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Part 3 Thoracic Surgery (呼吸器外科) Written by H. AgatsumaM.D A. HyogotaniM.D M. ToishiM.D T. ShiinaM.D K. YoshidaM.

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  • Part 3 Thoracic Surgery (呼吸器外科)

    Written by H. Agatsuma,M.D A. Hyogotani,M.D M. Toishi,M.D T. Shiina,M.D K. Yoshida,M.

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    第1章 グループ予定および一般的な注意

    A.グループ予定(別紙週間予定表参照)

    1.手術日: 毎週(月),(木)と第 1,3,5(水)は手術枠あり.これ以外にも不定期に手術が入る. 2.外来日: (火),(木)の午前中. (初期・後期研修医は,基本的に外来診療しない) 3.呼吸器外科グループ症例検討会:毎日 8:15am 東 6 スタッフステーション 4.呼吸器外科グループ術前術後症例検討会:(火) 教授回診終了後 東 6 カンファレンスルーム 5.院内呼吸器外科術前術後検討会:(外科,放射線科,呼吸器内科) (木) 6:00pm 放科外来読影室 6.院内気管支鏡検討会:(呼吸器内科,放射線科,外科) (木) 6:30pm 放科外来読影室 7.呼吸器外科グループ研究会:(月) 6:00pm 医局 8.呼吸器外科グループ研究抄読会:(月)6:00pm 医局 9.医局予定(教授回診,医局会,モーニングカンファレンスなど)は優先して参加する

    B. 一般的な注意

    1.受持患者さんの資料 (他院での検査結果等)で不足しているものは上級医と相談し自分で揃える.再手術例では前回入院カルテを探し,必ず op 記録と病理返書の copy をとっておく(電子カルテで確認できれば不要).

    2.受持患者さんに対して,他科や外科外来でどのような説明がなされたかを,カルテで事前にチェックしておく (不明なものについては上の Dr.に聞く). 呼吸器外科グループでは, 特別な事情がない限り病名の告知をしているが,患者さんによっては理解が不十分であったり,理解してい

    るつもりでもまだ精神的に受け入れができていないことは多いので,話し方には十分注意するこ

    と. また,大部屋では周囲の患者さんも聞き耳をたてているので,会話の内容には十分な配慮をするようにする.

    3.患者さんの質問には自分がわかる範囲で,自分の責任がおえる範囲で,患者さんにわかりやすい言葉も交えて丁寧に答えること. 自分がよく知らないことを聞かれた場合には,場当たり的ないいかげんな返答は絶対にせず,時間をもらって後できちんと説明すること.

    4.胸部 X 線検査,血液検査等の結果はその日のうちに必ず患者さんに説明すること. 5.術前のインフォームドコンセント(手術に関する説明)は原則として呼吸器外科グループの指導医が行うが,指導医と患者さんの日程調節をしてから日時を決定する.また主治医は必ず同席

    する. 6.受持患者さんの op には手術室入室時から入ること(穿刺細胞診一式や液体窒素等は必要であれば持っていく). 受持 Dr 以外の研修医も可能な限り op を見学するとともに,以下の仕事を担当する.

    a.術中写真,ビデオ撮影,カメラは医局パソコンの上段に常備してある. b.切除組織の切り出し, 冷凍保存 c.迅速病理診への検体提出 d.術後の患者の移動, ポータブル X 線撮影, 病棟帰室の手伝い.

    7.患者退院時には,他院からの借り資料に返書を付けて必ず返却すること(返却するものがなくても,基本的に返書は必要なので上級医と相談する).

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    第2章 検査および手技

    A . ポータブル X 線検査

    1.フィルムカセッテは東 6F スタッフステーションに2枚常備しているが,3人以上の撮影が必要な場合は西2F の現像室から持参して返却する.現像は西2F 現像室で行う. 2.撮影条件は 60kV,10mAs,距離は約 1m. 3.わかれば前回の撮影条件を参考にする. 4.撮影時,心電図のリード線などはできる限り外して撮影する. 5.基本的に胸部写真は,必ず以前に撮ったものと並べて比較読影する.

    B. CT, MRI, PET 検査 木曜日の院内呼吸器外科術前術後検討会で撮影日が決まることもある. (放科の先生が予備の検査枠に入れてくれる. ) 検査依頼を忘れずに入力する. 当日緊急 CT などは放射線科当直 PHS9183 に連絡する. 翌日以降は 6434 に連絡して予約する. PET 検査は外来で検査するので.入院中はオーダーしない.

