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エキスパート会ニュース第 171 号 1 「地方における障害者のためのバリアフリー環 境形成プロジェクト」[NHE プロジェクト] The Creation of a Non-Handicapping Environment (NHE) for Persons with Disabilities (PWDs) in the Rural Areas Project チーフアドバイザー/障害者福祉(NCDA) 鷺谷 大輔 1. プロジェクトの背景と目的 2000 年に実施された国勢調査によれば、フィリ ピンの障害者人口は全人口の 1.23%(約 94 万人)と なっています。しかし、実際はそれ以上と言われて おり、世界保健機構(WHO)の推計値 5~10%を当 てはめると、2010 年現在フィリピンでは約 460~920 万人が障害者ということになります。 障害者の権利は、1987 年制定のフィリピン共和 国憲法、1992 年公布の共和国法 7277 号 (通称「障 害者のマグナカルタ(大憲章)」)、1984 年発効の Batas Pambansa Bilang 344 (通称「アクセス法」)、そ して 2007 年公布の共和国法 9442 号(障害者のマグ ナカルタの修正条項)によって保障されています。 フィリピン JICA エキスパート会ニュース 171号(2010 年 3 月 19 日) 行 : フィリピン JICA エキスパート会 発 行 責 任 者 : 田尻 照久 (国家灌漑公社アドバイザー/NIA) 今号編集担当者 : 松尾 貴充 ( 水利組合強化支援/NIAContents:今月の内容 ページ ちょっと気になる!?隣のプロジェクト 「地方における障害者のためのバリアフリー環境形成 プロジェクト」 チーフアドバイザー/障害者福祉(NCDA) 鷺谷 大輔 1 寄 稿 JOCV通信 20 年度 2 次隊 村落開発普及員 濱田 正章 10 寄 稿 OJT 体験記(その4) ~OJT の休日(ジョリビー編)~ (水利組合強化支援プロジェクトへ昨夏配属) JICA 本部東南アジア第一・大洋州部第三課 (フィリピン担当) 高木 有也 14 保健室だよ、みんな元気! ~女性が気になる子宮頸がん・ワクチンの最新情報~ JICA 健康管理員 青嶌 利優 16 離着任専門家のご紹介 19 ● 編集後記 20 写真:空から見たマカティ&フォートボニファシオ

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エキスパート会ニュース第 171 号

1

「地方における障害者のためのバリアフリー環

境形成プロジェクト」[NHEプロジェクト]

“The Creation of a Non-Handicapping Environment

(NHE) for Persons with Disabilities (PWDs) in the

Rural Areas” Project

チーフアドバイザー/障害者福祉(NCDA)

鷺谷 大輔

1. プロジェクトの背景と目的

2000 年に実施された国勢調査によれば、フィリ

ピンの障害者人口は全人口の1.23%(約94万人)と

なっています。しかし、実際はそれ以上と言われて

おり、世界保健機構(WHO)の推計値 5~10%を当

てはめると、2010 年現在フィリピンでは約 460~920

万人が障害者ということになります。

障害者の権利は、1987 年制定のフィリピン共和

国憲法、1992年公布の共和国法7277号 (通称「障

害者のマグナカルタ(大憲章)」)、1984 年発効の

Batas Pambansa Bilang 344 (通称「アクセス法」)、そ

して2007年公布の共和国法9442号(障害者のマグ

ナカルタの修正条項)によって保障されています。

フィリピン JICAエキスパート会ニュース

171号(2010年3月19日)

発 行 : フィリピンJICAエキスパート会

発 行 責 任 者 : 田尻 照久 (国家灌漑公社アドバイザー/NIA)

今号編集担当者 : 松尾 貴充 (水利組合強化支援/NIA)

Contents:今月の内容 ページ

● ちょっと気になる!?隣のプロジェクト

「地方における障害者のためのバリアフリー環境形成

プロジェクト」

チーフアドバイザー/障害者福祉(NCDA)

鷺谷 大輔 1

● 寄 稿

JOCV通信

20年度2次隊 村落開発普及員

濱田 正章 10

● 寄 稿

OJT体験記(その4)

~OJTの休日(ジョリビー編)~

(水利組合強化支援プロジェクトへ昨夏配属)

JICA本部東南アジア第一・大洋州部第三課

(フィリピン担当) 高木 有也 14

● 保健室だよ、みんな元気!

~女性が気になる子宮頸がん・ワクチンの最新情報~

JICA健康管理員 青嶌 利優 16

● 離着任専門家のご紹介 19

● 編集後記 20

写真:空から見たマカティ&フォートボニファシオ

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アクセス法では、役所、病院、学校、空港、マーケット、ホテル、レストラン等の公共及び公共性の

