1．肩　

1）構　造（骨、関節、靭帯、筋）

骨の構成　肩甲骨：関節窩の関節面65°以下　上腕骨：頸体角（水平より45°）、後捻角25°、骨頭の関節面（155°）　鎖骨

体幹と上肢の結合（4 関節）　胸鎖関節：鞍関節　肩鎖関節　肩関節（肩甲上腕関節）：球関節　　　　　肩甲骨の関節窩と上腕骨頭　肩甲胸郭結合

胸鎖関節（鞍）：鎖骨末端　上10 cm（30°）　下3 cm　前10 cm　後3 cm肩鎖関節（平面）：回旋30°棘鎖角：肩甲棘と鎖骨のなす角。正常は60°　肩屈曲150°で棘鎖角は70°

肩甲骨の運動挙上　　　　　　10 cm引下げ（下制）　　3 cm内転 　　　　　　3 cm外転　　　　　　10 cm上方回旋　　　　60°　（肩鎖30° ＋　胸鎖30°）下方回旋

肩甲帯の運動

他に上方、下方回旋がある：上方回旋とは肩甲骨の関節窩が上方に向く回旋

屈曲挙上

20°20°

伸展下制

20°10°

肩鎖関節

肩甲上腕関節

肩甲胸郭結合

胸鎖関節

図5-1　肩甲帯の関節

図5-2　棘鎖角

55上肢の運動学

75

SAMPLE

2）機　能（作用）

⑴ 肩甲骨の動きと筋挙上：僧帽筋上部、菱形筋、肩甲挙筋下制：僧帽筋下部、小胸筋、鎖骨下筋　（補）広背筋、大胸筋内転：菱形筋、僧帽筋、肩甲挙筋外転：前鋸筋、小胸筋　　　　　　　　（補）大胸筋上方回旋：前鋸筋、僧帽筋上部、下部下方回旋：菱形筋、小胸筋　　　　　　（補）肩甲挙筋

⑵ 肩甲骨運動の特徴菱形筋の作用：肩甲挙筋と同じ作用：肩甲骨の内転、挙上、下方回旋大胸筋：肩甲骨を前方へ引く（肩甲骨外転）

⑶ 肩関節の運動屈曲：三角筋前部、大胸筋鎖骨部　　　（補）烏口腕筋、上腕二頭筋短頭（外旋位）、棘上筋伸展：三角筋後部、広背筋、大円筋　　（補）上腕三頭筋長頭外転：棘上筋、三角筋中部　　　（補）上腕二頭筋長頭（外旋位）、上腕三頭筋長頭（内旋位）内転：大胸筋、広背筋、大円筋　（補）肩甲下筋、烏口腕筋、上腕二頭筋短頭外旋：棘下筋、小円筋　　　　　（補）三角筋後部内旋：大胸筋、肩甲下筋、大円筋、広背筋　　（補）三角筋前部水平屈曲（水平内転）：三角筋（前部）、大胸筋、烏口腕筋、肩甲下筋水平伸展（水平外転）：三角筋（中部、後部）、広背筋、大円筋、棘下筋、小円筋

分回し運動：屈伸、内・外転、内・外旋の複合運動

⑷ 肩関節運動の特徴棘上筋の作用：肩関節外転（純粋な作用）：骨頭を関節窩に引きつける大円筋と広背筋は同じ作用：肩関節の伸展、内転、内旋広背筋の作用：肩：内転、伸展、内旋、骨盤の挙上：（起始、付着）棘下筋と小円筋は同じ作用：肩関節の外旋、水平伸展（水平外転）上腕二頭筋の作用：肩外旋時　　長頭：外転　　短頭：屈曲、内転　　肘：屈曲、回外

腋窩の構成　　前方：大・小胸筋　　　　　　　後方：広背筋、大円筋、肩甲下筋　　　　　　　内側：前鋸筋　　　　　　　外側：烏口腕筋、上腕二頭筋短頭

肩関節の運動

屈曲内転内旋水平屈曲

180°0°80°135°

50°180°60°30°

伸展外転外旋水平伸展

肩関節補強　前壁：烏口上腕、関節上腕、烏口肩峰靭帯　上面：棘上筋、上腕二頭筋長頭　下面：上腕三頭筋長頭　前面：肩甲下筋、大胸筋、大円筋　後面：棘下筋、小円筋

76

SAMPLE

内側腋窩隙： 小円筋と大円筋と上腕三頭筋の長頭でできる三角形の隙き間 ― 肩甲回旋動脈の通り道

外側腋窩隙： 小円筋と大円筋と上腕三頭筋の長頭と上腕骨で囲まれた四角形の隙き間 ― 後上腕回旋動脈、腋窩神経の通り道

肩甲上腕リズム： 外転時30°以上の場合　上腕と肩甲骨が2：1 の割合で外転　　　　　　　　屈曲時60°以上

筋の習慣的機能の転倒：同一の筋で、肢位によって、相反する機能をもつこと。　例：三角筋の内・外転

回旋筋腱板（rotator cuff）：肩関節の安定性棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋作用　① 安定作用：三角筋の働きを補助　　　② 下降作用：肩挙上時に骨頭を下方へ滑らせる　　　③ 旋回作用：棘上筋以外の回旋筋群の作用　　　　 155°挙上位で回旋筋の作用なし：zero position　　　④ 靭帯作用：関節包を補強

