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75 2008.5 金属資源レポート Mining & Sustainability 19 IFC EHS 75国際金融公社(IFC)の EHS ガイドライン の概要 はじめに 2007 年 12 月 10 日、国際金融公社(International Finance Corporation: IFC)は、鉱業(採掘業)の環境・健康・ 安全ガイドライン(Mining Environmental, Health and Safety Guideline: 以下鉱業 EHS ガイドラインという。)を 発行した。このガイドラインは、世界銀行グループ(World Bank Group)が 2007 年 4 月 30 日に発行した『一般 EHS ガイドライン(General EHS Guidelines)』に関し、個々の産業界(56 業種)の固有の事項を考慮して、一般 ガイドラインを補完するものとして定めたもののひとつで、採掘業を対象としたものである。 国際的な環境規制に関しては、市民社会の環境に対する高い関心や科学技術の進展に伴い、ますます強化される 傾向にある。 また、国際的環境規制は、国際組織や会合での声明や合意された宣言及びガイドラインなど強制的な適用を伴わ ない規制いわゆるソフトローが、その後国際的法規制や各国の法制度に採用されハードロー化するとデンバー大学 法学部のジョージ ・ プリング教授は見解を示している。同教授はこのため、規制の対象者、特に当該事業実施者は これらの規制の動向を恒常的にモニタリングしていくことを推奨した。 今回の鉱業 EHS ガイドラインは、世界で鉱物資源の探査・開発・操業を行う関係者にとって将来的な規制動向 を把握していく上で参考になるものと考えられる。 本稿では、鉱業 EHS ガイドラインに関し、その概要を紹介する。 植松 和彦 1. EHS ガイドラインの基本的な考え方 ガイドラインの解説によれば、この環境、健康、安 全(EHS)ガイドラインは、「世界的に優れた業界 プラクティス(Good International Industry Practice: GIIP)」の業界一般及び業界特有の実例を示す基準と なる技術的文書と位置づけている。 基本的には、世界銀行グループ(国際復興開発銀行 (IBRD)、国際開発協会(IDA)、国際金融公社(IFC)、 多数国間投資保証機関(MIGA)、国際投資紛争解決 センター(ICSID))のメンバーが、あるプロジェク トに関与した場合に、これらの EHS ガイドラインを、 規定、基準として適用する。 また、今回紹介する特定業界向けの EHS ガイドラ インは、「一般 EHS ガイドライン」 とともに使用す ることを意図している。「一般EHSガイドライン」 は、全業界に将来的に適用されることを期待し共通の EHS 問題に関して利用者に指針を与えるものである。 複雑多様なプロジェクトでは、複数の業種別ガイドラ インを適用することになる。 今回のガイドラインで定めた各種基準は適切な費用 で既存技術を利用した新規の施設や設備で達成が可能 であると一般的に見なされるレベルとした。既存設 備や施設への本 EHS ガイドラインの適用に関しては、 実施適用に対処するまでの時間の必要性を述べてい る。 このほか、EHSガイドラインの適用に関しては、 次の点を指摘している。 ⑴ 現場特有の要素、例えばホスト国(プロジェク ト実施国)の事情、環境同化能力等を考慮した 環境評価結果に基づき、各プロジェクトで明確 になった危険性やリスクに合わせて適用される べきである。 ⑵ 特定の専門的提言は、実績のある一流の専門家 の意見に基づき適用されるべきである。 ⑶ ホスト国の規則が、EHS ガイドラインで提示 されたレベルや基準と異なる場合、当該プロ ジェクトは、より厳格な基準、レベルを達成す ることが期待される。 ⑷ 特定のプロジェクトの事情に鑑み、このEHS ガイドラインよりも緩やかな基準が適切だとさ れる場合、その代替案に関して完全で詳細な根 拠事由の提示が、環境評価の一部として必要と される。ただし、この根拠事由については、代 替案が選択された場合であっても人の健康や環 境は保護されるレベルであると示さなければな らない。 2. 鉱業 EHS ガイドラインの概要 鉱業 EHS ガイドラインは、表 1 に示す 3 つのセク ションと付表で構成されている。 内容に関しては、セクション 1.0『鉱業界特有の影 響及び管理』では、各項目に関し詳細に記述してい る。例えば選鉱工程も含む鉱業活動に関連する EHS 問題の要点及び操業における提言について触れてお 金属資源開発本部 企画調査部 企画課担当調査役 [email protected] Mining & Sustainability (19)

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国際金融公社(IFC)のEHSガイドラインの概要

はじめに2007 年 12 月 10 日、国際金融公社(International Finance Corporation: IFC)は、鉱業(採掘業)の環境・健康・

