4c annual2013 4 - osaka city university...2016/07/04  · Ⅰ 地域経済・産業...

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地域経済 ・ 産業 地域における課題発見・解決能力の修得に向けた教育 インタラクティブ型キャリア教育(商学部現代 GP) 加藤司教授、中瀬哲史教授、 鈴木洋太郎教授(経営学研究科) ………… 14 大阪の地域産業政策の研究教育活動 大都市圏産業政策研究会 長尾謙吉教授(経済学研究科) 立見淳哉准教授(創造都市研究科)ほか ………… 16 NPO・ 地域 ・ 行政連携による農+食+教育循環モデル ノハラボ高槻 小長谷一之教授(創造都市研究科) ………… 18 商業活性化 一般社団法人と研究科の協定にもとづくキタの活性化 大阪市北区商業活性化プロジェクト 小長谷一之教授(創造都市研究科) ………… 20 ショッピングセンターにおける学生主体の地域貢献 学生落語グランプリ・休津亭(きゅうずてい)プロジェクト 商学部学生スタッフ、 授業担当教員(経営学研究科) ………… 22 日本橋筋商店街での学生による調査研究 イノベーティブ・ワークショップ(経済学部) 長尾謙吉教授(経済学研究科) ………… 24 商店街の活性化を通じたまちづくりの可能性 我孫子町商店会活性化事業(商学部) 加藤司教授(経営学研究科) ………… 26 文化 ・ 歴史 ・ 観光 住吉区遠里小野地区でのボランティアガイドとのコラボに よるまち歩き授業 人間文化基礎論(文学部) 仁木宏教授(文学研究科) ………… 28 西成における多文化共生のまちづくり 西成エスニックミュージアム推進活動 全泓奎准教授 (都市研究プラザ・創造都市研究科) ………… 30 居住文化を活かした都市の再生に向けた市大モデルの構築 豊崎長屋の再生プロジェクト 藤田忍教授、小池志保子准教授 (都市研究プラザ・生活科学研究科)ほか ………… 32 昭和初期の長屋の再評価 阿倍野の長屋研究活動 横山俊祐教授、徳尾野徹准教授 (工学研究科) ………… 34 大阪府立近つ飛鳥博物館ウマの復元展示 蔀屋北遺跡出土ウマ遺体の復元 安部みき子助教(医学研究科) ………… 36 高齢者 ・ 子育て支援 生活問題を俯瞰的視点で解決できる人材の育成 QOL プロモーター育成(生活科学部現代 GP) 西川禎一教授、春木敏教授ほか 生活科学研究科教員 ………… 38 小大連携による「いのちを守る学習」の展開 大空小学校・創造的教育の研究 中川眞教授(文学研究科)ほか ………… 40 小学校における地域ぐるみの防災教育 「いのちを守る学習」スペシャル 防災井戸 in 大空小ふれあいファーム 三田村宗樹教授(理学研究科) ………… 42 高大連携から地域・大学協働による「子ども・子育てサポー ト」プロジェクトに向けて 成育・家族支援活動 喜多淳子教授(看護学研究科) ………… 44 食育による地域活性化の取組み 南田辺本通商店街における 2 つの食育講座 春木敏教授(生活科学研究科) ………… 46 大阪市立大学 地域連携事例集 (平成 26 年 3 月末時点) 地域まちづくり 大阪長屋ネットワークの構築に向けた活動 オープンナガヤ大阪 藤田忍教授(生活科学研究科) ………… 48 南港ポートタウンにおける交通システムの評価 ノーカーゾーンのあり方に関する研究 日野泰雄教授、 吉田長裕准教授(工学研究科) ………… 50 行政、事業者と大学の三者によるまちづくりの検討 平林のまちづくりを考える会 日野泰雄教授、佐久間康富講師 (工学研究科) ………… 52 船場アートカフェによる都心の活性化支援 生きた建築ミュージアム 嘉名光市准教授(工学研究科) ………… 54 水都大阪フェス 2012 における社会実験 北新地ガーデンブリッジカフェ 嘉名光市准教授(工学研究科) ………… 56 都心の新旧住民と働く人の交流によるまちづくり アワザサーカス 佐々木雅幸教授 (都市研究プラザ・創造都市研究科) 上野信子特別研究員(都市研究プラザ) ………… 58 学生による伝統ある法律相談 大阪市立大学無料法律相談所 法学部学生スタッフ 顧問:高橋眞教授(法学研究科) ………… 60 地域福祉 ・ 健康 ニュータウン再生に向けた地域資源の活用 泉北ほっとけないネットワークプロジェクト 森一彦教授、春木敏教授 (生活科学研究科)ほか ………… 62 社会福祉協議会とタイアップした中学生の学習サポート 「すみよし学びあいサポート」 事業への参画 岩間伸之教授、鵜浦直子講師、 中島尚美特任講師(生活科学研究科) ………… 64 医学情報の提供に向けた社会貢献活動 患者さんのための日曜セミナー  日野雅之教授(医学研究科) ………… 66 NPO による生活困窮者の中間就労支援活動 HUBchari 事業からの展開 川口加奈さん(経済学部学生) ………… 68 市民の健康維持・増進をめざした社会貢献活動 健康・スポーツ科学セミナー等 都市健康・ スポーツ研究センター専任教員 ………… 70 住吉スポーツセンターでの高齢者向け健康づくり教室への貢献 いきいきドック 横山久代准教授 (都市健康・スポーツ研究センター) ………… 72 防災・防犯・環境 市民が主体となった防災まちづくりの支援 大阪市立大学都市防災研究プロジェクト 森一彦教授、生田英輔講師 (生活科学研究科)ほか ………… 74 『風かおる“みち”』をめざした地域協働の支援 天王寺大和川線基本計画検討案作成への協力 鍋島美奈子准教授、日野泰雄教授ほか (工学研究科) ………… 76 大和川・大阪湾の自然再生に向けた研究とネットワークづくり アユを指標とした都市河川・河口の研究とその活用 矢持進教授(工学研究科) ………… 78 13 12

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Ⅰ 地域経済 ・ 産業

地域における課題発見・解決能力の修得に向けた教育 インタラクティブ型キャリア教育(商学部現代GP)

加藤司教授、中瀬哲史教授、鈴木洋太郎教授(経営学研究科)

………… 14

大阪の地域産業政策の研究教育活動 大都市圏産業政策研究会

長尾謙吉教授(経済学研究科)、立見淳哉准教授(創造都市研究科)ほか

………… 16

NPO・ 地域 ・ 行政連携による農+食+教育循環モデル ノハラボ高槻

小長谷一之教授(創造都市研究科) ………… 18

Ⅱ 商業活性化

一般社団法人と研究科の協定にもとづくキタの活性化 大阪市北区商業活性化プロジェクト

小長谷一之教授(創造都市研究科) ………… 20

ショッピングセンターにおける学生主体の地域貢献 学生落語グランプリ・休津亭(きゅうずてい)プロジェクト

商学部学生スタッフ、授業担当教員(経営学研究科)

………… 22

日本橋筋商店街での学生による調査研究 イノベーティブ・ワークショップ(経済学部)

長尾謙吉教授(経済学研究科) ………… 24

商店街の活性化を通じたまちづくりの可能性 我孫子町商店会活性化事業(商学部)

加藤司教授(経営学研究科) ………… 26

Ⅲ 文化 ・ 歴史 ・ 観光

住吉区遠里小野地区でのボランティアガイドとのコラボによるまち歩き授業 人間文化基礎論(文学部)

仁木宏教授(文学研究科) ………… 28

西成における多文化共生のまちづくり 西成エスニックミュージアム推進活動

全泓奎准教授(都市研究プラザ・創造都市研究科)

………… 30

居住文化を活かした都市の再生に向けた市大モデルの構築 豊崎長屋の再生プロジェクト

藤田忍教授、小池志保子准教授(都市研究プラザ・生活科学研究科)ほか

………… 32

昭和初期の長屋の再評価 阿倍野の長屋研究活動

横山俊祐教授、徳尾野徹准教授(工学研究科)

………… 34

大阪府立近つ飛鳥博物館ウマの復元展示 蔀屋北遺跡出土ウマ遺体の復元

安部みき子助教(医学研究科) ………… 36

Ⅳ 高齢者 ・ 子育て支援

生活問題を俯瞰的視点で解決できる人材の育成 QOL プロモーター育成(生活科学部現代GP)

西川禎一教授、春木敏教授ほか生活科学研究科教員

………… 38

小大連携による「いのちを守る学習」の展開 大空小学校・創造的教育の研究

中川眞教授(文学研究科)ほか ………… 40

小学校における地域ぐるみの防災教育 「いのちを守る学習」スペシャル 防災井戸 in 大空小ふれあいファーム

三田村宗樹教授(理学研究科) ………… 42

高大連携から地域・大学協働による「子ども・子育てサポート」プロジェクトに向けて 成育・家族支援活動

喜多淳子教授(看護学研究科) ………… 44

食育による地域活性化の取組み 南田辺本通商店街における 2 つの食育講座

春木敏教授(生活科学研究科) ………… 46

目 次 大阪市立大学 地域連携事例集(平成 26 年 3 月末時点)

Ⅴ 地域まちづくり

大阪長屋ネットワークの構築に向けた活動 オープンナガヤ大阪

藤田忍教授(生活科学研究科) ………… 48

南港ポートタウンにおける交通システムの評価 ノーカーゾーンのあり方に関する研究

日野泰雄教授、吉田長裕准教授(工学研究科)

………… 50

行政、事業者と大学の三者によるまちづくりの検討 平林のまちづくりを考える会

日野泰雄教授、佐久間康富講師(工学研究科)

………… 52

船場アートカフェによる都心の活性化支援 生きた建築ミュージアム

嘉名光市准教授(工学研究科) ………… 54

水都大阪フェス 2012 における社会実験 北新地ガーデンブリッジカフェ

嘉名光市准教授(工学研究科) ………… 56

都心の新旧住民と働く人の交流によるまちづくり アワザサーカス

佐々木雅幸教授(都市研究プラザ・創造都市研究科)上野信子特別研究員(都市研究プラザ)

………… 58

学生による伝統ある法律相談 大阪市立大学無料法律相談所

法学部学生スタッフ顧問:高橋眞教授(法学研究科)

………… 60

Ⅵ 地域福祉 ・ 健康

ニュータウン再生に向けた地域資源の活用 泉北ほっとけないネットワークプロジェクト

森一彦教授、春木敏教授(生活科学研究科)ほか

………… 62

社会福祉協議会とタイアップした中学生の学習サポート 「すみよし学びあいサポート」 事業への参画

岩間伸之教授、鵜浦直子講師、中島尚美特任講師(生活科学研究科)

………… 64

医学情報の提供に向けた社会貢献活動 患者さんのための日曜セミナー 

日野雅之教授(医学研究科) ………… 66

NPO による生活困窮者の中間就労支援活動 HUBchari 事業からの展開

川口加奈さん(経済学部学生) ………… 68

市民の健康維持・増進をめざした社会貢献活動 健康・スポーツ科学セミナー等

都市健康・スポーツ研究センター専任教員

………… 70

住吉スポーツセンターでの高齢者向け健康づくり教室への貢献 いきいきドック

横山久代准教授(都市健康・スポーツ研究センター)

………… 72

Ⅶ 防災・防犯・環境

市民が主体となった防災まちづくりの支援 大阪市立大学都市防災研究プロジェクト

森一彦教授、生田英輔講師(生活科学研究科)ほか

………… 74

『風かおる“みち”』をめざした地域協働の支援 天王寺大和川線基本計画検討案作成への協力

鍋島美奈子准教授、日野泰雄教授ほか(工学研究科)

………… 76

大和川・大阪湾の自然再生に向けた研究とネットワークづくり アユを指標とした都市河川・河口の研究とその活用

矢持進教授(工学研究科) ………… 78

1312

Ⅰ地域経済・産業

担当者(主)

連携・貢献者

期間

関係組織・協力機関等

1

2

地域における課題発見・解決能力の修得に向けた教育インタラクティブ型キャリア教育(商学部現代GP)

加藤司教授、中瀬哲史教授、鈴木洋太郎教授(経営学研究科)

河内長野市商工観光課株式会社アイズなどその他協賛企業

商学部1~2回生、延べ1,226人(2013年度までの受講生)

2007年9月~現在継続中

大阪府内

きっかけと展開●2007年、文部科学省の現代GP(実践的総合キャリア教育の推進)に採択されたのがきっかけである。この現代GPでは、現場と大学とのギャップを埋めるため、ビジネスの現場での社会的課題の解決を疑似体験することで、より実践的な課題発見・解決能力を有する人材育成をめざしており、理論と実務の相互作用を重視した「インタラクティブ型キャリア教育」として展開した。

●それまでにも、行政からの依頼で、学生によるフィールドワーク、調査、提案等を実践しており、その効果は認識されていた。特に、学習のモチベーションを高めるため、専門教育を受ける前の初年次の教育が重要であることは強く感じていた。

●本事業期間中から、現役のビジネスマンによる課題の提示や実務家の講師を招聘する等で、より現場に近い課題について考える教育を行っていった。●3年間の事業期間終了後もこれら科目は継続して提供されており、毎年約3割の商学部の1・2回生学生が履修している。

概 要●教育システムの最大の特徴は、少人数でのグループワークを中心とした「キャリア・デザイン論(1回生後期):2コース」と、「プロジェクトゼミナール(2回生後期):6~7コース(事業期間後は3~4コース)」の提供である。●キャリアデザイン論・1回生を対象とした専門科目選択授業「キャリアデザイン論」は、「思考リテラシー」という能力の獲得をめざした科目で、外部から3人(各4回授業)の講師を順に招き、それぞれが出す企業や社会が抱える課題について、6人単位のグループで議論し、その成果をプレゼンテーションし、それを実務家の観点で講評してもらうという形をとっている。-実務家の石川靖之非常勤講師の授業では、まず「自分マーケティング」という課題で、自分自身をマーケティングの分析手法(SWOT分析)を用いて分析・プレゼンし、教員・参加者が審査員として採点、順位をつけて表彰する仕組みを採り入れている。-2008年度の授業では、「河内長野の地域活性化」をテーマに、河内長野市商工観光課と連携して、現地で2泊3日の合宿を行った。この間、現地視察・課題や方策の検討を行い、最終日にプレゼンをした。2部学生も参加し、集中講義として実施した。-中瀬教授の授業では、問題解決シートを用いて、分析のフレームワークを学んだ後、協賛企業と連携し、学生がグループで協賛企業の課題を解決する提案を作成、発表する形式としている。

●プロジェクトゼミナール・2回生を対象に、半年間、教員1人を選び受講する。担当教員は毎年変わり、パートナー(企業や自治体等)の提示するテーマについて、課題の発見と解決手法を学ぶ。・例えば、中小企業の異業種交流会が提示する中小企業の活性化のための課題、ファッションブランド企業が提示する製造・調達と販売や将来戦略の課題、音響メーカーと自治体が提示する音を通じたまちづくりの課題、通信販売会社が提示するネット通販の評価と改善策の課題等がある(2010年度)。

●スピンアウトした活動・学生団体Imagineが2日間にわたるビジネスコンテストを主催。ひとつのケース課題に対する提案を学生グループごとにプレゼンし、審査・表彰を行う。

得られた成果●学生は、「考えろ」と言われても、自分で考えることは難しい。問題を解決するスキルを覚えることで、考える喜びを知るようになった。課題解決を考える場合、学生は自分の持っている知識や経験を越える提案ができないことを痛感し、専門的知識を積極的に学ぼうとするインセンティブを持つようになった。

●大学院への内部進学はこれまで少なかったが、現代GPを受けた学生の中から、もっと学びたいと大学院課程まで進む人が増えてきている。

●学生が必死で考える姿を見て、教員側が学生に対してさらに効果的な授業を提供していかなければならないという動機づけにつながっている。

地域との関係で工夫した点●2008年度の河内長野市で行った合宿形式の授業では、それまで長年にわたり河内長野市の商業振興に協力してきた教員のネットワークがベースにあり、そうした信頼関係を活かして地域と連携する必要がある。

●学生に良い影響を与える授業にするためには、パートナー(協力企業等)の選別が重要である。選別を誤ると、アンケート実施などの学生が単なるアルバイトになったり、課題のレベルが高すぎて学生の成長にはつながらなかったり、となる可能性もある。

感想と今後の課題●初年次に自分で考える力をつけていく必要がある。それは、1回生であるために自由で型ができていないことや、大学に対して学ぶ意欲が高いうちに、モチベーションを高めることができるためである。

●知識を与えることよりも、適切な課題を提示し、考える道筋を教えることが重要である。大学教員やパートナー(協力企業協力等)が、学生たちの主体的な授業参加を促す環境を作っていくのが大切である。学生に自発的に考えさせつつも、教員が適切にヒントを与える工夫が必要である。

●他学部の学生の受講については、全学共通科目での経験から言えば、グループワークのトレーニングができていない学生への対応(何もしない学生への対応)、授業時間外の自発的グループワークの時間の制約(理系学生への対応)等が課題としてある。

●評価方法は、学生の主観による判断(授業ごと、初回と最終回のアンケート)が主となる。「振り返りシート」を活用する。外部の講師等の評価は学生の意欲を高める上で、効果的。基本的にグループ評価であるが、リーダーの貢献度を加算すべきかどうか。

成果や課題

グループワークの様子

資料:http://www.bus.osaka-cu.ac.jp/gp2007/curriculum.html

(事例報告者:加藤司教授)

1514

Ⅰ地域経済・産業

担当者(主)

連携・貢献者

期間

関係組織・協力機関等

1

2

大阪の地域産業政策の研究教育活動大都市圏産業政策研究会

長尾謙吉教授(経済学研究科)、立見淳哉准教授(創造都市研究科)、本多哲夫准教授(経営学研究科)、小川亮講師(経済学研究科)

創造都市研究科・経営学研究科・経済学研究科大学院生、自治体・企業の方(計30人前後)

2008年4月~現在継続中

大阪大都市圏

きっかけと展開●2008年4月、大阪市立大学大学院創造都市研究科の立見淳哉准教授が主となり、大阪市立大学経済研究所の「工業集積研究会」のメンバーであり、研究領域の近い長尾(経済学研究科)・本多哲夫准教授(経営学研究科)に声をかけて、創造都市研究科の大学院生を中心とした学問的な交流と実践的な知識の掘り下げを図るべく大都市圏の地域産業に関する研究会を立ち上げた。

●2014年春に、研究のまとめとして、自治体職員や大学生向けの教科書となるよう、大阪公立大学共同出版会から『大都市圏の地域産業政策―転換期の大阪と「連環」的着想』というタイトルで90ページほどのブックレットを出版する。

概 要●大阪市立大学大学院創造都市研究科で行われている授業の延長線上で、院生(修士・博士)と教員・社会人(自治体や企業等)が一緒に学ぶ場として、研究会を定期的に開催している(1回/月~2か月程度、土曜日)。

●経済学・経営学の概念的なことだけでなく具体的なテーマを学ぶことを重視し、院生の研究発表や外部講師(自治体や企業、シンクタンクの方等)による講義、見学会等を行っている。外部講師がその後、研究会のメンバーとして参加することもある。

●研究会のテーマは、中小企業や地域産業、自治体内の連携や自治体間の連環等である。●研究会の運営には、創造都市研究科の教育研究費や学内競争的資金(都市問題研究)や各教員が獲得した科学研究費等を活用し、事務局作業を担当するスタッフの人件費などを捻出している。学内資金による研究については学内でシンポジウムを開催したこともある。

●研究の成果となるブックレットでは、大阪大都市圏の産業活動を地区、市、府、関西、日本、世界と重層的な観点から企業活動と産業政策をとらえ、「連環」的着想による産業研究と地域産業政策の展望を提示する。執筆者は研究会メンバーの教員のほか、博士論文執筆者等も含まれている。

得られた成果●事例の報告等を通じて参加した自治体の職員にとっても、大学院生や教員の意見を聞く機会となっており、実際のプロジェクトのヒントとなっている。

●社会人大学院生にとって、よい教育上の刺激となり、より良い論文を書く、きっかけとなっている。●指導する教員からみると、現場の考え方を知ることができ、他分野の先生方との相互交流で刺激を受けるので、自分自身の研究分野を広げたり、深めたりする上で役立つこと、大学院生や自治体や企業の方に教育の機会を与えることができること等が得られた成果である。

地域との関係で工夫した点●継続するために、負担が重くならないようにした。活用できる資金に応じ、年度ごと内容を検討した。●創造都市研究科の授業日(土曜日)は、学会活動やイベント等と重なることが多いため、研究会開催日の日程調整に苦労した。

●地域との連携は、各教員の個人的なつながりを元に自治体や企業の方を講師や参加者として外部から招くため、教員が常に地域との関わりを持つように意識している。

感想と今後の課題●教員や大学院生の研究会での中核となる成果は、各人が執筆する個別の論文に反映されるため、それぞれを良くしていくことが課題となる。また、これら成果を発信するものとして出版するブックレットをいかにして作り上げていくかも課題となる。

●後期博士課程の大学院生が増加する場合の研究会における論文指導のあり方、2014年度からの教室の確保等が研究会を継続していく上で課題となる。

工場街の見学会の様子

自治体、中小企業の方

成果や課題

(事例報告者:長尾謙吉教授)

1716

Ⅰ地域経済・産業

担当者(主)

連携・貢献者

期間

関係組織・協力機関等

1

2

参考:http://www.gscc-chiiki3s.jp

NPO・地域・行政連携による農+食+教育循環モデルノハラボ高槻

地域、NPO、行政関係者、小中高生(関係者累計約200人)

