2018 年 2 月 21 日付けプレスリリースより抜粋

<https://kaula.jp/ja/category/news/>(accessed: 2018.03)

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と、また、国民生活重視、消費者重視の考え方が従来以上に強調されるようになったこと、製造業

者、消費者双方の自己責任原則の強化を求める声が強まったこと、EC指令により欧州諸国にお

いて製造物責任立法が進展したこと等を背景として、我が国においても製造物責任法の立法化を

もとめる声が強まったことから、平成 6 年に製造物責任法が成立した(施行は、平成 7 年 7 月)。同

法は、「製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者

等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図」ものとしている(同法第 1 条)。

同法において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいい(第 2 条 1 項)、「欠陥」とは、「当該

製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期

その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること

をいう」と定義されている(同 2 項)。開発時において「科学又は技術に関する知見によっては、当

該製造物にその欠陥があることを認識することができなかった」場合には、責任を負わないという開

発危険の抗弁が定められており、また、他の製造物の部品等として使用された場合においては、そ

の「欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、か

つ、その欠陥が生じたことにつき過失がない」場合には、責任を負わないという部品・原材料製造

業者の抗弁も認められている(同法第 4 条)。

中古品又は再生品については、それぞれ、「製造又は加工された動産」にあたる以上は、製造物

であって製造物責任法の対象となると考えられる。ただし、中古品として売買されたものについて

は、①以前の使用者の使用状況や改造・修理の状況が確認しにくいこと、②中古品販売者による

点検、修理屋整備などが介在することも多く、製造業者の責任の有無については、このような事情

を踏まえて判断されることとなる。また、再生品については、再生品を「製造又は加工」したものが

製造物責任を負うとされる。

中古車販売業者が、当該バッテリーを買い取り、他の中古 EV に組み込んで EV を販売したとこ

ろ、当該中古 EV との相性が悪かったがゆえに、あるいは中古車販売業者の組み込み作業が拙か

ったがゆえに、その後に発火して損害が生じた場合、製造物責任の関係はどうなるのか、という問

題が発生しうる。

このような改造がなされた場合の責任問題はどのようになるのか、という問題が発生しうる。「改造」

「改良」は、新しい属性がくわえられており、それ自体が、「製造又は加工」に該当すると考えられる。

製造物責任法と改造が問題になった案件としては、東京地裁平成 24 年 12 月 21 日判決、札幌高

裁平成 14 年 2 月 7 日があるが、一般論としては、因果関係の問題として処理されている。

バッテリーが再販事業者に転売され、太陽光発電システムの蓄電池に組み替えられた場合にお

いては、その太陽光発電システムを製造したものが、同法における製造者となるのが原則と考えら

れる。ブロックチェーン技術を利用して移転先や利用方法等が記録されるシステムを構築した場合

において、上記の解釈が影響を受けることは、実質的に考えにくいものと推測される。

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電力融通取引

需要家(消費者)間で、スマートコントラクトを活用し、余剰電力を融通するシステムの実証実験

が進められようとしている。一方で、直接需要家間で電力を取引する場合、余剰電力を販売する消

費者(以下、「プロシューマー」という。)が電気事業法における小売電気事業者に該当し、現行法

では、直接取引することができないのではない、との意見が事業者から聞かれた。そこで、プロシュ

ーマーの小売電気事業者への該当性を議論するとともに、法の趣旨を踏まえつつ、電力融通取引

を実現するための制度の在り方について議論を行った。

ユースケース概要 電力融通取引は、直接需要家間で太陽光発電等により発生した余剰電力を売買する仕組みで

ある。電力融通は、IT により電力潮流を制御するスマートグリッドなどの技術を用いて行われる。埼

玉県浦和美園地区において、東京大学等が実証実験を進められようとしており 112、消費者間で電

力を売買する市場を構築しようとしている。スマートコントラクトを活用することで、自動的に電力を

売買するができるようになることが期待されている。

図 14 電力融通決済取引の概念図 113

プロシューマーの小売電気事業者への該当性 電気事業法は、電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによって、電気の使用者の利

益を保護し、及び電気事業の健全な発達を図るとともに、電気工作物の工事、維持及び運用を規

制することによって、公共の安全を確保し、及び環境の保全を図ることを目的とする法律である(同

法第 1 条)。そこでは、一般の需要に応じ電気を供給することを小売供給といい、小売供給を行う

事業(一般送配電事業、特定送配電事業及び発電事業に該当する部分を除く。)は、小売電気事

業となる。そして、小売電気事業を営もうとする者は、経済産業大臣の登録を受けなければならな

112 環境省「再エネ導入を加速するデジタルグリッドルータ(DGR)及び電力融通決済システムの開発・実証」 113 内閣府「環境エネルギー分野における Society 5.0 の実現に向けた各省庁の取組」

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い(同法第 2 条の 2)。小売電気事業者には、消費者保護や安定供給確保の観点から、小売供給

の相手方の電気の需要に応ずるために必要な供給能力を確保すること(同法第 2条の 12第 1項)、

小売供給の相手方からの苦情及び問い合わせを適切かつ迅速に処理すること(同法第 2条の 15)

などの義務が課されている。

そこで、ブロックチェーンを用いて P2P型マッチング及び電力制御を実現することによって、市場

原理に基づく分散型対応の電力融通を実現する電力流通システムを構築するというプロジェクトを

考えた場合に、上記電気事業法の規定は適用されるのか、が問題となりうる。具体的な法律の解

釈としては、プロシューマーが行う電力融通取引が小売電気事業に該当し、小売電気事業者とし

て登録を受ける必要や、小売電気事業者としての義務を果たす必要が生じるのか、が問題となりう

る。

まず、小売供給とは、「一般の需要に応じ電気を供給することをいう」(同法第 2 条第 1 項第 1 号)

が、「一般の需要に応じ」電気を供給することとは、何かという問題となりうる。「一般」とは、「不特定

多数」をいうとされており、「不特定」、「多数」の基準は、社会通念上決せられるべきと解されている

114。本件で想定される需要家は、特定された需要家ではなく広く一般消費者となるため、「不特定

多数」を対象に供給していると解される可能性が高く、一般の需要に応じていると考えられる。

次に、「小売電気事業を営もうとする者は、経済産業大臣の登録を受けなければならない」(法

第 2 条の 2)が、電力を融通するプロシューマーは、「小売電気事業を営もうとする者」にあたるか、

つまり、プロシューマーが行う電力融通が「小売供給を行う事業」として小売電気事業(同法第 2 条

第 1 項第 2 号)に該当するか、及び、営利性を有するかが問題となりうる。電気事業法において、

「事業」とは、「一定の目的をもってされる同種の行為の反復継続的遂行」と解されている 115。この

ため、プロシューマーが行う電力融通が「小売供給」と整理される限り、これを反復継続して遂行す

ることになるので、「小売供給を行う事業」として小売電気事業に該当すると考えられる。また、「事

業を営もうとする」とは、「営利の意思を持って反復継続して電気を供給することをい」い、「営利の

意思の有無は、具体的事例に応じて総合的に判断」116すると解されている。例えば、「自己の発生

電力を供給する場合であって、供給の相手方から、供給電気に対して何らかの対価を受け取るこ

とを前提としている場合は、営利の意思があると解釈される」。一方、「電気の供給者が慈善事業と

して無料で電気を供給する場合、ビル・アパート等において、管理人が一括受電した電気をビル・

アパート等の内に個別に取り付けたメーターを通じて供給し、その対価が一括受電により支払った

料金と同等の場合等は、『営む』ものではないと解する」とされている。仮に金銭的価値が低く、営

利性がないビジネスモデルを考えることも可能であるが、当該ユースケースの社会実装を進めるた

めのインセンティブ設計が出来ていないことになり、現実的ではないと考えられる。このため、金銭

的価値の授受は必然的に前提となり、「事業を営もうとする」にも該当すると考えられる。

以上のように、現行の法の解釈を前提とする限りでは、プロシューマーは、「小売電気事業を営

114 資源エネルギー庁電力ガス事業部、原子力安全・保安院編 (2005)『2005 年版電気事業法の解説』経済産業

調査会、35 頁 115 資源エネルギー庁電力ガス事業部、原子力安全・保安院編・前掲注(114)37 頁 116 資源エネルギー庁電力ガス事業部、原子力安全・保安院編・前掲注(114)39 頁

