nihs 医薬品安全性情報 vol.15 no.08 2017/04/20pres...
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国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部
目 次
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/index.html
各国規制機関情報
【EU EMA(European Medicines Agency)】
• SGLT2 阻害薬:処方情報に足指切断のリスクに関する情報を記載 ......................................... 2
【NZ MEDSAFE(New Zealand Medicines and Medical Devices Safety Authority)】
• Prescriber Update Vol.38 No.1
○ 可逆性後白質脳症症候群:医薬品の副作用としての認識が広まる ..................................... 5
【WHO(World Health Organization)】
• WHO Pharmaceuticals Newsletter No. 1, 2017
○ VigiBaseで特定された安全性シグナル(ganciclovirと低血糖,lamivudineと聴力低下) ...... 8
「医薬品安全性情報」は,安全情報部が海外の主な規制機関・国際機関等から出される医薬品に関わる安全性情
報を収集・検討し,重要と考えられる情報を翻訳または要約したものです。 [‘○○○’]の○○○は当該国における販売名を示し,医学用語は原則としてMedDRA-Jを使用しています。 略語・用語の解説,その他の記載についてはhttp://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly/tebiki.htmlをご参照ください。 ※本情報を参考にされる場合は必ず原文をご参照ください。本情報および本情報にリンクされているサイトを利用し
たことによる結果についての責任は負いかねますので,ご了承ください。
医薬品安全性情報 Vol.15 No.08(2017/04/20)
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NIHS
医薬品安全性情報 Vol.15 No.08(2017/04/20)
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各国規制機関情報
Vol.15(2017) No.08(04/20)R01
【 EU EMA 】
• SGLT2 阻害薬:処方情報に足指切断のリスクに関する情報を記載
SGLT2 inhibitors: information on potential risk of toe amputation to be included in
prescribing information
Referrals
通知日:2017/02/24
http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Press_release/2017/02/WC500222191.pdf
(抜粋)
糖尿病患者に対し,予防的フットケアの重要性について注意喚起する。
◇ ◇ ◇
EMAは,2型糖尿病の治療のためにSGLT2 A阻害薬のcanagliflozin,dapagliflozin,または
empagliflozinを使用している患者で,下肢(主として足指)切断のリスクが高まる可能性があることを
通知する。
これらの医薬品を使用している患者に対し,定期的に足をチェックし,日常的に行うべき予防的
フットケアについて担当医の助言に従うよう,注意喚起する。また患者は,創傷や変色に気付いた
場合,あるいは足に圧痛や疼痛を感じた場合,担当医に知らせるべきである。
2つの臨床試験(CANVAS試験,およびCANVAS-R試験)において,canagliflozin使用患者で
下肢(主として足指)切断の発生数が多かったことが契機となり,SGLT2阻害薬に関するレビューB
が行われた。両試験は,心疾患リスクの高い患者を対象として,canagliflozinとプラセボを比較した
試験であり,現在も進行中である。
すべての糖尿病患者(特に,コントロール不良で,心・血管疾患のある患者)は,切断に至ること
のある感染・潰瘍の発現リスクが高い。Canagliflozinが切断のリスクを上昇させる機序については,
まだわかっていない。
他のSGLT2阻害薬のdapagliflozinおよびempagliflozinに関する臨床試験では,下肢切断の発
生数増加はこれまでみられていない。しかしながら,現時点で得られるデータは限られており,切
断のリスクはcanagliflozin以外のSGLT2阻害薬にも当てはまる可能性がある。
