lect 空調熱源設備の運転状況および建物のエネルギー管理...

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── 実 施 例 ── ヒートポンプとその応用 2018.11.No.92 ─ 5 ─ ■キーワード/建築計画・設備計画・省エネルギー・大型商業施設・熱源設備 1.はじめに 2017年4月に㈱イズミの新業態の店舗「LECT」 (写真 -1)がオープンした。LECTは「住・食・知」のコン セプトのもと運営主体の㈱イズミとカルチュア・コンビ ニエンス・クラブ㈱(広島T-SITE),㈱カインズを核 テナントとし,新しいライフスタイルの提案を可能とす る多様な専門店からなる大型商業施設であり,主として 「知・食」を担うイズミ棟,「住」のカインズ棟から構成 される。 中央に広島T-SITEを配置し,3つのアルコーブ状 の外部空間(住の庭,食の庭,知の庭)を貫通するマガジ ンロードでイズミ食品館とカインズがつながっている。 外観デザインは,木立をイメージした垂直方向のラン ダムなカラーリングをベースにカーテンウォールやサッ シで構成されている。内装デザインも同じイメージコン セプトで統一されている。 建築設備計画では,高効率熱源システムの採用や BEMSによる設備運転・エネルギーデータの遠隔監視の 導入など,省エネルギーへの取り組みを実践している。 本稿では,イズミ棟の建築設備計画の概要と,オープ ンからの1年に収集した運転データに基づく空調熱源の 運転状況,および建物のエネルギー消費状況について報 告する。 ㈱エネルギア・ソリューション・アンド・サービス 多 田 雅 人 鹿島建設㈱ 中国支店 宅 間 康 人 LECT 空調熱源設備の運転状況および建物のエネルギー管理実績について 写真-1 建物外観

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  • ── 実 施 例 ──

    ヒートポンプとその応用 2018.11.No.92─ 5 ─

    ■キーワード/建築計画・設備計画・省エネルギー・大型商業施設・熱源設備

    1.はじめに 2017年4月に㈱イズミの新業態の店舗「LECT」(写真-1)がオープンした。LECTは「住・食・知」のコンセプトのもと運営主体の㈱イズミとカルチュア・コンビニエンス・クラブ㈱(広島T-SITE),㈱カインズを核テナントとし,新しいライフスタイルの提案を可能とする多様な専門店からなる大型商業施設であり,主として

    「知・食」を担うイズミ棟,「住」のカインズ棟から構成される。 中央に広島T-SITEを配置し,3つのアルコーブ状の外部空間(住の庭,食の庭,知の庭)を貫通するマガジンロードでイズミ食品館とカインズがつながっている。

     外観デザインは,木立をイメージした垂直方向のランダムなカラーリングをベースにカーテンウォールやサッシで構成されている。内装デザインも同じイメージコンセプトで統一されている。 建築設備計画では,高効率熱源システムの採用やBEMSによる設備運転・エネルギーデータの遠隔監視の導入など,省エネルギーへの取り組みを実践している。 本稿では,イズミ棟の建築設備計画の概要と,オープンからの1年に収集した運転データに基づく空調熱源の運転状況,および建物のエネルギー消費状況について報告する。

    ㈱エネルギア・ソリューション・アンド・サービス 多 田 雅 人鹿島建設㈱ 中国支店 宅 間 康 人

    LECT空調熱源設備の運転状況および建物のエネルギー管理実績について

    写真-1 建物外観

  • ヒートポンプとその応用 2018.11.No.92─ 6 ─

    ── 実 施 例 ──

    2.建物概要(イズミ棟)建物名称 LECT(レクト)所 在 地 広島市西区扇町二丁目建 築 主 ㈱イズミ主 用 途 商業施設敷地面積  54,843.57㎡(LECT全体)建築面積  22,392.11㎡延床面積 100,063.42㎡階  数 地上5階,地下1階,塔屋1階構  造 鉄骨造建物高さ 24.08m工  期 2016年1月〜2017年4月設  計 鹿島建設㈱ 中国支店 一級建築士事務所施  工 鹿島建設㈱ 中国支店電気・衛生施工     ㈱きんでん 中国支社空調施工 東洋熱工業㈱ 中国支店熱源設備 ㈱エネルギア・ソリューション・アンド・サービス     (㈱イズミからの熱源受託事業)

