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この冊子は「メガトレンド2017-2026 ICT融合新産業編」の一部を抜粋したものです。 禁無断転載 メガトレンド 2017-2026 ICT融合新産業編 特別編集版

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Page 1: 特別編集版 - Nikkei BP M · 7.クラウドの進化とクラウドファースト 8.apiエコノミーによる連携 35 9.新しい実現方式—チョイス&カスタマイズ

この冊子は「メガトレンド2017-2026 ICT融合新産業編」の一部を抜粋したものです。禁無断転載

メガトレンド 2017-2026ICT融合新産業編

特別編集版

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Index目次

1

序章メガトレンドの読み方:本文構成について 11 人口予測と経済予測 13 2016〜2045年の未来年表 17全体の思想について 38 ❶ 課題から落とす 40 ❷ 三つの科学で考える 62 ❸ ライフサイクル(主役交代と成熟の視点)で考える 68

第1章 先進国の本格的老衰 : 成熟がもたらす新市場総論 81 ベビーブーマーの老衰 埋蔵金1500兆円の使い方 宿命の少子化 遠因はメカトロニクスの成熟化 自治体やインフラも老朽化 個人から大企業まで含めた対応の方向性1. シニア支援 992. 教育ビジネス 1043. オランダ型農業立国 1084. アナログ技術への回帰 113

第2章 新興国の成長ラッシュ : 日本企業躍進の起爆剤総論 121 新興国デビューの歴史 重大要因がメカトロニクス技術の成熟化 成長サイクルの圧縮化 インフラ輸出の全体像 国のライフサイクルと外貨を稼ぐ産業 インフラのゴールとは サービス収支 所得収支 リバースイノベーション化5. 都市インフラ輸出の拡大 137

第3章 成長ラッシュの穽 : 速すぎる変化がもたらす負の現象総論 143 後発ほど加速する成長速度 高速成長で生じるゆがみ 成長優先で後回しになる課題とは6. ユースバルジとBOPビジネス 155

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第4章 市場の強大化 : 国家機能にも及ぶその影響総論 163 すべてがオフショア化 国家を超えるグローバル市場の影響力 通貨安競争や税制優遇競争 財政負担に苦しむ国家とNPO 官民公の境界が融合7. 開発〜製造〜消費のグローバル化 173

第5章 「消費が美徳」だった時代の終焉 : サステナブルな価値観の台頭総論 181 力学の錯綜する環境問題 現実的な解釈とは 先進国の発展とベビーブーマーの消費文化 環境問題の全体構造8. エネルギー効率向上 190

第6章 ポスト工業化社会の実像 : 「人の心を算出する」機能の商用化総論 197 サービス化は長い近代化プロセスの終着駅 製造業からサービス産業化するときの8つのパターン 目的の手段化 脳科学との連携9. 脱売り切り消耗品化 20810. 保守運用ビジネス〜BPO 21311. 保険・金融業化 21812. ファブライト開発へのシフト 22413. マーケティング手法の劇的進化 229

第7章 リアルとバーチャルの相互連動 : 脳から都市までスマート化が加速総論 235 ヒト・モノ・空間の電装化とスマート化 リアル世界にタグを貼るという大脳の長年の夢 スマートコミュニティも拡張現実 脳直結コミュニケート ニアフィールドビジネス デジタルマニュファクチャリングは仮想現実ものづくり端末14. AR(拡張現実) 24415. 自動運転車 25016. おもてなしサービス 25517. 「脳直」コミュニケーション 26018. デジタルマニュファクチャリング 264

第8章 会社も働き方も変わる : 一所一生懸命からオンデマンド機能提供型へ総論 271 閉鎖系・秩序系に好適だった日本式経営 ノマドワーカー 社会貢献というモチベーション NPOがイノベーション創出起点になる オープン&シェア : 所有より利用、競争より共創 デジタルハイテク分野のオープン化 生産財インフラは仮想化とシェアリング いじりやすい構造 競争より共創、多様性を指向する世界 パトロンの財の余力から民の知の余剰へ

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19. ビジネスプラットフォーム設計 287

第9章 超人化する人類 : 生態と進化の人工操作への挑戦総論 295 生命体の夢は永遠の命 メカトロニクスと情報工学 ライフサイエンスの登場 脳インタフェース ライフサイエンスの別用途 : 動植物の品種改良 ロボティクスの発達 ライフサイエンス発達の影響20. 人体強化(非生物系技術) 307

2

第10章 「ICT融合新産業」とは何か : インテグレーションによる「ことづくり」

メガトレンドの読み方:本文構成について 11「ICT融合新産業」の定義と重要性 12新社会基盤が変化を起こす 17ICT融合による産業変化 20ICT融合新産業の予測方法 23

第11章 ICTトレンド : 社会と産業を変える10のキーワード

ICTを組み込んだ社会基盤が変化のサイクルを産み出す 27  1.モバイルの普及とデバイスの多様化 2.データの資産化とトラッキング社会 28人とマシンの協業を「データ駆動×AI」が加速する 31  3.人とマシンのコラボレーション 4.データ駆動型システムとAI 31  5.インタラクションとデータの多様化 6.コミュニケーションの変化 33  7.クラウドの進化とクラウドファースト 8.APIエコノミーによる連携 35  9.新しい実現方式—チョイス&カスタマイズ 10.ハードウエアとソフトウエアの境界消失 36

第12章 社会基盤の変化 : 社会が変わり、産業を変える

社会の変化・経済の変化〜可視化とシェアリング 41人の変化〜働き方と生涯教育 45

第13章 ICT融合による産業変化 : 再定義される産業群

移動(運輸・交通・輸送機器) 53健康(医療・介護・ヘルスケア) 63農林(農業・漁業・林業) 69

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金融(銀行・証券・保険・FinTech) 75公共(公務・公益) 85生活(旅行・エンタテインメント・メディア) 91流通(小売・卸・消費財メーカー) 96製造(組み立て・プロセス・建設) 101

第14章 ICT産業の変化 : 加速する新旧交代

今後10年間の有望分野—モバイルスペースと信用・信頼 109今後10年間の変化要因—民主化・無料化・自動化とプラットフォーマー交代 111

第15章 ICT融合の本質 : 10の状態変化

事業/顧客視点で既存事業をリデザインする 115  1.統合とインテグレーション—ICT融合の成果とICTの民主化 115  2.新しい働き方—社会基盤を活かす 3. 就業年齢とワークスタイルの変化 117  4.事業/顧客視点によるリデザイン—AIを組み込んだ新しい社会 118ICT融合の実現プロセスこそがイノベーションに 120  5.垣根を越えたコラボレーション 6.プロシューマー、中小が牽引 120  7.流通/組織構造の変化、小さな活動単位 8.実現スピードの加速 122  9.デザインとプロデュースの重要性 10.ICT融合の起点〜顧客視点と使い勝手 124

協力者・寄稿者一覧 127

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(1)第一分冊と第二分冊の関係

 本レポート『メガトレンド2017-2026 ICT融

合新産業編』はICT(情報通信技術)によって変

わる産業群の10年後の姿を展望するものであ

る。本レポートは第一分冊と第二分冊で構成さ

れている。第一分冊(序章から第9章)において

は『メガトレンド2016-2025 全産業編(50テー

マ)の中から、ICTとの関わりが大きい20テー

マを抜粋し、社会や産業、人の活動を今後変え

ていく重要トレンドを提示した。

 これらの重要トレンドに基づき、第二分冊(第

10章から第15章)では、ICTがもたらす新たな

社会構造を示し、その社会構造の上で起きる新

事業や新産業の誕生、既存の事業や産業同士

の融合、そしてICT産業自身の将来を予測する。

(2)第二分冊の総論

 メガトレンドによって、社会や人の活動が変

わる。ICTはこうした変化を加速させる。その

結果、産業もまた変化する。ある産業と別の産

業の融合が起きる。新しい産業も生まれる。一

連の変化によって出現する産業を本レポートは

「ICT融合新産業」と呼ぶ。

 個別の産業やそこに属する各企業や団体が

自身の生産性を向上させていくことは引き続き

大事だが、既存の業務を改善する延長線上に

ICT融合新産業が出てくるわけではない。

 第10章でICT融合新産業の定義、本レポート

の予測方法を述べる。

(3)予測の前提

 大前提は第一分冊(序章から第9章)にまと

めたメガトレンドである。第二分冊においては、

第11章で「ICTトレンド」を、第12章で「社会基

盤の変化」をそれぞれ記述する。

 第11章では、多種多様なICTの中から、社会

と産業を変える重要なキーワードを選び、あら

ゆるものがつながり、可視化され、相互評価と

選別が起きる仕組みを述べる。

 第12章では、ICTがもたらす社会、経済、人

の活動の変化を展望する。

(4)産業予測の各論

 本レポートは産業群を八つに大別した。

・移動(運輸・交通・輸送機器)

