建築家の思考プロセスとcad · とレイヤー(重層構造)...
Post on 24-May-2020
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建築家の思考プロセスとCAD
その1リチャード・マイヤー
● は じ め に
ここ数年、 CAD (Computer-Aided Design:コン
ピュータ支援設計)は、ハードとソフト両面にわたる
充実と低価格化が一段と進み、建築の設計過程全般に
わたって積極的に導入されるようになった。しかしな
がらこのハードやソフト、情報資源(チ-タベース)、
ヒューマンウェア-など各々の環境整備は、進んでい㌦~、、るとは言い難い。又、 CADそのものの利用状況も、
これが持つ特性を清かしきれずに、単に従来の紙と鉛
筆による設計(PAD-lPencil-Aided Design * 1 )
の清書を行なうだけのドラフティングマシンとなって
いる現状も多々ある。
cAI)は、そのソフトのコンセプトに「編集機能
とレイヤー(重層構造) 、及び図面の部品化機能」
(*2)を持ち、設計過程の初期の段階から建築の空
間を三次元でシミュレートしながら、幾何学的・手続
き的に計画を誘導できるという特性を持つ。これは、
二次元的なプランが思考プロセスの過程で優位となる
旧来のpADと大きく異なる部分である。 (*1)
だが、 CADが建築のデザインに影響を与え全く新し
い設計手法の道具となりうるかといった議論は、いま
だ結論の域に連していない。
/~、 ◆
本論文では具体的な建築家として、リチャード・
マイヤーを取上げ、彼の建築の設計過掛こ見うけられ
る「CADの特性要素」つまり「機械的部分・行為」
一代数的、幾何学的な秩序・規則的部分、及び行為
(辛 1 ) -や二次元、三次元における空間構成手法を、
cADという殊に建築設計のプロセスに於いて独自性
を有した道具(Tool)を用いて分析を行なう。
この操作を通じて、 氏.マイヤーの設計行為・思
考プロセスにおける「機械的(CAD的)部分、及び
行為」 - 「CAD的思考」を抽出し、彼の建築とCA
Dを用いた設計過程との共通性といった視点から、彼
の作品を見ていくことを目的とする。
1990年度 E]本建築学金
関東支部研究報告集
正会員 衣袋 洋一* 正会員 飯嶋 浮 **
正会員○渡辺 昌秀** 正会員 浅見 消 **
正会員 中村 光利**
□ R.マイヤ-におけるCAD的思考
分析作品- ・ ・①スミス邸, ②アシニウム
③アトランタ美術館
㊧フランクフルト工芸博物館
■ R.マイヤーの二次元的思考
二次元上の配置構成・方向性の規定
a)プライベートとパブリック・スペースの
分離と対照
b )平面構成の幾何学的秩序
C)対角二分割(The diagonal bisection of the
square p18m )
以上は、 氏.マイヤーの建築の設計プロセスに於
いて、段階的・手続き的に行なわれる基本的な思考要
素であ8,。又、特にa)及びb)の操作規則は、彼の
全ての建築の中に一貫して表われるものであり、 氏.
マイヤーの二次元的な思考プロセスの中で「機械的」
に行なわれる行為である。
a)プライベートとパブリック・スペースの
分離と対照
R.マイヤーの建築は大きく分けて、閉鎖性を持
つ「プライベート・スペース」と、それとは対極的に
開放性を持.? 「パブリック・スぺ-ス」 、及び各々の
間に配される「サーキュレーション」によって平面の
構成がなされている。この質的に差異のある二つのス
ぺ-スは、サーキュレーションによって明確に分離さ
れ、又これによってコントラストを生じさせている。
この行為は、それぞれのスペースが部品ユニット
として意識され、 「分離と対照」といったユニット間
の関係性を考慮しながら全体を構成しているというこ
とができる。
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▼ 分析図1 :平面の分離・分解操作 \
● スミス邸(1965-67) 2階分解図
● アシニウム(1975) 2階分解図
注) 1 ;フ○ライへサートスへ0-ス 2;八〇ア])ック.スヘ○-ス
3 ;サーキュレーション
b )平面構成の幾何学的秩序
(∋基本的直交グリッド
(診変換グリッド
R.マイヤーの建築は、都市的レベルのグリッド
を規準とする①基本的直交グリッド(Primary Orth0-
gonal Grid)と、歴史的環境や既存建築群,ペデスト
リアン・ネットワークなど周辺のコンテクストを導入
して、基本的直交グリッドをベースに変換操作を加え
た(診変換グリッド(Shifted Secondary Grid)の2つ
の幾何学的グッリドによって平面構成が秩序だてられ
ている。
これは「人間という有機体が自然と全く合致した
軸線上にあること、それはおそらく、宇宙すなわち自
然の一切の物、一切の現象が従う組織立ての軸線上に
あることを意味している,」 (*4)といったコルビュ
ジェの理念に基づくものであると解釈できる。
▼ 分析図2:幾何学的グリッドの明示
● アシニウム 指標綿図
● フランクフルト工芸博物館(1986)指標緑園
ここで規定された二つの指標グリッドに、ユニッ
ト化された「プライベート・スぺ-ス」 , 「パブリッ
ク・スペース」と「サーキュレーション」が、 a)の
部分間の関係性を考慮しながら、規則的・機械的に配
されていく。この一連の操作は、前述したrCADの
特性要素」と一致する。したがって「CAD的」とい
うことができる。
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これら二つの空間を、サ-キュレーションを挟ん
で並置させるというダイヤグラムは、各々の空間をユ