安全ガイドライン(Mining Environmental, Health and Safety Guideline: 以下鉱業 EHS ガイドラインという。)を発行した。このガイドラインは、世界銀行グループ(World Bank Group)が 2007 年 4 月 30 日に発行した『一般EHS ガイドライン(General EHS Guidelines)』に関し、個々の産業界(56 業種)の固有の事項を考慮して、一般ガイドラインを補完するものとして定めたもののひとつで、採掘業を対象としたものである。

国際的な環境規制に関しては、市民社会の環境に対する高い関心や科学技術の進展に伴い、ますます強化される傾向にある。

また、国際的環境規制は、国際組織や会合での声明や合意された宣言及びガイドラインなど強制的な適用を伴わない規制いわゆるソフトローが、その後国際的法規制や各国の法制度に採用されハードロー化するとデンバー大学法学部のジョージ ・ プリング教授は見解を示している。同教授はこのため、規制の対象者、特に当該事業実施者はこれらの規制の動向を恒常的にモニタリングしていくことを推奨した。

今回の鉱業 EHS ガイドラインは、世界で鉱物資源の探査・開発・操業を行う関係者にとって将来的な規制動向を把握していく上で参考になるものと考えられる。

本稿では、鉱業 EHS ガイドラインに関し、その概要を紹介する。

植松 和彦

1. EHS ガイドラインの基本的な考え方ガイドラインの解説によれば、この環境、健康、安

全(EHS)ガイドラインは、「世界的に優れた業界プラクティス(Good International Industry Practice: GIIP)」 の業界一般及び業界特有の実例を示す基準となる技術的文書と位置づけている。

基本的には、世界銀行グループ(国際復興開発銀行(IBRD)、国際開発協会(IDA)、国際金融公社(IFC)、多数国間投資保証機関(MIGA)、国際投資紛争解決センター(ICSID))のメンバーが、あるプロジェクトに関与した場合に、これらの EHS ガイドラインを、規定、基準として適用する。

また、今回紹介する特定業界向けの EHS ガイドラインは、「一般 EHS ガイドライン」 とともに使用することを意図している。「一般 EHS ガイドライン」は、全業界に将来的に適用されることを期待し共通のEHS 問題に関して利用者に指針を与えるものである。複雑多様なプロジェクトでは、複数の業種別ガイドラインを適用することになる。

今回のガイドラインで定めた各種基準は適切な費用で既存技術を利用した新規の施設や設備で達成が可能であると一般的に見なされるレベルとした。既存設備や施設への本 EHS ガイドラインの適用に関しては、実施適用に対処するまでの時間の必要性を述べている。

このほか、EHS ガイドラインの適用に関しては、次の点を指摘している。

⑴ 現場特有の要素、例えばホスト国(プロジェクト実施国)の事情、環境同化能力等を考慮した環境評価結果に基づき、各プロジェクトで明確になった危険性やリスクに合わせて適用されるべきである。

⑵ 特定の専門的提言は、実績のある一流の専門家の意見に基づき適用されるべきである。

⑶ ホスト国の規則が、EHS ガイドラインで提示されたレベルや基準と異なる場合、当該プロジェクトは、より厳格な基準、レベルを達成することが期待される。

⑷ 特定のプロジェクトの事情に鑑み、この EHSガイドラインよりも緩やかな基準が適切だとされる場合、その代替案に関して完全で詳細な根拠事由の提示が、環境評価の一部として必要とされる。ただし、この根拠事由については、代替案が選択された場合であっても人の健康や環境は保護されるレベルであると示さなければならない。

2. 鉱業 EHS ガイドラインの概要鉱業 EHS ガイドラインは、表 1 に示す 3 つのセク

ションと付表で構成されている。内容に関しては、セクション 1.0『鉱業界特有の影

響及び管理』では、各項目に関し詳細に記述している。例えば選鉱工程も含む鉱業活動に関連する EHS問題の要点及び操業における提言について触れてお

金属資源開発本部 企画調査部 企画課担当調査役[email protected]

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り、探査、開発、建設、操業、閉山、閉山後の段階での留意点を示している。『EHS の管理への提言』では、他の産業界と共通する部分については、『一般 EHS ガイドライン』の準用を指示している。2.0『実施指標及びモニタリング』で排出及び排水ガイドラインを示した。

なお、今回の鉱業 EHS ガイドラインでは、業界の一般的定義(付表 A)で、ガイドライン上での『鉱業(採掘業)』活動を定義。IFC ガイドラインとしては、冶金工程は鉱山と製錬所の立地との関係で別分野と見なし、別途『製錬 EHS ガイドライン(Smelting and Refining Environmental, Health and Safety Guideline)』を制定している。

3.環境鉱業 EHS ガイドラインでは、鉱業活動で発生する

可能性があり、管理が必要である環境項目を以下の通りとした。

⑴ 水の使用及び水質⑵ 廃棄物⑶ 有害物質⑷ 土地利用及び生物多様性⑸ 大気保全⑹ 騒音及び振動⑺ エネルギーの使用⑻ 景観への影響上記項目の中からその一部を以下に紹介する。