・健康(医療・介護・ヘルスケア)

・農林(農業・漁業・林業)

・金融(銀行・証券・保険・FinTech)

・公共(公務・公益)

・生活(旅行・エンタテインメント・メディア)

・流通(小売・卸・消費財メーカー)

・製造(組み立て・プロセス・建設)

 第13章で八つの産業における融合のパター

ン、新産業誕生のシナリオ、10年後のプレーヤー

の姿を描く。さらに第14章で、ICT産業自身の

10年後を展望する。他の産業分野から事実上

のICTプレーヤーが登場する一方、既存のICT

産業は試練にさらされる。

(5)総括

 第15章ではICT融合新産業の予測結果を再

整理し、「統合」「新しい働き方」「プロシュー

マー、中小が牽引」「流通/組織構造の変化」と

いった、ICTがもたらす状態変化を総括する。

メガトレンドの読み方:本文構成について

10

「ICT融合新産業」とは何か:インテグレーションによる「ことづくり」

11メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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 本レポートにおいて「ICT融合新産業」とは

「ICT融合」によって生まれる「新産業」を指す。

 「ICT融合」とはICT(情報通信技術)を使う

ことによって、社会、産業、事業、業務・活動、

商品・サービス、技術、そして人々が組み合わ

さり、連携し、価値を生むことである。

 ICTは重要な役割を果たすが、目的はICTを

使うことにはなく、融合すなわち価値創造にあ

る。ものづくりに対比して「ことづくり」という

言葉を使うことがあるが、ICT融合は「ことづ

くり」に当たる。

 一方、「新産業」と言った場合、次の二つを包

含する。一つは文字通り、それまでに無かった、

新たな産業が生まれること。もう一つは既存の

産業が大きく変わること、あるいは産業と別の

産業が融合することである。

 新産業が生まれるとともに、消えゆく産業も

出る。新たに生まれた産業が既存産業を浸食な

いし駆逐する。融合によって、ある産業が事実

上、消滅する。いずれにしても、ICT融合によっ

て産業の再定義が進む。

 社会の構造や人の行動が変わり、その変化

をICTが加速し、新たな「こと」がつくられ、そ

れによって新産業が誕生し、既存産業の融合が

進む。本レポートはそのメカニズムと新たに定

義される産業群の将来像を提示する。

社会と情報が産業を変える

 図10-1に、ICTによる産業融合のイメージを

示す。一人ひとりの個人が集まって何らかの集

「ICT融合新産業」の定義と重要性

出所:著者が作成

図10-1 ICTによる産業融合のイメージ  

相互作用

相互作用

相互作用

社会

ICT

産業B 産業C産業A

国家集団個人

12 メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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団をつくり、さらに組織や国家を形成する。社

会はこれらすべてを包含する。個人、集団、国

家そして社会は互いに影響を与え合い、変化し

ていく。

 その変化が産業を変え、新産業を生み、いく

つかの産業を消滅させる。社会の要請を受け、

新しい産業が興ることもあれば、ある産業と別

の産業が連携ないし融合して、要請に応えるこ

ともある。社会と産業、産業同士の間で相互作

業が働き、お互いを変えていく。

 図10-1の相互連携の構図はICTと総称さ

れるテクノロジーの上に乗っている。ICTの発

展により、あらゆる「もの」と「こと」がつなが

る。インテグレーションである。その様子が情

報(データ)として可視化される。個人の情報、

集団の情報、国家の情報、産業の情報が従来よ

り詳しく把握できるようになると、情報の交換、

相互評価、選別が同時に起きてくる。ある情報

を得た個人や集団が強くなる。情報のバランス

が変わり、社会そして産業の構造が変わる。

 変化は様々なところから始まる。流通構造が

変わる場合もあれば、縦割になっていた産業の

間を横断する新しい産業が生まれる場合もあ

る。産業同士の垣根が崩れ、異業種からの参入

が進む一方、各産業はそれぞれ個性を発揮す

る。融合集中と深化分散が同時に進む。小さな

単位の活動が連携し、産業を活性化させる動き

が進む。個人のマイクロスタートアップ、コミュ

ニティによる活動がつながり、社会や産業を変

えていく。

 産業融合の鍵、変化の軸は情報であり、その

流通と情報の質(粒度、タイミング)が変わって

きた。スマートフォンのようなネットワークにつ

ながった高性能コンピューターを一人ひとりが

持ち歩くようになったためである。情報の収集、

分析、発信を前提とした社会構造になり、その

影響を受けて、新しい「こと」や産業や事業モ

デルが創出され、産業融合が起きる。

 もちろん、ICTが今日のように広がる以前か

ら、何らかの情報を介し、個人や社会そして産

業は互いに影響を与え、共に変化してきた。将

来においても、ICTが進化しようがしまいが、

人・社会・産業が変化していく面が多々ある。

そうした将来に向けて予想される変化のトレン

ドと、その変化を起こす要因(それ自体が一つ

のトレンドでもある)をまとめ上げたレポート

として『メガトレンド2016-2025 全産業編』があ

る。

 『全産業編』にはメガトレンドとして50のテー

マが取り上げられている。その中にはICTと密

接に関わるものもあれば、ICTにさほど関わり

なく進んでいくものもある。50テーマの中から、

ICTとの関連が深いトレンドを選び出し、本レ

ポートの第一分冊(序章から第9章)にまとめた。

そのリストとして第一分冊の表0-8を再掲して

おく。

ICT融合の重要性

 繰り返しになるが、新たなことづくり、すな

わち価値創造があり、その鍵が情報ということ

である。ICTというと、ビッグデータ、IoT(モ

ノのインターネット)、AI(人工知能)、モバイル、

クラウドなど、様々な言葉が登場しているが、

これらはいずれも情報(データ)を取り扱う機

能に着目した呼称であって、本質は情報によっ

て駆動される融合のほうにある。

 様々な機能を使いこなす必要はあるものの、

ICT機能の利用とICT融合による価値創造とは

区別しなければならない。個々の産業やそこに

属する個々の企業がICTを使って一産業ある

10

「ICT融合新産業」とは何か:インテグレーションによる「ことづくり」

13メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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表0-8 全50テーマと電気・電子~情報業界にとって重要な20テーマ

テーマ分類 No ICT 業界に関連性の高い上位 20 テーマ プロアマ度*1 電子IT度*2

第 1 章 先進国の本格的老衰:成熟がもたらす新市場

- 1. シニア労働力活用 0.09 0.0891 2. シニア支援 0.15 0.255- 3. 女性の社会進出 0.09 0.101- 4. 家族の希薄化 0.02 0.130- 5. 高齢者の消費 0.08 0.263- 6. 幼児教育市場の変化 0.05 0.302- 7. ぺット関連市場の拡大 0.03 0.256- 8. 老朽インフラ対策 0.40 0.310- 9. 世代間格差対策 0.14 0.204- 10. 移住ビジネス 0.04 0.156- 11. 観光ビジネス 0.13 0.1722 12. 教育ビジネス 0.11 0.3073 13. オランダ型農業立国 0.25 0.347- 14. 衛星・宇宙ビジネス 0.27 0.249- 15. 軍事技術の強化と輸出解禁 0.12 0.3464 16. アナログ技術への回帰- 17. 癒やし機能への欲求 0.02 0.189- 18. 女性化とユニセックス化 0.02 0.235- 19. 「ジモティー」「ヤンキー」化する若者 0.03 0.437

第 2 章 新興国の成長ラッシュ:日本企業躍進の起爆剤

5 20. 都市インフラ輸出の拡大 0.40 0.316- 21.1. 昭和日本商材の再活用 0.03 0.178- 21.2. リバースイノベーション 0.22 0.372