二関節筋：上腕二頭筋、上腕三頭筋（長頭）

肩甲骨と肩関節の動き肩関節　屈曲--------------- 肩甲骨上方回旋　　　伸展--------------- 肩甲骨内転　　　外転--------------- 肩甲骨上方回旋　　　外旋--------------- 肩甲骨内転　　　内旋--------------- 肩甲骨外転

図5-3　ローテータカフ 図5-4　肩甲上腕リズム

上腕二頭筋長頭腱

肩甲下筋腱

棘上筋腱

棘下筋腱

小円筋腱

30°

60°

60°

90°

120°

180°

77　上肢の運動学5

SAMPLE

3）障害および検査法

⑴ 胸郭出口症候群の検査法

　　 アドソンテスト（Adson）顔検側に向き頸後屈、深呼吸、橈骨動脈触診

　　 ライトテスト（Wright） 検側橈骨動脈触診後、肩過外転・外旋させる、脈減弱

　　 エデンテスト（Eden）両上肢の下垂で検者が後ろから両橈骨動脈を触診、気をつけ姿勢、脈減弱

　　 アレンテスト（Allen）一側の腕を横に水平に上げ、肘を90°屈曲。次に頸を反対方向へ回旋。橈骨動脈の拍動が消失の場合は陽性。

⑵ 上腕二頭筋長頭腱炎症の検査法

　　 スピードテスト肘伸展回外位で上肢挙上に抵抗を負荷　二頭筋腱部に疼痛の有無

　　 Yergason test肘90°回内位、上腕体側固定、肩外旋、肘回外に抵抗　二頭筋腱部に疼痛

⑶ 翼状肩甲長胸神経麻痺。前鋸筋（内側翼状）、僧帽筋（外側翼状）の麻痺により生じる壁を手で押すなどの動作時に、肩甲骨内側縁が後胸壁から遊離

⑷ Lift-off test肩甲下筋単独損傷により手背を腰に当てた状態から後方へ浮かせることが不可

⑸ 棘上筋テスト 外転90°で保持、断裂等により、保持不可

2．肘　

1）構　造

肘関節は腕尺、腕橈、上橈尺関節　　同じ関節包

図5-5　肘関節

上橈尺関節

鈎状突起

鈎状突起

滑車

内側上顆

内側上顆

外側上顆

外側上顆

鈎突窩

上腕骨 橈骨窩

上腕骨小頭

尺骨

橈骨

肘頭

78

SAMPLE

□ 関節⑴ 腕尺関節ラセン関節、尺骨滑車切痕と上腕骨滑車屈伸運動屈伸の運動軸：上腕骨内側上顆と外側上顆（上腕骨滑車と小頭を通る）を結んだ線

⑵ 腕橈関節球関節、上腕骨小頭と橈骨頭窩屈伸と回内外

⑶ 上（近位）橈尺関節車軸関節、回内外180°の内130°回内外の関節、運動軸：近位の橈骨頭と遠位の尺骨頭を結んだ線

⑷ 下（遠位）橈尺関節車軸関節

□ 筋⑴ 上腕前面の筋烏口腕筋、上腕二頭筋、上腕筋

⑵ 上腕後面の筋上腕三頭筋、肘筋

⑶ 前腕前面の筋円回内筋、橈側手根屈筋、長掌筋、尺側手根屈筋、浅指屈筋、深指屈筋、長母指屈筋、方形回内筋

⑷ 前腕後面の筋腕橈骨筋、長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋、尺側手根伸筋、回外筋、指伸筋、示指伸筋、小指伸筋、長母指伸筋、短母指伸筋、長母指外転筋

運動範囲

肘関節前腕

屈曲回内

伸展回外

145°90°

5°90°

79　上肢の運動学5

SAMPLE

Huter 線、Huter 三角：上腕骨外側上顆、内側上顆と肘頭を結ぶ伸展したときは一直線（Huter 線）屈曲したときは二等辺三角形（Huter 三角）

運搬角、生理的外反肘　160 ～ 170°、肘角　10 ～ 20°：上腕骨長軸と前腕骨長軸のなす角女性の方が外反は大（運搬角、肘角は同一とみなす場合有）

□ 骨間膜走行：橈骨→尺骨役割： ① 回外の制限

② 手の圧力を上腕骨へ伝達③ 橈骨・尺骨の相対的位置関係を維持

2）機　能

肘屈曲：上腕二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋（補）長・短橈側手根伸筋（回内位）、円回内筋、手関節屈筋群（深指屈筋は除外）肘伸展：上腕三頭筋　　　　　　（補）肘筋、手関節伸筋群回　外：回外筋、上腕二頭筋（補）長母指外転筋、腕橈骨筋回　内：円回内筋、方形回内筋　（補）手関節屈筋（橈側手根屈筋）、腕橈骨筋、肘筋

