悪性黒色腫患者の術前評価におけるmriの有限吐 ‐原発巣の厚さ...

7
日皮会誌:105 (14), 1837―1843, 1995 (平7) 悪性黒色腫患者の術前評価におけるMRIの有限吐 ‐原発巣の厚さの測定による病期の推定- 八田 尚人 坂井 秀彰 高田 竹原 和彦 角谷 員澄* 術前生検を行わずに腫瘍の厚さ及び悪性黒色腫の病 期を推定するため,原発巣における核磁気共鳴画像 (MRI)の有用性について検討した.18例の悪性黒色腫 原発巣の腫瘍の厚さおよび浸潤レベルを1.5T MRI 用いて測定し,切除後のホルマリン固定H.E.標本と 比較した. MRIにより得られた腫瘍の厚さは組織標本 より得られた値と類似していた. in situ の2例では腫 瘍は描出されなかった.腫瘍の皮下浸潤の有無の検討 では18例中17例で組織所見と一致した.またMRIの 所見から推定した病期は術後病期と16例中15例で一致 していた.以上より原発匠悪性黒色腫の厚さと浸潤レ ベルの術前評価にMRI力1有用であることが示唆され た. 1971年にDamadian力1核磁気共鳴現象を利用した 悪性腫瘍の診断の可能性を示唆して以来1),核磁気共 鳴画像(MRI)による腫瘍の画像診断は測定装置の普 及とともに,急速に一般化しつつある. MRIは従来の 画像診断装置に比べて極めて解像度のよい画像が得ら れるため,皮膚科領域でも皮膚腫瘍の浸潤レベルの検 索や軟部腫瘍の診断2)~6)の他に信号強度の違いを利用 して各種の色素性腫瘍の質的診断への応用が試みられ ているが7)~9),その臨床的意義についてはいまだ一定 の評価を得るに至っていない. 悪性黒色腫はすべての悪性腫瘍の中でももっとも予 後の悪い腫瘍の一つであり,特に早期に診断し,適切 な治療を行うことが必要とされている.予後に関して は腫瘍の厚さを基準とした病期分類と予後との相関が 明らかになり,病期に応じた治療法の基準が確立しつ 金沢大学医学部皮膚科学教室 *金沢大学医学部放射線医学教室 平成7年8月18日受付,平成7年9月28日掲載決定 別刷請求先:(〒920)金沢市宝町13- 1 金沢大学医 学部皮膚科学教室 八田 尚人 つある.しかし,この場合の病期はあくまでも組織所 見に基づいた術後病期であり,実際の臨床現場では術 前の化学療法や,手術法の決定には臨床所見から病期 を推測して行わざるを得ないのが現状である.そこで 今回我々は原発性悪性黒色腫の患者に対して術前に MRIによる検索を行い,術後に得られた組織所見と比 較し, MRIの黒色腫の術前評価に対する有肝陛を検討 した. 対象と方法 平成4年4月から平成7年5月まで金沢大学医学部 附属病院皮膚科を受診した原発性悪性黒色腫患者18例 (in situ 2 例を含む)を対象とした.対象患者の内訳を Table 1に示した.原発巣の切除前1週間以内に1.5T Signa (General Electric, Milwaukee, Wis.)を用い て腫瘍を撮影した.表面コイルを用い,撮像視野(Field of view ; FOV) 8cm,スライス厚3~4mm,撮像マト リックス数周波数エンコード方向256,位相エンコード 方向192,励起回数1~2回の条件で腫瘍の最深部が描 出されるように2方向のスライスを得た.T1強調画像 は通常のスピンエコー法(SE, TR 500, TE 11~24) でT2強調画像は高速スピンエコー法(Fast SE, TR 3,000~4,000, TE 90~110)で撮像した.得られた画 像上で最も厚い部位の腫瘍の厚さを腫瘍表面から表皮 と垂直方向の最深部の2点間の距離としてコンピュー ターを用い計測した.また,腫瘍の深部への浸潤レベ ルを皮下浸潤の有無で表した.各撮影条件における腫 瘍の信号強度を脂肪組織の信号強度と比較して,低強 度,同一強度,高強度の3段階で表した. 手術後に切除標本をMRIで得られた最深部と思わ れる画像と同一の方向で切り出し, 10%中性緩衝ホル マリンにより室温で1晩固定した後にパラフィンに包 埋し4μm切片を作製した.脱パラフィン後ヘマトキシ リンーエオジン染色した標本におけるClarkの浸潤 レベルおよびBreslowの腫瘍の厚さを測定した. 爪甲下のin situ の2例はいずれもMRIで腫瘍が描

