survey on radiation protection awareness of radiological

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2 980 8575 宮城県仙台市青葉区星陵町 2 1 東北大学 大学院医学系研究科 放射線検査学分野 東北大学 災害科学国際研究所 災害医学研究部門 災害放射線医学分野 電話番号 022 717 7943 メールアドレス chidamed.tohoku.ac.jp 2 日本放射線安全管理学会誌 第191 号(2 10) ポータブル X 線撮影における放射線技師の被曝防護意識に関する調査 大友 一輝 1) 遠藤 美芽 1) 村林 優樹 1) 安部 圭亮 2) 小野寺真奈 2) 鈴木 友裕 2) 高橋 拓己 2) 一ツ木康晶 2) 稲葉 洋平 1,3) 千田 浩一 1,3) 1)東北大学 大学院医学系研究科 放射線検査学分野 2)東北大学 医学部保健学科 3)東北大学 災害科学国際研究所 災害医学研究部門 災害放射線医学分野 論文受付日2019129 日,受理日20203 10Survey on radiation protection awareness of radiological technologists in portable radiography Kazuki OTOMO 1) , Mime ENDO 1) , Yuki MURABAYASHI 1) , Keisuke ABE 2) , Mana ONODERA 2) , Tomohiro SUZUKI 2) , Hiroki TAKAHASHI 2) , Yasuaki HITOTSUGI 2) , Yohei INABA 1,3) , Koichi CHIDA 1,3) 1)Department of Radiological Examination and Technology, Tohoku University Graduate School of Medicine 2)Tohoku University School of Medicine, Health Sciences 3)Disaster Medical Radiology, Division of Disaster Medical Science, International Research Institute of Disaster Science, Tohoku University Recently, portable radiography has been performed in many facilities. In portable radiography, the distance between the radiological technologist and the patient is often close. Thus, exposure assessment and radiation protection for radiological technologist is important. However, the use status of personal protective equipment and the recognition of exposure differ depending on the facility and the individual. In addition, no detailed survey on the current state of portable radiography has been reported. Therefore, we conducted a questionnaire survey for radiological technologist involved in portable radiography. As the result of the questionnaire survey, it became clear that the protection status of radiological technologists during portable radiography varies depending on the facility, gender, and age. There were some opinions that it was difficult to keep away from the patient during portable radiography. In that case, it is desirable to wear protective equipment such as a protector. Key words: radiation protection, occupational exposure, portable radiography [doi:10.11269/jjrsm.19.2] 1. 緒言 現在,医療の分野において放射線は必要不可欠なもの となっている.一方で放射線被ばくのリスクを伴うた め,患者が受ける医療被ばくのみならず,医療従事者が 受ける職業被ばくの評価,ならびに防護が重要とな 1) .特に Interventional Radiology(IVR)では手技時間 が長くなる傾向にあることから,これまでに空間散乱線 量,および医療従事者が受けた被ばく線量の測定を行っ た研究成果が多数報告されている 2 6) ポータブル X 線撮影は,可搬型の X 線撮影装置を使 用し,X 線撮影室までの移動が困難な患者さんのもと に移動して撮影を行うもので,多くの施設で行われてい る.一方で,ポータブル X 線撮影は遮蔽されている撮 影室ではなく一般の病室などでの撮影であり,また患者 と操作者との距離が近くなることが多いことから,従事 する診療放射線技師等の被ばく評価,防護が重要となる. また2011年の ICRP ソウル声明において,これまで年 150 mSv とされていた水晶体の等価線量限度を 5 年平 均で年間20 mSv まで大きく引き下げる勧告がなされ た.これにより近年では水晶体被ばく線量評価,および 防護の重要性が増しており 7) ,ポータブル撮影に携わる 医療従事者についても適切な放射線防護措置が必要とな る.臨床でのポータブル撮影の実態,およびポータブル 撮影に携わる放射線技師の被ばくに対する意識等の調査

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Page 1: Survey on radiation protection awareness of radiological

2

〒9808575 宮城県仙台市青葉区星陵町 21東北大学 大学院医学系研究科 放射線検査学分野東北大学 災害科学国際研究所 災害医学研究部門災害放射線医学分野

電話番号 0227177943メールアドレス chida@med.tohoku.ac.jp

2

原 著 日本放射線安全管理学会誌 第19巻 1 号(210)

