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120 Ⅰ.序 被献呈者であり,私の尊敬する師でもあるク ラウス・ティーデマン(Klaus Tiedemann)の 学問上の業績は,幅広い研究アプローチで喫緊 の問題を研究する点において傑出している。こ のことを確証させるのが,とりわけ経済刑法お よびヨーロッパ刑法における彼の研究である。 これらの研究は,常に時代に先んじており,重 要な展開をあらかじめ見通したものであった。 その際,クラウス・ティーデマンの独特の「教 え」は,とりわけ彼の方法論的なやり方に現れ ている。その方法論的なやり方は,刑法解釈論 だけでなく,さらには犯罪学,比較法,および 学際的な研究をも取り入れたものであった。 本稿は,クラウス・ティーデマンの中心的な 研究領域である経済刑法において,この教えを 受け継ぐものである。本稿が探求するのは,ア メリカで展開されたコンプライアンス・プログ ラムがドイツにおいてもどの程度意義を有する のか,とりわけ,被献呈者によって研究されて きた企業刑法にどの程度に影響を及ぼすのか, という点である。コンプライアンス・プログラ ムが,たびたび国家と民間による共同規制 (staatlich-private Ko-Regulierung)という方途 で作り出されるため,本分析は,法,法の理論, 犯罪学,社会学,経済学の境界領域にまで言及 している。その際に,コンプライアンス・プロ グラムと共に現れた変化は,「規制された自主 規制(regulierte Selbstregulierung)」という自 己言及的なシステム(selbstreferentielle Syste- me)によって,犯罪予防や犯罪統制の民営化 (Privatisierung)という将来的な根本問題に及 ぶ。 コンプライアンス・プログラムおよびこれと 結び付いた犯罪予防のための新たな統制形態は, 経済犯罪の領域において,最近,アメリカおよ びヨーロッパで生じたセンセーショナルな不祥 事の反動である。最近,例えば,ワールドコム, エンロン,パルマラットおよびフローテックス といった企業の倒産が,ティーデマンによって 以前からすでに根拠づけられていた所見を裏づ けるものとなった。その所見とは,経済犯罪は, 大企業であっても倒産に至り,社会全体に重大 な損害をもたらすというものである 1 。そのよ うなわけで,企業においても立法者においても, 実際に世界的に,より良い企業統治 (Unternehmensführung)をするための新たな 構想が流行している。「コンプライアンス・プ ログラム(Compliance-Programs)」,「リスク・ マネジメント(Risk Management)」,「バ 刑事法翻訳 2 企業刑法における コンプライアンス・プログラム 経済犯の統制のための新構想ウルリッヒ・ズィーバー * 甲斐克則 ** =小野上真也 *** =萩野貴史 **** (訳) * マックス・プランク外国・国際刑法研究所所長・教授 ** 早稲田大学大学院法務研究科教授 *** 早稲田大学大学院法学学術院研究助手 **** 早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程

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Ⅰ.序

 被献呈者であり,私の尊敬する師でもあるクラウス・ティーデマン(Klaus Tiedemann)の学問上の業績は,幅広い研究アプローチで喫緊の問題を研究する点において傑出している。このことを確証させるのが,とりわけ経済刑法およびヨーロッパ刑法における彼の研究である。これらの研究は,常に時代に先んじており,重要な展開をあらかじめ見通したものであった。その際,クラウス・ティーデマンの独特の「教え」は,とりわけ彼の方法論的なやり方に現れている。その方法論的なやり方は,刑法解釈論だけでなく,さらには犯罪学,比較法,および学際的な研究をも取り入れたものであった。 本稿は,クラウス・ティーデマンの中心的な研究領域である経済刑法において,この教えを受け継ぐものである。本稿が探求するのは,アメリカで展開されたコンプライアンス・プログラムがドイツにおいてもどの程度意義を有するのか,とりわけ,被献呈者によって研究されてきた企業刑法にどの程度に影響を及ぼすのか,という点である。コンプライアンス・プログラムが,たびたび国家と民間による共同規制

(staatlich-private Ko-Regulierung)という方途

で作り出されるため,本分析は,法,法の理論,犯罪学,社会学,経済学の境界領域にまで言及している。その際に,コンプライアンス・プログラムと共に現れた変化は,「規制された自主規制(regulierte Selbstregulierung)」という自己言及的なシステム(selbstreferentielle Syste-me)によって,犯罪予防や犯罪統制の民営化

(Privatisierung)という将来的な根本問題に及ぶ。 コンプライアンス・プログラムおよびこれと結び付いた犯罪予防のための新たな統制形態は,経済犯罪の領域において,最近,アメリカおよびヨーロッパで生じたセンセーショナルな不祥事の反動である。最近,例えば,ワールドコム,エンロン,パルマラットおよびフローテックスといった企業の倒産が,ティーデマンによって以前からすでに根拠づけられていた所見を裏づけるものとなった。その所見とは,経済犯罪は,大企業であっても倒産に至り,社会全体に重大な損害をもたらすというものである1。そのようなわけで,企業においても立法者においても,実 際 に 世 界 的 に, よ り 良 い 企 業 統 治

(Unternehmensführung)をするための新たな構想が流行している。「コンプライアンス・プログラム(Compliance-Programs)」,「リスク・マ ネ ジ メ ン ト(Risk Management)」,「 バ

刑事法翻訳 2

企業刑法におけるコンプライアンス・プログラム─経済犯の統制のための新構想─

ウルリッヒ・ズィーバー *甲斐克則**=小野上真也***=萩野貴史****(訳)

* マックス・プランク外国・国際刑法研究所所長・教授** 早稲田大学大学院法務研究科教授*** 早稲田大学大学院法学学術院研究助手**** 早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程

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リュー・マネジメント(Value Management)」,および「コーポレート・ガバナンス(Corporate Governance)」ならびに「企業倫理(Business Ethics)」,「 廉 潔 性 規 範(Integrity Codes)」,

「行動規範(Codes of Conduct)」,「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)」といったものは,その際,最も頻繁に用いられる概念である。これらのキーワードは,企業統治を倫理的価値に方向づけ,特別な手続で企業犯罪をも防止しようとする措置を記述している。立法の領域では,とりわけ,2002年のアメリカのサーベンス・オクスリー法(Sarbanes-Oxley Act)が,ワールドコムおよびエンロンの不祥事を受けて,企業に対する一般的な組織義務および特別な組織義務を規定している2。適切な予防措置の創造を促進するものとして,アメリカの企業刑法はさらに,「量刑ガイドライン

(sentencing guidelines)」において,適切なコンプライアンス・プログラムが存在する場合に刑の減軽を認めており,2001年のイタリアの企業刑法も同様である3。同様の構想についての考察は,今や日本においても企業刑法の改正に関連して見いだされる4。ドイツでは,法律上の組織義務が一定の活動領域に存在し,コンプライアンス・アプローチによる企業犯罪の統制という問題は,遅くともシーメンス社の腐敗事件における捜査を通じて2007年以降にはかなり広く世間的に明らかになっている。 この国際的な展開という背景から,本稿は,第1部ではさしあたり,新たなコーポレート・コード(Corporate Codes)がドイツにおいてもどの程度役割を果たしているか,それがどのような内容を有しているか,誰がその発起人なのか,そしていかなる原則上の変更が,企業犯罪の予防および企業の法的な統制に際してそれと結び付けられているか,といった点を分析する。本稿の第2部は,コンプライアンス・プログラムがすでに現行の企業刑法において意義を有しているかを調査する。第3部は,コーポレート・コードという新たな統制システムが将来的な刑事政策およびとりわけ企業刑法の発展に

とっていかなる可能性を有するのかという締め括りとなる問題を分析する。その際には,これと結び付いた変化が,企業の組織責任に依拠する企業刑法に関して,ティーデマンによってかなり前から唱えられてきた主張をどの程度に裏づけるものかという問題も,深化される。

Ⅱ.法的現実におけるコンプライアンス・プログラム

1.プログラムの特徴づけと普及a) 様々な概念

 「コンプライアンス・プログラム」,「リスク・マネジメント」,「バリュー・マネジメント」および「コーポレート・ガバナンス」,ならびに「企業倫理」,「廉潔性規範」,「行動規範」,

「企業の社会的責任」という上述の概念は,企業統治という新たな構想を示している。これらの概念はすべて,─強調するところは異なりつつも─企業統制の一定の目的および手続を定義している。しかしながら,その際,これらの概念相互を的確に区別することはできず,明白に定義されていない部分もある5。 これらの概念の内容を分析すれば,それらは,まず,企業統治を一定の目標および価値

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へと向けさせることを狙いとしている。とりわけ,「企業倫理」という概念がこのことを明らかにしている。この概念は,法律が規範として定めた基準をはるかに超える価値の実現を述べている。

「廉潔性規範」という概念もまた,同じような内容を有している。この概念は,同様に,目標とする基準(Zielvorgabe)という広範な領域に言及している。「企業の社会的責任」という概念は,企業のさらに包括的な責任に関わるものであり,そこには社会的任務の実現も含まれる。 とりわけ,その他の上述の概念は,価値を目標としているだけでなく,より強力に,これら

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の価値を組織として保護するための手続4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

,または,法律上の基準を〔社内ルールに〕転換するための手続をも目標としている。「行動規範」は,一般的な行動指針である。「コンプライアン

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ス・プログラム」という翻訳しがたい言葉は(��的には「���領(Befolgungs- oder Ein-��的には「���領(Befolgungs- oder Ein-haltungsprogramm)」であるが),─とりわけ法律上の,部分的には倫理上またはそれ以外の─目標とする基準の��のための一連の手続を言い換えているのである。この意味において,この概念は,ドイツにおいては,とりわけ金融機関のコンプライアンス部門との関連で,資金洗浄との闘いに際して知られている6。「バリュー・マネジメント」という専門用�は,法律上の基準を超えて,あらゆる有形・無形の企業価値の組織上の保護に関わるものである。

「コーポレート・ガバナンス」(��的には「企業統治」)という概念は,一部では広義で企業統制のあらゆる形態に関連付けられている。しかしながら,ドイツ・コーポレート・ガバナンス・コーデックス(Deutsche Corporate Gover-nance Kodex)が,とりわけ株式会社の透明な構造を考慮して要求したように,企業の組織的構造を表言するために狭義で用いられるにすぎないこともしばしばある7。b) 経験的調査

 上述の概念が専門用�上不明確であるため,様々なプログラムの内容と普及について経験的な言明が困難になっている。ドイツでは,相応の主張を,これまでとりわけ2002年のドイツ・コーポレート・ガバナンス・コーデックスによってある程度は決定可能な「コーポレート・

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ガバナンス4 4 4 4 4

」の規定に関して見いだすことができる8。

─ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス・ガ イ ド ラ イ ン(Corporate-Governance -Richtlinien)の存在に関するかつての─ペレンス=ヒレブラント=ウルマー(Pellens/Hillebrandt/Ulmer)9によって2001年に発表された─調査において,ドイツ株価指数 DAX100 に挙げられた上場企業は,何を

「コーポレート・ガバナンス」という概念と結び付けているかを質問された。その際,対象となった企業の85%が第1に挙げたのは,

企業の透明性であった。第2に,質問された人の約74%が企業統制(Unternehmenskontrolle)を挙げた。

─ヴェルダー=タラオリカー(v. Werder/Talaulicar)によって定期的に出版されているコーデックス・レポートは,DAX あるいはその他のドイツ株価指数に上場されている200社の企業におけるドイツ・コーポレート・ガバナンス・コーデックスの規定の〔社内ルールへの〕転換について分析している10。この調査によれば,2006年の初めには,これらの企業の合計95.3%(2005年は96.3%)がコーデックスの勧告に,そして85.2%(2005年は82%)がコーデックスの提案に従っていた11。

─企業コンサルタントのヘイドリック&ストラッグルズ(Heidrick & Struggles)12によって前回2007年に編集されたコーポレート・ガバナンス研究は,2年ごとに,特に企業管理の構造と透明性についてヨーロッパ〔各国〕の比較を行ったものである。その展開は,ドイツに対しても,他のヨーロッパの国々に対しても,関連する基準の充足が増加していることを示している。しかしながら,他のヨーロッパの国々と比較すると,ドイツにおける状況は,ここ数年の間わずかな改善にすぎず,今ではドイツは,調査された基準の充足に際してもっとも遅れをとっている。

─これらの調査と併せて,とりわけ資本市場がコーデックスの��を肯定的に評価するか否かという問題についていくつかの研究を,見いだすことができる。この点について,これまでのところ,はっきりとした結論は,なお存在しない。ノワック=ロット=マール

(Nowak/Rott/Mahr)13の調査が資本市場へのコーポレート・ガバナンスの影響を確認しえなかったのに対して,ドローベッツ=シルホ ー ファ ー=ツィン マ ー マ ン(Drobetz/Schillhofer/Zimmermann)14お よ び ツ ィ ンマ ー マ ン = ゴ ン チ ャ ロ フ = ヴ ェ ル ナ ー

(Zimmermann/Goncharov/Werner)15の 分

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析は,コーデックス基準の��に際して企業価値への肯定的な影響を認めている。

 たとえここにわずかな統計しか存在していなくても,コーポレート・コードの増加は,コーポレート・ガバナンス・ガイドラインの領域においてのみならず,企業倫理および企業統治と

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いう上述4 4 4 4

の4

その他の手法4 4 4 4 4 4

においても確認することができる。

─ベルテルスマン財団(Bertelsmann Stiftung)は,一般的な「企業の社会的責任」について,2005年にドイツの企業の中心にいる者500人の回答に基づく研究を行った16。このアンケートによれば,ドイツ企業は,企業の社会的責任に高い重要性を認めている。誰に対して企業は責任を負っていると感じるか,という質問に際して,回答者は,第1に顧客

(97%)を,第2に従業員(96%)を,そして─第3にようやく ─,企業の所有者

(88%)を挙げた。関連する責任は,透明なガバナンス構造から,企業体の育英奨学事業を超えて,スポーツの領域における寄付にまで及んでいる。その際,企業の半分以上が,他の企業または公益に奉仕する組織と協力して行動している。企業の82%において,執行部ないしは取締役会が,社会的責任の領域において責任を有している。