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もうとする者」と解せざるをえないものと考えられる。

電力融通取引の社会実装に向けた規制緩和の在り方 上述のとおり電力融通取引を行う場合、現行法の枠組では、プロシューマーが行う電力融通は

小売電気事業に該当する可能性があり、各プロシューマーは小売電気事業者としての登録が必要

との意見が多数挙げられた。しかしながら、現行法の小売電気事業者に対する義務を、そのまま個

人であるプロシューマーに課すことは、個人にとって負担が大きく、電力融通取引の社会実装を阻

害する可能性がある。そのため、社会実装を進めるためには、プロシューマーの実態を踏まえた制

度を設計する必要がある。、そのためには、自営線により小規模な範囲で実証実験を実施するの

ではなく、範囲を拡張して実証実験を行う必要があると考える。範囲を拡張して実証実験を行わな

ければ電力の安定供給といった技術的な問題の検証ができず、不特定多数の需要家への電力融

通サービスの普及に向けた法改正の議論や事業性の評価ができないためである。そこで、閣議決

定 117された「規制のサンドボックス」の活用を念頭におきつつ、実証実験を行うために必要な制度

の在り方を議論した。

■基本的な考え方

現行法の小売電気事業者に対する義務を、そのまま個人であるプロシューマーに課すことは、

プロシューマーにとって過度の負担となると考えられる。一方で、プロシューマーを小売電気事業

者としない場合、電力の安定供給の確保や需要家保護など、小売電気事業者を登録制とした法

の趣旨に反する事態が生じる可能性がある。そのため、小売電気事業者の基本的な枠組は維持し

つつ、安定供給の確保と需要家保護という法の趣旨とのバランスを取りつつ、プロシューマーによ

り実現可能な義務の設定方法について議論する。次の表 12 に掲げる「準分散型」のサービス形

態を想定し、プロシューマーと準分散型の運営主体との役割分担について議論する。

117 平成 30 年 2 月 9 日、プロジェクト型「規制のサンドボックス」制度の創設を含む「生産性向上特別措置法案」が

閣議決定された。新技術等実証に関して、法令違反しないことの確認に加えて、必要に応じて、規制の特例を措置

する。なお、本法案では、規制当局からの規制の適用に関して遅滞なく回答するものとされ、社会実験等の早期実

現が期待される。

経済産業省報道発表< http://www.meti.go.jp/press/2017/02/20180209001/20180209001.html >

(平成 30 年 2 月 9 日)(accessed: 2018.03)

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表 12 運営主体によるブロックチェーンのシステムの分類

■プロシューマーと運営主体の役割分担

① 小売電気事業の登録

プロシューマーが登録を個人で行うとした場合、手続が煩雑なため、サービスを利用しなくなる

と思われる。そのため、特定の運営主体が取りまとめて、登録の手続を行うのが望ましい。また、現

状の小売電気事業者の登録要件をプロシューマー個人が満たすことは現実的ではないため、小

売電事業者の登録要件についても、運営主体も含めた登録要件とすることが考えられる。

② 供給能力の確保

小売電気事業者には、供給能力確保の義務がある。小売電気事業者が供給能力を確保できな

い場合、系統運用者である一般送配電事業者が補充することとなる。このため、多くの小売電気事

業者が供給能力を確保できない事態が生じた場合、一般送配電事業者が調整電源を複数抱えて

いなくてはいけないこととなる。この際発生するコストは、最終的には、託送料という形で電気料金

に計上されるなど、需要家の利益を阻害する可能性がある。このため、安定供給を担う一翼として、

小売電気事業者としても自らの需要家の需要に応じるだけの供給能力を確保することが求められ

ている。

一般的に、余剰電力を供給するということは、不安定な電源を有しているということでもあるので、

プロシューマー個人で供給能力を確保することは困難と考えられる。ただ、運営主体が多くのプロ

シューマーを把握することで余剰電力や需要の平準化が可能となり、全体としての供給能力の確

保が容易となる可能性がある。実証実験を通じて安定供給に与える影響を検討した上で、供給能

力の確保義務のあり方を検討することが必要であるとの意見があった。

(ご参考)プラットフォーマー

準分散型分散型(Dapps)

物理的な取引あり 仮想世界に閉じた取引

シェアリングの対象 全般 モノ モノ、労働力 モノ、カネ

運営主体 特定の主体 特定の主体 オープンなコミュニティ オープンなコミュニティ

具体例 Uber(ライドシェア)、Airbnb(民泊)

電力融通取引(うらわ美園実証実験) 等

Lazooz(ライドシェア) 等 計算資源のシェアリング※仮想通貨(ビットコイン)

特徴 ルール形成 運営規約等によりルール形成

特定の運営主体が決定(コミュニティによることも可能)

コミュニティにより合意形成 コミュニティにより合意形成

参加 個別の契約 個別の契約 オープン オープン

マッチング・執行 参加者が意思によりマッチング

スマートコントラクトによる自動的なマッチング・執行

スマートコントラクトによる自動的なマッチング・執行

スマートコントラクトによる自動的なマッチング・執行

役務、物、価値等の移転

システム外で移転 システム外で移転 システム外で移転 システム内で移転

取引後の対応(苦情への対応、モニタリング等)

対応可 対応可 対応不可 対応不可(ただし、ルールが強制されるため、対応する必要性があまりない)

運営者のマネタイズ 取引手数料、登録料等 取引手数料、登録料等(中央集権的なプラットフォーマーに比べて安価)

トークンの価値上昇によるリターン

トークンの価値上昇によるリターン

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③ 供給条件の説明等

需要家保護の観点から、小売電気事業者は供給条件等の説明義務を課されているが、プロシ

ューマーが契約の都度、個別に説明義務を果たすことは困難が伴う可能性がある。他方で、供給

条件の説明は、ある程度の定型化が可能であり、アプリケーション上で説明を行うのであれば、負

担を軽減することが可能と考えられる。供給条件等も含めて定型化できるものを定型化し、あらかじ

め雛形を作成し、実装することが有用ではないかとの指摘がある。もっとも、需要家保護の観点か

らは、あまり複雑な供給条件とした場合には、簡易な説明は法の趣旨に反することになることから、

供給条件等の簡素化も合わせて検討する必要があると考えられる。

④ 苦情等の処理

需要家保護の観点から、小売電気事業者は苦情等処理義務を課されており、本件についても需

要家保護は図られるべきであるから、苦情等処理義務を負わせるべきであるが、プロシューマー個

人による苦情等処理は現実的ではないと考えられる。そのため特定の運営主体が、消費者や消費

者団体からの苦情受付窓口を設置し、苦情を受け付け、対応を行うことが現実的であるとの意見が

あった。

⑤ 広域的運営推進機関への加入義務

小売電気事業者となると広域的運営推進機関に加入する必要があるが、加盟費の水準など、現

在の小売電気事業者を前提とした規定のままでは不都合が生じる可能性がある。プロシューマー

の広域的運営推進機関への加入義務の有無や運営主体との役割分担も含めて検討する必要が

あるとの指摘があった。

⑥ 事業を休廃止する際の需要家に対する周知義務

需要家保護の観点から、突然小売供給が打ち切られることがないよう、小売電気事業者は、事

業を休廃止する際、需要家に対し周知する義務が課されている。しかし、本件でプロシューマーが

行うのは、あくまで余剰電力の供給であるとすれば、プロシューマーからの電気の供給が停止され

たとしても、他の小売電気事業者から引き続き電気の供給を受けることで、電気の供給に大きな支

障は生じないとも考えられる。このため、当該義務についてはある程度緩和することも可能であると

考えられる。例えば、一定期間取引がない場合には、休廃止したものと見做し、特定の運営主体が

取りまとめて周知するというような方法も考えられる(スマートコントラクトにルールを記述し、条件が

満たされた場合に、自動的に周知するという方法も存在する。)。

その他、託送料金の負担等については、実証実験の結果を踏まえ、必要に応じて、検討を行う必

要がある。

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システム構築に必要となる要素技術

4.1. ブロックチェーンの課題と解決技術

今日、ブロックチェーンは主に仮想通貨分野で広く実用的に使用されているが、解決されるべき課

題は多い。また、仮想通貨以外でも、金融、流通、IoT、パーソナルデータ管理などの分野で活用

できる技術であると言われているが、従来の中央集権的な信頼を前提としたシステムとの考え方の

違いなどから、実用化にはさらに多くの課題が存在する。

本章では、これらの課題を挙げ、解決のための技術とあわせて示す。

今回見出した課題をシステム評価軸に照らして整理すると、次の評価指標に大別された。

(1) 性能効率性

(2) 保守・運用性

(3) セキュリティ

以下では、この分類に沿って各課題と解決技術を提示する。

また、以降で説明する解決技術の成熟度はさまざまである。そこで、それぞれについて、成熟度に

応じて次のように 3 種類のラベル付けを行った。

ラベル 説明

[実用] 製品化あるいはサービス化が行われ、実用段階にある技術

[研究] 論文発表が行われているが、製品化及びサービス化が行われていない、研究段階の技術

[構想] 査読付きの論文発表は行われていないが、ホワイトペーパーは発行されている等の、

構想段階の技術

なお、本章にて解説が必要な用語は、初出時に「*」を付記し、「4.6 用語集」で解説をしている。

4.2. 性能効率性

● 高速化

ブロックチェーンは、各トランザクションを、中央集権的に処理するのではなく、分散された各ノー

ドで合意を形成しながら処理するため、従来のシステムに比べ一般的には処理速度が低い。例え

ば、もともとのビットコイン*のブロックチェーンのスループットは最大毎秒 7 トランザクションである。

性能改善のために、さまざまなアプローチが試みられている。

・ 台帳外取引(ライトニングネットワーク、ライデンネットワーク等)

ビットコインやイーサリアムに代表されるパブリック型ブロックチェーン*では、主に投資目的とみら

れる仮想通貨の取引量増加に伴いトランザクション量が増大し、その遅延が問題になっている。ト

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ランザクションを優先的に処理してもらうために、手数料の上乗せ競争がおきた結果、手数料の増