     写真-2〜5に内外観写真,図-1に断面構成を示す。 売り場は長さ350mの二層で,イズミ直営のスーパーマーケットとフードコート・レストラン,約150の専門店で構成される。3つの庭(写真-2・3)それぞれに対応した吹抜空間(写真-4)が断面方向の回遊性を高めている。吹抜空間からは庭を介して外部の緑を眺めることができ,明るく開放的な場所になっている。また各所にレストスペース(写真-5)が設けられ,1日中ゆったりと過ごせるよう配慮されている。

    写真-2 食の庭

    写真-3 知の庭

    写真-4 吹抜空間(センターコート)

    写真-5 レストスペース

    最高

    高さ

    24.

    04m

    4F屋上駐車場

    SM

    エスカレーターホール

    3F

    2F

    1FB1F

    図3-2-1

    駐車場

    駐車場

    店舗

    図-1 断面構成(店舗・駐車場)

  • ヒートポンプとその応用 2018.11.No.92─ 7 ─

    ── 実 施 例 ──

    3-3 電気設備受 変 電 22kV  7,500kVA      6.6kV 10,450kVA非 常 発 電 400V 225kVA      400V 255kVA電   灯 LED照明:売り場平均照度1,000Lx内 装 電 源 テナント:開閉器渡し      直  営:内装電源盤より給電防   災 非常照明,自火報,非常放送,      誘導灯,避雷針駐 車 管 制 ループコイル式 車両誘導システム採用電気自動車充電器      急速×1台,低速×3台太陽光発電 パネル容量 40kW3-4 昇降機設備エレベータ 客用9台,人荷用3台エスカレータ 10台

    3.設備概要(イズミ棟)3-1 空調設備熱  源 インバータターボ冷凍機400USRT×2台     空気熱源ヒートポンプモジュールチラー

    2,880kW空  調 外調機(3,780kW)+     ファンコイルユニット(1,680kW)     空気熱源ヒートポンプエアコン(3,250kW)排  煙 機械排煙(ルーフトップ排煙機)中央監視 中央監視盤,BEMS3-2 衛生設備給  水 受水槽280㎥+加圧給水ポンプ給  湯 ガス瞬間湯沸器(局所給湯)排  水 汚水・雑排水/雨水分流方式     厨房除害施設(100㎥/日)厨  房 従業員用厨房(200人食)ガ  ス LPG,バルクタンク0.98t×4基消  火 スプリンクラー(閉鎖型・放水型),     移動式粉末消火設備,消火器,     連結送水管,消防用水

    図3-2-2

    INVターボ冷凍機400USRT×2台

    外調機

    ファンコイルユニット

    冷却塔×2台

    膨張タンク

    CDS

    CDS

    CDSCDS

    CHS

    CDRCS

    CSCDR

    CHS

    CHSCHS

    CHR

    CHR

    CHRCHR

    CHRE

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    S

    CD

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    CS

    CS

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    CD

    S

    CR

    CR

    IR-1

    IR-2

    冷却水ポンプ×2台

    冷水一次ポンプ×2台

    冷温水二次ポンプ×3台

    AHP-1空気熱源ヒートポンプモジュールチラー 2,880kW

    (冷温水ポンプ内蔵)

    図-2 空調システム図

  • ヒートポンプとその応用 2018.11.No.92─ 8 ─

    ── 実 施 例 ──

    5-1-2 冷房ピーク負荷熱量(時刻別) 冷房ピーク負荷を記録した2017年7月30日の負荷熱量と製造熱量の推移を図-4に示す。空調立ち上がり時を除いた冷房ピーク負荷は同日16時ごろに最大負荷熱量14.93GJ/h(定格20.05GJ/h)を記録しているが,負荷に追従した適切な冷熱供給が行われている。 なお,空調立ち上がり時のピーク負荷は空調設備の順次起動などにより緩和が可能と考えられるため対象から除外している。