2010年4月~2013年3月

きっかけと展開●食の不安、高齢社会の進展、課題解決型教育の普及、いやしを求める自然回帰やエコ志向の強まりなどを背景に、2008年より、NPO法人を中心にゼミ生と共に、高槻の地域活性化・まちづくりのための調査研究を手つだう。郊外の都市として、住民は環境意識が高く、市民農園や地域の農・食のとりくみが特徴的であることを調査した。

●このような試みをベースに、文化庁事業として、1年目は、2010年度地域文化総合活性化事業「高槻・山岳2地域に伝わる文化を活性化・発信し、継承する事業~ノハラボ高槻~」、2年目は、2011年度文化芸術振興費補助金事業「文化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業~ノハラボ高槻~」、3年目は、2012年度文化芸術振興費補助金事業「文化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業~ノハラボ高槻~」が行われ、プロジェクトは2010~2012年度の3年間続いた。

●自らが委員長となり、NPO法人ノート、高槻市、神峰山寺などが委員となった委員会をつくり、畑中農園、Man Pukuカフェ等が協力した。

概 要●ノハラボとは 野原+ラボラトリー(研究室)の合成語で、野原を舞台に教育活動を展開するという趣旨。食問題といやしを求める志向から「農・自然回帰」のトレンドとなり、これから、市民農園(研究)などの「農の市民化」、「地産地消」、第1次産業の高付加価値化をめざした「第6次産業化」が求められていることや、高齢化社会と若者の課題解決型学習の要求から、「農+食+教育循環モデル」の構築がまさにもとめられている。

●ノハラボモデル(1)-「ジュニア向け地産地消・ビジネス体験モデル」 小中学生が、地元のレクチャーに参加し、地元にある地産地消の食材を料理し、それを、イベントや地域のショップで販売する。このプロセスを通し、地域文化・食育・事業企画・販売運営体験などを学習し、最終的な「地産地消」「食」「農」「健康」の価値を知ることをめざす。

●ノハラボモデル(2)-「ヤング向け地産地消コンパ・癒し体験モデル」 20・30代のヤングアダルト層が、自然の中にあるいやし型の拠点において、レクチャーに参加し、地域文化を学ぶとともに、地元農家の地産地消の食材を料理し、食す。みずから、参加して、「地産地消」「食」「農」「健康」を学び、また交流して、健康のネットワークを作ることをめざす。

●ノハラボモデル(3)-「親子向け地産地消・地域文化再発見モデル」 親子が、地元のレクチャーに参加し、地元にある地産地消の食材を料理し、食す。また、地域文化の読み聞かせ体験などを通じて地域を再発見する。地域文化・食育などを学習し、最終的な「地産地消」「食」「農」「健康」の尊さを知る。(1)との違いは、参加者で親世代自らが教える立場にたち、教えると同時に学ぶ効果があることである。

得られた成果●このようにNPO法人を中心に、「農」「自然」「食」のトレンドをテーマにして、全世代的な学習プロセスを構築することにより、 ①地域の文化と歴史を学ぶ総合的教育 ②地域資源の有効利用による地産地消 ③地域個性の強調によるまちづくりの差別化 を実現することをめざした。●その結果、ビジネスを起こし、そのビジネス化のプロセスそのものも学習の教材とすることができる。地域を活かした教育により、一石何鳥もの効果を得ることができる。

●本プロジェクトを通じて、「NPO・地域・行政」連携による「農+食+教育循環モデル」の構築がなされた。

地域との関係で工夫した点●ICTを駆使する予習・復習を一般に広報し参加効果を高めるような工夫をした。次回参加者の応募→参加型のプロジェクトの立案→参加当日→作る(農)、作る(調理)、食す、企画・販売体験→ウェブへの掲示(復習効果、予習効果)→ウェブへの書込み→参加意欲の高まりという「好循環サイクル」を作ることが可能である。

感想と今後の課題●行政の自立的財政運営の必要性と市民活動意識の高まりにより、新しい公共等、NPO・地域・行政連携によるプロジェクトへの流れが加速している。特に、総合的学習の時間のように教育活動の領域でも、NPOがおこなうことが多くなっている。

●特に、高槻市のような郊外都市においては、様々な歴史資源があること、食品産業が盛んで、市民も健康に関心が高いこと、自然の美しさを理解し、選択していることなどの特徴があることや、「市民力」があり、自然を愛し、健康に意識の高い人が多いまちであることから、NPOが中心となったプロジェクトにふさわしい特質があった。

シンポジウムポスター

ICT循環モデル

小長谷一之教授(創造都市研究科)

NPO法人ノート、高槻市、同歴史博物館、畑中農園、神峰山寺、地元の小中高生、創造都市研究科大学院の学生

高槻市

成果や課題

(事例報告者:小長谷一之教授)

1918

Ⅱ商業活性化

担当者(主)

連携・貢献者

期間

関係組織・協力機関等

1

2

得られた成果●地域の課題を認識し、その関係者と効果的に協働する方法を学習した。また社会人大学院である創造都市研究科は、学生から実践的な学びを求められている。地域との協働はそうした学生からのニーズを満たす研究活動に結び付きやすく、本業への応用も容易である。

●協働する中で、地域の商店街の人々が大学の果たしうる機能を理解し、プロジェクトを重ねるごとにスムーズな連携が可能になった。

●上田安子服飾専門学校の教師が創造都市研究科に入学した。商店街の関係者ではないが、そうした関係性ができるなどの副産物もあった。

地域との関係で工夫した点●当初、商店街関係者は専門的なまちづくりをあまり意識していなかった。地域の人にとっては「大学は何ができるのか」が、大学側は「どうすれば効果的に地域と連携できるのか」がわからない。だからまずはお互いが学習する必要があり、「どうしてわかってくれないのか」と焦るのではなく、時間を掛けて合意形成することを意識した。こうした試行錯誤を行うためにも、協定の締結は有意だったと言える。

●大学は資金ではなく「知」を提供することを明確にした。●あまり予算を使わずに効果をあげることを念頭に置き、財団が用意する予算(年間約30~40万円)は主に広告宣伝費に用いた。この時、非営利の学校的組織との協働が効果的であった。プロジェクトに関わる学生の学習効果についても意識する必要がある。

●本事例では自らが窓口担当となり、同じ研究科内の教員が参加するため、意思決定が容易で、アクションを起こしやすかった。また包括提携協定には理念しか記載されていないため、活動の自由度を担保することができた。

感想と今後の課題●大阪や大学全体という大規模でなく、各団体と部局単位との提携であったため運営しやすかった。大阪市北区商業活性化協会(役員は北区内商店主)との連携した独立プロジェクトとして運営されたことが成功要因だと考えられる。この手法をモデルとしてまとめることは、まちづくりの参考になるのではないか。

きっかけと展開●2003年、大阪市立大学大学院創造都市研究科が設立される。社会人大学院としては最大級の規模を誇る。多くの社会人大学院と異なりMBAコースではないため、地域貢献を志向することになった。●2005年8月、創造都市研究科と大阪市北区の商業者や学識者でつくる一般社団法人 大阪市北区商業活性化協会が「創造都市実現のための包括提携協定」を締結した(現在の団体名は「北区商業活性化協会・地域開発協議会」)。

●現在までに「創造都市キタプロジェクト」を第9弾まで実施してきた。大阪市北区をファッショナブルで若者の集まる回遊都市にすることが目的。

概 要●まちの活性化に向けた取り組み「創造都市キタプロジェクト」の代表例-Project 01「老松西天満アートストリート」(2005) 北ヤード=駅周辺は大企業が多く集まってくることが容易に考えられるが、大阪駅がクローズドな空間になってしまうことは望ましくない。京都の三条通や渋谷のように、回遊性のあるまちづくりを目指し、老松西天満界隈をアートで盛り上げる試みを行った。-Project 03「東梅田・中崎・北天満レトロストリート」(2007) 中崎町は若者の街と呼ばれるようになったが、意外にもアクセスが限られている。そこで、大阪駅から中崎町へと至るガード下の通路を「レトロストリート」と呼び、活性化する試みを行った。-Project 06「キタ写真コンテスト」(2010) 当初はイラスト展として企画されたが、より参加が容易な写真展に変更がなされた。応募された作品は美術高校の教諭らが審査を行い、受賞作品は北ヤード工事現場の仮囲いに展示された。-Project 08「ウメダヒガシ・ファッションタウン写真コンテスト」(2013) 創造都市研究科・牛場智氏が実施した。上田安子服飾専門学校とのコラボレーション、つまり都市戦略において鍵となる「学校」との連携により開催。これからの東梅田が、ファッショナブルな方向へ発展することをめざした。

●広報活動 「きたまちふれあいタイムズ」:本事例の広報紙で、年に3回、現在は9号まで発行されている。●研究・研修 まちづくり研修会:商店街の関係者に向けた学術報告を行う場を開催している。大学による協力で実現している。 Project 08「ウメダヒガシ・ファッションタウン写真コンテスト」(2013)

一般社団法人と研究科の協定にもとづくキタの活性化大阪市北区商業活性化プロジェクト

小長谷一之教授(創造都市研究科)

地域、専門学校生、人数(関係者累計約150人)

2005年8月~現在継続中

北区

北区商業活性化協会・地域開発協議会、上田安子服飾専門学校、牛場智 氏(創造都市研究科客員研究員)等

成果や課題

(事例報告者:小長谷一之教授)

参考サイト:http://www.cckita.jp/      http://www.gscc-chiiki3s.jp

2120

Ⅱ商業活性化

担当者(主)

連携・貢献者

期間

関係組織・協力機関等

1

2

得られた成果●参加した学生側の視点からみると、企業が実施するCSR活動への学生の参加による社会勉強。インターンシップのような効果があった。学生生活としても多忙な時期に、膨大な作業をこなしていく時間管理のノウハウを得ることができた。

●1回生時に履修したキャリアデザイン論を起点に、地域や社会に出て経験を積む実践的な授業を意識的に履修する学生が増えたように思う。また、こうしたグループワークを行う授業や、そこから派生した活動によって、先輩後輩の縦の繋がりもできた。

●実践を通じて、逆に理論が重要であることが認識でき、その後、勉強に力が入り、大学院への進学を決心した。●教員側の視点からみると、社会人と直接接し、企画だけでなく実施面まで取り組むことにより、就職活動に入る前に企業活動の一端を経験することで、社会で通用する人材、関西においてまちづくりに貢献する人材の育成を図ることを目的としている。「都市を学問創造の場」ととらえている大阪市大の教育として、地域貢献活動を実践できる場を提供することは、非常に意義のあることだと考えている(石川靖之非常勤講師談)。

●キャリアデザイン論では休津亭だけでなく、毎年、授業を通じてキューズモールと連携した地域貢献型の企画を実施しており、昨年も、大阪あべの辻調理師専門学校とも連携した食育イベントや、大阪の伝統産業である「河内木綿」の体験イベントなども実施している。

地域との関係で工夫した点●工夫した点では、プロジェクトメンバーだけでなく、他大学も含め、自分達がもつネットワークを最大限活用することや、インターネットを活用した連絡ツールを使用することで、連絡体制を構築し、できるだけ効率的にプロジェクトを推進していった。また、石川非常勤講師をはじめ関係する社会人の方への“報連相”を怠らないようにし、逐次チェックを受けるようにした。

●1回目はプロジェクトメンバーである学生の経験が浅く、社会人のサポートに依存した部分が多く、自主性を発揮しきれなかった。2回目はそれを反省点とし、自ら企画・実施する部分を拡大したが、その分の苦労は並大抵のものではなく、責任の重さを痛感した。

●様々な年齢の来場者があることがわかった。あべのの「まち」としての面白さを認識した。

感想と今後の課題●現在も、キューズモールをはじめ、キャリアデザイン論など実践的な授業を通じて接点のできた社会人講師とこうした実践的な授業や活動に意欲的な後輩たちとの関わりが継続的にあるが、実際に下の学年につなぐ力、支える力を育成することが期待されている。

きっかけと展開●商学部の授業、キャリアデザイン論(石川靖之非常勤講師、協力者:鈴木洋太郎教授・加藤司教授)では、大学生のキャリア形成の一助として、毎年、社会人講師を招いてグループワークを実施している。●2010年度後期のキャリアデザイン論ではキャリアデザイン論の初年度よりご協力いただいているショッピングセンター「あべのキューズモール」(以下、キューズモールと記す)で開催するイベントを企画した。●その際、授業運営に関わっていた当時4回生の学生グループが作成した、落語がもたらす“笑い”によって地域を活性させる提案「休津亭(きゅうずてい)」(落語好きの友人の発案で作成した学生落語の企画)が、最優秀賞として採用された。●なお、この授業から「休津亭プロジェクト」発足までの期間には、キューズモールにおいて、大学生が「アベノあめ村」というキャンディショップの運営や販促を担当していた。彼らはキャリアデザイン論の受講者を中心とする有志チームである。●2011年度後期より、授業から独立する形で休津亭プロジェクトが学生有志によって発足。●学生落語の企画は「関西学生落語グランプリ」というタイトルで、第1回イベントを2012年3月に、第2回は2013年2月18日に実施している。

概 要●第1回・1回目の休津亭プロジェクトは、2~4回生の5人の学生で実施した。企画を提案したのは4回生(上記、落語好きの友人)。企画決定後、キューズモールおよび出演者等と調整し、会場関係者からのアドバイスを受けながら準備を進めていった。・ポスターのデザインは、プロダクトデザインを学ぶ友人に依頼して制作し、出演者の交渉は学生自らが各大学の学園祭に出向いて直接交渉を行うなど、学生の自発的な動きにより準備が進められた。・当日の入場料は500円で、審査員にはプロの落語家・桂文華師匠、FMラジオDJ、アベノあめ村店長、当時の天王寺動物園園長をお招きした。グランプリは関西大学の関大亭万太(かんだいていまんた)さん。

●第2回・2回目の休津亭プロジェクトは、オープンキャンパスの学生スタッフが中心になり、前年度の経験者2名の参加により企画を進めた。毎週1回、定例の打ち合わせを行った。前回よりも資金・技術面ともに学生の主体性が高まり、会場費以外の資金の調達(協賛集め)、当日の詳細なタイムテーブルや台本作成も学生が行った。・当日のプログラムは、前座、第一部~革新~「キワモノ落語」の部(創作落語)、第二部~王道~落語グランプリの部、大喜利で構成され、8大学(神戸大学、関西大学、関西学院大学、京都産業大学、近畿大学、京都大学、大阪大学、大阪市立大学)の学生落語家が出演した。審査委員長は、前回に引き続き桂文華師匠。入場料は無料にした。グランプリは関西大学の浪漫亭鞍弓(ろまんていくらーく)さん。

ショッピングセンターにおける学生主体の地域貢献学生落語グランプリ・休津亭(きゅうずてい)プロジェクト

来客者(1回目約70人)

1回目:2012年3月、 2回目:2013年2月(準備期間約7か月)

関西の大学生落語家(6~8大学)ショッピングセンター運営会社・関連広告会社、協賛企業等

商学部学生スタッフ、授業担当教員(経営学研究科)

阿倍野区

会場となったライブハウスの前で

学生落語家の釈尊亭虎鉄さん(大阪市立大学)

第2回イベントのポスター

成果や課題

(事例報告者:商学部スタッフ(林侑輝))

2322

Ⅱ商業活性化

担当者(主)

連携・貢献者

期間

関係組織・協力機関等

1

2

得られた成果●経済学は抽象の世界に限定されやすいので、実践的に下調べをして、調査をして発表するという流れをくむことで、学生が具体的に現場のことを知ることができる。

●日本橋筋商店街の方は、学生の目線での意見をもらうことができる。●当時一回生だった学生が日本橋筋商店街に関係する卒業論文を書き、それを元に研究員と教員が学術論文として再構成し、学術雑誌に投稿した。

地域との関係で工夫した点●日本橋筋商店街振興組合とは、組合理事(創造都市研究科卒業生)とのつながりで連携を図ったが、学校外の方とのかかわりの中での調査なので、教員自身によるテーマの設定と地域連携の段取りや誘導の準備が必要である。

●翌年2009年度後期も日本橋筋商店街で実習を行った。商店街組合など地域とは、来街者調査、イベント経済効果など関係が続いている。

感想と今後の課題●学生の基礎知識をつける必要があるため、文献リストなどによる下調べの指導が大変であった。また、チームごとの課題設定や、調査の実践方法等の指導が必要である。

●実践型の授業をどうやって大学として支援していくかが大切であり、資金や保険、教員に対する支援の仕方をどうしていくかを考えていく必要がある。

きっかけと展開●大阪市立大学経済学部が2008年の後期より新科目として導入した「イノベーティブ・ワークショップ(課題探究演習)」として、日本橋地区を研究対象として歴史、秋葉原との比較、食とオタク、オタロードについて、テーマごとに2~5人で調査研究を行った。2008年に10月に実施して、2009年8月にイノベーティブ・ワークショップ報告書として、冊子を作成している。上記の4つのテーマの調査報告と学生一人一人の提言集を盛り込んでいる。●2009年夏には、日本橋筋商店街の方にプレゼンを行い、ビデオにも収録して、大阪市立大学のホームページに「イノベーティブ・ワークショップ報告会」としてアップロードした。

概 要●2008年10月から長尾と「イノベーティブ・ワークショップ」を受講した16人の学生(当時1回生)が日本橋筋商店街振興組合の方と連携してテーマ別に調査を行った。

●日本橋の歴史という調査報告では、江戸時代から第2次世界大戦前、第二次世界大戦後から高度経済成長期、1970年代から1990年代、1990年代から現在まで歴史的背景と変遷を調べた。

●日本橋と秋葉原との東西比較では、日本橋と秋葉原での歴史、サブカルチャーの比較、電気街の比較などを行った。●食とオタクについては、日本橋のメイドカフェやメイドの事情などを調べている。●オタロードについては、日本橋筋西通商店街を主とする地域を中心とした通りであるが、その歴史の変遷と特徴について調べた。担当した学生はその後、日本橋筋商店街についての卒業論文を書いた。

経済学部イノベーティブ・ワークショップ報告会の様子資料:http://www.osaka-cu.ac.jp/ja/about/pr/video/archive/20091016_iw

メイドカフェのオムライス

日本橋筋商店街の街並み

日本橋筋商店街での学生による調査研究イノベーティブ・ワークショップ(経済学部)

長尾謙吉教授(経済学研究科)

日本橋筋商店街振興組合の方日本橋筋商店街振興組合理事(創造都市研究科卒業生)

1回生後期「イノベーティブ・ワークショップ」受講者(16人)

2008年10月~2009年8月

浪速区

成果や課題

(事例報告者:長尾謙吉教授)

2524

Ⅱ商業活性化

担当者(主)

連携・貢献対象

期間(西暦)

関係組織・協力機関等

1

2

得られた成果●商店会から見た成果としては、商店主は商売に忙しく、事業の実施に当たり人手を出すことは容易ではない。学生の協力がなければ、事業の実施も危ぶまれたと思われる。マップの作成やポスターの制作過程で、学生が商店主に何度もヒアリングを行ったために、商店主側も自店の特徴、こだわりを再確認することができたのではないか。学生という「敷居の低い」人材がまちづくりに参加することで、地域の中での交流が促進されやすいことが実証された。

●また今回の事業をきっかけとして会議を定期的に開催し、商店会の交流が深まるとともに、活性化に向けて前向きに取り組む機運が醸成された。同時に、会議には町会長も参加、商店会と町会との接点ができたことから、街をあげて活性化に取り組もうとする機運が盛り上がりつつある。

●学生にとっては具体的な課題を解決する経験を通じて知識の応用を求められ、座学では得られない主体的かつ実践的な学びを経験できた。同時に、地域の人々の大学の社会的役割に対する期待が大きいことも再認識できた。

地域との関係で工夫した点●今回の事業では、あくまでも商店会と地元の町会が主人公であり、大学の役割としてはサポート役に徹することとした。他方で、大学とくに学生に対する敷居は低く、多少の失敗があっても温かく見守っていただけた。また、学生が直接商店主と打ち合わせを行うなど、できるだけ主体的に取り組めるよう配慮した。

感想と今後の課題●学生はいずれ卒業する。学生や教員はあくまでも「よそ者」であり、地域の人々がまちづくりを主体的に継続していくための組織体制をどう構築していくか、タウン情報誌の編集、発行などにおいても地域の人々をいかに巻き込んでいくかが、課題となっている。

きっかけと展開●2013年8月、中小企業庁が平成25年度(三次)に募集した「地域商店街活性化事業(助成)」に関して、我孫子町商店会が申請するにあたり、加藤が協力し、採択された。採択された商店街の活性化事業を実施するために、専門ゼミナールの学生の協力を得ることになった。●協力してくれる学生の募集に関して、2014年度開講のゼミ生の募集に際して、2013年度の後期から我孫子町商店会のまちづくりに関わることを明示した。その趣旨に賛同した学生が応募、17名が確定した。2013年10月より活動を開始した。

概 要●我孫子町商店会周辺にはマンションが建ち、ヤングファミリー層も増えている。しかし、商店会会員店舗の顧客は高齢者が多く、周辺の潜在的顧客をとり逃している。また周辺に飲食店も増加しているが、会員にはなっていない。商店会の空き店舗が増え、商店会役員の高齢化によって会の活動も困難になっていた。ここ数年、商店会としては活動を休止せざるを得なかった。