第 3 章 成長ラッシュの穽:速すぎる変化がもたらす負の現象

- 22. 空気や水の汚染防止・浄化技術 0.17 0.103- 23. 「食の安全」問題 0.14 0.079- 24. 多剤耐性菌対策 0.15 0.0356 25. ユースバルジと BOP ビジネス 0.48 0.310

第 4 章 市場の強大化:国家機能にも及ぶその影響

- 26. 世界的な特区競争 0.32 0.2027 27. 開発〜製造〜消費のグローバル化 0.71 0.284

28. 官民の境界希薄化、民間委託 0.20 0.286

第 5 章 「消費が美徳」だった時代の終焉 : サステナブルな価値観の台頭

8 29. エネルギー効率向上 0.67 0.230- 30. 天災対策 0.31 0.281- 31. シェールガスによる揺り戻し 0.35 0.135- 32. 食料不足対策 0.30 0.131- 33. 資源枯渇対策 0.14 0.176

第 6 章 ポスト工業化社会の実像 : 「人の心を算出する」機能の商用化

9 34. 脱売り切り消耗品化 0.12 0.53710 35. 保守運用ビジネス〜 BPO 0.41 0.56811 36. 保険・金融業化 0.25 0.48212 37. ファブライト開発へのシフト 1.10 0.53413 38. マーケティング手法の劇的進化 0.41 0.769

第 7 章 リアルとバーチャルの相互連動:脳から都市までスマート化が加速

14 39. AR(拡張現実) 0.61 0.74115 40. 自動運転車 0.15 0.43916 41. おもてなしサービス 0.11 0.24617 42. 「脳直」コミュニケーション 0.24 0.29318 43. デジタルマニュファクチャリング 0.35 0.411

第 8 章会社も働き方も変わる:一所一生懸命からオンデマンド機能提供型へ

- 44.1. 企業と従業員 : 労働者のモジュール化 0.07 0.439- 44.2. 企業と従業員 : 組織のモジュール化 0.16 0.50619 45. ビジネスプラットフォーム設計 0.30 0.609- 46. シェア & フラット化する価値観 0.14 0.283

第 9 章 超人化する人類 : 生態と進化の人工操作への挑戦

- 47.1. 生物機能利用 0.49 0.304- 47.2. 遺伝子組み換え生物利用 0.41 0.144- 48. 人体強化(生物系技術) 0.08 0.07720 49. 人体強化(非生物系技術) 0.28 0.441- 50. 脳力開発 0.03 0.246

*1 プロアマ度=各テーマ固有のキーワードを用いてグーグル検索したヒット数に対する日経ビズボードでの検索ヒット件数の比率*2 電子 IT 度=日経ビズボード検索で各テーマ固有のキーワードのヒット数総数のうち、電気・電子〜通信・IT 業種にかかわる記事の比率

出所:川口盛之助氏が作成

14 メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Kawaguchi Morinosuke, All Rights Reserved.

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いは一企業の生産性を向上させることと、ICT

融合による新産業の勃興、これらも区別しなけ

ればならない。一産業、一企業の中の生産性向

上は引き続き大事だが、その延長線上にICT融

合新産業が登場するとは限らないからである。

 ICT利用に関して「第何次産業革命」といっ

た言葉がしばしば使われるが、ICT融合新産業

のあり方を適切に表現しているとは言い難い。

産業革命という言葉からは製造業の生産性向

上を想起しがちだし、社会や個人との相互作用

によって産業の姿が変わるという本質からいさ

さか遠い印象を与えてしまう。

GDP600兆円作戦と産業革命

 政府の産業競争力会議は2016年4月、名目国

内総生産(GDP)を2020年に600兆円に引き上

げる目標を打ち出した。わずか4年で100兆円を

上積みするために、ロボットや自動運転、ICT

による第4次産業革命などによって新市場を創

出するとしている。

 具体的には、第4次産業革命、健康立国、環

境投資、スポーツ産業、サービス産業の生産性、

農業改革、中古住宅市場、観光立国、公共施設

の民間運営、消費喚起といった10分野に官民で

投資し、新市場を創出していく。

 政府が言う第4次産業革命とは、自動運転、

スマート工場、ドローンおよびそれらを支える

ICT利用、といった取り組みにより生産性を高

めることを指す。他の9分野にもこれらの技術

は利用される。指摘されている9分野は市場拡

大が期待されており、メガトレンドの潮流とも

おおむね呼応している。

 ただし、9分野にテクノロジーを導入し、産業

革命を起こすという姿勢で取り組むだけでは、

期待した成果は得られない。そうした進め方で

は、テクノロジーの機能を取り入れることが目

的になりがちで「技術は実装されたものの市場

は拡大しなかった」という結果に留まりかねな

い。社会とそれを構成する個人、すなわち顧客

の側から見た価値創造、ことづくりをするとい

う取り組みをしてこそ、期待する成果に近づく

ことができる。

産業施策の顛末から学ぶ

 経済産業省の施策として2011年からしばら

くの間、ICT融合新産業への取り組みがなさ

れていた。当時の資料を見ると「コンバージェ

ンス」「融合による新たなシステム産業」「デー

タ駆動型イノベーションとそれを担うデータプ

ラットフォーマーの登場」といった言葉が出て

いる。データ駆動型イノベーションとは先に説

明したように、情報(データ)を軸に産業融合が

起きるということである。

 こうしたビジョンを掲げた経済産業省は、農

業、ヘルスケア、ロボット、スマートコミュニティ

(スマートメーター)、自動車と交通(情報端末

になる車)、コンテンツ(電子書籍)の6分野を

選び、予算を用意し、実証実験を行った。

 実証実験は相応の結果を出し、関連するス

タートアップがいくつか生まれたが、この取り

組みから市場を切り開く成果が出て、それが持

続し、ICT融合の取り組みが重要だと、産業界

の納得が得られたわけではない。そうなった理

由はいくつか考えられる。

 まず、ことづくりではなく、ものづくりにどう

してもいきがちであった。アイデアは出てきて

も、顧客側からの視点、事業を創出するという

視点で「こと」をデザインし、必要な諸要素を融

合する取り組みにならず、要素の一つであるア

プリケーション・ソフトウエアの開発やICT機

10

「ICT融合新産業」とは何か:インテグレーションによる「ことづくり」

15メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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器導入といった、「もの」の手配が先行したので

はなかったか。

 そのうちに様々なキーワードが登場してき

た。2011年から2016年までを振り返っても、ビッ

グデータ、IoT、ロボット、AI、AR(拡張現実)

などが次々に登場、経済施策として、新しく見

えた各手段に関する啓蒙や実証実験が優先さ

れていった。

 そもそも「コンバージェンス」「融合による新

たなシステム産業」「データ駆動型イノベーショ

ンとそれを担うデータプラットフォーマーの登

場」といったコンセプトが理解されにくかった

のかもしれない。経済産業省の過去資料を見る

と、一企業内のICT利用による生産性向上と、

異業種連携による新産業創出の両方が狙いと

して書かれていた。企業からすると前者につい

ては「十分やってきた」、後者については「いき

なり異業種連携と言われても」といった反応に

なりがちであった。

 未来に向けて、これ以上の足踏みを続けな

いためにも、「社会の構造や人の行動が変わり、

その変化をICTが加速し、新たな『こと』がつ

くられ、それによって新産業が誕生し、既存産

業の融合が進む」というICT融合新産業のビ

ジョンとメカニズムを再確認し、融合を引き起

こすアプローチで取り組んでいくことが欠かせ

ない。

16 メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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 ICT融合がもたらす変化の仕組みをもう少し

見ておこう。図10-2に示すように、人そして社

会のつがなりや連携に変化が生じ、それが産業

を変え、融合を促進する。

 社会における人と人、人と組織やコミュニ

ティ、人と社会の連携が進むのは、ICTの広

がりによるところが大きい。スマートフォンや

PC、インターネット、ソーシャルメディアやソー

シャルネットワーク上のコミュニティなどによ

り、人と人のつながり方、情報の受発信が変わっ

てきた。人々はより多くの情報(データ)を持っ

たり、調べたりでき、判断や意思決定のあり方

新社会基盤が変化を起こす

出所:著者が作成

図10-2 ICT融合による産業変化のメカニズム

社会

産業

ICTによる新社会基盤ICTによる新社会基盤

データ

人データ

人データ

人データ

人データ

移動(運輸・交通・輸送機器)

