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Meiji University Title Author(s) �,�, �,Citation �, 57(2): 1-75 URL http://hdl.handle.net/10291/20444 Rights Issue Date 2019-03-31 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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Page 1: An Extended Concept of Service Encounter · そこでは、顧客は受動的な存在であり、組織は自社のブラン ドや製品を顧客に購入させていくというマーケティング戦略が想定されている

Meiji University

 

Title サービス・エンカウンター概念の拡張

Author(s) 菊池,一夫, 高橋,昭夫

Citation 明治大学社会科学研究所紀要, 57(2): 1-75

URL http://hdl.handle.net/10291/20444

Rights

Issue Date 2019-03-31

Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper

DOI

                           https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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明治大学社会科学研究所紀要

《共同研究(2016年度~2017年度)》

サービス・エンカウンター概念の拡張

菊池一夫*l高橋昭夫*2

An Extended Concept of Service Encounter

目次

共同研究の目的

第 1部 サーピス・エンカウンター概念の研究潮流

1. はじめに

2. サービス・エンガウンターの諸特徴

3. 顧客と従業貝との相互作用

4. サービス・エンカウンターにおける顧客同士の相互作用

5. サービスケープとの相互作用

6. セルフサービス・エンカウンター

7. サービス・エンカウンター満足

8. サービス・エンカウンター研究のネットワーク的視点

9. むすびにかえて

第 2部 サーピス・エンカウンターにおけるインターナル・マーケティングの意義

ー道路貨物運送業の従業員を対象として―

1. はじめに

2. 道路貨物運輸業の現状

3. サービス業としての道路貨物運送業の特徴

* 1商学部専任教授

* 2商学部専任教授

-1-

Kazuo Kikuchi

Akio Takahashi

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第57巻第2号 2019年3月

4. サービス・エンカウンターの 3つのステージ

5. サービス・マーケティング・トライアングル

6. インターナル・マーケティング行動における組織市民行動の意義

7. 先行研究の整理

8. 分析枠組みと仮説

9. 調査

10. 第 2部のまとめと残された課題

むすび

参考文献

共同研究の目的

本共同研究は、サービス・マーケティング研究においてその中核となるサービス・エンカウンター

概念の拡張の研究に着目した。菊池はサービス・エンカウンター研究潮流を把握するために文献レ

ビューを中心に担当した。また、高橋はサービス・エンカウンター概念に組織市民行動概念を導入し

て定量的な分析を行った。両研究ともに、サービス・エンカウンターの概念を精緻化させ、サービス

組織と顧客との接点の在り方を探ることを目的としている。

まず菊池においては、サービス・エンカウンター研究の変遷について検討する。当初それは人(顧

客)対人(従業員)のサービス・エンカウンター概念から始まったが、その後、顧客とサービス環境

(サービ\、スケープ)との相互作用、顧客同士の相互作用へとサービス・エンカウンター概念が拡張し、

さらにセルフサービス技術の採用やインターネット上のウェブサイトとの相互作用へと研究が移行し

ていることを明らかにした。つまりハイ・コンタクトなサービス・エンカウンター研究からロー・コ

ンタクトなサービス・エンカウンター研究への移行が明らかにされた。そして従業員の知識がエンカ

ウンターの成功では強調され、他方で顧客の知識もサービス・エンカウンターの成功には重要である

ことが近年の研究では強調されていることを明らかにした。これはオペラント資源という知識を強調

した S-Dロジックにおける価値共創概念に類似しているといえる。

さらに、サービス組織と顧客との相互作用を対象にするのではなく、顧客のカスタマージャーニー

に基づき、顧客は能動的にさまざまなサービス組織との相互作用を行うことから、ネットワーク型の

サービス・エンカウンターに移行していることも明らかにした。これはサービス・デリバリー・ネッ

トワーク、価値星座、価値のエンハンサーとイネーブラーと呼ばれる研究である。ここでは顧客への

視点転換が強調され、顧客が能動的で資源を統合するという姿を示している。ここから、 S-Dロジッ

クのアクター・ネットワークによる価値共創の影響を明らかにした。したがって、サービス・エンカ

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明治大学社会科学研究所紀要

ウンターをサービス組織が管理するという研究から顧客とサービス組織が価値共創を行う姿としての

エンカウンター研究に転換されているといえる。

続いて、高橋は、物流事業者と顧客との相互作用を研究対象にして、そこに組織行動概念を適用し

て、共分散構造分析を用いて定量的に分析を行っている。具体的には、これまでホスピタリティ産業

でその有効性が確認されているサービス・エンカウンターの概念の有効性を道路貨物運送業へと拡張

する可能性を分析することにする。まず、サービス業としての道路貨物運送業の特徴を整理し、サー

ビス・エンカウンターの3つのステージを概観した。次に、サービス・マーケティング・トライアン

グルにおけるサービス・エンカウンターの位置を確認した上で、サービス・エンカウンターにおける

顧客満足および収益向上に影響を与えるインターナル・マーゲティングの役割を検討し、さらに、イ

ンターナル・マーケティングと従業貝の組織市民行動に関する先行研究を検討し、本研究の仮説と分

析枠組みを提示した。そして、道路貨物運送業の担当者のデータを用いて仮説の検証を行い、また分

析結果を宿泊業の接客担当者の分析結果と比較検討を行った。

第 1部 サーピス・エンカウンター概念の研究潮流

1. はじめに

従来、 4Pのフレームワークで構築されてきたマーケティング戦略の体系、すなわちグッズ・マーケ

ティングの体系の有効性に一定の限界が生じているという主張が見受けられる (Dayand W ensley

1983:Gronroos 1994:Kotler et al.2016)。そこでは、顧客は受動的な存在であり、組織は自社のブラン

ドや製品を顧客に購入させていくというマーケティング戦略が想定されている (Vargoand Lusch

2004)。

しかし、顧客との長期的なリレーションシップの強調や顧客満足などが注目されるようになると、

組織は消費者の購買プロセスだけでなく、消費・ 使用プロセスにも注意を払わなければならなくなる

(Gronroos 1990)。こうした背景には経済のサービス化や情報化の進展などが挙げられる。たとえば

組織はインターネット空間を通じて顧客に各種のサービスを提供している。

つまり、組織は製品の販売だけに注意を振り向けるだけでなく、特に使用段階における組織と消費

者との相互作用に着目すべきであると考えられる。そこでは顧客は能動的な存在であり、顧客の使用

段階で価値が創造され、価値が共創されるという視点が強調されることになる (Vargoand Lusch

2004:2006:2008:Lusch and Vargo 2014)。マーケティング研究のうちで、顧客の使用段階に着目する

研究の lつとしてサービス・マーケティング研究が挙げられる。サービス・マーケティング研究はこ

れまでの4P中心のマーケティング研究においては下位領域に位置付けられてきた (Fisket al.1993:

Vargo and Lusch 2004)。

本研究では、サービス・マーケティング研究において「真実の瞬間 (Normann1984)」と称される

サービス・エンカウンターの概念に着目する。サービス・エンカウンターでは、顧客とサービス組織

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が相互作用し、顧客はサービス品質の良しあしを知覚し、満足や不満足を感じる。つまり、サービ

ス・エンカウンターは、顧客によってサービス組織の総体的なサービス品質を知覚される一定の時間

的な区切りを意味している (Shostack1985)。

このようにサービス・エンカウンターはサービス・マーケティングやサービス・マネジメントの研

究領域では、サービス提供の成否を決定する重要な研究領域であると位置づけられている (Gronroos

2007: 菊池 2014:山内 2015)。

これと同様に、サービス研究においてもサービス・デザイン研究 (Shostack1982 : 1984 : 武山

2017 : Reason et al.2016)、製造業のサービス化研究 (Vandermerweand Rada 1998: 菊池 2015:菊

池• 町田 2016:西岡・南 2017)などの新たな研究潮流が生じている。これらの研究は顧客とサービ

→ ス組織との接点、カスタマージャーニーにおける顧客の感情的側面について重大な関心を払っている

(Dasu and Case 2010)。

そこで本研究は、サービス・エンカウンター研究の潮流について文献レビューを行い、これまでの

研究潮流を整理し、当該研究の方向性とその特性を明らかにすることである。本章では主に Bitner

and Wang (2014)やBaronet al. (2009)の優れたレビュー研究をベースにしながら、サービス・エ

ンカウンター研究の潮流を整理する。

近年、サービス・エンカウンター概念に関してはその概念の変化が見受けられる。まず菊池は、

サービス・エンカウンタ-概念をレビューし、 2つのことを明らかにした。 1つはサービス・エンカ

ウンター概念の範囲が拡張している点である。もう 1つは、サービス・エンカウンター概念の意味内

容が静態的なものから動態的なものに変化していることである。

前者の範囲の拡張については、当初、サービス従業員と顧客との関係を対象にしたものが主であっ

たが、サービスケープとのエンカウンター、そして顧客同士のエンカウンターに拡張されている。さ

らに顧客はサービス企業の 1社のみと相互作用をしているのではなく、顧客を中心にして複数の企業

からなるネットワークを形成しサービス提供を行っている。これは SDN(サービス・デリバリー・

ネットワーク)概念 (Taxet al. 2013: Tax 2016)である。つまり、ダイアドとしてのエンカウンター

研究からネットワークとしてのエンカウンター研究への広がりを示しているという点である。

そして後者の場合には、サービス・エンカウンターで企業と顧客ないし行為者同士が知識という資

源を適用し、サービスを交換するというダイナミックな考え方が現れている。いわゆるサービス・ド

ミナント・ロジック(以下、 S-Dロジック)での価値共創の概念である (Vargoand Lusch 2004:2006:

2008:Lusch and Vargo 2014)。この価値共創概念は近年、注目される考え方であり、サービス研究の

ビルデイングプロック (Bitnerand Wang 2014) とされ、そこでは知識が強調されて、いる。'サービ

ス・エンカウンター研究でもサービス共同生産プロセスにおいて従業員と顧客の知識の重要性および

ルールの意義が明らかにされた。

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2. サーピス・エンカウンターの諸特徴

2.1. ダイアディックな相互作用としてのサーピス・エンカウンター

サービス・エンカウンターは、顧客がサービス組織との相互作用を通じて、そのサービス品質を判

断する「真実の瞬間 (Normann1984)」とも呼ばれている。 Gronroos(2007)によれば、真実の瞬間

は場所と時間を意味し、そこではサービス組織がそのサービス品質を顧客にはっきり示すための機会

を有するものである。つまり、サービスは多かれ少なかれ主観的に経験されるプロセスであり、サー

ビスの生産と消費の活動は同時に行われる。そして顧客とサービス提供者の間で一連の真実の瞬間を

含む相互作用が起こる。買い手と売り手の相互作用はサービス・エンカウンターとも呼ばれる、これ

らの相互作用の出来事は、認識されるサービスに大きな影響を与える。

同様に、 Bitnerand Wang (2014) によれば、サービス・エンカウンターは顧客の知覚にとっての

基本的なビルデイングブロックである。サービス・エンカウンダーにおいては、約束が守られたり破

られたりする。要するに、それは物事の真価が問われるところである(山内 2015)。

このサービス・エンカウンターという用語はマーケティング研究において幅広く用いられている。

サービス・エンカウンターの初期の研究である Surprenantand Solomon (1987) は顧客とサービス

提供者の間でのダイアデイックな相互作用であると規定している。 Solomonet.al (1985)は役割理論

に基づき、顧客とサービス組織の両方が演じるべき役割を有しているとし、サービス・エンカウン

ターは役割パフォーマンスであるとしている。

そして Czepielet al. (1985, pp.4-6.)によれば、サービス・エンカウンターは人的な相互作用である

として、下記の諸特徴を有しているとしている。

・サービス・エンカウンターは目的志向的である。

・サービス組織は利他的な行動をとるわけではない。

・当事者間の事前の面識は必要ではない。

・サービス・エンカウンターは範囲が限定されている。

・情報交換に関するタスクが支配的な地位を占めている。

・サービス組織と顧客が果たす役割が明確に規定されている。

・サービス組織と顧客が普段有する社会的地位がサービス提供時にしばしば一時的に棚上げされる。

また既述の Solomonet al. (1985)は、サービス・エンカウンターを顧客と従業員との間の相互作用

として捉えている。そしてサービス・エンカウンターの諸特徴を以下のように示している。

・サービス・エンカウンターはダイアデイックである。

・サービス・エンカウンターは人間の相互作用である。

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・サービス・エンカウンターは目的のあるタスク志向的な相互作用としている。

上記の見解によるサービス・エンカウンターの意味内容は、サービス組織のパフォーマンスについ

て、ダイアディックな対人関係の要素に焦点を当てているといえよう。つまり、サービス・エンカウ

ンター研究は、当初、顧客と従業員との間の相互作用を中心に研究が進められてきたといえる。

他方で、 Shostack(1985)はサービス・エンカウンターをより幅広く定義しており、顧客が 1サー

ビスと直接的に相互作用する時間としている。さらに彼女は以下の 3つのタイプのサービス・エンカ

ウンターを識別している。リモート・エンカウンターは、郵便ないし機械を通じて顧客がサービスと

相互作用する場合である。直接的な人的エンカウンターは、顧客と従業員の体面的接触を意味する。

そして間接的な人的エンカウンターは、サービス組織と顧客が離れている場所にいるが、電話などを

通じて相互作用するエンカウンターである。

上記の Shostack0985)の定義は、顧客がサービスと直接的に相互作用する間の時間の期間として

サービス・エンカウンターを拡張させている。この幅広い定義によって、顧客と従業員とのダイア

デイックな相互作用だけでなく、テクノロジー、物的施設、そしてサービスの他の要素を包含するこ

とになる。

そして Wilsonet al. (2016)は、長期的な事象や経験からサービス・エンカウンターを区別するた

めに、時間的に離散的な事象としてサービス・エンカウンターを描写した。この点で、 Wilsonet

al. (2016) はホテルについて「サービス・エンカウンターの段階」という概念で説明をしている(図

表 1-1)。そこで示唆されていることは、すべてのエンカウンターはリレーションシップを構築する

際に等しく重要ではない。つまり、組織にとって、特定のエンカウンターが顧客満足への鍵となると

いう点である。

図表 1-1 ホテルのサーピス・エンカウンターの段階

チェックイン

ホテルのポークーによる部屋までの案内

口レストランでの食事

目覚しコール

チェックアウト

出典: Wilson et al. (2016, p.82.l

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2.2. サーピス消費の 3ステージモデル

Lovelock and Wirtz (2007)は、顧客の意思決定プロセスとしてサービス消費の 3ステージモデ

ルを提唱している。それは、①購入前ステージ、②サービス・エンカウンター・ステージ、および③

購入後ステージから構成される。

ここで特に、②サービス・エンカウンター・ステージは、顧客がサービス購入を決定すると実際に

サービスを利用する段階のことである。このステージではサービス組織と顧客に様々なコンタクトが

生じる。一般的にハイ・コンタクト・サービスの場合には、ロー・コンタクト・サービスよりも品質

を評価する諸要件が多いといえる。

2.3. サーピス・マーケティング・システムによる見解

Chase (1978)は、サービスシステムの本質的要件として顧客コンタクトを挙げている。そして、

顧客コンタクトを規定するにあたっては、顧客にサービスするための全所要時間のうちで顧客がその

システム内にいなければならない時間の割合としている。顧客コンタクトが大きければ、顧客はサー

ビスシステムに入り込むためにサービス活動の不確実性は高くなる。また同様に、顧客コンタクトに

おいてハイ・コンタクトのシステムでは、フロント・ステージの従業貝はサービス組織を代表し、そ

の態度はサービスヘの顧客の見方に影響を与えるとしている。

また先述の Lovelockand Wirtz (2007)によれば、ハイ・コンタクト・サービスでは、顧客はサー

ビスを提供される間、サービス組織と関わり合いを持つ。顧客はサービス組織から直接具体的なサー

ビスを受け、サービス施設を訪れてサービスを受けている際にはサービス工場に入ることになる。こ

の場合、モノよりも人をサービスの対象にしていることが多いので、物的なサービス環境だけではな

く、サービス従業員とのかかわり方も顧客に印象深いものとすることが出来るのがマーケティング

上、重要である。また、サービス提供プロセスで顧客は、内装や外装、機器やスタッフの外見と行

動、他の顧客といった、サービス組織を評価する手掛かりとなる要素に接することが多い。

他方で、ロー・コンタクト・サービスでは、顧客とサービス組織側はコンタクトを持たないか、持

っとしてもまれであり、物的チャネルやオンライン・チャネルを介して直接コンタクトを持つことな

くサービス提供される。利便性を求める現代では、ハイ・コンタクトやミデイアム・コンタクトから

ロー・コンタクトヘの意向が急速に進み、顧客自身がセルフサービスを行う機会が増加している。銀

行取引はインターネットでもできるようになり、多くの情報サービスの検索や利用は店舗からウェブ

サイトで実施される。

顧客から見えるサービス要素は役者に関連する要素とステージに関連する要素に分けられ、顧客が

サービス・エンカウンターでの実際のサービス経験やサービス成果から芝居を評価する。裏方のス

タッフやシステムがうまく機能しないと、フロント・ステージの品質に悪影響が生じ、顧客もそれを

認知する。

ハイ・コンタクト・サービスの場合、顧客と物理的に接点をもっためにフロント・ステージの要素

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は多くなる。他方で、ロー・コンタクト・サービスでは、顧客との接触を最小限に抑えるために、ほ

とんどのサービス・オペレーションの要素がバック・ステージに隔離された場所に置かれている(図

表1-2および図表 1-3)。

図表 1-2 ハイ・コンタクト ・サーピスのサーピス・マーケティング・システム

サービス, オペレーション・ ザービスに供システJ,,.

システム

他紀曇i客

技術的コア

バック・ステージ フロント・ステージI11 他の願客愧えない) ほえる)

その螂コンク ・ク~.、 ポイ ント

広告

訪問販売市埒面章

禎求書や文嘗

配l=-メー凡 電函.ファックスなどゥ↓プ・サイト施設や柔り物勾岬サーピス ,スタッフとの償然のコンタクトクチコミ

出典 :Lovelock and Wirtz (2007, p.53., 邦訳書,p.64.)

図表 1-3 ロー・コンタクト・サービスのサービス・マーケティング・システム

サービス ・オペしーション、システム

サービス堡供システム

螂笙

セルフ・サービス覆塞

・ 電話,万ックスウェブ ,サイトなど ゜

その他のコンタク ト,・ボイント

広告

市湯調壼

請求書や文書

胞設・やサーピス・

スタッフとの

11ンクク ト

クチコミ

バック・ステージ(見えない)

フロント・ステージ(見える)

Lovelock and Wirtz (2007, p.54., 邦訳書 p.65.)

