若者はテレビをどう位置づけているのか - nhk...4 december 2010...
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2 DECEMBER 2010
直し,さらに調査方法についても配付回収法に切り替えた。ただし,時系列比較を目的に従来と同じ質問文による個人面接法の調査も実施した(調査の概要は表1を参照)。
本稿では16 ~ 29歳(若者)という特定の年層について分析を行っていくため,サンプルサイズの大きい配付回収法の結果を中心に報告する。時系列比較の際は個人面接法の結果を必要に応じて取り上げる。以下,本文・図表において特に断りのない場合は配付回収法調査のデータであり,個人面接法調査のデータを用いる場合にはその旨を明記した。
はじめに
本誌2010年8月号と10月号では「日本人とテレビ・2010」調査(2010年3月に実施)の結果概要を報告した。その中で,16 ~ 29歳の若者の間でテレビの存在感がやや薄れる一方で,インターネットは若者でよく利用され,メディアの中での位置づけが高くなっていることを明らかにした。このような実態は,他の調査などでも指摘されており,インターネットの利用によりインターネットがテレビに置き換わるのではないかという論調も一部にはみられる。
本稿は「日本人とテレビ」調査の結果を中心に,インターネットの利用が一般的な16 ~ 29歳(若者)という特定の年層に注目し,若者のテレビ視聴やメディア利用の実態,そしてメディアに対する意識や態度について分析する。あわせて,16 ~ 29歳でテレビ視聴時間が長時間の人と短時間の人にタイプ分けをして,この長短のタイプを比較することで,若者はテレビをどう位置づけているのか,インターネットはテレビにどの程度影響しているのかどうかについても考察していきたい。
8月号と10月号でも紹介したように,「日本人とテレビ・2010」調査は質問項目を全体的に見
表 1 調査の概要
「日本人とテレビ・2010」調査 〔配付回収法〕(今回から)
1 調査時期 2010 年 3 月 6 日(土)~ 14 日(日)
2 調査方法 配付回収法
3 調査対象 全国の 16 歳以上の国民
4 調査相手 住民基本台帳から層化無作為 2 段抽出3,600 人(12 人× 300 地点)
5 調査有効数(率) 2,710 人(75.3%)
〔個人面接法〕(時系列比較用)
1 調査時期 2010 年 3 月 6 日(土)・7 日(日)
2 調査方法 個人面接法
3 調査対象 全国の 16 歳以上の国民
4 調査相手 住民基本台帳から層化無作為 2 段抽出1,800 人(12 人×150 地点)
5 調査有効数(率) 1,046 人(58.1%)
若者はテレビをどう位置づけているのか~若者のテレビ視聴とメディア利用・「日本人とテレビ・2010」調査から~
世論調査部(視聴者調査)平田明裕
3DECEMBER 2010
時間が増え,中間が減り,長時間は変わらないことから,16 ~ 29歳のふだんの日のテレビ視聴時間は全体的には減少したとみられる。
テレビの平均視聴時間の変化については,NHKの「全国個人視聴率調査」でみることができる。図3は,6月調査の結果から16 ~ 29歳の視聴時間(週平均)の推移を示したもので
1. メディア利用の実態
「1 時間」以下のテレビ短時間視聴者が増加
図1は「日本人とテレビ」調査で,休日を除くふだんの日に,1日にテレビを何時間ぐらい視聴しているかを尋ねた結果である。16 ~ 29歳では,国民全体と同様,「2時間」「3時間」の人が多く,あわせて4割を超えている。それより短い「ほとんど,まったく見ない」人を含めた
「1時間」以下の人は29%で,国民全体(18%)に比べると若者では短時間視聴の割合が高い。一方,長時間視聴といえる「4時間」以上の人は28%で国民全体(40%)に比べ少ない。
