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静脈経腸栄養 Vol.26 No.3 2011 29(899)

Module 25.1 神経疾患における栄養および代謝の重要性 ここでは急性脳脊髄外傷の患者における代謝の特徴と栄養サポートの重要性を学ぶ。慢性神経疾患の患者における栄養不良を引き起こす異なった因子を見極め、栄養サポートに関連する神経疾患の胃腸機能の重要性を学ぶ。また、嚥下障害の基礎とその臨床的な重要性を学び、慢性神経疾患の患者における栄養状態に影響を及ぼす薬物治療を知る。

1.はじめに 急性神経疾患としては、急性脳外傷と脊髄外傷について、栄養サポートとの関係を学ぶ。慢性神経疾患としては、低栄養の原因と栄養と代謝の重要性を学ぶ。 栄養と神経学的疾患には密接な関係がある。たとえば脳血管障害は動脈硬化と、多発性硬化症は高飽和脂肪摂取とビタミンD欠乏と、筋萎縮性側索硬化症は高脂肪食・低繊維食・高濃度グルタミン酸摂取と、関連があるといわれる。また、神経疾患患者は高頻度に蛋白エネルギー低栄養(PEM)

をおこす危険性がある。神経疾患患者の数は多く、外来患者の15% 、リハビリテーションセンターの患者の30%以上、介護施設患者の50% を占めるという。

2.急性神経疾患2.1.急性脳外傷(図1) 脳外傷に際しては、急性期の代謝反応として内因性サイトカインとホルモンの変化がみられる。中枢性および末梢性のサイトカインおよび他の炎症性作動物質やストレス関連ホルモンが放出される。その結果、代謝亢進状態

*Nutritional support in neurological diseases

特集:ESPEN-LLLに学ぶ(後編)

Topic 25 神経疾患における栄養サポート*keywords:神経疾患、栄養管理、ヨーロッパ臨床栄養代謝学会

三原千惠1) Chie MIHARA 片多史明2) Fumiaki KATADAModule 25.1: Irene BRETÓN 3)  Module 25.2: Marcè PLANAS4)  Module 25.3: Stéphane M. SCHNEIDER5)

Module 25.4: R.BURGOS6)

◆海老名メディカルサポートセンター 脳神経サポート室1) 亀田総合病院 神経内科2)

Department of Neurosurgery, Ebina Medical Support Center1)

Department of Neurology, Kameda Medical Center2)

U. De Nutrición Clínica y Dietética Hospital G. U. Gregorio Marañón. Madrid, Spain3)

Hospital Universitario Vall d’Herbon, Barcelona, Spain4)

Nutritional Support Unit, Nice University Hospital, Nice, France5)

Hospital Universitario de Bellvitge, Barcelona, Spain6)

図1:急性脳外傷の代謝

ESPEN-LLLに学ぶ(後編)30(900)

となり、エネルギー消費量の増加と異化亢進がおこる。また、自律神経系が活性化され、代謝が亢進する。 具体的にはグルコース産生とインスリン抵抗性が増加し、高血糖となる。また、代謝が亢進することによって免疫適応性・血管内皮細胞の健常性・消化器機能などが障害され、感染の危険性が増加する。

2.1.1.エネルギー消費量(energy expenditure, EE) 多数の因子に依存するので概算はむずかしい。神経学的重症度の指標であるGlasgow Coma Scale (GCS)とEEは反比例する。つまりスコアが少ない重症例ほどEEが高い。EEは内科的および外科的治療や、合併症

(感染や腎障害など)の影響を受ける。重症急性脳外傷では、平均安静時 EEは115%(深い鎮静下)から140-200%まで、幅広い範囲で予測される1)。つまりEEの計算は正確ではなく、経腸栄養の患者では50%分しか算出されないという2)。できれば間接熱量測定によって求めることがのぞましい。

2.1.2.蛋白質 代謝が亢進した状態では、積極的な栄養サポートを行っても尿中窒素喪失は20g/日と増加し、大量の蛋白質を喪失する。また、治療でステロイドを投与した場合には、窒素喪失が増加する。窒素平衡は受傷後2-3週間は回復されない。また、異化亢進でアルブミンが減少するだけではなく、毛細血管の透過性亢進と希釈によって低アルブミン血症を引き起こす。 したがって栄養サポートがないと、1週間で10%の除脂肪体重(lean body mass, LBM)の喪失と、2-3週間で 30%の体重減少をきたす6)。

2.1.3.微量栄養素 代謝亢進によって血中亜鉛の減少と尿中亜鉛の増加をおこし、免疫機能の障害をひきおこす。神経外傷後の低アルブミン血症は、亜鉛および鉄の血漿中の濃度を下げる。

2.2.脊髄外傷 生理学的反応は脳外傷と同様で、ストレス反応をおこし、炎症性サイトカインや炎症作動物質が放出される。ただし、代謝亢進ではないという点で急性脳外傷とは異なる。EEは H-B法による算出の90-95%となるが、これは除脂肪体重の減少や四肢麻痺による筋肉の活動性減少による。慢性脊髄外傷では、安静時代謝率は健常者より14-27% 低い。栄養投与量が多いための肥満が二次的合併症としてよくみられる3)。

2.3.栄養サポートとの関係(図2) 栄養サポートによって生存率が上昇し、最適なリハビリテーションをおこなうことができる。頭部外傷患者に対する早期栄養サポートで感染症の減少と良好な転帰がえられる。基本的には経腸栄養がのぞましいが、バルビタールによる鎮静下や神経筋ブロック剤を使用している時は、誤嚥を防ぐために経腸栄養ではなく静脈栄養が必要である4)。随時、代謝モニタリングと嚥下機能の評価をしなければならない。

3.慢性神経疾患 慢性神経疾患の患者は栄養障害の危険にさらされている。主な慢性神経疾患の特徴を述べる。詳細については別項(各論)を参照のこと。・認知症 :アルツハイマー病は西洋諸国で最も一般的な

図2:栄養サポートの方法

静脈経腸栄養 Vol.26 No.3 2011 31(901)