    5-1-3 暖房ピーク負荷熱量(時刻別) 暖房ピーク負荷を記録した2018年2月4日の負荷熱量と製造熱量の推移を図-5に示す。暖房ピーク負荷は外気温が低下した夜間20時ごろに最大負荷熱量8.49GJ/h(定格10.37GJ/h)を記録しているが,負荷に追従した適切な温熱供給が行われている。

    5-2 熱源システムの性能評価5-2-1 熱源機台数制御性 図-6に2017年8月21日の負荷熱量と製造熱量の推移を示す。運転開始当初は熱源機の増減段ポイントにおいてモジュールチラー AHP-1の発停が繰り返される傾向が現れたため,減段条件の見直しを実施した。条件見直し後の8月21日の運転では同等負荷条件下においてもモジュールチラーが連続運転され過度な発停動作が解消

    4.空調設備計画 図-2に本建物の空調システム図を示す。空調熱源設備としてインバータターボ冷凍機(400USRT)を2台と空気熱源ヒートポンプモジュールチラー(2,880kW)(以下,「モジュールチラー」)を設置している。 二次側空調は,外調機により全館に一次処理した新鮮外気を供給している。さらに,一般物販エリアはファンコイルユニットを配置する全体空調,飲食テナントやサービステナントなどは空気熱源ヒートポンプエアコンによる個別空調を行っている。 冷房時にはインバータターボ冷凍機をベースに,モジュールチラーを並列運転することで,外調機およびファンコイルユニットへ冷水を供給する。暖房時にはモジュールチラーによって,温水を外調機へ供給し導入外気を昇温させることを基本とし,立ち上がり時にはファンコイルユニット系統に温水を供給し,予熱を行うシステムとしている。 LECTの特徴としてフードコート・レストランの飲食テナント数が多いことが挙げられる。したがって厨房排気にともなう外気導入量の増加により,外調機の容量,空調熱源設備(ターボ冷凍機とモジュールチラー)の構成比,および空調容量全体に対する個別空調の占める割合が従来のゆめタウンシリーズとは異なっており,建物エネルギー消費量の増加が考えられる。

    5.熱源システムの運転実績 2017年5月〜2018年4月までの運転データより熱源システムの運転実績をまとめた。5-1 運転実績5-1-1 負荷熱量と製造熱量(日積算) 上記期間における負荷熱量と製造熱量(日積算)の推移を図-3に示す。冷房ピーク日は2017年7月29日に172.3GJ/日,暖房ピーク日は2018年1月24日に120.5GJ/日をそれぞれ記録している。中間期である11月,3〜4月間では半月程度設備稼働がなく,外気冷房が実施されている。

    図3-2- 3

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    (℃)(GJ)

    IR-1製造熱量 IR-2製造熱量 AHP-1製造熱量(冷) AHP-1製造熱量(温) 二次側負荷熱量(冷) 二次側負荷熱量(温)外気温度 外気湿球温度

    冷房ピーク2017/7/29172.3GJ

    暖房ピーク2018/1/24 120.5GJ

    外気冷房

    外気冷房

    図-3 負荷熱量と製造熱量(日積算)

    図3-2- 4

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    (℃)(GJ/h)

    IR-1製造熱量 IR-2製造熱量AHP-1製造熱量(冷) 二次側負荷熱量(冷)外気温度

    IR-1定格5.06GJ/h

    +IR-2定格10.12GJ/h

    +AHP-1定格20.02GJ/h

    冷房ピーク負荷14.93 GJ/h

    2017年7月30日図-4 冷房ピーク日の負荷熱量と製造熱量

    図3-2-5

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    2018年2月4日

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    201816141210864202468

    10(℃)(GJ/h)

