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平成 29 年度 産業経済研究委託事業 職務の明確化とそれを前提とした公正な評価手法の 導入状況に関する調査 (職務・役割ベースから見る 日本型人材マネジメントの課題と展望 及びベストプラクティス) 【報告書】 平成 30 2 28 受託事業者名: マーサージャパン

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平成 29 年度 産業経済研究委託事業

職務の明確化とそれを前提とした公正な評価手法の

導入状況に関する調査

(職務・役割ベースから見る

日本型人材マネジメントの課題と展望

及びベストプラクティス)

【報告書】

平成 30 年 2 月 28 日

受託事業者名: マーサージャパン

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1

目次

0. 序論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3「生え抜き中心」の日系大手企業

日本型人材マネジメントの持続可能性

本調査の狙い

1. 役割・職務に基づく人材マネジメントに関する実態調査:アンケート ・・・・・・・・ 5アンケート調査実施概要および参加企業プロファイル

日系企業の半数以上は役割・職務をベースとした人事制度を導入

役割・職務ベースの人事制度を導入する日系企業は 2005 年以降増加傾向

導入理由は日系企業が内部公平性、外資系企業は外部競争力を意識

役割・職務ベースの制度への移行検討は上位階層から

制度導入のメリットは年功序列の是正

制度導入のデメリットは限定的

役割・職務ベース導入時の留意点は明確化による納得性確保

雇用区分別採用の日系企業と職種別採用の外資系企業

職種横断的異動をさせる日系企業と同一職種・類似職種に異動させる外資系企業

日系企業は低く外資系企業は高い自発的離職率と中途採用率

退職一時金・年金は功労的な報酬という位置づけ

2. 役割・職務ベースの人材マネジメントに関する実態調査:ヒアリング ・・・・・・・・32ヒアリング調査概要および全体の傾向

自社の課題により異なる導入の背景・目的

職能的色彩も一部に残る日系企業の等級制度

報酬水準の設定、レンジの重複幅の設定においても日系/外資系企業で異なる意図

評価制度において MBO とコンピテンシーの併用が一般的な日系企業、“ノーレーテ

ィング” という評価制度が進む外資系企業

移行期間を設けることで報酬水準の激変緩和を期する日系企業

大手日系企業では新卒一括採用、組織横断異動の前提が課題認識にも影響

人事機能が中央集権的な日系企業、権限委譲型の外資系企業

まとめ並びに今後の取り組み・展望

3. 実態調査結果からの示唆 ~主として日系企業・外資系企業の比較を通じて~ ・・・・40<日系企業と外資系企業の特徴>

日系企業と外資系企業のマネジメントの違い

日系企業と外資系企業のマネジメントの基本的な差異

参考:国外における外資系企業の人材マネジメントポリシー

成長率と人材マネジメントの関係

<人材マネジメントの基本的な考え方と人事制度の骨格>

日系企業の内部公平性重視

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2

外資系企業の外部競争力重視

日系企業と外資系企業のその他の違い

まとめ

<役割・職務の定義とその活用>

役割記述書(JD)の導入状況

役割定義の目的・役割評価のアプローチ

<その他の仕組みの比較>

共通採用の日系企業・職種別が主流の外資系企業

階層別研修に注力する日系企業

職種横断異動が相対的に多い日系企業

大差ない退職金・年金の支給理由

4. 日系企業の人材マネジメントの課題と今後の展望 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64<日本型人材マネジメントの形成・変遷と影響>

日本型人材マネジメント形成の背景

日本型人材マネジメントの変遷

日本型人材マネジメントの影響

<日本型人材マネジメントの課題>

企業の競争力確保という観点からの課題

社会の生産性という観点からの課題

個人のキャリア観点からの課題

日本型人材マネジメントの「再生産性」

<今後の方向性>

個別企業にとっての方向性

政策面での対応可能性

ベストプラクティスを通じたラーニング

5. 実態調査から示唆されたベストプラクティス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78ベストプラクティスの類型

①-A : 内部公平性重視の役割・職務主義

①-B : バランス型(内部公平性・外部競争力の両立)の役割・職務主義

②-A : グローバル展開および外部競争力重視の役割・職務主義

②-B : 日本国内での外部競争力重視の役割・職務主義

添付資料 1 アンケート調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・97添付資料 2 ヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・106

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3

0. 序論

「生え抜き中心」の日系大手企業

「長期雇用、年功序列、新卒一括採用」が特徴のコミュニティベースの人材マネジメント、いわ

ゆる日本型人材マネジメントは、長年にわたり日系企業の組織運営・人材マネジメントの基本

となっており、現在でも大手企業を中心に一般的に普及している。我が国大手企業のトップの

うち異なる企業での経験を持たない CEO は 7 割近くと諸外国と比べ群を抜いて高く、大手企

業を中心に新卒文化が根強い我が国の企業風土を反映している。

図表 0-1: 異なる企業での経験がない CEO の割合(本社所在地域別、2016)

出所:Strategy & 調査(2016)

日本型人材マネジメントの持続可能性

日本型人材マネジメントは企業にとっては人材育成コストの低減、就業者個人にとっては生

活の安定確保などの重要なメリットがある一方、一企業が長期にわたって雇用を事実上保障

することを前提に個人に対して「企業特殊スキル」の積極的習得を促すモデルであることから、

そのモデルが成立するためには事業環境の安定、組織の長期的な存続が極めて重要となる。

しかしながら近年、様々な IT テクノロジーの進展を起点にあらゆる産業で短期間に破壊的な

技術的進展・イノベーションが生じ、ビジネスモデルの「賞味期限」が短期化していく中、安定

的な事業環境を前提とする日本型人材マネジメントが成立しにくい産業構造が様々な業界で

支配的になりつつあると想定され、我が国の大手企業が今後競争優位を維持していく上で求

められる人材育成・人材管理のあり方は大きな変化を迫られていると考えられる。

また、これは同時に個人にとっても 20 代で入社した企業に 30~40 年以上安定的に勤めあ

げられる可能性の低下を示唆している。企業の人材マネジメントのあり方が問われると同時

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に、個人が持続的に被雇用者としてのエンプロイアビリティを維持していく上でのキャリア形

成のあり方も大きな変化を迫られていると言える。

本調査の狙い

本調査はこのような問題意識に基づき、現在の日系企業、外資系企業の人材マネジメント実

態・今後目指す方向性に関するアンケート&ヒアリング調査を通じて、我が国における今後の

人材マネジメントのあり方を検討することを目的としている。

構成としては大きく、アンケート及びヒアリング結果を通じて得られた実態調査結果のまとめ、

それを踏まえた今後のあるべき人材マネジメントに関する提言、およびいくつかのベストプラ

クティスの提示の 3 部構成となっている。

調査に当たっては、既に外資系企業の多くが導入し、日系企業にとっても人材マネジメントの

有力な方向性と考えられる役割・職務に基づく人材マネジメントの導入状況やその有効性・留

意点を明らかにすることを主眼としている。役割・職務に基づく人材マネジメントの特徴や類

型については今後詳述するが、本レポートにおいては、従来の「職能資格制度」に基づくマネ

ジメントに比べて、より職務毎の期待役割・ミッションが明確化され、その時々の役割・貢献に

応じた報酬という考え方を重視した人材マネジメントの考え方全般と定義することとしたい。こ

のような人材マネジメントの考え方は近年日系企業にも普及しつつあるが、その仕組みや運

用実態は業界・個別企業毎に様々であるため、今回改めて実態調査を行うことは今後の日

系企業の人材マネジメント検討に当たっての参考となると考えている。

労働市場全体で支配的な慣行に対する変革は個別企業の努力だけでは対応が難しい側面

もあると考えられる。このため、経済成長を加速するような「健全な人材流動化」を後押しする

政策面での対応についても、可能な範囲で実態調査に基づいた示唆を初期的に整理するこ

とも狙いとしている。各業界・個別企業の置かれた状況、経営方針によってとるべき人材マネ

ジメント施策は様々であり、生き残りをかけた変革・競争力強化は一義的には個別企業の経

営努力に帰するべきである一方、我が国企業の人材マネジメントのあり方には共通性が広く

みられるため、今後の日系企業の競争力強化を支えるための政策的対応可能性について検

討する事には、一定の意義があると考えられる。

本調査が、我が国の企業の競争力強化につながる適切な人材マネジメントシステムの構築・

我が国における雇用政策や人材マネジメントに関する施策検討の一助となり、ひいては各個

人の自律的・持続可能なキャリア形成促進につながれば望外の幸いである。

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1. 役割・職務に基づく人材マネジメントに関する実態調査:アンケート

アンケート調査実施概要および参加企業プロファイル

我が国で経済活動を行う日系企業・外資系企業がどのようなポリシー・基準に基づき人材マ

ネジメント行っているかの実態を把握するため、2017 年 10 月 10 日から 11 月 3 日の間、ウ

ェブアンケート形式で調査を実施した。調査には全 242 社が参加しており、参加企業を資本

別に見ると、6 割強(156/242 社、64%)が日系企業(資本の 50%以上が日本資本)、4 割弱

(86/242 社、36%)が外資系企業(資本の 50%以上が外国資本)であった。また、業種別では

製造業が約 6 割(142/242 社、59%)、非製造業が約 4 割(100/242 社、41%)であった。

当該アンケートは大手・中堅の日系・外資系企業を中心に約 2500 社に配信されたアンケート

の集計結果であり、我が国の企業群全体の母集団と比べると一定の偏りがある点は留意が

必要な一方、業種に大きな偏りはなく十分な回答数が得られていることから、我が国における

人材マネジメントの実態把握をする上では十分なデータが確保できていると考えている。

図表 1-1: アンケート参加企業プロファイル

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

156

64%

86

36%

資本別

日系企業 外資系企業

n=242

142

59%

100

41%

製造・非製造業別

製造業 非製造業

n=242

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6

図表 1-2: 業種別参加企業数

業種 日系企業 外資系

企業

日系・

外資系計

鉱業 2 0 2

建設業 2 1 3

食料品、飲料・たばこ・飼料製造業 5 2 7

繊維工業 0 0 0

木材・木製品、パルプ・紙・紙加工品製造業 0 0 0

化学工業製品・医薬品・化粧品 16 13 29

石油製品・石炭製品製造業 0 1 1

窯業・土石製品製造業 3 0 3

鉄鋼業 3 0 3

非鉄金属製造業 5 0 5

金属製品製造業 4 0 4

機械製造業(汎用機械器具、生産用機械器具、業

務用機械器具)

10 6 16

電気機械器具製造業 20 1 21

情報通信機械器具、電子部品・デバイス・電子回

路製造業

5 2 7

輸送機械器具製造業 17 6 23

その他の製造業 11 10 21

電気・ガス・熱供給・水道業 1 0 1

情報通信業 4 5 9

情報サービス業 8 6 14

運輸業 8 2 10

卸売業、小売業 25 26 51

金融業、保険業 2 1 3

不動産業 1 0 1

物品賃貸業 1 0 1

宿泊業、飲料サービス業 0 0 0

教育、学習支援、医療、福祉、複合サービス業 1 1 2

サービス業 2 3 5

計 (社数) 156 86 242

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

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日系企業の半数以上は役割・職務をベースとした人事制度を導入

人事制度のベースとなる考え方はさまざまだが、管理職、総合職系非管理職、一般事務職系

非管理職の3つの階層について調査したところ、日系企業の半数以上(86/156 社、55%)、外

資系企業では約 9 割(77/86 社、90%)の企業が、いずれかの階層において役割・職務に基づ

く等級制度や報酬制度を導入していた1。日系企業について企業プロファイル別に見ると、日

本国内の正社員数別では、比較的回答数が少ない「25,000 人以上 50,000 人未満」を除き、

企業規模によらず半数以上の企業が役割・職務等級を導入しており、中でも「500 人以上

1,000 人未満」(16/22 社、73%)や「50,000 人以上」(6/8 社、75%)では導入率が 7 割を超えた。

業種別では、電気機械器具製造業(14/20 社、70%)、卸売業・小売業(16/25 社、64%)、化学

工業製品・医薬品・化粧品(10/16 社、63%)の導入率が高く、輸送機械器具製造業(5/17 社、

29%)は導入率が低い(※10 社以上の回答が集まった業種を比較)。 製造・非製造業別では、

それぞれ 53%(54/101 社)、58%(32/55 社)と導入率に大きな差は見られなかった。

図表 1-3: 人事制度のベースとなる考え方:資本別

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

1 役割・職務ベースにはアンケート調査で「役割・職務に基づき社内等級を設定」または「役

割・職務に基づく社内等級を設定しているが、一部能力・スキルに応じた手当等を付与」と回

答した企業を含めた。同様に、職能資格ベースには「各人の能力・スキルに基づき社内等級

を設定」および「各人の能力・スキルに基づく社内等級を設定しているが、一部役位・職務に

応じた手当等を付与」と回答した企業を含めた。

55%

90%

37%

7%

8%

3%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

日系企業

外資系企業

役割・職務あり

職能資格のみ

その他

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

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8

図表 1-4: 人事制度のベースとなる考え方:日本における従業員数別(日系企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

図表 1-5: 人事制度のベースとなる考え方:業種別(日系企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

50%

73%

51%

50%

56%

40%

75%

34%

18%

43%

50%

44%

60%

13%

16%

9%

6%

0%

0%

0%

13%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

500人未満

500人以上 1,000人未満

1,000人以上 5,000人未満

5,000人以上 10,000人未満

10,000人以上 25,000人未満

25,000人以上 50,000人未満

50,000人以上

役割・職務あり

職能資格のみ

その他

n=156

70%

64%

63%

55%

40%

29%

20%

28%

38%

45%

50%

71%

10%

8%

0%

0%

10%

0%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

電気機械器具製造業

卸売業、小売業

化学工業製品・医薬品・化粧品

その他の製造業

機械製造業(汎用機械器具、生産用

機械器具、業務用機械器具)

輸送機械器具製造業

役割・職務あり

職能資格のみ

その他

n=156

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図表 1-6: 人事制度のベースとなる考え方:製造業・非製造業別(日系企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

階層別の導入状況を見ると、外資系企業はすべての階層で導入率が 8 割を超えている。対

して日系企業は、管理職では導入率が 53%と過半数を超えたものの、総合職系非管理職で

は 34%、一般事務職系非管理職では 29%と階層が下がるにつれて導入率が下がり、代わっ

て個人の能力・スキルに基づいた制度(職能資格制度)を使用している企業が 5 割以上を占

めており、管理職を対象に役割・職務に基づく制度導入が進んでいる傾向が明らかになった。

図表 1-7: 人事制度のベースとなる考え方:階層別(日系企業 vs 外資系企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

53%

58%

42%

29%

5%

13%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

製造業

非製造業

役割・職務あり

職能資格のみ

その他

n=156

53%

88%

34%

85%

29%

80%

44%

8%

62%

12%

56%

12%

3%

3%

4%

3%

15%

8%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

日系企業

外資系企業

日系企業

外資系企業

日系企業

外資系企業

管理職

非管理職

総合職系

非管

理職

一般

事務

職系

役割・職務

職能資格

その他

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

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役割・職務ベースの人事制度を導入する日系企業は 2005 年以降増加傾向

日系企業が現行人事制度を導入した時期と、その制度の基盤となる考え方(役割・職務、職

能資格)の関係を見ると、職能資格に基づく制度はその半数以上が 2004 年以前に導入され、

2000 年以前に導入した企業も 3 割(18/58 社、31%)あった。一方、役割・職務に基づく制度は

その半数以上が 2010 年以降に導入されており、2005 年以降は役割・職務ベースの人事制

度を導入する企業が、職能資格を上回っている。

図表 1-8: 現行制度を導入した時期

(役割・職務または職能資格ベースの人事制度を導入している日系企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

導入理由は日系企業が内部公平性、外資系企業は外部競争力を意識

役割・職務に基づく制度を導入した理由として、日系企業は「年齢や経験を問わない 適な

人材任用」(60/86 社、70%) や「年功賃金による過払い是正・給与水準の見直し」(49/86 社、

57%)など、従来の日本的雇用慣行により引き起こされる企業内部の課題解決を目的として挙

げる企業が多かった。一方、外資系企業は「報酬水準を労働市場の価値・相場に準拠した適

正水準とし競争力を担保するため」(58/77 社、75%)、「グループ内で人材マネジメントの共通

基盤を整備するため」(43/77 社、56%)、「年齢や経験を問わない 適な人材任用」(42/77 社、

55%)、「労働市場との整合を図り、外部優秀人材を採用しやすい環境を整えるため」(40/77

社、52%)など、労働市場での競争力や優秀人材の確保・配置を意識した回答が多く、日系企

業との視点の差が浮き彫りになった。このような目的の差は自社の報酬水準を外部比較する

市場ベンチマークの利用状況に顕著に表れ、外資系企業の 7 割が毎年ベンチマークを実施

16

29

17

12

12

6

12

9

13

18

0 5 10 15 20 25 30 35

2015年~2017年

2010年~2014年

2005年~2009年

2000年~2004年

2000年以前

役割・職務あり

職能資格のみ

(企業数)

役割・職務あり n=86

職能資格のみ n=58

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しているのに対し、日系企業の半数は不定期に実施、まったく実施しない日系企業も 2 割を

超える結果となった。上記の目的意識の差は職務記述書の整備状況においても表れている。

日系企業では「職掌/階層/等級ごとに役割やミッションの定義を整備している」が約半数とな

っており、導入理由については、「職務の明確化を通して業務量や等級管理等の適正化を図

るため」(38/57 社、67%)という内部的な課題解決が も多いのに対し、外資系企業では「個

別職務ごとに職務内容の詳細を定義した職務記述書を整備している」が約半数で、導入理

由は「中途採用やローテーションに際しての対象となる人材要件の明確化のため」(38/55 社、

69%)、「グループ内での人材マネジメントにおいて、配置や等級管理などの共通基盤として用

いるため」(31/55 社、56%)、「報酬水準の適正化を実現する際に、より精緻な市場データと

のマッチングを行う環境を整えるため」(28/55 社、51%)となっている。

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図表 1-9: 役割・職務ベースの人事制度を導入した理由

(役割・職務をベースとする企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

70%

57%

37%

33%

28%

21%

17%

8%

6%

5%

55%

16%

75%

21%

8%

52%

56%

6%

5%

4%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

年齢や経験を問わず 適な人材を

任用するため

年功賃金による過払い是正を含む、

給与水準の見直しのため

報酬水準につき労働市場の価値・相

場に準拠した適正水準とし競争力を

確保するため

職務の明確化による効率的な働き方

を促進するため

早期選抜、リーダー層の計画的育成

のための環境を整えるため

労働市場との整合を図り、外部から優

秀人材を採用しやすい環境を整える

ため

グループ内(国内外いずれも)で人材

マネジメントの共通的な基盤・プラット

フォームを整備するため

業務の明確化による労働負荷の抑制

とそれに伴う働き方の変革を推進する

ため

同一労働同一賃金を徹底するため

その他

日系企業

外資系企業

日系企業 n=86

外資系企業 n=77

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図表 1-10: 自社報酬水準の市場ベンチマーク頻度

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

図表 1-11: 職務記述書の整備状況

(役割・職務をベースとする企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

18%

6%

47%

8%

21%

67%

7%

19%

3%

3%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

毎年

2~3年に1回程度

頻度は決めておらず

必要に応じて

報酬制度時実施

今後の予定はない

行なわない

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

14%

52%

22%

1%

10%

51%

21%

22%

0%

6%

0% 20% 40% 60%

個別職務ごとに職務内容の

詳細を定義した職務記述書を

整備している

職掌/階層/等級ごとに役割や

ミッションの定義を整備している

あまり細かい定義等は整備せず、

ゆるやかな役割の範囲等を

設定している

その他

明文化された職務(役割)の定義

は作成していない

日系企業

外資系企業

日系企業 n=86

外資系企業 n=77

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14

図表 1-12: 職務記述書の導入目的|複数回答

(役割・職務をベースとする企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

役割・職務ベースの制度への移行検討は上位階層から

人材マネジメントの基盤となる制度を個人の能力・スキルから役割・職務に基づくものに移行

する企業がある中、従来型の職能資格制度やその他の考え方に基づき人材マネジメントを

行う日系企業も多くみられる。これらの企業に対し、役割・職務ベースの仕組みへの移行可

能性を確認したところ、制度変更を検討中と回答した企業は、2-3 年を目途および時期未定

を併せて、管理職が 51%(37/73 社)、非管理職の総合職系、一般事務職系がそれぞれ 43%

(44/103 社)、35%(39/110 社)と、上位階層ほど役割・職務に基づく人事制度導入の検討が

進んでいることがうかがわれた。

67%

39%

32%

30%

21%

5%

51%

56%

36%

69%

51%

0%

0% 25% 50% 75% 100%

職務の明確化を通して業務量や

等級管理等の適正化を図るため

グループ内での人材マネジメント

において、配置や等級管理などの

共通基盤として用いるため

後継者育成・管理において対象と

なる候補者の人材要件の

明確化のため

中途採用やローテーションに際し

ての対象となる人材要件の

明確化のため

報酬水準の適正化を実現する際

に、より精緻な市場データとの

マッチングを行う環境を整えるため

その他

日系企業

外資系企業

日系企業 n=57

外資系企業 n=55

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15

図表 1-13: 役割・職務ベースの人事制度導入検討状況

(役割・職務以外をベースとする日系企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

役割・職務ベースの仕組みを導入しない理由は「現行制度に満足」・「人材育成への懸念」

半数近い企業が何らかの形で今後役割・職務ベースの人事制度導入を検討している一方、

検討する予定が無いと回答した企業も半数近く存在する。これらの企業はその理由に、「現

在の制度で十分であり、必要性を感じない」(23/62 社、37%)、「そもそも検討の俎上に挙がっ

たことがない」(11/62 社、18%)など現行制度に対する課題感・問題意識が特段見られない他、

「経験等に基づいた個々の能力の伸長が重要であると考えるため」(34/62 社、34%)や「ジョ

ブローテーションが困難になりジェネラリスト人材を育成しにくくなる」(14/62 社、23%)など人

材育成面での問題を挙げているケースが多く見受けられる。

40%

16%

34%

10%

50%

11%

32%

7%

50%

9%

26%

15%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

当面検討する予定はない

2-3年程度を目途に

導入する方向で検討中

導入時期は未定であるが、

検討は始めている

その他

管理職

非管理職

(総合職系)

非管理職

(一般事務職系)

管理職 n=73

総合職系 n=103

一般事務職系 n=110

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16

図表 1-14: 役割・職務ベースの人事制度を導入しない理由|複数回答

(役割・職務以外をベースとする日系企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

制度導入のメリットは年功序列の是正

役割・職務に基づく人事制度の導入効果については、日系企業・外資系企業ともに 7 割以上

が「役割・職務に応じた報酬水準の適正化をすることができた」と回答し、6 割以上が「年功に

よらない人材の抜擢、適正配置が可能になった」と回答した。その他にも日系企業では「優秀

人材のモチベーション向上に繋がった」(36/86 社、42%)、外資系企業では「外部から優秀人

材を中途採用しやすくなった」(32/77 社、42%)への回答率が高く、ここでも日系企業と外資系

企業の視点の違いが見受けられた。

37%

34%

23%

19%

18%

16%

6%

13%

0% 10% 20% 30% 40%

現在の制度で十分であると考えるため

必要性を感じないため

経験等に基づいた個々人の能力の伸長が重要

であると考えるため

ジョブローテーションが難しくなり、多領域に精通

したジェネラリスト人材を育成しにくくなるため

制度導入に係る負担が大きそうなため

(制度構築、社内説明、組合交渉、費用等含む)

そもそも検討の俎上に挙がったことがない

組織内の調和、バランスを重視しているため

社員の内部定着や内部昇進等が

重要であると考えるため

その他

n=62

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17

図表 1-15: 役割・職務ベースの人事制度を導入したことによるメリット・効果|複数回答

(役割・職務をベースとする日系企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

制度導入のデメリットは限定的

デメリット・期待通りでなかった点には、「等級管理・メンテナンスにかかる工数」(22/86 社、

26%)と言った運用・管理面での問題や、「グローバル規模での適材適所の推進が進んでいな

い」(22/86 社、26%)、「海外拠点における人事ガバナンス強化に至らなかった」(16/86 社、

19%)等、グローバル展開の難しさに関してやや多くの回答が集まったものの、突出する問題

は見られず、少数ではあるが「特にデメリットはない」と回答した企業もあった(7/86 社、8%)。

72%

60%

42%

14%

12%

8%

6%

6%

6%

3%

1%

7%

78%

62%

25%

10%

42%

12%

9%

6%

25%

8%

1%

5%

0% 50% 100%

職務・役割に応じた報酬水準の適正化

をすることができた

年功によらない人材の抜擢、適正配置

が可能になった

優秀人材のモチベーション向上に

つながった

リーダー層の選抜、育成の取組みを大

きく促進させることができた

外部から優秀人材を中途採用

しやすくなった

海外拠点における報酬ガバナンスの

強化につながった

同一労働同一賃金を促進

することができた

働き方を柔軟なものとすることができ、

業務効率性が向上した

グローバルレベルで適材適所を追求

できるようになった

職務の明確化による効率的な働き方・

勤務時間の短縮を実現できた

その他

特にない

日系企業

外資系企業

日系企業 n=86

外資系企業 n=77

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18

また、「異動・配置がやりづらくなった」と回答した企業は限定的(14/86 社、16%)で、「能力向

上に対するインセンティブが低減」(7/86 社、8% )、「キャリアに対する閉塞感が醸成された」

(5/86 社、6% )と回答する企業も少なかった。

前述の通り、役割・職務ベースの人事制度導入を検討しない企業は、その理由として「経験

等に基づいた個々の能力の伸長が重要であると考えるため」、「ジョブローテーションが困難

になりジェネラリスト人材を育成しにくくなる」など人材育成面での懸念を挙げていたが(図表

1-14 参照)、役割・職務ベースの人事制度を導入した企業において人材育成面でデメリット

が生じたと回答した企業は限定的であり、個々の成長意欲を削ぐ結果にはならないことを示

している。

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19

図表 1-16: 役割・職務ベースの人事制度を導入したことによる

デメリット・期待通りではなかった点|複数回答

(役割・職務をベースとする日系企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

26%

26%

20%

19%

19%

16%

15%

8%

8%

8%

6%

6%

9%

8%

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30%

等級の管理・メンテナンスに想定以上に

工数を要する

グローバル規模での適材適所の推進は

進んでいない

総人件費の適正化が進んでいない

技能系社員やベテラン社員のモチベーション

が低下した

海外拠点における人事ガバナンスの強化

にまでは至っていない

異動・配置がやりづらくなった

業務効率の向上や勤務時間の短縮には

繋がらなかった

業務や責任範囲に関する柔軟性が欠如した

中長期的な貢献の処遇への反映が

困難になった

能力向上に対するインセンティブが低減した

外部市場からの採用が期待したようには

進まなかった

キャリアに対する閉塞感が醸成された

その他

特にデメリットはない

n=86

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20

役割・職務ベース導入時の留意点は明確化による納得性確保

役割・職務ベースの等級制度導入に際し、報酬制度と評価制度を改定した企業はおよそ 8

割にのぼった。さらに日系企業では「人材育成の考え方や育成施策」を約 4 割の企業が挙げ

ており、優秀人材・コア人材を社内で育成する志向性が特に強い日系企業の特徴がうかがえ

た。導入時のポイント・留意点は、日系企業・外資系企業ともに半数以上が「職務の明確化・

納得性確保」、「担う役割やミッションの明確化・納得性確保」「昇格(登用)基準・プロセスの

明確化」など、役割およびプロセスの明確化と納得性の確保を重要視している。

図表 1-17: 役割・職務等級制度導入時に改定した人事制度|複数回答

(役割・職務をベースとする企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

86%

77%

36%

28%

14%

13%

13%

8%

5%

65%

81%

23%

18%

22%

22%

5%

22%

8%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

評価制度

報酬制度

人材育成の考え方や育成施策

退職金制度

人事異動の考え方やルール

後継者育成施策

(選抜、計画的配置等)

年金制度

採用の考え方

人事部門と事業部門の関係性

日系企業

外資系企業

日系企業 n=86

外資系企業 n=77

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21

図表 1-18: 役割・職務ベースの人事制度導入時のポイント・留意点|複数回答

(役割・職務をベースとする企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

雇用区分別採用の日系企業と職種別採用の外資系企業

人事制度のベースとなる考え方の違いに加え、人材の採用および配置にも日系企業と外資

系企業の差が表面化した。新卒採用においては、外資系企業が「職種別採用」(34/86 社、

40%)、「不足しているジョブを個別採用」(27/86 社、31%)するのに対し、日系企業では「職種

別採用」(57/156 社、37%)も行うものの、総合職、一般職など「雇用区分別採用」(73/156 社、

47%)や職種・雇用を定めない「一括採用」(39/156 社、25%)も行われている。日系企業を人事

制度の基盤別に見ると、役割・職務ベースの企業では「雇用区分別採用」と「職種別採用」を

行う企業の比率はほぼ同じであったが、職能資格ベースの企業では 6 割の企業が「雇用区

分別採用」を行う一方で「職種別採用」は半分の 3 割にとどまっている。

日系企業においても中途採用については、「職種別採用」(85/156 社、54%)「不足しているジ

ョブを個別採用」(82/156 社、53%)が多く、外資系企業と似た傾向になっている。

80%

57%

53%

28%

27%

23%

22%

3%

58%

60%

79%

45%

40%

25%

23%

5%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

担う役割やミッションの

明確化・納得性確保

昇格(登用)基準・プロセスの明確化

職務の明確化・納得性確保

市場動向に基づく

適切な報酬水準の設定

従前との考え方の違いに関する

丁寧な社内コミュニケーション

個人が創出すべき価値の

明確化・納得性確保

配置・異動に対する考え方の

整理と周知

その他

日系企業

外資系企業

日系企業 n=86

外資系企業 n=77

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22

図表 1-19: 新卒採用方法|複数回答

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

図表 1-20: 新卒採用方法|複数回答

(日系企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

47%

37%

6%

25%

3%

2%

2%

40%

3%

10%

31%

22%

0% 10% 20% 30% 40% 50%

雇用区分別採用

職種別採用

コース別採用

職種、雇用等の別がない一括採用

不足しているジョブについて個別採用

その他

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

38%

42%

5%

26%

2%

3%

60%

29%

7%

22%

0%

0%

0% 20% 40% 60% 80%

雇用区分別採用

職種別採用

コース別採用

職種、雇用等の別がない一括採用

不足しているジョブについて個別採用

その他

役割・職務あり

職能資格のみ

役割・職務あり n=86

職能資格のみ n=58

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23

図表 1-21: 中途採用方法|複数回答

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

職種横断的異動をさせる日系企業と同一職種・類似職種に異動させる外資系企業

さらに、管理職および総合職系非管理職の異動・配置方法でも、職種横断的な異動を行う日

系企業(管理職(94/156 社、60%)、総合職系非管理職(84/156 社、54%))と、同一職群内の

異動または異動を行わない外資系企業(管理職(40/86 社、47%)、総合職系非管理職(36/86

社、42%))と、様々な職種を経験させジェネラリストを育成する日系企業と、特定職種の専門

に育成する外資系企業と、それぞれの特徴が際立って見受けられた。このような異動・配置

の特徴を受けてか、多くの日系企業では、職種を限定しない階層別の研修が実施されている。

22%

54%

6%

1%

53%

1%

2%

49%

2%

0%

64%

0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

雇用区分別採用

職種別採用

コース別採用

職種、雇用等の別がない一括採用

不足しているジョブについて個別採用

その他

日系企業

外資系企業

日系企業

n=156

外資系企業

n=86

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24

図表 1-22: 異動・配置方法

※「同一職群内・異動なし」には「同一職群(ジョブファミリー)内で、同一職種、類似職種に異動」と「異動は原則と

して行わない(連続性のある業務での昇格のみ)」を含む

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

60%

15%

24%

1%

54%

16%

29%

1%

23%

45%

22%

10%

27%

47%

22%

5%

23%

42%

30%

5%

16%

48%

26%

10%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

職種横断的

同一職群内・異動なし

職種による

その他

職種横断的

同一職群内・異動なし

職種による

その他

職種横断的

同一職群内・異動なし

職種による

その他

管理

総合

職系

非管

理職

一般事務職系

非管理職

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

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25

図表 1-23: 実施している研修の種類

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

日系企業は低く外資系企業は高い自発的離職率と中途採用率

この採用および配置の特徴は、転職のしやすさや中途採用による外部人材の獲得状況に影

響を及ぼしていると考えられ、正社員の自発的離職率は、日系企業の 7 割が「5%未満」

(110/156 社、71%)と回答しているに対し、外資系企業では「5-10%」(35/86 社、41%)が も

多い回答数を集めた。全従業員に占める中途採用者の割合も、外資系企業の半数以上が

「80%以上」(44/86 社、51%)と回答しているのに対し、日系企業は「10%未満」と回答した企業

が も多く(48/156 社、31%)、半数以上の企業が 20%未満(81/156 社、53%)に止まり、人事

制度のベースとなる考え方(役割・職務ベース、職能資格ベース)による差も見られなかった

(図表 1-26 参照)。

90%

55%

59%

56%

37%

1%

39%

4%

62%

62%

56%

51%

7%

3%

15%

15%

0% 25% 50% 75% 100%

階層別に設計

職種別に設計

テーマ別に設計

選抜者に対して特別な選抜研修

プログラムを設計

年齢・年次別に設計

その他

キャリアステージ別に設計

特に会社が用意する

研修プログラムはない

日系企業

外資系企業

日系企業

n=156

外資系企業

n=86

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26

図表 1-24: 正社員の自発的離職率(直近 3 年間平均)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

図表 1-25: 全従業員数に占める中途採用者の割合

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

71%

17%

11%

1%

0%

40%

41%

16%

1%

2%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

5%未満

5%以上 10%未満

10%以上 20%未満

20%以上 30%未満

30%以上

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

31%

22%

26%

11%

8%

3%

13%

6%

8%

8%

14%

51%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

10%未満

10%以上 20%未満

20%以上 40%未満

40%以上 60%未満

60%以上 80%未満

80%以上

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

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27

図表 1-26: 全従業員数に占める中途採用者の割合

(日系企業)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

中途採用者の割合の違いは、経営幹部層(社外取締役を除く執行役員以上)でも同様に見ら

れ、外資系企業の半数以上が幹部層の 80%以上を外部からの人材が占めているのに対し、

日系企業の半数は 10%未満と回答しており、0%と回答した企業も 22 社(22/156 社、14%)に上

り、外部人材の登用は限定的である傾向がうかがわれた。人材の多様性の面でも、経営幹

部層に占める女性や外国人の割合を 0%と回答した企業は、日系企業ではそれぞれ 62%

(96/156 社)、63%(99/156 社)あり、外資系企業の 28%(24/86 社)、27%(23/86 社)と比較し

て低い割合に止まっている。

35%

17%

28%

9%

7%

3%

28%

28%

26%

12%

7%

0%

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40%

10%未満

10%以上 20%未満

20%以上 40%未満

40%以上 60%未満

60%以上 80%未満

80%以上

役割・職務あり

職能資格のみ

役割・職務あり n=86

職能資格のみ n=58

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28

図表 1-27: 幹部層に占める割合:中途採用者

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

図表 1-28: 幹部層に占める割合:女性

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

14%

37%

15%

10%

9%

6%

9%

6%

7%

6%

6%

3%

9%

63%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

0%

0%以上 10%未満

10%以上 20%未満

20%以上 40%未満

40%以上 60%未満

60%以上 80%未満

80%以上

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

62%

31%

5%

2%

0%

0%

0%

28%

40%

16%

13%

1%

1%

1%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

0%

0%以上 10%未満

10%以上 20%未満

20%以上 40%未満

40%以上 60%未満

60%以上 80%未満

80%以上

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

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29

図表 1-29: 幹部層に占める割合:外国人

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

退職一時金・年金は功労的な報酬という位置づけ

退職一時金制度はポイント制を採用する企業が も多く、日系企業で約 7 割(107/156 社、

69%)、外資系企業では約 3 割に上った。外資系企業では 2 割(20/86 社、23%)が制度を持た

ないと回答している。退職年金制度は、日系企業では確定給付型年金と確定拠出年金を併

用する企業が も多く 4 割(65/156 社、42%)、外資系企業の 頻値は「確定拠出型年金の

み」(31/86 社、36%)であった。

退職一時金および年金制度の主な目的は、日系・外資ともに「従業員の引きとめ」と「老後の

生活保障」と回答する企業が多く、功労的な報酬の意味合いが強い点には特段相違がなか

った。

63%

32%

3%

1%

1%

0%

0%

27%

29%

14%

8%

14%

2%

6%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

0%

0%以上 10%未満

10%以上 20%未満

20%以上 40%未満

40%以上 60%未満

60%以上 80%未満

80%以上

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

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30

図表 1-30: 現在採用している退職(一時)金制度

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

図表 1-31: 現在採用している年金制度

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

69%

12%

4%

6%

10%

34%

19%

5%

20%

23%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

ポイント制

終給与比例方式

定額方式

その他

退職(一時)金制度はない

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

42%

24%

24%

10%

30%

36%

19%

15%

0% 10% 20% 30% 40% 50%

確定給付型年金と

確定拠出型年金の併用

確定拠出型年金のみ

確定給付型年金のみ

厚生年金のみ

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

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31

図表 1-32: 退職一時金・年金制度の目的|複数回答

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

83%

57%

14%

12%

5%

67%

52%

24%

4%

6%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%

老後の生活保障

従業員の引きとめ

(長期勤続のインセンティブ)

