目次 - amagasaki ·...

37

Upload: others

Post on 22-May-2020

10 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)
Page 2: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

0

目次

ごあいさつ ..................................................................... 1

尼崎市長 稲村和美

基調講演「新しい広場をつくる」 ......................................... 2

劇作家・演出家 平田オリザさん

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に- ...... 16

桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役)

やまぐちくにこさん(NPO法人 淡路島アートセンター事務局長)

本田佳寿美さん・細井ありささん(園田学園女子大学近松人形劇部)

コメンテーター 平田オリザさん(劇作家、演出家)

コーディネーター 上野征洋さん(事業構想大学院大学副学長)

Page 3: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

ごあいさつ

1

ごあいさつ

皆さま、こんにちは。年度末も押し迫って、忙しい時期の開催にな

ってしまいましたが、この文化ビジョンフォーラムにご参加をいただ

き、本当にありがとうございます。のちほどご登壇いただく皆さまも

本当にお忙しい方ばかりで、豪華メンバーでのフォーラムを開催でき

て大変嬉しく思っております。

今日お越しいただいた方に、この内容を周りの方にお伝えいただく

のはもちろんのこと、今日の内容を市内、庁内にしっかりと根づかせ

ていきたいなと思っておりますので、最後までどうぞよろしくお願い

いたします。

そして皆さま、申し上げるまでもなくご存じだと思うのですが、昨年尼崎市は市政 100

周年という、大変大きな歴史的な節目を迎えました。そういった中で改めて学ぶ、わがま

ちの歴史や色々な文化が、非常に花開いた1年だったかなと思っております。そういった

ことをしっかりと、次の世代に引き継いでいき、若い人たちの取組を応援していきたいと

考えております。

行政は人事異動等もございますが、文化というのは色々な人達と一緒に長い時間をかけ

て育まれていくものでございます。そういったことをしっかりと、根が張るまで続けてい

くために、こういった文化ビジョンというかたちでまとめたものを、多くの人たちと共有

していけたらなと思っております。

あとひとつの特徴としましては、いわゆる歴史、芸能だけではなくて、生活文化と申し

ましょうか、尼崎らしさと申しましょうか、そういったことも含めて大事にしていきたい

ということをビジョンの内容に含んでおります。そういう意味でも、市役所というよりは、

多くの皆さんと一緒に、大きく、「わがまち文化」を育てていきたいなと思っているところ

です。

どうぞ皆さま、今日のこのフォーラムがその一助になりますことを、心から祈っており

ますので、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

尼崎市長 稲村和美

Page 4: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

2

Profile Hirata Oriza1962 年東京生まれ。劇作家・演出家・劇団「青年団」

主宰。こまばアゴラ劇場芸術総監督、城崎国際アート

センター芸術監督。戯曲の代表作に、岸田國士戯曲賞

受賞の『東京ノート』、朝日舞台芸術賞グランプリ受

賞の『その河をこえて、五月』、著書に『芸術立国論』

『わかりあえないことから』『下り坂をそろそろと下

る』など。東京藝術大学COI研究推進機構特任教授、

大阪大学COデザイン・センター客員教授。

基調講演「新しい広場をつくる」

劇作家・演出家 平田オリザ 氏

平田 こんにちは、平田です。よろしくお

願いいたします。私はお芝居をつくって皆

さんにお届けするのが一番の仕事ですけれ

ども、ご縁があって、大学ではアートマネ

ジメントといわれる、社会における芸術の

役割とかも教えております。尼崎市は、ピ

ッコロシアターにも毎年教えに来ておりま

すし、伊丹のアイホールというところで毎

年新劇を、その時まさにこのホップインア

ミングに泊まるので、おそらく今日この会

場にいる中で最もこのホテルに泊まってい

る人間なんじゃないか、そのご縁で今日呼

んでいただいたのではないかと思います。

平田オリザ氏の文化活動の紹介

せっかくなので、ちょっとだけスライド

を持ってきました。これは 2002 年の日韓共

催ワールドカップの記念事業でつくりまし

た、『その河をこえて、五月』という作品で、

三田和代さん、ペク・ソンヒ先生という韓

国の人間国宝クラスの俳優さんに出ていた

だきました。日韓両国で大きな賞をいただ

いた作品になります。これは今司会の方に

ご紹介いただいた『東京ノート』という、

世界 13 ヶ国語ぐらいで翻訳されて世界中

で上演していただいている作品の、日韓版

です。この2人、韓国の俳優さん、奥は日

本の俳優さんです。これは同じ『東京ノー

ト』のフランス語版です。これはやはりフ

ランスの地方都市でつくった作品ですけど、

日本とフランスとイランの3か国合同でつ

くった作。彼らはイランの俳優さんです。

海外でこういう仕事をたくさんしてまいり

ました。一方で、大阪大学に8年勤務して

おりましたので、今日は米二さんもいらし

てますけど、皆さん「米朝アンドロイド」

をご覧になったか、あるいはテレビで「マ

ツコロイド」をご覧になったかと思います

けれど、アンドロイドを使った演劇をつく

っています。これがアンドロイドです。こ

ちらはアメリカ人の女優さんです。こうい

ったロボットを使ったものとか。これはオ

ペラですね。これは福島を題材としたオペ

ラで、やっぱりロボットが出てくるのです。

最後は防護服を着てお墓参りに行くところ

で終わるオペラをつくる、そんな仕事をし

てまいりました。一方で、小中学校での授

業、演劇を使ったコミュニケーション教育

の授業もしております。これはピッコロシ

Page 5: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

3

アターさんが主催で、尼崎市内でもやらせ

ていただいたことがありますし、今も年間

で 30 から 40 ぐらいはこういったところで

授業をしております。

社会における文化の役割

今日は、文化政策についての話をするわ

けですけれども、つい先週ですかね、東日

本大震災から6年経ちました。神戸からは

22 年目になりますか。実は先週は熊本に行

ってまいりまして、益城というあの被災の

激しいところ、今年1年目の春を迎えるわ

けですけれども、思った以上にまだまだが

れきが多くて、復興が進んでない、そうい

った町に行ってまいりました。それで今日

は東日本大震災を少し絡めながら、文化と

いうものがどういうふうに社会の中で役割

を果たせるかという話をしていければと思

います。

最初にもってきたのは宮沢賢治の『農民

芸術概論綱要』です。これは宮沢賢治が、

花巻農学校を退職して、羅須地人協会で昼

は農作業、夜は演劇や音楽を楽しんだり、

それからエスペラント語を学んだり、哲学

の議論をしたり。そういう今の協同組合の

ようなものをつくったわけです。社会教育

のはしりといっていいと思うのです。大正

時代は、全国各地で社会教育の萌芽みたい

なものがみられました。その時に宮沢賢治

が、なぜこれからは農民が芸術を楽しまな

くてはならないのかということを、教科書

として書いたのがこの『農民芸術概論綱要』

なんですね。こういうふうに書いています。

「職業芸術家は一度亡びねばならぬ 誰人

もみな芸術家たる感受をなせ 個性の優れ

る方面に於て各々止むなき表現をなせ 然

もめいめいそのときどきの芸術家である」

要するに、これから農民一人一人が芸術家

になんなきゃいけない、という風に宮沢賢

治は言っているわけです。これは 90年前に

書かれた文章です、何でこういうことを宮

沢賢治が言ったのか、ちょっと考えていき

たいと思います。

大学では、この社会における芸術家の役

割ということを授業なんかでも教えるんで

すが、だいたい3つぐらいに分けて考える

といいんじゃないか、と言っています。ひ

とつは、芸術そのものの役割ですね。音楽

によって皆さんがこう慰められたり、何か

絵画を見て心がこう安らかになったり、あ

るいは演劇とかミュージカルを観て勇気を

与えられたり、がんばろうと気力が出てき

たりです。今日ここにいらっしゃっている

方でね、いや自分はそんなこと経験してな

いって方はいないと思って、ここは端折り

ます。東日本大震災の時も、たくさんのア

ーティストが慰問に来ましたね。神戸の時

もたくさん来ました。もちろんそりゃEX

ILEとか、AKBが行けば喜ばれるわけ

ですけども、一番人々の気持ちをなぐさめ

たのは、長年歌い継がれてきた唱歌であっ

たり、あるいはクラシック音楽であったり、

あるいは伝統芸能であったりしたと言われ

ている。一方で、2011 年の3月・4月、東

京を中心にした関東地方では、自粛と呼ば

れる芸術活動・創作活動の停止がみられま

した。しかし、今私たちアーティストが、

作品を作らなくなってしまったら、100 年

後、200 年後の被災者は何によってなぐさ

められるのかということなんですね。

私たちは今、100 年前に書かれた音楽を

聴いて心が安らかになったり、何百年も前

Page 6: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

4

に描かれた絵を見て感動したり、2500 年前

に書かれた演劇を観て人間について考えた

りする。200 年前、300 年前に書かれた近松

とか歌舞伎、人形浄瑠璃を観て、ああ昔か

ら人間っていうのはこういうことで悩んで

たんだなと思ったりする。私たち芸術家の

仕事というのは、未来に向けて、こういう

のを無形の公共財といいますけど、未来の

人々に向けて、その精神活動を支えるよう

な作品をつくっていくというのが私たちの

一つの仕事なわけです。だからずっとこう

途切れずにやっていかなきゃいけないとい

う要素があります。これが芸術そのものの

役割ということですね。

一方で、コミュニティ形成以前の考え方。

これは、どんな未開の集落でも芸能とかお

祭り、ダンスとか、音楽の原型のようなも

のがあるという考え方です。どうもこれは

人類が人類になった、2万年、3万年前ぐ

らいからこういうのがあるんじゃないかと

考えられる。これもちょっと東日本大震災

を例にとりますと、宮城県女川という町が

あります。これが最も被災が厳しくて、ち

っちゃい入り江が入り組んでいる地域なん

で、最大 14m の津波がきました。家屋の7

割が流され、8%の方が亡くなりました。

ここはもう高台に避難するしかないんです

けれども、ちっちゃい集落の集合体なんで

なかなか合意形成ができないわけですね。

この女川は、獅子舞がすごく有名なところ

で、この獅子舞の獅子頭を、全部流されて

しまいました。ただこれの復興は速かった

ですね。募金がたくさん集まりましたし、

この獅子頭自体を送ってきてくださった自

治体もありました。で、ここからが面白い

んですけれども、この3月 11日に津波があ

って、だいたいこの女川の方たち、1か月

2か月は秋田とか、青森とかあるいは東京、

埼玉へ避難してたんです。普段の獅子舞は

だいたいゴールデンウィーク前後にやるん

ですが、できなかったんですね。だいたい

夏から秋にかけて、このお祭りが復活して

いく。面白いのは、この獅子舞が復活した

集落から高台移転の合意形成ができていく。

人間ってのは面白いもんで、経済の話だけ

してても、もっと広い土地でなきゃ嫌だと

か平らでなきゃ嫌だとか海が見えなきゃ嫌

だとかいろいろ言うわけですけれども、何

十年何百年やってきたお祭り1回復活させ

るだけで、「まあいろいろあるけどやっぱり

皆で移るべ」ってなるわけですね。これが

芸術文化の隠された役割。これが失ってみ

て初めてわかるんですね、そういう機能が。

だって合意形成するためにお祭りするわけ

じゃないですよ、私たちはね。でもそれが

無くなると、気持ちがバラバラになる。復

活するとまた合意形成がしやすくなる。そ

ういう目に見えない役割を芸術文化という

のは持ってるんじゃないかということです。

それから社会包摂、これ新しい概念になる

ので、後でちょっと触れたいと思います。

それから、今どきは、やっぱり今日は文

化ビジョン、尼崎市がやる文化ビジョンで

すから、当然これ税金を使うわけで、税金

を使うからにはですね、こういう目に見え

ないものだけではだめで、教育とか観光と

か経済、福祉、医療とか、すぐに役立つ、

はっきり役立つ、数字で表されるものを、

やはりやっていかなきゃいけないというこ

となんですね。今日はちょっと教育とか観

光について話をしたいと思うんですけど。

福祉とか医療って何かっていうと、例えば

Page 7: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

5

今、認知症の予防治療に、演劇をすごく使

っていただいてます。介護の方に演劇のワ

ークショップを受けていただく、あるいは

俳優が介護士になったりするんです。今ま

では、認知症のおばあちゃんがお財布開け

て、「一万円札ない。あんた盗んだんでしょ

う。」みたいに言うと、普通皆さんは、「い

やいや盗んでませんよ。こっちに忘れたん