健康(医療・介護・ヘルスケア)

農林(農業・漁業・林業)

金融(銀行・証券・保険・FinTech

公共(公務・公益)

生活(旅行・エンタテインメント・メディア)

流通(小売・卸・消費財メーカー)

製造(組み立て・プロセス・建設)

ICT(機器・ソフト・サービス)

10

「ICT融合新産業」とは何か:インテグレーションによる「ことづくり」

17メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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が変わってきた。

 しばしば指摘されることではあるが、2010年

から2015年にかけて、ソーシャルネットワーク

が広がり、個人はそれまでになかったほど、様々

な情報を入手できるようになった。顧客や買

い手の力が企業や売り手を上回る「プロシュー

マー」が現実のものとなった。情報が行き渡り

やすくなったことで、良くも悪くも「レピュテー

ション社会」あるいは「可視化社会」とでも呼ぶ

べき社会が到来した。

 こうしたことから、人々や社会の価値観、情

報や技術に関するリテラシーや態度に至るまで

様々な変化が起きている。

 一連の人と社会の変化はメガトレンドによる

ものでもある。第一分冊の第1章『先進国の本格

的老衰:成熟がもたらす新市場』、第8章『会社

も働き方も変わる:一所一生懸命からオンデマ

ンド機能提供型へ』に詳述されている通り、人

口推移や先進国の成熟により、人や社会に変化

が生じている。メガトレンドによる変化とICT

利用による人と人のつながりの変化は相互に

刺激を与え、共に進んでいく。

人と人のつながりが社会の基盤に

 メガトレンドとICT利用が相まって生じた人

と人の新たなつながり方を一つの新しい社会

基盤と見なすことができる。この社会基盤が人

と社会にさらなる変化をもたらし、ひいては産

業を変え、融合を促進していく。

 社会基盤は汎用的、共通的なものであるが、

その影響を受けて生じる変化や融合は、各産業、

各企業ごとに個別のものになる。個別の変化が

積み重なり、最終的には産業全体、あるいは複

数産業が変わっていくことになる。

 社会基盤とそれがもたらす経済効果に着目

した用語がいくつか出てきている。インターネッ

トエコノミー、シェアリングエコノミー、ソーシャ

ルエコノミーなどである。いずれも社会の変化

があり、ビジネスが変わり、経済に影響を与え

るという主張になっており、その中核にICTに

よる社会基盤が存在する。

 新しい社会基盤はそれ自体が変化を続けて

いるが、すでに出現しており、産業や企業が新

しい取り組みを進める際には、この社会基盤を

前提とし、利用することになる。新規事業を始

めるにあたっては、どういう顧客に向けてどの

ような事業を展開し、商品やサービスを提供す

るかを考え、社会基盤の上にすでにいる顧客群

とそのつながりを探し、社会基盤の一部として

提供されているアプリケーションやソフトウエ

アを組み合わせ、関連する情報やデータを共有

していく。こうしたアプローチによって、これま

でより早く、容易に事業を始められる。

 これは、資本、要員の数、ソフトウエアを開発

する力などが、必ずしも事業の成功要因では無

くなることを意味する。ソフトウエアはICT利

用に不可欠である一方、開発の遅れや失敗がし

ばしば起き、事業の障碍にもなってきたが、今

後はソフトウエアの位置付けが変わっていく。

事業全体、興そうとする「こと」から見れば、ソ

フトウエアは構成要素の一つに過ぎず、しかも

様々な手段で用意できる。投資能力や開発能力

の制約から解き放たれることになる。

 社会基盤の出現によるこうした変化は独自の

知財やアイデアを持つ中小企業や個人にとって

追い風となる。先に「小さな単位の活動が連携

し、産業を活性化させる動きが進む。個人のマ

イクロスタートアップ、コミュニティによる活動

がつながり、社会や産業を変えていく」と述べ

た。社会基盤によって、こうしたことが実現で

18 メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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きるようになる。

ソフトウエアも変化する

 新しい社会基盤とは、人と人のつながり、や

り取りされる情報、つながりとやりとりを支え

るICTを包含したものである。この仕組みは人

だけではなく、各産業界で使われる機器(ハー

ドウエア)と、それに指示を与えるソフトウエア

についても適用される。ハードウエアとソフト

ウエアの境界が無くなるとともに、ハードウエ

アとソフトウエアの柔軟性が高まる。

 素材や部品、原材料は製品の構成要素であ

るが、それらにソフトウエアを組み込むことで、

ハードウエアがインテリジェンスを持てるよう

になる。ハードウエアが自分自身の情報(デー

タ)を発信し、可視化が進む。ソフトウエアを更

新することで、ハードウエアの機能を更新した

り、複数のハードウエアを組み合わせたりでき

る。逆に、ソフトウエアとして提供されてきた

ものがハードウエアと一体になり、その存在が

あまり意識されなくなる。

 今後は、社会基盤やそこで使用される素材、

連携する事業によって、必要なハードウエアや

ソフトウエアを含む各種サービスが選択され、

組み合わせて使われるようになる。完成品の

メーカーや最終サービス企業が必要なハード

ウエアとソフトウエアのすべてを担うのではな

く、いたるところにハードウエアとソフトウエア

がすでにあり、それらが有機的につながり、顧

客や製品が発信する情報(データ)に基づいて、

最適のハードウエアとソフトウエアが用意され、

動くようになっていく。

 こうしたことが可能になるため、これからの

10年、ICT融合がもたらす変化は、これまでの

ICT利用における変化とはまったく違う意味

を持つ。すなわち、ICT融合のICTは、従来の

ICTとは別の性格を持つ。

 とはいえ、新しい社会基盤はここ10年ほどの

ICTの動きであるクラウド、モバイル、ソーシャ

ルなどを前提としている。これらの技術や仕組

みは、個人や企業から、処理能力や利用場所、

利用時間といった制約を取り払った。10年程度

をかけて、一定水準の基盤が出来上がってきた

のであり、不連続な技術が登場したわけではな

い。ICT産業界が頻繁に言葉を変えるために分

かりにくくなっているが、AI、IoT、ビッグデー

タなど非連続に見える技術は過去の取り組み

からの連続性を持っており。それらが積み重

なって基盤となり、価値を生み出している。

 社会基盤を支えるICTのトレンドについては

第11章で解説する。そこでは以下のようなキー

ワードが登場する。

・モバイルの普及とデバイスの多様化

・データの資産化とトラッキング社会

・人とマシンのコラボレーション

・データ駆動型システムとAI

・インタラクションとデータの多様化

・コミュニケーションの変化

・クラウドの進化とクラウドファースト

・APIエコノミーによる連携

・新しい実現方式-チョイス&カスタマイズ

・ハードウエアとソフトウエアの境界消失

10

「ICT融合新産業」とは何か:インテグレーションによる「ことづくり」

19メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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 ICT融合による今後10年間の産業変化を提

示するにあたって、本レポートは図10-3の価

値連鎖モデルを使用する。

 商品やサービスの利用者消費者に対し、商品

(サービス含む)が提供される。その商品を加工

し生産する工程があり、さらには原材料や素材

の調達がある。人と人のつながりを含む社会基

盤が、連鎖の各工程に影響を与え、工程を変化

させ、工程と工程の関連を変えていく。

 利用者消費者においては、「人と人のつなが

り」「働き方の変化」が生じる。市場の最前線に

おける人々の変化が各前工程にフィードバック

され、求める商品が変わり、作り方が変わり、

素材も変わっていく。 

 商品提供においては、保守サービスや故障診

断サービスまで含めて提供する「サービス化」

が進み、そのために商品の利用状況を記録する

「デジタル化」が進む。商品そのものがデジタル

(ソフトウエア)になることもある。素材や原材

料においてはIoTによって「可視化」が進み、素

材や原材料にデータを付加して提供する「サー

ビス化」が進む。

 これまでICTの利用範囲はもっぱら生産加工

工程の「自動化」「効率化」に留まっていた。こ

の領域におけるICT利用も引き続き進むが、よ

り大きな価値を創造するのは、図10-3の上段

に示したICT融合の取り組みになる。

 分かりやすくするために価値連鎖モデルの

用語に製造業のそれを用いたが、あらゆる産業

においても同じモデルが適用できる。医療を例

にとれば、利用者・消費者は患者、提供される

商品は医療行為になる。加工・生産とは医療技

術やそれを支える道具の開発になり、原材料・

素材には医薬品や医療技術に関わる基礎研究

などが該当する。患者の要求に応えるために、

医療行為、医療技術、医療の研究開発がそれぞ

ICT融合による産業変化

出所:著者が作成

図10-3 ICTが価値連載に与える影響

これから

これまで最前線からの

フィードバック最前線からの

フィードバック

人と人のつながり働き方の変化

 費

 用

サービス化デジタル化

 供

 品

自動化効率化

 産

 工

可視化サービス化

 材

原材料

20 メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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れ変化していく。