大も発生している。そのため、台帳に書き込むトランザクション量の抑制が検討されており、方法の

1 つとして、取引当事者間で台帳外で複数回の取引を行い、その結果をまとめて台帳に記載する

方式が検討されている(図 15)。この考え方にもとづいて、ビットコイン向けにはライトニングネットワ

ーク[118,119] [研究]、イーサリアム向けにライデンネットワーク[120] [研究]の開発が行われており、これ

らの方式により、トランザクション量を抑制し、遅延を回避できるだけでなく、結果の妥当性を担保し

つつ台帳外で高速で複数の取引が実行できる効果も生まれる。

・ 合意形成アルゴリズム*の改善(シャーディング)

台帳外取引はブロックチェーン技術の使い方を工夫することによる速度性能の改善だったが、

ブロックチェーン内の合意形成アルゴリズム自体を改善する方法も提案されている。シャーディング

と呼ばれる方法では、ノードをグループ分けし、複数のグループで同時並行にトランザクションを処

理し、最後に担当グループがそれらをまとめて台帳に記録する[121](図 16)。この方式を用いて、

ZILLIQA は 3600 ノードで 6 つのグループを形成し、毎秒 2488 取引処理を実現した[122] [研究]。

118 Poon and T. Dryja(2016) “The Bitcoin Lightning Network: Scalable Off-Chain Instant Payments”,

<https://lightning.network/lightning-network-paper.pdf>(accessed: 2018.03) 119 真田雅幸“ライトニングネットワーク始動 Blockstream がオンラインストアをオープン”

<https://btcnews.jp/196kpru614701/> (accessed: 2018.03) 120 https://raiden.network/ (accessed: 2018.03) 121 Lui et al. (2016) “A Secure Sharding Protocol For Open Blockchains”, ACM CCS’16. 122 https://www.zilliqa.com/keynote.html (accessed: 2018.02)

図 15 複数回の取引をまとめて、トランザクションを削減する

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・ トラステッドハードウェア*の活用(MinBFT 等)

ソフトウェア上の工夫だけでなく、新しいハードウェアを利用したアルゴリズムの改善策も提案さ

れている。近年の、汎用プロセッサに備わったトラステッドハードウェアを活用することによって、より

高速で頑強な合意形成アルゴリズムを構成できる。コンソーシアム型ブロックチェーン*で利用でき

る以前から知られた合意形成アルゴリズムとして、PBFT*がある[123]。これを踏まえた MinBFT と呼

ばれる方式は、トラステッドハードウェアを活用して、PBFT よりも高速な合意形成を実現する。合意

形成に参加するノードが、理由が悪意か故障かによらず、合意形成を妨げるメッセージを発信した

場合(ビザンチン障害*)に、そのことを受信者が容易に検知できる仕組みを、トラステッドハードウ

ェアを用いて構成する。これにより、合意形成に必要な通信回数を減らしている。加えて、MinBFT

では PBFT に比べ、頑強性が向上している[124]。PBFT では参加ノードの 1/3 未満までのノードが

ビザンチン障害を起こしても合意形成が可能だが、MinBFT ではさらに多い 1/2 未満までのノード

のビザンチン障害にも対処できる [研究]。

・ 台帳データサイズの削減(外部データベースとの連携)

ブロックチェーンでは新しいブロックが追加され、消去されることがないため台帳のデータサイズ

が増えていく性質がある。参加者(ノード)は仕様上、すべての台帳を保持することが必須ではない

ことが多いが、すべてを保持した方が台帳データの必要な部分を逐次ダウンロードする方式に比

べ性能面で有利になる。そのためブロックチェーン技術の誕生初期のころから台帳データの増大

123 Castro and Liskov,(2002) “Practical Byzantine Fault Tolerance”, ACM Trans. Computer Systems, vol. 20,

no. 4, 398-461. 124 Veronese et al. (2013) “Efficient Byzantine Fault-Tolerance”, IEEE Transactions on Computers 62, 16.

図 16 シャーディングにより同時並行でトランザクションを処理する

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に伴い、ストレージを圧迫することが懸念されてきた。そしてこれが現実となりつつある。

例えば、ビットコインのデータサイズは 2017 年に前年比で約 1.6 倍増え、149GB になっている

[125]。イーサリアムの場合は 2017 年 9 月 2 日から 2018 年 2 月 5 日までの間にデータサイズが約

2.3 倍に増加している[126]。将来的にストレージコストのさらなる増加が予想されており、参加者ノー

ドがデータ保持を放棄する可能性もある。このことは、データを保持する人が特定のノードに限定さ

れ、ブロックチェーンの非集中の特性などが脅かされることを意味している。

今後、スマートコントラクトや人工知能技術の普及に伴い、IoT デバイス間の自動取引などにより

トランザクションが多数発生することが予想される中、ブロックチェーンに記載するデータを最小限

にとどめ、記載しないデータは外部のクラウドなどにデータベースを持つなど新しい枠組みの設計

が必要である。現在、この考え方にもとづいたブロックチェーン技術の開発が行われている[127]

(図 17) [研究]。

4.3. 保守・運用性

● ランタイム展開の容易化

ブロックチェーン技術は新しい技術であり、頻繁にソフトウェアのバージョンアップが行われる。そ

のため、運用者は頻繁に新たな実行ファイルを展開する必要がある。ランタイム(実行ファイル及び

データファイル)の展開を容易に行うためには、仮想マシン技術やDocker*などのコンテナ技術*が

125 https://www.statista.com/statistics/647523/worldwide-bitcoin-blockchain-size/ (accessed: 2018.03) 126 https://etherscan.io/chart2/chaindatasizefast (accessed: 2018.03) 127 https://blockstack.org/whitepaper.pdf (accessed: 2018.03)

図 17 ブロックチェーン外にデータを保存する

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有効である。

これら仮想化技術を活用する際の利便性は、データ秘匿性とトレードオフの関係にあることに注

意が必要である。仮想マシン及びコンテナ内のデータはホストから秘匿されない。特にこれら仮想

化技術をクラウド上で動作させる場合は、クラウド事業者にも仮想マシン及びコンテナ内のデータ

が見えてしまう。ブロックチェーン上に記録するデータの開示範囲を限定したい場合には、暗号技

術など、ホストからデータを秘匿する手段について考慮が必要である[構想]。

● 脆弱化対策

ブロックチェーン技術は、信頼できる中央の管理者がなくても信頼性や可用性を維持する仕組

みを備えているが、それでも信頼性や可用性が急激に低下する可能性も考えられる。

例えば、マイニング報酬の下落などにより、ノード管理者のモチベーションが低下すると、参加ノー

ド数が大幅に減り、その結果、合意形成が特定の勢力に支配されやすくなる恐れがある。

また、ブロックチェーン技術が使用しているハッシュ関数*や暗号方式の脆弱性が発見されたり、量

子コンピュータ*の発達に伴い公開鍵*暗号アルゴリズムが危殆化したりすると、ブロックチェーン

の安全性が一挙に損なわれることが懸念される[128, 129]。

暗号アルゴリズムの脆弱性対策の議論は開始されている [研究]。それ以外の理由で安定性が

脅かされる際にも、ブロックチェーン技術を使ったサービスを安定的に運用できるために、ある方式

のブロックチェーンを利用中のアプリケーションが、異なる方式の別のブロックチェーンに無停止で

移転できるようにする仕組みが提唱されている[130,131] [構想]。これが実現すれば、あるサービスが

利用中のブロックチェーンが脆弱化した際には、そのサービスを、世の中に複数あるパブリック型

ブロックチェーンのうち、まだ脆弱化していないものに移転させることで、運用継続性を維持できる。

128 D. Aggarwal et al., (2017)“Quantum attacks on Bitcoin, and how to protect against them”,

arXiv:1710.10377v1 129 M. Sato and S. Matsuo(2017) “Long-term public blockchain: Resilience against Compromise of Underlying

Cryptography” EuroS&PW. 130 https://blockstack.org/whitepaper.pdf (accessed: 2018.03) 131 https://beyond-blockchain.org/public/bbc1-design-paper.pdf (accessed: 2018.03)

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● スマートコントラクトの開発と運用

スマートコントラクトとはブロックチェーン上で動作するコンピュータプログラムである。スマートコ

ントラクトのプログラムコード(コントラクトコード)は、それ自体がブロックチェーンに書き込まれ、ブロ

ックチェーン外からの入力を契機として起動し、ブロックチェーンの値を読み書きすることができる。

利用者はそのコントラクトコードを読んで中身を理解し、行われる処理について合意したうえで実行

することが前提となっている。

・ 理解の容易化

例えば企業間で取引する際、現在は自然言語による契約書を交わしているが、これをスマートコ

ントラクト化することにより、ブロックチェーン技術の特性(透明性、耐改ざん性)を活かした確実な契

約の執行が行えるようになることなどが期待されている。

しかしながら現在、一般にコントラクトコードは、自由度は高いが、学習コストが高いプログラミン

グ言語で作成される。ある契約書が妥当かどうかを判断するには、自然言語で書かれていれば契

約分野の業務知識があればよかったが、スマートコントラクトではそれに加え、情報科学の知識とプ

ログラミング言語の知識が必要になる。そのような知識を備えた人材は少なく、雇用や育成に多大

なコストが発生する。そのことが、スマートコントラクト活用の妨げになる、あるいは、知識の差を利用

して詐欺的なスマートコントラクトに合意させ、不正に利益を得るものが現れることが予想される。

よって、「スマートコントラクトで記述する典型的な処理」を、プログラミング知識が少なくてもより直

感的に分かりやすく記述できるフレームワークやドメイン特化言語* (DSL; Domain Specific

図 18 ミドルウェア導入によるブロックチェーン脆弱化対策

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Language)が必要になってくると考えられる。典型的な処理には、例えば所有権の移転や所有権の