─経済犯罪に対するプログラムの実施が増加しているということは,前回の2007年になされたプライスウォーターハウス・クーパース

(PricewaterhouseCoopers)によって定期的に編集される研究が,裏づけている。そこでは,1166社のドイツ企業が質問対象となっている。企業の87%までが,(措置の性質次第では)経済犯罪に対する予防措置を講じることを主張している17。その際に,予防措置を展開している企業があまりないことが明らかである一方で,企業は,とりわけ,内部または外部の監査による統制措置に信頼を置いている。統制が充実している企業の場合には,

62%の会社がコンプライアンス・プログラムを,76%の会社が倫理指針を実施していた。これに対して,質問対象となった企業全体の場合には,61%の企業が倫理指針を有しているものの,37%の企業のみが監視対象となる行動規範を伴うコンプライアンス・プログラムを有しているにすぎない18。それとは逆に,北アメリカでは,94%の企業が倫理指針を有しており,73%の事案においてコンプライアンス・プログラムにより保護されている。

─420社のドイツ企業への質問に基づく KPMG の経済犯罪に関する研究は,上述の調査と同様の様子を示している19。この研究によれば,84%の企業が経済犯罪的な行為を防止するための措置を講じている。その際,企業は,とりわけ内部統制の改善およびガイドラインの作成に信頼を置いている。これに対して,ほとんど明確に打ち出されていないのが,経済犯罪的な行為のリスクのシステム的な把握および評価である。

 インターネット上の企業の情報をみても,コンプライアンス措置および倫理措置の増加が顕著である。とりわけ DAX 企業においては,その企業のウェブサイト上に企業ガイドラインおよび倫理原則がますます頻繁に見られるようになった。かくして,例えば,ダイムラー(Daim�例えば,ダイムラー(Daim�ダイムラー(Daim�ler)は,自社の「倫理規範」や「行動指針」のみならず,「社会的責任原則」をも発表している20。シーメンス(Siemens)のウェブサイトは,─2007年に発覚した腐敗事件の前後に─業務上の交際における廉潔性について企業の内部基準を示している21。他の多数のドイツ企業もまた,従業員のための包括的な取引原則を発表している。それゆえ,コーポレート・コードに関する展開と,これと結び付いた新たな統制形態は,ドイツにおいてもきわめて明白である。

2.プログラムの内容a) 目標と価値

 社内規則においては,一定の手続によって実

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現されるべき目標および価値が定義されている。その目標においては,とりわけ,腐敗,資金洗浄,テロ資金の調達,競争犯罪(大部分はカルテル協定),貸借対照表犯罪,脱税,インサイダー取引,環境犯罪,および企業秘密の漏洩といった犯罪

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行為4 4

の4

防止4 4

が主として重要である。企業による犯罪および企業に対する犯罪の防止という目標によって,多くの異なる価値が保護されるが,これらの価値は,コンプライアンス・プログラムにおいて,部分的には法律上の刑罰規定によるよりも厚い保護をも受けている。 このことは,とりわけ,企業の経済価値

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の一般的な保護に当てはまる。この保護は,会社の財産を用いる注意深い交際から,企業秘密の保護にまで及んでいる。企業の透明な構造もまた,─とりわけ資本市場

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および資本者4 4 4

の利益においては─特別な役割を果たす。その構造は,

「コーポレート・ガバナンス」という既述の概念の下で,例えば,ドイツでは,株式会社のために,監査役会の取締役会からの独立および企業の透明性を目標としている。しばしば議論される監査役会の構成員の収入の公表も,これに含まれる。さらなる目標は,企業の従業員

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については労働法上追加された規定に,顧客

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については販売された製造物の安全に,そして,納入

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業者4 4

については公平な発注に関係している。さらに,例えば,児童労働,強制労働,および差別の防止といった,世界的な人権

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の保護が生じている。そして,このことは,とりわけ多国籍に活動する企業から成る国連の「グローバル・コンパクト」イニシアチブ22によって支援されている。そのような国際的に合意された目標設定は,OECD によって展開された「多国籍企業ガイドライン」23および「多国籍企業および社会政策」に関する国際労働機関(ILO)の宣言24においても見いだされる。このような展開の基礎にある,社会倫理による経済倫理の「活性化」を,ティーデマンは,すでに1969年に大学教授資格請求論文の中で的確に分析し,彼の経済刑法の法益論へと取り入れていたのである25。 それゆえ,コンプライアンス・プログラムは,

─個々の事案において必ず相互に競合する─企業所有者,重要な職にある社員,およびその他の従業員の目標設定といった,企業の領域における利益だけを捉えているわけではない。むしろ頻繁に取り入れられているのは,─一部は対立し,一部は一致する─取引相手および第三者(とりわけ消費者)の利益ならびに社会的利益(例えば,環境の領域におけるもの)である。目標および保護領域のこうした多様さのため,結果として,様々な企業のコンプライアンス・プログラムおよびその他の保護のための構想は,内容的に非常に異なっている。例えば,保護の対象を考慮すれば,株式会社法161条の透明性の要求を充たそうとするドイツの株式会社の規定,従業員による外国の公務員の贈収賄を防止しようとする多国籍企業の基準,またはわいせつなコンテンツの流布に際して青少年保護の規定を��しようとしているインターネット企業のガイドラインの間に,共通点はほとんど存在しない。b) 手続構想

 上述の価値を保護するための手続も,様々な企業のコンプライアンス・プログラムにおいて異なっている。これらの手続は,とりわけ,そのときどきの企業の活動範囲およびその企業の規模に左右される。関連するプログラムほとんどすべての中心にあるのは,従業員に対する情報誌における努力目標および保護価値の明確な列挙である。その際,例えば,従業員が贈り物を受け取ったり食事への招待に応じたりすることについて,または,顧客に寄付金や招待状を贈ることについて,しばしば詳細な,〔社内ルールへの〕転換のための基準が与えられる。これらの基準は,コンプライアンス・プログラムの領域において,一部には教育の実施によっても,従業員に伝達されている。さらに,例えば,「告発者」のための匿名「ホットライン」によるなどして,従業員に匿名で異常を告発することを許すという不正を暴くための「情報提供者手続

(Hinweisgeberverfahren)」が導入されている26。内部統制および外部統制もまた,中心的な役割

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を果たしている。大企業には,真相解明のための「調査チーム」が存在する。これらの規定は,部分的には(懲戒処分のような)企業内部の制裁メカニズムによって�られている。─多かれ少なかれ広範囲に及んで─これらの措置を調和するために,多くの企業において,固有の組織部門が創設されている。いわゆるコンプライアンス部門というのがそれである。この部門は,大企業においては比較的多くの従業員から構成されており,企業の経営幹部に直属することもしばしばある。 犯罪予防的なコンプライアンス・プログラムは,ドイツにおいては,とりわけ金融機関において見いだすことができる。金融機関に関しては,資金洗浄法14条2項2号が,資金洗浄を予防するための「適切な安全体制と統制」の展開を要求している。それには,被用者が信頼できること(14条2項3号),その被用者が規則に従って「資金洗浄の方法」について情報を与えられていること(14条2項4号),および責任ある重要な職にある者が刑事訴追当局に対する担当者に指名されていること(14条2項1号),といった要件の〔社内ルールへの〕転換が必要である27。包括的な組織義務を金融制度法25a条も含んでいる。それによって,金融機関は,法律上の規定を��することを約束する,「秩序ある経営組織」を示さなければならない。そのような経営組織には,例えば,「資金洗浄および詐欺的行為に対する,適切で,取引および顧客に関連付けられる安全体制」(25a条1項第6文3号),さらに「取引活動の完全な記録」(25a条1項第6文2号)ならびに「内部統制手続」の設置を伴う「適切かつ有効なリスク・マネジメント」(25a条1項第3文)が必要である。有価証券取引法(WpHG)33条も広範な組織義務を規定している。この規定の基準は,ここ数年で大幅に詳細なものとなり,そして広範なものとなった。そして,この規定は,連邦大蔵省の省令(Verordnung)により具体化されている28。33条1項1号によれば,有価証券サービス企業は,法律上の義務を充足するために,とりわけ,

「適切な原則を立て,手段を掲げ,そして手続を設ける」必要があり,「その際には,特に,任務を独立して引き受けることができる,永続的かつ効果的なコンプライアンス機能が創設されるべきである」。この予防措置や,有価証券取引法33条において挙げられている,組織に関するその他多くの予防措置は,証券取引における法律違反(例えば,インサイダー取引)を予防しようとするものである。これらの組織的義務は,金融サービスを監視する連邦行政機関への,一定の取引の届出義務(有価証券取引法9条)や,─資金洗浄に関する規定に相応して─嫌疑のある事案の告発義務(有価証券取引法10条)により補完されている。 アメリカ合衆国で活動している多くの企業において,相応するプログラムおよび義務の著しい拡大が,2002年以降に認められる。このことは,その年に成立したサーベンス・オクスリー法が,詳細に様々な予防措置を企業に義務づけたことに起因している。その中には,とりわけ,コンプライアンス領域に関する企業の経営陣の直接の責任,企業の財政状況および経営状況における本質的な変化についての即時の公開,倫理指針の作成,監査委員会および内部公開統制の設立,ならびに匿名ホットラインの開設といったものが含まれている29。c) 特に企業犯罪を防止するためのコンプライアンス・プログラム

 企業が,コーポレート・ガバナンスの明瞭な規定により株価を高めたか,企業の社会的責任に関するプログラムにおいて幼稚園に出資したか,または,そのガイドラインによって合目的性を決定する企業目標を〔社内ルールへ〕転換したか,といった点が企業犯罪

4 4 4 4

および4 4 4

企業刑法4 4 4 4

の問題にとって本質的な役割を果たしえないということは,明らかであろう。それゆえ,企業犯罪の統制および企業刑法にとって,確かに,このコーポレート・コードは,企業における新たな統制システムの一般的な観点の下では興味を引くものではあるものの,刑法上重要なコンプライアンス・プログラムの内容は,上述の経

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営学上の調査に依拠することでは決定されえない30。むしろ,ここで関心のある問題にとっては,企業犯罪を防止しうるプログラム要素のみが重要である。 このような「犯罪予防的な」プログラムに関して委曲を尽して概観したものは,企業が異なれば犯罪のリスクも異なるし特性も異なることから,存在しえない。しかしながら,インターネットで公表されているコンプライアンス・プログラム,企業犯罪を予防するための関連文献,および,そのような措置を実施するための法律上の規定(とりわけアメリカの量刑ガイドライン)といったものを分析すると,企業による犯罪および企業に対する犯罪を防止しうるコンプ

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ライアンス・プログラムの構造要素4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

を,以下のように系統立てることができる31。

─考慮すべき企業価値および企業目標の定義および伝達,企業における相応する特有のリスクの分析,ならびに,ここから導かれる,企業およびその従業員にとって�るべき規則および手続の決定および公表。

─企業犯罪を防止する際に,定義された目標,価値および手続に関する最高経営幹部レベルの責任の根拠づけ。適切な専門化された企業部門(コンプライアンス部門)の創設に伴う中間経営陣レベルの責任の確立,ならびに,企業の従業員の啓蒙および教育。

─犯罪を発見および解明するための情報システムの創出,とりわけ人的・物的な内部統制,報告義務,匿名による情報を受け取るための

「情報提供者システム」,(コンプライアンス部門や,場合によっては国家機関が関与して)解明すべき嫌疑のある事案,および(企業の業績に関する直接的な情報の流れとともに)嫌疑のある事案の調査結果に関する届出手段の確定,ならびに,そのときどきのコンプライアンス・プログラムの日常的な適合およびさらなる発展。

─外部監査官(externe Kontrolleure)の設置,およびコンプライアンス・プログラムの個別

的な要素およびプログラムの外部的評価を考慮する監査。

─濫用に制裁を加えるための内部措置の創設。─上述の措置の実施およびさらなる展開を効果

的に促進する構造の創設。

 コンプライアンス・プログラムのこれらの犯罪予防的な要素が,その他の要素によってどれくらい補充されるべきか,法的な保障に基づいてどれくらい限定されるべきか,ということは,経営学上,犯罪学上および刑法上の研究において,─領域特有的におよび企業特有的にも─決定,評価されなければならない。企業犯罪を防止するためのコンプライアンス・プログラムの内容が,そのときどきの企業,およびその活動領域に強く依存することから,次いで,該当する企業におけるプログラムの発起人は,犯罪予防の独自の構想を練るための十分な個別

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の自由行動の余地4 4 4 4 4 4 4 4

を有していなければならない。その際,適切な措置の有効性にとっては,とりわけ,企業犯罪を防止するための,企業内部の規定システムと国家的なシステムとの協働(Zu-sammewirken)も重要である。

3.新たな規定システムの特徴a) 発起人

 上述のプログラムは,異なる「発起人」,「作成者」または「執筆者」によって作成され,そして影響を受けている。その際,最も頻繁に見いだされるのは,個々の企業

4 4

のプログラムである。しかし,このような構想は,バイエルン建設業連盟(Bayerischer Bauindustrieverband)による価値マネジメント・システム(Wert-Ma-・システム(Wert-Ma-システム(Wert-Ma-nagement-Sysetm)の展開が示すように,経済

4 4

連盟4 4

(Wirtschaftsverbände)によっても実施されている32。 いくつかの場合には,社内規則の設置に際して,国家機関

4 4 4 4

も関与している。国家により決定された規制の例として,資金洗浄法14条,金融制度法25a条および有価証券取引法33条における既述の基準がある。ここでは,立法者や行政

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庁は,コンプライアンス・プログラムの内容を非常に幅広い方法で確定する。その際,国家機関は,プログラムの作成または〔社内ルールへの〕転換が,直接当該企業や機関により行われるだけでなく,規定に関係するその他の社会グループによって行われることも,一部では定めている。そのために,連邦司法省のドイツ・コーポレート・ガバナンス・コーデックスも制定された。その場合に,本来のコーデックスの設置を,委員会が,私経済の代理人から引き受けていた。このコーデックスの法的な効果は,株式会社法161条から生じる。国家により決定されている,規制に関係者が関与する例は,ドイツにおいてはメディアの監視に際しても見いだすことができる。古典的なメディアの担当する「ドイツ連邦青少年有害メディア審査機関