ある民間施設に、スロープや手すり、障害者がアクセス可能なトイレ、標識、障害者専用の駐車場、

滑りにくい床材の使用等一定の設備や環境の整備を規定することで、障害者のアクセシビリティを

保障しています。メトロマニラなどの大都市圏では、国家障害者協議会、障害当事者団体、フィリピ

ン建築士連合のアクセス委員会等による広報・啓発活動の結果、例えば、本法令を遵守していない

新設の建物には市当局が施工を認可しないなど、各自治体でもバリアフリーに関する認識が高まり、

一定の成果を挙げています。

他方、地方では、建築を認可する自治体の建築士や技師の本法令に対する知識不足などもあり、

市庁舎や市営の病院等公共の施設でさえも障害者のアクセシビリティが確保されていないのが現

状です。そのため、多くの障害者は、コミュニティに存在する物理的及び社会的障壁により、社会へ

の参加そして自立への機会が制限されています。社会に存在するバリアとは主に、①物理的環境

(建築物や交通)、②情報のバリア、③制度的バリア(法律やシステム)、④人々の考え方や態度、が

挙げられます。(参考文献:アジア太平洋障害者センター(APCD) , Inclusive Community

Development, P.4)

このような状況の中、プロジェクトは、2 つの地方自治体(イロイロ州ニュー・ルセナ及びミサミスオ

リエンタル州オポール、下記地図参照)を対象地域とし、障害者のエンパワーメント及び障害者が社

会生活に参加する上で生活の支障となる物理的及び社会的な障壁を取り除くための活動を通して、

他の地方自治体に対するバリアフリー化促進のモデルとなるよう、特に建築物へのアクセシビリティ

の改善、制度的バリアを取り除くための体制やシステムづくり、人々の考え方や態度の改善等、両

地域のバリアフリー環境づくりを支援しています。

プロジェクト対象地域

オポール、ミサミスオリエンタル Region X

(ミンダナオ島)

ニュー・ルセナ、イロイロ Region VI (パナイ島)

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2. プロジェクト活動

プロジェクトの実施期間は 2008年 10月~2012年 9月の 4年間で、カウンターパート機関である

「国家障害者協議会」(National Council on Disability Affairs以下 NCDA)と協力してプロジェクトを

実施しています。

プロジェクトの活動は、下記の 5つから構成されています。

① Implementing Mechanism: 中央・地域・地方自治体レベルにおけるプロジェクト実施体制

の確立。

② Profiling: 障害者数や障害の種類、また建物のバリアフリー状況等、対象地域におけるベ

ースラインデータの収集。

③ Capacity Development: 対象地方自治体、障害者、障害当事者団体、その他プロジェクト

関係者に対する障害者のエンパワーメント等能力開発活動(研修・セミナー・ワークショップ

等)の実施。

④ Advocacy: バリアフリー環境形成に係る啓発活動の実施。

⑤ Networking: バリアフリー環境形成のノウハウを他地域へ拡げる、ネットワーク構築活動の

実施。

以下ではこれまで(2008年 10月~2010年 2月の間に)実施した活動のうち 4つを紹介させて頂き

ます。

1) 障害分類研修 (②Profilingに係る活動):

対象地域における障害者数や障害の種類はプロジェクトを実施していく上で重要なベースライン

情報となります。プロジェクト対象地域の選定条件の一つは障害者数であったこともあり、プロジェク

トは、プロジェクト形成段階における障害者数を把握していました。しかし、障害の有無や障害分類

(特に精神障害、学習障害、心理社会的障害、慢性疾患等の分類)は専門の医師でも判別が難しく、

バランガイ(最小地方自治区)レベルの健康管理員や栄養管理員では見分けが困難であるとの指

摘があり、より精度の高い再調査が必要だとの意見で一致しました。

また、2007年の共和国法 9442号(障害者のマグナカルタの修正条項)の公布に伴い、2008年に

保健省は、障害のカテゴリーを7つ(①身体障害、②コミュニケーション障害、③視覚障害、④精神

障害、⑤学習障害、⑥心理社会的障害、⑦慢性疾患)から 9つ(コミュニケーション障害を聴覚障害

と言語障害に分類し、複合障害を追加)へと変更し、これに伴い、保健省は新しい障害者登録シス

テムを導入しました。新登録システムでは、障害の種類を含むいくつかの設問項目が改定され、再

調査の必要性に拍車がかかりました。

その後、障害者数及び障害分類調査の実施が決まりましたが、上述の通り、調査の精度を上げる

ためには、調査実施者が障害者や障害の種類に対してしかるべき知識を身に付けている必要があ

ります。そこでプロジェクトでは、医療リハビリテーションの専門医師と協力し、自治体によって運営さ

れている病院の医師やバランガイ(最小地方自治区)レベルの健康管理員や栄養管理員に対して

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障害分類研修を実施しました。

2009年 7月、8月にニュー・ルセナ及びオポールで実施した障害分類研修の様子

なお、共和国法 9442 号では、障害者登録を済ませた障害者に対して、障害者 ID カードの発行

を義務付けています。IDカードはNCDA及び各地方自治体の社会福祉局で発行されており、障害

者は、①登録用紙への記入、②診断書、写真 2 枚、身分証明書、及び記入済みの登録用紙を

NCDAもしくは地方自治体の社会福祉局へ提出し、③NCDAもしくは地方自治体が、提出された書

類内容を審査し、認められれば ID カードが発行されます。(登録詳細は NCDA の URL 参照:

http://www.ncda.gov.ph/2009/quick-helps/apply-fo-pwd-id-card )