    C. 血液ガス検査

    1.血ガス採血用キットを用いる. 鼠径部から採る. 2.採血後,刺入部は自分(Dr.)で,きつく押さえる. 2-3 分したら,テープ固定し家族や本人に押さえてもらってもよい. 押さえが足りないと血腫になるので注意する. 3.測定器は東病棟 6F にあるものを使用する. 検査ラベルのバーコードを読み取るとデータを電子カルテに転送できる.

    D. トロッカーカテーテル刺入

    1. インフォームドコンセントを行い,承諾・同意書を得る.抗凝固薬・抗血小板薬内服を確認する. 2. 用意:縫合セット,局麻(1%キシロカイン),黒カテラン針(22G)もしくは青カテラン針(23G),

    1-0 絹糸,チェストドレーンバッグ 3. ドレーンは脱気だけなら 12-18Fr の細いものを, 排液(胸水貯留)が多ければ 20-28Fr の太いものを, 胸腔内洗浄や薬剤撒布をする場合には double lumen の tube を用意する. むやみに太いものは不要だが, 基本的には, 太は細を兼ねる.

    4. 挿入方法に関しては他(救急医療ハンドブック等)を参照のこと.

    E. 気管支鏡検査

    1.外科で気管支鏡検査を施行するのは, 術後の吸痰が必要な症例(病室で), あるいは他の理由で術後観察が必要(内視鏡室)な場合であるが,固定組の医者が手配,施行するのでその指示に従う. 2.準備するものは,光源,気管支鏡,マウスピース,喉頭麻酔器(内視鏡室より),その他病棟で4%キシロカイン,清潔コップ2ケ,蒸留水 500m,キシロカインゼリー,10cc 注射器3本,ガーゼ.

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    第 3 章 術前術後管理(術式および疾患)

    入院前:疾患別(肺葉切除・肺部分切除・縦隔腫瘍)クリニカル・パスを入力する. カンファレンス用にサマリーを作成する. 入院時:研修医は IC に同席する.また,研修医単独での IC はしない. DPC 確認票を記入し,病棟クラークへ提出する. 内服指示簿の作成,クリニカル・パス内容の確認,IC 準備など A.肺癌(全摘・葉切除・区域切除・部分切除) / 転移性肺腫瘍 の肺切除術 1.術前検査(入院までに外来 or 他科で済んでいれば再検は不要) a.画像:胸部単純 X 線(正側・側面),CT,MRI

    b.転移検索として:脳 MRI or CT,FDG-PET,必要に応じて全身骨シンチ,肝 US c.気管支鏡検査(BF):呼吸器内科で施行 d.病理組織検査:BF での brushing or washing cytology,TBLB,経皮穿刺細胞診 e.一般検査:血算,生化学,凝固能,感染症 f.血液型 g.検尿 h.腫瘍マーカー: Adeno ca CEA,SLX,CA19-9

    Sq cell ca CYFRA,SCC,CEA Small cell ca Pro GRP,NSE 骨転移マーカー 1CTP,NTx(尿中)

    多臓器転移性腫瘍の場合は原発に対する腫瘍マーカー i.動脈血ガス分析(安静 Room air) j.簡易呼吸機能検査(必要に応じて精密肺機能検査を呼吸器内科依頼する) k.心電図(肺全摘症例では心機能評価が必要) l.腎機能に応じて 24 時間クレアチニンクリアランス(CCr)の測定: 一日蓄尿必要 m.心エコー(循環器内科に紹介し検査を予約してもらう)

    75 歳以上の高齢者, 心疾患の既往がある患者 胸骨縦切開にて肺切除とリンパ節郭清を行う予定の患者

    n.迅速病理検査の依頼.依頼オーダー(紙)を前日までに病理へ提出する. 検体ラベルは手術室で採取した時に検体に貼付するため,サブカルテに保存し手術室に持参する.