交換などがある。そのような DSL の例として Hyperledger Composer[132]がある[実用]。

・ 高品質なスマートコントラクト開発

The DAO 事件*では、ブロックチェーンプログラミングに精通した多数の関係者がテスト及びレビ

ューしたにも関わらず、脆弱性を発見できず、大きな影響を及ぼした[133]。スマートコントラクトは直

接資産を扱うことが多く、稼働すると停止できない性質を持つものが多い(止めるだけなら技術的に

は容易だが、契約を一方的に破棄することになる)ため、品質についてより考慮する必要がある。

未知の脆弱性に対処するのは容易ではないが、形式検証*などの手法の導入によってある程度、

事前に発見することが可能だと考えられる。既知の脆弱性に対しては静的コード検査*や典型的な

脆弱性をまとめたドキュメント(Ethereum* Smart Contract Security Best Practices[134]など)を活用

することにより対処することができる[構想]。

「理解の容易化」の項で述べたフレームワークや DSL の導入、あるいは OpenZeppelin[135]のよう

な高い安全性を目指して開発されたオープンソースライブラリの活用により、難易度及び自製コー

ド量を減らし脆弱性を減らすことも重要である。また、開発環境・テスト手法などを充実させることに

より開発効率を上げることも対策になる[構想]。

・ スマートコントラクトの配備・更新

パブリック型ブロックチェーンでスマートコントラクトを運用する際には、スマートコントラクトを更新

する方法について考慮が必要である。利用者はスマートコントラクトのコードを読み、そのロジックに

よって引き起こされる内容に合意したうえで実行しているという前提がある。そのため、利用者に気

付かれず勝手にロジックを変更することが可能な構造であると、前提が崩れてしまう。

パブリック型ブロックチェーンの実装の 1つであるイーサリアムでは、スマートコントラクトを更新す

る仕組みが基盤として存在しない。スマートコントラクトのコードに不具合があり、修正したコードを

反映させるには、インストールし直すしか方法がない。これは利用者に気付かれずにロジックを更

新することを不可能にしている[実用]。しかし、再インストールした場合、スマートコントラクトを一意

に表すアドレス*が変更されるため、新しいアドレスを利用者すべてに通知する必要がある。これは

一般的に現実的ではない。

132 https://hyperledger.github.io/composer/ (accessed: 2018.03)

133 http://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/column/14/377135/062000008/ (accessed: 2018.03) 134 https://consensys.github.io/smart-contract-best-practices/ (accessed: 2018.03)

135 https://openzeppelin.org/ (accessed: 2018.03)

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そのため、スマートコントラクトの構造を工夫し、トランザクションを直接受け付けるアドレスが不変

なコントラクト(メインコントラクト)と、再インストールによりアドレスが変更しうるコントラクト(ロジックコン

トラクト)に分離し、メインコントラクトはロジックコントラクトのアドレスを変数として保持して、トランザク

ションをロジックコントラクトにディスパッチする手法(図 19)が提案されている[136]。コントラクト管理

者はメインコントラクトの持つロジックコントラクトのアドレスを変更することでディスパッチ先を変更で

きる。

しかし、この仕組みだけであると、コントラクト管理者は利用者に気付かれずにロジックを変更で

るため、他の方法で、ロジックが変更された際に、利用者が気づかずに有効なトランザクションをコ

ントラクトに送信してしまわないような仕組みが必要である[構想]。

4.4. セキュリティ

● プライバシー保護

ビットコインのブロックチェーン上では、台帳のデータを誰でも読めるため、台帳のデータが正し

く導出されていることを誰でも確認できる。一方で、台帳のデータを秘匿することは難しい。ブロック

チェーンのユースケースによっては、台帳のデータに個人情報や企業秘密が含まれることがある。

そこで、コンソーシアム型ブロックチェーンの実装例である Hyperledger Fabric v1.0*においては、

データの正しさを確認するノードと、データの順番を保証するノードに役割分担をし、データの順番

136 https://blog.zeppelin.solutions/proxy-libraries-in-solidity-79fbe4b970fd (accessed: 2018.03)

図 18 メインコントラクトとロジックコントラクトを分けて、スマートコントラクトを更新する

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を保証するノードには必ずしもデータを見せないようにすることができる[137](図 20) [実用]。あるい

は、サテライトチェーンと呼ばれる方式で、チェーンを 1 つにするのではなく、取引の関係者だけが

それぞれチェーンを構成する方式も提案されている[138](図 21)[研究]。

137 http://hyperledger-fabric.readthedocs.io/en/latest/Fabric-FAQ.html (accessed: 2018.03) 138 W. Li et al. (2017)“Towards Scalable and Private Industrial Blockchains”, ACM BCC’17.

図 19 Hyperledger Fabric v1.0 におけるデータ保護手法

図 20 サテライトチェーンにおけるデータ保護手法

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その他、ゼロ知識証明*などの暗号プロトコル技術を使って、ブロックチェーン技術には暗号デ

ータと、その暗号データを正しく処理したことを示すゼロ知識証明を記載し、データの正当性を担

保する方式も存在する[139][実用]。

● ノード管理者の ID 管理、アクセス制御

あるノードがブロックチェーンへ参加する際には、別の信頼できるノードを発見する手段が必要

である。これは非中央集権なブロックチェーンネットワークにおいては難しい問題である。

パブリック型の場合には、参加者をすべて把握する必要はないが、最初のノードを自力で見つける

ブートストラッピングが必要である(図 22)。例えばビットコインでは、ノード実装プログラムのコード

に DNS Seed と呼ばれる文字列がハードコードされており、DNS サーバ*に問い合わせることで最

初のノードの IP アドレスを取得することができる[実用]。

コンソーシアム型の場合には、あらかじめ誰がブロックチェーンに参加しているかというノード情

報を、PKI(Public Key Infrastructure)基盤*などを用いて管理する必要がある。例えば、

Hyperledger Fabric v1.0 では、ID 管理を行うメンバーシップサービス[140]として、参加ノードの管理

や証明書の発行を行う Hyperledger Fabric CA(Certificate Authority)サーバが想定されている。一

方で、この CA サーバにノードを参加させたり、脱退させたりする権限が集中してしまうという懸念が

ある。

139 E. Ben-Sasson et al. (2014)“Zerocash: Decentralized Anonymous Payments from Bitcoin”, IEEE, 459-474. 140 Membership Service Providers (MSP)< http://hyperledger-fabric.readthedocs.io/en/latest/msp.html

>(accessed: 2018.03)

図 21 最初のノードを自力で見つけるブートストラッピングの例

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● 鍵管理

ブロックチェーンの台帳のデータは、正当性を保証するために電子署名*が付与される。ブロッ

クチェーンの台帳にデータを書き込む際には、書き込みを行う参加者の電子署名の秘密鍵*が必

要となる。暗号通貨の場合、その秘密鍵を管理・保管するアプリケーションやデバイスを総称し、ウ

ォレットと呼んでいる。

ウォレットには大きく 2 種類があり、「秘密鍵を保持するアプリケーションやデバイスが常にインタ

ーネットに接続されているホットウォレット」と「インターネットから隔離されているコールドウォレット」

がある[実用]。

ホットウォレットでは、秘密鍵へのアクセスが容易で、ユーザにとってはトランザクション作成など

が迅速にでき、利便性が高い。しかし、ネットワークにつながっていることによって、サイバー攻撃で

秘密鍵が盗まれてしまう可能性がある。秘密鍵が他人にわたると、勝手になりすまされ、トランザク

ションを作成できてしまう。それにより、もともとの秘密鍵保持者が不利益を被ることになる。例えば、

仮想通貨の場合には、資産が流出する[141]。

コールドウォレットでは、秘密鍵を紙に記載するペーパーウォレット[142]や、デバイス上に鍵を保

存し、デバイスを接続したときのみ使用可能なハードウォレット[143,144]などがある。物理的に隔離さ

れているため、ネットからのハッキングなどの脅威から、自分の秘密鍵を守ることができる。しかし、ト

ランザクション作成時などには、秘密鍵を保存したペーパーウォレットやデバイスなどが必要となり、

手動操作が必要になり、利便性に課題が残る。印刷した紙やデバイスをなくしてしまうと秘密鍵を

復元できず、資産が使えなくなる可能性がある。

重大な取引を行う秘密鍵はコールドウォレットで管理を行うなど、アプリケーションによって秘密

鍵の管理方法を考えていく必要がある。例えば、1 つの秘密鍵を複数に分散し、その中のいくつか

を集めることで秘密鍵を使用できる秘密分散法[145]などを用いて、鍵の紛失やハッキングなどへの

対策が考えられる。暗号通貨では、トランザクションへの電子署名の付与数を決める機能として、マ

ルチシグという仕組みがあり[146]、2 つ以上の秘密鍵を用いた電子署名が必須になるような指定をし、

141 日本経済新聞「コインチェック 580 億円分流出 顧客資産返せぬ恐れ」(2018 年 1 月 27 日)