運搬角

肘角

図5-6　Huter線、Huter三角 図5-7　運搬角（160 ～ 170°）肘角（10 ～ 20°）

80

SAMPLE

3）障　害

肘内障 橈骨頭輪状靭帯亜脱臼

テニス肘 上腕骨外側上顆炎、長・短橈側手根伸筋、指伸筋の起始部

　Chair test 前腕回内位で椅子を持つ、疼痛

　Thomsen I test 手関節背屈させ、背側に抵抗、疼痛

　中指伸展テスト 上腕骨外側上顆に疼痛

野球肘離断性骨軟骨炎、上腕骨小頭または橈骨頭軟骨の壊死、内側上顆炎

　Grip test、Finger flexion、　 Thomsen II test

（手関節掌屈させ、掌側に抵抗）内側上顆に疼痛

神経麻痺

　 肘部管症候群（尺骨神経溝）尺骨神経

　 回内筋症候群 正中神経

　 前骨間神経症候群正中神経麻痺、円回内筋の深頭、浅指屈筋の起始部で圧迫、感覚障害なし、長母指屈筋、深指屈筋（示指）、方形回内筋麻痺

　 後骨間神経症候群橈骨神経麻痺、回外筋の線維性アーチなどで圧迫、指の伸展が不可（手関節背屈は可）

3．手　

1）構　造

⑴ 手関節（橈骨手根関節と手根中央関節）手根骨と中手骨の配列　近位手根骨：舟状骨、月状骨、三角骨、豆状骨　遠位手根骨：大菱形骨、小菱形骨、有頭骨、有鈎骨

中手骨と手根骨の位置関係　第1 中手骨：大菱形骨　第2 中手骨：大菱形骨、小菱形骨、有頭骨　第3 中手骨：有頭骨　第4 中手骨：有頭骨、有鈎骨　第5 中手骨：有鈎骨

舟状骨月状骨

三角骨

豆状骨

大菱形骨

小菱形骨

有頭骨

有鈎骨

掌面

図5-8　手根骨の配置

81　上肢の運動学5

SAMPLE

手根管：近位手根骨と屈筋支帯の管腔　　通過するもの：正中神経、長母指屈筋、深・浅指屈筋、橈側手根屈筋Guyon管（ギヨン管：尺骨神経管）：豆状骨と有鈎骨の鈎状部間にある、豆鈎靭帯（床）と屈筋支帯（天井）又は手掌手根靭帯に囲まれた管腔：尺骨神経、尺骨動脈が通る

橈屈、尺屈の運動範囲

橈屈尺屈

12.5°(50％) 33°(60％)

12.5°(50％) 22°(40％)

25°55°

＝＞

橈骨手根関節 手根中央関節 合　計

橈骨手根関節 手根中央関節 合　計背屈、掌屈の運動範囲

背屈掌屈

35°50°

＜＞

50°35°

85°(70°)85°(90°)

母指

CM関節MP関節IP関節

橈側外転屈曲屈曲

60°60°80°

尺側内転伸展伸展

掌側外転 90° 掌側内転 0° 0°10°10°

MP屈曲時のMP外転の制限：側副靭帯

指

MP関節PIP関節DIP関節

屈曲屈曲屈曲

90°100° 80°

伸展伸展伸展

45° 0° 0°

外転 内転

近位手根骨 遠位手根骨

正中神経長母指屈筋

橈側手根屈筋

浅指屈筋深指屈筋

舟状骨月状骨 三角骨

豆状骨 大菱形骨

小菱形骨

手根溝 手根管 屈筋支帯

有頭骨

有鈎骨

図5-9　手根溝と手根管

82

SAMPLE

伸筋支帯（背側手根靭帯）　腱鞘① 長母指外転筋、短母指伸筋② 長・短橈側手根伸筋③ 長母指伸筋④ 示指伸筋　指伸筋⑤ 小指伸筋⑥ 尺側手根伸筋

手内在筋群：intrinsic muscle・作用：前腕筋群の粗大力を巧みに制御して、手の複雑、精巧な機能を発揮させる働き・手の骨に起始、停止をもつ比較的小さな筋母指球筋（4 筋）：短母指外転筋、母指対立筋、短母指屈筋、母指内転筋中手筋（3 筋）　：虫様筋、背側骨間筋、掌側骨間筋小指球筋（4 筋）：小指外転筋、短小指屈筋、小指対立筋、短掌筋