4. 水の使用及び管理(1)基本

鉱山及び鉱山周辺では、水の使用及び水質の管理が重要な問題である。水源の汚染は、鉱山ライフサイクルの初期の段階、探査時に発生する可能性があり、例えば、外部からの人の流入などの間接的な影響も含め、水質へ悪影響を及ぼす要素が多く見られる。地表水及び地下水供給力の減少も、地方レベルや鉱区周辺に住む住民にとって、特に乾燥地域、農業地域にとっ

ては懸念材料である。したがって、鉱業では、鉱区からの雨水流出等放流河川対策も含め水の利用に関して十分な監視と管理を行うべきである。

(2)水の使用鉱山は大量の水を使用する。選鉱場やその関連活動

にその多くが消費され、また、散水等による粉塵対策にも使用される。水は蒸発で消失するが、通常テーリング処理工程で最も消失する。全ての鉱山は、水収支の適切な管理に重点的に取組むべきである。例えば、湿性熱帯雨林環境や雪解け水等、水の過剰供給に課題がある鉱山では、慎重な管理が必要であり最大流量値を理解することである。

水の管理のため推奨される実践は以下の通り。・鉱山及び選鉱場の水収支(推定される気候事象を

含む)を定めて、インフラ設計に利用すること。・持続可能な水供給管理計画を構築し、水使用を管

理し、帯水層の枯渇を防止するため水使用への影響を最小化することで、自然への影響を最小化すること。

・補給水の使用量を最小限にすること。・選鉱工程等での使用済廃水のリユース、リサイク

ル及び水処理が可能であれば検討すること(例 :テーリングポンドから選鉱場への上澄水の戻し)。

・排水開始前に水収支への影響可能性を検討すること。

・主要なステークホルダー(例 : 政府、市民団体、影響を受ける可能性のある地域)と協議し、水利用における利害対立、水資源への地域の依存性、当該地域の水保全の必要性について理解すること。

(3)水質水質への影響を管理するため推奨される実践は以下

の通り。・鉱山から外部河川等に排出される鉱山排水、特に、

豪雨による雨水、リーチパッド排水、選鉱排水、など採掘活動全般から排出される水を含め、すべての排水が、セクション 2.0 の排水ガイドラインに合致するよう管理し、水処理すること。

・更に、地表水への排出は、科学的に確立された混合領域外において、地域の周辺水質基準を超えないこと。受水塊の利用や同化能力は、受水域への他の排水源の影響を含め、「一般 EHS ガイドライン」 に規定された汚染負荷量及び流出水の水質に合致するよう検討されること。

・給油所、メンテナンス工場、燃料貯蔵所、格納所において、効率的なオイル及びグリースの廃油回収槽を設置し整備すること。緊急対応計画において液体漏洩対策用スピルキットも準備すること。

・野外貯蔵方式における水質(例 : リーチングエリア、貯液池、テーリングポンド、貯水池)は、サ

表 1 鉱業 EHS ガイドラインの構成

1. 適用性 ⑴坑内採掘⑵露天採掘⑶砂鉱床採掘⑷ソリューションマイニング⑸海洋ドレッジング

2. ガイドラインの構成 ⑴セクション 1.0 鉱業界特有の影響及び管理

① 1.1 環境 ② 1.2 労働安全衛生 ③ 1.3 地域医療及び安全 ④ 1.4 閉山及び閉山後

⑵セクション 2.0 実施指標及びモニタリング ① 2.1 環境 ② 2.2 労働安全衛生実施

⑶セクション 3.0 参考文献及び追加資料⑷付表 A 業界の一般的定義

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イトに特有のリスク評価結果に基づき、リスクを軽減し、セクション 2.0 の排水ガイドラインに適う規制措置を定めること。

・衛生廃水は、「一般 EHS ガイドライン」 に規定されているように、再利用するか汚水処理または表面処理排出システムで処理すること。

(4)酸性廃水及び金属浸出酸性廃水(Acid Rock Drainage: ARD)は、酸中和

鉱物(主に炭酸塩)の中和能力を上回って酸を発生する硫化鉱物とともに、「潜在的酸発生(Potentially Acid Generating:PAG)物質」 が水素と湿気(水分)を含む環境下で酸化した場合に発生する酸の形成を意味する。酸性の状態は、母体に化合していた金属の溶解や放出次第で(金属浸出(Metals Leaching: ML)と呼ばれる現象である。)、地表や地下水系にも移動する。ARD や ML は、鉱業 EHS ガイドライン 「固形廃棄物」 の項目に規定されているように予防され管理されること。PAG、ARD、ML の管理は、地域環境を保護するために必要とされるレベルに排水の水質を維持する必要がある限り実施されること。さらに必要であれば、閉鎖、閉山、閉山後にも実施されること。ARD 及び ML に関する問題は、捨て石、テーリング、鉱壁、ロードカット面等岩石露出表面にも適用される。