    迅速組織病理診:リンパ節や切離断端,診断未確定例は針生検など 迅速細胞診:胸腔内洗浄細胞診(必須),腫瘍の穿刺吸引細胞診,切除段端のタッチ細胞診など (永久病理依頼書:手術までに作成しラベルとともにサブカルテに保管しておくことが望ましい)

    2. 手術

    a.主治医(研修医)は手洗いして助手として手術に参加する. b.胸腔ドレーンは 1 本(直)ないし 2 本(直+L 字) 胸腔ドレーンバッグの吸引圧は, 原則として,

    肺葉・区域・部分切除:-10cmH2O (-5cmH2O~-15cmH2O) 片肺全摘術:クランプもしくは水封のみで陰圧はかけない.

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    c.術直後(通常抜管前)に op 室で胸ポータブル X 線撮影.(概ね 60 kV 10 mAs の条件). d.手術室から病室へ帰るときには主治医(研修医)は必ずいっしょについていく.

    O2:インスピロン 5L50%.Bed は頭側を約 20-30 度ギャッジアップする. 両側のベッド柵は上まで上げる.

    胸腔ドレーンはクランプせず,water seal とし,倒れないように気をつける.

    3.術後管理 a.手術当日

    1)帰室時: ・ベッド固定 ・胸腔ドレーン:固定, 持続吸引開始 ・酸素:O2 インスピロンマスク 50% 5L (適宜増減) ・モニター装着:指 O2 satulation, 心電図, 血圧計, etc ・点滴・硬膜外ルート確認 ・バイタルサイン確認,特に患側,健側の呼吸音 ・動脈血ガス分析 ・落ち着いたところで,家族への説明.指導医と主治医(研修医)で行う.

    2)疼痛管理:痛みは寝返りや喀痰の自己喀出ができる程度に押さえる. ・硬膜外麻酔をベースとして ・筋注:ソセゴン(15mg/30mg),アタラックス P(25mg/50mg)

    レペタン 0.3mg を 1/3 の 0.1mg ずつ使用 ・坐薬:ボルタレン SP(25mg/50mg),レペタン SP(0.2mg) ・静注:ロピオン 50mg, アセリナ 1000mg,フェンタニール持続中 ・持続硬膜外注:追加はアナペイン単剤が基本,フェンタニール+ポプスカインなど (麻酔科医と相談) (流量設定を変えたときは,血圧, 脈拍,尿量に十分注意すること!)

    3)呼吸管理: ・血ガスの値に応じて酸素投与量を調節 過度の酸素投与は CO2 ナルコーシスになりやすいので注意する. ・喀痰(気道内分泌物)排出の促進---ネブライザー(5-10 分/回),体位交換,タッピング,喀痰排出が困難である場合,あるいは胸部 X 線写真で明らかな無気肺を示す場合は気管支鏡による吸痰を施行する.

    4)胸腔ドレーン: ・排液:術直後は出血を念頭において観察する.チューブ内に凝血塊(coagula)を認める場合は新鮮出血の可能性が高い. 凝血塊はローラー鉗子でミルキングして除去しておかないと, ドレーンが詰まって一見排液がなくなったかのように判断を誤るので注意する. 排液量として 150ml/hr 以上が 2-3 時間以上続く場合や増加してくる場合は再手術を考慮する.

    ・air leakage:呼吸に一致して間歇的に見られる minor leakage であればそのまま様子を見てよい. 連続的な major leakage の場合は重篤な状態を危惧し,指導医に連絡する.

    5)不整脈: ・不整脈出現時は 12 誘導を取り,指導医に確認する. ・肺癌術後約 15%の症例で不整脈が出現する.多くは上室性の不整脈であり緊急を要

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    するものはほとんどない.しかし, 不整脈出現例あるいは高齢者(75 歳以上)等の場合は術後当日よりジギタリスの投与を, また経口が開始となれば, ジギタリス, ワソラン,サンリズム等の抗不整脈剤を投与する.(抗凝固薬の投与など).

    6) 輸液管理:

    ・普通の体格の成人として, 肺葉切除後:1.5ml/kg/hr 片肺全摘後:0.75ml/kg/hr + 同量の PPF or FFP

    ・基本的に "dry side"に置く. (dry にし過ぎると痰喀出が困難となるので注意) ・肺気腫が強い症例では特に in over になりやすいため十分注意する. ・尿量については,術前腎機能が正常であれば, あまり気にしなくてよい. (多少尿量が少なくとも補液を追加して利尿を図ろうとはしない) 術後利尿期になれば増加してくるので, 全身状態を診ながらしばらく待つ.

