2.市場実態 (1) 水産物消費動向 - maff.go.jp...2.市場実態 (1) 水産物消費動向...

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2.市場実態 (1) 水産物消費動向 a.概況 イタリアの水産物消費は 1970 年代における経済の拡大や、新製品(特に魚の缶詰) が登場したことに伴って増加を始めた。水産物の消費はここ 15 年で 50%近く伸びてお り、更なる伸びが見込まれている。現在の一人当たり消費量は年間 23kgで、EU 平均の 26kgをやや下回る。イタリアでは、消費される蛋白質に占める水産物の割合は6.1%で、 肉のそれは 11.2%である。 イタリアの多くの地域では、魚は伝統的に金曜日に食べられることが多く、特にカト リックの習慣に従って、受難節(灰の水曜日(Ash Wednesday)から復活祭(Easter)まで の 40 日間で、復活祭に備えてカトリックの信者が断食と悔い改めを行う期間)の期間 で顕著であった。クリスマスイブ(12 月 24 日)においても伝統的に魚がよく食べられ るが、近年、年間消費量は平準化しつつある。 イタリアは地域による食習慣の相違が大きく、各地域は独自の食文化を有する。最も 水産物の消費量が多いのは、比較的所得水準の低い南部や沿岸部であり、その料理のタ イプや調理法は、イタリアの他の地域とはやや異なっている。南部では生の水産物を食 する習慣があり、また、伝統的な調理方法で消費される。内陸部ではゆでたりフライに したりケースが多いが、沿岸部では魚は網焼きするケースが多い。また、これらの地域 では価格志向が強く、低価格の輸入品も多く販売されている。 一方比較的裕福な北部地域では、高価格の水産物が消費される傾向にある。高品質の 輸入物は、主に北部の地方をターゲットとしており、とくにミラノには最高品質のもの が集まる。北部では、多くのタイ、シーバス、タラのフライ、ミックス魚料理、カタク チイワシなど、多様な水産物が食される。 したがって、量的には南部の消費が多いものの、高品質の輸入水産物の主なターゲッ トとなるのは、裕福で都会的な北部地域である。概して、南部は水産物の新製品にたい して閉鎖的で、伝統的なスタイルと低コストであることを重視する。 ミラノが位置するイタリア北部のロンバルディアは、水産物の重要な集積地である。 ロンバルディアは EU においてもっとも裕福な地域の一つであり、高価な輸入製品や国 内産天然種の需要がある。ミラノの輸入業者は、近接しているピエモンテおよびリグー リアだけではなく、さらに南の地域をも統括している。ミラノの卸売市場(イタリアで 129

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Page 1: 2.市場実態 (1) 水産物消費動向 - maff.go.jp...2.市場実態 (1) 水産物消費動向 a.概況 イタリアの水産物消費は1970年代における経済の拡大や、新製品(特に魚の缶詰)

2.市場実態

(1) 水産物消費動向

a.概況

イタリアの水産物消費は 1970 年代における経済の拡大や、新製品(特に魚の缶詰)

が登場したことに伴って増加を始めた。水産物の消費はここ 15 年で 50%近く伸びてお

り、更なる伸びが見込まれている。現在の一人当たり消費量は年間 23kgで、EU 平均の

26kg をやや下回る。イタリアでは、消費される蛋白質に占める水産物の割合は 6.1%で、

肉のそれは 11.2%である。

イタリアの多くの地域では、魚は伝統的に金曜日に食べられることが多く、特にカト

リックの習慣に従って、受難節(灰の水曜日(Ash Wednesday)から復活祭(Easter)まで

の 40 日間で、復活祭に備えてカトリックの信者が断食と悔い改めを行う期間)の期間

で顕著であった。クリスマスイブ(12 月 24 日)においても伝統的に魚がよく食べられ

るが、近年、年間消費量は平準化しつつある。

イタリアは地域による食習慣の相違が大きく、各地域は独自の食文化を有する。 も

水産物の消費量が多いのは、比較的所得水準の低い南部や沿岸部であり、その料理のタ

イプや調理法は、イタリアの他の地域とはやや異なっている。南部では生の水産物を食

する習慣があり、また、伝統的な調理方法で消費される。内陸部ではゆでたりフライに

したりケースが多いが、沿岸部では魚は網焼きするケースが多い。また、これらの地域

では価格志向が強く、低価格の輸入品も多く販売されている。

一方比較的裕福な北部地域では、高価格の水産物が消費される傾向にある。高品質の

輸入物は、主に北部の地方をターゲットとしており、とくにミラノには 高品質のもの

が集まる。北部では、多くのタイ、シーバス、タラのフライ、ミックス魚料理、カタク

チイワシなど、多様な水産物が食される。

したがって、量的には南部の消費が多いものの、高品質の輸入水産物の主なターゲッ

トとなるのは、裕福で都会的な北部地域である。概して、南部は水産物の新製品にたい

して閉鎖的で、伝統的なスタイルと低コストであることを重視する。

ミラノが位置するイタリア北部のロンバルディアは、水産物の重要な集積地である。

ロンバルディアは EU においてもっとも裕福な地域の一つであり、高価な輸入製品や国

内産天然種の需要がある。ミラノの輸入業者は、近接しているピエモンテおよびリグー

リアだけではなく、さらに南の地域をも統括している。ミラノの卸売市場(イタリアで

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Page 2: 2.市場実態 (1) 水産物消費動向 - maff.go.jp...2.市場実態 (1) 水産物消費動向 a.概況 イタリアの水産物消費は1970年代における経済の拡大や、新製品(特に魚の缶詰)

も大きく も重要な卸売市場)を統括している卸売業者たちは、主に、鮮魚(90%)