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日皮会誌:105 (14), 1837―1843, 1995 (平7)

悪性黒色腫患者の術前評価におけるMRIの有限吐

     ‐原発巣の厚さの測定による病期の推定-

     八田 尚人  坂井 秀彰  高田  実

     竹原 和彦  角谷 員澄*

          要  旨

 術前生検を行わずに腫瘍の厚さ及び悪性黒色腫の病

期を推定するため,原発巣における核磁気共鳴画像

(MRI)の有用性について検討した.18例の悪性黒色腫

原発巣の腫瘍の厚さおよび浸潤レベルを1.5T MRI を

用いて測定し,切除後のホルマリン固定H.E.標本と

比較した. MRIにより得られた腫瘍の厚さは組織標本

より得られた値と類似していた. in situ の2例では腫

瘍は描出されなかった.腫瘍の皮下浸潤の有無の検討

では18例中17例で組織所見と一致した.またMRIの

所見から推定した病期は術後病期と16例中15例で一致

していた.以上より原発匠悪性黒色腫の厚さと浸潤レ

ベルの術前評価にMRI力1有用であることが示唆され

た.

          緒  言

 1971年にDamadian力1核磁気共鳴現象を利用した

悪性腫瘍の診断の可能性を示唆して以来1),核磁気共

鳴画像(MRI)による腫瘍の画像診断は測定装置の普

及とともに,急速に一般化しつつある. MRIは従来の

画像診断装置に比べて極めて解像度のよい画像が得ら

れるため,皮膚科領域でも皮膚腫瘍の浸潤レベルの検

索や軟部腫瘍の診断2)~6)の他に信号強度の違いを利用

して各種の色素性腫瘍の質的診断への応用が試みられ

ているが7)~9),その臨床的意義についてはいまだ一定

の評価を得るに至っていない.

 悪性黒色腫はすべての悪性腫瘍の中でももっとも予

後の悪い腫瘍の一つであり,特に早期に診断し,適切

な治療を行うことが必要とされている.予後に関して

は腫瘍の厚さを基準とした病期分類と予後との相関が

明らかになり,病期に応じた治療法の基準が確立しつ

 金沢大学医学部皮膚科学教室

*金沢大学医学部放射線医学教室

平成7年8月18日受付,平成7年9月28日掲載決定

別刷請求先:(〒920)金沢市宝町13- 1 金沢大学医

 学部皮膚科学教室 八田 尚人

つある.しかし,この場合の病期はあくまでも組織所

見に基づいた術後病期であり,実際の臨床現場では術

前の化学療法や,手術法の決定には臨床所見から病期

を推測して行わざるを得ないのが現状である.そこで

今回我々は原発性悪性黒色腫の患者に対して術前に

MRIによる検索を行い,術後に得られた組織所見と比

較し, MRIの黒色腫の術前評価に対する有肝陛を検討

した.

          対象と方法

 平成4年4月から平成7年5月まで金沢大学医学部

附属病院皮膚科を受診した原発性悪性黒色腫患者18例

(in situ 2 例を含む)を対象とした.対象患者の内訳を

Table 1に示した.原発巣の切除前1週間以内に1.5T

Signa (General Electric, Milwaukee, Wis.)を用い

て腫瘍を撮影した.表面コイルを用い,撮像視野(Field

of view ; FOV) 8cm,スライス厚3~4mm,撮像マト

リックス数周波数エンコード方向256,位相エンコード

方向192,励起回数1~2回の条件で腫瘍の最深部が描

出されるように2方向のスライスを得た.T1強調画像

は通常のスピンエコー法(SE, TR 500, TE 11~24)

でT2強調画像は高速スピンエコー法(Fast SE, TR

3,000~4,000, TE 90~110)で撮像した.得られた画

像上で最も厚い部位の腫瘍の厚さを腫瘍表面から表皮

と垂直方向の最深部の2点間の距離としてコンピュー

ターを用い計測した.また,腫瘍の深部への浸潤レベ

ルを皮下浸潤の有無で表した.各撮影条件における腫

瘍の信号強度を脂肪組織の信号強度と比較して,低強

度,同一強度,高強度の3段階で表した.