採用力強化

昇格へのモチベーション

その他

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

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32

2. 役割・職務ベースの人材マネジメントに関する実態調査:ヒアリング

ヒアリング調査概要および全体の傾向

本調査では前章のアンケートに加え、日系、外資系企業 19 社を訪問し、人材マネジメント実

態に関する詳細なヒアリングを実施した。本ヒアリングは、何らかの形で既に役割・職務ベー

スの人事制度を導入している企業を対象に、各社の人事制度(等級体系/評価制度/報酬体

系/採用手法/配置等)の施策内容および現行制度の導入に至った背景やその当時の課題

認識、導入時の移行対応や留意したポイント等を中心に具体的な情報を収集し、アンケート

調査だけでは収集が難しい各企業の現行人事制度の背景にある考え方や制度設計上の特

徴を立体的・統合的に把握することを目的に実施したものである。

インタビュー対象企業の多様性を担保するため、日系企業については従業員数 100 名-

1,000 名以内の相対的に規模の小さい企業から 10 万名(連結ベース)を超える大企業 10 数

社を対象とし、業種も製造業、サービス業いずれも網羅している。加えて、日系企業との比較

の観点から外資系企業にもヒアリングを行ったが、こちらは欧米を母国籍とする大手 IT 企

業・製造業の日本現地法人数社を対象に実施された。ここでは全体から得られた示唆を中心

に記載するため、各社のヒアリング結果の詳細は別紙を参照されたい。

本インタビューによると、多くの場合、日系企業における役割・職務ベースの人材マネジメント

の導入の背景は、事業改革局面において顕在化した職能資格制度による役割と処遇(報酬)

水準の不一致の是正と人件費の適正再配分、或いは年功賃金の過払い是正や年齢や経験

を問わず 適な人材を任用した際の役割や職責に見合った処遇という内部的公平性の確保

の実現が主流と言える。

このような導入背景を反映し、役割・職務に基づく人事制度を導入した後の報酬水準設定に

関しては、外部競争力の確保よりも内部公平性の担保を重視する傾向にある。

また、ヒアリング対象企業の多くで会社主導の異動やローテーションが一般的に行われるた

め、役割・職務ベースでの等級制度や報酬制度の設計に際し、等級数や報酬レンジの設定

により下位等級への異動や報酬水準の減額をできるだけ回避する工夫を講じている。

自社の課題により異なる導入の背景・目的

日系企業における役割・職務・職務役割ベースの人材マネジメント制度の導入の背景は、各

社の置かれた状況により異なるが、大別して次のような目的、企図により導入している。

① 事業改革局面において顕在化した、職能資格制度による役割と処遇(報酬)水準の

不一致の是正、人件費の適正再配分

② 年功制度における過払いの是正と、役割・職責に見合った処遇の実現(内部公平性

の確保)

③ 市場価値に基づく処遇による外部人材の獲得と社内の優秀人材に対する引きとめ

④ 事業のグローバル化促進のためのグローバル共通の人材マネジメント基盤の構築

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33

大手企業においては、職能資格制度における報酬水準と実際に担っている役割や職責との

アンバランス、長年にわたる年功序列的な人事制度運用による優秀人材の抜擢の困難さ等、

職能をベースとした人事制度の行き詰まりを脱却し、適材適所の人材活用や報酬水準の適

正化を図り企業競争力を向上させるための手段として、制度の見直しを行っている。

中堅、ベンチャー企業においては、自社の継続的成長の生命線である優秀人材の確保の観

点から、市場水準に準じた報酬水準の設定が重要施策であり、自社の報酬水準の外部労働

市場と比べた妥当性を担保するため、役割・職務に基づく報酬マネジメントを積極的に導入し

ている傾向がみられる。

外資系企業では、今回のインタビュー企業においては、本社主導のグローバル統一的な人

事制度として長年にわたり役割・職務に基づく人事制度を導入しているケースが大半を占め

ている。役割・職務ベースの人事制度は大前提として、その中でも個別の職務・ポジション別

の市場報酬水準を重視した報酬設定、柔軟で競争力のある水準設定をするための報酬レン

ジのブロードバンド化(1 つの等級毎に定める報酬水準の幅を広めに設定すること)等、外部

労働市場を意識したよりフレキシブルな仕組みの導入、運用面での調整を行っている傾向が

みられた。

上記のいずれも自社の競争力向上のための必要施策という点では共通する一方、後段で詳

しく論じるが、前提となる問題のあり様、導入背景はかなりの相違がみられる。

なお、今日、多くの日系企業では大手・中堅を問わず海外市場の開拓、事業のグローバル化

が求められつつあることを考慮すると、今後は上記④(および③)の側面からの検討、採用も

多くなってくることが想定される。

職能的色彩も一部に残る日系企業の等級制度

役割・職務等級制度を導入している日系企業において、厳格な役割・職務ベースの昇降格、

報酬設定を行う対象は役割・職務がより明確である管理職以上に対してのケースが多く、非

管理職に対しては職能資格制度の継続、あるいは役割等級をうたいつつ運用面では一定の

勤続年数・年齢に応じて昇格させる職能資格的な運用を行っている会社が多い。

また一部の企業においては、管理職に対しても役割・職務と職能のハイブリッド制度の採用

や、役割等級制度と打ち出しながらも実際には職能資格制度的な昇降格運用を行っている

ケースも見られた。

これらの企業では、役割・職務ベースの人事制度自体の採用の背景が、前述のような「人件

費の適正再配分」や「報酬に関する内部公平性の確保」といった課題に対する切迫感がさほ

ど大きくないケースや、当初はそういった目的があったものの、社内のコミュニティを守るため

に、制度導入後一定の軌道修正が求められたケースがみられる。

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34

このような役割・職務と職能のハイブリット的な制度・運用となっている考え方や背景について

は、前提として事業特性上、長期雇用を通じた従業員の長期間のスキル形成(特に、自社固

有の企業特殊スキルの形成)に対するニーズが高いことが想定される。具体的には、元々職

能資格制度を基準としながらも職務(ジョブ)によって異なる責任の大きさはある程度は処遇

に反映すべきと考えて現行の仕組みに至ったケースや、当初は職務等級のみで報酬決定を

する予定だったものの、長期雇用・モチベーション維持の重要性に鑑み職能資格を改めて組

合せることとした等、役割・職務等級と職能資格制度それぞれの特性が自社の人事ポリシー

や人事戦略に合致したことによる施策であることが判る。

これに対し外資系企業においては、基本的に管理職、非管理職とも役割・職務等級制度が適

用されているが、その適用の仕方等は、親会社の考え方を踏襲し同様の基本設計による等

級制度が日本においても採用されている。

米系の外資系企業では、中途採用による人材確保や年齢・経験年数に関わらず人材を登用

するという考え方が定着しており、職務や役割がより明確であることから、管理職、非管理職

ともに役割・職務等級制度の適用を可能にしている。

ヒアリング対象の日系企業の多くは、等級ごとの大まかな役割や責任の範囲、ミッション等を

定義した役割定義書、等級定義書は整備しているが、ジョブ毎の職務記述書は作成していな

い。一方でグローバル共通のプラットフォームとして導入している日系企業や外資系企業で

は、ジョブ毎の職務定義書を整備する傾向にある。

但し、職務定義書を整備しているとしている企業の中でも、個々のジョブに対してではなく、職

種や等級レベルで役割や責任範囲、求められる人材要件やスキル等を明確化しているだけ

企業もある。

また、近年の事業環境の大きな変化に伴い求められる役割・職務も頻繁に変化することから、

ジョブ毎に職務記述書を整備している企業において、このメンテナンスを工数の大きさを課題

に挙げる企業も少なくない。

役割・職務に基づく人材マネジメントを導入する際、多くの日系企業においてチャレンジとなる

のは異動に伴う等級、報酬の変更の取扱いである。全社レベルでのローテーションを実施し

ている日系企業は多く、その際に現状より下位等級のジョブに異動することもあり得る。

基本的な考え方として降格ではなく役割の変更であるとの考え方に基づき説明を行っている

が、下位等級への異動への対応については役割・職務等級制度を導入した際の問題意識に

より異なる傾向が見られる。

役割の変更に伴う等級の変更を厳格に適用している企業もある一方で、意図的に等級区分

を多くし昇格しやすい環境を整える、逆に等級を大くくりにし等級数を少なくする、或いは職能

資格制度と役割等級制度とのハイブリッドにすることで降格することなく異動できるようにする

等の工夫を講じている企業も少なくない。

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35

外資系企業に関しては、日系企業と比較すると、職種を跨ぐ異動や会社事由でのローテーシ

ョン的異動は少なく、役割・職務ベースの人事制度は問題になりにくいとみられる。また、人材

の確保が重要課題の 1 つであるため、離職のきっかけになりやすい減給を回避する傾向に

あり、会社都合で異動させる場合は、例え役割が従前ポジションより相対的に小さくなった場

合でも報酬水準は維持することが多い。

報酬水準の設定、レンジの重複幅2の設定においても日系/外資系企業で異なる意図

報酬の構成については、役割・職務に基づく報酬制度の導入に伴い、属人的な手当を廃止

する傾向にあるが、職能資格制度を適用し続けている非管理職に対しては従来どおり家族

手当や住宅手当などを継続しているケースも日系大手企業を中心に広く見られる。

報酬水準の設定については、日系企業、外資系企業を問わず多くで等級ごとに重複型で設

定している。日系企業では重複の幅も小さくないことが多く、50%程度以上重複しているケー

スも見られる。これは、やはり異動を念頭に置く日系企業としては、役割に変更があった場合

でも、報酬水準に大きな影響がでることを回避するための仕掛けの 1 つであると考えられる。

一方で、非管理職から管理職への昇格時や管理職内での大きな役割の変更に際しては、当

該等級間の報酬レンジ設定を開差型にすることで、報酬面で役割が大きくなったことを適切

に反映する等の工夫や、各等級の報酬水準をシングルレートで設定することで自社の企業文

化や人事ポリシーを体現する工夫を講じている日系企業も散見された。

2報酬レンジの設定に関する主な類型は次のとおり

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報酬水準の設定に際し、大半の外資系企業ではポジション別或いは役割の大きさに基づき

ベンチマークを定期的に実施しそれに基づき報酬水準を調整しているのに対し、日系企業の

多くは外部競争力よりも内部公平性を重視する傾向にあり、労働市場における報酬水準のベ

ンチマークは参照程度の利用となっていることが多い。

これは、前述の「制度導入の背景・目的」において、外部市場からの人材確保よりも人件費の

適正配分を挙げている企業が多いことと関連している。

但し、日系企業の中でも外部競争力に対する意識の高さについてはやや違いがあり、比較

的人材獲得競争の激しい業界にある企業では、日系大手企業と外資系企業の中間的な対

応として、職種・ジョブ別のベンチマークや報酬水準の毎年の調整は行わないものの、毎年ベ

ンチマークサーベイには参加して外部市場の動向把握に努めているという企業もある。

今後、ビジネス環境ならびに事業戦略の変化に伴い、これまでにはなかったジョブが自社内

で必要とされ、これらの新規ジョブに対する優秀人材の獲得競争が激化してくると、日系大手

企業においても外部市場動向への意識は変化してくるものと考えられる。

上述のとおり、日系企業においては報酬水準に関し外部競争力という意識はあまり高くない

ことから、まして職種別に報酬水準を設定するという考え方は、まだあまり浸透していないよう

である。

全社横断での異動や職種を跨ぐローテーションを実施することのある日系企業としては、職

種別に異なる報酬水準を設定しないことが、報酬水準の下方変動を伴わない異動環境を確

保する 1 つの仕掛け・機能となっている側面もある。

一方で外資系企業では、職種別の報酬水準設定という考え方は十分浸透しているが、具体

的な設定に際しては、報酬レンジ自体を幅広く設定し、その範囲内で職種別に個別水準を設

定していることも少なくない。

評価制度において MBO とコンピテンシーの併用が一般的な日系企業

“ノーレーティング”という評価制度が進む外資系企業

日系企業では、MBO(業績評価)とコンピテンシー(行動評価)の 2 軸を用いているケースが

一般的である。

日系企業では、昇給や賞与原資管理のため、評価結果の分布のガイドラインを設定し、 終

的な評価或いはその反映を相対評価にて行っている企業が多い。

評価結果の処遇への反映については、一般的に MBO は賞与の支給水準の決定に用いられ、

コンピテンシー或いは MBO/コンピテンシーを組合せた総合評価を年次昇給および昇格に反

映することが多い。

また、パフォーマンスの評価に際しては、MBO による具体的な成果や結果だけでなく、当該

期間に実施したこと、取組んだ業務自体を評価し、昇給・昇格に反映している企業もある。

このような評価の反映の仕方の違いは、各社の企業文化や事業環境ならびに人事ポリシー

等の考え方の違いに基づくものであることが多い。

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さらに、今回対象となった外資系企業(およびごく一部の日系企業)では、過度なメリットクラシ

ーを排除し、人材育成・人事管理の自由度を高めるため、半年や年間といった一定期間での

人事評価(レーティング)をつける一般的な評価制度を廃止し、きめ細かいコミュニケーション

を通じて個別に強みや成長課題などを設定・管理し、これを達成するモチベーションを高める

仕組みも近年試みられ始めている。(このような施策を導入した企業の一部には、密なコミュ

ニケーションを重視するため、一旦は導入していた自宅勤務等のルールや運用を見直す動き

も見られる。)

移行期間を設けることで報酬水準の激変緩和を期する日系企業

役割・職務に基づく人事制度導入時の対応は、前述の「制度導入の背景・目的」により異なる。

例えば、①人件費の適正再配分、或いは②報酬に関する内部公平性の確保を目的として制

度を導入した企業では、人件費の適正配分と公平性の確保の実現を目的としているため、比

較的大規模に降格や給与の減額を行わざるを得ない場合も発生している。

このような状況に直面し、特に業績悪化という要因が制度見直しの背景にあった企業におい

ては、報酬水準の激変緩和措置を講じることなく、激変も止むなしという考えで新制度導入に

臨み降格、減給を実施した企業もあるが、多くの日系企業においては、報酬水準の激変緩和

に対する施策として 2 年~5 年の移行期間を設け減額インパクトが大きくならないよう減額ル

ール等を定めながら調整措置を講じることが標準的な施策となっている。

また、新制度の導入背景が職能資格制度による役割と処遇(報酬)水準の不一致の是正等

ではなく、例えば人材の可視化と適材適所の追求を主要因とする企業においては、報酬水準

の是正が喫緊の課題ではないことから、移行期間の定めを設けない比較的寛容な緩和措置

にて対応している企業もある。

さらに役割・職務ベースの人事制度は従前の職能資格をベースとする制度とは考え方が大き

く異なることから、新制度の導入に際して従業員や労働組合に対するコミュニケーションは非

常に重視されており、全般的に丁寧に対応した上で導入に至っていることが多い。 も丁寧

な場合は、説明会の回数を重ね、新制度導入まで 1 年程度の準備期間を設けることもある。

大手日系企業では新卒一括採用、組織横断異動の前提が課題認識にも影響

採用に関しては、大手日系企業の多くが、現在も新卒採用を中心に人員計画を立てているの

に対し、中堅、ベンチャーならびに外資系企業は明確に中途採用を中心に人材確保を考えて

いる。

そのため、日系企業は現在も新卒一斉採用が中心で、事業の状況により空ポストを補充する

ために中途採用を用いているが、近年は中途採用が増加傾向にある。

一方、外資系企業は職種別に空いているポジションに対して採用を行う傾向にある。

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異動に関しては、日系企業では同一職種内や特定部門を中心とする企業もあれば、部門や

職種横断的にローテーションを行う企業もあり、異動パターンについては、事業ニーズに基づ

く異動を前提とする、他職種での経験や部門間の連携強化のためローテーションを行う等、

各社の考え方によるところが大きい。

いずれにしても日系企業において、異動・ローテーションは一般的に起こり得るものと認識さ

れており、役割・職務に基づく人事制度を設計する際にも、これを妨げる要素は可能な限り排

除する形で工夫が講じられているケースが多い。

他方、外資系企業では異動はそれほど一般的ではないが、ビジネスの状況に応じて同一職

種内或いは同一ビジネス内で異動することはあるが、通常の異動は会社主導で行うというよ

り、ポジションに空が出た場合に従業員が自らの意思に基づき当該ポジション・ジョブに異動

するという形を採るのが一般的である。

但し、外資系企業では、一定レベル以上の管理職になると、タレントマネジメントの一環として

異なる事業や職種の経験を重要視され、部門・職種を超えた異動が行われることになる。こ

のようなストレッチアサイメントに通じる異動をグローバルの昇格要件にしていることも多い。

上述のとおり、大手日系企業では新卒を一括採用し自社内でローテーションを通じて人材を

育成するという考え方は今でも一般的であり、このような状況であることが外部競争力よりも

内部公平性を重視するという日系企業の基本的姿勢や課題認識に影響していると推察され

る。

人事機能が中央集権的な日系企業、権限委譲型の外資系企業

日系企業では、大手企業を中心に、異動や採用、評価に際して各部門の意見を反映しながら

決定しているものの、各人事制度の構築、採用や異動の 終決定、昇給・賞与のファンド管

理や分配等は人事が主体となって行っていることが多い。

他方、外資系企業では、制度構築は人事が行うものの、職務記述書のメンテナンスや報酬の

市場水準の検証、昇給や賞与の原資管理と分配の決定等、実際の運用は、組織長および事

業部門毎に配置されている人事部門の運用支援担当者(いわゆる人事ビジネスパートナー)

に委譲されているケースが大半である。

まとめ並びに今後の取組み・展望

ヒアリング対象の日系企業では、新制度導入に対する当初の目的や期待は一定以上達成さ

れている状況にある。

一方で、役割・職務ベースの人事制度に長い歴史を有している外資系企業とは異なり、日系

企業においてはその取組みはまだ緒についたばかりの途上段階であるとの認識が強く、新

制度導入の目的を一段高度なものに昇華して実現するため、次ステップとして主に以下のよ

うな取組み課題を挙げている。

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39

· 新人事制度や人事ポリシーの考え方の国内外の組織に広く定着させること

· 若手層の実際の抜擢や、シニア層の活用

· 市場価値の高い専門スキルを有した従業員の処遇

· 役割変更時の等級の見直しの徹底や組織変更に伴う役割等の見直し、ならびに報

酬水準ガイドラインの透明性の確保

· 国内外での M&A に伴う、新制度・施策の導入

· 役割・職務に基づく人事制度を土台にした人事のグローバル化の促進

· 後継者育成に関する仕組み作り

· 働き方改革の促進、多様性の確保とその受容性の向上

外資系企業では、役割・職務に応じた労働市場価値をベースに処遇するという従来からの基

本的な考え方は変わらず、これを普遍的な土台として各種の人事制度を構築、改定している。

また、適用される人事制度の基本的な考え方や設計はグローバル共通のものとなっており、

近年評価制度において試みられているノーレーティング(具体的な数段階の評価結果を決定

する一般的人事評価・人事考課を廃止し、きめ細かいコミュニケーションを通じてフィードバッ

クを行う新たな評価の考え方)の導入もグローバル共通の施策として日本法人においても実

施されている。

このように外資系企業ではグローバル共通施策として導入されるため、自社単体での人事制

度の抜本的な改定は難しく、等級制度、報酬制度等の人事制度の骨子や個別施策に関する

課題を挙げることはないが、本社の考え方を毀損することなく、日本という市場の特性をどの

ように反映して、具体的な人事制度の運用を行うかという点での課題を常に検討している。

また、昨今の働き方改革が謳われる前の比較的早い段階から在宅勤務制度・フレックス・テ

レワーク(リモートワーク)等の仕組みを導入してきている企業は多いが、新しい評価制度の

導入に伴い、組織内でより決め細かなコミュニケーションが求められてくることから、在宅勤

務・テレワーク(リモートワーク)に対して一定の制限や廃止を行う企業も一部にみられる一方

で、オフィス環境の充実することでオフィス内の従業員間の交流の質の強化、エンゲージメン

ト(会社に対する関与・コミットメント)の向上を図ろうとする会社も見られる。

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40

3. 実態調査結果からの示唆

~主として日系企業・外資系企業の比較を通じて~

前章までで見てきたとおり、アンケートおよびヒアリングによる広範な実態調査を通じ、我が国

で経済活動をしている企業の人材マネジメント実態に関する多くの事実情報を確認できた。こ

こでは、それらの事実情報に基づき、主として日系・外資系の比較を行いながらそれぞれの

人材マネジメントの特徴や示唆を整理していきたい。

<日系企業と外資系企業の特徴>

日系企業と外資系企業のマネジメントの違い

本調査によると、採用している人材マネジメントポリシー、各種制度・運用状況には、日系企

業と外資系企業で大きな傾向の違いがみられる。日系企業においては、いわゆる日本型マ

ネジメント、外資系企業においては、グローバル多国籍企業(以下グローバル企業)で比較的

幅広くみられる標準的プラクティスに類するマネジメントを行っているケースが多い。個社ごと

には様々なバリエーションがあるが、まずは大きな傾向差を捉えることが重要と考えており、

その概観を図表 3-1 に記述する。

図表 3-1: 日系企業と外資系企業の人材マネジメントの概観

日本企業

(標準的な日本型人材マネジメント)

外資系企業

(標準的なグローバル人材マネジメント)

特徴新卒採用が中心 ビジネスニーズに合った人材の維持・確保

長期勤続が前提 新卒採用、中途採用の併用

年功要素はある程度尊重 貢献や市場価値に見合った処遇

理念長期的関係を築くコミュニティの存在が前提であり内部

的な公平性の実現が重要

人材はキャリア形成のため流出入があることが前提で

あり、人材維持・確保のため、外部競争力の確保が重

等級

管理職:役割等級(または役割+職能)

非管理職:職能資格

役割等級

(または役割と結びついたキャリアレベル)

降格が起きないような配置になるよう配慮するが

降格を伴う配置の際は比較的実際に降格・降給

降格は極力起こさない。組織都合で起きた場合も降格・

降給させないことも多い

報酬

基本給:等級・資格別にレンジを設定本給:等級別職種別にレンジまたはベンチマークとなる

基準を設定

昇給:メリットインクリーステーブルで評価に基づき昇給

率を決定

昇給:レンジまたはベンチマーク位置を参照しながら、

上司が割り当てられたファンドの中で昇給額を決定

賞与:業績を鑑み基本給に対する月数で標準賞与が決

定。個人業績で上下する

賞与:基本給に対して決まるターゲット支給率を

参照しながら、上司が賞与ファンドの中で決定

評価

目標管理

コンピテンシー(行動評価)

目標管理

コンピテンシー(行動評価)

個別の目標管理、コンピテンシー評価は絶対評価だ

が、総合評価とする時に相対化し、昇給や賞与決定に

使用することが多い

「ノーレーティング」のトレンドの中で、総合評価や評価

そのものが無くなるケースが出てきている。また、昇給・

賞与決定に直接的使用はしない場合も増えてきている

採用 新卒一括採用が中心 職種別採用(新卒・中途共に)

配置 一部の職種を除くと幅広い異動・配置を実施 職群の中でキャリアを形成

教育 OJT と階層別研修に注力 職種別研修に注力

運用異動配置や評価に関しては現場の意見を尊重するが、

昇格・昇給・賞与は人事部門が制度に従い決定する

相当程度、個々の部門に人事権が移譲されており要員

計画、採用、配置、昇給、賞与、昇格は HRBP のサポー

トのもとライン長が決定する

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」まとめ(2017)

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41

日本型マネジメントは長期雇用をベースとし、グローバル人材マネジメントはビジネスに合っ

た人材を確保・維持すること(人材の流動性と労働マーケットの存在)をベースとしている。そ

れぞれ、その基本的な考え方と個別の仕組みや運用に整合性があり、全体としてフィットした

体系を構築している。以下、アンケート、ヒアリング、その他一般情報から、この 2 つの体系の

差異のうち重要箇所につき、確認・考察していく。

日系企業と外資系企業のマネジメントの基本的な差異

まず、この2つの体系に差が生まれている も大きな原因である、「雇用に対する考え方とそ

れにフィットする人材マネジメントの理念」の状況について確認をしていきたい。

· 外資系企業は主要な人材獲得源を中途採用に頼っている。例えば、日系企業の中

途採用比率の 頻値は 10%未満だが、外資系のそれは 80%以上である。 (図表 3-2

参照) 離職率についても、日系企業では 5%未満が 頻値だが、外資系企業では 5%

以上 10%未満が 頻値となっている。(図表 3-3 参照) その結果、外資系企業は外

部人材マーケットとのやりとりが数多く発生するため、報酬を市場価値に合わせなけ

ればならず、役割・職務に基づく人材マネジメントの採用率が高くなっている。(図表

3-4 参照) (図表 3-5 参照)

· 一方、日系企業の主たる人材獲得源は新卒採用であり、中途採用は近年増えてきた

とは思われるものの、割合としては相対的に少ない。(図表 3-2 参照) 結果として市

場価値を意識した人事運用に対する必要性は、中途採用が大半を占める外資系と

比較して相対的に低くなることが容易に想定される。(図表 3-5 参照)

· 日系企業の役員において、中途採用されたものの割合は 10%未満が 頻値であるが、

外資系の場合は 80%を超えている。(図表 3-6 参照) 日系企業においては新卒から

内部昇格で役員に起用されることが普通だが、外資系企業にとっては役員の確保と

いう面からも、外部人材の確保および市場価値を考慮する必要性が高い。

図表 3-2: 社員に占める中途入社者の割合

~日系企業は外資系企業と比較して中途入社者の割合が少ない~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

31%

22%

26%

11%

8%

3%

13%

6%

8%

8%

14%

51%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

10%未満

10%以上 20%未満

20%以上 40%未満

40%以上 60%未満

60%以上 80%未満

80%以上

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

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42

図表 3-3: 正社員の自発的離職率(直近 3 年間平均)

~外資系企業は日系企業と比較して離職率が高い~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

図表 3-4: 役割・職務ベースの等級制度/報酬制度の導入割合

~外資系企業は日系企業と比較して導入割合が圧倒的に高い~

※アンケート調査で「役割・職務に応じて社内等級を設定」と回答した企業の割合。「役割・職務に基づく社内等級

を設定しているが、一部能力・スキルに応じた手当等を付与」または「各人の能力・スキルに基づいて社内等級を

設定しているが、一部役位・職務に応じた手当等を付与」と回答した企業は含まない

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

71%

17%

11%

1%

0%

40%

41%

16%

1%

2%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

5%未満

5%以上 10%未満

10%以上 20%未満

20%以上 30%未満

30%以上

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

47%

27%

81%

78%

0% 25% 50% 75% 100%

管理職

非管理職

(総合職系)

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

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43

図表 3-5: 役割・職務を人材マネジメントの基軸にする理由

~日系企業は内部公平性を重視し、外資系企業は外部競争力を重視している~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

70%

57%

37%

33%

28%

21%

17%

8%

6%

5%

55%

16%

75%

21%

8%

52%

56%

6%

5%

4%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

年齢や経験を問わず 適な人材を任用す

るため

年功賃金による過払い是正を含む、給与

水準の見直しのため

報酬水準につき労働市場の価値・相場に

準拠した適正水準とし競争力を確保する

ため

職務の明確化による効率的な働き方を促

進するため

早期選抜、リーダー層の計画的育成のた

めの環境を整えるため

労働市場との整合を図り、外部から優秀

人材を採用しやすい環境を整えるため

グループ内(国内外いずれも)で人材マネ

ジメントの共通的な基盤・プラットフォーム

を整備するため

業務の明確化による労働負荷の抑制とそ

れに伴う働き方の変革を推進するため

同一労働同一賃金を徹底するため

その他

日系企業

外資系企業

}外部競争力

内部公平性

内部公平性

外部競争力

外部競争力

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

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44

図表 3-6: 役員以上の中途入社者の割合

~日系企業は外資系企業と比較して中途入社者の割合が少ない~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

これらを踏まえると、総じて日系企業は比較的人の出入りが少ない、長期的な関係を前提と

したコーポレートコミュニティを形成していることが実態面からもはっきりと見てとれる。つまり、

新卒で入社した会社で 30-35 年以上、同一企業で働くことが通常であり、「人は辞めない」と

いうことが前提となっている組織である。従って、外部市場との整合よりも内部の公平性の方

が重要となり、人材マネジメントの仕組み・運用もそれにフィットしたものになる。

一方、外資系企業は人の出入りが多いオープンコミュニティを前提にしてマネジメントをしてい

る。すなわち、マーケットバリューや個々人の価値に敏感なマネジメントであり、人材マネジメ

ントの仕組み・運用もそういった前提・環境にフィットしたものになっている。

その結果として、市場価値に応じた処遇と相性が良い役割・職務ベースの等級制度/報酬

制度の導入割合に関しても外資系の方が圧倒的に高い状況になっている。(図表 3-4 参照)

14%

37%

15%

10%

9%

6%

9%

6%

7%

6%

6%

3%

9%

63%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

0%

0%以上 10%未満

10%以上 20%未満

20%以上 40%未満

40%以上 60%未満

60%以上 80%未満

80%以上

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

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45

参考: 国外における外資系企業の人材マネジメントポリシー

本調査では日系・外資系共に日本における人事部門を調査対象としており、外資系企業の

日本国外における人材マネジメントのあり方は直接的調査対象となっていない。外資系企業

の場合、グローバルで共通的な人材マネジメントを導入していることが多く、国内の外資系企

業の人材マネジメントと類似性が高いことが容易に想定されるが、ここでは参考として、各国

企業の人材マネジメントの一般的特徴についても簡単に整理していきたい。

一般に米国企業はジョブ、役割に応じた人材マネジメントシステムを採用しており、グローバ

ルに事業展開している米国企業では、自国のやり方を基軸として全世界で統一的な人材マネ

ジメントポリシーを適用することが広くみられる。今回のいくつかの米国企業に対するアンケ

ート・ヒアリング調査を通じても、そのような米国企業の特徴がはっきりと見受けられる。

米国企業が役割・職務に応じた報酬制度(賃金制度)を導入するに至った契機は 1960 年代

の公民権運動が盛んだった時代にさかのぼる。この時代、企業が人種差別等を行わず透明

性の高い基準で賃金を決定していることを示す必要性が高まってきたことを契機に、予め定

められた客観的手法に基づいて職務価値を評価し報酬を決定する仕組みが開発された。

一方、今日の米国企業の多くでは、報酬を「役割の大きさ」のみに紐づけて決定することは少

なく、職種・地域における市場水準を見ながら、柔軟な設定を行うことがむしろ一般的である。

これは後述するように、一定の人材の出入りがある組織においては、人材の採用・リテンショ

ンのためには常に競合する人材市場において競争力がある水準に報酬を設定する必要があ

り、米国のホワイトカラー労働市場において報酬水準が単に「役割の大きさ」だけでなく、地域

やジョブによって大きく異なるという状況から必然的に生じてきた実務慣行と考えられる。

これに対して欧州では、1980 年代以降、スウェーデン等の北欧系企業やスイス系企業など、

本国市場が小さくマジョリティが海外市場であるため小さい本社に対して多くの海外拠点を有

する多国籍企業において、世界中のポジションを適正に評価し、グループ内部の序列や報酬

を決定する必要性が高まってきたことから、公正に役割を評価する手段として職務評価手法

が開発され、各国に普及していった。

業界・地域にもよるが、総じて欧州では今日でも米国に比べると相対的に職種による報酬水

準差が小さいこと、一企業における勤続年数が米国に比べると長く、一定程度は我が国と同

様長期的な雇用を通じた人材育成、キャリア形成を重んじる傾向があることから、同一企業

内において、より役割の大きさを重視して、報酬を決定することは合理的であると考えられる。

米国と欧州各国では人材マネジメント慣行や関連法制度には相応な差異がある一方、米国

企業は社会の多様性ゆえに客観的尺度が求められていたという背景、欧州企業は国内市場

の大きな日本と異なり、早い段階から多国籍展開が求められていたという背景により、各従

業員が果たすべき役割・職務(ジョブ)をある程度明確にし、各職務でマーケットでの類似職務

の報酬水準を調査し報酬を決定するという点である程度共通している。また、新卒一括採用

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46

ではなく、必要に応じて各部門・階層で採用を行うことが一般的であることは、今回の調査で

も明らかになったように本国に限らず、日本国内でも本国同様に実施されている。

今回の調査対象の中での該当企業は限られているが、一般的には、中国・ASEAN 等に本社

を置くアジア系企業はおおむね欧米企業の人材マネジメント手法を取り入れており、同様の

傾向が見られる。これらの国々では、大手企業でも創業から 20-30 年以内の比較的若い企

業も少なくなく、市場の成長と共に急激な成長を遂げてきたことから、時々の必要に応じて人

材採用を行うことが極めて一般的であり、年齢・社歴に関わりなく、役割、役位に応じた報酬、

成果に応じたメリハリのあるインセンティブを提供する仕組みが広くみられる。労働市場にお

いても、高成長が続く中で多くの企業が積極的に採用を行うため多数の就業機会が存在し、

日本では比較的転職が少ない中堅マネジャー~経営幹部層においても、積極的に転職を通

じた報酬アップの機会を求めることが産業を問わず一般的にみられる。

今回のアンケート調査結果によると、外資系企業の過半数が役割ベースの人事制度を導入

した主な理由の一つとして「グループ共通の基盤を整備するため」という点を挙げている。加

えて、複数社の外資系企業日本法人へのヒアリングでも、グローバル共通のポリシー・仕組

みを日本法人でも運用しているという回答が幅広くみられていることから、日本のみではなく

グローバル共通で同様のポリシー・仕組みが広く適用されていると解すべきと考えられる。

成長率と人材マネジメントの関係

さて、このように差がある日系企業と外資系企業だが、結果として、企業群としては、どちらが

良いパフォーマンスを示しているだろうか? 一般的に同一産業に属する欧米系多国籍企業

は、株主のプレッシャー等の影響もあり日系企業よりも利益率・成長率が高い傾向があると

言われている。今回の調査では利益率については検証対象外であるものの、成長率につい

てはアンケート回答企業の平均は日系企業の約 2.9%に比較して外資系企業は 4.2%と、一定

の差異が認められた。

実際に日系・外資の人材マネジメントスタイルとビジネスパフォーマンスの間に因果関係があ

るかどうかは今後慎重な検討が必要だが、本アンケート結果からは、日本という同一マーケッ

トにおいても、外資系企業の方がより成長している可能性が高い点が示唆として考えられる。

(図表 3-7 参照)

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47

図表 3-7: 日系企業と外資系企業の直近 3 年間の売上高の平均成長率

~日系企業より外資系企業の方が高成長率の回答割合が多い~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