16 ~ 29歳のテレビ視聴時間の変化を個人面接法のデータでみる(図2)。「1時間」以下の短時間視聴者は27%で, 今回調査のサンプル数が以前より少ないため(126人),サンプル誤差の大きさに配慮する必要はあるものの,2005年以前の結果と比べ増加している。「2時間」「3時間」の中間は42%で85年(57%)と比較すると減少している。「4時間」以上の長時間視聴者は29%で85年(27%)と比較すると変化はなく同程度であった。中間のグループが減少していることから,二極化とまではいえないが,その兆しがみられるといえよう。このように,短
図 1 ふだん1日にテレビを見る時間
図 2 [時系列] 16 ~ 29 歳のふだん1日にテレビを見る時間
図 3 テレビ視聴時間(全国個人視聴率調査 週平均)
ほとんど,まったく見ない
わからない無回答
6時間以上
5時間
4時間
3時間
2時間
1時間ぐらい
30 分 2時間
3時間 5時間
4時間
6時間以上
1時間
ほとんど見ない
16~29 歳(432 人)
国民全体(2,710 人)
2110%4
3
151114
8 4 17 22 21 10 10 8
21
2
わからない,無回答
6時間以上
5時間
4時間
3時間
2時間
1時間
ほとんど・全然見ない
2010 年
2005 年
2000 年
1995 年
1990 年
1985 年
ほとんど・全然見ない
6時間以上
わからない,無回答
5時間1時間 2時間 3時間 4時間
14% 30 27
3
16 30 27
3
16 27 27
3 1
15 30 24
3
12 26 27
6
2
21 24 18 14 9 7
13 13 6
11 9 7
16 7 5
14 6 4
14 8 5
0:00
1:00
2:00
3:00
4:00
女 16-29 歳男 16-29 歳
1985 1990 1995 2000 2005 2010(年)
(時間)
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ある。男性は2時間10分前後,女性は2時間40分前後で推移しており,年によって上下することがあるものの,長期的な増加や減少といった一定方向への傾向はみられない。ただし,2010年には男女とも2時間を下回るなど,近年は視聴時間が短いことが多い。
以上のことから,16 ~ 29歳全体のテレビ平均視聴時間は行動量として大きく変化したとはいえないが,近年は短いレベルにあり,そして,10月号で指摘したように16 ~ 29歳ではテレビを毎日見る人が減少していたこともあり(05年:91%,10年:82%),「1時間」以下の短時間視聴者が増えたと考えてもよいだろう。
インターネットや音楽ソフトをよく利用
もともと若者のテレビ視聴時間が短いのは,余暇時間が短いほかに,多くのメディアを利用する傾向があるためである。他の調査 1)でも明らかになっているが,今回の調査でも若者はさまざまなメディアを利用していた。表2は「日本人とテレビ・2010」調査の結果から,メディア別
に「毎日」接触する人の割合を年層別に示したものである。16 ~ 29歳でも79%の人が,「テレビ」を「毎日」見ているが,国民全体(84%)に比べるとやや少ない。そのほか「ラジオ」や「新聞」を「毎日」利用する人は国民全体に比べてかなり少ない。一方,「インターネット」,「CDなどの音楽ソフト」,「マンガ」,「ビデオ・DVDなどの映像ソフト」は国民全体よりもよく利用している。
テレビ視聴時間とインターネット利用の関係を確認するために,16 ~ 29歳でテレビ視聴時間量が1時間以下の短時間の人(以下,短時間型:127人)と4時間以上の長時間の人(以下,長時間型:120人)を比較してみる。分析の前に,それぞれの特徴をみてみると,長時間型は短時間型に比べて女性の割合が高く(短:男女比は54対46,長:38対63),特に主婦の割合が高い(短:2%,長:16%)。一方,短時間型では生徒・学生の割合が高い(短:42%,長:30%)。なお,勤め人については大きな違いはなかった(短:48%,長:41%)。
テレビ視聴時間とインターネット利用の関係をみると,インターネットを「週に1 ~ 2日以上」利用する人は短時間型が83%で,長時間型(69%)に比べてやや多い。これは,インターネットをよく利用するのでテレビ視聴時間が短いとも考えられるし,テレビ視聴時間が短い人がインターネットをよく利用するとも考えられる。いずれにせよ,インターネットの利用とテレビ視聴時間とが関係していることがうかがえる。