    AHP-1製造熱量(暖) 二次側負荷熱量(暖)外気温度

    暖房ピーク負荷8.49GJ/h

    AHP-1定格10.37GJ/h

    図-5 暖房ピーク日の負荷熱量と製造熱量

  • ヒートポンプとその応用 2018.11.No.92─ 9 ─

    ── 実 施 例 ──

     一方,冷却水入口温度が低い時期においては設計COPとのバラつきが大きくなる傾向が見られる。これは,冷却水を定格流量で流した場合を前提とした値である設計COPに対して,実測においては冷却水入口温度が低い時期にシステムCOPの向上をねらい最大システムCOPとなるよう冷却水変流量制御を行っているためである。

    されており,台数制御の適正化が行われている。 なお,暖房運転はモジュールチラー本体機能によるモジュール台数制御のみのため省略する。

    5-2-2 冷房における運転効率 冷房ピーク負荷を記録した2017年7月30日の製造熱量と運転効率(1時間積算)の推移を図-7に示す。製造熱量の1時間ピークは13:00~14:00に14.0GJ/hを記録し,その内訳はIR-1:4.1GJ/h,IR-2:4.4GJ/h,AHP-1:5.5GJ/hであった。冷房運転時に内蔵ポンプが固定速として動作するモジュールチラーが追いかける負荷状況となった場合,変流量機(インバータポンプ接続)であるインバータターボ冷凍機の負荷配分が減少している。単体COPはインバータターボ冷凍機が高いことから,さらなる省エネ運転のためインバータターボ冷凍機が優先運転となるよう,モジュールチラーの温度設定見直しとともに,冷水の流量配分見直しなどの改善策に取り組み,2018年の運転(図-8)においては,インバータターボ冷凍機の優先運転が行われ省エネ運転化されていることが分かる。 次に,機器単体の性能評価として実測COPと設計COPの比較評価の結果を図-9・10・11に示す。インバータターボ冷凍機においてはIR-1,2ともに,設計動作領域である冷却水入口温度32℃付近において設計COPと一致する良好な結果となっている。

    図3-2-6

    2017年8月21日

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    (℃)(GJ/h)

    AHP-1瞬時熱量 IR-2瞬時熱量 IR-1瞬時熱量 二次側瞬時負荷熱量二次側冷温水往温度 熱源冷温水還温度

    IR-1定格5.06GJ/h

    +IR-2定格10.12GJ/h

    +AHP-1定格20.03GJ/h

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    図-6 負荷熱量・製造熱量と二次側冷温水往還温度(見直し後)

    図3-2- 7

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    AHP-1製造熱量 IR-2製造熱量IR-1製造熱量 二次側負荷熱量(冷)IR-1 COP IR-2 COPAHP-1COP システムCOP冷却水入口温度 外気温度外気湿球温度

    2017年7月30日

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    図-7 冷房ピーク日の製造熱量と運転効率(2017年)

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    AHP-1製造熱量 IR-2製造熱量IR-1製造熱量 二次側負荷熱量(冷)IR-1 COP IR-2 COPAHP-1COP システムCOP冷却水入口温度 外気温度外気湿球温度

    図3-2- 8

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    (℃)(GJ/h)

    ・(COP)

    2018年7月25日図-8 冷房ピーク日の製造熱量と運転効率(2018年)

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    実測COP

    設計COP

    10~14℃15~19℃20~24℃25~29℃30~34℃設計値

    冷却水入口温度

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    図-9 実測COPと設計COP(IR-1)

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    実測COP

    設計COP

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    冷却水入口温度

    図3-2- 9

    図-10 実測COPと設計COP(IR-2)

    実測COP

    設計COP

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    20~23℃

    24~27℃

    28~31℃

    32~35℃

    設計値

    外気温度

    図3-2-10

    図-11 実測COPと設計COP(AHP-1)

