title 実験的温阻血腎における尿および腎組織中γ-gtpの研究...
TRANSCRIPT
Title 実験的温阻血腎における尿および腎組織中γ-GTPの研究
Author(s) 沼, 秀親
Citation 泌尿器科紀要 (1987), 33(10): 1562-1568
Issue Date 1987-10
URL http://hdl.handle.net/2433/119313
Right
Type Departmental Bulletin Paper
Textversion publisher
Kyoto University
1562
〔墜轡雪『籍1罰
実験的温阻血腎における尿および腎組織中 γ-GTPの 研究
埼玉医科大学泌尿器科学教室(主 任:岡 田耕市教授)
沼 秀 親
STUDY OF γ-GTP ACTIVITY IN URINE AND RENAL TISSUE
OF EXPERIMENTAL WARM ISCHEMIC KIDNEY
Hidechika NUMA
From the Department of Urology, Saitama Medical School
(Director: Prof. K. Okada)
The acute changes of proximal tubule function and its pathological condition were investigated
by measuring(r-GTP)activities in the urine and renal tissue using warm ischemic kidneys of adult
dogs(n=34). Eight kidneys were kept in a warm ischemic condition throughout the experimen-
tal period and the tissue was extirpated from the kidney at every hour, and 31 kidneys were re-
.leased from the 30 min ischemic condition. The urine and the blood(peripheral and renal artery
and vein)were collected from these kidneys at every hour up to 5 hr. The kidneys observed for
urine outHow(n罵24)were divided into thrce groups with time;7kidneys(1 hr),5k三dneys(3 hr),
and 12 kidneys(5 hr), and they were extracted.
Thcγ 一GTP activity of the urine showed the maximum value of 851土102 mIU/ml at 30 min
and dccreased to 217土56 mlU/ml, which declined to be clQse to the starting value of 133±26
mlU/ml, at 5 hr after the warm ischemic condition was released. The r-GTP activities of the cor-
tex were 325土62 mIu/mg・P(i hr),527土37 mIu/mg.P(3 hr),and 266土44 mlU/mg.P(5 hr). How-
ever, no increase in 7-GTP activity was observed either in the renal vein blood, or in the cortex
obtained from the 8 kidneys kept in the warm ischemic condition. A histopathological examina-
tion showed the progressive changes in some parts of the proximal tubules after release from the
ischemic condition.
The present results suggest that an extra amount of r-GTP is excreted and discharged from the
proximal tubules into urine by warm ischemia but that the r-GTP value immediately returns to the
normal amount. The hyperenzymatic action of 1--GTP to protect kidney probably due to the via-
bility of the proximal tubules seems to be most active around 3 hr after the blood reflow. The
measurement of urinary r-GTP activity seems to offer some useful information about the function of
the proximal tubule, especially in the warm ischemic kidney.
Key words:Experimental warm ischemic kidney, γ-GTP, Proximal tubule
緒 言
γ一glutamyltranspeptidase(以 下r-GTPと 略す)
は ヒ ト生体臓器 中,単 位重量あた り腎に最 も多量 に存
在 しD,と くに 近位尿細管の刷子縁部に局在 している
ことがすでに確認 されている2β)1その生理 作用の詳 細
については 目下 のところ不 明な点が多いが,蛋 白の再
吸収に際 しア ミノ酸に作 用す ると考え られている4).
これ までr-GTPの 活性値 は,主 として血清におい
て肝疾患 との関連を臨床評価 されて きた.し か し,r
疾 患においてY-GTPは 尿中に多最に遊出 して くるの
で3・5),そ の尿中活性値 を測定 す る ことは,近 位尿細
管の病態 の存在や消長を示す良い指標の1つ にな りう
る と考 えられ る.こ れ まで多 くは,各 種 腎疾患におい
て,そ の尿中 の活性値を測定 しただけにす ぎず,近 位
尿細管機能 と尿中 γ一GTP活 性値 との関係についての
報告 はあま りな されていない.