図5-10　手関節の運動と筋

示指伸筋指伸筋

小指伸筋

尺側手根伸筋

浅・深指屈筋

尺側手根屈筋長掌筋

長母指伸筋

長・短橈側手根伸筋

短母指伸筋長母指外転筋

長母指屈筋

橈側手根屈筋

背 屈

掌 屈

尺

屈橈

屈

図5-11　背側骨間筋（実線）、掌側骨間筋 （点線）

短母指外転筋 小指外転筋

83　上肢の運動学5

SAMPLE

2）機　能

⑴ 運動と筋① 手関節掌屈：橈側手根屈筋、長掌筋、尺側手根屈筋 （補）浅・深指屈筋、長母指屈筋、長母指外転筋背屈：長・短橈側手根伸筋、尺側手根伸筋　 （補）指伸筋、長母指伸筋、小指伸筋、示指伸筋尺屈：尺側手根伸筋、尺側手根屈筋　　　　 （補）指伸筋、小指伸筋、示指伸筋橈屈：橈側手根屈筋、長・短橈側手根伸筋　（補）長母指外転筋、長・短母指伸筋、長掌筋、長母指屈筋② 母指CM橈側外転：長母指外転筋　　（補）長・短母指伸筋尺側内転：母指内転筋　　　（補）短母指屈筋掌側外転：短母指外転筋　　（補）長母指外転筋、短母指伸筋掌側内転：母指内転筋　　　（補）長・短母指屈筋、長母指伸筋対立：母指対立筋　　　　　（補）短母指外転筋、短母指屈筋③ 対立運動母指：CM の屈曲、外転、内旋：母指対立筋、短母指外転筋、短母指屈筋小指：CM の屈曲、内転、内旋：小指対立筋、短小指屈筋、小指外転筋④ 母指MP屈曲：短母指屈筋　　　　　（補）短母指外転筋、母指内転筋、長母指屈筋伸展：長・短母指伸筋⑤ 母指IP伸展：長母指伸筋　　　　　（補）短母指外転筋、母指内転筋屈曲：長母指屈筋⑥ 4 指のMP屈曲：虫様筋、背側・掌側骨間筋（補）深・浅指屈筋、小指外転筋、短小指屈筋、小指対立筋伸展：指伸筋、示指伸筋、小指伸筋外転：背側骨間筋、小指外転筋内転：掌側骨間筋⑦ 4 指のPIP屈曲：浅指屈筋　　　　　　（補）深指屈筋伸展：指伸筋、虫様筋、背側・掌側骨間筋　　 （補）示指伸筋、小指伸筋⑧ 4 指のDIP屈曲：深指屈筋伸展：指伸筋、虫様筋、背側・掌側骨間筋　　 （補）示指伸筋、小指伸筋

84

SAMPLE

⑵ 特徴短母指外転筋：CM 掌側外転：MP 屈曲、IP 伸展　　背側骨間筋と同じ作用母指内転筋：CM 内転、MP 屈曲、IP 伸展　　　　　掌側骨間筋と同じ作用長母指外転筋：CM 橈側外転：手橈屈虫様筋：MP 屈筋、PIP、DIP 伸展

手のアーチ：横方向アーチ、縦方向アーチ、斜方向アーチ

手の肢位休息肢位：手関節軽度掌屈、母指軽度外転、屈曲　　　　　各指の長軸は舟状骨に収斂機能肢位：手関節：中等度の背屈、軽度尺屈　　　　　母指：掌側外転、屈曲　　　　　2-5 指：軽度屈曲　　　　　母指と他の指の尖端が等距離　舟状骨に収斂