●まず、学生は、我孫子商店会周辺の街歩きを行い、街の特性、資源などを確認するとともに、商店会の会合にも加藤教授と一緒に参加、具体的な企画と、マップの作成などに意欲的に取り組んだ。

●あびこい祭りを2013年12月7日、12月20日、2014年1月18日、1月25日に実施、いずれも学生は当日の交通整理、チラシ配布、交通量調査のみならず、市大のアカペラサークルの出演依頼、親子の食育講座における助手、店主直伝のクラフトづくり、絵本の読み聞かせなど、自分たちのネットワークを活用しつつ、事業運営において大活躍した。

「あびこに来い、まちに恋♥」をコンセプトに学生が原案を作成したマップ(最終のイラストは、商店街で喫茶店を営む絵本作家さんが作成)

商店街の活性化を通じたまちづくりの可能性我孫子町商店会活性化事業(商学部)

加藤司教授(経営学研究科)

我孫子町商店会

2013年10月~現在継続中

住吉区

成果や課題

(事例報告者:加藤司教授)

2726

Ⅲ文化・歴史・観光

担当者(主)

連携・貢献者

期間

関係組織・協力機関等

1

2

得られた成果●1回生の学生にとっては、自分に身近な場所が歴史の舞台であることに気づくことができ、自発的に学ぶ動機づけになった。まち歩きの後、自分たちで文献を探し出したり、後日、ガイドさんに話を聞きに行ったりしたグループもあったようだ。彼らは歴史研究の方法論を初年次に学び始めることができた。

●地域の方(区役所やすみよし歴史案内人の会の方たち)にとっても、学生が興味を持って自分たちの住むまちを学んでくれることは、喜ばしいことではないだろうか。

●遠里小野地区をテーマに取り上げたことにより、これまで歴史研究の光が当たっていなかった住吉区に焦点が当たった。

●その後、住吉区からは、歴史文化事業の協力を依頼される等、関係が生まれた。

地域との関係で工夫した点●特に苦労した点はなかった。●今回は、教員側から区役所に相談に行ったが、逆に依頼される場合は、歴史的な価値のある文献がある地区かどうかが決め手になる。地区の条件がマッチング上、重要である。

感想と今後の課題●遠里小野の地名は、中世の京都のえごま油に関わる生産者団体の史料の中に記載がある。江戸時代の史料から環濠集落があったことがわかっており、「都市のシンボル」のある町として、研究対象としても興味深い。

●そもそも住吉は大阪と堺の間にあり、情報や文化が行きかっていた場所である。住吉大社を中心とした文化的影響もあり、歴史の観点で面白いエリア。次は、他の地区(あびこ:門前町等)を対象として継続したい。これまで大学のある地元の研究が手薄であったので、研究対象としても今後取り組んでいきたい。

●大阪市内の他の区でも同様の取り組みを行っていくことができるかどうかが課題。●今後は大学生の教育だけでなく、ボランティアガイドの方たちの知識の向上のため、一般市民向けよりも高度な教育等も必要だと感じる。他都市では教育委員会がボランティアガイドさんたちに対し、専門家による歴史講座等を開催している。

きっかけと展開●文学部の2013年前期「人間文化基礎論」を担当するに際し、大阪の歴史を体感するフィールドとして、大学に近い遠里小野地区を採り上げようと思った。●まず、2013年1月に住吉区役所文化課に相談したところ、ボランティアガイド「すみよし歴史案内人の会」を紹介してもらった。●2月に事前の調査を大学院生と行い、6月13日に「すみよし歴史案内人の会」の説明を受けながら遠里小野地区でのまち歩きを授業として実施した。

概 要●「人間文化基礎論」は、文学部1回生を対象とした歴史学の入門となる授業科目で、歴史・哲学系専攻の学生には必須となる(受講生の6割が哲学・歴史専攻)。本授業科目を初めて担当したが、地域連携で実施した初めての試みとなった。文学部の1回生が履修することができる実習形式の授業の中の1つである。

●大阪の都市の歴史を体感するため、授業の中で2か所のフィールドワークを実施した。1回目は上町台地北部の桃谷~恵美須町を対象とし、地形と歴史の両面から地図で確認しながら、まち歩きを行い、その後4回の授業で、史料の収集方法や、レポートの作成(グループ単位)等を行った。

●2か所目の遠里小野地区でも、同様の手順だが、まち歩きを実施する際に地元のボランティアガイド「すみよし歴史案内人の会」にガイドをお願いした。

●学生40人が2チームに分かれ、それぞれに「すみよし歴史案内人の会」の方が数人ずつついて説明や交通整理を行ってくれた。

●授業の最終回には、住吉区役所文化課の方も来られ、学生の発表を傍聴してもらった。

出典:住吉区HP http://www.city.osaka.lg.jp/sumiyoshi/page/0000227123.html

住吉区遠里小野地区でのボランティアガイドとのコラボによるまち歩き授業人間文化基礎論(文学部)

仁木宏教授(文学研究科)

大学生(文学部1回生、計約40人)

2013年6月

すみよし歴史案内人の会(ボランティアガイド)、住吉区役所文化課

住吉区

成果や課題

(事例報告者:仁木宏教授)

2928

Ⅲ文化・歴史・観光

担当者(主)

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

得られた成果●西成北西部の資源を発見できたことが大きい。これまで負の資源と思われていたエスニック文化の価値が認められれば、地域の資源も発掘しやすくなる。その一歩として、地元組織(在日本大韓民国民団西成支部、大阪西成沖縄県人会、鶴見橋商店街連合会等)が参加する「西成エスニックミュージアム推進委員会」ができたことの意義は大きい。

地域との関係で工夫した点●地域と大学の間で「何をやればいいか」が明確でないため、住民側の協力が得られにくい場合もある。時間をかけて手助けをすることや、相互理解を深める必要がある。

●地域住民側にも利益となるという認識をしてもらい、一緒に活動をすることが必要になってくる。

感想と今後の課題●現在は教員の研究費を活用した活動が中心であるが、継続的な研究・活動資金の確保という点でも大学からのアプローチだけでは限界がある。地域による主体的なまちづくりを推進・継続することが望ましく、地域からの資金援助の検討も必要である。そのためには、本活動を通じて、空き店舗が増えている鶴見橋商店街の活性化等につながる等、目に見える成果が期待される。

きっかけと展開●2010年、在日本大韓民国民団西成支部の協力の下で行われた、当該地域在住の在日コリアン高齢者の生活及び居住実態調査をきっかけに本プロジェクトが始まった。西成北西部は1920年代からコリアンの居住が始まり、コミュニティの形成がコリアンの定住を支え、公立学校内に民族学級が設置されるなど、エスニックコミュニティとしての固有性を有していることがわかった。また、1920年代に移住してきた沖縄県出身者のコミュニティや、近年新たに流入してきたアジアからの外国籍住民等がいることがわかった。しかし、近年は地場産業の停滞と若者の流出、高齢化に伴う活力の低下がみられている。●そこで、他都市の動きなどを参考に、西成の北西部の地域資源を活かし、「エスニシティ」のコンセプトで多文化共生のまちづくりを進めることができないかと考えた。●高齢者の生活実態から高齢者の生活を支える支援をしていくこと、若者のために活力を与える機会の場を設けられないかを模索する中で、90年代初めから日本でも活動が始まっている「エコミュージアム」アプローチを西成でも活かせないかと考えた。

●2012年度に単年度で2つの研究活動助成(ユニベール財団、日本都市計画学会の市民連携フォーラム)を受けたことから、具体的な研究・地域貢献活動の取組みをスタートさせた。●2013年、地域にある文化資源を有効に活かすために、「西成エスニックミュージアム推進委員会」を発足させ、新たな取組みを検討している。

概 要●西成エスニックミュージアム構想は、エコミュージアムに倣い、この地域の生活史や産業遺産などを発掘し、サテライト化、ネットワーク化することで地域をまるごと生きたミュージアムとしていくことをめざしたものである。

●地域の再生のため、若者の街からの流出の流れを止めるような地域活性化のプログラム作りをめざしている。●地域のエスニシティを中心とした活動と、延長として商店街の街づくりとの連携を取りながら、空き店舗などの資源を使って活動をしていこうと思っている。

●まずは、地域に手つかずで埋もれている文化的資源、産業遺産を探し出すことから始めた。●地域貢献活動としての取組み:西成エスニックミュージアム文化講座・2012年度から2013年11月までに、韓国や沖縄の文化を紹介し、共有するための文化講座を7回開催した。さらに、来街者のまち歩きに使える、地域資源をプロットした地図を共同で作成している。・靴やベルト、ナットを製造している場所でそれぞれにサテライトを作り、地域資源として活かしたいと考えている。●研究・教育活動:聞き取り調査・本地域に関する文献が少ないことから、住民を対象とした聞き取り調査を実施し、論文としてまとめる。また、拠点を設け、生活用品を集めて展示することも考えている。

●教育としての取組み・創造都市研究科の社会人院生の教育(演習)の場として活用する。商店街のオーナーや住民の聞き取り調査を通じて学習の機会を提供する。

西成における多文化共生のまちづくり西成エスニックミュージアム推進活動

全 泓奎准教授(都市研究プラザ・創造都市研究科)ジョンホンギュ

西成北西部地域

2012年度~現在継続中

在日本大韓民国民団西成支部、大阪西成沖縄県人会、鶴見橋商店街

西成区

第7回西成エスニックミュージアム文化講座の様子 商店街でのスタディツアー

成果や課題

(事例報告者:全泓奎准教授)

3130

Ⅲ文化・歴史・観光

担当者(主)

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

得られた成果●参加した学生への影響:現場で実物に触れる「本物の教育」を体験することができ、中には実際に長屋に住むという貴重な経験をした者もいた。特に卒業設計の一環として取り組んだ学生は、調査・計画・設計・施工までを体験するという総合的かつ専門的な学識を高めることができた。

●各賞の受賞により、大阪の居住文化としての長屋居住への理解が深まり、地域・大学のみならず、所有者・居住者の意識(再認識)に変化が生じたものと思われる。また、長屋および長屋街を居住地として再生していくモデルケースをつくったことは、特に長屋の所有者に対して前向きな影響を与えたと考えられる。

●一部の棟の設計・工事費に、木造長屋初の大阪市の耐震改修補助金を受けたが、その時の市との協議によって補助制度の抱える課題が浮き彫りになり、その改善を促した。

●施工を行った工務店は、このケースを通じて長屋改修に関するノウハウを身に着け、独自に長屋再生に取り組むようになった。

地域との関係で工夫した点●個人住宅を活用するため、所有者・居住者のプライバシーに配慮する必要がある。●プロジェクトの1年目は、長屋の所有者も大学に何ができるのかがわからず、不安であったと思われる。しかし実際に1件目の改修工事が完了すると、その出来映えに感動するとともに良好な関係を築くことができた。

感想と今後の課題●長屋再生という課題はそれまで取り組んだことのなかった研究テーマであり、未知の領域に対する不安は大きかった。しかし、実際に豊崎長屋を目にし、是が非でも保存していくべきだと感じて取り組んだ。

●一般の方の居住地でもある豊崎長屋をいかにして保全・活用するべきか。例えばマスコミによる広報は高い効果が見込めるが、プライバシーの観点から慎重に検討する必要がある。

●プロジェクトのマネジメントモデルや発生するコストへの対応。現在は任意団体として活動しているが、2012年にはNPO法人化する可能性もあった。

●この事例のように大がかりな改修プロジェクトは、ある程度優良な空き家となった長屋が見つからなければ実施できない。居住者のいる長屋での改修の合意形成(所有者・居住者等)が課題である。

きっかけと展開●2005年に大阪市立住まいのミュージアム・大阪くらしの今昔館の館長を兼務していた生活科学研究科の谷直樹教授(当時)が、博物館資料の所在調査を行うために豊崎の吉田家を訪問。大学の研究会や見学会に使わせてもらいながら、建築後90年以上が経過した長屋の将来について話し合った。

●2007年に文科省のグローバルCOE拠点に採択された都市研究プラザは、この豊崎長屋・主屋を現場プラザとし、都市研究の最前線の拠点と位置づけ、研究・教育に活用した。その過程で、長屋群を居住地として再生する方針や具体方策を検討していった。●2007年からは本格的な保存と再生がスタートし、2008年に主屋と長屋群が国の登録有形文化財となったことから、歴史資産としての優遇制度の活用の道を開いた。

概 要●建物の再生プロジェクト・主屋と北長屋の耐震補強を手始めに、現在までに主屋と5棟の長屋、計14戸の改修工事を行った。その手法は、伝統工法を残しながら、最新技術を用いた耐震補強工事を行い、路地の景観の保全や裏庭の復活等、本来のデザインを取り戻すことを目指している。歴史的意匠を前提としつつ、内部は現在の生活水準に対応した設備や、構造と意匠がマッチした新しいデザインを採用している(グッドデザイン・サステナブルデザイン賞、2011年)。 

●教育プログラムとしての展開・豊崎長屋の再生過程を、生活科学部学生(1~4回生)・研究科院生の授業や設計演習、卒業設計等の舞台として、4年間を通して現場とつながった教育を実践している。また、実施設計や施工等において現場の職人や住民と協働する取組は、先進的な建築教育として評価されている(日本建築学会教育賞、2010年)。 

●居住者などへの綿密な調査によるアクションの効果測定・2009~10年には、長屋の居住者を対象に、現在の住まい方やこれまでの暮らしの様子などを詳細に調査し、研究論文としてまとめている。

●市大モデルとしての提案・これまでに11の賞を受賞している。その範囲は、木造住宅としてのデザイン・技術、ユニークなリノベーション、社会性のある事業、まちづくりへの貢献等と多岐にわたり、各方面で高く評価されている。こうした取組みをもとに、長屋再生のモデル化を行い、やがては大阪府内の長屋再生に役立てることを目指している。また、これまでの成果を著書としてまとめ、出版した(「いきている長屋」谷直樹・竹原義二編著、大阪公立大学共同出版会、2013年)。

資料:「いきている長屋 大阪市大モデルの構築」谷直樹・竹原義二編著、大阪公立大学共同出版会、2013年

居住文化を活かした都市の再生に向けた市大モデルの構築豊崎長屋の再生プロジェクト

長屋オーナー、大学生、一般

2005年~現在継続中

藤田忍教授、小池志保子准教授(都市研究プラザ・生活科学研究科)、谷直樹名誉教授、竹原義二前教授 ほか

吉田家、山本博工務店、桃李社(構造)、大阪市都市整備局、大阪市立住まい情報センター、景観整備機構(公社)大阪府建築士会

北区

長屋路地アートの様子

豊崎長屋と再生住戸

改修前の長屋

改修後

成果や課題

(事例報告者:藤田忍教授談)

3332

Ⅲ文化・歴史・観光

担当者(主)

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

得られた成果●複数の学生が1軒の長屋を借りて、シェア居住している。今後は、公的な共同住宅のDIYによるリノベーション等に結び付けていきたい。

●「どっぷり昭和町」の参加者の住宅を、改修前の長屋の形を再現するため、復元設計を行ったところ、たいへん喜ばれた。こうしたイベントを通じて少しずつ長屋のよさが浸透していくのではないか。

●生活科学研究科藤田忍教授が中心となった「オープンナガヤ大阪」とも連携し、長屋の案内なども行った。

地域との関係で工夫した点●組織的に地域と関係した取組みとはなっていないが、地域の研究会(ASSUの会)に参加することで、個人的なつながりが増え、そのなかで研究が成り立ち、何かあったときには手伝ったりする。研究対象となる長屋も増え、エリアも広がっていった。

●長屋のリノベーション案を地元不動産業者に提案している。若い人たちにも受け入れられるようなものになれば、まちの活性化につながるだろう。

感想と今後の課題●大阪は多種多様の住宅が「型」として成立しており、非常に興味深い。研究対象は豊富にある。●長屋の活用に際しては、改修長屋に居住する人がいるかどうか、が問われている。地元組織(自治会・行政等)にはあまり問題意識はなく、長屋を残していくことも個人の家主の取組みにゆだねられている。

●次の段階として、研究成果を地域に還元し、長屋のよさを活かしたまちづくりのきっかけづくりとしていくことが考えられる。

きっかけと展開●2004年に横山は、赤崎弘平教授(当時)から地下鉄昭和町駅近くの飲食店として再生した長屋を紹介された。地域で長屋保全の活動をしている市民グループ(ASSUの会)があることがわかった。その活動に参加しながら、最終的には長屋の活用方法を考えたいと思っていた。●ASSUの会では年2回程度イベントを行っていたが、2006年4月29日の昭和の日に「どっぷり昭和町」というイベントを行うことになり、研究室として長屋ツアーの案内等の手伝いをした。●こうした活動を通じて長屋で飲食店を経営する人や地元不動産業者、看板屋等と知り合いになり、調査可能な長屋が増えていった(北田辺付近まで)。長屋を活かしたまちの活性化を議論しつつある。

概 要●横山研究室では、阿倍野地域に根差した長屋の調査研究活動を実施している。これまでに、修論2人、卒論3人がこのテーマに取り組んできた。修論では長屋のコミュニティ、長屋の格式性等をテーマとして調査研究した。

●長屋の実測調査を続けていたが、2009~11年には、科学研究費補助研究「都市住宅計画における「大阪型モデル」の開発」に取組み、長屋以外にも文化住宅や併用住宅、三層ミニ戸建住宅などの大阪独特の「型」を持つ都市住宅を研究対象にしている。

●昭和初期に建設された阿部野の長屋は、阪南町(1~5丁目)だけでも1,490戸ある。街区構成とも一体となった合理的な区画割りや住宅計画がなされ、また、2階にも床の間や書院等を持つ座敷、お屋敷を真似た和洋折衷のデザイン、限られた敷地内での可変性のある平面計画等、今まで見過ごされていた魅力がある。この価値・魅力を多くの人に知ってもらい、それを活かしたまちづくりを進めるべきではないだろうか。

●ただ保存するだけでなく、高齢者のシェア居住や、複数住戸をくみあわせたグループホーム化等、新たな提案も生まれている。

●今後、学生が主体となったイベントを開催する予定である。

昭和初期の長屋の再評価阿倍野の長屋研究活動

地域

2004年度~現在継続中

横山俊祐教授、徳尾野徹准教授(工学研究科)

阿倍野区 他

学生たちによる実測調査

地域の人たちも参加する長屋ツアー

格式のある大阪長屋の平面図

国際ワークショップの会場としての活用

計画水準の高い住宅地構成

ASSUの会関係者、地元不動産業者、飲食店経営者等

成果や課題

(事例報告者:横山俊祐教授、 徳尾野徹准教授)

3534

Ⅲ文化・歴史・観光

担当者(主)

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

河南町

得られた成果●今まで、科学的根拠のもとに復元された古代馬はなかった。今回、体高127cmの古墳時代のウマを視覚的にとらえることにより、生息時に近い体型のイメージがつかめた。

●博物館では、ウマの出土状態とそれに基づいた交連模型が展示されていたが、体格の復元模型を並列することによりさらに充実したものとなった。

●自分の研究面では、古墳時代のウマは朝鮮半島から移入された直後の特徴をもつものであり、そのルーツを探る点でも貴重な資料である。

●教育の観点からみると、古墳時代のウマは現在生息している在来馬の祖先である。古代馬の体型や体格を視覚的にとらえることで、より正確なイメージを作ることができる。それを踏まえて、当時の人々の生活を推測することが容易になると考えられる。

地域との関係で工夫した点●博物館以外に大阪府教育委員会の発掘担当者の協力で、発掘当時の状況が明らかになり、出土していない頭部の復元が比較的容易になった。

感想と今後の課題●古墳からは、装飾馬具をつけたウマの埴輪が多数出土しているため、復元したウマに馬具を装着することで、古墳時代のウマの存在意義を実感できる。

●できれば復元したウマに復元した鞍を装着し、乗ってみるのも、古代人を体験することになると思う。●博物館と連携することで、一般の人々に、古代人の生活様式や生活環境をより正しく理解してもらう場所が提供できる。

きっかけと展開●2008年度、大阪府立近つ飛鳥博物館による四條畷市蔀屋北遺跡から出土した5世紀のウマの全身骨格にもとづく、骨格復元模型、成体復元模型の作成事業に際し、解剖学的見地からの指導を求められた。

●近つ飛鳥博物館に展示している蔀屋北遺跡出土のウマの遺存体の分析を行ない、展示する際にはクリーニングなどの指導を行った。

●2008年度にはこのウマの骨格復元標本の作製を実施し、現在は常設展示室において公開、展示している。●2012年度には肉付けした復元標本の作製を実施し、近つ飛鳥博物館平成24年度秋季特別展で公開した。その後、常設展示室に展示している。

概 要●蔀屋北遺跡周辺地域は古来より河内の馬飼いと知られている。2001年より大阪府教育委員会文化財保護課が発掘調査を行い、その結果、多数のウマの骨とウマに関連する遺物が出土したことより、古墳時代の「牧」であったことが証明された。そこで、全身骨格が出土した埋葬馬を保存処理し、近つ飛鳥博物館に展示するにいたった。

●その後、この埋葬馬の骨格に基づいて、科学的根拠をもとに骨格復元模型を作製した。●2008年度には、骨格復元模型に肉付けをし、より生存時に近い古代馬を復元した。●具体的な指導方法は、骨格に肉付けが出来た時点や頭の復元をした時、また体色を決めるなどの作業の区切りごとに現場に赴き、近つ飛鳥博物館の担当者、大阪府教育委員会の担当者と打ち合わせをしながら検討した。

●筋肉のつき方の復元は現生のウマの解剖学書等を参考にした。●骨格からの情報が得られない耳や尾などの付属器官は、現存の在来馬8種のうち、体格が似ている御崎馬と木曽馬を参考にした。