腎臓外科 の立場 に お い て 腎血 流を常温阻血す る場
合,阻 血時間は最大30分 間 まで と限定され,こ の間に
血流を再開すれば腎のviabilityを 温存 させ る ことが
できるとされている・腎組織 は常温阻血に よって糸球
体や遠位尿細管 よりも,近 位尿細管で最 も速 く障審 の
沼:実 験的温阻血腎 ・r-GTP
発生するこ とが判 明してお り6),し たが って,阻 血解
除後 の尿中 γ一GTP活 性値 の経時変動は,近 位尿細管
機能 の回復過程を示す マーカーの1つ にな りうるので
はないか と考え,以 下に述べ る実験を試 みた、
Table1.
1563
実 験 方 法
A.実 験手順
1.正 常雑種成犬(約10kg)34頭 を使 用,ネ ンプ
タール静脈麻酔下.ラ クテー トリンゲルの点滴 を終始
続行 し,利 尿状態 とした 、正中切開で開腹 し,経 腹膜
的に両側腎尿管を露出 して,肉 眼的に腎尿路系 に異常
のないことを確認 した後,両 側尿管を切断 して,両 腎
尿,末 梢血,腎 動静脈血 を それぞ れ採取 し,γ 一GTP
活性値 の測定を行な った.
2.26腎 について腎摘 出を行 ない,皮 質 と髄 質に分
け,まー.参考 として肝組織を採取 し,そ れぞれ γ一GTP
活性値 の測定を行な った.
3.8腎V`つ いて,一 側腎の血流を完全に遮 断 し常
温阻血 腎状態(15~20。C)と した.こ れを5時 間まで
継続 し,経 時的に腎組織を採取 し,阻 血前 の組織 とと
もに皮質 と髄質のそれぞれ γ一GTP活 性値 の測定を行
なった.
4.31腎 について,30分 間の常温阻血 の後に これを
解除 し,経 時的に腎尿,末 梢血,腎 動静脈血をそれぞ
れ5時 間 まで 採取 し,γ一GTP活 性値の測定を行 なっ
た.そ の うち,利 尿 の認め られた腎にたい しては経時
的に腎摘出を行ない,そ れ ぞれ皮質 と髄質 のr-GTr
活性値 の測定 を 行 な う一方,組 織学的検索 も施行 し
た.
B.γ 一GTP活 性値の測定法(Tablei)
1.尿 お よび血清
検体は すべて3,000rpm5分 間遠心 し,そ の上精
液について検索 した.市 販のモ ノテス ト γ一GT(ベ ー
リング ・マ ンハ イム社製)1mlを37℃ で10~20分
間予備加温 し,こ れに検体501を 加え混和 し,37℃
でi分 間反応 させ た 後,蒸 留水 を 対照液 と して405
nmの 波長 で比色測定 した.測 定は クイ ックレー ト
(オ リンパス社製)で5回 行ない,2回 目以後 の測定
値の平均値を求 めた.単 位は1分 間に1μmolのP-
nitroanilineを 遊離 さ せ る酵 素量 を1単 位 と して,
mlu/m1で 表示 した,
2.組 織
腎皮質,髄 質 お よび肝 のそれぞれ組織1gに,0,25
Msucro~e9倍 容を加え氷水 下でホモ ジナイズ し,そ
のホモ ジネー トを105,000×G60分 間遠心 して,そ
の上精液 に つ い て尿 お よび 血清の場合 と同様 の方法
Themethodofmeasurementof
r-GTPactivity.
IMaterial
a.urine,serum
b.kidney(cortex,medulla),liver
tissuelg
homogenate
門1.5.000Xg60min.supernatant
proteindetermination:Lowry'smethod
IIEnrymeassay
kit
「4mMしr-glutanyl-p-nitroanilide
40mMGIycylglycine
185mMTrisbuffer,pH8.5
preincubation(37°C,10-20min.)
sample50オ1
レea・ ・i・・(37°C,1・i・.)
products(p-nitroaniline)
absorbanceat405nm
※1unit=1μmoLP-nitroaniline/min.
で,γ 一GTPの 活 性 値 を 測 定 した.ま た 蛋 白定 量 を
Lowry法 で 同 時V`行 ない,蛋 白1mgあ た りの活 性
値mlU/mg.protein(以 下mlU/mg.pと 略 す)と
して表 示 した 。
これ ら の計 量 値 はす べ て 平 均 値 ±標 準誤 差(Mean
±S.E.)で 示 し,統 計 処 理 に あ た って はt検 定 を行
な い,P<0.05を もって 有 意 と した.
