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L.C.N.L 7 仏壇という日本の アイディンティティの可能性 「仏壇」という言葉からイメージされるのは「湿っぽさ」や「線香くささ」 あるいは「死」といったマイナスの部分だけかもしれない。そんな仏壇の イメージを軽やかに飛び越え、日本のアイディンティティとして世界に 発信しようというのが伝統工芸・三河仏壇の若手職人集団「アートマン ジャパン」。「アート」(芸術)ではなく「アートマン」(魂)を込めた作品を 発表し続ける彼らの代表・都築数明さんにお話を伺った。 仏壇職人 集団 アートマ ン ジャパン代表 築数明 殿 Creativity

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Page 1: Creativity - LinkclubCreativity 都 築 数 明 ( 設 計 士 ) かつて日本の家々には仏壇や仏間が当たり前のように存在し、 それぞれの家に「信仰」と祖先の居場所があったように思う。

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「仏壇」という日本のアイディンティティの可能性「仏壇」という言葉からイメージされるのは「湿っぽさ」や「線香くささ」

あるいは「死」といったマイナスの部分だけかもしれない。そんな仏壇の

イメージを軽やかに飛び越え、日本のアイディンティティとして世界に

発信しようというのが伝統工芸・三河仏壇の若手職人集団「アートマン

ジャパン」。「アート」(芸術)ではなく「アートマン」(魂)を込めた作品を

発表し続ける彼らの代表・都築数明さんにお話を伺った。

仏壇職人集団アートマン ジャパン代表

都築数明

平林祐二(宮殿師)

伊藤広之(塗師)

石川博紀(彫刻師)

C r e a t i v i t y

都築数明(設計士)

Page 2: Creativity - LinkclubCreativity 都 築 数 明 ( 設 計 士 ) かつて日本の家々には仏壇や仏間が当たり前のように存在し、 それぞれの家に「信仰」と祖先の居場所があったように思う。

かつて日本の家々には仏壇や仏間が当たり前のように存在し、それぞれの家に「信仰」と祖先の居場所があったように思う。翻って現代人のライフスタイルからはもっとも遠いのが仏壇や仏間といったものなのかもしれない。とはいえ、初詣や旅行での神社仏閣への参拝時には「手をあわせる」という行為を「宗教」を意識することなしにごく当たり前のこととして行っているのも事実だ。「宗教と信仰はよく似ていると思いますが、実は全く異なるものなんです。そして、宗教用具として使う伝統的な仏壇だけでなく、僕たちが作る自由度のある仏壇があっても良いと考えています。僕たちが作る仏壇には“ロレックス”でも“ドンペリ”でも、たとえば僕の大好きな“ガンダム”や“筋肉マン”のフィギアでも、とにかく何を入れてもいい。宗教ではなく、信仰の道具としての仏壇製造が僕たちが作る仏壇なんです」というのは仏壇職人の三代目であり、仏壇屋の二代目として三百年続く伝統工芸・三河仏壇の製作に

携わる傍ら、「アートマン・ジャパン」の代表も務める都築数明さん。仏壇&仏間デザイナー、イラストレーター&ライター、インテリアコーディネーター、そして設計士と多くの顔を持つ多彩な才能人だ。

仏壇屋に生まれながらも職人になる気がなかった。ジャーナリストになりたかったという。サラリーマンの息子がサラリーマン、公務員の息子が公務員という時代でもなく、伝統職人の息子だから伝統職人になるべきとは決まっていない。アメリカの大学を卒業、帰国し、職人の道を歩み始めたときも、「職人は自由な時間が多いから、本でも書きながら気ままに…」と考えていたという。しかし、「職人の技や奥の深さに魅力を感じ始めるのに多くの時間は必要なかった」ともいう。「木地・宮殿(くうでん)・彫刻・金物・塗・蒔絵・箔押・組立のそれぞれに職人がいて、そのそれぞれの技の集合体が三河仏壇なんです。その技術はフィギアやアクセサリーなど、さまざまなことに活用していくことができる。すごいものができちゃうんです。極めて有能な技術が後継者不足や衰退していく業種としての伝統