ID カードを提示することによって障害者は様々な割引サービスを受けられるようになります。例え

ば、食料雑貨品(米、パン、肉、野菜、卵、砂糖、塩、石鹸、洗剤、薪、文房具、オムツ等)に対して

は毎月 1,300 ペソを上限に 5%の割引が受けられ、ホテル、レストラン、映画館、公共交通機関、病

院、薬等に対しては上限なしに 20%の割引が受けられます。しかし、本割引制度の認知度は未だ

低く、割引を求める度に逆にお店側から詳しい説明を求められたり、説明はしたけれど割引を拒否

されたり、という問題も多く発生しているのが現状です。なお、比較的世間一般で認知されている

2004年に制定された高齢者法では、高齢者(60歳以上)に対して同様に 20%の割引を定めており、

障害者に対する割引制度は、この高齢者法を参考に制定されました。今後も官公庁の広報などを

初めとする各種情報サービスを通じて法律の周知や遵守の必要性を訴え、障害者 ID カードや ID

カード提示によって受けられる様々なサービスの認知度を拡げていくことが求められています。

2) アクセス監査研修 (②Profilingに係る活動): プロジェクトでは、ベースラインデータの一つとして、対象地域におけるバリアフリー環境を調査し

ています。フィリピンでは 1984 年に総合的な(建築物及び公共交通機関を対象とする)物理的バリ

アフリー推進を目的とした法律 Batas Pambansa Bilang 344 (通称「アクセス法」)が制定されました。

日本では、ハートビル法(特定建築物のバリアフリー化を推進する法律)が 1994年に、交通バリアフ

リー法(公共交通機関等のバリアフリー化を推進する法律)が 2000 年に、そしてバリアフリー新法

(一体的、総合的なバリアフリー化を推進する法律)が 2006年に制定されました。そのため、法律制

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定の面で日本と比べるとフィリピンはより進んでいたといえます。しかし、法律の履行となると、フィリ

ピンではまだまだ努力が必要なのが現状です。確かに、物理的アクセシビリティを整備するために

は多大な予算が必要であり、そういった意味で先進国はより優位な環境にあるといえます。しかし、

経済的な理由だけでは、バリアフリー環境改善の実現は困難であり、障害当事者のたゆまぬ努力

の末に勝ち取った権利であることは日本では既に周知の事実となっています。いわば、ボトムアップ

の力によって制度を変え、自分達の権利を勝ち取ることができたのです。一方、フィリピンでは障害

当事者が力を付け、自分達の権利を主張し始めているとはいえ、バリアフリー環境改善を更に促進

させるためには、今後も障害当事者や関係者が一致団結し、報道機関等とも協力し、広報・啓発活

動を継続していくことが大切です。

そういった状況の中、プロジェクトでは、盲目の建築士等フィリピン建築士連合のアクセス委員会

に所属する建築士や有識者と協力し、対象地方自治体の建築士や技師そして障害者に対して「ア

クセス監査研修」を実施しました。本研修では、主にアクセス法に関する知識の向上を目的とした講

義、バリアフリーチェックリストを用いたバリアフリー環境の監査方法習得を目指した実地研修を実施

しました。また、日本から有識者を招聘し、上述の盲目の建築士とも協力し、建築物バリアフリー化

促進を目的とした「バリアフリーデザイン及びアクセスマップ研修」を実施しました。バリアフリーのデ

ザインには、現地で入手可能な資機材をできる限り活用し、持続性及び費用対効果の向上を図りま

した。また、研修においては、障害当事者の声に耳を傾け、障害当事者がバリアフリーになることを

最も望んでいる公共施設を対象とし、彼らが本当に必要としているデザインを設計するよう心掛けま

した。

2009年 8月、10月にニュー・ルセナ及びオポールで実施したアクセス監査研修の様子

3) 障害平等研修 (③Capacity Developmentに係る活動):

イギリスで開発された障害平等研修では、「障害の社会モデル」の考え方、及び実際に社会を動

かし社会を変えるための行動計画策定をモジュールの中心に据え、詰め込み式ではなく、参加者

が学習するそのプロセスを大切にしています。

「障害と開発」の分野では、心身の機能の回復という個人レベルを対象とした従来の「医学モデ

ル」から、障害者が排除・差別を感じるのは社会的組織・環境・制度の問題であるとした「社会モデ

ル」に移行してきています。即ち、障害者を社会に受け入れるだけではなく、障害者が社会の一員

として主体的に活躍できる社会体制が確立されているかどうか、ということが障害者の「完全参加と

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平等」を達成する上で大切な要素になってきているのです。

本プロジェクトでは、Non-Handicapping Environment(NHE: バリアフリー環境形成)と「障害の社

会モデル」との間に関連性があるとし、障害平等研修を積極的に導入しています(下記図「バリアフ

リー環境形成の過程」参照)。

バリアフリー環境形成のプロセス(障害者のエンパワーメント、及び障害者の社会モデル)

2009年 9月には、日本とマレーシアから講師を招き、ニュー・ルセナ、オポール及びマニラ(マニ

ラ近郊含む)から将来障害平等研修の講師となることが期待される障害者に対して、障害平等研修

のTraining of Trainersを実施しました。最初は「社会モデル」を理解できずにいた(もしくは社会を変

えることの実現可能性に疑問や、目的達成のための必要な自分達の能力に限界を感じていた)参

加者も、現在は、ニュー・ルセナ、オポール等で講師として他の障害者に障害平等セミナーを実施

しています。

① ④

障害者のエンパ

ワーメント

② ③ 障害の社会モデル

(社会の変化・バリアの撤廃)