<https://www.nikkei.com/article/DGKKZO26234720X20C18A1MM0000/> (accessed: 2018.03) 142 BitcoinWalletPaper.com <https://bitcoinwalletpaper.com/> (accessed: 2018.03) 143 トレザー <https://zaif.jp/trezor> (accessed: 2018.03) 144 Ledger Nano S

<https://hardwarewallet-

japan.com/a/?a8=o5a7254SMX8GEu_8IW6DuXacZWTtAIgBdS88XuBKkDAgftaRFXaBhXTR65a7ds000000156

69002> (accessed: 2018.03) 145 Adi Shamir (1979)” How to Share a Secret. Commun”. ACM 22(11): 612-613 146 アンドレアス・M・アントノプロス 著 今井崇也/鳩貝淳一郎 訳(2016) 『ビットコインとブロックチェーン 暗号通

貨を支える技術」エヌティティ出版、第 4 章

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一部の秘密鍵が漏えいしても、資産の流出を防げる対策が提案されている。[実用]

● パーソナルデータ管理

欧州の一般データ保護規則(GDPR; General Data Protection Regulation)策定などにみられるよ

うに、世界的に個人情報保護の意識が高まっており、さらに、個人情報は本人主導でデータ管理

するパーソナルデータストア(PDS)の構想がひろがっている[147] [研究]。その際、「誰のデータを誰

に見せてよいか」、というアクセスポリシーを表現するために、「誰」を指定するための ID 管理が必

要になる。この ID 管理が集中管理されると、本人の意図に反してデータのアクセス制御が実施さ

れてしまう危険がある。さらには、本人であってもデータにアクセスできなくなる可能性がある。集中

管理ではない ID 管理が必要になり、その実現にブロックチェーン技術を活用する試みがはじまっ

ている。現在、Sovrin Foundation では、個人の ID と個人の PDS の場所をブロックチェーン上で管

理することが議論されている[148]。これにより、個人が管理している自身に関する情報を、必要に応

じて他者にアクセス権限を付与してデータを共有することができる。個人情報を保管するパーソナ

ルデータストア(PDS)の安全性やデータへのアクセス制御を向上させる技術の開発が必要である。

図 23、図 24 は Sovrin の考えにもとづき、自身の健康データをパーソナルデータストアで管理

した場合を表している。

147 http://www.glocom.ac.jp/wp-content/uploads/2016/12/20170125mydata1_hashida.pdf (accessed: 2018.03) 148 The Sovrin Foundation (2018) “Sovrin: A Protocol and Token for Self-Sovereign Identity and

Decentralized Trust”

図 22 PDS の場所のブロックチェーンへの保存

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● ブロックチェーンへの入力データの信頼性担保

ブロックチェーンは、データがいったん台帳へ書き込まれたら、改ざんが困難であることが大きな

特徴である。しかし、間違って誤ったデータが入力されたり、意図的に改ざんされたデータがブロッ

クチェーンに入力された場合、ブロックチェーン上のデータといえども信頼ができなくなる。ビットコ

インやイーサリアムのように、バーチャルの世界でのデータのやり取りの場合、入力データには電

子署名が付与されるため、その署名者が意図した入力データだとみなされる。署名用の秘密鍵が

漏えいして悪用された場合には、その署名鍵の所有者になりすましてデータ入力が行われてしまう。

あるいは、入力ミスや入力デバイスのバグにより、意図しないデータが署名付きでブロックチェーン

上 4 に記載されてしまう場合がある。これらについては、鍵管理の項で述べたように、ウォレットをは

じめとした入力デバイスを堅牢に開発する必要がある。

一方、物理世界の人や物に関するデータを、ブロックチェーン上で管理する場合は、そのデー

タが実社会の何に紐づいているデータであるのかを明確にし、適切に保護された状態で入力され

る必要がある。ユースケースによっては、どのような状況でこのデータが入力されたのかを管理する

ことも必要である。

たとえば、センサーなどの IoT デバイスが人間を介さずに直接ブロックチェーン上にデータを記

図 23 ブロックチェーンに保存された健康データの開示先を特定して開示

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録する場合を考える。上述のように、ブロックチェーン上にいったん記載されたデータは改ざんが

極めて困難であるが、適切なデータが入力されるよう、デバイスを管理する必要がある。具体的に

は、デバイスが故障したり、デバイスの出力結果がハッキングにより不正に操作されたり、あるいは、

関係のないデバイスの出力を取り込まないようにする必要がある。対策としては、センサーなどの

IoT デバイスに ID と署名鍵と検証鍵を付与し、デバイスからの出力データにデジタル署名を付与

することが考えられる。これにより、デバイスのなりすましやデータ改ざんを防止することができる。こ

の場合も、IoT デバイスから秘密鍵が漏えいしないよう、デバイスの物理的なタンパーレジスタンス

を担保する技術が必要である[149](図 25) [実用]。この IoT デバイスのライフサイクルと、秘密鍵の

ライフサイクルがどう整合するか、十分に考慮した設計にする必要がある。たとえば、車体に電子署

名をさせる場合、どのように秘密鍵を保有させるか、秘密鍵の有効期間をどのように設定するか、

有効期限が切れた場合にどう更新するか、などを検討する必要がある。ハッキング対策としては

Intel SGX[150]、ARM TrustZone[151]など、プログラムを安全に実行するトラステッドハードウェアが実

用化されている[実用]。

サプライチェーン管理のように、物の移動をデータとして管理する場合には、どの物品のデータ

であるかを紐づける必要がある。実用的には、その物品を一意に識別できるように、バーコードや、

RFID などの IC タグ[152]を付与し、リーダーでその値を読み取ってブロックチェーンに記載すること

が考えられる。たとえば、商品の作成工程や流通情報の管理などを行うことで、真偽判定などをブ

149 https://www.intel.co.jp/content/www/jp/ja/support/articles/000007452/mini-pcs.html (accessed: 2018.03) 150 Anati et al. (2013)“Innovative Technology for CPU Based Attestation and Sealing” 151 https://www.amd.com/ja/technologies/security (accessed: 2018.03) 152 DENSO RFID とは <https://www.denso-wave.com/ja/adcd/fundamental/rfid/> (accessed: 2018.03)

図 24 入力データの正当性を「耐タンパー性を持つデバイス」で担保

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ロックチェーン上で管理するサービスが提供されている[153] [実用]。

必要に応じて、読み取り時にリーダーのデジタル署名を付与すれば、より確実にデータを保護で

きる。物品を識別する方法には、バーコードや IC タグなど、外から ID を与える方法以外にも、物質

そのものの個体差を画像によって識別する物体指紋認証など[154]を使うことも考えられる。この方式

は、バーコードや RFIDがはがれてしまったり、悪意を持ってはがしたり、付け替えられたりする不正

にも耐えうる方式になる(図 26)。

パーソナルデータをブロックチェーン技術で管理する場合には注意が必要である。ブロックチェ

ーン上に記録したデータは書き換えることも削除することも困難なため、上述の GDPR などで求め

られているパーソナルデータの消去手段をすぐには提供できないからである。このような場合には、

パーソナルデータそのものをブロックチェーンに書くのではなく、そのハッシュ値のみをブロックチェ

ーンに記載し、パーソナルデータが改ざんされたかどうかの判定にのみ使うことが考えられる。

一方で、ブロックチェーン上のトランザクションデータが、本当にそのユーザ本人の意図でなされ

たトランザクションなのかどうかを確認することが必要になる場合が出てくるであろう。その場合、ビッ

トコインやイーサリアムのように、単にデジタル署名の有無のみならず、その署名鍵の持ち主が、実

社会の具体的な人物と紐づくことを保証する必要がある。

具体的には、その秘密鍵を格納しているデバイスがユーザ認証をしないと稼働しない、といった仕

153 株式会社ハヤト・インフォメーション「MANICA ブランドプロテクション|RFID とブロックチェーンのあなたの商品を

守ります。」

<http://www.hayato.info/brandprotection/index.htm> (accessed: 2018.03) 154 日本電気株式会社 「模造品を 1 秒で鑑定!「物体指紋認証」」

<http://jpn.nec.com/info-square/solution-report/industrial_iot/06.html> (accessed: 2018.03)

図 25 入力データの正当性を「物品認証」で担保

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組みを設けることができる。ユーザ認証の手段としては、パスワード認証や生体認証が考えられる。

現在、顔、指紋などの生体情報[155]を利用した認証方法で本人を識別することができる。生体認証

を用いて秘密鍵を格納しているデバイスのユーザを認証するのではなく、生体情報から電子署名

を作成する基盤を用いたブロックチェーン基盤の開発が行われている[156](図 27)[実用]。

4.5. まとめ

課題解決の状況を概観すると、「性能効率性」面では解決のめどが立ちつつある。

一方、「保守・運用性」面には、スマートコントラクトなど、ブロックチェーン固有の課題が多く、解決

技術にも構想段階のものが多い。

また、「セキュリティ」面では有効な解決技術がしばしば何年も前から既に存在するものの、必ず

しも十分に利用されていない。利用促進のために、システム設計にあらかじめ解決技術を埋め込

んだ形で提供する、などの対策が必要である。

155 NEC 社顔認証技術などがある<http://jpn.nec.com/biometrics/face/index.html> (accessed: 2018.03) 156 株式会社日立製作所 プレスリリース

<http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2017/10/1005.html> (accessed: 2018.03)