じゃないの。」と言うでしょ。こういうのは

大脳の中の、新皮質という、論理的なもの

に訴えかけてるんです。認知症の方たちは

ここが弱っちゃってるんです。計算したり

とか記憶したりするところです。ところが

大脳じゃなくてもうひとつ大脳辺縁系とい

う、感情をつかさどる部分、これはもとか

らある部分です、こっちはですね、弱って

ないんですね。弱ってないどころか、脳細

胞っていうのは弱った部分を補う機能があ

って、この大脳辺縁系、感情を司る部分は

活性化してるんじゃないかという考え方が

あるんです。だから認知症のおばあちゃん

とかおじいちゃん、怒りっぽい。怒りっぽ

いけど、喜ぶ力も人一倍あるんだと考える。

だから「いやいや盗んでません、こっちに

あるんじゃないの。」ってこう理性に訴える

んじゃなくって、これ演劇情動療法って最

近こう急速に全国に広まってるんですけれ

ども、俳優がやりますから、介護、一緒に

驚いてあげるんですね。「えっ、無いの?お

ばあちゃん、無いの一万円札、大変だね。」

って、これ俳優ですから、いくらでも演じ

られますから、一緒に探してあげるわけで

す。もう本当に、15 分ぐらい一緒に「無い

ね、無いね」って探す。だんだんおばあち

ゃん疲れてきますね。「無いね、どうしよう。

おばあちゃん大事なもの」って 15 分ぐらい

探して「無いね、じゃあちょっと休もうか。

お茶飲んでもう一回探そう。」ってまあお茶

飲むと、だいたいおばあちゃん忘れちゃう

わけですね。で、どっちにもストレスがた

まらない。これを、今、在宅で介護をして

くださってるご家族の方にもこういうワー

クショップを受けていただいて、ちょっと

こう楽しみながら介護をしていく。少しで

もストレスがこれで軽減されると、これが

非常にいい介護法なんじゃないか。大脳辺

縁系の方はどんどんどんどん活性していき

ますから、すると認知症の方でもですね、

やれることがだんだん増えていって、現実

に仙台のある病院が全面的に導入して、薬

の使用量が半分になった例が出てるんです。

だからはっきりと、目に見える形で福祉や

医療に役立っている、そういうことが出て

る。文化政策というのは基本的に、限られ

た予算の中で、こういったものも、バラン

スよくやっていく。例えば5千人、1万人

の村で、5億円かけてオペラをつくったっ

て怒られるわけですね。しかし日本ほどの

大国ですから、本来は、オペラとか、ダン

スとかどんどんどんどん、まあヨーロッパ

に行けば、尼崎市ぐらいの大きさのまちだ

ったらば、オーケストラを持っていたり、

劇団やダンスカンパニーを持ってるの、普

通ですから。例えば、世界一のダンスカン

パニー、ピナ・バウシュさん、もう亡くな

られましたけどヴッパタールって、人口 30

万人ですからね。尼崎より小さいでしょう。

世界一のダンスカンパニー持ってたりする

わけです。なので、そういうことも本来は

やっていかなきゃいけないですね、創造活

動。それからコミュニティのための活動。

それからすぐに形になるような、これは立

Page 8: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

6

地条件によっていろいろなんですけれども、

こういうこともやっていかなきゃいけない。

これをバランスよくやるのが、文化政策と

いわれるもの。

教育における文化の役割

今日は最初に教育について考えてみたい

んですが。ちょっと文化から話はそれます

けれども、皆さん新聞等でご承知のように、

大学入試改革というのが進んでいます。

2020 年になると、今のセンター試験が廃止

されて、非常に簡単な基礎学力を問うよう

な試験になるわけですね。1点きざみにし

ないって言ってます。AランクBランクC

ランクみたいになって、それで受けられる

大学が決まる。文部科学省は、大学側には

ですね、二次試験は、大学に入ってからの

学びの伸びを計るような試験にしろ。これ

潜在的学習能力という。どれぐらい大学に

入ったら伸びるかを計れ。これまず無茶振

りだと思うんですね。そんなことわかるん

なら高校でやっとけみたいな話なんですけ

ど、こういうこと言うわけです。そこでは

ですね、こういうことを計れと言われてい

ます。まず「思考力・判断力・表現力」、こ

こらへんは今までも言われてきましたね。

最近急に言われ出したのが、「主体性・多様

性・協働性」を問うような試験をしろと言

われている。どんな試験なのか。私、昨日

も行ってたんですけれども、香川県の善通

寺というところに四国学院大学って小っち

ゃな私立大学があります。全学生 300 人。

ここの学長特別補佐というのをしてまして、

地方の私立大学ですから、生き残りをかけ

て昨年度からこの、前倒し実施と言います

けれども新制度入試に取り組んでいる。ど

んな問題を出すかも発表しています。例え

ばレゴで巨大な艦船をつくる。これ、数年

前のオックスフォードで実際に出た問題で

す。これも、ある関西の高校さんに頼まれ

て、まだやってないんですけど、つくろう

としてる授業です。これ体育の先生と社会

科の先生が一緒にやる授業なんですね。「A

KBと、ももクロと、妖怪ウォッチのダン

スを実際に踊ってみて、ビジネスモデルの

違いについて考える」という高校生が受け

る授業です。AKBはですね、皆のアイド

ルなんで、踊りやすいダンスじゃなきゃだ

めなんですね。だから「恋するフォーチュ

ンクッキー」、皆踊ってYouTubeに上

げたでしょ。あれは、広く薄くCDを売っ

ていく商売だから、ああいうビジネスモデ

ル、ああいうダンスなんです。ももクロは、

10 万人のファンクラブを囲い込んで、その

ファンの方達、年齢層が高いんで、そのフ

ァンの方達がライブに来ると、2万円、3

万円のグッズを買って帰る。応援型・育成

型のアイドルなんです。だから応援したく

なるようなダンスじゃなきゃ。だからすご

く大変なんです、踊るの。すごい汗かく。

妖怪ウォッチは、子どもが妖怪ウォッチ買

うわけじゃないですよね。お父さんお母さ

ん、あるいはおじいちゃんおばあちゃんが

買うわけですね。だからおじいちゃんおば

あちゃんから見て、かわいく見えるダンス

じゃなきゃだめなんです。要するにこれど

ういう授業かっていうと、今ダンス大好き

なんですね、高校生。男の子でもよく踊り

ます。その高校生に、君たちは無邪気に踊

ってるけど、そのダンスの実は裏側に大人

の事情があって、ビジネスモデルがあって、

醜い経済の世界が貼りついてるんだよとい

Page 9: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

7

うことを、実感させる授業です。でもこの

授業は、ダンスが好きな子、体育の得意な

子でも、経済・社会に対して関心を持って

もらうひとつのきっかけになる。要するに

文化を入口にして社会に関心を持ってもら

う授業。こういう授業が、今特に東京や大

阪の中高一貫校なんかでずいぶん増えてき

ているということですね。これが今度は大

学の試験問題にもこういう類いの問題が出

てくる時代になってきたということです。

評価のポイントも、もちろんユニークな発

想があったかってことも問うんですけど、

例えばタイムキープを意識し議論をまとめ

ることに貢献したか、地道な作業をいとわ

ずチーム全体に対して献身的な役割を果た

せたか、こういうものも見ていきます。実

際に出した問題、ひとつだけご紹介します。

これ四国の大学なんで、以下の題材でディ

スカッションドラマをつくります。2030 年

に、日本が債務不履行、デフォルト状態、

今のギリシャみたいな状態になって、IM

F(国際通貨基金)の管理下におかれます。

国際通貨基金からは、本四架橋3本通って

ますけど、3本もいらないので、2本廃止

しなさいと。今日淡路島からもおいでにな

ってますが、大変なことになりますね。廃

止になります。さあ、どの2本を廃止しま

すか。兵庫県、岡山県、広島県、徳島県、

香川県、愛媛県の各県代表と、司会1人の

7人1組でディスカッションドラマをつく

りなさい。これ実際に出した問題です。そ

の日に会った 18 歳の7人が、教室に集めら

れて別室に連れていかれると、そこにパソ

コンが2台置いてあります。検索可。これ

全面検索可にした、たぶん日本で初めての

大学入試だったと思いますけども、実際は

増えてきていて、今年お茶の水大学は、英

語入試は図書館で行いました。調べていい。

だんだんこういう試験になってます。要す

るに今時、鎌倉幕府が何年に解消されたと

か覚えておく必要ないですよ。あれもう全

国の中学生が内心ツッコミ入れてると思う

んですよ、試験中に。これ覚えておく必要

あんのかな、検索すりゃいいじゃんって。

この試験は、7人1組なんですけど、パソ

コンが2台しか置いてないんですね。だか

らその場で、誰が検索するかとか、どのタ

イミングで検索するかとか、それからその

出た情報をどう処理するかっていうことが

問われる試験。しかもですね、教員側の採

点欄には、検索の上手い子が、高い点が取

れるようにはなってないんですね。もちろ

んすごく上手ければそれは評価されるんで

すが、それよりも、「ああ、検索うまいね。

じゃあ俺メモとるわ。」って自分の役割をち

ゃんと担えた子が一番評価されるようなシ

ステムなんです。そういう能力をみていく

試験です。さて、こういうものが今後広が

っていくんですけれども、私大阪大学でも

実は、大学院でこの試験作ってきたんです

ね。世界中の入試を調べてきました。面白

いのは、出題者が必ず言うのが、受験の準

備のできない問題を毎年作るのが難しい。

逆に言うと受験指導、進路指導が高校側で

できなくなるんです。今までは、神戸大入

るんだったら英単語 4,000 覚えておけよ、

大阪大学なら 5,000 だぞ、京大なら 6,000

だぞって言われて、無邪気に信じて一生懸

命勉強して、模擬試験受けてA判定B判定

C判定出て。進学校には進路指導のうまい

先生がいて、お前ここ第1志望な、ここ滑

り止めな、ここ記念受験な、みたいに言わ

Page 10: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

8

れて、で受験したわけですけれども。今見

ていただいてわかるように、レゴで巨大な

戦車を作るのにA判定もB判定もないんで

す。要するに1、2年の受験準備では、太

刀打ちできない試験になっている。こうい

うものは小学校のうちからちょっとずつで

もいいから、こういう共同作業とか、パフ

ォーマンスをやってないと、太刀打ちでき

ない試験。こういうものを社会学の世界で

身体的文化資本というふうにいいます。セ

ンスとかマナーとか、あるいはこれ私が付

け加えた概念ですが、例えば人種的偏見が

ない、ジェンダーですね、性別に対する偏

見がない。例えばすごく男尊女卑の家庭で

育って、自分も男子校でそういう偏見を持

っていて、初めてその日7人一組で劇つく

ることになる。すごい活発な女の子がバー

ッて意見を言った時に、「女黙ってろ」って

言ったらその子一発でアウトです。一発で

落ちます。でも今までのペーパー試験だっ

たらそれわからなかった能力です。でも文

科省は、大学に入ってからの学びの能力を

見ろと言ってるんです。これからの大学は

どんどんどんどんディスカッション型の授

業が増えてる。それから留学生もたくさん

増えている。人種偏見や、ジェンダーに対

する偏見を持ってる子は、大学としては困

る。だからそこは見なきゃいけない、とい

うことなんですね。

こういった身体的文化資本は、だいたい

20 歳までに形成されると言われています。

わかりやすく言えば、味覚ですね。子ども

のうちにファストフードみたいな味付けの

濃いものばっかり食べさせると、舌先の味

蕾がつぶれて微妙な味の見分けができなく

なる。この身体的文化資本を培うには、本

物、いいものに触れさせるしかないと考え

られている。それはそうですね、子どもに

おいしいものとまずいもの、安全なものと

危険なもの、両方食べさせて「ほらこっち

がおいしいでしょ」って教える親はいない

です。おいしいもの、安全なものを食べさ

せ続けることによって、まずいもの、危険

なものをペッと吐き出せる能力がつくわけ

ですね。例えば、骨董品の目利きを育てる

時に、これ、いいもの、本物だけを見せ続

けるそうです。そうすると偽物を見抜く能

力ができる。センスだから、理屈で教える

んじゃないんです、子どもだから。子ども

のうちに本当にいいものを、体にしみこま

せる、まさにこれが身体的文化資本です。

体の中にその資本をつくっていく。もしそ

うだとしたら、特に、私たちがやってる演

劇とか、ダンスとか、オペラとか、ミュー

ジカル、あるいは落語とか、こういったパ

フォーミングアート、ライブアート、これ

圧倒的に東京の子が有利なんです。尼崎は

まだピッコロシアターがあったり、近くに

もいろんないい劇場があったりする。もっ

と地方に行ったら本当にこれ、接すること

すらできないですよね。例えば数年前から

東京都港区は、小学校4年生をサントリー

ホールへ全員招待です。港区の子どもにそ

んなことする必要ないだろうって思います

ね、親が皆富裕層ですからね。六本木とか

赤坂とかがある区ですから。でも別に港区

に悪気ないですね。港区にサントリーホー

ルがあって、サントリーホールが地域還元

授業としてやる、立派な授業です。世田谷

区は、「日本語」特区というのをとってて、

国語以外の言語活動というのをやっている。

週に1回それ授業があるんですけど、世田

Page 11: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

9

谷には世田谷パブリックシアターっていう

野村萬斎さんが芸術監督をやってる日本で

一番強い公共ホールがあります。そこに頼

むと、プロのアーティストを無償で派遣し