(Bundesprüfstelle für jugendgefährdende Me-dien)」は,芸術,文学,書籍出版業,教会およびその他の施設の代理人から構成されており,その際に代理人は所轄の連邦省によって任命される33。これに対して,電子メディアに関する新たな規定の中で,国家的協働は,映画産業,テレビ局およびマルチメディア・サービスプロバイダの様々な自己統制の設置を証明することに限定されており,これらは,法律上の基準を独自の責任に転換している34。b) 自由行動の余地および規制形態

 かくして,企業における価値および手続経過の定め方については,コンプライアンス・プログラムの「発起人」または「作成者」という観点から見れば,3つの規定形式が区別されうる。すなわち,経済〔団体〕の自主規制,国家と民間による共同規制,および純粋な国家的規制がそれである。純粋な「自主規制」が企業に広範な自由行動の余地を残し,国家的規制があらゆる権威的決定をするのに対して,共同規制は,国家的な規定が,多かれ少なかれ詳細な基準または自主規制を促進する構造を創出すること,および/または,自主規制の措置を拘束することによって特徴づけられる。それゆえ,共同規制は,「規制された自主規制」とも呼ばれてお

り,─認められた内部的な自由行動の余地,プログラムの予定された「発起人」,ならびに,指名される強制構造または促進構造を考慮して─「自主規制」から国家的規制まで多くの混合形態および中間段階を示している35。 「自主規制」および「共同規制」というこれらの形態は,より複雑になった世界において,経済領域における新たな統制形態を可能にした。このことは,新たに作られた「コーポレート・コード」をシステム論的な考察によって独自の企業体制,および自省的またはオートポイエティッシュな(すなわち自己統制的な)システムと考えるときに明らかになる36。この─後にさらに掘り下げる─考察に際して,企業体制の独自の規定の可能性および社会学において認められた自律的な法の妥当性が明らかになる。これらは,「国家なき法(Recht ohne Staat)」とも呼ばれている37。この非国家的統制システムは,とりわけそのグローバルな作用により際立っている。c) 規制システム間の機能的な協働

 企業の自主規制に関するシステム論上の考察は,国家秩序と私的システムとの連結についての問題も解明する。この考察は,システムの様々な利益および目標設定に基づいて衝突や障

4 4 4 4

害4

といった事態が起こりうることを示しているだけではない38。法システムのサブシステムとして,私的および国家的規制システムをシステム論的に考察する場合には,任務を果たす際のこれら2種類のサブシステムの機能的な協働

4 4 4 4 4 4

も明らかになる。資金洗浄法14条,金融制度法25a条および有価証券取引法33条の上述した基準が,ここでは特に興味深い。なぜなら,国家的規制システムが,その利益を追求するために,私的規制システムに協働義務

4 4 4 4

(Mitwirkungspflich�ten)を負わせているからである。その際には,とりわけ,告発義務,ならびに,コンピュータ上の網目化に関する義務および私的なデータストックの任意的な処理に関する義務が重要である。このような義務によって,一方では,私的規制システムの不足を補うことが可能になる。

128

しかしながら,他方で,これと結び付いた,私的な信頼関係の侵害および獲得されたデータの

「目的変更」により,様々な規定システム間の衝突も生じる。この点については,コンプライアンス・プログラムの有効性および実施との関連でまた取り上げることにする39。 私的規制システムと国家的規制システムとの機能的な協働は,当面の分析にとって,とりわけ,国家的法システムにおける私的な規定が─いわゆる「強制的自主規制(enforced self-regulation)」40によるなどして─どの程度拘

4

束力のある作用4 4 4 4 4 4 4

を獲得するのかという観点の下でも重要である。このことは,プログラムの上述した内容および発起人に強く依存している。コンプライアンス・プログラムによって〔社内ルールへと〕転換され,または裏づけられた法規(Gesetze)は,所与の枠内で拘束力を有しており,制裁によって強化されていることも稀ではない。このことは,コンプライアンス・プログラムによって〔社内ルールへと〕転換された刑罰規定および秩序違反構成要件にのみ妥当するだけではない。同じことは,法律上の根拠に基づいて公布される行政庁の手続規定にも当てはまる。それゆえ,有価証券取引法33条の上述の組織的基準は,真正な法的義務として拘束力を有しており,そして行政的な強制をもって貫徹可能となっているのである。例えば,有価証券取引法9条の届出義務に対する一定の違反の場合には,過料が定められており,これは,秩序違反法30条により企業に対しても課すことができる。有価証券取引法33条の組織義務に対する違反は,確かに,それ自体で処罰の対象とはなっていないが,秩序違反法130条の監督義務違反を通じて,このような状況にも制裁を加えることがしばしば可能となる41。 国家と民間による共同規制という措置は,同じく拘束力を有するか,そうでなければ,〔社内ルールへの〕非転換の場合に関して一定の法的結果を有しうる。その際,いわゆる「規制された自主規制」は,指示に関する措置の幅広い多様性があり,様々な制裁および促進構造に関す

る余地を提供する。確かに,株式会社法161条は,─私的経済〔団体〕の代理人によって作成された─「ドイツ・コーポレート・ガバナンス・コーデックス」に関して,企業はコーデックス規定を��する責任を負うとのみ規定しているにすぎない。それゆえ,違反は,直接的な民法上または行政法上の制裁をもたらすものではなく,刑法上もせいぜいのところ間接的に,例えば,刑法典266条の背任罪の範囲内で重要となるにすぎない42。しかし,ドイツの大企業は,「��せよ,さもなければ開示せよ」という─古典的な制裁手段からは導きえない─考え方を,上述の90%を超える高い割合で導入しているのである43。同様に上述した青少年メディア保護州際協定20条3項および5項による民営テレビの領域およびテレメディアの領域における自主的な自己統制の設置によるメディアの内容の評価は,さらに十分な法的帰結と結び付けられる。その帰結とは,自己統制を設けることによって受け入れられたあらゆるメディアの内容の流布が原則的に秩序違反以上には責められえない,というものである44。 さらに付け加わるのが,私的秩序システムと国家の法との間の,その他の変換メカニズムおよび作用メカニズムである。倫理上の原則または純粋に組織上の企業ガイドラインによる規定は,とりわけ,それらが経営体内の合意として締結されている場合には,従業員に対して頻繁に労働法上の拘束力を有する45。それゆえ,これらの原則は,法律を適用する場合にも,例えば,企業原則に対する従業員の態度違反が,態度に起因する解雇通告に至るとすれば,重要となりうる46。しかしながら,多くの場合には,適切な企業プログラムの重要性が存在するのは,もっぱら国家の法の外の領域においてであり,例えば,企業が社会的な設備または環境を損なわない方法を支援することにより単に市場での名声をより良くしようとする場合である。 ここでの関心対象である企業刑法

4 4 4 4

に関しては,私的な規制システムと国家的な規制システムとの機能的な協働は,とりわけ,刑法上重要な過

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失の基準について,監督義務について,個別の犯罪構成要件の不明確な構成要件要素について,または量刑についてのコンプライアンス・ガイドラインの意義という問題をもたらす。それゆえ,この経験的分析に基づいて,以下では,当面のテーマを概観して法的な問題を探求する。その法的問題とは,コンプライアンス・プログラムがドイツの現行の刑法および秩序違反法にとってどの程度重要であり,その際にとりわけ,これを取り入れた企業およびその従業員の免責を導くのか,という点である。この問題を探求するにあたり,─例えば,カルテル法,食品衛生法,薬事法,環境法,またはデータ保護法といった─コンプライアンス・プログラムが今日では取り入れられている特別な領域すべてを考慮するものではない。むしろ,以下の分析の中心にあるのは,企業刑法にとってのコンプライアンス・プログラムの一般的な意義である。その際には,(特に,秩序違反法130条の監督義務違反という,当面のところ特に重要な事例についての)従業員の個人的な責任も,(秩序違反法30条による)企業の責任も含めるものとする。

Ⅲ.現行企業刑法におけるコンプライアンス・プログラム

1.企業刑法の関連する根拠 現行企業刑法におけるコンプライアンス・プログラムの重要性は,この法領域の体系的な分析を手がかりにして決定されうる。確かに,コンプライアンス・プログラムは個別の従業員について実行されているが,そのつどの企業については責任を負わされるのであるから,この分析は,自然人の個人的な可罰性に関する規定だけでなく,とりわけ法人の責任に関する秩序違反上の規定にも関係する。a) 企業の従業員の個人刑法上の責任

 企業犯罪の制裁化は,ドイツでは─他の大陸ヨーロッパの法秩序と同様に─,伝統的に主として,作為または不作為の従業員の個人的責任を問う,個人関係的なアプローチによって

なされてきた。その際に,コンプライアンス・プログラムの考慮のもとで企業刑法特有の問題が生じるのは,作為による犯罪遂行の場合ではなくて,とりわけ,コンプライアンス・プログラムの創設により適切な法的義務や特に監督義務が充足されうるというかぎりでいえば,不作為の場合である。 不作為

4 4 4

が問題となる場合,刑法13条の意味における一般的な刑法上の保障人的地位から導かれる特定の行為義務および保障人的義務は,特に,経営者の答責性を─身分犯の場合とは異なり─特定の規範の名宛人としての身分からは導くことができない場合に,企業の経営者の可罰的な不作為を基礎づけうる47。この一般的な「使用者責任」48の厳密な具体化は,保障人的地位にまつわる問題の中で「最も解明されていない」49問題とみなされている。例えば,刑法上の製造物責任を,保障人的義務の下位事例として位置づけ,物に由来する危険の監督を対象として構想しうるものとして展開するにせよ,企業の従業員によって行われる犯罪をすべからく防止の対象とするような一般的な保障人的義務を,使用者の指揮命令権に由来するものとして展開するにせよ,そこには困難が伴うのである50。この保障人的義務は,(例えば,食品衛生法または薬事法において)領域特有の数多くのコンプライアンス規定に影響を及ぼす。 ─企業の責任を考慮しても─この問題性の特に重要な規定を含んでいるのが,監督義務

4 4 4 4

の不作為4 4 4 4

に関する秩序違反法130条の構成要件である。この規定によれば,経営体または企業の所有者は,次の場合であれば一定の事例において秩序に違反して行動していることになる。すなわち,従業員─下位の従業員も含む─が,所有者に課された義務違反の下で,犯罪行為を遂行し,かつ所有者が故意または過失によって必要な監督措置をとることなくこの犯罪行為を防止しなかった場合である。秩序違反法130条1項の名宛人の範囲には,経営体または企業の所有者が含まれるのに加えて,秩序違反法9条1項2項に基づいて,団体の機関,代表

130

者または受託者とみなされうる人物が含まれる。必要な措置は,秩序違反法130条1項第2文によれば,監督者の任命,入念な選定,および監督も含んでいる51。それゆえ,この要件は,─後に明らかになるように─上述したコンプライアンス・プログラムと同じ目標設定を一部では有している。b) 企業の秩序違反法上の責任

 個人刑法上のアプローチと併せて,ドイツでは,企業関係的な訴追アプローチも見いだされる。しかしながら,このアプローチは,─コモン・ローの法秩序とは異なり─伝統的にほとんど展開されてこなかった。このことを特に示しているのが,ドイツ法によれば秩序違反行為の遂行により,企業に対して刑罰を科すのではなく,過料(Bußgelder)を課しうるにすぎないという点である。 ドイツ法が,作為または不作為を犯した自然人に強く固執していることは,とりわけ,秩序違反法30条に定める企業に対する制裁が,その指導的な立場にある者のうち1人が犯罪行為または秩序違反行為を遂行し,これにより企業に課されている義務に違反するか,または企業が利得しもしくは利得するはずであった場合に限って可能となるという点からも明らかである。秩序違反法30条の主体の範囲

4 4 4 4 4

は,法人の機関,包括的代理権者,支配人および商事代理権者だけでなく,1994年と2002年の2度の改正を経て,企業経営について責任を負って行動するその他の者も含まれている52。 指導的地位にある者の犯罪行為または秩序違

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

反行為4 4 4

は,ひとつの作為または不作為の中に存在しうる。その行為は,しばしば,秩序違反法130条に定める監督義務違反によって根拠づけられる。それゆえ,この規範との関連で,秩序違反法30条が,下位の従業員の違反に際しても適用されうる53。その際には,企業の可罰性または秩序違反法上の責任が,機関や指導的地位にある従業員の行為により直接的に根拠づけられるのでないかぎりにおいて,秩序違反法130条にとっては,秩序に適った監視が下位の従業

員の義務違反を困難にしたであろうということで十分である54。通説によれば,指導的立場にある者の犯罪行為または秩序違反行為が犯罪成立要件を充たす形で遂行されなければならないから,秩序違反法30条の「厳格な従属性」についても論じられている55。その際,1986年まで,秩序違反法30条は,より強く従属的に構想されていた。なぜなら,当該規定は,原則的には,関連行為の処罰に際して,付随効果としてのみ用いられていたからである56。 このことにより,─コンプライアンス・プログラムの法的な重要性にとって─中心的な問題が導かれる。その問題とは,とりわけ,下位の従業員の犯罪行為に際して,その者の犯罪行為,または,機関その他の(重要な職にある)従業員の監視義務違反はどれほど企業の可罰性にとって重要か,というものである。学説では,この点について異なる見解が主張されている。通説的見解によれば,秩序違反法30条は,「帰属規範」とみなされており,これによって従業員の行動,不法,およびたいていの場合には責任もが団体に帰属される57。増えつつある見解は,古典的な社会的機関説に基づいて,機関または適格性を有する代理人の反規範的態度を,「機関的な団体行為者」という形で,他人の犯罪としてではなく,自己

4 4

の犯罪4 4 4

として帰属させる58。 これに対して,クラウス・ティーデマンは,すでに1988年に,「団体に対する過料の根拠としての組織責任」をドイツの議論に取り入れていた。秩序違反法130条で言及された義務は,指導的な立場にある者の関連行為として,団体に対して過料を課するために役立つのであり,この義務の違反はまさに,まぎれもなく法人およびその他の団体の独自の(組織的)義務の違反であるとするのである。それゆえ,企業の罰金,および団体の「責任」を根拠づける非難に関する独自の「実質的な根拠」は,ティーデマンによれば,従業員の違法行為にではなく,規範に合致した態度をとることについての,企業の必要不可欠な準備の懈怠(いわゆる事前責任)にある。そこから,ティーデマンは,一貫して,団

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体が監督義務違反を理由として一回限りで「過料を課せ」られうるということを導き出す。もっとも,彼は,法人が十分な組織であるということを証明することにより団体に対する過料から免れうることを排除しなかった。なぜなら,

