限局性結節性過形成 focal nodular hyperplasia...48 【症例背景とmri検査の目的】...

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48 【症例背景とMRI検査の目的】 40歳代 女性. 肝後区域に多血性腫瘍を指摘されたが確定診断が得られず, 8年にわたり経過観察が行われた. 経過中に明らかな増大はみられ ていない. 病理学的診断は得られていないが, 経過からは限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia FNH)が疑われた. ヨード造影剤 に対してアレルギーがあり, MRIのみで経過観察されていた. また, この経過観察期間中, SPIO造影MRIおよびGd-DTPAを用いたダイナミックスタディ(画像未提示)が行われている. EOB ・プリモビスト造影MRI 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 先端応用医学専攻 応用放射線医学分野 那須 克宏 先生, 学 先生 腫瘍は動脈相(e)で強い増強効果を示し, 門脈相(f)から造影剤投与後 180秒にかけて周囲肝と等信号に観察された(  ) . この時点までは腫瘍の内部にcentral scarや中心を貫くような血管は 確認できなかった. また, 経過観察期間中に施行したGd-DTPAを用いたダイナミック スタ ディの所見も, 上記の所見と同様であった(画像未提示) . 本症例から学ぶEOB ・プリモビスト造影MRIによるFNHの診断 EOB ・プリモビストは投与直後から肝細胞に取り込まれていくため, 従来の造影剤では考えられなかったような速度で血中濃度が低下していく . したがって, この造影剤には従来の細胞外液性造影剤にあった平衡相の概念は当てはまらないことがあると思われる. この特性は利点にも欠点に もなり得るが, 少なくともFNHの診断をする上では大きな利点であると考えられる. EOB ・プリモビスト造影MRIにおいては肝細胞造影相における 腫瘍へのEOB ・プリモビストの取込みにより腫瘍が肝細胞由来であることが証明できるだけではなく , 血中濃度の低下により腫瘍の内部を貫通する 異常血管を容易に認識できることになる. さらにはSPIO造影MRIでは得るのが難しかった高画質の動脈相によりこの腫瘍の特徴の一つである 多血性をも証明できる. すなわち, FNHの診断を得るのに必要な情報を全てEOB ・プリモビスト造影MRIから得ることが可能である. MRI SPIO造影前(a)と造影後(b)のT2強調画像を比較すると, 腫瘍には明瞭なSPIOの取込みを指摘できなかった(  ) . 腫瘍は, 拡散強調画像(c)でも明瞭な高信号を示し, 造影前T1強調画像(d)では不均一な低信号を示した(  ) . 非特異的な所見であり, この所見のみからはFNHと確定するのは難しい. 限局性結節性過形成 focal nodular hyperplasia FNH a)造影前T2強調画像 bSPIO造影T2強調画像 c)拡散強調画像 d)造影前T1強調画像 e)動脈相 f)門脈相 EOB ・プリモビスト造影MRI 肝細胞造影相(g)では腫瘍の実質に正常肝実質には及ばないものの均一 EOB ・プリモビストの取込みが確認され, さらに腫瘍の内部を貫通す る血管が明瞭に描出されており, この血管が肝門部から連続しているこ とが確認可能であった(  ) . この時点で血管内の増強効果がほぼ消 失していることに注目していただきたい. 肝細胞造影相(g )で 確 認で きた 血 管 は, minimal intensity projection像(h)を作成すると明瞭に観察可能であった(  . この血管が本当に動脈なのかについては議論の余地があるかもしれな いが, 臨床経過と併せて考えるとFNHの内部を走行する異常血管が 描出されたものと考えるのが妥当と思われる. g)肝細胞造影相 hMinimal intensity projection

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Page 1: 限局性結節性過形成 focal nodular hyperplasia...48 【症例背景とMRI検査の目的】 40歳代 女性.肝後区域に多血性腫瘍を指摘されたが確定診断が得られず,

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【症例背景とMRI検査の目的】40歳代 女性. 肝後区域に多血性腫瘍を指摘されたが確定診断が得られず, 8年にわたり経過観察が行われた. 経過中に明らかな増大はみられていない. 病理学的診断は得られていないが, 経過からは限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia:FNH)が疑われた. ヨード造影剤に対してアレルギーがあり, MRIのみで経過観察されていた.また, この経過観察期間中, SPIO造影MRIおよびGd-DTPAを用いたダイナミック スタディ(画像未提示)が行われている.