と世界中の輸入物を幅広く扱っている。

近年、市場は成長を続けているが、輸入物が占める割合が増加しており国内産の水揚

げ量は減少している。加えて、輸入量の増加と養殖魚の利用しやすさは、消費者の新た

な魚種に対する認識と高評価をもたらしている。

近年の水産物消費の伸びは、イタリア国内または海外資本の大手小売チェーン店の伸

びが支えている面が大きい。これらの強力な小売業者へのバイイングパワーの集中は、

水産物の卸売業者を含む供給業者のマージンを減少させている。スーパーやハイパーマ

ーケットを通した販売は小規模な店を通す場合に比して効率的であり、削減されたコス

トの大部分は商品の価格低下を通して消費者に還元される。これらのスーパーマーケッ

トは営業時間を長くしたり、日曜も営業したり、かつては 1 週間に 2、3 日であった水

産物の販売を毎日行うようになっており、そうした動きが水産物消費拡大の大きな要因

となっている。

b.消費者嗜好

イタリアにおける食文化には、この二,三十年間に大きな変化が生じている。

イタリアでは、自国の伝統的な料理に誇りを持っており、他の国の料理よりも概して

イタリア料理の方が好まれる。しかし、働く女性の増加、晩婚化、家族のサイズの縮小

という潮流によって、便利な食事に対する需要が増している。長時間労働、高収入は食

事を外で取ることを促進し、昼食にかける時間の短縮、迅速な食事に対するニーズの拡

大といった傾向が生じている。

小売部門は、そうした変化を反映し、そしてまた一面において促進している。前記の

とおりスーパーマーケットは営業時間を長く(たとえば、ローマでは午前 8:30 または

9:00 から午後 8:30)しており、日曜も営業している。これは、かつて小規模の伝統的

な店では稀なことであった。水産業界は、スケールメリットをいかし、消費者をひきつ

ける新たな調理済み食品のアイデアや、毎日提供できる水産物などを、大手の小売チェ

ーン向けに開発している。

イタリアの水産物の伝統的なイメージは、新鮮で贅沢、健康的というもので、理想的

には直接魚の販売店から新鮮なままフライパンへ、というものであった。しかし、現実

にはこの買い方や調理法はまれになりつつある。多くの水産物は輸入物で、スーパーマ

ーケット一つで事足りる、という状況になってきている。高品質なイメージがない冷凍

魚に対する需要も増加しており、また、開きや骨なしの切り身は調理時間を短縮できる

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ということで消費者の心をつかんでいる。

一方、こうした便利さや、速さを求めるライフスタイルの追求といった潮流に対し

て、”スローフード”の動きが高まってきている点も注目される。スローフードの動き

は、”ファーストフード”に反対する人たちの賛同を得て、準備や調理に時間のかかる

地方の伝統食や地場産の食材の利用を推進している。この運動の目的は、持続可能で環

境にやさしく、現代の生活のストレスと戦い、食の伝統を守ることにつながる食のスタ

イルを支持することである。この動きの典型的な行動として、田舎を土曜日に旅行する、

というものがある。地方の生産者や伝統工芸の職人を訪ねて、郷土食を試してみたり、

製品について学んだりするというものである。

スローフードの動きは持続可能な漁業も支持しており、”SlowFish”という年に一度

のジェノバの展示会は、持続的な水産物の消費を訴えた。2007 年のそのイベントの、

セミナーやカンファレンス、水産物試食会には 42,000 人が来場した。

イタリアで消費される水産物の内訳は以下のとおりである。

・ 海水魚(saltwater fish) 56%

・ 軟体動物(molluscs) 25%

・ 淡水魚(freshwater) 13%

・ 甲殻類,貝類(shellfish) 6%

また、消費者が購入する頻度の高い水産物は、順に以下のとおりである。

1. タラ

2. シタビラメ

3. タコ、イカ、コウイカ

4. アンチョビ

5. マス

6. タイ

7. 二枚貝

8. ボラ(stripped mullet)

9. メカジキ(swordfish)

10. シーバス

近年ではタイの消費は 8%減少し、タラは 4%、サバは 7%、ボラ(mullet)は 10%それ

ぞれ減少している。

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c.付加価値商品への需要増加

水産物はさまざまな製品形態で消費される。乾燥/塩漬けタラやニシン(herring)の

燻製の大半が伝統的な市場で取引される一方で、北ヨーロッパ産のサケや近隣の地中海

沿岸国産のシーバスやタイ(sea bream)やターボット(turbot)などの輸入物の消費

も増加している(2005 年には、マスの売り上げが 20%伸び、スモークサーモンのそれは

11%伸びた)。

缶詰製品は消費が伸びており、それぞれ、ハマグリは 12%、マグロは 4%、カタクチイ

ワシ(anchovy)のオイル漬けは 5.5%、ボラは 2%の伸びとなっている。

表 1 イタリアの家庭で消費される水産物(2005 年)

製品 重量 変化率(%) ユーロ 変化率(%) 変化率(%)

×106トン % 05/04 ×103 % 05/04 ユーロ/kg 05/04生と未冷凍 223,812 53 2.4 1,907,551 51 2.6 8.52 0.1・未加工 217,893 51 2.4 1,804,188 49 2.2 8.28 -0.2海水魚(saltwater) 116,116 27 0.2 1,044,779 28 0.7 9.00 0.4淡水魚(freshwater) 32,613 8 9.3 255,361 7 8.2 7.83 -1.0軟体動物(mollusk) 57,327 14 5.0 358,555 10 5.5 6.25 0.4甲殻類、貝類(shellfish) 11,843 3 -5.1 145,496 4 -3.9 12.29 1.3・加工 5,919 1 3.5 10,336 0 9.6 17.46 5.9パン粉をまぶしたもの 2,406 1 -0.1 4,139 0 10.2 17.20 10.3調理済み 3,513 1 6.1 61,977 2 9.2 17.64 2.9まるごと冷凍 35,285 8 -2.6 237,417 6 -3.6 6.73 -1.0・未加工 30,410 7 -2.6 209,539 6 -3.8 6.89 -1.2・加工 4,877 1 -2.5 27,875 1 -2.1 5.72 0.5パーツごと冷凍 61,775 15 4.7 578,712 16 1.5 9.37 -3.0・未加工 35,839 8 2.6 349,678 9 -0.7 9.76 -3.3・加工 25,936 6 7.7 229,034 6 5.1 8.83 -2.4缶詰 84,958 20 0.9 72,763 2 -0.5 8.56 -1.3乾燥,塩漬け,燻製 18,146 4 -0.7 259,437 7 1.6 14.30 2.3合計 423,977 100 1.9 3,710,742 100 1.3 8.75 -0.5