手の機能① 把持　② センサー　③ コミュニケーション

把握の古典的分類① 鈎握り　② 筒握り　③ こぶし握り　④ 球握り　⑤ 指尖掴み　⑥ 掌側面掴み　⑦ 側面掴み

指伸筋

指伸筋腱

指伸筋

矢状索 骨間筋腱膜骨間筋腱膜中央索

中央索

終伸腱 終伸腱

虫様筋

虫様筋腱

骨間筋腱骨間筋腱

深横中手靭帯側索

側索

浅指屈筋浅指屈筋

深指屈筋 深指屈筋

MP関節 PIP関節DIP関節

MP関節 PIP関節 DIP関節

矢状索

図5-12　指伸筋腱

85　上肢の運動学5

SAMPLE

3）障害および検査法

テノデーシス作用　 （腱固定作用）

手背屈により指屈曲が生じる（浅、深指屈筋が固定される）

no man’s land MPより中節骨中央まで　外科手術は禁忌部位、癒着

嗅ぎタバコ入れ 長・短母指伸筋腱の間

フローマン徴候母指と示指の間に入れた紙を保持させると、母指のMP、IPが屈曲（陽性）、尺骨神経、母指内転筋又は第1 背側骨間筋の麻痺長母指屈筋で代償

Finkelstein test　　（アイヒホッフテスト）

母指を手掌の中に入れ、拳をつくり、尺屈すると腱鞘に疼痛長母指外転筋、短母指伸筋の腱鞘炎。ドゥケルバン症候群で用いられる

Phalen test　 （手関節屈曲テスト）

両手関節を最大掌屈（手背を合わせて）1 分間保持、母指、示指、中指に異常感覚、正中神経圧迫、手根管症候群

手の変形下垂手（橈骨神経麻痺）、鷲手（尺骨神経麻痺）、猿手（正中神経麻痺）手内在筋優位の手：MP 屈曲、PIP、DIP 伸展手内在筋劣位の手：MP 伸展、PIP、DIP 屈曲スワンネック変形：MP 屈曲、PIP 過伸展、DIP 屈曲（白鳥の首変形）　　　　　　　　　手内在筋の拘縮、過緊張ボタン穴変形：MP 過伸展、PIP 屈曲、DIP 過伸展　中央索の伸張、断裂槌指変形（マレットフィンガー）：PIP 伸展、DIP 屈曲　突き指　終伸腱の断裂

神経麻痺ギヨン管症候群（尺骨神経管症候群）：尺骨神経麻痺手根管症候群：正中神経麻痺

86

SAMPLE

1．骨盤、股関節　

1）構　造

骨盤の構成　寛骨：腸骨、坐骨、恥骨　仙骨　尾骨

股関節　臼（球）関節骨頭の関節面　240°　2/3 が臼内に

頸体角： 　大腿骨頭頸部と骨幹部のなす角　　　　　小児150° 成人120 ～ 130°　　　　　大：外反股（140°）　小：内反股115°以下前捻角： 　前額面に対して、骨頭の前方への捻れ　　　　　小児35° 成人10 ～ 30°臼蓋角： 　腸骨最下端部と臼蓋嘴を結んだ線と両腸骨最下端線（Y 軟骨線）のなす角　　　　　小児20 ～ 30° 成人10°　　25°以上は異常　　　　　Y 軟骨：　恥骨、腸骨、坐骨の接合部　　　　　　　　　　Y 軟骨消失　男15歳、女13歳CE 角： 　骨頭中心と臼蓋嘴を結ぶ線と骨頭中心の垂線となす角　　　　　正常25 ～ 35° 20°以下は臼蓋形成不全Sharp 角：涙痕下端と臼蓋嘴とを結ぶ線と両側涙根下端を結ぶ線となす角　　　　　正常28°～ 42° 42°～ 47°は要観察　48°以上は脱臼

表　骨盤の特徴

男性 女性

外観骨盤腔大骨盤小骨盤骨盤上口骨盤下口腸骨翼開放度恥骨下角仙骨閉鎖孔大坐骨切痕

頑強ロート状狭く長い高く狭い狭い、ハート形狭い大小　60゜幅狭く、長い卵円形狭く深い、70゜

繊弱円筒状広く短い低く広い広い、楕円形広い小（直位）大　80゜幅広く、短い三角形広く浅い、80゜

垂直軸

運動軸

解剖軸

3°

6°

170°　～175°

図6-1　解剖軸と運動軸

66下肢の運動学

87

SAMPLE

大腿骨頭靭帯：内転で緊張腸骨大腿靭帯：伸展、外旋　外転・内転で緊張　人体中最強（Y 靭帯）恥骨大腿靭帯：伸展、外旋、外転で緊張　屈曲で弛緩坐骨大腿靭帯：伸展、内旋、内転で緊張

CE角

Sharp角

臼蓋角

頸体角

前捻角

後

前

図6-2　Sharp 角、CE 角、臼蓋角 図6-3　頸体角と前捻角

運動範囲

股関節 屈曲外転外旋

伸展内転内旋

125°45°45°

15°20°45°

図6-4　股関節の靭帯

下前腸骨棘

腸骨大腿靭帯

腸骨大腿靭帯

大転子

小転子

恥骨大腿靭帯

坐骨大腿靭帯

前面 後面

88

SAMPLE

2）機　能

⑴ 運動と筋屈曲：腸腰筋、大腿筋膜張筋、縫工筋、大腿直筋、内転筋群、小・中殿筋伸展：大殿筋、大内転筋、半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋長頭、小・中殿筋外転：中殿筋、小・大殿筋、大腿筋膜張筋、大腿直筋、縫工筋内転：内転筋群（恥骨筋、長・短・大内転筋、薄筋）、大殿筋、ハムストリングス外旋：大殿筋、深層外旋筋群、内転筋群（薄筋を除く）、大腿二頭筋、縫工筋、小・中殿筋内旋：小殿筋、半腱様筋、半膜様筋、大内転筋、中殿筋、薄筋、大腿筋膜張筋