Canagliflozin,dapagliflozin,およびempagliflozinに関して現在実施されている試験から,さらに
データが得られることが見込まれる。
Canagliflozin,dapagliflozin,およびempagliflozinの処方情報には,足指切断のリスクが高まる
A sodium-glucose co-transporter-2(ナトリウム・グルコース共輸送体 2) B Canagliflozin のレビューは,Regulation(EC)No 726/2004 第 20 条にもとづき,EC の要請により 2016 年 4 月 15
日に開始された。2016 年 7 月 7 日にレビューの範囲が拡大され,他の SGLT2 阻害薬である dapagliflozin と
empagliflozin が追加された。
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可能性があるとの警告が記載される。Canagliflozinの処方情報にはさらに,下肢切断が,
‘uncommon side effect’(1000人あたり1~10人に発現する副作用)として記載される。患者に重大
な足の合併症(感染,皮膚潰瘍など)が生じた場合,医師はcanagliflozinの中止を検討してよい。
SGLT2阻害薬のレビューは,EMAのファーマコビジランス・リスク評価委員会(PRAC)Cにより実
施された。PRACの勧告は今回,ヒト用医薬品委員会(CHMP)Dの承認を受けた。今後EC(欧州委
員会)に提出され,EU全域で法的拘束力をもつ最終決定が下されることになる。
◇CANVAS試験,およびCANVAS-R試験について
CANVAS試験Eは,canagliflozinが心血管疾患を低減するか否かを調べるための長期試験で,
現在進行中である。同試験では,心疾患のリスクの高い糖尿病患者において,標準治療に
canagliflozinもしくはプラセボを上乗せした効果を比較している。2009~2010年に,以下のEU諸国
でCANVAS試験の実施が許可された。ベルギー,チェコ共和国,エストニア,フランス,ドイツ,ハン
ガリー,ルクセンブルク,オランダ,ノルウェー,ポーランド,スペイン,スウェーデン,および英国。
2016年9月時点で,CANVAS試験での下肢(主として足指)切断の発生数は,プラセボ群で
3/1000人・年であったのに対し,canagliflozin 100 mgを1日1回使用した群では7/1000人・年,
canagliflozin 300 mgを1日1回使用した群では5/1000人・年であったF。この試験には約4,300人の
患者が組み入れられた。
CANVAS-R試験は,CANVAS試験と同様の集団を対象とし,現在進行中である。この試験は,
標準治療を受けているが,血糖コントロールが不良で心血管疾患のリスクの高い2型糖尿病患者に
おいて,アルブミン尿Gの進行にcanagliflozinが及ぼす影響をプラセボとの比較で評価することを
目的としている。CANVAS-R試験は以下のEU諸国で実施が許可された。ベルギー,チェコ共和国,
フランス,ドイツ,ハンガリー,オランダ,ポーランド,スペイン,スウェーデン,および英国。
2016年9月時点で,下肢切断の発生数は,canagliflozin使用群で8/1000人・年,プラセボ群で
4/1000人・年であった。この試験には5,800人以上の患者が組み入れられた。
CANVAS試験およびCANVAS-R試験で示された下肢切断の上記発生数は,暫定的データに
もとづいており,最終的な発生率は,両試験の最終的なデータセットの解析によって得られる見込
みである。
◇SGLT2阻害薬について
Canagliflozin,dapagliflozin,およびempagliflozinは,SGLT2阻害薬クラスの2型糖尿病治療薬
である。SGLT2阻害薬は,腎臓で血液が濾過される際に尿中のグルコースを再吸収して血流に戻
す働きをするSGLT2と呼ばれるタンパク質を阻害する。SGLT2の働きを阻害することにより,尿への
C Pharmacovigilance Risk Assessment Committee D Committee for Medicinal Products for Human Use E CANagliflozin cardioVascular Assessment Study F 1 人・年は,患者 1 人が医薬品を 1 年間使用することに相当する。 G 腎疾患の初期徴候
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グルコース排泄を促進し,それによって血中のグルコース値を下げる。
本レビューでは,下記のSGLT2阻害薬含有製品を対象とした。[‘Ebymect’](dapagliflozin /