ネット動画をよく見ている若者
図4は,インターネットを利用しているときに「動画」を見ることがどのくらいあるか尋ねた結果である。16 ~ 29歳で「毎日」見る人は16%,「週に1 ~ 2日」見る人まで含めると(「毎
表 2 メディア別の「毎日」接触(年層別)
国民全体
16~29歳
30代
40代
50代
60代
70歳以上
テレビ 84 79 81 89 90 88 75
録画したテレビ番組 8 10 8 12 7 5 4
ラジオ 20 8 17 23 24 29 16インターネット
(メールは除く) 27 48 40 36 24 10 5
映像ソフト 3 7 4 3 4 1 1
音楽ソフト 19 42 30 23 13 5 6
新聞 68 32 52 74 82 87 78
雑誌 6 7 6 3 5 7 5
本 12 11 11 14 15 14 9
マンガ 3 12 6 1 1 0 0
■は国民全体に比べ,統計的に有意に高い層
(%)
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日」「週に3 ~ 4日」「週に1 ~ 2日」を合わせた人)48%となり,半数近くになる。いずれも国民全体より多く,若者ではインターネットで「動画」をよく見ていることがわかる。
16 ~ 29歳のテレビ視聴時間量との関係をみると,短時間型は「毎日」見る人が23%,「週に1 ~ 2日以上」が57%で,長時間型(毎日:10%,週に1 ~ 2日以上:40%)に比べて多く,短時間型でネット「動画」をよく視聴していることがみてとれる。
さらに,図5は,インターネットで「動画」を見るときに,見逃したテレビ番組を動画サイトで見ることがあるか尋ねた結果である。16 ~29歳では「よくある」と回答した人が16%で国民全体より多い。「ときどきある」も含めると38%となり,16 ~ 29歳全体では3人に1人が見逃したテレビ番組を動画サイトで見ることがあると回答している。
これも視聴時間量別にみると,短時間型は「よくある」が18%で,長時間型(9%)に比べて
多く,見逃したテレビ番組を動画サイトでよく見ていることがわかる。短時間型では「ときどきある」も含めると40%となり4割に達する。
このように,16 ~ 29歳では,インターネットでの動画視聴が活発で,見逃したテレビ番組を動画サイトで見るというテレビ番組の新しい見方が認められる。いわば,若者では,動画の視聴という点でインターネットがテレビの一部機能を代替し,テレビ番組をインターネットで視聴する点で補完的な役割をしていると考えられるかもしれない。こうした新しい見方は,特にテレビ視聴時間の短い人でよく行われている様子がうかがえる。
2.テレビの見方とテレビに対する意識
3 人に 2 人は「夢中になる」や「話題にする」
これまで,テレビの視聴時間,インターネットとテレビの関係など実態面についてみてきたが,次に16 ~ 29歳がテレビをどうとらえているのか
図 4 ネット動画視聴頻度(国民全体,16 ~ 29 歳,16 ~ 29 歳の視聴時間量別)
図 5 ネット動画視聴行動・見逃したテレビ番組を動画サイトで見る(国民全体,16 ~ 29 歳,16 ~ 29 歳の視聴時間量別)
このうち
無回答
ほとんど、まったく見ない
年に数日
月に1~2日
週に1~2日
週に3~4日
毎日のように
16~29 歳の長時間型(120 人)
16~29 歳の短時間型(127 人)
16~29 歳(432 人)
国民全体(2,710 人) 5 5 10 9 5 63%
16 14 18 15 5 30
23 10 24 24 37
10 13 18 18 3 38
1
9
3
3
ほとんど,まったく見ない
週に3~4日
週に1~2日
月に1~2日年に数日
無回答毎日のように
このうち
ネット動画を見ない
まったくない
あまりない
ときどきある
よくある
16~29 歳の長時間型
16~29 歳の短時間型(127 人)
16~29 歳(432 人)
国民全体(2710 人)