⑵ 特徴深層外旋筋群（6 筋）：内・外閉鎖筋、上・下双子筋、大腿方形筋、梨状筋小殿筋と中殿筋は同じ作用：股関節の内転以外の運動大殿筋の作用：股関節の伸展、外旋、内転（下部）、外転（上部）股関節屈曲位恥骨筋の作用：股関節の内転、屈曲、外旋　大内転筋：外転以外の運動（屈伸、内外旋、内転）薄筋の作用：股関節の内転、屈曲、内旋　　　　　　　　膝関節の屈曲、内旋　拘縮の見方腸腰筋の作用：股関節の屈曲、腰椎前屈、わずかな内転、外旋縫工筋の作用：股関節の屈曲、外転、外旋　　　　　　　膝関節の屈曲、内旋大腿筋膜張筋の作用：股関節の外転、屈曲、内旋　　　　膝関節の伸展、外旋（屈曲）大腿二頭筋長頭の作用：股関節伸展、外旋、内転　　　　膝関節の屈曲、外旋半腱様筋、半膜様筋の作用：股関節の伸展、内旋、内転　膝関節の屈曲、内旋

鼠径靭帯：筋裂孔（腸腰筋、大腿神経）　　　　　血管裂孔（大腿動・静脈、リンパ管）　　　　　鼠径管（男性：精索、女性：子宮円索）腹横筋と内腹斜筋、鼠径靭帯で構成大坐骨孔（大坐骨切痕と、坐骨棘につく仙棘靭帯でつくる孔）　　梨状筋上孔：上殿動脈・静脈・神経　　梨状筋下孔：坐骨神経、後大腿皮神経、下殿神経・動脈・静脈、陰部神経、内陰部動脈・　　　　　　　　静脈小坐骨孔（仙棘靭帯と仙結節靭帯と囲まれた孔）　　内閉鎖筋、（上・下双子筋）、陰部神経、内陰部動脈・静脈

図6-5　腰椎、股関節、大転子の位置

第4腰椎第5腰椎

← Jacob線

腸骨稜

スカルパ三角

大腿動脈

鼠径靭帯長内転筋外縁

縫工筋内縁

ローザー・ネラトン線

上前腸骨稜

大転子

坐骨結節

a．第4～5腰椎間の位置 b．大腿骨頭の位置 c．大転子の位置

89　下肢の運動学6

SAMPLE

3）障害および検査法

尻上がり現象（Ely）大腿直筋短縮拘縮→腹臥位。膝を屈曲させると股関節屈曲し、尻上がり現象を認める

トーマステスト（Thomas）腸腰筋の拘縮→背臥位。腱側の股関節を屈曲させると患側の股関節が持ち上がる

オーバーテスト（オーベル）（Ober）

大腿筋膜張筋の拘縮→側臥位（患側が上）。患側の膝関節を屈曲させる。膝が対側につかない。

三脚徴候 ハムストリングスの拘縮

薄筋と他の内転筋の拘縮の見分け方

SLR（straight leg raising）ラセーグ（Lasegue）下肢伸展挙上テスト

腰椎に関係

パトリックテスト又はFABER テスト

股関節屈曲外転外旋、股関節、腸腰筋スパズム

トレンデレンブルク徴候（Trendelenburg’s sign）

中殿筋の麻痺

アリステスト（Allis） 先天性股関節脱臼の診断

ローザー・ネラトン線（Roser-Nelaton）

側臥位、股45°屈曲位　坐骨結節と上前腸骨棘を結んだ線上に大転子があれば正常

ヤコビ線（Jacoby） 両腸骨稜を結んだ線　L4、5 の椎間の位置　L4 の棘突起

スカルパ三角（大腿三角）鼠径靭帯、縫工筋内縁、長内転筋外縁で囲まれた部位　恥骨筋、腸腰筋、大腿神経、動・静脈が通過

　 ハムストリングスが大腿直筋の同時収縮により膝伸展に作用

Q 角（四頭筋角度） 膝蓋骨を外に引っぱる角度

大殿筋（一部切除）

梨状筋

下殿動脈と神経

陰部動脈と神経

内閉鎖筋の支配神経

坐骨棘後大腿皮神経

薄筋大内転筋

半膜様筋半腱様筋

上殿動脈上殿神経

中殿筋（一部切除）

大腿筋膜張筋

小殿筋

内閉鎖筋と双子筋

大転子

大腿方形筋

坐骨結節

坐骨神経

外側広筋

大腿二頭筋長頭

図6-6　殿部後面

90

SAMPLE

2．膝関節　

1）構　造

⑴ 関節膝関節の軸： 大腿骨内側上顆と外側上顆（顆部の最も幅の厚い高さ）、矢状面では顆部の中

央と後1/3 の間膝関節の運動：屈曲、伸展、外旋（40°）、内旋（30°）（内外旋は膝屈曲位）生理的外反膝（X 脚）：170 ～ 175°（出生時内反、1 歳外反、14 歳正常、老人内反（O 脚））　大腿骨幹軸と脛骨軸のなす角（FTA：Femoratibial angle）