認知症であり、認知症患者の半数以上は脳卒中後である。

・パーキンソン病 :最も多い神経疾患の一つである(55歳以上の1%)。病因は脳のドーパミンが枯渇していることで、症状は振戦、固縮、寡動が特徴的である。進行時の症状としては、嚥下障害、単調言語、胃腸の運動障害、易疲労性、うつ状態、認知障害がみられる。

・筋萎縮性側索硬化症(ALS):成人発症の最も一般的な神経疾患(3-4人 /10万人)で、進行性の神経変性疾患である。純粋な運動神経障害で、球麻痺発症は予後不良である。

・多発性硬化症 :脱髄疾患の一つで、炎症性に中枢神経のミエリン崩壊をおこす。症状は寛解と増悪を繰り返し、北欧では250人 /10万人の発生率であり、決してまれな疾患ではない。

・その他 :末梢神経障害、神経筋疾患(重症筋無力症など)、筋ジストロフィーなどがある。

 詳細については別項を参照のこと。

3.1.慢性神経疾患における栄養障害の因子3.1.1.摂取量の減少 各種の病態で、食物の摂取量が減少し栄養不良の原因となる。 うつ状態は慢性神経疾患ではよくみられる病態で、患者の40%が食物摂取の減少を呈する。認知機能障害によって食物摂取量が減少する。具体的には、食物を見つける、買う、準備する、という行動が障害され、そのために栄養障害をおこす。高次脳機能障害の一つである失行(運動可能であるにもかかわらず合目的な運動ができない状態)があると、食物を摂取する行動がスムーズに行えない。また、拒食症のような摂食の自己規制を呈する場合も食物摂取量が減少する。 嚥下は口腔から食道まで一連の運動でなされるが

(図3)、口腔・咽頭の機能障害によって嚥下障害を呈する。脳血管疾患患者の30%以上、アルツハイマー病患者の84%でみられる5)。パーキンソン病の嚥下障害は固縮と寡動によるもので、患者の50-82%に認められ、進行期ではその割合はもっと多い。筋萎縮性側索硬化症にお

いてもよくみられる所見、とくに球麻痺を生じる患者で多い。全体的には患者の10-30%に嚥下障害が認められるが、進行期では全患者でみられる。舌は通常口唇や顎より先に侵される6)。多発性硬化症における嚥下障害は、寛解時には一時的なものだが、患者の44%でみられる。 嚥下障害によって栄養障害をきたし、同様に脱水も多

図3:嚥下障害

図4:臨床における嚥下障害の流れ

図5: 誤嚥性肺炎の危険因子

ESPEN-LLLに学ぶ(後編)32(902)

い。脱水によって、意識の混迷や腎機能障害をおこしやすくなる。また、唾液分泌が低下して気道分泌が粘稠になり、さらに嚥下機能が障害され、悪化する(図4)。脱水によって循環血液量が減少し、自律神経機能障害のある患者では起立性低血圧が増強される。高齢の患者は、全身の水分量の減少と浸透圧受容体の感受性低下による水分摂取の減少のため、とくに脱水を起こしやすい。嚥下障害のために誤嚥すると誤嚥性肺炎をおこす(図5)。

3.1.2. 胃腸障害・嘔気嘔吐 :頭蓋内圧亢進の重要な症状で、頭蓋内圧

亢進によって第Ⅲ脳室底が障害されると嘔吐が増強する。いくつかの薬物 (抗パーキンソン病薬など) によっても嘔吐が誘発される。

・胃排泄の遅延 :神経疾患では胃運動麻痺や胃排泄遅延がよくみられる。また、頭蓋内圧亢進によって第Ⅳ脳室のレベルで嘔吐中枢が刺激される。自律神経障害、内因性の筋または神経疾患も胃の収縮能を障害する。胃の排泄が遅延すると、食欲低下、早期満腹、嘔気嘔吐、逆流や胸焼け、鼓腸を引き起こす。

・便秘 :慢性神経疾患患者でよくみられる。主な原因は胃腸の運動遅延、腹部および骨盤の筋力低下、自律神

経失調、薬剤の副作用、安静(臥床)によるものである。また食物繊維や水分の摂取不足などの食事の因子も関係する。

3.1.3.エネルギー消費量(EE)の異常 安静時 EEについては亢進も低下もある。体組成の変化、筋力の違い、麻痺、固縮、痙縮、繊維束性収縮、振戦、他の運動障害によって決まる。また、エネルギー摂取の減少と栄養障害が二次性代謝低下を引き起こす。総エネルギー消費量は予測式では正確に評価できないので、間接熱量測定がのぞましい。 病態によってもEEは異なり、ハンチントン病では安静時 EEが増加する。パーキンソン病では病期と症状の重症度によって多彩である。ALSの場合は多種多様の因子に依存する。たとえば栄養状態によっても左右され(低栄養では減少)、臨床的な兆候(上位または下位運動ニューロンの優位性など)や呼吸機能にも依存する。努力呼吸で代謝が亢進し、EEが増加するという7)。

3.1.4.薬物療法の影響 治療に用いる薬物の副作用として、消化器症状や栄養に関連する物質の吸収阻害などの影響を受ける。詳細は

表1:薬物療法の影響

静脈経腸栄養 Vol.26 No.3 2011 33(903)

参考文献1) Clifton GL, Robertson CS, Gross, amm RG et al. The metabolic response to severe head injury. J Neurosurg

60: 687-696, 1984.2) Weekes E,Elia M. Observations on the patterns of 24-hour energy expenditure changes in body composition

and gastric empting in head –injured patients receiving nasogastric tube feedings. JPEN 20: 31-37, 1996.3) Buchholz AC, Pencharz PB. Energy expenditure in chronic spinal cord injury. Curr Opin Clin Nutr Metab

Care. Nov 7(6): 635-9, 2004.4) Bochicchio GV, Bochicchio K, Nehman S, Casey C, Andrew P, Scalea TM. Tolerance and efficacy of enteral

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131, 2004.6) Strand EA, Miller RM, Yorkston KM, Hillel AD. Management of oral-pharyngeal dysphagia in Amyotrophic

Lateral Sclerosis. Dysphagia 11: 129-139, 1996. 7) Desport JC, Preux PM, Magy L, et al. Factors correlated wit hypermetabolism in patients with amyotrophic

lateral sclerosis. Am J Clin Nutr 74: 328-334, 2001.