(5)地下水資源の保護排水、廃棄物、有害物質の放出の防止や管理に加え

て、地下水の汚染源の管理に関して以下が更に追加される。主としてリーチング及びソリューションマイニング工程、更にはテーリング管理に関連している。

リーチング:操業者は、以下に留意してヒープリーチング工程を設計し実施すること。

・溶液を回収、リサイクルし、地下浸透を最小限に抑える十分なライニング施工や排水サブシステムの設置することにより、有毒性溶液の侵入を防ぐこと。

・貴液を流すパイプラインシステムには、2 次封じ込め容器(secondary bunded containment)を備えること。

・適切な漏洩対応システムとともに、漏洩検知器をパイプライン及びプラントシステムに設置すること。

・非真水、未処理のリーチ溶液を入れる貯水池等は、ライニングが施され十分な容量の観測井が設置され、水量や水質をモニタリングできるようにすること。

ソリューションマイニング:操業者は、以下に考慮してソリューションマイニングプロジェクトを計画し操業すること。

・閉鎖地層の特徴にしたがって正しい位置決めと操業を実施することによりリーチング溶液の採取区域以外への流出を最小限にすること。また、現場

外の帯水層を保護すること。・空洞周辺に設置された観測井では、圧力レベル、

水質、水量に関して十分にモニタリングすること。

5. 廃棄物(1)基本

鉱山は、膨大な廃棄物を排出する。捨て石堆積場、テーリングポンド / ダム、格納施設のような設備は、鉱山が開発され、閉山し更に閉山後まで地質工学的なリスクや環境負荷が適切に評価され管理されるよう、計画・設計・使用されるべきである。

固形廃棄物は、鉱山の開発・操業・閉山等どの段階でも発生する。鉱業(採掘)活動において最も廃棄物が発生するのは、操業段階であり、大量の覆土、捨て石やテーリングが発生する。それ以外の固形廃棄物としては、採掘方法にもよるが、リーチパッド廃棄物、メンテナンス工場からのスクラップ、一般ごみ、工程外産業廃棄物、廃棄油、化学物質、有害廃棄物等が考えられる。

(2)捨て石堆積場露天採掘では剥土比にもよるが、鉱石採掘には、大

量の覆土や岩石を取り除く必要がある。この覆土や岩石は、多くの場合捨て石堆積場に廃棄される。鉱山の全ライフに渡り、人の健康、安全、自然環境を保護するため、これらの堆積場を管理することが重要である。

捨て石堆積場の管理において、以下の点が推奨される。

・堆積場は、侵食を最小限にし、安全に関するリスクを低減するため、廃棄物の性質や当該鉱区の地質工学的観点に基づきテラスやリフトの高さを設計すること。

・潜在的酸発生物質(PAG)の廃棄物の管理は、以下のガイダンスに従い実施すること。

・化学的、生物学的風化作用による捨て石堆積場の地質工学的性質変化の可能性を考慮すること。これらの風化作用によって、捨て石の粒子サイズは小さくなり、鉱物学的には、粘土分の割合が増加し、地質工学的問題に対して安定性が大幅に減ずる。地質工学的性質(特に粘着力、内部摩擦角等)の変化は、適切な被覆システムで閉山されていない鉱山で特に発生する。適切な被覆システムでは雨水が捨て石堆積場本体に浸透しないようにしている。新たな施設の設計計画では、そのような地質工学的性質の劣化に対して厳しい安全係数を用いるべきである。既存の施設における安定 ・ 安全評価では、こういった将来の変化について考慮すべきである。

(3)テーリングテーリングの管理方法は、各現場特有の条件やテー

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リングの性質 / 種類によって異なる。環境への負荷となる可能性のあるのは、流出水やリーチング液を含んだ酸性廃水(ARD)及び金属浸出(ML)の発生による地下水や地表水、排水ネットワークの堆積、ダスト発生、選択した管理計画に関連した地質工学的な危険性の発生等がある。テーリングの管理方法では、テーリングを操業段階でいかに対処し処理するか、そして閉山後、最終的にいかに維持するかを検討すべきである。その方法の中で、地形、下流域住民、テーリングの性質を考慮すべきである(例:予想される量、粒子のサイズ、分布、濃度、含水量等)。

テーリングの管理方法として以下の点が推奨される。

・ICOLD(国際大ダム会議)及び ANCOLD(豪州大ダム会議)、またはリスクアセスメント戦略に基づいた国際的に認められている規定に従い、構造の設計、運営、保持を実施すること。設計、建設段階で適切な第三者による審査が実施され、操業、閉山時においても物理構造、水質に関してモニタリングを実施すること。International Commission on Large Dams