EOB・プリモビスト造影MRI

筑波大学大学院 人間総合科学研究科先端応用医学専攻 応用放射線医学分野 那須 克宏 先生, 南 学 先生

腫瘍は動脈相(e)で強い増強効果を示し, 門脈相(f)から造影剤投与後180秒にかけて周囲肝と等信号に観察された(  ).この時点までは腫瘍の内部にcentral scarや中心を貫くような血管は確認できなかった.また, 経過観察期間中に施行したGd-DTPAを用いたダイナミック スタディの所見も, 上記の所見と同様であった(画像未提示).

本症例から学ぶEOB・プリモビスト造影MRIによるFNHの診断 EOB・プリモビストは投与直後から肝細胞に取り込まれていくため, 従来の造影剤では考えられなかったような速度で血中濃度が低下していく. したがって, この造影剤には従来の細胞外液性造影剤にあった平衡相の概念は当てはまらないことがあると思われる. この特性は利点にも欠点にもなり得るが, 少なくともFNHの診断をする上では大きな利点であると考えられる. EOB・プリモビスト造影MRIにおいては肝細胞造影相における腫瘍へのEOB・プリモビストの取込みにより腫瘍が肝細胞由来であることが証明できるだけではなく, 血中濃度の低下により腫瘍の内部を貫通する異常血管を容易に認識できることになる. さらにはSPIO造影MRIでは得るのが難しかった高画質の動脈相によりこの腫瘍の特徴の一つである多血性をも証明できる. すなわち, FNHの診断を得るのに必要な情報を全てEOB・プリモビスト造影MRIから得ることが可能である.

MRI

SPIO造影前(a)と造影後(b)のT2強調画像を比較すると, 腫瘍には明瞭なSPIOの取込みを指摘できなかった(  ).腫瘍は, 拡散強調画像(c)でも明瞭な高信号を示し, 造影前T1強調画像(d)では不均一な低信号を示した(  ).非特異的な所見であり, この所見のみからはFNHと確定するのは難しい.

限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia:FNH)

a)造影前T2強調画像 b)SPIO造影T2強調画像 c)拡散強調画像 d)造影前T1強調画像

e)動脈相 f)門脈相

EOB・プリモビスト造影MRI

肝細胞造影相(g)では腫瘍の実質に正常肝実質には及ばないものの均一なEOB・プリモビストの取込みが確認され, さらに腫瘍の内部を貫通する血管が明瞭に描出されており, この血管が肝門部から連続していることが確認可能であった(  ). この時点で血管内の増強効果がほぼ消失していることに注目していただきたい.肝細胞造影相(g)で確認できた血管は , minimal intensity projection像(h)を作成すると明瞭に観察可能であった(  ).この血管が本当に動脈なのかについては議論の余地があるかもしれないが, 臨床経過と併せて考えるとFNHの内部を走行する異常血管が描出されたものと考えるのが妥当と思われる.

g)肝細胞造影相 h)Minimal intensity projection

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MRI

原発性肝癌

原発性肝癌

転移性肝癌

良性病変

補 

3T MRIを用いた肝血管腫の診断

【症例背景とMRI検査の目的】50歳代 女性. 子宮頸癌にて経過観察中, 腹部エコーにて肝腫瘤を指摘され, 肝血管腫が疑われ, CTおよびMRIが施行された.

鳥取大学医学部病態解析医学講座 医用放射線学分野 柿手 卓 先生, 藤井 進也 先生, 太田 靖利 先生, 金崎 佳子 先生, 松末 英司 先生, 神納 敏夫 先生, 小川 敏英 先生

 肝S4の典型的な肝血管腫の症例である. 特記すべき所見は, EOB・プリモビスト造影MRIの平衡相(f)にて濃染が認められない点である. 平衡相で濃染のみられない血管腫は存在するが, 本症例は同じ時間帯で撮像した造影CTでは濃染が確認されている. この違いは平衡相の段階ですでに肝細胞にEOB・プリモビストが取り込まれているため, 相対的に血管腫の造影効果が不明瞭化したものと考えられる.

造影前CT(a)では, 肝S4に低吸収結節を認めた(  ).造影CT(b)では, 肝S4に強い濃染を認めた(  ). 撮影時間は注入180秒後であり, EOB・プリモビスト造影MRIの平衡相と同じ時間帯であった.

脂肪抑制T2強調画像(c)では, 肝S4に分葉状高信号腫瘤を認めた(  ). 造影前T1強調画像(d)では, 肝S4に低信号を示す腫瘤を認めた(  ).