 手術後に切除標本をMRIで得られた最深部と思わ

れる画像と同一の方向で切り出し, 10%中性緩衝ホル

マリンにより室温で1晩固定した後にパラフィンに包

埋し4μm切片を作製した.脱パラフィン後ヘマトキシ

リンーエオジン染色した標本におけるClarkの浸潤

レベルおよびBreslowの腫瘍の厚さを測定した.

          結  果

 爪甲下のin situ の2例はいずれもMRIで腫瘍が描

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1838              八田 尚人ほか

Table 1 Clinicaland histologicalfindingsin patients assessed by MRI

Case Age/Sex Site Histological type Clinicalfeature

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

74M

64M

81F

62F

76M

78M

70M

79M

65M

47M

72F

69M

62F

70M

65M

59M

69F

63M

heel

toe

finger

palm

subungual

forehead

toe

sole

sole

forearm

toe

sole

lower leg

sole

sole

sole

subungual

subungual

ALM

ALM

ALM

NM

ALM

LMM

ALM

ALM

ALM

SSM

ALM

ALM

NM

ALM

ALM

ALM

ALMin situ

ALM硝石加

pigmented macule with ulceration

pigmented macule

pigmented macule

amelanotic nodule

melanonichia with nodule

pigmented macule with nodule

pigmented macule with nodule

pigmented macule

pigmented macule with nodule

pigmented and ame】anoticnodule

pigmented macule with amelanotic nodule

pigmented macule with nodule

amelanotic nodule

ulcer

pigmented macule with amelanotic nodule

pigmented macule

melanonichia

melanonichia

ALM ;acral lentigi]TOUSme]anoma, NM,; nodu]ar me]a】loma,LMM ; lentigo n!aligna melanoma,

SSM ;superficialspreading melanoma

Table 2 Thickness, level of invasion, and signal intensity of malignant

 melanomas as determined on MRI ;Correlation with the histologicalthick-

 ness and invasion level

Case

Histology MRI

Breslow'sthickness

Clark's level

thickness subcutaneous  invasion

Signa日n tensity*

Tl wi T2 wi

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

 4.3 (mm)

 2.9

 0.7

 4.9

 3.5

 7.4

 4.8

 2.S

 6.3

 8.8

 5.0

 4.4

15.4

 6.6

 2.7

 4.2

 肌3

 0.2

 IV

 V

 IV

 V

 V

 IV

 IV

 IV

 IV

 IV

 V

 rv

 V

 V

 IV

 IV

in siiw

in sJtM

 3.5 (mm)

 2.6

 1.2

 4.6

 3.7

 8.6

 6.4

 3.9

 5.5

11.2

 4.9

 5.0

15.5

 7.5

 2.7

 臼)

 NA

 NA

low

low

low

low

low

low

lovv-iso

low-iso

low-iso

low-iso

low

low

low-iso

low

low

low

NA

NA

ISO

h汝h

high

ISO

high

high

iso-high

ISO

high

high

high

high

high

high

iso-high

iso-high

NA

NA

NA : not available

* : signal intensity compared to that of fat

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悪性黒色腫におけるMRIの有用性

Fig. 1 a : Clinical picture of piitienl No. 13 with nodular melanc maOn the leg. b : llislologic

 study of the same patient. There were abundant melanin granules in the left quarter of the

 tumor, c: T1-wei以htedimages clearly demonstrated the tumor. There was a relatively

 hyperintense lesion within the hypointense tumor (arrow). d : T2-we削hte(卜ma以es面molト

 strated increased intensity in the lesion.

出されなかった.それ以外の腫瘍はMRIによる評価

が可能であった.大部分の腫瘍はT1強調画像で脂肪

上り低信号に,T2強調画像で脂肪より高信号に描出さ

れた口able 2).求だ,腫瘍の病巣内の信号強度に不

均一性がみられる症例も多く,これは組織像と比較す

ると,主に腫瘍のメラニン含有量を反映しているもの

と思オつれた(Figパa~d).すなわちメラニンを豊富に

含打部位はT1強調画像で高信号に描出された(Fig.