ポータブル X 線撮影における放射線技師の被曝防護意識に関する調査

大友 一輝1) 遠藤 美芽1) 村林 優樹1) 安部 圭亮2)

小野寺真奈2) 鈴木 友裕2) 高橋 拓己2) 一ツ木康晶2)

稲葉 洋平1,3) 千田 浩一1,3)

1)東北大学 大学院医学系研究科 放射線検査学分野 2)東北大学 医学部保健学科

3)東北大学 災害科学国際研究所 災害医学研究部門 災害放射線医学分野

論文受付日2019年12月 9 日,受理日2020年 3 月10日

Survey on radiation protection awareness of radiological technologists in portable radiography

Kazuki OTOMO1), Mime ENDO1), Yuki MURABAYASHI1), Keisuke ABE2),Mana ONODERA2), Tomohiro SUZUKI2), Hiroki TAKAHASHI2), Yasuaki HITOTSUGI2),

Yohei INABA1,3), Koichi CHIDA1,3)

1)Department of Radiological Examination and Technology, Tohoku University Graduate School of Medicine

2)Tohoku University School of Medicine, Health Sciences

3)Disaster Medical Radiology, Division of Disaster Medical Science, International Research Institute of Disaster Science,

Tohoku University

Recently, portable radiography has been performed in many facilities. In portable radiography, the distance betweenthe radiological technologist and the patient is often close. Thus, exposure assessment and radiation protection forradiological technologist is important. However, the use status of personal protective equipment and the recognition ofexposure differ depending on the facility and the individual. In addition, no detailed survey on the current state ofportable radiography has been reported. Therefore, we conducted a questionnaire survey for radiological technologistinvolved in portable radiography. As the result of the questionnaire survey, it became clear that the protection status ofradiological technologists during portable radiography varies depending on the facility, gender, and age. There weresome opinions that it was difficult to keep away from the patient during portable radiography. In that case, it isdesirable to wear protective equipment such as a protector.

Key words: radiation protection, occupational exposure, portable radiography

[doi:10.11269/jjrsm.19.2]

1. 緒言

現在,医療の分野において放射線は必要不可欠なもの

となっている.一方で放射線被ばくのリスクを伴うた

め,患者が受ける医療被ばくのみならず,医療従事者が

受ける職業被ばくの評価,ならびに防護が重要とな

る1).特に Interventional Radiology(IVR)では手技時間

が長くなる傾向にあることから,これまでに空間散乱線

量,および医療従事者が受けた被ばく線量の測定を行っ

た研究成果が多数報告されている26).

ポータブル X 線撮影は,可搬型の X 線撮影装置を使

用し,X 線撮影室までの移動が困難な患者さんのもと

に移動して撮影を行うもので,多くの施設で行われてい

る.一方で,ポータブル X 線撮影は遮蔽されている撮

影室ではなく一般の病室などでの撮影であり,また患者

と操作者との距離が近くなることが多いことから,従事

する診療放射線技師等の被ばく評価,防護が重要となる.

また2011年の ICRP ソウル声明において,これまで年

間150 mSv とされていた水晶体の等価線量限度を 5 年平

均で年間20 mSv まで大きく引き下げる勧告がなされ

た.これにより近年では水晶体被ばく線量評価,および

防護の重要性が増しており7),ポータブル撮影に携わる

医療従事者についても適切な放射線防護措置が必要とな

る.臨床でのポータブル撮影の実態,およびポータブル

撮影に携わる放射線技師の被ばくに対する意識等の調査

Page 2: Survey on radiation protection awareness of radiological

33

大友 一輝 他 9 名

は,適切な放射線防護を実施する上で重要であると考え

る.

ポータブル撮影の被ばく防護については,厚生労働省

からの「在宅医療における X 線撮影装置の安全な使用

に関する指針(H10 医薬安発第69号)」により,操作者

は0.25 mm 鉛当量以上の防護衣(プロテクター)を着用す

る等,防護に配慮すること,X 線撮影に必要な医療従

事者以外は,X 線管容器および患者から 2 m 以上離れ

て X 線撮影が終了するまで待機すること,等が定めら

れている.これまで,ポータブル撮影ならびに一般撮影

時の空間散乱線量,従事者の被ばく線量等に関する検討

は実施されており813),その中で X 線照射時に患者から

2 m 以上離れた場合,空間散乱線量が著しく低下すると

の報告がなされている8).(ただし,座位撮影時の一次

線方向等ではより高い線量となることが考えられる.)し

かし,ポータブル撮影時に放射線技師が患者から確実に

2 m 以上離れることは難しいという現状がある.また,

ポータブル撮影時の放射線技師のプロテクター着用状況

は施設及び個人で異なり,プロテクターを着用していな

い施設もある14).