metformin ) , [ ‘Edistride ’ ] ( dapagliflozin ) , [ ‘ Forxiga ’ ] ( dapagliflozin ) , [ ‘ Invokana ’ ]
(canagliflozin) , [‘Jardiance’](empagliflozin) , [‘Synjardy’](empagliflozin / metformin) ,
[‘Vokanamet’](canagliflozin / metformin),および [‘Xigduo’](dapagliflozin/metformin)。
これらの医薬品のさらに詳しい情報は,下記のEMAのウェブサイト‘European public assessment
reports’で検索可能である。
http://www.ema.europa.eu/ema/index.jsp?curl=pages/medicines/landing/epar_search.jsp&mid=WC0
b01ac058001d124
参考情報
※英MHRAより,2017年2月22日付Drug Safety Updateで,本件に関し同様の通知がされている。
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/602324/DSU_pdf_
March.pdf
◆関連する医薬品安全性情報
【米FDA】Vol.14 No.12(2016/06/16)
薬剤情報
◎Canagliflozin〔カナグリフロジン水和物,Canagliflozin Hydrate,SGLT2阻害薬,2型糖尿病治療
薬〕国内:発売済 海外:発売済
◎Dapagliflozin〔ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物,Dapagliflozin Propylene Glycolate
Hydrate,SGLT2 阻害薬,2 型糖尿病治療薬〕国内:発売済 海外:発売済
◎Empagliflozin〔エンパグリフロジン,SGLT2阻害剤,2型糖尿病治療薬〕国内:発売済 海外:発
売済
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Vol.15(2017) No.08(04/20)R02
【NZ MEDSAFE】
• 可逆性後白質脳症症候群:医薬品の副作用としての認識が広まる
Posterior Reversible (Leuko) Encephalopathy Syndrome (PRES) – Increasingly Linked to
Medicines
Prescriber Update Vol.38 No.1
通知日:2017/03/02
http://www.medsafe.govt.nz/profs/PUArticles/March2017/PERSLinkedtoMedicines.htm
http://www.medsafe.govt.nz/profs/PUArticles/PDF/Prescriber%20Update%2038(1)%20March%202
017.pdf
◇重要なメッセージ
• 可逆性後白質脳症症候群(PRES)Aは,可逆性の皮質下血管原性浮腫により,神経症状が急
激に発現する障害をいう。
• 最もよくみられる症状は,痙攣発作と頭痛である。PRESを発症した患者の多くは,高血圧か,
急激な血圧上昇がみられている。
• PRESは通常,迅速な診断と基礎疾患の治療により,回復が可能である。
• PRESとの関連が示されている医薬品は,移植を受けた患者や癌患者で一般に用いられてい
る医薬品で,ciclosporin,tacrolimus,sunitinib,免疫グロブリン,インターフェロンαなどである。
◇ ◇ ◇ 可逆性後白質脳症症候群(PRES)は,臨床症状や画像診断で判別される症候群で,医薬品の
副作用としての認識が広まっている1,2)。PRESは,神経症状の急性発現を伴う,可逆性の皮質下血
管原性浮腫による障害をいう。
PRESについての記述が初めて現れたのは1990年代であった3)。発生率は一般にわかっていな
い。臓器移植や幹細胞移植を受けた患者での発現率は,成人,小児ともに,1~10%であると報告
されている4)。PRESは女性の方にやや多い1)。
PRESは,高血圧(報告症例の53%),腎疾患(45%),悪性疾患(32%),透析依存(21%),移植
(24%),自己免疫障害(11%),子癇(11%)などとの関連がよくみられている。
また,PRESはいくつかの医薬品,特に免疫抑制薬および癌化学療法薬の使用との関連もみられ
ている1)。PRESとの関連がみられている医薬品は以下の通りである(網羅的なリストではない)2,4,5,6)。 tacrolimus(まれにsirolimus)
ciclosporin
bevacizumab
sunitinib A posterior reversible (leuko) encephalopathy syndrome