バリアフリー環境

Non-Handicapping Environment

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2009年 9月にマニラで実施した障害平等研修(Training of Trainers)

2009年 10月、12月にニュー・ルセナとオポールで実施した障害平等セミナーの様子

4) ピア・カウンセリング (③Capacity Developmentに係る活動): ピア・カウンセリングは 1970 年代初め、アメリカで始まった自立生活運動を基礎としています。自

立生活運動は、障害当事者自身が自己決定権や自己選択権を育て合い、支え合い、平等に社会

に参加していくことを目指しています。「ピア」とは仲間という意味です。ピア・カウンセリングでは、お

互いに平等な立場で話を聞き合い、きめ細かなサポートによって、地域での自立生活を実現する手

助けをしています。ピア・カウンセリングの役割には、自己信頼を回復するためのサポート 、権利擁

護、意識確立のサポート、施設や親元から独立するためのサポート等があります。(参考文献:全国

自立生活センター協議会ホームページ、 http://www.j-il.jp/about/pc.html )

プロジェクトの対象地域であるニュー・ルセナ及びオポールでは今まで障害のある仲間が集まり、

悩みを打ち明け、お互いで支え合うための「場」を持ったことがありませんでした。プロジェクトではそ

のような「場」を提供し、障害者のエンパワーメントや地域での自立生活を促進し、障害者が社会環

境を変える一員となる手助けをしています。

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2009年 11月、12月にニュー・ルセナ及びオポールで実施したピア・カウンセリングの様子