 患者が様々な情報を持つことで、医療に対す

る要求は変わっていく。求められるのは、健康

な生活を送ることであり、そうなると医療行為

に留まらず、予防や介護のサービスが求められ

てくる。価値連鎖の中に、医療機関に加え、介

護や健康関連のサービス企業が登場してくる。

また、最前線においては患者同士、患者と健常

者のコミュニティも形成される。

八つの産業の10年後を展望

 ICT融合の進み方は産業ごとに異なるが、あ

えてパターンを見出すとすると、産業内の融合

がまず起こる。価値連鎖のつながりが密になり、

不要な工程が無くなる。一方、産業ごとに分断

されていた工程が、社会基盤を通じて融合し、

国や地域、業界の境界を越えたり、製造と販売

といった流通単位が崩れ、主客転倒が起きたり

する。

 産業像を予測するにあたり、本レポートは産

業を以下の八つに分けた。

・移動(運輸・交通・輸送機器)

・健康(医療・介護・ヘルスケア)

・農林(農業・漁業・林業)

・金融(銀行・証券・保険・FinTech)

・公共(公務・公益)

・生活(旅行・エンタテインメント・メディア)

・流通(小売・卸・消費財メーカー)

・製造(組み立て・プロセス・建設)

 ICT融合による変化が顕著なものから並べ

てある。筆頭の「移動」には運輸や交通といっ

た産業に加え、自動車など輸送機器メーカーを

含めている。自動運転技術により、移動のあり

方は今後大きく変わり、産業構造も変化する。

 移動に加え、健康(医療・介護・ヘルスケア)、

金融(銀行・証券・保険・FinTech)はいずれ

も人(利用者消費者)に近い産業である。ICT融

合は利用者消費者を起点とするため、顧客に直

結する産業はいち早く影響を受ける。農林(農

業・漁業・林業)のような一次産業はもともと

人に近い産業であった。

 移動と金融はかねてよりICTの利用が進ん

でいたが、移動には自動運転、金融にはブロッ

クチェーンといった新しい技術が到来しつつあ

る。健康と農林におけるICT利用はこれまで限

定的であったが、それだけにホワイトスペース

が広く、最新ICTを展開しやすい。メガトレン

ドから見ても、健康と農林は注目産業である。

ICTによって大きく変わると見られる、これら

の産業が、ICT融合とICT進化を牽引する。

 公共(公務・公益)、生活(旅行・エンタテイ

ンメント・メディア)もICT融合が期待される

分野であるが、将来像を予測しづらいところが

ある。移動、健康、農林、金融の場合、どのよう

な産業に再定義されていくか、焦点を絞りやす

いが、公共や生活は幅が広いこともあり、再定

義がなかなかやりにくい。

 流通(小売・卸・消費財メーカー)と製造(組

み立て・プロセス・建設)はもともとICTがか

なり使われてきた産業である。ただし、事業の

仕組みや業界構造、商品などが確立しているこ

ともあって、他の産業ほどには産業融合が進み

にくい。消費財メーカーは製造業だが、いわゆ

るBtoC型であり、顧客に近い。顧客起点のICT

融合に関わっているため、流通産業に分類した。

企業向けのBtoB型製造業はそのまま製造産業

に分類した。

ICT融合のプレーヤーが変わる

 八つの産業の他に、いわゆるICT産業がある。

10

「ICT融合新産業」とは何か:インテグレーションによる「ことづくり」

21メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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コンピューターメーカー、ソフトウエアメーカー、

システムインテグレータと呼ばれるソフトウエ

ア開発サービス企業といった従来からある企業

に加え、インターネットサービスやモバイル機

器メーカーの分野で新興企業が登場している。

 こうした企業群がICT利用を支えているが、

ICT産業すなわちICT融合の担い手かというと

そうではない。Appleはモバイル機器を製造・

販売する製造業であるが、音楽や映像コンテン

ツを提供するサービスまで手掛けているから生

活(旅行・エンタテインメント・メディア)産業

にも位置付けられる。Amazon.comはICT関

連サービスに乗り出し、ICT企業と呼ばれるこ

とが多いが、あくまでも流通(小売・卸・消費

財メーカー)の企業である。もっともAmazon

は移動や生活の産業分野に進出しつつある。

 今後、ICTのユーザー、サプライヤー、ベンダー

といった区別そのものが無くなる。既存のICT

企業は八つの産業分野に進出するか、あるいは

八つの産業に部品や素材を提供するまったく

の黒子になっていく。部品や素材がソフトウエ

アであることもあるが、多くは汎用部品になり、

個別企業からソフトウエアを受託して開発する

事業は縮小していく。

 前述の通り、ソフトウエアは様々な手段で調

達できるようになるため、ソフトウエア開発能

力は大きな制約ではなくなる。個別企業に営業

をかけ、提案を出し、ソフトウエア開発を受託

する、といった従来型の事業は残るとはいえ、

成長産業とは言えなくなる。

22 メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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 第10章のまとめとして、本レポートにおける

ICT融合新産業の予測方法を図10-4に示す。

【ニーズの未来予測】

 今後10年、社会や産業界に変化をもたらすト

レンドを予測した『メガトレンド2016-2025 全

産業編』にまとめられた50のテーマから、ICT

にインパクトを与えるであろうテーマをニーズ

(一部シーズ含む)として抽出、それらを産業別

に整理した。

 『全産業編』(50テーマ)の中から、ICTとの関

わりが大きい20テーマを第一分冊(第1章から

第9章)にまとめた。

【シーズの未来予測】 

 テクノロジーに関する未来予測レポートであ

る『テクノロジー・ロードマップ2016-2025 ICT

融合新産業編』から、ICT融合にインパクトを

与えるであろうシーズを抽出した。

 さらに『日経BPテクノインパクトプロジェク

ト』からもICT関連のシーズおよび応用例を抽

出した。同プロジェクトは日経BP社の技術専門

誌の記者200人が将来有望なテクノロジーを洗

い出す活動である。

【ニーズとシーズの未来予測】

 上記のやり方で選んだニーズとシーズを突き

ICT融合新産業の予測方法

出所:著者が作成

図10-4 ICT融合による産業変化の予測方法と本書の構成

(抜粋を第1章~9章に掲載)

移動(運輸・交通・輸送機器)健康(医療・介護・ヘルスケア)農林(農業・漁業・林業)金融(銀行・証券・保険・FinTech)

公共(公務・公益)生活(旅行・エンタテインメント・メディア)流通(小売・卸・消費財メーカー)製造(組み立て・プロセス・建設)

第13章 第14章

第15章

第11章

ニーズの未来予測シーズの未来予測メガトレンド

2016-2025 全産業編

ICT融合による産業変化

ICT融合の本質

ICT産業の変化

ICTトレンド分析

第12章

社会基盤の変化

テクノロジー・ロードマップ2016-2025

ICT融合新産業編

ICTがインパクトを与える業種別ニーズ&シーズ

10

「ICT融合新産業」とは何か:インテグレーションによる「ことづくり」

23メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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合わせ、ICTがインパクトを与える産業別のニー

ズ&シーズを抽出した。

【ICTトレンドと社会基盤の枠組み 】

 多種多様なICTによって、あらゆるものがつ

ながり、可視化され、相互評価と選別が起きる

仕組みを整理した(第11章に掲載)。

 ICT融合をもたらす社会、経済、人の活動の

変化を展望、社会基盤として整理した(第12章

に掲載)。

【ICT融合による産業変化の予測】

 抽出した産業別のニーズ&シーズに、ICTと

社会基盤がもたらすICT融合の仕組みを当て

はめ、今後10年に起きる融合のパターンを予測

し、融合の例と10年後のプレーヤーの姿を記述

した(第13章に掲載)。

 すでに起きている現在の事例の中から、ICT

融合のあり方がうかがえるものを例として選

び、表にまとめた。

 産業群は次の八つである。

・移動(運輸・交通・輸送機器)