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sorafenib
インターフェロンα
静注用免疫グロブリン
cisplatin
cytarabine
fludarabine
rituximab
infliximab
alemtuzumab
corticosteroids
bortezomib 医薬品の使用開始からPRES発現までの期間については,十分な報告がない。臓器移植で用い
られる医薬品に関しては,発現までの期間が1年以上の場合があり,移植片対宿主病や感染のエ
ピソードが関わっている可能性がある4)。
PRESの病態生理は明らかではないが,血圧の上昇も原因の1つと考えられている。
最もよくみられる臨床的徴候・症状は以下の通りである1)。 痙攣発作(症例中約85%で発現)
頭痛(約50%)
黒内障/半盲(50%近くが失明)
精神状態の変化/昏睡(約40%)
悪心・嘔吐(約30%)
一過性の運動障害(約10%) 症状は通常,急激に発現し,薬剤使用後12~48時間でピークに達する4)。
診断は困難であり,臨床経過の把握や臨床的判断が不可欠である。鑑別診断には,脳炎,悪
性疾患,可逆性脳血管収縮症候群,脳卒中,進行性多巣性白質脳症,血管炎などが含まれる。
特徴的な臨床像はないが,通常,早期MRI所見が診断に役立つ1,3)。脳の画像診断で,通常,両
側の頭頂後頭部に血管原性浮腫がみとめられる3)。
PRESに特化した治療法はないが,原因が除去されれば,障害は通常解消する2)。痙攣発作は通
常の方法で治療すべきである1,2)が,治療期間については見解が分かれている2)。一般的コンセンサ
スが得られているのは,高血圧の患者では血圧を下げることである。専門医は,最初の数時間以内
に血圧を25%下げることを推奨している1,2,4)。血圧の著しい変動は避けるべきであり,そのため
nitroprussideまたはnicardapineの点滴静注が一般に行われている1,2,4)。PRESの原因薬として疑われ
た医薬品はすべて,使用を中止すべきである2)。
PRESの症例の多くでは,症状は通常,1週間以内に改善する。神経画像診断で症状が解消す
るのは,通常,それより後である4)。
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しかしながら,脳出血や虚血が起こることがある。症例の10~20%で不可逆性の神経障害が,
3~6%で死亡が報告されている1,2)。PRESは症例の5~10%で再発する可能性があり,高血圧の
コントロールが不良である患者の方が再発の可能性は高い。
ニュージーランドの有害反応モニタリングセンター(CARM)Bは,PRESの報告を3例受けている。 2009年に報告された1例:ciclosporinの使用に伴う症例。患者はsirolimusに切り替え,回復に
向かった7)。
2011年に報告された1例:R-CHOP療法 Cに伴う症例。患者は静注用labetalolに続き経口
felodipineによる治療で回復した8)。
2015年に報告された1例:ciclosporinの使用に伴う症例。降圧治療により症状が改善した9)。
文献および関連資料
1) Granata G, Greco A, Iannella G, et al. 2015. Posterior reversible encephalopathy syndrome –
insight into pathogenesis, clinical variants and treatment approaches. Autoimmunity Reviews
14(9): 830-6
2) Fugate J, Rabinstein A. 2015. Posterior reversible encephalopathy syndrome: clinical and
radiological manifestations, pathophysiology, and outstanding questions. Lancet Neurology
14(9): 914-25
3) Hinchey J, Chaves C, Appignani B, et al. 1996. A reversible posterior leukoencephalopathy
syndrome. The New England Journal of Medicine 334: 494-500
4) Masetti R, Cordelli D, Zama D, et al. 2015. PRES in children undergoing hematopoietic stem cell
or solid organ transplantation. Pediatrics 135(5): 890-901.
5) Garg R. 2001. Posterior leukoencephalopathy syndrome. Postgraduate Medical Journal 77(903):
24-28.