実 験 成 績
1γ 一GTPの 局 在(Fig.1)
mlU/mgprotein
600
500
400
300
200
goo
50
10
0
8)
・ 至
●
●
軸
b)
ぷ 王
iM
=轟
.:
鯉…
a
o
王Mean±S.E.
a)b)1a)c)JiP<0.005b)c)
LiverCortexMedulla
Fig.1.Localizationofr-GTPactivityinthe
kidney.
1564 泌尿紀要33巻
γ一GTP活 性 値 は,肝5±lmlU/mg・P・ 腎 皮 質
224±25mlu/mg.P,腎 髄 質63±6mlu/mg・Pで 皮
質 部 に多 量 に 存 在 す る こ とが 確 認 され た(p<0.005),
以下,こ の値 をcontrol値 とした.
2.常 温 阻 血 継 続 腎 の組 織 中 γ一GTP活 性 値 の推 移
(Fig.2)
阻 血前 の皮 質 中 お よび 髄 質 中 γ一GTP活 性 値 は,そ
れ ぞ れ196±30mIu/mg.P,70±9mlu/mg・Pで,
阻 血 継続 中 も5時 間 まで の値 に 有意 な変 化 は 認 め な か
った 。
mIU/mgprotein
400
300
(n=8)]IC・rtexMean±S.E.
王 ・・d・・1・
10号1987年
推移を示 した.1時 間 以内に利尿が認め られ,以 後 ほ
ぼ安定 した利尿状態が継続 した.
ml
40
30
20
io
0
王Mea・ ±・・
n:三三≧主唾___._n=17____→ レ_n=12一
L
30
Fig.3.
609012015018D210240270300min.
Changesofurinaryoutputafterrelease
from30minwar皿ische皿ia.
200
1・・一0
0.512345hrs
warmlschemia
Fig.2.Changesofr-GTPactivityinthecortex
andmedullaunderwarmischemia.No
statisticalchangeswereobservedincor-
texandmedulla.
3.常 温阻血解除 後 の 血中r-GTP活 性値 の 推移
(Table2)
腎動静脈血 と末梢血 におけ る,阻 血前 お よび阻血解
除後の γ一GTP活 性値 の推移 は軽微であ った.阻 血に
よる腎か ら血流側への γ一GTPの 流入は,こ の実験 に
おいてはほ とんどない ことが確認 された.
Table2.Changesofserumr-GTPactivityafter
releasefrom30minwarmischemia.
Nostatisticaldifferenceswereobserved
intheseresults.
5.常 温阻血解除後 の 尿 中Y-GTP活 性 値 の 推移
(Fig.4)
利尿の認 め られた24腎 の尿 中 γ一GTP活 性値は,阻
血前133±26mlU/mlで あ ったが,阻 血解除後30分
で851±102mIU!mlと 最高値 を 示 し(pく α005),
以後減少 し て5時 間 で2五7±56mlU/mlと な り,阻
血前値に復す る傾向を示 しtc.
冊IU/mI
iOOO
800
600
400
200
beforewarm
isohemiaf
afterreleasefromW8f111ischemia?
30m th 3h 5h
4.4tO.6tt4.3tO.8ft4.4fO.8114.110.3113.9tO.4tt
(n-23)(n=23)(n.10)(n-10)(n=11)
王MesntS.E.
挫L←_.冨17_→__.冨 で2_
Peripheral
Renalvein4,1tO.34.0士1.04.OtO.24.1士0.44.2士1.1
(n=19)(n=12)(n.8)(n=8)(n.8)
4β 士024.2±0.34,3土O.14.2±0,14.2」=O.6
(n==19)(n=10)(n.8)(n==8)`n=8)
0
、謝3.609.12.15018021・24・ …3…h
release
Fig.4,Changesofr-GTPactivityinurine _afterreleasefrom30minwarmischemia.