●復元作業に当たり、古代馬の体格を知るために現生の在来馬の骨計測を行う機会が得られ、古代馬を研究する上で非常に役に立った。

大阪府立近つ飛鳥博物館ウマの復元展示蔀屋北遺跡出土ウマ遺体の復元

博物館特別展入館者、人数(計8,813人)

2008年度~2012年9月

安部みき子助教(医学研究科)

大阪府立近つ飛鳥博物館、大阪府教育委員会

ウマの骨格復元模型と成体復元模型(大阪府立近つ飛鳥博物館提供)

大阪府立近つ飛鳥博物館での特別展示の様子(大阪府立近つ飛鳥博物館提供)

成果や課題

(事例報告者:安部みき子助教)

3736

Ⅳ高齢者・子育て支援

担当者(主)

連携・貢献者

期間

関係組織・協力機関等

1

2

得られた成果●学内でも先輩から後輩のネットワークを通じてコースの評判が伝わり、社会意識の高い履修者の増加に繋がっている。1回生が他学科の概論を履修することでジェネラルに学び始め、そこから自ら特定の専門分野を見つける学生もいる。

●在学中の学生は学内での勉強が中心になるが、演習でフィールドに出ることにより、その学びを地域に還元することができた。行政に向けての報告会も実施した。 例:子育て支援として、東住吉区田辺の商店街の活性化をめざして、幼稚園児と母親の食育(お買い物)や空き店舗

を使ったクッキング講座等を実施  高齢者支援として、配食・会食サービスの調査を実施し、ボランティアならびに業者に向けて献立指導 等●防災教育とも関連して、学部内の中庭に、畑とセットとなるオープンキッチンを開設して、災害時の炊き出しの体験等ができるように、準備をすすめている。

地域との関係で工夫した点●基本的に地域からの要請があったテーマを演習で扱うため、学生を受け入れることに対して地域も協力的である。●自治会等からの依頼で講習会などを開催する時は、一方的な講習で終わるのではなく地域のニーズ起こしの機会として見なしている。

●学生側の負担も考慮し、演習は休日の日中を中心に行っている。●地域の催しでのプロモーターとして講師役を務めることは1~2回生では難しいため、院生の協力や学内(大学生協の健康講座)の活用等を行っている。

●座学の知識しか持っていなかった学生のフィールドワーク先と地域からのニーズを合致させることで、今後、様々な地域連携にも繋げられる。

感想と今後の課題●認定を受けるために必要な科目を履修する学生のスケジュールは学年が上がるにつれてタイトになるため、途中で履修が難しくなる学生がいる。

●複眼的発想と自学自習のきっかけづくりを目的とするため、コース修了者であってもすぐに結果が現れず、カリキュラムの効果測定が難しい。

●制度上、学生の交通費が自己負担となるため、遠隔地でのフィールドワーク等を行う際には課題がある。●担当教員にとっての研究業績や教育業績となるように、ケーススタディを発表する場を設ける、大学がコースを適切に評価するシステムを構築する等の必要がある。

きっかけと展開●2005年度、文部科学省の現代GP(現代的教育ニーズ取組支援プログラム)に採択され、「QOLプロモーター」という言葉を発案した西川がとりまとめを担当し、3年間実施した。

●生活科学部には3学科(食品栄養学科、居住環境学科、人間福祉学科)があるが、生活課題を科学する人材の育成という学部としての教育理念について、広い視野で学生に考えさせる機会を与えないまま専門職教育に偏っているのではないかという自省があった。●そこで、3学科横断的なカリキュラム構成で現代GPの「QOLプロモーターの養成」を目的とする授業を実施し、学生に俯瞰的な視点を持たせようとした。

●文科省の現代GP終了後もコースは継続されている。●初年度の内容をある程度引き継ぎつつも、現在は担当教員によって様々なテーマの授業を開講している。

概 要●QOLプロモーター(生活の質のプロモーションを目的に、市民あるいは居住者として生活者のニーズを把握し、パートナーシップによる問題解決に寄与できる者)の養成を目的としている。教員も学生と一緒に取組むことが特徴。

●履修学生は、最大15名/年(各学科5名程度を想定)。現在までに37名が認定を受けている。●学科を問わず履修可能な「QOLプロモーションⅠ・Ⅱ(座学)」とそれに対応する「同演習Ⅰ・Ⅱ(集中講義によるフィールドワーク)」の合計4科目を新設した(いずれも1単位)。卒業時にQOLプロモーターの認定を受けるためには、その他、関連科目として、既存の専門科目を3学科にまたがって履修(14単位以上)することが必要である。

●QOLプロモーションⅠ・Ⅱ(座学)・3学科の教員が共同で2コマを提供。外部講師による授業や地域の住民や専門家の受講もある。現代GP期間中は講義のインターネット配信環境も構築された。

●QOLプロモーション演習Ⅰ・Ⅱ(フィールドワーク等)・それぞれ内容は基本的に同様だが、「演習Ⅰ」は新入生向けのアーリーエクスポージャー(早期臨床体験学習)、「演習Ⅱ」は2回生以上が対象で、自らの専門領域を意識し始めた学生に他学科の視点を再認識させるためのワークという位置づけ。地域の協力のもと、複合多面的なフィールドワークとして、子育て支援・高齢者支援・障害者支援の3分野を提供。住吉区民ホールで区役所後援の活動報告を実施。・当初はその時点である程度動き出していたプロジェクトを中心にカリキュラムを作成した。手を挙げた教員が担当するため、年度ごとに内容が異なる。 例:子育て支援:みなくるハウスでの地域ニーズの把握(住吉区山之内に子育て中の親の集まる場を設置)、子育て中の方を

対象に日々の食事作りの講座等 高齢者支援:住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館)での回想法の人材養成、定期的講演・研修会による「想いでサポーター養成」等 障害者支援:食品・インテリア・対人関係を複合させた演習等 

●関連科目(必須・選択)・必須科目として他学科の概論(1回生~)が、その他選択科目として3学科各3科目を設定なども含まれる。

 地域と大学教育の関係

地域の方たちへのインタビューによるニーズアセスメントから栄養教育プランニングへ

生活問題を俯瞰的視点で解決できる人材の育成QOLプロモーター育成(生活科学部現代GP)

大阪市住吉区、東住吉区等

生活科学部大学生

2005年4月~現在継続中

資料:現代的教育ニーズ取組支援プログラム「QOLプロモーター育成による地域活性化」パンフレット:大阪市立大学生活科学部、2007年

住吉区東住吉区他

成果や課題

(事例報告者:西川禎一教授、 春木敏教授)

西川禎一教授、春木敏教授、上田博之准教授ほか生活科学研究科教員

3938

小大連携による「いのちを守る学習」の展開大空小学校・創造的教育の研究

目標と成果●防災教育は、東南海地震のような大災害が発生する頃に成人している生徒たちが、地域のリーダーとして活躍できるようになることを願って行われ、その成果は未来に託したい。

●伝統的な祭事や芸能は地縁コミュニティ内でコミュニケーションを促進するメディアとして機能し、災害からの復興にも有効に機能することが実証研究により明らかにされている。住吉区のような伝統的な祭事や芸能を持たない地域では演劇がその機能を代替できるのではないかと考えている※1。さらに、コミュニケーション能力を養うことを目的として大空小の児童による劇団の結成を目指している。

地域との関係で工夫した点●小学校・大学の双方にとって得るものがあることが重要である。大学は研究活動として関わることが基本である。出前授業をするだけではなく、大学教員側もこの活動を通じて得たものを研究成果とし、社会に還元していくことをめざしている。小学校からは様々なことを教えていただいている。

●連携して活動をする中で判断を迫られた際には、「いのちを守る」というキーワードと「4つの力※2」を拠り所にしている。これは小学校と大学の共通のコンセプト(結節点)となっている。

●オープン講座の担当教員を選出する際の基準は、子どもに寄り添える資質をもっているかどうかで、防災を専門に研究している必要はない。

●子どもたちが「いのちは大切である」と心から思うためにすべきことは何であるのかを常に考える。

感想と今後の課題●大学生の関わりが少ない。大阪市立大学には小学校教員養成課程がないため、卒業後に小学校で働くというキャリアを想定しにくい。

●木村校長とのタッグにより推進されてきたため、互いに後継者の問題、都市防災研究プロジェクトの継続に関する努力が必要である。

●小学校と大学、つまり教育の入口と出口が共同防災を行うのはとても珍しく、防災以外のことでも連繋を深めたい。

※1:大学と地域の人たちによる劇団「スミヨシ・アクト・カンパニー」の取り組みがある。 https://www.connect.osaka-cu.ac.jp/4c/wp-content/uploads/2013/03/ODRPforum.pdf※2:大空小学校の教育の方針「人を大切にする力」「自分の考えを持つ力」「自分を表現する力」「チャレンジする力」をつける http://www.ocec.ne.jp/es/ozora-es/ozoranokyuiku2013new.pdf

小学校でのオープン授業の様子

小学校教諭・大学教員の共同研究会の様子

住吉区

担当者(主) 中川眞教授(文学研究科)ほか

大阪市立大空小学校

小学生、保護者、地域住民、小学校教諭

2012年12月~2015年12月(予定)

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

きっかけと展開●2010年、舞踊ワークショップの開催場所を探していた在大阪インドネシア共和国総領事館の依頼で、大空小学校(以下、大空小)に問い合わせた。この時まで繋がりはなかったものの、ワークショップは成功、以後の協働の礎石となった。●その後、2012年8月31日に開催された東日本大震災復興コンサート「こども熱帯音楽祭 in 大阪」(主催:都市研究プラザ)に、大空小の協力を得ることができ、児童(有志)たちとプロのアーティストとのコラボで、新しい作品を披露した。

●さらに、同年9月に住吉区民センターで開催された第7回三大学連携公開講座「未来をひらく『コドモのチカラ』」にも大空小の児童(有志)が出演して、演奏した。また、市立大学の学生のボランティアサークル「コノユビトマレ」などが大空小学校と交流を重ねていた。

●このような取組みを通して、震災後の教育や子供の未来について考えてみようと、同年12月7日に大空小と大阪市大の間で「創造的教育に関する研究」の協定(3年間)の覚書を交わした。●2012年度には大阪市立大都市防災研究プロジェクト(ODRP)のメンバーである三田村宗樹教授(理学研究科)、石井京子教授(看護学研究科・当時)により防災教育に関わるオープン講座を実施。2013年度は、生田英輔講師(生活科学研究科)や木村義成准教授(文学研究科)、加藤司教授(経営学研究科)等による授業が行われ、三田村教授の指導による防災井戸の掘削が行われた。また大空小の木村泰子校長が、2013年3月に行われた地域防災フォーラムにて、パネリストとして登壇した。

概 要●大空小について ・木村校長の主導で、以下のようなユニークな学校運営がなされている。何らかの障碍をもつ子どもが全校生徒の3割を占めるが、特殊支援学級を設置せず、フラットな環境で教育/自分や他者の良さに気付き、生きる力を身につけさせることを目的とする学校独自の教科「ふれあい科」を設置/地域住民が能動的に参加するオープン授業が開かれている。

●防災教育オープン講座について・「いのちを守る学習」を行うことができる大阪市立大の教員が、大空小にて出前授業を行う(5~6年生対象)。このオープン講座は保護者だけではなく地域住民にも開放され、児童とともに学ぶことによって地域教育の一環となっている。

●小大連携協定について・単に出前授業を行うだけではなく、大学と大空小が互いに資するような共同研究を目的とする協定であり、創造的教育の共同研究の具体的な活動として、年に2~3回、大学教員と小学校教諭の合同の研究会を開いて、包括的な情報交換・共有を行っている。

Ⅳ高齢者・子育て支援

成果や課題

(事例報告者:中川眞教授)

4140

小学校における地域ぐるみの防災教育「いのちを守る学習」スペシャル防災井戸 in 大空小ふれあいファーム 得られた成果

●住吉区の危機管理担当者も井戸のお披露目会に参加された。小学校での井戸設置が災害時緊急水源として地域住民に認知されたことを重視し、次年度以降、区の災害対策への取り組みとしてこのような井戸を住吉区に普及できないか、その後、相談があった。

●設置された井戸は、「ふれあいファーム」での畑の散水に使用されるほか、児童の地下水温の自主観測など、その後の教育題材としても活用されている。その一方で、災害時の中水活用の非常用水源として地域住民に認知されることとなった。

●大空小のような事例が増えるかどうかわからないが、成功することによってフォロワーが現れることが期待できる。●小学校の児童だけではなく保護者や地域住民が共に防災について考えることによって、様々な視点から日常に潜むリスクを発見することができるほか、足元の下の地盤やその環境について関心が及ぶようになる。

地域との関係で工夫した点●井戸設置に関しては小学校での設置で、大阪市教育委員会の了解のもと大阪市予算で行われた。これには大空小の連携事業への積極的な受け入れ体制と、木村校長による教育委員会への熱心な説明によって了解が得られて実施に至ったという背景がある。

感想と今後の課題●小学校での井戸設置を伴う事業や授業展開は大阪市教育委員会の了解が重要な要素となる。この点の教育委員会側の理解や区役所との調整が今後の普及・展開で大きな要素となるとみられるため、大空小でのその後の経緯や住吉区での展開を見守りたい。

資料 :大空小学校スクールレター「いのちを守る学習」スペシャル 防災井戸 in 大空小ふれあいファーム http://www.ocec.ne.jp/es/ozora-es/2013date/relation20131001_merged.pdf :「いのちを守る学習」スペシャル:「いのちを守る都市づくり[アクション編]」大阪市立大学都市防災研究グループ編、大阪公立大学共同 出版会、2013年)

住吉区

担当者(主) 三田村宗樹教授(理学研究科)

大阪市立大空小学校、大阪市立大学都市防災研究グループ、住吉区役所

小学生、地域住民、区

2012年度~2013年9月

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

きっかけと展開●三田村自身は会員でないものの、土木学会から小学校の総合学習の地域貢献活動の一環として、これまでに数回、出前授業を依頼され、行っていた。

●2013年1月に、中川眞教授(文学研究科)からの依頼で、大空小学校(以下、大空小)5年生を対象に地震防災に関する出前授業を行った。

●2014年度の都市防災研究の過程で、都市防災研究フォーラムなどで守口市の小学校での井戸掘削・設定の事例を紹介したところ大空小の木村泰子校長が興味をもってくれた。

●大空小は2013年度、小学校事業の中で井戸掘削の予算化を行った。その実施にあたって8月上旬に相談を受けて井戸掘削業者や適正な井戸掘削深度の相談に応じ、その後8月下旬に井戸が完成。

概 要●2013年9月の2学期の開始時期に小学校6年生を対象として「いのちを守る学習」スペシャルが実施され、その授業の講師を三田村が担当。地下水の大まかな理解と小学校の地下の地層と地下水の状態を簡易なデモ実験を含めて概説したあと、小学校の「ふれあいファーム」に完成した井戸のお披露目会を行った。

●この「いのちを守る学習」スペシャルでは、小学校の児童だけでなくPTA、町内会の関係者も授業参加し、子どもたちと一緒に地下の状態や地下水について理解してもらった。井戸のお披露目会では、設置された手押しポンプで地下水をくみ上げ、におい(やや鉄分が多いため鉄錆のにおいがする)、水温(水道水に比べ夏季では冷たく感じる)を確認した。

●井戸を題材にした授業展開のため、6年生の理科「大地をさぐる」の内容に合わせ、平易な内容で平野地下の地層と地下水の関係を説明した。授業では砂やれきの透水性の簡易なデモ実験で地層内の地下水の動き方や存在状態を理解させた。

Ⅳ高齢者・子育て支援

「いのちを守る学習」スペシャルの様子

成果や課題

(事例報告者:三田村宗樹教授)

4342

Ⅳ高齢者・子育て支援

得られた成果●出張講義のアンケートからは、エゴグラムによる生徒自身の自我状態分析結果に対する反応が大きく、また特に自己への肯定感の顕著な高まりが確認されている。

●出張講義が終了してから、生徒からの相談も届いており、“自己変革”の兆しが伺える。●2013年10月に国際看護学会(韓国)で報告を行ったことがきっかけとなり、オーストラリアの研究者と子育て研究の国際比較を行う計画等がある。国際比較によって、逆に日本の特徴が浮き彫りになることが期待される。

●具体的に活動することで、様々な人との出会いが得られ、結果的に研究のフィールドが広がった。

地域との関係で工夫した点●(教員単独では活動の場やサポートを得ることが難しく、区役所や学校などへのアプローチに対して、反応が鈍いケースが多かったため)遠方の活動場所を継続しながら、商業施設との連携を築いている。

●母乳・育児相談、ママのメンタルケアは商業施設など、意識的に大学外で実施している。その方が保護者にとって子どもを連れていくうえでハードルが下がるからである。原則として買い物途中などの飛び込み参加も歓迎している。

●既に取り組みを始めている地域や学校などではなく、まだ活動していないところへ場を拡大し、取り組んでいくことを目標にしている。

感想と今後の課題●今後、高校での出張講義の内容について、高校教諭の誰もが、実践できるようにマニュアル化したい。●教員の研究活動拠点の移動は、それまでの活動の継続を困難にさせる。活動内容を継続する新たな場を得るための活動の窓口の設置、システム化、組織的な支援が必要だと感じている。

●生活科学部や文学部との連携等、学部を横断した子ども・子育て関連のプロジェクトの必要性を感じる。都市防災研究プロジェクトのような学内の横断プロジェクトとして「子ども・子育て」を立ち上げることができればいいと思う。そのためのきっかけづくりが必要である。地域連携センターには、従来の「情報発信力」に留まらず、「絆づくり力」「推進支援力」に大いなる期待を寄せている。

高校での出張講義

アサヒベビー相談室あべのハルカス(8F)

胎児人形にホッコリする男子生徒

阿倍野区

担当者(主) 喜多淳子教授(看護学研究科)

①兵庫県立兵庫高等学校、兵庫県立神戸高等学校、兵庫県立須磨東高等学校、②朝日新聞厚生文化事業団・近鉄百貨店

地域の高校生、子ども・その親等

2001年~現在継続中

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

きっかけと展開●神戸大学に勤務していた頃(2001年)、地域の高校の家庭科教諭との繋がりから、兵庫県立兵庫高校で出張講義を依頼された。●子ども・子育て(成育)研究の効果・成果の可視化研究として、出張講義を毎年行ってきた。現在の開催校は神戸高校と須磨東高校の2県立高校である。●当初は家庭科の授業「保育」の中で、現在は「人権教育」(神戸高校)として特別講義を行っている。2010年より看護師/助産師に臨床発達心理士の専門性を活かした内容が加わり充実した ①。●医学研究科発達小児医学教授からの紹介で、子ども・子育て相談事業に参画はじめた ②。

概 要●心と生命の科学教室「自信と思いやり(自他肯定感)が高まる教室『しない!させない!いじめと自殺、そして虐待』」の出張講義①・高校生を対象として、自分や他人のパーソナリティを尊重して生きる、つまり自他肯定感を高めることを目的とした講義(例:いじめの防止)。高校生は10年以内に子どもをもつ可能性も低くなく「親準備軍」として見なせることから、この講義を将来の虐待防止に繋げる企図もある。・授業の内容-2年生全生徒を対象とした講義は2回を1クールとしており、1回目は「いのち」の大切さを科学的知識と胎児人形による知覚などを通して伝える内容。2回目は「エゴグラム」(スケール)を用いて生徒が自己分析を行う。“生き易さに向けて、(他人は変えられないが、)自分自身は変えられる”(自己変革)に分析結果を繋げるノウハウを説明する。そのため2回目は5グループの少人数に分けて複数回実施する。授業の前後(1回目と2回目)には同意の下で連続的にアンケートをとっており、生徒の意識・認識、情動、行動の変化を評価できるように設計している。

・同様プログラムの応用企画 -ひらめきときめきサイエンス・プロジェクト 研究機関で行っている科研費の研究成果に子どもたちが親しむような、日本学術振興会が主催するワークショップ。このプログラムでは高校生だけでなく、小中学生を対象に含む。大阪市立大学阿倍野キャンパスで開催された際に、喜多が講師を務めた。プロジェクト担当者や委員らの実地視察を受けた。-リカレント教育 教員免許更新研修会においても、高校生用特別講義内容をアレンジして平成22年度、25年度の2回実施した。-親準備教室 既存の育児教室のターゲット層を広げる意図から、親としての姿勢づくりや育児のコツを妊婦とその夫に伝える。現在は休止中。●母乳・育児相談、ママのメンタルケア② 1957年から続く、朝日新聞厚生文化事業団の依頼により開かれてきた多職種によるベビー相談室で講師を務めている。現在はあべのハルカスにて実施。大学として民間よりもアカデミックな内容で、育児中の母親への育児技術やメンタルケアなどを行っている。

高大連携から地域・大学協働による「子ども・子育てサポート」プロジェクトに向けて成育・家族支援活動 成果や課題

(事例報告者:喜多淳子教授)

4544

Ⅳ高齢者・子育て支援

担当者(主)

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

成果や課題

(事例報告者:春木敏教授)

得られた成果●食育講座1(料理実演講座)の参加者のアンケートより、実演された料理を自分でも作ってみたいという回答が多く見られた。実演と試食により、参加した高齢者の調理意欲が向上し、食育の効果が得られた。商店街にとっては、顧客獲得につながる効果的な食育プログラムであると考えられ、継続支援をするとよい。