各論で述べるが、代表的なものとしてドーパミン製剤による嘔気嘔吐や、フェニトインによるビタミンD、Kや葉酸の吸収阻害などがある(表1)。

3.2.慢性神経疾患における栄養サポートの重要性 慢性神経疾患では、さまざまな栄養上の問題が生じる。・栄養障害(低栄養):疾患による運動障害のために、呼

吸筋の筋力低下と肺炎の危険性を高める。また、免疫不全を引き起こし、感染の危険性が高くなる。筋肉の機能 (Ⅱ型線維)と嚥下機能の回復が障害される。

・栄養状態と体重 :ALSにおいてはこれらが重要な生存の予測因子である。

・骨粗しょう症 :慢性ではよくみられ、運動量の減少、加重運動の欠乏、食物摂取量の減少、低栄養によってお

こる。パーキンソン病では骨密度は病状の重症度に相関する。多発性硬化症でもよくみられる。したがって、慢性神経疾患においては、骨密度、カルシウム、ビタミンDを測定する必要がある。

4.まとめ・神経疾患患者は栄養障害の危険にさらされている。原

因としては、嚥下障害、胃腸障害、うつ状態などによる摂食量の低下があり、また薬物療法の影響を受けるためである。

・栄養サポートは急性および慢性の神経疾患患者のケアにおいて、主たる構成要素である。

・エネルギー消費量は変化する。正しい評価には、できれば間接熱量測定がのぞましい。

(三原千惠)

ESPEN-LLLに学ぶ(後編)34(904)

Module 25.2神経疾患患者に対する栄養サポートの適応と倫理的側面 慢性期神経疾患の栄養管理には、外傷など急性疾患の慢性期管理と、神経変性疾患などの徐々に進行する疾患の管理の2つの側面がある。脳血管障害、脊髄損傷、多発性硬化症、てんかん、パーキンソン病など、それぞれの病態に応じた栄養療法の調整が必要である。神経疾患患者では嚥下障害が問題となることが多い。進行した認知症患者に対して経管栄養を導入するかどうかの判断は、家族や医療従事者、そして施設が直面する最も困難な問題である。

1.はじめに 神経疾患患者はしばしば栄養不良状態に陥る。体重過多や肥満を呈する患者も一部にはいるが、多くは主要栄養素の欠乏、または微量栄養素の欠乏による低栄養に陥る。急性頭部外傷や脳血管障害は、直後から栄養状態、代謝状態が変化する。重度の進行性神経変性疾患では、常に食事摂取困難と体重減少に伴う栄養学的リスクが存在する。神経疾患患者の経口摂取困難の原因として最も多いものは、嚥下障害、あるいは進行性の身体機能障害である。嚥下障害の病期を特定するだけでなく、それぞれの臨床状況に合わせた、もっとも適切な栄養サポートを行うことが重要である。進行性の機能障害は、買い物、食事準備、摂食など、栄養摂取に関わる様々な場面で困難を引き起こす。また、嚥下障害、進行性の機能障害はともに、誤嚥のリスクを上昇させる。 現在既に低栄養の、あるいは今後低栄養に陥る危険のある神経疾患患者に対して、栄養サポートを他の治療と組み合わせて行うことは有効である。

2.神経疾患患者に対する栄養サポートの  適応は? 神経疾患患者に対しては、早期に栄養評価を行う必要がある。栄養に関する病歴からは、栄養摂取量、最近の食事摂取パターン、咀嚼能力、嚥下障害の有無などの重要な情報が得られる。栄養状態の悪化に先行して機能障害が出現するため、早い段階で機能障害を認識するこ

とは重要である。また、意図しない体重減少を見逃さず、薬剤 -栄養素の相互作用の可能性を考慮することも、栄養評価の一部である。

3.低栄養のリスクのある神経疾患患者に  対する最も適切な栄養サポートは? エネルギー必要量、タンパク質必要量は、その患者の持つ神経疾患の種類により個別に推定する。痙攣や筋攣縮を伴う疾患の必要エネルギー量は高く、脊髄損傷の患者の必要エネルギー量は予測式で導かれた数値よりも低い。患者の現在の栄養状態、病態生理学的な状況

(呼吸不全、腎不全、薬剤による鎮静)も、考慮しなければならない。頭部外傷の患者の必要エネルギー量評価には、間接熱量測定がゴールドスタンダードである1)。水分や栄養の摂取状況を定期的にモニターし、低栄養の出現や水・電解質異常に留意する。 栄養サポートの目的は現存する低栄養の治療と、今後低栄養に陥る危険のある患者の発症予防の2つである。食形態を変えたり、付加食品を用いたりしても、神経疾患患者の経口摂取量を十分に増やすことは簡単なことではない。十分な栄養を供給し、これ以上の体重減少や低栄養による機能障害を避けるためには、人工的な栄養投与方法が必要になることもある。 神経疾患患者に対して、最も安全で適切な栄養サポートの方法を決定するためには、最初に口腔・嚥下・消化管機能の評価が必要になる。神経疾患患者に栄養サポートを実施する前に、患者、家族やその他の介護者に、いろいろな栄養療法の選択肢と、それぞれの利点とリスクについて説明し、話し合う必要がある。

4.進行期の神経疾患患者に対する経管栄養 進行した認知症患者に対して経管栄養を導入するかどうかの判断は、家族や医療従事者、そして施設が直面する最も困難な問題である。人工的な栄養サポートは、生命予後を延長しなければ生活の質も改善させず、利点よりも負担が大きいことを示唆する報告もある2)3)。

・経鼻胃管 理論的には、経管栄養は認知症患者の栄養学的問題の解決になる。しかし現実は全く異なり、経管栄養は認

静脈経腸栄養 Vol.26 No.3 2011 35(905)