6) Oshikawa G, Kojima A, Doki N, et al. 2013. Bortezomib-induced posterior reversible
encephalopathy syndrome in a patient with newly diagnosed multiple myeloma. Internal
Medicine 52(1): 111-4
7) CARM case ID 85779. URL: medsafe.govt.nz/Projects/B1/adrsearch.asp
8) CARM case ID 98013. URL: medsafe.govt.nz/Projects/B1/adrsearch.asp
9) CARM case ID 115521. URL: medsafe.govt.nz/Projects/B1/adrsearch.asp
B Centre for Adverse Reactions Monitoring C Cyclophosphamide,doxorubicin hydrochloride(Hydroxydaunomycin),vincristine sulfate(Oncovin),Prednisone
を組み合わせた CHOP 療法に Rituximab を加えた療法。非ホジキンリンパ腫に用いられる。(National Cancer Institute のサイトより)(訳注)
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◆関連する医薬品安全性情報
【カナダHealth Canada】Vol.10 No.23(2012/11/08),Vol.4 No.23(2006/11/16),
【米FDA】Vol.4 No.20(2006/10/05)
Vol.15(2017) No.08(04/20)R03
【WHO】
• VigiBase で特定された安全性シグナル(ganciclovir と低血糖,lamivudine と聴力低下)
Signal (ganciclovir,lamivudine)
WHO Pharmaceuticals Newsletter No. 1, 2017
通知日:2017/02/22
http://www.who.int/entity/medicines/publications/pharm_news_no1_2017.pdf?ua=1
(抜粋・要約)
◆WHOのシグナルについて
WHOの定義によるシグナルとは,ある有害事象とある医薬品との間に因果関係が存在する可能
性について報告された情報のうち,これまで知られていなかったか,十分なエビデンスによる裏付
けがなかったものである。通常,シグナルの生成には2件以上の報告が必要であるが,これは有害事
象の重篤度や情報の質にもよる。シグナルとは,データと論拠を伴った仮説で,不明確であり,かつ
予備的な性質をもつことに留意することが重要である。
本Newsletterに掲載されているシグナルは,WHOのVigiBaseに収載された個別症例安全性報告
(ICSR)Aの情報にもとづいている。VigiBaseには,WHO国際医薬品モニタリングプログラムBに参加
している各国のファーマコビジランスセンターから提出された,医薬品との関連が疑われる有害反応
の報告が1,400万件以上収載されている。VigiBaseは,WHOに代わりUppsala Monitoring Centre
(UMC)Cが維持・管理し,VigiBaseのデータは,UMCがルーチンに行っているシグナル検出プロセ
スに従い,定期的に解析されているD。
◇ ◇ ◇
A Individual Case Safety Report
ICSRに関する詳細情報(限界や適切な使用など)は,“Caveat document”(本記事の原文のp.29)を参照。 http://www.who.int/entity/medicines/publications/pharm_news_no1_2017.pdf?ua=1
B WHO Programme for International Drug Monitoring C http://www.who-umc.org/ D WHOのシグナルの定義については以下のサイトを参照。(訳注)
http://who-umc2010.phosdev.se/DynPage.aspx?id=115092&mn1=7347&mn2=7252&mn3=7613&mn4=7614
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VigiBaseで特定された安全性シグナルE
◇Ganciclovirと低血糖
♢Ganciclovirについて
Ganciclovirは非環状ヌクレオシド類似体であり,臓器移植後におけるサイトメガロウイルス(CMV)F
感染の治療および予防のため,また,HIV患者など免疫の低下した患者で用いられる。
♢VigiBaseでの報告
VigiBaseには,1989年7月~2015年8月に,ganciclovirの使用に伴う低血糖のICSRが21例報告
されているG。そのうち4例は女性,2例は性別不明,15例は男性であった。年齢は10~84歳と幅が
みられたが,多くは30代または40代(中央値:40歳)であった。報告国は,米国(12例),日本(4例),
英国(2例),オーストラリア(1例),イスラエル(1例),およびオランダ(1例)であった。5例は重篤例,
