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128 UACJ Technical Reports ,Vol.5(1) (2018) UACJ Technical Reports, Vol.5 (2018),pp. 128-129 Technical Column アルミニウム合金の成形性を改善するにあたり,引 張試験の伸びとその応力挙動について検討していた。 Al-Mg合金はマグネシウム添加量に従い強度が増加 するが,伸びは 2 ~ 3% のマグネシウム添加量で最小値 を取り,その後添加量とともに増加することが知られ ていた。ただしその理由は明確になっておらず,その 原因を検討した。そのために純アルミニウムおよび各 種マグネシウム量を含有する試験片について,一定量 の引張変形を与えて転位組織を観察すると,同じひず み量でも Fig. 1 に示すようにマグネシウム添加量によ って転位セル組織の形成が大きく異なることが分かっ た。純アルミニウムはひずみ量によらずほぼ同じサイ ズのセル組織が形成されており,変形によるひずみ導 入と転位セル形成によるひずみ緩和がバランスして高 い伸びを示すと考えられた。一方Al-Mg合金は,マグ ネシウム添加量に伴い転位セルサイズが小さくなる。 マグネシウムの添加によってこれほど転位組織が異な るのか!と驚いたことを記憶している。ただし,Al-Mg 合金の転位セル組織は純アルミニウムとは異なり,転 位セルがある程度形成された後に,さらにひずみを加 えるとバンド状転位組織(マイクロバンド)が形成され るようになる。このマイクロバンドが形成されると加 工硬化能が低下し不均一変形の原因となり,さらにせ ん断帯形成となり引張破断すると考えた。Al-2 ~ 3% Mg 合金は,マイクロバンドが形成されやすいため伸び が低下すると考えられた。当時,引張試験のn値は一 Al-Mg合金の均一変形増大の謎?* 内田 秀俊 ** Why Does the Uniform Strain of Tensile Test Increase with Mg Content in Al-Mg Alloys? Hidetoshi Uchida ** * 本稿は,軽金属,66 (2016),44の「私の一枚」シリーズに掲載されたものを改訂。 Revision of “My one shot” series of Journal of The Japan Institute of Light Metals, 66 (2016), 44. ** (株)UACJ R&Dセンター 第二開発部 Development DepartmentⅡ, Research & Development Division, UACJ Corporation Fig. 1 TEM Microstructures of 15% stretched pure aluminum and Al-Mg alloys. (1) Pure aluminium (1) Pure aluminium (2) Al-1.5 Mg (2) Al-1.5 Mg (3) Al-3 Mg (3) Al-3 Mg (4) Al-4.5 Mg (4) Al-4.5 Mg (5) Al-6 Mg (5) Al-6 Mg (6) Al-7.5 Mg (6) Al-7.5 Mg 1 µm

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Page 1: Technical Column - 株式会社UACJ公式ホームページ...UACJ Technical Reports,Vol.5(1)(2018) 129Al-Mg合金の均一変形増大の謎? 129 定値をとると考えられていたが,実際に計算してみる

128   UACJ Technical Reports,Vol.5(1) (2018)

UACJ Technical Reports, Vol.5 (2018),pp. 128-129

Technical Column

アルミニウム合金の成形性を改善するにあたり,引張試験の伸びとその応力挙動について検討していた。

Al-Mg合金はマグネシウム添加量に従い強度が増加するが,伸びは2 ~ 3%のマグネシウム添加量で最小値を取り,その後添加量とともに増加することが知られていた。ただしその理由は明確になっておらず,その原因を検討した。そのために純アルミニウムおよび各種マグネシウム量を含有する試験片について,一定量の引張変形を与えて転位組織を観察すると,同じひずみ量でもFig. 1に示すようにマグネシウム添加量によって転位セル組織の形成が大きく異なることが分かった。純アルミニウムはひずみ量によらずほぼ同じサイズのセル組織が形成されており,変形によるひずみ導

入と転位セル形成によるひずみ緩和がバランスして高い伸びを示すと考えられた。一方Al-Mg合金は,マグネシウム添加量に伴い転位セルサイズが小さくなる。マグネシウムの添加によってこれほど転位組織が異なるのか!と驚いたことを記憶している。ただし,Al-Mg合金の転位セル組織は純アルミニウムとは異なり,転位セルがある程度形成された後に,さらにひずみを加えるとバンド状転位組織(マイクロバンド)が形成されるようになる。このマイクロバンドが形成されると加工硬化能が低下し不均一変形の原因となり,さらにせん断帯形成となり引張破断すると考えた。Al-2 ~ 3%Mg合金は,マイクロバンドが形成されやすいため伸びが低下すると考えられた。当時,引張試験のn値は一

Al-Mg合金の均一変形増大の謎?*内 田 秀 俊 **

Why Does the Uniform Strain of Tensile Test Increase with Mg Content in Al-Mg Alloys?*

Hidetoshi Uchida**

* 本稿は,軽金属,66(2016),44の「私の一枚」シリーズに掲載されたものを改訂。 Revision of “My one shot” series of Journal of The Japan Institute of Light Metals, 66 (2016), 44.** (株)UACJ R&Dセンター 第二開発部 Development DepartmentⅡ, Research & Development Division, UACJ Corporation

Fig. 1 TEM Microstructures of 15% stretched pure aluminum and Al-Mg alloys.

(1) Pure aluminium(1) Pure aluminium (2) Al-1.5 Mg(2) Al-1.5 Mg (3) Al-3 Mg(3) Al-3 Mg

(4) Al-4.5 Mg(4) Al-4.5 Mg (5) Al-6 Mg(5) Al-6 Mg (6) Al-7.5 Mg(6) Al-7.5 Mg 1 µm

Page 2: Technical Column - 株式会社UACJ公式ホームページ...UACJ Technical Reports,Vol.5(1)(2018) 129Al-Mg合金の均一変形増大の謎? 129 定値をとると考えられていたが,実際に計算してみる

 UACJ Technical Reports,Vol.5(1) (2018)   129

Al-Mg合金の均一変形増大の謎? 129

定値をとると考えられていたが,実際に計算してみるとひずみ量により値がかなり変化することが分かった。この引張変形中のn値の変化からも転位組織の挙動が説明でき,マクロ的な引張試験データとミクロ的なTEM観察結果に相関がある考察ができたと考えている1)。つまり動的回復を抑制することで加工硬化能が維持でき均一変形が増大することにより伸びの向上が図れると考えられる。

引張試験は手軽にできる試験であり,この結果からある程度の転位組織の変化が推察できることは非常に面白いと感じた。この手法を用いて6000系合金の延性に関する研究にも応用して多くの材料において変形による転位組織を調査し,引張試験における伸び値との関係をまとめることができた2)。具体的には,過剰Si

の増加やCu添加によりマイクロバンドの形成が抑制されることを転位組織で確認し,引張試験のn値の変化でもこの組織変化が推定できることを検証している。

参考文献

1) 内田秀俊,吉田英雄:軽金属,45(1995),193-197. 2) 内田秀俊,吉田英雄:軽金属,58(2008),290-294.

内田 秀俊 (Hidetoshi Uchida)(株)UACJ R&Dセンター 第二開発部