「組織責任(Organisationslast)」という考え方は,負責原理(Haftungsprinzip)を具現しており,この原則を秩序違反法30条が基礎に置き,この規定に基づいて,民法典31条が団体の民事上の責任を……根拠づけるのと同じく,過料の責任を導く」からである59。それゆえ,組織的責任は,ティーデマンにおいて,秩序違反法30条の正統化根拠であるが,その構成要件は,立法者により帰属規範として構成されているのである60。学説では,ティーデマンによってドイツの議論に取り入れられた,組織責任の不法の根拠づけは,法哲学的な観点から,とりわけハイネ(Heine)によって受け入れられている。ハイネによれば,構成要件的な不法状態の重点は,団体のリスク・マネジメントの欠如にあるが,相応する責任は,重大な社会的損害という要件により限定される61。ティーデマンによって根拠づけられた,組織の欠陥という実質的な処罰根拠は,その後に,とりわけ外国法において認められた。そこでは行動規範やコーポレート・ガバナンスの規定も,部分的には組織義務のより詳細な定義のために引き合いに出されている62。 ティーデマンによって主張された組織責任モデルでは,行動した個人とともに,さらにはなぜ団体にも制裁が加えられるのか,という点も明らかになる。それとともに,このモデルは,現行法解釈論だけでなく,とりわけ,立法論においても,団体の可罰性を明確に根拠づけるための基礎,および─後に示されるように─とりわけ,コンプライアンス・プログラムの新たな展開により支えられる企業刑法の説得力ある刑事政策的構想のための基礎をも示している。組織の欠陥へとそれを関連づけるに際して,このモデルは,帰属モデルの主張者の批判に対して,次の点に依拠することもできる。すなわち,

秩序ある組織のための法的義務の名宛人は,(刑法14条,秩序違反法9条により従業員に転嫁された特別義務と同様に)企業であり,第一次的には従業員ではない,という点である。このような考察に際しては,企業の組織義務に身体的に違反しているのは,企業のために行動した従業員であるということは,影響を及ぼすものではない63。 それゆえ,組織の欠陥という要件が(秩序違反法130条とは異なり)秩序違反法30条の法文において直接には現れていないとしても,これをとりわけ量刑に際して実現する秩序違反法30条の目的論的な基盤とすることには,何の疑念もない。もちろん,秩序違反法30条に挙げられている機関の犯罪は,次の場合には,独自の組織の欠陥として,またはこれと同様に,団体に帰属されねばならない。すなわち,ティーデマンと同じく,企業が,秩序ある組織という主張により,または場合によっては従業員の関連犯罪について組織義務の違反に─手続の中でなお解明困難な─因果性が欠けることを引き合いに出すことにより,秩序違反法30条の直接的な(すなわち,秩序違反法130条を経て根拠づけられるのではない)適用の事例において免責されうるということを,現行法に関して避けようとする場合である64。なぜなら,秩序違反法30条の法律上の構成によれば,団体が具体的に制裁を加えられるのは,もっぱら組織の欠陥を理由とするのでなく,指導的地位にある者により行われた関連行為が秩序違反法30条によって企業に帰属されることも理由としているからである。それゆえ,秩序違反法30条の目的論的な正統化根拠としての組織欠陥モデルは,ティーデマンによって,構成要件上の責任帰属としての機関の団体行為者モデルと結び付けられた。組織責任および法文におけるその鋳造というこの正統化基盤は,とりわけ量刑において,コンプライアンス・プログラムの法的な重要性への直接的な作用を有している65。 かくして,ある解決のための良い根拠が現れている。そこでは,不法の根拠づけは,現行法

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によれば2つの構成要素から明らかになる。すなわち,ひとつは,1人または複数人の企業の構成員によって,実際に管轄領域内で行われた具体的な侵害行為から明らかになる。もうひとつは,指導的な立場にある者の,企業に帰属されうる可罰的な行為をも含めて,組織の欠陥から生じる,団体の本来の「責任」から明らかになる。その際に,企業の構成員の具体的な関連行為という主張は,とりわけ,不適切な組織により責任を問われる企業の責任を限定する。しかし,企業には,秩序違反法130条ではなく,秩序違反法30条により一定の指導的な立場にある者の不法が帰属されうる。 その結果,─企業のある従業員の犯罪行為と併せて─とりわけ企業の組織義務の違反も,過料法上の責任根拠の重点となるとすれば,この組織義務の充足を保障するコンプライアンス措置には,根本的な意義がある。かくして,適切なコンプライアンス措置の充足は,企業への犯罪行為の帰属について決定する中心的な法的基準となるのである。

2.現行刑法および秩序違反法におけるコンプライアンス・プログラムの考慮

 かくして企業刑法に関する上述の分析からは,多くの手がかりを得ることができる。そこでは,コンプライアンス・プログラムが,刑法および秩序違反法において,企業の従業員の個人的責任や,─これに伴う─企業の過料責任

(Bußgeldhaftung)について,意義を持ちうる。a) 個人的責任に関するコンプライアンス・プログラムの重要性

 自然人の個人的責任に関して,コンプライアンス・プログラムは,故意犯

4 4 4

の領域における企4

業に対する犯罪4 4 4 4 4 4 4

の場合には,特殊の事実形成においてのみ役割を果たすにすぎない。コンプライアンス規定が,(例えば,投機的行為のような場合の)許された危険(リスク)を定義したり,

(不当利得の場合に)よりわずかの贈り物をなおも許された範囲で引き受ける規模を定義したりするのであれば,以上のことは,とりわけ,

了解ないしは承諾の観点に当てはまる。最も重要な適用事例は,ここでは背任〔の事例〕であり,そこでは,法益保持者の意思に反する取引や,法益保持者の利益に反する取引が前提とされ,それゆえ,背任の場合には,コンプライアンス措置の様々な形式が,いかなる範囲で法的に効力を有するかが,個々具体的な事例において決定されうる66。それゆえ,コンプライアンス規定は,種々の自由領域をただ客観面を考慮するだけではなく,相応の錯誤をも考慮して拡大ないし限定しうるのである。 コンプライアンス規定は,さらにまた,過失犯の領域でも影響を及ぼす。この犯罪〔類型〕にとって中心的な注意義務違反

4 4 4 4 4 4

は─しばしば,「過ぎ去った経験」としての法律外の規定に基づいて─,行為者の態度が,客観的に要求される注意深い態度から逸脱したという点から基礎づけられる67。それゆえ,自己の雇用者に対して,従業員に要求される注意深さの基準は,企業の方針によって共に決定されうる。団体や多くの企業のコンプライアンス・ガイドラインは,さらに,─企業外からの犯罪〔類型〕の場合にも─一般的な取引慣行を決定するに際して重要となりうるのであり68,または,その適用領域で,通常例では許された危険を,具体的に記述しうるのである69。そこでは,過失犯の可罰性に関するコンプライアンス・ガイドラインの重要性は,当該規定には,注意義務違反が問題とされているだけでなく,相応の予防措置による侵害回避は,差し迫った危険の認識に決定的に依拠しているため,構成要件実現の予見可能性もさらに問題とされているというのであれば,よりはっきりする。それゆえ,コンプライアンス・ガイドラインに基づいて危険回避の必要性が満たされるかぎり,特殊状況が,個別事例で危険の予見可能性を示唆しない場合には,このことは,構成要件実現の予見可能性を欠くことをしばしば許容するのである70。その時々の注意義務が第三者の法益を保護するのであれば,潜在的な関係者が諸規定の発展の中で適切に示されることによって,企業プログラ

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ムの相応の効果が向上するのである。過失犯に関するコンプライアンス・プログラムのこのような帰結は,私的な規制システムが,ここで

「実務による規範設定」をもって国家的な規制内容を決定づける場合にとりわけ体系論上の観点において興味深いものである。コンプライアンス・プログラムは,それゆえ,取引の余地を定義づけるチャンス,および─刑法上の効果をも用いて─犯罪を助長するグレーゾーンを回避するチャンスを企業に与えているのである。 企業に対する犯罪の場合に比してなおも根本的により大きく認められるのは,企業内部の犯

4 4 4 4 4 4

罪および企業外4 4 4 4 4 4 4

から4 4

の犯罪4 4 4

の場合のコンプライアンス・プログラムの意義である。このことは,とりわけ,─個別事例で,例えば,一般的な保障人的地位によって基礎づけられる─下位の従業員の犯罪行為や,企業外からの他者の侵害行為を回避することを,指導的立場にある者に義務づけることに当てはまる。このことは,秩序違反法130条の過失による監督義務違反の場合に,一般的な形で特に明白に現れるが,同条は─上述のように─実務では,秩序違反法30条に基いて企業に対し過料を課すことに関し,重大な意義を有する。秩序違反法130条では,一方での重要な職にある従業員の監督義務違反と,他方でのコンプライアンス・プログラムの存在との間に,より緊密な連関が存在する。このことは,コンプライアンス・プログラムが,多くの場合,実際には落度を排除するということにのみ基づいているのではない。プログラムが存在するにもかかわらず,従業員による相応の犯罪が生じる場合であっても,コンプライアンス・プログラムは2つの法的観点の下で影響を及ぼしうる。ひとつには,秩序違反法130条の多くの事例において,コンプライアンス・プログラムを配備する場合に,すでに,個人の過失や,個人の監督義務違反に対する非難が抜け落ちる71。そこでは,監督義務のある企業の従業員に有利な軽減効果にとっては,もちろん,効

4

果的な4 4 4

コンプライアンス・プログラムを実施することが重要であるが72,それは,もし実施さ

れていなければ,監督義務違反という非難が,不十分なプログラムを創り出すことにつながる可能性があるからであり,または,そのようなプログラムの不十分な実施につながる可能性があるからである73。もうひとつには,コンプライアンス・プログラムは,監督義務違反と,ある従業員によって行われる違反行為との関係でも,意義を有する。コンプライアンス・プログラムが,犯罪予防の観点の下で,より良くお膳立てされればされるほど,監督義務違反によって生じた結果が,企業のより広範な措置によって回避されえたとか,少なくとも,困難となりえたということは,ますますわずかとなるであろう。同じことは,過失犯における義務違反連関に当てはまる74。コンプライアンス・プログラムというものは,それゆえ,このような構成要件要素の領域でも,企業の従業員の責任を限界づける要素として作用しうるのである。b) 企業の責任に関するコンプライアンス・プログラムの重要性

 秩序違反法30条による企業の4 4 4

責任について,コンプライアンス・プログラムは,さしあたり,構成要件から要求される従業員の個人的可罰性と,とりわけ,秩序違反法130条に基づく監督義務を排除するかぎりで重要である。これに対して,秩序違反法30条は,そこで規定される指導的立場にある者の犯罪を,簡単な要件で(例えば,組織責任というような要件で)企業に帰属させるのであるから,秩序違反法130条を引き合いに出さずに,秩序違反法30条の直接適用を許容する,重要な職にある従業員の故意による法律違反が生じた場合には,完全なコンプライアンス・プログラムでさえ,構成要件レベルでは,企業には役に立たない75。 しかしながら,企業に対する過料について,コンプライアンス・プログラムの〔有する〕さらなる意義は,制裁の量定

4 4 4 4 4

(Sanktionsbemes-sung)の領域で考慮されるのであり,それについて,通説は─秩序違反法30条に指示はないものの─秩序違反法17条3項の諸原則を合目的的に考慮する。過料に関する量定の基礎は,

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秩序違反法17条によって,秩序違反,および正犯に向けられる非難という意義を有する76。そこでは,一般予防および特別予防の観点も考慮されうる77。それゆえ,秩序違反法17条を合目的的に適用する場合,秩序違反法30条によって企業に過料を課すことが,自然人の違反行為によって基礎づけられるのか,もしくは,企業の独立した組織責任によって基礎づけられるのか,という上述の問題が意義を有する。秩序違反法30条が,「帰属モデル」の領域で,自然人の違反から基礎づけられるのであれば,企業の組織的なコンプライアンス措置は,そう簡単には重要性を基礎づけない。これに対して,企業に対する制裁の基礎を,その固有の組織責任に見いだすのであれば,適切なコンプライアンス措置は,従業員の重大な違反行為があった場合にも,制裁の量定を軽くするという影響を与えうる。企業関係的な諸状況をこのように考慮することに関しては,結局のところ,企業に過料の効果が生じること,および,立法者が正犯という個人には関係させるべきでない独立の過料手続を認めたという観点も主張される。 学説では,特にローガルが,帰属モデルに基づいて,企業に対する過料の懲罰的部分に関し,従業員によって行われた法違反の意義のみを問題としている。そこで,ローガルは,単に具体的な関連行為の個人的ないし集合的な「計画決定(Sinnbestimmung)」の重さを算入し,団体の経済的態度にも従って過料の量定を行う。このような解釈によれば,秩序違反法130条による監督義務違反が(も)存在し,かつ,秩序違反法30条の意味における関連行為として考慮される場合に,企業の組織責任は─少なくとも直接的に─意味があるにすぎない78。これに対して,通説は,個人的な関連行為と同様,選定・監督の瑕疵や,その他の組織的欠陥および団体の事前措置のような,特別な団体関係的諸状況についても,行為の前後に考慮する79。そのような帰結は,上述のコンビネーション・モデルに適合するものであり,そのモデルによれば,秩序違反法30条の不法内容・責任内容は,

関連行為の不法に依拠するのと同様,団体の組織的欠陥にも依拠する80。 組織責任に関するティーデマンの学説は,このことから,制裁の量定に関する実務上重要なこのような観点において,重要かつ説得力のある理由づけ,ないし結論に至る。これらを基に,企業関係的な制裁システムを,個人を対象とする刑法システムとは対照的に,制裁の量定

4 4 4 4 4

の際に,論理一貫した理由づけをもって,個人を対象とする(従業員の犯罪を可能にする)監督措置を問題とするだけではなく,組織責任という評価によって,企業のコンプライアンス措置の全体的考慮を行うことができるのである。 このようなコンセプトの領域で,コンプライアンス・プログラムは,企業に制裁を課す秩序違反法30条の「できる(Kann)」規定が,良く理由づけられた形で影響を及ぼしているという状況にもあるが,それは,制裁を課すことが,所轄官庁の義務に適った判断の下にあるからである(秩序違反法47条)。それゆえ,このことは,次の場合に,企業に対する制裁に関して,規範の正統性の観点や,不法の観点,また,非難可能性の観点や,公共的な訴追の利益の観点に基づいて,刑事訴訟法153条の考え方に適合するものとみることができる。すなわち,ある従業員が,徹底的にコンプライアンスに取り組んでいたにもかかわらず,企業の側から犯罪行為ないし秩序違反を遂行する場合がこれに当たる81。