なお、日系企業と外資系企業では人材マネジメント以外にも大きな違いがあると考えられるた

め、このことだけで必ずしも人材マネジメントの差が成長の差となっているかは特定できない。

このため日系企業のみを母集団として役割・職務ベースの人材マネジメントの導入と売上高

成長率の関係を確認したところ、売上高成長率が高ければ高い程、人材マネジメントに関し、

役割・職務ベースの導入率が高い傾向が認められた。(図表 3-8 参照) 本結果についても

今後詳細な検討は必要なものの、グラフからは役割・職務ベースのマネジメントの導入状況

と業績とはゆるやかな相関があるように見受けられる。

13%

29% 31%

17%

9%10%14%

36%

27%

13%

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

0%未満

(-2.5%)

おおむね横ばい

(0%)

0%以上

5%未満

(2.5%)

5%以上

10%未満

(7.5%)

10%以上

(12.5%)

日系企業

外資系企業

各区分中位(横軸括弧内数

字)で平均値を計算(単位:%)

日系企業 2.85

外資系企業 4.24

売上高

成長率

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

回答割合

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48

図表 3-8: 日系企業における成長と制度ポリシーの関係

~役割・職務ベースの人材マネジメント導入と売上高成長率には一定の相関~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

<人材マネジメントの基本的な考え方と人事制度の骨格>

日系企業の内部公平性重視

アンケートを確認すると、日系企業においても、管理職クラスに関しては、役割・職務に基づく

人材マネジメントを行っている企業は 50%を超えている。(図表 3-9 参照) 導入年次がある

年代に偏っている傾向は見られないため、日系企業においては、職能資格から役割・職務で

のマネジメントに徐々に転換されつつあると考えられる。(図表 3-10 参照) なお、非管理職

に関しては、役割・職務に基づく人材マネジメントの導入は約 30%に止まっており、この層に関

しては、比較的年功的な処遇を続けていることが想定される。

48%54% 54% 56%

71%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

0%未満 おおむね横ばい 0%以上

5%未満

5%以上

10%未満

10%以上

職務・役割主義を

導入している会社

の割合

回答割合

売上高

成長率

日系企業 n=156

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49

図表 3-9: 日系企業における役割・職務をベースとした等級/報酬制度の導入割合

~管理職では役割・職務に基づく人材マネジメントの導入状況が半数を超える~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

図表 3-10: 日系企業における役割・職務をベースとした等級/報酬制度の導入時期

~役割・職務でのマネジメントへの転換は 2010 年代前半が も多い~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

日系企業の役割・職務に基づく人材マネジメントの導入理由としては、年功賃金の過払い是

正や年齢や経験を問わず 適な人材を起用しそれに見合った処遇を実現する、という“社内

公平性の実現”が目的とされていることが多い。

47%

27%

6%

7%

0% 25% 50% 75% 100%

管理職

非管理職

(総合職系)

導入している

導入しているが一部にスキル・能力

に応じた手当を残している

日系企業 n=156

12

12

17

29

16

0 5 10 15 20 25 30 35

2000年以前

2000年~2004年

2005年~2009年

2010年~2014年

2015年~2017年

該当企業

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50

図表 3-11: 日系企業における役割・職務をベースとした等級/報酬制度の導入目的

~日系企業においては、内部公平性の実現を目的に導入されることが多い~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

インタビューからも類似の傾向が見て取れる。前述のとおり、インタビューで確認できた役割・

職務ベースの人材マネジメントの導入目的は大きく4つである。

① 事業改革局面での人件費の適正化(日系企業)

② 報酬に関する内部的な不公平是正と貢献に見合った処遇の実現(日系企業)

③ 市場価値に基づく処遇による外部人材の獲得、内部優秀人材のリテイン

(外資系企業、変化の激しい産業に属する日系企業、ベンチャー・中堅成長企業)

④ グローバル共通の人材マネジメント基盤の構築

(事業・組織のグローバル化を推進している企業)

70%

57%

37%

33%

28%

21%

17%

8%

6%

5%

0% 25% 50% 75% 100%

年齢や経験を問わず 適な人材を

任用するため

年功賃金による過払い是正を含む、

給与水準の見直しのため

報酬水準につき労働市場の

価値・相場に準拠した適正水準とし

競争力を確保するため

職務の明確化による効率的な

働き方を促進するため

早期選抜、リーダー層の計画的育成

のための環境を整えるため

労働市場との整合を図り、外部から

優秀人材を採用しやすい

環境を整えるため

グループ内(国内外いずれも)で

人材マネジメントの共通的な基盤・

プラットフォームを整備するため

業務の明確化による労働負荷の

抑制とそれに伴う働き方の変革を

推進するため

同一労働同一賃金を徹底するため

その他

回答割合

(複数回答)

n=86

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51

インタビューにおいても、日系企業においては、①、②のような社内公平性を重視した発言が

多かったことが確認されている。 日系企業は長期的な勤続が前提となっており、強固なコー

ポレートコミュニティを形成するが故、内部公平性を重要視していると考えられる。

一方、外部競争力を意識した“市場価値に基づくマネジメント”を意味する外部からの優秀人

材の採用や労働市場価値にあった適正水準の実現を目的とした導入は、近年、日系企業に

おいても、明確に増加傾向にあることがわかる。中長期的には人材の流動性が高まっている

ことや今までいなかった人材を確保する必要性から、外部競争力を今までより意識していくこ

とになるが、日系企業においても、その傾向が確認できる。(図表 3-12 参照)

図表 3-12: 日系企業における役割・職務をベースとした等級/報酬制度の

導入時期と導入理由

~外部競争力への意識が以前と比べて高まっている~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

外資系企業の外部競争力重視

次に外資系企業の特徴を確認していきたい。外資系企業においては、役割・職務に基づく人

材マネジメントを適用している会社が管理職で約 90%、非管理職は約 85%と非常に多い。また

導入理由に関しては、「市場価値との整合をとるため」が非常に多い。なお、市場価値とは、

ここでは外部優秀人材獲得と労働市場の価値に準拠した適正水準の設定の事を指す。前述

のヒアリングにおいても、「③市場価値に基づく処遇による外部人材の獲得、内部優秀人材

のリテイン」が導入理由として多く聞かれた事実と合致する。やはり、人材は一定程度出入り

73%

57%

24%

34%

14%

19%

56%

56%

44%

50%

31%

31%

0% 25% 50% 75% 100%

年齢や経験を問わず 適な人材を

任用するため

年功賃金による過払い是正を

含む、給与水準の見直しのため

早期選抜、リーダー層の計画的

育成のための環境を整えるため

報酬水準につき労働市場の価値・

相場に準拠した適正水準とし

競争力を確保するため

グループ内(国内外いずれも)で

人材マネジメントの共通的な基盤・

プラットフォームを整備するため

労働市場との整合を図り、外部

から優秀人材を採用しやすい

環境を整えるため

~2014

2015~2017

2014年以前の導入 n=70

2015年以降の導入 n=16

内部公平性

外部競争力

内部公平性

外部競争力

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52

し、流動するものという前提で組織運営をしているため、市場価値(外部競争力)を強く意識し

ていることが良くわかる。

これに関連ある調査結果として、外部報酬水準(労働市場)のベンチマークの頻度を確認した

ところ、外資系企業においては 70%近くが、毎年、ベンチマークを行い自社の報酬水準の位

置づけを調査していることがわかる。

ここで、社内公平性を重視している日系企業と外部競争力を重視している外資系企業でどの

ような差がでているか確認をしたい。役割の大きさ別の平均的な年収のグラフ(図表 3-16)で

は、役割が大きくなればなる程、年収の格差があることがわかる。日系企業で年収 1000 万

円程度の報酬で処遇される役割は外資系では年収 1200 万円程度、1500 万円の時は 2000

万円程度となっている。外資系の報酬は労働市場に影響を受けるので、需給バランスが悪く

人材採用が難しい上位レベルの役割になればなる程、累進的に高くなっている。このことから

も、人材の流動性に対する前提条件の違いが、仕組みや報酬水準に大きな影響を与えてい

ることが分かる。また、これらを原因として、優秀人材の採用力(獲得力)やリテンションに影

響を与えることも、容易に推測ができる。

図表 3-13: 外資系企業における役割・職務をベースとした等級/報酬制度の導入割合

~外資系企業では役割・職務に基づく人材マネジメントが支配的~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

81%

78%

7%

7%

0% 25% 50% 75% 100%

管理職

非管理職

(総合職系)

導入している

導入しているが一部

にスキル・能力に応じ

た手当や報酬を付与

n=86

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53

図表 3-14: 外資系企業における役割・職務をベースとした等級/報酬制度の導入理由

~外資系企業は、採用における外部競争力を強く意識している~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

75%

56%

55%

52%

21%

16%

8%

6%

5%

4%

0% 25% 50% 75% 100%

報酬水準につき労働市場の

価値・相場に準拠した適正水準とし

競争力を確保するため

グループ内(国内外いずれも)で

人材マネジメントの共通的な基盤・

プラットフォームを整備するため

年齢や経験を問わず 適な人材を

任用するため

労働市場との整合を図り、外部か

ら優秀人材を採用しやすい環境を

整えるため

職務の明確化による効率的な

働き方を促進するため

年功賃金による過払い是正を含

む、給与水準の見直しのため

早期選抜、リーダー層の計画的育

成のための環境を整えるため

業務の明確化による労働負荷の

抑制とそれに伴う働き方の変革を

推進するため

同一労働同一賃金を徹底するため

その他

回答割合

(複数回答)

n=77

内部公平性

外部競争力

外部競争力

内部公平性

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54

図表 3-15: 外資系企業における報酬ベンチマークの取得頻度

~多くの外資系企業は毎年報酬ベンチマークを行っている~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

図表 3-16: 日系企業と外資系企業の報酬水準の比較

~役割が大きくなるほど差が大きくなる~

出所: マーサー 2016 Japan Total Remuneration Survey3

3参加企業数:563 社、データ基準日:2016 年 6 月 1 日

67%

7%

19%

3%

3%

0% 25% 50% 75% 100%

毎年

2~3年に1回程度

頻度は決めていないが、

必要に応じて

特に行う予定はない

行わない

回答割合

n=86

0

5,000,000

10,000,000

15,000,000

20,000,000

25,000,000

30,000,000

35,000,000

40,000,000

45,000,000

50,000,000

55,000,000

60,000,000

41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69

年収

(円

役割の大きさ(マーサーポジションクラス)

日系企業

外資系企業

日系企業 n=62

外資系企業 n=501

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55

日系企業と外資系企業のその他の違い

これまで日系企業、外資系企業の人材マネジメントを主として内部公平性、外部競争力という

観点から考察をしてきたが、本項ではそれ以外の事項について論じていきたい。

アンケート上で、役割・職務ベースの人材マネジメントの導入理由として多く挙げられている点

は、日系企業に関しては、“職務の明確化”や“早期選抜、リーダー層の計画的育成”である。

元来、役割・職務に基づくマネジメントをしておらず、職務の定義がなかった日系企業におい

ては、役割・職務ベースのマネジメントをすることを契機に、処遇決定だけでなく、従前さほど

手掛けてこなかった役割責任範囲の明確化や後継者育成等などの領域にも活用しようとす

る発想があると類推される。

外資系企業では、外部競争力・内部公平性の実現、以外に重視されている理由は、グループ

全体での共通基盤を持つことである。逆にそれ以外の事項については理由として挙げる企業

は少ない。処遇決定や異動の際に必要なので役割・職務ベースで管理を行っていく、という実

務的な理由で採用していることがはっきりしている。

また、インタビューを通じて明らかになった傾向として、日系企業は、昇給・賞与・昇格の決定

については中央集権的であり、予め定められた厳格な制度・ルールに基づいて行っている傾

向が非常に強いといえる。一方、外資系企業は、昇給や賞与をファンド化して、事業部門やフ

ァンクションに渡し、個々の昇給、賞与の決定をその裁量に任せることが多い。

このように権限の分布傾向の大きな違いは様々な事項に影響を及ぼしており、グローバル企

業で実施している各種施策、例えば事業部門にかなりの人事面での裁量権限を持たせること

を前提に、人事プロフェッショナルが事業部門サイドの人事業務を支援する役割(HR ビジネ

スパートナー)の設置といった組織運営体制の導入や、ある程度グローバル共通の業務プロ

セスを前提としたクラウドベースの人事システム(HR クラウド)の導入を図る際の障害になっ

ていることが想定される。現場に権限が無い中で HR ビジネスパートナーを現場に配置しても、

戦略的に価値があるサポートをすることは難しく、現場マネージャーに権限がある前提で作ら

れているグローバル企業向けの HR クラウドパッケージの導入が難しいのは自然であるよう

に思える。

まとめ

個社毎には様々なバリエーションがあるものの、敢えて全体的な特徴を俯瞰すると、日系企

業は総じて長期雇用を前提としたクローズドコミュニティを組織運営の前提としており、長期的

な関係の構築・継続の維持が極めて重要なアジェンダであるからこそ、内部的な公平性を非

常に重視していると推測できる。一方、外資系企業は外部から採用し、優秀人材を確実にリ

テイン(引きとめ)する、という観点から市場価値を重視しており、市場価値は主に各個人の

期待される貢献度、すなわち、果たしている役割・職務によって決まることから、役割ベース

の人材マネジメントを実施していると推定される。

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56

<役割・職務の定義とその活用>

役割記述書(JD)の導入状況

役割・職務に基づく人材マネジメントを行うためには、役割の定義や役割評価が必要となるが、

日系企業においては個別職務を詳細に記述するいわゆる JD を作成しているケースは全体

の 10%強にとどまり、等級毎や大まかな役割(職位等)に対してその使命を定義しているケー

スが 70%を超す。

すなわち、役割・職務ベースの人材マネジメントを行うといっても、社内公平性の観点から、現

在の貢献度に応じた格付を行い、その結果報酬を抑制する、という目的で導入されることが

多く、必ずしも個々の社員の責任を明確にすることが目的とされていないことが推定される。

一方、外資系企業においては約半数が JD を作成しており、日系企業と比較すると個々の職

務の定義がなされている状態である。(図表 3-17 参照) しかしながら、外資系企業も一般に

思われている程、JD の整備がされているわけではないとも言える。

役割定義の目的・役割評価のアプローチ

役割・職務の定義を明確にする目的としては、日系企業においては、業務量や等級管理の適

正化が も重視されており、外資系企業においては中途採用、ローテーション、グループ内で

の配置や等級管理、が重視されている。JD を組織内の全ポジションについて作成していると

いう回答をしていた複数の企業(主に米国系企業)は、JD は適正な報酬決定の基盤として不

可欠とされており、当該企業では社内の等級・資格体系とそれに紐づいた報酬水準設定だけ

ではなく、職種毎のきめ細かな報酬水準設定のために積極的に JD を活用している状況がう

かがえる。(図表 3-18 参照)

インタビュー対象となった日系・外資系企業ともに、役割の大きさの評価には、正確性や公平

性を担保するため一般的に広く普及した役割・職務評価ツールを使うケースが数多く見られ

た。なお、一般的に広く普及した役割・職務評価ツールとは、人材マネジメントを専門とする経

営コンサルティング会社が開発した方法論であり、予め役割の大きさを測定する項目が定義

されており、対象の役割に対して各項目の評価点をつけることで、統計的な手法に基づき設

定されたフォーミュラによって、役割の大きさが数値として算出される。また、この役割の大き

さにより、市場報酬額が求められる。

一般に役割の大きさを評価するには、単純に役位毎の序列を比較する方法や、自社独自の

基準を作成し適用するアプローチもあり得るが、特に近年になって役割ベースの等級制度・

報酬制度を導入してきている日系企業にとっては、従来の仕組みと異なる考え方で報酬決定

を行うことは社内的に大きな負担となるため、客観性・公正さを担保する手段として、大半の

企業で一般的ツールが活用されている様子がうかがえる。なお外資系企業の場合は、自社

独自の基準を活用しているケース、一般的ツールを活用しているケースが共に認められたが、

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57

前者の自社独自基準の場合でも、報酬水準を外部と比較する際には、一般的ツールも併用

していることがインタビューからは確認された。

図表 3-17: 職務記述書の導入割合

~日系企業では等級ごと・外資系企業では個別職務ごとに定義されている場合が多い~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

14%

52%

22%

10%

1%

51%

21%

22%

6%

0%

0% 25% 50% 75% 100%

個別職務ごとに職務内容の

詳細を定義した職務記述書を

整備している

職掌/階層/等級ごとに役割や

ミッションの定義を整備している

あまり細かい定義等は整備せず、

ゆるやかな役割の範囲等を

設定している

明文化された職務(役割)の定義

は作成していない

その他

日系企業

外資系企業

外資系企業は、個別職務ごと

に定義を行うことが多い

日系企業は、等級など一定の

括りで定義を行うことが多い

日系企業

n=86

外資系企業

n=77

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58

図表 3-18: 職務記述書の導入目的

~外資系企業は、採用や報酬水準の設定をより強く意識~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

67%

39%

32%

30%

21%

5%

51%

56%

36%

69%

51%

0%

0% 25% 50% 75% 100%

職務の明確化を通して業務量や

等級管理等の適正化を図るため

グループ内での人材マネジメントに

おいて、配置や等級管理などの

共通基盤として用いるため

後継者育成・管理において対象と

なる候補者の人材要件の

明確化のため

中途採用やローテーションに際して

の対象となる人材要件の

明確化のため

報酬水準の適正化を実現する際

に、より精緻な市場データとの

マッチングを行う環境を整えるため

その他

日系企業

外資系企業

日系企業

n=57

外資系企業

n=55

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59

<その他の仕組みの比較>

共通採用の日系企業・職種別が主流の外資系企業

アンケート結果によると、日系企業の新卒採用においては、雇用区分別(総合、一般等)の採

用を行っているケースが約 50%である。職種別採用も約 35%あるが、ヒアリング企業で確認で

きた事実からすると、職種別の場合でも、技術者・研究者などの理系の人材を分類して採っ

ている、というケースに限られており、ほとんどがこのケースではないかと推定している。役

割・職務によるマネジメントを行っている場合でも、採用に関して職種の差は一部の職種を除

きあまり意識されていないことが推測できる。(図表 3-19 参照)

日系企業においては、「採用上、職種をあまり意識しないこと」また、「役割・職務の定義が大

まかに行われていることが多いこと」を考え合わせると、役割のレベル(役位やキャリアレベ

ル)は意識しているが、役割の種類(職種)は意識していない。職種別の採用をしていないと

いうことは職種別給与体系でないことも想定される。これらを考え合わせると、職種別の人材

マネジメントよりも全社共通の人材マネジメントを志向していることが垣間見られる。

外資系企業においては、新卒でも中途採用でも、 も頻度が高いのは職種別採用であり、い

わゆる一括採用にあたる雇用区分別採用は極めて少ない。外資系企業においては、役割の

レベル(役位やキャリアレベル)だけでなく、役割の種類(職種)を意識した組織運営をしてい

ることが分かり、外部の市場価値との整合性を高めるために、職種別の給与レンジやベンチ

マークの設定等を行っていることもある。(図表 3-19 参照)(図表 3-20 参照)

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60

図表 3-19: 採用の種類(新卒採用)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

図表 3-20: 採用の種類(中途採用)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

47%

37%

6%

25%

3%

2%

2%

40%

3%

10%

31%

22%

0% 10% 20% 30% 40% 50%

雇用区分別採用

職種別採用

コース別採用

職種、雇用等の別がない一括採用

不足しているジョブについて個別採用

その他

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

22%

54%

6%

1%

53%

1%

2%

49%

2%

0%

64%

0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

雇用区分別採用

職種別採用

コース別採用

職種、雇用等の別がない一括採用

不足しているジョブについて個別採用

その他

日系企業

外資系企業

日系企業

n=156

外資系企業

n=86

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61

階層別研修に注力する日系企業

日系企業の教育に関する特徴は、階層別研修が非常に多く、90%近い企業が実施しているこ

とがあげられる。階層別研修は職種横断的な研修であり、ここでも全社共通の人材マネジメ

ントへの意識が高いように見られる。職種別、テーマ別、選抜研修も多く実行されており、そ

の比率はそれぞれ 50%を超している。

外資系企業に関しては、階層別、職種別、テーマ別、選抜研修が多いことは日系企業と変わ

らないが、いずれも 50%~60%の採用率であり、階層別研修が突出しているわけではない。

(図表 3-21 参照)

図表 3-21: 実施している研修の種類

~多くの日系企業で階層別の研修が実施されている~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

職種横断異動が相対的に多い日系企業

日系企業に関しては、管理職や総合職に関して言うと、全社スケールで職種横断的な異動を

する、または、異動のない職種(技術職等)を除くと、職種横断的に異動する、というケースが

多い。

90%

55%

59%

56%

37%

39%

4%

1%

62%

62%

56%

51%

7%

15%

15%

3%

0% 25% 50% 75% 100%

階層別に設計

職種別に設計

テーマ別に設計

選抜者に対して特別な選抜研修

プログラムを設計

年齢・年次別に設計

キャリアステージ別に設計

特に会社が用意する

研修プログラムはない

その他

日系企業

外資系企業

日系企業

n=156

外資系企業

n=86

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62

一方、外資系企業においては、全社横断的な異動は少なく、日系企業と比較すると同一職群

で異動するというケースが多い。

これらの状況も、長期勤続で同じ組織に所属し続けるため、幅広い業務機能を知るべき、と

いう日系企業と、個々の社員が市場価値を意識しており、キャリアという面からも職種を強く

意識している外資系企業の特徴が見て取れる。(図表 3-22 参照)

図表 3-22: 異動・配置の基本パターン(管理職)

~日系企業は比較的職種横断的な異動が多い~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

43%

17%

15%

24%

0%

1%

16%

10%

24%

22%

22%

5%

0% 10% 20% 30% 40% 50%

全社スケールで、職種横断的

な異動

社内カンパニー・本部・事業部門内

で、職種横断的な異動

同一職群(ジョブファミリー)内で、

同一職種、類似職種に異動

職種によりほとんど異動のない

場合と、職種横断的に異動する

場合とがある

異動は原則として行わない

(連続性のある業務での昇格のみ)

その他

日系企業

外資系企業

日系企業

n=156

外資系企業

n=86

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63

大差ない退職金・年金の支給理由

日系企業においても外資系企業においても退職金・年金の支給理由は、第一に老後の生活

保障であり、第二に従業員のリテンションである。(図表 3-23 参照) 若干の差異があるとす

ると、日系企業においては老後の生活保障を理由としている企業が 80%を超え、社員を一生

面倒見る、という側面が強くなっている。また、外資系においては採用力強化のため導入をし

ている傾向がやや強い。

図表 3-23: 退職一時金・年金制度の目的

~支給の目的において、日系企業と外資系企業の大きな差はない~

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

83%

57%

14%

12%

5%

67%

52%

24%

4%

6%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

老後の生活保障

従業員の引きとめ

(長期勤続のインセンティブ)

採用力強化

昇格へのモチベーション

その他

日系企業

外資系企業

日系企業 n=156

外資系企業 n=86

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64

4. 日系企業の人材マネジメントの課題と今後の展望

<日本型人材マネジメントの形成・変遷と影響>

前章にて、我が国において同じように経済活動をしているにも関わらず、日系企業・外資系企

業の人材マネジメントのあり方には大きな傾向の違いがあることが明らかになった。本章では、

日系企業に特徴的な「日本型人材マネジメント」形成の背景を整理した上で、今日の事業環

境と前章の調査結果を踏まえて、今後の展望を論じていきたい。

日本型人材マネジメント形成の背景

「長期雇用、年功序列、新卒一括採用」を特徴とする日本型人材マネジメントは、戦後混乱期

の労働争議の時代を経て、高度成長期に労使ともに協調的な人事管理を行うことが合理的

であったことを契機に形成された。

その具体的な成立時期や成立要件については様々な議論があるが、組織・事業の拡大が続

いた高度成長期に事業拡大に寄与していた点は疑いがない。雇用や一定水準の賃金を保障

し、個々人が様々な種類の職務に従事することを前提とした共同体的な人事管理は、組織内

部のコミュニケーションコスト、人材の離職・新規採用に伴う育成コストを低下させ、組織の一

体感を増し、効率的な組織運営とその拡大を実現した。そしてこれらは、日系企業の国際競

争力の源泉となっていた。

従業員側から見ても、事業が拡大し次々と新たなポスト(=キャリア)が生み出される中で、一

つの組織に長期的にコミットするリスクは低く、長期的な賃金見通しが立ちやすくなり、生活の

安定というメリットを享受することができた。また、高度成長期においては、ほとんどの企業で

「昨年よりも今年の処遇が良い」という状況もあり、例え企業間で処遇差があっても、中途で

退職し別の企業に入社するリスクを取るインセンティブは少なかったと考える。

日本型人材マネジメントの変遷

このような日本型人材マネジメントは、経済成長期には労使の利害が一致しやすく安定して

いるが、事業の縮小局面では利害対立が生じ得る。実際、1990 年代後半以降のバブル崩壊

とその後の低成長期では困難に直面した企業では、事業再生・企業統合など大きなチャレン

ジに直面した企業を中心に、組織のダウンサイジング、要員適正化を実現するための早期退

職プログラムの導入、事実上の人員調整等が実施され、終身雇用の実質的な放棄や軌道修

正を余儀なくされた。

報酬制度(賃金制度)についても、単なる月額賃金カット・賞与調整の他に、従来に比べて年

功的な賃金の抑制を目的とした「役割・成果主義型」の人事制度、職務や役位・役割とその成

果に応じて報酬を支払う制度が一部の企業において導入された。すなわち、人件費が限られ

る中で、年功に応じ処遇すると、今の貢献(担っている役割・責任やその成果)とペイとの乖離

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65

が目立つので、年功要素を薄め、貢献に対して支払う傾向を強くしよう、という施策の実施で

ある。

これらの一連の改革を通じ、大手企業でも終身での雇用は必ずしも保障されないという認識

は一般的となり、それ以前と比べるとキャリア途中での転職や中途採用は徐々に拡大してい

る。また、以前に比べ早い段階で年功的賃金の上限キャップを設定し、管理職への昇進割合

コントロールや、より積極的な中途採用や非正規雇用を行うケースも増えてきており、年功的

な処遇上昇の傾向は薄まって来ていると言える。しかし、全体的には、今でも新卒から一つ

の企業に勤める長期勤続社員が数多くおり、強固なコーポレートコミュニティを持つ日本企業

においては、コミュニティ内の秩序である内部公平性を重視した日本型人材マネジメントはコ

モンセンス・習慣になっているため、長期勤続、新卒採用、年功に配慮した処遇決定の傾向

は多かれ少なかれ存在する。

前章で述べた日系企業のマネジメントの実態、「内部公平性の重視」「処遇の激変緩和に留

意した上での管理職に対する役割・職務主義導入」等は、このような歴史と整合した結果にな

っている。

日本型人材マネジメントの影響

さて、このような日本型人材マネジメントの歴史は、現在の状況にどのような影響を与えてい

るのだろうか?ここでは、主として海外との比較からその特徴を捉えたい。

第一に日本における人材流動性の低さである。(図表 4-1,4-2 参照)

マーサーが各国で実施している調査の 2017 年結果によると、各国における自発的離職率は

10-15%を超える一方、日本の結果は 7%と低い。今回の「役割・職務に基づく人材マネジメン

ト調査」によると、日系大手企業の多くは離職率 5%以下となっており、さらに開きがある。

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66

図表 4-1: 国・地域別自発的離職率(2016 年)

国・地域 自発的離職率

香港 15.1%

ベトナム 14.7%

マレーシア 13.9%

オーストラリア 12.1%

タイ 12.1%

フィリピン 11.6%

インド 11.5%

上海 11.1%

UK 11.0%

シンガポール 10.1%

韓国 8.7%

日本 7.2%

ドイツ 7.0%

出所: マーサー 各国 2017 Total Remuneration Survey

米国人材サービス大手のマンパワー社による調査をみても、日本は もホワイトカラーの人

材採用が困難な国となっており、人材流動性の低さが特徴的な労働市場といえる。

図表 4-2: アジア各国・地域における外部採用難易度

国・地域 外部採用難易度

日本 86.0%

台湾 73.0%

香港 69.0%

シンガポール 51.0%

インド 48.0%

インドネシア 46.0%

中国 10.0%

出所:Manpower Group 2016/2017 Talent Shortage Survey

第二に相対的に低い日系企業の報酬水準である。(図表 4-3 参照)

このグラフは横軸に役割・責任の大きさ、縦軸に年間ベースの現金報酬(いわゆる年収)をと

ったものである。この図表から明らかにように、経営職、上級管理職、高度専門職が多く分布

するグラフの右半分においては、報酬水準が欧米主要国だけでなく、アジア各国にも劣後し

ている。(逆に比較的役割・責任が小さい層に関しては、日本は他国より高い、または見劣り

せず、フラットな配分をしていることが良く分かる) 年収は一人当たり GDP 額やその成長等

の各国のマクロ経済状況の影響も大きいので一概に言えない部分はあるが、3 章(図表 4-4

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67

参照)でも論じた通り、国内においても日系企業の報酬は外資系企業の報酬より低い状況に

あることも考え合わせると、外部労働市場のプレッシャーを受けにくい日本型人材マネジメン

トが賃金上昇に影響を与えている可能性が推測できる。

これらから、日本型人材マネジメントは、強固なコーポレートコミュニティを形成し、その内部コ

ミュニケーションを円滑にすることで生産性を高め、また、当初意図したものでは無いものの、

労働市場への積極的な参加を控えることで経営職、上級管理職、高度専門職の人件費を抑

制してきた側面が垣間見られる。

図表 4-3: 各国における報酬水準

出所:マーサー 各国 2016 Total Remuneration Survey

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68

図表 4-4: 日系企業と外資系企業の報酬水準の比較(図表 3-16 再掲)

出所: マーサー 2016 Japan Total Remuneration Survey

0

5,000,000

10,000,000

15,000,000

20,000,000

25,000,000

30,000,000

35,000,000

40,000,000

45,000,000

50,000,000

55,000,000

60,000,000

41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69

年収(円)

役割の大きさ(マーサーポジションクラス)

日系企業

外資系企業

日系企業 n=62

外資系企業 n=501

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69

<日本型人材マネジメントの課題>

企業の競争力確保という観点からの課題

これまで述べてきた背景・変遷や調査結果を通じ明らかになった日本型マネジメントの特徴

「長期雇用」「新卒一括採用」「年功への配慮」「内部公平性の重視」「人材流動性の低さ」は、

「低い組織内部のコミュニケーションコストと一体感」「少ない人材の離職・新規採用による効

率的な育成」「効率的な組織運営とその拡大」というような日本企業の強みにもつながってい

る一方、今日の事業環境と照らし合わせた際には大きな課題も想定される。

新卒採用を中心として、一定程度年功に配慮しながら長期雇用する仕組みのデメリットは、

企業側から見ると、事業の状況にあった人員構成や人件費水準・構造を実現し、維持するこ

とが難しい点にある。

長期勤続前提で新卒を採用することで、当該個人に対して長期にわたり雇用と一定の賃金

上昇を担保する事業運営・組織運営が求められる。そのため、人員数・人員構成や人件費の

コントロールには一定の制約が生じる。このデメリットを回避するため、企業はこれまで非正

規雇用や専門職向け制度などを通じた多様な人材ポートフォリオ構築、年功賃金に対するキ

ャップ設定、DC 型年金制度導入による年金債務リスクの軽減などの工夫を行ってきた。

しかしながら事業環境の変化スピードが速くなっている今日、適切・適量の人的資源の確保と

人件費のコントロールは重要性を増しており、長期雇用の「リスク」は高まりつつある。

長期雇用を通じた「企業特殊スキル」の蓄積を促す仕組みは同一企業内で個人が勤続し続

ける前提であれば有用に機能するが、仮に経営不振にさらされて大幅な人材の入替え、退

出が迫られるような場面では、転職を通じた報酬の低下、あるいはそれを補填するための早

期退職パッケージにおける大幅な加算金積み増しという形で、その代償を企業・個人のどち

らか、あるいは双方が払わざるを得ない状況に直面することもあり得る。

また、内部公平性を重視し人材流動性が低いマネジメントの重大な課題の一つは、外部人材

の十分な確保が難しい点にある。内部の秩序を守るために、外部人材に市場価値に見合っ

た魅力ある報酬やキャリアパスが提示できないという事象が発生する。

現在、あらゆる産業においてデジタル化やそれに端を発した様々な技術イノベーションを通じ

て、いわゆる破壊的イノベーションがグローバル規模で生じており、それらの事象に対応する

ための特定領域の専門分野に習熟した人材や、新規事業開発・複雑な組織のマネジメントを

リードできる人材、またグローバルビジネスをリードできる希少人材の取り合いが大規模に発

生しつつある。

一部の企業では専門人材向けのキャリアパスや報酬パッケージを用意して対応する例もある

が、優秀なプロフェッショナル人材であればあるほど、キャリア機会が特定のポジションに限

定され、経営のメインストリームは新卒プロパー人材が占める企業よりも、中途採用であって

も実力次第でより責任ある立場へ登用され得る企業を選好することは、当人の立場を考えれ

ば論を待たないであろう。

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70

中途採用が不得手な一部の企業の人事部門担当者に見られる「高度専門人材は高い金さえ

払えば採用できるのだろう」といった発想は、高度専門人材・プロフェッショナル人材の志向性

を十分に理解していない考え方であり、市場価値に合わせた適正な報酬設定は大前提として、

より魅力的なキャリア展望、業務環境の提示はますます重要となってきている。そのようなキ

ャリア機会を提示する上で、役割・職務に基づく人材マネジメントが も親和性が高い点は、

今回の調査結果で中途人材を活用する多くの日系・外資系企業の事例からも見てとれる。

加えて、様々なビジネスモデルの長期的な安定性・継続性に対する懸念が個人レベルにも広

がる中、人材確保という観点からすると、今まで長期勤続のコーポレートコミュニティ形成の

前提となっていた個人の意識の変化も確認すべき事項である。日本生産性本部が実施して

いる、新入社員を対象とした、2017 年度「新入社員『働くことの意識』調査」によれば、会社の

選択理由として、「会社の将来性」が減少を続ける一方で、「能力・個性が生かせる」・「仕事

が面白い」・「技術が覚えられる」が増加している傾向にある。このことは、若年層の意識が就

「社」から就「職」へ変化していることを示唆している。また、同組織が実施した 2017 年度「新

入社員 秋の意識調査」では、「条件の良い会社があれば、さっさと移る方が得だ」との質問に

「そう思う」と回答した割合が 2016 年に、54.6%と過去 高になっており、こちらの調査でも、新

卒で入社した会社に勤め続けることに必ずしもこだわらない姿勢がうかがえる。

これらの傾向からすると、会社側は、「人は辞めない」ことを前提としているにも関わらず、若

年者に関しては個人の意識変化により人材の流動性が進み、優秀な人材を失うリスクが生じ

てきていると言える。従来のように自社のみで通用する「企業特殊スキル」の習得に寄りすぎ

る人材育成を続けていく場合、若年層、特に自らのキャリアに対して能動的・積極的に構築を

していく意欲の高い優秀な若年人材の確保に支障が生じるリスクがあり、そういった点でも従

来の日本型人材マネジメントの一定程度の転換、軌道修正を意識せざるを得ない可能性が

出てきている。

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71

図表 4-5: 2017 年度「新入社員『働くことの意識』調査」

出所:日本生産性本部(2017)

図表 4-6: 2016 年度新入社員 秋の意識調査

「条件の良い会社があれば、さっさと移る方が得だ」

出所:日本生産性本部(2016)

0

5

10

15

20

25

30

35

40S46

S47

S48

S49

S50

S51

S52

S53

S54

S55

S56

S57

S58

S59

S60

S61

S62

S63

H1

H2

H3

H4

H5

H6

H7

H8

H9

H10

H11

H12

H13

H14

H15

H16

H17

H18

H19

H20

H21

H22

H23

H24

H25

H26

H27

H28

H29

会社を選ぶとき、あなたはどういう要因をもっとも重視しましたか

自分の能力・個性が生かせるから

仕事がおもしろいから

技術が覚えられるから

会社の将来性を考えて

(%)

