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単なる受付、事務に 留めていませんか? 医療の質と効率性、サービスをより一層充実させるための 人材育成が大きなテーマになっている。なかでも注目すべき は受付や医療事務などの事務職。確固たる研修制度がなく、 専門職と比べて軽視されがちだが、手をつけてこなかっただ けに強化による効果は高い。本特集では「経営」 「臨床」 「サー ビス」の面から事務職員の強化策を提示する。 検査・診療 補助 電子カルテ の入力 訪問同行 イベント企画 営業・広報 活動 レセプト 点検 第2 特集 経営・医療 の質を高める 事務職員 強化 マニュアル 65 CLINIC BAMBOO 2015.12 (C) 2015 日本医療企画.

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単なる受付、事務に留めていませんか?

医療の質と効率性、サービスをより一層充実させるための人材育成が大きなテーマになっている。なかでも注目すべきは受付や医療事務などの事務職。確固たる研修制度がなく、専門職と比べて軽視されがちだが、手をつけてこなかっただけに強化による効果は高い。本特集では「経営」「臨床」「サービス」の面から事務職員の強化策を提示する。

検査・診療補助

電子カルテの入力

訪問同行イベント企画

営業・広報活動 レセプト

点検

第2 特集

経営・医療の質を高める

事務職員強化マニュアル

65 CLINIC BAMBOO 2015.12 (C) 2015 日本医療企画.

非専門職の活用によって

空いたスペースを埋める

医師や看護師の人材不足の加速

に加え、診療報酬はマイナス改定、

一方で医療の質の向上が求められ

る――。診療所の経営を取り巻く

環境は年々、厳しくなっている。

現状を打開していくためには、今

まで以上に医療の効率性やマネジ

メントの質を高めていかなければ

ならない。そのためのキーポイン

トの一つになるのが、非専門職で

ある事務職の活躍である。

従前、事務職の大半は受付業務

や診療報酬請求業務に終始してき

た。しかし、近年は∇経営戦略の

立案、∇連携先となる関係施設と

の渉外活動、∇広報誌の作成やW

EBを使った情報発信などの広報

活動、∇スタッフのシフト管理、

∇電子カルテの入力といった事務

作業補助、∇患者および家族への

説明、∇講演会やイベントの企画、

調整、準備、∇診察前の予診など

の診療および検査の補助業務―

―など、仕事のフィールドを広げ

る事務職も現れてきている。

先駆的に実践している診療所の

活動を分析していくと、事務職の

活動領域の拡大については2つの

方向性があることがわかる。

一つは患者や家族、連携先機関

との渉外活動、データ分析を通じ

たマーケティングといった「経営

管理」。もう一つは電子カルテの

入力や検査・診療補助、治療に関

する説明などの「診療支援」であ

る。いずれもこれまで診療所にお

いては、カバーする人材が曖昧に

され

〝空いたスペース”になって

いたものである。

サッカーにおいてはこの空いた

スペースをどう埋めるか、活かす

かが勝敗を分けるカギとなる。医

療もサッカーと同様に、専門性を

持つ集合体であり、誰かが空いた

スペースを埋めなければならな

い。昨今の医療事情や経済的な問

題から医師や看護師を十分に確保

できない診療所の場合、非専門職

である事務職がこの役割を果たす

ことの有効性は想像に難くないだ

ろう。

現場を知ることが

事務職のレベルを上げる

事務職が「経営管理」と「診療支

援」を実践していくためには、それ

ぞれについての教育を行う必要があ

るが、その第一歩となるのは、医療

現場を知ることだ。

医療現場を知ることで、受付か

ら診療、会計までの一連の流れを

理解できるようになるとともに、

医師や看護師、患者の動きを俯瞰

的に見ることでオペレーションの問

題点や自院の強みや弱みにも気が

つきやすくなる。経営改善はもち

ろん、情報発信においても欠かせ

ないポイントだ。

また、自ずと医師や看護師との

コミュニケーションは円滑になり、

「医療チームの一員」としての使命

感や仕事に対するモチベーションも

向上する。医師や看護師が本来業

務に専念できるようになることは、

患者や家族との十分なコミュニケー

ションにもつながる。また、渉外活

動の充実による地域連携の円滑化