●食育講座2(幼稚園児“おかいもの体験”学習)に対しては、園室内で行うシミュレーションゲームに比べ、買い物体験学習のプログラムは、教育効果が大きいと幼稚園教諭は評価した。

●園児の保護者らも、量販店とは異なる買い物体験に好印象をもったことがアンケートからわかった。今後のリピーターが期待され、商店街にとって子育て世代の顧客層の獲得につながると考えられる。

●商店主が食育により集客・活性化を行うメリットを認識したことで、商店街がもつ専門処理システム(不特定多数の来客者と問題解決する営利活動)の可能性を確認することができた。

地域との関係で工夫した点●商店主からも継続を希望する声や好意的な意見が多かったが、中には「仕組みをもっと単純にしてほしい」「実施時間を変更してほしい」といった意見も見受けられた。実施者側の負担にならない運営を検討するために、目的を明確にするとともに商店街組織内での正しい理解と連携が欠かせない。

●講座で得られた効果を維持するには、継続した取組みが必要である。

感想と今後の課題●商店主らは園児や保護者に対して担い手としての役割を果たしたことにより、相互扶助(地縁型コミュニティに帰属した地域貢献活動)の達成感を得、商店会としての社会的役割を再確認した。

きっかけと展開●我が国では2005年に食育基本法が施行、2006年に食育推進基本計画が策定され、家庭、幼稚園・保育所園、学校、地域が連携する食育の必要性が取りあげられている(第2次食育推進計画,第2次健康日本21)。

●2009~2011年度の3か年にわたり、生活科学部は、東住吉区と「区民健康づくり」に関して協定を結び、生活科学部現代GP 「QOLプロモーター養成コース」の演習などで協働してきた。この3か年で、「健康づくりアドバイス」「食育」「ウォーキングマップ作成」などを行った。

●このうち、地域で行う「食育」という側面から、地域の資源や人材を活用するとともに商店街の機能に着目し、実践を通した食育プログラムを試行・評価した。

概 要●商店街活性化ならびに幼児とその保護者を対象とする食育は、南田辺商店街振興組合と今川幼稚園における幼児食育を連携した取組みである。商店街の利用者の多くは高齢者で、若い人たちは近隣のスーパーマーケットを利用することが多いという状況の中で、商店街を幼児食育の場と設定し、幼児養育者の足を商店街に向けることを目的とした。

●東住吉区の南田辺本通商店街をフィールドとして、2つの食育講座を実施した。-食育講座1:料理実演と試食“秋の味覚”・商店街来店者を対象に、秋の味覚を用いたヘルシー料理の実演と試食を行った。食育実施と使用食材の販売促進ならびに商店街機能の再確認を目的とした。・商店主は食材提供と会場提供を行い、講座は栄養教育研究室学生、保健センター管理栄養士・職員が担当した。-食育講座2:幼稚園児の“おかいもの体験”(2回シリーズ)・第1回(2009年11月12日)は近隣の今川幼稚園の園児が、商店街の指定された店舗でスタンプラリーを楽しみながら、買い物体験学習をした(1人300円を持参し、2品を購入する)。・商店主は事前に用意された食べもの情報の掲載されたカードを用い、販売時に園児と直接会話することで食育を行う。帰宅後は、食べものカードを用いて保護者による園児への家庭における食育を展開するよう知らせている。・第2回(2009年11月19日)は保護者と園児が一緒に、商店街でスタンプラリーを楽しみながら買い物の体験学習をする。スタンプラリーは食育グッズ(幼児用包丁や食育教材)の景品と交換をし、家庭での食育へとつなぐ。・保護者と園児が一緒に商店街にやってきて、新鮮で安価な食材購入と商店主との会話を楽しみながら、商店街の魅力に気づくことで商店街顧客の獲得を図った。園児39人とその保護者(園児の84%)が参加した。

食育による地域活性化の取組み南田辺本通商店街における2つの食育講座

南田辺本通商店街振興組合、大阪市東住吉区

商店街来店者、今川幼稚園の園児・保護者 、商店(講座1:約100人、講座2:園児39人とその保護者)

2009年10月19日、2009年11月12日、19日

資料:春木敏「人々の健康を願って-食の持つ力を検証する」,上田博之「東住吉区の健康づくり活動」,human life science    2012High Light,大阪市立大学大学院生活科学研究科/生活科学部  :小坂有季・春木敏「地域における食育プログラムの検討~商店街を食育の場として~」

春木敏教授(生活科学研究科)

東住吉区

4746

Ⅴ地域まちづくり

大阪長屋ネットワークの構築に向けた活動オープンナガヤ大阪

得られた成果●Facebookページ「オープンナガヤ大阪」の「いいね!」は2014年2月現在686件であり、その4割程度は東京在住者によるものであり、首都圏からの注目も集めている。

●大阪市内の4区(北区、福島区、阿倍野区、生野区)の長屋スポットの調査がきっかけとなり、市によって全域の調査が行われた。これによって市内の長屋に関する詳細な情報が把握された。調査員に当該学科の学生もアルバイトとして参加した。

地域との関係で工夫した点●長屋の所有者へアプローチする際、プライバシーの保護と建築物の公開のバランス感覚が難しい。マスコミを用いた広報は行えないため、地道な広報を続けた。2012年に初めて寺田町の須栄広四軒長屋では読売新聞で広報を行ったが、予約の参加者の集合場所を駅に指定するという工夫をこらしプライバシーに配慮した。

●当初、豊崎長屋の長屋路地アートは、長屋周辺の居住者向けに長屋の暮らしをわかってもらうためのイベントとして開催し、近所の方も参加してくれた。自治会長さんにも来てもらい、周辺地域への理解を広げた。

感想と今後の課題●大阪の長屋保全ネットワークをいかにして形成するのかが目下の課題。さらに長屋の所有者と人々とを繋ぐ窓口のような仕組みも必要で、4つのNPOにより実現されている京町家ネットがモデルになると思われる。

●木造の長屋の防災という面では、耐震改修のモデルは豊崎で確立したが、防火が大きな課題として残されている。●住居としてだけではなく福祉拠点としての事例も積み重ねることで、行政へ働きかけやすくなると考えられる。生野区では、区が長屋をコミュニティスペースとして用いることを検討している。

●どの程度「長屋」にこだわるのか。対象を広げすぎると通常のオープンハウスとの差がなくなってしまう。またアートイベントを開催すると来場者は増えるが、反面、長屋への理解が十分に得られない恐れがある。本来の目的である長屋の建物と暮らしについての説明を重視しなければならない。

●如何にして、継続的にオープンナガヤ大阪を実施できるような団体、ネットワークを構築し、良いデザインの普及や啓発を飛躍的に進めていくか、課題である。

●面白く、魅力的な空間・ムーブメント・アクションを大阪で実現したい。

資料:「いきている長屋」谷直樹・竹原義二編著、大阪公立大学共同出版会、2013年

オープンナガヤ大阪2013 GUIDE MAP

担当者(主) 藤田忍教授(生活科学研究科)寺西長屋、連建築舎、からほり倶楽部、豊崎長屋、j-pod長屋、中崎町天人等長屋関係者、山本博工務店、大阪市立住まい情報センター、大阪市都市整備局

専門家、大工工務店、長屋オーナー、大学生

2011年11月~現在継続中

連携・貢献者

期間

関係組織・協力機関等

1

2

きっかけと展開●大阪長屋の保存・再生に向け、藤田が中心となり、2007年から3年をかけて北区、阿倍野区、福島区、生野区の4区で悉皆調査を実施し、2008年に市民フォーラムを開催したが、建物所有者(経営者)の参加はわずかしかなかった。●2011年にロンドンで開催された「オープンハウス・ロンドン2011」をきっかけに、大阪でもオープンハウスのようなイベントを実施できないかと考えたことが発端で、同年11月には、毎年恒例の豊崎の「長屋路地アート」にあわせ、バスツアーを実施した。●2012年11月17日~18日には実行委員会を組織せず、また予算がほとんどない中で「オープンナガヤ大阪2012」を立案し、大阪で開催した。●2013年11月23~24日に、20か所の長屋等を一般開放した「オープンナガヤ大阪2013」を開催した。

概 要●路地空間を挟んだ長屋街を長屋スポットと名付け、4区で悉皆調査を実施したところ、計532か所の長屋スポットがあることがわかり、その保存・再生に向けたネットワーク構築に向けた活動を展開してきた。2008年に、大阪市都市整備局が市内全域で同様の調査を実施したが、谷直樹教授(当時)とともに、アドバイスを行った。

●良好な状態で現存する長屋や、現代のライフスタイルに合わせて改修を行った長屋を期間中、一般公開する。その目的は、活気のある街をつくり維持するために必要な優れたデザインの建築物と町並みを人々に開放するという、オープンハウス・ロンドンのミッションに倣っている。

●オープンナガヤ2011では大阪長屋3か所をめぐるバスツアーを実施した。その参加者の中に長屋の建物所有者は4組いたが、そのうちの1組が後の寺田町の改修プロジェクトの所有者であった。

●オープンナガヤ大阪2012では阿倍野長屋、昭和町寺西長屋、阪三長屋、北区中崎町、北区豊崎、空堀、寺田町須栄広四軒長屋、福島区野田のエリアで、それぞれが主体となった長屋の公開が行われた。一度も会議は開催せずに、メールや電話、Facebookを用いて連絡、広報を行った。イベントの企画や運営方法等の決定はすべて各長屋にゆだね、一定の方針を決めて全員で合意する手間を省略している。

●オープンナガヤ大阪2013は、実行委員会方式とし、一般公開する長屋・古民家等の関係者が集まる委員会を開催し、Facebookページ上でロゴのコンペなどを行った。

市内全域

成果や課題

(事例報告者:藤田忍教授)

4948

Ⅴ地域まちづくり

南港ポートタウンにおける交通システムの評価ノーカーゾーンのあり方に関する研究

得られた成果●居住者の入退去はあっても、交通システムに対する意向は、現状維持または、車の乗り入れ規制をさらに強化すべき等が多く、既存のシステムを評価する結果が得られたことが地域にとっての大きな成果である。

●この居住者調査の結果をもとに、新しい社会実験(補助的移動装置の活用、道路形状の一部改変等)を行うための準備を行うことができ、次の実践へとつながることに研究としても大きな意義がある。

●地域住民の生活全般について、市、区の委員会と住民との間で、問題の共有ができたことも成果である。●本研究の成果を教育にも役立てており、大学の全学共通教育の授業や外部の研修会等でもこの研究事例を使って交通システムの講演をしている。また、平成23年度の調査結果は、ゼミ生の修士論文にも組み込まれ、教育の効果が得られている。

地域との関係で工夫した点●今回の事例では市役所との調整はあったが、住民と協議しながら進めるといったことにはならなかった。本来、住民と協議しながら一緒に調査を行い、理解を深めてもらうことも重要なプロセスである。

感想と今後の課題●市民協働を進めるためには、合意形成を図る手段として、関係者が相互に学習することが重要である。行政と地域住民、大学教員やコンサルタントなどが一緒に調査をすることで、相互学習が進む。

●今後は調査の結果をもとに、地域に協力していただき、社会実験を行っていきたい。地域の中で対立する意見がある中で、そのコーディネートを伴うような社会実験としていくことが必要である。

●今後、関連する学会でも研究成果を発表していく予定である。

担当者(主) 日野泰雄教授、吉田長裕准教授(工学研究科)

南港ポートタウンエリア居住世帯

2011年度~現在継続中

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

きっかけと展開●平成23年度に大阪市港湾局が業務を委託した民間コンサルタント会社からの受託研究として、住之江区南港ポートタウン(面積100ha、計画戸数1万戸(集合住宅)、計画人口4万人)における交通システム(ノーカーゾーン規制*)の評価を行うため、住民に対する意識調査を実施した。*ノーカーゾーン規制とは、新交通の整備により住宅地全域が徒歩圏内となることから、自動車の住宅地への進入を原則として禁止することで、騒音・排気ガス、交通事故等の自動車公害から住民を守り、駐車場となる敷地を緑豊かな空間とするための試み。住宅地周辺に駐車場を整備、住宅地内の車両の出入りは1か所のみとし、常時警備員を配置。自転車や緊急車両、貨物自動車(時間制限有・長期許可)、短期許可車両については除外。短期許可は地元の警察署が実施しているが、その件数が1日300件に上るため検討が必要となっていた。

概 要●南港ポートタウンは、昭和52年度の街びらき時からノーカーゾーンを導入しているが、その後、年数が経過し、当初の入居者の世代交代が進んでいる。このため、現行の交通システムを継続すべきかを検討するため、現時点の住民の意識調査を実施した。

●南港ポートタウンエリアの住宅管理人が配布を許可したマンション全世帯7,259世帯を対象に、研究室の学部4回生や修士の学生合計16人程度で、交通実態調査票(アンケート票)をポスティング配布して、郵送回収を行った。

●得られた回答(世帯票1,199部、個人票1,855部)を集計して分析を行った。●調査結果としては、現状のノーカーゾーンシステムに対して満足しているとの回答が多かったが、子育て世帯の評価は分かれており、今後も継続して社会実験などを組み込みながら調査研究を進めていく予定である。

住之江区大阪市港湾局、大阪府警

日野泰雄、吉田長裕「南港ポートタウンにおけるノーカーゾーンのあり方に関する研究」、平成25年5月

ノーカーゾーンゲート(平成23年撮影)

南港ポートタウン周辺

自動車保有の有無・居住年数別にみたノーカーゾーン満足割合

居住年数

成果や課題

(事例報告者:日野泰雄教授)

5150

Ⅴ地域まちづくり

行政、事業者と大学の三者によるまちづくりの検討平林のまちづくりを考える会

得られた成果●地域にとっては、大学という第三者が介在することで、利害関係者間での話し合いを円滑に進めることができたといえるのではないか。

●大学の研究としては、平林の現状把握の調査の一部を卒業論文としてとりまとめるなど、研究対象地として地域の理解と協力を得ることができた。

●大学の教育としては、一連の取組みをまちづくりにおける合意形成プロセスの事例として工学部の専門科目の中で紹介することができた。

地域との関係で工夫した点●当事者の課題からプロジェクトが出発しているため、話し合いの背景は現実に即した切実な問題であるといえる。一方で、当事者である平林会をとりまく行政、地主等の関係で話し合いの枠組みが左右され、それに応じてプロジェクトを進める必要があった。

●平林地区の事業者が中心主体であるが、一事業団体の利益のためにとどめることなく、多様な主体から構成される「地域」の課題として全体の議論を行うように配慮した。その結果、住之江区・大阪市もオブザーバーとして参加しやすい枠組みになっている。

感想と今後の課題●平林会・行政・地主の三者の話し合いの進捗、市政の動きなど社会情勢の変化をうかがいながら、よりよい地域づくりにつなげていくことが、今後、大学が関わる課題といえる。

担当者(主)

事業者(計20人)

2007年度~現在継続中

貢献者

期間

関係組織・協力機関等

1

2

きっかけと展開●平林創生研究会:平林のまちづくりを考える会の前身・昭和40年代、大阪の木材の一大集積地として名をはせた平林地区は、木材産業の構造変化にともない、土地利用の転換が進み、新たな企業立地、埋め立て計画等も進んでいる。

・こうしたまちの変化に対し、地元・平林がどのように対応するかを検討するために、2007年10月に平林創生研究会が一般社団法人平林会と工学研究科(環境都市工学科環境都市計画研究室・都市基盤工学科都市基盤計画研究室:当時)によって設立された。月に1回程度の研究会を開催している。

・2008年度に平林会員に対するアンケート調査を、2009年度に「平林:みんなで描くまちの未来」と称したワークショップを開催し、その成果を受けて2010年6月に提言を発表した。●平林のまちづくりを考える会・2010年度より、平林のまちづくりを考える会として、平林という地域全体の問題をテーマに勉強会、話し合いを続けている。

概 要●平林会と平林創生研究会の活動内容(~2010年)・平林地区では水面埋め立ての話し合いが本格化する中、行政、地主と、平林会の三者による会議がもたれている。この平林会は、平林地区を中心とする事業者(土地の借主としての立場)による法人であり、協議に参加している。

・そして平林創生研究会では、平林会の総意を踏まえ、まちの未来に向けた提言をまとめ、三者による会議のたたき台(原案)を作成した。

・その際、月に1度の研究会では、工学研究科教員による話題提供や調査の計画や結果に関する検討を行っていた。・また、ワークショップでは、「10年後の平林」や「担い手の検討」について意見を出し合い、平林創生研究会がとりまとめ、平林会、行政、地主の三者の役割分担を提案している。

●平林のまちづくりを考える会の活動内容(2010年~)・平林創生研究会の活動を発展させて、2010年以降は、平林のまちづくりを考える会として平林という地域全体の問題をテーマに、市大教員の話題提供による継続的な勉強会を開催(まちづくりに関わる課題、平林地区の地盤性状と液状化危険度、高齢社会における住まいのあり方など)してきた。

・さらに、平林地区内のテニスコート跡地を地域にとって有効に活用する方法を検討するため、平林まちづくり会においてワークショップを実施し、跡地有効利用の検討を進めている。

住之江区一般社団法人平林会、住之江区役所

ワークショップの様子

・資料:「平林:みんなで描く街の未来」2010年6月、平林創生研究会http://www.hirabayashi-kai.jp/・資料:「平林:みんなで描く街の未来 -テニスコート跡地利用の提言-」、2012年10月、平林のまちづくりを考える会

日野泰雄教授、佐久間康富講師(工学研究科)

成果や課題

(事例報告者:佐久間康富講師)

5352

Ⅴ地域まちづくり

船場アートカフェによる都心の活性化支援生きた建築ミュージアム

得られた成果●当初は、大学主体の活動であったが、年数を経るごとにイベントの規模が拡大し、それとともに、地域の横のつながり(建物所有者・企業・マンション住民等)が生まれていった。例えば、まちのコモンズを船場の町会との協力によって実施することで、町会が以前よりも活発に機能し始めた。評判を聞いて参加する町会も現れ、北船場の広域をカバーする地域のイベントとなった。

●最初は大学側から声を掛けることで始まったが、やがて地域に魅力的なコンテンツが存在することを認識し、やりがいを感じることで地域の自発的なアクションが増えた。

地域との関係で工夫した点●企業に対して協力を仰ぐ際に大学と地域の連名で依頼したことにより、地域のみの場合よりも協力を得られやすくなったと思われる。

●大学が活動を行うには実行委員会形式をとり、オーソライズの場を設けることが必要である。これによって委員会への参加者が興味を持ちやすくなり、横の繋がりが広がるメリットもある。

感想と今後の課題●まちの魅力の発掘を継続していくことが重要である。建築、公開空地、店などのハード面から、だんだんと街そのものへと注目するもののスケール感が変化していった。今後は、船場博覧会は大学が主導して続けていくというよりも、地域に根ざしたイベントとして定着させていきたい。

●協賛企業にとって直接的にビジネスと見なすことはできないと思われるが、街が活性化することで間接的に互いの利益に繋がる。また、オフィス街でまちづくりをすることで、そこに勤める人々が地域に関心を持つことに意義がある。

●委員会のメンバーの年齢層が偏っていることが懸念事項。30~40代も参加はするが、まだ数が少ない。

まちのコモンズ 公開空地を活用したアジア音楽ライブ 船場博覧会2013

船場建築祭(2006年)近代建築でのパフォーマンス

中央区担当者(主) 嘉名光市准教授(工学研究科)

中川眞教授(文学研究科)、大阪市都市整備局、中央区地域振興町会(6町会)、堺筋アメニティ・ソサエティ

建物所有者・企業店舗関係者・居住者

2005年度~現在継続中

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

きっかけと展開●2005年度から3年間、橋爪紳也教授(都市研究プラザ/文学研究科・当時)と中川眞教授(文学研究科)らによって、大阪市立大学都市問題研究「都市における芸術文化コミュニケーションの機能に関する政策的研究」プロジェクトとして、「船場アートカフェ」の運用が始まっており、近代建築の創造的活用もその1つであった。●2006年には都市研究プラザの現場プラザ第1号として、船場の繊維関係の企業が集積する一画の業務用のテナントビル内に場が設けられ、「船場建築祭」が開始された(~2007年)。その翌年に採択されたグローバルCOEプログラムでは、文化・アートによる都市の再生をめざした現場拠点として様々な活動を展開していった。●2007年、橋爪教授を引き継ぐ形で船場アートカフェに関わり始める。●2008年より「まちのコモンズ」と呼ばれる地域を巻き込んだイベントを開催。●2011年より、既存のまちづくり組織と合同で「船場博覧会」を開催。●2013年11月に「生きた建築ミュージアム」を開催。

概 要●船場アートカフェは、専門家や研究者が大阪に散在する文化コンテンツのプロデューサーおよびディレクターの役割を担い、新たな組み合わせを実践するための拠点として、大阪市立大学の教員が中心となって設置した。

●2008年から始まった「まちのコモンズ」では、まちのもつ空間的資源を再発見し、その魅力や可能性を地域の方たちと共有することをめざした。地域の問題や課題を可視化し、アートによってコミュニティを形成することでその解決を目指した。2008年には1町会の協力に過ぎなかったが、2010年には6町会にまで広がった。

●さらに、2011年には、まちのコモンズ実行委員会が船場地区HOPEゾーン協議会や堺筋アメニティ・ソサエティと合同で「船場博覧会2011」を開催した。まちのコモンズはその一つとして全体42のうち、14のプログラムを提供し、老舗の店舗や企業が所有する公開空地等も活用したワークショップや展示、セミナー、コンサート、パフォーマンス等を5日間にわたり実施した(~2012年)。