図 26 入力データの正当性を「生体認証」で担保

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4.6. 用語集

第 4 章における用語の説明を次頁に示す。

表 13 用語集

用語 説明 参照情報

DNS サーバ 主にインターネットで名前解決を行うサーバ。入力としてホスト名と呼

ばれる文字列を受け取り、それに対応する IP アドレスを出力する機

能を持つ。

-

Docker コンテナ技術の 1 つ。オープンソースソフトウェアの多くは Docker 用

のイメージファイル(実行ファイル、ライブラリ、データファイル、環境

設定などがまとめられたファイル)が提供されている。これらイメージ

ファイルをそのまま、あるいはプロジェクトに応じたカスタマイズを行

って使用することにより、オープンソースソフトウェアの評価・開発・実

行環境を簡単に作成できる。[1]

[1] https://www.docker.com/

イー サ リ アム

(Ethereum)

スマートコントラクト機能を持つオープンソースのブロックチェーン技

術の 1 つ。インターネット上に誰でも参加できるネットワークが存在

し、その意味ではパブリック型に分類できるが、限られたメンバーし

か参加できないコンソーシアム型の標準[2]及び実装[3]も存在する。

[1] https://www.ethereum.org/

[2] https://entethalliance.org/

[3]

https://www.jpmorgan.com/global/Q

uorum"

Hyperledger

Fabric

IBM が提案したスマートコントラクト機能を持つオープンソースのコン

ソーシアム型ブロックチェーン技術の 1 つ。[1]

[1]

https://www.hyperledger.org/projects

/fabric

PBFT

(Practical

Byzantine

Fault

Tolerance)

最初の実用的なビザンチン障害耐性のある合意形成アルゴリズム

[1]。参加者が固定されていることを前提にしているため、ノードが自

由に出入りできないコンソーシアム型ブロックチェーンに用いられ

る。

[1] Castro and Liskov, “Practical

Byzantine Fault Tolerance”, ACM

Trans. Computer Systems, vol. 20,

no. 4, 398-461 (2002).

PKI 基盤

(Public Key

Infrastracture)

PKI 基盤とは、使用する公開鍵暗号や署名鍵の公開鍵の持ち主が

誰であるかを保証する仕組みである。

インターネット上で公開鍵暗号技術などを用いる際に、通信先が本

当に本人かを確認することは難しく、なりすましなどが考えられる。そ

のため、認証局(CA、Certification Authority)という第三者機関が公

開鍵の持ち主を保証する仕組みが必要となる。既存の PKI 基盤で

は、認証局は悪意のある改ざんなどを行わない信頼できるものと想

定している。

-

The DAO 事件 2016 年 6 月に自律分散型投資ファンド「The DAO」のスマートコント

ラクトの脆弱性が攻撃され、約 360 万イーサが盗難された事件のこと

[1]。

[1]

http://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/col

umn/14/377135/062000008/

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用語 説明 参照情報

アドレス ブロックチェーン技術においてアドレスとは、なんらかの主体を一意

に指し示す識別子のことである。多くのパブリック型ブロックチェーン

において、公開鍵から変換されるアドレスは、公開鍵に対応する秘

密鍵を知っているユーザを指し示している。加えて、イーサリアムで

はアドレスによりスマートコントラクトも指し示す。

-

形式検証 数学や論理学にもとづいてソフトウェアなどの仕様記述、開発、検証

を行う技術のことを形式手法と呼ぶ。形式検証とは、形式手法によっ

て、ソフトウェアなどが正しいか、あるいは正しくないかを検証するこ

とである。

-

合意形成

アルゴリズム

P2P ネットワーク上で暗号化技術などを駆使し、通信のみで安全に

合意を形成するためのアルゴリズムを合意形成アルゴリズムと呼ぶ。

ブロックチェーンでは各ノードが同じ状態を持つために合意形成ア

ルゴリズムが用いられる。

-

公開鍵、

秘密鍵

電子情報に対して暗号化する公開鍵とそれを復号する秘密鍵が非

対称な暗号方式のことを指す。

複数の暗号方式が存在するが、どの公開鍵暗号も、一方向からの

計算は求められるが、逆からの計算が非常に難しいとされる数学的

に難しい問題を応用して作られている。この難問の計算時間は、現

在のスーパーコンピュータなどを使用しても何万年も必要とするとさ

れており、その難しさによって安全性が担保されている。

-

コンソーシアム

型ブロックチェ

ーン

ブロックチェーン技術のうち、ノードとして参加するために特定の人

や団体などからの承認が必要なものを指す。承認が必要なことによ

り、ノード数がある程度限定されるため、PBFT のような合意形成ア

ルゴリズムを使用できる。

-

コンテナ技術 ファイルシステムやプロセス、ネットワークなどを隔離することによっ

てアプリケーション単位の仮想環境を実現する技術。基本的にホス

トと同じ OS しか使えないが、従来の仮想化技術に比べて起動が速

く、ハードウェア資源のオーバーヘッドが小さく、非仮想化環境に比

べた性能劣化もほぼない、というメリットがある。

-

静的コード検

あるプログラムコードを、そのプログラムコード自体を実行せずに、ツ

ールなどを用いて検査する技術。

-

ゼロ知識証明 ゼロ知識証明とはある命題が真であることを、真という情報以外を開

示せずに証明する手法である[1]。これを使うと、ある公開鍵に対し

て、秘密鍵を知っていることを、秘密鍵に関する情報を一切もらさず

に証明できる。1985 年に Goldwasser らにより定式化され[2]、重要な

暗号技術の 1 つになっている。

一般的に、検証者側は、秘密情報を知らないと答えられない質問を

証明者へ投げかけ、証明者は返答を行う。

検証側は質問の回答のみを受け取り、秘密情報に関する知識を一

切得ることはできない。

[1] 光成滋生「クラウドを支えるこれか

らの暗号技術」第 14 章ゼロ知識証明

[2] Shafi Goldwasser, Silvio Micali,

Charles Rackoff:

The Knowledge Complexity of

Interactive Proof-Systems (Extended

Abstract). STOC 1985: 291-304

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用語 説明 参照情報

電子署名 電子署名とは、電子情報の作成者を証明する暗号技術である。

文書作成者は、ある文書に対し、秘密鍵を用いて署名を作成し、元

の文書と一緒に送信する。検証者は、署名者の公開鍵を用いて、署

名を復号することにより、文章が改ざんされていないことと、作成者

が署名者であることを検証できる。

-

ドメイン特化言

ある特定の領域の問題に特化したコンピュータ言語。特化領域につ

いてはC++、Java、Goのような汎用コンピュータ言語に比べ、簡単に

記述することができる。

-

トラステッド

ハードウェア

悪意のあるコードからソフトウェアを保護する機能を提供するハード

ウェア。その 1 つである Intel SGX は OS からもアプリケーションを保

護することができる。[1]

[1] Aumasson and Merino, "SGX

Secure Enclaves in Practice: Security

and Crypto Review ", Blackhat'16

(2016)

ハッシュ関数 ハッシュ関数とは、任意の入力値からハッシュ値と呼ばれる出力を

生成する演算手法。同じ入力値に対して、必ず同じハッシュ値が生

成されるという性質を持つ。ハッシュ値から入力値を求めるのが困難

な性質を一方向性と呼び、同じハッシュ値になる 2 つの入力値を求

めるのが困難な性質を衝突困難性と呼ぶ。暗号分野ではこの 2 つ

の性質を持つハッシュ関数が多く用いられる。主に文書など電子デ

ータの改ざん検知などに応用されている。

-

パブリック型ブ

ロックチェーン

ブロックチェーン技術のうち、ノードとして参加するための条件が存

在せず、誰でも参加可能なものを指す。悪意を持ったものを含む不

特定多数のノードがいつでも参加及び離脱が可能である。

-

ビザンチン

障害耐性

複数のノードが協調して動作する分散システムにおいて、ノードに

障害が起きた際、そのノードが単に停止して無反応になる場合は、

これをクラッシュ障害と呼ぶ。一方、それ以外の任意の振舞いをする

場合には、ビザンチン障害と呼ぶ。ビザンチン障害が起きても、その

ようなノードの数がアルゴリズムに設定された一定数を超えなければ

合意形成を行える性質を持つアルゴリズムをビザンチン障害耐性の

ある合意形成アルゴリズムと呼ぶ。

-

ビットコイン 2008 年に Satoshi Nakamoto によって提案された初めてのブロックチ

ェーンによる非中央集権的仮想通貨。

-

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用語 説明 参照情報

量子コンピュータ 粒子の量子力学的な振る舞いである状態の重ね合わせや量子もつ

れ現象を用いる計算機。従来の計算機の 1 ビットは 0 か 1 のどちら

か 1 つの状態しか取れないが、量子ビットはその両方の重ね合わせ

状態を取り得る。これによって、複数の状態の処理を一度に行うこと

ができる[1]。まだ、実用段階に至っていないが、ショアアルゴリズム[2]

により素因数分解を高速に行うことが理論的に示されている。これ

は、素因数分解問題の困難さに安全性の根拠を置く公開鍵暗号基

盤の危殆化につながるとされ、代替方式が盛んに研究されている。

上記の量子ゲート方式とは別に組み合わせ最適化問題の解探索な

どに特化した量子アニーリング方式の計算機も量子コンピュータと

呼ばれており、両者が混同されがちである[3]。カナダの D-Wave 社

などが実現しているのはこの量子アニーリング方式の量子コンピュ

ータである。この方式を用いた計算機ではショアアルゴリズムに対応

するアルゴリズムは見つかっていない。

[1] 宮野健次郎、古澤明 著 「量子

コンピュータ入門」

[2] P. W. Shor, "Polynomial-Time

Algorithms for Prime Factorization

and Discrete Logarithms on a

Quantum Computer", SIAM J.