てくれます。世田谷区内の半分の小学校、

3分の1の小中学校が、プロの狂言師とか

俳優とか噺家さんとか、そういう方たちか

ら指導を受けられます。もっとわかりやす

く言いますと、今、全国に、演劇・アナウ

ンスを本格的に学べる高校が、50あります。

これ3年前の数字で今もっと増えて。しか

しこのうちの6割が東京と神奈川に集中し

ている。東京、神奈川、大阪、兵庫で8割

です。例えば、宝塚北高校ありますね。あ

あいう学校が、東京、神奈川、大阪、兵庫

で8割。要するに、教える人がいなければ、

コースさえ少ない。これだけ文化的格差が

広がっている。

もう一つの問題は、経済の格差ですね。

教育の格差が経済の格差と直結してるって

よく皆さん、新聞とかでお読みになると思

うんですけど、文化の格差はもっと深刻な

んです。なぜなら、教育の格差は、まだ学

校に来てくれれば発見できるんですね。あ

あこの子頭いいのに貧乏で大学いけなくて

かわいそうだなって皆思うし、本当に優秀

なら奨学金とかで支援もできる。でも文化

の格差は、発見すらされない。親が、コン

サートや美術館に行く習慣がなければ、子

どもだけで行くってことは起こらないんで

す。だから、行く家庭と行かない家庭で放

っておくと、公的な支援がなければ、放っ

ておくとどんどんどんどん差が開いていっ

ちゃう。日本は、150 年かけて、教育の地

域間格差のないすばらしい国をつくってき

た。しかし今、この文化の地域間格差と文

化の経済格差のこの両方向で引っ張られて、

子ども一人ひとりの、身体的文化資本の格

差がどんどんどんどん広がっている。しか

もそれが、大学進学や、就職に直結する時

代になってきたってことです。これ解消し

ないと、たぶん東京一極集中解消しないと

思うんです。要するに、これ経済の問題だ

けじゃなく、東京が文化を全部握っちゃっ

てるから若者はそこに引き寄せられていっ

てしまう。だから地域でちゃんと、文化政

策と教育政策を連動させて、すべての子ど

もたちが文化に触れられる、芸術に触れら

れるような政策をしていかないと、最終的

に、東京一人勝ちは解消されないっていう

こと。

ただ、これに気がつき始めた自治体もあ

ります。例えば、岡山県の奈義町、これ鳥

取の県境にある 6,000 人の小さな町です。

ここは、なんと今年度から、公務員の採用

試験に演劇を取り入れました。演劇やらな

いと公務員になれない、すごい時代になっ

ています。ちょっとだけ端折って試験で出

した問題をひとつだけ紹介すると、町長か

ら 2020 年の東京オリンピックで、どこの国

のどこの競技でもいいから、合宿を誘致し

てこいと無茶振りをされます。さあ6人一

組でディスカッションドラマをつくりなさ

い。これは、ディベートではないので、自

分の推す国と競技が勝つことが目的なんじ

ゃないんです。どうすれば全体のパフォー

マンスが上がるかに、どれだけ貢献できる

かが採点の基準になる。だからボケ役とか

も必要なんです。セーリング、海ないだろ

うみたいな、そういう奴も必要なんです。

これ大変なんですね。要するに、試験なの

に自分の能力だけを見せつけて合格できな

Page 12: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

10

い。さっき言ったように、リーダーシップ

だけじゃなく、フォロワーシップも必要。

なんでこういう試験にしたかと言うと、奈

義町の役場、公務員が 80人しかいないんで

す。80人のちっちゃな役場ですから、どん

なに優秀でも雪が降ったら雪かきもしなき

ゃいけないし、認知症のおばあちゃん担い

で病院にも連れて行かなきゃいけない。い

ろんな役割が担えないと、80 人のちっさな

町の、町役場の公務員なんて勤まらないん

です。だからこの試験は、能力をみる試験

から、働く仲間を選ぶ試験に変えていこう

というふうに提言をしました。実際これ試

験官に若い女性の職員に入ってもらうんで

すね。管理職だけで選ぶと、自分の言うこ

とをきくような奴しか選ばなくなっちゃう。

働く仲間を選ぶ試験に変えるということに

しました。ただ、この奈義町は、これだけ

ではなくって、この 10 年程の間、非常にき

めこまかい子育て支援と教育改革を行って、

合計特殊出生率 2.81 と日本一の町になり

ます。2.81、2点台後半というのはもう、

沖縄の離島ぐらいしかない、驚異の数字で

す。これは、お隣が津山市なんですけど、

津山に働いてる若い夫婦が、子どもが生ま

れたり家を建てるということを考えたりし

た時に、私達東京とか関西圏の人間は、職

場があったらその沿線に住みますよね。と

ころが岡山の県北だったら完全な自動車社

会なんで、津山で働いてたらその周辺車で

30分圏内ならどこに住んでも同じなんです

ね。車で移動します。当然若い夫婦は子育

てと教育に充実した、そして広い意味での

文化ですね、食の安全とかスポーツとか、

そういう施策がしっかりしている自治体を

選んで住むようになってる。自治体それで

もう人口がどんどん変わる時代になってる。

だから文化政策と教育政策をきちんとやら

ないと、自治体自体が消滅してしまう、そ

ういう時代になってきたっていうこと、実

際にその数字が出てきているということな

んですね。ただ奈義町は、それだけではな

くて子ども歌舞伎、それから農村歌舞伎を

ずっと守ってきました。今子ども達は、小

学校3年生は全員参加です。小学校で、授

業の中で歌舞伎をやります。それから、80

人の町役場なんですが2人歌舞伎専門官と

いうのがいて、この人は普段公民館の貸出

業務やってるんですけど、歌舞伎のシーズ

ンになると歌舞伎だけやってればいいって

ことになってて、その2人がずっと歌舞伎

教室っていうのやるので、幼稚園、保育園

から中学3年まで奈義の子ども達は無償で

歌舞伎の授業が受けられます、希望すれば。

面白いのは、この子達、例えばスポーツ少

年団とかで車に乗って遠征とか行きますね。

そうすると子ども達が車に飽きてくると、

しりとりとかやるじゃないですか、普通は。

奈義の子達は、一人が歌舞伎の台詞言い出

すと皆唱和するんです。「白浪五人男」とか

皆普通に言えるんです。どんだけ文化資本

蓄積してるんだってことですよね。先程、

鎌倉幕府が何年に解消されたか覚えとく必

要ないって言いましたけど、要するに、こ

れからは皆が覚えてることをたくさん覚え

てる子よりも、皆が知らないことをなぜか

知ってる子の方が評価される時代。だから

歌舞伎の台詞が言えるとか、近松に詳しい

とか、百人一首全部知ってるとか、そうい

う子達の方が評価される時代になってくる

ってことなんですね。これ本当に本格的な

歌舞伎で、もう今大人気で入れないんです

Page 13: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

11

ね。それから、なぜかこれ 6,000 人の町な

んですけれども、磯崎新建築の現代美術館

持ってて、この庭先で保育園児達、遊んで

るんですね。これ図書館です、これも磯崎

さん建築のすばらしい図書館。もちろん自

衛隊があって、ちょっと財政が豊かだって

いうのもあるんですけど、でも同じ財政豊

かでもつまんないことで変な建物建てちゃ

ったりする自治体たくさんあった中で、非

常にこう地道にいいもの、質の高いものに

お金を使ってきて今のこの特殊出生率 2.81

を実現してる。今、自然とアートのまちづ

くりということでどんどんどんどんIター

ン・Jターン者が入ってきてるということ

なんですね。

文化による社会包摂

これが、教育における文化の役割、ある

いは教育と文化を連動させてまちをつくっ

ていく時代になってきたということ。それ

以外にちょっといくつか触れたいと思うん

ですけども、ひとつは社会包摂ですね。あ

の、今日はこれ時間がないので端折って説

明をしますが、多くのヨーロッパの都市が、

文化による都市の再生というのにこの数十

年取り組んできました。いろんな政策があ

るんですけど、一番大事なことは、アート

スペースとかをつくった時に、さまざまな

人が社会参加できる場所にしていくってい

うことです。ちょっと特殊と言っていいか

どうかわからない、象徴的な例が、ヨーロ

ッパの多くの施設で行われているホームレ

スプロジェクトといいます。ホームレスの

方に、一ヶ月に1回ぐらいシャワーを浴び

てもらって、バザーで集めた服に着替えて

もらって、コンサートとか美術展に招待す

る。ホームレスの方は生まれつきホームレ

スではないので、何かの精神的な理由でド

ロップアウトしてしまったわけですから、

アートとかスポーツとかに触れてもらうこ

とで生きる気力を回復し、労働意欲を取り

戻してもらえる、これものすごく安上がり

なホームレス対策なんです。炊き出しだけ

しても、命は救えるけれども、精神的なと

ころを回復しないと抜本的な回復にならな

い、そういうものにアートを使っていく考

え。今実際、西成なんかでは大阪市立大学

さんとか非常にこう、いい仕事をたくさん

なさって、日本でもこういうことが始まっ

てきてます。ただ、このホームレスプロジ

ェクトはちょっと皆さんには遠いイメージ

かもしれませんが、例えばこういう話があ

ります。私は東京生まれの東京育ちで、東

京で「こまばアゴラ劇場」という小さな劇

場を経営してるんですけど、ここは8年程

前から失業保険受給者、雇用保険受給者に

対して大幅な割引をやっています。これヨ

ーロッパの美術館や劇場では普通にやって

ることなんですね。一般料金があって、学

割があって、高齢者割引があって、障害者

割引がある。日本ではここまで普通にあり

ます。必ずヨーロッパではこの下に失業者

割引があるんです。日本は逆の施策してき

たんですね。失業してる方が、昼間に劇場

や映画館に来たら、求職活動を怠っている

という失業保険切っちゃうような施策をす

る。それも昔だったら理由があったんだと

思うんです。高度経済成長の時代だったら

ば、半年も頑張れば、確実に皆が職を得る

ことができた。だからそれは就職できない

のは自己責任だと言えたと思う。しかし今

問題なのは、自分にあった仕事がなかなか

Page 14: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

12

見つからないってことですね。皆、失業し

た方だって真面目だから日本人は、ハロー

ワークに行くわけですよね。一生懸命探す

んだけどなかなか自分にあった仕事がない。

そうすると特に中高年の製造業なんかにず

っと長くいた方は、もう自分が社会に必要

とされてないんじゃないかと思ってしまう

らしいんですね。要するにこれも精神の問

題。精神的に追い詰められてしまう。世間

の目も厳しい、あそこのおじさん、会社行

ってないらしい。で、どんどんどんどん引

きこもってしまう。今日本社会が抱える大

きな問題の一つは、中高年の男性の引きこ

もり、そして孤独死、孤立死ですね。孤独

死、孤立死というのは、社会全体にとって

も大きなリスクとコストなんです。部屋の

臭いはひどいわ、周りの人のショックも大

きいわ。その部屋は誰も住まなくなります

し、周りの人もどんどん引っ越していっち

ゃうわけです。そうすると、勝ち組である

はずの不動産所有者にとっても、これ個人

では負えないようなリスクとコストになる。

だから私達ちょっと考え方変えていかなき

ゃいけないと思うんですね。失業した方が、

平日の昼間に映画館や劇場に来てくれたら、

「ああ失業してるのに劇場に来てくれた、

ありがとう」「社会と繋がっていてくれてあ

りがとう」。その方が最終的に、社会も行政

もコストが軽減されるからです。一回犯罪

起こされたりとか、孤独死、孤立死された

りすると後がすごく大変なコストになって

しまう。あるいは生活保護世帯も同じです。

生活保護世帯の方が、昼間に劇場や映画館

に来てくれる、ああ生活大変なのに劇場に

来てくれてありがとう、社会と繋がってい

てくれてありがとう。孤立死させるってこ

とが一番危険なんです。日本は、強い地縁・

血縁型社会でした。しかしこれは戦後崩れ

ていくわけですね。それに取って代わった

のが企業社会です。皆、社宅に住み、社員

旅行を楽しみ、企業年金に守られ。しかし

90年代以降、企業がグローバル化する中で、

企業は労働者を守る必要がまったくなくな

ってしまいます。で、ふっと振り返ると、

地縁・血縁型社会もない。これが、一時、

流行語にもなった無縁社会の正体。要する

に現代社会っていうのは人間があっけなく

孤立してしまう社会ということ。特に日本

は、宗教がないので、先進国の中でも最も

人間が孤立しやすい社会。ヨーロッパでは、

教会が最後のセーフティネットなんです。

でもそれもないので、駆け込み寺がないの

で、あっけなく人間が孤立してしまうとい

うことです。繰り返しますと、孤立させて

しまうと非常に社会のリスクになるという

ことです。だからどうにかして繋ぎとめて

いく。この繋ぎとめておくのに文化の役割

というのは非常に大きいんじゃないか。

これ子どもも同じなんです。例えば、今

尼崎でもそういう活動が始まったと先程市

の職員さんからも伺ったんですけど、私が

よく仕事するパリの郊外のジュヌヴィリエ

という国立演劇センター、普通の劇場です。

下にカフェがあります。向こうの劇場さん

は、カフェがある。そこはマッキントッシ

ュのコンピューター10台ぐらい置いてある

んですね。カフェですけど別に注文しなく

ても入れるんです、公共施設です。そこに

夕方の3時ぐらいになると、近所の子ども

達が集まってくる。要するに家でパソコン

が買えない世帯の子ども達。ずっとマンガ

を読んだり、エッチなサイトを見たりして

Page 15: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

13

いるんです。でもそれでもいいんです。な