量 価値 平均価格

出典:ISMEA

消費される水産物の主なタイプは以下のとおりである

・生の水産物 53%

・缶詰の水産物 20%

・冷凍(パーツ) 15%

・冷凍(丸ごと) 8%

・乾燥/燻製/塩漬け 4%

・合計 100%

消費者の調理時間の短縮に対するニーズは強まりつつあり、冷凍や冷蔵調理済み食品

の市場は成長を続けている。イタリアの冷凍食品産業は、小売業者に対して、冷凍製品

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の取り扱い方法、保管方法、消費拡大のための販促方法等の講習会を開催している。

特に、フライ用の冷凍食品は、製造過程のハイレベルな技術革新によって市場シェア

を拡大している。市場が拡大するにしたがって、テクノロジーも同時に発展しており、

冷凍部門はもはや単にパン粉がついた製品を製造するというだけではなく、食感の優れ

た、香味つきのものを製造するようになっている。メルルーサ(hake)やタラやツノガ

レイ(plaice)といった冷凍魚の切り身などは、こうした加工業者のニーズの高い商品

である。

前記のとおり、長時間労働、長時間通勤、晩婚化、女性の社会進出といった社会的変

化を背景とし、消費者は、ますます 小限の調理ですぐ食べられる食事や製品を求める

ようになってきている。こうした潮流は食品分野全般に共通しており、水産物部門にお

いても、全ての主要なカテゴリー(冷蔵、冷凍、缶詰、保存用)でそれが見られる。

例えば、ミラノやローマのスーパーマーケットには、すばやく炒め物やパスタに使う

ことが出来る、幅広いミックス水産物(イガイ(mussel)、イカ、エビの冷凍パッケー

ジが並ぶ。オランダやリトアニアなどの国で製造された冷凍スリミ(カニカマ)は多く

の冷凍食品部門で見られる。スーパーマーケットの冷蔵部門では、スリミのマリネや水

産物サラダが売られている。他の高所得者向けスーパーマーケット(Essalunga 等)で

は、冷蔵魚部門に小さなパッケージ寿司部門が置かれている。

こうした付加価値製品の大規模な産業は、都会的で、所得水準が高く、新しい食のト

レンドへの関心が高い北部の地方において特に発達している。付加価値水産物の製造業

者は、輸入もの、国産もの、天然もの、養殖もの、冷凍、冷蔵、ミックスなど、さまざ

まな形態の材料を利用している。

d.購入時の判断基準

イタリアの消費者は、伝統とモダンの融合を好む傾向を持つ。彼らは、食の選択に保

守的であり、目が肥えて選択にうるさく、品質、食の安全を追求する。一方において、

彼らは食を楽しんでおり、食品の独自性と多様性にもこだわる。水産関係者、フードサ

ービス関係者等からのヒアリングにより得られた、購入時における消費者の重要な判断

基準は以下のとおりである。

産地:イタリアの消費者は、総じて自国産の水産物に高い評価を与える傾向にある。持

続可能性に関しては近年意識されるようになってはいるが、英国ほどの意識の高まりは

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見られない。

品質:個々の製品の品質に気を使う消費者が増加している。添加物や保存料をできる限

り避け、表面の色を重要視している(明るい色が好まれる)。冷凍より生鮮、養殖より

天然が好まれる傾向にある。

ブランド:近年、事前にパックされた冷凍部門の製品で重要性を増している。

形式・パッケージ:冷凍水産物を購入する際の要素として、パッケージングは比較的影

響力が大きい。パッケージングは製品の新鮮さと信頼性のイメージに大きく影響を与え

る。なお、従来から、小売店で販売される量り売りの製品のパーケージサイズは 500 g

か 800 g のいずれかが多い。

価格:特に南部においては重要な要素となるが、北部地域においては比較的高額の商品

も販売される。製品の品質による価格差は大きく、商品によっては3倍程度の差がある。

以下は、小売りにおける製品の も安いものと も高いものの価格差の例である。

・ ホタテ(scallop) 44%

・ 小さなピンクのクルマエビ(prawn) 211%

・ イセエビ(crayfish) 265%

・ アカザエビ(nephrop) 216%

トレーサビリティ・漁獲方法:意識は高まっており、漁場・漁獲方法から製品に至るト

レーサビリティは必要。環境に易しい漁獲方法への意識も高まってはいるが、英国ほど

ではない。

(2) 水産物の生産・輸入

イタリアで消費される水産物は年間 1,420 千トン(約 44 億ユーロ)で、その供給は

大きく国内生産(天然物、養殖物)525 千トン(EU 第 5 位)と輸入 1,075 千トンによる。

輸出も行われているが、その量は 182 千トンとわずかである。輸入先としては、スペイ

ンが 大の供給国となっている。

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a.海洋漁業

イタリアの漁船は比較的規模の大きいもので 14 千隻程度、その他の小規模なものも

含めて 24 千隻程度である。規模の小さい漁船の多くは船上加工や製品保存といった設

備を有していない。その他、許可を有さない不正操業が 2 千隻程度と言われている。

EU が地中海における漁業の削減の指針を示して以降、イタリアの漁船数は近年減少

を続けており、2000 年から 2003 年の初めにかけて 1.7 千隻の漁船が廃業した。漁業活

動は海岸線に沿って約8000 kmにわたり、特に集中することなく分散して営まれており、

漁業従事者は約 41,000 名とされる。

イタリアで”pesce azzurro”と呼ばれる青魚のカタクチイワシ(anchovy)とイワシ

は、飛びぬけて漁獲の多い種で、その後に、イガイ(clam)、メルルーサ(hake)、ボラ、

メカジキが続く。これら 6種だけで一年のイタリアの漁獲量の 44%に達する。メカジキ

とメルルーサとイガイは、一般的にカタクチイワシ、イワシなどよりも市場価格は高く、

利益率も高い。

b. 養殖業

イタリア養殖漁業協会(Associazione Piscicoltori Italiani; API)によると、イ

タリアには約 1000 の養魚場がある。うち、62%は北部(とくにヴェノト)に、22%は中

