ビッグデータ時代の情報活用 -...

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FUJITSU. 65, 5, p. 41-47 09, 201441 あらまし 企業内外に存在する多種多様で膨大なデータ,いわゆる「ビッグデータ」をうまく活用 し,多様化する消費行動を読み解くことで,新たな商品・サービスの開発や顧客の効率 的な獲得や育成といった企業活動に大きな価値をもたらすことが期待されている。 本稿では,富士通が行っている二つの業種におけるビッグデータの取組みを紹介する。 一つ目は,多様な接点情報(オムニチャネル)による消費者囲込みが急務になっている小 売業の取組みである。爆発的に増加する多様でアドホックな顧客の消費行動情報を解析 し,ある顧客群のニーズを可視化するICT基盤と,現場が情報を活用し施策につなげる場 (ワークショップ)を提供するサービススキームについて説明する。二つ目は食品メーカー のマーケティング領域での取組みである。前述したように,小売業のオムニチャネル化 も絡めてネット購入層が拡大し,それに伴ってテレビCM中心のプロモーションからネッ ト広告などへプロモーションチャネルが多様化している。このように,食品流通業は,ビッ グデータをキーワードに激しく変わろうとしている。その上流に位置している食品メー カーでは,これまで以上に精緻なターゲッティングによる効果的なマーケティングを目 指し,データとデータ解析を活用する機運が高まっている。 Abstract Making good use of massive amounts of various data that exist in and outside enterprises, or so-called big data,to analyze consumption behaviors that are becoming increasingly diverse is expected to bring significant value to corporate activities including the development of new products and services and efficient acquisition and development of customers. This paper presents Fujitsus activities related to big data in two categories of business. First it covers the retail industry, in which corralling consumers through various types of contact information (an omni-channel approach) is urgently needed. It describes an information and communications technology (ICT) platform for analyzing the consumption behavior information of the exploding number of diverse and ad-hoc customers to visualize the needs of certain customer groups, and a service scheme for providing an opportunity (workshop) to use information on the front line to formulate measures. Second, activities by food manufacturers in the marketing area are explained. As mentioned above, the Internet buyer group is expanding along with the omni- channeling in the retail industry, and this has caused a diversification of promotion channels from promotion based on TV commercials to a type that includes Internet ads. In this way, the food distribution industry is undergoing a sea change with big data as the keyword. Among food manufacturers, which are in the upstream of the industry, there is increasing momentum to utilize data and data analysis for effective marketing by having more finely focused targeting than ever. 宮澤哲也   鈴木飛龍    ビッグデータ時代の情報活用 Utilization of Information in Big Data Age

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Page 1: ビッグデータ時代の情報活用 - Fujitsuし,多様化する消費行動を読み解くことで,新たな商品・サービスの開発や顧客の効率 的な獲得や育成といった企業活動に大きな価値をもたらすことが期待されている。

FUJITSU. 65, 5, p. 41-47 (09, 2014) 41

あ ら ま し

企業内外に存在する多種多様で膨大なデータ,いわゆる「ビッグデータ」をうまく活用し,多様化する消費行動を読み解くことで,新たな商品・サービスの開発や顧客の効率的な獲得や育成といった企業活動に大きな価値をもたらすことが期待されている。本稿では,富士通が行っている二つの業種におけるビッグデータの取組みを紹介する。

一つ目は,多様な接点情報(オムニチャネル)による消費者囲込みが急務になっている小売業の取組みである。爆発的に増加する多様でアドホックな顧客の消費行動情報を解析し,ある顧客群のニーズを可視化するICT基盤と,現場が情報を活用し施策につなげる場(ワークショップ)を提供するサービススキームについて説明する。二つ目は食品メーカーのマーケティング領域での取組みである。前述したように,小売業のオムニチャネル化も絡めてネット購入層が拡大し,それに伴ってテレビCM中心のプロモーションからネット広告などへプロモーションチャネルが多様化している。このように,食品流通業は,ビッグデータをキーワードに激しく変わろうとしている。その上流に位置している食品メーカーでは,これまで以上に精緻なターゲッティングによる効果的なマーケティングを目指し,データとデータ解析を活用する機運が高まっている。