●2013年11月に開催された「生きた建築ミュージアム2013 大阪セレクション×社会実験」は近代建築の保存を目的として、普段は個人が所有する近代建築の建物を期間中に一般公開するイベント。近代建築を見学に訪れる来場者に文化に親しんでもらうだけでなく、文化的に価値のある建築物を所有するオーナーにもその価値を理解してもらう意図がある。大阪市都市整備局の協力も得ている。

●オープンハウス・ロンドンを模範に、やがては「オープンハウス・大阪」へ発展させ、大阪都心の回遊性を高めることも目指す。●運営には学生も携わっている。 ・資料・写真出典:「船場アートカフェ2006年1月-2008年3月 都市政策と芸術文化コミュニケーションの機能する研究」,

都市研究プラザ,2008年・「船場アートカフェ2008年4月-2012年3月 芸術による都市再生研究」,都市研究プラザ,2012年・「船場博覧会2013」パンフレット,船場博覧会実行委員会,2013年

成果や課題

(事例報告者:嘉名光市准教授)

5554

Ⅴ地域まちづくり

水都大阪フェス2012における社会実験北新地ガーデンブリッジカフェ

得られた成果●プロジェクトの一環の社会実験として行ったため、普段は許可が得られない川床や橋への専有物の設置を実現することができた。地元・市役所・区役所と協力するといった工夫によって規制を乗り越えることができた。

●イベントによる規制の克服と、まちづくりの融合を実践することができ、研究としての取組み、学生も運営に関わるなど、教育上の効果も得られた。

地域との関係で工夫した点●水辺を移動するための交通手段としてコミュニティサイクルの社会実験も行った際は、トヨタレンタカーに協力してもらった。人的資源があることに加え、レンタルという行為に精通していることが強みとなった。企業のノウハウを組み合わせることで実現した。

●来場者が単なる客にならないよう、参加できる要素を多くした。●北新地ガーデンブリッジカフェでは、あらかじめ地元の要望(地域の人たちが集まる場がほしい。飲食店街のゲートとしての期待等)を把握していたので、橋の上でカフェを開くことを企画できた。

感想と今後の課題●橋は歩行者専用の「道路」なので、イベントに使うには使用や道路占用等の許可を得る必要がある。また、アルコールの販売(オープンカフェ)など、まだ克服できていない制度上の壁がある。日本の制度は、都市空間のテンポラリーな利用や想定に無い用途に対する柔軟性に欠けている。だが、その解決こそが研究テーマなので試行錯誤を続けていく。成功した社会実験は定常化させていきたい。さらに、まちづくり演習等のフィールドとして活用し、学生の提案も受け入れるような仕組みをつくりたい。

●水都大阪のような取り組みは研究者としての評価に結び付きにくい。地域貢献活動は研究や教育につながっており、教員実績やカリキュラムにも評価が反映されるべきである。

担当者(主) 嘉名光市准教授(工学研究科)水都賑わい創出実行委員会、(北新地ガーデンブリッジカフェ実行委員会:中之島町会、大阪市ゆとりとみどり振興局、観光室水辺魅力担当)

行政・地域

2010年~2012年

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

きっかけと展開●2001年、都市再生特別措置法の都市再生プロジェクトとして「水都大阪の再生」プロジェクトが採択された。●2003年よりハード面とソフト面の両方からの改善が実施され、2009年にはシンボルイベントの「水都大阪2009」が開催された。これ以降は橋爪紳也教授(都市研究プラザ・文学研究科)との個人的な活動ではなく、大阪市立大学として関わり始めた。●シンボルイベントを終えた2010年には、プロジェクトの方向性についての再検討が行われた。2011年よりまちづくりのプロフェッショナルたち4人がディレクターとなって、より双方向性の強いプログラムを推進する方針へ転換。●2011年より「大阪水辺バル」を開催。●2012年には「北新地ガーデンブリッジカフェ」を社会実験として実施。

概 要●「水都大阪2009」までには「水辺のまちづくり」と「光のまちづくり」をセットで推進し、親水性の高い公共空間の整備(とんぼりリバーウォークなど)や未完事業の展開、夜間景観の創出を実施。中之島公園を中心に、都心に点在する船着き場やその周辺を会場とした。

●空間を整備するだけではなく、人々と水辺とがより身近なものになることを目的に、情報発信を兼ねて「水都大阪2009」を開催した。

●2010年、経済界等からも継続の声があった。事務局は残り、その後の検討が行われた。そこで、2011年より「サポーター」と「レポーター」が公募された。●2012年には様々な体験型イベントを水辺で楽しむ「水辺ピクニック」や「スマイルワークショップ」、現代アート等を展示する「パークギャラリー」、パフォーミングステージでの演奏・パフォーマンス、多彩な飲食を提供する「中之島レストラン」の他、「やってみたいことをかなえよう」をキーワードに、プログラムやアイディアを公募し、NPO等42の主体等が主催するパフォーマンスや展示、ワークショップ、広報等の「つなぐプロジェクト」を実施した。また、船着き場やまちなかでは、「クルーズ&ウォーク」「まちなかプログラム」も同時に開催された。

●来場者自らが取材・発信を行うことを意図した。レポーターには講習会にも参加してもらうことで情報発信の役割を担ってもらった。客としてではなく、能動的に参加してもらうための取り組みである。

●大阪水辺バルでは、一般的なバルよりも広いエリアで開催し、チケットの5枚中2枚を乗船券とした。自らが企画し、学生も運営に関わった。

●北新地ガーデンブリッジカフェでは、町会と実行委員会を組織して実施した。3店舗(協賛のサントリーによるものを含む)を出店し、歩行者用の橋の上でオープンカフェを運営した。研究として学生がまちの回遊性や橋の上の滞留時間などを調査し、まちの活性化への効果を検証した。

北区

資料:北新地ガーデンブリッジカフェ社会実験資料,2012

北新地ガーデンブリッジカフェ

水辺ピクニックの会場風景とラバー・ダック

成果や課題

(事例報告者:嘉名光市准教授)

5756

Ⅴ地域まちづくり

都心の新旧住民と働く人の交流によるまちづくりアワザサーカス

得られた成果●当日は、常時約200人が公園に滞留、合計約1,000人の参加者があり、西区区長、区職員、他区の副区長をはじめ、様々な自治体の職員、他地域で地域活動をしているキーパーソンが多数参加し、交流を図ることができた。

●また、今後、区内の街区公園の活用推進にむけた協力の要請が区役所からあった他、他の街区公園で活動を行っている人とも出会い、街区公園活用のネットワークが広がった。

●来年からは町会の地域行事にしたいとの地元町会からの提案があり、地域と連携体制を築くことができた。●出店者は、今まであまり接点のなかった地域住民との交流を通して、効果的なPRができたことへの満足度が高く、地域に対する関心が高まった。また、公園に面した店舗の販売も好調だったことから、次回以降、より積極的な関わりが実現すると思われる。

●西区役所の広報誌「かぜ」に掲載されたことから、問い合わせや来場を通じて、広く区民との交流が図られた。さらに、2013年12月、西区「暮らしを豊かにするビジネスアイディア」コンテストの優秀賞に選定された(協働する株式会社ピクトとして受賞)。

地域との関係で工夫した点●初めての開催で、イベントのイメージが明確でなかったため、町会等、地元関係者は、参加方法について戸惑いがあった。このため、イベントへの積極的な参加・協働を促すため、町会長のあいさつ、公園愛護会代表による周辺地域の変遷の紹介、女性会による子どもの遊び場の手伝い等をお願いした。

●音楽ライブ等、大音量のイベントでもあったので、事前に周辺の住民や企業へあいさつと説明に回り、チラシのポスティングなどを行って理解していただくように、お願いした。

感想と今後の課題●今回、地域企業・住民、町会、行政等との調整や事務作業を大学が担い、多様な層を惹きつけるテーマやコンテンツなど、デザインディレクションは、経験豊富なクリエイティブディレクターが担った。協働することで、短期間(2か月)の準備期間にも関わらず、想定していた以上の効果が得られた。

●1回目の開催を終え、町会役員、実行委員ともに、継続的な開催を希望しているが、具体的な協働の方法や運営経費の確保、購入したものの保管場所が課題となっている。

担当者(主)

明治連合振興町会、新阿波座公園愛護会、大阪市西区役所、満月の日の1丁目バル実行委員会、アワザサーカス実行委員会、あわざスタイル実行委員会

佐々木雅幸教授(都市研究プラザ・創造都市研究科)、 上野信子特別研究員(都市研究プラザ)

西区阿波座1丁目を中心とする周辺の新旧の住民と働く人等(当日約1,000人が参加)

2013年9月21日開催

連携・貢献者

期間

関係組織・協力機関等

1

2

きっかけと展開●2010年1月、クリエイティブセンター阿波座(CCA)が西区阿波座の複合ビルの一画に設けられた。都市研究プラザの現場プラザの一つとして、周辺に多く集積するデザイン関連産業を中心とする創造産業の振興につながる研究やその実践の場としての活動を展開している。

●2011年9月より、阿波座・立売堀1丁目のオフィス、店舗、ギャラリー、ショールームと協働して情報を発信し、集客を図るためのイベント「あわざスタイル」を毎年開催するようになった。

●2012年10月より、西区役所と公園愛護会の協力のもと、地域で働く人や住民とともにCCA前にある街区公園(新阿波座公園)の掃除とその後の懇親会による地域交流(Community meeting)を毎月開催するようになった。●2013年9月21日にイベント「アワザサ-カス」の実現に至った。

概 要●大阪市西区の新阿波座公園において、周辺地域の店舗や働く人たちの手作りのイベントとして、世代を超えて誰もがワクワクする“サーカス”をテーマにしたバザール、「アワザサーカス」を開催した。

●このイベントでは、音楽ライブやマルシェ、飲食ブースやワークショップ、おもちゃのかえっこや昔遊びなどを実施した。地域で働く人たちが仮装や着ぐるみ姿で、風船を配ったりパフォーマンスを行ったり、出店に工夫を凝らすなど積極的に参加し、雰囲気を盛り上げた。

●このイベントは、多様な主体が参加する「場」から生まれる関係性により、新たな財やサービスが生まれることを期待し、それにより消費が促進するような地域形成のために、環境条件やマネジメントのあり方を明らかにすることを目的としている。

●主催はアワザサーカス実行委員会、後援は大阪市西区役所、協力は明治連合振興町会、新阿波座公園愛護会、大阪市立大学都市研究プラザである。7月ごろより、公園前に拠点を構えるデザイン事務所代表・クリエイティブディレクターを中心に地域で働く有志による実行委員会を構成した。地元連合振興町会長や公園愛護会代表、西区役所等の協力・後援を得て、大阪市西部公園事務所への使用許可申請や、保健所への申請手続きを区役所に代行してもらった。

●開催日は、地域の飲食店によるイベントや「あわざスタイル」も同日とし、街区公園周辺の飲食店、ギャラリー、オフィス、ショールームが協働で広報、集客を図った。

西区

当日の会場の様子

配布されたチラシ

成果や課題

(事例報告者:上野信子特別研究員)

5958

Ⅴ地域まちづくり

学生による伝統ある法律相談大阪市立大学無料法律相談所

得られた成果●相談後、相談者に向けて当法律相談所に関するアンケートを行っている。相談を受ける学生の態度はとても良いと評価していただき、また相談者が事前に考えていた問題と違った視点で回答を得ることができてよかったとの声もいただいている。●大学生の教育としてみると、実際の法律問題に触れる貴重な機会であり、学部の授業で学んだ知識を活用できることが大変有意義である。また、学部の授業では学べない相談者の直接の悩みや実務の知識に触れられる貴重な場となっている。さらに、市民から事情を正確に聞き取るための訓練をすることにより、多くの卒業生が就職後に人と接するような場面(たとえば地方自治体の職員として)においても、その経験を生かすことができている。

●大学の社会的貢献としてみると、市民が学生に説明し、学習途上にある学生が市民と対等の立場で、ともに考えながら相談にのる場となっており、市民が法情報の受け手としてのみならず、自ら法を使いこなすための経験をするために、弁護士など専門家に相談する場では得られない機会を提供しているということができる(顧問の高橋眞教授(法学研究科)談)。

地域との関係で工夫した点●相談者のプライバシーを保護するため、記入書類はパソコンなどの電子媒体を通さずに、厳重に保管し、事件概要に関する記入書類は回答終了後即時にシュレッダーにかけて処分している。今後の相談に活かすための相談概要をまとめた書類には個人情報を記載しない等の配慮を徹底している。

感想と今後の課題●実際の法律問題に触れられるこの場に感謝し、円滑な相談活動を行えるよう組織の運営に努めていきたい。●最近、相談件数が減少傾向にあるので広報活動に力を入れ、当法律相談所がさらに市民に広く浸透するよう目指したい。

相談内容を検討中の学生たち  相談の受付担当の学生 

基礎ゼミの風景

担当者(主) 法学部学生スタッフ顧問:高橋眞教授(法学研究科)

地域住民(相談者)(年間平均113人)

1951年~現在継続中

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

12

きっかけと展開●1951年10月から、学生の働きかけによって設立され、現在も法学部の学生が主体となって運営されている。●現在、中心となって活動している学生が63代目の幹事となる。

概 要●法学部事務室の援助のもとに、長年にわたり実施してきた市民向けの法律相談(無料)である。●毎年4月から5月にかけて、法学部の新入生を対象に相談員となる学生を募集している。3回生が12月に退いた後は、1~2回生が中心となって運営している。

●通常法律相談・行政問題や税金問題以外の民事事件について、学生が主体となって無料で相談に応じる。ただし、刑事事件や裁判・調停中の事件については相談することができない。・毎週水曜日の16時から大阪市立大学法学部棟にて、当日受付順で市民からの法律相談を受けている。相談時間に制限はない。・地域の相談者の方1名に対して6~7名の学生が相談にあたり、それをもとに別室で検討・議論を行い、その後、相談者に回答を行う(当日中)。なお、回答の検討は、顧問教員を交えてなされる場合もある。・相談は、主として上回生が受付けて、事前検討、質問、回答など役割分担して相談にあたっている。・相談日には平均3件程度の相談者があり、多いときは10件を超えることもある。年間の相談者数等の実績数についてみると、2013年度は98件となっている。・相談日当日は、週1回、学生主体の「基礎ゼミ」と呼ばれる勉強会を実施し、下級生に向けて小テストなども実施している。

●巡回無料法律相談・春(3月)と秋(11月)に1日または2日間、学外(近畿圏内)へ出張法律相談を開催する。これは通常法律相談と異なり、学生ではなく大学OBや教員が相談に応じる。・2013年度は、秋(11月1日)は大阪市立大学文化交流センターで、春(3月中下旬2日間)は兵庫県の姫路市と加古川市で開催する予定である。当日は、大学生も手伝う。・相談所のOB・OGは300名以上にのぼり、その中には現役の弁護士も含まれる。彼らとの交流も行われており、相談活動に活かされている。・年間の相談者数等の実績数をみると、2013年の春17件、秋36件であった。

地域全般

資料:大阪市立大学法学研究科 http://www.law.osaka-cu.ac.jp/lawcenter/home.html

大阪市立大学法学部・法学研究科

成果や課題

(事例報告者:法学部スタッフ(松田拓也)、高橋眞教授)

6160

Ⅵ地域福祉・健康

ニュータウン再生に向けた地域資源の活用泉北ほっとけないネットワークプロジェクト

得られた成果●高度経済成長期に開発されたニュータウン再生が全国で模索されている中、本事業は民産官学の密接な連携により真正面から取り組んだ先行事例として注目を浴びている。ハードとソフトをセットにした地域再生のモデルを提示できた。

●特に、従来の行政や事業者主体の事業でなく、地域住民・NPO主体のコミュニティ事業を大阪市立大学がコーディネイトすることで、これまで接点の少なかった地元の事業者と行政、地域の大学等の連携・支援を促し、「ほっとけない」精神を持ち、強い団結力を有していた地域組織(自治連合会、校区福祉委員会)や住民主体のNPOをエンパワーし、地域全体を巻き込んだまちづくり活動として安心居住の実現に向けた様々な活動を展開している点が評価されている(2013年都市住宅学会 業績賞受賞)。各種のモデル事業を活用しながら、既存の福祉制度に縛られず、地域に施設を分散させたコミュニティサービス事業を実践したことは、今後のニュータウン再生のモデルになる。

●研究としてみると、実験的研究や調査研究と異なり、実践的研究(アクションリサーチ)としての一つのフィールドで、建築・食・健康・介護・リハビリ等の多分野の研究が展開できた。

●また、教育としてみると、卒業研究・設計や修士研究及び、大学院授業(演習)として約100人がフィールド学習することができた。その成果は、日本建築学会や公衆衛生学会等で発表され、注目された。

地域との関係で工夫した点●地域と行政、NPO、福祉機関などとの連携をとるために、毎月1回、定例の「泉北ほっとけないネットワーク推進協議会」を開催した。地域レストラン、高齢者生活支援住宅、リハビリ活動、食健康指導など個々の活動は独立し、WG形式で進め、上記の協議会で報告・承認を得て、活動全体の共有化を図った。

●学生が参加することで、教育と研究と地域貢献の一体化が促進されたが、学生の地域までの交通費など、実際の活動費について十分な支援体制が取りにくい。教員の側から見ると、土日や夜間の会議、不測の事態が生じた際の対応策の検討等、通常の教育研究活動とは異なる臨機応変の取組みが求められた。

●地域側からみると、補助金終了後に活動が途絶えてしまうことが問題であり、当初から個々のプロジェクトの代表者は必ず地域の中から選び、大学はあくまでもそれをサポートする立場に徹した。

●大学側の活動は、NPOからの受託研究として契約に基づくものとし、「何でもやってくれる」立場にならないように心掛けた。

感想と今後の課題●地域におけるプロジェクトは、住民、企業、機関、NPO、行政そして学生など様々な立場のプレイヤーの関わりの中で動いて行くため、活動は複雑で、予測の範囲を超えたもので、常に不測の事態への対応が伴う。このため、一つの正しい答えがあるわけでなく、より良いと思える方向を探索することが重要だと感じている。

●これまでのプロジェクトに携わった経験から、大学の見識もしくは姿勢として、①プレイヤー各々の専門性を見失わない連携であること、②各分野での新規性、先駆性の追求を尊重すべきこと、③ドキュメントによる情報発信とデータに基づく提案など客観性の担保が、地域に受け入れられるために必要なこと、等がわかった。

出典:パンフレット「泉北ほっとけないネットワークプロジェクト」2012年度夏、大阪市立大学居住福祉環境設計チーム発行

大阪府営住宅を活用した高齢者支援住宅

担当者(主)

槇塚台校区自治連合会、NPO法人槇塚台助け合いネットワーク、NPO法人すまいるセンター、株式会社愛のケア工房はるか、NPO法人ASUの会、大阪府立大学、大阪物療大学、行政(国土交通省・大阪府・堺市)

槇塚台地区・周辺の居住者

2010年度~現在継続中

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

きっかけと展開●2005-2009年の5年間、生活科学研究科の居住環境学科・人間福祉学科が共同で受託研究として高齢者居住2020研究会「Aging in Place」を実施し、高齢者が地域に住み続けることの課題や方策について研究した。●2009年以降、生活科学研究科大学院・居住福祉環境設計演習で泉北ニュータウンをフィールドとした授業を継続して実施している。

●2010年度、槇塚台地区(人口約7,000人、高齢化率約30%)を対象に、地元NPO法人が中心となり、社会福祉法人や介護保険事業者等の地域団体による共同提案が国土交通省高齢者等居住安定化推進事業※1に採択された。大阪市立大学生活科学研究科の森研究室・生田研究室、行政(大阪府・堺市)も推進協議会に加わり、事業が開始された。

●当該事業にあわせ、堺市地域共生ステーション推進モデル事業(堺市:2011年度)、大阪府新しい公共の場づくりのためのモデル事業(大阪府:2012年度)の指定も受けた。※1 高齢者、障害者及び子育て世帯の居住の安定確保に向けた先導的な事業を支援するため、国土交通省が提案公募し、事業費の一部

を補助する事業。平成21年度開始。事業期間は3年間。

概 要●「泉北ほっとけないネットワーク」プロジェクトとは、地域の空き家・空き店舗を地域共有の「空き」としてとらえ、そこを拠点に支え合うための様々なコミュニティサービスを展開するモデル事業である。開発開始から45年が経過した泉北ニュータウンでは、急速な高齢化、人口の減少が進行しており、地域再生のための仕組みづくりが強く求められていた。

●その複合的な地域課題に対して、2010年9月、住民・NPO・大学・行政が相互連携する「泉北ほっとけないネットワーク推進協議会」を組織し、空き住戸と空き店舗を福祉サービス拠点に転用し、高齢者・障害者・子どもを含む地域住民生活を包括的支援するための安心居住・食健康のコミュニティサービスを提供している。

●拠点整備 -地域レストラン(近隣センター.空き店舗、2店舗・計230㎡) -まちかどステーション(近隣センター.空き店舗、1店舗・58㎡) -生活支援住宅(府営住宅空き住戸、7住戸・計300㎡)  ・2010年(第1期事業:府営住宅4住戸改修+地域レストラン)  ・2011年(第2期事業:府営住宅3住戸改修) -シェアハウス(第3期事業:戸建住宅、1住戸・134㎡、2014年4月完成予定)●コミュニティサービス展開 -見守りをかねた配食サービス -昼食、酒肴の提供(地域レストラン) -各種サークル支援(地域レストラン2階、生活支援住宅) -食健康相談、健康リハビリ支援(地域レストラン2階、生活支援住宅) -ショートステイ(生活支援住宅) など