1c矢印).腫瘍が厚い角質を伴う場合石角質はMklで

は描出されず,腫瘍のみが描出された(Fig. 2a~b).

 浸潤レベルについてはNHくIでは真皮内のレベルに

ついての評価は困難であったが,皮下組織への浸潤の

有無についてはin situの2伊リを含め18例企例て頌り而

する二とが可能であった. MRIで皮下組織への浸潤か

おると推定された7例中6例で実際の標本でも皮下組

織への浸潤が確認され, MRIで皮下組織への浸潤なし

1(S;)9

と推定された11例全例では実際の標本でも皮下組織へ

の浸潤は認められなかった.以上を圭とめるとClark

のレベル分類とMRIによる皮下浸潤の一致牛は94%

(17/18)であった.

 組織学的に得られた腫瘍の厚さとMRIにより得ら

れた腫瘍の厚さはよく相関した口able 2, 相関係数

艮こ0.963, p<0.001). MRIにより得られた値の方が

Breslowの厚さより若千高値を示す傾向がみられ,と

くに厚さの薄い症例で顕y笞だった. Breslc wの厚さと

のMKIの値との差が20%を超える症例は16例中5例

であった(Figバ). MRIにより緋られた腫瘍の厚さか

ら推定したpT分好皿)組識字的分類との一致率は81%

心丿!6)であったが,悪性黒色腫の病期分類の基準と

なるBreslowの厚さ1. 5mmと七〇mmを境に3群に

分けてMRIと組織学的厚さの一致章をみたところ一一一

致率は94% (1シ16)であった汀址)le :几

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1町0 八川 尚九回か

ト ゙ .

FiR. 2 a:Clinical i〕ictureof patient N0. 8 with an acra□entigim us melaiK ma

 on the sole]T):T!.一weiμhtedimaμes(.汀thesame patient. There were IK) thick

 crusts demonstrated On the柚旧ges.

           考  察

 UICCによる悪性黒色腫のpTNN且町後病川ザ自的分

暫口よClarkのレベルとnresレ)wの厚さをもとに衛星

病巣,リンパ節,遠隔転移の付無を加えて病川を決定

している10)その際,ポイントになるのはBresh wの

厚さ力月.5mmおよび4. Ommを越えているか否かとい

シI八と, ClarkのレベルがIVあるいはVに達している

か否かとい元嘸である.従って非侵襲的に腫瘍の厚さ

と浸潤レベルを上記の草準で測定できればリンパ節の

腫服の有無や,圃像診断による遠隔転移の検索結果を

=仁者にして休川fに病川C/)摺足をすることが可能にな

る.町教ぺごの統計では皮片悪性黒色腫の場介stage I

ではいに生仁率が10(へであるのに対してstage II,

SUtμe!Iレぐはそれぞれ91.7%,卵.6%とstage IIと

Stage Ill の問で`予後に大きな差が認められる几 この

ことからも術前治療や予什川ツ)選択のうえで術前に正

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1.8

1.6

  V

CM

  1   1

MOTsaja/i^w

 1

0.8

悪性黒色腫におけるMRIの有言|生

    0   2   4   6   8   10  12   14  16

                  Breslow      (mm)

Fig. 3 Comparison between histometry (Breslow's

 thickness) and MRI.

確に病期を推定することは重要なことである.

 今回我々はMRIを用いて悪性黒色腫患者の原発巣

を測定したところ18例全例で皮下浸潤の有無の, in

situの2例を除く18例中16例で厚さの評価が可能で

あった.我々の用いた撮像条件では有効なビクセルサ

イズが約0.3mmであり,画像上で厚さを計測する際に

は理論上最大0.3mm程度の誤差が生じ得ることにな

る.今回の検討では最小0.7mmの腫瘍の測定が可能で

あったが,2.0mm以下の病変の測定は誤差が大きく実

際的でない印象を受けた.また, MRIではClarkのレ

ベルIからIVの判定が不可能であることや,組織の細

分類レペルでの誤差が大きくなることが欠点であるこ

とが明らかにされた.しかし,厚さが2.0mm以上の症

例ではMRIと組織の間に近似した値が得られたこと

や, MRIの値から病期を推定したところ術後病期と高

い一致率が得られたことなどから特にstage II以上の

症例ではMRIが病期の推定に有用であると思われ

た.

