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栄養管理を考える 高齢者の GLIM:The Global Leadership Initiative on Malnutrition 低栄養の新たな診断基準: GLIM criteria 1 グローバルコンセンサスを目指してGLIM criteria:低栄養診断の概要 Nutrition Support Specialist Review Vol.5 低栄養診断のアルゴリズム 5 2018年9月、欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)と米国静脈経腸栄養学会(A.S.P.E.N.)の学会誌 である に、世界規模での低栄養の診断基準 GLIM criteria が同 時掲載されました。 1) この新しい診断基準は、日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)を含む世界各 国の PEN society(Parenteral and Enteral Nutrition、静脈経腸栄養関連学会)の代表者が、 一堂に会して到達した初めての世界規模での低栄養の診断基準です。 このワーキンググループは GLIM と称し、2016年 1月に発足しました。そのきっかけとなった のが、2015年に名古屋で開催された第16回PENSA(アジア静脈経腸栄養学会)でのパネル ディスカッションでした 。その 討 論 の中で 、「 世界規 模 で 、低 栄 養 の 診 断 基 準 を 作 ろう 」とい う気運が一気に高まりました。そして2016年9月ESPEN、次いで2017年2月A.S.P.E.N.の学 術集会を皮切りに、連続的に代表者会議を開催して今回の GLIM criteria の発表につなが りました。 2) GLIM criteria の特徴は、低栄養の診断には既に各 地域で実施されている評価法を包括して、スムーズ な臨床導入が可能なように配慮されていることで す。 また、 診断基準の策定過程ではサルコペニアや 悪液質など各学会の定義との摩擦が生じないよう にも配慮しています。 この GLIM の活動は、まだ始まったばかりです。今 後の展開に、さらに大きな期待が寄せられています。 低栄養の診断は、スクリーニングとアセスメント/診断 (重症度を含む)の2段階で行います。 リスクスクリーニングで、“検証されたツールの使用”とは、 SGAやMUSTなど、各国で従来使用されているツールの 使用を推奨しています。 アセスメント・診断(重症度判定) は、「 (phenotypic criteria)の 3 項目と」(etiologic criteria)の2項 目を用いて行います重症度判定はアセスメント・診断 で用いた「 」で2 段階の重症度を判定します。 GLIM criteria では、低 栄養を「   」にしたがって、① 慢性疾患で炎症を伴う低栄養、②急性疾患あるいは外 傷による高度の炎症を伴う低栄養、③炎症はわずか、あ るいは認めない慢性疾患による低栄養、④炎症はなく飢 餓による低栄養(社会経済的や環境的要因による食糧不 足に起因)の、 炎症に関連する 4 つの病因別に分類して います。 ESPEN :ヨーロッパ臨床栄養代謝学会 PENSA :アジア静脈経 腸栄養学会 JSPEN :日本静脈経腸栄養学会 A.S.P.E.N. :米国 静脈経腸栄養学会 FELANPE :ラテンアメリカ栄養療法学会 ESPEN PENSA A.S.P.E.N. FELANPE JSPEN 従来より使用されている精度 検証済みのツール使用を推奨 リスク スクリーニング と   の、 それぞれ1つ以上に該当 診断 に基づき重症度を判定 重症度判定 ・ 意図しない体重減少 ・ 低BMI ・ 筋肉量減少 ・ 食事量減少または吸収能低下 ・ 疾患による負荷/炎症の程度 アセスメント 現症 現症 現症 病因 現症 病因 現症 東口 髙志 先生 監修 藤田医科大学 医学部 外科・緩和医療学講座 教授 一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会 理事長 Clinical Nutrition JPEN 病因 病因

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栄養管理を考える高齢者の

GLIM :The Global Leadership Initiative on Malnutrition低栄養の新たな診断基準:GLIM criteria1)