3.小 括 小括として,以下のようにまとめることができる。すなわち,コンプライアンス・プログラムは,犯罪防止措置を用いて,すでに現行法上では,事実的・法的根拠から,企業の従業員の個人的な可罰性のリスクを回避させるだけではなく,とりわけ,過料法上の企業の責任のリスクや制裁の高さをも回避させるのである。これにより,異なる制裁システムが,コンプライアンス・プログラムの発展を積極的に奨励するという構造に関して,種々の褒賞をも生み出すことができる。もちろん,そのような奨励効果は,

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ドイツの現行法には目下のところ何ら依拠しないが,それは,刑罰の量定ないし手続打切りに対する,コンプライアンス・プログラムによる相応の影響が,ここではアメリカ法やイタリア法におけるものとは異なり,はっきりとは挙げられていないか,または,直ちに認識されえないからである。 ここで問題となっている分析は,さらに,企業の責任に関するシステムは,個人の責任に関するシステムと比べて,構造的にみて,コンプライアンス・プログラムを促進する可能性をより良く自由に使うことができるが,その理由は,当該制裁の名宛人が,包括的コンプライアンス・プログラムを法的に統制することのできる,また,コンプライアンス・プログラムにとって法的にも責任ある(法)人そのものだからである,ということを示した。このような結論は,ティーデマンのいう組織責任モデルが,現行法のレベルでは正しいものであることを確認し,また,被献呈者のいう刑事政策的関心に鑑みて,いかなる範囲までコンプライアンス・プログラムに犯罪予防を投入しうるかという,最終的な問題へと繋がるものである。

Ⅳ.コンプライアンス・プログラムと犯罪予防

 コンプライアンス・プログラムを,犯罪予防の目的に投入するには,さしあたり,コンプライアンス・プログラムが有効に企業犯罪を防止しうるか否かという点にかかっている。これがそのようなケースであるならば,そのようなプログラムが有効に実践されうるか否か,またそれがいかなる範囲で実践されうるか,および,特にそのようなプログラムが企業刑法によって影響されうるか,というさらなる問題が立てられることになる。

1.犯罪予防に対するコンプライアンス・プログラムの適性

a) 犯罪学的知見 経済犯罪に関する犯罪学上の研究は,企業犯罪については,第1に,従業員の態度に対し,企業特有の影響が決定的であることを証明している。重要なことは,とりわけ,倫理的な価値や企業の組織文化,および企業水準について,コンプライアンス措置に鑑みて,企業内部で調整を行うことである。規範違反は,特に,規範意識の低下の風潮によって,規範違反の軽減措置に向けて企業内部で無害化の技術を駆使することによって,また,「革新的な解決」を発見するように従業員を駆り立てることによって,また,不法行為遂行のチャンスを与えることによって,促進される82。コンプライアンス・プログラムによって目指される,企業価値の,信頼に足る調整は,それによって,企業犯罪の防止にとって高い重要性を有するのである。 このことは,上述の,プライスウォーターハウス・クーパースの経験的調査の結論からも確認されるが,その調査によれば,倫理規定およびコンプライアンス・プログラムを有する世界の企業の内38%が,経済犯罪の被害者となったのであるが,他方で,その内の54%の団体が和解した83。それゆえ,この結論は注目すべきものであるが,それは,コンプライアンス・プログラムをもたない企業の場合,企業内のよりわずかの告発措置(Aufdeckungsmaßnahme)に基づけば,コンプライアンス措置を有する企業と比べて,その暗数は,比較的大きなものとならざるをえないからである。それゆえ,犯罪学上の研究に関する上述の知見とあいまって,このデータは,適切な倫理プログラムおよびコンプライアンス・プログラムが,規範違反を克服するということの,広範な証拠となるのである。 この結論が,いかなる範囲で,広範な犯罪学上の理論および調査から支えられるかについて,ここでより深く検討することはできない。このことは,例えば,ゴットフレッドソンおよびヒルシの一般犯罪理論(allgemeine Kriminalitäts-犯罪理論(allgemeine Kriminalitäts-理論(allgemeine Kriminalitäts-

136

theorie)に妥当する84。当該理論によれば,企業犯罪については,とりわけ,コンプライアンス・プログラムを同様に達成しようとする,企業の従業員の自主規制が重要である。アメリカ合衆国において基礎づけられ,そうこうするうちに,より広く洗練された合理的な選択理論

(Rationale-Choice-Theorien)についても,ここでは深く掘り下げることができないが,この理論の基礎は,ティーデマンがすでに1972年の段階でドイツ法曹大会の鑑定意見の中で指摘していたところであり,頻繁に合理的に動機づけられた経済犯罪行為者は,その他の行為者と比べて,刑法上の種々のリスクによって,より強く威嚇されうるとされていた85。しかしながら,経験的に証明が困難なこの理論は,その諸条件の領域で,上で分析したコンプライアンス要素の有効性に対し,さらなる議論を提供するものであるが,そのようなコンプライアンス要素を,規範志向的に方向づけるだけでなく,威嚇効果にとって決定的な,特別のコンプライアンス措置によって高められる,告発のリスクの増加にも方向づける。b) 自主規制および共同規制の利点

 さらに,純粋な刑法的解決に対して,コンプライアンス・プログラムの比較的適切な有効性にとって本質的な基礎は,上ですでに強調した,自主規制および共同規制のシステム4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

という特徴に根差しており,コンプライアンス・プログラムをこのシステムの中に含めている。このコンセプトの下では,国家的統制は,ヒエラルキー調整的な法定立および法執行によってはさほど多くは行われず,むしろ,〔そのような統制は〕

「穏やかな」行為への影響によって行われる。自律的な規制システムの高度な自主統制効力は,行政法上の統治研究において支持されるだけでなく86,自己言及的な企業の定款87に関するトイブナーの分析や,オートポイエティッシュな

(自己統制的な)社会的システムの,システム論上の説明一般に基づいても支持されるのである88。 このようなシステムの領域におけるコンプラ

イアンス・プログラムの利点,およびその他の現代的な「統治方法(Governance-Tool)」の利点は,特にグローバルかつ複雑な(リスク)社会の中に見いだされる89。このことは,特に,ここで重要なグローバルな企業犯罪および複雑な企業犯罪の領域においてはっきりとするが,そこでは,直接の当事者である企業の独自の規制が,しばしば,一般的な行政法的・刑法的規制と比べて,現代経済における多数の技術的・経済的な特化(Spezialisierungen)をより良く考慮しうる。このことは,とりわけ企業内のヒエラルキー的な指示権限から,決定的な情報システムの自由な処分にまで至る当該企業の特別な知識,その(民族国家および国際組織にも,しばしば自由な処分が任されていない)グローバルな行為可能性,ならびに主要な犯罪防止の統制手段の掌握に基づく。それゆえ,企業の自主規制は,─部分的には具体的な企業に適合しない─規制の国家的な基準値よりもさらに効果的なアプローチでありうる。それゆえ,国際的な企業が,「自己管理(self-policing)」の一定の形式を転用するのであれば,このことは,「自由放任」的自由主義という表現を不可避とするのではなく,多くの場合に,国家的な部分的コントロールの再生に向けた唯一の可能性を,

「規制された自主規制」ないしは「遠隔的な規制(rule at a distance)」という形式を必要とすることになるのである90。 追加的な作用可能性は,私的規制システムと国家的規制システムとの機能的連関作用によって与えられる。現存するコンプライアンス・プログラム,およびその法的基準値の分析については,本稿の第1章で,特に,特別の3つの手

4 4 4 4 4 4 4

続4

に関連して検討したが,それらを用いて,「規制された自主規制」の領域で企業犯罪を統制する場合に,効率を増加させることが可能となる。すなわち,国家的規制システムは,非国家的システムないし個別のシステムの要素を法的に示すことができ,また,それらに影響を与えることができるが,このシステムは,国家的制裁システムにおいて,従業員に対する私的システム

137

を義務づけうるものであり,かつ,私的�領の成果を,法的に合致するように義務的に説明することができるものである。国家的に影響を与える自主規制のメカニズムと,国家的な強制的協働義務メカニズムという2つのメカニズムのうち,最初のメカニズムは,上述のマネーロンダリング法14条,金融制度法25a条,有価証券取引法33条という基準値の中に見いだされる。

「強制的自主規制」という後者のメカニズムは,同様にすでに挙げた,メディアによる統制の基礎をなすものである。c) 特殊な犯罪予防内容

 コンプライアンス・プログラムは,犯罪予防に向けて,さらに,その特殊な犯罪予防内容

4 4 4 4 4 4 4 4 4

にも,特にふさわしいものである。このことは,とりわけ,その主要な構成要素にも妥当する。すなわち,特定の価値,および当該企業のコンプライアンス・プログラムについて,当該企業の経営幹部レベルに責任を義務づけ,かつ,規範づけすることである。なぜなら,企業の最高経営幹部レベルに直接作用することは,組織工学的な観点の下では,企業の政策の影響にとって,最も有効な手段だからである91。このことは,特に,企業統治が既存の価値を自ら高め,それにより従業員の下に存在する,先に企業犯罪の主要な動機と定義された,犯罪的な行為の無害化への取組みを妨害する場合に当てはまる92。 コンプライアンス・プログラムにおいては,制度化して実施するというこのようなメカニズムが,上述の企業犯罪の統制に向けてシステム化された有効な措置を伴う。このことは,とりわけ,専門的なコンプライアンス部門,従業員への教育措置,従業員の情報収集義務という点に当てはまるものであり,また,当該人的・事実的統制措置,嫌疑の告発ルートを開設する措置,特殊の情報提供者システム,嫌疑のある事案について明らかにすることのできる内部措置,公認会計士による外部統制措置,ならびに,企業や国家による犯罪統制への協力という点にも当てはまる93。

d) 事実上の限界 コンプライアンス・プログラムには,もちろん,事実上の限界もある。コンプライアンス・プログラムのこのような限界は,犯罪予防の場面で,私的統制システムと国家的統制システムが,部分的に矛盾につながりうる様々な目標設定を有しているという点に基づいている。すなわち,企業にとって犯罪防止や犯罪訴追は,数ある目的のただひとつにすぎないのである。それゆえ,コンプライアンスというコンセプトの射程範囲は,とりわけ,コンプライアンス・プログラムの多くの要素が,変革意思のある

4 4 4 4 4 4 4

企業4 4

統 治4 4

(umsetzungswillige Unterhehmungsfüh�rung)を前提としていることによって,制限されているのである94。それゆえ,「規制された

4 4 4 4 4

自主規制」ないし共同規制は,企業がコンプライアンス・プログラムを隠れ蓑にしてアリバイ的なプログラムに「目をつぶって」経営を行い,かつ,犯罪が明るみに出た場合に個々の従業員を「いけにえにして」企業の免責を謀ることを防がなければならないのである。 上述のシステム論的な考察方法を用いて,そのようなみせかけのプログラムの防止に対し,とりわけ,「規制された自

4 4 4 4 4 4

主4

規制4 4

」という2つの4 4 4 4 4 4

戦略4 4

を自由に使うことができる,という〔考え〕を導くことができる。第1に,変革意思のある企業統治がなくとも機能するコンプライアンス・プログラムのそのような要素が,強化されなければならないし,また,適切に調整されなければならない。これについては,例えば,後により詳細に取り上げる,企業経営者によって買収されることのない情報提供者システム,会計士,弁護士95,もしくは犯罪的な企業への強制管理に向けた措置のような外部の「監視者

(gatekeeper)」による種々の統制が挙げられるが,これは,アメリカ合衆国における企業刑法において可能となるようなものである96。みせかけのプログラムや濫用を発見するためには,国家による統制システムに一定の情報を自由に使用させることができるような,民間による統制システムと国家による統制システムとの連結

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を作り出すことも可能である。このような連結は,もちろん,両サブシステムの間で,矛盾であるとか,妨害につながるようなことがあってはならない。そのような矛盾や妨害は,例えば,私的領域にある協働義務が,弁護士に嫌疑告知義務を義務づけることが問題となる場合のように,私的領域の信頼関係に干渉する場合に生じるのである。 第2に,制裁システムおよび奨励システムは,私的な企業システムが犯罪予防目的を広範囲で引き受け,その他の目的設定よりも優先順位を与えるように努めている。このことは,積極的な奨励構造によって行われうるが,著しい制裁および高度の告発可能性を伴う懲罰システムによっても行われうる。そのようなコンセプトは,次のような場合に,上で検討した企業刑法によって支持されうるが,それはすなわち,このコンセプトが,コンプライアンス・プログラムの設置に,(例えば,不可罰性や,刑の軽減,手続打切りのような)利点を予定している場合のことである。 シーメンスの腐敗事件は,このような問題と解決アプローチとを如実に示している。この事件は,コンプライアンス・システムが,企業経営者の不十分なサポートによってみせかけのものになるという危険性を明確に示しているだけではない。アメリカ証券取引委員会の制裁の脅威によって圧力を受けた企業により,2007年に行われた徹底的な腐敗事件の解明は,さらに,企業内部の措置や協力メカニズムの有効性をも裏づけたものである。e) 法的限界

 コンプライアンス・プログラムは,その有効性の観点のみから判断されるのではなく,その法的な限界をも考慮して判断される97。さしあたり,企業の従業員による技術的な監視に関する人格権上の限界がこれに当てはまるが,この限界は,ドイツ法では,従業員の個人的諸権利のみからもたらされるのではなく,経営体組織法の関連規定からももたらされる98。企業内部の制裁システムに対して従業員を�ることもま

た重要である。私的規制システムによる「抑制と均衡(checks and balances)」の問題性は,企業が自主規制という方法で,特に,違反行為に対する規範設定や解明,制裁を課すなどの,国家的機能の大半を引き受ける場合に明らかになる。このことからは,(責任原則,無罪の推定,自己負罪拒否特権といったような)伝統的な刑事法上の保障が,「規制された