知症患者の栄養状態を改善しないことが、いくつかの研究で明らかになっている。下痢、チューブ閉塞、頻繁な栄養チューブの自己抜去が、認知症患者に対する栄養療法の効果を減弱させる。進行した認知症患者に対して、経口摂取よりも経管栄養のほうが優れているという根拠はなく、誤嚥を防ぎ、褥瘡発生や感染を減らし、身体機能を改善させ、生命予後を延長させるという証拠はない3)。 経管栄養の使用は必須ではないという先駆的な生命倫理研究があり、医学系学会や法廷の大半が人工栄養や補液は医学的ケアの一部であるという意見を表明しているにも関わらず、家族や介護者は肉親を餓死させることは出来ないと懇願する。経管栄養による負担が、それによって得られる利益を上回るということを関係者達に納得してもらうには、繊細な感情面の配慮を行いながら長い時間をかける必要がある。以下に高齢者の経腸栄養に関するESPENガイドラインを示す(表1)4)。

・胃瘻 経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)が最初に開発されて以来、この手技は広く受け入れられ、現在長期の経腸栄養には経鼻胃管よりも胃瘻が好んで選択されている。理論的には、PEGの使用は患者の生活の質を改善させ、誤嚥のリスクを減少させ、褥瘡の頻度を減らし、創傷治癒を促進するはずである。しかし、いくつかの報告は、進行した認知症患者に対するPEG造設の効果に疑問を呈している5)。しかし、進行した認知症患者に対するPEG造設については、これらの否定的な報告と、実際の医療

現場の現状に、大きな隔たりがある6)。 高齢者の経腸栄養に関するESPENガイドラインには、神経疾患による嚥下障害を抱える高齢者に、長期に経腸栄養を実施する場合は、経鼻胃管よりPEGが望ましいが、進行した認知症患者には、必ずしも経管栄養が適切とは限らないと記載されている4)7)。

・重度の認知症患者の経口摂取に関する推奨 重度の認知症では、食事や水分の経口摂取を行う時間を確保し、摂取量を増やし、誤嚥を避けることが目標になる。姿勢や食事形態などを工夫し、利用可能な看護技術を駆使して患者の安楽を保ち、心のこもったケアを行う。

5.倫理的側面 栄養サポートを差し控えたり中止したりする決断に際しては、倫理的原則、法的原則の両方を考慮する必要がある。栄養サポートの開始や中止に関わることになった医療従事者は、患者が意思表示可能であれば、本人から同意を得なければならない。もし患者の意思表示が不可能であれば(神経疾患の患者の多くは、経鼻胃管留置時には、自らの健康管理上の決断を出来ないことが多い)、法的代理人である介護者や家族から同意を得る。患者が同意の意思表示が出来ない場合、医師は患者の利益を最優先に行動しなければならない。患者の生活の質と身体機能に、経管栄養が及ぼす影響は、考慮しなければならない最も重要なアウトカムである8)9)。 もし全ての患者が事前指示書やリビングウィルを持っていれば、理屈の上では、様 な々神経疾患患者に対して、栄養サポートを行うべきかどうかという議論は避けられるだろう10)。事前指示書とは、将来、医学的治療に対する自身の要望を意思表示できなくなった場合、自分が何をして欲しいと望み、何をして欲しくないと考えているかを記した文書である。この文書は、患者がある治療やサービスを希望するかどうかと、希望する場合、その実施期間が指示される。事前指示書があれば、家族間の意見の不一致や、介護者と患者との文化的・宗教的な相違によって引き起こされる諸問題を解決する助けとなる。残念ながら、殆どの患者はリビングウィルを持っておらず、またリビングウィルで意思表示している患者の中でも、経管栄養についての要望を示している患者はごく一部である。

表1 高齢者の経腸栄養に関するESPENガイドライン

臨床状況 推奨

神経疾患による嚥下障害を抱える高齢者には、エネルギーや栄養素を補い、栄養状態を維持し改善させるために、経腸栄養が推奨される。

A

経口摂取または経管栄養は、認知症患者の栄養状態改善につながる。 C

初期・中期の認知症患者では、十分なエネルギーや栄養素を補給し、低栄養を避けるため、経口摂取、ときに経管栄養を考慮する。

C

進行した(終末期の)認知症患者には、経管栄養は推奨しない。 C

神経疾患による嚥下障害を抱える高齢者には、経腸栄養は出来るだけ早く開始するべきである。 C

神経疾患による嚥下障害を抱える高齢者には、通常の食事が安全かつ十分に経口摂取出来るようになるまで、経管栄養は積極的な嚥下リハビリと一緒に実施するべきである。

C

ESPEN-LLLに学ぶ(後編)36(906)

 このような状況下では、医療行為について決定する法的な権利を持った、代理人が選任される。判断を行う者が、治療の選択枝の危険と利点を理解した上で、その価値を考え、積極的に判断に参加するための、決断プログラムが開発されている。決断をするにあたっては、判断者は医療チームから十分な支援を受けることが重要である。決断者は次のような原則に従って判断を行う。(a) 患者が過去に示した希望を尊重する、(b) 患者が意思疎通可能であったら、おそらく選ぶであろうと感じた選択肢を選ぶ、(c) 自分自身の悲しみや、不合理な罪の意識から離れて、患者の利益のみを考える。もし意見の不一致が見られたら、当該施設、あるいは地域の倫理委員会が助言を行う。以下に ASPENの倫理・法的 ガイドラインを示す(表2)11)。

(片多史明)

参考文献1) Raurich JM, Ibanez J. Metabolic rate in severe head trauma. JPEN J Parenter Enteral Nutr.18(6): 521-524,

1994.2) Finucane TE, Christmas C, Travis K. Tube feeding in patients with advanced dementia: a review of the

evidence. Jama. [Review].282(14): 1365-1370, 1999.3) Gillick MR. Rethinking the role of tube feeding in patients with advanced dementia. N Engl J Med.342(3):

206-210, 2000.4) Volkert D, Berner YN, Berry E, et al. ESPEN Guidelines on Enteral Nutrition: Geriatrics. Clin Nutr.