  • ヒートポンプとその応用 2018.11.No.92─ 10 ─

    ── 実 施 例 ──

    6.建物全体の消費エネルギー BEMSによる遠隔データ収集によりエネルギー消費量の可視化を行っている。店舗では毎月の報告を省エネルギーの取り組みに活用している。 なお,㈱カインズの消費電力量はイズミ棟を含めた特高受変電設備での一括計量となっているため,建物全体の消費電力量の実績(6-1,6-2項)には㈱カインズ分を含み,空調消費電力量の実績(6-3項)には㈱カインズ分を除いたイズミ棟のみのデータとなっている。6-1 消費電力量の実績 図-15に1時間あたりの最大電力量と店舗面積あたりの原単位の月別推移を示す。最大電力量は2017年7月29日 14:00~15:00に4,135kWh,店舗面積あたりの原単位では66Wh/㎡を記録している。 年間消費電力量は 14,251MWhであった。

    6-2 設備別消費電力量の実績 図-16に設備別の月間消費電力量推移,図-17に年間消費電力量の設備別比率を示す。月間消費電力量の夏期ピークは8月に1,607MWh/月,冬期ピークは1月に1,335MWh/月を記録している。夏期,冬期ともに空調の割合が最大である。消費電力量の変動はほぼ空調によるものであり,冷房時期は外気温度に比例,暖房時期は反比例している。

     またモジュールチラー AHP-1は外気温度にかかわらずおおむね設計COPと一致する結果となっており,良好な運転が行われている。 さらに,インバータターボ冷凍機の効率に大きく影響する冷却塔の性能評価として,外気湿球温度と冷却塔出口温度の相関確認(図-12)を行った。両者の温度差(アプローチ温度)は設計値5℃差とおおむね一致しており,良好な運転となっている。

    5-2-3 暖房における運転効率 暖房運転はモジュールチラー単独運転となる。実測COPと設計COPの比較評価の結果を図-13に示す。外気温が低い時期においては設計COPを中心に実測COPが分布しており良好な結果となっている。 一方,外気温が高い時期は負荷が減少傾向となるため,運転下限値以下の低効率領域での運転が増加したことで設計COPとのバラつきが大きくなっていると考えられる。

    5-2-4 年間システム効率 月ごとの消費電力量と運転効率の推移を図-14に示す。システムCOPは冷房:4.87,暖房:3.13,年間:3.99であった。また,インバータターボ冷凍機単体COPは6.49,モジュールチラー(内蔵ポンプ含む)単体COPは3.13であった。 冷房重負荷期の運転においては月積算の消費電力量においてもモジュールチラーが最大となっている。5-2-2項の本年度の取り組みにより冷房期のシステムCOPは5.26(2018年7月末時点)まで改善している。

    冷却塔出口温度

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    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35(℃)

    0 5 10 15 20 25 30(℃)

    設計値

    図3-2-11

    図-12 外気湿球温度と冷却塔出口温度の相関

    実測COP

    設計COP

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    0 1 2 3 4 5 6

    -5~-1℃

    0~4℃

    5~9℃

    10~14℃

    設計値

    外気温度

    図3-2-12

    図-13 実測COPと設計COPの比較(暖房)

    図3-2-13

    0.01.02.03.04.05.06.07.08.0

    050100150200250300350400

    2017/05

    2017/06

    2017/07

    2017/08

    2017/09

    2017/10

    2017/11

    2017/12

    2018/01

    2018/02

    2018/03

    2018/04

    (システムCOP)(MWh)IR-1 IR-2 IR補機類AHP-1(冷) AHP-1(温) システムCOP

    図-14 消費電力量と運転効率(月積算・月平均)