部(とくにアブルッツォ)に、16%は南部に位置する。この部門には全国で約 15,000 名

の人々が従事している。

海水魚の養殖場では、ボラの一種(grey mullet)や貝類といったマイナーで高価な

種のほかに、シーバスやタイ、white sea bream、shidrum などが生産されている。イ

タリア産のシーバスとタイは市場では優れたイメージを持っており、輸入ものに比べて

高価格である。

貝類はイタリアの水産養殖における主要な生産品である。イガイ用の 474 の海水性養

殖場(主にリグーリア、プーリア、エミリア・ロマーニャ、ヴァェネト、サルデニャ)、

ハマグリ用の 36 の養殖場(主にヴェニス、エミリア・ロマーニャ)などがある。

淡水の養殖場は、イタリアの水産養殖生産物の 72%を担っている。マス(trout)が

その中心であるが、その他、カワカマス(pike)、cyprinidae(コイ(carp),テンチ(tench),

その他)、ictaluridae(ヨーロッパやアメリカの頭の大きな黒い魚(black bullhead))、

acipenseridae(チョウザメ(sturgeon))などの養殖も行われている。

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c.主要な輸入品

近年増加傾向にある主要な輸入品は以下のとおりである。

・サケ

輸入物の占める割合が近年増加傾向にあるが、イタリアにおいてはいまだにニッチ市

場という位置づけである。主にスカンジナビア(特にノルウェー)、スコットランド、

アイルランドから、多数の未加工魚とともに、冷凍された切り身として入ってくる。ス

モークサーモンの需要も高まっている。しかしながら、イタリアの消費者は地中海産の

魚を好む傾向があり、サケの主な競争相手はバスとタイ、ターボット(turbot)などで

ある。

・シーバスとタイ

イタリアはこれらの種のヨーロッパにおける 大の市場を持ち、一年間に 70,000 ト

ンのシーバスとタイを消費する。うち、20-24%は国産の養殖か天然物であり、その他が

輸入される。

輸入物の大半はギリシャとトルコの養殖である。しかしながら、イタリアは海外の供

給業者からターゲットにされており、輸入の増加により、価格は急速に低下している。

また、イタリアは、シーバスとタイの水産養殖に多額の投資をしてきており、集積さ

れた大規模な養殖が行われている。

・底生魚(groundfish)

今回の調査の対象製品ではないが、特に加工品として利用されるタラについては今後

の需要拡大が見込まれ、何人かの輸入業者から、日本産タラの可能性についての問い合

わせを受けた。底生魚(groundfish)の輸入は、特に冷凍切り身において伸びている。

イタリアは EU において 3 番目に大きな底生魚市場を持ち、塩漬けタラ、乾燥塩漬けタ

ラ、塩漬けタラの切り身などを消費する。輸入される底生魚の多くはタラとメルルーサ

である。

これらに加え、輸入品としてはマグロ、エビ、頭足類(主に、コウイカ、イカ、タコ)

と二枚貝(イガイ、ハマグリ)等が重要である。

(3) 日本産品の位置づけ

イタリアの貿易統計によると、近年日本はイタリアにたいする水産物供給国となって

いないが、イタリアは日本にとっての水産物製品供給国となっている。日本の貿易統計

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によると、軟体動物(mollusk)を少量輸出しているが、今回の調査のターゲットとな

る製品についての輸出実績はない。イタリアの水産物の専門家は、その他の EU 諸国か

ら日本産水産物(たとえば、フランスやスペインを通じてクルマエビ)がイタリアに少

量だけ入って来ている可能性があることを示唆した程度である。

イタリアの市場は日本産水産物を扱った経験がないので、日本産水産物の特性や、他

国の製品とどう違うのかといったことへの認識はほとんどない。例外は、日本に滞在し

た経験を持ち、日本産水産物に親しんだ一部のシェフとレストラン経営者等である。

日本産水産物への全体的なイメージは、高価であるが高品質でもあるというものだ。

英国では比較的強い、持続可能性に関する日本のマイナスイメージはそれほど強くない。

しかし、水産物の専門家もメディアの専門家も、販売促進戦略を練る際には、捕鯨国と

しての日本のマイナスイメージを考慮する必要性を認めている。

以下のセクションでは、イタリアにおける日本食の普及動向、それらを通ずる日本産

品のイメージと、イタリアの市場で日本が水産物のシェアを拡大するチャンスの評価に

ついて見ていくこととする。

a.イタリアにおける日本料理の普及状況

伝統的な郷土食に重きを置く国柄であるので、イギリスや他のヨーロッパの中心的な

国にくらべて、レストランで”外国の料理”が出されることは、比較的少ない。例えば、

イタリアにフランス料理店があることは稀であり、「フランス料理は複雑すぎだ。イタ

リア人はシンプルなレシピを好む」(食産業のトレンドに詳しい専門家)といった意見

が聞かれる。

中華料理店は比較的多く存在するが、ミラノの文化トレンドの専門家によると、その

数は減少しているという。確かに、中華料理店は人気を博していたし、これといったマ

イナスイメージもなかった。しかしながら、過去 5年程の期間に、中国はイタリアブラ

ンドの安い偽の複製品を製造している国、というイメージが広がり、それによって中華

料理店の人気は衰退していったといわれる。

そうした中で、ミラノにおいては、日本食はイタリア料理についで 2 番目に人気のあ

る料理であるとされる。日本食レストランの店舗数はイタリア料理のレストランのそれ

には大きく及ばないが、シンプルで健康的という評価を得ている。回答者の何人かは、

日本食とイタリア料理には多くの共通の特性(新鮮さを重視すること、生魚を用いた伝

統食があること(イタリアのカルパッチョは、生魚とオリーブオイルとレモンとその他

の香辛料で作られる料理))があるという認識を述べている。そうした習慣がすでにイ

タリアにあるので、日本食料理店のオーナーは、刺身を食べたことがなく躊躇している

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客には「薄造り」を勧め、そのカルパッチョとの類似性により、大半がすぐに受け入れ