堺市南区

空き店舗を活用した地域レストラン

成果や課題

(事例報告者:森一彦教授)

森一彦教授、春木敏教授(生活科学研究科)ほか

6362

Ⅵ地域福祉・健康

社会福祉協議会とタイアップした中学生の学習サポート「すみよし学びあいサポート」事業への参画

得られた成果●中学生への効果としてみると、定期試験の点数が10点以上上がるなど、学力の向上が見られ、また、学校を休みがちな中学生が本事業には休まず出席するようになった。参加している中学生にとって、単に学習の場だけではなく、自分の存在が認められる「居場所」となっていると思われる。

●学習支援サポーターとの関わりのなかで、中学生自身の将来の進路など、方向性を相談できたり確認できたり、前向きに考える機会ともなっている。来年度もこの事業の継続を望む声も聞かれた。

●学生への効果としては、机上の講義だけでは学ぶことができないものを「現場」を通して身をもって学ぶことができ、貴重なソーシャルワーク実践の場となっている。

●また、教員がバックアップしていることで、学びを深めることができ、学生たちが自身の研究テーマに本事業や子どもの貧困を選ぶようになったケースもある。変化する子どもをみて、学生たちも大いに刺激を受け、将来の進路選択につながっている。

●普段、なかなか関わることがない他学年とのつながりができている。上回生がコース選択や進路相談にのっている姿も見受けられ、学科全体がひとつの事業に携わる意義が見出されている。さらに、他学部からインタビューを受ける等、影響範囲が広がっている。

地域との関係で工夫した点●区からの委託事業費が区社協へ出ており、学習支援サポーターはその有償ボランティアの位置づけである。毎月、学生に活動費が支払われている。

●学習支援のなかで気づいた中学生やその家庭の生活課題などについて、区や区社協への情報連絡等のあり方を検討していく必要がある。

●区と区社協、大学、地域ボランティア等との協働による事業としてスタートさせたが、その役割分担について検討の余地がある。学習支援サポーター及び学習支援コーディネーターを担っている学生に負荷がかかっているため、現在、新たな体制づくりに向けて協議・検討中である。

感想と今後の課題●中学生にとっては、学生支援サポーターは身近に自分の話を丁寧に聴いてくれ、受けとめてくれる貴重な存在であるといえる。貧困の連鎖を断ち切る一助となるよう、中学生の心を丁寧に受けとめ、やる気を引き出そうとする等、学生は頑張ってくれていると感じている。

●少子化の時代にあって、学生自身も異年齢の子どもと接する機会が減少しており、交わることに意味を見出しており、お互い貴重な体験になっていると思われる。

●来年度の事業継続へ向けての体制づくりが必要である。特に課題なのが、サポーターの確保である。人間福祉学科自体、学生数が少ないため難しい側面はあるが、持続可能な体制づくりの検討が必要である。

平成25年12月20日特別講義「そうだ!市大へ行こう」風景

住吉区

担当者(主) 岩間伸之教授、鵜浦直子講師、中島尚美特任講師(生活科学研究科)

住吉区社会福祉協議会、住吉区役所

住吉区内の生活保護受給世帯の中学生(計20人)

2013年6月~2014年3月(2014年度も継続予定)

貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

きっかけと展開●住吉区役所が生活保護世帯など経済的に困窮する世帯における貧困の世代間連鎖を断ち切ることを目的とした学習サポート事業を立ち上げ、2013年4月に本事業の委託先を公募した。

●本公募に社会福祉法人大阪市住吉区社会福祉協議会(以下、区社協)が応募した。その際に、協力依頼を受け、住吉区と区社協、生活科学研究科教員や生活科学研究科の大学院生、生活科学部人間福祉学科の学生、地域ボランティアとの連携による協働プロジェクトにより事業を推進することを提案した。●プロポーザルの結果、2013年6月に区社協が選定され本事業を受託。●本事業の対象となる中学生を選定し、2013年7月下旬より事業開始。

概 要●2013年7月から始まった「すみよし学びあいサポート」事業は、生活保護受給世帯で学習意欲を有する中学生1・2年生を対象に、同年代の仲間同士の学びあいの場の提供と学習支援サポーターらによる中学生一人ひとりの状況に応じたきめ細かな学習サポートを行っている。

●子どもたちの学習を支援する「学習支援サポーター」は、すべて生活科学部人間福祉学科の学生と生活科学研究科の院生である。2013年12月現在、約30名登録。

●中学生本人と学習支援サポーターで「学習支援計画」を作成し、おおむねマンツーマンで週2回、2時間の学習支援を行っている。●事業運営の核として「学習支援コーディネーター」が配置されている。現在、院生(社会福祉士)と学生(社会福祉士受験予定)の2人が担っている。普段の学習支援の様子を把握したり、活動記録に目を通したりして、学習支援サポーターと子どもとのマッチングを考えるなどしている。そして、区社協職員や大学教員と連携しながら学習支援を行っている。

●2013年12月に成立した生活困窮者自立支援法にも生活困窮家庭の子どもへの学習を支援する「学習支援事業」(任意事業)が定められた。今後、ますます重要となる事業といえる。

●大学側(主に教員)の取り組み・学習支援サポーター及び学習支援コーディネーターを担う大学院生・学生を教員が全面的にバックアップし、個別相談や事業運営等のサポートを行っている。

・学習支援サポーターを対象としたグループ・スーパービジョン(大学教員等のスーパーバイザーによる相談・助言・指導など)も学科内で定期的に実施し、中学生への関わり方や活動中の困り事等についてソーシャルワークの視点をもってアドバイスを行っている。また、相談内容によっては、教員が個別スーパービジョンを随時実施している。

・2013年12月20日には特別講義「そうだ!市大へ行こう」を実施した。中学生たちを大学に迎え、学習支援サポーターの学生が普段どのようなところで学生生活を送っているのか、また大学とはどのようなところなのかを感じてもらい、進路選択等に寄与できればと思い企画した。当日は、実際に学生気分を味わい、サポーターが中心となって行ったクリスマスパーティーはとても盛り上がった。参加者は、中学生12名、学習支援サポーター19名、教員等のスタッフ合わせて計37名であった。 すみよし学びあいサポート事業のイメージ図(大阪市住吉区社会福祉協議会作成)

成果や課題

(事例報告者:岩間伸之教授、鵜浦直子講師、中島尚美特任講師)

6564

Ⅵ地域福祉・健康

得られた成果●セミナー後のアンケートで、多くの患者さんからわかりやすかったと評価を頂いており、それぞれの患者が正しい情報を元に、自身の治療を自己決定することに貢献できた。

●セミナーの様子を収録したDVDはセカンドオピニオンの配付資料としても使用し、有効利用ができた。

地域との関係で工夫した点●患者さんのニーズに合うようにするため、患者会と共同で毎回のセミナーの講演内容を決定した。●日曜セミナー開催の案内は、医学研究科のホームページに掲載する他、大阪府内の病院の血液内科にポスターを送付し、掲示してもらったり、患者会からも広報してもらったりした。

●病気になったばかりで持っている情報の少ない患者さんから、既に多くの情報を知っている患者さんまで様々な患者さんのニーズにすべて応えることは難しいが、セミナーで使用するスライドをすべてハンドアウトにし、各スライドに3段階の難易度を示すイラストを入れる等の工夫を行っている。

感想と今後の課題●入院治療中の患者さんも参加できるようにすることや、すべての患者さんが満足するような内容を設定することが課題である。

日曜セミナーの様子

参加者の内訳(2013年調査:日野雅之教授) 日曜セミナーのチラシ

担当者(主) 日野雅之教授(医学研究科)

血液疾患患者家族の会HIKARI会

地域の血液疾患患者やその家族、医療従事者 (20~93人/回、計1274人)

2006年度~現在継続中

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

きっかけと展開●2000年に患者さんを対象に実施したアンケート調査では、インフォームドコンセントに対する満足度は76%で、不満の多くは説明不足や情報提供不足であることがわかった。●その後、患者さんの求める情報提供を行うため、2003年に発足した「患者会市大7HIKARI会(現在の血液疾患患者家族の会HIKARI会※ 以下、患者会と記す)」で、年1~2回、講演会を開催した。●2006年より毎年2~6回のセミナーを大阪市立大学が主催して、大阪市立大学医学部附属病院講堂において参加費無料で開催している。●2013年度で8年が経過し、計24回、のべ1274名の方が参加された。

概 要●患者数が少なく、情報が手に入りづらい血液疾患で闘病中の患者さんを対象に、難解な専門用語によらないわかりやすい説明を提供し、日々新しくなる医学情報を理解できるように、そして、その上で自己決定できることをめざし、大阪市立大学大学院医学研究科血液腫瘍制御学(血液内科・造血細胞移植科)主催で、毎年、セミナーを実施している(患者会共催)。

●当初から、患者会のメンバーと相談し、「はじめて病名を告知された患者さん」から「すでに初回治療を終えた患者さん」までを対象にしたセミナーとした。また、治療中の患者さんの体力的負担を考慮し、セミナー時間は2~3時間/回とし、日曜日の午後に複数回に分けて実施することとなった。

●セミナーでは、当初、血液内科医師による講演(白血病、悪性リンパ腫、同種造血幹細胞移植を中心に)が主体であったが、後に、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師など移植サポートチームのメンバーもそれぞれの専門分野から患者さんのニーズにあった講演(感染予防、抗がん剤治療、放射線治療、輸血、食事、口腔ケア、スキンケア、臨床検査など)を行っている。

●2013年度はすでに3回(5月、7月、9月)実施し、計100名程度の参加者があった。●参加者は患者、家族以外にも看護師を中心とした医療従事者もあった。●また、セミナーの内容を収録したDVDを作成し、希望者に配布する他、各疾患や治療について説明した資料を作成し、外来やWebからも閲覧できるようにするなど、医学情報をわかりやすく提供している。

※血液疾患患者家族の会HIKARI会とは、2003年6月、同じ病室に入院していた患者3名によって、病室でわかちあった情報や経験を共有することを目的に設立されたものである(当時名称「市大7HIKARI会」)。設立メンバー退院後の2003年10月、初回の患者会(講演会と交流会)を実施。その活動は、現在の血液疾患患者家族の会HIKARI会となった。年3回の病院主催のセミナーのお手伝いや年1回秋に、講演会交流会を主催している。また、声をかけていただいた病院での病棟交流会を開催。大阪市立大学附属病院移植チームのメンバーでもある。会は会員制ではなく、多くの患者に情報を伝えることをめざしている。

医学情報の提供に向けた社会貢献活動患者さんのための日曜セミナー

資料:・大阪市立大学血液内科・造血細胞移植科~患者さんのための日曜セミナー~http://www.med.osaka-cu.ac.jp/pdf/sunday-seminar20130908.pdf・資料「患者さんのための日曜セミナー 8年目の検証」、大阪市立大学医学部附属病院血液内科•造血細胞移植科教授:日野雅之、造血細胞移植コーディネーター:梅本由香里、血液疾患患者家族の会HIKARI会・血液疾患患者の会HIKARI会 http://hp.kanshin-hiroba.jp/HIKARIsmile/pc/

地域全般

~ Team ~

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http://www.med.osaka-cu.ac.jp/labmed/�http://smile.yangotonaki.com/��

500

患者家族医療従事者その他

成果や課題

(事例報告者:日野雅之教授)

6766

Ⅵ地域福祉・健康

得られた成果●中間就労支援の実績としては、現在18名のスタッフ、トータルで50名超。うち40%は次の就労先を見つけている。●法人としては6名の社員を雇い、給与を支払えるだけの体制を確立。自治体からの協力要請も多い。●財団の支援を受け、研究セクション(中間就労研究所)を設立し、現場とアカデミズムを繋ぐ役割も果たすようになった。

地域との関係で工夫した点●その地域のキーマンとなる人物を起点にネットワークを広げることによって事業を行ってきた。その際に求められるビジネススキルは、活動を行っていく中で身に着けた。

●当初は任意団体で、かつ大学生の身分であったため、話を聞いてもらうために予め資料を作成して丁寧にビジョンを説明することは意識的に行った。

●大学教員がもつネットワークとの連携も課題だと思った。●立ち上げ時期の資金は、ビジネスコンペでの賞金獲得などでもまかなった。

感想と今後の課題●HUBchariを中心に複数の事業へと多角化してきた。今後は各事業を成長させていきたい。

企業の軒先を借りたHUBchariポート 釜案内人の案内による釜Meets

HUBchari 中間就労支援プログラム例

西成区

担当者(主) 川口加奈さん(経済学部学生)

NPO法人Homedoor、大阪市住吉区役所、北区役所、協賛企業

ホームレス、生活保護受給者など就労困難者(計56人)

2010年4月~現在継続中

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

2

きっかけと展開●中学校への通学路だった新今宮駅でホームレスの人々を目にしたことから、ホームレス問題に関心を持つ。炊き出し活動に参加したことを契機に、中学校の全校集会での講演や新聞の制作、生徒に米を持参してもらいホームレス支援団体へ寄付するなど、自主的に草の根の活動を開始。高校生の頃には米国のボランティアスピリットアワードへ応募、受賞。大阪市立大学を受験した理由も、ホームレス問題に関わる研究が活発であることが決め手となった。●中高生での活動の中で、ボトムアップの活動には限界を感じ、ホームレス状態を生み出さない社会をめざす活動を開始。大学2回生時(2010年4月)に任意団体Homedoorを設立。以後、社会起業塾への参加やあいりん地区でのモーニングカフェなど、様々な活動を続けた。●ホームレスの「おっちゃん」たちの特技である自転車修理をビジネスと結びつけ、シェアサイクルというアイディアを実行に移す。2011年7月には、梅田ロフト前など4拠点でHUBchariの実証実験を開始。●行政との関わりの中で必要性を感じたことから、同年10月にはNPO法人格を取得。●2012年4月からHUBchari事業が本格スタート。9月から住吉区との協働事業を実施(2012年度)。2013年度は北区との協働事業を実施している。

概 要●現在、HUBchari事業を中心とした就労支援事業の他、生活支援事業、啓発活動等合計9種類の活動を行っている。●就労支援事業-HUBchari:ホームレス問題対策と放置自転車対策と結びつけ、ホームレスや生活保護受給者を雇用することで中間就労を6ヶ月間支援し、彼らの整備した自転車をシェアサイクルとして利用者に貸し出すビジネスモデル。現在は北区との協働事業(放置自転車対策としてのシェアサイクルの社会実験)として、展開するほか、市内に11箇所の拠点を持ち、20人の雇用に結びついている(2014年1月時点)。-HUBgasa:不要になった傘のリメイク・修理を行い、HUBchariの拠点や協賛店舗にて販売する。-中間就労研究所:中間的就労に関する具体的なデータを調査・分析し、自立支援のあり方に関する議論を深め、今後の事業にフィードバックするとともに、広く社会に発信するための研究セクション。「生活保護受給者への中間的就労支援の有効性に関する実践的研究」を実施中(2013~14年度)。

●生活支援事業 -Change:生活保護受給者を対象とした日常支援や就労支援を毎週開催。 -ホムパト:大阪市北区で、ホームレスの方々へおにぎりや毛布を配る夜回りを開催。●啓発活動-釜歩き:釜ヶ崎(あいりん地区)とその周辺を「釜案内人」とともに歩きながらまなぶプロジェクト。貧困の構造的な問題や日本社会の矛盾や課題だけでなく、この街の可能性を学ぶ。-釜Meets:釜歩きに加え、炊き出しへの参加やワークショップの開催を行う。

住吉区

北区

NPOによる生活困窮者の中間就労支援活動HUBchari事業からの展開

資料:NPO法人Homedoor,http://www.homedoor.org/

-講演/ワークショップ:年間80本の講演・ワークショップを実施。-HCネット事務局:ホームレスの方々への襲撃を防止するための授業づくりを行う、「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」の事務局代行。

成果や課題

(事例報告者:川口加奈さん)

6968

Ⅵ地域福祉・健康

担当者(主) 都市健康・スポーツ研究センター専任教員

一般市民(計50~100人/回)

2006年度~現在継続中

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

1

市民の健康維持・増進をめざした社会貢献活動健康・スポーツ科学セミナー等

資料:http://www.sports.osaka-cu.ac.jp/index.html  :機関誌「健康・スポーツ科学」都市健康・スポーツ研究センター

1

2

地域全般得られた成果●地域の方たちからみると、身近な生活における健康・体力の維持・増進に関する内容であるという点で評価されている。

●研究や教育としてみると、身体運動やトレーニングに対する生体の応答や適応のメカニズムについて理解が深まっている。

地域との関係で工夫した点●セミナー等開催案内は、大学及び都市健康・スポーツ研究センターのホームページ及び大阪市の広報誌に掲載し、区役所やスポーツセンター等にポスター、チラシを送付した。

●参加され登録された方に、はがきで案内を送付した。●セミナーの内容を理解して頂けるよう図表を中心としたテキストを作成した。

感想と今後の課題●健康・スポーツに関する関心は、非常に高い(アンケート実施)。●今後、テーマに応じた受講者への広報活動と開催形態の工夫が課題である。

きっかけと展開●世界に類を見ない未曾有の少子高齢化は、日本の直面する大きな課題であり、高齢化率は、2003年に世界一となり現在25%で、2040年には30%を超えると推計されている。高齢者の健康・体力をいかに維持・向上し健康寿命を延伸するかということが、日本における重要な課題である。国も国民の健康増進の重要性を認識し、「健康増進法(2002)」や「スポーツ基本法(2011)」を制定した。現代社会において、いかに運動やスポーツを生活の中に取り入れ継続的に実践するかが健康を保つ最良の道といえる。

●2006年、大学の法人化に伴い発足した「都市健康・スポーツ研究センター」の社会貢献事業の一つとして、市民を対象とした「健康・スポーツ科学セミナー」を開講した。(活動内容資料参照)●毎年、梅田の大阪市立大学文化交流センターにおいて、1~2回程度実施し、2013年12月に12回目を開催した。

概 要●都市健康・スポーツ研究センターでは、長寿社会における健康問題や多様化の進むスポーツなど、健康や体力の維持・増進というコンセプトのもとに、運動やスポーツについて多角的な視点からアプローチする学際的な学問領域を対象とし、研究・教育・社会貢献活動を行っている。

●主催行事としては、健康・スポーツ科学セミナーの他、学生・市民向けの講演会「サロン ド スポルト」や「健康・スポーツアカデミー特別講演」及び「サクセスフル・エイジングinおおさか」プロジェクトやスポーツ教室がある。

●健康・スポーツ科学セミナーは、健康・スポーツ科学に関する内容について、都市健康・スポーツ研究センターの専任教員が交代で講師となり開催している。

●主な対象者は高齢者及び勤労者で、毎回50~100人程度の参加を得ている。●毎年のテーマは、アンケート等を考慮して決定している。●最近のテーマは、「上手に運動・スポーツを実践するためのサイエンス」、「サクセスフル・エイジングのための最新スポーツ科学」、「ダイエットと身体活動の基礎知識」、「運動は健康法の王様」、「私は本当に「食べすぎ」なのか?~糖尿病にまつわるさまざまな誤解~」等であり、健康づくりに役立つ運動・スポーツの取り組み方、健康を維持するための生活習慣等について講演している。

都市健康・スポーツ研究センターの活動内容

健康・スポーツ科学セミナーの様子

第12回 健康・スポーツ科学セミナーのチラシ

成果や課題

(事例報告者:渡辺一志教授)

7170

住吉スポーツセンターでの高齢者向け健康づくり教室への貢献いきいきドック

担当者(主) 横山久代准教授(都市健康・スポーツ研究センター)

一般高齢者(累計 23人/2クール)

2013年6月~現在継続中

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等 (株)ティップネス、住吉スポーツセンター

住吉区

Ⅵ地域福祉・健康

得られた成果●通常の人間ドックと異なり、筋力や移動能力、バランス(転倒リスク)など、日常生活の自立に関わる要素について評価することで、介護予防のための身体活動の必要性についての意識が高まった、との声が多く聞かれる。実際にほとんどの参加者がその後も教室などでの運動を継続している。

●大学側からみると、身体諸機能への運動介入効果の検討については現在進めているところであるが、実際にドックを行ってみて、スポーツセンターでの教室にひとりで通えるような一見自立した日常生活を送っている高齢者の中にも、MCIと呼ばれる軽度認知機能障害や骨粗鬆症レベルまで骨密度の低下したケースが相当数認められることがわかり、高齢者を対象とした講座や運動のさらなる普及の必要性について、認識を新たにした。

地域との関係で工夫した点●大学で検査を受ける、という堅苦しさや緊張がないように、サーキットのように楽しみながら各ブースを回っていただくような雰囲気づくりを心掛けた。

●参加受付業務は主にスポーツセンターのスタッフが担っており、ドックの内容や実施場所の案内について、高齢者にもわかりやすい説明をしていただくよう詳細な打合せを行った。

感想と今後の課題●ドックでの測定結果報告書は、わかりやすいと利用者にも好評であるが、対面で結果説明、運動処方への反映、医療機関への受診勧奨などを受けられる機会を設けてほしいとの意見もあり、実現可能な形で検討を進める。

●今後、年4回(1月、4月、7月、10月)継続して実施する予定である。●ドック参加者はスポーツセンターでの運動に自らの意志で参加する健康意識の高い方たちである。運動の機会がない、あるいは苦手意識のあるその他大勢の方に運動を始めるきっかけを作っていただけるよう、取組みの成果を広く地域住民に還元する必要がある。