    b.手術翌日

    ・検査:採血(血算,生化学),血ガス,ポータブル X 線(朝の検討会に間に合うように) ・経口摂取は朝,主治医が付き添って起座位までベッドを起こし,水を 2-3 口飲ませる. ・座位になったときのドレーン排液,air leakage 変化の有無.嗄声,誤嚥の有無につ

    いて確認. ・安静度:特に問題ないようであれば早期離床を促す. ・可能であればバルーン抜去(硬膜外チューブも同時に抜去),トイレ歩行可とする. ・メジャーリークのある者はベッドサイドまで,主治医が付き添って座位をとらせる. ・初めての歩行時も必ず主治医が付き添う.できるだけ動くように指導する.じっとし

    ていると喀痰(気道内分泌物)排出には良くない.数時間おなじ格好でいたら,体位を必ず変えるよう指導する.

    ・飲水許可後.昼より食事開始.経口摂取時は必ず,体を起こすように指導して,寝た

    まま飲水させないこと!!(誤嚥の元) ・食事開始後(特に開始後 24hr)はドレーン排液に注意する.(白く混濁して急に増量

    した--->乳糜胸!) ・経口開始とともに,内服薬も処方する.(鎮痛薬+去痰剤+胃薬等)

    c.手術 2 日目以降

    ・胸腔ドレーン抜去の基準 air leakage が止まっている(少なくとも 24Hr 以上). 排液量が 200ml/日 未満かつ性状が淡血性~漿液性である. 抜去前の胸部 X 線を撮影. ドレーンを鉗子でクランプし,6-24 時間(基本は一晩)そのままにする. 胸部 X 線で肺の広がりに変化のないこと,皮下気腫の有無,増減を確認. デクランプ時に air leakage がないことを確認. デクランプ時の肺液量が一度に 200ml 以上ないことを確認. ドレーン抜去の翌日,胸部 X 線を必ず撮影する.

    ・持続硬膜外麻酔チューブ 原則として,硬膜外チューブは胸腔ドレーン抜去と同時に抜去する. 硬膜外チューブ挿入中は離床時の起立性低血圧や尿閉(原則尿カテーテルは抜去し

    ない)に注意する.

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    嘔気,嘔吐症状や血圧低下時などはチューブを止め,疼痛対策を指導医と相談する. ・発熱

    術後 1-3 日までは 38℃台の熱発をみることがあり,対症的に消炎鎮痛剤を使用する. それ以降の発熱については十分 focus を検索し,痰,胸水,尿などの細菌培養を依頼する. 適宜,血液検査を追加し,抗生剤の変更なども考慮する.

    ・皮下気腫 ドレーン挿入中:ドレーンが閉塞していないか(呼吸性変動)確認する. 皮下気腫が増悪してくる場合はドレーンの引き抜き,追加挿入などを考慮する. CT のオーダーなど. ドレーン抜去後:X 線で肺が虚脱,呼吸苦などの有症状出現時はドレーン再挿入を考慮する.

    ・難治性肺ろう:術後 1 週間過ぎても air leakage が治らない時は, 血液検査で第 XIII 因子を測定し,フィブロガミン投与を考慮する. X線透視室で胸腔内造影し胸腔内大量フィブリン糊注入療法などを考慮する.

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    B. 胸腔鏡手術 (Video-Assisted Thoracic Surgery:VATS)

    完全鏡視下手術 100%モニター視のみで手術を完遂する complete(pure)VATS:cVATS 胸腔鏡補助下手術 補助的に胸腔鏡を用いる hybrid VATS:hVATS

    ・当科は基本的に 30°斜視鏡を用いた完全鏡視下手術を倒立像で施行することが多い. 術式は肺癌に対する肺葉切除,気胸などに対する部分切除,縦隔腫瘍に対する腫瘍摘出術などがある.