Abstract

Making good use of massive amounts of various data that exist in and outside enterprises, or so-called “big data,” to analyze consumption behaviors that are becoming increasingly diverse is expected to bring significant value to corporate activities including the development of new products and services and efficient acquisition and development of customers. This paper presents Fujitsu’s activities related to big data in two categories of business. First it covers the retail industry, in which corralling consumers through various types of contact information (an omni-channel approach) is urgently needed. It describes an information and communications technology (ICT) platform for analyzing the consumption behavior information of the exploding number of diverse and ad-hoc customers to visualize the needs of certain customer groups, and a service scheme for providing an opportunity (workshop) to use information on the front line to formulate measures. Second, activities by food manufacturers in the marketing area are explained. As mentioned above, the Internet buyer group is expanding along with the omni-channeling in the retail industry, and this has caused a diversification of promotion channels from promotion based on TV commercials to a type that includes Internet ads. In this way, the food distribution industry is undergoing a sea change with big data as the keyword. Among food manufacturers, which are in the upstream of the industry, there is increasing momentum to utilize data and data analysis for effective marketing by having more finely focused targeting than ever.

● 宮澤哲也   ● 鈴木飛龍   

ビッグデータ時代の情報活用

Utilization of Information in Big Data Age

Page 2: ビッグデータ時代の情報活用 - Fujitsuし,多様化する消費行動を読み解くことで,新たな商品・サービスの開発や顧客の効率 的な獲得や育成といった企業活動に大きな価値をもたらすことが期待されている。

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ビッグデータ時代の情報活用

くされ,自社販売チャネルの強化と連携によって補完されるチャネルとの最適な組合せによって,消費者を「場所」「時間」の両面で囲いこむ必要が生じた。このようにチャネルを戦略的に展開し,的確なマーケティング施策につなげる時代が到来している。一方,ICTの進歩によりチャネルを通じて得られる情報は爆発的に増えてきている。小売業は,これらを上記のチャネルの強化と最適な組合せ戦略に沿って,有効なデータを取得するとともに,その組合せにより分析評価する必要がある。これらの背景から,富士通は小売業の多様なチャネルを統合的にサポートするビジネスプラットフォームCHANNEL Value(注1)(図-1)を定義する。更に,多様なチャネルを利用する消費者をより鮮明に読み解くために,統合的名寄せにより一元管理できる顧客統合基盤を提供する。そして,その基盤を利用しながらチャネルの組合せを行い,得られたチャネル戦略に有効な情報の可視化,および施策への展開を支援する分析基盤サービスを提

(注1) 小売業を中心に消費者・生活者・取引先との組合せるべき価値あるチャネルをビジネスプラットフォーム(BP)上に集め運営する富士通のサービスである。国内ではネット事業者が先行して推進しており,そのBP上にどれだけの魅力的な企業が参加するかでBPの価値に影響する。

ま え が き

モバイルデバイスやセンサーなど,データを生成し収集する機器が増加している。これらの機器によって収集された膨大なデータをうまく分析することで,今まで企業が知り得なかった消費者の行動や関心が明らかになり,顧客の効率的な獲得や育成といった施策などのマーケティングに活用する期待が大きくなってきている。しかしその反面,ビッグデータの大半は業務オペレーションで副次的に発生する情報であるため,価値密度は薄くなる。したがって,これらの副次的情報をうまく組み合わせて価値化するための技術が必要となってきている。本稿では,流通業における商品・サービスの発生元であり顧客への最終提供元(顧客接点)でもあると同時に,ビッグデータをマーケティングに活用する需要が高いメーカー(食品)・小売業における富士通の取組みについて紹介する。