るようになるという。

ローマやその他のイタリアの中心都市における日本料理店の数は、誰にたずねるか、

また「日本料理店」をどのように定義するか、といったことに依存し、大きく変動する。

ローマだけで少なくとも 50 以上の”寿司バー”が存在するが、その他の日本料理を出

す汎アジア料理店を含めれば、その数は大きく増加する。しかし、日本人によって経営

され、日本人のシェフを雇用している店は全体の 10%程度でしかない。大半は中国・韓

国等の経営者によって経営されおり、イタリア人によって経営されている店も多い。

その結果、多くの日本料理店のオーナーは日本のブランドにこだわる必要性をあまり

感じていない。また、ローマの日本料理店で働いている日本人シェフですら、すでに手

に入れることができる寿司や刺身用のネタの価格と品質の高さに満足している。いくつ

かの水産物、例えばサケでは日本産のサケよりもノルウェーのサケの方が脂が乗ってい

て寿司には適するとの意見も聞かれた。

こうした寿司ブーム、日本式レストランの増加に対しては、全ての料理店が生魚を適

切に扱うことができるのか、もしできなくて食中毒が起きてしまった場合、日本料理店

全体のイメージに傷がつくのではないか、という懸念も生じている。また、日本で実際

に用いられているのと同様な料理法と給仕法を実践して、日本産の材料を使っている正

真正銘の日本料理店を、それらの問題にこだわりを持たないその他の日本料理店から差

別化することができるのか、という関心もある。その例として、ミランの 8~10 店舗の

日本料理店グループは、彼ら自身で、本物である、という認証マークを作っている。し

かしながら、このマークが一般の消費者市場において認識や関心をもたれていることを

示す指標はない。

一方で、イタリア人の経営による、極めて質の高い日本食を提供するレストランも何

軒か出現しており、注目すべき動きである。それらの店舗は、モダンで、従来の日本料

理店のイメージとはかけ離れている。トレンディな評価を得ており、著名人も多数来店

する。インタビューしたオーナーシェフに共通していたのは、自分たちは「日本料理店

を経営する気はない」という点であり、日本を訪問し、日本料理の基礎を理解しつつも、

自らの感性による独自の店舗を展開している。

b. 消費者がもつ日本のイメージ

イタリアにおいて、日本は全般的に肯定的なイメージをもたれている。細部を重視し、

高品質で高所得者向け製品の生産者であるとの認識が一般的である。

同時に、日本製品は高価だと思われている。トヨタのような車のブランドはその品質

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の高さによって賞賛されるが、平均的なイタリアの消費者にとっては高価すぎる。

食品についてインタビューをした何人かは、日本料理とイタリア料理にはある種の類

似性があること、共に自国の食に誇りを持っていることなどをあげた。あるイタリア人

シェフは、日本を訪問し、料理の勉強をした際に、日本の「イタリア料理」に、大いに

触発されたと語っている。一方、日本は料理に対して過剰なプライドを持っているとの

見方も聞かれた。

日本食のイメージは、日本の長寿とも関連し、「健康的」とのイメージが一般的で、

これは寿司(健康的ですぐに食べられる)ブームにも強く影響している。

c. 水産物供給国としての日本のイメージ

近年、日本はイタリアの市場に水産物を供給していないため、イタリアの消費者市場

では水産物供給国としての日本に特にこれといったイメージはない。

一方、貿易を通して、日本は水産物消費国として知られており、自国の需要を賄うた

めに大量の水産物の輸入をしているというイメージが形成されている。それゆえ、日本

は輸出用の供給能力を果たして本当に有しているのかという懐疑的な見方が多い。

加えて、水産物の輸入に詳しい人々の間では、HACCP の認定を受けた工場の不足が、

第一の問題として持ち上がった。HACCP の認定工場無しでは、日本は輸出に対して本気

ではないと認識されかねない。

しかしながら、もしも日本が十分な HACCP 認定工場を作ることができるのならば、水

産物供給国としての日本の調査をしようという関心は一部に存在する。

日本に対しては「とても遠い国」というイメージももたれている。イタリア人は地方

食や郷土食を好むので、その感覚は、日本からの輸入を EU からの輸入に比べてより異

質なものとしてしまう。貿易業者は品質のコントロールやメンテナンスが、フランスや

スペインのような近隣の供給国のほうが容易であるとも感じている。

「私の日本産水産物に対する印象? うーん、日本はすごく遠いね!」(高級水産物卸

業者)