 皮膚腫瘍の非侵襲的検索法として従来から超音波診

断装置が用いられており12)~14)特に20MHzなどの高

周波数の装置により悪性黒色腫などの厚さを測定する

ことが可能である15)16)これらの装置では特に1.5mm

以下の薄い腫瘍で組織の値とよく近似することが示さ

れている.しかし,皮膚の浅い部分の分解能を上げた

場合は逆に深部の所見が得にくくなるという欠点があ

り17)また実際の臨床では爪や鶏眼様の角質など超音

波の通過しない構造物のため正確な評価が困難である

場合が少なくない.そのためMRIにおいて皮膚の表

面の分解能をあげようとする試みに加え,超音波診断

1841

Table 3 Frequency of the classes of the thickness

 measured by MRI and histology

MRI(mm)Histology(mm)

<1.51 1.51-4.00 >4.()0 PV(%)

<1.50

1.51-4.00

>4.00

Σ

 0

 1

10

11

100

 80

100

 94

PV ;predictive value

装置においてもより高出力の診断装置の開発が試みら

れている17)18)

 我々の成績ではMRIと組織の厚さの値に平均20%

の誤差がみられた.前述したMRIの解像度による誤

差に加え,術前に非侵襲的な方法で得られた腫瘍の厚

さの値と,ホルマリン固定された組織切片上で測定し

た値を比較する際には本質的にいくっかの問題点が考

えられる.一つは生体における腫瘍の状態が切除後,

張力による変形やホルマリン固定による収縮などによ

り変化するという点である19)さらに, MRIのスライ

スと組織の切り出し面が必ずしも一致しないという技

術的な問題も誤差を生じる要因となる.我々の検討で

は厚さが薄い症例ではMRIの測定値が高めに出る傾

向が認められ,これは両者のスライス面のずれに加え,

固定による組織の収縮と解像度の影響があるものと思

われた.また,厚さが3mm以上の症例では特に一定の

傾向はみられず,誤差を生じる主な原因はスライス面

のずれではないかと推測された.特に足底の厚い角質

を伴う腫瘍では組織が圧排されて水平方向だけでなく

垂直方向におけるスライス面のずれを生じる可能性が

あり,このような症例における測定結果の評価は慎重

に行う必要があると思われた.

 メラニンを含む病変はfree radicalや3価鉄イオン

などの影響でMRIにより他の腫瘍とは異なる所見を

呈する20)すなわち一般の腫瘍はT1強調画像で脂肪組

織より低信号に,T2強調画像で高信号に描出されるの

に対して,悪性黒色腫ではT1強調画像で高信号に,T2

強調画像で低信号に描出されると報告されている21)

しかし,悪性黒色腫の信号強度に関してはT1・T2強調

画像とも高信号であったとの報告22)やT1低信号,T2

で高信号とする報告7)もあり一定しない.今回の研究

では描出された腫瘍は無色素性を含めてT1強調画像

で低信号,T2強調画像で高信号のものが多く,メラニ

ンを多く含む部位ではT1で比較的高信号を呈してい

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1842 八田 尚人ほか

た. MRIにおける悪性黒色腫の信号強度については比

較する組織の信号強度が撮像条件によって変化するこ

とや,出血など他の要因の影響も考えられ,良性腫瘍

                             文

  1) Damadian R, Zaner K, Hon D : Human tumors

   by NMR, Ph吋ol Chew. Phvs, 5二富81-402, 1973.

  2) Kransdorf MJ, Jelinek JS, Moser RP Jr, et al:

   Soft-tissue masses : Diagnosis using MR imag-

   ing, AJRバ53:541-547, 1989.

  3)ZemtSOV A, Lorig R, Bergfield WF, Bailin PL,

   NGTC : Magnetic resonance imaging of

   cutaneous melanocytic lesions, / Dぼ辨証ol Sitrg

   0刀心/, 15 : 854一一858, 1989.

  4)Zemtsov A, Lorig R, NGTC, et al : Magnetic

   resonance imaging of cutaneous neoplasms :

   Clinicopathologic correlation丿Dermatol Surg

   0刀col, 17 : 416-422, 1991

  5)小野一郎,郡司裕則,長谷川隆哉,金子史男:皮膚

   腫瘍におけるMRIの診断的意義の検討,Sk鏑

   Cancer, 9 : 143-149, 1994.