小売業における情報活用

● オムニチャネル時代のデータ活用スマートフォンなど携帯端末の普及とSNS利用の広がりは,消費者の消費情報の入手と購買ルートの選択肢の幅を格段に広げた。これに対して小売業は「顧客接点(チャネル)」の見直しを余儀な

ま え が き

小売業における情報活用

図-1 CHANNEL Value

グループポイントサービス

積立型電子マネーサービス

決済サービス

流通BMS

統合顧客基盤 サービス

分析基盤サービス

取引先サイトサービス

街マネー 小売業CHANNEL

Value

LittleData

取引先

LittleData

LittleData

LittleData

LittleData

LittleData

ECサイトサービスLittle

Data

販促オファーリングサービス

LittleData

生活者

顧客

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ビッグデータ時代の情報活用

これらの情報可視化を支える分析基盤のポイントを以下に示す(図-3)。(1) CHANNEL Valueをとおして得られる多種多様な情報をフラットデータ形式で格納するODS(注2)基盤を提供する。フラットデータ形式で格納すれば,データ形式にこだわらず一時的なアドホックな付加情報(注3)や情報活用のプロセス(後述)で利用ごとに付加される価値ある情報(注4)を,その未来価値をそぎ落とすことなく管理することができる。

(2) 使うたびに価値ある情報が増加するフラットな大量データをHadoopで高速並列処理し,見たい形で柔軟に表現できるインメモリ型のADV(注5)

ツールを活用する。

(注2) Operational Data Storeの略。 異なる業務システムのデータ(オペレーショナルデー

タ) を統合的に集約管理する仕組みである。従来はマスター化された情報をデータベースで管理していたが,フラットデータ処理技術の発展により,多様な形式のデータを統合的に管理する仕組みとして活用されている。

(注3) 商品DNAや顧客DNAなど,従来のマスターでは捉えることのできない商品や顧客の価値・趣向性情報である。

(注4) 購買商品の類似性での分類されたグループ情報,および顧客マスターから取得できないライフステージ情報(独身,DINKS,専業主婦,働きママなどの情報を消費行動から推定)である。

(注5) Advanced Data Visualizationの略。 ビッグデータの分析結果を視覚的に表現し,重要なパ

ターン性や洞察を得るための高度な可視化の仕組みである。近年は,人間の思考(ニーズ)に即した瞬間的な可視化が求められ,インメモリ型のADVが活用されている。

供する。2011年から,接点情報を分析するサービスを先行実証実験として推進し,2013年に実証実験によって得られた知見を分析シナリオとして体系化と基盤の整備を行い,サービス事業として立上げた。以下に,オムニチャネル時代に必要なリトルデータの組合せの活用とその分析スキーム,ならびにICT基盤について説明する。● 戦略展開・施策立案に情報活用を定着させる

ためのサービス提供のポイント~「モノ」から「コト」への転換~従来,情報分析は現場部門から提供されたニーズを基に,情報システム部門とITベンダーが中心となり「モノ」づくりを推進していた。ニーズに則ってデータを正規化し,可視化のビューを定型化していた{図-2(a)}。その結果,正規化と定型化により将来の柔軟性を大きく失い,「時間」と「モノ」を通してえん曲的に提供されるため,現場のニーズとのギャップが広がってしまう。これに対し,富士通は情報の形式にこだわらず

(内部・外部の混在),現場のニーズ(イメージ)に近い可視化を提供する。ICT基盤と可視化された情報を戦略・施策まで展開する疑似体験のワークショップ(WS)を通じて,この課題の解決を図る。すなわち,情報活用における劇場型「コト」づくりの場の提供である{図-2(b)}。● 可視化を支える情報技術分析結果は,WSを通じて共有化したテンプレートを使って提供される。

図-2 情報活用「モノ」から「コト」への転換

システム(基盤/アプリケーション)