4 9 10% 10 66
16 22 18 11 33
18 22 17 27
9 26 19 397
17
インターネットで動画を見ない
ときどきある
あまりない
まったくない
よくある
16~29 歳の長時間型(120 人)
16~29 歳の短時間型(127 人)
16~29 歳(432 人)
国民全体(2,710 人)
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を明らかにするため,テレビへの接し方やテレビに対する気持ちなど意識面についてみていきたい。
表3は,テレビの見方について尋ねた結果で,それぞれの項目について「(よく+ときどき)ある」と回答した人の割合を示したものである。16 ~ 29歳で回答が多いのは「思わず夢中になってテレビを見ている」(67%),「テレビで見たことや番組のことを話題にする」(66%)で,全体と同程度であり,若者でも3人に2人は熱心にテレビを見て,テレビの話をしていることがみてとれる2)。
一方,16 ~ 29歳の特徴ともいえるのが「特に見たい番組がなくてもテレビをつけている」
(62%),「番組名がわからないままテレビを見ている」(47%)で,これらは国民全体に比べ多い。これは漠然とした見方をしているのだが,テレビを消さずに見ているということはテレビとの関係を断ち切るのではなく,関係を保とうとする意識の現れではないかとも考えられる。薄い関わりの中でもテレビとの一定の結びつきを示している結果といえるかもしれない。
若者で評価が高い「話のタネが得られる」
図6は,時系列調査(個人面接法)でテレビの効用として「人とつきあうときの話のタネが得られる」に「そう思う」と回答した人の割合を示したものである。16 ~ 29歳では9割に達しており,国民全体の75%より高い。
時 系 列 でみ ると国 民 全 体 で は1985 年(80%)に比べ減少しているのに対し,16 ~29歳ではこの25 年変化はなくほぼ 9割を維持しており,若者では話のタネが得られるという点でテレビを低いどころかむしろ高く評価している。若い世代は,「他者とつながる」ための情報,「ネタ的」な情報への関心が高いといわれており3),今回の結果からも,若者は話のタネを得るためのメディアとしてテレビを位置づけていると考えることができる。
表4は,テレビについてどのような感じを持っているか8項目を尋ねた結果で,「あてはまる」
「まああてはまる」と回答した人の割合を示したものである。16 ~ 29歳で回答が多いのは「テレビを見るのが大好きだ」(72%),「見たかった番組を見逃すと,とても残念に思う」(71%)で,ともに7割を超えている。「大好き」は国民全体
表 3 テレビの見方「よくある + ときどきある」
国民全体 16 ~ 29 歳(2,710 人) (432 人)
思わず夢中になってテレビを見ている 63 67
テレビで見たことや番組のことを話題にする 67 66
特に見たい番組がなくてもテレビをつけている 56 < 62
テレビを見ている途中で,チャンネルを頻繁に切り替える 46 < 52
番組名がわからないままテレビを見ている 40 < 47
時間のやりくりをしてテレビを見る 43 > 38
テレビで見たことをすぐにインターネットで調べる 16 < 23
<, >は16~29歳と国民全体を比較して統計的に差があることを示す
図 6 [時系列]テレビの効用・人とつきあうときの話のタネが得られる
1985 年1990 年1995 年2000 年2005 年2010 年
1985 年1990 年1995 年2000 年2005 年2010 年
16~29 歳
国民全体80%8080787575
898986868690
(%)
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と同程度で,「見逃すと残念に思う」は国民全体より多い。また,「テレビがついていると何となく安心できる」は58%で半数を超え,国民全体より多い。テレビが大好きで番組に対しての思い入れが強く,テレビへの安心感を持つなど,テレビに対してのいわば距離が近い意識が現れており,テレビが16 ~ 29歳の生活に浸透している様子がうかがえる。