過去の文献15)により,放射線被ばくを伴う医療従事者

(医師,歯科医師,放射線技師,看護師)のプロテクター

着用率は全体で48.0,放射線技師のみの着用率は50.3

であるとの報告がなされていた.そこで,放射線技師

を対象としたアンケートを実施し,ポータブル撮影の実

態およびポータブル撮影に従事する診療放射線技師の被

ばくに対する意識について調査,検討を行った.

2. 対象及び方法

アンケート調査は宮城県内の20床以上の病院140施設

全てを対象として実施し,調査対象は2017年度(4 月か

ら 9 月までの半年間)にポータブル撮影を行った放射線

技師とした.なお,アンケート調査は所属施設及び個人

名が特定されないことを前提として実施した.すなわち

当研究は,特定の個人を識別することができないもので

あって,さらに対応表が作成されていない研究である.

なお回答は個人の自由意志でデータが公表されることに

同意した場合のみ回答して頂くこととした.以上のよう

に当研究は倫理面に十分配慮したうえで実施した.

アンケート用紙は,2017年10月から11月にかけて郵

送,回収を行った.返信用封筒を同封してアンケートを

返送してもらうという方法をとった.

アンケート調査の内容は以下の項目であった.

2.1 ポータブル撮影における実情に関する質問

ここでは,以下の 5 つの質問をした.

Q1. 一般病棟のポータブル撮影時にプロテクターを着

用するか

Q2. 集中治療室(ICU, NICU 等)のポータブル撮影時

にプロテクターを着用するか

Q3. X 線照射時,患者から 2 m 以上離れることを意識

しているか

Q4. 一般病棟でのポータブル撮影時に患者から実際に

2 m 以上離れられているか

Q5. 集中治療室(ICU, NICU 等)でのポータブル撮影

時に患者から実際に 2 m 以上離れられているか

2.2 ポータブル撮影に用いる防護具,被ばく評価に関

する質問

ここでは,以下の 4 つの質問をした.

Q6. 使用するプロテクタータイプについて

Q7. プロテクターの他に追加の防護具を使用するか

Q8. ポータブル撮影時に不均等被ばく評価を行ってい

るか

Q9. ガラスバッジ等の個人線量計に加え,リアルタイ

ムで計測可能な線量計を装着するか

2.3 ポータブル撮影に対する意見

この質問では,被ばく防護のために行っていることな

どについて自由記載で回答してもらった.

2.4 統計解析

Q1~Q5 の質問については,性別や年齢,1 日の撮影

件数別で比較を行い,統計解析にはカイ二乗検定を使用

した.p 値が0.05未満であれば「有意差がある」と判断

した.

3. 結果

140施設にアンケート調査を行い,回答が得られたの

は85施設,回答率は60.7であった.(ただし,ポータ

ブル撮影を行っている施設のみ回答)

回答が得られた放射線技師の基本的な特性を Table 1

に示す.2017年度にポータブル撮影に携わった放射線技

師は419名であった.その内訳は男性307名,女性110

名,無記入 2 名で,男性の平均年齢は41.1歳(SD12.7,

2277歳),女性の平均年齢は36.0歳(SD10.1,2260

歳)であった.

3.1 ポータブル撮影における実情に関する質問

Q1「一般病棟のポータブル撮影時にプロテクターを

着用するか」という質問に対しての結果を Fig. 1 に示

す.なお,図の中には該当選択肢の回答数を示す.ここ

では「毎回している」「たまにしないことがある」「ほと

んどしない」の 3 つの選択肢から該当するものを選択す

る方式をとった.毎回プロテクターを着用している放射

線技師は67で,33の放射線技師は,ポータブル撮影

時にほとんど,またはたまにプロテクターを着用してい

ないという結果になった.男女別で比較すると女性の方

Page 3: Survey on radiation protection awareness of radiological

4

Fig. 1 Usage of protective apron during portable radiography

in general wards. (Number of valid responses: 417)