4 4 4 4 4

自主規制」という方法で,私的制裁システムに転用されうることの可否と,その程度が再検証されるべきでもある99。─後にまた取り上げる─刑事訴追任務の民営化に関するより広い問題は,コンプライアンス・プログラムが,企業に対する国家的な強制によって─「規制された自主規制」という方法でも─実施される場合に生じうるのである。f) 小括と結論

 犯罪予防に対する専門的なコンプライアンス・プログラムは,当該企業により経済領域における決定的なプレイヤーとして,すべての予防レベルで展開される有効な法律外の措置に関するシステムから成り立っている。このような措置は,技術的な自己保全および犯罪を誘発する構造の除去から,企業内部での制裁システムによる予防にまで及ぶ100。個々の措置の射程範囲の制限,およびコンプライアンス・プログラムの法的限界は,その有効性を制限するが,犯罪抑止の場面でこのような措置の効果を原則的に変更するものではない。 それゆえ,コンプライアンス措置の有効性に関する決定的な意義は,競争的な企業環境でコンプライアンス措置を効果的に執行することにあるのであるから,利潤極大化の原理が妥当し,かつ,─最近ではシーメンスの腐敗事件が示したように─倫理的価値および刑法上の規制に対しても,一般的に認められる。しかし,「規制された自主規制」を,私的規制システムと国家的規制システムの相互作用としてシステム論的に考察するのであれば,コンプライアンス・プログラムを有効に実施することを可能にしうる戦略と,それに次いでより詳細に解明する戦

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略という,2つの戦略が示される。第1に,企業に対して,特別の法的義務

4 4 4 4 4 4 4

づ4

け4

を行うことによって─古典的・国家主権的統制,または,上述の「規制された自主規制」という方法─特別な(自己)統制措置が示されうる。第2に,同様に規制された自主規制の形式で発展せられうるし,また,特に,改正された企業刑法によって発展せられうる奨励的構造

4 4 4 4 4

の創出が考慮される101。

2.コンプライアンス措置の法的義務づけ 特別のコンプライアンス要素の導入に向けた法的義務づけは,ドイツ法においては,例えば,上述の資金洗浄法14条,金融制度法25a条,有価証券取引法33条に見いだすことができる。さらに,すでに言及した,最高経営責任者および最高財務責任者が法律行為の締結に関する正統性や完全性について誤った保障を故意に与えた場合に,それらの者の責任を予定する,アメリカ合衆国におけるサーベンス・オクスリー法の規定も参照することができる102。もちろん,このような法的強制のコンセプトの問題は,法律上の規定が綿密に定義できるのが個々の措置だけであるというところにある。それゆえ,─特別の生活領域の外では─多くのコンプライアンス措置に直接の制裁が欠けていることも示すように,このような義務づけを刑法的に維持することは,しばしば困難でありうる(資金洗浄法14条,金融制度法25a条,有価証券取引法33条)103。サーベンス・オクスリー法でさえも,多くある規裁に固有の制裁規定を何ら持たない104。多数の罰則付きの企業の義務というものは,刑法の最終手段機能(ultima-ratio-Funktion)とも,矛盾しうるであろう。それゆえ,企業犯罪の防止のための一定の措置を─とりわけ罰則付きで─法的に要求するに当たっては,─前出の例が示したように─特殊な領域,事情,ないし措置のみが考慮されるにすぎない。─ドイツではまだ現実化した例ではないが─例えば,嫌疑の告知に関してオンブズマンシステムを導入することを企業に義務づけることや,

情報提供者に対する制裁を禁止することが考えられる。 有価証券取引および資金洗浄の防止に関する上述の諸規定は,そのような措置の効果および事実上の限界を示すだけでなく,その法的諸問題をも示している。これらの問題は,とりわけ,─すでに取り上げた─刑事司法の民営化の限界という点,および,例えば,公認会計士や弁護士による信頼関係の崩壊を伴う恊働義務の創設という点に存する105。さらに,国家権力の限界や権力分立の問題は,企業の自主統制が,同様に規範設定権限,解明権限,および制裁権限を有する国家機関を通じて制限される場合に生じる106。このことから,効果の観点および保護のメカニズムは,このような領域では,システムの衝突を減少させることに向けられると同様,法治国家的限界からも,注意深く衡量されねばならない107。

3.企業刑法における奨励構造 特別な法的コンプライアンスの義務づけと並んで,企業に対してコンプライアンス措置の創設を奨励しつつも,しかし,企業にその導入や設置の際に必要な自由領域を残しておくという一般的な措置が可能である。これについては,いま問題となっているテーマ設定,特に,いかなる範囲でこのような奨励構造が合目的的に企業刑法の調整をなしうるか,という問題が生じる。 アメリカ合衆国における近時の企業刑法の経験も,先見的なコンプライアンス措置や犯罪後のコンプライアンス措置を,「量刑ガイドライン」108や手続打切りの決定において強力に考慮することによっては,当面の問題領域に取り込むことができない109。フライブルクのマックス・プランク外国・国際刑法研究所のリサーチスクールにおける目下の研究プロジェクトでの,このような問題に関する分析は,当該問題設定について重要な知見をもたらすことができるが,─経験的に,さもなければ,ただ測定困難になる─検察の裁量および代位責任によって形

140

作られ,また,部分的には効果がないように性格づけられたアメリカ刑法システムの結果ないし失敗が,まとまって,なおもドイツの現状に当てはまるように転用されうることを考慮せずに,〔以上の分析が〕行われた110。それゆえ,新しいコンプライアンスのアプローチの包括的な評価には,特に,資金洗浄の私的統制の際に,また,フライブルクのマックス・プランク研究所の広範な研究プロジェクトの中心点に据えられている有価証券取引の濫用の防止の際に,とりわけドイツにおけるコンプライアンスの相応の経験をも考慮すべきである。現存の分析に基づいて,有効なコンプライアンス・システムを実施するチャンスは,とりわけ,特殊な法的コンプライアンス義務の〔社内ルールへの〕転換が,犯罪の解明〔の機会〕を高め,かつ,同時に企業およびその他の団体に対して有効な法治国家的制裁法が,コンプライアンスにとって相応の奨励構造によって作出されている場合に生じるものである。 上述の現行企業刑法の研究は,企業に対する制裁システムが,積極的に,コンプライアンス措置の考慮・促進に向けて,個人刑法システムに対するものよりも,企業に対する制裁が─組織責任に関するティーデマンの説が示したような─統制権限のある,ほかならぬその制度に向けられていることから,より良く妥当するということについては,すでに示したところである。とりわけ,このような組織モデルに基づいて,コンプライアンス・プログラムの導入を奨励する構造は,刑の量定の助けによって可能となる。ここでは,アメリカ合衆国刑法のみが当該モデルとして寄与しうるのではなく,その

「量刑ガイドライン」に基づいて,その企業が「犯罪遂行の時点までに,有効なコンプライアンス・プログラムおよび倫理規定を実施していた」場合に,刑が減軽されるのである111。類似のモデルは,イタリア刑法にも見いだすことができるが,そこでは,企業が「遂行された犯罪に当てはまるように犯罪を予防することに向けられた組織モデルを受容し,かつ,効力を発揮

した」場合に,制裁が減軽される112。ドイツの立法者は,ここで,─場合によって,刑事手続および過料手続に対する方針においても─よりわずかな労力で進むべき方向を示すことができる。 しかしながら,そのような制裁法が,企業のコンプライアンス措置を効果的に促進すべきであるならば,このことは,違反行為があった場合に─特に,合理的にのみ組織および従業員の利用に供するように向けられた─相応の利用可能性を自由に使えるようにしなければならないだけでなく113,有効な制裁をも自由に使えるようにしなければならない114。このことは,いかなる企業訴訟(Unternehmensprozesse)が個人に対して物理的にコントロールを及ぼすかに鑑みて妥当するのと同様,組織に対して,このような訴訟の法的に責任がある企業にも妥当する。それゆえ,このことは,刑法典において規定されるべき企業制裁法によって,現行の個人刑法を補完することを主張する。これに関しては,真正の刑事刑法が問題となるのか,または,刑法典において,刑罰と並んで改善処分と保安処分を規定する広範な処分システムが特別に問題となるかは,未決定のままでありうる。もちろん,決定的であるのは,このような制裁システムが効果的かつ威嚇的であるということだけでなく,従業員や当該企業の権利にとって不可欠の保護メカニズムをも含んでいるということである。刑法典に諸規定を組み込むことは,そのうえ,新たな制裁および新たな措置のより良い可視性,該当行為に対する強い非難,および効果的な刑罰の創出という利点を,あるシステムの中で,調整のとれた保護メカニズムを通じて提供する。 被献呈者であるクラウス・ティーデマンは,企業刑法に関するドイツの立法者に対して,上述の組織責任モデルのほかに,個人刑法と並ぶ団体刑法(Kollektivstrafrecht)という「第二の途」を,すでに1996年に提唱していた115。その国際的な発展は,そうこうするうちに,欧州共同体やその他の国際機関による多くの提唱だけ

141

でなく,国内の相応の法改正によってもそのような提案が確認された116。コンプライアンス・プログラムおよび,その新たな自主規制的な統制システムに関する現在の分析は,被献呈者の理論的・比較法的・犯罪学的な諸分析の結論をも支持し,そこに,経済学および社会科学の新たな議論を付け加えるのである。

Ⅳ.結 語

 アメリカ合衆国で発展したコンプライアンス・プログラムは,新種の自己言及的な秩序構造(selbstreferrentielle Ordnungstrukturen)を構築し,それは,今日ではドイツにも広がっている。新しいコーポレート・コードは変革をもたらし,その帰結は,なおも見極めがつかない。この変革は,グローバル社会において,企業犯罪の防止の際に特異な個別観点を伴って関係してくるだけでなく,将来のドイツおよび世界規模の企業刑法に関する中心的な基本問題,ならびに,国家的刑法の向こう側で〔問題となる〕法的な統制可能性に関する中心的な基本問題に,複雑なリスクを伴って関係してくる。コンプライアンス・プログラムによって投げかけられた根本的問題は,このことが,ただ特別な予防措置の形式で法律に規定されるだけでなく,企業による自主規制および共同規制という新たな形式に基づいて自主的にも展開されうる,企業犯罪防止のための措置とみなされる場合に明らかとなる。それは,「規制された自主規制」というコンセプトと結び付くのが,企業刑法が本質的に影響を及ぼされる企業犯罪の統制に向けた,新たな刑事政策上の理論的・実務的アプローチであるが,より良い代替案は見分けがつかないからでもある。それゆえ,国家的法システムの中で,コンプライアンス・プログラムと私的な規制を統合することは,経済犯罪の予防について,目下のところ,最も関心の集まるアプローチである。 その際,現行法の本分析は,現存するコンプライアンス・プログラムが,すでに現行法解釈

論において企業の従業員の可罰性に影響を及ぼし,かつ,とりわけ,企業に対する制裁〔の付課〕にも影響を及ぼすという具体的な結論に至った。効果的なコンプライアンス・システムを強く奨励する構造を作り出すことについては,企業刑法が立法論という方向に広く展開されるべきであり,この方向性は,被献呈者がすでに早い段階で示していたものである。刑法典に規定されており,かつ,効果的な懲罰メカニズムにおいて自由に使用することのできる企業に対する制裁法について,それは,企業の組織責任の中にその実質的な不法内容を有するが,─場合によっては客観的な可罰性条件の方法においてのみ─企業の従業員の制限従属的可罰性,ならびに,古典的な刑法的保障によって制限される117。 効果的ではあるが,古典的な犯罪法的保障によって限定される刑法のこのような目標設定は,刑法理論,比較刑法,犯罪学,および革新的な学際的協働という方法論を用いて,治安の利益と自由の利益の均衡を図るという刑事政策の将来の路線を決めなければならない。被献呈者は,とりわけ経済刑法の領域で,将来においても国際刑法学の模範でありうる目的と方法論とを展開してきた。われわれは,この点に関して被献呈者に謝意を表するとともに,70歳の誕生日に際して,将来もなお多くの成功を収められることを願い,また,ご家族,学生,そして多くの友人との輪の中で,ご多幸を祈念するものである。

1 2002年に支払不能となった企業であるワールドコムの賃借対照表の偽造は,アメリカにおいて1070億アメリカドルの損害を惹き起した

(http://money.cnn.com/2002/07/19/news/worldcom_bankruptcy(2008年1月10日現在)を参照)。2001年に支払不能となった企業であるエンロン事件では,賃借対照表の偽造や詐欺によるなどしてもたらされた損害額が,約600億アメリカドルに達した(http://en.wikipedia.org/wiki/Enron_scandal(2008年 1 月10日 現

142

在)参照)。詐欺的な活動を行っていた会社であるフローテックスは,ドイツで,2000年に露呈した事件において,架空の取引により15億ドイツマルクの損害を惹き起した(Manager-Maga-zin誌における見通し参照。 http://www.mana-ger-magazin.de/unternehmen/artikel/0,2828, 159227,00.html )(2008年1月10日現在)。2003年にイタリアで起きたパルマラット・コンツェルンの事例では,約230億ユーロの損害を惹き起こした賃借対照表操作ついて,企業の経営陣が 責 任 を 問 わ れ た(Arie The Observer v. 4.1.2004 http://observer.guardian.co.uk/busi-ness/story/0,6903,1115471,00.html(2008年1月10日現在)参照)。経済犯罪のこの実質的な損害に至るのは,ティーデマンがかつて力説した非実質的な損害であり,とりわけ犯罪の伝染作用お よ び 吸 引 作 用(Ansteckungs und Sogwir-kung)によるものである。この点について,Tiedemann, Verh. 49. DJT (1972), S. C21 f.参照。

2 Pub. L. No. 107-204, 116 Stat. 745. 個別の内容については,後出注29, 102参照。

3 この点についての詳細は,後出Ⅳ. 3. ならびに後出注31掲載の文献参照。

4 Tagungsband des 21st Century Center of Ex�cellence�Waseda Institute for Corporation Law and Society (COE) International Symposium on Corporate Crime - The Relationship Bet-ween the Compliance Programs and Legal Re-sponsibilities of Japanese Corporations, The International Standard on Compliance and Ja-panese Corporation Law and Society, Januar 2007(複写物)参照。

5 この点については,文献のうち,v. Werder, in: Ringleb et al. (Hrsg.), Deutscher Corporate Governance Kodex Kommentar, 3. Aufl. 2008, Vorbem. Rn. 3ff. 参照。それは,「細部においてかなり不均等な良き企業統治の水準」を示している。