Comput. 26(5), 1484-1509 (1997).

[3]

http://ascii.jp/elem/000/001/451/14

51932/

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まとめ

本調査研究では、ブロックチェーンを活用したシステムの社会実装を後押しすることを目的とし

て、次に掲げる事項について調査・検討を実施した。

① 分散型システムを活用したユースケースの抽出及び評価(第 2 章)

② 法解釈の明確化、規制緩和・制度化のあり方等の法制度面での課題調査(第 3 章)

③ システムを構築する際に必要となる要素技術の整理(第 4 章)

第 2 章では、ブロックチェーン技術の活用が期待される分野・テーマを選定し、当該分野・テー

マに関わるユースケースを抽出した。具体的には、「治験データ管理プラットフォーム」、「EV バッテ

リーライフサイクル管理」、および「スマートトークンプラットフォーム」に対して、「ブロックチェーン技

術を活用したシステム評価軸」を用いてシステム評価を行った。

第 3 章では、法解釈の明確化のみならず、規制緩和・制度化のあり方、法制度上推奨される実

務的な取組について議論を行った。具体的には、分野横断的な論点として、ブロックチェーンを用

いた電磁的記録の交付等の適法性、スマートコントラクトの契約成立の有効性、トークンの移転に

伴う権利移転の有効性について議論を行った。また、個別の分野として、「医療・ヘルスケア」、「物

流・サプライチェーン・モビリティ等」分野について、個別のユースケースに着目して検討を行った。

第 4 章では、ブロックチェーンを活用したシステムにおける今後の課題を列挙し、各課題を解決

する要素技術を調査した。この結果を「ブロックチェーン技術を活用したシステム評価軸」に照らし

て「性能効率性」「保守・運用性」「セキュリティ」に整理し、各課題に対して解決する技術および開

発状況を調査した。

本調査研究では、第 2 章から第 4 章における検討の結果、①民間事業者等がブロックチェーン

技術を実装するにあたって有用と考えられる取組、および②ブロックチェーン技術の社会実装を促

進するために必要となる更なる取組課題が明らかになった。以下では、第 2 章から第 4 章までの検

討結果を、①および②それぞれについてまとめる。

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5.1. ブロックチェーン技術を実装するにあたっての有用な取組

ブロックチェーン技術を活用したシステム評価軸の活用 今回のシステム評価においては各ユースケースのシステム要件の策定に「ブロックチェーン技術

を活用したシステム評価軸」を用いた。評価軸は要件を網羅的に洗い出すために有効であり、実

際のブロックチェーンのシステム開発においても、評価軸に沿って対象のシステムの非機能要件を

決めていくことで要件定義の網羅性を向上させることが可能である。ただし、洗い出すための軸とし

ては有効ではあるが、実際に要件を決めるためには要件の例も重要である。今後、評価軸の項目

毎に要件の例が示されるとより活用可能と考える。

適法性の検討、実務的な取組内容 第 3 章では、分野横断的な論点として、法令により書面により交付を行わなければならないとさ

れているもののうち、法令に電磁的記録により行うものができるものとされているものに関して、ブロ

ックチェーン技術によることは適法か議論を行った結果、ブロックチェーンによる電磁的記録の交

付等は、クラウド型のシステムと変わらず、e-文書法及び主務省令の範囲内では、適法となるシス

テムを構成できる可能性が示された(第 3 章 3.1.(1))。本調査研究の検討結果は、一つの解釈の

可能性を示したものであり、実際にブロックチェーン技術を実装する場合に、上記のような法令に

該当するときは、主務省令や個別の法令を所管する省庁に確認が必要となるが、本調査研究の検

討結果を活用することで、所管省庁と適法性に関して効率的に検討を行うことが可能となると考え

られる。

また、分野横断的な論点として、第 3 章 3.1.(2)において、スマートコントラクトに関する法制度

上の論点について議論を行った結果、契約を有効に成立させるために、スマートコントラクトにより

自動的に契約がなされるという基本的な仕組みを、契約当事者が認識した上で、スマートコントラク

トの利用に合意している必要があることが指摘された。また、可読性が低いスマートコントラクトのコ

ードについては契約内容に関する錯誤無効の主張がなされる可能性があること、実行環境に依存

する情報をもとに計算を行い、実行結果が異なったものになる可能性がある非決定論的なコードに

関しては裁判時と契約時の実行結果が異なるといった問題が指摘された。

そのような問題に対して、スマートコントラクトの契約成立の有効性や紛争が生じた際の証拠力を

高めるため、次に掲げるような取り組みを、スマートコントラクトを実装しようとする事業者・個人が行

うことが有効であることが示された。

① 利用者に分かるシステムの構築

• 消費者とのインターフェイスは、契約内容等が自然言語で分かるものにしておくことが有

用である。

② システムに関する約款の作成

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• スマートコントラクトを使用していること、その基本的な動作とそれにより成立する契約を明

記の上、予め利用者から承諾を得ておくことが有用である。

③ 証拠の記録・保管

• 非決定論的なコードについては、必要に応じて、実行結果の証跡を保存しておくことが有

用である。

ソースコードをコンパイルして実行し、当該結果をハッシュ化して、ブロックチェー

ン上に記録しておく方法が考えられる。

ただし、少額取引でブロックチェーンを使う場合、厳密な証跡の取得及び保存は、

費用対効果が見合わなくなるおそれがある。その場合、コードのみでは証拠として

不十分であることを注意喚起し、利用等を自己判断とする対応も考えられる。

実用化段階にある要素技術の実装 第 4 章 4.4.では、「性能効率性」「保守・運用性」「セキュリティ」にブロックチェーン技術の課題

を整理し、解決のための要素技術の調査・整理を行ったが、「セキュリティ」面では有効な解決技術

の多くは既に存在することが明らかになった。これらの技術を実装することで、セキュリティにかかる

問題を解決することが可能となると考えられる。

5.2. ブロックチェーン技術の社会実装を促進するために必要となる更なる取組

システム評価軸の運用方法、ビジネス面での今後の取組課題

多様なステークホルダーが関与する場合の社会実装の推進 「平成 28 年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を活用

したシステムの評価軸整備等に係る調査)調査報告書」においても指摘されているが、ブロックチェ

ーン技術を活用した社会課題解決の取り組みを行うためには、産官学による連携の拡大やコンソ

ーシアムによる異業種連携を推進していく必要があると思われる。ユースケースとして取り上げた、

治験管理システムなど公的機関が係わるブロックチェーン技術の利活用に関しては、公的機関の

積極的な参加が求められるとことである。また、本調査で取り上げた EV バッテリーライフルサイクル

管理のユースケースついては、データの測定方法の国際標準化に向けた官民連携が必要となると

考えられる。

法制度面の今後の検討課題

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「分散型システム」の導入に向けた制度の見直し 第 3 章では、ブロックチェーン技術を活用した電力融通取引について、現行法の解釈を議論し

た上で、実現に向けた法制度の在り方を議論した。現行の電気事業法の下では、電力融通取引を

行うプロシューマーは、小売電気事業者に該当すると解さざるを得ないとの意見があった。その上

で、現行法の小売電気事業者に対する義務を、そのまま個人であるプロシューマーに課すことは、

過度の負担となる一方で、プロシューマーを小売電気事業者としない場合、電力の安定供給の確

保や需要家保護など、小売電気事業者を登録制とした法の趣旨に反する事態が生じる可能性が

あるといった点を踏まえて、小売電気事業者の基本的な枠組は維持しつつ、安定供給の確保と需

要家保護という法の趣旨とのバランスを取りつつ、プロシューマーにより実現可能な義務の設定方

法について議論した。

具体的には、プロシューマーの小売電気事業の登録に関して、特定の運営主体が取りまとめて

登録を行うこと、電力の安定供給義務について実証実験を通じて安定供給に与える影響を検討し

た上で、供給能力の確保義務のあり方を検討すること、小売電気事業者に課された苦情等の処理

義務を特定の運営主体が窓口を設置し、受け付けることなどの意見があった。その他、託送料金

の負担等については、実証実験等の結果を踏まえ、必要に応じて検討を行う必要があるのではな

いかという意見があった。

今後、上記の議論結果を踏まえつつ、「規制のサンドボックス」等を活用した実証実験を推進し、

実証実験等の結果を踏まえつつ、制度の在り方について更なる検討を実施していくことが望ましい

との意見があった。

法解釈や実運用上の指針の策定 本調査研究では、スマートコントラクトの証拠能力等の法解釈、実運用するうえでの法制度上の

留意点等について、議論を行った。スマートコントラクトを用いた契約にあたっては、契約の当事者

間で明示的な承諾を必要としないが、サービスやシステムの約款、利用にあたっての契約、社会的

な共通理解などにより、合意がなされることが契約成立にあたって重要であるとの意見があった。そ

のため、スマートコントラクトに関する社会的な共通理解等を高めるためにも、政府又は民間団体

等が指針を策定することが有用との意見があった。

トークンを用いた権利移転の対抗要件 トークンに記録された権利又は利益について、トークンの倒産や二重譲渡等の場合に、民法等

における対抗要件を具備できない可能性があるため、権利又は利益が帰属する者が保護されな

いのではないかという問題について、更なる検討が必要と考えられる。例えば、トークン一般の権

利の移転についても、トークンの民法上の所有権は成立しないため、債権的な権利があると構成

することになるが、債権譲渡に関する第三者対抗要件がトークンの譲渡をブロックチェーンに記載

しただけでは具備されない可能性がある。今後は、対抗要件に関する特例的な制度が必要と思わ

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れるが、既に制定されている借地借家法、動産及び債権譲渡特例法等が存在といった対抗要件