・健康(医療・介護・ヘルスケア)

・農林(農業・漁業・林業)

・金融(銀行・証券・保険・FinTech)

・公共(公務・公益)

・生活(旅行・エンタテインメント・メディア)

・流通(小売・卸・消費財メーカー)

・製造(組み立て・プロセス・建設)

 八つの産業の予測とは別途、コンピューター

メーカー、ソフトウエアメーカー、システムイン

テグレータ、インターネットサービスなど、ICT

産業について将来を展望した(第14章に掲載)。

【ICT融合の本質】

 最終章である第15章で、ICT融合新産業の予

測結果を整理し、ICTが産業にもたらす状態変

化を総括した。状態変化として次のようなキー

ワードがある。

・統合とインテグレーション

・新しい働き方-社会基盤を活かす

・就業年齢とワークスタイルの変化

・事業/顧客視点によるリデザイン

・垣根を越えたコラボレーション

・プロシューマー、中小が牽引

・流通/組織構造の変化、小さな活動単位

・実現スピードの加速

・デザインとプロデュースの重要性

・ICT融合の起点〜顧客視点と使い勝手

【本レポートの使い方】

 ICT融合による産業の変化について、第13章

でパターンと典型的例をまとめたが、各産業に

おけるすべての変化を洗い出したわけではな

い。各産業の企画者、戦略立案者はパターンを

参考にしつつ、自社の持つシーズと第一分冊に

まとめたニーズ(メガトレンド)をかけ合わせる

ことで、各社各事業ごとのICT融合の未来を見

通せるだろう。

24 メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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産業の再定義・モバイルスペース産業 今後10年間、自動車メーカーなど輸送・移

動機器の製造業、鉄道やバス、タクシー、航空

会社など交通機関、宅配便など運輸会社、これ

ら「移動」に関わる産業において、ICT融合が

進み、従来の産業の枠を超え、「移動産業」が出

現する。移動させる対象は人やものに留まらな

い。自動運転技術により、「生活空間」あるいは

「仕事空間」を移動させることができる。以下で

は、空間を動かす新たな移動産業を「モバイル

スペース産業」と呼ぶ。

 自動運転が可能になると、その移動機器に

乗って移動している人は機器の中で食事をし

たり、読書をしたり、買い物をしたり、生活が

できる。資料を作ったり、同僚と会議をしたり、

製品を設計し開発したり、仕事ができる。

 生活空間あるいは仕事空間として移動できる

のであれば、複数の交通手段を組み合わせる

のではなく、自動運転車など一つの移動機器に

ある程度の時間、乗り続けることを選ぶように

なっていく。さらに、自動車、電車、バス、コミュー

ターなどの自動化と相互の位置情報交換が進

み、複数の交通手段をシームレスに利用できる。

自動車と電車を乗り継ぎ、目的地に着いた時に、

そこで使う資料の作成を終えていた、といった

ことが可能になる。

 このように、膨大な数の動く生活あるいは仕

事の場、モバイルスペースが出現する。こうし

たモバイルスペースに向けて、様々なビジネス

が成立するため、膨大な派生産業が創出される

だろう。

 可能なら移動時間をもっと生活や仕事にあて

たいという人々や企業のニーズは相当ある。自

動運転の実現により、これまで移動が難しかっ

た人も、外に出かけやすくなる。自動運転環境

が斬新かつ魅惑的な生活体験と仕事体験を提

供するため、人々の行動基準は積極的に移動す

るように変わっていく。生活や仕事の時間配分

も大きく変化する。移動がもたらす一連の変化

は既存の全産業に影響を与える。ビジネスをし

ていく以上、何らかの形でモバイルスペースに

関わらざるを得なくなる。

移動産業はAR産業に

 自動運転については第一分冊第7章(項目15

「自動運転車」で展望されている。ここで重要な

のは、ICTによって「現実の活動を強化すると

いう意味で(自動運転を)ARの一種と見ること

ができる」点である。

 ARはAugmented Realityの略で拡張現実

と訳される(項目14「AR(拡張現実」)。ARと

言うと、現実の風景をスマートフォンを通して

観る場合、風景に関連する情報が重ねて投影

される実験事例が説明に使われることが多い。

ただし、それは狭義のARである。

 現実世界にICTによる仮想世界を重ね、現実

世界における人に豊かな体験を届ける取り組

みはすべてARと呼んでよい。モバイルスペー

スはまさにARの典型と言える。移動機器や移

動という現実に、生活空間や仕事空間をICTに

よって重ね合わせるという点でICT融合の典型

でもある。

(1ページ目をサンプルとして掲載しています)

移動(運輸・交通・輸送機器)

13

ICT融合による産業変化:再定義される産業群

53メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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産業の再定義・QoL産業 ICT融合の進展により、すべての産業の再定

義が進み、従事者の役割が変わっていく。産業

自体が再定義を進め、それをICT融合によって

後押しする場合もある。

 医療や介護については“QoL(Quality of

Life)”という再定義がすでにある。一人ひとり

のQoL、すなわち生きていくことの質を高める。

それが医療行為や介護行為の目的である。QoL

を高めるために、予防を含むヘルスケア、医療、

介護が連携し、それをICTが支援する。ヘルス

ケア、医療、介護の垣根が下がり、ICT融合の

末に健康産業は「QoL産業」として発展する。

 QoLを軸に、ヘルスケア、医療、介護のサイ

クルがシームレスにまわるようになる。ICTは

ヘルスケア、医療、介護の行為そのものを支援

する。各行為のあらゆる場面で情報(データ)を

把握、共有し、AI(人工知能)も動員して分析、

意思決定を支援し、各行為を変えていく。患者

の表情を動画像を使って記録するなど、扱う情

報に「感覚」も含まれるようになる。

 同時に、各行為に直結する手技、医療機器、

義手や義肢、医療や介護ロボット、創薬にも

ICTは関わり、これらの間にもシームレスなつ

ながりを実現していく。個々人のQoL向上にと

どまらず、新興地域や過疎地におけるQoLの向

上、社会のQoL向上を目指す。地域における疾

患分布に変化が生じ、持病や障碍を持つ人た

ちの社会参加が進む。

 Lifeに関わる以上、新しい取り組みをするに

は許認可、運用ルールの設定、利用者の意識改

革が必要になるが、そうした制約を織り込んだ

としても、今後10年を展望するなら、QoL産業

を生み出すICT融合の広がり、深さ、そして進

展の早さは他のどの産業をも上回るだろう。

 高齢化社会へ向かう中で医療や介護の高度

化・効率化は喫緊の課題であり、市場規模も大

きいからである。ICTにとってのホワイトスペー

スも広い。これまでのICTはもっぱら、医療や

介護行為が終わった後の事務処理を中心に使

われてきた。

人が起点になりサービスがシームレスに

 ヘルスケア、医療、介護がシームレスに連携

する価値連鎖を考えると起点は当然、人になる。

図13-2で示す「利用・消費」のところにいる健

常者や患者に対し、「商品・提供」として医療や

介護行為がある。準備段階に当たる「加工・生

産」は医療や介護の手法を開発、用意すること

を意味する。健康産業、QoL産業のICT融合に

おける「原材料・素材」はもっぱらデータベース

になる。個々人の健康情報、医療行為やその結

果の情報が蓄積し、それらを分析、診断支援や

新薬の開発に役立てる。

 ICT融合は人に近いところから始まる。生活

の各シーンから、QoL産業へすぐにつながるよ

うにすることが第一歩になる。

 体調不良を感じたとき、スマートフォンに自

覚症状をつぶやき、検索してみる。説明を読ん

で不安になったら、そのまま医療カウンセラー

や医師につなぎ、動画を介して相談する。必要

があれば診療予約をしたり、病院まで連れて

(1ページ目をサンプルとして掲載しています)

健康(医療・介護・ヘルスケア)

13

ICT融合による産業変化:再定義される産業群

63メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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 「農業は成長産業」というスローガンはかねて