1例は非重篤例に分類されていたが,残りは分類されていなかった。
♢Ganciclovirと低血糖との関連について
Ganciclovirの用量は,2.5 mg/kgを1日1回静注から,1000 mgを1日1回静注まで,かなり幅が
あった。これは,予防用の用量から治療用の用量まで含まれているためである。VigiBaseの報告症
例21例のうち14例で,副作用発現までの期間が報告されていた。そのうち9例ではganciclovirの使
用開始後10日以内に,5例は3日以内に発現したH。このうち1例については,ibuprofenと関連があ
ると報告されていたが,その可能性は非常に低い。もう1例はceftriaxoneと関連があると報告されて
いたが,これもまた可能性がかなり低いと考えられる。
これらの症例は,免疫の低下した患者で生じており,中にはganciclovirへの曝露前に,HIV(4人)
や悪性の血液疾患に罹患していた患者もいた。症例の多くで,ganciclovirは静脈内投与されてお
り,適応症はサイトメガロウイルス(CMV)感染か,またはそれが疑われる症状であったと推定された。
いくつかの症例では,併存疾患が併用薬から推察できる場合もあった。特に,糖尿病治療薬は低
血糖への関与が大きいと考えられる。糖尿病患者は4人で,そのうち3人はインスリン療法を受けて
いた。残りの1人は65歳の女性であり,glimepirideおよびmetforminを使用していたが,いずれも
ganciclovirと共に被疑薬として報告されていた。低血糖イベントはganciclovirへの曝露(250 mgを1
日2回静注)の10日後に発現した。この症例では,ganciclovirのrechallengeIにより副作用が再発し
たと報告されていた。Ganciclovir以外の被疑薬については,rechallengeは報告されていなかったこ
とから,rechallengeに関してはganciclovirが単独の原因薬であった。
また,まれに低血糖を引き起こすことが知られている抗菌薬が併用されていた症例も少数みられ
E 原則として,日本国内で発売済みまたは開発中の医薬品のみを対象とした。(訳注) F cytomegalovirus G 個々の症例の詳細は原文 p.21 の表 1 を参照。 H 副作用発現までの期間は 0~273 日(中央値:6 日)であった。 I 使用再開
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た。薬物相互作用の可能性(sulphamethoxazole/trimethoprimなど)についても言及されていた。さ
らに,これらの患者の多くは体調が極めて不良であった。文献では,ganciclovirの使用を再開する
毎に低血糖エピソードを繰り返したという注目すべき症例が報告されており,また,VigiBaseの2例
では,ganciclovirのrechallengeにより低血糖が発現していた。また,低血糖が発現するまでの期間
は比較的短かった。これらの報告から,ganciclovirの使用に伴う低血糖のリスクは極めて不確定で
あるものの,ganciclovirの使用中止により低血糖が解消した症例や,使用再開により低血糖が再発
した症例があることから,このリスクは検討を要する。
〔執筆者:Dr Richard Day, Australia〕
◇ ◇ ◇ ◇Lamivudineと聴力低下
♢Lamivudineについて
Lamivudineはヌクレオシド系の逆転写酵素阻害薬(NRTI) Jであり,多剤併用療法である
HAART療法Kに組み込まれてHIV/AIDSの治療に用いられるほか,B型肝炎の治療も適応とす
る。
♢VigiBaseでの報告
2016年6月時点で,VigiBaseには,lamivudineの使用に伴うICSRで,WHO-ART Lの高位語
(HLT)Mの「聴力低下」Nに分類されたものが45例(重複報告が疑われる6例は除外),約19年間
(1997年5月~2016年4月)に登録されていた。
これらのICSRの報告国は5大陸の13カ国で,アフリカ(ナイジェリア,南アフリカ),アジア(韓国,
日本),欧州(ベルギー,ドイツ,フランス,スペイン,およびスイス),北米(カナダ,米国),中南米
(ペルー),およびオセアニア(オーストラリア)と,世界各地に分布していた。
19例の報告にはさらに詳細な評価が可能となる情報が含まれていた(原文の表1Oを参照)。残り
の26例の報告(「聴力低下」18例,「難聴」7例,「神経性難聴」1例)は,重要な項目,特に投薬日と
副作用発現日の記入が不足していた。
19例のほとんどすべてにおいて特徴的であったのは,複数のARTP薬によるHAART療法の使
用であった。併用処方されていた主な医薬品は,stavudine(7例),zidovudine(6例),ritonavir(5
例),およびnevirapine(4例)であった。
各症例の転帰は,回復 1例,回復中または後遺症を伴った回復 8例,回復せず 3例,不明 7
J nucleoside reverse transcriptase inhibitor K highly active antiretroviral therapy L World Health Organization Adverse Reaction Terminology(WHO 副作用用語集)(訳注) M High Level Term N hearing decreased O 原文の p.25 には 19 症例の一覧表がある。 P antiretroviral therapy(抗レトロウイルス療法)(訳注)