ここまでレビューしてきたように、サービス・エンカウンター研究はその範囲を顧客と従業員の間

の相互作用だけに限定せずに、その広がりを示している。本章では Bitnerand Wang (2014) や

Baron et al. (2009) に基づき、ダイアデイックな相互作用とネットワーク的相互作用に大別して、文

献レビューを中心に議論を展開していく 。前者のダイアデイックな相互作用は、サービス組織と顧客

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の相互作用を意味する。この相互作用はさらに①顧客と従業貝との間の相互作用、②顧客同士の相互

作用、③顧客とサービスケープの相互作用、および④セルフサービス技術の導入に分けることができる。

また、後者のネットワーク的相互作用は、顧客と複数のサービス組織等との相互作用を対象にして

いる。

3. 顧客と従業員との相互作用

3.1. サーピス従業員の意義

3.1.1 サーピス従業員の特性

本節では顧客に相互作用する従業員に焦点を当てて検討していく。サービスは生産と消費がしばし

ば同時発生するという特徴を有している。そのためサービスを生産するために、顧客とサービス組

織、とりわけ顧客と直接的に相互作用する従業員は、サービス生産や顧客によるサービス品質の評価

に対して重要な要因になりうる。それは従業員の身だしなみ、オペレーションの確実な遂行、専門知

識の提供、顧客への親切さや迅速な対応などの振る舞いは顧客によるサービス品質の知覚に大きな影

響を与えることになる (Zeithamland Bitmer 2000)。相互作用は顧客の視点からのサービスである

が、フロント・ステージの従業員は顧客を理解するようには十分に訓練されない多くの場合は、効果

的なサービスを保証する多くの点で顧客に関連するために必要とされる自由と裁量を持っていない。

既述の Chase(1978)が指摘するように、顧客と相互作用し、サービス提供に直接的にかかわりを

有するフロント・ステージの従業貝はサービス組織の代表となる。こうした見解を含めて、フロン

ト・ステージの従業貝は、サービス組織の競争優位性に影響するという点で以下の 3つの特性を有し

ている (Lovelockand Wirtz 2007, p.311.)。

・サービス従業員はサービスの中核的部分である。

・サービス従業員はサービス組織そのものである。よ

・サービス従業員はブランドである

ここでフロント・ステージの従業員は顧客と相互作用するために大きな役割を果たすことが理解で

きる。 Bitneret.al (1990) は、顧客コンタクトの程度の高い 3つの業界、すなわちホテル業界、レス

トラン業界、エアライン業界を対象にクリテイカル・インシデント法を用いて顧客の満足および不満

足の源泉を識別するために調査している。サービスに関して非常に良好な、あるいは非常に悪い相互

作用の具体例を記述させた。 699件の事例のうちで、満足を得た事例は 347件、不満足の生じた事例

は352事例であった。

サービス経験に関して顧客満足や不満足が直接的に引き起こされるは主に従業貝行動によるもので

あった。他方で、満足が得られた事例のうちでは、従業員の自発的な活動の成果として生じたもので

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あった。つまり、従業員の自発的行動によって顧客はうれしい驚きを示すことになる。

他方で、不満足を引き起こした事例では、サービスの失敗が生じた場合に従業員が対処できない、

もしくは対処しようとしないということであった。

このように、サービス・エンカウンターをうまく管理するためには、確かに従業貝の訓練、動機づ

け、報酬が準備されなければならない。しかし、それに加えてサービスの失敗に対して適切に現場が

判断できるように権限移譲の問題や、従業員の対人スキル、組織の目指すべき方向性に関しての考え

方の共有などが求められる。ホテル、レストランおよびエアラインといったハイ・コンタクトな産業

においては、接客担当者のコミュニケーション能力が特に重要である。 (Chase1978)。

ここで焦点が置かれるのが従業員の知識である。従業員がサービス・コンセプト、デリバリーシス

テムやオペレーションについての知識をもつことで、顧客に何が生じたのか、何ができるか、なぜ顧

客の要求を聞くことができるのか、またできないのかを理解できる。また従業員が事態をコントロー

ルできることで問題に対処できるのである。したがってサービス組織は従業員にスクリプトを教える

だけでなく、適切な知識を提供し、対応への幅広いレパートリーをもつことが奨励される。そして事

態に柔軟に対応するためには従業貝に権限移譲することで自由裁賛を持たせることも重要である。

また従業貝による自発的な対応を促すためには、サービス志向を有する従業員の採用や効果的な監

督、迅速なフィードバックなどのサービス文化を基盤にした組織の構築が求められる。

そして、十分に給与を支払われず、訓練もされないような接客担当者がモチベーションの低いレベ

ルで仕事に不満を持ち、高い離職率が生じて結果として顧客に不満を生じさせることも事実である

(Bitner 1990)。サービス組織の中には下降するスパイラルを避けるべく、フロント・ステージの従業

員のマーケティング上の役割の認識やサービス・エンカウンターの理解を反映させたサービスの実践

を取り組むものもいる。サービス・エンカウンターは、従業員が挨拶したり、・電話で十分に応対でき

るように訓練する以上のものであるとサービス組織は考えている。サービス・エンカウンターの効果

的な管理は、従業員の複雑な行動を理解することである。

しかし、これに加えて、従業員については、サービス品質と従業貝の関係、役割理論をはじめとし

た多様な側面から研究がなされている(菊池 2016)。それらは以下の諸問題である。

3.1.2. サービス品質とサービス従業員の関係

,顧客によるサービス品質の知党は、従業員の顧客志向に影響を反映する。ここではサービス品質の

測定尺度である SERVQUAL(Parasuraman et al.1988)の枠組みに基づき、従業員との関わりについ

て検討する (Zeithamlet al.2013)。SERVQUALは、信頼性、反応性、保証、共感および有形的要素

の5次元からなる。

信頼性は、約束されたサービスを提供することであり、フロント・ステージの従業員の技術的スキ

ルにかかわっている。また ATMのような自動化されたサービスであっても、表舞台の背後にいる

バック・ステージの従業員はシステムが適切に作動するように確実にすることが大切である。

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明治大学社会科学研究所紀要

フロント・ステージの従業員は、顧客に対してすばやく助けようと努めることで、顧客が知覚する

反応性に影響を与える。

保証は、サービス組織に対して顧客が信頼するのを促す従業貝の能力に依存している。知名度の低

いサービス組織にとって、顧客の侶頼は従業員の行動や振る舞いに結びついている。そして共感は、

個々の顧客が望むことに注意を払い、傾聴し、柔軟になりえるかを意味する。そしてサービス施設や

外観などど同様に、従業員の身だしなみや服装は、有形的要素の次元にかかわっている。

3.1.3. 役割理論と台本理論

前述のように、 Solomonet al. (1985)は、サービス・エンカウンターを顧客と従業貝との間の相互

作用として捉えており、役割理論に着目している。

サービス・エンカウンターは役割パフォーマンスによって特徴づけられる。ここでの役割は儀式と

して展開され、学習された行動である。役割期待やその予測はサービス取引の性質の理解のための有

益なツールであるとしながら、役割期待は認知的スクリプトを基に形成される。つまり、サービス・

スクリプトはサービス組織と顧客の両方によって学習されるのである。役割期待に麒甑がある場合に

は効率性は減少し、他方で一致した役割期待であれば、社会的な相互作用は促進すると主張している

(Solomon et al. 1985)。

つまり、サービス・エンカウンターでは、顧客と従業員は各々役割があり、両者が役割を果たし、

うまく調和させることがサービスの成果を発揮し、顧客満足やサービス生産性を高めるものと考えら

れる。この点で、社会的な関係や社会からの期待によって決定され、特定の場所や状況での行動指針

を意味するのが役割である (Solomonet al. 1985)。たとえばGroveand Fisk (1983)はサービスを演

劇論として捉えて、サービス環境という舞台装置の中で、従業員と顧客が事前に決定された役割を演

じると主張している。また演劇や映画にも台本があるように、サービスにも決められたスクリプト、

すなわち行動手順がある。サービスのスクリプトは、顧客の視点からサービスを構成するステップに

関する時間的推移を表したものである (Fisket al. 2013)。従業員は研修や訓練から行動手順を学び、

顧客はサービス利用の経験や従業貝からの説明などを通じてこれを学んでいく。この行動基準に従っ

て従業員は、挨拶などの特定のセリフや行動を示すことになる。

サービス・ビジネスのいくつかのものは、タイトにスクリプト化されている。それによって多様性

は削減され、均一の品質が保証されている。しかし、すべてのサービスがタイトにスクリプト化され

たパフォーマンスに含まれるものではない。デザイナー、教育者やコンサルタントなどのように、高

度にカスタマイズ化されたサービス提供者にとってスクリプトは柔軟性を有している (Tsiotouand

Wirtz 2015)。

3.1.4. 役割ストレス

このようにサービス組織の従業員は、顧客の維持や組織の収益性に大きな影響を与える要因であ

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る。しかしその反面で、従業員らにはさまざまな役割が要求されており、ストレスにさらされてい

る。この役割ストレスには、役割葛藤、役割の曖昧性および役割荷重といった以下の 3つの要因があ

るといわれている (Gemmelet al.2013, pp.94-96.)。

・役割葛藤

役割葛藤は、 2人以上の人から同時に何かを求められた場合,各々の要求が上手く両立できず、

両方に対して応じられない場合に生じるものである。例えば,顧客と相互作用するサービス従業員

が顧客側のニーズとサービス組織側での提供の手順やルールを同時に達成できない場合に葛藤が生

じることがあり、役割ストレスが生じることもある。

・役割の曖昧性

従業員自らの役割が組織内で明確になっておらず、役割が曖昧である場合がある。つまり、責任

範囲や境界,役割への期待と責任を果たすための手段や行動,個々の期待の優先順位に対して,成

果の評価基準などに関する情報を従業員が有していないことがある。従業貝は自らの役割に対して

適切な行動を取ろうとするが,役割の曖昧さから役割ストレスを感じることがある。

・役割荷重

たとえば、職務上の要求や組織からの期待が合理的に考えられるよりも大きいと従業員が感じた

場合,役割ストレスが生じることがある。これらの役割ストレスは従業員の動機づけやロイヤル

ティ形成に影響を及ぽすことになる。そのためサービス組織は,不必要な従業員の役割ストレスを

軽減することを求められる。

3.1.5. 感情労働

顧客と日々接触するサービス組織の従業員は、感情労働の現場で働いているといわれる。従業員の

内面と、顧客の前でオペレーション上、要求される感情が一致しないという感情労働の側面がある

(Zeithaml et al.2013)。それは、従業員の感情がどのような形であってもその職務に関連し、職務の

成果につながるものである。多くの顧客に対応する職場の場合、個人差はあるものの、サービス組織

は顧客と相互作用する従業員の感情労働によるストレスを適切に理解し、研修を行うなどの支援する

ことが求められるのである。また同様に、田村 (2018) によるサービス・ビジネスにおける感情労働

の研究は、対人サービスの現場を特定の業種に絞らず、幅広く捉えて、組織論の視点から考察を行る

ている。そこでは対人サービス従業員が十分に力を発揮するための環境整備や組織的支援について検

討し、経営トップの想いや組織側の対応方針の重要性を明らかにしている。

3.1.6. 従業員のスキル

顧客と相互作用するフロント・ステージの従業員は、所属組織と外部の顧客を架橋する対境担当者

でもある (Zeithamlet al.2013)。とくに接客担当の従業員は顧客のHに映るサービス組織を映し出し

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ている。サービス従業員は技術的スキルと社会的スキルを通じてサービス品質を明らかにする。技術

的スキルとは従業員が課業を遂行する際の熟練度である。他方で社会的スキルとは従業員が顧客や同

僚と相互作用するときの態度である (Fisket al. 2013)。ここで技術的スキルと社会的スキルの優劣に

ついて検討すると、技術的スキルのレベルが従業員間で同等なものであれば、接客担当の従業員の社

会的スキルが重要になってくるといえよう。しかし、接客担当の従業員がいくら親切であっても、

サービス提供での従業員の未熟練による失敗で顧客の問題が解決されず、顧客に不満が生じるのであ

れば、技術的スキルが重視されるといえよう。ここから、サービス組織は従業員の技術的スキルと社

会的スキルの両方を高いレベルで開発、維持することが重要になるといえる。

他方で、 Gronroos(1984) は機能的品質とプロセス品質に分けて議論をしている。前者の機能的品

質は技術的スキルの結果に該当し、後者のプロセス品質は社会的スキルを通じた従業員の顧客への対

応プロセスに該当すると考えられる。ここでサービス研究の文脈では、 Gronroos(1984) は、サービ

スは相互作用プロセスであることから機能的品質が一定以上の水準を満たしていれば、機能品質より

もプロセス品質が重要になることを強調している。

3.1.7. 従業員の服装

サービス組織にとって従業員の服装を決定することは重要な課題である。服装、とくに制服の着用

を通じて、サービス組織は従業員を顧客に提示することになる。従業員の制服の着装を決定すること

はサービス組織にとって以下のメリットがある (Solomon1985)。

①物的証拠を提供する。

制服は顧客に可視的な評価基準を提示することになり、サービスの物的証拠の 1つになる。

② メッセージを伝達する。

制服はサービス組織にとってポジショニングの手段である。サービス組織が求めるイメージを投

影してデザインされた制服は、顧客にメッセージを送ることができる。

③ リスクを減らす。

制服の着装は、従業貝の身元を確認しやすくし、サービス組織にとって信頼性を確立する一助と

なる。

④一貫性を保証する。

. 制服を着装する機能は、従業員の外見に一貫性をもたせる。同じスタイル、色やパターンの服装

を身に着けることによって顧客は安心と信頼を想起させる。

他方でデメリットとして、制服の着装は従業員の個性を損ない、それを義務付ける組織は硬直的な

イメージをもたれるかもしれない。このためにサービス組織は制服の着装によるメリットと、心理的

かつ制服の準備にかかるコストを考慮しなければならない。そして制服を導入する場合には、サービ

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ス組織が自社の設備やマーケティング・コミュニケーションを通じて顧客の心の中に描こうとする全

体的なイメージと制服が調和しなければならないとしている (Solomon1985)。

この点で、 Georgeand Berry (1981)は、消費者はサービス品質についての判断の手がかりとして

有形のモノに注意を向けがちであると指摘している。つまり、従業貝の制服やロゴ、建物などの有形

なものを活用することでサービスそれ自体が提示できないようなサービス品質の判断材料を提示する

のである。これは「エビデンス・マネジメント (Berryand Bendapudi 2003)」の一環であるといえ

よう。

3.1.8. チームワーク

チームワークに関しては、たとえば医療をはじめとする、多くのサービスの職務では、従業員が

チームとして働いて、顧客満足を高めることを追求している (Lovelockand Wirtz 2011)。またサー

ビスの職務内容は変化し、顧客からの要求に対処するために、従業員はチームワークによってストレ

スと制約を軽減する。

サービス・ビジネスでは、従業員は小規模で自律的な組織横断的チームを形成し、円滑なサービ

ス・プロセスを実現していることがある。このためサービス・エンカウンターの全体を通じて自らの

判断で責任をもち職務を果たせることが求められる。

他方で、チームでの活動に不慣れで、チーム編成が不適切な場合、,モチベーションは高いものの、

チームでの活動に十分に適応できていない従業員に職務を任せなければならない。したがってチーム

によるサービス提供には、研修の実施や権限移譲が求められる。またチーム内では積極的な情報共有

が求められる。チームのメンバーには協調性や傾聴だけではなく、現実的な見解を互いに主張しあ

い、率直な質問をすることが求められる (Lovelockand Wirtz 2011)。

3.1.9. 従業員への権限移譲

顧客ニーズに迅速に対応し、サービスの失敗に対してフロント・ステージの従業員が有効に対応す

るためには、サービス組織の中には、フロント・ステージの従業員への権限移譲が行われているもの

もある。ここでの権限移譲とは、「顧客に奉仕するための要請、スキル、ツールそして権限を従業員

に与えることを意味する (Zeithamland Bitner 2000, p.302.)」。つまり、これは、顧客ニーズに対し

て迅速かつ柔軟な対応を従業員に取らせることを意味する。しかし他方で、権限移譲には利点と問題

点があり、サービス組織はこれらの 2つを検討する必要がある。この点で、 Bowenand Lower (1992)

は権限移譲の利点と問題点を挙げている(図表 1-1)。

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表 1-4 権限移譲の利点と問題点

メリット コスト

・サービス・デリパリーにおける璽客 ・籍9良疹麟を行う上での窟翠;皇の.還抜とニースヘの追這な紐応 珂{参への迂翠

・サービス・リカパリーにおける不滋足・人件量の増加

の圭じた璽宮への迅這な紐応

・詣業員芦身と仕事 1=紐する、よりよい・遍くて一貫性のないサービス厖俣窪藁盈濃足の向上

• t星業員の璽宮対応 1::間して熟意をもっ・ 璽 富 が 公 平 性 に 反 す る と fD覚 す る 恐 れて行勤すること

・帽限羹膿された従業員はしばしばサー ・這磁が許宮できない以上のコストのかビス改吉のアイデイアの遺泉となること かる、ま してしまうこと

・餐れた 1足業負の対応を愛 l;tた塞客l二よる零疇らしいクチコミの琴圭

出典; Bowen and Lawler (1992, pp.33-35) を参考に作成。

また Bowenand Lawler (1992) は権限移譲が可能な状況を分けている。それによれば、顧客の問

題解決にカスタマイズが必要で、顧客と長期的な関係が続き、技術が複雑で、そして事業環境が不確

実な場合には、従業員に権限移譲することが適している。一方で、顧客を同等に扱い、取引は離散的

であり、技術は定常的で、事業環境が比較的に予測しやすい場合には、標準化されたサービス提供を

行う場合が適している。

このようにサービス・エンカウンターで顧客と直接的に相互作用する従業員の影響力は大きい。こ

れに加えて、前述のようにサービス提供はチームワークでなされることが多い。そのためサービスの

成果は、フロント・ステージの従業員だけでなく、その背後でサポートする、バック・ステージの従

業員にもある程度、かかわりを有している。その理由としてバック・ステージのオペレーションの遂

行が円滑でない場合に、最終顧客のサービス品質の評価に間接的に影響を及ぽすからである。

したがって、従業員について検討した場合、単にフロントステージの従業員の問題だけでなく、人

的資源管理や組織文化まで踏み込んだ形で議論していくことが求められる。

3.1.10. 内部支援システムの整備

サービス組織の従業員の職務を効率的、効果的にするためには、従業員が顧客に焦点を置くことを

可能にさせる内部支援システムを必要とする (Zeithamlet al.2013: Gronroos 2007)。顧客に焦点を置

いた内部支援システムが整備されていなければ、従業員は質の高いサービスを顧客に提供できないだ

ろう。それゆえ、従業員が「最初の顧客」であり、組織内のすべての人が「内部顧客」としての性格

を有していることを認識し、内部サービス品質を顧客視点で測定する必要がある (Berry1981)。ま

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たサービス施設の設備やテクノロジーについても、内部顧客としての従業員が最終顧客にサービスを

提供する際に、それらが適切に用いられているかどうかを定期的に検討していく必要がある。

確かに、多くの組織の内部プロセスでは、官僚的な手続き、コスト効率的な手順などを優先させて

ものごとを進めていくが、しかし顧客志向的な内部プロセスを構築するためには、その再設計が要求

されることがある。組織の内部プロセスを変更していくことは組織内部からの抵抗が強く、 トップ・

マネジメントの改革への強いコミットメントと実行力が求められる (Zeithamlet al. 2013)。

3.1.11 組織文化

組織における従業員の行動は、個人行動および集団行動を形成する組織文化にかなり影響を受ける

(Lovelock and Wirtz 2011)。ここではサービス品質の向上を共通の価値観としたものの進め方である

「サービス文化 (Albrecht1990)」が着目される。サービス文化の醸成についてトップ・マネジメント

の役割は組織内にサービス文化を育み、事業戦略との整合性を図る必要がある。そしてトップ・マネ

ジメントがリーダーシップを発揮して、従業員の価値観や目標を変え、サービス組織と共通の価値観

をもつように意識改革を図っていく。従業員はリーダーの言動から組織にとって何が重要なのかを理

解する。そして人的資源管理、オペレーション、マーケティングの戦略や方針などからも組織の価値

観を理解する。サービス文化が浸透した組織では、組織全体が従業員の重要性を認識し、サービス・

エンカウンターが日々の収益に大きな影響を与えることを理解している。サービス文化は顧客に焦点

を置いた組織にとって競争優位の源泉として位置づけられる。しかじサービス文化はすぐに生成され

るものではない。そのためには、人的資源管理とインターナル・マーケティングの実践でサービス文

化を生成し定着させていく必要がある (Gronroos2007)。

サービス・エンカウンター研究では顧客と従業貝の相互作用を中心に研究が展開されてきた。そし

て従業員の対応によって、顧客が知覚するエンカウンター満足に大きな影響を与えるからである。そ

してこのことは、サービス・エンカウンターを起点にして、人的資源管理の領域まで踏み込み、さら

に組織の複数の部門間連携の必要性から、どのように構築していくのかという議論にまで発展をして

いくことが明らかにされた。市場動向に対して組織の部門閻で連携して競争優位を追求する考え方

は、近年のマーケティング研究の議論における市場志向 (Naverand Slater 1990:Jaworski and Kohli

1993) と称される研究群とも類似している。

しかし大規模な製造業を想定した従来のマーケティングの教科書では、人的資源管理の側面は十分

取り上げられているとはいえないであろう。ここにサービス・マーケティング研究の特性を見出すこ

とができる。

つまり、サービス組織は人間によって構成されている有機体である。そして現行のサービス組織の

戦略は当該組織の人材によって策定され、日々実行されているという点である。また同様に、組織の

将来の存続可能性を左右するのも組織の人材にかかっていることを再認識できるのである。

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3.2. サーピス志向型の組織の構築

既述のように、サービス提供プロセスに関して、サービス研究での議論は顧客と相互作用するフロ

ント・ステージの従業員にかかわる問題から組織全体としての人的資源管理にまでその議論の射程を

伸ばしている。たとえばサービスの失敗が生じた際に、迅速に柔軟に対応できるためには、サービス

組織から従業員に対して権限移譲が行われることである。また顧客に対応する表舞台の従業員のみで

なく、その背後にいるバック・ステージの従業員はフロント・ステージの従業員を支援したり、チー

ムで顧客に対応するような組織も必要になる。加えてフロント・ステージの従業員をサポートする情

報システムの在り方など、顧客との相互作用を起点にして対応する組織が要請されるという議論が現

れることになる。そこでは、 ドップ・マネジメントがすべてを指揮し、現場の従業員が実施していく

という従来のピラミッド型の組織ではなく、むしろ顧客に優れたサービス品質を提供できる「逆さま

のピラミッド(アルプレヒト 1990)」の組織の構築が要請されることになる。

上記の議論は、サービス・プロフィット・チェーン (Heskettet al. 1994)にも類似していると考え

られる(図 1-4)。サービス・プロフィット・チェーンの議論では、サービス組織はまず教育訓練や

ジョブデザイン、報酬制度を通じて従業員満足を生じさせ、従業貝の離職率を低下させる。そして上

手く動機づけされた従業員は優れたサービス品質を顧客に提供し、顧客が満足することで、サービス

組織の収益性を向上させていくと論じられている。そこでは顧客とサービス組織の間で生じるサービ

ス・エンカウンターでの相互作用、すなわちインタラクティブ・マーケティングをうまく機能させる

ために、組織の内部管理やインターナル・マーケティングと、エクスターナル・マーケティングを統

合させた考え方である。

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図表 1-5 サーピス・プロフィット・チェーンの図

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出典: Heskett et al (1994. p.166. 小野譲二訳 1994,p.7.)

