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症 例症 例:36歳,女性主 訴:蛋白尿現病歴:平成14年(31歳)の健診にて蛋白
尿(+)を指摘されるも再検にて陰性でありその後は検査を受けていなかった。平成18年1月
(35歳)の人間ドッグにて尿蛋白(3+),潜血(-),高血圧(176/110mmHg)を指摘され近医を受診。血清クレアチニン値は正常(0.68mg/dl),尿蛋白(3+),尿蛋白定量2.8g/gCr,潜血(-)で,高血圧に対してARBを開始。しかし,その後も尿所見は変わらず,平成19年7月精査のため当院を紹介受診となり同年8月13日入院となった。レイノー症状,光線過敏,顔面頬部紅斑,関節腫脹などはいずれも認めていない。
既往歴:特記事項なし家族歴:母 高血圧 生活歴:喫煙 10本 /日・16年間, 飲酒なし入院時現症:身長 165cm,体重 78.8kg,体温
36.6℃,血圧 160/106mmHg,脈拍86/分整,意識清明,眼球結膜黄疸なし,眼瞼結膜貧血なし,皮膚,口腔内異常なし,表在リンパ節腫脹なし,肺野清,心雑音なし,腹部異常所見なし,下腿浮腫あり,神経学的異常所見なし
胸部XP:心胸比51%,縦隔,肺野に異常陰影なし
心電図:正常範囲内腹部超音波:肝,胆,膵,脾,腎に異常なし
腎生検所見:光顕所見では,HE,PAS染色にて糸球体は分葉状を呈し(図1-4),PAM染色にて内皮下腔の拡大と血管腔の狭小化が認められ(図5),Masson染色では内皮下腔が赤く染色された(図6)。また,DFS染色は陰性であった(図7)。
蛍光抗体法では,IgG,IgA,C3,C4は陰性であり,C1q,IgM,Fibrinogenがメサンギウムから末梢係蹄にかけての発光を示し,特にC1qの発光を強く認めた (図8,9)。また,κ,λは陰性を示し(図9),fibronectinがメサンギウムに陽性所見を示した(図10,11)。
電顕ではメサンギウムから内皮下腔にかけて大量のdense depositが認められたが(図12,13),内皮細胞質内にvirus like particleを確認する事は出来なかった。更に,電顕高倍率では顆粒状のdence deposit内のごく一部に約11 ~ 16nmの線維様構造物を認めた(図14,15)。
Wire loop様病変の光顕所見を呈した非SLEの一例
佐 野 隆 深 谷 圭 村 野 順 也太 田 利紗子 根 本 千香子 青 山 雅 則中 野 素 子 青 山 東 五 坂 本 尚 登鎌 田 貢 壽
北里大学医学部腎臓内科 Key Word:Wire loop様病変,Clq沈着,fibronectin glomerulopathy
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図1 図2
尿一般比重 1.020pH 6.0
蛋白 (3+)(定量 3.7 g/日)潜血 (-)糖 (-)
沈渣RBC
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図3
図4
図5
図6
図7
図8
IgG IgA
IgM Fib
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図9
図10
図11
図12
図13
図14
C3 C4
C1q κ λ
fibronectin
fibronectin
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図15
考 察本症例は,chance proteinuriaで発症し,慢性
腎炎症候群の経過を示した症例であり,明らかな腎疾患の家族歴を認めず,身体所見上は,肥満,高血圧,下腿浮腫の他には皮膚を含め有意な異常所見を認めなかった。また,入院時の検査所見では,蛋白尿は多いものの血清総蛋白値と血清アルブミン値は保持されており,免疫血清学的検査では,リウマチ因子陽性を認める以外に低補体血症や抗核抗体などの自己抗体も認めなかった。
腎生検組織所見では,光顕上,糸球体は分葉状を呈し,内皮下にはMasson染色で赤く染色される多量の沈着物が認められwire loop様病変を呈していた。蛍光抗体法では,C1q優位の発光がメサンギウム領域から末梢係蹄にかけて認められたが,IgGやC3,C4の発光は認められず,電顕では,メサンギウム領域から内皮下に多量のdense depositが認められたが,virus like particleは確認出来なかった。
本症例は,光顕所見にてwire loop様病変を呈するものの,臨床所見,血液検査所見上からSLEの診断基準を満たさないためループス腎炎とは言い難い。糸球体が分葉状を呈する事から膜性増殖性糸球体腎炎の可能性についても考慮