現在のところ、イタリアの消費者は概して食品技術を信頼しており、食の安全はそれ

ほど大きな問題にはなっていない。しかしながら、中国食品に対する疑念は高まりを見

せており、今後は食の安全が問題になる可能性がある。現在のところ、日本は安全な食

の生産者であると認識されているが、このイメージの保護や周知徹底が図られるべきで

あろう。

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d.市場参入の課題

直接的に評価すべき日本産の水産物製品は、今のところイタリアの市場には存在しな

いが、日本はイタリアの市場に参入するに当たって重要な課題に直面する可能性がある。

それらの課題の多くは、日本がスペインで直面している課題と類似している。

・ EU の認定を持っている日本の水産物企業の数はとても限られている

・ 冷凍製品は生よりも人気がない

・ 運送のコストが高い

・ 日本からの輸入品は、発展途上国からのそれに比べて高額な関税がかかる

・ 近年、日本からイタリアへの直接的な流通販路がない。一般的に日本製品はドイツ

のデュッセルドルフの JFC(日本食品流通業者)を経由するうえ、イタリアの輸入

業者は日本の水産物製品を扱った経験がない。

・ 日本が供給できる種の多くは、すでにイタリアで手に入れられる状態にある

加えて、

・ イタリアは経済的にも文化的にも多様であり、地域間による市場の違いも著しい

強みとしては:

・ 日本は肯定的なイメージを持たれており、高品質な製品の供給者とみなされている。

・ イタリア北部は EU の も裕福な地域の一つで、消費者は高品質で新鮮な食品のため

には喜んでお金を払う

e. 品目別参入機会

以下の品種が今回調査において主要なターゲット品目としたものである。

・ マダイ

・ サバ

・ ブリ

・ イクラ

・ サケ

・ ホタテ

・ スリミ(カニカマ)

現在のイタリア市場の状況を勘案した場合、これら対象品目のターゲットとするマー

ケットは以下のように分類される。

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現状、既にかなり大規模・低価格のマーケットが存在している品目

・サケ

・サバ

・スリミ

・ 現状一定規模のマーケットが存在するが比較的高価格でニッチな品目

・ホタテ

・イクラ

・ 類似品目は入手可能だが、まだ一般消費者にはなじみが薄く、現在は非常に小さい

市場

・ブリ 天然の似た品種を地中海で手に入れることができる

・真鯛 天然のマダイ(red sea bream)は地中海で手に入れることができ、ギリ

シャで養殖されているクロダイ(gilt head bream)と競合する

以下の表は、イタリアの水産物市場の中心的プレイヤーのインタビュー結果から得ら

れた、各品目の主要なメリット・デメリットを示す

表2 魚種別のメリット・デメリット

メリット デメリット 主要競合先

サケ

既存の大きな市場が存在

天然物の高評価

生鮮物が市場の中心

日本産は脂の乗りが劣る。

ノルェー

スコットランド

チリ

サバ

既存の大きな市場が存在

生鮮物が市場の中心

種類がやや異なる

日本産は脂の乗りが劣る。

ノルウェー

イングランド

スコットランド

スリミ 既存の大きな市場が存在

高品質

極めて競争的

低価格

リオトアニア、中

国、タイ、ベ

ルギー、韓国

ホタテ 高級フードサビスマーケット

に機会

国産と EU 産のものが利用

できる

フランス・イタリア

英国

イクラ イタリア人はキャビアを好む 小規模ニッチマーケット 北欧

真 鯛 類似した魚種が一部地域で

消費されている

イタリア,

ギリシャ

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ブリ 季節ものであるので、時期によ

っては供給不足

値の張る商品との印象

類似した魚種が一部地域で

消費されている

イタリア

出典:ヒアリング調査による

サケ

サケの輸入は力強いが、ここ 2 年間は若干減少した。ノルウェーが 大の輸入先で、

スコットランド、デンマーク、チリが続く。2006 年のイタリアの輸入状況は 13,594 ト

ンの生または冷蔵サケ(2004 年から 5%ダウン)2,302 トンの冷凍切り身。中心は生の

丸ごとのサケで、切り身(冷凍と冷蔵)の占める割合は小さい。

イタリア人は選択可能ならば地中海の魚の方を好み、サケは、ギリシャ産を含む地中

海産の、バス、ターボット、タイといった種と競合する。これらの魚は伝統的なイタリ

ア料理によく用いられ、イタリア人は、なじみがあって近隣で獲れるこれらの魚を買い

たがる。

スモークサーモンも成長している製品であり、イタリアはヨーロッパにおいてスモー

クサーモンの 大輸入国である。その多くはデンマーク産であり、イギリス、フランス、

ドイツといった EU 諸国産も多い。消費のピークはクリスマスの時期であるが、一年を

通してよく利用される製品であり、少数の金持ち用の製品ではない。スモークサーモン

は、パテやペースト、チーズ、調理済み冷凍食品などに使われている。また、パスタソ

ース用のスモークサーモンの需要も高まっている。

他の魚と異なり、脂の乗りが良いサケは、イタリアでは低カロリーの”ダイエット”