グローバルコンセンサスを目指して―

GLIM criteria:低栄養診断の概要

N u t r i t i o n S u p p o r t S p e c i a l i s t R e v i e w

Vol.5

低栄養診断のアルゴリズム

52018年9月、欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)と米国静脈経腸栄養学会(A.S.P.E.N.)の学会誌である と に、世界規模での低栄養の診断基準 GLIM criteria が同時掲載されました。1) この新しい診断基準は、日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)を含む世界各国の PEN society(Parenteral and Enteral Nutrition、静脈経腸栄養関連学会)の代表者が、一堂に会して到達した初めての世界規模での低栄養の診断基準です。このワーキンググループは GLIM と称し、2016年1月に発足しました。そのきっかけとなったのが、2015年に名古屋で開催された第16回PENSA(アジア静脈経腸栄養学会)でのパネルディスカッションでした。その討論の中で、「世界規模で、低栄養の診断基準を作ろう」という気運が一気に高まりました。そして2016年9月ESPEN、次いで2017年2月A.S.P.E.N.の学術集会を皮切りに、連続的に代表者会議を開催して今回の GLIM criteria の発表につながりました。2)

GLIM criteria の特徴は、低栄養の診断には既に各地域で実施されている評価法を包括して、スムーズな臨床導入が可能なように配慮されていることです。 また、 診断基準の策定過程ではサルコペニアや悪液質など各学会の定義との摩擦が生じないようにも配慮しています。この GLIM の活動は、まだ始まったばかりです。今後の展開に、さらに大きな期待が寄せられています。

低栄養の診断は、スクリーニングとアセスメント/診断(重症度を含む)の2段階で行います。リスクスクリーニングで、“検証されたツールの使用”とは、SGAやMUSTなど、各国で従来使用されているツールの使用を推奨しています。アセスメント・診断(重症度判定)は、「   」(phenotypic criteria)の 3 項目と、「    」(etiologic criteria)の 2 項目を用いて行います。重症度判定はアセスメント・診断で用いた「    」で、2 段階の重症度を判定します。GLIM criteria では、低栄養を「   」にしたがって、①慢性疾患で炎症を伴う低栄養、②急性疾患あるいは外傷による高度の炎症を伴う低栄養、③炎症はわずか、あるいは認めない慢性疾患による低栄養、④炎症はなく飢餓による低栄養(社会経済的や環境的要因による食糧不足に起因)の、炎症に関連する4つの病因別に分類しています。

ESPEN:ヨーロッパ臨床栄養代謝学会 PENSA:アジア静脈経腸栄養学会 JSPEN:日本静脈経腸栄養学会 A.S.P.E.N.:米国静脈経腸栄養学会 FELANPE:ラテンアメリカ栄養療法学会

ESPEN

PENSA

A.S.P.E.N.

FELANPE

JSPEN

従来より使用されている精度検証済みのツール使用を推奨

リスク スクリーニング

   と   の、それぞれ1つ以上に該当

診断

   に基づき重症度を判定重症度判定

・ 意図しない体重減少・ 低BMI・ 筋肉量減少

・ 食事量減少または吸収能低下・ 疾患による負荷/炎症の程度

アセスメント 現症

現症

現症 病因

現症

病因

現症

東口 髙志 先生監修

藤田医科大学 医学部外科・緩和医療学講座教授

一般社団法人日本静脈経腸栄養学会理事長

Clinical Nutrition JPEN

病因

病因

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低栄養の診断基準:G L I M c r i t e r i a

《 引用文献 》 1) 以下2報は些細な表現などの違いがあるが、同内容の発表。       ・Cederholm T. et al. Clin Nutr. 2018 Sep 3. DOI: 10.1016/j.clnu.2018.08.002 ・Jensen GL. et.al. JPEN. 2018;0:1‒9 DOI: 10.1002/jpen.1440.wileyonlinelibrary.com 2) Cederholm T.Clin Nutr.2017;36:49-64

現 症意図しない体重減少□ > 5%: 過去6ヶ月以内

or□ > 10%:  過去6ヶ月以上

低BMI(kg/m2) 筋肉量減少□ 筋肉量減少: 身体組成測定  (DXA、BIA、CT、 MRIなどで計測)❶[アジア]□ 筋肉量減少: 人種による補正  (上腕周囲長、下腿  周囲長などでも可)❶