Fig. 2 Usage of protective apron during portable radiography

in general wards (Comparison by average number of mobile

X-ray radiography per day). (Number of valid responses: 407)

Table 1 Characteristics of all participants.(Average age:

arithmetic mean±standard deviation)

Characteristics Number Percentage

Sex

Male307(Average age:

41.1±12.7) 73.6

female 110(Average age:36.0±10.1)

26.4

Age

20s 108 26.2

30s 116 28.2

40s 87 21.1

Over 50s 101 24.5

Number ofbeds in

their facility

Less than 100 56 13.3

100200 126 30.1

200300 57 13.6

300400 72 17.2

400 beds ormore

108 25.8

Fig. 3 Usage of protective apron during portable radiography

in general wards (Comparison by age). (Number of valid

responses: 412, p value=0.0628)

Fig. 4 Usage of protective apron during portable radiography

in intensive care unit. (Number of valid responses: 295)

4

ポータブル X 線撮影における放射線技師の被曝防護意識に関する調査

がプロテクターの着用率が高い結果になり,p<0.05と

有意差がみられた.1 日あたりの平均撮影件数で比較し

た結果を Fig. 2 に示す.ここでは,1 日平均撮影件数10

件未満の施設で働く放射線技師の方がプロテクターの着

用率が高い結果となり,p<0.05と有意差がみられた.

年齢別に比較した結果を Fig. 3 に示す.20代では30代,

40代よりも着用率が低い傾向にあったが,p=0.0628と

有意差は認められなかった.

Q2「集中治療室(ICU, NICU 等)のポータブル撮影時

にプロテクターを着用するか」という質問に対しての結

果を Fig. 4 に示す.提示した選択肢は Q1 と同様であ

る.プロテクターの着用率は,一般病棟の場合と大きな

差はみられなかった.また男女別では,一般病棟の場合

と同様の傾向にあったものの,p=0.1275と有意差は認

められなかった.1 日あたりの平均撮影件数で比較した

結果を Fig. 5 に示す.一般病棟の場合と大きな差はみ

られず,1 日平均撮影件数10件未満の施設で働く放射線

技師の方がプロテクターの着用率が高い結果となり,p

<0.05と有意差がみられた.

Q3「X 線照射時,患者から 2 m 以上離れることを意

Page 4: Survey on radiation protection awareness of radiological

5

Fig. 5 Usage of protective apron during portable radiography

in intensive care unit (Comparison by average number of

mobile X-ray radiography per day). (Number of valid

responses: 284)

Fig. 6 Percentage of radiological technologists conscious of

leaving more than 2 m away from the patient during portable

radiography. (Number of valid responses: 416)

Fig. 7 Percentage of radiological technologists conscious of

leaving more than 2 m away from the patient during portable

radiography (Comparison by average number of mobile X-ray

radiography per day). (Number of valid responses: 406)

Fig. 8 Percentage of radiological technologists conscious

of leaving more than 2 m away from the patient during

portable radiography (Comparison by age). (Number of valid

responses: 411, p value=0.1491)

Fig. 9 Percentage of radiological technologists who can

actually be more than 2 m away from the patient during

portable radiography in general wards. (Number of valid

responses: 417)

5

大友 一輝 他 9 名

識しているか」という質問に対しての結果を Fig. 6 に

示す.ここでは「意識している」「意識していない」の

2 つの選択肢から該当するものを選択してもらった.2

m 以上離れることを意識している放射線技師は72と

いう結果になった.男女別では男性の方が 2 m 以上離

れる意識が高く,p<0.01と有意差がみられた.1 日あ

たりの平均撮影件数で比較した結果を Fig. 7 に示す.1

日平均撮影件数10件以上の施設で働く放射線技師の方が

2 m 以上離れる意識が高く,p=0.0184と有意差がみら

れた.年齢別に比較した結果を Fig. 8 に示す.20代の

技師は他の年代と比較して照射時に患者から距離をとる

意識が低い傾向にあったものの,p=0.1491と有意差は

認められなかった.