3. プロジェクトの今後

プロジェクトでは、障害者のエンパワーメント及びプロジェクト活動やモニタリング過程に障害当事

者が参加することは、プロジェクト目標達成及び自立発展性促進の観点からも大切であると考えて

います。これまで実施してきた障害平等研修やセミナー、ピア・カウンセリング、及びベースラインデ

ータ収集に係る研修等を通じて、プロジェクト対象地域の障害者は少しずつではありますが、自己

の障害を受入れ、自尊心を回復してきています。プロジェクトでは継続的に彼等の能力開発を促す

活動(研修・セミナー・ワークショップ等)を実施し、障害者のエンパワーメント、そしてバリアフリー環

境形成の促進を図っていきます。具体的には、障害者のリーダーシップ研修、物理的バリアフリー

促進のための研修、啓発活動促進を目的としたアドボカシ研修、障害者の自助グループ育成研修、

バリアフリー環境形成のノウハウを他地域へ拡げることを目的としたネットワーク構築研修等の活動

を実施していく予定です。また、物理的バリアフリー環境改善のためには、地方自治体の予算だけ

では限界があり、自立発展性及びメインストリーミングの観点からも、関係省庁(例えば、社会福祉

開発省、公共事業道路省、保健省、内務地方自治省、教育省等)とより強いネットワーク関係を構築

していく必要があります。更に、今後の他地域への NHE 拡大を視野に入れ、地域障害者協議会

(Regional Council on Disability Affairs)との連携等、地域レベルでのネットワーク構築も大切になっ

てきています。

4. おわりに バリアフリー環境は障害者にだけ裨益するのではなく、高齢者や妊婦等バリアフリー環境を必要

としている社会生活弱者と呼ばれる人々にも裨益します。例えば、高齢化が深刻な問題となってき

ている日本では、岐阜県高山市が「バリアフリー観光」を推進しています。高山市は「住みよいまち

は行きよいまち」の標語を掲げ、行政・民間・市民が一体となりバリアフリーを推進することにより、地

域を活性化させることに成功しました。それにより観光産業とバリアフリーの関連性、即ちバリアフリ

ーの経済効果を実証したといえます。バリアフリーの推進には、法律を遵守していない建物の所有

者を責めたり、非難したりするのではなく、バリアフリーを実現することによって得られる恩恵を事実

と共に伝え、「気付き」及び「自発的活動」を促すことが重要になってきています。そういった意味で、

バリアフリーの推進は、持続可能な未来を社会とともに築いていく自発的活動を促す、「企業の社会

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的責任(CSR)」と同様の理念を抱いているといえます。

近年では、企業のユニバーサルデザインに対する関心も高まり、これまで 2002 年には横浜で、

2006年には京都で国際ユニバーサルデザイン会議が開催されました。2010年 10月 30日~11月

3日には浜松で同会議が開催されます。京都の会議では、世界 29の国と地域から 5日間で約 1万

5千人が参加しました。

障害者福祉と聞くと慈善・施し的なイメージが先行しがちですが、それは障害者を「助けが必要な

人々」と捉えていることに起因し、障害者は、社会の一員として地域の発展に貢献することができる

人々、更に、社会に変革をもたらすことができる人々である、と意識転換を図れるかどうかが、バリア

フリー環境形成、更には「万人のための社会」を実現させる上で重要な要素となっています。

プロジェクトでは、今後も、障害者のエンパワーメント、障害者の社会参加を妨げているバリアを

取り除くための活動等を通して、障害当事者の積極的な活動を支えていきたいと思っています。

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寄 稿

「JOCV 通信」

20 年度 2次隊 村落開発普及員

濱田 正章

<<はじめに>>

青年海外協力隊平成20年度2次隊、村落開発普及員としてケソン州サリアヤ町で活動していま

す。『村落開発普及員』…。協力隊以外の人は勿論、他職種の隊員からも『一体何やってるの?』と

聞かれることは多々あります。また、当地フィリピンでも、『どんな仕事?』と聞かれ言葉に窮してしま

うことも少なくありません。村落開発普及員について、JICA ホームページでは以下の様に記されて

います。

村落開発普及員の活動は、対象とする地域の住民の生活向上や社会改善に寄与することを目

的としています。隊員は、住民とともに生活し、住民の目線から諸問 題を掘り起こし、住民との話し

合いを通じて実現可能な解決策を探っていきます。すなわち、「参加型」の開発が基本となっていま

す。

活動は、基本的に住民から土地や労力の提供を受けながら展開されています。したがって、地域

の自然環境と文化的側面(宗教、社会構造、社会規範、価値観、 生業、経済活動など)を理解する

ことが、その第一歩となることは言うまでもありません。村落開発の活動は、私たちの文化とは異なる

文化をどのようにとらえるかが常に問われます。

村落開発の活動は、一朝一夕にその成果がみられるものではありません。長期にわたる辛抱強

い取り組みが必要となります。隊員の活動は、諦めることなくこれ までの生活様式とは異なる考え方

や発想を住民に提示することです。言いかえれば、住民の生活改善に寄与する人的、技術的ある

いは社会的な基盤作りに陰なが ら貢献することなのです。

なるほど…。改めて『村落開発普及員とは一体何なのか』を考えてみると、自分の活動に足りない

こと、すべきことが、見えてくる気がします。

一方村落開発普及員とはどんな人たちなのかというと…。

応募をなさる皆さんに求められる資質は、協力隊活動に対する情熱とともに異なる文化を相対的

にとらえることのできる視点と、ものごとの枠組みにとらわれない柔軟な発想です。実際にプロジェク

トを進めるうえでは、相当な企画力、交渉能力、行動力、語学力が必要です。また活動の場は農漁

村ですから、快適な居住 空間、栄養豊かな食事、きれいな衛生状態は望めません。そのため、隊

員には心身ともにたくましさが要求されることはいうまでもありません。

活動を遂行するためには、異文化を理解する力や社会や経済をみる能力が求められます。その

ため現地からは、文化人類学、社会学、開発経済学、比較文化、農業経済学、農学などの学問的

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な背景が要求されることが多いのも事実です。なお、選考にあたっては、村落レベルでのニーズ調

査あるいは社会文化面での調査研究、NGO や社会福祉関係のボランティア活動、青少年活動のリ

ーダー、農業をはじめ経理、販売企画、組織運営、教職などに係わる専門的な知識や経験(1~2

年以上)を高く評価しています。

ふむ…。間違いなく自分は、上記のような大層な人間ではないわけですが、少なくとも面接官の

先生方は多少なりともこういった素養を私に期待していたわけですね。

前置きが長くなってしまいました。以下、私の配属先と活動の紹介、そして私が何を考えて活動し

ているのか、生意気ではありますが語ってみたいと思います。

<<配属先と活動について>>

私の配属先はAlay Kapwa Rural Women Multi-Purpose Cooperative(以下組合)という農村部の多

目的組合です。地域の女性をカトリックのシスターが組織化し、それが組合となりました。ココジャム

やマロンガイティー等の食品と、ココナツ繊維や肥料等の産業用品の生産販売、また、地域の奨学

金制度や幼稚園の運営も行っています。活動は活発であり、住民の参加状況は私の赴任当初から

良好でした。何故『良好』なのか。組合のこれまでの経緯やメンバーの性質を基に考えてみると、

様々な理由や改善すべき問題点が見えてくるのですが、そこまで説明してしまうと、ワード A4 が数

十枚必要になってしまうのでここでは省きます。

私の要請内容は端的に言うと『会計指導』と『販路開拓』の二点。村落開発普及員でこうした要請

内容で、いざ現地に赴任すると、『メンバーのやる気がない』、『商品を作っていない』、更には『配属

先そのものがない!!』という状況が頻繁に起こっているようです。私の場合、幸運にも活動する組

合も売るべき商品も最初から存在しており、寧ろ拍子抜けしてしまった程です。

2008 年 9 月の赴任以降、一年半、最も重視してきたのが会計指導です。組合にまつわる全ての

入出金を管理し、帳簿を付け、決算書に落とし込んでいく。当初は、組合が幾らお金を持っている

のかさえ曖昧な状況であり、売上や利益、費用の計算なんて問題外という状況でした。これまで、勤

勉なスタッフに支えられ、ある程度の形は整ってきました。私は簿記については、前職の関係で多

少の知識は持っていたものの、ここはフィリピンです。ベースは同じでも、端々に独自のルールや考

え方が存在します。これらについては、自らも勉強するか、『いってこい!』の精神でとりあえず良く

分からないけどやってみるか、のどちらかでなんとかこなしてきました。

組合は残念ながら慢性的な赤字体質で、スタッフ給与等の組合運営費用や幼稚園、奨学金の運

営に係る費用の全てを、自ら捻出することが出来ず、その多くを外部からの寄付金に頼っています。

教会関係者、地元の有力者、選挙間近の政治家等、本当に多くの寄付がばら撒かれていきます。

営利・非営利を問わず、組織を運営していくうえでは、利益を蓄積し、それを次の投資にあてていく

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ことが健全であると私は考えます。寄付というものの存在の是非に関わらず、利益を産み出せず赤