Renalartery
↑:mlUlml,":rnean士S且
4.常 温阻血解除後 の尿量の推移(Fig.3)
利尿状態の得 られた24腎 について,そ の尿量の経時
6.常 温阻 血 解 除 後 の 各 群 に お け る腎 γ・GTP活 性
値 の 推 移(Table3)
皮 質 中 の γ一GTP活 性 値 はcontrol群 の224±25
mlU/mg,Pに 対 し,阻 血 解 除 後1時 間 群7腎 で は
325±62mlU/mg.pと 上昇(Pく0.05)し,3時 間 群
沼:実 験的温阻血 腎 ・r-GTP 1565
5腎 で は527±37mIU/mg.Pと 最 高値(P〈0.01)
を示 した が,5時 間 群12腎 で は 減 少 し266±44mlU/
mg,pと な りcontrol群 値 に 回 復 す る 傾 向 を 示 し
た.一 方,髄 質値 に お け る有 意 な変 動 は ほ とん ど認 め
Table3,r-GTPactivityinrenaltissuesafter
releasefrom30minwarmischemia.*;p〈0
.05,**;p<0.01(whencompa-
redwiththeircontrolgroup)
Nostatisticaldifferenceswereobserved
inmedulla.
afterreleasefromwarmischemiafcontrolt
1h 3h 5h
ヤサtt224±25"325±62'
Cortex(n-26)(n-7)
n527137*+266f44
(n-5)(n-12)
Medulla63±693±3487±3780±11
(n=22)(n-7)(n-5)(n=12)
t:mlU/mg.p,tt:meantS.E.
られなか った.
7組 織学的検索
30分 間の温阻血が近位尿細管へ与える影響を,阻 血
解除後の組織像について光顕 レベ ルで検索 した,阻 血
解除後60分(Fig.5A)で は特 に著変は認め られ なか
った が,180分(Fig.5B)に な る と軽度 の間質の浮
腫,尿 細管 の拡張を認め るようにな り,300分(Fig.
5C)で はそれが さらに顕著 とな り,ま た尿細管細胞 の
相互の結合が,部 分的に弱 くなってい るもの も認め ら
れた。 しか し全体 として,形 態的 および量的には軽微
な変 化にとどまっている ことが判 明した.
8.非 利尿例の γ一GTP活 性値(Fig.6)
7例 の腎は5時 間を経過 しても利尿を認めるこ とは
なか った.こ れ らについて実験後 の検索結果か ら,そ
の阻血前尿中 γ一GTP活 性値 は,利 尿例に比べ る とす
べて高値を示 していた.し か し,そ の5時 間後の皮質
中 γ一GTP活 性値は,利 尿例に比べ高値 または低値を
示 してお り,特 に一定の傾 向は得 られなか った。
駿灘iA'
を じ
Bご 吃3網 働"'こ 断 繭 一
譲驚 零C瀦 ぜ=、 ㌔ ¢∫ド ・'㌦・蓋をゐ
Fig.5.Photomicrographsofproximaltubulesafterreleasefrom30minwarmische-mia(H&Ex200).A:Noremarkablechangeswereobserved(60min).B:Themilddilationofproxi-maltubulesand'edemaofinterstitiumwereobserved(180min).C:Themode-ratedilationofproximaltubules,partialweaklingofcellularconnectionsandedemaofinterstitiumwereobserved
(300min).
mlU/ml
>>oo
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
⑥
0
O
4
Q
OO
④
②
83
mlU/mg.p
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
UrineCortex
Fig.6.Y-GTPactivitiesin7caseswithouturi-
naryoutputduring5hrs.Thevaluein
urineshowedy-GTPactivitybefore
warmischemia,andthatincortexat5
hrafterreleasefrom30minwarmische-
mia.Thevaluesinurinewerefoundto
behigh.Thesedatasuggestedtheexi-
stenceofacertainpathologicalcondition
heforethisexperiment.
