慢性腎臓病診療 tuneup...

6
慢性腎臓病(CKD)や糖尿病患者の増加に対し、国を挙げて様々な取り組みが進められているが、 微量元素である亜鉛の体内での動きがCKDの進行や病態を修飾していることは意外に知られて いない。とくに亜鉛の不足はCKDの重症化や患者さんのQOL低下に関連するといわれている。 CKDと亜鉛の関連、CKD患者における亜鉛の適切な管理のあり方などについて、腎・透析領域の エキスパートの先生方に話し合っていただいた。 秋澤 忠男先生 昭和大学医学部 腎臓内科 客員教授 司 会 柏原 直樹先生 川崎医科大学 腎臓・高血圧内科 教授 中元 秀友先生 埼玉医科大学 総合診療内科 教授 ●開催日─2019年8月9日 )  会場─グランドプリンスホテル高輪 ●開催日─2019年8月9日 会場─グラン ドプリンスホテル高輪 慢性腎臓病診療 Tune up 亜鉛 管理する

Upload: others

Post on 03-Mar-2020

4 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 慢性腎臓病診療 Tuneup 亜鉛を管理する慢性腎臓病(CKD)や糖尿病患者の増加に対し、国を挙げて様々な取り組みが進められているが、

慢性腎臓病(CKD)や糖尿病患者の増加に対し、国を挙げて様々な取り組みが進められているが、

微量元素である亜鉛の体内での動きがCKDの進行や病態を修飾していることは意外に知られて

いない。とくに亜鉛の不足はCKDの重症化や患者さんのQOL低下に関連するといわれている。

CKDと亜鉛の関連、CKD患者における亜鉛の適切な管理のあり方などについて、腎・透析領域の

エキスパートの先生方に話し合っていただいた。

秋澤 忠男先生昭和大学医学部 腎臓内科 客員教授

司 会

柏原 直樹先生川崎医科大学 腎臓・高血圧内科 教授

中元 秀友先生埼玉医科大学 総合診療内科 教授

●開催日─2019年8月9日(金)  ●会場─グランドプリンスホテル高輪●開催日─2019年8月9日(金) ●会場─グランドプリンスホテル高輪

慢性腎臓病診療のTune up亜鉛を管理する

Page 2: 慢性腎臓病診療 Tuneup 亜鉛を管理する慢性腎臓病(CKD)や糖尿病患者の増加に対し、国を挙げて様々な取り組みが進められているが、

わが国の慢性腎臓病(CKD)患者の現状と対策

秋澤 わが国のCKD患者は2005年の時点で1,330万人、成人人口の8人に1人とされ1)、厚生労働省は2007年に「腎疾患対策検討会」を開き、様々な対策を進めてきました。しかし、2017年の日本透析医学会の調査2)

では、透析患者は約33万5千人、国民378人に1人、新規導入患者は4万人を超えました。こうした状況から、2017年に第2次の腎疾患対策検討会が開かれ、柏原先生を委員長に、中元先生も委員として参加され、2028年までに新規導入患者数を3万5千人以下に減少させるとの数値目標が設定されました。同時に、もう1つの目標として、末期腎不全を含むCKD患者のQOLの維持・向上を図ることも掲げら

れました。このQOLに大きな影響を及ぼす要因の1つが亜鉛不足です。亜鉛不足はCKDの重症化にも関与しています。今回は、CKDにおける低亜鉛血症とその治療の意義について、柏原先生、中元先生にお話を伺いたいと思います。

CKDステージの進行に伴い血清亜鉛濃度が低下

柏原 秋澤先生がおっしゃったように、亜鉛をはじめとする微量元素の管理は、CKD患者のQOLの維持・向上にとって大変重要です。亜鉛不足による症状は、皮膚炎、貧血、味覚障害、倦怠感、消化器症状など、非常に多彩で、つかみどころがない(図1)3)。その

理由は、生体内の多くの酵素や蛋白がその立体構造維持・機能発現に亜鉛を必須としているからで、代表的なところではアルカリホスファターゼがそうですし、RNAポリメラーゼやDNAポリメラーゼなどの核酸を合成する酵素も亜鉛を必須としています(表1)3)。 日本人は基本的に亜鉛摂取量が少ないのですが、CKD患者ではさらに亜鉛が低下しやすい状態にあります。例えば、アルブミン尿に伴う低アルブミン血症が挙げられます。血中の亜鉛の大半はアルブミンに結合しているので、低アルブミン血症では亜鉛低下をきたしやすい。蛋白摂取制限など食事の問題もあります。また、腎機能低下それ自体も亜鉛の低下と関連しています。CKDステージと血清亜鉛濃度の関係をみた報告では、ステージの進行に伴い亜鉛が低下し、eGFRと亜鉛濃度との間にも、ほぼ直線的な正相関関係が見られます4)。 日本臨床栄養学会から亜鉛欠乏症の診断基準が出ています(4ページ参照)3)。この基準は、まず症状と検査所見から亜鉛欠乏症を疑い、次に血清亜鉛濃度を測定し、最後に亜鉛を補