したが,C3の発光が全く見られない点から否定的と考えた。また,電顕にてdence deposit内に線維様構造物が認められ,線維様構造物の沈着を来たす疾患としてFibrillary腎炎が鑑別に挙げられるが,沈着物のほとんどが顆粒状の構造を示し,蛍光抗体法にて IgGやC3,κの発光がみられない事よりFibrillary腎炎の組織所見に一致しない。
また,糸球体にC1qが優位な沈着を来たすものの,臨床的,血清学的にSLEの診断基準を満たさない一群を1985年に JennetteらがC1q腎症として提唱している(文献1)。本症例はその蛍光抗体法所見と臨床所見から,C1q腎症の可能性を考えた。組織所見上,その多くは微小変化や巣状糸球体硬化症を呈すると報告されており(文献2),本症例の光顕,電顕所見とは異なると考えられた。また,C1q腎症の診断は免疫組織学的特徴により規定され,その原因が言及されておらず疾患としての位置づけが明確でない。
1995年にStroφmらが,原因不明の遺伝性腎疾患で,糸球体内へfibronectinが多量に沈着する疾患をfibronectin glomerulopathyとして報告している(文献3)。臨床的には,10歳から30歳に発症し慢性腎炎様の経過を辿り,半数近くが高血圧を合併し,25%前後が透析に至ると報告している。組織学的には,光顕上,糸球体は腫大し,糸球体内の細胞増殖は少なくメサンギウム領域と内皮下に多量の沈着物が認められ,免疫組織学的には糸球体に有意な免疫グロブリンや補体の沈着はみられず,血清由来のfibronectinの沈着が著明である事が特徴である。また,電顕では顆粒状のdence depositが認められ,一部の家系の糸球体内沈着物中にはfibrilの沈着も認められている。
本症例の光顕所見,電顕所見はこのfibronec-tin glomerulopathyにほぼ一致しており,また,fibronectinの蛍光抗体法による免疫染色も糸球体に陽性所見を認めている。しかし,蛍光抗体法に見られるC1qのメサンギウムから末梢係蹄
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にかけての発光と腎疾患の家族歴が見られない点が,Stroφmらの報告したfibronectin glomeru-lopathyとは一部異なる。これまでの報告では,fibronectin glomerulopathyの 弧 発 例 は1997年 にFujigakiらにより1例の報告が見られるのみであり(文献4),本症例がそのような稀な症例に該当するのか,本症例の腎生検組織診断につきご検討頂きたく症例を提示致しました。
参考文献1. Jennette JC, et al: C1q nephropathy: A distinct
pathologic entity usually causing nephrotic syn-
drome. Am J Kidney Dis 18:459-465,1991
2. Markowitz GS, et al: C1q nephropathy: A variant
of focal segmental glomerulosclerosis. Kidney Int
64:1232-1240,2003
3. Stro φ m EH, et al: Glomerulopathy associ-ated with predominant fibronectin deposits: A
newly recognized hereditary disease. Kidney Int
48:163-170,1995
4. Fujigaki Y, et al: An isolated case with predomi-
nant glomerular fibronectin deposition associated
with fibril formation. Nephrol Dial Transplant
12:2717-2722,1997