字部分を外部に依存している以上、組合の成長は有り得ない筈です。私は、この組合の状況をすぐ

さま改善することこそ難しいかもしれませんが、数字をある程度正確に把握することで、考え方やそ

の材料を与えることが出来ればと思っているのです。

販路開拓については、これまでは主に JICA 関係者や知人の日本人の方に買って頂いた程度で

す。金額としては、かなりの売上を組合に還元できてはいるのですが、これは当然『私あってのもの』

であり、継続性は期待できません。今後はパッケージの改良や各種営業許可の取得、トレードフェ

ア出店等の広報活動等、これからの営業活動につながることを行っていければと思っています。

会計指導では、情報の収集、そして今後の組合運営を計画するためのアイデアを提供したいと

いう狙いがあります。具体的な数字を元に議論するためのものです。組合は、商売に対する認識が

非常に甘く、さらには単純な『算数』のスキルが日本と違うので、これがとてもとても難しいのです。

『今月は交通費が20000ペソだ!来月は減らそう!!』とか『ジャム先月1000ペソしか売ってないよ。

もっと頑張ろう!』とか『お茶の原価高くない?もっと安い材料ないかなぁ』とか…。狙いは至極シン

プルです。しかし、この意識がなければ、無計画に商品を作って売ってを繰り返しても、状況は改善

しない可能性が高いのです。こうした意識に基づいて、『たくさんのものを売って』『出費を節約する』。

カルロス・ゴーンであれば、徹底的なリストラを実施するのですが、私はゴーン氏ではありません。ゴ

ールはあくまで『地域の人々の幸せ』であり『組合の健全な運営』ではないのです。このあたりの天

秤が非常に難しいところです。

その他、どんなことをしているのかというと、幼稚園の子どもに日本からの楽器を送ったり、マロン

ガイティーのラベルや効用の説明書を作ったり、時にはマロンガイの葉をもいだり、貧弱な筋肉にも

関わらず肥料をズタ袋に詰め込む作業を手伝ったり…。日々ダラダラと、南国の太陽の下、楽しく働

かせてもらっています。

<<おわりに>>

ここまでだらだらと書いて、改めて村落開発普及員という職種と求められる素養について考えて

みると、如何に無理難題を突き付けられているのかということを、実感するわけです。JICA の広報誌

や協力隊 OV の活動発表を見れば、どれだけ多くの村落開発普及員が、世界中で素晴らしい活動

をしてきたか確認出来ます。但し、それはあくまで日本人目線であり、本人目線でしかありません。

どれだけの活動が、本当の意味で地域やコミュニティの活動に貢献出来たのか、変化を与えられた

のか…。実際にフィリピンで活動して一年半、ここの人たちは『自分のことは自分で決めたい』と思っ

ていると強く感じます。我々が出来ることは、あくまで、材料やヒントを与えることだけなのではないで

しょうか。

ところで、私自身の活動、最近とても焦っているのです。『一年半でこれしかやってないのか…』と。

理由は二つあります。ひとつめは、言葉で言うのは簡単ですが、実際にやってみると、たかだか簿

記を教えるにしても、結構な労力と時間が必要なのです。ふたつめは、毎晩のように地元の人に誘

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われ、慢性的な二日酔いでなかなか仕事が進まないのです。

現地の人々の生活を変えるのは、巨額の資金を用いても、本当に難しいと思います。いっそのこ

と、フィリピンなんて、村人全員に1000ペソずつ渡してしまった方が早いかもしれない。それでも、僕

は、村落開発普及員として、今の場所に来れたことに感謝するのです。彼らに何かしてあげるのが

難しいのであれば、せめて『アキ(僕のフィリピンでのニックネーム)がいて、二年間本当に日々楽し

かったなぁ』と思ってもらいたい。そう思うと、酔って下品な冗談を言っている時間も、子どもを蹴飛ば

している時間も、無駄ではないんだろうな、と考え直したりするのです。

とは言いましても、僕もまだ血気盛んな青二才です。昨日から今日にかけて、2009 年の決算書の作

り方の件で、配属先の一番偉い人と揉めに揉め、ふて腐れてふて腐れて、今この原稿を配属先で

書いているのです。どうしようもない終わり方ですが…これをもって、この文章を締めさせて頂きま

す。

去年の誕生日に 地元の人と飲みながら

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OJT体験記(その4) ~OJTの休日(ジョリビー編)~