ぜなら劇場から一歩外に出たら青少年犯罪

や薬物汚染が待ってるんです。だから本当

にもう文字通り、劇場に来てくれてありが

とう。劇場に来ることに慣れてきたら、ち

ょっとヒップホップのワークショップがあ

るんだけどやってみないというふうに社会

参加を促していく。要するに居場所をつく

ってそれから出番をつくる。これが居場所

と出番という考え方。その居場所と出番の

拠点に、この文化施設がなっていくという

ことですね。これが文化による社会包摂と

いう考え方です。

文化施策の成功例

さあ、最後に、成功例を紹介します。こ

れ八戸の「はっち」です。これ中心市街地

が非常に寂れてたんですね。それの活性化

の切り札としてこういう施設を作りました。

ここは広場で、普段昼間は高校生が実習と

かしてるだけなんですけど、まあこの広場

以外はですね、ちっちゃなスペースの集合

体です。この部屋よりもちっちゃい、100

人ぐらいのスタジオが一番大きくて、15ぐ

らいのワークショップスペースだけで成り

立っている。要するに、もう大きな箱物は

いらないので、こういうちっちゃな、ここ

は文化のドンキホーテって呼んでるんです

けど、本当にワークショップスペースだけ

でできてるんです。ここは年間 400 のワー

クショップが行われている。200 は市の運

営、200 はNPOがやってるものを市が支

援しています。これ子育て施設とかもつい

てるんです。年間 400 のワークショップが

あって、最初の1年目で 888,888 人ちょう

ど来たというふうに本人達は言い張ってい

ます。まあこれウソの数字だと思います。

八戸ではっちだからってそんな、ちょうど

こんなふうにならないだろうって。でも現

実に、その劇場の前の通行量は倍増です。

中心市街地全体でも 30%増、そして1年で

23 の空き店舗が埋まりました。3年間で、

50 の空き店舗が埋まりました。これ最も成

功した文化施設のひとつと言われています。

もちろん、米二師匠も行かれている繁昌亭

も、日本有数の成功した文化施設のひとつ

と言われているわけですけど、要するにこ

の、まちを活気づける。それは、ただ単に

集客とかだけではなくて、まち全体の原点

になる。それがだいたい最近の、成功した

文化施設の例というふうに考えられる。

ちょっと最後に急いで、富良野です。北

海道の富良野、皆さんご存知ですよね。ス

キーとラベンダー畑で今、北海道一の観光

地になっています。ただこれもともと観光

地だったわけじゃないんですね。ラベンダ

ーって香水の原料だったんですが、これが

人工香料に変わる過程でどんどんつぶされ

ていきます。これを富田さんって変わった

農家が一面だけ残して、これがディスカバ

ージャパンのキャンペーンポスターに、そ

っから徐々に富良野ブームになる。そして

「北の国から」の放送が始まって一挙に富

良野ブームが広がる。でもそれだけだった

らば一過性のブームで終わったと思うんで

すけど、富良野は、ラベンダー摘み体験と

か、香水工場の見学とか、いろんな小さな

観光アイテムを用意することで、ものすご

くうまく第1次産業を第3次産業に転換し

ていく。私、縁があって富良野のほう、こ

の 15年程毎年呼んでいただいて、富良野市

内の全部の小中学校で授業しています。今

Page 16: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

14

は、その倉本聰さんの富良野塾の卒業生た

ちで1割ぐらいがそこに残っているので、

彼らが引き継いでくれて、富良野では、全

小中学校で今演劇教育を行っています。実

は、尼崎市と同じ兵庫県の豊岡市でも、こ

の4月から演劇教育全校実施、39 校の小中

学校で全校実施をします。そういうところ

が実際に出てきている。先程の奈義町もそ

うです。富良野が面白いのは、15 人ぐらい

の中学校とかあるんですね。そういうとこ

ろ行って授業すると、15人の子ども達なの

に 30人ぐらい見学が来る。お母さんだけじ

ゃなくって、お父さんも農作業休んで見に

来る。それは、自分達は農家だし、自分の

子どもにも農業継いでもらいたいけれども、

これからの日本の農業は、高価格高品質、

価格で勝負する必要はない。だから消費者

のニーズを汲み取る柔軟性とか、何を作っ

ていくかって発想とか、どう売っていくか

っていうコミュニケーション能力や表現力

が、農家ほど必要なんだ。農業こそが、ク

リエイティブ産業なんだっていう感覚を、

自分たちの成功体験から持っている。非常

に関心が高い、そういうまちなんです。富

良野は、富良野高校に、数年前に道内初の

演劇コースをつくりました。もちろん富良

野高校の中に演劇コースつくるわけですが

これプロを養成するコースではありません。

そうじゃなく 30 年後、50 年後も、観光と

農業のまち富良野を持続するための表現力

豊かな子どもをつくろうというのが、富良

野高校演劇コースの目的。覚悟決めてるっ

ていうことですね。

文化の自己決定能力

最後に、お隣のこれ芦別。これ芦別の悪

口を言うため、関係の方がいたら大変申し

訳ないです。これ大観音です。こちら五重

塔です。これ中身ホテルです、鉄筋コンク

リート。この隣に三十三間堂を模したホテ

ルがもう一個あります。それからこの横に、

第三セクターで破たんしたカナダ村が広が

ってます。こっち側は北の京リゾート開発

とか北の都リゾート開発。京都の隣カナダ

なんです。でこれ真冬に僕連れてってもら

ったんです、地元の方にちょっと見てくだ

さいって。もう人っ子一人通ってない、も

う地獄絵図のようです。何だかよくわから

ない、風景が。何のために作られたのか。

この山の向こう、富良野です。富良野には

こんな醜悪な建物ひとつもありません。富

良野の隣に今お花畑で富良野以上に人気の

ある美瑛町が、景観を守るために、高規格

道路、要するに高速道路の延伸を拒んでい

る。もう便利でなくていい。うちは景観で

世界と勝負するんだから、高速道路こなく

ていい。なんでこうなっちゃったんでしょ

う。要するに、自分たちの文化は何で、自

分たちの誇りとするものは何で、そこにど

んな付加価値をつければ他所からも人が来

てくれるかを、自分達が判断できなければ、

あっけなく東京資本、グローバル資本に収

奪されていってしまう。これを僕は文化の

自己決定能力という。自分達で価値を決め

られるかってことです。では文化の自己決

定能力はどっから来るんでしょう。最初の

話に戻ります。身体的文化資本です。要す

るに、このゴッホ 50億円です、ありがたい

でしょうっていって買っちゃうのか。え、

この現代アート今なら 5,000 万なの、いい

じゃんって自分で選んで買って、センスの

ある現代美術館を建てて、どうやって見せ

Page 17: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

基調講演「新しい広場をつくる」

15

るか工夫して、観光に結びつける。これ金

沢 21世紀美術館ですよね。年間 200 万人の

集客がある。どっちがかっこいいですか。

広告代理店丸投げにしたり、東京資本のデ

ベロッパーに丸投げにしてまちづくりを頼

むのか、自分達で判断するのか。でもどう

やって自分達で判断するんですか。それは

センスを磨かない限り、できないじゃない

ですか。だからこそ、これからのまちづく

りは、子ども達にそういうセンスを磨く教

育から始まるんだと。まさに今回のこの文

化ビジョンというのは、そういった目的、

そういった趣旨でつくられたんではないか

というふうに僕は考えます。そのことはこ

の後のシンポジウムでまとめられるんじゃ

ないかと思いますけども、さてそう考える

となぜ宮沢賢治がこういうふうに言ったか、

わかりますね。宮沢賢治はこういうふうに

も言っています。「曾つてわれらの師父たち

は乏しいながら可成楽しく生きてゐた そ

こには芸術も宗教もあった いまわれらに

はただ労働が 生存があるばかりである

宗教は疲れて近代科学に置換され然も科学

は冷く暗い」。宮沢賢治は、当時最先端の農

業技術を、岩手の子ども達に教えることで、

岩手の農民たちを飢餓貧困から救おうとし

ます。でもある時気がついたんだと思いま

す。これだけじゃだめだと。要するに当時

米は、商品作物でしたから作れば作るほど

値段が下がる。もちろん作らなければ貧困

が待っている。進むも地獄、退くも地獄で

す。だとしたらば自分達で何を作り、どう

売っていくかを自分達が決定権を持たない

限り、岩手の農民達は貧困から救われない

ということに宮沢賢治は気づいたんだと。

そのためには、芸術家的なセンスが、農家

ほど必要なのだということに宮沢賢治は気

づき、羅須地人協会を作ったんではないか

と、僕は考える。この文化的な自立、これ

をぜひ、尼崎の子ども達・若者達に身につ

けさせていただきたい。そのための文化ビ

ジョンであり、そのための行政だというふ

うに思っております。

相当駆け足になりましたけど時間になり

ました。いったんここで、私の話を終わり

にしたいと思います。どうもありがとうご

ざいました。

Page 18: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

16

パネラー

桂米二さん

1976 年、桂米朝に入門。桂米朝一門によ

る尼崎落語勉強会の世話役を米朝氏から

引き継ぎ、若手の勉強の場として尼崎市総

合文化センターで落語会を隔月開催して

いる。上方落語の正統派と言われる。

パネラー

やまぐちくにこさん

2005 年、NPO 法人淡路島アートセンタ

ー設立。「淡路島を耕す女」として、ア

ートイベントを企画運営し、新たな価値

の創造に奮闘する。2012 年、「淡路はた

らくカタチ研究島」発起、2016 年「ハ

タラボ島協働組合」始動。

パネラー

【園田学園女子大学近松人形劇部】

本田佳寿美さん 細井ありささん

近松門左衛門ゆかりの地で活動していた

近松応援団の活動を引き継ぎ、2014 年に

園田学園女子大学で設立された学生団体。

近松作品をもとにした人形劇の上演や研

究に取り組む。地域に「近松の輪」が生ま

れることを目指している。

コーディネーター

上野征洋さん

事業構想大学院大学副学長。静岡文化芸

術大学名誉教授。日本広報学会副会長。

専門は社会情報学、文化社会学。主要著

作に「文化政策を学ぶ人のために」「文化

行政」など。尼崎市文化ビジョン会議で

コメンテーター 平田オリザさん

パネルディスカッション「つなぎ、育て、生み出すために」

―誰もが文化の担い手に―

Page 19: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

17

上野 はい、どうも皆さん、こんにちは。

今、平田オリザさん、とっても素敵なお話

で、最後のまとめは、文化の自己決定能力

というお話でした。何か難しそうだなと思

われた方もいらっしゃるかもしれませんが、

これは私達一人一人が考えることなんです

ね。それで今日これから、平田先生にもお

残りいただきましたので、これから1時間

ちょっと、今いただいたお話と、今日のテ

ーマであります、尼崎市の文化ビジョンに

ついて少し意見交換をさせていただきたい

と思います。

では初めに、司会を務めます私ですが、

もともとは 20年近く前ですが、静岡に文化

芸術大学ができまして、そこの責任者をや

っておりました。その時に文化政策という

ものをですね、研究しろと申し付けられま

して、文化社会学でいろんな本を書いとり

ました。実を言いますと、文化というのは

今、平田さんのお話にありましたように、

一人一人に本来備わっているものでありま

すし、また市長さんがさっきおっしゃって

いました、文化やら生活文化やら、文化っ

てとっても幅の広いことだと。私がやって

おりましたのは、そういった文化活動とか、

文化のいろんな現象に、これはどういうこ

となんかなと意味づけ、早い話が屁理屈を

つけることです。ですから、これはきっと

こうに違いないといった、整理をするのが

仕事でした。先程お話しいただいた平田さ

んや、後程お話しいただく桂米二師匠のよ

うに、文化の表舞台で実際に演劇をされた

り、語りをされたりってことではなく、ど

ちらかというと私は裏方でやってまいりま

した。文化の裏街道を歩いてきたものです

から、今日のお話はとても興味深いんです。

今日お手元に、二つ折りのパンフレットが

あります。実はこれが今日のメインテーマ

でございまして、「AMAGASAKI C

ULTURE VISION」と書いてご

ざいます。これを、先程市長さんがお話に

触れておられましたけども、昨年尼崎市は

100 周年ということで、さまざまな研究活

動、あるいは新しい尼崎市をどんなふうに

考えていこうか。もちろんこれは、主役は

市民の皆さんです。市民の皆さんを中心に

尼崎市をどんなふうに、豊かなまちにして

いこうかというところからスタートしてお

ります。この中に、「本市が目指す姿」と書

いておりまして、3つ書いてございますね、

「文化の担い手が活躍しているまち」「文化

資本が次世代に継承されているまち」「市民

の地域への愛着が高まっているまち」、こう

いうまちにしたいなあというのが、この文

化ビジョンの目指すところであります。そ

の「本市の取組の柱」が3つございます。

「若い人の夢とチャレンジを応援する」「育

まれてきた歴史・伝統・文化を継承・発展

させる」「市民の芸術体験を支える」。これ

を、市の取組として書いてあるわけですが、

といっても市役所がやるわけではなくて、

市民の皆さん一人一人に、こういったこと

に参加していただこうというのが趣旨であ

ります。このような文化ビジョンをつくる

にあたりましては、昨年の7月に、文化ビ

ジョン検討のための会議ができ、約半年ち

ょっと、12月まで会議をずっと続けました。