討 論 座長 次に進みますが,2演題目が「Wire-loop様病変の光顕所見を呈した非SLEの一例」,北里大学医学部腎臓内科佐野先生,お願いします。佐野 「Wire-loop様病変の光顕所見を呈した非SLEの一例」について報告させていただきます。 症例は36歳の女性で主訴は蛋白尿です。平成14年,31歳の健診で蛋白尿1+を指摘されるも再検にて陰性であり,その後は検査を受けていませんでした。平成18年1月,35歳の人間ドックにて尿蛋白3+,潜血-,高血圧176/110mmHgを指摘され近医を受診されました。血清クレアチニンは正常,尿蛋白3+,尿蛋白定量で2.8g/gCr,潜血-で高血圧に対してARBを開始されましたが,その後も尿所見は変わらず,平成19年7月精査のため当院を紹介受診となり,同年8月13日入院となりました。 既往歴には特記事項はございません。家族歴としましてはお母様が高血圧で腎疾患の家族歴はありませんでした。喫煙は1日10本を16年間,飲酒はありません。入院時現症ですが,体重が78.8kgと肥満を認めておりまして,血圧が160/106mmHg,皮膚,それから胸部,腹部には異常はありませんで,下腿に浮腫を認めました。 入院時検査所見ですが,尿蛋白が3+,一日定量で3.7g,潜血は-です。円柱として上皮・硝子脂肪円柱が見られました。血算には異常がなく,fibrinogenの上昇を認めました。生化学ではLDHの軽度上昇と高脂血症,コレステロール,中性脂肪の上昇を認めました。血清クレアチニンは正常で,電解質異常もございませんでした。免疫検査では炎症反応は陰性で,免疫グロブリン,それから補体,抗核抗体は異常がございませんでした。リウマチ因子が18IU/mlと軽度上昇を認めるほかは免疫複合体,それからcryogloblin,ANCA等は異常はなく,レントゲン上も心胸比は51%のほかは縦隔・肺野に異常はありませんでした。心電図,腹部超音波も特に異常所見は認めませんでした。
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入院後腎生検を施行いたしました。HE染色をお示しいたします。糸球体は全部で17個程度含まれていまして,全節性硬化を示す糸球体はなく,ほとんどの糸球体は少し腫大傾向で一見,分葉状と思われる所見を認めました。PAS染色を示します。同様に分葉状の状態を呈しまして,係蹄は若干狭小化を示すような所見が見られるかと思います。HE染色の強拡大です。やはり分葉状で係蹄腔は狭小化を認め,HEで少しピンクに均一に染まるような部分が係蹄の内側を這うようなかたちで見られます。 PAS染色ですが,同じ糸球体ですが,同様におそらく係蹄の内皮下と思われるところにPAS陽性の均質な物質の沈着と思われるものが認められます。細胞の増殖はそれほど多くはありませんでした。PAM染色ですが,中心に基質が押しやられるようなかたちで基底膜の内側に少し青く染まるようなかたちで均質な物質の局在があるように思われます。Masson染色を示します。係蹄内皮下と思われる部分に赤く染まるSLEでみられるWire loop様の病変がすべての糸球体に同じような状態で認められました。アミロイド染色としてdirect fast scarletを示しますが,すべて陰性でした。 蛍光抗体法ですが,IgG,IgAは背景とほとんど同じような状態で陰性と取りました。IgMは末梢係蹄とmesangiumに陽性と取りました。fibrinogenはやはりmesangiumから末梢係蹄にかけての陽性所見が認められました。C3は陰性と取りました。C4は一部に末梢係蹄に局在が認められました。C1qは特に強く末梢係蹄,mesangium領域にその局在を認めました。κ,λは陰性でした。fibronectinはどうかというご指摘を山口先生からいただきまして,fibronec-tinの染色を行いましたが,バックと比べると糸球体は光って見えるのかなという印象です。強拡大ですが,糸球体,末梢係蹄に特に強く染まるような部分が認められます。 電子顕微鏡を示します。mesangium領域から内皮下にかけてelectron dense depositが非常に
広範囲に認められました。この高倍率で見ますと,electron denseまたは,granularと表現するのか,そういったdepositに見えましたが,倍率を上げて何カ所か撮ったところ,こういった線維構造が一部に認められ,太さが11 ~ 16nmぐらいでした。 臨床所見のまとめですが,本症例はchance proteinuriaで発症し,慢性腎炎症候群の経過を示しました。腎疾患の家族歴は認めませんでした。肥満,高血圧,下腿浮腫の他には有意な身体所見の異常は認めませんでした。腎生検時はネフローゼ症候群の診断基準は満たしていませんでした。リウマチ因子を認める以外には低補体血症や,自己抗体等は認めませんでした。 組織所見のまとめですが,HE,PAS染色にて糸球体は分葉状を呈し,PAM染色にて内皮下腔の拡大と血管腔の狭小化が認められ,Mas-son染色では内皮下腔が赤く染色されました。 DFS染色は陰性でした。IgG,IgA,C3,C4は 陰 性 でC1q,IgM,fibrinogenがmesangiumから末梢係蹄にかけての発光を示しました。κ,λは陰性でfibronectinが陽性を示しました。