このような特徴は,16 ~ 29歳の長時間型に顕著であり,「大好き」「見逃すと残念に思う」「安心できる」は短時間型に比べ多い。
また,16 ~ 29歳では「好きな番組でも,毎回決まった時間に見るのは面倒だ」(41%)と「テレビを見たあと,時間をむだにしてしまったと思うことがよくある」(32%)も国民全体より多い。16 ~ 29歳の半数には達してはいないが,放送時間に縛られたりすることを嫌ったり,はずれのない番組を選択して見たい意識が強い様子がうかがえる。こうした背景として,「自身で自分の時間を管理したいという“時間管理欲求”や確実に成果を得たい=“リスク回避”の欲求が20代にある」(荒牧・増田・中野 2008)という指摘がある。こうした意識が強いのは,短時間型である。
視聴時間量別にみると,長時間型はテレビに対し近い意識を持っている一方で,短時間型
は効率的に見ようとする気持ちが強い様子がうかがえる。このように,視聴時間量のタイプによってテレビに対する意識の違いはあるものの,16 ~ 29歳全体では,テレビに対し意識の面で否定的な気持ちを持っている気配はなく,テレビに対して好意的で密着しており,関係が深い様子がみてとれた。このようにテレビ単独では評価されているが,他のメディアと比べた場合の評価や位置づけはどうなっているのであろうか。次にテレビとその他のメディアへの意識を探っていきたい。
3. 各種メディアの評価
若者では評価が高い「インターネット」
表5は,テレビや他のメディアがさまざまな生活の場面においてどのように評価されているかをとらえるため,メディアの持つ機能のうち〈報道〉〈娯楽〉など7つの機能について8つのメディアの中から「いちばん役に立っているもの」を選んでもらった結果である。16 ~ 29歳の若者で「テレビ」の回答が多かったのは,〈報道〉(66%),〈解説〉(60%)であった。〈娯楽〉は48%で,半数近くの人が「テレビ」を選んでいる。
国民全体でみた場合でも,「テレビ」の〈報道〉
表 4 テレビに対する意識「あてはまる + まああてはまる」(国民全体,16 ~ 29 歳,16 ~ 29 歳の視聴時間量別)
国民全体 16~29歳 16~29歳の短時間型(127人)
16~29歳の長時間型(120人)(2,710人) (432人)
テレビを見るのが大好きだ 68 72 49 88見たかった番組を見逃すと,とても残念に思う 62 < 71 57 83テレビがついていると何となく安心できる 51 < 58 35 73話題になっている番組は見たいと思う 53 > 47 36 58テレビを見たあと,前向きな気持ちになることがよくある 44 43 35 50好きな番組でも,毎回決まった時間に見るのは面倒だ 34 < 41 50 28どこにいても,好きなときにテレビを見たい 29 < 37 14 57テレビを見たあと,時間をむだにしてしまったと思うことがよくある 22 < 32 38 23
<, >は16~29歳と国民全体を比較して統計的に差があることを示す■=長短を比べ統計的に有意に高い層
(%)
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〈解説〉機能の評価の高さなどおおよその傾向は似通っているが,16 ~ 29歳では全般的に「インターネット」の回答が多めで, 「新聞」「テレビ」は少なめの傾向にある。
〈情報〉では「インターネット」が 「テレビ」に置き換わる
7つの機能全体で「テレビ」の順位に着目すると,16 ~ 29歳と国民全体は,だいたい同じであった。国民全体では「テレビ」が1番目だが,16 ~ 29歳で1番目ではない機能は〈情報〉
と〈慰安〉である。16 ~ 29歳では,〈情報〉は「インターネット」が,〈慰安〉は「音楽ソフト」が最も多く選ばれて1番目になる。「テレビ」で評価されていた機能が若者ではこの部分で置き換わっている様子がうかがえる。
16 ~ 29歳のテレビ視聴時間量別にみると(表6),短時間型では長時間型に比べ「テレビ」への回答が全体的に少なめである。「テレビ」の順位に着目すると,〈教養〉は長時間型では1番目だったが,短時間型では2番目(1番目は「本」)だった。しかし,〈教養〉を除いたそ