さらに、サービス・マーケティングのトライアングルの議論もサービス・エンカウンターでの成功

に力点を置いた議論であるともいえる (Kotler1994:Wilson et al. 2016)。たとえば、サービス組織か

ら顧客に働きかけるエクスターナル・マーケティングでは、サービス組織は顧客に約束を示す。顧客

は広告などを通じて期待を形成する。他方でサービス組織は従業員に対して、教育訓練、報酬、経営

理念の浸透といったインターナル・マーケティングを実施し、従業員を動機づけて従業員満足を向上

させる。つまりインターナル・マーケティングの文脈では従業員を内部顧客と見立てている。サービ

ス・トライアングルではインタラクティブ・マーケティングが重要視され、インターナル・マーケ

ティングは、インタラクテイプ・マーケティングが成功するために、つまり約束を実現できるように

準備段階として実施されるのである (図1-5)。

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図表 1-6 サーピス・マーケティングのトライアングル

インターナル・マーケティング

(約束を可能にさせる)

従業員

/テクノロジ一

企業

(マネジメント)

エクスターナル・マーケティング

(約束をする)

顧客

インタクティブ・マーケティング

約束を伝達する

出典: Kotler, P. (1994, p.470.) : Wilson et al. (2016, p21.)

そしてトライアングルの最後の一辺であるインタラクティブ・マーケティングでは顧客と従業員が

相互作用し、サービス組織はサービス提供を行い、期待とパフォーマンスの観点から顧客満足を追求

することになる。つまりインタラクティブ・マーケティングの段階で約束が実行されるのである。

したがって、逆さまのピラミッド、サービス・プロフィット・チェーンおよびサービス・トライア

ングルの 3つの議論で共通していえることは、顧客とサービス組織が相互作用する「真実の瞬間」で

のインタラクティブ・マーケティング機能 (Gronroos1998) を重視していることである。そして

「真実の瞬間」としてのサービス・エンカウンターでの相互作用を成功させるためには、従業員のオ

ペレーション管理を対象にするにとどまらない。さらにマーケティング管理や権限移譲などの人的資

源管理などを議論の対象に含むことは、顧客のサービス経験やエンカウンター満足を高めるために、

組織全体をサービス志向型の組織に変革させるという方向に踏み込まざるを得ないという認識がある

ことを意味する。そういった意味では、従来の 4Pを中心にした伝統的なマーケティング管理論の体

系よりも広がりを持つといえる。

3.4. 顧客と従業員との相互作用研究のまとめ

ここで、顧客と従業員の間に生じる相互作用に関する研究潮流の諸特徴をまとめると、以下のよう

に示唆されよう。

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・ダイアデイックなサービス・エンカウンター研究においてフロントステージの従業員の対応能力

は顧客のサービス・エンカウンターの満足に大きな影響を与える。

.顧客と従業貝の間に関する研究では、役割理論、サービス・スクリプトや劇場メタファーといっ

た考え方が導入されている。

・サービス・エンカウンターで顧客との相互作用を成功させるためには、サービス組織は従業員の

訓練を通じて知識を高めるのみならず、経営理念の浸透やバック・ステージの従業員による支援、

情報システムの構築などの問題をも射程に入れ、サービス文化を強調する組織の構築を目指すこ

とになる。

上記の考え方は、サービス組織の従業貝と顧客がサービス提供プロセスでリアルに相互作用を行う

ハイ・コンタクトな産業(ホテル、レストラン、・エアラインなど)を対象にする研究に主に該当する

といえる。

次に、サービスケープで時間と場所を共有する顧客同士の相互作用、すなわち顧客間相互作用に焦

点を当て検討していく。

4. サーピス・エンカウンターにおける顧客同士の相互作用

4.1. 顧客同士の相互作用に関する研究レピュー

これまでのサービス・エンカウンター研究においては、顧客と従業員の相互作用に焦点を置いた研

究に注力されてきた。しかし、サービス環境、すなわちサービスケープを他の顧客と共有する場合

に、当該顧客のサービス経験は影響を受ける可能性がある。この点で、 Groveand Fisk (1997)は以

下のように述べている。

「サービス提供者と顧客との間で必要とされる協調を超えて、サービス・エンカウンターは互いに

影響しあう多様な顧客が存在する状況で生じることが多い。究極的には、ある顧客のサービス経験

は他の顧客によってポジティブにもネガティブにも影響されるだろう (Groveand Fisk 1997,

p.63.)。」

また同様に、 Baronet al. (2009) も顧客間相互作用について以下のように述べている。

「サービス環境において顧客間の相互作用をサービス提供者が確認し、統制することはますます難

しいが、このような交換は提供されるサービスの品質に対する顧客の知覚に影響を与える。それゆ

え、これは考察に値する (Baronet al. 2009, p.82.)。」

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さらに Baronet al. (2009)は顧客間相互作用を、①知り合い同士との相互作用と、②見知らぬ者同

士の相互作用に分けている。

①知り合い同士の相互作用

顧客はしばしば友人や親族とともにサービスを消費する。カフェやレストランなどのサービス組

織は知り合い同士が定期的に会うための「第三の場所」を提供している。

また、買い物の状況では買い物に伴う友人は「買い物仲間 (Woodsideand Sims 1976)」と呼ば

れることになる。たとえば、車の販売ルームの状況では、顧客が同伴の友人を活用するのは、知識

や経験の不足と、販売員の影響を受けやすいために、買い物において有益な情報を提供してくれる

友人や家族の存在が当該顧客の買い物経験を高めるといえるのである。

②見知らぬ者同士の相互作用

顧客は他の見知らぬ顧客の存在の前でサービスを消費したり、他の顧客と相互作用する c たとえ

ば休日の旅行先であったり、公共的な施設において見知らぬ者同士の相互作用は見うけられる。こ

うした相互作用のうち、.落とし物を届けることや車いすの人を助けるといった、顧客間で助け合う

行為をサービス組織は奨励するべきである c

ここから考えられることは、当該顧客にとって他の顧客の存在はポジティブにもネガティブにも影

響することが考えられる。したがって、他の顧客の存在によってポジテイプに作用する状況とネガ

ティブに作用する状況の識別と、前者のポジティブな作用を促進させ、後者のネガティブに作用する

ことを抑制する管理手法が求められるといえよう。

同様に、 Groveand Fisk (1997)は他の顧客があるサービス経験に影響を与えるだろうポジティブ

な効果とネガテイプな効果を確認するために、セントラルフロリダのアトラクションを訪問した旅行

者を対象にクリテイカル・インシデント技法を用いて、満足したり、不満足なエピソードを収集し

た。データの分析から明らかにされたことは、他の顧客の存在の特定カテゴリーであり、それは、多

様な回答者の性質を横断して記述され、検証された。この研究の結果では、他の顧客の存在によって

アトラクションで回答者の満足を高めたという事例は 48.8%、他方で他者の行動のためにアトラク

ションで回答者がかなり不満になったときの事例を反映させた出来頃が 51.2%になった。さらに、満

足や不満足を称させた事象を、儀礼的な出来事と社交的な出来事の 2つに分けて議論を進めている。

上記の Groveand Fisk (1997)の研究では、回答者の儀礼的な出来事(ルールなど)についてはよ

りネガティブな回答数が多い傾向であり、社交的な出来事(挨拶や簡単な会話など)についてはより

ポジティブな応答数が多い傾向であった。サービスケープを共有している顧客は暗黙に保持されてい

る行為のルールを他者が破ることに敏感であるが、他者が社交的であるならばサービス経験が向上す

ることを示唆している。

また満足した出来事では顧客の属性が主要な要因にはなっていないが、不満足な出来事では、顧客

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属性のうち結婚歴と子供の存在が関連している。たとえば、不満足な出来事に関して、既婚者は社交

的な出来事よりも儀礼的な出来事に関心を向ける傾向があり、独身者は儀礼的な出来事よりも社交的

な出来事に関心を向けている。したがって、明らかに同じサービス提供によってすべての顧客を満足

させることは事実上困難である。人々は状況で適切であることに関して様々な考えを有しているから

である。この問題への解決策は、組織が顧客に期待される行動をとるように教育することである。

他方で落とし物を届けることや車いすの人を助けるといった、顧客間で助け合う行為をサービス組

織は奨励されるべきである。また研究結果から他の顧客についての個々人の評価は異なることが示さ

れている。サービス組織はさまざまな顧客の組み合わせがサービス提供に居合わせるときに、その属

性に応じた行動の予測や対応をしなければならない。

したがって、サービス組織はアナウンスや表示、案内係などを通じて顧客に適切な行動をとるよう

に知らせていくことが求められる。上記の研究は、アトラクション施設の行列などを例にして、サー

ビス提供においてある顧客が他の顧客とサービスケープを共有するサービス組織において当てはまる

結果である (Groveand Fisk 1997)。

また Baron.et.al (2009, p.85.)は、見知らぬ者同士の相互作用に着目する場合には、ポジテイプな

相互作用から生じる顧客満足とネガティブな相互作用から生じる不満足を認識して、サービス組織が

責任を取るべき行動があるという。それらは①顧客を人的資源として捉えること、そして②相互作用

を促進するために計画することである。

①顧客を人的資源として捉えること

顧客同士が互いに助け合うことで、顧客は本来、従業貝が行うべき機能を実行することになる。

従業員は顧客同士のポジティブな相互作用を促進させるように訓練されることが求められる。

②相互作用を促進するために計画すること

ある一定期間、同じサービス環境で顧客同士がともに時間と空間を共有する場合には、「顧客整

合性管理 (Martinand Pranter1989:Pranter and Martin 1991)」が必要になる。それは、サービ

ス・エンカウンターでの顧客の満足を追求し.不満が生じるサービス・エンカウンターを最小にす

るためには,サービス組織は顧客同士の相互作用を理解し.部分的に管理することも求められる。

サービスを受領する他の顧客の役割についても焦点を置く必要がある。顧客はレストランやバーで

他の顧客との社会的な交流を期待しているかもしれない。しかし群衆のために非常に密集していた-

場合には、顧客は不満に陥るかもしれない。多くのサービスで他の顧客が行動する方法は顧客経験

に主要な影響を与えるのである。一般的にサービスを受領する他の顧客の存在や行動は所与の顧客

の満足と不満足に影響を与える。

価値観、性別、支払い能力、年齢などによって顧客は非整合的になりうる。サービス・マーケ

ターは非整合的であるがゆえに、異質な顧客を予期し、承認し、扱わなければならない。この点

で、 Baronet al. (2009)は異質な顧客同士が同一のサービス・エンカウンターに居合わせること

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でサービス経験が阻害されることや、顧客のマナーが悪い場合にサービス経験が阻害されることを

指摘している。こうした事態に対して、マーケターは顧客を同質的なものにまとめ、それらの関係

をスムーズにすることもできる。顧客の整合性の管理はハイ・コンタクトなサービスの場合に顧客

満足に影響を与える要因であるといえる。

顧客間のサービス・エンカウンターを有効に管理することが求められる場合もある。たとえばス

イミング・スクールはプールにコースロープを張って、能力別のコースを設定している。この設定

によって子供たちゃ水泳の初心者たちと、水泳の上手な競泳選手の間に生じるコンタクトが回避さ

れ、双方の顧客のサービス経験が阻害される危険性を回避するのである。たとえば、 Pranterand

Martin (1991)は顧客整合性管理を行うためにサービス組織の役割ついて以下に提示している。

①射撃手

顧客を同じセグメントに合わせること。

②環境エンジニア

レストランが喫煙席と禁煙席を分けるように顧客行動を整合させるためにサービス環境をデザ

インすること。

③立法者

行動上のルールを規定すること。

④仲人

同じ経験や問題を有し、そのサービス経験から同じようにベネフィットを得やすい特定の集団

に対してサービスの利用を促すように仲介すること。

⑤教師

顧客を誘導したり、ルールを教えることで教育すること。

⑥サンタクロース

顧客間の好ましいサービス・エンカウンターをもたらした顧客行動に褒賞を与えること。

⑦警察官

ルールや慣例を顧客が遵守するように仕向けること。

⑧チアリーダー

顧客同士が互いに作用しあい、当該サービスに関して共通の経験を分かち合うように奨励する

こと。

同様に、 Lovelock(1996)は、顧客のサービス経験を高めるために、顧客の外見や行動、年齢など

を考慮した「顧客ポートフォリオのマネジメント」を提唱している。さらに、顧客間の適切な行動を

保証するためにサービス・マーケターは警察官として行動することも主張している。

こうした異質な顧客同士によるコンフリクトを抑制し、かつ同質的な顧客にグルーピングする顧客

-23-

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第57巻第2号 2019年3月

整合性管理は、市場細分化の議論に通じるものがあるといえる。これに加えて、サービス組織がルー

ルを設定し、顧客に知らせて、順守させることは消費者教育に関わる領域であるといえよう。さら

に、当該顧客は、友人や見知らぬ人から知識を得て、自らのサービス経験を向上させていくという点

はネットワーク的な視点を有しているとも捉えられよう。

4.2. 顧客同士の相互作用研究のまとめ

ここで一定期間、顧客が他の顧客とサービス環境をともにする顧客間相互作用に関する研究潮流の

諸特徴をまとめると、以下のように示唆されよう。

.顧客同士の相互作用は当該サービス・エンカウンターの知覚にポジティブにもネガティブにも影

響を与える。

.顧客同士の相互作用は、友人・家族との相互作用と、見知らぬ者同士の相互作用に分けられる。

.顧客同士による社会的相互作用の中で、ルールの順守や社交性の有無も顧客の満足や不満足に影

響する。

.顧客同士の相互作用を有効にさせるために、比較的、同質的な顧客をグルーピングし、顧客同士

のポジティブな相互作用を促進する、顧客整合性管理が提唱されている。

• 他の顧客とサービスケープを共有する間、当該顧客自身が守るべきルールやマナーが強調され、

サービス組織には顧客教育の実施が有効である。

.顧客教育や顧客同士の相互作用をうまく促進できた場合には、顧客はサービス組織の人的資源に

なりうる可能性がある。

顧客同士の相互作用の研究においてもハイ・コンタクトなサービス・ビジネスを想定しているとい

える。他方で、顧客はサービス施設で、従業貝や他の顧客と相互作用するだけでなく、サービス環境

(サービスケープ)とも相互作用している。次に、サービスケープとの相互作用を検討していく。

5. サービスケープとの相互作用

5.1. サーピスケープ研究の意義

これまで顧客と従業員との相互作用や顧客同士の相互作用について検討を進めてきた。さらに、顧

客はサービスケープ (Bitner1992) とも相互作用をする。このサービスケープの考え方は、「サービ

ス環境 (Lovelockand Wirtz 20ll)」や「物的証拠 (Boomsand Bitner 1981)」といった概念とも関

係を有する。

たとえば、「物的証拠に関しては、顧客がサービス組織に対処し、遭遇するサービスの状況に対す

る内的環境と外部環境、設備および技術のことである (Baronet al. 2009, p.9.)」。

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また Lovelockand Wirtz (2011, p.290.)では、「サービス従業員と顧客の両者の姿と行動は、サー

ビス環境によって創出される印象を強化したり、損なったりする」として、人をサービス環境の要因

に含めている。

サービスケープの観点は顧客がサービスの文脈で遭遇する経験的な要素のすべてを考慮する。顧客

がサービス経験を形成するのに重要な役割を演じる物的なサービス環境、特に人に対応するハイ・コ

ンタクトなサービスにおいてである。ここで、サービスケープと呼ばれるサービス環境はサービス提

供の場所で顧客が遭遇する物的環境と他の経験的要素の装飾や外見に関連している (Ezehand Harris

2007: Tsidoula and Wirtz 2015)。つまり、サービスケープはサービス施設の環境のことであり,顧客

と従業員がサービス施設で知覚し,経験する物的環境の外観,装飾などを意味している。サービス

ケープは顧客と従業員の社会的相互作用に影響を与える。またサービスケープはまたプロモーション

的な要素でもあり,サービス・エンカウンターの生産性を高めることもできる。サービスケープは以

下の 3点において顧客と従業員に影響を与える (Lovelockand Wirtz 2007, p.289.)。

・メッセージを創造する媒体…標的市場にサービスの差別的な特性や品質を伝えるための象徴的な

手がかりとなる。

・注目を集める媒体…顧客の注目を集めるために競合サービス施設から差別化する。

.魅力を創造する媒体…顧客にとって望ましいサービス経験を高めるために、色、音、におい、そ

して空間デザインを採用する。

サービスケープは、サービス組織のポジショニング戦略とのかかわりを有する。サービスケープに

関して、 Bitner(1992)は環境心理学の知見に基づき,サービスケープ・モデルを提示する。そこで

は、周囲条件,空間レイアウトと機能性および看板・シンボル・装飾という 3つの基準によって環境

が知覚されることを以下に示している (Bitner1992, pp.52-71.)。

①周囲条件

周囲条件は、環境に関する知覚と環境に対する人間の反応に影響を与える要因として考えられ

る。温度、音楽、におい、照明、色彩といった環境の背後にある要素である 3 これらは五感に影響

するあらゆる環境的要素を意味する。

②空間レイアウトと機能性

サービス・エンカウンターの環境は目的のある環境である。サービスを提供するのに必要とされ

る機器類・設備などを意味し、これらがどのような大きさで、どのように配岡されることで、顧客

や従業貝にどのような影響を与えるのかを検討する必要がある。

③看板・シンボル・装飾

物理的環境にあるさまざまなモノを意味しており、明示的もしくは暗示的にサービス施設という

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場所について顧客に情報伝達する役割を有する。べたとえばドアの表示やトイレまでの道順.サービ