[Consensus Development Conference Practice Guideline].25(2): 330-360, 2006.5) Sanders DS, Carter MJ, D'Silva J, et al. Survival analysis in percutaneous endoscopic gastrostomy feeding:

a worse outcome in patients with dementia. Am J Gastroenterol.95(6): 1472-1475, 2000.6) Shega JW, Hougham GW, Stocking CB, et al. Barriers to limiting the practice of feeding tube placement in

advanced dementia. J Palliat Med. [Research Support, Non-U.S. Gov't].6(6): 885-893, 2003.7) Loser C, Aschl G, Hebuterne X, et al. ESPEN guidelines on artificial enteral nutrition-percutaneous

endoscopic gastrostomy (PEG). Clin Nutr. [Consensus Development Conference Practice Guideline Review].24(5): 848-861, 2005.

8) Planas M, Camilo ME. Artificial nutrition: dilemmas in decision-making. Clin Nutr. [Review].21(4): 355-361, 2002.

9) Cervo FA, Bryan L, Farber S. To PEG or not to PEG: a review of evidence for placing feeding tubes in advanced dementia and the decision-making process. Geriatrics. [Review].61(6): 30-35, 2006.

10) Monteleoni C, Clark E. Using rapid-cycle quality improvement methodology to reduce feeding tubes in patients with advanced dementia: before and after study. Bmj. [Research Support, Non-U.S. Gov't].329(7464): 491-494, 2004.

11) Guidelines for the use of parenteral and enteral nutrition in adult and pediatric patients. JPEN J Parenter Enteral Nutr. [Guideline Practice Guideline].26(1 Suppl): 1SA-138SA, 2002.

表2 ASPENの倫理・法的側面のガイドライン

臨床状況 推奨

法的にも倫理的にも、専門的栄養サポートは医療行為の一つと見なされるべきである。 A

ケア提供者は、専門的栄養サポートの利点と負担に関する最新のエビデンスに精通しているべきである。 C

患者は、リビングウィルもしくは事前指示書を持ち、深刻な事故や重篤な疾患の場合の自身の希望を、家族と相談しておくことを推奨される。

C

成人の患者や、彼らの法的代理人は、専門的栄養サポートを受ける権利も、拒否する権利もある。 A

専門的栄養サポートの利益と負担、実施に必要な手技・手術は、治療開始前に十分考慮しなければならない。 B

施設は、専門的影響サポートの中止、差し控えに関する明確な基準を持つべきであり、これらの基準は患者の自己決定法に沿った形で、患者に伝えるべきである

C

静脈経腸栄養 Vol.26 No.3 2011 37(907)

Module 25.3脳卒中の栄養サポート ここでは脳卒中患者において最も頻繁にみられる栄養不良の理由を学ぶ。栄養サポートに必要なことを決めるためには必要な評価方法がある。経口および経腸栄養それぞれの適応と、各臨床状態に適した栄養ルートについて学び、経腸栄養を受ける脳卒中患者の望ましい転帰を知る。

1.はじめに 脳血管障害(cerebral vascular accident, CVA)には動脈閉塞性病変(血栓と塞栓)と動脈性出血性病変

(脳出血とクモ膜下出血)がある。急性の脳血管障害を脳卒中といい、脳卒中は突然発症する。脳卒中の危険因子(長期間にわたる)には、高血圧、喫煙、心疾患、糖尿病、TIA、運動不足、飲酒、食事、肥満、薬物、ストレスなどがある。加齢とともに脳卒中は増える。 ヨーロッパでは年間110万人が脳卒中を発症し、現在600万人の脳卒中患者が生存している1)。5年の時点で過半数の患者が死亡し2)、脳卒中患者の1/3が5年以内に再発して予後不良となる。

2.脳卒中患者の栄養学的様相2.1.病態 脳卒中に特徴的な栄養学的な状態について述べる。・栄養障害(低栄養)の準備状態:脳卒中患者の8-62%

が入院時にすでに栄養障害をきたしているという3)。・嚥下障害:脳卒中患者の40-60% で、診断時に嚥下障

害を呈している4)。嚥下障害は、誤嚥性肺炎、栄養障害、脱水の原因となる。

・異化亢進:くも膜下出血患者ではエネルギー消費量が亢進していることが多い5)。

・他の要因:食思不振、胃排出障害、感染によって、栄養状態が不良となる。

3.栄養サポート3.1.ルート3.1.1. 経口 栄養療法は嚥下障害のタイプと程度に依存する。経口

栄養療法においては、食形態に注意が必要である。正常の食物からムース状食物まで適切なものを選択し、液体の場合は粘度を調整する。実際には粘度を変えることによって最適な歯ざわりの食物を選択するようにする。とくに、重症の嚥下障害と誤嚥の危険性が高いときには経口摂取は禁忌で、経腸栄養を行う。

3.1.2. 経腸栄養 経鼻胃管がもっともよく利用される栄養ルートで、看護師によって容易に設置できる。レントゲンによるスクリーニングは常に必要なわけではない(日本では厚生労働省が出来るだけレントゲンによる確認をするように指導している)。基本的に経鼻胃管は、患者に対する侵襲が少なく、安価であり、合併症が少ない。ただし、容易に引っ張ったり抜去したりする自己・事故抜去が認められる。患者の58-100%で抜去したという報告がある6)。 経腸栄養が長期間に及ぶ場合は、経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy, PEG)が推奨される。1999年の Cochrane 報告ではPEGによる経腸栄養の方が経鼻胃管より転帰と栄養状態の改善がよかったという7)。 一方、17カ国5033症例を対象とし、2006年に発表された FOOD(Feed or Ordinary Diet) Trial8)では、早期経腸栄養投与群の方が非経腸栄養群より転帰のいいものが多かったが(図1)、驚くべきことに入院後30日における死亡と予後不良の率は、PEG患者の方が経鼻胃管患者より高かったという(図2)。 経腸栄養のルートとして、間欠的経口食道チューブ栄養

(intermittent oral esophageal, IOE)という方法もあり、急性期脳卒中患者に行われる。口からチューブを飲み込むので、意識清明で咽頭反射の弱い患者が対象となる。 最近の米国の報告では、経腸栄養が退院率と運動機能スコアの改善に有意に関連していたという9)10)。 経腸栄養はしばしば在宅医療で施行される。ヨーロッパでは、神経疾患患者は最も重要な在宅経腸栄養の対象グループで全体の44.3%を占める11)。英国では、脳卒中患者は在宅経腸栄養の37%を占めており、それは脳卒中患者の1.7%に相当する12)。