より掲げられており、政府が産業振興策を練る

際に農業は必ず入ってくる。ここでは農業に漁

業、林業などを加えた一次産業を「農林」とし、

ICT融合がもたらす将来像を展望する。

 ICT融合が農林産業にもたらす価値連鎖の

変化を図13-3に示す。農林の場合、「商品・提

供」はそれまでとそう大きくは変わらない。遺

伝子組み換えも含め、品種改良が進んでいると

はいえ、提供するものは農作物であり海産物で

あり木材であり続ける。商品は不変であっても、

それを購入する「利用・消費」、商品を用意す

るための「加工・生産」と「原材料・素材」につ

いては、ICT融合によって変化がある。

 一次産業である農林が二次産業(食品メー

カーなど)あるいは三次産業(流通業など)と連

携することを「六次産業化」と呼ぶ。それでも

提供する商品が一変するわけではない。ICT融

合によって取り扱う商品やサービス自体が変化

する可能性がある二次産業や三次産業とはそ

の点が異なる。

 ICT融合によって、農林産業は最前線の産

業として再定義される。最前線とは、活気があ

り、若者が関心を抱き、ビジネスとして成長し、

関わるプレイヤーが増えていくという意味であ

る。農業は都市部でも展開できるようになり、

若者たちが参加する仕事の一つになる。六次産

業化が進み、関わる企業や組織が増えていく。

人々の意識が変化した

 商品が変わらないにも関わらず最前線の産

業になる理由の一つは人々の意識の変化であ

る。オーガニックがキーワードになり、人々の生

活において、自然保護や食生活、地球環境への

(1ページ目をサンプルとして掲載しています)

農林(農業・漁業・林業)

出所:著者が作成

図13-3 ICTが農林産業の価値連鎖に与える変化の例

これから

これまで最前線からの

フィードバック最前線からの

フィードバック

人と人のつながり働き方の変化

 費

 用

サービス化デジタル化

 供

 品

自動化効率化

 産

 工

可視化サービス化

 材

原材料

●消費者生産者の直結 ●需要をとらえた食材●六次産業化●トレーサビリティ

●育成の“レシピ”共有●消費者ニーズのデータ利用

●スマート農林業●クラウドによるデータ利用支援●ロボット利用●若手とベテランの協業

13

ICT融合による産業変化:再定義される産業群

69メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

Page 23: 特別編集版 - Nikkei BP M · 7.クラウドの進化とクラウドファースト 8.apiエコノミーによる連携 35 9.新しい実現方式—チョイス&カスタマイズ

産業の再定義・金融サービス産業 ICT融合によって最も変貌する産業は金融

サービスである。変貌とは文字通り、姿形を変

えてしまうことを指す。

 姿形を変える理由は既存の金融機関が持っ

ていた金融機能の「アンバンドリング」と「リバ

ンドリング」が進むからである。

 アンバンドリングとは不要な機能を取り外す

こと。機能を絞り、スリムな体制になって事業

を展開する既存の金融機関があれば、専門特化

型のスタートアップも登場する。

 リバンドリングとは必要な機能を組み合わせ

ること。銀行が保険の機能を、保険が銀行の機

能を組み込むこともあれば、ある金融機能を他

業種の企業が取り入れ、新規参入することもあ

る。

 以下では「金融サービス」あるいは「金融サー

ビス産業」という表記に統一する。現状の業法

で規定された銀行、保険、証券、カードやロー

ンなどノンバンク業務といった境目は今後、有

名無実になっていくからである。

 「サービス」には従来の金融業務に留まらな

いという意味を込めている。今後、金融を手掛

ける事業者は、個人利用者または法人利用者が

求める金融機能を提供するだけではなく、その

金融機能を使って利用者が実現したい目的そ

のものを支援するようになっていく。言い換え

ると単なる機能提供だけでは付加価値が無い。

 例えば、第一分冊の項目11「保険・金融業化」

で見た通り、製造業をはじめとする他産業の

サービス産業化が進み、その際に金融機能をバ

ンドルするようになっていく。バンドルにあたっ

ては他業種が担当者と情報システムを自前で用

意することもあるし、既存の金融サービス産業

(1ページ目をサンプルとして掲載しています)

金融(銀行・証券・保険・FinTech)

出所:著者が作成

図13-4 ICTが金融産業の価値連鎖に与える変化の例

これから

これまで最前線からの

フィードバック最前線からの

フィードバック

人と人のつながり働き方の変化

 費

 用

サービス化デジタル化

 供

 品

自動化効率化

 産

 工

可視化サービス化

 材

原材料

●電子ウォレット●クラウドファンディング

●ニーズに合わせたセグメント化●体験提案の再重視

●データ利用による格付け、 株価予測●セキュリティ●リスク管理

●アンバンドル&リバンドル●ユーザーインタフェース改善

●既存システムの低コスト化

13

ICT融合による産業変化:再定義される産業群

75メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

Page 24: 特別編集版 - Nikkei BP M · 7.クラウドの進化とクラウドファースト 8.apiエコノミーによる連携 35 9.新しい実現方式—チョイス&カスタマイズ

 「公共(公務・公益)」の変化には他の領域と

大きく異なる点がある。既存のサービスがICT

融合によって変化するというより、これまでな

かった新サービスが続々と登場してくると見

込まれるからである。本レポートで取り上げる

産業分野の中で最も新規参入の余地があると

言ってよい。

 「公共(公務・公益)」と言った場合、国家公

務(立法機関、司法機関、行政機関)、地方公務

(都道府県機関、市町村機関)、そして公益法人

やNPO法人を指すが、ここでは社会に資する

サービスを提供する活動全般を含めて将来を

展望する。NPOやNGO、社会起業と言われる

スタートアップの諸活動に加え、営利企業が始

める新事業で既存の産業分野に入らないもの

も入ってくる。

 以上を諸団体が取り組む事業を総称して「パ

ブリックサービス(公共サービス)」と呼ぶこと

にする。「これまでなかった新サービスが続々と

登場してくる」ので、「新」あるいは「2.0」を付

けてもよいかもしれない。

新パブリックサービスの価値連鎖

 図13-5に示す通り、新たなパブリックサービ

スが創出されるメカニズムは他の産業と同じで

ある。インターネットが生み出した仕組みを利

用し、利用者・消費者が互いにつながり、必要

があれば自らデータを入力したり、クラウドソー

シングに参加し、自身の能力を提供したりする。

こうした最前線の変化がパブリックサービスの

各工程に影響を与える。

 提供するサービスを用意する「加工・生産」

の工程では、インターネットを利用し、専門家

同士、協力者同士のつながりができる。サービ

(1ページ目をサンプルとして掲載しています)

公共(公務・公益)

出所:著者が作成

図13-5 ICTが公共サービスの価値連鎖に与える変化の例

これから

これまで最前線からの

フィードバック最前線からの

フィードバック

人と人のつながり働き方の変化

 費

 用

サービス化デジタル化

 供

 品

自動化効率化

 産

 工

可視化サービス化

 材

原材料

●利用者がデータ入力●クラウドソーシング

●法務●研究開発●調査●安全対策

●TV放送の画像●SNSのコメント

●専門家ネットワーク●協力者の組織化●各種データ収集

●Webによる公共サービスの効率化

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ICT融合による産業変化:再定義される産業群

85メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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 旅行、エンタテインメント、メディア産業を