スの手順を示した看板などがあげられる。このほかにも店舗の内装や装飾などのさまざまなものが

環境要素に含められる。

5.2. サーピスケープの研究潮流

これらのサービス環境から受ける刺激に対し,顧客と従業員は認知的反応.情動的反応および生理

的反応をして行動すると考えられる。このうち音楽と色彩は室内環境では重要な要因であり、雰囲気

づくりに貢献している (Mariand Poggesi 2013)。そしてサービスケープは顧客と従業員の間で生じ

る社会的相互作用、顧客同士の社会的相互作用にも影響を及ぽす。たとえば大学でのゼミナールで、

机の配置をコの字型にすると、受講者間の相互作用が促進され,積極性と交流が求められることを受

講者に知覚させることができると指摘されている (Gemmelet al. 2013)。

このように環境に対する顧客の知覚は,環境への接近行動と回避行動に関係をもっており,顧客満

足度に影響を及ぼすものである。したがって.サービスケープの設計は顧客に影響を与えることから

顧客の視点からの設計が望まれるのである。また既述の Bitner0992)のモデルは、サービス環境に

対する従業員の反応を要素の一つとしている点である。従業員は顧客に対して相対的に長時間サービ

ス施設で過ごすために、従業員に配慮したサービス環境の設計を行うべきである。

こうした議論がある中で、実証研究もおこなわれている。たとえば音楽に関して、アップテンポの

曲が大きな音量で流れていると覚醒度が高くなり、顧客の行動は迅速になる傾向になる (Holbrook

and Anand 1990)。また、においでは、顧客はフローラルな香りのする場所でナイキの靴を試しては

いた場合、購入確率が高まり、高額な商品を購入する傾向があったことが報告されている (Hirshand

Gay 1991)。この意味では、サービスケープ研究は小売店舗の雰囲気の研究 (Kotler1974) との親和

性も有している領域である。

さらに、 Reamerand Kuehn (2005)は、物的証拠がサービス品質への手がかりになることを重視

し、 SERVQUALの尺度を用いて、銀行とレストランを対象にサービスケープの知覚サービス品質へ

の影響を構造方程式モデリングによって経験的にテストした。その結果、サービスケープは期待され

るサービス品質への手がかりになるだけでなく、知覚されるサービス品質を決定する他の諸要因(非

可視的要素)への消費者の評価にも影響することが明らかにした。つまり、サービスケープは知覚

サービス品質への直接効果と間接効果を有し、高い総合効果を有していることを明らかにした。

また Bakeret. al (2002)はビデオテープを用いてアメリカの大学生を対象にサービスケープの複数

の要因間の関係を経験的にテストした。彼らは、買い物経験コストの要因を組み込んで、店舗環境

(社会的要因、デザイン要因、周辺要因)が店舗選択基準にどのような影響を与え、商品の価値の知

覚そして店舗愛顧の意図にどのような影響を与えるかについて構造方程式モデリングを用いて経験的

にテストした。その結果、商品価値の知覚に対しては貨幣価格の知覚が最も重要なネガテイプな効果

を有する変数であり、その次にデザイン要因、続いて音楽の要因がポジティブな効果をもつ変数であ

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ることを明らかにした。そして店舗の愛顧意図については、人的相互作用のサービス品質の知覚、商

品価値の知覚、時間/努力のコスト知覚そして心的コストの知覚が直接効果を有することを明らかに

した。したがって Bakeret. al (2002)の研究は、サービスケープの要因を単独ではなく複数の要囚間

の影響を定量的に分析していくものである。

5.3. サーピス環境の設計のための手法

サービス環境に顧客を含める見解もある。その理由として、新規顧客は既存顧客の様子を観察し、

リピーターになるかどうかを判断することが多いために、サービス・スタッフや顧客の外見や態度も

サービス環境の印象を左右することが挙げられる。たとえば、 Berryand Bendapudi (2003) によれ

ば、優れたサービス組織の中には、従業貝の服装や態度、インテリアや機器及び施設の印象を通じて

組織の能力を顧客に示すものもいるという。特に、顧客とのコンタクトが多いサービス企業の中には

「エビデンス・マネジメント」を実施している。また、 Baronet al. (2009) によれば、コア・サービ

スは本質的に無形であり、目に見えないが、 トータルのサービス経験の知覚に影響を及ぼす多くの可

視的な局面があるという。サービス組織はサービス・パッケージの可視的な部分に関してかなりの部

分での統制が可能である。物理的なサービス環境を設計するときには、従業員と顧客がかかわりを有

しているために、オペレーションの効率性とマーケティングの効果について適切なバランスがとられ

るように配慮しなれなければならない。

サービス環境の設計について、 Lovelockand Wirtz (2011, pp.294-295.)は、サービス環境に対して

顧客が不満を持たず、好感を持たせることを把握するために以下の手法を挙げている。

・サービス環境における顧客への注意深い観察

.接客従業員や顧客からの反応と意見の収集

・現地調査

・サービス・ブループリントの作成

5.4. ヴァーチャル空間としてのサーピスケープ

リアルな空間としてのサービス環境だけでなく、さらに近年ではインターネットの発展からヴァー

チャルな空間の組織のウェブサイトなどをサービスケープとして見立てた研究も進んでいる。

Lovelock and Wirtz (2011, p.141.) は技術革新によるサービス・マーケティング・システムのイノベー

ションを以下に指摘している。

・スマートフォン、 PDAそして無線 LANの開発で、顧客は好きな場所でインターネットに接続で

きる。

• 音声認識技術を応用し、顧客は電話などに話しかけるだけで情報や要望を伝えられる。

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・ウェプサイトを構築すると、情報提供やサービス受注が可能になり、情報サービスの提供チャネ

ルとしても活用できるようになった。

・スマート・カードの開発によって顧客の詳細情報を保存し、電子マネーとして活用できるように

なった。

また Rayportand Sviokla (1994)によれば、リアルな市場ではコンテンツ、コンテキスト、インフ

ラは集合体となっており、これらは従来のマーケティング手段を通じてブランド化される。それに対

してインターネット市場では、コンテンツ、コンテキスト、インフラの要素が各々分解され、情報と

して流通することになり、新たなマネジメント手法が求められるとしている。これによって、サービ

ス組織が顧客とのインタ;_フェースを直接管理できるようになると主張している。

こうした側面からのセルフサービス技術研究とサービスケープ研究が進展していくことになる。こ

の点で Wilsonet al. (2016)は、上記のサービスケープの議論はオンラインサービスやウェブサイト

にも適用できるとしている。

たとえば、 Hopkinset. al (2009)は、インターネットをサービスとして捉えた上で、ウェブサイト

をeーサービスケープと規定している。そして彼らは Bitner(1992)のサービスケープ(①周囲条件、

②レイアウトと機能性、③サイン、シンボルそして建築物)をウェブサイトにも適用できるとして、

チケット・ブローカーのウェブサイトを対象にして、構造方程式モデリングを用いて経験的テストを

行った。この結果、①周囲条件、②レイアウトと機能性、③サイン、シンボルそして建築物は、単独

の要因であっても諸要囚が組み合わさっても、効果的なウェブデザインで多様な影響力を持つことが

明らかにされた。また同様に、さまざまな eーサービスケープの諸次元が組織のウェブサイトとオンラ

イン小売業者に対する消費者の評価と反応に有意な影響を与えることも明らかにした。 Hopkinset. al

(2009)の研究は、サービスケープの単独の要因による影響というよりはむしろサービスケープの複^

数の要因による影響について取り扱った研究であるといえよう。

他方で、 eーサービスケープ研究では、最適な経験のメタファーであるフロー概念に着目するものも

ある (Leeand Jeong 2012)。たとえば、 Williamsand Dargel . (2004)は、無形性や生産と消費の同

時性をはじめとするサービスの特性はリアルなサービスケープは重要な概念であるとし、さらに電子

商取引もサービスの特性を同様に有しているという。電子商取引でのベネフィットは購入商品だけで

なく、ウェブサイトとの相互作用から生じる無形のベネフィット(節約された時間、便宜性、改善さ

れた情報の入手からの不満足というリスクの削減)であると主張している。ウェブサイトからのフ

ロ一体験は、ウェブサイトの評価とそこに再訪問する意図の両方に関連している。彼らは、接近行動

に関連する概念としてインターネットのフロー概念を用いて S-0-R概念に対比させて論じている。

フロー概念を通じて顧客の反応についてより理解できるという主張から、 Williamsand Dargel

(2004, p.319.) は、 e-サービスケープとしてのサイバースペースのウェブサイト・デザインについて

以下の 3点を指摘している。

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• 特定のユーザーグループにウェブサイトの内容に焦点を当てて、標的とすること c

・ユーザーがウェブサイトとの相互作用を通じて制御できているという感覚を感じさせること。

・不満を避けるために標的顧客の期待を十分に理解すること。

また Harrisand Goode (2010) によれば、電子商取引が急速に拡張する中で、オンライン買い物客

の大多数は非常に気まぐれで、多くの消費者がインターネット小売業者や特定の支払いのシステムを

信頼していないという。そのため、オンライン買い物客の態度や行動を説明しうる無数の諸要因を識

別して、 eロイヤルティを生じさせることは、サプライヤーの中で最初に消費者の信頼を得ることに

よる。しかしオンラインでの交換やダイナミクスの特性を組み込んだサービスケープのオンライン上

の測定は十分ではない。そのため Harrisand Goode (2010) はe-サービスケープの 3つの側面を検

討している。それらは、審美的なアピール、オンラインのレイアウトと機能性、金融上のセキュリ

ティである。これらの諸次元は Bitner(1992)の業績に部分的に影響を受けている。

審美的なアピールは、オンラインの周囲条件であり、消費者がサービススケープを魅力的であり、

誘引するものである。これらはデザインの独自性(サイトやページのグラフィクス)、色などのビ

ジュアルの訴求、そして娯楽的価値のサブカテゴリーがある。

オンライン上のレイアウトと機能性は、配列、組織、構造そして適応性を意味している。消費者が

オンライン環境を評価するのに用いられる主要な基準はウェブサイトの機能性とユーザビリティであ

る。したがって、ユーザビリティ、情報の妥当性、カスタマイゼーション、相互作用性のサブカテゴ

リーがある。

オンライン上の金融のセキュリティは消費者が支払いプロセスとウェブサイトの一般的なポリシー

を確実で安全であると知覚する程度である。これは支払いの容易さとオンライン取引の知覚されたセ

キュリティである。

サービス提供の最中に存在するオンライン上の環境諸要因として eーサービスケープは定義される。

これらの要素に加えて、オンラインショッピングの基礎になり、オンラインの物的環境の結果になる

信頼が挙げられる。そしてオンライン上でのウェブ企業への消費者の信頼は購買意図に関係するとし

ている (Harrisand Goode 2010)。

5.5. サーピスケープ研究のまとめ

これらまでレビューしたサービススケープ研究について以下にまとめていく。

・サービスケープは環境心理学の知見を用い、顧客と従業員の反応を捉える考え方である。

・サービス環境の諸要因が顧客の購買確率にどのように影響するのかに関して実証研究が行われて

いる。

・サービスケープの議論は、ハイ・コンタクトなサービス施設だけでなく、顧客とサービス組織の

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かかわりの程度がロー・コンタクトなインターネットでのサービスケープを対象にして研究も進

展している。

5.6. サーピスケープ研究の今後

サービスケープ研究では、インターネットの進展を含めて今後、研究領域としては拡大傾向にある。

この点で、 Mariand Poggesi (2013)はサービスケープ研究のシステマティック・レビューを行って、

①古典的な研究、②新たな洞察そして③出現しつつあるトレンドの 3つの研究群を捉えている。

まず古典的な研究では、たとえば音楽のような特定の手がかり、その手がかりの特性(音楽のテン

ポ)について取り上げ:-e、買い物時間などのアウトプットヘの影響を分析するものである。つまり、

周辺環境における単一の変数が顧客の知覚に影響する可能性を検討したものである。これらの研究群

は喜びと覚醒が環境の刺激と消費者の反応の間での媒介変数として捉えている。

次に Bitmer(1992)のサービスケープ・モデルに対する新しい洞察では、手がかりとサービス・エ

ンカウンターの間の適合性、複数の環境の手がかりの要因間の交互作用、そして複数の手がかりの効

果などについて当てはまる。つまり、サービススケープに関して、考察すべき変数の数が増え、その

関係について検討する研究が増加しているとしている。

そして、今後の研究の方向性として Mariand Poggesi (2013)は今後のトレンドとして以下の 4つ

を挙げている6

・バーチャル・サービスケープ

.顧客が知覚するいら立ちの要因や逆機能的行動を取り上げたサービスケープのダークサイド

・Bitnerモデルの新たな統合

・覚醒概念などに着目した S-0-Rモデルの進展

上記の研究のうちでは、既述のバーチャル・サービスケープの研究が最も進展しているとしてい

る。また同様に、音楽以外の環境要因を取り上げ、他の複数の要因間の関係を解明が進んでいること

を指摘できる。

次にセルフサービス・エンカウンター研究の潮流についてレビューを行っていく。

6. セルフサーピス・エンカウンター

6.1. セルフサーピス研究の意義

サービスの特性として一般的に生産と消費が同時に発生するため、顧客はサービスの生産に関与す

ることがある。この意味では、顧客はサービスの共同生産者 (Lovelockand Young 1979)なのであ

る。顧客が能動的にサービス生産に関与することは、セルフサービス・レストランでの食事の準備、

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ATMの操作やインターネット・バンキングの口座の操作などに見受けられ、顧客がセルフサービス

技術とのかかわりの中で論じられるものである。

セルフサービス技術の適用に関する研究は、顧客による採用と利用を促進したり、阻害する諸要因

に焦点を当てている (Meuteret.al 2000: Bitner et. al 2000: Wilson et al.2016)。そこでは使いやすさ、

信頼性や楽しみがセルフ汁ービス技術への顧客の態度の主要なドライバーである。顧客の自信の喪

失、不安、技術に関連した態度、自己効力感といった顧客の特質がセルフサービス技術の利用とサー

ビスの共同生産を阻害してしまう。

このようにセルフサービス技術によって質の低いサービスが提供され、技術的な失敗が生じる場合

には、顧客はセルフサービス技術に不満を持つことがある。こうした理由のために、セルフサービス

技術については顧客が苦情を言うのをためらうこともあるので、セルフサービス・エンカウンターを

避ける顧客もいる (Meuteret. al 2000)。セルフサービス・エンカウンターはまた顧客と接触する機

会をサービス提供者から減らすことにつながる。したがってセルフサービス技術に関する研究は潜在

性を持っており、消費者ニーズと行動に注意を払うように設計されなければならない。

6.2. セルフサーピス技術の導入

Bitner et. al (2000) は、セルフサービス技術によってネガティブな結果が生じる可能性もあるし、

またすべての顧客がセルフサービス技術の活用を好むわけでもないとしながら、セルフサービス技術

を導入する際に、顧客と従業貝の 2つの観点で、①サービス・オファリングのカスタマイゼーション

と柔軟性のある対応、②サービスの失敗からのリカバリー、そして③自発的に顧客を歓喜させる、と

いう 3つの点から検討している。

まず、①サービス・オファリングのカスタマイゼーションと柔軟性のある対応については、表舞台

の従業員が顧客データベースを活用して顧客のニーズに柔軟に対応したり、カスタマイズされたサー

ビスを効率的に提供できる。また顧客自身もセルフサービス技術を通じてサービス・オファリングを

カスタマイズできる。次に、②サービスの失敗からのリカバリーについては、サービス組織は e-mail

などを通じて迅速に対応できる。また顧客を訓練することによって顧客が自主的にリカバリーできる

ようになる。

そして③自発的に顧客を歓喜させることについては、顧客が予期しない喜びがサービス・エンカウ

ンターで生じた際に歓喜が起こる。顧客データベースを活用して顧客を歓喜させるリッツカールトン

の事例や、顧客自らテクノロジーを利用できるように訓練して歓喜をもたらしたシスコ・システムズ

の事例が挙げられている。

セルフサービス技術の導入は、上記の 3つの目的を達成するために努力するべき従業員と顧客の両

方にとってイネーブラーである。それに加えて、セルフサービス技術はサービス・マーケティングの

三角形に組み込まれ、サービス提供を促進させ、支援する役割を演じる (Bitneret. al 2000: Wilson et

al. 2016)。

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6.2.1. セルフサービスヘの不安と成功

顧客には「セルフサービスヘの不安」と呼ばれる状態もある (Meuteret. al 2000: Meuter et. al

2003)。これは、サービスを遂行することについて社会的プレッシャーを知覚することに伴い、サー

ビスを行使するための技術を利用する際の恐れと心配とされている。セルフサービス技術の使用者は

技術利用のテクニカルな側面から不安を感じるだけでなく、他人がいる中でサービスを遂行する際の

社会的な側面も不安に感じるのである。行列がいて見られている中で取引を行う場合には、人々はス

トレスを感じる。

他方で、顧客に明確なベネフィットを提供し、他の提供システムと比較してそのベネフィットが十

分に理解され評価され、そして技術が顧客に利用しやすく信頼できる場合にセルフサービス技術は成

功する。加えて、顧客が自らの役割を理解し、技術を使用できる能力を有する必要がある。

さらに、セルフサービス技術の主要な問題は、サービスリカバリーシステムを組み込んでいないも

のが多いことである。多くの場合、プロセスが失敗した時に、その現場でリカバリーをする単純な方

法を有していない。 ATMが顧客の銀行カードを拒絶した場合、問題を解決するために支店に出向く

か、電話をしなければならない。そのため組織はセルフサービス技術のためのバックアップシステム

や支援を提供することが重要である (Wilsonet al. 2016)。

6.2.2. セルフサーピスのレベル

顧客はサービスの共同生産者と呼ばれることがあるが、共同生産者としての顧客の役割の遂行の程

度は、顧客がサービス生産にかかわるレベルによって異なってくる (Bitneret al. 1993)。 例えば

顧客がバスに乗って座席に座り,目的地で降りることなどの参加レベルが低い場合がある。そして程

度がより高くなると,美容院で髪を切ってもらうときには顧客は自分の要望を美容師に伝え、各場面

で美容師と協働することが求められる。続いて、より高いレベルでは顧客はリハビリテーションに取

り組む場合、専門家の指示に従いながら、食事の内容やリハビリの運動など、さまざまなことに能動

的に取り組むように多くの役割が求められる。

さらにセルフサービス技術を顧客が操作する場合.例えば ATMから預金を引き出すなどの顧客自

身が操作するといったことは,顧客が非常に高いレベルでサービス生産に参加していることを意味し

ている (Lovelockand Wirtz 2007)。このようにレベルの違いはあるにせよ.サービスの成果を獲得

するためには顧客は多くの役割を遂行することになる。

したがって、サービス生産において顧客に積極的な貢献を求める場合には,顧客の共同生産者とし

ての役割を理解してもらう必要がある。そのためには.従業員によるわかりやすい説明やパンフレッ

トの記載などが必要になってくる。顧客に対して顧客自身の果たす役割を理解してもらうためには.