ESPEN-LLLに学ぶ(後編)38(908)

3.1.3.静脈栄養 基本的に脳卒中患者においては、静脈栄養は適応とはならない。もちろん経腸栄養が禁忌や適応できない時は静脈栄養が選択される。その場合でも、必要最低限の期間にのみ選択されるべきである。胃運動障害があるときは、腸へのアクセスがなされるまで待機的に用いられる。

3.2.栄養投与量 脳卒中患者では、栄養投与量に対して特別な配慮は不要である。エネルギーと蛋白質の投与量は通常の維持量に基づいて行う。つまり、一日体重当り20-30 kcal、水分30mL、たんぱく質 1gとする。等浸透圧栄養剤を安全に用い、水分バランスに注意する13)。

図1:経腸栄養使用の有無(FOOD Trial より)

図2:PEGと経鼻胃管(FOOD Trial より)

静脈経腸栄養 Vol.26 No.3 2011 39(909)

3.3.適応3.3.1. 栄養サポートのガイドライン 急性期脳卒中に対するEBMに基づいたガイドラインにそって栄養サポートを行う14)。 ・全脳卒中患者はスクリーニングが必要である :

Subjective Global Assessment(SGA)・血清アルブミン値は予後と反比例するが炎症や希釈に

影響される。・全患者は嚥下障害についてもスクリーニングされるべ

きである。通常は3-oz(90 mL)水飲みテスト(De Pippoの原法)を行う。このテストは臨床的な誤嚥症例を発見する感受性は高いが特異性は低く、より詳細な検討にはバリウムによる嚥下造影検査を必要とする15)。

・栄養障害(低栄養)のある嚥下障害患者には1-2週間以内に経腸栄養を投与することが望ましい。

・ほとんどの患者が脳卒中発症から3ヶ月以内で経口摂取に復帰する(図3)16)。

・嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査によって誤嚥の危険性をモニタリングできる(図4)。

・経管栄養から経口摂取への復帰は栄養士と言語聴覚士などの協力を得ておこなう。

・経腸栄養が長期間におよぶ場合は PEGが推奨されるが、2年後の転帰は PEG挿入のまま死亡、PEG挿入のまま生存、PEG抜去後生存がほぼ1/3ずつとなっている(図5)17)。在宅栄養患者の転帰について、頭頚部癌による嚥下障害、神経疾患による嚥下障害、認知症による摂食障害の3群で比較すると、順に平均年齢が高く、長期生存率が低い傾向がある(表1)18)。

図3:脳卒中後の嚥下障害

図4:嚥下造影検査(video fluorography, VF)

図5:在宅経腸栄養の脳卒中患者における2年後の転帰

表1:在宅経腸栄養の生存率

ESPEN-LLLに学ぶ(後編)40(910)

3.3.2.ESPENのガイドライン 高齢者に対する経腸栄養についてのガイドライン19)では、・重症の神経性嚥下障害を伴う高齢者においては、エネ

ルギーと栄養素を補充するために、また栄養状態を保持あるいは改善するために。経腸栄養が推奨される

(推奨度 A)。・長期間の栄養サポートには、治療による失敗が少なく

栄養状態がよいため、経鼻よりもPEGがのぞましい (推奨度 A)。

・重症の神経学的嚥下障害患者においては、経腸栄養を早急に行うべきである (推奨度 C)。

・経腸栄養は安全かつ十分な経口摂取が開始されるまで、集中的な嚥下訓練と共同して行われるべきである

(推奨度 C)。

3.3.3.推奨される脳卒中患者における栄養サポート 栄養管理方法の選択について図6にチャートを示す。栄養評価を行って栄養障害の有無を見極め、ついで嚥下障害の有無を判定する。栄養障害があるが嚥下障害がなければ栄養の補給を、栄養障害があり嚥下障害もあれば経鼻経腸栄養を投与する。栄養障害はないが嚥下障害がある場合は食形態を柔らかくしてみて、それでも経口摂取がうまくいかなければ経鼻経腸栄養を行う。栄養障害も嚥下障害もなければ経口摂取をはじめる。経鼻経腸栄養の場合、1ヶ月後に嚥下障害の改善がなければPEGを施行し、嚥下障害の改善があれば十分注意して経口摂取を開始する。

4.まとめ・栄養障害(低栄養)準備状態にある患者は、脳卒中にな

ると(主に嚥下障害のため)、栄養障害の危険性が非常

図6:栄養管理方法の選択

静脈経腸栄養 Vol.26 No.3 2011 41(911)

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に高くなる。・栄養障害があれば、死亡率、機能障害、転帰不良の率

が上がる。・栄養障害患者は1週間後には経鼻胃管による経腸栄養、

1ヶ月後には PEGによる経腸栄養が必要である。・栄養障害のない嚥下障害患者は STによる指導や食

形態の工夫が必要である。(三原千惠)

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Module 25.4慢性期神経疾患の栄養管理 ここでは慢性期神経疾患の低栄養の原因を理解し、多発性硬化症、パーキンソン病などの病態に応じた栄養管理の方法を学ぶ。

1.はじめに 慢性期神経疾患の栄養管理には、外傷などの急性疾患の慢性期管理と、神経変性疾患などの徐 に々進行する疾患の慢性期管理の2つの側面がある。慢性期の神経疾患患者は低栄養に陥る危険があり、特に嚥下障害は、栄養評価や栄養療法の実施にあたり、最もよく遭遇する問題点である。

2.慢性期脳血管障害 脳血管障害患者は、急性期の病状が安定化するまで、数日〜数週間入院する。脳血管障害の慢性期において、栄養サポートは良好な回復に寄与し、神経学的後遺症を抱える患者の助けとなる。脳血管障害後のリハビリ後期に焦点を置いた臨床栄養学的な研究はまだまだ少ない。 脳血管障害1ヶ月後の低栄養患者の頻度は高く