電顕ではmesangiumから内皮下腔にかけてdensedepositが認められましたが,virus particlesは認めませんでした。電顕高倍率にてdeposit内に11 ~ 16nmの線維性構造物が一部に認められました。 本症例の問題点ですが,本症例の腎病変がスライドの1 ~ 5のいずれかに相当する病変なのか,またほかのカテゴリーに属するような病変なのかにつきまして,ご教授いただきたく症例を呈示させていただきました。1.ループス腎炎につきましては,臨床症状が乏しく診断基準を満たしておりません。2.MPGNについてC3の沈着物が見られないというのがどうか。3.C1q腎症についてはどうか。4.fibronectin関連腎症に関しては,多くは家族歴があるということですが,この方は家族歴がないという点が合わない。 5.fibrillary腎炎に関しましては,IgG,C3,
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κが陰性である点が合わず,線維性構造物がfibrillary腎炎とすると少し細いのかと考えました。以上です。座長 どうもありがとうございました。C1q腎症がクエスチョンですが,古典的なものとしては,おそらく発症年齢が10歳とか20歳と,わりと小児例も多かったりして,典型的なものはネフローゼを呈して,光顕上マイナーというパターンが多かったと思うんですが,かなり違いますよね。佐野 FGSと書かれてあったりとか,C1q腎症をまとめた中ではMPGNもごくわずかに中に含まれていたりはしたんですが。座長 どうもありがとうございました。何かご質問,ご意見がございますでしょうか。原先生,どうぞ。原 虎の門病院の原です。SLE,あるいはC1q腎症などが鑑別診断として挙げられているのですが,少なくとも serologicalにはループスがない。それからMPGNとしてはC3の沈着がないことを挙げられているんですが,私自身,この電顕所見を拝見しますと,最終的に病理の先生がコメントされるんだろうと思いますが,むしろいちばん最後に挙げていらっしゃるfibrillary腎炎の範疇として考えてはどうなのか思います。いわゆるparaprotein腎症の中でも,アミロイドでは血圧が低くなるのですが,こういうfibrillary腎炎の場合には意外と高血圧を合併している率が高いということがあります。臨床側からfibrillary腎炎と診断をつけるには問題があるかもしれないのですが,むしろそういう範疇の疾患群として考えたほうがいいのではと思いコメントさせていただきました。座長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。岩崎先生,どうぞ。岩崎 聖隷横浜病院の岩崎です。これ,除外疾患をはっきりさせたかったんですが,36歳の女性ですから,妊娠歴とか,出産歴とか,あと中絶したとか,そこを教えていただければと思いますが。
佐野 この方は独身の方で,いままで妊娠,出産歴はございません。岩崎 ありがとうございました。座長 そのほかいかがでしょうか。非常に診断に苦慮するような症例だと思うんですが。はい,どうぞ。尼ケ崎先生。尼ケ崎 横浜第一病院の尼ケ崎と申します。原先生のご意見とだいたい近いんですが,光顕の所見は我々が経験しましたCollagenofibrotic glomerulo nephritisに非常に近くて,ぜひ,電顕のfibrillaryのものを計測されて,fibrillary Ne-phritisの中でどういうものかということをはっきりされたほうがよろしいのではないかと思うんですが。佐野 計測をした結果,線維性構造物が見えるところは11 ~ 16nmぐらいです。かなり顆粒状に見えるところを専門家の方に測ってもらったら4から6nm前後ぐらいでした。最初は,やはりfibrillaryということを電顕を見ても思いつかなくて,ごく一部に顆粒状が詰まっている合間に線維性構造物が見え隠れするような状態でしたので,本当にこれはfibrillary腎炎といっていいのかというのは疑問があったのと,あとCollagenofibrotic glomerulonephropathyのときはたぶんMasson染色で全部青く染まって見えると思うのですが,Masson染色で赤く染めているというのは合わないのではないかと考えています。type 3 collagenは染めていません。座長 森田先生,どうぞ。森田 昭和大学藤が丘の森田と申します。Col-lagenofibrotic glomerulonephropathyは わ た し たちも報告しています。Collagen fiberがタンニン酸染色と電顕で明確に見られますし,いま拝見したのは違うと思います。collagen fiberの縞が入っていない。type-3で染められなかったということなんですが,染めていればよりはっきりすると思います。座長 どうもありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。小林先生,どうぞ。