表 5 16 ~ 29 歳のメディアの効用比較
表 6 16 ~ 29 歳のメディアの効用比較(視聴時間量別)
16~29歳(432人)の結果 国民全体(2,710人)の結果
テレビ
ラジオ
インターネット
(メールは除く)
映像ソフト
音楽ソフト
新 聞
雑 誌
本 この中にはない
無回答
テレビ
インターネット
(メールは除く)
新 聞
世の中の出来事や動きを知るうえで<報道> 66 2 23 0 0 7 0 1 1 0 71 9 15 感動したり,楽しむうえで<娯楽> 48 0 8 24 6 0 1 12 2 1 63 2 2 教養を身につけるうえで<教養> 32 0 11 1 0 10 3 36 5 1 31 6 16 生活や趣味に関する情報を得るうえで<情報> 20 1 43 1 0 2 23 6 2 1 35 24 10 政治や社会の問題について考えるうえで<解説> 60 1 12 0 0 22 0 2 2 1 57 5 31 疲れを休めたり,くつろぐうえで<慰安> 24 1 7 8 41 1 2 7 10 0 41 2 2 人とのつきあいを深めたり,広げたりするうえで<交流> 39 1 23 2 3 3 4 2 23 1 43 11 10
■=最も多いもの ■=次に多いもの※国民全体の結果は「テレビ」,「インターネット」,「新聞」の3つのみを掲載した
16~29歳の短時間型(127人)の結果 16~29歳の長時間型(120人)の結果
テレビ
ラジオ
インターネット
(メールは除く)
映像ソフト
音楽ソフト
新 聞
雑 誌
本 この中にはない
無回答
テレビ
ラジオ
インターネット
(メールは除く)
映像ソフト
音楽ソフト
新 聞
雑 誌
本 この中にはない
無回答
<報道> 47 3 37 0 0 9 0 2 2 1 77 1 15 0 0 7 1 0 0 0 <娯楽> 35 0 13 25 9 0 1 14 2 1 56 1 6 25 3 0 0 7 2 1 <教養> 17 0 15 1 0 13 1 40 11 2 45 1 10 2 0 6 6 29 2 0 <情報> 17 1 51 1 0 2 21 3 3 2 23 2 33 2 0 2 29 8 2 0 <解説> 45 2 21 0 1 25 0 2 3 2 73 0 7 0 0 18 0 3 1 0 <慰安> 16 0 10 9 38 2 2 13 9 1 30 1 3 7 43 1 4 2 10 0 <交流> 30 1 28 3 3 2 3 4 24 2 47 2 22 2 1 3 3 1 20 0
■=最も多いもの ■=次に多いもの
(%)
(%)
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の他の機能では,「テレビ」の順位は変わらなかった。短時間型でも〈報道〉〈解説〉〈娯楽〉〈交流〉の機能では「テレビ」が1番目となっており,テレビの視聴時間が短くても「テレビ」が評価されていることがわかる。
これまでみてきたように16 ~ 29歳では「テレビ」の評価や位置づけが低いわけではなく,
「インターネット」に比べて相対的に低い領域があるだけである。
欠かせないメディアでは 「テレビ」と「インターネット」が拮抗
図7は,自分にとってどうしても欠かせないメディアを8つのメディアから1つだけ選んでもらった結果である。国民全体では,テレビ
(55%)が他のメディアを引き離しているが,16~ 29歳では「テレビ」(37%)と「インターネット」
(32%)が拮抗しており,インターネット利用の割合が高い若者では,意識の上でも「インター
ネット」をあげる人の割合が高いことがわかる。この傾向は16 ~ 29歳の短時間型で顕著で,
短時間型では「インターネット」が1番目(39%)で,2番目の「テレビ」(16%)を引き離しており,相対的に「テレビ」の位置づけが後退していることがわかる。短時間型で「インターネット」が多くの人で選択されている理由の1つとしては,見逃したテレビ番組を動画サイトで見ることが可能なようにテレビの補完的な役割を担っていることもあろう。なお,短時間型では「テレビ」と並んで「音楽ソフト」が15%,「本」が10%と,比較的,回答が分散しているのが特徴である。