ニ、ソト化し「分離と対照」という部分と全体の関係に
基づいて、積み上げているということができる。
▼ 分析図3 :空間構成概念の視覚化
● スミス邸 空間構成概念図
● アシニウム 空間構成概念図
■ 結 論
これまで分析してきたマイヤーの二次元的空間思
考と三次元のそれが、共にrCAD的」であるという
結論に至ることができた。しかし榎本弘之氏もR.マ
イヤーの作品評論の中でいうように、マイヤ-のマイ
ヤーたる所以は、 「人が内部を動き廻る視線のレベル
では、構成の骨格たる秩序、すなわち形式(幾何学的
秩序)は陰に隠れ、豊かな空間に光りのシークエンス
が体験されてゆく。 」 (*6)というような、人の視
点に立った三次元的な空間演出や空間イメージが思考
プロセスに絶えず存在する点である。
このことより、 「CAD的」という点では共通す
るものの、各々の平面処理,空間処理は全く別格なも
のであると考えることができる。
さらにR.マイヤーは、コルビュジェの練り上げ
たドミノシステムの形式を壊し、その構造に備わって
いる特性を解釈し直して、 「視覚の優位さ」を引き出
している。つまり三次元的思考プロセスには、確固た
る空間のイメージがあり、それは二次元上の幾何学的
秩序とは切り放されたものであると認識することがで
きる。
以上のことからR.マイヤ-は、三次元的な思考
プロセスの初期段階に於いて、実体を持たない建築空
間(=壁,床,天井といったアーキテクト二、ソク・エ
レメントをもたない概念上の空間)の立体的な構成イ
メージがなされていると言うことができる。
このことは、 CADによる設計プロセスにおける
「ェレメントを、常に三次元的な単位形態として考え
ることが設計者の認識の中で余儀なくされる」 (* 1)
といったCADの特性に一致する。したがって、 氏.
マイヤーの三次元的思考プロセスは「CAD的思考」
であると結論づけられる。
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■ 参 考 文 献 ■
(*1) 「現代建築の発想」 長倉威彦他 丸尊
(*2) コンピューター(CAD)利用による建築作品の分析
-その1:ル・コルビュジェ- 衣盛洋一
(昭和63年度 日本建築学会関東支部研究報告集)
(*3) ル・コルビュジェの思考のプロセスとCAD
-その1 歴史的変速一 衣袋洋一他
( 1989年度 日本建築学会関東支部研究報告集)
(*4) r建築をめざして」 ル・コルビュジェ SD選書
(*5) ra+uJ 84:02 NO.116
(*6) rSDJ 86:02 (納札な全体と免れた秩序
模本弘之)
* r建築の空間J C・〃ン・f'・〃ン-佐々木宏駅 丸善
* rRichard Meter Archit.ectj RIZZOLl
* r建築稚括」 1990:03 (建築設計におけるCADの
利用額境 玲木尚)
* rSDJ 78:01 (表現の危機 書永耕)
* ル・コルビュジェの思考のプロセスとCAD
その2-その4 衣袋洋一他
( 1989年度 日本建築学会関東支部研究報告集)
*芝浦工業大学講師 * *同大学院生
協力:芝浦工業大学建築研究会
C)対角二分割
(The Diagonal Bisection Of The Square Plan)
● アトランタ美術館(1983)指標綿図
この建築の平面構成は、 (》基本的直交グリッドを
ベースとする.これに、隣接するメモリアル・アーツ
センターと前面のピーチトリー・ストリート及び歩行
者道路パタ-ンといった諸要素のパラメーターから生
じる、 「対角二分割」の指標軸が、 ①のベースグリッ
ドを、文字通り分割する構成となっている。この行為
は、基本的直交グリッドに配された美術館全体から導
入部(The Entry)を際立たせることを意図している。
又、 R.マイヤーはこの操作を
「・ ・ ・ ・全体として古典主義的に釣り合いのとれた
プランの中に亀裂を導入し、その亀裂を通して世界が
崩れ込んで来るのである。 - ・ ・出入りのための斜
緒は外部まで伸び、その結果、芸術の領域への入門は
この街蕗(ピーチトリー・ストリート)に始まるとい
うことになる。」 (*5)
と論述している。したがって、 b)の幾何学的秩序に
おける②変換グリッドを、周辺のコンテクストからパ
ラレルに導入するのではなく、ここでは建物に流入す
る人の方向性を主眼にした変換であるということがで
きる。
しかしその違いはあるものの、 R.マイヤ-の思
考プロセスに於いて根底となる幾何学的秩序は、一貫
している。
+ R.マイヤーの三次元的思考
・ドミノ・シトロ-アンのコラ-ジュ
R.マイヤーはスミス邸をはじめとして、ル.コ
ルビュジェによるドミノとシトロ-アンの2つのシス
テムを折衷的に導入し、各々は前述したa)のプライ
ベートとパブリック・スペースに置換されているo
● コルビュジェによるドミノシステム(1914)
室=約三≡==-. .∴韓==≡=_ゝ
ト■L~:_-当港.-iE~~==-■■■
≡.………■:...童. � 鐙ナ�粐���・�リ�����
コルビュジェの打ち出したドミノシステムは、ス
ラブによってしきられた水平層状空間が積層されるこ
とから、プランにおける操作が優位となり、主に二次
元のCAD的思考が強く出やすい。 (* 3)
しかし、 氏.マイヤーのドミノシステムでは、垂
直の面が水平の床を支持する必要をなくすといった、
構造上の自由性の解釈を、水平・垂直方向(‡、Y、Z軸方
向)への「三次元的な開放性」と捉えていると言える。
一方のシトロ-アン側は、水平方向や垂直(上下
階層)方向にも閉鎖的である。
● スミス邸 リアルモデル
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