食品とは認識されていないが、健康的な食品として認識されている。

下表の生サケの価格のサンプルから、小売価格は 1 kg あたり 10-13 ユーロであるこ

とが分かる。

表 3 生鮮サケの店頭価格

店 名 状 態 サイズ 価格€ €/kg 円/kg

Auchan 切り身 - - 9.99 1,617

GS 切り身 - - 11.80 1,910

Panorama 切り身 - - 9.99 1,617

Panorama 切り身(パック) - - 12.99 2,102

出典:店頭価格調査による

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スモークサーモン

スモークサーモンの価格は下表のとおり(より詳細なリストは付属資料参照)。価格

帯の広さは、さまざまな品質のランク(同一の原産国であっても)や、休暇シーズンだ

けに限らず一年中購入できる商品として販売すること、また、高収入の消費者だけをタ

ーゲットとしていないことを反映している。

表 4 スモークサーモン店頭価格

店名 サイズg 価格€ €/kg 原 産

Panorama 80 6.11 76.38 太平洋・天然

GS 100 6.90 69.00 太平洋・天然

Panorama 100 5.48 54.80 ノルェー養殖

Panorama 100 4.68 46.80 ノルェー養殖

Panorama 100 3.69 36.90 ノルェー養殖

Panorama 100 2.39 23.90 ノルェー養殖・解凍

Panorama 100 1.79 17.90 ノルェー養殖

Panorama 100 5.28 52.80 スコットランド養殖

Panorama 100 5.99 59.90 スコットランド養殖

Auchan 100 4.59 45.90 アイルランド養殖

Auchan 160 5.90 36.88 アイルランド養殖

GS 250 6.39 25.56 チリ養殖

出典:店頭価格調査による

天然物を含めてスーパーマーケットでは冷凍サケの市場は限定されている。日本産サ

ケはノルウェー産等に比べ脂が少なく、消費者市場調査により、イタリアの消費者が日

本産サケを食べることや料理することにどのような反応を示すかを把握する必要があ

る。

さまざまな形態のサケ製品が現在でも広く存在しているので、調理済みサケの新製品

を小売店やレストランに提案することも、考慮の余地がある。例えば、西京漬け、味噌

漬けといった調理法は、現地の日本レストランでも人気の高いメニューであり、加工し

た切り身での販売は受け入れられる可能性がある。

サバ

サバは主にノルウェーとイギリスからイタリアに輸入される。サバの燻製は、かなり

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目新しい製品として認識されており、Auchan 等のスーパーマーケットでは数種の香味

のものを購入することができる。ほとんどのサバは生で、比較的安価である。

「サバは安い魚と思われている。南部の人間はサバをよく食べている。」(水産物製品の

専門家)

サバは酢漬け、オイル漬け、燻製といった形態で、前菜に出される。料理としては通常

はオーブン焼きだが、蒸し、網焼きといった方法も可能だ。

ヨーロッパ産のサバは日本のものに比べてだいぶ脂の乗りがよい。そのため、消費者

調査では彼らが日本産を受け付けるか否かを確かめなければならない。日本のスタイル

の焼きサバでさえ、ヨーロッパ産の方が日本産よりもおいしいという意見も聞かれる。

ただ、一部の人々は脂っぽいサバを好まないので、日本産の脂の少ないサバの方が料理

によっては、より適する可能性もある。

サケ同様に、味噌漬け等の付加価値製品での販売も考慮の余地があろう。

表 5 サバ店頭価格

店 名 状 態 サイズg 価格€ €/kg 円/kg 原 産

Panorama 鮮魚 - - 4.99 808 天然

Auchan 鮮魚 - - 3.89 630 地中海・天然

GS 鮮魚 - - 5.50 890 大西洋・天然

Auchan サバ燻製 200 2.99 14.95 2,419 大西洋・天然

Auchan サバ燻製香草風味 200 2.99 14.95 2,419 大西洋・天然

Auchan サバ燻製コショウ風味 200 2.99 14.95 2,419 大西洋・天然

出典:店頭価格調査による

ホタテ

ホタテは特にクリスマス直前に購入され、クリスマスシーズンの食事の一部として使

われる。その時期には kg あたり 90 ユーロほどの高価格になる。主にフランス、スコッ

トランド、スペインから輸入されるが、国産もある。イタリアはホタテの輸出も少量な

がら行っている。

典型的なホタテ料理方法は、パスタに使う、パン粉をまぶしてフライにする、プロシ

ュート(生ハム)と一緒に調理する、というようなものである。

輸入量は全般的に安定しているが、冷蔵ホタテが冷凍に対して占有率を増している。

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日本産の大ぶりなホタテが、どの程度の価格プレミアムで受け入れられるのか、調査の

必要がある。

表 6 ホタテ店頭価格

店 名 状 態 サイズg 価格€ €/kg 円/kg 原 産

Auchan 冷凍・殻付 13.90 2,249 地中海・天然

Panorama 冷凍・殻付 450 8.10 18.00 2,913 大西洋・天然

Galuzza 生鮮 15.00 2,427 スコットランド/イタリア

出典:店頭価格調査による

スリミ(カニカマ)

スリミはイタリアの市場においてすでに確立された商品となっている。カニ足の代用

品という形態でスーパーマーケットの冷凍セクションに並んでいる。また、冷蔵やマリ

ネという形態でスーパーマーケットの冷蔵部門にならび、サラダや前菜として利用され

る。外食産業においては、スリミでできたカニツメの揚げ物が大量に利用されている。

スリミの輸入量は 2000 年から 2 倍に増加した。2005 年のイタリアの輸入量は 13,000

トンであった。主要な供給国は、ここ 2,3 年でスリミ産業を立ち上げたリトアニアにな

ってきている。中国、タイ、マレーシアからの輸入も増加しているが、韓国産のものは

減少傾向にある。主要な輸入業者は Dearim(中国と韓国)、Supernova(リトアニアの巨

大すり身業者 Viciunai を代表)、Jais(タイ)である。

イタリアはスリミ製品の輸出(1000 トン程度)も行っている。相手は主にフランス

で、Ocilia ブランドのもと輸出している。国内には Fideco SpA と Vis Industrie の 2

つのスリミ製造業者がある。そこでは、アメリカやタイやチリから輸入したスリミ約

1500 トンを元に、3,900 トンのスリミ製品を製造している。

スリミは、安いパスタやカニツメの揚げ物、サラダを作るために食品加工業や外食産

業で使用されている。イタリア料理では伝統的にカニをあまり利用せず、イタリアのシ

ーフードサラダにはカニが入っていない。しかし、スリミでできたカニが入っている安

いサラダはよく見かけるようになってきた。

ヨーロッパのカニの代用品としてのスリミは通常白とオレンジであり、日本で一般的

な明るい赤と白ではない。

これらのスリミを日本産のものと対比すると、食感、風味等、明らかに日本産が勝っ

ているが、それらの違いがイタリア消費者に価格プレミアムを合理化するものとして受

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け入れられるかは疑問である。スリミは、cost driven market(価格のみが問題となる