Q4「一般病棟でのポータブル撮影時に患者から実際

に 2 m 以上離れられているか」という質問に対しての

結果を Fig. 9 に示す.ここでは,「毎回離れることがで

きている」「ほとんど離れることができている」「あまり

離れることができていない」「まったく離れることがで

きていない」の 4 つの選択肢から該当するものを選択し

てもらった.42の放射線技師は,ポータブル撮影時に

Page 5: Survey on radiation protection awareness of radiological

6

Fig. 10 Percentage of radiological technologists who can

actually be more than 2 m away from the patient during

portable radiography in general wards (Comparison by

average number of mobile X-ray radiography per day).(Number of valid responses: 407)

Fig. 11 Percentage of radiological technologists who can

actually be more than 2 m away from the patient during

portable radiography in general wards (Comparison by age).(Number of valid responses: 412, p value=0.0642)

Fig. 12 Percentage of radiological technologists who can

actually be more than 2 m away from the patient during

portable radiography in intensive care unit. (Number of valid

responses: 293)

Fig. 13 Percentage of radiological technologists who can

actually be more than 2 m away from the patient during

portable radiography in intensive care unit (Comparison by

average number of mobile X-ray radiography per day).(Number of valid responses: 282)

6

ポータブル X 線撮影における放射線技師の被曝防護意識に関する調査

あまり,または全く患者から 2 m 以上離れられていな

い結果になった.男女別では男性の方が実際に 2 m 以

上離れられている割合が高く,p<0.05と有意差がみら

れた.1 日あたりの平均撮影件数で比較した結果を Fig.

10に示す.2 m 以上離れる意識と同様に,1 日平均撮影

件数10件以上の施設で働く放射線技師の方が実際に患者

から 2 m 以上離れられている割合が高く,p<0.01と有

意差がみられた.年齢別に比較した結果を Fig. 11に示

す.年齢による有意差はみられないものの,年齢が高い

ほど「ほとんど離れることができている」と回答した割

合が高い傾向にあり,p=0.0642とサンプル数を増やせ

ば有意差が出る可能性も考えられる.

Q5「集中治療室(ICU, NICU 等)でのポータブル撮影

時に患者から実際に 2 m 以上離れられているか」とい

う質問に対しての結果を Fig. 12に示す.提示した選択

肢は Q4 と同様である.一般病棟の場合と比較して,

ICU 等では 2 m 以上離れられている割合が多少高い結

果となったが,中には一般病棟の方が患者から距離をと

ることができているという回答も存在した.男女別では

男性の方が 2 m 以上離れられている割合が高く,p<

0.05と有意差がみられた.1 日あたりの平均撮影件数で

比較した結果を Fig. 13に示す.撮影件数による差はほ

ぼみられず,p=0.0658と有意差も認められなかった.

3.2 ポータブル撮影に用いる防護具,被ばく評価に関

する質問

Q6. 使用するプロテクタータイプについての質問に対

する結果を Fig. 14に示す.使用しているプロテクター

タイプは,エプロンタイプが95,コートタイプが 4

,その他が 1となり,ほとんどの放射線技師はエプ

ロンタイプを用いているという結果になった.また使用

するプロテクターの鉛当量についての結果を Fig. 15に

示す.0.25 mmが92,0.35 mm が 8となり,ほとん

どの放射線技師が0.25 mm 鉛当量のプロテクターを使用

Page 6: Survey on radiation protection awareness of radiological

7

Fig. 14 Usage percentage by X ray protective wear type.(Number of valid responses: 355)

Fig. 15 Usage percentage by lead equivalent of X ray

protective wear. (Number of valid responses: 352)

Fig. 16 Percentage of radiological technologists who use

additional protective equipment in addition to the protector.(Number of valid responses: 357)

Fig. 17 Percentage of radiological technologists who

perform uneven exposure assessment during portable

radiography. (Number of valid responses: 418)

Fig. 18 Percentage of radiological technologists who use

real-time measurable dosimeters in addition to personal

dosimeters such as glass badges. (Number of valid responses:

418)

7

大友 一輝 他 9 名

している結果となった.

Q7「プロテクターの他に追加の防護具を使用するか」

という質問に対しての結果を Fig. 16に示す.1(4 名)

のみが追加の防護具を使用すると回答し,その内訳はネ

ックガード 3 名,防護メガネ 1 名であった.

Q8「ポータブル撮影時に不均等被ばく評価を行って

いるか」という質問に対する結果を Fig. 17に示す.69

の放射線技師が不均等被ばく評価を行っていない結果

となった.