    図3-2-14

    0

    1,000

    2,000

    3,000

    4,000

    5,000

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    2017/05

    2017/06

    2017/07

    2017/08

    2017/09

    2017/10

    2017/11

    2017/12

    2018/01

    2018/02

    2018/03

    2018/04

    (kWh)(Wh/㎡)店舗面積あたり原単位1時間あたり最大電力量

    図-15 最大電力量(1時間積算)と店舗面積あたりの原単位

  • ヒートポンプとその応用 2018.11.No.92─ 11 ─

    ── 実 施 例 ──

     次に,空調の設備別消費電力量の比率を図-19(冷房期),図-20(暖房期)に示す。中央熱源の比率は冷房期41%に対し,暖房期49%となっている。モジュールチラーの冷暖房運転における運転効率の差,および冷暖房時にそれぞれ主機となるインバータターボ冷凍機とモジュールチラーの運転効率の差が影響していると考えられる。 一方,個別空調である空気熱源ヒートポンプエアコンは冷房期37%,暖房期:32%とこちらも大きな割合を占めている。個別空調の設定温度は各テナントによる管理であるため,今後の省エネ活動においては個別空調に関するルール策定や定期的な設定温度の確認も必要と考える。

    7.おわりに LECTは㈱イズミがこれまで展開してきた大型商業施設「ゆめタウン」とは異なるイズミ新業態の店舗である。Living(住)・Eating(食)・Culture(知)の3つのメインテーマとTown・Time(街・時)の頭文字からなる本店舗は,長期滞在型の商業施設として「第3の居場所(サードプレイス)」の提供をめざしている。 お客さまのサードプレイスとなるべく,空調の最も基本的な機能「快適な環境づくり」の実現とともに,本稿で紹介した各データの蓄積・分析を継続することで,快適性の追求と省エネ化の両立を実現したい。 最後に,この報告をまとめるにあたり,ご指導,ご協力いただきました関係各位の皆さまに厚く御礼申しあげます。

    6-3 空調消費電力量の実績 電力量比率が最大であった空調について考察する。図-18に空調の月別消費電力量の推移を示す。夏期においては中央熱源より個別空調である空気熱源ヒートポンプエアコンの消費電力量が多いことが分かる。これはLECTの特徴として個別空調の対象となる飲食テナントが多いことが影響していると考えられ,専門店数143店舗に対し61店舗が飲食テナントとして出店している(2018年7月1日時点)。また,冬期においては外気処理に使用されるモジュールチラーの消費電力量が最大となっている。

    図3-2-15

    0510152025303540

    02505007501,0001,2501,5001,7502,000

    2017/05

    2017/06

    2017/07

    2017/08

    2017/09

    2017/10

    2017/11

    2017/12

    2018/01

    2018/02

    2018/03

    2018/04

    冷ケース 換気 エスカレーターSM 内装 一般電灯一般動力 大型テナントA 大型テナントBテナント電灯 テナント動力 その他空調 外気温度(MWh) (℃)

    図-16 設備別の月間消費電力量

    図3-2-17

    0510152025303540

    0100200300400500600700800

    2017/05

    2017/06

    2017/07

    2017/08

    2017/09

    2017/10

    2017/11

    2017/12

    2018/01

    2018/02

    2018/03

    2018/04

    (℃)

    インバータターボ冷凍機 インバータターボ補機モジュールチラー 二次ポンプ外調機 空気熱源ヒートポンプエアコン外気温度 店舗1F平均温度店舗2F平均温度(MWh)

    図-18 空調の月別消費電力量推移

    図3-2- 16

    空調25%

    冷ケース9%

    換気4%エスカレーター

    1%SM2%

    内装2%

    一般電灯10%

    一般動力1%

    大型テナントA12%

    大型テナントB8%

    テナント電灯16%

    テナント動力7%

    その他3%

    年間消費電力量14,251MWh

    図-17 設備別の年間消費電力量比率

    中央熱源 41%

    図3-2-19

    冷房期4月~ 10月

    二次ポンプ1%

    外調機22%

    空気熱源ヒートポンプエアコン

    37%

    インバータターボ冷凍機24%

    インバータターボ補機4%

    モジュールチラー12%

    図-19 空調の設備別 消費電力量比率(冷房期 4月~10月)

    図3-2-20

    暖房期11月~3月

    インバータターボ冷凍機0%

    インバータターボ補機0%

    モジュールチラー49%

    二次ポンプ0%

    外調機19%

    空気熱源ヒートポンプエアコン32%

    図-20 空調の設備別 消費電力量比率(暖房期 11月~3月)