54.6

0

10

20

30

40

50

60

200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014201520162017

回答割合

(%)

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72

また、人材流動性が低く内部公平性を重視するスタイルの人材マネジメントは、マネジメント

のグローバル化を進める際に新たな課題につながる恐れがある。

今回のアンケートによると、既に 3 割の日系企業では売上の 50%以上を海外市場に依存して

おり、製造業の例が代表的なように、製造拠点中心から、販売・開発なども含めた人材面で

のグローバル化、日本国外の従業員割合の増加は顕著になってきている。

グローバル組織全体の人材マネジメントを、要員計画・配置・人材育成などを中心に一定程

度統合的に管理する必要性は高くなりつつある一方で、等級・評価・報酬決定等の人材マネ

ジメントの基盤が整合していない場合、日本は日本、海外は海外というマネジメントの分離に

つながり、人材・人的資源管理という観点でグローバルに統合的なガバナンスがやりづらくな

ることが多い。

個社の事情によって組織運営や人材管理面でのグローバル化の必要性は様々と考えられる

が、B2B、B2C を問わず様々な業界で各国市場の類似性やつながりが高まってきており、総

じてグローバル一体の組織運営を行う重要性が高まってきていることを踏まえると、日本国内

と海外の人材マネジメントの仕組み・考え方が大きく異なり、結果として海外人材に対して適

切な管理・リテンションができないことは、事業競争力の点で他国の企業に比べて劣後するリ

スクにつながり得ると考えられる。

社会の生産性という観点からの課題

日本型人材マネジメントは長年にわたり日本企業の競争力に繋がっていた一方で、今日の事

業環境下では個々の企業の競争力という観点からいくつかの課題やリスクがある点は既に

論じたとおりだが、加えて社会全体のマクロ的観点からも、いくつかの潜在的・顕在的課題に

つながっている可能性がある。

既に多くの論者によって議論されている点だが、一つには、大手企業を中心に広くみられる

長期雇用傾向により、企業間の人材流動性が低く、成熟産業にも長く人材がとどまる一方、

成長産業において必要な人材確保ができないことから、産業間・企業間の 適な人材配分を

通じたマクロ経済成長を阻害している可能性が指摘される。

また、「雇用先の変更が少ないが故に、就業者が一企業に経済的・精神的に依存し、過重労

働が発生しやすいといった問題」「離職リスクが低いことから賃金を上げるインセンティブが少

なく、賃金上昇→消費拡大・経済活性化につながらないといった問題」等も発生している可能

性がある。

今回の調査は企業の人材マネジメントに関する実態調査であるため上記に関する十分な検

証はできていないが、日本経済全体の活性化・日系企業の競争力強化の観点から、今後検

討が必要と考えられる。

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個人のキャリア観点からの課題

個人の観点で考えると、昨今よく言われるように、医療技術の進化等を通じた超高齢化社会

の到来によって現在の 60 代前半から 70 歳以降へ就業年齢はさらなる長期化が見込まれて

おり、大卒ホワイトカラー人材が 20 代前半~半ばに新卒で入社した企業に 40 年以上勤務し、

同一企業内でキャリアが完結される可能性は明らかに低下している。

日本型人材マネジメントでは特に 40 代以降の年齢で賃金水準が上がってくる点に特徴があ

るため、キャリア後半では転職をすると企業特殊スキルが活用できず賃金が下がるケースが

多くなりうる。このため、40 代以降の転職は回避される傾向が強いが、就業年齢の長期化や

ビジネスモデルの短期化によってやむなく転職を求められるケースが生じる可能性は高まっ

てくると考えられる。

今回の調査においても、今後の人材マネジメント上のチャレンジの一つとして多くの企業が超

高齢化社会への対応、シニア人材の活用を挙げている。既に論じたように産業、ビジネスモ

デルの賞味期限が短期化する中で、更なる定年延長・再雇用の義務化などよって企業に 40

~50 年といった超長期的な雇用の安定的継続を求めることは現実的な対応策ではない可能

性があり、別の対応策を立てることが求められている。

日本型人材マネジメントの「再生産性」

以上みてきたように日本型人材マネジメントには今後の事業環境下ではいくつかの重大なリ

スクや顕在的課題が想定される一方、今日でも大手企業をその基本思想は堅持されている。

「新卒一括採用を人材採用の主力とする仕組み」「大半の従業員について、ある年齢までは

年功的な昇給を行い一定の報酬水準を保障する仕組み」は一般的に広く見られる。今回の

調査結果からも、新卒プロパー人材を基本としながら不足する部分を補うために中途採用を

実施している企業が多く、日系企業においては引き続き新卒採用が人材採用の主軸となって

いることがうかがえる。

このような新卒一括採用・長期雇用を基軸としたコミュニティベースの人材マネジメントは、ひ

とたび仕組みが確立されると、各企業で勤続年数が長い「新卒プロパー人材」が主流となり、

組織内部の人間関係や組織独自の業務知識・経験を活用し仕事を進めるスタイルが支配的

となる。このため組織運営スタイルや組織のカルチャー・価値観に適合した人材の再生産が

行われるようになり、深刻な事業不振や事業環境の激変など、それまでの仕組みが機能しな

い環境にさらされなければ、多くの場合、システムの維持・継続が組織のマジョリティにとって

のコンセンサスとなる。

一方、今回の調査でも明らかになったとおり、日本において事業活動をしている外資系企業

の多くは、我が国で本国と同様の人材マネジメントポリシーを導入しつつ、事業運営に必要な

人材の確保・育成に成功していることからも、コミュニティベースの人材マネジメントが日本固

有の文化・風土と一体不可分とまでは言えない可能性が高い。

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日本型人材マネジメントは、合理的な理由に基づきこれまで発展・存続してきたシステムであ

る一方、既に議論してきたとおり、事業環境に変化が生じている現在では、多くの企業におい

て一定の見直し・修正を迫られている可能性が高いと考えるべきだが、システム自体がある

種の再生産性を有しているため、その具体的な変化には大きなチャレンジが想定される。

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<今後の方向性>

個別企業にとっての方向性

長期的なコミュニティを重視する日本型人材マネジメントには、コミュニケーションコストの低さ

や組織の一体感等のメリットがあり、また従前論じてきたような「再生産性」ゆえに、システム

として堅牢に維持されてきている。しかしながら、日本における日系企業と外資系企業の成長

率の差、グローバルレベルでの日本の多国籍企業と欧米多国籍企業の利益率の差、日本国

内の個々人の就業観が変化しつつあり長期コミュニティが維持しにくくなっていること等を踏

まえると、一定範囲での人材の流出入を前提とした人材マネジメントの方向により進んでいく

必要はあるように思える。

業界によって必要性の度合いに差はあるものの、大きな方向感としては、日系企業の強みは

阻害しないように留意しつつ、長期雇用によって従業員を「抱え込み」、企業特殊スキルの促

進を図る仕組みを一定程度調整し、今日的な事業環境に合わせて「人材の健全な流動性を

一定程度高めて行く」という方向性が、多くの企業には求められているのではないか。

具体的な例としては、流動化促進の基盤の一つとして役割・職務をベースとした、各職務のマ

ーケットバリューに基づく報酬制度、職種別の人材採用、企業特殊スキルの過度な習得促進

ではなく一定程度企業横断的に活用が可能な汎用的なスキル蓄積を促すキャリアローテー

ション、従業員個人による主体的なキャリア形成等が挙げられる。

敢えて対比的に捉えると、「長期的なコミュニティの一員として大半が新卒で採用されて定年

まで働き続け、人材の多くが辞めない前提に立つマネジメント」から、「人材によって会社への

コミットメント度合い・期間は様々であり、事業上のニーズや各個人のキャリア都合に応じて一

定の人材の出入りが常に発生するという前提に立つマネジメント」への転換と言える。

より具体的には、現在長期的なコミュニティを維持強化するために多くの企業で実施している

· 「貢献度を基準とし内部公平性を重視した役割・成果主義」または「能力を基軸とし

た職能資格」

· 一定の勤続年数までの「年功的」な処遇体系の維持

· 職種による処遇差の排除

· 人事部門による中央集権的で全社整合的な昇給・賞与決定

· 新卒一括採用中心(非職種別採用)

· 階層別研修の重視

· 職種横断的な異動

といった施策群を、

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76

· 「市場価値をベースとした役割・成果主義」 または、「貢献度を基準とし内部公平性

を重視した役割・成果主義」(注:この考え方自体はどちらのマネジメントポリシーで

もとり得る)

· 勤続年数や年齢によらない、役割・職務に応じた処遇体系の全面的導入

· 職種別の一定の処遇差の設定

· ビジネスリーダー、ファンクションリーダーによる昇給・賞与ファンド枠内での昇給・賞

与決定

· 職種別人材採用

· 階層別研修に加えて職種別研修の重視

· 原則として近い職種間での異動(将来のリーダー候補は職種横断的な異動)

という施策群に、実効性や実現可能性が高い部分から徐々に移行していくことが求められて

くる可能性が高いのではないか。

政策面での対応可能性

冒頭に述べた通り、各業界・個別企業の置かれた状況、経営方針によってとるべき人材マネ

ジメント施策は様々であり、生き残りをかけた変革・競争力強化は一義的には個別企業の経

営努力に帰するべきといえる。一方で今後の我が国の企業の競争力強化を支えるための政

策的対応可能性について検討する事には一定の意義があると考えられ、その可能性につい

ていくつか論じていきたい。

第一に、外資系企業や IT・金融業界等を中心にいくつかの業界・職種では既にみられる役

割・職務に基づく報酬水準の業界・企業規模・地域横断的なデータベースの構築促進である。

既に民間ベースで報酬についてはいくつかの調査機関、データベースは存在するが、このよ

うなデータベースの構築強化を政策的に支援、ないし公的機関がこういったデータベースの

構築を主導することは、適切な情報を市場に提供し、情報面からホワイトカラー、専門人材の

人材市場形成をサポートすることにつながると考えられる。

加えて、企業の競争力強化の側面支援という観点で、特に上場企業の人材マネジメント、人

材育成のあり方に関して、ある種の指針やガイドラインを提示することも想定される。具体的

な策定にあたっては内容やガイドラインとしての位置づけに慎重な検討が必要だが、昨今の

経済環境・事業環境の変化が業種、企業規模を超えて共通の影響をもたらしていること、こ

の種の指針・ガイドラインの提示が企業経営のあり方に幅広く変化をもたらした先行事例も過

去あることを踏まえると、十分に検討に値するものと考えられる。

また、従来から一定の政策的対応はなされているものの、今後さらに拡大が予想される中高

年層の自発的・ないし非自発的な転職にあたっての再教育支援プログラムの提供も考えられ

る。実際に経験したことのある人材であれば容易に理解できることだが、長年にわたり一つの

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77

企業に勤務してきたことで「自社のやり方」を知らず知らずに身に着けている人材は、その企

業独自の考え方、仕事の進め方を暗黙の前提に考えがちであり、例えば大手一流企業でマ

ネジメントとして十分なキャリアを積んできた人材が、同一業界の他社に転出してまったく仕

事の進め方が異なり、早々に退職を余儀なくされるようなケースは少なからず見受けられる。

それらの状況を防ぐには、時には「アンラーニング(これまで学んできたスキル・仕事の進め

方の棄却)」を行う必要があり、様々な状況にフレキシブルに対応するようなマインドセットの

習得が重要となる。テクニカルスキルに対する支援にとどまらず、特に新たな組織へのフィッ

トに課題を抱えがちな中高年層に対しては、一定のマインド面への教育サポートも必要と考

えられる。

その他に、現行の退職金・年金に関する制度の一部等、勤続年数の長期化を事実上促進す

るような様々な現行法制度等については、今日的意義・妥当性を検証した上で、勤続年数に

対して中立的な制度への変更を行うことも検討の余地があるものと思われる。

ベストプラクティスを通じたラーニング

以上、政策的な対応可能性を述べてきたが、一義的には各企業の個別経営努力が も重要

と思われ、また求められる人材マネジメントの変革の方向性、あり方は個々の産業、企業に

よって、大きく異なり得る。このため次章では企業群の類型別に、どのような人材マネジメント

のあり方が求められるのか、いくつかの企業のあり方を類型化したベストプラクティスを提示

することで、その一助となることを目指したい。

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78

5. 実態調査から示唆されたベストプラクティス

実態調査から得られた情報を整理すると、会社の置かれた事業環境や組織運営上の理念の

類型により、求められる人事制度や周辺人事施策にはいくつかの共通項が見られる。これら

の共通項をベースに類型別のベストプラクティスを整理する。なお、本章で扱う類型は、実際

には人材マネジメントのあり方には極めて多様なバリエーションがある中で、敢えて今後の参

考として単純化してモデルとして提示するものである点についてはご留意頂きたい。

ベストプラクティスの類型

日本国内における人材マネジメントのベストプラクティスの類型を 2 軸で整理する。ここでは

整理の便宜上、横軸は実現する理念とし、縦軸はグローバルマネジメントという観点からの仕

組みの統合度とする。

図表 5-1: 各ベストプラクティスの位置づけ

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」まとめ(2017)

横軸の「実現する理念」は、内部公平性と外部競争力のどちらを重視するかという観点で分

類する。

グローバル共通

グローバル連携

ドメスティック

内部公平性重視(勤続観点)

内部公平性重視(貢献観点)

外部競争力重視

←実現する理念→

仕組みの統合度→

②-Aグローバルでの外部競争力重視の役割・職務主義

①-Bバランス型の

役割・職務主義

②-B国内での

外部競争力重視の役割・職務主義

①-A内部公平性重視の役割・職務主義

職能主義

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79

内部公平性を重視するグループは、一般的に労働市場とのやりとりが限定的である、または、

今後もやりとりはある程度限定的であると考え、新卒からのプロパー社員を事業運営上の中

核と定義している。コーポレートコミュニティにおける公平性、秩序を重んじており、内部公平

性に基づく処遇の実現を目指している。また、その中を、処遇決定上、より勤続年数に対する

公平性を重視するタイプ(年功重視)と貢献に対する公平性を重視するタイプ(日本的な成果

主義)に分類して考える。

一方外部競争力を重視するグループは、労働市場との人材のやりとりを積極的に行い、必要

な人材を確保し、事業上望ましい人員構成を実現しようという企業群であり、市場価値に基づ

く処遇を目指している。

縦軸の仕組みの統合度は、グローバル人材マネジメントをどの程度の強度で行っていくか、

という意思によって分類される。ドメスティックは、日本と海外の人材マネジメントを分離して行

っている、または海外事業が限定的で国内と整合を考える必要が低い、という意味である。

グローバル連携は日本本社が海外事業を積極的に展開しており、人材マネジメントについて

は国内の仕組みとグローバルの仕組みを結びつける場合を示す。具体的なイメージとしては、

「各国の等級の読み替えルールが設定されている」 「評価の枠組みは概ね同じである」 と

いう共通的なガイドラインが導入されている一方で、ローカルの特異性を配慮し、相当程度独

立的な運用を許容するケースである。例えば、グローバルで統一されにくい事項の代表事項

は、日本の夏冬に支払う賞与慣行や中央集権的な昇給・賞与管理があげられる。

グローバル統一とは、グローバルで統一的にビジネスを展開している状況下で、報酬水準は

各マーケットに従うものの、他の人事諸制度・人材マネジメントシステムは概ね共通な仕組

み・ツールを使っているケースである。

なお、企業規模別に見た場合、今回の調査結果でも役割・職務ベースの人材マネジメント(以

下、「役割・職務主義」を略称として併用)を導入している企業の比率に顕著な違いが見られ

なかったように、企業規模が小さいために役割・職務ベースの人材マネジメントを採用できな

いということは当たらない。(図表 5-2 参照)

むしろ企業規模が相対的に小さいからこそ成長に向けて、採用時の外部競争力強化・社内

活性化のために、役割・職務ベースの人材マネジメントを積極的に導入するケースも少なくな

く、ここで提示するベストプラクティスは企業規模を問わず適用が可能と考えられる。

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80

図表 5-2: 人事制度のベースとなる考え方:日本における従業員数別(日系企業)

(図表 1-4 再掲)

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」(2017)

前述の 2 軸で見ると、日本における人材マネジメントの類型は図表 5-1 に位置づけられてい

るように 5 つとなり、伝統的な職能資格を除く 4 つを類型別ベストプラクティスと考える。下記

に、それぞれのベストプラクティスに関して、代表的な企業イメージや今後の導入に適した企

業を整理する。

①-A: 内部公平性重視の役割・職務主義

【代表的企業イメージ】

· 内部公平性を重視しながらも、より貢献に基づく報酬を実現すべく、役割・職務主義を

管理職クラスに導入した日系企業

· 日系エクセレントカンパニーの多数、中堅企業で役割・職務主義に移行した企業の多

くはこのカテゴリーに属する

【制度の導入により目指すもの】

多くの日系企業が指向してきた組織の一体感を維持しながら、貢献と処遇のアンバラ

ンスの是正(貢献に対し内部公平的な報酬の実現)を目指す

【今後の導入に適した企業】

· 処遇が「年功的」であり、社内活性化に向けて貢献に基づく処遇を実現したい企業

50%

73%

51%

50%

56%

40%

75%

34%

18%

43%

50%

44%

60%

13%

16%

9%

6%

0%

0%

0%

13%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

500人未満

500人以上 1,000人未満

1,000人以上 5,000人未満

5,000人以上 10,000人未満

10,000人以上 25,000人未満

25,000人以上 50,000人未満

50,000人以上

役割・職務

職能資格

その他

n=156

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81

· 国内において外部労働市場からの人材調達の必要性が必ずしも高くない企業、また

は、ブランド力やベースの給与水準が十分に高く、外部から人材を獲得する際に、外

部競争力を意識する必要性が相対的に低い企業

· 国内事業の比率が高い、または、海外事業の独立性が強く、グローバルでマネジメン

トプラットフォームの統一を図るニーズが強くない企業

①-B: バランス型(内部公平性・外部競争力の両立)の役割・職務主義

【代表的企業イメージ】

· 欧米多国籍企業との競争を強く意識しており、事業のグローバル化に併せてグロー

バル人材マネジメント基盤を確立している一方で、日本法人においては日本型人材

マネジメントの要素を残す企業

· 同時に、ビジネス強化のために外部市場からの積極的に人材獲得を行う企業

· 人材マネジメントのグローバル化に先端的と言われる日系企業の多くがこのカテゴリ

ーに属する

【制度導入により目指すもの】

事業のグローバル化に併せ人材マネジメント基盤をグローバルで共通化する。同時

に外部マーケットからの人材確保に向け市場価値に基づく処遇を配慮する。一方で、

日本法人においては、日本型マネジメント一定程度継続し社内の一体感を維持する

【今後の導入に適した企業】

· 海外売上高比率が高く、共通的な商品・サービスを世界各国で提供し、欧米多国籍

企業と激しい競争をしている企業

· 日本国内の収益規模・組織規模が大きく、短期的に日本法人のマネジメントスタイル

に大きな変更を行うことが容易でない企業、変革のダウンサイドリスクが大きな企業

②-A: グローバル展開および外部競争力重視の役割・職務主義

【代表的企業イメージ】

· 海外売上高比率が非常に高く、また、共通的な商品・サービスを世界各国で提供し、

多国籍企業と激しい競争をしている企業

· ほとんどの欧米多国籍企業や、グローバル人材マネジメントに対して「先端的」な取り

組みを行うごく一部の日本企業がこのカテゴリーに属する

【制度導入により目指すもの】

世界中から優秀な人材を採用・維持・活用するために、グローバルで統一的に、役

割・成果に基づく市場価値に応じた処遇を行う。グローバルで共通の人材マネジメン

ト基盤を整備し、統合的な人材マネジメントを目指す

【今後の導入に適した企業】

· 欧米多国籍企業と競合しながら、共通的な商品、サービスをグローバルで統一的に

展開する企業

· 人材獲得源を主として外部市場から行う企業

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②-B: 日本国内での外部競争力重視の役割・職務主義

【代表的企業イメージ】

· 日本国内で急激に成長しているベンチャー・中堅企業

· 同時に、日系大企業や外資系企業に対抗できる優秀な人材を必要としている企業

· 海外売上高比率は必ずしも高くない

【制度導入により目指すもの】

事業拡大や新しい技術の創出・応用が可能な人材を採用・維持するため、高い外部

競争力の保持を目指す

【今後の導入に適した企業】

· 新しいビジネスモデル、サービス・商品の開発・運営により、新たな価値を創出してい

るが、企業規模や認知度の関係で、人材採用力の強化が優先課題となっている企業

· 事業の立ち上げや成長に向け、優秀な即戦力人材を多数確保する必要がある企業

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83

図表 5-3: 各ベストプラクティスの概要

項目 職能①-A

内部公平性

①-Bバランス・

グローバル連携

②-A外部競争力・

グローバル統合

②-B外部競争力

・国内

等級

制度

管理職 能力・経験に基づく

職能資格

役割・職務に基づく

等級、または、役割

と職能のハイブリッド

グローバルで共通の

役割・職務に基づく

等級(従来等級を読

み替える場合有)

グローバルで共通の

役割・職務に基づく

等級

役割・職務に基づく

等級(海外事業は余

り配慮しない)非管理職 職能資格

報酬制度職能給テーブル(号

俸制かレンジ制)職種共通のレンジ給

原則、職種共通レン

ジ。一部、別の雇用

区分やレンジを設定

する場合もある

職種別レンジを設定

する、または、職種

別に市場をベンチマ

ークし報酬決定

原則、職種共通レン

ジだが、格付、レンジ

幅、雇用区分で工夫

し外部競争力確保

評価制度

事実上、昇給や賞与

決定のために実施。

目標管理と行動評価

が通常。ファンド管理

のため、総合評価と

する際、相対化

事実上、昇給や賞与

決定のために実施。

目標管理と行動評価

が通常。ファンド管理

のため、総合評価と

する際、相対化

目標管理や行動評

価をグローバルで共

通化。国内は処遇と

結びつけるが、海外

はパフォーマンスマ

ネジメントの一環

パフォーマンスマネ

ジメントの一環として

実施 (業績を向上さ

せる働きかけ。処遇

との直接的な連動性

は弱い)

事実上、昇給や賞与

決定のために実施。

目標管理と行動評価

が通常。ファンド管理

のため、総合評価と

する際、相対化

採用 新卒中心 新卒中心新卒中心だが中途

採用も積極的

新卒・中途採用併

用。職種別採用中心

即戦力の中途採用

中心

教育OJT 中心。全体研

修、階層別研修重視

OJT 中心。全体研

修、階層別研修重視

OJT 中心。全体研修

や階層別研修重視

職種別研修と選抜研

修を重視

OJT や外部研修を

積極的に活用

配置

会社主導で(一部職

種除き)職種横断的

な異動

会社主導で(一部職

種除き)職種横断的

な異動

会社主導で(一部職

種除き)職種横断的

な異動

ジョブポスティングが

基本。サクセサーに

対しては計画的配置

異動はあまりしない

導入時の課題と

対応策

降格・降給は原則と

して行わない

降格・降給発生時の

調整給等の激変緩

和措置

降格・降給発生時の

調整給等の激変緩

和措置

レンジオーバー者の

対応(昇降給率でコ

ントロール)

降格・降給発生時の

調整給等の激変緩

和措置

出所:マーサージャパン「役割・職務に基づく人材マネジメント調査」まとめ(2017)

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①-A: 内部公平性重視のベストプラクティス

1 つ目は、内部公平性の実現を目的としたベストプラクティスの紹介である。

日系企業においては、既に論じてきたように、長期雇用・組織内構成員のコミットメント強化の

ため、長年にわたり社員を一定程度「年功的」に処遇する傾向があったが、長年の積上げマ

ネジメントの結果、貢献と処遇との乖離が激しくなり、多くの企業で「年功的な配分になり過ぎ

内部公平性が低くなっている」という問題意識の基に、役割・職務主義に基づく人材マネジメ

ントに切り替えるケースに採用される仕組みである。また、年功主義により人件費が高止まり

しているようなケースにも、中長期的な生産性向上・人件比率の適正化に向け導入されるケ

ースも多い。

既に論じてきたように、日本における多くの優良企業が採用している仕組みでもある。但し、

新卒採用による人材確保と長期勤続が前提となっており、外部労働市場に関しては、参考程

度に参照することはあるものの、外部労働マーケットに報酬水準を合わせる、という意識は必

ずしも高くない。

役割・職務に応じた報酬にすることで配分をより貢献に応じたものにする一方で、多くのケー

スにおいては、年功に対する配慮も一定程度行われ、日本企業の良さである組織の一体感、

コーポレートコミュニティを壊さない配慮がされているケースがほとんどである。

【等級制度】 管理職は役割・職務、非管理職は職能

内部公平的な配分を実現するために、現在の貢献を序列化した上で報酬を支払うベースとし

て、管理職クラスに対しては、役割・職務による等級制度と報酬制度を導入することが基本と

なる。外部市場は参照し参考にはするものの、人材の流出入が多い前提ではないため、完

全な一致は目指さない。

一方、非管理職に関しては、育成期間と位置づけて職能的な制度設計・運用を行う。

なお、管理職クラスに関しても職能資格を残し、ハイブリッド型の制度とすることもある。この

場合、貢献だけでなく、一定程度、年功的な要素も残り、よりマイルドな味付けとなり、役割・

職務主義を採用した際に良く発生する異動の問題が小さくなる。

管理職クラスの役割等級の数に関しては、異動の際に頻繁に降格が発生しないように、少な

目に設定することが普通であり、多くの場合、3~5 等級程度とする。非管理職クラスも多くの

場合、3~5 等級程度となるが、管理職になることが少ない技能職等が存在する場合は、そ

の職群のみ、より細分化することは珍しくない。

役割・職務等級のベースとなる仕事の定義に関しては、等級別、職種別の定義として大まか

に設定され、個別のジョブディスクリプションは設定しない。

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【報酬制度】 職種共通レンジ

基本給に関しては、管理職、非管理職ともに等級別のレンジ給であり、下限未満と上限超過

は原則として認めない。より高い役割を担っているものが、より低い役割を担っているものよ

り基本給が低くなるケースを少なくするため、各等級のレンジの重複はある程度限定的にとど

めることが多い。(一方、移行時や制度導入後の報酬の増額、減額幅を抑制するために、一

部の階層では、報酬レンジを意図的に一定範囲重ねるケースも多い)

管理職クラスに関しては、役割・職務によって処遇する方針ではあるが、役位やキャリアレベ

ル等に応じた報酬とすることが主旨であり、内部公平性を重視するため、職種による損得が

無いように、職種別給与とはしないことが通例である。職種横断的な配置が前提になってい

ることも、職種別給与としない理由の一つとなっている。つまり、職種が違っても、個々の職種

の中で同じ程度重要な役割を担う場合には給与差は発生しない。新卒一括採用が前提なの

で、公平な機会を提供するため、キャリアによる損得は出ないようにするという思想が背景に

ある。

賞与については日系企業の通例である夏冬の2回のボーナスを維持するが、会社業績、個

人の貢献の大きさによって、メリハリをつける運用となる。但し、一定割合(一定月数)は深刻

な業績不振にならない限りに支給するような、事実上の固定支給部分を残すことが多い。

【評価制度】 目標管理・行動評価の採用/処遇決定への活用

評価に関して言えば、ほとんどの企業で、経営計画がカスケードされる形で決定される個人

の目標の達成度を測定する目標管理と各層に求められるコンピテンシー(行動評価)の二本

立てであり、それぞれの評価でレーティングが行われ、昇給、賞与、昇格の決定に使用され

る。目標の達成度や行動の評価そのものは絶対評価で行われ、総合評価にする際に相対化

する手法が も良く使われている。なお、この総合評価により、賞与、昇給を算式にて決定す

ることが多い。

【採用・教育・配置】 公平性と一体感を重視

採用に関しては、内部の公平性、一体性を保つため、研究職・技術職を除けば、職種別採用

は行わず、人事異動は会社事由で頻繁に行われ、会社全体の一体感醸成に寄与する。

教育に関しても教育機会の公平性、一体性を保つため、全体研修や階層別研修を重んじる。

但し現実的に、欧米グローバル企業と競争しながら、グローバルビジネスや新規ビジネスの

立ち上げ、リードできる次世代リーダー確保の必要性から、選抜研修やサクセションプログラ

ムは別途実施する。

【想定される課題と対応策】 激変緩和措置の実施

このような人材マネジメントを設計・導入し運用を行うためには、一般的に以下のような課題

がある。

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86

(制度導入時)

· 役割の大きさの測定が難しい

· 制度移行に伴う再格付けの結果、個人の格付が下がり得る

· 制度移行によって、個人の給与が下がり得る

· 組合や従業員とのコミュニケーションが難しい

(運用時)

· 異動の際に降格・降給が発生し得る

それぞれの課題に対しては、以下のような対応をしている場合が多い。

役割の大きさの測定

「役割の大きさの測定」という課題に関しては、外部専門機関の確立された役割格付の方法

論を用いて役割の大きさを測定することが一般的対応策として広く見受けられる。(図表 5-4

参照)外部機関の採用が難しい/好まれないケースにおいては、自社内で等級別に求めら

れる役割レベルを定義し、それに基づき何らかの基準で格付けを行い、運用を通じてブラッシ

ュアップしていく方法が考えられる。

制度移行に伴う降格・降給

「制度移行に伴う再格付けの結果、個人の格付が下がる」「制度移行によって、個人の給与

が下がる」という2点に対しては、痛みを伴うが、もともと内部公平性を保つため、また、人件

費の適正化を目的としているので、それを避けずに実施する。

但し、給与減額に関しては激変緩和措置をとることになる。個々人の現基本給が新たに設定

されるレンジを超過していて本来は落とさなければいけない金額に関しては、一度は調整給

として支給し、時間の経過とともに徐々に削減していくことが通常である。(例えば、月例基本

給の 10%を上限に既定の値まで毎年減額調整を行っていく) また、仮に現基本給を維持す

る場合でも、レンジ超過者に対する特別な昇給・降給ルールを設定し、個人の評価に基づき、

長期的にレンジ内に収斂させていく方法がとられる。

組合・従業員コミュニケーション

「組合や従業員とのコミュニケーションが難しい」という課題への取り組みの必要性は会社に

よって大きく異なる。従業員や組合とのコミュニケーションは、短いところで 2 カ月、長いところ

で 1 年程度かけている。労使の協力関係が非常に高いレベルで実現している会社に関して

は、組合に対して早目に参画の機会を提供することで、順調な導入を目指すことが望ましい。

そうでない場合は、導入主旨の説明をビジネス事由からしっかり行い、適切な移行措置の提

示とともに理解を求めることが必要となる。日系企業は一般的に労使対決を嫌うために、ここ

で譲歩をし過ぎて、本来の主旨が叶わないことがあるので対応は慎重を要する。

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87

運用に伴う降格・降給

制度の運用後発生する「異動の際に降格・降給が発生し得る」という課題への取り組みは各

社が特に配慮している事項である。

設計段階における具体的な手法・工夫としては、

「役割等級に加えて職能資格も残す」

「報酬レンジを広めに設計し、降格時も降給が起きにくいようにする」

「等級数を少な目にし、降格が発生しにくいようにする」

である。

また、運用時は、

「できるだけ降格が発生しない異動を行う」

「理由がつく状況であればポジションの位置づけをあげた上で異動をかける」

「降給の際に激変緩和措置を採る」

という施策になる。

ただ、いずれも、貢献に応じた配分にしよう、という原理原則からは外れる側面があり、どの

程度の措置を採るかは、十分な検討が必要となる。

【まとめ】

当ペストプラクティスの本質は、日系企業が現在の組織の一体感を大きく崩さない中で、配分

をより貢献に見合ったものにし、より公平で業績向上へのインセンティブを高める、ということ

である。場合によっては、将来のグローバル一体運営や人材の流動化、すなわち、市場価値

の導入の準備となる。

図表 5-4: 役割格付の方法論(例)

出所:マーサージャパン職務評価ツール「International Position Evaluation」

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88

①-B: バランス型(内部公平性・外部競争力の両立)のベストプラクティス

2 つ目は、グローバルで統一的な人材マネジメントを目指し、また、市場価値に基づき積極的

に外部人材の登用を行っている日系企業が、グローバルプラクティスに完全に準拠すること

が難しいため採用する「日本型人材マネジメントとグローバル人材マネジメントの中間的なポ

ジションに位置づけられるベストプラクティス」である。

等級や評価の枠組みはグローバルで揃えるが、各国における慣習も尊重する。日本の人材

マネジメントは諸外国と比較しユニークな点が多いが、例えば、夏冬の賞与、評価と昇給、賞

与、昇格のタイトな結びつき、中央集権的な人事権等は、日本独自ルールとして維持され、海

外では国によってニュアンスは変わるもののグローバルでの標準的なマネジメントを実施す

る。

また、外部競争力を獲得する観点からも、社内公平性(貢献に応じた処遇)を実現するという

観点からも、役割・職務に基づく等級・報酬制度を導入する。

全体的には、事業のグローバル展開を重視し、できる限りグローバルプラクティスを意識した

人材マネジメントを行うが、国内事業や日本法人の規模社員数が相当程度大きいため、従来

から大事にしてきた日本型人材マネジメントも残していき、国内においては日本的な組織の

一体感を維持していく、というイメージになる。

なお、現状、日本で人材マネジメントのグローバル化が進んでいる大企業群は、この類型を

採ることがほとんどである。

【等級制度】 役割・職務ベースの等級体系(グローバルグレード)の導入

外部競争力(市場価値に基づく処遇)、内部公平性(貢献に基づく処遇)のいずれの観点から

も役割・職務(または役割・職務レベルと強く結びついたキャリアレベル)による等級制度(グ

ローバルグレード)と報酬制度を導入することを基本とし、優秀人材の確保・維持を強く意識し

て、市場価値を念頭に置いた報酬水準とする。

この等級制度(グローバルグレード)はグローバル展開され、他国事業所に所属する従業員

に関しても、グローバルグレードを付与するか、現状の等級制度の読み替えることでグローバ

ルグレードと対応付ける。付与されたグレードは、要員計画、グローバルモビリティ(グループ

人材の地域を超えた異動)、選抜トレーニング、報酬ガバナンス等に活用される。

【報酬制度】 外部競争力を意識/職種共通レンジ

国内においては、報酬レンジは外部競争力を意識して設定する一方で職種別の差は設けな

いことが多い。その理由は、外部からの採用を積極的に行うといっても、新卒から勤務を続け

る社員が多数存在し、また、職種横断的異動が前提となっているため、職種により報酬期待

値を変えることは、多くの社員に不公平を感じさせるためである。

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89

そのため、ベンチマークをして外部報酬水準に合わせる場合でも、日系企業を母集団とした

一般的なマーケットバリューに対して水準を設定していくため、一部の職種(高度専門職等)

では社内で設定している報酬水準が十分でないことがある。この場合は、別途、高度プロフェ

ッショナルの雇用区分を設ける等、特別対応をすることになる。

基本給に関しては、管理職、非管理職ともに等級別のレンジ給であり、下限未満と上限超過

は原則として認めない。より高い役割を担っているものが、より低い役割を担っているものよ

り基本給が低くなるケースを少なくするため、各等級のレンジはあまり重ねないようにする。

(一方、制度移行時に発生する報酬増額、減額の総額を抑制するために、半分程度は重なる

ことが多い)