考 察
γ一GTPは 腎に おいては 近位尿細管刷子縁部に多量
に局在 していることが,生 化学 的,免 疫学的お よび組
織学的に証 明され ている7~10).本実験 において髄質に
比べ皮質中 に 多量 の γ一GTP活 性値を認 め た こ とで
も,そ のことは肯定された.ま た,腎 におけ る γ一GTP
1566 泌尿紀要33巻10号1987年
と尿 に おけ る γ一GTPの 同一 性 に つ い て も,す で に 確
認 され て い る11・監2).そ して そ の役 割 は,glutathionや
他 のY-glutamylpeptideを 加 水 分 解す る と と も に,
r-glutamyl基 を他 のpeptideや ア ミノ酸 へ 転 移 させ
る こ とで あ り,同 時 に ア ミ ノ酸 の 尿 細管 で の維 持 保 存
に関 与 して い る といわ れ て い る4・13・14).腎に 何 らか の
異 常 が お よぼ され た場 合,た とえ ば 腎血 管 の閉 塞 に よ
る虚 血IS),薬 剤 に よる腎 毒 性16),尿 路 閉 塞 に よる 腎孟
内圧 の 上 昇 お よび外 傷 な ど で,γ 一GTPは 近 位 尿細 管
よ り尿 中 へ逸 脱 お よび 分 泌 され て くる こ とが 考 え られ
る.そ こで γ一GTPの 尿 中 活性 値 を 測 定 す る こ とは,
近 位 尿 細 管 の機 能 お よび病 態 を と ら える の に 有効 で は
ない か と考 え られ た.
著老 は,30分 間 の 常 温阻 血(15~20℃)腎 を作 成 し,
阻 血解 除 後5時 間 まで の尿 中 お よび 組 織 中 の γ一GTP
活 性値 を 測定 し,近 位 尿細 管 にお け る 急性 変 動 を 検 討
した 。 これ まで,温 阻 血解 除 後6時 間 目 よ り数 日間 ま
で の変 動 を検 討 した 報 告 は あ るが17),よ り短 時 間 に お
け る変 動 につ い て の 報告 は な か った.
温阻 血 が 腎 臓 に与 え る影 響 と して,電 顕 レベル の 研
究 が行 なわ れ て い る が18・19),さ らに 山 田20)は 代 謝 の面
か ら検 討 を 行 な い,組 織 内のglycogenやglucose
が消 失 す る時 間 は15~30分 の 間 で あ り,こ れ はmito-
chondriamatrix内 のmitochondria穎 粒 が 消 失
し,flocculantdensitiesが 認 め られ る 所 見 と一 致 す
る こ とを 示 した.し た が って30分 の常 温 阻 血 は,腎 が
不 可 逆 的 に,質 的 変 化 に 陥 る制 限時 間 で あ る と考 え ら
れ た.
尿 中 γ一GTPは 比 較 的安 定 な 物 質 で,人 の 場 合,
pH,浸 透 圧,温 度,尿 中溶 解 物 質 な どの影 響 を 受 け
る こ とが 少 な く,室 温 放置 で1~7時 間,4。C(冷 蔵
庫 保存)で10~14日 間 は そ の活 性 値 に変 動 を もた らす
こ とは な い とい う9・2D.著 者 も予 備 実 験に お いて,犬
の場 合 もほぼ 同 様 で あ る こ とを 確認 して い る.ま た 日
内変 動 が 認 め られ る の で,24時 間 の蓄 尿に つ い て 定 量
す る こ とが,病 態 を と らえ る うえ で必 要 とい う報 告 が
あ る22).し か し本 実験 で は,す べ て30分 間 尿 の新 鮮 尿
に つい て 半 定 量 を 行 ない 検 索 を した.臨 床 の 現 場 に お
い ては,こ の 方 が よ り実 用 に 則 して お り,か つ 急激 な
病 態 の 変 化 に対 応 で き る と考xt:.か ら であ る.
腎 組 織 内 の γ一GTPは,大 部分 がmicrosome分 画
(105,000xG,60分,沈 澱)に 存 在 して い る が,一 部
はsoluble分 画(正05,000×G,上 清)に も認 め られ,
そ の 比 率 は 犬 で は約111で あ る とい う23)本 実験 で
は,ホ モ ジネ ー トの 上精 液 つ ま りsoluble分 画 まで
の測 定 を 行 な い,一 定 の 傾 向 を え る こ と を 目的 と し
た.
測定 は他に,血 液お よび尿中のNa,K,Cr,BUN
について も行 なったが,従 来 の報告6)同 様,30分 間の
常温阻血下 では これ らの値 に変化 を認め るこ とはほ と
んどなか った.
