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白石 路雄 准教授 神奈川県出身。2003年、東京大学大学院総合文化研究科広域 科学専攻・広域システム科学系博士課程修了、博士(学術)。 2003年~2004年、株式会社ガリレオ 執行役員・最高技術責 任者。2005年4月、東邦大学理学部情報科学科講師。2013 年4月、同学科准教授。 今年、世界的にヒットしたアニメ映 画「アナと雪の女王」。最新のCG技術 がふんだんに盛り込まれた同作品だ が、とくに冒頭の雪が崩れるシーンは、 その精緻で豊かな表現力が各業界で 大きな話題となった。いまや映像や画 像コンテンツの世界を牽引するCG (コンピュータグラフィクス)技術の進 化はとどまるところを知らない。 数々の分野に広がるCG技術の中 で、主として「ノンフォトリアリスティ ック・レンダリング」と呼ばれる非写 実的な画像の生成方法について研究 を行っているのが、理学部情報科学 科の白石路雄准教授だ。 ノンフォトリアリスティック・レンダ リングとは、従来CGの研究で主な 白石准教授がノンフォトリアリステ ィック・レンダリングの開発に取り組む ことを決めたきっかけは、出身大学の 学部在学中のことだった。 都内で行われたルノアールの絵画 展を観に行ったとき、作品中のカーテ ンの描写に目を奪われ、 「自分もこうし た表現にチャレンジしたい」という意 欲がわき起こった。90年代後半のちょ うどその頃、CGの世界でノンフォトリ アリスティックの技術が徐々に注目さ れ始めたのだという。 しかし、在籍学部でも大学院進学後 も、この分野の指導をしてくれる教授 はまだいなかったという。だから最新 技術に関連する論文をあらゆるところ に探し求め、英語で書かれた内容を調 べに調べたそうだ。 東邦大学で教鞭を執るようになっ て10 年目を迎えた白石准教授。ペイ ンタリー・レンダリングのほかに最近 取り組んでいるのが「情報の可視化」 に関する研究だ。例えば首都圏の鉄道 各駅への所要時間がひと目で俯瞰で きる地図の作成ソフト、あるいは為替 相場の動向が簡単にわかるビジュアル ソフトなどがその研究対象として挙げ られる。また、野球のメジャーリーグ で注目されている成績評価のためのセ イバーメトリクスのデータをグラフィッ クとして表示する技術にも興味を寄せ ている。 「さまざまなデータを、絵にすることで よりわかりやすい情報として伝えたい。 取り組みの動機はとても単純なもので す。ただし、それを技術として定着さ せるためには、極めて複雑な科学の積 目的とされてきた写真のような現実 感を持つ画像ではなく、絵画や工業 デザイン画などの非写実的な画像の 生成を目的とするもの。例えば、鉛 筆の線で描いたスケッチ、紙の質感 を持たせた貼り絵、淡い色合いを微 妙に表現する水彩画をはじめ、主に アーティスティックな作品をコンピュ ータで再現する技法がこれにあた る。白石准教授は、これらのうち、と くにペインタリー・レンダリングと呼 ばれる油彩画などの絵画に似た画像 を制作するCG技術の開発に取り組 んでいる。 「油絵の絵の具の筆致やマティエール (表面の絵の具の凹凸)などの質感を コンピュータで表現できるように、画 み重ねが必要です。また、市場の動向 に常にアンテナを張っておくような情 報収集力や、 『こんなものがあったら便 利だろうな』という旺盛な発想力も欠 かせません。そのためには研究室にこ もってPCを前にしているだけではダメ ですね。」 学生よ、もっともっと研究室やキャン パスの外に目を向けよ! 白石准教授のメッセージは、実に明 快である。 像の粗い部分から再現し、徐々に細 かい部分を表現していくような製作 過程を順序立てたCGソフトの開発 をめざしています。」と白石准教授。そ のためのソフトには、物理学的なアプ ローチと、それを解析する数学的な 技術処理が不可欠になるという。 「作品を制作するのはアーティストの 仕事です。私たち研究者の仕事は、 制作を支援する技術をつくること。作 家に感性が必要なように、我々には 最新技術に関連する知識を常に更新 していくことが 欠かせません。」と明 言。そのためモバイル端末やゲームな どのさまざまなコンテンツの今の動向 は必ずチェックしているという。 インターネットで誰でも入手できる 情報の価値は低い。 貴重な情報は足で稼げ! 最近は「情報の可視化」をめざす いくつかの取り組みも 油彩画の質感を再現するペインタリー・レンダリング Profile 大学院生のとき、SIGGRAPHというCGの分野で世界最大の学会を見学 するために単身で渡米しました。当時の最先端をいく技術者・研究者が勢 ぞろいしていて、その話を聞いて発表を見ることで、いま自分がどの位置に いるのか、最先端と自分との距離が理解できた思いでした。やはり一番前 を走る人を見なければいけないと実感しました。東邦大学の学生も、ぜひ外 に足を運んで貴重な情報を得てほしいと思います。インターネットのように誰 でも簡単に入手できる情報が貴重であるはずはないのですから。 理学部 情報科学科 非写実的なCG作成の最新技術開発を テーマに IT企 業からエンジニアとして内 定を得たので、今は 卒業研究で「ハイブリッド・イメージ」という、1つの画 像が、距離によって異なる2つの画像に見えるという トリック画 像ソフトを開 発しています。白石 先 生は、 常に笑 顔をたやさず、私たちには決して苦しい顔を 見せたことはありません。だから研究室の空気はとて も明るいですね。 3年次のプロジェクトという授業で3Dに魅せられて、 この研究室を選択しました。卒業までにプロジェクショ ンマッピングの作品を完成させたいと思っています。 先生がくださるアドバイスは、「対策、改善策、解 決策」と段階的で的確なので、常に私たちのやる 気を引き出してくれます。学生に対して絶対に手を抜 くことのない尊敬できる先生です。 情報科学科4年 秋山 翔太さん 情報科学科4年 倉田 秋江さん 10 TOHONOW 2014.July July.2014 TOHONOW 11