賞与に関しては、夏冬の2回のボーナスを維持するが、会社業績、個人の貢献の大きさによ

って、大きくメリハリをつける運用となる。但し、一定割合(一定月数)、事実上の固定支給部

分を残すことが多い。

報酬制度に関して言えば、ある程度考え方を揃えることはあるが、水準以外に関しても日本

の慣行の特殊性が高いため、日本と海外は同じ仕組みとしていかない。

【評価制度】 目標管理・行動評価の採用/処遇決定への活用

評価に関しては、①-A 内部公平性重視のケースと同様、国内においては、経営計画がカス

ケードされる形で決定される個人の目標の達成度を測定する目標管理と各層に求められるコ

ンピテンシー(行動評価)の二本立てで評価を行う。目標管理、行動評価、それぞれでレーテ

ィングが行われ、昇給、賞与、昇格の決定に使用される。目標の達成度や行動の評価そのも

のは絶対評価で行われ、それを総合評価にする際に相対化する手法が も良く使われてい

る。なお、この総合評価は、賞与、昇給を直接結びついていることが通常である。

このカテゴリーで重要なのは評価の枠組み、例えば、目標管理のフォームやガイドライン、行

動評価を、グローバル共通とすることで、グローバル一体経営を後押しすることだ。これらが

グローバル共通となることで、事業目標のカスケードが国を超えて行えるようになる、個々人

のパフォーマンスが可視化され国を跨ぐ異動がスムーズになる等、中期的には様々なベネフ

ィットが期待できる。

なお、日本では人事権のあり方が中央集権的なため、仮に目標管理や行動評価をグローバ

ルで統一するとしても、近年、パフォーマンスマネジメントの中で世界的に話題になっているノ

ー・ レーティング(明示的な人事評価結果を決定/通知せず、きめ細かなコミュニケーション

を通じたフィードバックや育成を行う手法)を全面的に採用することは難しいことが想定される。

具体的には、昇給・賞与・昇格をマネージャーがファンドの中で決定する、という手法を採用

することにハードルがあるためである。

【採用・教育・配置】 公平性と一体感を重視

採用、教育、配置に関しては、①-A 内部公平性重視のケースに準じたものとなる。

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90

【想定される課題と対応策】 激変緩和措置等による対応

激変緩和措置に関しても、採用・教育・配置と同様、①-A 内部公平性重視のケースに準じた

ものとなる。

【まとめ】

当ベストプラクティスにおいては、グローバル共通の枠組みとして、グローバルグレーディング

と評価(パフォーマンスマネジメント)の枠組みを導入し、グローバル人材マネジメントを実施

する 低限の基盤を作る。国内においては、グローバルグレードや市場価値を導入しながら

も、他の仕組みに関しては、概ね、日本的な仕組みを維持する考え方であり、全体的にはグ

ローバルプラクティスの一部エッセンスを日本型の役割・職務主義と融合させた形と言える。

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91

②-A: グローバル展開および外部競争力重視のベストプラクティス

3 つ目は、欧米多国籍企業やグルーバル人材マネジメントに関して日系企業として非常に先

端的な企業が実施しているグローバル展開および外部競争力を重視したベストプラクティス

である。

このプラクティスでは、等級体系、報酬構成、評価の考え方、タレントマネジメントの考え方、

HRIT 等は、グローバルで統一される。要員計画、グローバルモビリティを含む異動・配置、ト

レーニング、昇給・賞与決定等、全ての人事運用は、同一の管理基盤の上で行われ、グロー

バル本社から方針の展開や状況のモニタリングが容易に行える環境が整う。

管理基盤の共通性は高いものの、運用上の柔軟性を保つために、多くの人事権は現場が持

ち、細かな運用は相当程度、各国の各事業部門や機能部門に任されている。現場サイドで重

要な人事上の意思決定を行うため、HR ビジネスパートナーが各部門の人事関連業務をサポ

ートする。

例えば、個人の昇給決定、賞与決定等は、グローバル本社が総ファンドを決定後、各事業部

門、機能部門にそのファンドを配分し、ビジネスリーダー、機能リーダーが、そのファンド内で

任意に個人の昇給額・賞与額を決定する。

このプラクティスにおいては、事業ニーズに従って必要な人材を確保・活用するという思想が

強く、外部労働市場とのやりとりが前提となるため、定期的に外部市場をベンチマークし報酬

水準に反映することが重要となる。そのため、外部競争力の確保に親和性が高い、役割・職

務に基づく等級・報酬制度を導入している。

【等級制度】 グローバル統一の等級体系(グローバルグレード)の導入

市場価値に基づいた外部競争力のある配分を実現するために、管理職層、非管理職層の双

方に、役割・職務(または役割・職務レベルと強く結びついたキャリアレベル)による等級制度

と報酬制度を導入することが基本となる。人材の確保、また、優秀人材のリテインを強く意識

し、報酬水準を常にベンチマークし、マーケット水準に基づいた報酬を提供する。

等級数に関しては、グローバル組織の全社員を格付けるため、10 等級程度以上はあること

が多い。但し、金融業の一部の企業のように、等級を大まかなキャリアのレベルを表すものと

位置づけ、報酬をジョブ(個別の職務)やジョブファミリー(職種群)毎にマーケット水準を直接

参照し決定している企業に関しては、全社で 6 等級程度と少ない数で運用することもある。

役割・職務等級のベースとなる仕事の定義に関しては、採用、配置、等級決定のベースとし

て、職務別にジョブディスクリプションが作成されることが多い。

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92

【報酬制度】 外部競争力 優先の仕組み

報酬の基本的な仕組みは世界的に統一されていることが通常であり、基本給とインセンティ

ブ(賞与)から構成されていること多いが、上位等級者には LTI(長期的インセンティブ)が別

途支払われることがある。インセンティブの基本給に対する標準支給率は等級が上がる程高

くなる。グローバル共通で手当の設定をしていることはほとんど無いが、各国の福利厚生の

扱いで一部手当が支払われることもある。

基本給に関しては、管理職、非管理職ともに等級別職種別のレンジ(または上限、中位、下

限のガイドライン)を設定することが多い。もう一つの方法としては、レンジは設定せず、等級

別職種別の市場価値(マーケットバリュー)や個別職務(ジョブ)の市場価値(マーケットバリュ

ー)を参照することで、報酬を決定する方法があげられる。

当ベストプラクティスにおいては、人材は流動するものであり、個人の意思でキャリア形成す

るものなので、社内公平性のために職種別の報酬水準を同一にする必要性は低く、むしろ職

種が違う場合は需給バランスが違うため報酬水準が違うのは仕方無いと考える。また、前職

の影響で同じ仕事でも報酬差がつくのも、限度はあるものの仕方がないと考える。

賞与に関しては、期末に年1回のインセンティブを支給するケースが も多い。会社の業績、

所属組織の業績個人の貢献の大きさによって、大きくメリハリがつき、ゼロもあり得る。一般

に基本給に対するターゲット賞与(業績達成時の標準賞与)は、等級が上になる程高く設定

する。職種別にターゲット賞与の比率を変更することもある。(例:営業職は高めにする)

昇給・賞与に関しても、グローバルで統一的なプロセスで決定している。例えば昇給の例を挙

げると、グローバル本社が各国別にマーケットの標準昇給率や昇格昇給率を確認の上、各

国各組織の昇給率(実質的に昇給ファンド)を設定し、各国のラインマネージャーが市場報酬

水準と個人のパフォーマンスを見て、昇給ファンドの中で個人の昇給を任意に決定する。賞

与に関しても同様であり、グローバル組織全体のパフォーマンスにより全体の賞与ファンドを

決定した後、各国、各事業の業績により、それを配分。各国、各事業のビジネスリーダー、フ

ァンクションリーダーはそのファンドの中で個々人の賞与を任意に決定するという仕組みであ

る。このような仕組みのため、総合評価結果が無くても、昇給・賞与を決定でき、近年脚光を

浴びているノーレーティングの動きにつながっている。

【評価制度】 パフォーマンス向上を働きかけるツール

評価に関して言えば、近年はパフォーマンスマネジメントのツール(パフォーマンス向上のツ

ール)として捉えられており、昇給・賞与・昇格と直接的な結び付きを弱めている。「レーティン

グを廃止し、目標管理、コンピテンシーや類似の枠組みを活用しながら、カジュアルで頻度の

高いコミュニケーションとフィードバックを通じて、パフォーマンスの向上を図る」というのが

新のスタイルだ。一方、昇給・賞与・昇格の処遇決定に関しては、ビジネルリーダーやファンク

ションリーダーが、当該個人の市場価値やパフォーマンスを確認しながら、与えられたファンド

(予算)の中で決定する。

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【採用・教育・配置】 専門性の強化とサクセションマネジメント

採用に関しては、必要な能力を外部から買う、また、選択した専門キャリアを歩む個人を採用

するという考え方がベースになるので、職種別採用が基本となる。従って、異動はあまり発生

せず、異動する場合も、同一ジョブファミリー(職種群)の中で類似の職種に就くことが多い。

但し、ゼネラルマネージャーとして高いポテンシャルを持つ社員に関しては、将来のマネジメ

ント候補として、ジョブファミリー(職種群)を跨ぐ異動をサクセションマネジメントの一環として

行うことがある。自主性を活かした個々人のキャリア形成にチャンスを提供すべくジョブポス

ティング(公募)を活用した異動も実施する。

教育に関しては、職種別にキャリアップの機会を与える職種別研修とグローバル組織をリー

ドできる次世代リーダーの必要性から選抜研修やサクセションプログラムを重視して実施する。

【想定される課題と対応策】 リテンション重視の導入と運用

内部公平性重視の人材マネジメントを設計・導入する際と同様に、外部競争力を実現する人

材マネジメントを設計・導入し運用を行うためには、一般的に以下のような課題がある。

(制度導入時)

· 役割の測定が難しい

· 制度移行に伴う再格付けの結果、個人の格付が下がり得る

· 制度移行によって、個人の給与が下がり得る

· 組合や従業員とのコミュニケーションが難しい

(運用時)

· 異動の際に降格・降給が発生し得る

それぞれの課題に対しては、以下のような対応をしている場合が多い。

役割の大きさの測定

「役割の測定が難しい」という課題に関しては、前述のとおり、 も有力な方法としては、外部

の確立された手法を用いることだ。特に当プラクティスにおいては、外部マーケットと整合的な

役割評価を行う必要があり、報酬サーベイを実施・提供している企業の役割評価を使用する

ことが通常となる。

制度移行に伴う降格・降給

「制度移行に伴う再格付けの結果、個人の格付が下がる」「制度移行によって、個人の給与

が下がる」という 2 点に対しては、一般的には、外部競争力を重視するマネジメントでは、人

はキャリア上、不利益を与えると辞める前提に立つので、必要な社員を退職に誘引しないよう

穏やかな措置となる。

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再格付で降格となりそうな場合でも、戦力となっている社員に関しては降格扱いにしないこと

が多く、仮に降格させる場合でも、基本給は維持される。降格の場合、適用される報酬レンジ

が下がることで、レンジオーバーになり、「昇給しにくい」「降給しやすい」状況は発生するもの

の、急激な給与減額は行わないことが一般的であり、また、レンジをオーバーしている際も、

その金額を調整給として明示しないことが通常である。

但し、個人の力不足で降格にせざるを得ないケースは、厳しい措置が取られる。

Performance Improvement Plan (PIP) が実行され、改善されない場合は自主退職を勧め、

それが難しい場合は配置換え等を実施することになる。

組合・従業員コミュニケーション

「組合や従業員とのコミュニケーションが難しい」という課題に関する対応については、「内部

公平性重視のベストプラクティス」と大差ないため、そちらを参照頂きたい。

但し、降格、降給を起こすのは、パフォーマンスが芳しくない社員に対して PIP を実施し、か

つ、改善が見られなかったケースであり、また、人件費の適正化を目的としていないケースが

多いため、相対的に組合交渉のハードルが低いことが多い。

運用に伴う降格・降給

制度の運用後発生する「異動の際に降格・降給が発生し得る」という課題への取り組みは、

個人のパフォーマンスが問題である場合と組織都合で適切なポストが提供できない場合とで

対応が異なる。個人のパフォーマンスが問題の場合は降格する前に PIP がかかり、改善を

促した後、改善が見られない場合は、自主退職を勧めることになる。

組織都合によりポストが無くなる場合でも、人は辞めるという前提に立っているため、戦力で

ある社員は降格扱いにしないことが多く、仮に降格させることになっても、基本給は維持され

る。前述のとおり、降格で等級が下がると、レンジオーバーになり「昇給しにくい」「降給しやす

い」状況になるが、急激な給与減額は行わない。

なお、グローバル展開および外部競争力を重視したベストプラクティスを採用する際は、日本

以外の多くの国がこのスタイルであるため、等級体系、パフォーマンスマネジメントの枠組み、

報酬構成等をグローバルで統合することが可能であり、各国の法律・習慣に反しない限りに

おいて、統一的なマネジメントを実現することが比較的容易である。

【まとめ】

当ベストプラクティスの本質は、役割・職務を軸に外部マーケットと処遇を連動させていくこと

と処遇決定権の現場への移譲であり、それらによって、人材確保・リテンション力を高めること

にある。また、これは海外で良く採用されている考え方であり、外部マーケットとの連動ととも

に、グローバル人材マネジメント基盤を確立することにつながる。

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②-B: 日本国内での外部競争力重視のベストプラクティス

4 つ目は、日本国内において急激に成長しているベンチャー・中堅企業におかれて採用され

ている、国内における人材確保に向けて外部競争力を重視したベストプラクティスの紹介で

ある。

このカテゴリーにおいて も重視されているのは、「競争に必要なタレントを確保する」というこ

とであり、事業の成長に必要な高度専門家や優秀なビジネスリーダーを外部から採用できる

ことにプライオリティを置いている。同時に、実力主義、信賞必罰的な要素も強く、「人件費を

適切なレベルに維持する」ことにも意識が強い。

なお、多くの場合、事業の中心が日本国内であるため、海外のマネジメントとの整合を強く意

識はしていない。

一般的に、外部競争力を重視するために、また、貢献に見合った支払を実現するために、役

割・職務に基づく等級制度・報酬制度となっている。しかしながら、その他の点については、比

較的規模が大きくない成長企業であることが多く、人材マネジメントにおいても、個々の企業

が独自の工夫をしている。

【等級制度】 役割等級制度の導入

等級は、優秀な人材の採用についての外部競争力を担保するために、役割・職務に基づく等

級制度を導入している。報酬も役割・職務ベースに支払われており、労働市場のベンチマー

クを行って報酬水準を決めている。高度の専門職や実績のあるビジネスマネージャーを、通

常制度の範囲内で受け入れることが難しい場合も、雇用区分を別にする、等級格付を優遇す

る等の手段を講じ、人材確保につなげる柔軟性がある。

【報酬制度】 柔軟性のある運用

このカテゴリーの企業における報酬制度の特徴は一概に言えないが、人材を確保するため

に様々な工夫がされている。等級別に基本給のレンジを設定することが標準的ではあるが、

例えば、報酬レンジの幅を広めに設定する、職種別報酬レンジを準備する、高度専門職向け

のレンジを準備する等の優秀人材を中途採用できる工夫をしていることが多い。

賞与に目を向けると、日系企業的な夏冬の賞与を採用しているところが多いが、外資系企業

のような年間インセンティブを採用していることもある。

リテンションに向けて、株式報酬を含む LTI(長期的インセンティブ)や持株会を採用すること

もある。

【評価制度】 目標管理・行動評価/処遇決定への活用

評価に関しては、①-A 内部公平性重視のケースと同様、ほとんどの会社で、経営計画がカス

ケードされる形で決定される個人の目標の達成度を測定する目標管理と各層に求められるコ

ンピテンシー(行動評価)の二本立てである。但し、複雑な仕組みを嫌い目標管理のみしかな

い会社やレーティングのみしている会社も散見される。通常は、目標管理、行動評価のそれ

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ぞれでレーティングが行われ、昇給、賞与、昇格の決定に使用される。目標の達成度や行動

の評価そのものは絶対評価で行われ、それを総合評価にする際に相対化する手法が も良

く使われている。なお、この総合評価は、賞与、昇給を直接結びついていることが通常である。

【採用・教育・配置】

採用に関しては、基本的には、専門性を持った人材の外部からの採用が中心となる。その結

果、異動についても原則として、同一の職種や部門内で実施する。企業規模という観点では

必ずしも大きく無く、余裕があまりないため、体系的な教育研修に関してはあまり投資されて

いないケースも多いが、能力・意欲の高い人材に対しては継続的に新しいチャンスやチャレン

ジを提供することで、リテンションを図っている。

【想定される課題と対応策】

当プラクティスを導入・運用する際の課題と対応策は、①-A、②-A に記述した課題と対応策

に準じる。

【まとめ】

当ベストプラクティスは、日本型人材マネジメント、グローバル人材マネジメント双方の影響を

受けながらも、成長志向の日系企業が独自の工夫をすることで発生したものと言える。人材

を確保・有効活用を目指し、外部競争力の確保を優先課題としながら、会社や事業の状況に

合わせ、各社様々な工夫をしている。

以上

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添付資料 1:アンケート調査結果

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役割・職務に基づく人材マネジメントに関する実態調査

調査実施期間: 平成 29 年 10 月 10 日~11 月 3 日

1.会社概要およびプロフィール

回答数 % 回答数 % 回答数 %鉱業 2 0.8% 2 1.3% 0 0.0%建設業 3 1.2% 2 1.3% 1 1.2%⾷料品、飲料・たばこ・飼料製造業 7 2.9% 5 3.2% 2 2.3%繊維⼯業 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0%⽊材・⽊製品、パルプ・紙・紙加⼯品製造業 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0%化学⼯業製品・医薬品・化粧品 29 12.0% 16 10.3% 13 15.1%⽯油製品・⽯炭製品製造業 1 0.4% 0 0.0% 1 1.2%窯業・⼟⽯製品製造業 3 1.2% 3 1.9% 0 0.0%鉄鋼業 3 1.2% 3 1.9% 0 0.0%⾮鉄⾦属製造業 5 2.1% 5 3.2% 0 0.0%⾦属製品製造業 4 1.7% 4 2.6% 0 0.0%機械製造業(汎⽤機械器具、⽣産⽤機械器具、業務⽤機械器具) 16 6.6% 10 6.4% 6 7.0%電気機械器具製造業 21 8.7% 20 12.8% 1 1.2%情報通信機械器具、電⼦部品・デバイス・電⼦回路製造業 7 2.9% 5 3.2% 2 2.3%輸送機械器具製造業 23 9.5% 17 10.9% 6 7.0%その他の製造業 21 8.7% 11 7.1% 10 11.6%電気・ガス・熱供給・⽔道業 1 0.4% 1 0.6% 0 0.0%情報通信業 9 3.7% 4 2.6% 5 5.8%情報サービス業 14 5.8% 8 5.1% 6 7.0%運輸業 10 4.1% 8 5.1% 2 2.3%卸売業、⼩売業 51 21.1% 25 16.0% 26 30.2%⾦融業、保険業 3 1.2% 2 1.3% 1 1.2%不動産業 1 0.4% 1 0.6% 0 0.0%物品賃貸業 1 0.4% 1 0.6% 0 0.0%宿泊業、飲料サービス業 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0%教育、学習⽀援、医療、福祉、複合サービス業 2 0.8% 1 0.6% 1 1.2%サービス業 5 2.1% 2 1.3% 3 3.5%Total 242 156 86100%⽇本資本 152 62.8% 152 97.4% 0 0.0%100%外国資本 78 32.2% 0 0.0% 78 90.7%⽇本企業と外国企業との合弁企業(⽇本資本がマジョリティ) 4 1.7% 4 2.6% 0 0.0%⽇本企業と外国企業との合弁企業(外国資本がマジョリティ) 8 3.3% 0 0.0% 8 9.3%Total 242 156 86⽶国 47 54.7% 0 0.0% 47 54.7%ドイツ 6 7.0% 0 0.0% 6 7.0%イギリス 4 4.7% 0 0.0% 4 4.7%フランス 5 5.8% 0 0.0% 5 5.8%スイス 5 5.8% 0 0.0% 5 5.8%その他欧州 12 14.0% 0 0.0% 12 14.0%中華⼈⺠共和国 (⾹港・台湾除く) 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0%インド 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0%シンガポール 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0%その他アジア 2 2.3% 0 0.0% 2 2.3%中南⽶ 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0%オセアニア 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0%その他 5 5.8% 0 0.0% 5 5.8%Total 86 0 86

参加企業全体 ⽇系企業 外資系企業

Q1貴社の業種をご回答ください

Q2貴社の企業形態をご回答ください

Q3マジョリティが外国資本の場合の主要な⺟国籍をご回答ください

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回答数 % 回答数 % 回答数 %10億円以上 155 64.1% 118 75.6% 37 43.0%3億円以上 10億円未満 40 16.5% 20 12.8% 20 23.3%1億円以上 3億円未満 18 7.4% 7 4.5% 11 12.8%5千万円以上 1億円未満 15 6.2% 8 5.1% 7 8.1%5千万円未満 14 5.8% 3 1.9% 11 12.8%Total 242 156 861兆円以上 39 16.1% 27 17.3% 12 14.0%5,000億円以上 1兆円未満 24 9.9% 19 12.2% 5 5.8%1,000億円以上 5,000億円未満 60 24.8% 39 25.0% 21 24.4%500億円以上 1,000億円未満 27 11.2% 20 12.8% 7 8.1%100億円以上 500億円未満 55 22.7% 37 23.7% 18 20.9%50億円以上 100億円未満 17 7.0% 5 3.2% 12 14.0%10億円以上 50億円未満 14 5.8% 6 3.9% 8 9.3%10億円未満 6 2.5% 3 1.9% 3 3.5%Total 242 156 8610%以上 25 10.3% 14 9.0% 11 12.8%5%以上 10%未満 50 20.7% 27 17.3% 23 26.7%0%以上 5%未満 79 32.6% 48 30.8% 31 36.1%おおむね横ばい 58 24.0% 46 29.5% 12 14.0%0%未満 30 12.4% 21 13.5% 9 10.5%Total 242 156 8680%以上 32 13.2% 13 8.3% 19 22.1%60%以上 80%未満 25 10.3% 20 12.8% 5 5.8%50%以上 60%未満 21 8.7% 18 11.5% 3 3.5%40%以上 50%未満 24 9.9% 21 13.5% 3 3.5%20%以上 40%未満 38 15.7% 32 20.5% 6 7.0%20%未満 102 42.2% 52 33.3% 50 58.1%Total 242 156 86500⼈未満 36 14.9% 25 16.0% 11 12.8%500⼈以上 1,000⼈未満 24 9.9% 18 11.5% 6 7.0%1,000⼈以上 5,000⼈未満 60 24.8% 48 30.8% 12 14.0%5,000⼈以上 10,000⼈未満 26 10.7% 13 8.3% 13 15.1%10,000⼈以上 25,000⼈未満 36 14.9% 22 14.1% 14 16.3%25,000⼈以上 50,000⼈未満 22 9.1% 15 9.6% 7 8.1%50,000⼈以上 100,000⼈未満 17 7.0% 7 4.5% 10 11.6%100,000⼈以上 200,000⼈未満 13 5.4% 3 1.9% 10 11.6%200,000⼈以上 8 3.3% 5 3.2% 3 3.5%Total 242 156 86500⼈未満 93 38.4% 38 24.4% 55 64.0%500⼈以上 1,000⼈未満 30 12.4% 22 14.1% 8 9.3%1,000⼈以上 5,000⼈未満 71 29.3% 51 32.7% 20 23.3%5,000⼈以上 10,000⼈未満 16 6.6% 14 9.0% 2 2.3%10,000⼈以上 25,000⼈未満 19 7.9% 18 11.5% 1 1.2%25,000⼈以上 50,000⼈未満 5 2.1% 5 3.2% 0 0.0%50,000⼈以上 8 3.3% 8 5.1% 0 0.0%Total 242 156 8610%未満 59 24.4% 48 30.8% 11 12.8%10%以上 20%未満 39 16.1% 34 21.8% 5 5.8%20%以上 40%未満 48 19.8% 41 26.3% 7 8.1%40%以上 60%未満 24 9.9% 17 10.9% 7 8.1%60%以上 80%未満 24 9.9% 12 7.7% 12 14.0%80%以上 48 19.8% 4 2.6% 44 51.2%Total 242 156 8610%未満 47 19.4% 42 26.9% 5 5.8%10%以上 20%未満 31 12.8% 29 18.6% 2 2.3%20%以上 40%未満 35 14.5% 28 18.0% 7 8.1%40%以上 60%未満 26 10.7% 22 14.1% 4 4.7%60%以上 80%未満 10 4.1% 5 3.2% 5 5.8%80%以上 93 38.4% 30 19.2% 63 73.3%Total 242 156 86

参加企業全体 ⽇系企業 外資系企業

Q4資本⾦についてご回答ください

Q5 売上の状況についてご回答ください(2016年度実績)

Q5-1売上⾼(連結)

Q5-2直近3年間の売上⾼(連結)の平均成⻑率(1年当たり)

Q5-3海外売上⾼⽐率

Q6 正規従業員数についてご回答ください(2016年度末実績)

Q6-1正規従業員数(グローバル連結ベース)

Q6-2上記Q6-1のうち⽇本で勤務している正規従業員数

Q7 中途採⽤で⼊社した従業員の割合

Q7-1中途⼊社した従業員の全従業員に占める割合

Q7-2中途⼊社した社員のホワイトカラー従業員に占める割合

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100

回答数 % 回答数 % 回答数 %

0% 27 11.2% 22 14.1% 5 5.8%

0%以上 10%未満 63 26.0% 57 36.5% 6 7.0%

10%以上 20%未満 29 12.0% 24 15.4% 5 5.8%

20%以上 40%未満 21 8.7% 16 10.3% 5 5.8%

40%以上 60%未満 17 7.0% 14 9.0% 3 3.5%

60%以上 80%未満 17 7.0% 9 5.8% 8 9.3%

80%以上 68 28.1% 14 9.0% 54 62.8%

Total 242 156 860% 120 49.6% 96 61.5% 24 27.9%0%以上 10%未満 83 34.3% 49 31.4% 34 39.5%10%以上 20%未満 22 9.1% 8 5.1% 14 16.3%20%以上 40%未満 14 5.8% 3 1.9% 11 12.8%40%以上 60%未満 1 0.4% 0 0.0% 1 1.2%60%以上 80%未満 1 0.4% 0 0.0% 1 1.2%80%以上 1 0.4% 0 0.0% 1 1.2%Total 242 156 860% 122 50.4% 99 63.5% 23 26.7%0%以上 10%未満 75 31.0% 50 32.1% 25 29.1%10%以上 20%未満 17 7.0% 5 3.2% 12 14.0%20%以上 40%未満 8 3.3% 1 0.6% 7 8.1%40%以上 60%未満 13 5.4% 1 0.6% 12 14.0%60%以上 80%未満 2 0.8% 0 0.0% 2 2.3%80%以上 5 2.1% 0 0.0% 5 5.8%Total 242 156 865%未満 144 59.5% 110 70.5% 34 39.5%5%以上 10%未満 62 25.6% 27 17.3% 35 40.7%10%以上 20%未満 31 12.8% 17 10.9% 14 16.3%20%以上 30%未満 3 1.2% 2 1.3% 1 1.2%30%以上 2 0.8% 0 0.0% 2 2.3%Total 242 156 86

参加企業全体 ⽇系企業 外資系企業

Q8 執⾏役員以上の幹部層(社外取締役を除く)に占める以下の割合についてご回答ください

Q8-1幹部層に占める中途採⽤で⼊社した⼈材の割合

Q8-2幹部層に占める⼥性の割合

Q8-3幹部層に占める外国⼈の割合

Q9 直近3年間の平均的な正社員の⾃発的離職率(定年退職除く)をご回答ください

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101

2.人事処遇制度に関するアンケート

回答数 % 回答数 % 回答数 %役割・職務に基づいて社内等級(グレード)を設定(役割等級・職務等級) 143 59.1% 73 46.8% 70 81.4%

各⼈の能⼒・スキルに基づいて社内等級(グレード)を設定(職能資格等級) 44 18.2% 39 25.0% 5 5.8%

役割・職務に基づいて社内等級(グレード)を設定しているが、⼀部能⼒・スキルに応じた⼿当や報酬を付与 16 6.6% 10 6.4% 6 7.0%

各⼈の能⼒・スキルに基づいて社内等級(グレード)を設定しているが、⼀部役位・職務に応じた⼿当等を付与 31 12.8% 29 18.6% 2 2.3%

等級は設定しておらず、役位(部⻑・課⻑・係⻑等)や勤続年数に基づき報酬を決定 6 2.5% 4 2.6% 2 2.3%

その他 2 0.8% 1 0.6% 1 1.2%

Total 242 156 86役割・職務に基づいて社内等級(グレード)を設定(役割等級・職務等級) 109 45.0% 42 26.9% 67 77.9%

各⼈の能⼒・スキルに基づいて社内等級(グレード)を設定(職能資格等級) 78 32.2% 71 45.5% 7 8.1%

役割・職務に基づいて社内等級(グレード)を設定しているが、⼀部能⼒・スキルに応じた⼿当や報酬を付与 17 7.0% 11 7.1% 6 7.0%

各⼈の能⼒・スキルに基づいて社内等級(グレード)を設定しているが、⼀部役位・職務に応じた⼿当等を付与 29 12.0% 26 16.7% 3 3.5%

等級は設定しておらず、役位(部⻑・課⻑・係⻑等)や勤続年数に基づき報酬を決定 7 2.9% 5 3.2% 2 2.3%

その他 2 0.8% 1 0.6% 1 1.2%

Total 242 156 86役割・職務に基づいて社内等級(グレード)を設定(役割等級・職務等級) 103 42.6% 37 23.7% 66 76.7%

各⼈の能⼒・スキルに基づいて社内等級(グレード)を設定(職能資格等級) 78 32.2% 71 45.5% 7 8.1%

役割・職務に基づいて社内等級(グレード)を設定しているが、⼀部能⼒・スキルに応じた⼿当や報酬を付与 12 5.0% 9 5.8% 3 3.5%

各⼈の能⼒・スキルに基づいて社内等級(グレード)を設定しているが、⼀部役位・職務に応じた⼿当等を付与 19 7.9% 16 10.3% 3 3.5%

等級は設定しておらず、役位(部⻑・課⻑・係⻑等)や勤続年数に基づき報酬を決定 8 3.3% 6 3.9% 2 2.3%

その他 22 9.1% 17 10.9% 5 5.8%

Total 242 156 862015年〜2017年 40 16.5% 25 16.0% 15 17.4%2010年〜2014年 62 25.6% 43 27.6% 19 22.1%2005年〜2009年 45 18.6% 28 18.0% 17 19.8%2000年〜2004年 35 14.5% 26 16.7% 9 10.5%2000年以前 60 24.8% 34 21.8% 26 30.2%Total 242 156 86労働市場との整合を図り、外部から優秀⼈材を採⽤しやすい環境を整えるため 58 35.6% 18 20.9% 40 52.0%

年齢や経験を問わず最適な⼈材を任⽤するため 102 62.6% 60 69.8% 42 54.6%

報酬⽔準につき労働市場の価値・相場に準拠した適正⽔準とし競争⼒を確保するため 90 55.2% 32 37.2% 58 75.3%

年功賃⾦による過払い是正を含む、給与⽔準の⾒直しのため 61 37.4% 49 57.0% 12 15.6%

同⼀労働同⼀賃⾦を徹底するため 9 5.5% 5 5.8% 4 5.2%

業務の明確化による労働負荷の抑制とそれに伴う働き⽅の変⾰を推進するため 12 7.4% 7 8.1% 5 6.5%

職務の明確化による効率的な働き⽅を促進するため 44 27.0% 28 32.6% 16 20.8%

早期選抜、リーダー層の計画的育成のための環境を整えるため 30 18.4% 24 27.9% 6 7.8%

グループ内(国内外いずれも)で⼈材マネジメントの共通的な基盤・プラットフォームを整備するため 58 35.6% 15 17.4% 43 55.8%

その他 7 4.3% 4 4.7% 3 3.9%

Total 163 86 77

Q1 貴社の⼈事制度のベースとなる等級制度・報酬制度について、階層別に下記選択肢より最も近いものをご回答ください

A 管理職

参加企業全体 ⽇系企業 外資系企業

B ⾮管理職(いわゆる総合職系)

C ⾮管理職(いわゆる⼀般事務職系)

Q2上記⼈事制度を導⼊した時期をご回答ください(暦年ベースでご回答下さい)

Q3役割・職務ベースの等級制度/報酬制度を導⼊した主な理由を下記より選択してください(複数回答可)

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102

回答数 % 回答数 % 回答数 %報酬制度 128 78.5% 66 76.7% 62 80.5%評価制度 124 76.1% 74 86.1% 50 64.9%採⽤の考え⽅ 24 14.7% 7 8.1% 17 22.1%⼈事異動の考え⽅やルール 29 17.8% 12 14.0% 17 22.1%⼈材育成の考え⽅や育成施策 49 30.1% 31 36.1% 18 23.4%後継者育成施策(選抜、計画的配置等) 28 17.2% 11 12.8% 17 22.1%退職⾦制度 38 23.3% 24 27.9% 14 18.2%年⾦制度 15 9.2% 11 12.8% 4 5.2%⼈事部⾨と事業部⾨の関係性 10 6.1% 4 4.7% 6 7.8%Total 163 86 77

個別職務ごとに職務内容の詳細を定義した職務記述書を整備している 51 31.3% 12 14.0% 39 50.7%

職掌/階層/等級ごとに役割やミッションの定義を整備している 61 37.4% 45 52.3% 16 20.8%

あまり細かい定義等は整備せず、ゆるやかな役割の範囲等を設定している 36 22.1% 19 22.1% 17 22.1%

明⽂化された職務(役割)の定義は作成していない 14 8.6% 9 10.5% 5 6.5%

その他 1 0.6% 1 1.2% 0 0.0%

Total 163 86 77

中途採⽤やローテーションに際しての対象となる⼈材要件の明確化のため 55 49.1% 17 29.8% 38 69.1%

後継者育成・管理において対象となる候補者の⼈材要件の明確化のため 38 33.9% 18 31.6% 20 36.4%

職務の明確化を通して業務量や等級管理等の適正化を図るため 66 58.9% 38 66.7% 28 50.9%

グループ内での⼈材マネジメントにおいて、配置や等級管理などの共通基盤として⽤いるため 53 47.3% 22 38.6% 31 56.4%

報酬⽔準の適正化を実現する際に、より精緻な市場データとのマッチングを⾏う環境を整えるため 40 35.7% 12 21.1% 28 50.9%

その他 3 2.7% 3 5.3% 0 0.0%

Total 112 57 55

役割・職務・役位 196 81.0% 114 73.1% 82 95.4%

能⼒・スキル(職能資格) 120 49.6% 83 53.2% 37 43.0%

勤続年数・年齢 28 11.6% 25 16.0% 3 3.5%

その他 7 2.9% 5 3.2% 2 2.3%

Total 242 156 86役割・職務・役位 153 63.2% 74 47.4% 79 91.9%能⼒・スキル(職能資格) 152 62.8% 110 70.5% 42 48.8%勤続年数・年齢 55 22.7% 49 31.4% 6 7.0%その他 6 2.5% 5 3.2% 1 1.2%Total 242 156 86役割・職務・役位 129 53.3% 58 37.2% 71 82.6%能⼒・スキル(職能資格) 139 57.4% 96 61.5% 43 50.0%勤続年数・年齢 64 26.5% 56 35.9% 8 9.3%その他 24 9.9% 18 11.5% 6 7.0%Total 242 156 86

毎年、ベンチマークを⾏い⾃社⽔準を検証している 86 35.5% 28 18.0% 58 67.4%

2〜3年に1回程度、ベンチマークを⾏い⾃社⽔準を検証している 15 6.2% 9 5.8% 6 7.0%

頻度は決めていないが、必要に応じてベンチマークを⾏い⾃社⽔準を検証している 90 37.2% 74 47.4% 16 18.6%

報酬制度⾒直し時にベンチマークを⾏ったが、その後は特に⾏う予定はない 15 6.2% 12 7.7% 3 3.5%

報酬⽔準に関するベンチマークは⾏わない 36 14.9% 33 21.2% 3 3.5%

Total 242 156 86

Q5-2職務(役割)記述書やミッション定義書等を整備している理由をご回答ください(複数回答可)

Q6貴社における⽉例給(基本給)の主要な決定要素について、階層別に選択肢より該当するものをご回答ください(複数回答可)(*1)

A 管理職

B ⾮管理職(いわゆる総合職系)

C ⾮管理職(いわゆる⼀般事務職系)