一方,長時間型は「テレビ」が57%で半数を超え,「インターネット」(24%)との差が大きい。長時間型では,半数以上の人が欠かせないメディアとして「テレビ」をあげており,意識面において他のメディアの中での「テレビ」の位置づけが依然として高いことがみてとれる。
おわりに
若者で大きいテレビへの期待
図8はテレビの今後についてどう感じているのか,番組の内容の面では,甲と乙の意見のどちらに近いかを尋ねた結果である。
甲:テレビにできることはまだ残っており,手法や題材によって,もっとやれることがあるはずだ
乙:テレビにできることは,ほとんどやりつくしており,今以上のことは期待できない
16 ~ 29歳では「甲に近い」は国民全体に比べ多く,強い期待を持っていることがわかる。「どちらかといえば」も含めると81%となり8割を超える人がテレビの可能性に期待している。注目すべきは,16 ~ 29歳はテレビ視聴時
図 7 欠かせないメディア(国民全体,16 ~ 29 歳,16 ~ 29 歳の視聴時間量別)
このうち
この中にはない
本
雑誌
新聞
CDなどの音楽ソフト
ビデオ・DVDなどの映像ソフト
インターネット(メールは除く)
ラジオ
テレビ
16~29 歳の長時間型
16~29 歳の短時間型(127 人)
16~29 歳(432 人)
国民全体(2710 人)
55%
37 32 12 7
16 4 10 933
57 33
1111
924
1539
1
5
1221
35144144
11
本音楽ソフト
新聞ラジオ
インターネット(メールは除く)
雑誌
この中にはない
テレビ
16~29 歳の長時間型(120 人)
16~29 歳の短時間型(127 人)
16~29 歳(432 人)
国民全体(2,710 人)
映像ソフト
10 DECEMBER 2010
間量の長短に関わらずテレビへの期待が大きい点で,短時間型でもテレビの可能性については否定的な見方をしているわけではない。つまり,テレビが見放されているわけではないことがわかる。
これまでみてきたように16 ~ 29歳では,ふだんの日のテレビ視聴時間が「1時間」以下の短時間視聴者が増加していた。また,テレビへの接触頻度をみても,10月号で指摘したように最近5年間で16 ~ 29歳ではテレビを毎日見る人が減少していた。他のメディアとの比較や欠かせないメディアでは,テレビの位置づけが低下している一方で,インターネットの位置づけが相対的に高くなっている。そして一部の領域でインターネットがテレビに置き換わる可能性があることがわかってきた。
しかし,効用や意識の面などで,16 ~ 29歳
のテレビ単独の評価は決して低くはなく,依然として高くあり続けているものもある 4)。そして,他のメディアと比較した評価の中でも,相対的にテレビが評価されている機能もあり,将来的なテレビへの可能性や期待が高いことも明らかになった。
16 ~ 29歳のテレビ視聴時間量との関係を長短タイプでみてきたが,短時間型と長時間型では,他のメディアとの比較でのテレビへの評価の順位やテレビへの期待などで大きな差はなかった一方で,テレビに対する意識や欠かせないメディアでのテレビの評価で大きく違うことが明らかになった。若者全体の間でテレビの存在感がやや薄れているのは,この5年間でインターネットをよく利用する短時間型が増加したことが影響していると考えられよう。
最後に,16 ~ 29歳で,インターネットの利用がテレビに対する姿勢(意識)に影響する可能性を指摘したい。つまり,インターネットと同様に能動的に,時間に縛られず,はずれのない番組を選択するようにして効率的にテレビを見たいという傾向が強まっていく可能性である。荒牧・増田・中野は,20代のテレビ視聴の特徴としてグループインタビューの結果からリスク回避や時間管理欲求が強く,こうした特徴は日常的にネットを利用する20代が自然に身につけてきた視聴スタイルではないかと論じている。今回の世論調査の結果では,16 ~ 29歳でこうした特徴があることが確認でき,短時間型でその傾向が顕著であった。つまり,テレビ視聴の短時間型が今後増加すると,そうした見方が増えていくと考えられる。こうした例として,ネット動画視聴が盛んな短時間型では,〈娯楽〉機能でテレビの評価は高いが,インターネットも