    1.VATS の適応となるもの アスペルギルス症など炎症の手術,胸壁等他臓器合併切除を伴うもの,大きな腫瘍,複雑な再

    建手技を伴うものなど以外は,当科で扱うほとんどの疾患が適応である. a.自然気胸, (巨大)ブラ b.良性肺腫瘍 c.縦隔腫瘍 d.肺生検:診断のついていない肺腫瘍,び漫性肺疾患の確定診断目的 e.原発性肺癌 f.転移性肺腫瘍

    2. 術前検査 a.肺癌の手術前検査に準ずる. b.自然気胸の患者さんでは肺活量測定は不要. c.術中肺腫瘤確認困難が予想される症例においては, 術前 CT ガイド下マーキングを施行する. 木曜日のカンファレンスもしくは電話で依頼をし,放射線科への外来他科紹介を作成する. 患者の入院日と手術日を確認し,マーキングに対する ICは放射線科外来で行うことが多いが,ときに IC を依頼されることがある. 術当時の朝(昼)にマーキングを施行するが,手技は放射線科 Dr が行う. 患者の移送を行い,処置に立ち会い,マーキング針と実際の腫瘍の位置を把握しておく. 多くの場合はそのまま手術室への入室となる. 気胸になる場合があるので必ずアスピレーションキットを持って行く

    d.呼吸器内科依頼の肺生検の症例は,検体が取れたら呼吸器内科 Dr.に渡すため,連絡方法を確認しておく.

    3. 手術 ・手術は術者, 助手2人で施行する. 第2助手はスコピスト(カメラ持ち)であり,研修医はこの役割を担当することが多い. VATS では非常に重要な役割であり,あらかじめドライラボなどで練習しておくことが望ましい.

    4. 術後管理 ・肺癌術後管理に準ずる. ・肺葉切除以外の症例では,輸液をしぼりすぎないように注意する(クリニカル・パスは肺葉切

    除用の輸液速度のため).

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    C. ロボット支援下鏡視下手術 (Robot-Assisted Thoracic Surgery:RATS) はじめに:

    本邦では 2009 年にダ・ヴィンチサージカルシステムが薬事承認されているが,呼吸器外科領域の手術は未だ保険未収載であり,基本的に自費診療となる. 従って本術式を施行するには,通常よりも念入りにインフォームド・コンセントを得ておかねばな

    らない.説明は必ずダ・ヴィンチ操作資格(certificated)を持つ医師と行うこと. 操作資格は術者用と助手用があり,内容は多少異なるが共にオフサイト・トレーニング→オンサイト・トレーニング→実際の症例見学という流れであり,ある程度時間と費用が掛かるものとなっている.

    1.RATS の適応:

    当科ではこれまで肺葉切除術あるいは縦隔腫瘍摘除術を施行している. 前者の対象疾患は肺癌,転移性肺腫瘍であり,後者は主に胸腺腫(MG 合併/非合併とも)であり,術式は肺葉切除と胸腺全摘術が多い.

    2. 術前検査: 肺癌の術前検査に準ずるが,造影 3-D CT と心エコー検査は必須である.

    3. 手術: 前述したがダ・ヴィンチシステムに触れるには必要な資格がある. 例えば鉗子交換も無資格者はできない.通常は術者1名,助手2名(1名は有資格者)で施行する. <手術の流れ> VATS でダ・ヴィンチポートを作成,留置 → ダ・ヴィンチ・ドッキング(ロールイン) → ダ・ヴィンチ手術開始(肺葉切除・区域切除・胸腺全摘など) → ダ・ヴィンチ手術修了 → ダ・ヴィンチ・アンドッキング(ロールアウト) → VATS で止血確認,閉創 というものである. ダ・ヴィンチ・ロールインとロールアウトは通常臨床工学士(ME)が行う. 術中は操作スペースの確保のため CO2 送気を施行することが通常であり,胸腔,縦隔内圧上昇によるバイタルの変動にも留意する. 特に両側開胸となったときは要注意である.

    4. 術後管理 肺癌術後管理に準ずる. おわりに:

    RATS は本邦では端緒についたばかりであり,特に呼吸器外科領域では実施施設は未だ少ない. 我々の経験が新時代を切り開き,かつ本術式の保険収載の一助となっていくという気持ちで臨み1

    例1例を大切にしてほしい.

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    D. 縦隔疾患

    D1:前縦隔腫瘍および重症筋無力症 (Myasthenia Gravis; MG)

    1. 術前検査 a.画像検査 (胸腺腫の有無の診断が重要. 胸腺腫のない MG では胸部 CT まで行う.)