その会議には、全部で9人の方がいらっし

ゃいました。ほとんどが尼崎市在住の方で

すが、今日ここへご参加いただいたやまぐ

ちさんは淡路島から参加していただきまし

た。その他、総合文化センターや、あるい

Page 20: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

18

はピッコロシアターで、責任ある仕事をし

ていただいている皆さんにも参加していた

だいて、9人の方(※末尾に委員名簿を掲

載)のいろんな意見交換の末、まとまった

ものがお手元にあります文化ビジョンです。

ですから本日は、この文化ビジョンのお披

露目でもありますし、今お話をいただいた

平田さんからご提案のあった、文化の自己

決定能力なども含めて、私達の尼崎市文化

ビジョンをどう発展していくのか、どう実

現していくのか、それを、一緒に考えてい

ただきたいというのが、今日のこのフォー

ラムの趣旨でございます。ですから是非、

趣旨をご理解いただきまして、この本市の

取組の柱に沿って、今日ご出席の皆さんか

らそれぞれお話を伺っていきたいなと思っ

ております。進め方としましては、まず初

めに平田さんにお話しいただきましたので、

それに対するご感想やご意見をお一方ずつ、

一言ずついただいて、その後、少しこのテ

ーマに沿った意見交換をさせていただきま

す。

それでは本題に入ってまいります。まず、

米二師匠にお伺いします。今、平田さんの

お話を聞いていただきましたけど、自己紹

介を兼ねて、一言ご感想をよろしくお願い

します。

桂 はい、桂米二でございます、よろしく

お願いいたします。うちの師匠、2年前に

亡くなりました桂米朝の弟子でございまし

て、40年前に3年間だけ尼崎に住んでおり

ました。古い話ですけど。今、平田さんの

お話を聞きまして、実は私、京都府の仕事

で、小学生に落語を教えてるんですね。こ

の次の年度も2校に、これ 11回ぐらい行っ

て、教えて、やらしてるんですね。これね、

一番喜んでるの先生なんですね。子どもが

こんなに一生懸命やってるっていう姿に感

激して喜んではるんですが、そういうとこ

ろも含めて、何かそういうこと私もお手伝

いできたらいいなとは思っております。今

日はよろしくお願いいたします。

上野 はい、ありがとうございます。さっ

きの平田さんから奈義町の話で、奈義町で

は小学生が歌舞伎のくだりがサーッと言え

るそうですけれど、どうですか、尼崎の子

ども達は言えそうですか、落語のいいくだ

りを。

桂 あのね、落語はね、一人でやりますか

ら、人数に限りがあるんですね。今もね、

僕言うたら、全校生 15 人ぐらいのところに

2校教えに行ってるんですね。20 人ぐらい

までやったら教えられるんですけどもね、

100 人、200 人の学校はちょっと無理かな。

ただ聞かせることはできるんでね。私いつ

も思うのは、生の芸に触れてもらいたいと

よく思います。

上野 そうですね。はい、ありがとうござ

います。これからそういう子ども達が増え

るのを楽しみにしたい。やまぐちさんには

この文化ビジョン会議にも参加いただきま

したけど、どうぞ一言お願いします。

やまぐち 淡路島からまいりました、やま

ぐちくにこといいます。私は生まれも育ち

も淡路島で、今も淡路島に暮らしてるんで

すけれども、自分のまちが大嫌いで、淡路

島が大嫌いで、でも暮さなきゃいけないっ

Page 21: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

19

ていうことから、アートというものに出会

って、気持ちが楽しくなるようなというこ

とを続けてやっていくと、あらあら知らな

い間に十数年というふうにやっています。

今日平田さんのお話伺って、感想なんです

が、少し前に始めたきっかけに補助金を受

けるということがあって、その 100 万円を

いただく時に、100 万円で何か事業をする

よりも、一人 100 円で一万人集めた方がい

いんじゃないかと言われて、そのもやもや

がずっと残って、今の活動にも繋がってる

んですが、今日お話聞いて、まだ言葉には

ならないけれども、なんせたくさんのヒン

トをいただいたし、自分でもちゃんと言葉

を作って伝えていけたらなというふうに思

いました。どうもありがとうございます。

上野 はい、ありがとうございます。100

万円については、やはり 100 円を一万人か

らもらう方が素敵ですよね。次に本田さん

と細井さんに一言ずつお願いします。近松

応援団から、いまや園田学園で伝統文化の

継承に取り組んでおられるお二人です。ど

うぞ。

本田 園田学園女子大学 人間教育学部児

童教育学科で、将来幼稚園の先生を目指し

ております、本田佳寿美と申します。今、

近松人形劇部で部長を務めさせていただい

てるんですけど、応援団の方から引き継ぎ

まして、先程平田オリザさんのお話を聞い

て、ちょうど私達継承した側の人間という

ことで本日のお話をいただいて、いろいろ

考えさせられるものがあるなと思ってお話

を聞いていました。本日はよろしくお願い

いたします。

細井 同じく、園田学園女子大学 人間教

育学部児童教育学科の細井ありさと申しま

す。将来は、小学校の先生を目指していま

す。本日は、平田オリザさんの話を聞かせ

ていただいたんですけれども、私は神戸市

出身で、神戸新聞に平田オリザさんが載っ

ていたのを見たので嬉しく思っています。

実際に見れて、すごい嬉しいですね。今日

はよろしくお願いします。

上野 はい、ありがとうございました。そ

れでは、実際に見れて嬉しかったと言われ

た方から一言だけいただきましょう。

平田 お二人はこのまま順調に近松の活動

をしていただいたら、奈義町にはもう一発

で合格。ぜひ受験を考えていただいて。

上野 はい、ありがとうございます。それ

では一言ずついただきましたので、少し本

題に入りたいと思います。まず、芸術活動、

特に、パフォーミングアーツ、演劇とか、

さまざまな舞台芸術、歌劇なども入ろうか

と思いますが、そういった中で、地域の伝

統文化的なものもあれば、新しい生活文化

の中のアートもあると思います。先程ソー

シャルインクルージョン、社会包摂と申し

ますけど、そういった形で、社会にはさま

ざまなところで、役に立っている芸術活動

もたくさんございます。そこでせっかくご

登壇いただきました皆さんから、それぞれ

ご自分の活動を通じて、今日ここの会場の

皆さんとそういう考え方を共有していただ

きたいと思っております。まずやまぐちさ

んから、地域活動をどんなふうになさって

いるかを、少し 10 分程度で紹介していただ

Page 22: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

20

けますか。

やまぐちくにこさんの活動発表

やまぐち はい、わかりました。私はパワ

ーポイントを使わせていただきます。私は

淡路島で活動してるんですけれども、淡路

島は、尼崎市と同じ兵庫県にあります。徳

島から近くて、昔は徳島藩だったんですが、

今は兵庫県に位置してます。行政区分は3

つあります。日本の中でも5番目に大きな

島で、外周が約 203km かな。そこでだいた

い 13万人が暮らすような島なんですが、カ

ロリーベースで 120%の食糧自給率で、非

常に豊かです。大きさとしては東京 23区と

同じ大きさだったりとか、シンガポールと

同じと言われていたりとか、あと琵琶湖と

同じくらいの島ということで知られている

かと思います。

私の活動のきっかけは、2004 年の地震の

後に起こった台風 23 号の通過で見つかっ

た空き家なんですが、この空き家を改修す

ることからNPOを起ち上げて、活動し始

めました。2005 年から 2010 年まで毎年ア

ートフェスティバルを開催して、地域の中

といろんな出来事を繋げるようなことをし

てきたんですけれども、さらに淡路島のこ

とを知りもっと表現したいと強く感じるよ

うになったのは、やっぱりアーティストの

存在があったからです。茂木綾子さんとい

うカメラマン、ヴェルナー・ペンツェルさ

んという映像作家、この2人が淡路島に移

住してきたことから、さらに淡路島にある

ものについて彼らの視点から、浮き彫りに

なってきて、実際自分が暮らしていながら

も淡路島のことを何も知らないなっていう

ことに気がつき始めました。この2人と一

緒に廃校を改装しましたが、土壁ひとつに

しても昔からのくらしっていうのはすごく

持続可能な手法だったんだなと。土をいっ

たん落としてそれをまた練り直して、そし

てまた壁にするという作業にもたくさんの

発見がありました。そこでできたのがノマ

ド村という拠点で、職員室、校長室、保健

室を改装した場所で、4月から 12月までの

土日のみカフェノマドとして、また、平日

は、シェアオフィスや、作家が居住制作拠

点になっています。その他にも随所にアー

ティストの視点や考え方に影響を受けて活

動をしています。

ここからは3市についてお伝えしますが、

先程もお伝えしたように、淡路市、洲本市、

南あわじ市の3つの市があって、それで淡

路島となっているので、やはり1市と何か

をするよりも、3市と何かをしていきたい

というふうに考えています。北から順番に

紹介していきます。

五斗長(ごっさ)という、淡路市に、垣

内遺跡という昔の鉄器工場が見つかった場

所があるんですが、山の上の方にある五斗

長(ごっさ)集落という場所です。そこに

は、すごく身が締まったおいしい玉ねぎが

有名でもある地域で、その地域に入らせて

もらって「五斗長ウォーキングミュージア

ム」、山の中に誘うという趣旨のプロジェク

トをさせていただいています。これも、ア

ーティストより淡路島にある当たり前にあ

る山に、実際に山に入ったことがあるか、

入ったことがあるかっていう問いからでし

た。舗装された道はあるんだけれども、枝

をかき分け入っていくっていう経験は実は

Page 23: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

21

私はないと。なので、その経験を共有でき

たらいいなと思って。また、いわゆるホワ

イトキューブではない自然の場所そのもの

を体感してもらいたいと。そのきっかけに

アート作品を点在させて、歩く行為そのも

のが自然と触れるきっかけだという想いか

らプロジェクトをはじめました。実際に歩

くと作品はもとより、香りであったりとか

音であったりとか、枝ぶりであったりとか

緑の濃さであったりとか、やっぱり自分の

五感に働きかけるものに、気づきがたくさ

んあるってことに気が付いてきます。その

体験を知ってもらいたく、毎年 1 度は、皆

で一緒に歩くイベントを開催しています。

地域と数年おつきあいをして、今では五斗

長の玉ねぎのパッケージを作ってくれない

かとか、ホームページが欲しいなとか、そ

の地域の人からのお声掛けをいただいて何

かしらのお役にもたてていることに嬉しく

も思っています。

次は洲本市なんですが、洲本市は、実は

この尼崎市にゆかりのある近松門左衛門さ

んが、戯曲を作っていて、中座で公開して

いたというお話がありますが、そこに洲本

市の狸さんが人間に化けてその中座の芝居

を何度も観に行ったっていうようなお話が

あって、そのお狸さんにまつわるプロジェ

クトをしています。地域のいろんな人から

お話を聞くと、何を共通として、この市の

アイデンティティが保てるのかなといって

探った時に、出てきたのが狸のお話で、そ

の狸をモチーフに、特に市街地を中心に活

動しています。狸っていうとやっぱり「化

ける」っていうことがすごく大きな特徴な

ので、プロジェクトの出演者は、皆耳を付

けてます。洲本の人は皆狸だよっていうこ

とです。非日常を提案することで、ちょっ

と悪ノリしてみたりとか、また新しい自分

に気がつくきっかけになればと思ってます。

今では、祭りのようなかたちになり、実際

のお祭りのだんじりを狸化してしまおうと、

今週の土日からアーティストと共に実際の

だんじりに造形や装飾を加えてタヌキのだ

んじりをつくる計画をしています。

次は南あわじ市ですが、日本の風景でお

なじみのこの甍の屋根ですけれども、この

地域の産業として、いぶし銀の瓦の産業が

あります。1995 年の震災から本当に低迷し

てしまって、厳しい産業といわれています。

私達はその産業の何かを担ったり商売繁盛

のお手伝いするとかっていうことはできな

いんだけれども、小さくかかわらせてもら

っています。この写ってます瓦、一つの屋

根を形成するにもたくさんの形状の瓦があ

ります。上に乗っているのが、のし瓦とい

います。なみなみな形の瓦が桟瓦といって、

四隅にしかない隅巴瓦とか、さまざまな瓦

が 800 種類あります。それぞれの焼く者、

全ての瓦は分業になっていて、ひとつの瓦

を一生懸命作っている工場があるというこ

とです。やっぱりそれだけ数があるんであ

れば、もしかして。。。ということで、音楽

家の野村誠さんと、やぶくみこさん、にお

越しいただきまして、叩いていただきまし

た。すると、それぞれが少しの音の差で音

階になるってことがわかったんですね。温

度とか、形状とか、分厚さとか、そういっ

たものでいろんな音階ができるっていうこ

とがわかりまして、「瓦の音楽」というプロ

ジェクト名で音楽を奏で始めました。また、

CD もつくり配信しました。すると、これも

アーティストとのご縁で、この情報をキャ

Page 24: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

22

ッチをした人や団体とつながり、インドネ

シアだったりとか、イタリアとの交流がで

き、今は瓦の音楽を海外で公演するような

状況も生まれてました。それは、思いもよ

らない展開でした。少し映像を流します。

(瓦を使った演奏の映像)