資料:http://sumispo.jp/ikiiki.html

参加者向け案内チラシ 検査風景

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きっかけと展開●大阪市の中でも人口、高齢化率がともに高い住吉区において、地域住民の方の健康増進を運動面から支える事業を科学的根拠に基づき発展させる必要があると考えた横山ら都市健康・スポーツ研究センターの教員が、2013年5月に住吉スポーツセンターに働きかけ実現した。●2013年6月(第1クール)より、都市健康・スポーツ研究センターの主催で、充実した内容の高齢者向けスポーツ教室を開設している住吉スポーツセンターと、運動施設での実地の健康指導に関して実績のある(株)ティップネスとの協同的な取組みを開始するに至った。(株)ティップネスは、同施設の委託管理を担っている。●第1クールが終了した2013年10月と第2クールが終了した2014年1月に各1-2日間ずつ、「いきいきドック」を開催した。

概 要●「いきいきドック」は、住吉スポーツセンターにて開設されている高齢者向け健康づくり教室「いきいきワクワク健康体操」の受講者を主たる対象とし、運動機能、呼吸機能、動脈硬化度、骨塩量、認知機能などを評価する取組みである。教室の1クール(3か月)終了後に、大阪市立大学都市健康・スポーツ研究センターの実験実習室で開催している。

●都市健康・スポーツ研究センターでは6人のスタッフが、呼吸機能、中心動脈血圧、認知機能、踵骨超音波骨密度等の測定を行い、評価結果は「肺年齢」、「認知症危険度」、「骨粗鬆症危険度」など、参加者にわかりやすい形で報告している。

●これらの項目について、教室の1クール終了後に再評価し、参加者自身に運動の身体諸機能改善効果を実感してもらうことで、運動の習慣化の動機づけを図るとともに、運動介入効果について科学的に検討することを目的としている。

●高齢者向け健康づくり教室「いきいきワクワク健康体操」は、介護予防運動指導員や健康運動指導士、ヘルスケアトレーナーの有資格者による高齢者向けの「健康づくり教室」として開催され、転倒予防や運動器向上に向けての運動と講習が行われている。対象は60歳以上限定である。1クールが10回(週1回1時間:定員は新規クラス15名、継続クラス20名)で、年間4クール開催されている。「いきいきドック」も、これに対応し、年間4回無料で開催している。

成果や課題

(事例報告者:横山久代准教授)

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Ⅶ防災・防犯・環境

市民が主体となった防災まちづくりの支援大阪市立大学都市防災研究プロジェクト

得られた成果●2012年3月「いのちを守る都市づくり(課題編)」の出版により、東日本大震災において露呈した広域複合災害の被害の特徴と支援方法等の成果が得られた。さらに、2013年3月「いのちを守る都市づくり(アクション編)」出版により、都市脆弱地域における、住民主体のボトムアップ型防災であるコミュニティ防災の重要性が明らかになり、コミュニティ防災の実践的な推進方法等の成果が得られた。

●地域にとっては、協議会の設立により、関係諸機関の連携が生まれ、各種防災対策の推進や、大学の持つ先進技術や研究成果を生かした防災への取り組みが始まっている。また、地域防災活動の到達度評価手法が導入されることにより、効率的で持続可能な地域防災活動が実践されている。

●大学にとっては、南海トラフ巨大地震など喫緊の課題を研究対象とし、行政の持つ各種データを活用した研究が進行している。さらに、学生・院生が地域での防災活動にかかわる機会が増え、災害時の共助体制の強化へつながっている。

地域との関係で工夫した点●住吉区政会議防災部会メンバーを中心に、地域防災のステークホルダーを幅広く巻き込み、将来的には主体を大学から地域へ移行させる為の土台作りに向けて防災教育を柱とし、教育拠点の整備や、防災リーダー認証制度を設けるような工夫を行った。

●各種イベントへの講師派遣等の依頼があるが、大学内で対応体制が十分に構築されていないため、教員の負担が偏っており、今後、教員に加えて学生・院生が主体的に防災教育・活動にかかわっていける体制づくりを進める必要がある。

感想と今後の課題●防災というキーワードで、大学内の横断的な体制を構築し、さらに、大学と地域の連携を実行した事例であるため、参加メンバーが各所属に分かれ、事業を効率よく推進する事が難しい。一方で、防災への想いは各参加者共通であり、試行錯誤しつつも、事業推進への協力が得られている。

●防災研究の国外国内の大学連携として、オーストラリア・メルボルン大学、中国・同済大学、岩手県立大学、兵庫県立大学、大阪府立大学の研究者との交流も進めている。

担当者(主) 森一彦教授、生田英輔講師(生活科学研究科)ほか

東日本大震災被災自治体、大阪市、大阪府、大阪市各区他

東日本震災被災者、大阪市民等

2011年度~現在継続中

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

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きっかけと展開●2011年3月の東日本大震災の発生を受け、翌4月頃から分野横断的に災害支援、防災研究に取り組む大阪市立大学都市防災研究グループ(ODRP)の発足準備に入る。2011年5月に医学、看護学、都市健康・スポーツ研究、生活科学、理学、工学、都市研究、創造都市、経営学、経済学、文学、法学などの専門分野を横断する組織を結成。●2011年度大阪市立大学重点研究(A)にODRPとして応募し、「広域複合災害にむけた防災都市の再構築」が採択され、2012年度も継続。「いのちを守る都市づくり」をキーワードに、各メンバーの専門分野を活かした、災害支援活動、調査、研究に取り組む。●2012年度以降、東日本大震災に加えて、多様な脆弱性を抱える大阪地域の減災をめざし、大阪を中心とした防災課題の整理をはじめ、調査、研究が進められている。●研究成果を市民が主体となった防災まちづくり(コミュニティ防災)につなげるため、2012年12月、住吉区の我孫子南中学校において、地域防災ワークショップを実施、翌2013年3月に大阪市立大学にて地域防災フォーラムを開催し、2年間の研究・活動成果を発表した。●あわせて、2012年3月「いのちを守る都市づくり(課題編)」、2013年3月、「いのちを守る都市づくり(アクション編)」を出版した。●2年間の研究活動の一環として、東日本大震災で得た知見を社会や地域に還元し、地域防災に関わる諸機関が連携する組織として2013年7月、大阪市立大学都市防災研究協議会を発足させ、地域との協働体制を構築している。

概 要●研究活動は、大きく分けて、東日本大震災の被害調査、支援活動、大阪での調査・研究活動がある。効率的に活動を進めるため、3部会を設置した。・「いのち支援」部会:いのちを守ることに第一義をおきつつ、それを支える人間の行動や仕組み、地域のコミュニティのあり方、さらには都市、地方、国土までの多段階スケールでとらえる・「広域複合災害」部会:いままで個別に想定された災害を重層的にとらえる複合災害として再検討する・「コミュニティ再生」部会:災害に対しての単一対処ではなく、多重防御の視点をもった粘りのある地域コミュニティづくりをめざす。●東日本大震災の被害調査(2011年5月~10月ごろ)・震災直後から、岩手県宮古市・釜石市における津波行動の調査を生田が、地元市役所や民間コンサルタントともに実施。その後、浦安市での地盤調査一斉試験(液状化地盤の調査)を大島昭彦教授(工学研究科)他大阪市大5名、企業参加者30数名で実施した。・さらに、岩手県釜石市の仮設住宅住民に対する健康・栄養調査を由田克士教授(生活科学研究科)が、独立行政法人国立健康・栄養研究所とともに実施した。●東日本大震災の支援活動(2011年11月~2012年3月)・「共生社会被災者支援の会」一員として柏木宏教授(創造都市研究科)が、気仙沼でボランティアコーディネートを行ったり、創造都市研究科の弘田洋二教授、阿久澤麻理子教授が支援団体と気仙沼カキ養殖施設の補修作業に参加するなど支援活動を実施した。・また、被災者を対象とした調査研究として、福原宏幸教授(経済学研究科)らが地元団体に協力し、仙台市仮設住宅入居者の生活・居住実態調査を実施した。・さらに、被災地の伝統的文化の継承を支援するため、中川眞教授(文学研究科)が中心となって、被災地の祭礼(鵜鳥神楽)を大阪で開催した。

西成区

住之江区 住吉区

2011-2012年度の出版物(左:2011年度、右:2012年度)2011-2012年度の組織図

●大阪での調査・研究活動(2011年4月~)・並行して大阪での防災研究も進めている。例えば、大阪市の震災廃棄物発生ポテンシャルの推定を工学研究科の貫上佳則教授、水谷聡准教授が、津波作用時の津波避難シェルターの運動に関する研究を重松孝昌教授が、さらに、広域・複合災害への対応を考えるための災害WebGISの構築に関する研究を三田村宗樹教授(理学研究科)、重松教授(工学研究科)、升本真二教授(理学研究科)、根本達也講師(理学研究科)らがそれぞれの専門領域を活かし、実施した。・また、看護学研究科の石井京子前教授、藤村一美前准教授、秋原志穂教授らによる阿倍野区民対象の災害関連意識調査や、生田による住吉区における避難行動モデル構築のための意識調査、佐伯大輔准教授(文学研究科)らによる住之江区・住吉区・西成区の防災意識調査等、多くの研究の蓄積が生まれている。 ・現在、大阪市立大学都市防災研究協議会は、大阪市立大学と2013年6月に連携協定を結んだ住之江区・住吉区・西成区を対象に、コミュニティ防災の実践を目指した活動を行っている。3区の区役所をはじめ、社会福祉協議会、消防、警察、自治会、学校、福祉施設等を構成メンバーとし、2014年度より開始予定のコミュニティ防災教育プログラムの「リスク学習」「対応訓練」「環境改善」の部会に分かれ、教育内容の検討、各機関所有データの共有化、教育拠点である「いのちラボ」の整備を目指し活動を行っている。全体の会合は年数回、区担当者と大学との会合は月1回である。

成果や課題

(事例報告者:生田英輔講師)

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Ⅶ防災・防犯・環境

『風かおる“みち”』をめざした地域協働の支援天王寺大和川線基本計画検討案作成への協力

担当者(主) 鍋島美奈子准教授、日野泰雄教授、吉田長裕准教授、嘉名光市准教授(工学研究科)大阪市建設局道路部街路課・公園緑化部調整課、民間コンサルタント

地域住民(美章園、南田辺・鶴ヶ丘、長居・我孫子町周辺)、自治体等

2009年1月~2012年3月

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

阿倍野区

東住吉区

得られた成果●会議の内容は「地域協働でまとめた天王寺大和川線の基本計画検討案」としてまとめられて公開された。●検討会議は、地域案について専門的見地から意見を述べる立場であったが、アクションリサーチ的な取組みが会議にも活きた。

●都市問題研究で実施した地域向けの勉強会は、都市の温熱問題は自身の研究テーマの中で特に市民向けに応用させやすいものであったため、研究成果を地域へ還元する格好の機会となった。

●また、勉強会は市民講座の中でも、大学の授業スタイルに近いものであったため、地域住民にとって新鮮であると同時に、大学を身近に感じさせるものだったと思う。

●学生の関わりは調査協力など間接的なものに留まったが、今回の調査と関わる内容を卒業研究のテーマとして選択した学生もいた。

地域との関係で工夫した点●会議の議論の方向を整備された道路・緑地空間をいかに活用するか、という前向きな問題意識に基づいたものにするため、当初は住民側のとまどいも多かったようであるが、公開授業によって自発的な取組みを後押しできた。

●当事者の地域住民たちは、この取組みに、いかに人を巻き込むかということに強い関心があったが、広報には苦労し、口コミに頼ることになった。

感想と今後の課題●自身の研究との時間的な兼ね合いや、研究費が3年で終了することもあり、現在は中断せざるをえない状況である。継続的に地域と関わる仕組みが必要である。

地域協働による各主体の役割(資料1)

天王寺大和川線の整備イメージ一部(資料1)

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きっかけと展開●2004年3月、それまでの高架による阪神高速道路大阪泉北線の計画の廃止に伴い、新たな道路が都市計画決定された(事業期間2004~2017年度(予定))。整備計画の策定に際し、整備の基本方針を「風かおる“みち”」とした。●2008~2011年度に地域住民参加によるまちづくりとしての整備をめざした地域案を作成する「天王寺大和川線みち・みどり会議(以下、みち・みどり会議と記す)」と、そこで策定された地域案を専門的見地から意見聴取する場として「天王寺大和川線整備計画検討会議(以下、検討会議と記す)」が大阪市建設局により設置された。

●2013年3月「地域協働でまとめた天王寺大和川線基本計画検討案~『風かおる“みち”』の実現をめざして~」がとりまとめられた。●これらと並行し、2009~2011年度、大阪市立大学の学内の競争的研究資金による助成研究(都市問題研究)として、自らが研究代表である「地域環境性能の向上を目的とした公共空間のグリーンデザインに関する実証研究」が採択され、3年間にわたり、地域の方たちを対象にしたまちづくりの勉強会を開催した。

概 要●大阪市の天王寺大和川線は高速道路の廃止と、JR阪和線の高架化に伴い生まれた美章園駅から我孫子町駅までの線路跡地を活用した延長約5.5km、標準幅員29mの都市計画道路である。空地となった線路用地とその両側にある現道を対象に、緑豊かで良好な環境を創出する『風かおる“みち”』として生まれ変わる計画が大阪市(建設局・ゆとりとみどり振興局:当時)で計画されている。

●整備方針では地域住民との協働が求められており、従来のような行政主導の計画づくりではなく、基本設計以前の段階から地域との協働によって住民の声を汲み取ることを目指すという、全国的に見ても珍しい方針がとられた。

●計画案は、中央に緑地帯をとり、両側を片側一車線の車道と歩道とする案が原則であり、みどりの空間の計画がポイントとなった。●大阪市の検討・大阪市建設局とゆとりとみどり振興局(当時)、区役所が事務局行政部署であった。-みち・みどり会議「美章園地域」、「南田辺・鶴ヶ丘地域」、「長居・我孫子町地域」の3つに分かれ、沿道連合町会の代表や商業関係の団体、障がい者・高齢者等の団体のほか、各地域で活動しているまちづくり団体(任意)も参加した会議を開催した。地域、行政、専門家の三者が参加し、それをコンサルタントがファシリテーションする形式により住民主導で頻繁に開催されたが、大学教員が出席することもあった。-検討会議「みち・みどり会議」で得られた住民の意見をもとにした地域案を、行政や専門家が中心になって検討を行う会議。座長は日野泰雄教授で、自らは委員として参加した。年に3回程度開催。

●大学の研究:都市問題研究(2009-2011年度)・「地域環境性能の向上を目的とした公共空間のグリーンデザインに関する実証研究」が採択されたことから、大阪市立大学の工学部棟にて、工事対象区画の模型を用いたりしながら、公開授業のような形式で地域住民を対象とした勉強会を開催した(休日の午前・午後の連続授業)。・これは自らが代表の研究として前述の会議からは独立して運営されたが、参加者は会議に参加している住民や技術者が中心だった。また、同じ研究科都市系専攻の教員らとも分担・協力しながら運営した。

資料:1.「地域協働でまとめた天王寺大和川線の基本計画検討案~『風かおる“みち”』の実現をめざして~」、大阪市建設局道路部街路課、  大阪市ゆとりとみどり振興局緑化推進部計画課、平成24年度 2.大阪市立大学都市問題プロジェクトHP http://www.urbanproject-ocu.jp/

1時間目:地域で管理・活用するコモンズについて(嘉名准教授)2時間目:大阪市の緑被分布や人体の温熱環境について(鍋島准教授)3時間目:道路空間の計画と安全性について(日野教授)4時間目:道路空間の緑化の樹種や維持管理について(大阪府立大学 増田教授)5時間目:大学院生によるまちづくり演習課題の発表

第2回公開授業の様子 (嘉名准教授による授業風景)

住吉区

成果や課題

(事例報告者:鍋島美奈子准教授)

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Ⅶ防災・防犯・環境

大和川・大阪湾の自然再生に向けた研究とネットワークづくりアユを指標とした都市河川・河口の研究とその活用

担当者(主)

公益財団法人河川財団、大和川天然アユ研究会、国土交通省近畿地方整備局大和川河川事務所

地域(行政・市民団体等)

2008年~現在継続中

連携・貢献対象

期間

関係組織・協力機関等

得られた成果●流域に位置する本学が、これまで研究対象として見過ごしてきた大和川において、研究実績を残すことができた。一方、地域の方から協力を申し出てもらえるようになってきており、大学と地域の繋がりが形成されていると言える。

●教員として見ると、研究フィールドが大学から近い場所であるというメリットに加え、実地で授業を実施できる利点もある。「大和川の天然アユに関するノート」の発行に際しては、大学院生の研究成果も掲載されており、学生が自身の研究を地域に還元することもできた。

●地域の方とは、産卵場造成や調査などで協働し、普段市民が手を加えることができない河川に対してコミットできる貴重な機会として捉えられているのではないだろうか。

地域との関係で工夫した点●都市河川の自然環境というトピックを結節点に、研究・教育・地域貢献それぞれの活動が一体となるようになっている。●活動の広報は市民ネットワークや大和川水環境協議会(行政等)をはじめとする、地域のネットワークを活用して行った。

●市民団体と自治体だけではなく、市民団体同士の間に大学が入って両者を繋ぐ役割がある。したがって、講演を行う場合はシンポジウム形式よりもワークショップ形式で、参加者が話をできる方法が適切であると思われる。

●区役所など、研究やプロジェクトと直接の関わりをもたない自治体に、どのようにプロジェクトについてとりあげてもらうかなどの関係性に苦労した。

感想と今後の課題●実際に大和川の環境は改善され、天然アユが遡上していることが確認できた。次の段階としては、そうした取り組みをどのように研究面で支援するかを考えたい。

●河川に関する取り組みにおいて、ある特定の地域で連携を行うだけでは不十分である。海や山を含めた「流域」を通じた市民との連携が必要だ。

●これまでの研究成果が評価され、国土交通省近畿地方整備局の大和川環境アドバイザーとしての活躍が期待されている。

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きっかけと展開●大阪市立大学に赴任した1999年より大和川河口域の研究に関心があった。大学の近くにありながら、大和川の研究があまりなされていないことが問題意識としてあった。●学内外の研究者や大阪府環境農林水産総合研究所等で研究グループを構成し、2008年度より公益財団法人河川財団から毎年助成金を受け、アユを指標とした大和川の生態系再生に関する研究を継続してきた。●「都市河川河口・下流域における天然アユの遡上・産卵・孵化復活に関する研究」の成果報告書が、応募件数304、採択件数145の中から2013年度の助成事業優秀成果として表彰された。

概 要●大和川の水質は、かつて1級河川としては全国ワースト1、2位を争うほどの有機汚濁度が高かった。回遊魚であるアユは、川と海の両方の環境がある程度良好でなければ産卵を行うことができない。大和川でアユが遡上するためには、水質のさらなる改善が必要であるだけでなく、産卵に適さない砂河川であることや、河床の転石に餌となる藻が安定して繁殖しないことなど、鮎の遡上・産卵・孵化にとって課題が残されていた。●アユを指標とした河川環境に関する研究・国土交通省近畿地方整備局大和川河川事務所や市民団体「大和川天然アユ研究会」と協働し、生物多様性の改善、ひいては都市河川の自然再生につなげるための研究を行っている。

・現地調査や室内実験により、天然アユが健全に遡上可能な条件を究明し、また、大阪市内を含む下流域に天然アユの産卵場が複数存在することや、近年では大和川で孵化した300万匹以上の赤ちゃんアユが海へ下っていることを発見した。

・さらに、捕獲したアユを測定することで、天然アユと人工生産の放流アユとに識別し、大和川の下流を遡上する天然アユの数を初めて明らかにした。これは辻幸一教授(工学研究科)との共同研究である。

●地域を対象とした普及活動・年に数回のペースで市民団体や国土交通省近畿地方整備局などからの依頼を受け、研究成果を地域に還元するための講演活動を行っている。例えば、2014年3月には、大阪湾再生行動計画の10周年を記念した「大阪湾 Years 2012-2013」のファイナルイベント(主催:国土交通省)や自然環境市民大学修了式での公開記念講演会(主催:公益社団法人大阪自然環境保全協会)等で講演を行った。

・研究を通じて、大和川支流の環境改善の必要性や河口における人工干潟の重要性、産卵場の造成などを提言し、その一部が実施された。それにより、大和川の天然アユはこれまでにない増加を遂げていると考えられる。中でも、産卵場の造成は市民団体との協働で年1~2回(各回30名程度参加)、川の中で作業した。

・また、大和川天然アユ研究会として「大和川の天然アユに関するノート」を発行し、大和川のアユの生態や環境との関係についてわかりやすく情報提供している。

資料:大阪市立大学工学研究科記者発表会のご案内(平成25年12月17日)http://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2013/b7rsw9

大和川の天然アユに関する情報をまとめた冊子(大和川天然アユ研究会 2012)

矢持進教授(工学研究科)大和川河口・下流域

●大学・地域での教育活動・矢持研究室の大学院生の板谷天馬さんが、「日本沿岸域学会研究討論会2013」における講演「都市河川大和川におけるアユ仔魚の流下状況による河川環境評価」で、同学会の優秀講演賞を受賞した。この他にも、研究室の学生らと共同で複数の論文を作成している。

・各地で開催する研究会などに関心を持つ高校生が参加する場合もあり、直接、矢持研究室を訪ねてきたこともあった。

成果や課題

(事例報告者:矢持進教授)

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