6 例 え ば,Fleischer, NZG 2004, 1129 (1131); Lösler, Compliance im Wertpapierdienstleis-tungskonzern, 2003, S.119 ff. 参照。

7 その際に,2002年のドイツ・コーポレート・ガバナンス・コーデックスにより株式会社法161条に基づいて推奨された,または単に提唱されたにすぎない透明性命令(Transparenzge-bote)は,とりわけ,株式市場における企業価値の利益となる。コーデックスは,推奨と提唱

とを区別している。その際に,両者は,直接,法的に結びつくものではない。むろん,株式会社法161条によれば,企業は,推奨に関して,これが企業により�られるのか否かを明らかにする必要がある(いわゆる,「��せよ,さもなければ開示せよ」の手続)。この点については,後出Ⅱ. 3. c),注42をも参照。

8 Schüppen, ZIP 2002, 1269 (1271) 参照。9 Pellens/Hillebrandt/Ulmer, BB 2001, 1243 ff.

参照。10 v. Werder/Talaulicar, DB 2006, 849 ff. なら

びに dies,. DB 2005, 841 ff. 参照。11 v. Werder/Talaulicar, DB 2006, 849 (855) な

らびに dies,. DB 2005, 841 (846) 参照。ドイツ・コーポレート・ガバナンス・コーデックスにおける推奨と提案の区別についての詳細は,前出注7を見よ。

12 Heidrick & Struggles, Corporate Governance in Europe: Raising the Bar, 2007 (http://www.heidrick.com) (2008年1月10日現在),ならびに先行研究である Heidrick & Struggles, Corpo-rate Governance in Europe: What’s the out-look?, 2005 (http://www.heidrick.com)(2008年1月10日現在)参照。

13 Nowak/Rott/Mahr, ZGR 2005, 252 (278 f.).14 Drobetz/Schillhofer/Zimmermann, ZfB 2004,

5 (22).15 Zimmermann/Goncharov/Werner, Does

Compliance with the German Corporate Governance Code Have an Impact on Stock Valuation? An Empirical Analysis (http://pa pers.ssrn.com/abstract=624068) (2008年1月10日現在).

16 Bertelsmann Stiftung Die gesellschaftliche Verantwortung von Unternehmen, 2005 (http://www.bertelsmann-stiftung.de/cps/rde/xbcr/SID-0A000F14-DD42B463/bst/CSR_lay.pdf)(2008年1月10日現在)参照。

17 PricewaterhouseCoopers Wirtschaftskrimi-nalität 2007, Sicherheitslage der deutschen Wirtschaft, 2007 (http://www.pwc.de/fileser ver/RepositoryItem/studie_wikri_2007.pdf?itemId=3169192)(2008年1月10日)参照。

18 前出 S. 45.19 KPMG-Studie 2006 zur Wirtschaftskriminali-

tät in Deutschland, 2006 (http://www.kpmg.de/library/pdf/060626_Studie_2006_Wirt schaftskriminalitaet_de.pdf)(2008年1月10日現

143

在).20 http://www.daimler.com/dccom/0-5-168351-

49-168355-1-0-0-0-0-0-36-7155-0-0-0-0-0-0-0.html (2008年1月10日現在).

21 http://www.siemens.com/Daten/siecom/HQ/CC/Internet/About_Us/WORKAREA/about_ed/templatedata/Deutsch/file/binary/bcg_de_1032824.pdf(2008年1月10日現在)参照。

22 http://www.unglobalcompact.org (2008年1月10日現在)参照。

23 http://www.oecd.org/dataoecd/56/36/1922 428.pdf (2008年1月10日現在)参照。

24 http://www.ilo.org/public/english/employ ment/multi(2008年1月10日現在)における2006年の宣言の第4版参照。

25 Tiedemann, Tatbestandsfunktionen im Ne-benstrafrecht, 1969, S. 105 ff.

26 Bürkle, DB 2004, 2158; Graser, Whist-leblowing, 2000, S. 108 ff.; Ledergerber, Whist-leblowing unter dem Aspekt der Korruptions-bekämpfung, 2005, S. 5 ff.; Pricewaterhouse Coopers (前出注17) S. 32 ff. この─アメリカのサーベンス・オクスリー法が要求している─ホットラインの共同決定法およびデータ保護法上の問題については,ドイツにおいてデュッセルドルフ州労働裁判所のウォルマート

(Wal�Mart)決定,NZA 2006, 63 ff. 参照。27 Fülbier/Aepfelbach/Langweg, Kommentar

zum Geldwäschegesetz, 5. Aufl. 2006, §14 GwG Rn. 74 ff. 参照。

28 Bundesministerium der Finanzen Verord-nung zur Konkretisierung der Verhaltensre-geln und Organisationsanforderungen für Wertpapierdienstleistungsunternehmen v. 20.7.2007 (BGBl. I S. 1432) 参照。

29 サーベンス・オクスリー法(前出注2参照)の401条以下(公開義務),406条(倫理ガイドライン),301条(監査委員会),302条(公開統制),301条および806条(ホットライン)参照。

30 概念決定の機能性については,Sieber, Com-puterkriminalität, 2. Aufl. 1980, S. 186 ff. 参照。

31 アメリカの量刑ガイドラインについては,United States Sentencing Commision 2007 Fe-deral Sentencing Guidelines Manual (effective November 1, 2007), §8 B2.1 (http://www.ussc.gov/2007guid/tabcon07.html)(2008年1月10日現在)参照。この点については,Walisch, Or-

ganisatorische Prävention gegen strafrechtli-che Haftung deutscher Unternehmen und ih-rer Leitungen nach US-Recht, 2004, S.55 ff., S. 66 ff. を見よ。

32 http://www.bauindustrie-bayern.de/ethik.html(2008年1月10日現在)参照。

33 青少年保護法17条以下(特に19条)参照。34 この点についての詳細は,後出注44参照。35 この点については,Alwart, in: ders. (Hrsg.),

Verantwortung und Steuerung von Unterneh-men in der Marktwirtschaft, 1998, S. 75 ff.; Ayres/Braithwaite, Responsive, Regulation, 1992; Pieth, FS Jung, 2007, S. 717 ff.; Prüfer, Korruptionssanktionen gegen Unternehmen, 2004, S.204 ff.; Sieber, in: Waltermann/Machill (Hrsg.), Protecting Our Children on the Inter-net, 2000, S. 319 ff. 参照。

36 この点についての詳細は,後出Ⅳ. 1. b)注87および注88参照。

37 この点については,Teubner, FS Kocka, 2007, S.36 (38 ff.)参照。

38 この点についての詳細は,後出Ⅳ. 1. d)および2参照。

39 この点についての詳細は,後出Ⅳ. 1. d)および2参照。

40 この概念については,Ayres/Braithwaite, (前出注35) S. 101 ff. 参照。

41 結局のところ,嫌疑の不告知の場合でさえ,刑法上の答責性は,例えば,刑法典258条によって排除されていない。この点については,Vogel, FS Jakobs, 2007, S. 731 (744 ff.) 参照。そこでは,有価証券取引刑法(Wertpapierhandels-strafrecht)が新たな刑法モデルに光明をさすものとみている。秩序違反法130条については,後出Ⅲ. 1. a参照。

42 ドイツ・コーポレート・ガバナンス・コーデックスに対する違反の刑法的な観点についての詳細は,Schlösser/Dörfler, wistra 2007, 326 ff.参照。また,この点については,前出Ⅱ. 1. a)およびb),特に注7ならびに後出Ⅲ. 2. a)をも見よ。

43 前出Ⅱ. 1. b),注10参照。44 こ の 点 に つ い て は,Nikles/Roll/Spürck/

Umbach, Jugendschutzrecht, 2. Aufl. 2005, S. 115 ff., 388f.; Scholz/Liesching, Jugendschutz, 4.Aufl. 2004, §20 JMStV Rn. 2 ff., 21ff. 参照。

45 倫 理 指 針 と 労 働 法 の 関 係 に つ い て は,Borgmann, NZA 2003, 352 ff. 参照。

144

46 Linck, in: Schaub (Hrsg), Arbeitsrechts-Handbuch, 12. Aufl. 2007, S.1406 参照。ここでは,労働者の多くの副次的義務が民法典242条の信義誠実の一般条項により初めて決定されるという指摘がなされている。

47 Hilgers, Verantwortlichkeit von Führungs-kräften in Unternehmen für Handlungen ihrer Mitarbeiter, 2000, S. 68 ff. 参照。

48 Tiedemann, Wirtschaftsstrafrecht, Einfüh-rung und Allgemeiner Teil, 2. Aufl. 2007, Rn. 181 が用いる概念である。

49 Lackner/Kühl, StGB, §13 Rn. 14 および Tie�demann, Wirtschaftsstrafrecht AT (前出注48) Rn. 181 の評価である。

50 使用者責任については,Tiedemann, Wirt-schaftsstrafrecht AT (前出注 48) Rn. 181 ff. が詳細である。

51 上述の諸問題については,Rogall, in: Karlsru-諸問題については,Rogall, in: Karlsru-問題については,Rogall, in: Karlsru-her Kommentar zum OWiG, 3. Aufl. 2006, §130 Rn. 37 ff. 参照。

52 最後に挙げた主体の範囲は非常に広いものであり,企業の部分領域の指導者のような,ヒエラルキーの中で企業トップの下位にある者も含みうるものである。これに関して,理由書は,内部会計監査や財務監査といった特定の領域における指導的人物を挙げている。

53 ドイツ秩序違反法の過料法的制裁については,KK/Rogall, (前出注51) §30 Rn. 1 ff. および §130 Rn. 1ff. 参照。

54 これに対して,しっかりとした監督が行われていたならば義務違反は起きなかったであろう,という事情の証明までは,要求されない。Senge, in: Erbs/Kohlhaas (Hrsg.), Strafrechtli-che Nebengesetze, Bd. 3, Stand Mai 2003, §130 OwiG Rn. 25; KK/Rogall, (前出注51) §30 Rn. 97 ff. 参照。

55 Rebmann/Roth/Herrmann, in: Gesetz über Ordnungswidrigkeiten, Stand Februar 2005, §30 Rn. 26. もちろん,企業の代表者の行動が犯罪成立要件を充たすことの確認ができさえすれば,行為者の特定は要求されない。BGH NStZ 1994, 346 f. 参照。

56 この規定は,1986年に,〔関連行為の処罰から〕独立した制裁可能性をより強めた形で得た。それ以来,犯罪行為または秩序違反行為を理由として刑事手続または過料手続が実施されない場合でも,独立して過料が課されうることになったのである。成立史については,KK/

Rogall, (前出注51) §30 Rn. 24 ff. (25) 参照。57 Bohnert, Kommentar zum Ordnungswidrig-

keitenrecht, 2.Aufl. 2007, §30 Rn. 1 参照。58 KK/Rogall (前出注51) §30 Rn. 1 (8),おそら

く同様のものとして,Göhler/König Gesetz über Ordnungswidrigkeiten, 14. Aufl. 2006, Rn. 12 vor §29a, §30 Rn. 36a 参照。さらなる,法益の緊急状態の帰属根拠に依拠する措置モデルについては,Schünemann, Unternehmenskrimi-nalität und Strafrecht, 1979, S. 236 ff. を見よ。

59 Tiedemann, in: Eser/Thormundsson (Hrsg.), Old Ways and New Needs in Criminal Legisla-tion, 1989, S. 157 ff. (176) 参照。また同様に,ders,. NJW 1988, 1169 (1173) をも参照。この点については,また,Tiedemann, NJW 1993, 23 (30); ders., FS Stree/Wessels, 1993, S.527 (532),および最近のものとして,Tiedemann, Wirt-schaftsstrafrecht AT (前出注 48) Rn. 244a をも見よ。

60 ティーデマンのこの─批判者からはたいてい見落とされてきた─帰属の観点については,すでに Tiedemann, NJW 1988, 1169 (1172) 参照。そこでは,「付随結果と呼ぶのを取り消すことによって,秩序違反法30条をこの明文による法律上の帰属規範とみなすこと,つまりこの規定を他人の行動を団体自体の行動として帰属する規範とみなすことの妨げにはならない」としている。Tiedemann, Wirtschaftsstrafrecht AT (前出注48) Rn. 244 も同様であり,「自然人の責任を法人に対して帰属する……考え方は存在しない」とする。そのかぎりで,Wegner, Die Systematik der Zumessung unternehmensbe-zogener Geldbussen, 2000, S. 89 は適切である。

61 Heine, Die strafrechtliche Verantwortlich-keit von Unternehmen, 1995, S. 312 参照。法哲学的な観点における組織的責任モデルについて,Dannecker, in: Alwart (Hrsg.), Verantwor-tung und Steuerung von Unternehmen in der Marktwirtschaft, 1998, S. 5 (28) をも参照。

62 Heine, ZStrR 121 (2003), 24 (29, 36, 38 ff.); Pieth, FS Jung, 2007, S. 717 (722 ff.) 参照。

63 帰属の観点については,また,前出注60をも参照。

64 この点については,また,Hirsch, ZStW 107 (1995), 285 (312 ff., 特に 315) をも参照。そこでは,真正な「団体の責任」に関する秩序違反法以外の制裁について,団体のために行動した代表者の責任も,団体による回避可能性も要求さ

145

れている。65 この点についての詳細は,後出Ⅲ. 2. b)参

照。66 これについては,マンネスマン事件における

連邦通常裁判所の判決 NJW 2006, 522 (523) をも参照。

67 Schönke/Schröder/Cramer/Sternberg�Lie�ben, Kommentar zum Strafgesetzbuch, 27. Aufl. 2006, §15 Rn. 135; Stratenwerth, Straf-recht Allgemeiner Teil I: Die Straftat, 5. Aufl. 2004, S. 414; 交通関係領域への立場について批判的なものとして,Duttge, in: Münchner Kom-mentar zum Strafgesetzbuch, 2003, §15 Rn. 110 ff. 参照。

68 交通規範による組織責任の具体化については,例えば,Bosch, Organisationsverschulden im Unternehmen, 2002, §8; Müko-StGB/Duttge, (前 出 注 67) §15 Rn. 135 ff.; Roxin Strafrecht Allgemeiner Teil, Bd. 1, 4. Aufl. 2006, §24 Rn. 18 ff. 参照。