瓦の音です。ずっと見ていただきたいん

ですけれども、こちら You Tube でも配信し

てますので、またご覧いただけたらなと思

っています。バチがありましたが、あの先

に付いているのはゴルフボールなんです。

いろんな音色を探してみて、いい音が出る

ものを探してみると、実は、ゴルフボール

で叩いた音色がすごくいいことがわかり、

今は、竹の先にゴルフボールを付けている

バチを主として使用しています。はい、と

いうことで簡単ですけれども、私の活動を

紹介させていただきました。ありがとうご

ざいます。

上野 はい、ありがとうございました。と

てもユニークで、しかも、古い物がモダン

に見える、面白い活動ですね。洲本の人が

皆狸とは知りませんでした。今度行く時は

気をつけます。ありがとうございます。

それでは、今のやまぐちさんに続きまし

て、米二師匠に、先程自己紹介で尼崎に住

んでいたというお話が出ましたけども、日

頃のご活動や、あるいは落研の審査員など

をしていただいてるようですが、少しお話

いただければと思います。

桂米二さんの活動発表

桂 先程も言いましたけども、昭和 51 年に

弟子入りいたしましてですね、3年間武庫

之荘の米朝の家に住み込みまして。19 歳で

入り 22 歳までのわりと多感な時期におり

ましたが、内弟子という修業でしたんでね、

遊びに出ることはできなかったですね。残

念ながら飲み歩いたり、そういうのはなか

ったですが、そういう視点で見ていきます

とこの、尼崎というのは、南北問題がやっ

ぱりありますよね。なんでこない不便なん

やと。武庫之荘は、阪急沿線。ここはJR

で、それから阪神と、大阪から来るのはど

っちも、どこも便利やのに、このね、歩き

にくいというのをまず感じまして。私は師

匠の運転手もしておりましたんで、そこそ

こ道も詳しくなったんですけども。私がち

ょうど内弟子の時に、尼崎市総合文化セン

ターで、米朝一門による落語勉強会という

のが始まりました。これが昭和 52年で、今

年の6月にちょうど 40 年になるんですね。

もうその間、私は下見に来た時から見てま

すし、初めは総合文化センターの建物もな

くて、横に琴秋閣というお茶室みたいな、

そういう和室の古い建物がありましてです

ね、そこの和室が広いということで、和室

で落語会が始まって、一門の勉強の場とし

て、京都には安井の金比羅さんという神社

がありまして、そこでうちの師匠が昭和 40

年代からやってるとこと、2か所目として、

米朝一門全体の勉強会というもので、うち

の師匠ができるだけその現場におって、落

語を聞いて後でダメ出しをするという、後

で指導があるという。そういう出演者にと

ってはちょっと嫌な勉強会やったんですが、

そういうとこが師匠の地元である尼崎でも

始まったということで。うちの師匠がずっ

と担当してたんですけども、高齢になって

Page 25: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

23

きて、わしはもうしんどいと。金比羅さん

と尼崎の2つの勉強会、お前やってくれっ

て私頼まれたんですね。「何をやりますねん」

いうたら「出番決めるとか、そのネタを決

めるとかそういうこと。今わしがやってる

ことわかるやろ。」それがしんどいことも知

ってましたし、自分がね、京都の場合もそ

うですが、自分が初舞台を踏んだような勉

強会を、自分が、言うたらもう取り仕切っ

てですよ、出番を決めて、またちょっと若

いもんにダメ出しもしてやらんならんとい

う、そういう荷の重いこと私なんか言うて、

ずっと断ってたんですよ。師匠堪忍してく

ださいと。師匠がやってきはったこと、私

ごときにできませんて言うてたんですが、

会うたんびに、うちの師匠がお前やってく

れへんか、やってくれへんかと言う。もう

ここまで言わはんの、よっぽどかなと思っ

て、師匠ほんまに思たはるんですか言うて。

なんで私なんです、いやお前ぎょうさんな

ごうやってるさかい、それぐらいできるや

ろ言うて。なんかまたね、私そういうこと

ね、実は嫌いやないんですよね、そういう

世話をするのが。そこまで見抜かれてたか

なあと思って。ああわかりました、ほなら

私京都に住んでるんで、京都の会だけ引き

受けますって言うたら、「いやそれはあかん」

と。「なんでですか」って言うたら、「この

2つの勉強会に、一門の人間を振り分けな

いかん。つまり、京都に出したら尼崎には

出さへん、その反対もあるさかいに、どっ

ちも一人でやらないかんねん。」と言われま

して、「ああわかりました、ほんならもうや

ります」と言うたのがもう 12、13 年前です

かね。それから私が担当して、まあ京都の

場合は、落語会が済んだ後、一応その太鼓

やとか見台とかね、道具を車で運んで来て

るんで、京都の場合はうちが近所なんで、

車で置きに帰ってそのまま居酒屋へ行きま

してそこで反省会をやりましてですね。う

ちの師匠は現場で、その落語会が済んだ後

で、お酒を飲まずに、真面目に 30分ぐらい

反省会をやったんですが、私そんなん誰も

聞いてくれへんやろ思って、これはビール

でも飲まさな皆聞かへんやろと思って、そ

れで居酒屋へ行って、皆集めて、ここはこ

う思う、ああ思うと、それを聞かして。と

ころが尼崎の場合は、うちが遠いんで、車

置いて飲みに行くわけにいきませんのやね。

ですから、金だけちょっと置いて、お前ら

自分らで反省会やれって言うてね。反省し

てへんと思いますけども。ですから尼崎の

会の反省会には私参加できないのが残念で。

一応ここまできて、まあ 40 年経ったわけ。

私が世話してるのは、まだ 10数年で、どこ

までできるかわかりませんけども、とても

やないけど師匠の代わりは務まらんのです

けどもね。尼崎という土地にずっと関わる

ことができて、先程も言いました、南北問

題、ここへ鉄道ができる計画もなければ、

人間性ちゅうか生活も違うように思います

しね。武庫之荘ちゅうとこは特殊で、うち

の師匠の息子の米團治さんにもよう言うて

ますけど、武庫之荘の人は、私は尼崎に住

んでるって言わない。武庫之荘に住んでる

と言う、ね。そういうね、確かにあの頃、

私が入った頃ちゅうのは、もう下りたら大

きな家ばっかりでしたわ。お屋敷という感

じの家があって、マンションも高級マンシ

ョン。ここは阪急の福本選手が住んでんね

んとかね、そういう大きいね、ここえらい

とこなんやなと思って。それが、ある1軒

Page 26: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

24

の家が誰も住まなくなった、どっかに売れ

となると、その大きかった1軒の家が3軒

ぐらいになるんですね。またマンション、

ちっちゃなマンションができたり、もう代

替わりするとそういうふうに町の形も変わ

ってくる。ということは、武庫之荘も商品

化してきてるのかなということも感じます

し。それぞれ町の特徴があります。私は、

前、塚口でもやってました。今、園田でも

落語会やってますし、阪神の尼崎とか。こ

れからも、また何か機会があれば子ども達

に落語を教えてもかまへんし、いろんなか

たちでやっていきたいなと思っております。

そんなところです。

上野 はい、ありがとうございました。い

や、いきなり南北問題って言われたので、

コメントを入れようと思いながら聞いてま

した。実を言いますと、文化ビジョンの委

員会でも南北問題はずいぶん議論がござい

まして、私もずいぶん勉強させていただき

ました。結論的に言うと、それはそれなり

に、地域ごとにいいところがあるやないか

ということで、この文化ビジョンに入れさ

せていただいたということです。

それでは、園田学園のお二人に、どんな

活動をなさってるのか、少し具体的にお話

いただいていいですか。

園田学園女子大学近松人形劇部の発表

細井 よろしくお願いします。私達はスラ

イドを用意してきたので、こちらをご覧く

ださい。「地域文化活動の継承 近松応援団

から近松人形劇部へ」というお話をさせて

いただきます。

まず、近松応援団の活動を引き継ぐこと

になったきっかけについて、少しお話させ

ていただきたいと思います。2014 年4月、

まちづくり解剖学に参加。これは私達では

なく、私達の先輩が参加されたものなんで

すけれども、園田学園女子大学で行われた

もので、地域の人と学生と先生が一緒に地

域について考えていこうというようなもの

でした。この場がきっかけで、近松応援団

の存在を知ることになりました。そして

2014 年8月、大近松祭に出演。この「大近

松祭」というのは、近松門左衛門の偉業を

しのび、命日付近に行われているお祭りに

なっています。そこに先輩達がボランティ

アで参加したことがきっかけで、この近松

応援団が解散するかもしれないということ

を知り、これは絶対なくしてはいけないも

のだと思った先輩達が引き継ごうとして、

2014 年 10 月、近松人形劇部が設立されま

した。

ここで少し近松応援団とは何か、という

お話をしたいと思います。近松応援団とは、

1989 年に元気な女性達で結成された団体で、

近松門左衛門を応援していこうという団体

でした。しかし、参加者の高齢化にともな

い、活動の継続が不可能になってきたこと

が原因で、解散するしかないとなっていた

団体です。

近松人形劇部を結成してからの活動とし

まして、2014 年 12 月、コンソーシアムひ

ょうご神戸「学生プロジェクトプラン・コ

ンペ」というものに参加しまして、見事に

サンテレビジョン賞を受賞しました。これ、

先輩なんですけれども。次に 2015 年2月、

大学COC事業研究報告会というものに参

Page 27: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

25

加し、そこで初めて先輩達が人形劇を披露

しました。3月、立花ウェルカムパーティ

にて、ここでも人形劇を発表しました。2015

年3月、近松応援団総会が開かれまして、

これをもって近松応援団の方々は解散され

ました。解散されてからの活動としまして

は、5月に「ひょうご女性未来会議」とい

うものがありまして、そこでも披露の場を

いただき、2015 年 10 月、大近松祭、先程

説明した大近松祭に出演するはこびとなり

ました。2015 年 11 月、近松応援団から近

松人形劇部へ人形などを贈呈していただく

という式を行いました。今、前に写ってい

る右の真ん中のちょっとイケメン、って思

ってます、部員は。この人形は「ともえ丸」

といいます。これは、丹州千年狐「天鼓」

という演目で出てくるものなんですけれど

も、これを私が演じているので、また観に

来る機会があったら観てください。2016 年

8月、みんなのサマーセミナーに参加。こ

こではこの人形達の説明をしました。2016

年 10 月、石見神楽祭、園田北小学校で行わ

れた石見神楽祭に出演させていただくこと

になりました。そして 2016 年 10 月、大近

松祭に出演というかたちになりました。し

かしこの時、先輩達が4人だったので、演

目をできず、上映するというかたちで終わ

りました。

本田 私が初めて人形劇に参加させていた

だいたのが、この 10月の石見神楽祭という

ことなんですけれども、こちらにまだお手

伝いの時に参加して、一番記憶に残ってる

のが「日本振袖始」という演目で、役をい

ただいたんですけども、やってみてすごく

楽しかったので私もぜひこの部を次に繋げ

たい、途絶えさせたくないという思いで、

この部に入部しました。つい最近、3月 17

日に行った、これが卒業生の先輩方が最終

公演となったんですけれども、「あじさいの

会」という方々からお声掛けいただいてや

らせていただいた演目で、こちらの狐、本

日持って来ている狐を使った「天鼓」とい

う演目でやらせていただいたんですけれど

も、それも新しく私達含めて今のところ部

員が8名いるんですけれども、他の演目を

まだしたことがない子達もすごく、やって

みて楽しかったという声をいただけるすば

らしい公演になって。すいません、こんな

しゃべる機会がなくてちょっとあがってま

す。先輩方が引き継いだこの伝統ある部活

に入部したことで、他では経験することが

できないたくさんの経験をすることができ

たと思っています。また、普段の学校生活

では関わりを持つことができない地域の

方々、応援団の方々などと一緒に活動がで

きたことは、今後私達が成長していく中で

とても有意義な時間となっていたと思って

います。

これからの活動を私達はこのようにして

いけたらいいなあということがあります。

スライドをご覧ください。近松門左衛門の

偉業をしのび、人形劇をとおして近松門左

衛門を応援していた近松応援団から、卒業

生である先輩方が人形を引き継ぎました。

そして、先輩方から私達が継承され、その

私達が地域の方々に人形劇の公演をする。

そうすることで、地域の人々が近松門左衛

門に興味を持って、この一つの輪っかにな

っています、これを私達は「近松の輪」と

いうふうに名付けています。この輪が構成

されていくことで、それが私達の目的でも

Page 28: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

26

あり、活動する中で感じてきたこととなっ

ています。以上です。ご清聴ありがとうご

ざいました。

上野 いや、とっても素敵ですね。特にこ

ういう若い人が、伝統文化を大事にしてく

れるのはとてもいいことだと思います。今、

米二師匠、やまぐちさん、それから今のお

二人に、それぞれご自分の活動を紹介して

いただきましたので、そのご感想を平田さ

んにお願いします。

平田 はい、それぞれ本当にすばらしかっ

た。実は、淡路島の瓦の音楽のやぶくみこ

は私の教え子なので、大学の一期生なので、

どうもお世話になっております。これから

もよろしく。

淡路島はね、震災もあり、それから明石