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小林 湘南鎌倉の小林です。fibrilのところをお出しになってはいましたので,そういった議論がずっと出ていますが,electron dense depositがあってC1qも染まっているということの議論が。まさにいま森田先生が言われたように,確かにfibrilというのは電顕上で見るといろいろなところで出てきてはいますから,ただサイズもそうですね,出されているわけですが,electron dense depositがたくさんあったわけですよね。それをしっかりおっしゃって,fibrilのところはむしろごく一部のところを出して,しかも計測したらそうだったと。そうですね。座長 ほかにいかがでしょうか。鎌田先生,何かコメントがございますか,いいですか。皆さんのご意見だと,やはり細線維が関連しているような腎炎,あるいはいま小林先生のおっしゃったような,やはりかなりdepositが目立ちますから,それに関連するようなもの,臨床的なデータ,腎生検のこの中のデータだけでなかなかはっきりしないということですが,それでは病理の先生からコメントをいただきたいと思います。では,重松先生,お願いします。重松 今日の症例の中でいちばん難しくて,最終的な結論がいまでも出ていないんです。ともかくどこらへんまで言えるんだろうかということを見ていただきたいと思います。
【スライド01】これは佐野君が出した弱拡大と同じです。かなり均一なパターンで同じような変化が糸球体にび慢性におこっています。
【スライド02】そしてそこには lobular patternをとって,細胞の増生もかなりあるし,それから,これはHE,色が悪いんですが,HEで赤く染まるようなmatrixの増加が,あるいは沈着物の増加がある。
【スライド03】それから量は少ないところもあるんだけれども,loopに沿って内皮下にwire loop様のdepositがある。それからmesangiumのほうにもdepositがある。それからmatrixもやや増えています。
【スライド04】先ほど佐野君が出しましたが非
常に強いwire loop病変で,初めはwire loopから進んだんでしょうが,どんどんどんどん沈着していって,内腔がうんと狭くなってしまっています。かなりすごいdeposition diseaseであるということがわかります。
【スライド05】PAS染色で出てくるのが,PASで弱陽性に染まるdepositionですね。それがloopの壁,あるいはmesangiumに非常に強く沈着している。
【スライド06】PAMで見ると,PASで染まっていたPAS陽性のmaterialはPAMでは陰性ですね。基底膜はほっそりとしています。あまりmesangial interposition的なMPGN様パターンは取らずに,もっぱらPAM negativeの沈着物がいっぱい subendothelialからmesangiumに沈着しているという状態であると思います。
【スライド07】これは血管壁に何かあるかなと,ループスアンチユアグランドみたいなものが関係しているのかもしれないと思ったんですが,どうもそういう血栓様の変化はないと思います。
【スライド08】ここでも染み込みが強いところがありますが,血管に病変の起源を求めるのは無理だと思います。
【スライド09】電顕的にこのdepositionなんですが,ここでは基底膜の下はあまりありません。ここはmesangiumが主体ですね。
【スライド10】遊走細胞も入っています。それからここでは非常に強いwire loop様の subendo-thelial deposit。 そ れ か らmesangiumのdeposit。とにかくすごいdeposition diseaseであるということであります。
【スライド11】これはどうしても内皮沈着物のパターンを見る必要があると思って拡大してある写真をずっと見たわけです。こういう輪切りの構造は普通の immune depositでもよく見られる変化ですね。何か筒みたいなものがたくさん見えてくると,これは immunotactoidとか,fibrillaryのdeposit disease,そういうものを考えなくてはならない。