  6)瀬戸山充,島田辰彦,西 正行,宇宿一成,神埼

   保:皮膚癌のMRI像について,Skin Cancer, 9:

   206-211, 1994.

  7) Schwaighofer BW, Fruehwald FJ, Pohl-Markl

   H, Neuhold A, Wicke L, LandrumべVL: MRI

   evaluation of pigmented skin tumors ; Prelimi-

   nary study, IriDestRadiol,24: 289-293, 1989.

  8) Takahashi M, Kohda H : Diagnostic utility of

   magnetic resonance imaging in malignant

   melanoma,J Am AcadDermatol,27 : 51-54,

   1992.

  9)工藤 祥,松尾義明,高橋澄子,他:悪性黒色腫の

   MRI一皮膚原発悪性黒色腫とその転移巣の信号パ

   ターンと診断的意義についてー,日磁医誌,12 :

   314-320, 1992.

 10)UICC : Melanoma of the skin. TNM

   classification of malignant tumors. 4th ed,

   Springer-Verlag, Berlin, Heidelberg, New

   York, London, Paris, Tokyo, p89-91, 1986.

 11)高田 実,谷口 章,鳥居靖史,野村 佳弘,広根

   孝衛:皮膚悪性黒色腫79例の予後‐特にStage

   II ・ IIIにおける治療法と予後について―, Skin

   Caれcer.8:88-92, 1993.

 12) Kraus W, Schramm P, Hoede N : First eχperi-

   ences with a high-resolution ultrasonic scanner

   in the diagnosis of malignant melanomas, Arch

   Dermatol Res, 275 : 235-238, 1983.

との鑑別も含め今後の検討課題であると思われる.

 本論文の要旨は第94回日本皮膚学会・学術大会において

発表した.

 13) Shafir R,Itzchak Y, Heyman Z,Azizi E, Tsur

    H, Hiss J : Preoperative ultrasonic measure-

    ments of the thickness of cutaneous malignant

    melanoma, / Ultrasound Med, 3 : 205-208,

    1984.

 14) Hughes BR, Black D, Srivastava A, Dalziel K,

    Marks R : Comparison of techniques for the

    non-invasive assessment of skin tumors, C/泌

    E節Derymitol, 12 : 108-111, 1987.

 15) Dummer W, Blaheta HJ, Bastian BC, Schenk

    T, Broeker EB, Remv \\≒ Preoperative char-

    acterization of pigmented skin lesions by

    epi luminescence microscopy and high-

    frequency ultrasound, ArchDびmatol, 131 : 279一

    285, 1995.

 16) Tacke J, Haagen G, Hornstein OP, et al :

    Clinical relevance of sonometry-derived tumour

    thickness in malignant melanoma―A statist!-

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悪性黒色腫におけるMRIの有用性 1843

      Magnetic Resonance Imaging for Preoperative Evaluation of Malignant

              Melanoma : Preoperative Stage Classification

             Naohito Hatta*, Hideaki Sakai*, Minoru Takata*.

               Kazuhiko Takehara* and Masumi Kadoya**

        * Department of Dermatology, Kanazawa University School of Medicine

        ** Department of Radiology, Kanazawa University School of Medicine

        (Received August 18,1995; accepted for publication September 28,1995)

  To classify the clinical stage of primary cutaneous melanoma preoperatively without biopsy, we

evaluated the usefulness of magnetic resonance imaging (MRI). Thickness and invasion level of the

tumors were measured by MRI in 18 primary lesions and compared to histological findings from

formalin-fixed sections. The thickness obtained by MRI was well correlated with that obtained by

histometry. In two cases of 加吋tu melanoma, MRI did not detect the tumors. In 17 of 18 cases, the

invasion levels determined on MRI and histometry were consistent with each other. The predictive value

by MRI in preoperative staging was 94%. Our data demonstrated the usefulness of MRI in preoperative

staging of malignant melanoma.

  (Jpn J Dermatol 105: 1837~1843, 1995)

Key words: magnetic resonance imaging (MRI), malignant melanoma, tumor thickness