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仏壇は職人技の集合体

【アートマン ジャパン 活動予定】5月(日程未定)東京(錦糸町)久米繊維工業プレスルームにてアートマンの作品展示アパレル業界へ仏教デザインなど新たな提案Tシャツを10種デザインと共に作品展示

6月14日(土)・15日(日)ポートメッセ名古屋「クリエーターズ・マーケット」に出展アート業界へ仏壇技術のPR

8月3日(日)東京ビッグサイト「ワンダーフェスティバル」玩具業界へ仏壇技術の製品のPR玩具≦オリジナル人形≦工芸品というコンセプトの漆仕上げのオリジナル人形を展示コレクションボックスとしての仏壇の新たな使用方法の提案

9月1日(月)~30日(火)ニューヨーク・ブルックリンにてグループ展開催海外への販路拡大・仏壇の存在自体を海外へPR新作を発表予定

【プロフィール】都築数明さん

1971年生まれ。仏壇屋の三男として育ち、アメリカ留学後、三河仏壇の

職人としての道を歩き始める。仏壇&仏間デザイナー、イラストレーター&

ライター、インテリアコーディネーター、そして設計士と多くの顔を持つ。

著書に輪廻思想と因果応報思想を中心にわかりやすくまとめられたあの世を

楽しむためのガイドブック『あの世の歩き方』(新風舎)がある。

南無阿弥陀ブレス

ニューヨーク発表予定の

マッチ箱入りお守り人形

アートマンジャパンデザインTシャツ

創設以来形を変えながら洗練・進化し続ける

アートマン人形

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産業の厳しさから継承されていきづらくなっている。若い人間ほど先にやめていってしまう現状にもったいなさを感じたんです」そんな想いに呼応するように「知り合っちゃった」のが「アート

マン ジャパン」のメンバー。宮殿師の平林祐二さん、彫刻師の石川博紀さん、塗師の伊藤広之さんだ。「ごく身近に優れた職人集団がいて電話一本ですぐにつながる、そんな恵まれた環境はなかなか望んでできるものではない。仏壇職人集団としてブランド化していけば新しいことが起こる確信があるんです」

「アートマンジャパン」がこれまで作り出してきた作品は、人が入れる体験型仏壇「カンタカ」、仏壇があの世との交信ツールであることをモチーフにしたテレビ型仏壇「テトセ」、仏壇製作の過程で発生する端材で、仏壇のテイストや質感をしっかり表現しながら作り上げた「アートマン人形」をはじめ、胎内に仏を宿す「人型仏壇」、

「アート曼荼羅」「聖夜的五重塔」「武壇」「龍彫刻のコラージュ」などユニークながら現代の職人の技、そしてかつての名も無き職人たちの技を活用した三河仏壇職人の伝統と技の結晶ばかりだ。そしてこれらを作り出した「アートマンジャパン」のメンバーは20代、30代のまさしくアニメ世代。「発想がロボットやテレビにいってしまうのは僕たちの世代の普通の感覚なんだと思います。そんな同時期・同世代の感覚は多くの人に共有してもらえるはず」と自信を見せる。「仏壇を仏壇として使わないという僕たちのコンセプトはなかなか理解してもらえませんが、僕たちは仏壇を仏壇以外の活用や仏壇の製造技術の新たなる活用方法をアパレル、アート、玩具業界にそれぞれ提案しているんです。アパレルには仏壇で使うデザインモチーフや仏壇技術で作ったアクセサリーを、アート業界ではインテリアになるようなデザイン性のある仏壇、玩具業界へは日本の伝統的な技術で作られた人形を考えています。今後、それらの商品をニューヨークでの展示会をはじめさまざまな場所でPRしていきます」

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【三河仏壇】三河仏壇の起源は文献によると、江戸時代中期の元禄17年(1704)とされ、創始者の仏壇師 庄八家により製造していたと伝えられる。仏壇師が、矢作川の水運を利用して得られるマツ、スギ、ヒノキの良材と三河北部の猿投(さるなげ)山麓で採れた漆を材料として、仏壇を作ったのが端緒とされる。その後、岡崎市内はもとより三河を中心とした地域で、仏壇作りをする人が増え、現在の三河仏壇の産地が形作られた。