Q7報酬⽔準の⾒直し・検討における市場ベンチマークの利⽤状況についてご回答ください

Q5役割・職務ベースの職務(役割)記述書等の整備状況についてご回答ください

Q5-1役割・職務ベースの職務(役割)記述書等の整備状況についてご回答ください

参加企業全体 ⽇系企業 外資系企業

Q4役割・職務ベースの等級制度導⼊に伴い改定した他の⼈事制度等を下記より選択してください(複数回答可)

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回答数 % 回答数 % 回答数 %雇⽤区分別採⽤(例:総合職、⼀般職、等) 75 31.0% 73 46.8% 2 2.3%職種別採⽤(例:管理、IT、営業、研究開発、製造、等) 91 37.6% 57 36.5% 34 39.5%コース別採⽤(例:管理職系コース、専⾨職系コース、技能職系コース、等) 12 5.0% 9 5.8% 3 3.5%職種、雇⽤等の区分を設けることのない⼀括採⽤ 48 19.8% 39 25.0% 9 10.5%⼀括採⽤は⾏っておらず、不⾜しているジョブについて個別採⽤ 31 12.8% 4 2.6% 27 31.4%その他 22 9.1% 3 1.9% 19 22.1%Total 242 156 86雇⽤区分別採⽤(例:総合職、⼀般職、等) 36 14.9% 34 21.8% 2 2.3%職種別採⽤(例:管理、IT、営業、研究開発、製造、等) 127 52.5% 85 54.5% 42 48.8%コース別採⽤(例:管理職系コース、専⾨職系コース、技能職系コース、等) 11 4.6% 9 5.8% 2 2.3%職種、雇⽤等の区分を設けることのない採⽤ 1 0.4% 1 0.6% 0 0.0%不⾜しているジョブについて個別採⽤ 137 56.6% 82 52.6% 55 64.0%その他 2 0.8% 2 1.3% 0 0.0%Total 242 156 86階層別に設計 193 79.8% 140 89.7% 53 61.6%職種別に設計 139 57.4% 86 55.1% 53 61.6%テーマ別に設計 140 57.9% 92 59.0% 48 55.8%選抜者に対して特別な選抜研修プログラムを設計 132 54.6% 88 56.4% 44 51.2%年齢・年次別に設計 64 26.5% 58 37.2% 6 7.0%キャリアステージ別に設計 74 30.6% 61 39.1% 13 15.1%特に会社が⽤意する研修プログラムはない(⾃⼰啓発⽀援はあり) 19 7.9% 6 3.9% 13 15.1%その他 (詳細をご記⼊ください) 5 2.1% 2 1.3% 3 3.5%Total 242 156 86

全社スケールで、職種横断的な異動 81 33.5% 67 43.0% 14 16.3%

社内カンパニー・本部・事業部⾨内で、職種横断的な異動 36 14.9% 27 17.3% 9 10.5%

同⼀職群(ジョブファミリー)内で、同⼀職種、類似職種に異動 45 18.6% 24 15.4% 21 24.4%

職種によりほとんど異動のない場合と、職種横断的に異動する場合とがある 56 23.1% 37 23.7% 19 22.1%

異動は原則として⾏わない(連続性のある業務での昇格のみ) 19 7.9% 0 0.0% 19 22.1%

その他 (詳細をご記⼊ください) 5 2.1% 1 0.6% 4 4.7%

Total 242 156 86

全社スケールで、職種横断的な異動 65 26.9% 55 35.3% 10 11.6%

社内カンパニー・本部・事業部⾨内で、職種横断的な異動 39 16.1% 29 18.6% 10 11.6%

同⼀職群(ジョブファミリー)内で、同⼀職種、類似職種に異動 46 19.0% 25 16.0% 21 24.4%

職種によりほとんど異動のない場合と、職種横断的に異動する場合とがある 71 29.3% 45 28.9% 26 30.2%

異動は原則として⾏わない(連続性のある業務での昇格のみ) 15 6.2% 0 0.0% 15 17.4%

その他 (詳細をご記⼊ください) 6 2.5% 2 1.3% 4 4.7%

Total 242 156 86

全社スケールで、職種横断的な異動 27 11.2% 18 11.5% 9 10.5%

社内カンパニー・本部・事業部⾨内で、職種横断的な異動 23 9.5% 18 11.5% 5 5.8%

同⼀職群(ジョブファミリー)内で、同⼀職種、類似職種に異動 48 19.8% 31 19.9% 17 19.8%

職種によりほとんど異動のない場合と、職種横断的に異動する場合とがある 56 23.1% 34 21.8% 22 25.6%

異動は原則として⾏わない(連続性のある業務での昇格のみ) 63 26.0% 39 25.0% 24 27.9%

その他 (詳細をご記⼊ください) 25 10.3% 16 10.3% 9 10.5%

Total 242 156 86

Q8貴社における採⽤ポリシーについて、該当するものをご回答ください(複数回答可)

Q8-1新卒採⽤

Q8-2中途採⽤

Q9貴社にて実施している研修の概要についてご回答ください(複数回答可)

Q10貴社における業務都合による異動・配置の基本的なパターンとして、階層別に下記選択肢より最も近いものをご回答ください

A 管理職

B ⾮管理職(いわゆる総合職系)

C ⾮管理職(いわゆる⼀般事務職系)

参加企業全体 ⽇系企業 外資系企業

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回答数 % 回答数 % 回答数 %外部から優秀⼈材を中途採⽤しやすくなった 42 25.8% 10 11.6% 32 41.6%年功によらない⼈材の抜擢、適正配置が可能になった 100 61.4% 52 60.5% 48 62.3%優秀⼈材のモチベーション向上につながった 55 33.7% 36 41.9% 19 24.7%職務・役割に応じた報酬⽔準の適正化をすることができた 122 74.9% 62 72.1% 60 77.9%同⼀労働同⼀賃⾦を促進することができた 12 7.4% 5 5.8% 7 9.1%働き⽅を柔軟なものとすることができ、業務効率性が向上した 10 6.1% 5 5.8% 5 6.5%職務の明確化による効率的な働き⽅・勤務時間の短縮を実現できた 9 5.5% 3 3.5% 6 7.8%リーダー層の選抜、育成の取組みを⼤きく促進させることができた 20 12.3% 12 14.0% 8 10.4%海外拠点における報酬ガバナンスの強化につながった 16 9.8% 7 8.1% 9 11.7%グローバルレベルで適材適所を追求できるようになった 24 14.7% 5 5.8% 19 24.7%その他 2 1.2% 1 1.2% 1 1.3%特にない 10 6.1% 6 7.0% 4 5.2%Total 163 86 77外部市場からの採⽤が期待したようには進まなかった 7 4.3% 5 5.8% 2 2.6%技能系社員やベテラン社員のモチベーションが低下した 26 16.0% 16 18.6% 10 13.0%業務や責任範囲に関する柔軟性が⽋如した 17 10.4% 7 8.1% 10 13.0%異動・配置がやりづらくなった 29 17.8% 14 16.3% 15 19.5%中⻑期的な貢献の処遇への反映が困難になった 14 8.6% 7 8.1% 7 9.1%業務効率の向上や勤務時間の短縮には繋がらなかった 29 17.8% 13 15.1% 16 20.8%総⼈件費の適正化が進んでいない 31 19.0% 17 19.8% 14 18.2%等級の管理・メンテナンスに想定以上に⼯数を要する 36 22.1% 22 25.6% 14 18.2%海外拠点における⼈事ガバナンスの強化にまでは⾄っていない 20 12.3% 16 18.6% 4 5.2%グローバル規模での適材適所の推進は進んでいない 30 18.4% 22 25.6% 8 10.4%能⼒向上に対するインセンティブが低減した 12 7.4% 7 8.1% 5 6.5%キャリアに対する閉塞感が醸成された 21 12.9% 5 5.8% 16 20.8%その他 30 18.4% 15 17.4% 15 19.5%Total 163 86 77職務の明確化・納得性確保 107 65.6% 46 53.5% 61 79.2%担う役割やミッションの明確化・納得性確保 114 69.9% 69 80.2% 45 58.4%個⼈が創出すべき価値の明確化・納得性確保 39 23.9% 20 23.3% 19 24.7%市場動向に基づく適切な報酬⽔準の設定 59 36.2% 24 27.9% 35 45.5%昇格(登⽤)基準・プロセスの明確化 95 58.3% 49 57.0% 46 59.7%配置・異動に対する考え⽅の整理と周知 37 22.7% 19 22.1% 18 23.4%従前との考え⽅の違いに関する丁寧な社内コミュニケーション 54 33.1% 23 26.7% 31 40.3%その他 7 4.3% 3 3.5% 4 5.2%Total 163 86 77

当⾯、検討する予定はない 32 38.6% 29 39.7% 3 30.0%

2-3年程度を⽬途に導⼊する⽅向で検討中 13 15.7% 12 16.4% 1 10.0%

導⼊時期は未定であるが、検討は始めている 28 33.7% 25 34.3% 3 30.0%

その他 10 12.1% 7 9.6% 3 30.0%

Total 83 73 10当⾯、検討する予定はない 59 50.9% 52 50.5% 7 53.9%2-3年程度を⽬途に導⼊する⽅向で検討中 13 11.2% 11 10.7% 2 15.4%導⼊時期は未定であるが、検討は始めている 35 30.2% 33 32.0% 2 15.4%その他 9 7.8% 7 6.8% 2 15.4%Total 116 103 13当⾯、検討する予定はない 63 49.6% 55 50.0% 8 47.1%2-3年程度を⽬途に導⼊する⽅向で検討中 12 9.5% 10 9.1% 2 11.8%導⼊時期は未定であるが、検討は始めている 31 24.4% 29 26.4% 2 11.8%その他 21 16.5% 16 14.6% 5 29.4%Total 127 110 17

Q12役割・職務ベースを導⼊したことにより⽣じたデメリット・期待通りでなかった点をご回答ください(複数回答可)

Q13役割・職務ベース導⼊時のポイント・留意点についてご回答ください(複数回答可)

Q14今後、役割・職務ベースの⼈事制度の導⼊に向けた検討の有無についてご回答ください

A 管理職

B ⾮管理職(いわゆる総合職系)

C ⾮管理職(いわゆる⼀般事務職系)

Q11役割・職務ベースを導⼊したことによるメリット・効果をご回答ください(複数回答可)

参加企業全体 ⽇系企業 外資系企業

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回答数 % 回答数 % 回答数 %ジョブローテーションが難しくなり、多領域に精通したジェネラリスト⼈材を育成しにくくなるため 15 21.4% 14 22.6% 1 12.5%

経験等に基づいた個々⼈の能⼒の伸⻑が重要であると考えるため 23 32.9% 21 33.9% 2 25.0%

社員の内部定着や内部昇進等が重要であると考えるため 5 7.1% 4 6.5% 1 12.5%

組織内の調和、バランスを重視しているため 11 15.7% 10 16.1% 1 12.5%

現在の制度で⼗分であると考えるため、必要性を感じないため 28 40.0% 23 37.1% 5 62.5%

制度導⼊に係る負担(制度構築、社内説明、組合交渉、費⽤等含む)が⼤きそうなため 13 18.6% 12 19.4% 1 12.5%

そもそも検討の俎上に挙がったことがない 12 17.1% 11 17.7% 1 12.5%

その他 9 12.9% 8 12.9% 1 12.5%

Total 70 62 8ポイント制(ポイント決定基準:勤続年数) 29 12.0% 21 13.5% 8 9.3%ポイント制(ポイント決定基準:職能資格) 26 10.7% 25 16.0% 1 1.2%ポイント制(ポイント決定基準:役割・職務等級) 38 15.7% 27 17.3% 11 12.8%ポイント制(その他) 43 17.8% 34 21.8% 9 10.5%定額⽅式 10 4.1% 6 3.9% 4 4.7%最終給与⽐例⽅式 34 14.1% 18 11.5% 16 18.6%その他 27 11.2% 10 6.4% 17 19.8%退職(⼀時)⾦制度はない 35 14.5% 15 9.6% 20 23.3%Total 242 156 86確定拠出型年⾦のみ 69 28.5% 38 24.4% 31 36.1%確定給付型年⾦のみ 54 22.3% 38 24.4% 16 18.6%確定給付型年⾦と確定拠出型年⾦の併⽤ 91 37.6% 65 41.7% 26 30.2%厚⽣年⾦のみ 28 11.6% 15 9.6% 13 15.1%Total 242 156 86従業員の引きとめ(⻑期勤続のインセンティブ) 132 55.0% 88 56.8% 44 51.8%採⽤⼒強化 42 17.5% 22 14.2% 20 23.5%⽼後の⽣活保障 185 77.1% 128 82.6% 57 67.1%昇格へのモチベーション 22 9.2% 19 12.3% 3 3.5%その他 12 5.0% 7 4.5% 5 5.9%Total 240 155 85

(1*) 昇給時の決定要素(昇給根拠)ではなく、基本給⾃体の性質・意味合い

Q16現在採⽤している退職(⼀時)⾦制度をご回答ください

Q17現在採⽤している年⾦制度をご回答ください

Q18現在採⽤している退職⼀時⾦・年⾦制度の主な⽬的についてご回答ください(複数回答可)

Q15役割・職務ベースの⼈事制度を検討しない理由についてご回答ください(複数回答可)

参加企業全体 ⽇系企業 外資系企業

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106

添付資料 2:ヒアリング調査結果

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業種 不動産業

売上 100 億円以上 500 億円未満

従業員 500 人未満

資本タイプ 日系

1.摘要

· 当社は 130 年余の歴史がある一方で、2010 年以降、人事に関する制度改革を推し

進め、成長につなげてきた。役割・成果主義を導入するとともに、様々な新しい人事

施策を展開することにより、事業部門、管理部門を担う優秀な人材を確保・リテインし、

人材マネジメントを事業の成長につなげている。

· 管理職は 3 段階の役割に基づいた等級により処遇している。非管理職には、4 段階

の職能に基づいた等級を持つプレイヤー職とサポートの役割を担うアソシエイト職が

ある。

· 企業の規模、知名度から、優秀な人材を安定的に多数確保することが難しい時期が

あり、人材獲得競争力を向上させるため、ポジションに対する明確なミッションの定義

と競争力のある報酬水準が必要だった。

· 制度移行の過程では、降格人事も発生したが、給与水準は複数年かけて段階的に

下げる対応をした。

· 全社にコンピテンシーの概念を浸透させ、社員教育に力を入れているとともに、従業

員向けの期間限定 ESOP、キャッシュ LTI や譲渡制限付き自社株式の付与等、他社

にはない施策を導入している。

2. 現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 2010 年代前半、事業の拡大段階にあったが、新しく事業部門を立ち上げてリードでき

る人材を外部から採用するに当たり、競争力のある報酬水準が必要だったため、そ

れぞれのポジションに対する明確なミッションと、管理職を中心にした役割・職務に基

づく人事制度を導入した。

· その後も、コンピテンシー評価制度を導入し、期待する社員像を明示するとともに、報

酬についても、従業員向けの期間限定 ESOP、キャッシュ LTI、譲渡制限付き自社株

式の付与等の施策を連続して投入することで、優秀社員の確保に努めている。

· 若手社員は成長に合わせて昇給させているが、中堅以上の社員の昇格・昇給につい

ては年功に関係なく、能力と成果に応じて実施しており、34 歳で執行役員へ登用する

等もしている。

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108

3.人事制度の特徴

· 管理職は役割等級でシニアマネージャー、ミドルマネージャー、マネージャーの 3 段

階に分けている。非管理職のうち、プレイヤー職は職能に基づいた等級でマイスター、

シニアプレイヤー、ミドルプレイヤー、ジュニアプレイヤーの 4 段階に分けている。サ

ポートの役割を担うアソシエイト職は 1 段階のみである。

· プレイヤー職の上位等級であるマイスターは、プロフェッショナルとして管理職と同等

以上の待遇で処遇している。

· 管理職の役割について、等級ごとに期待する役割をゆるやかに定義している。

· 報酬は、ベース給・賞与・役職手当(管理職のみ)・調整給・その他(LTI や ESOP、自

社株を用いた株式報酬)から構成される。

· 管理職のベース給はレンジが決まっており、レンジ内の位置はコンピテンシー評価に

より決定する。

· 賞与はミッション評価をもとに、経営に対するインパクトの大きさに応じて金額を決定

し、上期分を 10 月、下期分を 4 月に支給する。年度末には業績に応じた決算賞与が

あり、支給金額は業績計画の達成度合いにより決定する。

· ベースアップに代わる仕組みとして、社員に対するキャッシュ LTI を導入している。業

績に応じて、決算賞与とは別に 3 ヵ年に亘り支給額が確定するため、総報酬の魅力

度を増すとともに、リテンションの効果もある。

· 調整給は、報酬体系とマーケットバリューとの乖離がある場合等に支給される。

4. 人事制度導入時の課題と対応策

· 制度の移行時には、降格も発生した。また今後もコンピテンシー評価に応じて降格は

実施する。

· 降格の際は、調整給の支給による激変緩和措置を行ない、初年度は降格前の給与

を維持し、以降毎年 10%ずつの降給を限度とする措置を 大 3 年間実施する。

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109

5.採用・配置・育成の特徴

· 新卒採用・中途採用ともに行っている。

· 新卒採用については、適性を意識しつつも職種を分けない一括採用を実施し、中途

採用については、不足しているジョブに対して個別に実施している。

· 終的に採用を決定する権限は経営にある。

· 新卒入社者は複数の業務経験を通して成長を促すため、職種横断的に異動させて

いるが、中途入社者は同一職種内で異動することが多い。

· コンピテンシー評価制度を導入後、その概念を浸透させるために数年に亘り研修を

実施した。

· コンピテンシーの浸透が一段落した後は、テーマ別の研修を多く行っている。会社が

与える研修よりも、社員の自発的な学ぶ気持ちを重視している。

6.人事機能

· 2010 年まで人事部門がなかったため、ビジネス側に大きな主導権や権限が多くある。

· 人事部門は、評価報酬などの制度設計を行っており、部門内の異動や評価、採用を

決定するのは、ビジネス側だが、人事は、部門を超えた異動の承認や賞与の金額の

決定、要員計画などを行うという役割分担になっている。

7.まとめ

· 当社は比較的小規模だが、確実な成長を続けている。この原動力となっているのが、

これまでに確保した人材であり、彼らが事業部門を立ち上げてリードしている。またプ

ロフェッショナルとして、若手・中堅社員にも良い影響を及ぼしている。この中途採用

に際しては、役割を明確にしたミッションの提示と競争力のある報酬水準が欠かせな

い。

· 人材育成にも力を入れているが、特に後継者育成については、その仕組みづくりも含

めた対応が必要になると認識している。

以上

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110

業種 情報通信業

売上 非公表

従業員 非公表

資本タイプ 日系

1.摘要

· 当社は、管理職以上に役割・職務に基づく人事制度を採用しており、管理職以上の

昇格・降格は職務変更により厳格に運用している。一方で管理職未満については、

能力の伸長を重視し、職能主義を採用している。

· 管理職については 4 段階の役割に基づいた等級、非管理職は 3 段階の職能に基づ

いた等級がその処遇のベースとなっている。

· 現人事制度の導入は、本人の発揮しているパフォーマンスと処遇とのアンマッチが顕

在化していたことが発端。導入時には降格を行い、激変緩和措置も行っている。

· 業務の性質上、開発だけでなく、保守運営業務も多く、職種による専門性が異なる。

職種ごとのスキル定義・評価を行うことにより、処遇・育成に反映している。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 以前の職能ベースの制度は、年功的運用の結果、本人の発揮しているパフォーマン

スとその処遇にアンマッチがあった。加えて 2006 年の資本変更により様々な出自の

従業員が混在することになり、そのアンマッチが顕在化し、管理職クラスに役割を基

軸とした人事制度を導入した。

· 管理職以上については職種と職務の大きさで等級が自動的に決定される設計であり、

運用も含め完全な役割に基づく制度。一方で管理職未満は能力の伸長を重視してお

り、明確に職能資格制度として設計している。

3.人事制度の特徴

· 管理職は役割等級で 4 段階、非管理職は職能等級で 3 段階である。管理職クラスは

組織長と専門職系で等級・キャリアが分かれる。

· 管理職以上は完全な役割等級であり、異動により役割が変われば自動的に等級も

変わる。

· 職種は、非管理職 上位から分かれるようになっており、プロジェクトマネジメント/IT

スペシャリスト/営業職/スタッフ職の 4 つに分かれる。

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111

· 役割の定義は職種別に作成しており、ジョブディスクリプションは設定されていない。

役割の大きさの評価はコンサルティング会社の手法を用いて行われている。

· 基本給は職能給と役割給で構成されており、全職種共通の等級毎のレンジ給である。

昇給はメリットインクリース方式である。

· 各等級のレンジは基本的に 10%~20%重複しているが、非管理職と管理職の間の

み、重複のない接合型となっている。

· 手当は住宅手当・家族手当(非管理職のみ)・時間外手当のみである。

· 賞与は夏冬支給、業績連動型で自動的にファンドが決まる仕組みである。

· 評価は半期に一度の MBO(目標管理)と通期に一度のコンピテンシー評価/専門ス

キル評価の 3 つがあり、等級と職種によって適用評価は異なる。各評価項目は絶対

評価であるが、MBO 評価にコンピテンシー評価や専門スキル評価を加えた総合評価

は相対化している。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· 職能から職務へのコンセプト自体は時代背景もあり、また水準が下がる対象者は一

部に限られていたことから、全体的には理解が得られた。

· 水準が下がった対象者に対しては、人によって再格付けも行い、3 年間の移行措置

を設けた。

· 導入時の苦労としては、”役割“に対する事業部門の理解とその運用が明確に定着

せず、職能的な認識や理解に戻ってしまいがちであった点があげられる。何度も説明

を続け、導入後 3 年経過したあたりから理解が定着した。

l 採用・配置・育成の特徴

· 新卒採用と中途入社が 2 対 1 の割合である。中途入社は退職者補充が目的である。

· 業務の繁閑に応じての異動・地区を挟んだ異動が職種に関わらずあり得る。

· 職種間の異動は、営業とスタッフは比較的縦に上がっていくが、システムエンジニア

はその時の役割に応じて異動がある。

· 新卒研修が主要研修。新卒に対しては全体研修、配属後の部門別研修を実施して

いるが、中途採用者に対しては特に研修を行っていない。

6.人事機能

· 全般的に人事関連諸事項の起案や決定は人事部主導で行われている日本型の人

事機能設計となっている。

· 例えば、新卒も中途も採用は人事部がその活動の中心である。評価は現場に任せて

いるが、上位層の昇格は人事が確認を行う。

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7.まとめ

· 当社は役割・専門スキルが比較的明確であるIT業界ということもあり、運用も含め比

較的厳格な職務制度となっている。

· 今後の課題としては、変化の激しい業界の中で、評価の考え方、スキル評価の更新

が必要になっていくと考えられる。

以上

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113

業種 運輸業

売上 1 兆円以上

従業員 10,000 人以上 25,000 人未満

資本タイプ 日系

1.摘要

· 当社は、役割・成果主義を採用しているが、あまりドラスティックな処遇変更が発生し

にくいように比較的穏やかな人材マネジメントをしている。

· 管理職については 3 段階の役割に基づいた等級、非管理職は 4 段階の職能に基づ

いた等級がその処遇のベースとなっている。

· 現管理職人事制度の導入は業績悪化の際の生産性向上の一環として行われた。導

入時には経営管理ポストの削減を行った。また、非管理職人事制度導入時は激変緩

和措置も採用している。

· 専門性が高い職種が多く、部門別専門教育が行われている一方で、ジョブファミリー

をまたぐ異動を行うことで、全社の風通しを良くしている。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 2010 年代前半、「業績の悪化」と「ポストの増加」に対する課題認識があり、それに対

応すべく、管理職クラスに役割を基軸とした人事制度を導入した。

· 必要以上に細かく役割による処遇差をつけることを避ける設計となっており、また、運

用に際しても役割の任用でできる限り降格が発生しないように配慮する等、役割・成

果主義ではあるが、比較的穏やかな人材マネジメントを志向している。

3.人事制度の特徴

· 管理職は役割等級で 3 段階、非管理職は職能に役割要素を加味した等級で 4 段階

である。管理職クラスは組織マネジメント系と専門職系で等級・キャリアが分かれる。

· 当等級制度は、グループの国内外の関連会社において、人材マネジメントの共通基

盤として採用されており、適所適材等に活用されている。

· 役割の定義は職種や等級という単位で行われており、ジョブディスクリプションは設定

されていない。役割の大きさの評価はコンサルティング会社の手法を用いて行われて

いる。

· 管理職基本給の主要部分は等級毎のレンジ給となっており、昇給はメリットインクリ

ース方式である。

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· 専門的な職種が数多くあるため、職種に対応した手当が数多く存在する。

· 賞与は夏冬だがそれに加えて業績連動型の期末賞与(6 月支払)がある。

· 評価は MBO(目標管理)と行動評価の 2 つである。MBO になじみにくい業務が多い

ため、行動評価を重視している。MBO と行動評価自体は絶対評価であるが、総合評

価とする際に相対化している。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· 非管理職新人事制度導入を検討している際には、役割を重視した制度にすることに

対して懸念を示す声もあり、組合とのコミュニケーションは丁寧に行った。期間につい

ては、2~3 年かけて一つ一つの制度について理解を得た。また賃金制度変更時に

は激変緩和措置を採用した。

· 管理職人事制度導入に伴い、経営管理職層について、過去制度と比較し厳しい格付

けとなった社員が発生したが、これらの対象者に対しては調整給などの激変緩和措

置は実施しなかった。

5.採用・配置・育成の特徴

· 新卒採用が中心である。採用の区分は、主に、事務系、技術系、その他の専門職が

ある。

· 人員構成上、その比率が少ない 30 代を中心に中途採用も行っている。

· 事務系、技術系に関しては、同一職種で長く働き続ける方も、職種横断的な異動をす

る方もいる。技術系から他領域に異動される方も多い。

· 中途採用に関しては職種別の採用であるが将来的には部門横断的な異動もあり得

るという考え方である。

· 専門分野が多いため、部門別の専門研修を多く実施している。

· 階層別研修、選抜研修も行っており、こちらは人材開発を専門とする部署が中心とな

って進めている。

6.人事機能

· 全般的に人事関連諸事項の起案や決定は人事部主導で行われている日本型の人

事機能設計となっている。

· 例えば、新卒も中途も採用は人事部がその活動の中心である。評価や現場の意見

は尊重するものの昇給・賞与・昇格・異動などの 終的な起案も人事部が行うことが

通常である。

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7.まとめ

· 当社は産業を代表する有力日系企業ということもあり、管理職に役割主義は採用し

ている一方で、その制度設計や運用は比較的穏やかである。

· また、事業の性質上、個々の職種の専門性は非常に重要であるものの全社の連携と

いう観点から、職種を超えた異動や一体的な組織作りをしていることが特徴と言える。

· 今後の課題としては、改善はしたものの人材マネジメント上、年功的な要素が残るた

め、その対応があげられる。

以上

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116

業種 化学工業製品・医薬品・化粧品

売上 100 億円以上 500 億円未満

従業員 500 人未満

資本タイプ 日系

1.摘要

· 当社は、組織構成の適正化、個人のミッションの明確化を目的に、役割・成果主義を

採用しており、やや厳格な人材マネジメントをしている。

· 管理職については 3 段階の役割に基づいた等級、非管理職は 4 段階の職能に基づ

いた等級がその処遇のベースとなっている。

· 役割人事制度の導入は、職能制度により経年で上位職が厚い人員構成となり、ポス

トの増加を是正する必要があったためである。導入時にはあるべき組織構造からポ

ストの削減を行った。

2. 現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 2008 年に職能制度による年功的運用の結果、ポストの増加に対する課題認識があ

り、それに対応すべく管理職クラスに役割を基軸とした人事制度を導入した。2017 年

にも制度改定を行ったが、役割を基軸とした制度という骨子は変えていない。

· 役割・成果に応じた報酬としており、その水準は外部市場をベンチマークして設定し

ている。

3.人事制度の特徴

· 管理職は役割等級で 3 段階、非管理職は職能等級で 4 段階である。

· 職種は営業・マーケ、研究開発、生産、管理の 4 つの機能別に設定しており、若年層

を除き同一職種内でキャリア・能力を伸長していくことを企図している。

· 役割の定義は職種や等級という単位で行われており、ジョブディスクリプションは設定

されていない。役割の大きさの評価はコンサルティング会社の手法を用いて行われて

いる。

· 基本給の主要部分は等級毎のレンジ給となっており、昇給は評価ごとの昇給テーブ

ル方式である。

· 手当は、基本的に時間外に関するもののみである。

· 賞与は夏冬の年 2 回で、夏は固定、冬は通期業績で決定としている。

· 評価は年 2 回の MBO(目標管理)と年 1 回の行動評価の 2 つである。

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4.人事制度導入時の課題と対応策

· 導入時には、新しいコンセプトでもあり従業員の理解浸透に苦労した。制度検討時か

ら、各部署からタスクフォースチームを募り、ニュースリリースや制度説明会、日々・

目標設定・フィードバック時のコミュニケーションで地道に浸透を図った。

· 制度導入に伴い一部降格は発生したが、役割による格付は明確であり理解は得られ

た。

5.採用・配置・育成の特徴

· ポテンシャル採用の新卒、即戦力の中途採用の両面で採用を行っている。

· 新制度では同一職種内でのキャリア・能力伸長の観点から、職種を跨いだ異動は若

年層を除き実施しない予定。

· 一方で、本人希望も尊重する必要があることから、既存の自己申告制度は保持する。

· 階層別・専門別研修に加え、選抜型の社費留学制度も整備している。

6.人事機能

· 採用・異動等の人事全般に関して、人事部門が経営陣と協議して決定する日本型の

マネジメントである。

7.まとめ

· 当社は中途採用も活発であることから、優秀な人材のアトラクト&リテインを目的に、

管理職以上に職務をベースとした等級制度と、市場水準を勘案した処遇水準を設定

していることが大きな特徴と言える。

· 今後の課題としては、17 年度の制度改定で策定したバリューの浸透である。

以上

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業種 輸送機器器具製造業

売上 1 兆円以上

従業員 200,000 人以上

資本タイプ 外資系

1.摘要

· 当社は、元々は複数の日本企業であったが、ドイツ企業のグループとして統合された

後は、多くの面においてドイツの本社と同様または整合した仕組みを導入している。

役割・職務ベースのしくみを含め、全般的に日本型から欧米的なマネジメントへ転換

してきている。

· 管理職については 4 段階の役割に基づいた等級、非管理職は役割を基本としつつ

職種による 6~9 段階の等級が処遇のベースとなっている。なお、非管理職の中堅層

まではある程度年功を意識した昇格運用を行っている。

· 現人事制度の導入は合併による制度統合の一環として行われた。一部の会社では

年功賃金の是正も目的とされていた。導入時には時間をかけてコミュニケーションを

行い、調整給による激変緩和措置も採用された。

· 複数の職種や事業での経験を会社として重視しており、社員が自分のキャリアを主

体的に考え、行動するための仕組みを構築している。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 2005 年、合併により処遇を統一するために、役割を基軸とした人事制度を導入した。

· 一部の会社では年功賃金や年齢給が必要以上に高くなってしまっていたため、こちら

の是正についても目的としていた。

· 本社のあるドイツにおいても、グレードの定義という意味ではジョブのレベルは重視さ

れているものの、昇降格については日本の職能資格に近い運用がされている状況も

あり、降格や減給等を必ずしも多くは発生させない、比較的穏やかな人材マネジメン

トを志向している。

3.人事制度の特徴

· 管理職は役割等級で 4 段階、非管理職は事務・技術系で 6 段階/技能系(製造)で

9 段階ある。特に技能系(製造)の下の等級においては年功的な要素があるが、非管

理職においても上の等級では役割と紐づいており、限られた人のみが任用される仕

組みになっている。

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· 役割の定義は、個別ポジションごとのジョブディスクリプションという形ではなく、等級

毎の大まかな定義という形式で行われている。以前はジョブディスクリプションを導入

していた会社もあったが、特に技術系において、定義やメンテナンスが難しいため廃

止した。

· 役割の大きさの評価は公平性を期すため、コンサルティング会社の手法を用いて行

われている。

· 基本給の主要部分は等級毎のレンジ給である。手当は過去減らしてきており、管理

職に手当は無く、非管理職に幾つか残っている程度である。

· 昇給については、管理職では全世界共通の仕組みを導入している。①長期的パフォ

ーマンス、②今の仕事の大きさ、③代替のむずかしさ、により基本給の理論値を決定

する。理論値との差額を部門の予算内でマネージャーが配分する形となっており、い

わゆる人事評価とは結びついていない。

· 非管理職の昇給については、評価に応じた昇給テーブルが設定されている。

· 賞与は日本の状況に合わせ、下級の管理職までは、夏冬の 2 回支給されている。上

級の管理職は年 1 回のインセンティブとして、夏のみの支給となっている。会社や部

門の業績に応じて配分される。

· 管理職の評価は、目標管理による年次評価と、ポテンシャル評価の 2 つを行ってい

る。ポテンシャル評価はグローバルで定義されたコンピテンスモデルを基準としてい

るが、厳密にポイント化するのではなく、総合評価の評定をつける。ポテンシャル評価

は年次の業績評価というより、タレントマネジメントの一部として行っている側面が強く、

昇降格の参考となっている。

· 一般職の評価では、2 種類の制度を運用している。事務・技術系や技能系でも監督

者的な立場にある等級については、管理職の評価制度に準じた制度を設定し運用し

ている。一方、技能系でもオペレーターの立場にある等級については日本独自の評

価制度を設定し、業務の量・質に関する評価に加え、現場で求められる行動特性に

ついて評価を実施している。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· 過去、統合前の各社の人事運用では年功が非常に重視されており、根本的に考え方

を変える必要があったため、コミュニケーションは丁寧に実施した。

· 社員に理解してもらうために、組合と委員会を作って 2~3 年かけて検討を行った。

· 結果的に等級が下がった社員は、基本給を減額した。制度導入には調整給を設定し

激変緩和措置を採ったが、2015 年から 3 年間でこの調整給を減額するよう制度の再

改定を実施した。

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120

5.採用・配置・育成の特徴

· 採用は職種別に行われている。新卒採用も中途採用も部署のニーズをもとに行われ

ている。

· 技術系や技能系では同じ部門に長期在籍し、その分野を極めることが多いが、管理

職になるためには部門・職種を超えた動きが必要となる。会社としてもグローバルの

昇格要件になっているなど、部門・職種を変えた経験を重視している。

· 社員に対して、キャリアについて考える視点をイントラに掲載しており、自分のキャリ

アは自分で考えましょうというメッセージを出している。

· 社内の空きポストに応募することができる仕組みがあり、選ばれた場合には、上司は

異動を拒否することができない。上記のキャリア教育もあるため、当制度の利用率は

高い。

· 教育に関しては、グローバルのトレーニングセンターがあり、階層別に必要な技能を

習得できるようになっていて、さらに、日本でも独自の研修を実施している。

· 近では、知識系については、E ラーニングが増えているが、対面での研修を重視し

ており、例えば、管理職昇格のために必須の研修などが存在する。

· 研修の内容については、ビジネスサイドの事情で決まることが多くなっている。

6.人事機能

· 競合が電機や IT へ変化しており、この変化に対応し、より現場の事情にあった人材

マネジメントをスピーディに実現するために、人事の考え方もこれまでの中央集権か

ら現場を重視するように転換している。

· たとえば、昇給などは、中央で仕組を作っているものの、部門長の意向が反映される

ような形となっており、採用や異動については、部門のニーズをもとに行われている。

7.まとめ

· 当社はドイツ企業の子会社だが、独立した日本の会社としての歴史も長く、グローバ

ルにおける意識の統一とのバランスをうまくとっている。

· また、社員の教育やキャリアの自律については非常に重視しており、投資や制度の

構築を行っている。

· 今後の課題としては、技術者の高齢化への対応や若手の採用などがある。

以上

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121

業種 化学工業製品・医薬品・化粧品

売上 5,000 億円以上 1 兆円未満

従業員 10,000 人以上 25,000 人未満

資本タイプ 日系

1.摘要

· 当社は、日本企業らしく、優秀な社員に前向きに長く働くことを促進すべく、役割・成

果主義と職能資格主義の双方のメリットを生かすため、ハイブリッドの仕組みを導入

している。

· 管理職 6 段階/一般職 8 段階の職務等級と 11 段階のキャリアステージ等級(職能

資格)が人材マネジメントの基盤となっている。

· 合併による制度統合時に職務等級(シングルレートの職務給)による人事制度を導入

したが、異動の硬直化への対応と長期にわたるモチベーション維持のためにハイブリ

ッドの制度へ移行した。

· 職種を分けて採用を行っているが、戦略の変化や部門間の連携のため、意図的に職

種を横断した異動を行っている。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 2007 年に職務による等級制度を導入したが、給与がシングルレートであったこともあ