69 ここでは,多くの領域で��すべき措置に関する規定ついての根拠となる,DIN 規範と類似のことが示されうる。Bosch, Organisationsver-schulden im Unternehmen, 2002, S. 411 (413 ff.) 参照。

70 コンプライアンス規定は,基本的に通常事例にのみ妥当しうる。それゆえ,結局は,各個別事例について,コンプライアンス規定を超えて追加の特殊状況が考慮されなければならなかったか否かが判断されるべきである。この点については,また,Müko-StGB/Duttge, (前出注67) §15 Rn. 136 をも参照。

71 Dannecker, in: Alwart (前 出 注61) S. 5 (28); Hauschka NJW 2004, 257 (260) 参照。特にカルテル法の領域のコンプライアンスについては,Dreher, VersR 2004, 1 (4) を見よ。また,前出Ⅲ. 1. a)をも参照。

72 犯罪予防に鑑みて有効なコンプライアンス・プログラムの構成要素については,前出Ⅱ. 2. c)を見よ。

73 しかし,そこでは,何ら自動機構は存在しない。すなわち,監督義務違反は,コンプライアンス・プログラム以外の措置によっても排除されうる。同様に,個別事例の特殊状況に基づくコンプライアンス・プログラムが現存するにもかかわらず,次のような場合に,重要な職にある従業員の監督義務違反が存在しうる。例えば,コンプライアンス・プログラムの領域にお

ける統制が,個別事例において,いい加減に実施されるような場合である。

74 組織義務違反の場合の因果関係ないしは義務違反連関について,特に,義務領域と因果関係の相互作用については,Bosch, Organisations-verschulden im Unternehmen, 2002, S. 109 ff. 参照。また,Maschke, Aufsichtspflichtverlet-zungen in Betrieben und Unternehmen, 1997, S. 99 ff.をも見よ。

75 これについては,前出Ⅲ. 1. b)参照。76 KK/Rogall, (前出注51) §130 Rn. 115; Müller,

Die Stellung der juristischen Person im Ord-nungswidrigkeitenrecht, 1985, S. 82 f. 参照。

77 KK/Rogall (前出注51) §130 Rn 42, 47 参照。78 これについては,KK/Rogall, (前出注51) §17

Rn. 163 および,特に,§30 Rn 115 (118). 参照。 また,類似のものとして,Hirsch, ZStW 107 (1995), 285 (317 f.) をも参照。

79 Göhler/König, (前 出 注58) §30 Rn. 36a; Rebmann/Roth/Herrmann (前出注55) §30 Rn. 43 参照。カルテルに関するコンプライアンスについて制裁の軽減を考慮することについては,Dreher, VersR 2004, 1 (4); Wegner, Die Sys-tematik der Zumessung unternehmensbezoge-ner Geldbußen, 2000, S. 91 ff. を,ならびに政策的観点からのものとして,Dannecker, in: Al-wart (前出注61) S. 5 (28) を見よ。

80 とりわけ,いかなる理由づけで,純粋な帰属論の基礎に,刑の量定の場合の組織責任の考慮を行うことが可能となるかは,当面は深く掘り下げることはできない。この点については,Wegner, (前出注79) S. 92参照。

81 これについては,Bohnert, (前出注57) §47 Rn. 108; Maiazza, Das Opportunitätsprinzip im Bußgeldverfahren unter besonderer Berück-sichtigung des Kartellrechts, 2003, S. 109 ff.; Müller, GA 1988, 316 (327) 参照。

82 包括的なものとして,Hefendehl, MSchrKrim 2003, 27 ff.; Simpson/Piquero, 36 Law & Socie-ty Review (2002), 509 ff.; 参照。企業倫理による犯罪予防については,特に,Bussmann, Zeit-schrift für Wirtschafts- und Unternehmen-sethik Bd. 5 (2004), 35 を見よ。

83 PricewaterhouseCoopers (前出注17) S. 4, 37 ff. 参照。

84 Gottfredson/Hirschi, A General Theory of Crime, 1990 参照。

85 Tiedemann, Verhandlungen 49. DJT (1972),

146

S. C 21 f. 参照。アメリカでの議論においては,Becker, 76 Journal of Political Economy (1968), 169 ff. で決定的に特徴づけられるこのような観点が,そうこうするうちに,判例理論およびゲーム理論の助けによって,詳細な方法で続けて発展し,また,詳細に述べられたが,とりわけ,「機知に富んだ,評価的な,最大化された人間」および,その周辺の条件と偏差という基本モデルについて,合理的な選択アプローチを基礎にする。これについてのさらなる文献については,Federmann, Kriminalstrafen im Kartell-recht, S. 295 ff.; Hefendehl, ZStW 119 (2007), 816 (820 ff.); Vogel, FS Jakobs, 2007, S. 731 (737 ff.) 参照。

86 公法におけるこのような展開については,例えば,Schmidt�Aßmann, Das allgemeine Ver-anwaltungsrecht als Ordnungsidee, 2. Aufl. 2004, S. 26 ff.; Schuppert, in: ders. (Hrsg.), Governance-Forschung, 2005, S. 371 (382 ff.); Voßkuhle in: Schmidt-Aßmann/ Voßkuhle (Hrsg.), Grundlagen des Veranwaltungsrechts, Bd. 1, 2006, §1 Rn. 20 ff., 68 ff. 参照。

87 Teubner, FS Kocka, 2007, S. 36 ff. これについては,また,Hefendehl, MSchrKrim 2003, 27 (39); ders., ZStW 119 (2007), 816 (820 ff.) をも参照。

88 Luhmann, Sozial System, 1984; ders., ZfRSoz 6 (1985) 1 ff.; ders., Die Wirtschaft der Gesell-schaft, 1998, S. 43 ff.; ders., Das Recht der Ge-sellschaft, 1993, S. 38 ff.; Teubner, ARSP 68 (1982), 13 ff.; ders., Recht als autopoietisches System, 1989, S. 149 ff. 参照。

89 このことは,例えば,世界規模の有価証券取引や,今日市民社会の本質的な協力の下でグローバルな方法で生じる,原子力の安全の統制の場合に示される。経済犯罪の領域における統制について,一般的には,Hefendehl, ZStW 119 (2007), 816 (823) を見よ。

90 Braithwaite, Brit. J. Criminol. 40. (2000), 222 ff. (223) は,それゆえ,現代の危険社会から,ハイエクの新しい規制モデル(「国家が統制することによって,市民社会が漕ぎ出す」)によって,ケインズによる規制モデル(「国家が多く漕ぎ出すことによって,統制が困難になる」)のを剥ぎ取ることに関しても具体的に述べる。

91 アメリカ合衆国におけるコンプライアンス・プログラムの中心的要素は,それゆえ,指導的な立場にある者らに完全に包含される。Gruner, Corporate Criminal Liability and Prevention, §14.02[6][b] 参照。

92 前出Ⅳ. 1. a)参照。

93 これについてより詳細には,前出Ⅱ. 2. c)参照。

94 コーポレート・ガバナンスおよび企業倫理に関する,このような批判的な点については,Hefendehl, JZ 2006, 119 (124 f.) 参照。

95 「監視者(gatekeeper)」の機能については,Coffee, Columbia Law Review 103 (2003), 1293 (1296 f.) 参照。

96 アメリカのこの点については,前出注31で挙げた量刑ガイドライン参照。また,ドイツの議論については,さしあたり,Schünemann, Un-ternehmenskriminalität und Strafrecht, 1979, S. 251 参照。

97 これについては,Sieber, ZStW 119 (2007), 1 (44 ff.) 参照。

98 経営体組織法(BetrVG)87条1項6号参照。99 それゆえ,相応の刑事政策は,自主規制や共

同規制,ならびに刑事手続の民営化に鑑みた可能性と限界によって,社会統制の包括的理論をも要求する。この点については,また,Sieber, ZStW 119 (2007), 1 (40, 42 f., 48). をも参照。

100 このような分類については,Hefendehl, JZ 2006, 119 ff. 参照。

101 相応の「飴と鞭アプローチ(carrot-and-stick approach)」については,Sieber, (前出注 37) 119 S. 319ff. 参照。また,Alwart, in: ders. (前出注35) S. 75ff.; Prüfer, Korruptionssanktionen gegen Unternehmen, 2004, S. 204 ff. をも見よ。

102 海 外 腐 敗 行 為 防 止 法(Foreign Corrupt Practices Act)および証券取引所法(Security Exchange Act)の相応のアプローチを用いて強化される,サーベンス・オクスリー法(前出注2)906条参照。これについては,アメリカ合衆国法律集(United States Code)第15編78dd条−78ff条の諸規定参照。当該諸規定によれば,虚偽の陳述は,部分的にはすでに,サーベンス・オクスリー法以前に罰則が付けられていた。

103 これについては,前出Ⅱ. 2. b)および3. c)参照。

104 それは,会計監査委員会(Audit Committee)の設置についての義務違反に罰則を付けることでもなければ,倫理�領の作成義務や匿名の届出所を開設する義務に罰則を付けることでもない。サーベンス・オクスリー法においては締結総決算が正しいものであることについての虚偽の陳述を処罰の対象とする906条のみが,本質的に刑罰規範とみなされる。しかし,ここでは,同様にドイツにおいてもみられる,企業レポートを不正に表現することについて,有価証券取引法331条ないし公示法(Publizitätsgesetz)17

147

条で罰則が規定されている,古典的な経済犯罪構成要件が問題となる。

105 刑事司法の民営化の限界については,Hamm, NJW 2001, 3100 ff.; Meyer, BewHi 2004, 272 ff.; Scholz, NJW 1997, 14 ff.; Sieber, ZStW Bd. 119 (2007), 1 (40 ff. 48); Stohrer, Informationspflich-ten gegenüber dem Staat in Zeiten von Priva-tisierung, Liberalisierung und Deregulierung, 2007. 特に監督義務について,Werner, Be-kämpfung der Geldwäsche in der Kreditwert-schaft, 1996, S. 59 ff. ならびにスイスの両替闘争 モ デ ル(Modelle der Geldwäschebekämp-fung)については,S. 272 ff. を見よ。

106 このような問題については,特に Vogel, FS Jakobs, 2007, S. 731 (741 f.) 参照。

107 包 括 的 な も の と し て,Sieber, ZStW 119 (2007), 1 (44 ff.) 参照。

108 量刑ガイドラインについては,前出注31参照。

109 これについては,また,Dannecker, in: Alwart (前出注61) S. 5 ff. をも参照。

110 アメリカ合衆国の企業刑法に関する批判については,Laufer, Corporate Bodies and Guilty Minds, 2006, S. 38 ff. 参照。

111 2007年連邦ガイドライン・マニュアル(前出注31参照)8B2.1条,8C2.5条。

112 Art. 12 D.Lgs. 8 giugno 2001, n. 231, Art. 12.113 これについては,Hefendehl, (前出注89) S. 816

(839 ff) のみ参照。114 秩序違反法30条のドイツにおける企業に対す

る過料と,欧州共同体基本法(EGV)81条以下および(アメリカ証券取引所法の補充措置法も併せた)アメリカ合衆国企業刑法に基づく欧州共同体カルテル秩序違反法との比較は,このような外国の手続がドイツには何ら手本となりえないような場合であっても,ドイツ法が,ここで,批判的に再検討されなければならないことを明らかにしている。

115 Tiedemann, in: Schoch/Stoll/Tiedemann (Hrsg.), Freiburger Begegnung, 1996, S. 30 ff. (54). 参照。その教科書の第2版においても,経済刑法について,企業は,義務を果たすべきであり,また,そのかぎりにおいて,刑法の名宛人でありうるということに依拠している。Tiedemann, Wirtschaftsstrafrecht AT (注48) S.136 (Rn. 243) 参照。

116 Tiedemann, in: Eser/Thormundsson (前出注59) S. 157 ff. (157); ders., in: Schoch/Stoll/Tiedemann (前出注115) S. 30 ff. (54); ders., in: Tiedemann (Hrsg.) Wirtschaftsstrafrecht in der Europäischen Union, Freiburg-Symposi-

um, 2002, S. 3 ff. (17) 参照。117 企業に対する制裁に,法治国家的な保障を適

用することを不可欠のものとすることについては,すでに,基本的なものとして,Tiedemann FS Jescheck, 1985, S. 1411 (1418) 参照。

【訳者あとがき】 ここに訳出したのは,ドイツのマックス・プランク外国・国際刑法研究所所長のウルリッヒ・ズィーバー教授が,恩師のクラウス・ティーデマン博士古稀祝賀論文集に寄稿した論文( 原 題 は,Ulrich Sieber, Compliance-Pro-gramme im Unternehmensstrafrecht. Ein neu-es Konzept zur Kontrolle von Wirtschaftskri-minarität , in Ulrich Sieber u.a . (Hrsg. ) , Festschrift für Klaus Tiedemann zum 70. Ge-burtstag,2008, SS.449-484)である。元になる論文は,すでにわれわれの21世紀 COE 時代の研究成果として刊行した書のなかで,ウルリッヒ・ズィーバー(田口�一・原田和往・二本柳誠・岡部雅人・萩野貴史・小野上真也訳)「企業犯罪防止のためのコンプライアンス・プログラム─経済犯罪の領域における刑法上の共同規制のための新たな試み─」と題して寄稿されていたが(甲斐克則・田口�一編『企業活動と刑事規制の国際動向』(2008・信山社)409頁以下),訳者の1人甲斐が2008年11月にマックス・プランク外国・国際刑法研究所を訪問した際,ズィーバー所長から所長室でこの論文を手渡され,「先の論文を元に新たな知見も盛り込んでまとめ直したので,よかったら訳して下さい」と言われ,帰国後,翻訳の意義を確認し,2009年3月にズィーバー所長が早稲田大学グローバル COE 刑事法グループの招きで早稲田大学を再び訪問された際に,改めて正式に翻訳の許可をいただいたものである。本論文の注

(4)において,われわれ早稲田大学刑事法研究グループの一連の研究成果にも言及されているのは,実にありがたいことであり,この論文は,まさにわれわれとの共同研究から触発されて書かれたものと自負できる。そして,内容的にも,ドイツの最先端の議論として有益な内容であり,本訳稿が日本の今後の議論の参考になれば幸いである。なお,訳文中,圏点は原文ではイタリック体である。[甲斐克則・記]