白浜i7)は ラ ットを 用 い て30分 間 の温阻 血腎を作成
し,尿 お よび組織中 γ一GTP活 性値 について,阻 血解
除後6時 間 目お よびその後の変動 を検討 している.そ
れに よると,尿 中 γ一GTP活 性値 は解除後6時 間 目で
最高値(阻 血前の約5倍)を 示 し,そ の後 は12時 間で
正常化 し,以 後減少す る傾 向であるとい う.ま た組織
γ一GTP活 性値 は,6時 間値ではやや減少す るが,後
は一定傾 向を とると している.著 者 の実験では,阻 血
解除後30分 で尿 中 γ一GTP活 性値は最高値(阻 血前 の
約6倍,p<0.0旦)を 示 し,以 後減少 し5時 間で正常
化す る傾 向であったが,そ れで も約2倍 値 を示 した.
組織活性値 に つ い て は,解 除 後3時 間 腎 で 最 高値
(control群 の約2.5倍,p〈0.01)を 示 し,5時 間腎
で正常化す る傾 向を示 した.正 常値 に復す るには,尿
および組織 ともさらに時間 を 要す る もの と考 えられ
る.ま た この間,腎 静脈血 中の γ一GTP活 性値は不変
であ り,い わゆるtubularleakages$)を 生 じ ること
はなか った.上 記事実 を考 え合わせ ると,近 位尿細管
の破壊に よ りr-GTPが,単 に尿中へ逸脱,分 泌 され
ただけでは説 明がつか ない.そ うす ると,腎 組織中の
γ一GTP活 性値の低下を認 めなけれ ば な らな く,逆 に
上昇を示 したこ とは,近 位尿細 管自身 におけるviabi。
lityの 存 在を表 した ものと思われ る.す なわち,3時
間を頂点 としてその前後において,腎 組織温存のため
に,ア ミノ酸 の保存に対す る過酵素活動が行なわれた
ためではないか と考え られた.
5時 間 まで温阻血を継続 した8腎 について興味 ある
結果 を得 た(Fig.2).組 織 中の γ一GTPは,代 謝が
す べて停止す ると考え られる2.5時 間so)を過 ぎても,
その活性値の低下を示 す こ とは なか った とい うこと
と,経 過中に過酵素活動を暗示する活 性値 の上昇を認
め ることがなか った とい うことである.す なわち,前
老 において γ一GTPは 尿中におけるの と同様,組 織中
に おいて も少な くとも5時 間 の虚血下 では,不 活性化
されない安定な物質であると考xら れた.後 者におい
て,虚 血継続状態下では近位 尿細管 のviabilityを 示
す過酵素活動は認め られ ない ことが考xら れた.
光顕的には,30分 間 の温阻血解除後1~2日 目にお
け る検討がな されている6)・ それに よると,尿 細管は
全体数 として10%程 度にmildな 壊 死変化を認めてい
る.本 実験 に お い て 一部の近位 尿細管 に,進 行性 の
沼:実 験 的温阻血腎 ・7-GTP 1567
mildな 尿細管 の拡張 および 尿細管細胞の相互の結合
が弱 まってい るのが認め られ た.30分 間の温阻 血に よ
る影響は,短 時間の うちに も経時的 に進行す ることが
判 明したが,全 体 としては少数 の近位尿細管の変化 し
か認め られ なか った.
7腎 は温阻血解除後5時 間た っても利尿を認め るこ
とはなかった.い ずれ も,阻 血前 の尿中 γ一GTP活 性
値は利尿例 に比ぺ ると高値 または異常高値を示 してお
り,腎 に何 らかの病変がすでに存在 していた ことが想
定された.本 実験における雑 種成 犬の病 的状態を考慮
する必要があ り,著 しい脱水,栄 養不 良お よび フ ィラ
リア症な どをあげ ることができるであろ う.そ の状態
に温阻血 とい う負荷が加わ り,腎 機 能がさらに憎悪 し
たためだ と考 えられた,し か し,阻 血解除後5時 間 目
の腎皮質でその活性値が高値を示 している例 があ り,
前述 の組織温存 の た め の過酵素活動 を 考 え合わせ る
と,短 時間 では無尿を呈 した ものの,さ らに時間 の経
過 とともに利 尿を認めて くるのではないか とも推定 さ
れた,
以上,30分 の温阻血解除後 の尿 お よび 組織中の γ一
GTP活 性値を測定 し,あ わせて組織学 的検索 を行 な
った.そ の結果,尿 中のr-GTP活 性値 の経時的変動
は,近 位尿細管 の機能お よび病態を よく反 映 し,温 阻
血解除後の回復過程を示す マーカーにな りうることが
示唆 された,
従来か ら近位尿細管の機能検査 として,間 接的であ
るが,PSPテ ス トが一般的に施行 されている.し か
し,尿 中の γ一GTP活 性値の測定は直接的 で頻回に行
な うことができ,そ の点において より有益かつ臨床的
である と考 えられた.