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例であった。残念ながら,回復または部分的回復と報告された症例の多くで,dechallengeQに関す
る情報が不明確であった。しかしながら,positive dechallengeRが報告されていた症例も1例あった。
全症例での副作用発現までの期間は,4日~5年(中央値・9カ月)であった。
♢HIV患者での難聴について
HIV感染患者(どの病期においても)では,薬剤性の難聴が発現する可能性が比較的高いと報
告されている11)。SimdonSらは早期に,ART使用後での発症例3例でこの可能性に着目していた。
Simdonは,研究結果を解釈する際,特に,患者の以前からの難聴〔原因は感染症,騒音曝露歴,
年齢が高いこと(35歳以上)など〕による交絡に言及していた12)。この早期の研究では,結論に達す
ることができなかった。
Cohenらは,HIV感染に伴う難聴の特徴について,片側性または両側性,進行性または突発性,
伝音性,感音性または混合性の,いずれも起こり得ると述べている9)。
♢文献および製品表示
EMA,FDA,Health Canadaなどの規制機関により承認を受けたlamivudineの各製品表示には,
医薬品副作用として聴力低下は記載されていない14-16)。
聴力低下は,さまざまな医学分野の専門医が,HIV/AIDSの多様な症状を評価した際に真っ先
に気付いた臨床症状の1つであり,その発生率は,1980年代後半~1990年代前半には27.5~
33.5%であり,1987年にはRealらにより突発性難聴が報告されている8,9,18)。
ARTの使用開始後の難聴に関する初期の研究の1つである,Marraらが行った症例対照研究で
は,患者の29%が難聴であったことが示され,これはARTの使用患者で最も顕著であった8)。
別の注目すべき症例報告で,Reyらは,曝露後予防としてstavudine/lamivudine/nevirapine併用
のART療法を受けたフランスの23歳の女子医学生における症例に着目した。その医学生は
nevirapineを4日間,残りの2剤を1カ月間処方された。NRTIによる治療終了後2週間以内に,両側
性の突発性難聴が発現し,数カ月後,部分的に回復した。詳しい検査が行われたが,何も異常は
見出されなかった。その医学生は6カ月後もHIV陰性を維持していた22)。
Dechallenge後の転帰が報告されていた1例からも,関連が示唆される。
♢結 論
VigiBaseから得られたエビデンスは,lamivudineと聴力低下との関連を示唆している。13カ国か
ら報告があったことは,この関連の強さと一貫性を裏付けている。Lamivudineのミトコンドリア毒性,
および副作用発現までの期間から,lamivudineと聴力低下の関連に関する生物学的妥当性,論理
的一貫性,時間的関連性は明白である。
Q 薬剤の使用を中止すること(訳注) R 薬剤の使用中止で,有害反応が消失または軽減すること。(訳注) S 原文では’Smidon’となっているが,Simdon と思われる。(訳注)
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慢性肝炎の治療にlamivudine単独療法を受けていた2例で聴力低下が発現したことは,この関
連をさらに支持しているが,HIV治療より低用量で用いられるB型肝炎患者で報告症例が少ないこ
とは,生物学的な用量反応性が示されていると考えられる。一方,症例のほとんどで他のARTが併
用されていたことは,クラス効果か,または併用による増強の可能性を示唆していると考えられる。
〔執筆者:Prof Ambrose O Isah, Nigeria/Uppsala Monitoring Centre〕
文 献 (抜粋)
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薬剤情報
◎Ganciclovir〔ガンシクロビル,抗CMV化学療法薬〕国内:発売済 海外:発売済
◎Valganciclovir〔バルガンシクロビル塩酸塩,Valganciclovir Hydrochloride,抗CMV化学療法
医薬品安全性情報 Vol.15 No.08(2017/04/20)
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薬〕国内:発売済 海外:発売済
※ValganciclovirはGanciclovirのL-バリンエステル体で,経口吸収性を改善したプロドラッグ
◎Lamivudine〔ラミブジン,核酸系逆転写酵素阻害剤薬(NRTI),抗ウイルス化学療法薬〕国内:発
売済 海外:発売済
Ganciclovir Valganciclovir Lamivudine
以上
連絡先
安全情報部第一室: 青木 良子
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H3C O
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* 及びC*位エピマーO
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