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  • この研究 白石 路雄准教授

    この人

    神奈川県出身。2003年、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻・広域システム科学系博士課程修了、博士(学術)。2003年~2004年、株式会社ガリレオ 執行役員・最高技術責任者。2005年4月、東邦大学理学部情報科学科講師。2013年4月、同学科准教授。

     今年、世界的にヒットしたアニメ映画「アナと雪の女王」。最新のCG技術がふんだんに盛り込まれた同作品だが、とくに冒頭の雪が崩れるシーンは、その精緻で豊かな表現力が各業界で大きな話題となった。いまや映像や画像コンテンツの世界を牽引するCG(コンピュータグラフィクス)技術の進化はとどまるところを知らない。 数々の分野に広がるCG技術の中で、主として「ノンフォトリアリスティック・レンダリング」と呼ばれる非写実的な画像の生成方法について研究を行っているのが、理学部情報科学科の白石路雄准教授だ。 ノンフォトリアリスティック・レンダリングとは、従来CGの研究で主な

     白石准教授がノンフォトリアリスティック・レンダリングの開発に取り組むことを決めたきっかけは、出身大学の学部在学中のことだった。 都内で行われたルノアールの絵画展を観に行ったとき、作品中のカーテンの描写に目を奪われ、「自分もこうした表現にチャレンジしたい」という意欲がわき起こった。90年代後半のちょうどその頃、CGの世界でノンフォトリアリスティックの技術が徐々に注目され始めたのだという。 しかし、在籍学部でも大学院進学後も、この分野の指導をしてくれる教授はまだいなかったという。だから最新技術に関連する論文をあらゆるところに探し求め、英語で書かれた内容を調べに調べたそうだ。 東邦大学で教鞭を執るようになって10年目を迎えた白石准教授。ペインタリー・レンダリングのほかに最近取り組んでいるのが「情報の可視化」に関する研究だ。例えば首都圏の鉄道各駅への所要時間がひと目で俯瞰できる地図の作成ソフト、あるいは為替相場の動向が簡単にわかるビジュアル