り、降格に伴う給与減額を嫌い、異動が硬直化する、という弊害が生じていた。

· 加えて、長期雇用を重視しており、長期にわたるモチベーションを維持するために努

力すれば昇給する仕組みが必要と考えていた。

· 一方、実力のある人を重要なポジションに抜擢し、それに伴う処遇の向上を実現する

ために、依然として役割・職務に基づく人事制度の考え方も残した。

· これらの要件を満たし、問題を解決するために、役割および職能のハイブリッドのしく

みを再構築・導入に至った。

· この施策の根底には「社員を尊重し、前向きに働き甲斐を持って長期間働いてもらい

ながら、世界での競争に勝つことを目指す」という理念が存在する。

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122

3.人事制度の特徴

· 管理職 6 段階/一般職 8 段階の職務等級と 11 段階のキャリアステージ等級(職能

資格)が人材マネジメントの基盤となっている。

· 職務等級・職能資格等級のどちらについても、等級ごとに等級定義が存在する。

· 個別のポジションごとのジョブディスクリプションは設定していないが、中途採用の際

に作成することがある。

· 役割の大きさの評価は、コンサルティング会社の手法を参考に、格付けの定義・ルー

ルを自社で策定し、各ポジションを当てはめている。

· 役割と職能に対する給与・賞与の総原資の割合は概ね 50%・50%となっている。

· 賞与は職務と業績をベースにしており、業績に応じて支給額が変動する設計になって

いる。

· 評価について、一般職は行動評価と業績評価の 2 つであるが、管理職は業績評価

のみである。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· ハイブリッドであり等級管理に通常より手間がかかる。特にキャリアステージ等級(職

能資格)の等級管理について時間がかかっている。

· しかし、職務のみの際に行いにくくなった柔軟な職務分担が、責任範囲を柔軟に設定

することでできるようになるメリットもあった。

· 対組合のコミュニケーションは、月 1 回程度の頻度で 1 年以上かけて会話し、理解を

得ながら実施した。

· 詳細設計や導入の準備を、1 年以上かけて実施した後、制度導入している。

5.採用・配置・育成の特徴

· 新卒採用が中心である。採用時には、営業・研究などの大まかな職種別に採用を行

っている。

· 職種別採用ではあるが、①幅広い専門性を持ったリーダーの育成、②部門間の連携

強化、③戦略の変化への柔軟な対応、を進めるべく、職種横断的なローテーションを

行っている。

· 階層別・職種別や選抜研修など、さまざまな切り口により研修を行っており、人材育

成に対しては意識的に投資をしている。

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123

6.人事機能

· 全般的に人事関連諸事項の起案や決定は人事部主導で行われている日本型の人

事機能設計となっている。

· 例えば、新卒も中途も採用は人事部がその活動の中心である。評価や現場の意見

は尊重するものの昇給・賞与・昇格・異動などの 終的な起案も人事部が行うことが

通常である。

7.まとめ

· 当社は、一度、いわゆる役割・職務に基づく人材マネジメントを行うことを決断し、人

事の体系を職務等級一本としたが、異動配置の柔軟性が失われデメリットが目立っ

た。その結果、柔軟な配置(例:若手抜擢)や長期のモチベーションを維持するために、

職務と職能のハイブリッドの制度を採用している。

· また、職種別採用にも関わらず、幅広い経験を積んだ社員の育成、組織能力の向上

という観点から、職種を超えた異動や一体的な組織作りをしていることが特徴と言え

る。

· 総合的には、欧米的な要素のある役割・職務をベースにしたマネジメントを自社の理

念にあった形にアレンジして、人材マネジメントを実行している会社である。

· 今後の課題としては、自社のやり方に囚われすぎず、変化を続ける労働市場へ対応

し続けることが、今後も継続して必要になると考えている。

以上

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124

業種 非鉄金属製造業

売上 5000 億円以上 1 兆円未満

従業員 50,000 人以上 100,000 人未満

資本タイプ 日系

1.摘要

· 当社は管理職へは役割等級を導入して役割に応じた処遇を図る一方、非管理職層

は現時点では職能等級を採用している(今後、総合職系職掌には導入予定)。また全

体的に処遇の大幅な変動、専門職の処遇に対しても慎重な配慮をしている。

· 管理職は役割に基づいた 7 段階の等級、非管理職は 7 段階の職能に基づいた等級

がその処遇のベースとなっている。

· 現人事制度の導入は国内外のグループ会社への統一的人事プラットフォーム構築、

役割に応じた処遇の徹底が狙い。導入時に組織のスリム化・ガイドライン導入を行っ

た一方、減給対象者には慎重な移行措置を提供している。

· 本社のほか国内外の主要関係会社へも共通の役割等級、報酬・評価制度の導入を

計画しており、グループ横断的な人材の配置・育成・登用につなげていく予定である。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 事業環境の変化に伴い、従前の職能資格ベースから役割ベースで処遇を決められる

仕組みを導入することで、グループ内人材の可視化、人員配置の 適化につなげて

いく必要があった。また業務負荷の大きい上位役職者に報いるため、役割に応じて

人件費の適正な再配分を行う必要性が感じられていた。

· 管理職については本社のほか、国内外の主要関係会社も含めて共通等級を設定し、

報酬管理や評価制度、運用システムもできる限り共通化することで、グループ全体と

しての人材の一元管理・登用の強化や、将来的にはバックオフィス業務の集約も企

図している。

3.人事制度の特徴

· 管理職は役割等級で 7 段階、非管理職は職能等級で 7 段階である。管理職クラスは

組織マネジメント系と専門職系に分かれている(等級段階数や処遇は組織系・専門系

共に同一)。

· 非管理職は主に、製造直接業務に従事する技能職、事務系業務を担う一般職と、い

わゆる大卒総合職である企画専門職に大別される。

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125

· 本等級制度は、グループの国内外の主要関連会社の管理職層において、人材マネ

ジメントの共通基盤として採用される予定であり、適所適材や適正な報酬管理に活用

される予定である。

· 役割の定義は職種や等級という単位で行われており、個別ポジション毎のジョブディ

スクリプションは設定されていない。役割の大きさの評価はコンサルティング会社の

手法を用いて行われている。

· 基本給の主要部分は等級毎のレンジ給となっており、昇給はメリットインクリース方式

である。

· 新人事制度導入前より管理職の報酬構成はシンプルであったが、新制度導入時に

更に簡素化が図られ、大半が役割に基づく基本給に集約されている(非管理職につ

いてはこの限りではない)。

· 賞与は夏冬の支給で、半期毎の会社業績・部門業績・個人評価に基づいて連動

· 評価は MBO(目標管理)と行動評価の2つである。MBO は賞与、行動評価は年次昇

給に反映される。

· 昇格は、管理職は具体的な役割の変更が昇格(降格)の要件だが、非管理職では昇

格試験や TOEIC などの要件も整備している。

· MBO は絶対評価、行動評価は相対評価である。MBO は目安となるような評価分布

のゆるやかなガイドラインを設定している。行動評価はグループ横断的な人材管理の

ため、新制度導入に伴い分布ガイドラインを統一化する予定である。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· 従来の職能資格制度下では多くの管理職が一定の処遇まで勤続年数に応じて保障

されていたことから、導入検討時には管理職層のモチベーションに慎重に配慮し、段

階的に処遇調整を図る緩和措置を設計することで対応した。

· 制度導入に伴い、管理職層について過去制度と比較し厳しい格付けとなった社員が

発生したが、上記緩和措置もあり、導入は比較的スムーズに実現された。

· 仕組み上やむを得ないことではあるが、各ポジションの役割等級を個別に設定・認定

する必要があることから、従来の資格管理に比べ本社人事部門の業務量は増加して

いる。

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5.採用・配置・育成の特徴

· 新卒採用:中途採用の割合は年間採用人数に対しておおむね 3:1。採用は技術系・

事務系の総合職が中心である。採用人数の計画は、部門別・職種別に要望を聴取し

て決めている。中途採用は通年で実施しており、事業拡大に伴う人員補充がメイン。

· 人員構成上、特に比率が少ない 20 代後半~30 代は積極的に中途採用を行ってい

る。

· 新卒、中途共に採用時の事業部門・職種から異動しないことが多いが、同一職種で

の事業部門をまたいだ異動は特にバックオフィス系職種では多く(経理・人事・IT 等)、

また各事業部門の要望に応じた技術系職種の事業部門間の異動も一部にみられる。

· 新卒採用は近年特に本人の希望にできるだけ沿った形で配属先を決めている。これ

により優秀人材を採用しやすくなる他、受入側の意識を高める効果もあると考えてい

る。また、このほかに社内に公募制度があり、年間若干名が異動している。

· 教育研修の体系は、階層別、選抜、選択研修がある。職種別教育は、管理職、評価

者研修がある。若年層(企画専門職)に対してはスキル系研修(知財、英語力等)が

多い。

6.人事機能

· 人事関連ルールの整備は人事部主導で定めている一方、採用や異動の決定などの

多くの人事運用は事業部門に委ねられている。多くの事項で人事部門は拒否権を有

しているが、ルールや基準が満たされれば人事が事業部門の判断を覆すことはあま

りない。

7.まとめ

l 当社は情報通信・エネルギー等のインフラ部門からエレクトロニクス、自動車部品など

様々な事業部門を有しており、事業によって投資・回収の時間軸、市場の環境変化のス

ピードにも違いがあることから、人事部門は共通の仕組み・ガイドラインを定める一方で、

人事上の運用面での決定権の多くは事実上、各事業部門に委ねる方針としている。

l 事業によって状況は様々ながら、総じて市場環境変化のスピード感がますます上がる

中で「その時々の役割に応じた処遇」を提供することで適正な人材の採用・登用・動機づ

けを行うニーズは高まっており、今回の仕組みの導入はその期待に応えるものといえる。

l 今後のチャレンジとして、シニア社員への対応、働き方改革、事務部門の人材のスキル

再教育、幹部人材育成などが想定される。特に、今後のさらなる定年延長・再雇用期間

の長期化の必要性を考えると、従前のように昇格しない=出世競争からの脱落という発

想ではなく、多様な働き方を会社側としては提供し、従業員側も積極的にその時々のラ

イフステージ、個人の志向性に応じて選択していくという状況にシフトしていくことが重要

と考えられている。

以上

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127

業種 機械製造業(汎用機械器具、生産用機械器具、業務用機械器具)

売上 1 兆円以上

従業員 200,000 人以上

資本タイプ 外資系

1.摘要

· 当社は職務・成果主義的な考え方を人事の基本ポリシーとして長年運用しており、新

たな役割へのチャレンジに積極的な役職員の採用・育成・登用を行っている。

· 全世界共通で非管理職・管理職・上級管理職・エグゼクティブ職の 4 区分があり、全

役職員を職務価値や成果に基づいて処遇している。

· 社員を適切に処遇するため、職務記述書をすべてのポジションで整備し、市場価値と

の比較を行っている。

· 2015 年からは、市場の変化により速く対応すること等を狙って目標管理制度や評価

のレーティングを廃止しており、上司・部下の間のコミュニケーションや、各個人の強

みや育成課題といった情報の収集・可視化を重視する方向へ大きく人事評価の考え

方の転換を図っている。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 長年にわたり職務を基軸とする人事制度をグローバルで導入している。

· グローバルすべてのポジションでジョブディスクリプション(職務記述書)が整備されて

おり、社員の処遇はジョブディスクリプションをベースとして、職種と職務の大きさに基

づいた市場価値をベースに決定される。そのための仕組みづくりを人事が行う一方、

昇給や賞与の 終決定は上司であるマネージャーが行い、部下への説明責任を担

っている。

3.人事制度の特徴

· 等級は全世界共通で4等級(以下)となっている

o P Band=非管理職

o Lead Professional Band=管理職

o Senior Professional Band=上級管理職

o Executive Band=エグゼクティブ職

· すべてのポジションに対して職務記述書が定義されており、役割や責任、求められる

人材要件やスキルなどが、各ポジションあたり A4 用紙 1 枚程度のボリュームで作成

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128

されている。役割の大きさの評価は社内のシステムを使って行われており、各部門に

配置されている人事部門(HR ビジネスパートナー)が組織改編の都度、更新をしてい

る。

· 詳細な報酬テーブルは設定されておらず、市場価値に合わせて柔軟に処遇できるよ

うな運用ポリシーを有している。

· 報酬水準の市場と比較した妥当性の確認、いわゆるベンチマークは、各種市場デー

タを参照し、毎年行われている。

· 年次昇給の 終的な決定権限は、原則として直属の上司であるマネージャーが有し

ている。部下の報酬水準と市場の水準を比較した相対的な位置に応じ、適用可能な

昇給率の範囲は予め定められている。マネージャーはそれらの範囲の中で、自部門

に割り振られた昇給予算の範囲内で部下の昇給率を決定している。

· 賞与もマネージャーに配分する権限がある。部門のパフォーマンスの配分原資が付

与され、その範囲内で部下の賞与の支給金額を決定している。

· 営業のセールスインセンティブは賞与とは別体系となっており、売上目標や受注目標

等の達成率に応じ、対象部門において支給されている。

· 長年にわたり人材管理のコアであった目標管理と行動評価の 2 軸によるいわゆる「9

ボックス」での人材管理フレームワークは全世界的な方針により、2015 年に廃止され

た。これにより評価と処遇の直接的な結びつきは解消された一方、部門内で、各個人

の状況や実績について話し合う「ピープル・レビュー」や、上司から部下へのフィード

バックは頻繁に実施されており、情報については引き続き重視しながらきめ細かな人

材管理、評価は引き続き行われている。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· 市場動向に基づいて適切に部下の報酬水準を決定する上ではマネージャーに一定

の評価スキルが要求されるため、継続的にマネージャー向けトレーニングが実施され

ている。

· 金銭以外の報酬・報奨は従前より重視されている。金銭面のモチベーションやリテン

ションに対する効果は(一般に)一時的であるとみなされるのに対して、非金銭的な報

酬・報奨は持続的に効力を発揮できると認識されている。具体的には従業員の貢献

に対する会社からのリコグニション(承認)や、研修への参加機会の提供等であり、今

後もこういったトータルリワード(非金銭面も含めた総合的な報酬・ベネフィットパッケ

ージの提供を通じて従業員の動機づけ・リテンションを図るフレームワーク)の考え方

は重視し、推進される方針である。

5.採用・配置・育成の特徴

· 中途採用が中心であり、新卒採用は、一部の事業部門のみに限定されている。

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· 原則としてポジションが空いた場合に採用を行っており、採用の権限は事業部門側

が有している。

· 採用時の処遇水準は事業部門側に配置されている人事スタッフ(HR ビジネスパート

ナー)が原案を作成し、本社部門の人事および事業部門の採用責任マネージャーが

レビューをする体制となっている。

· ローテーションは定期的な実施はされておらず、原則としてポジションの空きが出た

場合に自ら動くという形が多いが、そのほかに事業上の必要性や人材育成の観点か

ら、同一職種内・あるいは同一事業部門内でのローテーションは存在する。

6.人事機能

· 人事上の運用権限については事業部門に配置されている HR ビジネスパートナーに

多くの裁量が与えられている一方で、本部で一定程度、それらの運用についてレビュ

ー、コントロールする仕組みも整えられている。

· 採用の 終的な決定や、昇給・賞与の決定などは、従前の説明のとおり、事業部門

のマネージャーに原則として決定権限が与えられている。

7.まとめ

· 当社は世界を代表する米国発グローバル企業として、事業管理・人事管理の手法は

全世界で統一的なポリシー・仕組みが適用されており、日本国内においても同様のフ

レームワークが導入されている。

· 人事施策についてはその時々で先端的な試みを行っており、近年では人事評価にお

けるレーティングの廃止等、先駆的な取り組みを行う一方で、報酬面については「ポ

ジション毎に、市場価値と比較して適正な処遇を提供する」ということが長年にわたり

基本的なポリシーとなっている。

· 評価制度・報酬制度については引き続き適正な運用を図ると同時に、従業員の動機

づけ、リテンションを図るために金銭以外も含めたトータルリワードの考え方に基づき

様々な施策を検討、展開していくことが今後の優先課題と認識されている。

以上

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業種 電気機器

売上 1 兆円以上

従業員 200,000 人以上

資本タイプ 日系

1.摘要

· 当社は、役割主義を採用しており、従来の人管理からポジション管理へとグローバル

共通の軸を持った全社横断の人材マネジメントを行っている。一方で、報酬はブロー

ドバンドとして、異動に伴う処遇変更が発生しにくい工夫を行っている。

· 管理職については7段階の役割に基づいた等級、非管理職は4段階の職能に基づい

た等級がその処遇のベースとなっている。

· 現人事制度の導入は、人材多様化への対応、グローバル化に向けた変革を目的に、

コーポレートガバナンスも含めた改革の一環として行われた。

· 連結子会社含め管理職以上のポジションは、それぞれのポジションのジョブプロファ

イルを設定し、グローバルな人事システムで一元管理している。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· リーマンショックに伴う業績悪化により、海外事業の一層の拡大とそのための人材多

様化への対応は必至であった。この課題を前に従来の工場/事業部の採算性という

考え方ではグローバル全体 適の実現は困難であり、グローバルに相乗効果を上げ

るためには、リーダーシップ開発、パフォーマンスマネジメント、グローバル人材デー

タベース等の共通言語(=プラットフォーム)を持って人材の把握・グループ 適化を

図る必要があると考え、コーポレートガバナンス含めたグローバル改革の一環として、

管理職以上に役割を基軸とした人事制度を導入した。

· 管理職以上のポジションは連結子会社含め設定しており、それぞれにジョブプロファ

イルを設定している(グローバルな人事システムで管理)。異動に伴う役割の変更に

より昇格・降格は発生するが、支給水準レンジを比較的大きな重複型にすることで、

本人の収得上の影響を少なくしている。

3.人事制度の特徴

· 管理職は役割等級で 7 段階としている。非管理職は職能等級で、いわゆる総合職が

4 段階、いわゆる技能職・一般職が 5 段階である。等級は全職種共通である。

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· 管理職の役割の定義はポジション単位で作成されており、標準定義を元に組織ごと

のミッションを踏まえて作成している。役割の大きさの評価はコンサルティング会社の

手法を用いて行われている。

· 基本給は等級毎のレンジ給となっており、昇給は評価に応じた昇給テーブルを適用し

ている。

· 非管理職の賃金水準は毎年の労使交渉で決まり、外部市場の動向は間接的に影響

を受ける。中途採用やグローバルでの採用時の各個人の報酬水準については、外

部サーベイを参照しながら決定している。

· 手当は法定の時間外に加え、家族手当や裁量労働手当、住宅手当等がある(住宅

手当は条件に当てはまれば管理職も対象)。

· 非管理職の賞与は年2回、夏冬に労使交渉で決定している。

· 業績管理については、管理職・非管理職ともに 5 段階のグローバル共通のパフォー

マンスマネジメントを適用している。当該パフォーマンスマネジメントは個人目標(MB

O)とコンピテンシー評価の 2 つから構成されている。また、管理職について、その評

価を直接賞与に反映している。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· 導入時には説明会・研修を複数回実施した上で、事業所人事が現場とのコミュニケ

ーション役を担当し、制度を構築した本社人事との橋渡しを行い、現場の声を丁寧に

拾い上げ、運用に耐えるよう制度のブラッシュアップを行った。導入に当たっての激変

緩和措置やコミュニケーションについて丁寧に行っている。

5.採用・配置・育成の特徴

· 新卒採用が中心である。採用の区分は、事務系と技術系であり、いずれも本社人事

が取り纏めを行い、選考実務については事務系は本社人事が、技術系はビジネスユ

ニットが夫々行っている。

· 採用人数については毎年 2~3 月に審議・策定する全社人員計画に基づく。

· 社内に足りないポジションは一部、中途採用も行っており、増加傾向である。

· 必要性に応じた異動が原則。配置検討はビジネスと連動するため、事業の方向性を

踏まえ定期組織改正時(10 月/4 月)に合わせて行う。

· 職種を超えた異動は育成・縦割りの防止の観点から、多くはないが実施している。基

本的にはポジションが変われば仕事が変わるということで、職種を変えるという意識

は低い。

· 教育体系・プログラムを検討・運営する専門の部署があり、共通の階層別・専門教育

を行っている。これに加え、タフアサイメントを通じた選抜型研修や、事業体が主体の

教育委員会でイノベーションを起こすための教育を検討している。

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6.人事機能

· 全般的に人事関連諸事項の起案や決定は人事部主導で行われている日本型の人

事機能設計となっているが、徐々に現場で決定できるよう仕組みを整備しており、例

えば評価に関しては現場で全て決定する。

· 一方で、労組への説明や法制があり、決定権限を全て移譲できない為、報酬や採用、

異動等は引き続き人事がサポートしている。

7.まとめ

· 当社はグローバルなコングロマリット企業であり、関係会社含め管理職以上に共通の

役割主義を採用しており、それを実際に管理し、グローバルに人材マネジメントに活

かしている点が特徴である。

· 今後の課題としては、役割変更時の等級の即時見直しや、報酬ガイドラインの浸透・

徹底、買収した会社への導入方法等がある。

以上

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業種 情報サービス業

売上 1 兆円以上

従業員 200,000 人以上

資本タイプ 外資系

1.摘要

· 当社は、1960 年代後半に職務ベースの等級・給与制度に移行しており、日本国内に

おいて職務給を導入した も古い企業の一つである。

· その後、労働マーケットのトレンドや職務のあり方の変化により、90 年代後半にブロ

ードバンド化と共にグローバルで職務等級を共通化している。

· 現在の職務等級体系は、職務の重要度・困難度およびスキルを基準にしており、制

度上は、プロフェッショナル職位で 5 等級、サポート職位で 5 等級となっている。

· 1960 年代に職務等級制度を導入した後、グローバルでの制度統一やコンサルティン

グ会社の買収により、時代に合わせた改訂を行ってきた。職務等級制度であること自

体に変更はない。

· 近年は、年度単位での目標管理を廃止し、より柔軟な頻度での社員へのフィードバッ

クを重視する、いわゆるノーレーティングを導入している。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· アメリカ本社では、公民権運動が行われる 11 年前の 1953 年には、機会均等に関す

るコーポレートポリシーを発表している。

· 日本の当初の給与体系は、学歴と勤続年数を重くみすぎた傾向を持っていた。これ

を是正し、より公正に社員の成果を反映できるよう、1968 年にアメリカ本社と同様の

制度である範囲職務給制度を導入した(発表は 1967 年 12 月)。

· 1990 年代後半には、職務を大きな括りで捉えるようになってきたトレンドに対応すべく、

職務等級数を少なくし、また、給与レンジを幅広くする、グローバルと共通のブロード

バンド化を行った。

· また、日本固有の諸手当を極力少なくするなど、様々な改訂も行ってきたが、職種別

に給与レンジを設定し、職務に応じた給与を支払う、というコンセプトについては変わ

っていない。

3.人事制度の特徴

· 現在の職務等級体系は職務の重要度・困難度とスキルを基準に、制度上は、プロフ

ェッショナル職位が 5 等級、サポート職位が 5 等級となっている。

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134

· 新卒で入社した場合でも、プロフェッショナルの職種の採用であれば、プロフェッショ

ナル職位の職務等級において処遇される。

· サポート職位は、アシスタントなどの職種が該当する。

· 職種については、グローバルで大きく分けて 23 のジョブカテゴリーとその下に幾つか

のサブジョブカテゴリーが存在する(日本においてすべてのジョブカテゴリーが存在す

るわけではない)。

· 職務の定義は、主として、職種や等級という単位で行われている。1990 年代のブロ

ードバンド化は、仕事の中身が常に変化しており、個別ジョブの定義を正確に詳細に

記述し続けることが難しかったことが背景にある。

· 職務毎の給与をベンチマークし、職種別・職務等級別給与レンジを設定している。

· 昇給に関しては、個々人の給与水準、市場価値、パフォーマンスなどに基づき、与え

られたファンドの中でマネージャーが昇給額を決定する。

· 賞与に関しては、会社業績により総原資が決定され、個々人の金額をマネージャー

が決定する。

· 降格が発生した場合、給与レンジに対する現給与の位置が高くなるので、その後の

昇給の幅は小さくなる。

· 近年、処遇決定に結びつけるための年次の相対評価制度を廃止した。

· 目標管理については、年単位にしばられず長期にも短期にも柔軟に実施することとし、

「何が目標で、何を達成すべきか?」という事項に関しては、経営管理の一環としての

コミュニケーションやモニタリングを、その都度、適宜、システム上で行っている。

· 目標達成の進捗、発揮された行動・知識・スキル等に関して、頻度高くフィードバック

することを重視している。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· 職務を明確にすることは組織・人材のマネジメントの基礎として必要なことだが、変化

の大きな業界のため、職務に必要とされる成果責任、業務行動、スキル・知識が、す

ぐ変化してしまう。

· そのため、個別ジョブに対して、非常に詳細で正確な定義は作成せず、概括的に捉

えるようになっている。

5.採用・配置・育成の特徴

· 新卒採用・中途採用ともに実施している。どちらも職種別採用で、基本的には不足し

ているジョブに対して採用を実施している。

· 採用の母集団形成や日程の調整は人事が実施するが、採用の決定はビジネス側に

権限がある。

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135

· 事業部内での異動はほぼ事業部に権限移譲されている。事業部を跨いだ異動の場

合には、人事が関与する場合がある。

· 基本的には同一職種の中で異動することが多い。他職種への異動について制度上

は可能性があるが、実際は多くはない。

· 専門分野が多く、さまざまな研修が実施されている。

6.人事機能

· 全般的に人事は制度設計や全体のバランスをチェックする役割で、各ビジネスに多く

の権限が与えられている。

· 例えば、新卒も中途も採用は 終的な決定権がビジネス側にあり、評価や昇給・賞

与・昇格・異動などもビジネスの意向が大きく反映される。

7.まとめ

· 当社は全世界で事業展開する大規模なアメリカの企業であり、各時代でグローバルト

レンドに基づく、新しい人事施策を導入している。

· 近年は、目標管理に対する問題意識が世界的に高まっていること、事業の性質上、

変化が速く、目標管理での対応が難しくなっていること、ミレニアム世代の特徴を総合

的に考慮し、年次評価としての相対評価制度は取り止め、フィードバックを重視する、

ノーレーティングの考え方を採りいれている。

· 今後の課題としては、職務内容や期待される成果が明確であるため、自主裁量的に

働くことはいっそう進んでいくが、長時間労働とならないような配慮が必要となることな

どがあげられる。

以上

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136

業種 その他製造業

売上 5,000 億円以上 1 兆円未満

従業員 10,000 人以上 25,000 人未満

資本タイプ 日系

1.摘要

· 当社は幾つかの制度改訂を行ってきているが、役割・成果主義に切り替えたのは

2001 年に遡り、現在も継続している。国内において複数社の統合局面を経ながら必

要な改訂を行ってきたが、役割・職務中心の考え方は多様な人材を貢献に基づき処

遇することに役立っている。

· 管理職については 6 段階の役割に基づいた等級、非管理職は 7 段階の職能に基づ

いた等級がその処遇のベースとなっている。

· 現人事制度の導入は、管理職において職能資格制度を導入していた際の役割と報

酬のアンバランスを是正するために行われた。

· サクセッションなどのタレントマネジメントの仕組みや、ジョブポスティング・キャリア申

告といった制度により、組織の硬直化を防いでいる。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 管理職に対しても職能資格制度を運用してきたが、1990 年代後半から 2000 年代初

頭にかけて、実際に担っている役割、すなわち貢献の大きさと報酬の水準が一致して

いないケースが散見されていた。

· 会社の賃金の原資を適切に配分するために、職責の大きさにより上げ下げができる、

役割を基軸とした人事制度を管理職に導入したことが、役割・職務を重視した人材マ

ネジメントへのシフトのきっかけである。

· 一般職においては、長期的な人材育成を行うために職能資格制度を維持しており、

管理職においてもパフォーマンスが出ない場合においては役割が下がるが、組織都

合では原則降格しないなど、比較的穏やかな人材マネジメントを志向している。

3.人事制度の特徴

· 管理職は役割等級で 6 段階、非管理職は職能等級で 7 段階である。

· 総合職/一般職の区分は廃止され、現在では区分はなくなっている。

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137

· 役割の定義は職種や等級という単位で行われており、ジョブディスクリプションは設定

されていない。役割の大きさの評価はコンサルティング会社の手法を用いて行われて

いる。

· 基本給の主要部分は等級毎のレンジ給となっている。

· 基本給の改定は評価に応じてメリットインクリース方式で決定する。

· 賞与は年 2 回支給され、会社業績をベースに組合と交渉を行い、賞与月数(総原資)

が決定する。

· 評価はパフォーマンス(ベースは目標管理)とバリュー(行動)により決定される。それ

ぞれ 3 段階で評価を行い、総合評価は 5 段階で相対評価となっている。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· 社員とのコミュニケーションについては重要なプロセスと位置付けて丁寧に実施した。

· 職務評価の具体的な基準・手法は公にしていないため、一部の組織長から理解を得

ることが難しいこともあったが、格付けの結果に対しては概ね納得して頂けた。

· 制度導入に伴い降格となる社員が発生したが、その場合、月例給は一定の移行措置

を講じた。

5.採用・配置・育成の特徴

· 新卒採用が中心である。基本的には一括採用だが、研究開発など一部の職種につ

いては、部門からのニーズに応えるようにしている。

· 中途採用については、部門が必要とするジョブを中心に個別に採用を行っている。

· ジョブポスティングにより、社内から候補者を選抜することができる。

· 社員は毎年 1 回上司とキャリア面談を行い、キャリア上の希望を伝えることができる。

· 階層別の研修・職種別の研修・テーマ別の研修・選抜型の人材育成プログラムなど

がある。

6.人事機能

· 昇給・賞与などは、人事部の定めたルールによって横串を通す形で行われている。

· 一方、人事異動に関しては、一部を除いて各部門長のオーナーシップのもとに行わ

れるようになっている。

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7.まとめ

· 当社は役割・職務に基づく人事制度を導入しており、国内での統合・海外企業の買収

などを契機に、タレントマネジメント、ガバナンス等の人事関連の取り組みへの着手は

早めであり、日本企業としてはグローバルプラクティスに準じた手法を積極的に採用

している。

· その結果として、外部市場からの採用を意識した運営となっており、新しいタイプの人

材が必要になった際等、中途採用がやりやすいベースが形成されている。また、貢献

度の高い社員に多く配分することもできている。

· 加えて、ジョブポスティングやキャリア申告などにより、社内の他部署に求められる要

件やスキルを目にし、考える機会を設けられることで、キャリア形成や自律を促してい

るといえる。

· 今後の課題としては、役職にはついていないが、市場価値の高い専門スキルを持っ

た方の処遇や、処遇のメリハリと公平性のバランスなどがあげられる。

以上

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139

業種 情報サービス業

売上 1 兆円以上

従業員 50,000 人以上 100,000 人未満

資本タイプ 外資系

1.摘要

· 企業ミッション実現のために会社として目指すカルチャーが 5 つ設定されており、カル

チャーを指標に採用・育成等の人事施策を実施

· 期待されるミッション・役割に応じて等級を定め報酬を支払う人事制度。評価制度は

近年個別のレーティング・年次評価を廃止し、短期間でフィードバックを実施する仕組

みに改編

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 従前より各社員に期待されるミッション・役割に応じて等級(グレード)を定め、職種毎

の等級に応じて報酬を支払う仕組み

· ここ数年は、トップマネジメント体制の変更に伴い、個別のレーティング・年次人事評

価を廃止し、短期間で頻繁なフィードバックを行うことで上司・部下の間の対話を促進

し、人材育成を促す考え方に変更

· 報酬水準は毎年市場をベンチマークしながら各ポジションの適正な報酬水準を人事

がラインマネジャーに情報提供し、一定のガイドライン(昇給ファンド)の範囲内でライ

ンマネジャーが決定する考え方

3.人事制度の特徴

· 等級を定めた「キャリアステージ」が設定され、キャリアステージ毎にグローバル共通

の職務記述書が存在。また、キャリアステージの中にさらに上下の細かなバンドが 2

つ存在し管理を行っている。ある程度バンドが細かく設定されているため、昇格は一

定程度頻繁に発生している

o キャリアステージは 7 段階。下から 1-3 段階が非管理職、4 段階目より上が

管理職向けのステージ

o マネジメント系と専門職系の複線型のキャリアラダーとなっており、下から 4

段階目の管理職からキャリアが分岐している。専門系に位置づけられる社員

は、下から 6 段階目(管理職の 3 段階目)まではエンジニア以外も含め、一

定数存在している

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140

o 各個人に常に成長することが求められているため、基本的にキャリアステー

ジが下がることはない。降格はキャリアステージに見合う活躍をしていない場

合のみ、例外的に実施される

· 報酬は基本給、インセンティブ、 ストックアワードで構成

o インセンティブはセールスインセンティブボーナス(営業・コンサルティング部

門のみ・年 2 回支給)とパフォーマンスボーナス(全社員対象・年 1 回支給)

の 2 種類が存在

o ストックアワードは下から 3 段階目以上が支給対象で、支給水準はグローバ

ルポリシーにより定められている(キャリアステージにより異なる)

o 報酬レンジは職種毎にきめ細かく設定されている(全 4 種類・レンジは一定の

重複あり)。専門職系とマネジメント系の報酬レンジ水準に特に差は設定して

いないが、報酬レンジ自体が広いため、レンジ外の在籍者はあまり生じない

仕組み

o リテンションリスクの高い社員に関しては、リテンションボーナスやストックア

ワードで個別に対応している

· 報酬改定は上司による対象社員の業績アセスメントと対象者の現行報酬水準を考慮

して実施される。業績アセスメントでは、上司は対象社員の当該年度の目標達成度

やビジネスへの貢献度に応じた「インパクトアセスメント」を行い、アセスメント結果か

ら自動的に報酬配分(インセンティブボーナス・新基本給・ストックアワード)が算出さ

れるような形となる

o インパクトアセスメントは細かなガイドラインは定めていないが、評価者と評価

者の上位管理職よる複数回の確認により評価尺度のすり合わせを行い、ビ

ジネス部門全体でアセスメントの適正化を行う。原資分配は上司に委ねられ

ているが、結果が集中化しないよう人事部門も確認している。部門単位で原

資が定まっているため、大幅な上振れは生じていない)

o 一方、インパクトアセスメントにはスコアは存在しないため、定性的に評価や

報酬決定の理由を説明することが上長には求められている

4. 人事制度導入時の課題と対応策

· 現行トップマネジメント体制への移行に伴い、従来のパフォーマンスカルチャーから、

全ての人が成長できることを重視した制度に移行。それを受けて従前の人事評価を

廃止し、短期間でフィードバックを行う評価制度に変更

· 報酬決定については、上述のように各社員の成果・貢献や市場との対比、原資を踏

まえて決定する仕組みとなっており、人事評価自体を廃止しても適正な報酬水準で人

材を確保する仕組みを構築・運用

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5.採用・配置・育成の特徴

· 大規模な組織変更が発生する際や、会社の人材育成計画に則ってキャリア開発のた

めの戦略的な異動を実施する場合のみジョブローテーションは発生するが、原則とし

てローテーションはない。一方で、キャリア開発のための社内ジョブチェンジは推奨さ

れており、本人の希望に応じてオープンポジションに本人が応募し、社内での面接プ

ロセスを経て異動が決定される

6.人事機能

· 人事体系、人事ポリシーは基本的にグローバルで共通化されている

· 人事部門はいわゆる CoE(中央人事)、人事 BP(ビジネスパートナー)が存在し、CoE

は適正な報酬決定を行うための情報提供やレビュー、人事 BP はラインマネジャーを

サポートして適正な人事運用を行っている

· 採用や昇給、インセンティブ等の決定権限の多くはラインマネジャーが有しており、人

事部門(CoE、BP)は妥当性の確認はするものの、原則として上長が一定程度裁量権

をもって決定している

7.まとめ

· 同社はグローバル IT・ソフトウェア大手企業として強い事業競争力・人材採用力を有

するが、さらなるイノベーションを創出し業界をリードするため、人材マネジメントポリ

シー、人事の仕組みを近年転換(過度のパフォーマンスカルチャーから、個々人の成

長を重視するポリシーへ)