(ICOLD):http://www.icold-cigb.netAustralian National Committee on Large Dams

(ANCOLD): http://www.ancold.org.au/・地震時荷重が大きいリスクがある地域の建造物に

対しては、第三者機関による設計用最強地震設定や建造物の安定性をチェックし、地震時にテーリングが流出しないようにすること。

・テーリングダムの設計は、地質工学的安定性、水圧破壊に関する危険、下流域の経済的資産、生態系、人の健康や安全に関するリスクを考慮に入れること。テーリングや上澄み水の大規模な流出が起こった際の緊急対応計画、封じ込め / 低減対策も環境的に考慮すること。

・テーリングダムから離れた集水地域から分流する排水路は、本項に記載された洪水発生間隔に基づき建設されること。

・テーリングダムの設計、運営にとって、浸出に関する管理安定評価は重要な考慮すべき事項である。建造物及びその下流の浸出水レベルをピエゾメーターでモニタリングするシステムが必要であり、ライフサイクル中を通して維持されること。

・テーリング排出をゼロとする施設を検討し、貯水池、テーリングダムを含め、採掘・選鉱工程の完全な水収支とリスクアセスメントを完全に実施すること。リスクを最小化するため、自然または人工ライナーの採用も検討すること。

・設計仕様には、閉山段階を含めテーリングダム使用予定期間中、サイト特有のリスクに沿って安全に保持できる最大洪水量及び余裕高を設定するよう検討すること。

・地震等による液状化のリスクがある場合、設計仕

様では、設計用最強地震設計を検討すること。・酸化や水分の浸透により発生した酸浸出物質を隔

離する陸上処理システム。例えば、ダムでのテーリング保管、脱水、キャッピング等。陸上での廃棄システム以外の方法が計画される場合は、国際的に認められた地質工学的な安全基準に従って設計、建設、運用すること。

・採掘操業中にピットや坑内にテーリングを埋め戻す場合には、ペーストを固化すること。

河川(川、湖、沼)や浅海へのテーリング投棄は、国際的に認められた良い業界プラクティスではない。更には、河川へのテーリング投棄を伴う河川ドレッジングも国際な鉱業界が採用する良き実践方法(good international industry practice)ではない。

深海尾鉱投棄(Deep sea tailings placement:DSTP)については、第三者による科学的影響評価に基づいた環境的に社会的に健全な陸上投棄という方法が無い場合にのみ、代替案として検討される。DSTP の採用を検討する場合には、全テーリング管理代替案の詳細な実施可能性や環境的社会的影響評価に基づかなければならず、さらに、その影響評価により、DSTP が、海洋資源、沿岸資源、地域社会に重大な悪影響を及ぼさないことを示されなければならない。

6. 土地利用及び生物多様性生息地の変化は、鉱業に関連して生物多様性を脅か

す最も重大な潜在的脅威となりうる。生息地の変化は、鉱山サイクルのいかなる段階にも起こりうるが、特に、建設中や操業中に陸上及び水生生物の生息地に一時的または恒久的な変化を起こしてしまう大きな可能性がある。更に、探査活動には、アクセス道路、輸送ルート、作業員宿舎の建設が通常必要であり、土地の開墾、人の移動が様々な範囲で起こることになる。

採掘活動の種類にもよるが、開発及び建設活動には、通常、鉱山、選鉱場のための土地の開墾、テーリング施設、捨て石堆積場、建物、その他道路、作業員宿舎、市街地化、水管理施設、発電所、送電線、鉱山への交通ルート等のインフラが通常必要である。

生物多様性の保護及び保全は、持続可能な開発の根本である。保護の必要性と地域住民の土地利用の必要性に合致した開発優先性を統合していくことは、鉱山プロジェクトにとってしばしば重要な課題となる。

推奨される施策としては、以下があげられる。・重要な自然生息地が、悪影響を受けているかの有

無、絶滅危惧種の減少の有無。・プロジェクトの保護地域への影響の有無。・生物多様性のオフセットプロジェクトやその他軽

減措置の可能性(例:鉱山開発により主要鉱区で生物多様性の損失がある場合、生物多様性が高い別の地域において積極的な運営を実施)。

・プロジェクトやその関連インフラが、人の流入を促し、生物多様性や地域社会に悪影響を及ぼす可

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能性の有無。・例えば、生物多様性評価の実施、継続的なモニタ

リングの実施、生物多様性プログラムの管理等において国際的に認められた科学機関との提携の検討。

・土地利用に関する対立や天然資源への地域の依存、当該地域に該当する保全条件を理解するため、主要なステークホルダー(例:政府、市民社会、影響を受ける可能性のある地域社会等)との協議を実施。