海峡大橋ができてしまったために対岸に

150 万人の神戸という町がつながってしま

って、商店街が非常にご苦労なさったり、

その経緯から今非常にこう、V字回復とい

うか、すごいいろんなアートや玉ねぎ、農

業とかで頑張ってらっしゃるところですよ

ね。だいたい成功してるアートの町ってい

うのは一度は地獄を見たというかですね、

別府なんかが象徴的ですけども、温泉街と

して本当に古いイメージの温泉街だったの

が今は完全にアートのまちとして生まれ変

わってるわけですけれども、だいたい欧米

を見ても、そういう重厚長大型産業の町が

転換する時にアート使ったりしてきている

ので、これやっぱり尼崎にとっても参考事

例になるんではないか、それも非常に近い

ところにある参考事例になるのではないか

というふうに感じます。そして落語とかで

すね、近松とか、やはり伝統の力っていう

のは尼崎の場合には非常に強いので、米二

師匠がおっしゃられたように、どうにか学

校教育の中にうまくこう飛び込んでいく。

最初は全部は無理でも、例えば先程ちょっ

と触れました、豊岡市は、演劇の全校実施

のために4年かけて徐々に、最初は1校、

それから2年目からは5校モデル校を定め

て、そこに教員達に来てもらって、徐々に

実施校を増やしてこの4月からは 39 校全

校実施という展開をしています。例えば、

落語も近松もそれぞれ全校は無理でも少し

ずつですね、そういうものが。やっぱり学

校教育の中に入っていかないと、この格差

の問題が解決しないので。やっても、子ど

もをそういうところに行かせるのは、富裕

層・知識層の親っていうことになってしま

って、届けたいところに届かない。文化政

策って必ずジレンマがあるんですね。そこ

をどうやって、教育政策と文化政策が繋げ

られるか、というのは一つ大きな課題だろ

うなと思う。

園田学園さんは、大学は何か支援してく

ださってるんですか。

細井 助成金はいただいてますね。あと、

移動手段として、今日は人形しか持って来

てないんですけれども、舞台設営の中で使

う背景とか、専門のもの全部手作りで結構

大きなものになっているので、それを運ぶ

のに学校の車を出してもらったり、そうい

う支援はしてもらっています。

平田 園田学園も1年生全員ね、近松やる

ぐらい。あの先程申しました、四国学院大

学はコミュニケーション教育という位置付

Page 29: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

27

けで、1年生は全校に演劇とダンスの授業、

全員が一コマずつ持ちます。たぶん園田学

園さんもそういう志望の方多いと思うんで

すけど、四国学院は、幼保、それから小学

校の先生になる学生が多くて、その子達は

2年次以降、演劇の授業2単位必修なんで

すね。おそらくこれからそういう時代にな

ってくるので、ぜひそういうことをうまく、

大学教育の中にも、これ私学ですから別に

私学に強制できることじゃないんですけれ

ども、指導うまく併用してやっていくよう

なことがこれから考えられるのではないか

なと感じました。

上野 はい、ありがとうございます。まっ

たくそのとおりです、本当に。これから特

に若い人達の活躍とか、それが地域に根付

いていくことがとっても大事な感じがしま

す。

今せっかくお話いただきましたので、実

はこの文化ビジョンの中に、地域の歴史や

伝統や文化を今後も大事にして育てていこ

うという趣旨が盛り込まれてますので、そ

の観点から、また少しお話を伺いたいと思

います。米二師匠にお伺いしたいんですけ

ど、先程地域のお子さんに落語を教えたり

と、いろいろ尼崎の地域を内からと外から

と両方見ておられるなという感じがしたん

ですが、その辺、伝統文化を教えていく立

場から、いろいろ感じておられることがあ

れば教えてください。

桂 落語と言うのは、新作落語もあります

けども、最初に習うのはいわゆる古典落語

という。古典という言葉を私あんまり好き

でなくて、自らどうも壁を作っているよう

な気もするんで、普通に落語、上方落語っ

て呼ぶ方が私は好きなんですけども、やっ

ぱり、言葉だけなんですね。ですから、そ

のものを知らないと情景が浮かんでこない

ということになりますね。実際に何もその

道具を使いません。扇子と手拭い、それか

ら大阪の場合は見台、膝隠しという、前に

台を使うたりします。それに小拍子という

拍子の小さいのがあるんですが、そういう

もんだけしか使わずに、それだけでいろん

なものを表現していくんですから、お客さ

んの想像力がいるんですね。今の子どもは

皆映像世代で、テレビ、マンガ、アニメ、

皆目で見てわかるもんですね。私ら結構ラ

ジオ聞いて大きくなりましたから、ラジオ

というのはやっぱり想像力を働かしてくれ

るんですね。本は活字だけ。これもやっぱ

り想像力がいります。落語もそうですね、

通じるもんがあります。ですから、その想

像力というのを養うという観点においては、

耳だけから入ってくる、落語の場合は仕草

もありますが、それは補助的な部分で、落

語を聞いて面白かった、ようわろたと言っ

てくれはるのは、それはご自分の感性で笑

ってはるんですね。私らはそのお手伝いを

してるだけなんです。その感性の鋭い、想

像力の豊かな人が落語を聞いて、その情景

を自分で思い浮かべて、その情景は一人一

人皆違うはずなんですよね、顔から何から

景色から、皆違うと思うんですが、皆同じ

ようにそれを描いて笑ってくれはる。お客

さんと一体になって作り上げる芸というの

が落語なんですね。うちの師匠、また先代

の米團治師匠、うちの師匠の米朝の師の米

團治師匠も言うてはる、「落語ほど、笑いに

ついてこんなに進んでる芸はないんやで」

Page 30: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

28

というような言い方をしてました。聞いて

その想像力で自分で笑ろてはるということ

を、たぶんご自身はお気づきになってない

かもしれませんが、そういう想像力を働か

せて笑うという。ですから落語を聞いて笑

った人というのは、その快感が大きいんや

ろうと思いますね。ただ、その伝え手が悪

いとうまく伝わらないし、台詞なんかが、

覚えた言葉、一言一句違わないのに面白い

噺家と面白くない噺家がある、これは何か

って言うたら間の違いですね。もうそれし

かないんです。こないだミュージシャンの

人とも話してましたけど、落語も間ですね、

音楽も間やと思いますって、こう言うては

りましたけど、どこの世界でもそうなんや

ろなという。芸術、文化、色々ありますけ

ども、そういう間を一番大事にしてる、落

語はそう言えると思うんですが、そういう

ところを通じて、小学生であり、中学生で

あり、どの世代でもそうです、そういうと

ころも養ってもらえたらなというふうに、

私が落語を通じて思うことというのはそう

いうことでございますね。

上野 はい、ありがとうございます。おっ

しゃるとおりで、私の子どもの頃はまだテ

レビが始まった頃で、ラジオとか活字って

すごく想像力が必要ですね。ですからやっ

ぱり話芸というのはすごいなあというふう

に思うわけですけども。ぜひそういうお子

さんが育つと想像力豊かになって、とって

もすばらしいなと思います。同じことが演

劇にもあると思うんですが。

平田 もちろんそうです。特に演劇も間が

一番大切で、先程見ていただいたスライド

のフランスでやった上演の劇評が一瞬写っ

たと思いますが、あれは「沈黙の帝国」っ

ていう見出しが書いてあった。僕の芝居は

特に間が長いお芝居なんで、まあそれでよ

くお客さん皆寝ちゃうんですけどね、長す

ぎると。まさに今、米二師匠おっしゃられ

たように、そういう想像力みたいなものを

伸ばす環境が、どんどんどんどん子ども達

からなくなっているので、そこが、一番演

劇教育とか、あるいは落語とか狂言とか、

その伝統芸能を入れていくことの、一番大

きな意味かなと思って、ぜひ進めていただ

きたい。

上野 はい、ありがとうございました。そ

れでは、本田さんと細井さんにまたお話を

聞きたいんですけど。どうですか、そうい

う伝統的なものを、先の世代の近松応援団

から園田学園として引き継いで、部活でな

さってるということで、その実際に行った

時のお客さんの反応とか、町の人からの声

とかそういうものがあれば、少し紹介して

ください。

本田 3月 17日に、先輩方の最終公演を兼

ねてやらせていただいた時、こちらが先程

も出たんですけど、その狐、私お気に入り

で、すごい気にいってるんですけど、この

子を私が演じてたんですけど、すごく反響

が良かったんですよ。地域の方からも「良

かったよ、あの狐」って言ってもらえたん

ですごく嬉しかったんです。この狐、私が

演じた時には狐だとわかっていただいたん

ですけど、演じる人によっては尻尾の太い

白い犬に見えるっていう方もいます。狐は

ちょっとお尻を高く上げて、首を下に向け

Page 31: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

29

ると狐になって、まっすぐにすると先程言

った尻尾の太い白い犬になるんですけれど

も、演じる人によってこちらの人間もなん

ですけど、感情の表現とかがまた変わって

くるんですよ、人間の。黒いこちらの頭巾

なんですけど、演劇する時は被るんですけ

ど。ちょっと被っていただいてるんですけ

ど、こちらを被ったら、もう皆役に入り込

むんで、一人一人違う表現の仕方で出して

いくんですけども、それを見てるのがやっ

てる私達もすごく楽しいんで、学内の子だ

けといわずにぜひ私、地域の方々、子ども

から大人までいろんな人にこの表現してる

ところを見てもらいたいなって今思ってい

るところになっています。

上野 そや、そやって言ってるんですね。

「ともえ丸」はいいんですか。

細井 そうですね、17 日のさっきお話した

「あじさいの会」主催の時も、「天鼓」って

いうものの中に「おじ坊主」って出てくる

んですけども、その「おじ坊主」とこの「と

もえ丸」の掛け合いの部分で、すっごいお

客さんが笑ってくれて、笑ってくれたおか

げでこっちもなんかこう、動かしたくなっ

ちゃって、結構盛り上がったっていうのが

あって、観客の方のおかげで私達も楽しく

やっているところはありますね。

上野 素適な話ですね。今、米二師匠と、

それから園田学園のお二人に聞いたわけで

すが、やまぐちさんどうですか、こういう

伝統文化を大事にする、モダンの方から。

やまぐち そうですね、歴史、伝統、文化。

カテゴリーで、ジャンルとかカテゴリにわ

けることによって違うものに見えてしまっ

たり、違う感覚になってしまって自分をこ

う卑屈にというか、窮屈にしていることも

あるんだなって、今お話を聞いて自分自身

が気がつきました。師匠がおっしゃってた

ように、これはお客様の感性を高めて、お

客様の感性で面白くなるものなんていう言

葉をお伺いすると、同じ時代にありジャン

ルは違えども同じような感性をもとめてい

るものだと感じました。どうやって主体的

に楽しめるかっていうことを提案している

表現の方法とか、すごく共通な言葉を見い

だせて、構えていた自分が解けて、ちょっ

とほっとしました。隣のお二人も、布一枚

あるだけで表現ができるっていうことも、

共感できました。私達の活動でも、狸の葉

っぱを1枚乗せるだけで、いつもより大胆

な行動ができてるあの地域のおじちゃん、

おばちゃんを見てると、そういうちょっと

したスイッチがやっぱり、もっともっと暮

らしの中にあることで豊かな感性、豊かな

くらしや生き甲斐につながっていくだろう

なって感じました。

上野 なるほど、よくわかりました。人間

にはね、そういう変身願望みたいなものが

ありますからね。落語の世界にもずいぶん

人間に化ける狸とか、そういうのが。平田

さん、どうですか。

平田 ヨーロッパでも、子どもの演劇教育

の中でも人形劇は使うんですね。人形だと

しゃべれるとか、人形を使うとできるとか、

今でいうと自閉症とか軽度アスペルガーの

子なんかで、人形を通じてだとできるとか

Page 32: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

30

ですね。あと私が今取り組んでるのは、吃

音の方で演劇だと、演劇の台詞だとどもら

ないという吃音の方、結構いらっしゃる。

そういうところにこう使っていただいてる

んですね。

そもそも、なんで淡路島とか、この尼崎

とかで、人形浄瑠璃が発達したのか。ある

いはその歌舞伎、農村歌舞伎で言いますと、

私もお手伝いしてます小豆島なんかも農村

歌舞伎ずっと守ってきてる。なんで瀬戸内

で発達したかって言うと、「菜の花の沖」っ

ていう司馬遼太郎先生の小説がありますね。

高田屋嘉兵衛が蝦夷地に行くわけですけど、

蝦夷地に行く前に、秋田で船をつける。秋

田の船大工さんと、「あなたは浄瑠璃の言葉

ではなく、狂言の言葉で話しますなあ」っ

ていうシーンがあってですね。要するにそ

れは、その人はもともと船大工でなく、武

家の出身だっていうことを表してるんです

けど、江戸時代、方言がたくさんありまし

たから、侍階級は、京都が社交場だったわ

けですけど、京都に来ると、狂言の言葉、

今の野村萬斎さんとかが話してるあの言葉

でしゃべってたわけですね。商人はどうや

ってしゃべってたかっていうと、これは浄

瑠璃の言葉でしゃべってたわけです。商人

にとっては、浄瑠璃を学ぶってことは、コ

ミュニケーションツール、浄瑠璃を通じて

共通語を学んだわけです。この商業が発達

したこの瀬戸内海航路の人々は浄瑠璃をや

らざるを得なかった。基礎教養だったわけ

です。まさに園田学園のお二人が言ってく

れたように、地域の人がやった方がいいっ

てのは、もともと演劇ってのは無意識に、

先程コミュニティ維持のための役割って言

いましたけど、コミュニティの中でお祭り

とかを経験することによって、人々が、無