顧客がサービスの提供プロセスに参加することによって楽しい経験になるといったことや、コストダ

ウンが達成されて価格が安く提供されるといったメリットを理解してもらわなければならない(坪井

2013)。たとえばATM、セルフ・スキャニング・チェックアウトやインターネット・バンキングのよ

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うに、セルフサービス技術によって、サービス・エンカウンターは従業員を必要とせずにサービスの

生産と消費を可能にさせる。たとえば顧客にとって、セルフサービス技術はサービスの共同生産を必

要とし、認知的な関与とサービス行動の新しい形態を増大させる。他方で、セルフサービス技術はカ

スタマイゼーションとますます多くのサービス経験を提供する。

6.2.3. セルフサービスの満足・不満足の源泉

セルフサービス技術はサービスのアウトカムを創出するためには顧客がサービス組織と相互作用す

る方法がますます変化している。顧客の中にはセルフサービス技術を好むものもいるし、他の選択肢

を好むものもいる。 Meuteret. al (2000)はクリテイカル・インシデント法を用いて、セルフサービ

スについての満足と不満足の源泉を明らかにしている。

満足の源泉としては、対人関係の代替案よりもよいと知鎚される (68%)、成功裏にオペレーショ

ンを顧客が実行する (21%)、そして迅速な問題の解決 (11%)である。

他方で、不満足の源泉は、テクノロジーの失敗 (43%)、貧弱なデザイン (36%)、プロセスの失敗

(17%)、顧客が引き起こす失敗 (4%)である。クリテイカル・インシデント技法は内容分析の一形

態で、明確になった出現パターンやテーマの意図を有するストーリーや決定的な出来事の分類を行う

定性的な研究方法である。回答者は特定の出来事についてできる限り詳細に語る。この研究手法は一

般化を意味するものではなく、研究対象となる現象の特性に洞察を提供する。さらにクリテイカル・

インシデント技法と苦情の間には統計的に有意な関係がある。ほとんどの満足のいく出来事は苦情に

はつながらない。他方で不満足な出来事のうち、回答者の 51%がその後、苦情を申し出ている。この

うち、不満足が生じたプロセス上の失敗、技術上の失敗とサービス・デザインにかかわる出来事は苦

情との関係が統計上有意になっている。

またクチコミと再購買意図については、将来の行動として、出来事に満足した水準に関する主効果

を見出している。回答者は不満足な出来事に対してよりも満足した出来事に将来のポジティブな行動

を取りやすくなる (Meuteret al.2000)。

6.2.4. セルフサーピスにおける顧客の管理手法

セルフサービス研究では、顧客は能動的な存在であり、サービス提供のプロセスにおいて自らの知

識を用いてサービスを創出するという姿が示されている。セルフサービスに関してサービス生産にお

いて顧客行動が重要な役割をはたす場合に、顧客は「部分的な従業員 (Lovelockand Young 1979)」

としてみなされる必要がある。この点で Baronand Harris (1995)は従業員と同様の管理手法を顧客

にも適用することができるとして、顧客に対して下記の条件を提示している。

・要求されている行動に関する理解

・要求通りに行動できること

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・要求通りの行動に対して、価値のある報酬が得られること

.顧客に割り当てられる役割やスクリプトに関して顧客が心地よさを感じなければならないこと

6.3. 顧客参加を高めるための戦略

サービス・プロセスでの顧客参加の特性と水準は、組織の生産性や競争相手に対するポジショニン

グ、サービス品質と顧客満足に影響を与えうる戦略的意思決定である。顧客参加戦略の全体的目的は

典型的に組織の生産性と顧客満足を向上させ、同時に予期しない顧客の行動による不確実性を減少さ

せることにある。

サービス提供における顧客の重要性を理解し、特定の文脈での顧客が演じる役割を見定めることを

通じて、マネージャーは顧客参加を高める戦略を開発できる。戦略は顧客の役割と仕事を定義し、顧

客が自らの役割を効果的に遂行できるように教育し、顧客の貢献に報酬を与え、すべてのセグメント

の経験を高めるために顧客の組み合わせを管理することである。ここからセルフサービス技術の経営

的示唆が得られる (Baronet al. 2009, pp.90-91.)。

①効果的なサービス・リカバリーのための計画

何らかの失敗が必然的であると受け入れられる場合、サービス・リカバリー戦略が適当である。

従業員と顧客の間での人的な相互作用では、従業員へのエンパワーメントが選択肢として挙げられ

る。同様に効果的なリカバリー戦略の実行は顧客満足に帰着する。特にサービス従業員がいない場

合、サービス・リカバリーヘの鍵は顧客自身が問題を解決することにある。

②顧客を関与させる

サービスの不可分性によって、サービス・エンカウンターにおける顧客関与のレベルがかかわっ

てくる。

③サービスをカスタマイズさせる

セルフサービス技術は、企業の従業貝との直接的相互作用や直接的関与なしで顧客によって完全

にサービスが創出されるサービスである。

6.4. 顧客の役割

セルフサービス研究の文脈では顧客は能動的な実体として捉えられている。 Wilsonet al. (2016,

pp.265-271.)はサービス提供において顧客が果たす 3つの主要な役割を挙げている。それらは、①生産

的資源としての顧客、②品質や満足への貢献者としての願客、および③競争相手としての顧客である。

①生産的資源としての顧客

サービス顧客は組織の生産的キャパシティに貢献する人的資源である。顧客はサービス生産プロ

セスに努力や時間を費やし、貢献したのであれば、顧客は組織の部分的従業員として捉えられる。

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明治大学社会科学研究所紀要

顧客がサービス創造プロセスヘの貢献を最大化するように共創ルールをデザインし、部分的な従

業員として捉えられるのであれば、サービスは最も効率的に提供されうるとも考えられる。この考

え方の背後にあるロジックは、顧客がサービス生産にかかわる活動を学習したり、教育されること

で組織の生産性は増大しうる。

②サービス品質と顧客満足への貢献者としての顧客

顧客が価値共創やサービス提供の中で演じるもう一つの役割は、顧客が受け取るサービスの品質

と自分自身の満足への貢献者としてのそれである。顧客は参加に関して組織の生産性の向上に関心

を示さないが、自身のニーズが満たされたかどうかに関してはかなり気にする傾向にある。効果的

な顧客参加は、ニーズが満たされ、顧客が求めるベネフィットが達成される可能性を増大させる。

こうしたサービスの場合、顧客の参加が効果的に遂行されない限り、望まれたサービスのアウトカ

ムは不可能である。

③競争相手としての顧客

セルフサービスを行う顧客は自らサービスを遂行することで、サービス提供者を全くないし部分

的に必要としなくなることもある。したがって、この意味ではサービスを提供する企業にとって顧

客は競争相手となりうる。子供の世話や車の修理といったサービスを自身のために生産するか、他

者に提供してもらうかは消費者にとってジレンマである。

6.5. セルフサーピス技術研究のまとめ

これまでレビューしたセルフサービス研究について以下にまとめていく。

.顧客を能動的な共同生産者として捉えている。

・セルフサービス技術導入の際の顧客へのベネフィットを重視している。

・セルフサービス技術における満足・不満足の源泉を明らかにしている。

・セルフサービスのレベルによって顧客の関与の度合いが異なることを明らかにしている。

・サービスの失敗が生じた場合のサービス・リカバリーの問題点について言及している。

・セルフサービスの遂行について顧客の役割を見出し、知識の意義を強調している。

次に、サービス・エンカウンター満足を包括的に検討した研究についてレビューを行う。

7. サーピス・エンカウンター満足

ここではサービス・エンカウンターにおける満足研究について検討する。サービス・エンカウン

ター満足については、態度理論や認知制御 (Bateson1985) などについて議論されてきた。また

Keaveney (1995)は顧客スイッチングの調査研究を通じて、顧客スイッチングの原因を明らかにし

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ている。この研究結果によれば、コア・サービスの不手際(回答者の 44%)、サービス・エンカウン

ターヘの不満(同 34%)、サービス価格の高さや分かりにくさ、不公平感(同 30%)、サービス提供

の時間と場所の不便さやサービスの遅れ(同 21%)、サービスの不手際に対する対応の悪さ(同

17%) などが挙げられている。コア・サービスの不手際やサービス・エンカウンターヘの不満によっ

て顧客が離反することが理解できる。

サービス組織の評価はそのサー、ビス・エンカウンターの評価に依存することが多い。サービス・エ

ンカウンターで消費者の評価に影響を与える諸要因についての知識は決定的である。 Either(1990)

は、顧客満足(期待不一致モデル)、サービス・マーケティング^・・ミックス、帰属理論での議論を検

討してサービス・エンカウンターの評価モデルを提示した。

そこでは、帰属理論と満足にかかわる評価モデルの一部分に関してサービスの失敗が生じた場合を

想定して、以下の問に基づいて形成された諸仮説が旅行者を対象にして検証された。

・サービス・エンカウンターにおいて顧客の満足/不満足の原因と結果は何か。

・サービス・エンカウンターで顧客満足にポジテイプに影響を与えるために、サービス・マーケ

ティング・ミックスはどのように影響を与えるのか。

上記のモデルにおいて、 Bitner(1990) はサービス・マーケティング・ミックスの参加者(従業員

や他の顧客)と物的環境によるサービス・エンカウンターの満足/不満足への影響を明らかにした。

サービスの失敗の文脈における①従業貝の説明の有無、②補償の有無、および③オフィスの整理整頓

の有無である。

テストの結果、顧客はサービスの失敗の原因が企業の統制の中にあって、再び起こるものと知覚す

る場合には、顧客は不満足を感じることが明らかにされた。さらに従業貝による説明、補償の提供そ

して物的環境といった統制変数がサービスの失敗に関する顧客の知覚の仕方に影響を与えることが明

らかにされた。つまり、サービスの失敗における従業員の論理的な説明と何らかの方法での補償は不

満足を軽減する。この点は Bitneret al. (1990)のクリテイカル・インシデント法による調査結果と

も一致する。

加えて従業員の顧客への対応方法やオフィスのインテリアなどがエンカウンターに影響することが

示唆されている。したがって、サービス組織のマーケティング部門は人事部門やオペレーション部門

などと協働してサービス・エンカウンターの管理を行っていくことが求められる。したがって、以下

のことを示唆できよう。

・サービス・エンカウンターの満足の達成には、サービス組織全体として取り組まなければならない。

・従業員による言語的なコミュニケーションだけでなく、インテリアなどの非言語的なコミュニ

ケーションも重要な要因である。

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8. サーピス・エンカウンター研究のネットワーク的視点

これまでの研究は、顧客とサービス組織の間で生じるダイアディックな相互作用を対象にしたもの

であった。しかし Tax(2016)によれば、顧客はそのカスタマージャーニーにおいて多様なサービス

組織と相互作用していると指摘している。ここではサービス・マーケティング研究において主要な

ネットワーク研究をレビューしていく。

8.1. ネットワーク研究のレピュー

8.1.1. メニィ・トウ・メニィ・マーケティング

北欧学派の Gummesson(2004) は、 S-Dロジックが提唱されると、その基本的前提に賛同の意を

示し、影響を受けている。そのもとで彼は、ネットワーク理論をマーケティング研究に導入して、彼

独自のメニィ・トゥ・メニィ・マーケティングを提唱している (Gummesson2006:2008)。

メニィ・トゥ・メニィ・マーケティングでは、サービス組織をネットワークとして考察するだけで

なく、単一の個人の消費者を中心にして、そこから関係する家族、友人、近所の知人や他者から構成

されるネットワークとして捉えて、ネットワーク間での相互作用を検討している (Gummesson

2008)。ある消費者の経験に視点を転換させ、その相互作用を複数の他者とのネットワークの中で考

察する点は興味深いものがあるといえる。

さらに、 Gummesson(2010) は事例研究をベースに、メニィ・トゥ・メニィ・マーケティング、

S-Dロジック、サービス・システムをドライバーとし、新たなマーケティングのグランドセオリーを

構築しようとしている。

8.1.2. 消費者経験モデリング

_ Baron et al. (2010)は顧客経験パースペクティブから相互作用とリレーションシップを探究するた

めのプロセス、すなわち消費経験モデリング (CEM) を提唱している。 CEMのプロセスでは消費者

が焦点になる。ここで当該消費者は知り合いの消費者や、知り合いではない他の消費者、経験イネー

ブラーとの一次的相互作用をもとに、消費者の価値を促進するエンハンサーと、阻害するインヒビ

ターを創出する。 CEMのフレームワークでは消費者同士の相互作用に焦点を当てることを強調する

と同時に、ソーシャルネットワークやソーシャルコミュニティをも含んでいる。

CEMでは、消費者を資源統合者として捉えている。ここでの資源とは、知識を意味するオペラン

ト資源であり、文化的なスキームに関連している。そして、消費者が自分の経験の中で、価値共創プ

ロセスで自分の資源を使用し統合する方法を発見するプロセスを重視している。さらに、消費者がか

かわる様々なネットワークと消費者が受益者だけでなく供給者としての役割を演じている点を強調す

るものである(図表 1-7)。

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図表 1-7 経験ネットワーク

l=一次インタラクション 2一二次インタ9クショ;; Jc三次1ンタラクション

出典 :井上崇通他訳 (2012)「リレーションシップ・マーケティング」同友館、 p.182.

8.1.3. サーピス・デリバリー・ネットワーク

Tax et al. (2013)およびTax(2016) は従来のサービス ・エンカウンターの研究は顧客と単一のサー

ビス組織との相互作用しかとらえていない点を批判する(圏表 1-8)。そしてカスタマージャーニー

の観点から、顧客を資源統合者として捉えて、顧客から見ることができる、顧客を起点としたネット

ワークをサービス・デリバリー・ネットワークとした。顧客は自身のネ ットワーク内の複数のサービ

ス組織と相互作用を行い、知識を統合していく 。つまり、顧客は自分の問題に合わせて、ネットワー

ク内の複数のサービス組織うちから必要な組織を選択して、資源統合を行うという能動的な視点が導

入されることになる(図表 1-9)。

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図表 1-8 従来のダイアディック・サーピス・エンカウンター

出典 :Tax.S.S. (2016, p.5.)

図表 1-9 サーピス・デリバリー・ネットワーク

出典 :Tax.S.S. (2016, p.11.)

8.2. ネットワーク研究の特徴

ネットワーク的視点の研究は、カスタマージャーニーや顧客のサービス経験に焦点を当てて、ネッ

トワーク内のさまざまなアクターと相互作用を行う点を強調している。この点で S-Dロジックのオペ

ラント 資源を強調 した資源統合者というアクタ ーの捉え方や、資源統合者はネットワークの中で資源

を統合し、価値を共創するという視点 (Luschand Vargo 2014)に影響を受けているといえよう 。

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こうした考え方は、価値連鎖をネットワークとして捉え直し、アクター間の相互作用を起点に捉え

た「価値星座 (Normannand Ramirez 1993)」の考え方にも近いといえる。いずれにせよ、顧客の

サービス経験の創出に焦点が置かれている。

ここで、ネットワーク的視点のサービス・エンカウンター研究の特徴をまとめると以下のように要

約できる。

.顧客サイドに視点が転換されている。

・カスタマージャーニーが強調されている。

.顧客による資源統合、すなわち価値共創が重要視される。

.顧客を資源統合者として捉え、能動的な存在として捉えている。

・焦点となる顧客のネットワークに着目し、アクター同士の相互作用、すなわち価値共創に着目し

ている。

9. むすびにかえて

第 1部では、サービス・マーケティング研究の基本的な概念的基盤としてのサービス・エンカウン

ターを対象にした。そしてサービス・エンカウンター研究潮流を、①顧客と従業員の相互作用、②顧

客同士の相互作用、③顧客とサービスケープの相互作用、④顧客によるセルフサービス技術の活用、

および⑤ネットワーク的視点の研究に分けて捉えて、文献レビューを行った。そして各々の研究領域

で何が明らかにされてきたのかについて検討することにあった。ここで、本研究の結論として、サー

ビス・エンカウンター研究は以下の諸特徴を有しているとまとめることができよう。

.顧客と従業員を対象にしたハイ・コンタク・トな相互作用を対象にする研究から、顧客とインター

ネットのヴァーチャル空間での組織のウェブサイトとの相互作用を対象にしたロー・コンタクト

な研究へと研究が移行している。

・セルフサービス技術の研究もリアル空間からインターネ・ットのヴァーチャル空間での顧客とサー

ビスケープとの相互作用に研究の力点が置かれている。

.顧客をサービスの共同生産者ないし価値の共創者、資源統合者として捉え、顧客視点への転換を

強調する研究が生じている。

・従業員や顧客の知識や、サービス提供の際のルールがサービスの共同生産すなわち価値共創の重

要な要因であることを示唆している。

・サービス・エンカウンターに関して、顧客とサービス組織の間で生じるダイアディックな相互作

用を焦点に置いた研究から、願客と複数のサービス組織の間で生じるネットワーク的な相互作用

を焦点に置く研究が現れている。

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上記に要約できるように、サービス・エンカウンター研究はその範囲について拡張を示しており、

その背景にば情報化の進展が大きくかかわっているといえる。また一方で、カスタマージャーニーを

はじめとするサービス・デザインや、価値共創をめぐる S-Dロジックでの議論の影響も受けていると

いえよう。.

要するに、サービス・エンカウンター研究では当初、サービス・エンカウンターを管理するという

考え方から、顧客視点に着目する考え方がますます強調されているということである。また同様に、

顧客とサービス組織が活用できる知識がその問題の焦点になりつつあるのである。

サービス・エンカウンターを理解することについて、 Gronroos(2007) は以下のように指摘している。

「伝統的なマーケティング・モデルでは、消費は中心的な問題になっていない。マーケティングは

販売することと顧客に購入させるために準備される。グッズ志向のモデルでは、多かれ少なかれ、

消費はブラック・ボックスになっている。サービス・マーケティングの研究において、サービスの

消費というブラック・ボックスの扉が開かれ、そして探求された (Gronroos,2007, p.58.)。」

つまり、 サービス..マーケティング研究において、サービス・エンカウンターの研究を通じて‘‘顧

客の使用プロセス"というブラック・ボックスを明らかにすることこそ、マーケティング研究に大き

な価値を見出せるのである。

また同様に、今後の研究の方向性としては以下のことが考えられる。

①アプリとの相互作用

.私たちの生活の中で、スマートフォンの役割が大きな割合を占めており、日々、顧客とスマー

トフォンのアプリは相互作用している。これまで検討したようにサービス・エンカウンター研究

においてインターネット空間への注目が高まる中、今後、顧客とアプリとの相互作用をエンカウ

ンターとして捉えることできるだろう。

② ゲーミフィケーション

サービス組織と顧客が接点を有する際に、ゲーミフィケーションの手法がとられることがあ

る。ゲーミフィケーションを通じて顧客のエンゲージメントを強化することができれば、顧客の

内発的動機付けを通じて推奨行動などが期待できよう。ゲーミフィケーションはリアルだけでな

<ヴァーチャルの側面でも研究が行われつつある。これはサービス・エンカウンターでのルール

の設定問題や顧客の資源化にもかかわる問題でもある。

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第 2部 サーピス・エンカウンターにおけるインターナル・マーケティングの意義

ー道路貨物運送業の従業員を対象として―

高橋昭夫

1. はじめに

第1部では、主にサービス・エンカウンターに関する理論的分析を行った。第 2部では、これまで

ホスピタリティ産業 lでその有効性が確認されているサービス・エンカウンターの概念の有効性を道路

貨物運送業へと拡張する可能性を分析することにする。具体的には、まず、サービス業としての道路

貨物運送業の特徴を整理し、サービス・エンカウンタ.一の 3つのステージを概観する。 9 次に、サービ

ス・マーケティング・トライアングルにおけるサービス・エンカウンターの位置を確認した上で、

サービス・エンカウンターにおける顧客満足および収益向上に影響を与えるインターナル・マーケ

ティングの役割を検討する。さらに、インターナル・マーケティングと従業員の組織市民行動に関す

る先行研究を検討し、本研究の仮説と分析枠組みを提示する。そして、道路貨物運送業の担当者の

データを用いて仮説の検証を行う。また、分析結果を宿泊業の接客担当者の分析結果と比較検討を行

う。最後に、第 2部のまとめと残された課題を提示する。

2. 道路貨物運輸業の現状と課題

、日本標準産業分類によれば、道路貨物運送業は、「H運輸業、郵便業」という大分類のうちの1つ

の中分類 (44)に位置づけられている。他の中分類には、 42鉄道業、 43道路旅客運送業、 45水運業、

46航空輸送業、 47倉庫業、 48運輸に付帯するサービス業、 49郵便業(親書便事業を含む)がある。

そして、道路貨物運送業は、、440管理、補助的経済活動を行う事業所、 441一般貨物自動車運送業、

442特定貨物自動車運送業、 443貨物軽自動車運送業、 444集配利用運送業、 449その他の道路貨物運

送業という小分類に分けられている。

道路貨物運輸業の主要な部分は、 トラック輸送産業である。 トラック輸送産業の特徴として、つぎ

の3点が指摘されている(全日本トラック協会2016)。

①総務省の調査によると平成27年現在、 トラック運送事業に従事する就業者数は全体で約 185万人、

このうちドライバー等輸送・機械運転従事者は 80万人と 2年連続で減少。

② トラック運送事業を含む自動車運送事業は、中高年層の男性労働力に依存しており、 40歳未満

の若い就業者数は全体の約 30%。

l Kotler et al. (2017)によれば、ホスピタリティ産業とは、宿泊、加工・調理済み食事と飲料のサービス、および/もし

くはエンターテイメントの 1つもしくはそれ以上を提供する産業から構成されている (p.659)。

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③ また、女性の比率も就業者全体で 18.4%、輸送・機械運転従事者で 2.5%と低い状況。

④一方、厚生労働省の統計によると、道路貨物運送業の賃金水準は全産業平均に比べて低い水

J準で推移。

他方で、いわゆる宅配便の取扱個数は、増加の一途をたどっている。国土交通省の調査による

と、 2015年(平成 27年)度の宅配便取扱個数は、 37低 4,493万個で、その内訳はトラック運送 37

億 447万個に対して、航空等利用運送 4,047万個であった。 これを前年度と比較すると、 1億 3,114

万個・対前年度比 3.6%の増加となり、 2年ぶりの対前年度比増(うちトラック運送は、 1億3,439

万個・対前年度比 3.8%増、航空等利用運送は、 324万個・対前年度比 7.4%減)である。便名ごと

のシェアをみると、 トラック運送については、上位 5便で全体の 99.8%を占めており、さらに「宅

急便」、「飛脚宅配便」及び「ゆうパック」の上位 3便で 92.9%を占めている。平成 27年度の宅配

便(トラック)取扱個数については、これまでと同様にインターネットを利用した各種通信販売

サービスの需要拡大や各社の営業努力による新規需要開拓などにより前年度を上回った事業者もい

たことから、前年度の傾向とは異なり、全体の実績として増加となっている。

3. サーピス業としての道路貨物運送業の特徴

次に、道路貨物運送業者の提供するサービスとホスピタリティ産業の接客担当者の提供するサー

ビスと比較することによって、その特徴を明らかにしたい。その特徴は以下の 8つの点に見いださ

れると考えられる。

①道路貨物運送業者は主に対物に対するサービス提供に対して、ホスピタリティ産業の接客担当

者は主に対人に対するサービス提供である。顧客の所有する物財に対するサービスでは、サー

ビスの対象となる物財は物理的にその場に存在する必要があるが、顧客はその場にいる必要が

ない。他方、人を対象とするサービスでは、顧客は、求めるベネフィットを手に入れるために

は、サービスの提供がなされる期間は、物理的にその場所にいる必要がある。ホテルでの宿泊

というサービスを受けるためには、自宅ではなくホテルにいることが必要になる。

② サービスの提供において、ホスピタリティ産業では、特注化が可能であるが、道路貨物運送業

では主に画ー化される。高級なホテルにおいて、顧客の特別な注文に応じるコンシェルジェが

いる。また、ルームサービスなど追加の料金で、個別のニーズに対応してくれることがある。

他方、道路貨物運送業では、生産性や効率性を重視し、画ー化され、特注化されることはほと

んどない。

③サービス提供へのアクセスについては、道路貨物運送業では、主にサービス組織が顧客の所へ

行くが、ホスピタリティ産業では顧客がサービス組織の所へ行くことになる。道路貨物運送業

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では、最近は、顧客にとって便利なコンピニエンスストアや駅の宅配ボックスで受け取ることも