    ソフトなどがその研究対象として挙げられる。また、野球のメジャーリーグで注目されている成績評価のためのセイバーメトリクスのデータをグラフィックとして表示する技術にも興味を寄せている。「さまざまなデータを、絵にすることでよりわかりやすい情報として伝えたい。取り組みの動機はとても単純なものです。ただし、それを技術として定着させるためには、極めて複雑な科学の積

    目的とされてきた写真のような現実感を持つ画像ではなく、絵画や工業デザイン画などの非写実的な画像の生成を目的とするもの。例えば、鉛筆の線で描いたスケッチ、紙の質感を持たせた貼り絵、淡い色合いを微妙に表現する水彩画をはじめ、主にアーティスティックな作品をコンピュータで再現する技法がこれにあたる。白石准教授は、これらのうち、とくにペインタリー・レンダリングと呼ばれる油彩画などの絵画に似た画像を制作するCG技術の開発に取り組んでいる。「油絵の絵の具の筆致やマティエール(表面の絵の具の凹凸)などの質感をコンピュータで表現できるように、画

    み重ねが必要です。また、市場の動向に常にアンテナを張っておくような情報収集力や、『こんなものがあったら便利だろうな』という旺盛な発想力も欠かせません。そのためには研究室にこもってPCを前にしているだけではダメですね。」“学生よ、もっともっと研究室やキャンパスの外に目を向けよ! ” 白石准教授のメッセージは、実に明快である。

    像の粗い部分から再現し、徐々に細かい部分を表現していくような製作過程を順序立てたCGソフトの開発をめざしています。」と白石准教授。そのためのソフトには、物理学的なアプローチと、それを解析する数学的な技術処理が不可欠になるという。「作品を制作するのはアーティストの仕事です。私たち研究者の仕事は、制作を支援する技術をつくること。作家に感性が必要なように、我々には最新技術に関連する知識を常に更新していくことが欠かせません。」と明言。そのためモバイル端末やゲームなどのさまざまなコンテンツの今の動向は必ずチェックしているという。

    インターネットで誰でも入手できる

    情報の価値は低い。

    貴重な情報は足で稼げ!

    最近は「情報の可視化」をめざすいくつかの取り組みも

    油彩画の質感を再現するペインタリー・レンダリング

    Profile

    大学院生のとき、SIGGRAPHというCG

    の分野で世界最大の学会を見学

    するために単身で渡米しました。当時の

    最先端をいく技術者・研究者が勢

    ぞろいしていて、その話を聞いて発表を見

    ることで、いま自分がどの位置に

    いるのか、最先端と自分との距離が理解

    できた思いでした。やはり一番前

    を走る人を見なければいけないと実感しま

    した。東邦大学の学生も、ぜひ外

    に足を運んで貴重な情報を得てほしいと

    思います。インターネットのように誰

    でも簡単に入手できる情報が貴重である

    はずはないのですから。

    ●理学部 情報科学科

    非写実的なCG作成の最新技術開発を テーマに

    IT企業からエンジニアとして内定を得たので、今は卒業研究で「ハイブリッド・イメージ」という、1つの画像が、距離によって異なる2つの画像に見えるというトリック画像ソフトを開発しています。白石先生は、常に笑顔をたやさず、私たちには決して苦しい顔を見せたことはありません。だから研究室の空気はとても明るいですね。

    3年次のプロジェクトという授業で3Dに魅せられて、この研究室を選択しました。卒業までにプロジェクションマッピングの作品を完成させたいと思っています。先生がくださるアドバイスは、「対策、改善策、解決策」と段階的で的確なので、常に私たちのやる気を引き出してくれます。学生に対して絶対に手を抜くことのない尊敬できる先生です。

    情報科学科4年

    秋山 翔太さん情報科学科4年

    倉田 秋江さん

    10 TOHONOW 2014.July July.2014 TOHONOW 11

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