⑵ 靭帯

大腿骨顆部

脛骨顆部

運動範囲：膝関節　屈曲130°　伸展0°

表　関節面の特徴

外側：外観は大きい内側：関節面は大きい

曲率半径：12～60 mm曲率半径：17～38 mm

曲率半径：70 mm曲率半径：80 mm

外側：上に凸内側：下に凹

膝伸展時 膝屈曲時 膝内旋時 膝外旋時

外側側副靭帯

内側側副靭帯

＊屈曲の角度により異なる

前十字靭帯：脛骨前内側より外後方へ　断裂時　　　　　　前方引き出し現象

後十字靭帯：脛骨後外側より内前方へ　断裂時　　　　　　後方引き出し現象

緊張

弛緩

緊張

緊張

＊

＊

弛緩

弛緩

緊張

緊張

緊張 or 弛緩

緊張 or 弛緩

弛緩

弛緩

緊張

緊張

0

0

m,

n,

17mm

38mm

60

15 mm16 mm 12 mm

80 mm

70 mm

内側顆 外側顆

図6-7　膝の曲率

91　下肢の運動学6

SAMPLE

⑶ 半月半月の特徴内側：大文字のC、屈伸により前後移動小（6 mm）、側副靭帯、半膜様筋、関節包と結合有外側：小文字のo、　　　　 〃　　　　大（12 mm）、　　　　　 　〃　　　　　　 結合無機能：緩衝、適合、可動性を適正、内圧均等、滑液分散、関節受容器　　　膝屈曲時に後方へ移動

2）機　能

⑴ 運動と筋屈曲： 半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋、（大腿筋膜張筋）、縫工筋、薄筋、腓腹筋、膝窩筋、

足底筋伸展：大腿四頭筋、大腿筋膜張筋、膝関節筋外旋：大腿二頭筋、大腿筋膜張筋内旋：半腱様筋、半膜様筋、縫工筋、薄筋、膝窩筋

⑵ 特徴膝窩筋： 膝屈曲、脛骨内旋、完全伸展時のlock をはずす、屈曲時に関節包を緊張（まきこみ

防止）鵞足：縫工筋、薄筋、半腱様筋の付着部（半膜様筋も含む場合有り）

ころがりとすべり：伸展位→屈曲　　ころがり→すべり　伸展位から最初の20°以内　　　　 ころがり運動が主　屈曲が多くなるにつれて、すべり運動が多くなる（大腿骨と脛骨の関節面が2 倍差）

終末強制回旋運動（screw home movement, locking mechanism）安定性増加　下腿は最終伸展時に外旋（膝外旋）　大腿は最終伸展時に内旋（股内旋）下腿固定時

後十字靭帯

後十字靭帯

前十字靭帯

前十字靭帯

半月大腿靭帯内側側副靭帯

内側半月

内側半月

外側半月

外側半月

膝横靭帯

腓骨脛骨

膝蓋骨

大腿骨

外側顆 内側顆

図6-8　半月と十字靭帯

92

SAMPLE

膝窩の構成：上内側：半膜様筋（半腱様筋）　　　　　　上外側：大腿二頭筋　　　　　　下内側：腓腹筋内側頭　　　　　　下外側：腓腹筋外側頭、足底筋内転筋管：内側広筋と大内転筋（停止）の間　　　　　大腿動・静脈が通過　　　　　下口は内転筋腱裂孔→膝窩へ

3）障害および検査法

反張膝の原因足関節の底屈拘縮（尖足）大腿四頭筋の弱化、大腿四頭筋痙性麻痺ハムストリングス弱化反対側の股関節、膝関節屈曲拘縮膝関節包、靭帯の弛緩

膝関節の安定機構内側補強：内側側副靭帯、縫工筋外側補強：外側側副靭帯、腸脛靭帯前方補強：大腿四頭筋、十字靭帯後方補強：ハムストリングス、十字靭帯

前方引き出し現象：前十字靭帯断裂後方引き出し現象：後十字靭帯断裂ラックマンテスト：前十字靭帯損傷

マックマレーテスト：半月板損傷ロッキング現象：半月板損傷膝くずれ（giving way）：膝蓋骨亜脱臼extension lag：他動的に膝の完全伸展が可能だが、自動的には不可能な場合。大腿四頭筋（特に内側広筋）の弱化による鵞足：縫工筋、薄筋、半腱様筋、（半膜様筋）の停止腱の形状Q 角（四頭筋角度）膝屈曲位　0°膝伸展位　13°～ 18°　正常

　　13°以下：膝蓋軟骨化症、膝蓋高位症　　18°以上：膝蓋軟骨軟化症、膝蓋軟骨亜脱臼、頸角増強、外反膝

膝伸展＋四頭筋収縮　8～ 10°正常　　10°以上異常

大腿脛骨角（FTA）：大腿骨軸と脛骨軸のなす外側開角　176°ミクリッツ線（Mikulicz line）： 大腿骨頭中心から足関節中心を結ぶ下肢機能軸で、立位での下