可能となっているが、ホスピタリティ産業では、顧客は宿泊先に行かなければならない。

④道路貨物運送業者と顧客の関係は固定化されるが、ホスピタリティ産業のようにロイヤルティを

形成することは困難である。宅配便などでは、担当する配達先は固定化するが、配達先の顧客と

の間に関係性を形成することは難しい。顧客が気に入らない運送業者であっても変更することは

困難である。ホスピタリティ産業であれば、嫌な経験をした場合は、他の宿泊先にスイッチする

ことは容易である。

⑤道路貨物運送業者のサービスに対して、満足 (satisfaction)することはあっても歓喜 (delight)

することはほとんどない。つまり、ホスピタリティ産業のように、期待を大きく上回るような喜

びを提供することは困難である。 Oliver(2010)は、満足は、消費者の充足反応で、充足のレベ

ルが好しいという程度を指すが、歓喜は、驚くようなよい成果から生じる肯定的な感情の極端な

表現であると述べている。

⑥道路貨物運送業では、大口の法人に対する価格と個人に対する価格は大きく異なるのに対して、

ホスピタリティ産業ではほぽ同じである。もちろん、ホスビタリティ産業でも利用頻度が高い法

人に対する値引きはあるが、道路貨物運送業の場合は、価格差は大きいといわれている。

⑦道路貨物運送業では、再配達によるコスト問題が存在し、ホスピタリティ産業では稼働率が主要

なコスト問題となっている。

⑧ ホスピタリティ産業では、前述のように、特注化が可能であり、それにより追加料金を徴収でき

るが、道路貨物運輸業では、再配達に伴う追加料金を徴収できない状況にある。

⑨ ホスピタリティ産業における接客担当者の提供するサービスは、そのビジネスにおける中核的な

サービスであるのに対して、荷物を受け取る顧客から見ると、宅配サーピスは、付属的なサービ

スとみなされる。特に、ネットショッピングなどで、送料無料という位置づけの場合は、中核的

なサービスとはなりえない。

⑩ ホスピタリティ産業では、サービスの提供の際に、他の顧客がサービスのクオリティに影響を与

えるが、道路貨物運輸業ではその影響はほとんどないといえる。

以上の相違点をまとめたものが、図表 2-1がある。

-44-

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図表 2-1:2つのサーピス業の相違点

道路貨物運輸業者 宿泊業接客担当者

①対象 対物サービス 対人サービス

②特注化 低 低・中・高

③提供. サービス企業が顧客の所へ行く 顧客がサービス企業の所へ行く

④関係性 担当者は固定化 顧客ロイヤルティの構築可能

⑤顧客満足 満足のみ歓喜はない 満足ばかりでなく歓喜もある

⑥価格 個人と法人ではかなりの差 個人と法人でもほぽ同じ

⑦コスト問題 再配達問題 稼働率

⑧追加料金 徴収困難 徴収可能

⑨サービスの位置づけ 付属的サービス 中核的サービス

⑩他の顧客の影響 影響は大きい ほとんどない

それでは、これらの特徴の違いが、サービス・エンカウンターにおけるプロセスにどのような違い

をもたらすかを見ていくことにする。

4. サーピス・エンカウンターの 3つのステージ

サービス・エンカウンターの概念については、第 1部で詳細に検討を加えたが、それを踏まえて、

ここでは、 Lovelockand Wright (1999)およびLovelockand Wirtz (2011)を参照しつつ、サービ

ス・エンカウンターの時間的経過について考察を加えることにする。 Lovelockand Wirtz (2011)は、

サービス消費の 3段階モデルを提示している。サービス消費は、購買前、サービス・エンカウン

ター、それに購買後という 3つの主要なステージに分割される。購買前段階には、①ニーズの認識、

②情報探索③代替案評価、④購買意思決定という 4つの段階が含まれている。サービス・エンカウ

ンター・ステージでは、顧客がそのサービスを選定し、経験し、消費する。購買後ステージは、サー

ビス・パフォーマンスの評価であり、それにより、また同じサービス企業から購買したいあるいは友

達に推奨したいなどの将来の意図が決定される。

(1)購買前ステージ

サービスは、有形財と比較するとリスクが大きい場合が多い。なぜなら、サービスの場合は、探索

属性よりも経験属性が優位だからである。新製品に出会った場合、消費者は、試食、試飲、試着、試

乗など購買前に試してみることができるが、新しいサービスの場合は、試してみることができないこ

とが多い。たとえば、新しいホテルに試しに無料で泊まることはほとんど不可能である。したがっ

て、情報探索が重要となる。すでに、当該サービスを消費した経験のある友人や知人の話は貴重な情

報となる。

-45-

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周知のように、購買状況の違いから、 Howardand Sheth (1969)は、購買行動を 3つに分類してい

る。すなわち、包括的問題解決 (extendedproblem solving)、限定的問題解決 (limitedproblem

solving)、常軌的反応行動 (routinizedresponse behavior)である。

まず、包括的問題解決であるが、これは、当該製品あるいはサービスの階層の購買経験が全くな

く、知識や選択基準を有していない場合である。したがって、当該製品あるいはサービスについての

情報を収集し、、選択の基準を作り上げなければならない。遺産相続に際して初めて弁護士を雇う場合

などがこれに当てはまるかもしれない。 Copeland(1924) の商品分類では、専門品 (specialty

goods) に該当する。そして、顧客は購買後も評価が困難な場合が多く、信用属性が優位といえる。

たとえば、弁護士の提供してくれたサービスや外科医の提供してくれたサービスを評価するのは困難

である。つまり、プロフェショナル・サービスというカテゴリーがこれに該当すると考えられる。

次に、限定的問題解決は、何度か購買経験があり、ある程度選択の基準が形成された状況での問題

解決である。 2度目の海外旅行などがその例に当たるであろう。これまでのサービス研究では、この

カテゴリーを扱ったものが多いといえる。商品分類では、買回品 (shoppinggoods)に該当し、経験

属性が優位といえる。

3つ目の常軌的反応行動は、何度も繰り返し購買した経験がある製品やサービスである。商品分類

では、最寄品 (conveniencegoods)に該当し、探索属性が優位といえる。

このように、購買前ステージにおける消費者の行動は、購買状況によって異なることになる。本研究

の対象である道路貨物運輸業者が提供する宅配サービスは、主に常軌的反応行動に対応するであろう。

他方、ホスピタリティ産業が提供するサービスは、主に限定的問題解決に当てはまると考えられる。

(2) サービス・エンカウンター,• ステージ

サービス・エンカウンター・ステージは、サービス・エンカウンターにおける顧客とのコンタク

ト・レベルによって、ハイ・レベルとロー・レベルに大別される。それぞれのレベルのサービスをつ

ぎのように、 Lovelockand Wirtz (2011)では説明されている。

「ハイ・コンタクト・サービスでは、顧客はサービスを提供される間ずっとサービス組織と関わり

合いを持つ。顧客はサービス提供側から直接具体的なサービスを受け、サービス施設を訪れてサービ

スを受ける際には『サービス工場』に入ることになる。モーテルは『宿泊工場』、病院は『治療工

場」、航空機は『旅客輸送工場」、レストランは『食事サービス工場]である。これらの業界では、物

よりも人をサービス対象としていることが多いため''物理的なサービス環境だけではなく、サ-ピ

ス・スタッフとの関わり方も顧客に印象深いものとすることがマーケティング上重要である。(中略)

反対にロー・コンタク'ト・サービスでは、顧客とサ...:..ビス提供側は実際のコンタクトを全くもたない

か、持つとしても稀であり、物的チャネルやオ.ンライン・チャネルを介して直接コンタクトをもつこ

となくサービスが提供される(訳書p.61-2)」

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明治大学社会科学研究所紀要

このように、ホスピタリティ産業と道路貨物運送業とを対比すれば、ホスピタリティ産業のサービ

ス・エンカウンターにおいて、ハイ・コンタクト・サービスが提供され、道路貨物運送業のサービ

ス・エンカウンターにおいては、ロー・コンタクト・サービスが提供されることが分かる。さらに、

ハイ・コンタクト・サービスが提供されるサービス・エンカウンターにおいては、他の顧客もサービ

スのクオリティに影響を与えることが多い。たとえば、高級なレストランで、酔っぱらって大声で話

をする客は、レストランの雰囲気を台無しにしてしまう。それと比較すると、道路貨物運送業のサー

ビス・エンカウンターでは他の顧客の影響はほとんどないといえよう。

(3)購買後ステージ

購買後ステージは、サービスの購買プロセスの最終ステージで、顧客はサービス・クオリティにつ

いて「期待したもの」と「実際に受け取ったと知鎚するもの」とを比較して評価し、サービス経験に

ついての満足・不満足を評価する。ホスピタリティ産業では、満足よりも歓喜を目標とされることが

多くなっているが、宅配便では、歓喜という評価はほとんどないといえよう。

以上、'サービス・エンカウンターの時間的な推移を概観した。サービス・エンカウンターのステー

ジ前、ステージ、ステージ後において、ホスピタリティ産業のサービスと道路貨物運輸業のサービス

では、さまざまな点で異なっていることが明らかとなった。特に、サービス従業員はサービス・エン

カウンター・ステージにおいて重要な役割を担っていることが分かる。

特に、ハイ・コンタクト・サービスでは、サービス従業貝の役割は非常に重要性である。アトキン

ソン (2017)によれば、 1泊 5万円のホテルと 20万円のホテルの最大の違いは、海外では、客室や設

備の豪華さだけでなく、スタッフの質とそのスタッフが提供するサービスで、 5つ星などの場合、 1

つの部屋に対して 4名のスタッフが必要と言われている (p.246) という。

他方、ロー・コンタクト・サービスでは、顧客が個々のサービス取引でサービス提供側と接触する

機会は少なく、一度の、「真実の瞬間」で失敗した場合の影響は、ハイ・コンタクト・サービスの場合

よりも深刻なものとなる (Lovelockand Wirtz 2007)。たとえば、ビジネスホテルは、高級な観光ホ

テルに比べて、顧客とサービス従業員の接触は少ないので、サービス提供に失敗した場合はリカバ

リーをする機会も少ないということになる。つまり、ロー・コンタクト・サービスでは、失敗をリカ

バリーする機会が少ないという点で、サービス従業員には大きな負担がかかることになる。

このように、サービス従業員は、ハイ・コンタクト・サービスばかりではく、ロー・コンタクト・

サービスにおいても、重要な役割を担っていることになる。有形財であれば、工場で生産され、流通

過程を経て、消費者が入手してから、消費される。しかし、サービスは、サービス・エンカウンター

において、生産と消費が同時に発生する。したがって、サービス従業員は、工場労働者のような仕事

と小売店における販売員のような仕事を同時に行うことになる。繰り返しになるが、サービス従業員

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第57巻第2号 2019年3月

は、サービス・エンカウンターにおいて、非常に重要な役割を担っているのである。

次に、このサービス・エンカウンターにおける中核となるサービス従業貝を支援する枠組みである

サービス・マーケティング・トライアングルについて検討をしたいと思う。

5. サーピス・マーケティング・トライアングル

Zeithaml et al. (2009)は、有形財のこれまでのマーケティングを包括したサービス・マーケティング

の枠組みとして、サービス・マーケティング・トライアングルを提示している(図表2-2参照)%

企業の経営者から顧客への従来のマーケティングは、エクスターナル・マーケティングと命名され、

その使命は「約束をすること」とされている。他方、経営者から提供者へのマーケティングは、・イン

ターナル・マーケティングと呼ばれ、「約束を実行できるようにすること」が使命となっている。そ

して、提供者と顧客の間のマーケティングは、インタラクティブ・マーケティングと名付けられ、

「約束を守ること」が使命となっている。つまり、経営者が顧客と行った約束をサービス・エンカウ

ンター・ステージにおいてサービス提供者が履行するのがインタラクティブ・マーケティングであ

り、その履行を支援するのがインターナル・マーケティングということになる。

Kotler and Keller (2012) は、「インタラクティブ・マーケティングとは、.顧客にサービスを提供す

る際の従業員のスキルのことである。顧客は提供されるサービスを、技術的品質 3(手術は成功したか)

ばかりでなく、機能的品質 4 (その外科医は気遣いをして信頼感を与えたか)によって評価する

(p.365)」と述べている。

また、 Gronroos(2007)では、「生産と消費のインターフェイスは、買い手と売り手の相互作用や

サービス・エンカウンターに該当し、そこでは真実の瞬間あるいは機会の瞬間が発生する。このイン

タラクティブ・マーケティングの効果は、相互作用するプロセスに発生するので、このマーケティン

グは、 1970年代後半からサービス・マーケティングの文献の中でインタラクティブ・マーケティング

機能と呼ばれてきた(訳書 p.236)」と説明されている。

さらに、浅井 (1989) は、このサービスの提供者と顧客の相互作用をインタラクティブ・マーケ

ティングとは呼ばずに、エンカウンター・マーケティングと呼んで、つぎのようにそのプロセスを説

明している。「エンカウンターにおける接客担当者 (contactpersonnel)の役割は、顧客に対してブ

ループリント 5を「戦術的」に運用することである。すなわち、個々の顧客との人間的接触を通じて、

2 なお、このトライアングルを逆さまにすることの意義を「本当に顧客志向の経営チームであれば、顧客と従業員をと

もに上にくるように、サービス・マーケティング・トライアングルを逆さまにするであろう (p.378)」述べている。つまり、

顧客志向および従業員志向を強調するためには、ピラミッド型ではなく逆ピラミッド型にすべきであるという主張であ

る。言い換えれば、理想的は姿が逆ピラミッドだといえよう。

3 Gronroos (2007)は技術的品質とは結果の面の品質であると規定している。

4 また、 Gronroos(2007)は機能的品質とは過程の面の品質であると規定している。

5 ブループリントとは、フロントステージとバックステージにおける、サービスの本質的な構成要素を岡式的に表現し

たものである。ブループリントを用いることにより、顧客、サーピス提供者、顧客とサービス提供者との相互作用の発

生点、サービス提供者の相互作用の発生点、フロントステージにおける環境、バックステージにおけるプロセスや活動

を明確に識別することができる(フィスク p.86)。

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顧客の期待を確認し、顧客と協力して顧客の期待にこたえるために、ブループリントの内容を調整す

る役割を担うのである。エンカウンターでは、顧客も接客担当者と同様の役割をもつ。すなわち顧客

もまたブループリントのコンセプト(大枠)を理解し、同時に接客担当者の立場や人格を尊重した行

動をとる必要がある。顧客もまたブループリントの戦術的運用者の一人である。エンカウンターで接

客担当者と顧客が積極的な相互協力関係で結ばれると、サービスの成果は両者にとって満足すべきも

のとなる。顧客は期待(目標)通りまたはそれ以上のサービス結果に満足し、接客担当者は『いい仕

事が出来た』と感じてやはり満足感(サービス職務にたいする生き甲斐や充実感)を味わうだろう

(pl64)」と。

ここで注目しい点は、サービス・エンカウンター・ステージにおけるサービス提供者と顧客のコン

タクトのレベルである。すなわち、コンタクトのレベルは、高いのか、それとも低いのかということ

である。このコンタクトのレベルによって、サービス提供者に求められる役割は異なってくることが

予想される。

たとえば、ハイ・コンタクトの状況に該当する高級ホテルのコンシェルジェは、顧客の特別な注文

に対応することが求められている。他方、宅配便の担当者は、ロー・コンタクトの状況での作業であ

り、ルーティン化されているといえよう。また、ハイ・コンタクト・サービスで、企業が顧客と交わ

した約束には、顧客歓喜が含まれることもある。他方、ロー・コンタクト・サービスでは、顧客歓喜

が約束の中に含まれることはほとんどないであろう。さらに、ハイ・コンタクト・サービスでは、顧

客とサービス提供者(従業員)のコンタクトの頻度が高いので、関係性を構築し、サービス提供の失

敗をあとでリカバリーするチャンスもある。他方、ロー・コンタクト・サービスでは、頻度が低いの

で、失敗を取り返す機会は少なく、失敗しないサービス提供を指向するであろう。

このように、顧客のコンタクト・レベルの高低によって、従業員の支援のやり方は変わることにな

るであろう。したがって、サービス・エンカウンター・ステージにおけるサービス提供者と顧客のコ

ンタクトのレベルによって、インターナル・マーケテイングの在り方や進め方も変わる可能性が高い

と考えられる。そこで、次に、インターナル・マーケティングの内容を吟味することにしたい。

サービス・エンカウンターにおけるクオリティについての研究は進んでいるにも関わらず、イン

ターナル・マーケティンクt に関する研究はわずかである。次に、サービス・エンカウンターでのサー

ビス提供へ影響を与えるインターナル・マーケティングについて考察を加えることにしたい。

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図表 2-2:逆転したサーピス・マーケティング・トライアングル

'インタラクティブ・マーケティング

提供者 “約束を守ること" 顧客

インターナル・マーケティング

“約束を実行できるようにすること"

企業

(経営者)

出所: Zeithaml, et al (2009) p.376.