結 語
正常雑種成犬を用いて,実 験的に30分 間の温阻血腎
を作成 し,阻 血解除後の尿 中のr-GTP活 性値 を経時
的に測定す ることに よ り,近 位尿細管の機能お よび病
態につ いて検討 した.ま た 同時に,腎 皮質中の γ一GTP
活性お よび病理組織所見について も検索を行ない,以
下の結論を得た,
(1)γ 一GTPは これ まで の報告通 り,腎 皮質中に
多量に活性を認め,髄 質値 の約4倍,肝 値 の約45倍 で
あった(P<0.005).
(2)温 阻血解 除後 γ一GTPは 血流側へ流入す るこ
とな く尿中へ逸脱,分 泌 され るが,速 やか に正常値に
復す る傾向を示 した.
(3)温 阻血解除後,皮 質中のr-GTP活 性値は経
時的に上昇 し,3時 間群5腎 で最高値 を示 した(pく
0.01)が,5時 間群12腎 では正常に復す る傾向を示 し
た.3時 間を頂点 としてその前後において,近 位尿細
管 のviabilityに よる組織 温存 のための過酵素活動が
行 なわれたためだ と考え られた.
(4)温 阻血を5時 間 まで継続 した8腎 において,
その皮質 お よび髄質中の γ一GTP活 性値は経時的変化
を示す ことはなか った.γ 一GTPは 少な くとも5時 間
の虚血状態下で も,不 活性化 され ない安定な物 質であ
る ことと,虚 血継続状態下 では,腎 のviabilityは 示
され ないことが判明 した,
(5)光 顕的には30分 間の温阻血は,近 位尿細管に
対 して形態的 および量に してご く軽微な変化 しか影響
を及ぼさなか ったが,一 部 では進行性であ った.
(6)利 尿が得 られなか った7腎 は,温 阻血前す で
に尿 中 γ一GTP活 性値 の高値 または異常高値が認 めら
れ,本 実験操作に よる阻血 が腎機能の状態を さらYこ憎
悪 したためだ と考え られ た.
(7)尿 中 の γ一GTP活 性値 の経時変動は,近 位尿
細管の機能 および病態を よく反映 し,そ の回復過程 を
示す マー カーの1つ にな りうる と考 えられた.
稿を終えるにあたり,多 大なる御指導ならびに御校閲を賜
った恩師岡田耕市教授に心から感謝の意を表します.ま た本
研究にあたり,終 始御協力を頂いた当教室員高橋美和子嬢な
らびに医局員の方々に深謝致します.
本論文の要旨は第72回日本泌尿器科学会総会ならびに第27
回El本腎臓学会総会において発表した.