肢加重線を示し、正常では膝関節のほぼ中央を通過するHunter 管症候群：伏在神経の麻痺、内側広筋と大内転筋を結合する線維束で形成されるHunter　　　　　　　管の通過部で圧迫

図6-9　内側面の接点変化

93　下肢の運動学6

SAMPLE

3．足関節、足　

1）構　造

⑴ 距腿関節足関節の底屈、背屈ラセン関節軸：内果下端と外果の最突出部を結んだ線　　膝軸に対して、外捻20 ～ 30°　脛骨軸に対して内側が高い（85°）関節面：脛骨70°　　距骨140 ～ 150° 　前方は末広がり　　　　背屈により果間距離は増加

舟状骨内側楔状骨

中間楔状骨外側楔状骨

横足根関節

踵骨

距骨

立方骨足根中足関節

中足骨基節骨

中節骨

末節骨ショパール関節

リスフラン関節

図6-10　足部の骨

140～150°70°

30～50°20～30°

20～30°

85°

脛骨長軸

脛骨の下関節面

足の中央線

距腿関節軸膝軸

図6-11　距腿関節

94

SAMPLE

⑵ 距骨下関節足関節の内反、外反顆状関節軸：足の長軸に対して16°内方、水平面に対して42°傾斜

⑶ 足のアーチ作用：緩衝作用、体重支持保持機構：　　骨　：足根骨、中足骨など　　靭帯：底側踵舟靭帯（spring lig）、足底腱膜、長足底靭帯　　筋　：前・後脛骨筋、長母指屈筋、長指屈筋、母指外転筋、長・短腓骨筋構造：内側縦アーチ： 踵骨、距骨、舟状骨、内側楔状骨、第1中足骨（キーストーン：舟状骨）

前脛骨筋、後脛骨筋、長母指屈筋、長指屈筋、母指外転筋が保持作用　　　外側縦アーチ： 踵骨、立方骨、第5 中足骨（キーストーン：踵立方関節）

長・短腓骨筋、小指外転筋が保持作用、内側縦アーチに比べてアーチの高さは低い

　　　横アーチ： 内側、中間、外側楔状骨（キーストーン：中間楔状骨）、立方骨、第1 － 5 中足骨頭（キーストーン：第2 中足骨頭）長腓骨筋、母指内転筋が保持作用

体重の分布　踵部　　　　　　　　　25％　母指球部と小指球部　　25％

足根管：内果と踵骨およびその間に張る屈筋支帯で形成　　　　後脛骨筋、長指屈筋、長母指屈筋、脛骨神経、後脛骨動・静脈

距骨下関節軸距骨下関節軸

距骨

距骨

踵骨

踵骨

図6-12　距骨下関節の軸

運動範囲

足関節足部

母指

足指

底屈外がえし外転屈曲屈曲屈曲屈曲屈曲

背屈内がえし内転伸展伸展伸展伸展伸展

20°30°20°60° 0°40° 0° 0°

45°20°10°35°60°35°35°50°

MP IPMPPIPDIP

95　下肢の運動学6

SAMPLE

2）機　能

⑴ 運動と筋距腿関節の運動背屈：前脛骨筋、長母指伸筋、長指伸筋、第3 腓骨筋底屈：腓腹筋、ヒラメ筋、足底筋、長・短腓骨筋、長母指屈筋、長指屈筋、後脛骨筋距骨下関節の運動内反：回外、底屈、内転：前脛骨筋、後脛骨筋、長母指伸筋、長母指屈筋、長指屈筋外反：回内、背屈、外転：長腓骨筋、短腓骨筋、長指伸筋、第3 腓骨筋

⑵ 特徴足関節底背屈： 底屈により腓骨下降、果間距離狭小、腓骨外旋

背屈により腓骨上昇、果間距離拡大、腓骨内旋ショパール（Chopart）関節（横足根関節）： 距（踵）舟関節＋踵立方関節、底背屈、内外転、

内外旋わずかリスフラン（Lisfranc）関節（足根中足関節）の運動： すべり運動が主　底屈、背屈、内外

転わずか

足の機能　体重支持　移動

3）障害および検査法

腓腹筋とヒラメ筋の拘縮の見方：

巻き上げ現象＝ Windlass 現象（足底腱膜）：（ウインチ作用）ベーラー角（Böhler 角）：踵骨隆起上端、踵骨上方頂点、前距骨関節面の先端の角度　　　　　　　　　　　 正常20 ～ 30°、減少→骨折足根管症候群：脛骨神経の麻痺

底屈

背屈

長母指屈筋

長母指伸筋

長指屈筋

長指伸筋

後脛骨筋

前脛骨筋

短腓骨筋

長腓骨筋

第3腓骨筋

外反 内反

図6-13　下腿筋の拮抗、共同関係

96

SAMPLE