(35%)、これには摂食嚥下の障害が関連している。脳血管障害発症6ヶ月後の時点で、40%の患者に食事摂取上の障害があり1)、22%の患者に低栄養が存在する2)。 3.頭部外傷・脊髄損傷 頭部外傷により重度の認知機能・身体機能障害が起きた場合、積極的なリハビリが必要になる。急性期から慢性期・リハビリ期への移行時期に、栄養必要量を見直さなければならない。頭部外傷後の痙性亢進や除皮質肢位、除脳肢位は、栄養必要量の増加と関連している。中枢神経外傷後のエネルギー必要量の変化は、尿中窒素排泄量とは相関しない。進行する除神経と無動のため、筋肉量の低下が起きる。この筋肉性悪液質(muscle cachexia)はリハビリ時間を増加させ、在院日数を延ばし、運動療法や作業療法の実施を妨げ、褥瘡や肺炎、尿路感染症や静脈血栓症などの合併症を増加させる。 すべての中枢神経損傷を持つ患者で、水分平衡を維持することは重要である。水分と塩分の調節機構は、外

傷そのものによっても、治療に使用される薬剤によってもしばしば障害される。発熱は、神経系の損傷、薬剤や感染でよくおこり、脱水のリスクを高めることになる。 栄養サポートを実施していても、脊髄損傷患者の筋肉量は減少する。筋肉量減少に比例して血清クレアチニン値は低下する。脊髄損傷患者の腎機能を、血清クレアチニン値を用いた推算式で推定する場合は、推算式で得た結果よりも実際の腎機能が悪い場合があり、注意が必要である。 脊髄損傷が高位になればなるほど、栄養必要量は減少する。この傾向は、慢性期には特に顕著である。四肢麻痺の患者では、予測式での必要栄養量の算出は、実際に測定された栄養必要量よりも5-32%ほど多くなるという報告がある3)。対麻痺の患者の栄養必要量の推奨は、25 kcal/kg/dayであり、四肢麻痺の患者では23 kcal/kg/day である4)。肥満患者では、体重増加を避けるために、栄養必要量計算にあたっては、現体重や理想体重よりも、補正体重(adjusted body weight)を使用した方が良い。 脊髄損傷患者のリハビリ施設在院日数を予測する因子には、脊髄損傷の高位や損傷範囲に加え、低アルブミン血症や貧血が挙げられる。適正な栄養療法の実施は、合併症発症を減らし、機能的予後を改善させ、在院日数を短縮させる。 脊髄損傷患者では、腸管内容物の移動時間の遅延や、排便反射の消失により、便秘が合併することが多い。便秘の場合は、高残渣の栄養剤使用や、水分投与量の増量など、栄養処方の調整を考慮すべきである。

4.多発性硬化症 多発性硬化症(Multiple Sclerosis; 以下 MSと略)は中枢神経系の自己免疫性神経変性疾患では最も多い疾患である(訳者注 :MSの発症頻度は人種によって異なり、日本では欧米よりも発症頻度は低い)。MSの発症原因は明らかではないが、研究結果によると遺伝、免疫、環境要因の全てが複雑に関連していると推測されている5)。栄養が MSの発症や症状進行に関連するという直接の証拠はない。疫学研究では、MSは飽和脂肪酸を多く摂取する国 で々発症頻度が高く、多価不飽和脂肪酸を多く摂取する国 で々発症頻度が低いことが明らかになっている。しかし、MSの再発率や重症度の改善を目標に、n-6、n-3脂肪酸の比率や、脂肪摂取を調整した介入研究

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では、まだ一定の結論をみていない6)。 MSの患者では、障害の進行に伴い、低栄養に陥る危険も増大する。栄養摂取、栄養状態に影響するMSの症状には、運動能力の低下、易疲労性、振戦、視力低下、嚥下障害、認知機能低下、うつ、褥瘡、薬剤副作用などがある。

5.パーキンソン病 パーキンソン病は、脳内のドパミン欠乏によって引き起こされる慢性の進行性神経変性疾患である。振戦、筋強剛、寡動、姿勢反射障害が主症状である。パーキンソン病患者の低栄養や体重減少は、薬剤副作用(悪心、嘔吐)、嚥下障害、不随意運動、うつ、認知機能低下、自己判断による食べ控え、食事摂取に必要な時間の延長など、様 な々原因で引き起こされる7)。このため、パーキンソン病患者では、定期的な栄養状態評価を行う必要がある。栄養必要量の推算に当たっては、不随意運動によるエネルギー消費量の増大も考慮しなければならない。 アミノ酸は血液脳関門でのレボドパの移送に競合するため、レボドパ服用中の患者に対する低蛋白食は、理論的には、薬剤の取り込みを増やし、患者の動きを改善する可能性があると言われてきた。しかし、蛋白制限は、薬剤内服と関連して重度の運動症状が日内変動している一部の患者でしか効果がない印象があり、また長期にわたる蛋白制限は栄養学的にも推奨できない。徐放性のレ

ボドパ製剤が使用可能になったこともあり、蛋白制限を必要とするパーキンソン病患者はかなり少なくなった。 パーキンソン病治療薬による栄養関連の副作用を表に示す。 その他に、栄養状態に影響を与えることがあり、きちんと対応すべき症状には、以下のものがある。・便秘 胃蠕動低下、自律神経障害、薬剤副作用、運動量減少、食物繊維摂取の減少、水分摂取の減少が関連して便秘となる。必要に応じて、食事調整、運動、薬物療法を行う。・嚥下障害 病期が進行するほど嚥下障害の頻度は高くなり、進行したパーキンソン病患者の50%には嚥下障害がある。食事の性状、飲み物のとろみ、食事の温度などの調整が必要になる。重度の嚥下障害を持つ患者、特に窒息の既往がある患者には、胃瘻造設を考慮する必要がある。・悪心/嘔吐/食欲不振 これらの症状は、しばしば薬剤と関連して起きる。抗パーキンソン病薬を食事や軽食と同時に内服すると、悪心を軽減することが出来る。もし症状が持続する場合は、抗パーキンソン病薬内服前にドンペリドンを内服すると効果的である。・胃内容排泄遅延 胃内容排泄遅延は、早期腹満、食欲減少、悪心、嘔吐、鼓腸、胃食道逆流を引き起こし、薬物吸収を低下させる。少量かつ頻回の食事にすることが対策となる。・起立性低血圧 起立性低血圧のある患者には、食事からの塩分摂取を増やすように助言を行う。それに加えて、患者は可能であれば1日に1.5〜2L程度、水分摂取量を増やさなくてはならない。もし症状が持続する場合は、フルドロコルチゾンなどの薬剤が必要となる。・寡動 患者は食物を切り分けたり、取り分けたりするのに、助けを必要とする場合がある。・不随意運動 不随意運動は食事摂取の妨げとなり、栄養必要量を増大させる。高カロリーの食事や栄養補助食品、そして十分な食事摂取時間が必要となる。自由なつまみ食いは、患者の自立した食事摂取に効果的である。