文 献
1)OrlowskiMandSzewczukA:Colorimetric
determinationofr-glutamyltranspeptidase
activityinhumanserumandtissueswith
syntheticsubstrates.ActaByochemPolon
8:189200,1961
2)SzaszG:γ 一Glutamyl-transpeptidase-Aktivitat
imUrin.Z.Klin.ChemKlinBiochem8
1~8,1970
3)ThieleRG:r-Glutamyltranspeptidase-Akti-
vitatimUrinbeiGesundenandNierenkran-
ken.KlinWschr51;339--345,1973
4)MeisterA:Ontheenzy皿010gyofamino
acidtransport。Science180:33~39,1973
5)Salg6LandSzab6A=γ 一glutamyltranspep-
tidaseactivityinhuman.ClinChimActa
126:9~16,1982
6)JablonskiP,HowdenBO,RaeDA,Birrell
CS,MarshallVCandTangeJ:Anexperi-
mentalmodelforrenalrecoveryfromwarm
ischemia.Transplantation35;198^-204,1983
7)ScherberichJE,FalkenbergFW,Mondorf
AW,MullerHandPfleidererG:Biochemical
1568 泌尿紀要33巻
andimmunologicalstudiesonisolatedbrush
bordermembranesofhumankidneycortex
andtheirmembranesurfaceproteins.Clin
ChimActa55;179.197,1974
8)EndouH,ShimadaH,KosekiC,Yokokura
YandSakaiF:Distributionandpossible
functionofr-glutamyl-transpeptidaseinthe
kidney.JpnJNephrology23:981-一 一988,1981
9)花 田 繁 子:腎 疾 患 に お け る 尿 中 な ら び に 腎 組 織 の
r-GTP活 性 に つ い て,日 腎 誌24:1009~1027,
1982
10)DassPD,MisraRPandEelbourneTC:
Renalr-Glutamyltranspeptidase:Insituan-
tiluminallocalization.JHistochemCytochem
30:148-152,1982
11)長 裕 子:尿 中 の γ・glutamyltranspept三dase
に 関 す る 研 究.臨 検22:603~607,1978
iz)西 澤 芳 男;ヒ ト腎 臓r-glutamyltranspeptidase
(γ一GTP)と 尿 中r-GTPの 同 一 性 に つ い て.最
新 医36:1400~1406,1981
13)HanesCS,HirdFJRandIsherwoodFA:
Enzymictranspeptidationreactionsinvolving
r-glutamylpeptidaseandr-amino-acylpepti-
dase.BiochemJ51;2535,1952
14)OrlowskiMandSzewczukA:Determinatin
ofr-glutamyltranspeptidaseactivityinhuman
serumandurine.ClinChimActa7:755-r
Aso,issz
15)AkabaneS,KawamuraMandKeiichil:
Increaseinurinaryenzymesexcretionfol-
lowingdecreaseofrenalbloodflowinane-
sthetizeddog.JpnJNephrology25;1103
1108,1983
10号1987年
16)古 関 千 寿 子 ・遠 藤 仁 ・須藤 統 一 ・島 田 肇 ・酒
井 文 徳=近 位 尿 細 管 内 障 害 部 位 の 判 定 に 関 す る研
究.ラ ッ ト腎 ネ フ ロ ソ内3酵 素 の 分 布 とGenta・
micin及 び 塩 化 第 二 水 銀 投 与 に よる 尿 中 酵 素 活性
の変 動.日 薬 理 誌76=59~69,1980
17)白 浜 勉:ラ ッ ト温 阻 血 腎 に お け るr-Glutamy・
ltranspeptidaseの 研 究.日 泌 尿 会 誌77;1726~
1732,1986
18)DonohoeJF,VenkatachalamMA,Bernard
DBandLevinskyNG:Tubularleakageand
obstructionafterrenalischaemia:Structu-
ralfunctionalcorrelations.KidneyInt13:
208222,1978
19)ReimerKA,GanoteCEandJenningsRB:
Alterationsinrenalcortexfollowingischemic
injury.III.Ultrastructureofproximaltubles
afterischemiaorautolysis.LabInvest26:
347.363,1972
20)山 田輝 雄:虚 血 に 伴 う腎 皮 質 組 織 の 経 時 的 変 化 に
関す る 実 験 的研 究.(1)腎 皮 質 組 織 の代 謝 に お
よぼす 影 響.日 腎 誌19:883~891,1977
21)佐 野紀 代 子 ・長 裕 子 ・青 木 フサ 子 ・保 崎 清 人:
尿 中r-glutamyltranspeptidaseに 関 す る研究.
(1)測 定 法 の検 討 お よび 正 常 低 臨 病 理23:
819^-821,1975
22)長 裕 子 。佐 野 紀 代 子 ・保 崎 清 人:尿 中r-gluta-
myltranspeptidaseに 関 す る研 究(2)臨 床 的意
義 に つ い て.臨 病 理25:921~925,1977
23)長 谷 川 律 子:γ 一Glutamyltranspeptidaseに 関
す る研 究.と く に イ ヌ の 腎 に お け るsoluble
formに つ い て.日 大医 誌38=165~174,1979
(1987年6月4日 迅 速 掲 載 受付)