7. 景観への影響鉱業において、特に露天採掘を行う場合、景観に対

して悪影響を与え、レクリエーション、観光等に影響する恐れがある。このような景観への悪影響の原因となるのは、未採掘壁、侵食、変色した水、運搬道路、堆積場、スラリー貯水池、廃棄採掘設備 ・ 施設、廃棄場、オープンピット、森林伐採等である。

操業中に、閉山後の土地の用途を地元社会と協議するなどして、景観への悪影響を最小限に抑えること。その際には、景観影響評価を鉱山の原状回復事業に組み入れること。再生地は、可能な限り周囲の景観と調和するようにすること。原状回復計画及び処置では、一般市民の観点から見える範囲内での景観を考慮すること。軽減措置としては、木々等遮蔽物を適切な位置に植樹する、原状回復段階で適切な種を植栽する、運搬路や付属施設の設置箇所を変更する等が含まれる。

景観影響評価の手法において予防や軽減措置の優先順位付けについて使用されるものの一例としては、「米国内務省土地管理局の景観資源対比評価システム:the United States Bureau of Land Management’s Visual Resource Contrast Rating system」 がある。

the United States Bureau of Land Management’s Visual Resource Contrast Rating system: http://www.blm.gov/nstc/VRM/8431.html

8.地域医療及び安全鉱業活動に関連する地域医療及び安全に関する問題

には、アクセスルート沿いの安全輸送、危険物質の輸送及び取り扱い、水質及び水量への影響、不注意による媒介動物の繁殖、プロジェクトの作業者の流入による伝染病の感染の可能性、例えば、呼吸器系感染症、性感染症の罹患が含まれる。更に、プロジェクトの建設、操業段階での作業者の急速な流入に伴い、麻薬、アルコール、ジェンダー暴力等の心理社会的な悪影響などに代表される、家庭や地域社会レベルにおける健康の社会的決定要因への多大な影響が発生しうる。また、労働者やその家族の急速な流入により、地域の医療施設やその人材、資源の大きな負担にもなる。大規模鉱山開発には、大きな経済的効果があるため、当該地域では、疾病の傾向が、感染症、例えばマラリア、

呼吸器感染症、胃腸感染症等の段階から、非伝染性疾病、例えば高血圧症、糖尿病、病的肥満、心臓血管疾患等へ急速に移行していく可能性がある。多くの発展途上国の医療インフラでは、非伝染性疾病治療に対して設備も整っておらず経験も少ない。

これらの問題の管理に関しての推奨施策は、「一般EHS ガイドライン」 に規定されている。鉱業に特有の問題に関しては、テーリングダムの安全、貯水ダム、地盤沈下等への留意点を挙げているが、その中でも感染症に関しては、以下の通り定めた。

鉱業プロジェクトの性質(例 : 遠隔地にある立地や距離の長い原料 / 製品のサプライチェーン)から、現場への移住労働者やサービス労働者、その家族の流入による感染症の拡大や発生を最小限にする積極的な持続的な診療が必要とされる。長距離輸送活動が病気、特に性感染症のつなぎ役となってしまうことがある。鉱山では、ごみ処理管理、地上排水、衛生廃水管理に国際的な業界プラクティスを実践することが、通常ベクター媒介感染症及び水に関する感染症を削減するに効果的である。

プロジェクトの住居施設及びケータリングサービス施設は、国際的に認められた基準に基づいて設計され保守されること。労働者の居住区域が過密状態にならないように計画し管理すれば、地域社会への感染につながる伝染性呼吸器系疾患を減らすことができる。国際的に認められた HACCP(危害分析・重要管理点)管理手法に基づいて、計画し管理し運営しているケータリングサービス施設では、プロジェクトから地域社会までの食物由来の感染症を削減することになる。

世界の多くの場所では、鉱業存続や地域社会の健康に大きな脅威となっているのは、健康の社会的決定要因に関する悪影響である(例 : ドラッグ、アルコール、性感染症、ジェンダー暴力)。

多くの発展途上国において、HIV を含めすべての性感染症がすでに大きな重荷となっている。しかしながら、鉱山開発プロジェクトの際には新たな感染増加の引き金にならないよう考慮すべきである。この状況の特徴となるのは、以下の 「4 つの M」 である。

・Men-労働者の流入・Money-自由に使用できる現金の増加・Movement-地方へのアクセスを容易にする新規

輸送路の開発・Mixing-高い有病率の集団(例 : 警察、警備員、

トラック運転手、性風俗産業労働者)と低い地元の集団(男女)との接触

HIV/AIDS の拡大は、人類にとって大きな苦難や苦悩であるだけでなく、社員の離職、生産性の低下、費用の増大、市場の変化、契約や購買の機会という面で、マイナスの影響を与えうる。鉱業の事業者は、HIV/AIDS の潜在的影響を明確化し理解すべきであり、適切な管理対応について以下を含め計画すべきである。