現場で情報を活用する人

モノづくりモノづくり主体主体

システム(基盤/アプリケーション)

現場で情報を活用する人

事務局・調整

データ提供

劇場型劇場型

コトづくり(ワークショップ)コトづくり

(ワークショップ)

(a) 従来(「モノ」づくりの情報活用) (b) 今後(「コト」づくりの情報活用)

富士通現場ITベンダー

情報システム部門

現場

情報システム部門

ニーズ

ニーズ

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ビッグデータ時代の情報活用

による顧客のグループ分けによって,それらの特徴が可視化される。更に,グループを読み解くために従来の定量的なセグメンテーション(デシル・RFMなどの分析手法)を用いて特徴を探り当て,その特徴を取り上げる。こうしたグループ化とセグメンテーションを繰り返し,情報可視化基盤をどのように活用し,戦略展開・施策立案に適用したのか,そのプロセスを4点述べる(図-4)。

● 情報活用のプロセス次に,戦略展開・施策立案に情報活用を定着させるための,WSをとおした情報活用のプロセスについて述べる。情報を可視化した消費行動の解析において,重要なことはグループ化とセグメンテーションを繰り返すことである。消費行動というのは一人十色であり,様々な場面で,多様なチャネルが利用されるため,一人ひとりを理解することは難しい。様々な場面における消費行動の類似性

図-3 情報可視化基盤

図-4 情報活用のプロセス

グループポイントサービス

積立型電子マネーサービス

決済サービス

流通BMS取引先サイトサービス

街マネー 小売業CHANNEL

Value

LittleData

取引先

LittleData

LittleData

LittleData

LittleData

LittleData

ECサイトサービスLittle

Data

販促オファーリングサービス

LittleData

生活者

顧客

CHANNEL Value

整理する 抽出する 理解する

不揃いなデータを統合

データに潜む傾向を数値化

発想を助けるための視覚化

集める

多種多様なデータを収集

【データ蓄積基盤(ODS)】

情報可視化基盤(クラウド)可視化(ADV)

データ保管・高速処理

【データ加工基盤】 【データ可視化基盤】

メモリ

・・・

DATA

DATA

DATA

【データ抽出基盤】

可視化目的に合わせた最適データ抽出(グループ化)

グラフィッククレンジングマスタ結合分析軸追加

【セキュリティ基盤】

データ価値化

意味付け

外部情報

グループ化の付加情報付け(意味ある 情報を付加)

データ質量のUP

グルーピング

ODS(非正規化データ)(価値のある

 情報との組合せ)

セグメンテーション

活用できるデータへ可視化 業務への活用

一時的な商品カテゴリー一時的な商品カテゴリー

(スーパー)

売上情報(百貨店)

一時的な会員情報

会員情報

商品マスタ

(商品DNA)

ワークショップ

テンプテンプレート

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ビッグデータ時代の情報活用

がった。【今後の主力展開を計画しているナチュラルテイストを

キーコンセプトとしたショップ群の顧客育成層を取り

出し,専門雑誌の送付により定着化を狙った施策】

(1) キーコンセプトに合ったショップを選定後,一時的に商品DNA(テイスト)を付与し,テキスト情報としてODSに格納する。これと,組織横断の感性的な情報との組合せにより,趣味嗜好を鮮明にする高付加価値情報への変換を行う。

(2) 全館の購買傾向の類似性でグループ化する。ナチュラルテイストショップの購買傾向の異なるグループ(特定ショップのファン,広くナチュラルテイストのショップを購入)が生成される。