意識に大人とのコミュニケーション能力と

か、地域の人とのコミュニケーション能力

を培う、こういうのを社会学では通過儀礼、

イニシエーションといいますけれども、そ

ういう役割を果たしていたので。それが近

代社会、一回なくなってしまったんですけ

れども、これをもう一度復活させて、現代

に合わせる形でうまく先程から申し上げて

いる学校教育とかの中に入れていけると、

これもう、きわめて当たり前のことなので、

やっていっていただけるといいんじゃない

かなというふうに思います。

上野 はい、ありがとうございました。あ

っという間に時間がどんどん過ぎていきま

すね。

最後のテーマですが、「若い人の夢とチャ

レンジを応援する」というのが、この文化

ビジョンの柱の一つですが、これから、尼

崎市の皆さんにも、若い人に大いにさまざ

まな文化活動に取り組み、生活の質を高め

ていただきたいなあと思うんですが、そこ

で、まず米二師匠とやまぐちさんに、若い

人への期待といいますか、注文があればぜ

ひお願いします。

桂 噺家なりたいと言って弟子入り志願と

かする今の若い人、淡白やなあと思うこと

ありますね。そういう人ばっかりではない

と思うんですが。例えば、弟子入り志願に

来るという、これは何年か前の話なんです

が、まず手紙が来たんですよね、あなたの

弟子になりたいというて、その手紙が丁寧

に書いてあるんですけど、鉛筆書きなんで

すよ。それ見て、ちょっとやっぱりがっか

Page 33: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

31

りしますよね。清書せえよと思いますよね。

それで、何月何日、この落語会の楽屋にお

願いに行きますっていうて、もう来るのわ

かってますから、待ってたんですよね。ほ

な、来ました。で、「弟子にしてください」、

お決まりの台詞言うて、「いやうち今、採ら

れへんねん。」「そうですか、失礼します。」

「おーい、ちょっと!あんた、話聞くで、

おい!ちょっと!」。そのまま帰ってしまい

まして、次の噺家のとこへ、弟子入り志願

に行ったようでございます。もうちょっと

ビジョンを持ってもらいたいなと、思った

次第でございます。先程もおっしゃいまし

たけど、入試なんかでも全部の科目を勉強

せんなん、そんな時代やこれからないと思

うんですね。何か一つ、自慢できることが

あったら、いいと私は思います。はい、そ

ういうことで。

上野 なるほど。そうですね、あんまり淡

白では困りますね。では、やまぐちさんに

も一言お願いします。

やまぐち はい、私もかつては若い頃があ

りまして。お隣の二人を見ると、実はうち

の娘よりも若くて、ちょっとおかんしっか

りせなあかんなあというふうに改めて思う

んですが、その昔、やっぱりやり始めた頃

って、迷惑かけちゃいけないって。なんで

もかんでも、一生懸命調べて一生懸命準備

して、何か言われないようにじゃないけれ

ども、本当に迷惑かけないようにっていう

のが一番、気を遣ってやってたところだな

と思うんだけれども、実際のところは、ど

んどん甘えていいし、ごめんなさいって言

った方がいいし。本当にホワイト・キュー

ブの中でいろんな道具があるから、「はい、

作りましょう」って言ってできない。どん

どん経験をして、できる場はきっと尼崎市

の中にあるので、どんどんどんどん甘えた

らいいなというふうに思っています。

上野 なるほど。今、お二人から若い人へ

のお話をいただいたんですが、では若い人

にも聞いてみましょう。これから尼崎のた

めにも、大いにチャレンジしてほしいんで

すけど、師匠からはちょっと今の若い人は

淡白じゃないかと、何かもっと一つこだわ

ってもらいたいと。やまぐちさんからは、

いろんな場で甘えてもええと、その代わり

頑張りなさいという激励だと思いますけど。

どうですか、一番若い方、これからチャレ

ンジしてくれますか。

本田 私は、上がり症とかもいろいろあり

まして、「これやりたいんやけど」と言って、

いやダメダメって言われてしまったら、「あ、

はい、わかりました」みたいな感じでそこ

で終わってしまうことに、性格上といいま

すか、あるんで、そこから一歩踏み出すと

いうことが、今のところはやっぱり部活を

しててもできないところが多々あるので、

今後の目標としまして、一回ダメって言わ

れても「いやいや、そこをなんとか」と、

もう一歩踏み込んで、いや私はこれがやり

たいんですというふうに、言えるような性

格にはなっていきたいなと思っています。

上野 いいですね。

細井 副部長として、部長がこう言ってる

ので、支えていこうと思っています。

Page 34: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

32

上野 なんか細井さん、急に大人っぽい言

い方ですね。あまり若者らしくないなあと。

でも、えらいねえ。上がり症の部長さん支

えてくれるそうですから、本田さん安心し

てください。

では、このテーマに沿って、若い人への

お話をいただきましたが、本当に短い時間、

あっという間に過ぎましたので、今のお話

に対する、平田さんにご感想をいただいて、

その後一言ずついただいて締めにしたいと

思います。

平田 はい。子ども・若者は地域の宝です

ので、今日は会場にはちょっと…かなと思

うんですが、例えば先程ご紹介した奈義町、

ご多分に漏れず高齢化でもあるんです、普

通の農村ですから。ただ奈義町、10年前に

市町村合併を選ばないと住民投票で決めて、

その代わりに議員報酬4割カットとかです

ね、公務員の数を減らして、そして高齢者

同士も、どうにか高齢者は相互扶助でやる

ので、その余った財源を未来への投資、要

するに若者への子育てと教育に充てろって

いうコンセンサスが 6000 人の小さな町だ

からできてるわけですよね。別に高齢者切

り捨てということではないんですけれども、

先週もある医療経済学の専門家に会ったら、

要するに高齢者医療はですね、3割ぐらい

カットしても、まちづくりとか、まちを活

性化したり地域社会を補っていけば、今の

医療水準、日本の医療技術ならば、医療水

準は下がらないという研究も出てきている

んですね。それよりも、まち全体を活性化

するとか、若い人達とお年寄りがきちんと

コミュニケーションを取ったりすることで、

相当そのお年寄りも活性化していきます。

奈義町は在宅看取り率も相当高い水準で、

最後まで元気で、お年寄りも働いている方

が多いですね。そういうまちに組み替えて

いった方が最終的に財政負担もラクになる

ということなんですよね。文化予算という

のは本当に、無駄遣いのように見えるんで

すけれど、実はすごく費用対効果の高いも

ので、公共事業なんかに比べてですね。例

えば日本の文化予算、非常に少ないんです、

先進国の中で。1000 億円しかありません、

国の文化予算。1000 億円って、新幹線1km

延ばすといくらかかるかご存じですか。77

億円かかるんです。てことは、日本の文化

予算全部足しても、15km しか延びないんで

す、新幹線が。そのぐらい文化予算少ない

んですね。逆に公共事業に比べれば、この

日本の文化予算を倍にしてくれるだけで、

相当日本の文化は充実するんですね。その

ぐらい安上がりな費用対、まちの活性化に

対するんです。だから是非そこらへんのコ

ンセンサスを、市の、尼崎の中核にいる方

達が、よしちょっと、ここは、未来への投

資で、子ども達・若者達に少しでもこの予

算を回そうっていうことを、やっぱり皆さ

んが、決断していただくってことが一番大

事なんじゃないかなと思います。

上野 はい、ありがとうございます。平田

さんにお話いただくと締めのような感じで

すけど、まだ締めではありません。最後に、

今日ご登壇いただいた方から一言ずつ、せ

っかく今日会場にこんなたくさんの方がお

見えいただいてますし、それからこのビジ

ョンはあくまでも尼崎の皆さんと共有して、

これから取り組んでいこうという指針です

Page 35: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

33

ので、これをご理解いただいて、今日この

壇上に来ていただいた皆さんと、会場の皆

さんが、同じように共有していただくこと

が目的なんですね。そういった観点から、

今日おいでいただいた皆さんに、最後に会

場の皆さん、そして広く尼崎市全部の皆さ

んに対して一言ずついただいて締めにした

いと思います。じゃ、師匠からお願いして

いいですか。

桂 先程も言いましたが、尼崎に来る機会

は多いんで。ところが、先ほどにも言った

ように毎回車で来てるという。ですから私

の目標として、尼崎の飲み屋でなじみの店

をつくると、こういうことを宣言したいと

思います。どうもありがとうございます。

やまぐち 淡路島で誇れるのは、食材の豊

富さなんですけれども、タダでも、素材が

あるだけでは宝とは言えなくて、やっぱり

料理する人、それをおいしいと言ってくれ

る人、その3つが集まらないと、その物の

価値っていうものが発信できないなという

ふうに思っています。淡路島はもう絶対的

に少ないのは若者の力。大学がないので、

その年齢層がごっそりいなくなっているよ

うな状況で、何かやりたいと言ってもその

パワーであったりとか、人がすごく足りな

いんですけども、こちらの尼崎は本当に若

い人もたくさんいらっしゃるし、宝がいっ

ぱいやと思います。なので、今後も交流を

深めて一緒に調理して、発信して、行ける

場に混ぜてほしいです。私も何度も何度も

遊びに行かせてもらいたいと思ってますの

で、今後ともよろしくお願いします。あり

がとうございます。

上野 はい、では若いお二人にも一言ずつ。

本田 今、私達が人形劇で公演ができるの

は、ここで人形劇やってみないですかとい

うお声というか、ご依頼をいただいて活動

しているので、いつの日にか私達から地域

の方々に、私達の人形劇を使った人形教室

みたいなものができればやりたいんですけ

ど。そういうことを私達の方から発信でき

るように、頑張っていきたいなと思ってい

ます。すいません、ちょっと最後噛んだん

ですけれども。

細井 そうですね、部長がこう言ってるの

で、私も存分に支えていきたいと思います。

以上です。

上野 細井さんは、役者だのう。はい、あ

りがとうございました。それでは締めで、

最後平田さんにお願いしたい。

平田 私、実は豊岡市だけではなくて宝塚

市、宝塚市は今年8校授業をしてまいりま

した。伊丹市も毎年のように授業をさせて

いただいてて、私尼崎市長とは仲良いんで

すけど、まったく呼んでいただけないとい

う。呼んでいただければいくらでもお手伝

いをする所存でおりますので、またお呼び

いただければと思います。ありがとうござ

いました。

上野 はい、今日は短時間ではございまし

たけども、冒頭の基調講演では平田さんか

ら、新しい広場を作るということで、そう

いう文化の大切さ・こと、それから文化が

Page 36: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

パネルディスカッション

「つなぎ、育て、生み出すために」-誰もが文化の担い手に-

34

果たすさまざまな役割について教えていた

だきました。パネルディスカッションでは、

それぞれご専門の立場から、米二師匠から

は、そういう客の想像力というものを大事

にする話芸のコツ、それがまた文化の神髄

に近いなあというふうに思いました。ぜひ

早くなじみの店を増やしていただきたいと

思っております。それからやまぐちさんに

は、普通の市民生活をアートで活性化する

ということで、実際の取組をいろいろ紹介

していただきました。大変おいしそうで高

級そうな玉ねぎもありましたけども、色々

な活動を通じ、その日常的なものが、アー

トというものは別に肩肘を張って、取り組

むのではなくて、さりげなく普通の生活の

中で、少し考えや行動を変えるだけでも、

十分文化レベルは上がっていくということ

はよくわかったと思います。園田学園の若

いお二人は、良かったですね。皆さん、会

場の皆さんがあなた方にはとても大きな拍

手が来ましたから。園田学園には近松研究

所があるんでしょう。あれは普通の人も皆

さん入れるんですか。そう。ということで

すので、皆さん園田学園の近松研究所、一

度見てやってください。色々勉強になると

思います。

大変短い時間ではありましたけども、今

日はこの尼崎の文化ビジョンを少しでも会

場の皆さんに知っていただくことと、それ

から尼崎をさまざまな形でご覧になってい

るパネリストの皆さんに、この文化フォー

ラムという形でお話を聞きました。これで

全てが片付くわけではございませんので、

これからは今日会場においでになった皆さ

んも、ご自分の生活文化、あるいは芸術文

化をお考えいただいて、参加の機会を増や

していただいたり、またちょっとした日常

の生活の中でも、尼崎に住んでて良かった

なとか、尼崎はええなあというふうに、感

じ取っていただくことが、この文化ビジョ

ンをお手伝いした立場としては、最大の願

いでございます。

それでは、貴重な時間でございましたけ

ども、これをもちまして、今日のフォーラ

ムを終わりにしたいと思います。どうもあ

りがとうございました。

Page 37: 目次 - Amagasaki · 桂米二さん(落語家・桂米朝一門による尼崎落語勉強会の世話役) やまぐちくにこさん(npo法人 淡路島アートセンター事務局長)

35

尼崎市文化ビジョン会議 委員名簿

氏 名 所 属

泉 祥子 市民

上野 征洋 事業構想大学院大学副学長

齊藤 千亜子 市民

島守 辰明 兵庫県立ピッコロ劇団員

原 久子 大阪電気通信大学教授

南 雅夫 公益財団法人尼崎市総合文化センター 事業担当課係長

元春 智裕 市民

やまぐち くにこ NPO 法人 淡路島アートセンター事務局長

善見 壽男 富松神社宮司