MDCT

EOB・プリモビスト造影MRI

EOB・プリモビスト造影MRIの動脈相(e)では, 肝S4腫瘤の右側に強い濃染を認めた(  ).門脈相(f)では, 肝S4腫瘤の造影効果が辺縁から内部に向かい増強していた(  ).平衡相(g)では, 肝S4腫瘤は周囲肝臓と同程度の造影効果を示し, 不明瞭であった(  ).EOB・プリモビスト造影MRIの肝細胞造影相(h)では, 肝S4の腫瘤は低信号を示し, EOB・プリモビストの取込みはみられなかった(  ).

 EOB・プリモビストは正常肝細胞に取り込まれる新しい肝細胞特異性造影剤である. 従来のガドリニウム造影剤からの誘導体であり, 撮像にはT1強調画像を用いる. この点が今まで使用されてきた肝特異性造影剤であるSPIO(超常磁性酸化鉄製剤)との大きな違いであり, 高いS/N比を持つ3T LAVAなどの3D-GREを用いることで従来の肝特異性造影剤では得られなかった高分解能画像を得ることができる.

 また, 投与初期は細胞外液性造影剤と同様の分布を示し, ダイナミック撮像をすることにより, 血流情報も得られる. ただし, ダイナミック平衡相撮像時にはすでに肝細胞内にも取込みが認められ, 肝実質の信号が上昇することにより, 血管腫などの遷延性濃染を呈する腫瘤が, 従来の細胞外液性造影剤より不明瞭になることがあるので注意が必要である. 血流情報, 肝細胞機能情報を高分解能で得られるEOB・プリモビストは今後の肝臓MRIの主流となるであろう.

まとめ

a)造影前 b)造影後 d)造影前T1強調画像

e)動脈相 f)門脈相 g)平衡相 h)肝細胞造影相(投与後20分)

c)T2強調画像

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【症例背景とMRI検査の目的】20歳代 男性. 主訴は肝機能障害で, CTにて肝臓に占拠性病変を疑われたため, MRI検査を実施した.確定診断名:脂肪肝

名古屋市立大学病院放射線科 佐々木 繁 先生, 下平 政史 先生 / 肝・膵臓内科 野尻 俊輔 先生

脂肪沈着の程度により肝細胞造影相での取込みの程度が異なったまだら脂肪肝の一例

 EOB・プリモビストは, 肝細胞に特異的に取り込まれるため, 肝腫瘍の診断に有用であるが, 偽陽性や偽陰性例があることがわかってきた. 偽陽性にはPV shunt, 偽陰性にはgreen hepatomaなどが報告されているが, 今回, 脂肪肝においても限局性の取込み不良がみられた.

SPIOにおいても脂肪肝への取込み不良が報告されているが, EOB・プリモビストも類似の所見であった. また, 脂肪沈着の程度によっても取込みに差があった. in phase, out of phaseのT1強調画像, さらにCTと併せて読影することにより診断は確実になる.

まとめ

MDCT

造影前CT(a)では肝S2から肝S4を中心に吸収値低下域を認める(29HU). また, 肝S1にも軽度吸収値低下域を認める(47HU). b~dの造影CTでは, これらの部位はそれぞれ29→36→72→56HU, 47→51→99→80HUと造影される. これらの部位では吸収値低下部位内に正常な脈管構造が同定される.

MRI

EOB・プリモビスト造影MRI

T1強調画像 in phase(e)ではCTで低吸収を呈した肝S2-4は高信号, 淡い低吸収を呈した肝S1は淡い高信号を呈す. T1強調画像 out of phase(f)では肝S2-4は強い低信号, 肝S1は低信号を呈す. 脂肪抑制T2強調画像(g)では肝S2-4は肝実質より軽度低信号, 肝S1は肝実質と同程度の信号を呈す.造影前脂肪抑制T1強調画像(h)ではout of phaseほどではないが, 肝S2-4は低信号, 肝S1は軽度低信号を呈す. 造影パターンはダイナミックCTと同様であり, 肝S2-4, 肝S1はその他の部位より造影効果が不良である(画像非提示). 肝細胞造影相( i)では肝S2-4は低信号, 肝S1は軽度低信号を呈すが, 造影前脂肪抑制T1強調画像より正常肝とのコントラストが明瞭であり, EOB・プリモビストの取込みの多寡を反映しているものと考えられた.CTで低吸収の部位は, T1強調画像in phaseで高信号を呈し, out of phaseで信号が低下していることより, 脂肪を含んでいることが示唆された.

a)造影前 b)造影CT動脈相 c)造影CT門脈相 d)造影CT平衡相

g)T2強調画像

i)肝細胞造影相

h)造影前脂肪抑制T1強調画像f)T1強調画像 out of phasee)T1強調画像 in phase