· 人材流動性が高く、リテンションの必要性が高い業界のため、一定のガイドライン・ル

ールは設定している一方で、採用や報酬決定権限の多くをラインマネジャーに委ね人

事部門がプロフェッショナルとしてラインの意思決定を支援することで、効果的な人材

管理を実現している

· 近年外資系企業を中心に普及しつつある「人事評価・レーティングの廃止」について

は、個人の力量・能力の評価自体を放棄するのではなく、むしろきめ細かく上長が部

下とのコミュニケーション、フィードバックを行うことを企図しており、その適正な運用に

はラインマネジャーの高度なマネジメント能力、人事部門の適切なサポート機能が必

以上

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業種 サービス業

売上 1 兆円以上

従業員 25,000 人以上 50,000 人未満

資本タイプ 日系

1.摘要

· 極めて競争環境が厳しい業界において、1 人 1 人が自律的に成長し事業/組織の

成長・変革をリードすることを重要視した人事制度を構築・導入

· 業務を任せられる社員に対してはどんどん昇進機会が与えられる職務等級制度を整

備し、実力に応じた職責・処遇というポリシーを徹底

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 以前は職能ベースの等級・報酬制度だったが、徐々に報酬と業務内容にアンバラン

スが発生してきた結果、十数年以上前から職務ベースの人事制度を導入

· 変化が極めて速い業界であるため、1 人 1 人が成長し、変化対応、変革をリードする

ことを極めて重要と考えている。そのため職務等級をベースとし、任せられる人に対

してはどんどん職務を与えられるようにしている

3.人事制度の特徴

· 等級は役割ベース。グループ各社により若干異なるが、本社では執行役員未満の非

管理職・管理職の等級数は計 13 段階(うち非管理職が 6 段階)となっている。職掌

等による区分はない。

o 低滞留年数は設けておらず、ルール上は半年ごとに昇格し続けることが可

能。各社員の役割・ミッションを見直す際に昇降格を実施

o 役割ベースとなってはいるものの、実態として非管理職レイヤーでは、現職者

の降格はあまり多くない。管理職レイヤーでは、職責が変わればそれに応じ

た等級変更が行われる

o 専門職という位置づけで管理職レイヤーの等級に昇格するケースもある

o ポジション毎の詳細な職務記述書は存在しないが、個人ごとに職責・ミッショ

ンを作成し、毎期の目標設定時に更新することで、各ポジションの職責につ

いては明確化している。役割等級もそれらの職責に応じた見直しが図られて

いる

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143

· 報酬構成は基本給、賞与のみで諸手当等はない。基本給は等級ごとのシングルレー

ト(同じ金額)となっており、異なる職種であっても等級が同一であれば、基本給は同

o 4~9 月の評価結果は冬賞与に、10~3 月の評価結果は夏賞与に反映される

· 評価は半期の MBO のみ。目標は全社目標から落とし込まれ、達成度を評価。評価

は 9 段階の絶対評価。社内で評価基準の目線合わせがおおむねできているため、

分布が部門毎にいびつになることはない。各項目に対して比重を設定し、加重平均を

行った上で 終評価を確定

o コンピテンシー評価は本社、グループ会社とも大半が導入していない

o 評価は賞与に反映されるが、昇格は役割変更が必要条件なので、評価結果

が直接的には昇格には結びつかない仕組み

4.人事制度導入時の課題と対応策

· 十数年前に職能等級から職務等級へ変更した際に、一定期間の移行措置を設定

5.採用・配置・育成の特徴

· 中途採用は職種・部門ごとで実施。上位層は相対的に専門性を重視。また、共通基

準としては、ロジカルシンキングや当事者意識等のベースのコンピテンシーを重視し

ている

o 各ファンクションでは専門性を見極めるため、部門単位での面接が多い。事

業部門(グループ各社)の場合は、ラインマネジャーが 終面接官のため、人

事・部門双方で採用を実施して適性・フィットを見ている

· 異動は、職種・部門をまたぐローテーションも比較的実施されている。社内公募による

本人意思での異動も奨励されている

6.人事機能

· 採用や評価に関しては、事業部門(各グループ会社)の裁量に完全に委ねられてい

る。人事制度の骨格はおおむね共通性が高い一方、その改廃は上位幹部層を除き

各社に改編権限がある

7.まとめ

· 同社では年齢、社歴によらず実力に応じた等級・処遇を徹底する人事制度の仕組

み・運用が、新卒・中途共に優秀な人材を採用・登用する上で極めて重要な競争優位

の源泉となっている

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144

· 今後さらに事業展開のグローバル化・多角化を進めていく中で、人材に関する基本的

な考え方・ポリシーは維持しつつ、いかにグローバルに通用するトップタレントを採用・

処遇できるかが新たなチャレンジとなっている

以上

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145

業種 卸売業、小売業

売上 1,000 億円以上 5,000 億円未満

従業員 5,000 人以上 10,000 人未満

資本タイプ 日系

1.摘要

· 当社は、役割・成果主義を導入する一方で、店舗を中心とする現場での人材育成を

重視している。

· 管理職は 2 段階、一般職は 4 段階で役割定義に合わせて格付けが決定される。特

に管理職はポストと明確にリンクされており、ポストが無いと昇格することがない。

· 現人事制度の導入は、年功序列→成果主義への転換・人件費配分の適正化を意図

して行われた。降格や減給も発生したが、対象者とは丁寧なコミュニケーションを実

施した。

· 社内にどのようなポジションがあって、そのポジションには何が求められているのかを

明確にするために、職務記述書の整備を行った。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· もともとの年功序列的な職能資格制度を成果主義の方向へ変えたいという意図と、

業績の悪化により人件費の配分を適正化する必要があった。

· 役割定義に合わせて格付けが決定する役割・成果主義である。年齢に関係なくチャ

ンスを与えることができている一方で、できる限り降格が発生しないように、設計上等

級数を少な目にする、異動時のポストを配慮する等、比較的穏やかな人材マネジメン

トを志向している。現場で人を育てるという方針のもと、全体的に現場のニーズや裁

量を重視している。

3.人事制度の特徴

· 管理職は 2 段階、一般職は 4 段階の等級がある。

· 連続して一定以上の評価をとると、昇格面接の資格が発生し、昇格面接で、ポジショ

ンに上げる資格があるかを判断する。ポジションにふさわしい人がいない場合一部抜

擢もありえる。

· 正社員以外の雇用区分は嘱託(契約・専門職)・パート・アルバイトがある。

· 役割定義に合わせて格付けが決定される。

· 上位の管理職や店長はポジションと格付けが決まっているが、本部のスタッフの格付

けはややあいまいになっている。

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· 組織都合により下位職務に異動があった場合には、必ずしも降格は行わず、ポジショ

ンと本人のグレードの不一致がありうる。

· 等級との結びつけのためではなく、社員のキャリア形成のために、社内にどのような

ポジションがあって、そのポジションにはどのようなスキルや経験が求められているの

かを明確にするために 2016 年に職務記述書の整備を行った。

· 報酬の構成は等級ごとのレンジ給と手当となっており、手当は役職手当が中心にな

っている。昇給はメリットインクリース方式である。

· 賞与については、上位の等級ほどが全体に占める賞与の割合が高くなっている。

· 評価は業績評価(目標管理)と行動評価(コンピテンシー)に分かれている。総合評価

は相対評価で行われ、賞与や昇給と結びついている。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· これまでの制度から新しい基準での格付けに変更されたことにより、降格や給与の減

額も生じた。対象となった方々には、移行措置により数年かけて償却を実施した。

· 社員とのコミュニケーションについては、3 週間(合計 36 回)かけて人事が各地で説

明会を実施した。

· 2000 年の制度導入当初は、業績評価のみで結果のみに目が向く等の弊害があった

ため、2004 年に行動評価を追加的に導入した。

5.採用・配置・育成の特徴

· 新卒採用が中心で、職種を分けずに採用を行っている。

· 中途採用は現場のニーズを聞きながら職種別に実施している。現場は尊重するが、

終的な採用/不採用の判断は人事部が実施する。

· 現場を重視しており、キャリアパスは店舗から始まり、本部/店舗/本部内の各部署で

ローテーションがありうる。

· 異動については、毎年社員からとる自己申告・部署の人員ニーズなどを参考にしな

がら異動先・異動元・人事の 3 者の合意により実施している。

· 人材委員会という、部門の人材構成を考える場があり、5 ボックスによる人材の可視

化や後継者計画などを実施している。

· 教育については、一般職層は階層別にマネジメント研修・店長研修などを人事が主

導して実施しているが、それ以上の層では現場で人を育てるという方針のもと、各部

門に内容を検討する裁量があるが、横串をとおすため、人事の中に育成課ができた。

· 人材育成委員会を定期的に開催し、各部門長が集まって教育について話し合ってい

る。

· 毎年、全社で 1 人を選抜し、外部研修に派遣している。

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6.人事機能

· 全般的に人事関連諸事項の起案や決定は人事部主導で行われている日本型の人

事機能設計となっている。

· 昇給・賞与・昇格などは決められた仕組の中で行われているが、異動配置や教育な

どは、現場や各部門のニーズや合意を非常に重視している。

7.まとめ

· 当社は社員の成果への意識付け・業績への影響を目的に、役割・成果主義を導入し、

結果として、年齢に関係なくチャンスを与えている。

· 一方で業績のみに傾倒するのではなく、現場のニーズの尊重や部門間の合意を重視

した組織運営を行っている。

· 降格については、その基準が限定的で厳しいため、本来行うべき場合でも実施できて

いない可能性がある。その結果、評価者によっては同一等級に停滞が長い社員が存

在することも課題となっている。

以上

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148

業種 電気機械器具製造業

売上 1 兆円以上

従業員 10,000 人以上 25,000 人未満

資本タイプ 非公表

1.摘要

· 事業をけん引する優秀人材の確保・リテンション、組織活力の回復、人件費管理の適

正化を目的として役割等級を全社に導入した。

· 管理職は 14 段階、非管理職は 3 段階の役割に基づいた等級が処遇のベースとなっ

ている。

· 現人事制度は経営危機を契機に、大手企業としては極めて短期間な準備期間を経

て導入された。また導入に伴い組織のスリム化、一部役職者のポストオフなどの施策

も合わせて実施された。

· 原理主義的な「職務等級」ではなく、各ポストを担う個人が実際に担いうる役割を見な

がら柔軟に等級を調整する一方、人事施策全体のポリシーとして役割・貢献に応じた

処遇という当初からの考え方は徹底されている。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 2010 年代半ばの経営危機を契機に、ポスト数の増加、人件費の下方硬直性といった

課題を解決するための手段として、組織のスリム化と同時に役割ベースの人事制度

の導入がなされた。

· 管理職については細かく等級段階を定めて役割の大きさに応じた固定報酬を決定し、

賞与の変動幅を大きく設定することで、役割・貢献に応じた処遇のメリハリを徹底する

仕組みとなっている。

· 年数回開催される人事委員会においてきめ細かく管理職・幹部人材の仕事ぶりが評

価され、スピーディな等級の見直しや抜擢・登用や配置変更が行われている。

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3.人事制度の特徴

· 管理職は役割等級で 14 段階、非管理職は 3 段階である。非管理職は下位等級で報

酬管理のためいくつかのサブ等級が存在する。管理職の等級は 1 本であり、組織マ

ネジメント系と専門職系などの違いはない。

· 総合職、技能職、事務職等の違いはなく、全社員が共通の等級で処遇されている。

· 国内の主要グループ会社も大半が共通の人事制度、処遇制度で処遇されている。

(海外関係会社は除く)

· 役割の定義は職種や等級という単位で行われており、ジョブディスクリプションは設定

されていない。役割の大きさの評価はコンサルティング会社の手法を用いて行われて

いる。

· 基本給の主要部分は等級毎のレンジ給となっており、昇給はメリットインクリース方式

である。

· 管理職の手当は勤務状況に応じた一部の手当以外は極めて簡素である一方、非管

理職については生活水準への配慮から、一定の等級までは扶養家族状況や居住状

況に応じて手当が支給されている。

· 賞与は夏冬 2 回であり、それぞれ 大の振れ幅の目安は 2~8 か月となっている。

管理職の賞与はポイント制であり、同一等級・同一評価の場合は同一金額での支給

となっている。

· 通常の評価に加えて顕著な功績を上げた社員に対しては社長表彰、報奨金などによ

ってスピーディに報いる仕組みがある。

· 評価は MBO(目標管理)と行動評価、および 2 つの評価結果を踏まえた総合評価が

ある。評価の仕組み自体はシンプルであり、上司と部下の対話を通じた評価の決定

を重視している一方、特に管理職層については業績・成果へのコミットが非常に重視

されている。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· 導入検討時には、役割に基づく処遇となることで柔軟な配置ができなくなることへの

懸念や、過去の「功労者」に対するポストオフ・賃下げへの反対なども見られたが、経

営危機という環境下の中で組織・人事両面での改革が断行された。

· 制度導入に伴い一部の理職層について、過去制度と比較し厳しい格付・報酬水準と

なったため、 大 2 年間を目途とした激変緩和措置が実施された。また非管理職層

についてはより緩やかな緩和措置が実施された。

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150

5.採用・配置・育成の特徴

· 新卒採用が中心だが、事業の再拡大に伴う人員不足を補うため近年では中途採用

も若年層や幹部層など積極的に各階層で実施している。採用の区分は、主に、事務

系、技術系であるが人事制度上の扱いには違いがない。

· 事務系、技術系に関しては、同一職種で長く働き続ける方も、職種横断的な異動をす

る方もいる。技術系から他職種に異動するケースも数多くあり、事業ニーズに応える

ための事業部門をまたいだ大規模な人事異動も実施されることがある。

· 中途採用に関しては職種別の採用が原則だが、入社後には部門横断的な異動もあ

り得るという考え方。

· 従来は選抜研修、階層別研修など様々な取組みがあったが、経営危機の前後に多く

の研修を取りやめたため、現在の社員教育は OJT が中心となっている。

6.人事機能

· 現在は経営改革フェーズのため、人事関連の事項・施策の多くは人事部門のサポー

トの下、多くが経営トップ主導で決定されている。

· 本社人事部門のほか、各事業部門に人事部門があり、ビジネスパートナーとして各

事業部門の人事施策の立案・運用をサポートしている。

· 一定階層以下は各事業部門に異動や評価の権限をゆだねている一方、一定以上の

階層では経営トップが人事権を有している。

7.まとめ

· 当社は日本の電機産業を代表する有力企業であり、2000 年代を通じて大きな成長を

続けてきた。このため長期間にわたり抜本的な人事制度改革はなされておらず、結

果的に経営危機の場面において大きな変化に直面することとなったが、トップダウン

で大きな改革を実現した。

· 今後の課題としては、経営体制の交代を経て、現経営体制下で大きな改革を成し遂

げた中、今後の持続的な成長実現に向けて新人事制度、人事ポリシーの考え方を組

織内に定着させていくことである。

以上

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151

業種 情報サービス業

売上 10 億円以上 50 億円未満

従業員 500 人未満

資本タイプ 日系

1.摘要

· B2C オンラインサービスアプリケーションを開発・運営しており、全社員の約4割はソ

フトウェアエンジニア。0 を 1 に、1 を 10 にする創造性を発揮できる人材を確保し、事

業を生み出していく組織であることを念頭にあらゆる仕組みを設計。

· エンジニア系とジェネラル系の 2 つのキャリアラダーが存在し、それぞれ管理職は 3

段階、非管理職は 8 段階の役割に基づいた等級。

· 対面コミュニケーションから新しいアイディア・プロダクトが生まれるというポリシーに

基づき、昨今の「働き方改革」のトレンドとはあえて異なり裁量労働制を認めておらず、

社内での業務を奨励。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 創造性を発揮する人材、新しいサービス・プロダクトを生み出していく組織のための人

事制度設計を強く意識しており、成果に結びつかなかった行動等も評価。

· 報酬面ではネット系ベンチャーに多いシンプルな基本給、短期インセンティブ、株式報

酬という構成。

3.人事制度の特徴

· 管理職は 3 段階、非管理職は 8 段階の役職等級。一般社員層を含めてエンジニア

系ラインとジェネラル系ラインを区分して管理。

o タイトルと等級の紐づきは緩やかであり、一対一では対応していない。

o エンジニア系ラインにはある程度期待役割の定義がある。ジェネラル系ライン

は職種も多岐に渡るため、細かな定義は定めていないが、経営陣の間で各

等級の社員に求めるレベル感は評価会議等を通じて共有化されており、大き

な支障は生じていない。

· 報酬構成は基本給(年俸制)と特別インセンティブ(対象者は限定的)、ストックオプシ

ョン。基本給は等級毎のレンジ給であり、昇給は個別に判断。

o 同等級においてエンジニア系ラインの基本給はジェネラル系ラインよりもやや

高く設定している。

o 特別インセンティブは評価結果に応じて年 2 度支給のタイミングがあるが、支

給されない社員の方が多い。

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152

o ストックオプションは原則として下から 2 番目の等級以上の社員に入社時に

付与。特に前職の年収と比較して年収が低い際に、多く付与する場合があり、

採用に一定程度効果的。時期に応じても付与水準は異なり、リスクを取って

早い時期に入社した社員の方がより多い経済価値のオプションを受領。

o ストックオプションは一定期間の勤続後は権利確定させており、その後は退

社しても権利は保持できる仕組みとしている。(過度な人材の固定化を防ぎ、

健全な人材流動を図るため)

· 評価は「成果」・「実行」・「能力」・「価値」の 4 軸を 5 段階で評価。成果については

OKR(Objectives and Key Results)という基準で会社とチームの目標を管理している

が、OKR の目標以外の成果も評価。「実行」は新しいことへの挑戦を促すためにクリ

エイティブな行動等を評価し、「価値」は言語化されているコアバリューの体現度合い

を評価し、マネージャー以上への昇格時に重視している。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· 会社の発足時から事業・組織の拡大に応じて少しずつ報酬・等級・評価といった制度

を順次整備してきているが、急速な組織拡大を受けて社員の多様性も増大し入社後

のリテンション課題を感じ始めている。ただし初期に見られたようなストックオプション

付与でのアップサイドは、すでに一定の成長を果たしているステージのため(数年前

と比べると)アップサイドが限定的となってきている。現状は大きな問題はないが、長

期的に人材を確保するための人事施策は常にブラッシュアップしていく必要がある。

· 給与は階差型のレンジを導入しているものの、レンジ上限を超過するケースが多く見

受けられるため、少しずつ補正している。同じ等級でもある程度前職水準に応じた調

整を行うことは業界では一般的であり、大きな課題感はない。

· 海外拠点の人材(主にエンジニア、事業開発)については、概ね同様の人事ポリシー、

フレームワークの中で、よりメリハリをつけて運用しているが、日本以上に報酬水準

の変動が激しいため、定期的な市場とのベンチマークが必要。

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5.採用・配置・育成の特徴

· 現状では新卒採用は実施せず、中途採用のみ。特定の職能のプロフェッショナルとし

て採用する場合が大半。入社後の部署の異動は稀にあるが、原則として採用した部

署でそのまま継続的に勤務。

· ハイレベルなエンジニアの採用競争が特に激しい。出身企業はネット系大手やシステ

ムインテグレーター、フリーランスのエンジニア等様々であり、報酬以外の業務環境、

社員食堂、コーポレートカルチャーなども含めて工夫を凝らしている。

6.人事機能

· 人事部門はこれまで採用に注力してきたが、今後は評価・報酬にも注力。労務につい

ては管理部門が担っている。いずれもコンパクトな体制であり、経営陣、ラインマネジ

ャーとの人事面での協力が不可避。

7.まとめ

· エンジニアが従業員のマジョリティを占め、少数精鋭で構成されたフラットな組織構成

であり、個々の内発的動機や専門性を基にしたコラボレーションを重視した組織づくり、

環境づくりをしていることが特徴。

· 今後の課題としては、内発的動機に基づいてアイディアやプロダクトを育むという理

想と、投資家・市場の期待に応えて売上・利益を継続的に出し続けていくというビジネ

スの視点を両立させること。また、会社が好きな人が多いが、コーポレートカルチャー

の同質性が強まりすぎることでイノベーション創発が阻害されることを防ぐために一定

の多様性、「ゆらぎ」や刺激を生み出していくことが成長に向けた更なるチャレンジで

ある。

以上

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業種 電気機械器具製造業

売上 1 兆円以上

従業員 50,000 人以上 100,000 人未満

資本タイプ 日系

1.摘要

· 事業・組織の状況に応じた適正な人件費コントロール、インセンティブづけを実現する

ため、役割に応じた等級・処遇を徹底した人事制度。役割の変更に伴う等級変更は

昇格、降格共に実施。

· 等級制度は非管理職が 5 段階、管理職はトップマネジメントまでを含めて 8 段階。執

行役員手前までの管理職層で 5 段階の等級。管理職層はピープルマネジメントを行

うキャリアラダーと、専門性を活かす専門系のキャリアラダーに分かれる。

· 従来の制度は、管理職の等級と役割の不一致による人件費の高止まり、次世代人

材への機会の減少といった課題があり、業績悪化を契機に現行制度へ移行。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 旧人事制度では組織内の管理職比率が高く(全体の 4 割程度)、また管理職の等級

と役割の不一致による人件費の高止まり・次世代人材への機会の減少といった課題

感が強かった。このためグループ業績の悪化を契機に、現行制度への移行を検討・

実施。

· 役割に応じた適切な等級と役割の運用を行うことで適正な人件費管理を行い、各ビ

ジネスの持続可能性を担保することを企図している。役割変更に伴う等級の変更は

昇格だけでなく降格もドラスティックに実施している。

· 部長職、課長職にはそれぞれ一定年齢での役職定年ガイドラインが設定されている。

役職定年後は役割に応じた等級に格付けされる。そのため、役職定年前に管理職の

人材であっても、役職定年後に非管理職の等級に位置付けられるケースも決して例

外的運用ではなく、ある程度見受けられる。

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3.人事制度の特徴

· 等級制度は非管理職が 5 段階、管理職はトップマネジメントまでを含めて 8 段階。執

行役員手前までの管理職層で 5 段階の等級。管理職層はピープルマネジメントを行

うキャリアラダーと、専門性を活かす専門系のキャリアラダーに分かれる。

· 組織内の各ポジションにおける職務記述書は作成しておらず、等級毎に設けた等級

定義書によるゆるやかな管理を実施。昇格の見極めはピープルマネジメント系のキャ

リアラダーでは役割の変更、専門系ラダーにおいてはあらかじめ定められた基準・プ

ロセスに則った審査を実施。

o 新卒社員の場合、新卒で位置づけられた初任等級から 1 つ上の等級までは、

役割というよりも職能的な昇格という側面が強いが、それ以上の等級への昇

格は役割の変化を厳格に確認している。

o 専門系ラダーの昇格認定に当たっては、対象社員の技術領域の上位マネジ

メント層が、対象社員が担っている役割・技術レベルを年 1 回審議した上で

適正等級を決定している。特に専門系人材のポスト数の管理・枠設定等はし

ていないが、審議プロセスが厳格であり、また上位エンジニアの等級は社内

に公開していることから、レベル感は適正に管理できている。

· 新人事制度導入の発端が経営危機にあったため、昇格インフレに対する危機感は社

内で共有されており、現状大きな問題は生じていない。一方でポストが空かないと昇

格しないという閉塞感も若干見られ始めてきており、今後はどのようにコスト管理とモ

チベーション維持や人材リテンションのバランスを調整していくかは課題の一つ。

· 報酬構成は基本給と賞与のみ。基本給は等級毎にレンジで設定しており、上下のレ

ンジと 1/4~1/2 程度重複させているが、一部の等級ではレンジの重なりがない階差

型で設定されている。

o ピープルマネジメントラダーと専門系ラダーの報酬水準は同一に設定。

o 評価は年 1 回、賞与は年 2 回支給。評価期間中の冬賞与は固定金額を支

払い、翌年の夏賞与に通年分の評価結果を反映して支給している。

· 評価は目標管理(MBO)と行動評価で構成されており、賞与は MBO の結果を反映。

MBO は目標の難易度と達成度で評価。行動評価は MBO との総合評価で給与改定

に反映。総合評価は、MBO と行動評価のゆるやかなマトリックスを参照しながら、

終的には上司の裁量で決定される。

o 行動評価は、社員に対して求めるバリュー発揮行動を各等級の期待レベル

(Executive・管理職・非管理職の 3 段階で設定)に落とし込み、そちらに基づ

き評価を実施。

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4.人事制度導入時の課題と対応策

· 新制度導入前に管理職だった社員が導入後に非管理職に位置付けられるケースは

一定程度発生。新制度で定める報酬水準への移行に当たっては数年単位で適正な

移行期間を設定し、激変緩和への配慮を行った。

5.採用・配置・育成の特徴

· 中途採用時に提示可能な報酬水準が職種によっては他社と比較して低い場合があ

り、今のところ採用に大きな問題は生じていないが、今後新たな仕組み等の検討も必

要。

· 役職定年制度を導入しており、部長職で 55 歳、課長職で 53 歳を基準としている。役

職定年後は新たな役割に応じた等級に格付け。

o 次の世代に活躍してもらいたい思いもある一方、世論的に「高齢であっても元

気で働く」という風潮もあるため、役職定年制度について今後どうしていくか

は課題の一つ。

o 役職定年導入時に後継者がいない場合は審議の上役職延長も認めている

が、該当組織には計画的な後継者育成を働きかけている。

6.人事機能

· 現行は人事関連諸事項の起案や決定は人事部門主導で行われている。

· 評価はライン長が決定するが、ライン長に対するファンドの割り振りなどは実施してい

ない。但し、同じ評語でありながらも、昇降給・賞与に若干の調整を行う等の管理は

実施。

7.まとめ

· 当社は役割に応じた等級・処遇を非管理職も含めて徹底することで、変化の激しい事

業環境下に対応できる適正な人材管理を実現。

· 現行人材採用・確保面で大きな課題感はないが、事業の再成長フェーズへと移行し

つつある中で、いかに競争優位の源泉となるトップタレント人材を継続的に確保し動

機づけしていくか、シニア人材も含めた適正な従業員のエンゲージメント(巻込み・関

与)強化を図っていくかが次の課題となってきている。

以上

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157

業種 食料品、飲料・たばこ・飼料製造業

売上 1 兆円以上

従業員 25,000 人以上 50,000 人未満

資本タイプ 日系

1.摘要

· 当社は、全社員型タレントマネジメントを標榜しており、社員の能力・キャリア開発を

促すよう制度化含め配置・評価・育成に繋げることを目指している。

· 管理職については 4 段階の職能資格等級と 5 段階の役割等級のハイブリッド、非管

理職は事務・技術職が 4 段階、技能職が 6 段階の職能資格等級がその処遇のベー

スとなっている。

· 担う役割に応じて責任も変わるものという自然な議論から管理職以上に役割等級制

度の適用を行った。

· 役割の上下をし易くする目的とともに、あまり個人へ影響が急激に起こらないよう、当

該役割を 1 年間遂行した結果に基づき後から資格を上げる等の工夫により、処遇の

上下があまり大きくなりすぎないような設計としている。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 担う役割に応じて責任も違う為、処遇も変わるべきという自然な議論から導入。昨今

グローバル化を進めていることもあり、グローバルで役割グレードを揃えることの必要

性は感じているが、まだこれから検討を始めようという段階。

· 基本的には職位に応じた役割グレードであり、役割等級は異動により上下するが、資

格等級は下がらない為、処遇が大きく変わらないよう設計している。

3.人事制度の特徴

· 管理職は役割等級 5 段階と職能資格等級 4 段階のハイブリッド、非管理職はで3段

階、非管理職は事務・技術職が 4 段階、技能職が 6 段階の職能資格等級である。

管理職の役割は、ポストの大きさと責任の大きさに基づき設定している。

· 個々の職種ごとのジョブディスクリプションは設定されていない。

· 基本給は等級ごとの号俸制。メンバー層は等級ごとの重なりがある。管理職層は定

額の資格給に役割給が加算され、できるだけ重ならないように設計している。

· 手当は家族手当、住宅手当、単身赴任手当等一般的なもの。

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158

· 賞与は業績連動(営業利益・製品廃棄・在庫等)で水準を決め、半額ずつを夏冬に支

給する。

· 評価は MBO(目標管理)と“考動”評価の 2 つで、いずれも 終評価は相対評価を行

い、相対評価を行うことを従業員にも明示している。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· ―

5.採用・配置・育成の特徴

· 新卒採用が中心である。

· 定期的に外部の血を入れる目的から、年間2割位は中途採用枠を設けている。

但し、管理職レベルの中途採用はほとんど行っていない。

· 基本的には、職種を超えた全社レベルでの異動を年二回実施している。異動検討に

あたっては、本人希望と現場の所属長の声を尊重し、丁寧に実施している。

· 階層別・専門別、及び自薦型・選抜型のグローバル研修等、教育はかなり充実してい

る。

· 経営理念が会社のコアでもある為、どの研修でも浸透は行っている。海外拠点に対し

ても日本の従業員が現地で実施する研修の他に、海外から人材をアンバサダーとし

て招聘して理念研修を実施し、これを自社に戻って浸透してもらうような活動も行って

いる。

6.人事機能

· 全般的に人事関連諸事項の起案や決定は人事部主導で行われおり、ビジネスライン

は人事機能を有しない形となっている。

· 新卒も中途も採用は人事部がその活動を行っている。

· 異動については、現場の意見を尊重しており、現場の意見を曲げることはほとんど行

っていない。

7.まとめ

· 当社は日本の食料品業を代表する有力日系企業ということもあり、管理職に役割制

度は採用している一方で、その制度設計や運用は穏やかである。

· また、全社の連携という観点から、職種を超えた異動や一体的な組織作りをしている

ことが特徴と言える。

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159

· グローバル化を積極的に進めており、今後グローバルに人材交流が進んできた時に、

一歩踏み込んだ制度設計を検討する可能性はあるが、現時点ではそこまでは進んで

いない。

以上

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160

業種 情報通信機械器具、電子部品・デバイス・電子回路製造業

売上 5,000 億円以上 1 兆円未満

従業員 1,000 人以上 5,000 人未満

資本タイプ 日系

1.摘要

· 当社は日本企業だが、全世界で共通の役割・成果主義を採用している。

· マネージャーは 4 段階、プロフェッショナルは 8 段階、サポートは 3 段階の等級があ

り、それぞれのレンジの中で処遇を行っている。

· 現人事制度の導入はマーケットのグローバル化に伴う海外比率の上昇を背景として

いる。降格や減給も発生したが、対象者とは丁寧なコミュニケーションを実施した。

· 全てのポジションでジョブディスクリプションを整備し、空きポジションが出た際には、

できる限り社内の人材を登用している。

2.現人事制度の導入背景と基本的な考え方

· 2010 年代前半、市場のグローバル化と海外比率の上昇に対応し、組織を効率的に

運用する必要があった。人事制度に関しては、それぞれ国で文化の違いや細かな法

対応などがあり、共通で行うこと/地域別に行うことの線引きをしなければならなかっ

た。

· 等級数などについては、全世界で統一し、共通言語として運用を行っている。各部門

にビジネスパートナーを配置し、組織の運用は、ポジションをはじめに設置し、社員を

配置するということを原則としている。

3.人事制度の特徴

· マネージャーは 4 段階、プロフェッショナルは 8 段階、サポートは 3 段階の等級があ

り、それぞれのレンジの中で処遇を行っている。

· 昇格は、マネージャーとして登用するポジションがあることを前提に、部署からの要

望・提案に対し、人事委員会が確認するという形をとっている。

· 個別の職務ごとに、全世界統一のフォーマットで、ジョブディスクリプションが設定され

ている。各部門のビジネスパートナーが作成し、作成後も必要に応じて書き直しを行

っている。

· 基本給の主要部分は等級毎のレンジ給となっており、昇給はメリットインクリース方式

である。マネージャーはメリットインクリーステーブルを調整する権利がある。

· 賞与は、基本的に個人の業績により決定される。

· セールスには達成度に応じてセールスインセンティブが支給される。

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· 評価は目標管理とコンピテンシー評価の二本立てである。目標管理の 1 つの成長目

標(development target)は部門長と同意して決定する。コンピテンシー評価の中には、

リーダーシップの査定が含まれる。

4.人事制度導入時の課題と対応策

· 経営層に対するコミュニケーションについて、取締役・各国のマネージャーに日本に

集まってもらう機会を設定した。その際に、今のモデルでは限界があるということなど

を一日かけて説明した。

· その後、2014 年 8 月から約 2 か月間かけて、全員への説明を実施した。説明会とい

う形で、ビジネス軸・国の軸の両方で開催したため、社員は 2 回の説明を聞いたこと

になる。

· 格付けが下がる対象者に対しては、発表前に個別の面談を実施した。給与の減額に

ついては段階的に行った。

· 管理職→非管理職となる方には特別に配慮を行い、その後管理職のポストが空いた

際に優先的に候補者とするとともに、給与については、2 年間据置とした。

5.採用・配置・育成の特徴

· 中途採用の比重が高くなっている。IRや開発など、日本にしかない部署については、

新卒で採用し、育成していくが、営業・マーケティング・内勤など組織がグローバル化

しているものについては、新卒採用は行わない方針である。

· 中途採用については、空きポジションが出た場合に、まず社員から候補者を探し、い

なかった場合に、実施する。

· 会社が辞令を出して異動するという形ではなく、空きポジションが発生した際に、業務

遂行能力と本人の希望により任用が決定する。社内に候補者がいなかった場合に中

途採用を実施する。

· 技術部門→本社など、職種や配置が転換する可能性があり、実際にそのような事例

も存在する。

· 仕事を上手くやること、求められる成果に追い付けるようにすることを意識しており、

社員や部門長のニーズに対してビジネスパートナーが研修の提案を行い、申請が通

れば地域人事から予算が与えられる。

· 英語については、TOEICの必須受検制度を廃止し、イングリッシュコーチを各部門に

配属し、ミーティングへの参加や書類のレビューを実施している。

· マネージャー向けに労働法や派遣法への対応、インターナルコミュニケーションなど

を内容とする人事主催の研修を年間数回実施している。

· 各国から対象者を選抜したグローバル統一の研修も開催されている。

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6.人事機能

· 中央の人事が実施すること・各国の人事が実施すること・ビジネスの人事が実施する

ことの役割分担を明確にすることで、法対応・ビジネスの要求などにできる限りこたえ

られるようにしている。

· 採用や(昇格含む)配置は、ビジネス側の意向が尊重される形となっている。昇給や

賞与は、ビジネス側に裁量の余地はあるものの基本的なルールは人事によって規定

されている。

7.まとめ

· 当社はパソコン・モバイルデバイスの周辺機器において、高い技術力を背景に世界

に市場を持っている。グローバルで効率的な組織運営を行うために、役割・職務に基

づく人事制度を共通の言語として、導入した。

· 技術が常に進歩しているため、ビジネスの要求にこたえられるような役割分担・組織

設計を目指している。

· それぞれの地域の文化の違いをどのように乗り越えていくのかは今後も継続して課

題となっている。

以上