ェクスターナル・マーケティング

“約束をすること”

6. インターナル・マーケティングにおける組織市民行動の意義

6-1. インターナル・マーケティングの 2階層交換モデル

、・Berryet al. (1976)は、初めてインターナル・マーケティングの概念をサービス研究に導入し、次

のように定義した。インターナル・マーケティングとは、当該組織の目的を満足させながら、不可欠

な内部市場(従業貝)のニーズを満たす内部製品(仕事)を利用可能にすることにかかわるものであ

る (p.11)。その後、さまざまなインターナル・マーケティングの定義 6が提示されている。本研究で

は、インターナル・マーケティングとは、標的従業員に対して、動機づけ、権限移譲、役割明確性な

どの手段を有効に行使して、標的従業貝の職務満足と成果を向上させることおよび離職を避けること

を目的とするマーケティング活動である(高橋 2010) という定義に沿って、議論を進めていくことに

する。この定義の特徴は、インターナル・マーケティングのミックス要素を有形財のマーケティング

の4つのミックス要素である製品・価格・チャネル・プロモーションを援用するのではなく、動機づ

け、権限移譲、役割明確性などの構成概念を用いている点にある。また、その目的として、職務満足

と成果の向上だけでなく、離職意図の回避を追加している点にある。

そして、従業員に仕事という製品をマーケティングするというインタ・ーナル・マーケティングの見

立ては誤りであることを指摘した上で、インターナル・マーケティングには 2つの交換が存在してい

6 これまで登場したインターナル・マーケティングの概念については、高橋(2014)の第 1章の第 3節「IM概念の分類と

整理」を参照。

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ることを示す 2階層モデルを提示した。これはサービス・マーケティング・トライアングルのイン

ターナル・マーケティングの部分を拡張したものということができる。

図表 2-3: インターナル・マーケティングの 2階層交換モデル

従業員

インターナル・マーケティング

第2階層の交換

職務満足向上・成果向上・離職回避

賃金

第1階層の交換

労働

出所:高橋(2014),p.178

企業(管理者)

広義のインターナル・マーケティングにおける第 1階層の交換は、企業と従業貝の間の必須の経済

的交換である。従業員は労働を提供して企業から賃金を得るという交換であり、 20世紀初頭にマーケ

ティングが米国に登場する以前から存在した交換である。それに対して、狭義のインターナル・マー

ケティングである第 2階層の交換は、 Berryet al. (1976)がインターナル・マーケティングの概念を

提唱した後に、明示された交換であり、それは経済的交換でなく社会的交換と考えることができる。

Blau (1964) によれば、社会的交換とは、「他者が返すと期待されるところの、典型的に言えば実際

に返すところの返礼によって動機づけられる諸個人の自発的行為のことである(訳書 p.82)。Organ

et al (2006) は、つぎのように説明している。「雇用関係においては、個人はある期間にわたって基

本給や便益、そして何らかの特権に関する契約報酬を受け取る代わりにある義務を果たすという契約

を結んでいる。しかし、組織の参加者が他者と相互関係を持ち始めると、社会的交換の様相も発展し

てくるのである。従業員が他の同僚や顧客、それに特に監督者や管理者と持つ相互関係は、経済的交

換と社会的交換が混ざったような形で発達する。組織の参加者は、契約上の特定の誘引を得るために

ある種の貢献を行うように命じられているのを認識している。もし、与えたれる誘引の中に契約上の

約束以上のものがあると個人が評価した場合には、その当人は、扉用関係で義務付けられた貢献以上

のことを何か行うことで『借りを返さなければならないという』という義務を感じることになるであ

ろう (訳書 p.63)」と。

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つまり、企業(管理者)が雇用関係における経済的交換以上の価値ある何か(たとえば権限移譲さ

れ仕事がしやすくなったこと)を提供してもらっていると従業員が認識して、それに対して強制的で

はなく自発的に成果が上がるように努力するという行為をインターナル・マーケティング現象と捉え

ている。

すなわち、経済的交換である第 1階層の交換は、職務記述書 (jobdescription) によって事前に決

定された役割を労働者が遂行することによって、所定の賃金を得るというプロセスになるのが通常で

あろう。それはいわゆる役割内行動といえる。これに対して、第 2階層の交換は、役割内行動という

よりも Katzand Kahn (1966)の役割外行動 (extra-rolebehavior)に該当する部分が多いといえよう。

Borman and :Motowidlo (1993)の分類によれば、第 1階層の交換は課業業績 (taskperformance) に、

第2階層の交換は文脈的業績 (contextualperform~nce) にかかわるものであるといえる。課業業績は

業務の中核的な行動(たとえばウエイターが注文をとる)、文脈的業績は集団の協力や対人支援の雰

囲気を維持する貢献行動(たとえば休憩時間にもかかわらず新米ウエイターの仕事を手伝ってあげ

る)と定義されている。

つまり、第2階層の交換は、役割外行動や文脈的業績に関連が深いと考えられる。これらを包括的

にとらえた概念に組織市民行動 7がある。これは主に役割外行動を対象にしているが、役割内行動を排

除してはいない。本研究の立場に近い理論といえる。そこで、次の節では、この組織市民行動

(Organizational Citizenship Behavior: OCB) を手掛かりに、第 2階層の交換を明らかにしていくこと

とする。

6-2. 組織市民行動

組織市民行動を Organ,et al. (2006) は、「自由裁量的で、公式的な報酬体系では直接的ないし明示的

には認識されないものであるが、それが集積することで組織の効率的および有効的機能を促進する個人

的行動(訳書 p.4)」と定義 8している。そして、組織市民行動を測定するために。弁別可能な 5つの

次元を提示している。それらは、利他主義、厚意性、スポーツマンシップ、誠実性、市民道徳であ

る。そして、それぞれを次のように定義している。

①利他主義 (altruism) は、多くの場合、同僚とか、時には上司や顧客のような特定の個人に対して

行われる組織市民行動である(訳書p,20)。

②厚意性 (courtesy) は、問題発生の防止に役立つ行動から成り立っている。甚本的な考え方として

は、他者の仕事をより困難にしてしまう活動を回避したり、他者に負担を強いるときには、鳴彼らの

7 他にもこれに類似した概念に、 Briefand Motowidlo(l986)が提唱した向社会的組織行動(prosocialorganizational behavior)がある。それは、組織の構成員によって彼もしくは彼女が職務遂行するうえで相互作用する個人、集団、組織

に対して、対象となった個人、集団、あるいは組織の福祉(welfare)を促進することを意図した行動と定義されている。

8 また、「厳密な職務要件ないし職務で実際に義務付けられているといわれる行動を超えた貢献行動(訳書 p.45)」とも定

義されている。

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対応できるように十分な予告をしたりすることである(訳書 p.27)。

③ スポーツマンシップは、例えば、文旬を言わないというように、人々が何かをしないと決めること

にかかわる組織市民行動である(訳書 p.25)。

④ 誠実性 (conscientiousness) とは、例えば仕事や会議の際の時間厳守などの行動のように、職場の

協力体制を築きあげるために個々人に課せられた制約に従順であることを指す(訳書p.21)。

⑤市民道徳 (civicvirtue) とは、組織の政治的あるいは統治的過程に対して責任ある建設的な参画

を行う姿勢を表す(訳書 p.26)。

この組織市民行動と組織の有効性について、 Organ,et al. (2006)は、「組織市民行動は、顧客満足、

顧客維持、ブランド・エクイティ、革新性、ベスト・プラクティス、市場に製品を出すまでの時間、

製品やサービスの品質、そして従業員の退職や残存度といった組織の成功を示すほかの重要な指標に

も影響を与える可能性がある。したがって、組織市民行動と組織の有効性を示すと考えられるこれらの

指標との間の関係についてさらに実証研究を行うことが必要である (訳書p.253)」と指摘している。

組織市民行動を扱った実証研究は非常に多いが、その中からサービス・マーケティングにかかわり

があると考えられる従業員の組織市民行動に関する 6つの先行研究を次に取り上げることにする。こ

れらを検討したうえで、本研究の分析枠組みと仮説を設定する作業に入りたいと思う

7. 先行研究の整理 9

7 -1. Netemeyer, et. al (1997)の研究

Netemeyer, et al. (1997)は、人的販売の領域で、組織市民行動に影響を与えるであろう先行要因

に関する研究を行った。その分析枠組みは、図表2-4に示されているとおりである。基本的には、

職務満足が高まれば、組織市民行動が促進されるという枠組みになっている。

まず、調査 1では、米国の南東部で、企業向けおよび個人向けの携帯電話を販売している販売員

115名を対象として実施された。有効回答率は、 79%(91名)で、年齢の中央値は 29オ、所得の中央

値は 2万ドル以上 3万ドル未満、 51名が女性、 52名が大卒以上、当該組織への所属期間の平均値は

1.89年、報酬は少額の基本給プラス歩合であった。分析の結果として、報酬配分の公平性から職務満

足へのパスと職務満足から組織市民行動へのパスは統計的に有意でなかったがそれ以外のパスは 1%

水準で統計的に有意であったと報告されている。

次に、調壺2では、同じ地域で、不動産販売業者700名を対象として実施された。有効回答率は

26% (182名)で、年齢の中央値は 48オ、所得の中央値は 3万ドル以上 4万ドル未満、 142名が女性、

86名が大卒以上、当該組織への所属期間の平均値は 8.41年、報酬は歩合であった。分析の結果とし

9 Netemeyer, et al(l997)、Footeand Tang(2008)、それに Belland Menguc(2002)の3つの研究に関する整理は、高橋

(2016). pp.110-112に加筆・修正を行ったものである。

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て、リーダーシップ支援から職務満足へのパスを除くすべてのパスは 1%水準で統計的に有意であっ

たと報告されている。

図表 2-4:Netemeyer. et al. (1997)の分析枠組み

出所: Netemeyer-, et al.(1997),p.87.

7 -2. Foote and Tang (2008)の研究

Foote and Tang (2008)の分析枠組みも職務満足が高まれば組織市民行動は促進されると想定して

いる。ただし、職務満足と組織市民行動の関係に影響を与える概念として、チーム・コミットメント

を導入している。その上で、次の 3 つの仮説を設定した(図表 2~ー 5参照)。

仮説 1: 自己管理型 (self-directed)チーム構成貝の職務満足は、組織市民行動と有意に関係づけら

れる

仮説 2:自己管理型チームヘのチーム・コミットメントは、組織市民行動ヘプラスの影響を与える

仮説 3:自己管理型チームの職務満足と組織市民行動の間のプラスの関係は、チーム・コミットメ

ントが高いときにはその関係が強くなるように、チーム・コミットメントによって干渉さ

れる

調査対象は、米国の産業財を生産する 3つの地域(ペンシルベニアの都市部、ケンタッキーの田園

地帯、ミシシッピーの海岸沿い)の工場の正社員 368名で、調査に参加したのは 242名であった。被

験者の属性としては 11%が女性で、 48.3%が40-49オで、 79.5%が大学中退もしくは高卒以下で、

90.1%が白人であった。自律的なチームとして運営されているという特徴があった。多変量解析の分

析結果から、いずれの仮説も採択されたと報告されている。

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図表 2-5 : Foote and Tang (2008)の分析枠組み

出所:Foote and Tang (2008). p.935.

7 -3. Bell and Menguc (2002)の研究

Bell and Menguc (2002)の分析枠組みは、 5つの構成概念から成り立っている。上述の 2つの研究

と異なり、職務満足ではなく、知覚された組織支援 (perceivedorganizational support) 10と組織同一

化 (organizationalidentification) 11を先行する要因としている。また、干渉変数として職務自律性を

設定している。さらに、組織市民行動が顧客の知覚サービス品質を高めるという図式を提示している

(図表2-6参照)。その上で、それらの関係を次の 8つの仮説で説明している。

仮説 1: 接客従業員の組織市民行動(利他主義、厚意性、スポーツマンシップ、誠実性、市民道徳

で定義される)と顧客の知覚サービス品質の間には、直接的なプラスの関係が存在する

仮説 2a:知覚された組織支援と組織市民行動の間には、直接的なプラスの関係が存在する

仮説2b:組織市民行動は、知覚された組織支援と顧客の知覚品質の関係を媒介する

仮説3a:組織同一化と組織市民行動の間には、直接的なプラスの関係が存在する

仮説3b:組織市民行動は、組織同一化と顧客の知覚サービス品質の関係を媒介する

仮説4:知覚された組織支援と組織同一化との間にはプラスの関係が存在する

仮説5a:知覚された組織支援と利他主義、厚意性、および市民道徳との間のプラスの関係は、職務

自律性が高い場合の方が低い場合よりも強くなる(スポーツマンシップと誠実性に対して

の干渉効果はないと予測している)

仮説 5b:組織一体化と利他主義、厚意性、および市民道徳との間のプラスの関係は、職務自律性が

高い場合の方が低い場合よりも強くなる(スポーツマンシップと誠実性に対しての干渉

(moderating)効果はないと予測している)

10 それは当該組織が従業員の福利に対する従業員の全般的な貢献や気配りを評価する程度に関する全般的な矧覚と定義されている (Eisenberger,et al.1990)。

11 それは当該組織の成功や失敗を自分のこととして知覚する一体感と定義されている (Maeland Ashforth 1992)。

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第57巻第2号 2019年3月

調査対象は、米国北西部の大規模な 8つの支店を有する保険代理店の 276名の販売担当者とそのマ

ネジャーで、有効回答は 228票であった。また、 1140名の顧客への調査を行い、 212票の従業員に関

する顧客の回答を得ている。

多変醤解析の分析結果から、仮説 2を除き、他の仮説は採択されたと報告されている。仮説 2が採

択されなかった理由として、次の 2点を指摘している。 1つは、組織支援の特性に起因するというこ

とである。組織支援は社会/感情的支援と職業関連支援の 2つの次元を有しているが、組織市民行動

は社会/感情的支援よりも職業関連支援に強い関係を有しているといわれている。今回の尺度が社会/

感情的支援の次元に重きを置いたものになってしまったことが原因と考えられると記述している。も

う1つの理由は、組織支援の知覚に関して十分な分散が存在しなかったためであろうと述べている。

図表 2-6 : Bell and Menguc (2002)の分析枠組み

出所: Bell and Menguc (2002), p.133.

7 -4. Bettencourt (2004)の研究

Bettencourt (2004)の分析枠組みは、 6つの構成概念から成り立っている。 Bettencourt(2004)は、

組織市民行動に変化志向型という接頭語をつけ、小売の領域では、職務、店舗、あるいは組織という

領域内での仕事のやり方、方針、手順に関する組織上の機能的な変化を明らかにして実行するため

に、各々の小売の境界連絡 (boundary-spanning)従業員によって行われる建設的な役割外努力であ

る、という Morrisonand Phelps (1999)の定義を採用している。この変化志向型組織市民行動に正

の影響を与える 3つの構成概念がある。これまでの研究でも中核的な構成概念として設定されてきた

組織コミットメントに加えて、学習目標志向とリーダー・メンバー交換クオリティがある。学習目標

志向は、新しい技能を獲得すること、新しい状況を精通すること、および新しい経験から学習するこ

とによって、自らを開発しようとする願望である・(VandeWalle 1997, 2001) と定義され、リーダー・

メンバー交換クオリティは、従業員とその直属のマネジャーとの間の交換的関係性に関する知覚され

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たクオリティを反映していると規定されている。さらに、リーダー・メンバー交換クオリティと組織

コミットメントに正の影響を与える構成概念として、条件適応的報酬型と中核的変革型という 2つの

タイプのリーダーシップが提示されている。前者は交換型リーダーシップの 1つの形態であり、そこ

では、マネジャーは、相対的に狭く定義された課業活動に従業員の注意と努力を向けさせようとす

る。そして、交換型リーダーシップの 1つの形態として、条件適応的行動は、従業員の役割内成果の

期待を明確にし、役割曖昧性を減少させようとするものである。したがって、条件適応的行動は、'役

割内職務の期待に関連した課業に焦点がある競争的行動へと従業員の努力を向けるようとするもので

ある。他方、変革型リーダーシップというものは、補足的な方法で、マネジャーは、学習と持続的な

改善のようなシステムとグループの目標により高い優先順位を置くために、差し迫った役割期待を超

えてフォロワーの価値、目標、それに願望を高めようとするであろう。 MacKenzie,et al. (2001)に

よれば、中核的変革型リーダーシップには、ビジョンを明確に表現すること、適切な役割行動をモデ

リングすること、それにグループの目標を受け入れることを促進したりすること、が含まれる。

そして、これらの構成概念の関係を図表2-7のように示し、次のような仮説を設定している。

仮説 1: 組織コミットメントは、変化志向型組織市民行動にプラスの影響を有している

仮説 2:リーダー・メンバー交換クオリティは、変化志向型組織市民行動にプラスの影響を有して

いる

仮説 3:リーダー・メンバー交換クオリティは、組織コミットメントにプラスの影響を有している

仮説4:条件適応的報酬型リーダーシップは、リーダー・メンバー交換クオリティにプラスの影響

を有している

仮説5:中核的変革型リーダーシップは、リーダー・メンバー交換クオリティにプラスの影響を有

している

仮説 6:中核的変革型リーダーシップは、組織コミットメントにプラスの影響を有している

仮説 7:学習目標志向は、変化志向型組織市民行動にプラスの影響を有している

この研究では、データは、 183名のフルタイムの小売業の従業員から収集された。仮説 1を除いて、

残りの 6つの仮説は採択された。この研究結果で注目すべき点は、仮説 1(組織コミットメントは、

変化志向型組織市民行動に正の影響を有している)が、採択されなかったことである。ただし、学習

目標志向を高い水準と低い水準に分けて分析すると、低い水準の場合には、組織コミットメントは、

変化志向型組織市民行動に正の影響が統計的に有意であると報告されている。

-57-

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第57巻第2号 2019年3月

図表 2-7 : Bettencourt (2004)の分析枠組み

出所:Bettencourt(2004),p.168一部省略

7 -5. Autry et al. (2008)の研究

前述の Bettencourt(2004) は、組織市民行動を変化志向型組織市民行動として、分析を行ったが、

Autry et al. (2008)は、組織市民行動を組織間市民行動 (IIlterorganizationalCitizenship Behavior: ICB)

に拡張して研究を行った。この研究では、組織間市民行動の先行変数ではなく、成果変数との関係に

焦点を当てている。組織間市民行動とは、「一般的には境界担当者によって自由裁量で実行される企

業間の行動的戦術で、直接的でないこともあるし、公式の協定で明白なこともあるが、全体として、

当該サプライ・チェーンの効果的な機能を促進するもの (p.54)」であると定義をした。そして、 ICB

を測定するたに、組織間寛容 (tolerance)12、組織間忠誠 (loyalty)13、組織間利他主義 (altruism)14、そ

れに、組織間遵守 15(compliance) という 4つの構成概念を用いている。その上で、次の 6つの仮説を

設定した。

仮説 1: 組織間寛容は、組織間の交換に参加するそれぞれの企業の (a) 市場成果と (b)財務成果

を向上させる

12 Autry et al. (2008) によれば、これは、 OCB でスポーツマンシップ行動と同じカテゴリーであり、• これらの ICBは、

ビジネス上の関係性における不便さ (inconveniences)を進んで受け入れることを反映したものである。不便さの例とし

ては、遂行の遅れ、外部からの避けられない影響から生じたことに対する不当な要求、および/または、他の企業と協

力することに関連した不便さがある。重要なことは、それが、責任のある当該企業に対して、返報なしに、または‘記

録を付けておくこと‘という行為なにし、あるいは将来に高圧的な行動をとるようなことを匂わせたりせずに、いそのよ

うな不便さを受け入れることを含んでいる (p.57)。

13 Autry et al.(2008)は、これを全体の利益のために自社の利益を進んで犠牲にするように、パートナー企業およびサプ

ライ・チェーン全体に対する忠誠 (allegiance) を示す行動と定義している (p.~7) 。14 Autry et al (2008)によれば、この行動は、ビジネス上の問題を解決する際に、または解決するのに必要な知識や技能

を開発する際に、パートナー企業と支援するための当該企業の献身的な努力であると定義されている (p.57)。

15 Autry et al.(2008)は、この行動を、①サプライ・チェーンのパートナーたちのルール、政策、および/またはビジネ

ス過程の標準への当該企業の志向を反映したものであり、当該サプライ・チェーンに内在する行動規範を支援する方向

に向けられた暗示的行動であると説明されている (p.57)。

-58-

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明治大学社会科学研究所紀要

仮説 2:組織間忠誠は、組織間の交換に参加するそれぞれの企業の (a)市場成果と (b)財務成果

を向上させる

仮説 3:組織間利他主義は、組織間の交換に参加するそれぞれの企業の (a)市場成果と (b)財務

成果を向上させる

仮説4:組織間遵守は、組織間の交換に参加するそれぞれの企業の (a)市場成果と (b)財務成果

を向上させる

仮説 5:ICB且a)組織間利他主義; (b)組織間寛容; (c)組織間忠誠 (d)組織間遵守〕が実行さ

れるにつれて、焦点となる関係性に対する関係性の質は向上する

仮説 6:関係性の質は、 ・(a)市場成果と (b)財務成果にプラスの影響を与える

まず、第 1回目のデータ収集は、尺度の開発と修正のために実施され、 800名のビジネスオーナー

から、 195名から有効回答を得られた。次に、仮説検証のために第 2回目のデータ収集が行われた。

調査対象は小売業における仕入・購買担当者 1429名で、 298名から有効回答を得て分析が行われた。

仮説検証の結果は、仮説lb(組織間寛容は組織間の交換に参加するそれぞれの企業の財務成果を向

上させるであろう)と仮説5b(組織間寛容が実行されるにつれて、焦点となる関係性に対する関係性

の質は向上する)を除いて、採択されたと報告している。その上で、 2つの仮説が棄却されたことに

関して、組織間の交換を向上させるための効果的な共生メカニズムとしての組織間寛容行動のもっと

もらしさについての疑問が生じる (p.66) と指摘し、「組織間寛容が他の企業の不適当さを克服するた

めの能動的な行動というよりは受動的な行動であることが原因であろう。この受動的な行動は当該企

業の関係性が互恵的な信頼とコミットメントを構築すること、および/または、最大限の財務成果を

手に入れるために資源を最適化すること、を妨げるのかもしれない (p.68)」と述べている。

7-6. Farzaneh, et al (2014)の研究

Farzaneh, et al (2014)の分析枠組みは、 5つの構成概念から成り立っている。この研究では、組織

コミットメントに影響を与える構成概念として 2つの適合、すなわち、個人一組織適合と個人一職務

適合が提示され、いずれも知覚されたものと規定されている。個人一組織適合は、全体としてのその

個人とその組織の目標との間の適合とされ、個人ー職務適合は、その個人と特定の職務と直接に関連

する必要条件との適合と規定されている。そして、組織コミットメントから組織市民行動への媒介変

数として、心理的権限移譲が設定されている。心理的権限移譲とは、増大した内在的課業動機づけで

あり、自らの職務上の役割に対する個人の志向を反映しており、有意義、能力、自己決定、インパク

トという 4つの認識によって表わされる (Thomasand Velthouse 1990) という定義に立脚している。

仮説 1: 知覚された個人一組織適合は、従業員の組織コミットメントにプラスの影響を与えるだろう

仮説2:知覚された個人ー職務適合は、従業員の組織コミットメントにプラスの影響を与えるだろう

-59-

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第57巻第2号 2019年3月

仮説 3:従業員の組織コミットメントは、組織市民行動にプラスの影響を与えるだろう

仮説4:組織コミットメントの媒介効果を通して、知覚された個人一組織適合は、組織市民行動を

増進させる

仮説 5:組織コミットメントの媒介効果を通して、知覚された個人ー職務適合は、組織市民行動を

増進する

仮説6:心理的権限移譲は、高い場合はその関係を強め、低い場合は弱めるというように、コミッ

トメントと組織市民行動との関係を媒介する

この調査では、データは、イランのガソリン輸送会社で働く従業員から収集された。全800名から

520名が無作為に抽出され、 412名から回答を得た。男性が約 7割で、女性が約 3割で、年齢の平均

は41.36オで、職務経験の平均は 14.06年であった。

図表8に示されているようにいずれの仮説も採択されたと報告されている

図表 2-8: Farzaneh, et al (2014)の分析枠組み

知覚された個人ー組織

適含 • 1 "'-0.28**

知覚された個人ー職務

適合

出所:Farzaneh, et al.(2014),p.674.