も期待できる。このように事務職

が空いたスペースを埋めることは、

診療所のスタッフはもちろん、患

者や家族、介護施設など地域の関

係機関すべての満足度の向上につ

ながるのだ。

患者や地域を包括的に診るかか

りつけ医機能を高めるためには、

医師個人の知識やスキル向上だけ

ではなく、全員医療が欠かせない。

そのための人づくりと組織づくり

こそ、これから生き残る診療所に

は不可欠なテーマと言えよう。次

ページ以降で先駆的な取り組みを

行っている診療所の実践報告を紹

介する。それを参考に人材活用に

取り組んでいただきたい。

経営管理と診療支援を担う人材を育てることで医療と経営の質と効率性を高める

イントロダクション非専門職活用の幕開け

Part1

2015.12 CLINIC BAMBOO 66(C) 2015 日本医療企画.

単なる受付、事務に留めていませんか?

第2 特集

経営・医療の質を高める

事務職員強化マニュアル

株式会社メディカルスタイルパートナーズ 代表取締役医療法人社団凛咲会さくらクリニック 事務長    青木忠祐

Column

診療の効率性を高めるメディカルアシスタントの活用

診療所の経営を安定かつ発展させていくためには、やはり患者数を伸ばす必要がある。もっ

とも、医師1人あたり1日に診ることができる患者数には上限がある。診療時間や診療日数を延ばすという方法もあるが、これも負担が大きくなる。とはいえ、数多くの患者さんを診るために患者1人あたりの診察時間が減ったとなれば本末転倒だ。行き着くのは現在の時間内で診ることができる患者さんの数を増やす、つまり診療効率を高めるということである。

診療効率を高めるうえで、私は事務職をメディカルアシスタント(MA)として活用することを推奨している。MAとは病院に配置されている医師事務作業補助者を一歩進め、カルテの読み書きができ、さらに書類などの代理作成、各種検査の補助も行って診療をサポートする存在だ。従前医師が行っていた業務の一部をMAに移管することで医師の負担は減り、その分、患者さんを診る仕事に集中できる。当然、診療の効率は上がるので診療時間内で診ることができる患者の数は増えるというわけだ。

たとえば、私が事務長を務めている医療法人社団凛咲会さくらクリニックでは、医師、看護師、MAの3人1チームで訪問診療を行っている。

訪問診療時、MAは電子カルテを持って医師の脇に座り、医師が診療する様子を見聞きしながら、SOAP形式でカルテに情報を打ち込んでいく。この業務を実践するために、MAは患者さんの訴えや病状の背景、過去の既往歴、その他のデータなどをもとにしたアセスメント、得られた評価をもとに、どのような計画で治療にあたるかを落とし込んでいく能力ことが求められる。これには当然、患者さんの問題点や悩

みなどをきちんと引き出す医師のコミュニケーション能力も重要になる。

MA教育の基本は「現場で鍛える」

 診断や処置などは医師にしかできないことであるが、そのほかの業務については医師の管理下においてできることの方が多い。電子カルテの入力や検査の補助はもちろん、処方せんの作成も可能だ。医師がMAに指示し、それをもとにMAが作成した処方せんを医師が確認して問題がなければ印を押せばいい。上級者になれば紹介状も作成できる。 もちろんMAにはある程度の医療や臨床、生理学などの知識が必要になり、育成するにあたってはこれらに関する教育が必要になる。事務職は二次元的なレセプト上で診療情報を扱うことから、疾患や治療、処置の呼称や点数、ロジックについては理解しているが、現場を見たことがないため、身体や臓器、疾患の内容などについては意外に知識が薄い。そこでMAの教育としては、病名や投薬、注射、処置、手術、生理学などに関する基礎教育をさせるとともに、診療現場に放り込むことをおすすめする。診療現場で医師と患者さんが日常的に交わしている会話を聞き、どのようなタイミングどの薬を使うのか、検査はどんな手順で行われるのかなどを見聞きし続けていると、自然とレセプトに記載されている医療用語と実際の行為や使用されている医療材料がリンクするようになるからだ。 最後にどのような人材がMAに向いているかについて触れる。臨床という、これまで経験のない現場に立つため、まずは臨床に対する高いモチベーションが求められる。専門知識やスキルについては教育することで身に着けさせることはできるので、MAとなるスタッフを選別するにあたってはこの点に着目していただきたい。

67 CLINIC BAMBOO 2015.12 (C) 2015 日本医療企画.