    ・胸部単純 X 線: 正・側の 2 方向を撮影. ・胸部造影 CT ・胸部 MRI 周囲臓器への浸潤が疑われる場合はシネ MRI も追加する.) ・PET ・心血管系への浸潤が疑われる場合は心エコー(循環器内科紹介),脳 MRA も行う. ・シンチグラフィー(症例により施行.指導医に相談する)

    Tl: 悪性度の高い胸腺腫では delayed image で集積の傾向あり. Ga: 術後 follow で再発の診断に有効な可能性がある.

    b.その他の検査(内科で検査済みであれば再検不要.) ・甲状腺機能検査: f-T3/ f-T4/ TSH,Thyroglobulin,Thyroid/ Microsome Test

    ・AFP,β-HCG,CEA,CA19-9,SCC,可溶性 IL-2 受容体 ・抗アセチルコリン-レセプター抗体(抗 AchR-Ab) ・抗横紋筋抗体(削除) ・テンシロンテスト(MG の場合施行 神経内科に紹介)

    ・Haravey-Masland test (MG の場合 神経内科に紹介) c.全麻検査一式:肺切除に準ずる. 2.手術 a.術式

    胸腺腫,胸腺癌:胸腺摘出術 MG:拡大胸腺全摘術(extended total thymectomy)をおこなう. 胸腺腫以外の前縦隔腫瘍:腫瘍切除 心血管系への浸潤が疑われる場合は,心臓血管外科にコンサルトしておく.

    b.MG 以外は抜管して病棟に帰室 MG は軽症例(病期 I, IIa)で状態が良ければ抜管して帰室. 重症例(病期 IIb 以上)で は手術室で判断して挿管のまま ICU に帰室することもある.

    3. 術後管理 ・MG 以外は肺癌術後管理に準ずる. ・MG では呼吸管理の有無にかかわらず, 毎日3回以上は MG 症状の経過をチェック

    する. 気になる症状の悪化があれば, すぐに指導医に報告する. 術後3~5日で症状は一旦悪化する. 以下,MG 合併例の注意点を熟読しておく

    a. 薬剤投与 服薬開始時期,薬剤の種類に関しては 脳神経内科と術前検討しておく.

    ・使用可能薬剤 抗生剤: ペニシリン系 or セフェム系 抗潰瘍剤(ステロイド使用のため):タガメット, ザンタック

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    ・使用禁止薬剤(筋弛緩作用があるもの全て) 抗生剤: アミノグリコシド系, テトラサイクリン系, マクロライド系, ポリミキシン B etc 中枢神経薬: セルシン(ホリゾン), コントミン, ケタラール, ミオブロック etc 循環系薬: アミサリン, インデラール, キシロカイン, アルフォナード etc

    b.呼吸管理

    ・呼吸筋力の低下からくる換気量の減少に注意する. チェック項目:一回換気量, 呼吸回数, 努力様呼吸の有無, 呼吸飢餓感, 血ガス

    (特に paCO2 に注意する) ・術直後は良くても, 3ー5 日のうちに呼吸状態が悪化することは必須である. ・呼吸状態が悪ければ, 躊躇せず挿管し人工呼吸器(PS or SIMV 補助呼吸)管理にする. ・挿管を必要とした症例では, 第 3-4 病日までは急いで抜管せず, 慎重に経過を診る. ・どんな症例でも, 術後に人工呼吸器のつかえる目処はたてておくこと. ・挿管後の呼吸管理では十分な換気量を得られるように設定する. ・通常酸素濃度を上げる必要はない. ・抜管の目安は, 自発呼吸インスピロン(Room Air)で 3 時間以上は様子を診た上で, 一回換気量(ml) ≧ [体重(kg) x 5] 血ガス: PaCO2 ≦ 50 および PaO2 ≧ 60 自力で喀痰排出ができ, 呼吸音も clear. 多少の呼吸苦があっても耐えられ, 意識状態, 脈拍, 血圧等に変化がない. 以上の点を確認してから抜管する. ・抜管後 24 時間は常に再挿管できる準備を整え, 注意して症状を観察する.

    c.その他

    ・MG の患者さんは呼吸に対する不安が非常に強いため, 手術や術後の呼吸能に関しては敏感すぎるほど怖がる. 術前術後を通して患者さんとのコンタクトを密にとり, 少しでも不安の解消に努めることが重要. 頻回に患者を訪問するように!!

    ・胸部 X 線のチェック, ドレーン管理は肺癌術後に準ずる. ドレーン排液量は, 約 100ml/day 未満が抜去の目安.

    ・症状が安定したら脳神経内科(第 3 内科)へ転科(多くの場合は術後 7~10 日で). 以後の内服薬の調整は脳神経内科で行う.