7-7. 高橋 (2016)の研究

心理的権限移譲

組織コミットメント0.51**

High 0.683 Low 0.618

組織市民行動

高橋 (2016) の分析枠組みは、 Netemeyer,et al. (1997)、Footeand Tang (2008)、それに Bell

and Menguc (2002)の研究を参考に、構築された。組織市民行動に影響を及ぽすと想定される先行

要因としては、職務満足、組織コミットメント、組織同一化、それに権限移譲が設定され、組織市民

行動が影響を与える要因として、成果というプラスの側面だけでなく離職意図というマイナスの影響

を減少させるという観点が導入されている。

そして、この分析枠組みを用いて、実証的な分析を行うために、以下の 6つの仮説が設定された。

仮説 1: 権限移譲は組織市民行動にプラスの影響を与える

仮説 2:組織コミットメントは組織市民行動にプラスの影響を与える

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明治大学社会科学研究所紀要

仮説 3:組織同一化は組織市民行動にプラスの影響を与える

仮説 4:職務満足は組織市民行動にプラスの影響を与える

仮説 5:組織市民行動は成果にプラスの影響を与える

仮説6:組織市民行動は離職意図にマイナスの影響を与える

データは宿泊業に従事する従業員を対象として、インターネット調査で収集されている。実施時期

は、 2014年8月で、回収数は 500であった。回答者の人口動態的属性は以下のとおりである。性別に

ついては、男性=58.6%で女性=41.4%である。婚姻については、未婚=40.6%で既婚=59.4%であ

る。年代の分布は、 10代 =0.2%,20代 =6.6%,30代 =21.6%,40代 =35.4%,50代 =26.6%,60代以上

=9.6%である。地域については、北海道・東北 =11.4%,関東 =37.6%,北陸・甲信越 =6.6%,東海

=10.4%, 近畿 =17.6%,中国 =4.4%,四国 =2.6%,九州・沖縄 =9.4%である。

図表 2-9:高橋 (2016)の分析枠組みと分析結果

IM-OCBの基本モデル

0.109•

N==500

、-0.201*** ヽヽヽ、こ

***=p(0.001.**=p(0.01 .*=p(0.05 実線はプラスの影響、破線はマイナスの影響を表す

分析結果は図表9に示されているように、仮説2以外は採択された。

8. 分析枠組みと仮説

すでに検討を加えたように、サービス・エンカウンターという概念の有効性が提唱されたホスピタ

-61-

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第57巻第2号 2019年3月

リティ産業の接客担当者が提供するサービスと道路貨物運送業者の提供するサービスは、それぞれ異

なった特徴を有している。そこで、高橋 (2016)の研究において、宿泊業で一定の有効性が確認され

たIM-OCBモデルが、サービス業として特徴の異なる、特に、サービス・エンカウンターにおける

サービス提供者に求められる役割や機能が異なる(たとえば、コンタクト・レベルが異なる)道路貨

物運送業者においても有効かどうかを検証することを第 1の調査の目的としたい。

次に、第 2の調査目的として、 IM-OCBモデルに構成概念としての役割明確性を追加し、権限移譲

が限定されている道路貨物運送業者で、サービス・エンカウンターにおける OCBに影響を諸要素に

ついて影響力の強さを検討することを設定したい。役割明確性を追加する理由は、高橋 (2014) にお

いて、役割明確性はインターナル・マーケティングミックスの有効な要素の 1つであることが経験的

に確証されているからである。また、道路貨物運送業は宿泊業に比べて、権限移譲される余地が限ら

れており、担当者の自由裁量が小さいという特徴があると想定されるからである。つまり、サービ

ス・エンカウンターにおいて、道路貨物運送業者は、マニュアル通りに、サービス・デリバリーをす

ることが求められているので、役割明確性が重要であると考えられるからである。 .

そこで、本研究の分析枠組みでは、高橋 (2016) における次の 6つの仮説に、 7つ目の仮説を加え

て、検証を行うことにする。

仮説 1: 権限移譲は組織市民行動にプラスの影響を与える

仮説2:組織コミットメントは組織市民行動にプラスの影響を与える

仮説 3:組織同一化は組織市民行動にプラスの影響を与える

仮説4:職務満足は組織市民行動にプラスの影響を与える

仮説 5:組織市民行動は成果にプラスの影響を与える

仮説6:組織市民行動は離職意図にマイナスの影響を与える

仮説 7:役割明確性は、組織市民行動にプラスの影響を与える

9. 調査

9-1. サンプルとデータ収集

調査ではインターネット調査"を利用した。対象は道路貨物運送業者である。実施時期は、 2016年

9月で、回収数は 546であった。回答者の人口動態的属性は以下のとおりである。性別については、

16 標本抽出の代表性という観点では問題を抱えているが、調査上のメリットから利用した(井上2007)。郵送法と比較す

ると、予算が軽減でき、調査対象を絞り込みやすく、短期間で実施できるなどのメリットからインターネット調査を利

用した。なお、小川(2009)は、「統計的なサンプリングを議論することは、もはや現実的な意味を失っている。それよ

りもネット調査による統計的な標本バイアスを修正する方法を探索することがリサーチの課題としては大切になってき

ている」と指摘している。

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明治大学社会科学研究所紀要

男性=83%で女性=17%である。婚姻については、未婚=50%で既婚=50%である。年代の分布

は、 10代 =0.2%,20代 =4.0%,30代 =15.0%,40代 =41.0%,50代 =30%,60代以上 =9.7%である。宿泊

業のサンプルと比較すると男性中心の職場であることがわかる。また、被験者の勤務先は、宅配便事

業者が85名 (15.6%)、郵便事業者が 127名 (23.3%)、引越事業者が4名 (0.7%)、個人事業主が 55

名 (10.1%)、 トラック運送業が275名 (50.4%)であった。

9-2. 構成概念の信頼性と相関関係

構成概念の信頼性については、信頼性分析を行い、クロンバック a信頼係数は以下のとおりの結果

となった。各数値から判断して、一定の信頼性を確保しているといえよう。また、構成概念間の相関

は図表2-10のとおりである。

なお、本調査では、すべての質問項目について、個人から回答を得ている。したがって、共通手法

バイアスが生じる可能性がある。そこで、単一因子テストを実施して、確認を行った (Podsakoffand

Organ 1986)。固有値 l以上を因子抽出の基準として、探索的因子分析を行った。その結果は、 8つ

の因子が抽出され、第 1因子の寄与率は、 30.991%であった。ゆえに、共通手法バイアスは問題とな

らないことが明らかとなった。

図表 2-10:構成概念間の相関

項目数 a係数 権限移譲組織コミッ

組織同一化 職務満足組織市民

成果 離職意図トメント 行動

権限移譲 6 0.923 組織コミットメント 3 0.934 0.476 組織同一化 6 0.853 0.471 0.694

I職務満足 8 0.890 0.554 0.564 0.369 組織市民行動 12 0.871 0.565 0.427 0.479 0.411 成果 6 0.919 0.331 0.250 0.281 0.241 0.586 離職意図 4 0.783 -0.204 -0.154 -0.173 -0.149 -0.361 -0.212

役割明確性 6 , 0.900 0.397 0.311 0.320 0.281 0.582 0.341 -0.210

9-3. 分析結果

共分散構造分析を用いて前述の仮説の検証を行った。まず、仮説モデルの適合度は、次のように

なった。カイ自乗=3285.51、自由度=1182、有意確率=0.000となった。カイ自乗検定からは、モデ

ルは棄却されることになる。しかし、モデルが複雑である場合や標本数が多い場合は棄却されること

があり"、今回もこれに該当すると考えられる。そこで、次の適合度指標を用いて仮説モデルの適合を

見ることにする 18。GFI19=0.798(0.9以上で適合、ただし変数が多い場合は越えなくてもよい)、 AGF秤=0.77人

17 豊田(2003)および朝倉他(2005)を参照。

18 豊田(2003)を参照。

19 モデルがデータの分散共分散行列をどの程度再現できているかを指標化したもの(豊田 2003)。20 GFIはその定義上、推定させる母数が多い(自由度が小さい)と無条件に値が大きくなる傾向があるので、このバイア

スを修正するために GFIに対して自由度による補正を加えたもの(豊田 2003)。

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第57巻第2号 2019年3月

RMSEA21=0.057 (0.05以下⇒適合; 0.10以上⇒不適)、 NFI22=0.840(0.0 ~ 1.0の値をとり 1.0に近い

ほど適合がよい)、 RMR23=0.192(0.0に近いほど適合度がよい)、 CFI24=0.891(0.0 ~ 1.0の値をとり 1.0

に近いほど適合がよい)という値になった。モデル適合度は高いとはいえないが許容できる範囲とい

えよう。

次に、仮説の検証結果を図示したものが、図表2-11である。仮説 lは、宿泊業の場合と同様に、

採択された。仮説 2については、宿泊業の場合と同様に、統計的に有意なプラスの関係は確認されな

かった。この結果は、 Bettencourt(2004)の研究と一致するが、 Farzaneh,et al (2014)の研究結果

とは異なるものとなっている。仮説 3は、採択された。これは宿泊業の分析結果およびBelland

Menguc (2002)の研究結果と一致している。仮説4についは、採択されなかった。弱いプラスの関

係にはなっているが統計的には有意となっていない。この結果は、宿泊業の分析結果、 Netemeyer.

et. al (1997)の研究結果、それに Footeand Tang (2008)の研究結果と異なるものとなった。仮説 5

については、宿泊業の分析結果と同様に、プラスの影響が統計的に有意になった。これは、 Autryet

al. (2008)の研究結果と一致するものである。仮説6も宿泊業の分析結果と同様に、マイナスの影響

が統計的に有意となった。この仮説は、先行研究には、該当するものがなく、オリジナルなものであ

る。最後に、今回の調究で追加された仮説7は、採択された。先行要因の中でも最も高い標準化推定

値 (0.389,p.<0.001) となっている。

仮説 7が採択されたことから、権限移譲および組織同一化ばかりではく、役割明確性も組織市民行

動を促すことが明らかとなった。この採択された仮説 7から、次の点をしたい。すなわち、サービス

提供者はサービス・エンカウンターにおいて役割が明確であるからこそ、役割外行動(または組織市

民行動)をしていることを顕示できる機会を手にいれ・ることができるという点である。たとえば、自

分の役割ではない「返品を回収するという行動」を同僚の代わりにやってあげたり、顧客の代わりに

やってあげたりすることは、同僚や顧客に、社会的交換の文脈で言えば、一種の「貸し」を作ること

ができるのである。役割が曖昧では、役割内の行動なのか、それとも役割外の行動なのかは、不明と

なってしまうことになる。つまり、役割が明確でなければ、他者に役割外行動かどうかわからず、

「貸し」をつくることはできない。それでは、役割外の行動をしようとするモチベーションが落ちて

しまうことが予測される

もちろん、「貸し」を作るためだけに、役割外行動をするのとは限らない。確かに、だれも見てい

ないところでも落ちているごみを拾って、ごみ箱に入れる人はいるが、すべての人がそうするとは限

らない。他者から評価されることがインセンテイプとなって、人が見ている前では、ごみを拾ってゴ

ミ箱に入れる人も少なからずいるはずである。役割外の行動をとったことが明白で、他者の評価、満

21 1 I'! 由度あたりの乖離度の大きさを評価する指標(豊田 2003)。22 分析モデルの乖離度が独立モデルの乖離度から何%減少したかを示す指標(豊田 2003)。23 GFIとは逆に、モデルによって説明できなかったデータの分散の大きさを指標化したもの(豊田 2003)。24 独立モデルと分析モデル双方の自由度を考慮した上で乖離度の比較を行う指標(豊田 2003)。

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明治大学社会科学研究所紀要

足感、あるいは達成感を得ることができる人は存在するであろう。利他的な行動をとったという達成

感や満足感が得られないと役割外行動をしない人もいるはずである。また、施しをしているという優

越感を欲する人もいるかもしれない。真に利他的な行動を探求する人でない限りは、役割が明確でな

ければ、あえて役割外行動をしようとは思わないのではないだろうか。このように、役割明確性は組

織市民行動の前提になっていると解釈できるかもしれない。

さて、これまでの道路貨物運送業のデータに基づく仮説検証結果をまとめると、以下のようになる。

① IM-OCBモデルは、道路貨物運送業において、一定の有効性を有していることが明らかとなったこと。

②組織コミットメントと職務満足は、組織市民行動の先行要囚としては、統計的に有意なプラスの影

響を認めることはできなかったこと。これらについては、別のサービス業のデータを用いた追加的

な調査が必要であろう。

③権限移譲、組織同一化、それに役割明確性は、道路貨物運送業者の組織市民行動を起こさせ、結果

として成果をもたらし、当該連送業者はその企業に留まろうとするという良い循環を生むことが明

らかとなったこと。つまり、役割外行動の 1つである組織市民行動は、企業にとっても成果を生む

ばかりでなく、そのような行動をとる担当者を組織に留まらせるというわけである。

図表 2-11:調査の分析結果

N=546

0.275虹*

~---\

役割明確性

一一’

0.389 ***

***=p<0.001,**=p<0.01 ,*=p<0.05

実線はプラスの影響、破線はマイナスの影響を表す

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第57巻第2号 2019年3月

10. 第 2部のまとめと残された課題

第2部では、まず、サービス業としての道路貨物運送業の特徴を宿泊業と比較しながら、整理し、

サービス・エンカウンターの 3つのステージを概観した。次に、サービス・マーケティング・トライ

アングルにおけるインタラクテイプ・マーケティングが実施されるサービス・エンカウンターの位置

を確認した上で、サービス・エンカウンターにおける顧客満足および収益向上に影響を与えるイン

ターナル・マーケティングの役割を検討した。さらに、インターナル・マーケティングは、従業貝の

役割内行動だけでなく役割外行動の 1つである組織市民行動を促進することの重要性が確認された。

そして、従業員の組織市民行動に関する先行研究を検討し、本研究の 7つの仮説と分析枠組みを提示

した。道路貨物運送業の担当者のデータを用いて仮説の検証を行った結果、組織コミットメントと職

務渦足に関わる仮説を除いて、 5つの仮説が採択された。つまり、道路貨物運送業のサービスの特徴

と宿泊業のサービスの特徴はさまざまな点で異なるにも関わらず、基本的な点では類似していること

が明らかになった。すなわち、ホス・ピタリティ産業で有効性が確認されてきたインターナル・マーケ

ティングやサービス・エンカウンターの概念は、道路貨物運送業でもその有効性が確認されたといえ

よう。このことは、サービス理論の一般化に一歩近づいたといえるかもしれない。

他方、今後の課題として、顧客の観点からの分析の必要性をあげなければならい。サービス・エン

カウンターでは、従業員と顧客が相互に影響を与えている。今回の研究では、従業員が組織市民行動

を起こすことによって、結果として成果を高めることを支援するインターナル・マーケティングの有

効性は確認された。しかし、従業員の行動がどのように顧客の行動に影響を与えるかという課題につ

いては、検討が加えられていない。最近、この課題について、 Chanet al. (2017) は、従業員の市民

的行動が顧客の市民的行動を導くということを実証的に明らかにした。サービス・エンカウンターに

おいて、社会的交換として、従業員の市民行動が顧客の市民行動を誘発する、いわば、「情けは人の

為ならず」という現象といえるかもしれない。一方、 Chan、etaL、(2017)では指摘されていないが、

サービス・エンカウンターでは、今回の従業員の組織市民行動を導くインターナル・マーケティング

と同様に、顧客の組織市民行動を促進するエクスターナル・マーケティングの研究が重要だと指摘す

ることができるであろう。いわば、サービス・ビジネスにおける新しい消費者教育としてのエクス

ターナル・マーケティングは、サービス・エンカウンターにおけるサービス・クオリティの向上、他

の顧客との関係の改善、それに顧客間の組織市民行動(たとえば、譲り合いや自発的な共創行動)の

促進などに資する可能性があるかもしれない。

むすび

本研究の第 1部において、菊池は、真実の瞬間としてのサービス・エンカウンターに着目し、そし

てサービス・エンカウンター研究潮流を、①顧客と従業員の相互作用、②顧客同士の相互作用、③顧

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明治大学社会科学研究所紀要

客とサービスケープの相互作用、④顧客によるセルフサービス技術の活用、および⑤ネットワーク的

視点の研究に分けて捉えて、文献レビューを行った。

第 1部で明らかにされたことは、サービス・エンカウンター研究はその範囲について拡張を示して

おり、その背景にば情報化の進展が大きくかかわっているといえる。また一方で、カスタマージャー

ニーをはじめとするサービス・デザインや、価値共創をめぐる S-Dロジックでの議論の影響も受けて

いるも明らかにした。そして、サービス・エンカウンター研究では当初、サービス・エンカウンター

を管理するという考え方から、顧客視点に着目する考え方がますます強調されているということであ

る。また同様に、顧客とサービス組織が活用できる知識がその問題の焦点になりつつあるのである。

.今後の課題としてアプリ・エンカウンターと、 サ ビス・エンカウンターにおけるゲーミフィケー

ションを明らかにする必要性を主張した。

第2部において高橋は、サービス業としての道路貨物連送業の特徴を宿泊業と比較しながら、整理

し、サービス・エンカウンターの 3つのステージと、サービス・エンカウンターにおける顧客満足お

よび収益向上に影響を与えるインターナル・マ-ケティングの役割を検討した。さらに、インターナ

ル・マーケティングは、・従業員の役割内行動だけでなく役割外行動の 1つである組織市民行動を促進

することの重要性が確認された。

そして、従業員の組織市民行動に関する先行研究を検討し、本研究の 7つの仮説と分析枠組みを提

示した。実証分析の結果、組織コミットメントと職務満足に関わる仮説を除いて、 5つの仮説が採択

された。つまり、道路貨物運送業のサービスの特徴と宿泊業のサービスの特徴はさまざまな点で異な

るにも関わらず、基本的な点では類似していることが明らかにした。

今後の課題として、顧客の観点からの分析の必要性をあげた。サービス・エンカウンターでは、従

業員と顧客が相互に影響を与えている。今回の研究では、従業員が組織市民行動を起こすことによっ

て、結果として成果を高めることを支援するインターナル・マーケティングの有効性は確認された。

しかし、従業員の行動がどのように顧客の行動に影響を与えるかという課題については、検討が加え

られていない。一方、サービス・エンカウンターでは、今回の従業貝の組織市民行動を導くインター

ナル・マーケティングと同様に、顧客の組織市民行動を促進するエクスターナル・マーケティングの

研究が重要だと指摘することができるであろう。いわば、サービス・ビジネスにおける新しい消費者

教育としてのエクスターナル・マーケティングは、サービス・エンカウンターにおけるサービス・ク

オリティの向上、他の顧客との関係の改善、それに顧客間の組織市民行動の促進などに資する可能性

があることを指摘した。

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