まとめて「生活産業」とする。意図したのは

「QoL(Quality of Life)を追求する産業」という

ことである。QoLは医療やヘルスケアの世界で

よく使われる言葉だが、健康を保つことはQoL

の必要条件であっても十分条件とは言えない。

 充実した日々の生活を送り、生き甲斐を感じ

るには何かが必要である。人がその何かを手

にできるように支援することはビジネスにな

る。「健康(医療・介護・ヘルスケア)」をQoL産

業と呼んだが、以下で展望するのはもう一つの

QoL産業と言える。

 そこには旅行やエンタテインメントのような

体験をもたらすビジネス、メディアのように疑

似体験あるいは情報を提供するビジネスが含

まれる。「体験提供産業」あるいは「広義のエン

タテインメント産業」と呼んでもよい。また、何

かを学んだり、誰かに貢献する体験に充実感を

抱く人もいる。こちらについては前出のパブリッ

クサービスと重なるところがある。

高齢化への対策が急務

 生活産業の将来を考えるにあたっては、顧客

として高齢者を意識する。「現在の日本が抱え

る課題を1つだけ述べよと問われるとしたら、

それは間違いなく国家の急激な老衰化問題だ

と言い切ってよい」(第一分冊第1章「先進国の

本格的老衰:成熟がもたらす新市場」総論)か

らである。老衰化問題には少子高齢化に加え、

「社会インフラや自治体そのものの仕組み」の

老朽化を含むが、なんといっても高齢化への対

策が急務であり、需要がある。

 高齢者あるいは近い将来高齢者になる人々

のQoLを支えるビジネスはICT融合によって、

さらに豊かな体験を提供できるように発展し

ていく。生活の充実には、心が躍る体験、参加、

ふれあい、交流が求められる。生活産業は魅力

ある体験というコンテンツを用意し、参加者の

コミュニティをつくるものになる。

 同時に参加者同士あるいはまだ参加してい

ない人に対するコミュニケーションを支援して

いく。コンテンツがリアルであれ、ヴァーチャ

ルであれ、人々を巻き込み、つないでいく際に

ICTは力を発揮する。

ICTが生活産業の価値連鎖に与える変化

 ICTが生活産業の価値連鎖に与える変化を

図13-6に例示した。生活産業が顧客(利用者

消費者)に提供する商品は体験というコンテン

ツである。ざっと挙げるなら、旅行、観光、山歩き、

散歩、スポーツ(自ら運動する)、スポーツ観戦、

コンサート参加、映画やテレビ番組の鑑賞、買

い物、会食、読書、創作、ゲーム、工作、庭造り、

学び、社会貢献活動、ペット愛玩、何でもよい。

 ICTを使うことで「商品・提供」にあたって、

コンテンツの魅力を高められる。例えば顧客

が喜ぶであろうコンテンツを推奨するリコメン

デーション、スポーツの観戦時に楽しみが増す

ようなデータを提供する、といったことにICT

は使える。

 こうするためには顧客の利用情報を収集、分

析しておく必要がある。これが生活産業におけ

(1ページ目をサンプルとして掲載しています)

生活(旅行・エンタテインメント・メディア)

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ICT融合による産業変化:再定義される産業群

91メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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 流通産業とは利用者消費者が欲しい商品を

提供する企業群である。通常、流通産業と言え

ば小売業と卸業を指すが、消費財メーカーも含

めて将来像を展望する。小売業が商品の開発・

製造まで手掛ける。消費財メーカーがeコマー

ス(電子商取引)を通じて顧客に直販する。こう

した動きが出ているからである。

 モバイルやソーシャルネットワーク、そして

eコマースサイト上でやり取りされる情報群が

新たな社会基盤の一つになり、利用者や消費者

に力を持たせている。商品の動向、特徴、欠点、

評判などを利用者や消費者は瞬時に知り、それ

らを踏まえて行動する。しかも「スマートフォン

だけで手続きを済ませる」「商取引の流れが画

面から見られる」というeコマースを体験し、そ

れに慣れてしまった。米国においてはインター

ネット関連の広告費がテレビコマーシャルを抜

くと言われている。

 こうした状況下で流通産業が取り組むハード

ルは年々高くなっていく。先進国においては大

抵の商品が行き渡ってしまい、情報という力を

得た消費者はよほどの特徴か魅力がない限り、

新商品が出たと聞いても飛びつかない。その一

方でいったん欲しいと思った消費者は直ちにそ

れを入手し、使いたいと欲する。望まれる商品

を出し、しかも迅速に届ける。古くて新しい課

題に流通産業は改めて直面している。

 「消費者はどこまで高額の商品をeコマース

で買うのか」あるいは「eコマース対リアル店舗」

という議論はもうない。高級ファッションブラ

ンドの新作が発表されると、ショーの模様が動

画で配信され、それを見ながら商品をeコマー

スで発注できる時代になった。世界最大の小売

業であるWalmartはeコマースの有望株と言

われたJet.comを買収。一方、Amazon.comは

2000店近いリアル店舗を展開しようとしている。

 オムニチャネルという言葉を持ち出すまでも

なく、消費者利用者に一番近いスマートフォン

を窓口にしてネットを使い、そこにリアル店舗

を組み合わせ、魅力的な利用体験をどうつくり

出していくか、その競争が流通業の姿を変えて

いく。

流通産業の価値連鎖にICTが与える変化

 流通産業における価値連鎖にICTが与える

変化の例を図13-7に示す。情報によって力を

得た「利用・消費」をする人々は、自分が気に

いった商品を題材にして交流するコミュニティ

を作り、さらには自ら商品を企画、創り出すよ

うになる。

 「商品・提供」においては「社会接点化」や

「ミッションベースの商品」といったキーワード

が重要になってくる。これには社会全体のメガ

トレンドが影響している。社会に役立つ、自然

に優しい、といったコンセプトの商品が共感を

集める時代に入った。こうしたトレンドに情報

力を持つようになった利用者や消費者が呼応

する構図ができている。

 「加工・生産」には商品そのものに加え、店舗

設計や物流整備も含む。そのために異業種間あ

るいは大手とスタートアップのコラボレーショ

ンがますます増えていく。例えば量販店や通販

(1ページ目をサンプルとして掲載しています)

流通(小売・卸・消費財メーカー)

96 メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.

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 「製造(組み立て・プロセス・建設)」産業と

は法人向け(BtoB)のものづくり産業を指す。

本レポートでは自動車をはじめとする輸送機器

メーカーを「移動」産業に、衣料、雑貨、食品な

ど一般消費者向け(BtoC)メーカーを「流通」産

業に、それぞれ分類している。

 製造産業とICTの関連については2016年ま

での数年間で様々な話題が出てきている。ドイ

ツのIndustry4.0、米GEのIndustrial Internet、

あるいは3Dプリンティング、IoT、AI、デジタ

ルファブリケーション等々。「ドイツや米国に比

べて日本は出遅れている」という指摘がある一

方、「工場の生産性向上は常にやってきた」「FA

機器を通じてデータは十分集めている。今さら

何をするのか」と疑問視する声もある。

メガトレンドを知る

 製造産業の将来を展望するためには、他の産

業と同様、ICTの動向を知る前に社会のメガト

レンドを把握し、自社が属する業界にどう影響

してくるかを考える必要がある。

 第一分冊の第6章『ポスト工業化社会の実像:

「人の心を算出する」機能の商用化』と第7章『リ

アルとバーチャルの相互連動:脳から都市まで

スマート化が加速』には、特に製造産業に関係

するメガトレンドが詳述されているので参照い

ただきたい。

 メガトレンドを踏まえ、今後10年を展望する

際、製造産業の再定義につながるキーワードを

三つ挙げると、「スマート化」「オープン化」「サー

ビス化」の3点になる。これらのいずれについて

もICTは関わり、寄与していく。

スマート化:

 スマート化はデジタル電装化と言い換えられ

る。人間や自然環境から製品やインフラなど人

工物に至るまで、様々な対象の情報を収集し、

それらを利用して、新たなサービスを実現し、

生産性を向上させる。

 スマート化を進めていくと、製造産業は人間

そのものに肉薄していくようになる。その傾向

はBtoCのメーカーにおいて顕著だが、BtoCの

製造業においても、工場内の工員の動きや、都

市の住民の振る舞いを把握する必要があり、人

間により近づいていく。

 人に肉薄するために、センサーやカメラを

使って活動データを集める、ソーシャルネット

ワークに当人が発信した情報を集約する、と

いった手段がある。今後は人間の脳と直接コ

ミュニケーションする技術が使われるようにな

る(項目17「『脳直』コミュニケーション」参照)。

 第一分冊第7章『リアルとバーチャルの相互

連動:脳から都市までスマート化が加速』や項

目14「AR(拡張現実)」に述べられている通り、

集めたデータの分析、動画像の解析、AIによる

学習と自動判断といったICTが使いやすくなり、

スマート化が進んでいく。

オープン化: 

 一企業内、一つの企業系列内にとどまらず、

異業種や顧客と共に、ものづくりをする動きが

進む。オープン化もBtoCのメーカーから始まる

が、BtoBの製造産業においても重要な取り組

(1ページ目をサンプルとして掲載しています)

製造(組み立て・プロセス・建設)

13

ICT融合による産業変化:再定義される産業群

101メガトレンド 2017-2026 [ICT融合新産業編] ©2016 Nikkei Business Publications, Inc., All Rights Reserved.