Q9「ガラスバッジ等の個人線量計に加え,リアルタ

イムで計測可能な線量計を装着するか」という質問に対

しての結果を Fig. 18に示す.10の放射線技師が追加

の線量計としてポケット線量計を装着すると回答した.

これらは撮影件数の多い施設で働く放射線技師に多くみ

られた.

Page 7: Survey on radiation protection awareness of radiological

88

ポータブル X 線撮影における放射線技師の被曝防護意識に関する調査

3.3 ポータブル撮影に対する意見

ポータブル撮影時の術者被ばくについて,以下のよう

な意見が挙げられた.

自分はプロテクターを着ていれば問題ないと思う

プロテクターを着ているからあまり離れることを意識

していないが,正直甲状腺や水晶体はカバーされてい

ないので,どのくらい被ばくしているか興味深い

病室の広さによるため,意識して離れることができな

2 m 以上離れることを意識はしているが,対象が子供

なので離れたくても離れられない

また,被ばく低減のために行っていることとして,以

下のことが挙げられた.

照射時には装置本体の陰に隠れる

照射時に周囲に声がけ

ポータブル装置付属のついたてを使用

直接線の方向には入らないようにしている

4. 考察

4.1 ポータブル撮影における実情に関する質問

今回のアンケート調査の結果,ポータブル撮影時に毎

回プロテクターを着用すると回答したのは67で,33

の放射線技師はプロテクターを着用しないことがあると

いう結果になった.着用していない理由としては,プロ

テクターの着用が身体的負担になってしまうことなどが

考えられる.一般病棟での撮影の場合と ICU 等での撮

影の場合とでプロテクターの着用率に大きな差はみられ

なかった.

ポータブル撮影時に患者から 2 m 以上離れることを

意識していると回答した放射線技師は72であったのに

対し,実際に 2 m 以上離れることができているのは58

にとどまった.患者の状態や病室の広さの問題から,

十分な距離をとることが難しい場合があるため,このよ

うな結果になったと考えられる.一般病棟と ICU 等で

比較すると,ICU 等での撮影の方が患者から 2 m 以上

離れられている割合が高い傾向にあったが,中には一般

病棟での撮影の方が患者から距離をとることができてい

るという回答もみられた.ICU 等は一般病棟と比較し

て病室が広いことが多いため,患者から 2 m 以上離れ

られている割合が高くなったと考えられる.一方で一般

病棟での撮影の方が患者から距離をとることができてい

るという回答がみられた要因としては,体勢保持等の介

助を行う必要があるため,などが考えられる.

男女別で比較すると,女性の方がプロテクターの着用

率が高い結果となった.これは妊娠という観点などから

女性の方が被ばくに対する意識が高いことなどが要因と

して考えられる.一方で,男性の方が 2 m 以上離れる

意識が高く,実際に離れられている割合も高い傾向がみ

られた.男性はプロテクターの着用率が女性と比べて低

いことから,遮蔽よりも距離をとることを重視している

ことが考えられる.

1 日平均撮影件数で比較すると,撮影件数の多い施設

で働く放射線技師の方がプロテクターの着用率が低く,

撮影時に患者から 2 m 以上離れる意識が高い結果とな

った.プロテクターの着用率が低い要因としては,撮影

件数が多い場合プロテクターの着用による身体への負担

が大きくなることが考えられる.そのため患者から距離

をとることを重視し,2 m 以上離れる意識が高い結果に

なったと考えられる.

年齢別では,20代の技師はプロテクターの着用率が低

い傾向にあった.若い技師は撮影件数の多い大規模な施

設で働く割合が高く,プロテクターの着用が負担となる

こと等が考えられる.

4.2 ポータブル撮影に用いる防護具,被ばく評価に関

する質問

ポータブル撮影時に使用するプロテクタータイプとし

ては,鉛当量0.25 mm のエプロンタイプのものがほとん

どであった.診断領域のエネルギーの散乱 X 線に対し

ては,鉛当量0.25 mm のプロテクターで90以上の防護

率を有しているとされている1617).鉛当量0.35 mm のプ

ロテクターではより高い防護効果を持つが,鉛含量が高

くなると重量も増し,体への負担が大きくなる.このこ

とから,防護効果と体への負担を考慮して,鉛当量0.25

mm 以上の適切なプロテクターを選択し使用することが

望ましいと考える18).