(3) ADVを使い,グループごとの購買力(RFM),ライフステージ,どのようなショップで購入しているのか(買い回り傾向)を可視化し,グループ特性の理解を深める。また施策ターゲットとして,伸び代がある未成熟なグループを抽出する。こうした施策の効果として,ターゲットグループの特性に合わせた専門雑誌の企画・送付により,送付者の50%が3か月以内に来店し,該当のショップで購入した。今後のキーコンセプトを支える顧客の育成に貢献できた。● 今後の予定現在,プライベート型で提供している分析サービスをコミュニティ化し,分析を通じて蓄積したセグメンテーションのテンプレートやデータの価値を向上させるための付加情報をライブラリ化する。それを参加する企業間で共有し成長させるサービス(テンプレートイニシアチブ)を立上げ,参加企業が場を常に活性化する成長型サービスの立上げを推進していく。

食品メーカーにおける情報活用

● マーケティング領域食品メーカーのビッグデータ活用は,ここ数年で始まったばかりであり,活用領域は主としてマーケティング領域とサプライチェーン領域に大別できる(食品メーカー向けユーザ会討議より)。しかし,元々マーケティング領域から始まっていることから,現在も主としてマーケティング領域で取り組まれている。食品メーカーのマーケティングでは,従来より対

食品メーカーにおける情報活用

(1) 価値あるデータへの変換価値ある情報の組合せ,およびグループを読み解くために有効で一時的な付加情報(商品DNA)をフラットデータとしてODSで統合管理する。(2) グループの生成全体母集合をセグメンテーションしグループ化を解析し,表面化した観点や購買傾向の類似性によってグループを生成する。(3) グループの最適化セグメンテーションによりグループを評価する。セグメンテーションとグループ化,必要に応じたデータの修正・改善(粒度調整など)を繰り返し,特徴の近い最適なグループを生成する。(4) グループ化による価値ある情報の蓄積グループ化によって得られた販促に効果的な情報(顧客DNA)をODSに蓄積する。● 施策の事例グループ化とセグメンテーションの繰返しにおいて,戦略展開・施策立案に適用した事例を紹介する。

【百貨店食品売場から上層階(ブーツ売場)へ噴水効果を

狙った施策】

(1) 食品売場の購買情報に曜日・時間帯(午前・午後・夕方・休日)を組み合わせ,データの価値(注6)を上げ,ODSに格納する。

(2) 食品の購買傾向の類似性とライフステージ(年代)によりグループ化する。これにより,ブーツ購入のポテンシャル(購買率)に特徴のあるグループが生成可能となる。

(3) ADVを使い,グループごとの購買力(RFM),ブーツの購買傾向の特性(購入時期・スタイル・グレード)を可視化し,グループ特性の理解を深める。また施策ターゲットとして,特定グループに類似した未成熟(ブーツ未購入)なグループを抽出する。これら施策の例として,ターゲットグループの特性に合わせた商品展開・販促媒体の送付により,20%の顧客(通常の反応3~ 5%)が対象の売場で購入したという結果が得られた。つまり,食品売場から上層階への買い回り新規顧客の獲得につな

(注6) 購買商品×時間帯により単純な購買情報からライフスタイルをより鮮明にする高付加価値情報への変換を行う。

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ビッグデータ時代の情報活用

手く機能している例はほとんどない。ソーシャルメディアデータを活用するためには,ネットユーザーの代表性やサンプルとしての特性を分析アルゴリズムに組み込む必要があり,中心マーケットの代表として捉らえることは難しい。また,データとして購買行動に位置づけられるのか,あるいは消費行動に位置づけられるのかを明確にする必要がある。では,ソーシャルメディアデータに代わって利用されるデータとしては,例えば,富士通が提供している電子レンジのログデータ「レンジPOU」が挙げられる。このデータは,これまで食品メーカーがリーチできていなかった家庭の消費行動を詳細なデータとして取得している(図-5)。今後も,このように調理家電や冷蔵庫といった消費者の消費行動の実態が分かるログの活用が進んでいくであろう。(2) プロモーションこれまで,営業企画部門が中心になって行ってきた個別のプロモーションについてもビッグデータを使ったプロセスに変革していく。ここでもキーワードは消費者への直接リーチである。従来,食品メーカーのプロモーションは卸・小売を経由して行っており,消費者の反応を詳細に確認することは困難であった。そこで,ビッグデータを活用