病 因病 因

低 栄 養

アセスメント ▶ 診断

食事摂取量減少⁄ 消化吸収能低下□ 食事摂取量≦ 50% ( エネルギー必要量の) :1 週間以上 

or□ 食事摂取量の低下  :2 週間以上持続

or□ 食物の消化吸収障害:  慢性的な消化器症状❷

□ 急性疾患や外傷による 炎症❸❺

or□ 慢性疾患による炎症❹❺

疾患による負荷⁄炎症の関与❸❹❺ □ < 20:70歳未満 □ < 22:70歳以上

[アジア] □ < 18.5:70歳未満 □ < 20:70歳以上

診 断上 記 3 項 目 の 1 つ 以 上 に 該 当 上 記 2 項 目 の 1 つ 以 上 に 該 当and

[お問い合わせ・資料請求先]お客様相談室:フリーダイヤル 0120-964-9302019年2月作成ENH190116CDS

アボット ジャパン株式会社東京都港区三田3-5-27

❶筋肉量測定●二重エネルギー吸収法、生体インピーダンス法、CT、MRIなど体組成測定法で測定する。●これらが使用出来ない場合、身体計測として上腕周囲長、下腿周囲長を用いる。●筋肉量減少は、人種(アジア)により補正する。●握力測定など機能評価も、支持的に使用出来る。❷食事摂取量減少または吸収能低下●消化器症状(嚥下障害、嘔気、嘔吐、下痢、便秘、腹痛など)を考慮する。摂取量減少や吸収能低下の程度は、症状の強さ、頻度、期間に

注意し、臨床的判断により重症度を判定する。●短腸症候群、膵機能不全、肥満手術後の消化吸収不全、食道狭窄、腸管麻痺、結腸偽閉塞などの疾患にも関連する。●吸収能の低下は、慢性の下痢または脂肪便などの結果として出現する。●ストーマ患者では、排泄量の増加により診断し、重症度の識別に脂肪便の頻度、期間、量を臨床的判断または補足診断として用いる。❸急性疾患/外傷による炎症●重度の炎症は重篤な感染症、熱傷、外傷、頭部外傷に関連する可能性が高い。●他の急性の疾患/傷害は、軽-中等度の炎症

と考えられる。❹慢性疾患による炎症●重度炎症は、一般に慢性疾患と関連しない。●慢性、または再発性の軽-中程度の炎症は、悪性腫瘍、慢性閉塞性肺疾患、うっ血性心不全、慢性腎臓病などの疾患と関連すると考えられる。●軽度一過性炎症は、病的基準に該当しない。❺炎症判断の代替法●CRP(またはアルブミンやプレアルブミンなど)は支持的指標として使用することが出来る。❻BMI●アジア人では、よりコンセンサスを得られる調査を要する。

アセスメント項目「   」「   」の補足現症 病因

中等度低栄養ステージ1

現 症 体重減少

□ 5~10%:過去6ヶ月以内 □ 10~20%:過去6ヶ月以上

□ > 10%:過去6ヶ月以内□ > 20%:過去6ヶ月以上

□ < 20:70歳未満□ < 22:70歳以上

□ <18.5:70歳未満□ <20:70歳以上

低BMI(kg/m²)❻

□ 軽度-中程度の減少

□ 重大な減少

筋肉量減少❶

重度の低栄養ステージ2

■ 慢性疾患で炎症を 伴う低栄養

■ 急性疾患あるいは 外傷による高度の 炎症を伴う低栄養

■ 炎症はわずか、ある  いは認めない慢性   疾患による低栄養

■ 炎症はなく飢餓による  低栄養(社会経済的や  環境的要因による食  糧不足に起因)

低 栄 養と炎 症 に 関 連 する 病 因 別 4 分 類

重 症 度 判 定