・評価、調査、行動計画、モニタリングを通じて、

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病気による影響を管理する施策・HIV の感染を予防し、感染した従業員またはそ

の影響を受けている従業員を治療、支援する職場プログラム

・地域社会、部門、幅広い社会に届く福祉活動感染症発症を削減するために通常実行される施策に

は以下がある。・作業者、その家族、地域社会において病気を以下

により予防すること。・健康への意識向上及び教育イニシアティブを実施

すること。・病気の治療についての医療従事者の研修・現場または地域社会の医療施設において標準的な

ケースマネジメントプログラムを通じて治療を実施すること(例:予防接種)。

9.閉山及び閉山後閉山及び閉山後の活動に関しては、計画及び設計段

階のできるだけ早期から検討されること。鉱山事業者は、生産開始前に 「鉱山再生及び閉山計画(Mine Reclamation and Closure Plan: MRCP)」 を準備し、この計画実施のため、計上され維持可能である資金源を明確にしておくこと。マインライフの短い鉱山については、下記に規定されている詳細な MRCP(及び保証資金)を操業開始前に準備すること。物理的な再生計画及び社会経済的な検討事項を組み入れた鉱山閉鎖計画は、プロジェクトライフサイクルに不可欠なものであり、以下のように計画されること。

・将来の公衆衛生及び安全が損なわれないこと。・鉱山跡地の使用は、長期的に当該地域社会に有益

であり持続可能であること。・社会経済的悪影響を最小化し、そして社会経済的

利益は最大化すること。MRCPでは、将来の土地使用に対応するものであり、

(本決定は、規制当局、地元地域社会、これまでの土地利用者、隣接地の借地人、市民団体、その他関連団体を含むマルチステークホルダーとの協議を通じて行うこと。)関連当局による事前の承認を得るものとし、地元社会と政府代表との協議や対話結果に基づくこと。

閉山計画は、鉱山開発及び操業計画の変更や環境的社会的条件や状況の変化を反映して、定期的に更新され調整されること。鉱山の作業記録は、閉山計画の一部として保持されること。

閉山及び閉山後計画には、適切なアフターケア、現場や汚染物質排出のモニタリングの継続を含めること。閉山後のモニタリング期間は、リスクに基づいて決定されるべきだが、現場の状況では、通常少なくとも閉山後 5 年間は必要である。

MRCP 完了の時期は、鉱山により異なり、潜在的な鉱山ライフ等多くの要素にかかっている。しかし、すべての鉱山について操業中から、継続的に再生事業

に従事していく必要がある。計画は、建設中および操業中に必要であれば修正されるが、活動の一時的停止や早期永久閉山の緊急事態への対応も含め、財政的フィージビリティ、物理的 / 化学的 / 生態学的妥当性の実現を目的とするものであること。

10. 実施指標及びモニタリングこのセクションでは、2.1 環境で『排出及び排水ガ

イドライン』を定め、表 2 は、この分野の排水ガイドライン値を示している。工程の排水におけるガイドライン値は、関係国の関連基準や実績のある規制枠組みを反映した国際的な優れた業界プラクティスの指標となる。これらのガイドラインは、本書に規定された鉱害予防及び管理技術を通じて、適切に設計操業された施設において、通常の操業状態において達成されるものとする。

排水ガイドラインは、一般的な用途の地表水への流出水や処理済み排水について適用される。サイトごとの排出レベルは、公共の下水道処理システムの利用可能性や状況に基づいて設定されることができる。地表水に直接排水される場合、「一般 EHS ガイドライン」に規定されている受水域び利用の分類に基づくものとする。

この分野の環境モニタリングは、通常及び異常な状態にかかわらず、環境に重大な影響を与える可能性があると特定されたすべての活動に対処するため実施されること。環境モニタリング活動は、特定のプロジェ

汚染物質 単位 基準値 基準値(日本)

SS(Total) mg/L 50 150

pH S.U. 6-9 5.8-8.6

COD mg/L 150 120

BOD mg/L 50 120

油及び油脂 mg/L 10 30

砒素 mg/L 0.1 0.1

カドミウム mg/L 0.05 0.1

クロム(六価) mg/L 0.1 0.5

銅 mg/L 0.3 3

シアン mg/L 1 1

フリーシアン mg/L 0.1 ―

弱酸解離性シアン(WAD) mg/L 0.5 ―

鉄(Total) mg/L 2.0 10

鉛 mg/L 0.2 0.1

水銀 mg/L 0.002 0.005

ニッケル mg/L 0.5 ―

フェノール mg/L 0.5 5

亜鉛 mg/L 0.5 2

温度 ℃ <3 度差 ―※ IFC 基準値は、年間操業時間から算出された工場または設備の操業

時間の少なくとも 95%において、希釈されることなく達成されることと規定。

※ IFC 基準値と日本の基準値との比較は適用条件が違うこと等もあり同一条件下の基準ではないと考えられ、参考比較である。

表 2 排出及び排水基準

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2008.5 金属資源レポート 81

シリーズ

Mining &

Sustainability

(19

) 