市場)としての位置づけが確立している、というのが水産関係者の一般的な認識であり、

日本は、既存のスリミと価格競争を行のではなく、むしろ新たな製品を考案する、また

は食感の違いがより強く認識される新たな利用法を提案する、といったことが必要とな

ろう。

表 7 スリミ店頭価格

店名 サイズ g 価格€ €/kg 円/kg 原 産

Panorama 250 2.20 8.80 1,424

Auchan 219 2.95 13.47 2,180 イタリア

Auchan 430 4.89 11.37 1,840 イタリア特価価格

Auchan 200 2.95 14.75 2,386

Auchan 240 2.99 12.46 2,016

Auchan 750 6.89 9.19 1,487

GS 180 2.99 16.61 2,688

GS 380 4.70 12.37 2,002

GS 250 3.29 13.16 2,130

出典:店頭価格調査による

イクラ

イクラの流通量は極めて少量で、そのほとんどは北欧産である。 も一般的な使用例

は、瓶詰めのイクラをトッピングや飾りとしてクラッカーの上に載せる(カナッペ)、

カルパッチオの飾りとして使う、といったものである。我々が訪ねたどの店もイクラを

置いておらず、あるスペシャリティ鮮魚業者によると、需要がないため扱わないとのこ

とであった。

イタリア人は、パスタやご飯とともに黒キャビアを食する。デンマーク産の黒キャビ

アと赤キャビアは 50g の瓶が 2.56 ユーロでスーパーマーケットで販売されていた。

「イタリア人は黒キャビアを上に載せるだけでなく、他のものと混ぜたがる。現時点で

は、イクラは限られた市場しかなく、かなり高級品だ。しかし、加工イクラが伸びるチ

ャンスはあるかもしれない」(水産業界の専門家)

加えて、イタリアにおいて寿司に対する関心はイギリスなどほどには高まってはいな

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い。どのくらいの寿司店が現在イクラを扱っているか不明だが、イクラに対する親しみ

やすさは、寿司に対する親しみやすさにと同調して拡大するだろう。

「イタリア人はイクラが大好きだ」(日本料理店経営者)

マダイ

マダイは地中海で天然のものが獲れ、ギリシャではその似た種であるクロダイ(gilt

head bream; orata )が養殖されている。それに加えて、マレーシアからの輸入もいく

らかある。ニンニクやオリーブオイル、その他のハーブと一緒に焼いたり、パンの中身

としてオーブンで焼いたり、ゆでたりして食べる。マダイはイタリア料理に伝統的に登

場する魚だ。

「マダイ(red sea bream)には、すでに良い市場が存在する」(水産業界の専門家)

表 8 真鯛等の店頭価格

店名 状 態 €/kg 円/kg 原 産

GS マダイ(大) 29.90 大西洋・天然 アフリカ産

GS マダイ(小) 12.90 大西洋・天然 アフリカ産

GS クロダイ 7.80 ギリシャ・養殖(特価)

GS クロダイ 19.90 イタリア・養殖

Auchan クロダイ 4.99 ギリシャ・養殖

Auchan クロダイ 6.98 イタリア・養殖

Auchan マダイ 10.90 インド洋・天然

Auchan クロダイ 6.98 イタリア・養殖(特価)

Panorama 冷凍クロダイ 12.99 トルコ・養殖

Panorama クロダイ 5.99 養殖(特価)

Panorama クロダイ 11.99 ローマ近郊産・養殖

出典:店頭価格調査による

ブリ

イタリア周辺では、さまざまなタイプのブリ(yellowtail; ricciola)が獲れる。お

もに 8 月/9 月と 5 月/6 月の 2 シーズンによく獲れる。消費者は新鮮なブリを好み、比

較的高価な魚という位置づけがなされている。

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イタリアを訪れたシーズンはブリのシーズンではなかったため、店頭に置かれていた

のは 1店舗(GS)のみで、価格は kg あたり 20.90 ユーロ(3,382 円)であった。

イタリアでのインタビューによれば、ブリは旬の時期には非常に有用との回答が多か

った。少なくとも日本料理店店主の一人は、刺身用に使うハマチとブリを手に入れるの

は稀だし非常に難しいと語っている。

一般的には、焙ったり焼いたりするが、シチリアにはもっと多くの料理法があるとい

われている。

もし、日本産のブリがイタリア周辺で入手できるものと違った風味や食感を持つなら

ば、日本産ブリの市場を構築するチャンスがある。しかしながら、新鮮なブリの方が冷

凍よりも好まれる点は、日本の解決すべき課題だ。

3.流通実態

(1) 概 況

国産物と輸入物の水産物は 2つの異なった方法で流通する。

国産は水揚げ漁港で卸売業者と魚屋に流され、一部はレストランに直接販売される。

地方の漁獲量の半分は漁師によって直接販売されるため、魚市場には出回らない。

イタリアの流通システムは複雑であることで悪名が高い。南に行けば行くほどその販

路の複雑さは増す。漁師は個人またはグループで漁に出、互いにサポートしあう組織を

作っている。そのほかに、価格を操るマフィア関係の機構に組み込まれている漁師のグ

ループもある。これは漁師たちにとって重荷になっており、彼ら自身の組合を作る理由

の一つである。マフィアの影響力は消費者を対象としたものではないが、国産魚の 50%

が公式のルートではない市場に流れ、輸入魚の 30%も不法に入ってきていると見積も

られている。マフィアの影響力は南部に行けば行くほど強くなる。

しかしながら、日本からの輸出に関しては、すでに確立されている正規の流通システ

ムを使うことにより、その影響を過度に懸念する必要はないものと思われる。輸入業者

は、何を輸入するか、どこから輸入するかを決定するという点で、重要な役割を担って

いる。大手輸入業者は、卸売業者や外食産業部門などの現代的な流通経路に直接商品を

流す。大手の輸入業者は、イタリア全体をカバーするが、中小の輸入業者はある一つの

特定のエリアをカバーする。消費者が料理の手間を極力省きたいと望む傾向は強まって

おり、いくつかの輸入業者は加工業も兼ねている。一方、大手加工業者(缶詰業者、燻

製業者)は冷凍魚の直接輸入を行っている。

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