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【スライド12】拡大すれば構造がよくわかるというものでもなくて,はたと困りました。
【スライド13】どんどん拡大を上げているとだんだんわからなくなってしまうんですね。
【スライド14】蛍光抗体法の写真ですが,わたしたちに送られてきた写真では,やはり IgGはほぼ陰性,少しかぶっていますが,IgMもそうだし,IgAなんかはむしろ係蹄壁なんかが染まっているんですね。fibrinogen,これはどういうわけか,かなり強く見えました。
【スライド15】またC3が全く染まらないということで,MPGNとか loops lupusなんかを考える時にC3陰性というのでは。MPGNは除外しないといけないということですね。C1qは確かにこの三つの糸球体がありますが,みんな同じパターンできれいに,しかもsubendothelial depositを思わせるところにきれいに染まっています。だから,このC1qは内皮下のdepositionの部分に有意にあるということが言えると思いました。 ということで,ディスカッションに出てきましたようにC1q nephronathyにするか,immuno-tactoid-glomerulinathy,fibrillary deposit diseaseにするか,どっちかに入るものだと思うんです。C1q nephronathyというのは記載をみると,こんなに立派なdiffuseにdepositがC1qに染まるという記載はないし,だいたいFGS的な病変を取るか,マイナーか,たまには増殖性の lupusまがいの腎炎になるということが書いてあるんです。そうすると,κ,λが陰性だということなんですが,佐野君が見つけられた11ないし16nmの線維様の構造が一部では見られるということから言うと,やっぱりfibrillary,あるいは immunotactoid nephropathyの一つではないかと思いました。山口 この症例,鎌田先生にfibronectinを染めるように言ったのは私なので,皆さんの意見をどうやってfibronectinに持ってくるかというのが私の仕事みたいになってしまうのです。
【スライド01】弱拡では尿細管間質病変は軽度
の線維化があります。【スライド02】糸球体の硬化像があり,今回の糸球体病変とはおそらく関係がない。糸球体が同じような顔つきをしている。
【スライド03】内皮下からmesangiumにかけて,び慢性に沈着が進行して,細胞反応や炎症反応に乏しいのがこの症例の特徴でしょう。
【スライド04】PASに陽性で,糸球体になじみのいい物質が沈着しているとも考えられるわけで,mesangial interpositionとか基底膜や内皮の反応とかが必ず起きてくる。血管腔が狭まって徐々に内腔が狭くなってきている。軽いマクロファージ系の細胞が入り込んできている。
【スライド05】Wire loop様病変は,係蹄壁に沿って出てくる場合はSLE以外だと,light chain de-position diseaseとfibronectin glomerulopathyぐ らいしか経験にない。
【スライド06】部分的ですが,eosinoが出ている。これは直接関係ないだろうと思います。
【スライド07】動脈は内膜の肥厚があって,hyalinosisが年齢のわりにはちょっと目立つ。
【スライド08】Mを陽性に取って,あとはネガティブです。mesangiumから loopにかけてです。
【スライド09】C4が弱陽性で,C1qがび慢性で沈着様のものとの一致が見られる。ただ,pe-ripheralで染み込みでもいいのかなと見えないことはない。fibronectinも強陽性に出ているんですが,染み込みでも解釈できる。
【スライド10】電子顕微鏡は内皮下からmesan-giumにかけてmassiveな沈着が起きている。おもしろいのは内皮細胞の fenestrationが保たれている。内皮の腫大とかの反応がない。mesan-giumにたまって外にはき出せませんと,macro-phageとかmatrixが反応して,ある程度増えてくる。ただ内皮の反応はほとんどない。
【スライド11】普通,Wire loopですとhomoge-neousで lucentなエリアが散在性に抜けて見えるのはありません。fibronectinのときには lucentなところが混ざり合うのが特徴でありますし,fibrillaryな structureも部分的には取ってくる記
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載がある。【スライド12】fibronectinの陽性所見があり,やはりfibronectin関連糸球体症で,二次的に糸球体の血管腔が狭くなってきた影響も少し出ていると思います。