国際金融公社(IFC

)のE

HS

ガイドラインの概要

(81)

クトに適用される排出、排水、資源利用の直接、間接の指標に基づくこと。鉱山プロジェクトにおいて、モニタリングは、閉山後最低 3 年間、または現場の状況次第ではそれ以上の期間、モニタリングを実施すること。

モニタリングの頻度は、モニターされている要素について代表的なデータを入手するに十分なものであること。モニタリングは、訓練を受けた者が、モニタリング及び記録管理手順に従い、適切に調整され保守された設備を用いること。モニタリングデータは、必要な是正措置が取ることができるよう定期的に分析されレビューされ、基準と比較されること。排出及び排水のサンプリング及び分析手法に適用されるその他の指針については、「一般 EHS ガイドライン」 を参照のこと。

おわりに今回は IFC の鉱業 EHS ガイドラインの一部を紹介

した。最近の金属・鉱物資源の需給逼迫で世界では新規鉱山開発や既存鉱山の拡張計画が進展している。この状況下、鉱山では用水確保が重要な課題となっている。今回のガイドラインでは、水の使用・管理の項で、従来からの排水の環境負荷低減など環境的側面での規制に併せて水の有効活用や地下水資源の保護の重要性を指摘している。

鉱物採掘・採取方法が従来型の採掘・選鉱を通じた精鉱生産という方法に加え、銅における SX・EW(溶媒抽出・電解採取法)や金におけるカーボンインパルプ法など湿式製錬に繋がるヒープリーチングが普及したことから、リーチングにおける排水や漏洩に関する対応の重要性が指摘され、更に今後課題となるであろう閉山後のヒープの管理にも言及していることが挙げられる。

廃棄物の項では、河川・浅海へのテーリングの投棄は望ましくないとしている。深海尾鉱投棄(DSTP)に関しては陸上での投棄が困難な場合にのみ代替案としての環境に配慮した上での採用を認め、禁止してはいない。実際、DSTP に関しては小さな島やテーリングダムの設置が困難な状況で採用しているケースもあり、現状を見据えた上で柔軟な対応と考えられる。

鉱山にとり開発と並び重要な課題が閉山である。閉山に関しては、持続可能な開発の理念の普及に伴い、開発計画段階からの取組みの重要性が指摘され、産業界もこれを実践している。資源国では閉山に関し、鉱業法や閉山法の制定や改正の中で法的整備が進んでおり、本ガイドラインでもその取組みに言及している。

なお、閉山に伴う財政的な保証つまり閉山に伴う必要な資金を確保すべきとの指摘はあるが、一部資源国では、中小零細企業からの資金負担の困難性から具体的な施策や制度の構築に課題を抱えている状況も見られる。

鉱業 EHS ガイドラインはあくまでも世銀グループが利用するガイドラインである。しかし、今後このガイドラインは、世界各国政府の EHS 関連の法的整備や世界の投資・金融機関が独自に持つ鉱山開発プロジェクトに対する投融資等でのプロジェクト評価等に使う EHS 関連ガイドラインの見直し等において一つの指標として参考にされるであろうと考えられる。

世界の鉱山業における環境や労働安全衛生に関する法的整備は進んでいる。傾向としては、従来の細かい基準をも含むコマンド&コントロール(政府の管理・監督スタイル)からセルフコントロール(企業の自主的取り組み)にシフトしつつあり、例えば法律では細かい基準を設けず大枠で性能要件を示し、企業が自主的に採用したレベルの高い基準による自己管理を薦めている。

その点において、企業が今回の鉱業 EHS ガイドラインを自己が目指す目標基準の一つとして採用し、環境管理システムの一環として PDCA サイクルに組み込み継続的に取り組んでいくことが期待される。

最後に今回は鉱業 EHS ガイドラインの英文を仮訳しその一部を引用し紹介したところである。詳細については、英文のオリジナルのガイドラインを参照願いたい。鉱業 EHS ガイドラインを含む一連のガイドラインは以下のウエブサイトからダウンロードできる。

ダウンロードサイト:www.ifc.org/ifcext/enviro.nsf/Content/EnvironmentalGuidelines

(2008.4.17)

<参考文献>1.General Environmental , Health, and Safety

Guidelines(International Finance Corporation, April 30, 2007)

2.Environmental, Health, and Safety Guidelines MINING(International Finance Corporation, December 10, 2007)

3.Trends In International Environmental Law Affecting The Mining Industry(George Pring, University of Denver College of Law, /James M. Otto, Colorado School of Mines, /Koh Naito, Industry and Mining Unit, World Bank/February 1999)