表 パーキンソン病治療薬の栄養関連副作用薬剤 副作用

レボドパ / カルビドパレボドパ / ベンセラジド

悪心、嘔吐、食欲不振便秘起立性低血圧不随意運動混乱 /精神症状(高用量の場合)

レボドパ/ カルビドパ(徐放剤)ドーパミン受容体刺激薬 ブロモクリプチン ペルゴリド ロピニロール プラミペキソール

通常製剤と同様だが、副作用の頻度は少なく、程度は軽い悪心、嘔吐、食欲不振便秘起立性低血圧不随意運動

アマンタジン 便秘起立性低血圧精神症状

MAO-B 阻害薬 セレギリン

レボドパの副作用の増強重度の不眠消化性潰瘍の増悪

抗コリン薬 ベンズトロピン トリヘキシフェニジル

口渇脱水便秘目のかすみ尿閉混乱

ESPEN-LLLに学ぶ(後編)44(914)

・うつ うつはパーキンソン病患者の40%に発症し、低栄養のリスクとなる。抗うつ薬による治療がしばしば必要となる。・認知機能低下 パーキンソン病患者の30%に認知症が発症する。薬剤誘発性の精神症状は運動機能の維持のために高用量の内服が必要な、進行したパーキンソン病患者に発症する。認知機能が低下した患者は、食事準備、食事摂取の能力が低下するため、低栄養に陥る危険が高くなる。

6.てんかん ケトン体産生食導入による栄養学的な治療介入は、薬剤抵抗性のてんかんの場合に限り行われる。ケトン体産生食は高脂肪(80-90%が脂質)であり、炭水化物はほぼ含まず、しかし成長に必要な十分なタンパク質を含んでいる。食事由来、あるいは体内の脂質がケトン体(β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトン)に変換されることで、生体のエネルギー需要のほとんどは充足される。ケトン体はブドウ糖の替わりのエネルギー源として中枢神経系で利用される。特にアセト酢酸は、神経細胞に利用されることが多い。ケトン体産生食が難治性てんかんの発作予防に有効であるという多くの報告がある8)9)。食事療法による神経保護獲得の仕組みは完全に解明されてはいないが、細胞内のエネルギー産生への影響が重要な役割を果たしているようである。

7.神経筋疾患(筋委縮性側索硬化症) 神経筋疾患患者、特に運動ニューロン疾患の患者には、低栄養は頻発する問題である。神経筋疾患患者にとって、栄養状態は生命予後や合併症発症の独立した予測因子であり、栄養管理は重要な課題である。筋萎縮性側索硬化症(ALS)はこの点では神経変性疾患の典型例であり、運動神経が進行性に脱落し、呼吸筋を含む骨格筋が進行性に萎縮する。 ALSの患者の低栄養は、様 な々要因で起きる10)

・延髄の神経細胞の変性により、咀嚼や食塊送り込みが難しくなり、食事時間が延長し、嚥下障害が起きる。

・食思不振は精神的苦痛、うつ、多剤投与によりしばしば起きる

・腹部や骨盤の筋力低下、身体活動の制限、水分摂取量

の減少、食物繊維摂取量の低下は、便秘を引き起こし、さらに食思不振を悪化させる。

 除脂肪体重の減少にもかかわらず、肺炎やそのほかの要因による呼吸努力の増加により、ALS患者の必要エネルギー量は増加する。低栄養は、骨格筋や呼吸筋の破壊や委縮を悪化させ、免疫能を低下させ、ALSの最も多い死因である感染症を引き起こす。

 ALS患者の栄養管理のポイントは、・栄養補給・嚥下障害の診断と治療・胃瘻造設の時期、安全性、効果 である。 ALS患者のPEG周術期の死亡率は、呼吸機能と強く相関する。アメリカ神経学会のガイドラインでは、患者の努力性肺活量(FVC)が予測値の50%以上残存する時点で、造設を行うべきであると推奨している。しかし、多くのPEG造設がこの基準に合致していないとの報告もあり11)、また非侵襲的陽圧換気を実施しながらの PEG造設や、放射線透視下でのPEG造設が行われた場合、造設時の低肺活量は必ずしも予後の悪化につながらないという報告もいくつかある。病初期の、嚥下障害が顕在化する前から、PEG造設の利点、欠点につき患者と話し合っておいた方が良い。栄養状態の変化、そして意図しない体重減少や嚥下障害の発見は、生活の質を維持するための PEG造設のタイミングの一つの目安となる。この議論はまだ継続中であり、近年ではコクラン共同計画のシステマティックレビューで、ALS患者の経腸栄養には、生命予後を延長する効果はないが、栄養状態や生活の質を改善させるという報告がある。

慢性神経疾患患者の経腸栄養施行上の留意点 慢性神経疾患患者に経腸栄養を実施する場合、いく

つかの点に留意しなければならない。

・意識レベル・胃食道逆流が起きた場合、患者は自らの気道を守

ることができるか・とろみ無しの液体、とろみ付きの液体、柔らかい食

事、硬い食事を嚥下する能力はどうか・口腔内分泌物を誤嚥する危険は高いか?

静脈経腸栄養 Vol.26 No.3 2011 45(915)

・経腸栄養アクセスの利用は、短期間か、長期間か・この患者に対する胃への栄養投与と、空腸への栄

養投与では、予後に差はあるか・栄養療法に関する、患者、家族の希望は ?・患者の現在の栄養必要量はどのくらいか?

 これらのポイントは、慢性神経疾患患者に最も適切な栄養サポート行う上で、また誤嚥・窒息などの最も重大な合併症を回避するうえで重要である。

(片多史明)

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