プロテクターの他の追加防護具については,ほとんど

の放射線技師は使用していなかった.プロテクターは高

い防護効果を持つが,水晶体等は遮蔽できていない.

2011年 ICRP ソウル声明で水晶体の等価線量限度が年間

150 mSv から 5 年平均で年間20 mSv まで大きく引き下

げられたため,撮影件数の多い施設などでは,場合によ

っては防護メガネ等の着用が必要となる可能性も考えら

れる.

ポータブル撮影時にプロテクターを着用する場合,プ

ロテクターの内側と外側に個人線量計を取り付けて不均

等被ばく評価を行っているのは31という結果となっ

た.不均等被ばく評価を行っていない要因としては,

ポータブル撮影時の被ばく線量を重視していないことな

どが推測される.プロテクターの内側に装着した個人線

量計のみでは被ばく線量を過小評価することになるた

め,原則として不均等被ばく評価を行うことが望ましい

と我々は考える.

ガラスバッジ等の個人線量計の他に,リアルタイムで

計測可能なポケット線量計を装着する放射線技師が10

みられた.1 日あたりの撮影件数の多い施設で多くみら

れたことから,撮影件数の多い施設で働く放射線技師は

Page 8: Survey on radiation protection awareness of radiological

99

大友 一輝 他 9 名

1 日あたりの被ばく線量を意識する傾向が強いと考えら

れる.また撮影件数の少ない小規模な施設では,ポケッ

ト線量計等の線量計を保有していないことも考えられる.

4.3 ポータブル撮影に対する意見

患者から十分距離をとることを意識していても,実際

には距離をとることが難しいという意見がいくつかみら

れた.理由としては部屋の広さの問題や,撮影対象が子

供であるため,などが挙げられた.患者から距離をとる

ことは被ばく低減に有用であるが,距離をとることが困

難な場合にはプロテクター等の防護具を使用することが

望ましい.

また被ばく低減のために,撮影時ポータブル撮影装置

の陰に隠れるようにしているという意見が多く挙げられ

た.撮影装置の後方では空間散乱線量が著しく減少する

との報告9)もあり,装置の陰に隠れることも被ばく低減

のために有用であると考えられる.

5. 結論

今回,ポータブル撮影に従事する放射線技師に対して

アンケート調査を実施し,ポータブル撮影時の被ばくに

対する意識,および実際の対応について調査,検討を行

った.その結果プロテクターの着用率は67,撮影時に

患者から 2 m 以上離れられているのは58となった.

男女別では女性の方がプロテクターの着用率が高く,男

性の方が患者から 2 m 以上離れる意識が高い傾向にあ

った.また個人線量計をプロテクターの内側と外側に装

着して不均等被ばく評価を行っているのは31にとどま

った.これらの結果から,防護具の使用状況や被ばく評

価の実情などは施設,および個人によって異なることが

明らかとなった.

撮影時に患者から十分な距離をとることで被ばく線量

を大幅に低減することが可能であるが,実際には距離を

とることが難しいという意見も挙げられたことから,プ

ロテクター等の防護具を使用し,その上で撮影装置の陰

に隠れる等の防護措置をとることが望ましいと考える.

また,被ばく線量を正しく評価するためにも,プロテ

クターを使用する場合には不均等被ばく評価を行うこと

が必要であると考える.

なお,今回はクロス集計を用いて解析を行ったが,今

後は多変量解析等も含め更なる解析を行いたいと考える.

6. 謝辞

本研究を行うにあたり,アンケート調査にご協力いた

だきました診療放射線技師の皆様,ならびに宮城県保健

福祉部の小野寺保様に厚く御礼申し上げます.

■文 献1)千田浩一放射線防護と安全対策 医療被ばく・職業被ば

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2)Chida K, Kaga Y, Haga Y, Kataoka N, Kumasaka E, Meguro

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4)Chida K, Kato M, Kagaya Y, Zuguchi M, Saito H, Ishibashi

T, Takahashi S, Yamada S, Takai YRadiation dose and

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タの基本特性に関する検討,日本放射線安全管理学会誌,

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Page 9: Survey on radiation protection awareness of radiological

1010

ポータブル X 線撮影における放射線技師の被曝防護意識に関する調査

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14)石田有治,前田美香,桜井達也,清水あゆみプロテク

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