    ・胸腺腫 正岡 III 期以上の場合は, MG 症状の改善後,irradiation が必要となる場合 がある.

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    D2:その他の縦隔腫瘍 1.術前検査

    a.画像検査 ・胸部単純 X 線:正・側の 2 方向を撮影 ・胸部造影 CT ・胸部 MRI(周囲組織に浸潤が疑われた場合はシネ MRI も行う) ・FDG-PET

    b.全麻検査一式:肺切除術に準ずる. 2.手術

    ・基本的には VATS 腫瘍切除術を行う. ・腫瘍の局在や浸潤に応じて拡大手術(胸壁合併切除や椎体合併切除)が行われる. 指導医と相談し,必要に応じて他科(心臓血管外科や整形外科など)に紹介する.

    3.術後管理 肺切除術に準ずる. E. 肺気腫(Volume Reduction Surgery: VRS) 重症肺気腫患者(Hugh-Jones score III 度以上)の過膨脹した肺の一部を切除し呼吸機能(自覚症状) の改善を期待する手術である. 1.手術適応および除外基準 a. 手術適応 ・高度な肺の過膨脹(hyperinflation)が存在する. ・肺気腫の分布に heterogeneity がある. ・適切な内科的治療にても日常生活が高度に制限されている(Hugh-Jones score III 度以上). ・積極的に呼吸リハビリテーションに参加できる. ・6 カ月以上の完全禁煙ができている. ・年齢は 75 歳以下である. b. 除外基準 ・び慢性に気腫病変分布が散在し, 正常肺組織残存が少ない症例. ・高度な胸膜癒着が予想される症例. ・気管支喘息, 気管支拡張症, 慢性気管支炎等の気道病変が優位な症例. ・心, 冠動脈疾患を有する症例(EF<0.35). ・安静時 PaO2≧55mmHg の症例. ・安静時 PA 圧:mean≧35 or systolic≧45mmHg. 2. 術前検査および処置 一般的術前検査に加え以下の検査が必要であるが,ほとんどは内科(一内)で施行される. また, 術前には必ず内科入院の上, 少なくとも 6 カ月のリハビリテーションを行う. a.精密肺機能検査 b.6 分間歩行試験 c.動脈血ガス分析 d.吸気, 呼気筋力測定

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    e.肺循環動態(右心カテーテル) f.胸部 X 線(深吸気, 深呼気それぞれ正側) g.胸部 CT h.胸部 MRI (sagital) i.肺換気血流シンチ j.心電図, ホルター心電図 k.心エコー l.タリウム心筋シンチ 3.手術 a.胸骨縦切開あるいは胸腔鏡下の両側一期的手術を基本とする. b.過膨脹の高度な部分(肺気腫変化の強い部分)の肺の部分切除を施行する(約 20~30%).

    c.部分切除は自動縫合器により行うが, 肺胸膜は非常に脆弱なため自動縫合器の staple lineに補強材料を使用する.

    4. 術後管理 a.術直後

    ・術直後 100%O2 による強制換気で PaO2≧300mmHg の症例については多くの場合手術室での抜管が可能であるが, それ以外の症例では挿管による人工呼吸管理が必要となり, 基本的に ICU に入室する(術前 ICU 入室申し込みは全例しておく).

    ・輸液は肺癌の術後同様 dry side を基本とし in over にならないように注意する. 多くの症例は術前低栄養状態にあるので, 蛋白製剤(アルブミン,FFP 等)等の投与を行う. 挿管管理が数日続くことが予想される場合は中心静脈ルートを確保し,高カロリー輸液を行

    う. ・胸腔ドレーンの吸引圧は肺の膨張が OK であれば可能な限り少なくし, 5cmH2O 圧あるいは water-sealed とする.

    b.術翌日以降 ・挿管チューブ抜管後は喀痰排出が可能かどうかが最も重要であり, 喀痰排出のための理学療法, 早期離床を心がける.

    ・排出困難例の対しては, トラヘルパーの挿入を躊躇せずに行う. ・術後長期の臥床は呼吸筋力等の低下を来し, その後の回復にも悪影響を及ぼすのでできるだけ早期の離床(歩行)を行う. 歩行時は必ず主治医を含む医者が付き添う.

    ・胸腔ドレーン抜去後は, 第 1 内科に再転科となり, 術後のリハビリテーションを行う.