JICA本部東南アジア第一・大洋州部第三課(フィリピン担当) 高木有也

(水利組合強化支援プロジェクトへ 2009年夏配属) 日々目まぐるしく変化し、激戦が展開されているであろうファストフード業界。そのファストフード業

界においてフィリピンのマーケットを牽引する巨人がいる。その名はジョリビー。フィリピンを訪れた誰

もが一度は目にする、愛くるしい赤い蜂をマスコットキャラクターとするこのファストフードチェーンは、

世界に君臨するM社を抑え、当地比国ではトップに君臨している。一方、M社は、ジョリビーの台頭

によって、比国においてのみトップになれないと言われている。

ジョリビーがその端を発することになるのは 1975 年、もともとはクバオにアイスクリーム屋としてオ

ープンした。その歴史はわずか 30 年余りである。しかしその間にピザのグリーンウイッチ、中華のチ

ョーキン等を吸収し、09 年 6 月末のジョリビー・フーズの国内店舗数は 1528 店舗に達したという*。

現在も積極的な経営を続けており、その勢いたるや驚きを禁じ得ない。

ジョリビー・フーズは、フィリピンを代表するファーストフーズ・レストランから、国際レストランチェー

ンへの更なる飛躍を目指しているという†。2020 年までに総店舗数を 08 年 12 月の 1804 店から 2.2

倍の 4000店へと拡充との目標を打ち出している。海外店舗比率も現在の17%から 75%へと高める意

向であるらしい。実際にJollibee公式ホームページを見てみよう。Jollibeeアメリカやベトナム、ブルネ

イやサウジアラビアにも支店があることがわかる。

オーナーはやはりフィリピン経済を席巻する華僑系である。その名はトニー・タン・カクティオン氏。

SM のヘンリー・シー氏、サンミゲルのダンディン・コファンコ氏、PAL(フィリピン航空)のルシオ・タン

氏など、フィリピン経済の中核を担う華僑系財閥は多い‡§。後で需要がついてきたのか需要主導で

積極展開したのか、あるいはその両方なのかは定かではないが、都市部では至る所でJollibeeの看

板が目に入る。しかも大抵混雑している。筆者も Jollibee で並ばずに買えたことがない。

こんなこともあった。マカティの都会的雰囲気とは違った風景を見てみようと、私はキアポ周辺を

歩いていた。貧困地区といわれるトンド地区の端に行き着いたとき、一際異彩を放つ綺麗な建物が

* (09年 8月 13日のフィリピン証券取引所回覧 5557-2009号より)内訳はハンバーガーのジョリビー664店、中華のチャウキン 390店、ピザのグリーンウイッチ 228店、ケーキ・ベーカリーのレッドリボン210店、デリー・フランス 23店、マノン・ペペ 13店。 † 同上 ‡ 「2009年フィリピンの長者番付 40人」(米経済誌フォーブス)によると、ヘンリー・シー氏が首位、ルシオ・タン氏が 2位、コファンコ氏は 7位となっている。 § 余談ではあるが、グリーンベルトやグロリエッタ、ランドマークでお馴染みのアヤラ財閥はスペイン系であり、スペイン人の血を守っている。

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目に入った。そこにはジョリビーの姿があった。道路も舗装されておらず、裸の子どもが座っている

中で際立つ真新しい姿のジョリビーはやや不自然であった。しかし、その積極的な展開姿勢はここ

でも健在であった。中には裸足の子どもや薄汚れた服をきた子どもたちもデザートを買いに来てい

た。その懐の深さや積極的な経営姿勢が、M社やフライドチキンのK社の追随を許さない強みであ

るのかもしれない。

味はどうだろう?率直に言えば、なかなか美味しい。スパゲッティはバナナケチャップを使用して

いて非常に甘いが、(それ以外の)大抵のメニューは日本人の口にも合うという印象。

主力メニューの価格については、M社、K社とともに大きな違いがないように見える。M社、K社にも

フィリピン人が好むライスメニューはある。しかし、Jollibeeは廉価なデザートや軽食も多数取り揃えて

おり、やはり他2社に比べると比較的所得の低い世帯や家族連れをターゲットに据えているように感

じる。

いずれにせよ、フィリピンを訪れたのなら一度その味を噛みしめ、フィリピン人の嗜好を探ってみ

てはいかがだろう。

筆者個人としては、積極的な海外展開が進み、いつか日本に Jollibee が上陸するのもまた楽しみ

である。

(完)

おススメは Supper Meal。珍しく野菜も少しだけついてくる。

新メニュー(2009年 9月時点) Jollibee Chicken Barbecue

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保健室だよ、みんな元気! フィリピン事務所 在外健康管理員 青嶌 利優

~女性が気になる子宮頸がん・ワクチンの最新情報~

皆さん、こんにちは! 今月は女性にとって気になる話題です。JICAのミセス会でもお話しました。 子宮頸がんの最新情報です。 1. 子宮頸がんとは 子宮頸がんには、2つの種類があります。 1つは子宮の入口に出来る「子宮頸がん」で、もう1つは子宮の奥に出来る「子宮体が

ん」です。割合として多いのは、子宮頸がんです。 「がん」と聞くと、中高年の人に発生するものという印象を持つ人が少なくないです。

しかし、子宮頸がんは、20~30歳代の女性に増えており、若い世代にも十分に注意が必要です。 子宮頸がんだと診断される人は、毎年約 15000人に上り、そのうち 3500人が死亡すると推定されています。 子宮がんの原因は「ヒトパピローマウイルス(HPV)」に感染することです。2009年10月に、ヒトパピロ-マウイルスに対するワクチンが日本でも承認され、子宮頸がんの発生や、子宮頸がんによる死亡の減少が期待されます。