図 8 テレビの可能性(国民全体,16 ~ 29 歳,16 ~ 29 歳の視聴時間量別)
このうち
無回答
乙に近い
どちらかといえば,乙に近い
どちらかといえば,甲に近い
甲に近い
16~29 歳の長時間型
16~29 歳の短時間型(127 人)
16~29 歳(432 人)
国民全体(2710 人)
28% 49 16
1
5
36 45 15 4
1
38 40 15 6
34 48 15 3
2
乙に近い
無回答
どちらかといえば,乙に近い
どちらかといえば,甲に近い
甲に近い
16~29 歳の長時間型(120 人)
16~29 歳の短時間型(127 人)
16~29 歳(432 人)
国民全体(2,710 人)
16~29 歳の長時間型(120 人)
16~29 歳の短時間型(127 人)
16~29 歳(432 人)
国民全体(2,710 人)
甲:テレビにできることはまだ残っており,手法や題材によって,もっとやれることがあるはずだ
乙:テレビにできることは,ほとんどやりつくしており,今以上のことは期待できない
11DECEMBER 2010
数値は低いものの一定程度評価されていることがあげられる。インターネットで娯楽として動画を視聴する場合,能動的に利用できる点が評価につながっていると考えられるかもしれない。こうした見方が一般的になった場合には,テレビ視聴の量にも意識の面にも影響していくのではないかと考えられる。
これまでみてきた16 ~ 29歳の特徴が時間とともに強まっていくのか,また,若者だけの傾向にとどまらず他の年層にも広がっていくのかについて,今後も,「全国個人視聴率調査」や
「国民生活時間調査」など,実態面をとらえる調査も含めて,長期的な視点にたって把握していく必要があるだろう。
(ひらた あきひろ)
注:1)荒牧は,2005 年の「国民生活時間調査」の結果を
引用して,20 代では,「雑誌・マンガ・本」,「ビデオ」,「CD・MD・テープ」,「インターネット」を比較的よく利用していると論じている。
2)橋元・奥・長尾・庄野は「バーチャルなお茶の間」の出現に言及し,テレビを中心としたコミュニケーションが若者で依然として行われていることを指摘している。
3)谷は,鈴木・電通消費者研究センターが言及する「ネタ的コミュニケーション」を引用し, 20 代男性は「ネタ的」な情報への関心が高いことを論じている。
4)橋元・奥・長尾・庄野は,今回の調査の16 ~ 29 歳と重なる 86 世代について, 76 世代に比べてテレビに対する依存傾向が高く,テレビへの回帰現象が起きていると指摘している。
文献:・荒牧央・増田智子・中野佐知子,2008,「テレビ
は 20 代にどう向き合ってゆくのか―2008 年春の研究発表・ワークショップより」『放送研究と調査』58(6):2-21.
・荒牧央,2008,「20 代はテレビをどうとらえているのか―インターネットの広がりの中で」『放送研究と調査』58(1):46-53.
・橋元良明・㈱電通・電通総研・奥律哉・長尾嘉英・庄野徹,2010,『ネオ・デジタルネイティブの誕生―日本独自の進化を遂げるネット世代』ダイヤモンド社.
・諸藤絵美・平田明裕・荒牧央,2010,「テレビ視聴とメディア利用の現在(1)(2)―『日本人とテレビ・2010』調査から」『放送研究と調査』60(8):2-29,(10) :2-27.
・鈴木謙介・電通消費者研究センター,2007, 『わたしたち消費―カーニヴァル化する社会の巨大ビジネス』幻冬舎.
・谷正名,2009,「20 代男性・『不安』と『情報過多』の中で―①生活意識とメディア接触に見える『断層』」『放送研究と調査』59(10):2-13.
・吉田理恵・中野佐知子,2006,「生活時間調査からみたメディア利用の変遷と現在―2005 年国民生活時間調査より」『放送研究と調査』56(7):64-74.