【三河仏壇8職】1 木地師 仏壇の外郭本体製作2 宮殿師 仏像・仏画を安置する須弥壇・屋根・桝組を製作3 彫刻師 仏界のさまざまな絵模様を木彫4 金物師 仏壇に取り付ける錺金具を製作5 塗 師 木地部分の漆塗り6 蒔絵師 漆塗り部分の必要個所に絵模様描写7 箔押師 漆塗り個所に金箔貼付8 組立師 錺金具取付け・検査、仏壇に組立

変える“意思”と変えない“決意”

仏壇ともののふの出会いが生んだ『武壇(ブダン)』

経典などが納められる仏像もモチーフにした

『人型仏壇』

三河仏壇職人の技と伝統が凝縮。

角がアートマン製作の証

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宗教や信仰で「遊ぶ」という行為は多くの危険をはらんでいる。伝統工芸ならなおさらだ。しかも宗教や信仰と関わりの深い「仏壇」なら、より一層、危険性は高まる。仏壇業界関係者から異端視されることもたびたびだという。それでも都築さんたちは「真剣」だ。「宗教用途の仏壇デザインについては変えません。伝統宗教と密接な関わりのある伝統的な仏壇製作は数百年の歴史があり、形などはそれ自体に意味合いを持っています。それを面白半分に変化させたり、排除してしまってはいけない。数百年の流れで出来上がった伝統仏壇を守ることを大切に思っています。そのうえで、自分たちが自由に製作する物には仏壇の技術もしくは仏教モチーフを取り込む。そして何でも作るのではなく、三河仏壇職人である僕たちでしか出来ないデザインや技術を大切にしていきたいと考えているんです」職人になりたてのころ、現代建築にあわせたおしゃれな仏壇を

考え、まったく門外漢のデザイナーに依頼し、伝統の技をまったく

必要としないデザインを生み出してしまった苦い経験を彼は持つ。そんな都築さんのたどり着いた、「これからも変わらない・変え

ない」という、またいっぽうの決意がここにある。

「変えないものは変えない、そのうえで遊ぶところは遊ぶ」。そうして筋を通している都築さんだが、それでも「ふざけた感覚」ととられることも多いのだという。「現代は、本物に触れる機会が少ない時代です。プラスティックなのか、漆塗りなのかすらわからない人も多い。だから、まずは手にとって職人が丹精込めて作った本物に触れてほしいんです。そのきっかけとして僕たちの作品がある。だから、手にとって親しむということがしやすい、ある意味ふざけた感覚って必要だと考えているんですよ」今後は鎌倉彫や加賀友禅などとのコラボレーションも積極的に

進め、日本の伝統工芸を主張するとともに、変えていけるような

企画を進めていくという。「面白いものづくりではなく、100年後に残るものづくりのかっこよさと意義を伝えていきたい。モチーフやエッセンスがクロスオーバーするキリスト教的な仏壇もあってよいし、新たな世界、新たなジャンルの誕生や融合もあるかもしれません。三百年の歴史を背負った三河仏壇の職人である僕たちに何ができるか、楽しみで仕方がないんです」と子供のように目を輝かせる。

「職人の世界では50代でもまだまだ若手。30代は子供なんです。だからぼくらが大人になったとき、日本が、世界がもっと仏壇のこと、そして僕たち職人のことを理解し、かっこよく思ってくれるように活動を続け、作品を生み出していきたいんです。僕たちの子供の世代やさらに下の世代が、『仏壇職人ってかっこいい』『将来は仏壇職人になる』って憧れるようにしていきたいですね」

Text by:夏沢冬樹

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【アートマン ジャパン】伝統的工芸品「三河仏壇」の若手職人が意気投合し、仏壇を製作する技術を使った今までにない商品開発を行うとともに、伝統的な仏壇の魅力を再発見し、日本のアイディンティティとして世界に発信し続ける仏壇クリエーターズグループ。http://artman.tv/

“かっこよさ”を次世代へつなぐ試み