象を絞り込むターゲティング・セグメント・母集団・デモグラフィック・サイコグラフィックなどのデータ網羅性よりも代表性の要件が大きい中で(スモールデータではあるが)データ活用がされてきた。それに対し,サプライチェーンの領域ではデータの網羅性が要求されるため,依然として基幹システムのデータが活用されており,ビッグデータ活用が進まない要因になっている。つまり,ビッグデータはその特性上,母集団の特性を代表的に抽出したデータを活用し,構成要素を分析していくことに活用されているのである。今後は,サプライチェーン領域においても代表性を用いた分析が進んでいくと考えられる。● マーケティングイノベーション食品メーカーのマーケティング領域において,ビッグデータを活用した場合,どのようなイノベーションが期待できるのか整理してみる。(1) 商品開発食品メーカーでは,従来,新商品開発や定番商品のリニューアルといった商品企画・開発段階において,アンケートやサンプルによる嗜好調査などを行ってきた。この領域では,今後は「SNSなどのソーシャルメディアデータが利用できる」とまことしやかに語られる場合が多い。しかし,ソーシャルメディアデータを活用した新商品開発が上

図-5 レンジPOU活用例

①お客様商品に絞って 傾向を確認

②お弁当利用が多い中, 夕食利用に着目

③何を食べてるか確認

④冷凍食品を利用している 食卓写真を確認

⑤冷凍食品を利用していない日 の食卓の写真から冷凍食品に 置き換えられるモノを検討

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ビッグデータ時代の情報活用

してプロモーション効果を把握し,効果のあるプロモーションを企画・実施することで,高いコストパフォーマンスが発揮できる(図-6)。この場合,まずはPOSデータを中心とした消費者の購買行動を把握できるデータを活用し,更に,SNSなどのソーシャルデータや,スマートフォンなども活用して消費者に直接働きかけることにも取り組んでいく。

む  す  び

本稿では,小売と食品メーカーにおける富士通のビッグデータ活用に対する取組みについて述べた。ビッグデータ活用というと,大量データの分析を通じてデータにモノを語らせる傾向もあるが,データ量に振り回されることが多い。したがって,まずは人の考える力を補完し,意思決定に寄り添

む  す  び

う形での利用形態が効果的であると考える。つまり,仮説検証型での情報活用である。そのために,企業側も情報を活用し,消費者にどのような価値を提供していくのか仮説検証を繰り返しながら推進していくビジネススキームが必要になってきている。前述したような流通業の変革を推進していく富士通も同様に変革していく必要がある。従来の情報分析のシステム(モノ)の提供から,情報収集からアプローチまでをお客様の仮説検証プロセスを支援するスキームと,それを実現する柔軟なICT基盤を提供するサービス(コトづくりの場の提供)への変革である。将来的には各企業個別に提供しているサービスを業界共通のパブリックサービスへ発展させ,業界全体の活性化にも貢献していく。

図-6 プロモーション実施プロセス

内部データ

高度データ解析

①Plan

& 戦略立案プロモーション企画

プロモーション実施

プロモーション効果分析実施結果

②Do ③Check

:データ分析でプロセス改善が見込まれる業務

・SNSデータ・POSデータ など

外部データ

・営業活用データ(売上・訪問件数など)

・売上データ(出荷ベースの売上)

次企画フィードバック

④Action

宮澤哲也(みやざわ てつや)

産業・流通システム事業本部流通業ソリューション統括部 所属現在,食品業向けビッグデータビジネス構築に従事。

鈴木飛龍(すずき ひりゅう)

産業・流通システム事業本部流通業ソリューション統括部 所属現在,小売業向けの消費行動分析サービスに従事。

著 者 紹 介