【スライド13】調べてみますと,普通はfibro-nectinの場合は,ほかの immunoglobulinと補体系が全くネガティブで,C1qとか補体系の弱陽性のもあるという記載があります。ほかの im-munoglobulinも少し弱陽性のもある。C1qとかfibrinogenを染み込みと見るかどうかが議論になると思います。以上です。座長 お二人の先生から非常に貴重なご意見をいただきましたが,何かご意見,ご質問がございますでしょうか。佐野先生,何か。佐野 fibronectinの染色で山口先生から細胞性と液性のものと二つあるので,液性のものをということだったんですが,一応,今回の染色は手元にあった抗体を使ったのですが,両方を認識する抗体だったようです。その場合はもう一度,液性を認識するもので染めて確認をしたほうがよろしいのでしょうか。山口 そう思います。座長 ほかに皆さんからいかがでしょうか。重松先生も immunotactoid glomerulopathyの何か異型みたいなもので,山口先生はfibronectin腎症でよいのではないかということですが,よろしいでしょうか。はい,どうぞ。小林 あけぼの病院の小林でございます。佐野先生から組織所見を見させていただいているんですが,重松先生のfibrillary glomerulopathyのほうに持っていくにしては,少し先ほどからのほかの先生のご意見のようにfibrillaryというのがあまりにも少なすぎるのではないかという感じがするんですね。明らかにSLEとか,あるいは膜性腎症と同じような,いわゆる immune depositが主体の沈着物ではないかというふうにも思うものですから,その点がどうか。 我々も2例ぐらいしか知らないんですが,fi-brillary glomerulopathyの場合は基本的にはやは
り増殖性糸球体腎炎が主体だろうと思うんですね。山口先生のサジェスチョンでもって佐野先生がfibronectinを染めたんですが,ここで見るのと少し違いまして,実際にfibronectinが蛍光抗体上,陽性であるという,その所見は各係蹄のほんの一部でしかないんですね。例えば光顕でも電顕でも見られるように,massiveな沈着物に相当するような局在というのは1回だけの染色かもしれませんが,fibronectinからは見られない。ですからどちらの方向に持っていくにしても,これは無理があるのではないかなと思います。確かにC1qがあれだけ沈着が非常に明確についているものですから,いままでの多くのC1q nephropathyとは違うと思いますが,やはりC1q nephropathyの一つのバリアントというふうに持っていったほうが組織所見そのものが素直ではないかなと。あるいは,それを使わないとするならば,やはり全くレアなケースとして採用したほうが素直ではないかなと。あまりいままでのいくつかの疾患にあえて結びつけるということは,いろいろな意味で所見が弱いのではないかなと思ったりしたものですから。座長 はい,どうぞ。北澤 横浜市立市民病院腎臓内科の北澤ですが,僕も以前fibronectinを IgA腎症等各種腎炎で染めたことがあるんですけども,fibronectinはmesangiumに陽性に染色される場合が多いと思います。それでいま小林先生がおっしゃった よ う に,fibronectinのdistributionが 内 皮 下depositに一致しなければあまり取らないほうがいいと思います。それから immunotactoid glomerulopathyとかfibrillary glomerulopathyもそうなんですが,けっこう僕の経験した症例では線維がdepositの中にはっきり認められ,これは異常だというのがわかりました。ですから僕は小林先生のご意見に賛同しますね。座長 山口先生のC1qとfibrinogenの沈着が染み込みではないかとおっしゃいましたが,先生はいかがですか,その点は。北澤 どうですかね,あれはやっぱり陽性なの
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ではないかと思うんですが,わかりません。座長 ほかにいかがでしょうか。C1qの沈着がWire loopのところに一致しているということもありますし,確かにfibronectinの陽性部位は若干違うのかなと思いましたので,今日は結論はなかなか出ないと思うんですが,また少し検討を重ねてぜひまたご報告をしていただきたいと思います。では佐野先生,どうもありがとうございました。
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