を定める特例法が存在するものの、このような問題を解決できる規定が存在しないと考えられること

から、新たな対抗要件制度の整備に向けた検討が必要との指摘があった。

また、新たな制度を作らない場合でも、例えば不動産の所有権を表彰するトークンの場合を考え

ると、トークン保有者の記録が変更されようとする場合に、法務局のシステムの API を利用して不動

産登記の所有者の情報とトークンの保有者の記録を連動して更新していくことで、登記とトークンの

記録を一致させ、結果として第三者への対抗要件が具備するという方法も検討の方向性として考

えられる。不動産登記ではないが、電子記録債権機関において、ブロックチェーンの導入に向け

た実証実験が進められており、最終的に API を提供することが検討されていることもあり、今後の取

組としてこれを利用することも参考になると考えられる 157。なお、実際に権利の移転について合意

した形跡があり、特殊な場合を除いてスマートコントラクトが実行されると権利移転する、ということが

周知されれば、そもそも誰が権利者であるか公示されており、実際に問題が生じるケースは想定し

にくいのではないかといった指摘もある。法改正のみならず、そもそも取組を推進していくことにより、

まずは、ブロックチェーンの社会実装を後押しすることも重要であると考える。

ユースケースの蓄積に合わせた継続的な法制度の検討 責任主体が存在しない分散型アプリケーションである DApps について、日本国内においては十

分に普及しているユースケースが少なく、法制度上の検討が十分に出来ているとはいえないとの

指摘があった。例えば、コミュニティや複数人が開発に参加するプログラムの瑕疵に関する法的責

任については、十分な議論が出来ているとはいえず、ユースケースの動向を踏まえつつ、更なる議

論が必要だと思われる。

技術面の今後の取組課題

ブロックチェーン技術に関する課題を「性能効率性」「保守・運用性」「セキュリティ」に整理し、解

決資する技術の開発状況を調査したが、課題解決の概況として、「性能効率性」面では解決のめ

どが立ちつつあるが、「保守・運用性」面には、スマートコントラクトの安全性検証や更新の手法、運

用者のモチベーションの毀損による急激な脆弱化への備えなど、ブロックチェーン固有の課題が

多く、構想段階のものも多いとした。また、「セキュリティ」面では有効な解決技術は既に存在するも

のの、利用促進のためにシステム設計への埋め込みが必要である。

ブロックチェーンは、金融、流通、IoT、パーソナルデータ管理などの分野で活用できる技術であ

ると言われているが、従来の中央集権的な信頼を前提としたシステムとの考え方の違いなどから、

実用化に向けて解決すべき課題はまだ多い。以下に、有識者から得られた指摘を列挙する。

157 株式会社 NTT データ「「~「でんさいネットシステム」におけるブロックチェーン技術の利用可能性を検証~」

< http://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2017/103100.html >

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暗号システム設計に強みを持つセキュリティ研究者は、要素技術レベルでは解決に寄与するも

のが研究されていても、それだけでは暗号システムの安全性を担保できず、具体的なユースケー

スにおいて前提とされている事柄をひも解き、丁寧なセキュリティ検証が必須であると主張する。特

に、性能効率面の改善は、セキュリティ面やトラスト面の前提が変わっている場合があるので注意

が必要、と指摘する。例えば、ライトニングネットワーク等の手法では、結果的に特定のノードがハ

ブになってしまうことがありえる。すると、そのノードの障害に対してライトニングネットワークは極めて

脆弱になったり、そのノードの運用者に大きな権限が集中してしまったりする。

また、暗号システム実装に強みを持つセキュリティ研究者は、技術的な対策だけではなく、脆弱

性を見つけた場合の社会への周知方法など、社会的な制度設計も同時に検討するべきである、と

の発言があった。脆弱性情報共有の枠組みは既に IPA 等により運用されているが、ブロックチェー

ンに関しては、例えば開発者コミュニティが統合されていないことがあるなど、従来の枠組みをその

まま適応しにくい面がある。

公開鍵認証基盤に詳しいセキュリティ研究者からは、秘密鍵が盗まれた場合に今のブロックチェ

ーンで行える対処について、社会の受容度がどの程度あるかを疑問視する声があった。公開鍵認

証基盤では秘密鍵を失効させられるが、ブロックチェーンではしばしば失効をサポートしていない。

さらに、取引がブロックチェーン上に書き込まれてしまうと、盗まれた秘密鍵によるものとわかってい

ても、取り消しができない。

また、秘密鍵を管理するハードウェア実装の安全性や秘密鍵のバックアップを含めた運用性を

どう担保するかについても検討が必要との指摘があった。

さらに、仕様やソースが公開され、実際に活用されているビットコインであっても、注意深く解析

すると、通信やデータ管理のささいなところが、大きなセキュリティホールとして攻撃の対象になると

いう報告がある。この攻撃が成功すると、例えば特定の支払いを阻止したり、二重支払いを行った

りすることができてしまう。

今後、要素技術だけではなく、具体的な事例や実装に基づいて、システム全体としてのセキュリテ

ィを丁寧に検証する地道な研究開発が必要とされている。

以上のように、本調査研究では、ブロックチェーン技術の社会実装を促進することを目的として、

システム評価軸を用いたシステム評価を実施するとともに、法制度上の課題調査や要素技術の整

理など多面的な調査検討を実施した。本調査研究により、足元のブロックチェーン技術の社会実

装を後押しするための検討結果、および社会実装を後押しするための更なる取り組みを示した。我

が国においては、金融分野以外の幅広い分野へのブロックチェーン技術の活用は端緒についた

ばかりであると考えられ、今後様々な分野においてブロックチェーン技術の活用が検討されると推

測される。そのような中で、「ブロックチェーン技術を活用したシステム評価軸」の網羅性の検証等

が進むとともに、ブロックチェーン技術の社会実装にあたっての新たな法制度上の課題が顕在化

し、またシステム構築に必要となる新たな要素技術の研究開発の必要性が生じる可能性があるが、

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現時点における検討結果を示した本調査研究が、少しでもブロックチェーン技術の社会実装に寄

与することができれば幸いである。

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(参考資料)ブロックチェーン法制度検討会について

第 3章「法制度面での課題調査」にあたっては、ブロックチェーンに知見を有する弁護士・学識経

験者、ブロックチェーン関連事業者を構成員とする「ブロックチェーン法制度検討会」を組成し、検

討を実施した。分野・テーマごとに異なる専門性が求められることから、「医療・ヘルスケア分野」、

「物流・サプライチェーン・モビリティ等分野」及び「横断テーマ」に分けて、各分野・テーマ 2 回検

討会を開催した。

① 医療・ヘルスケア分野 構成員一覧(敬称略、五十音順)

氏名 所属

石倉 大樹 株式会社日本医療機器開発機構 取締役 CBO

落合 孝文 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士

加納 裕三 一般社団法人日本ブロックチェーン協会 代表理事

笹原 英司 特定非営利活動法人ヘルスケアクラウド研究会 理事 医薬学博士

高木 聡一郎 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 研究部長

高橋 郁夫 駒澤綜合法律事務所 弁護士

藤田 卓仙 国立研究開発法人国立国際医療研究センター

国際医療協力局 グローバルヘルス政策研究センター(iGHP) 特任研究員

増島 雅和 森・濱田松本法律事務所 弁護士

② 物流・サプライチェーン・モビリティ等分野 構成員一覧(敬称略、五十音順)

氏名 所属

大串 康彦 株式会社ブロックチェーンハブ Industry Analyst(※最新のご所属確認中)

落合 孝文 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士

加納 裕三 一般社団法人日本ブロックチェーン協会 代表理事

島田 雄介 シティユーワ法律事務所 弁護士

高木 聡一郎 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 研究部長

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高橋 郁夫 駒澤綜合法律事務所 弁護士

増島 雅和 森・濱田松本法律事務所 弁護士

③ 横断テーマ 構成員一覧(敬称略、五十音順)

氏名 所属

落合 孝文 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士

加納 裕三 一般社団法人日本ブロックチェーン協会 代表理事

河合 健 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士

斎藤 創 創法律事務所 弁護士

笹原 英司 特定非営利活動法人ヘルスケアクラウド研究会

理事 医薬学博士

高木 聡一郎 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 研究部長

高橋 郁夫 駒澤綜合法律事務所 弁護士

中崎 尚 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士

増島 雅和 森・濱田松本法律事務所 弁護士