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2. 子宮頸がんと子宮体がんの違い

3. ヒトパピローマウイルスとは

ヒトパピローマウイルスは、もともとは、皮膚などにいぼを作るウイルスです。 100 種類ほどの型が確認されており、その中の 10 種類が「ハイリスク型」と呼ばれ、子宮

頸がんの原因となります。中でも、特に「16型」「18型」によるものが多く、子宮頸がんの

7 割を占めています。ヒトパピローマウイルスの感染経路は、主に性交渉です。特別なウイルスではなく、性交渉の経験がある人の 8割以上が少なくとも一度は感染したことがあると

いわれるほどです。

4. 感染するとどうなるのか

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5. 子宮頸がんワクチンについて 2009年 10月、ヒトパピウローマウイルスへの感染を防ぐワクチンが日本でも承認されました。これは、子宮頸がんの原因の約 7割を占める、16型と 18型のウイルスに対するワクチンです。 半年間に 3 回、筋肉注射による接種を受けることで、最低でも 20 年以上効果が持続します。 フィリピンですと、日本人会診療所で 1回約 8000P(日本と大体同じ値段)で接種できます。(JICAの負担対象外)

6. ワクチン接種対象について ワクチンはあくまでヒトパピローマウイルスの感染を予防するものであり、感染した細

胞を治療するものではありません。従って、性交渉を経験する前にワクチン接種を受け

るのが最も効率的です。だからと言って、性交渉の経験後は効果がないかと言うと、そ

うではありません。20歳以上で 7割程度、30歳代では 5割以上、子宮頸がんの発生を防ぐ効果があります。 日本では、11~14歳の女子が第一に接種を受けるのが望ましいとされています。その次の対象は、15~45 歳の女性です。11~14 歳の女子は無料で受けられるよう、国が検討しています。15~45歳の女性に関しても、何らかの公費負担により、接種率が高くなることが望まれます。 ワクチンの接種は、産婦人科や小児科などで受けられますが、全ての医療機関で接種で

きるわけではないので、各医療機関に問い合わせが必要です。 尚、妊娠中の女性はこのワクチンの接種を受けないほうが良いとされています。

7. 子宮がん検診を受けましょう! ヒトパピローマウイルスの 16型と 18型に対するワクチンで子宮頸がんの 7割は防ぐことが出来ますが、完全に予防できるわけではありません。子宮頸がんの検診を定期的に

受けて、早期発見に努めることも重要です。 細胞診:ブラシやへらで、子宮頚部の細胞をこすり、異常な細胞の有無を調べます。が

ん細胞だけでなく、その前段階である異形成も発見できます。細胞診の結果から、精密

検査が必要になる場合もあります。 ヒトパピローマウイルス検査:細胞診同様、子宮頚部の細胞を採取し、ヒトパピローマ

ウイルスの有無を調べます。

以上

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離着任専門家のご紹介

ようこそ! 着任専門家

氏 名 プロジェクト名 専 門 配属先 派遣期間 島田 敬 個別 総合交通実施・

管理

DOTC 10.3.5- 12.3.4

小林 伸司 犯罪捜査能力向上 犯罪捜査能力向

PNP 10.3.15- 12.3.14

大嶋 正治 個別 投資促進 BOI 10.3.17- 12.3.16

御疲れ様でした 離任専門家

氏 名 プロジェクト名 専 門 配属先 派遣期間 村上 いづみ 母子保健 母子保健計画・

チーフ アドバ

イザー

DOH 06.7.14- 10.3.14

山岸 信子 母子保健 公衆衛生 JICA 06.5.1- 10.3.14 真田 仁 個別 総合交通政策 DOTC 07.3.15- 10.3.14 星野 吉宏 国家警察犯罪対策能力 パイプライン/

初動捜査

PNP 07.10.1- 10.3.26

鈴木 翔三 個別 投資促進・輸出

工業化指導

BOI 06.1.25- 10.3.31

関口 博久 個別 電気通信行政 CITC 07.10.30- 10.3.31

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編集後記

フィリピンは既に夏真っ盛りで、3月 6日にマニラ日本人会主催の「盆踊り大会」が開

催されるなど、春の気配を微塵も感じさせてくれません。唯一、離任専門家数がいつもの

月より多いことが、別れの季節だなぁと感じさせてくれます。

一方、本年 5 月 10 日の統一選(大統領、国会議員、州知事等)に向け、フィリピン国

内は選挙モードに突入し、街のあちらこちらで候補者のポスターを見ることが出来ます。

選挙戦の本番はまだまだこれからだと思われますが、この選挙期間中、専門家やその家族

の方々が無事に過ごせるよう祈るばかりです。「誰が大統領になってもフィリピンは変わ

らないのではないか?」という疑問を新大統領が払拭し、フィリピンが良い方向に向かっ

て発展してくれることを願っています。

以下の2枚の写真は、Rockwell 地区から撮影した開発著しいFort Bonifacioの風景で

す。僅か 2年間で高層ビルが壁のようにそびえ立ってきているのが分かります。統一選挙

後、我々専門家の活動が一助となり、Fort Bonifacio だけでなく、フィリピン国全体が

着実に発展していってほしいものです。(編集子)

2008年 1月 14日撮影

2010年 3月 7日撮影