3)児玉浩子ほか. 日本臨床栄養学会雑誌. 2018; 40: 120-167. より改変

3)児玉浩子ほか. 日本臨床栄養学会雑誌. 2018; 40: 120-167. より作図

1

図1 亜鉛の働き

表1 主な亜鉛酵素

秋澤 忠男先生

柏原 直樹先生

慢性腎臓病診療のTune up─亜鉛を管理する─

あらゆる器官や組織で多様な働きをする

作用細胞内局在合成・存在する主な臓器亜鉛酵素

脱リン酸化反応、骨代謝

蛋白代謝

蛋白代謝、窒素代謝

蛋白代謝

蛋白代謝

蛋白代謝

蛋白代謝

RNA合成

DNA合成

アルコールの酸化、アルデヒドの還元反応

糖代謝、ピルビン酸と乳酸の相互変換

糖代謝

糖代謝

二酸化炭素と炭酸水素イオンの相互変換

抗酸化作用、活性酸素抑制

細胞膜

刷子縁膜

ミトコンドリア

小胞体

液胞

刷子縁膜

ミトコンドリア

ミトコンドリア

サイトソール

ミトコンドリア

サイトソール

サイトソール ミトコンドリア細胞質

サイトソール

肝臓、骨、胎盤、小腸

小腸

肝臓

肝臓、腎臓、腸、膵臓

膵臓、肝臓、腎臓、小腸

小腸

肝臓

全ての臓器

全ての臓器

肝臓、胃、腸、腎臓

肝臓、心筋、骨格筋など殆どの細胞・臓器

心筋、肝臓、骨格筋、腎臓

筋肉、肝臓

赤血球

全ての細胞

アルカリホスファターゼ

アルカリプロテアーゼ

オルニチントランスカルバミラーゼ

ロイシンアミノペプチダーゼ

カルボキシペプチダーゼ

ジペプチダーゼ

グルタミン酸脱水素酵素

RNAポリメラーゼ

DNAポリメラーゼ

アルコール脱水素酵素

乳酸脱水素酵素

リンゴ酸脱水素酵素

アルドラーゼ

炭酸脱水酵素

スーパーオキシドジスムターゼ

口味覚の維持

皮膚皮膚代謝

生殖生殖機能

肝臓窒素・アンモニア代謝

代謝インスリン合成、膵β細胞からの

インスリン放出、糖代謝

精神精神・行動への影響

骨格骨格の発育

免疫免疫機能

酵素体内の300種類以上の酵素、サイトカイン、ホルモンなどの活性化●アルカリホスファターゼ●RNAポリメラーゼ●DNAポリメラーゼ

亜鉛欠乏症の特徴

Page 3: 慢性腎臓病診療 Tuneup 亜鉛を管理する慢性腎臓病(CKD)や糖尿病患者の増加に対し、国を挙げて様々な取り組みが進められているが、

充することで症状が改善すれば確定診断に至るという3段構えになっています。

透析患者の透析間体重増や貧血に亜鉛関与

中元 CKD患者では亜鉛が低下しやすいとのお話がありましたが、これが透析患者になると、その大半が亜鉛不足の状態にあるといわれています(図2)5)。透析患者では、蛋白制限のほか、食欲不振や吸収障害なども加わって亜鉛不足になりやすい。最近は

あまり使われなくなりましたが、リン吸着剤としてのカルシウム製剤による亜鉛の吸収抑制も知られています。かなり前のことですが、透析患者で、ひどく食欲が落ちて体重が減り、しかも透析間の体重増加が大きく、ドライウェイトまでの除水が困難な方がいました。調べてみると、亜鉛不足による味覚障害が原因でした。海外の報告ですが、血液透析患者77名において血清亜鉛濃度70μg/dL未満を亜鉛欠乏とする群と非亜鉛欠乏群に2分して、塩味への鋭敏さと塩味嗜好について検討した研究があります。塩味への鋭敏さが低い場合、塩味嗜好が高いことは両群で共通でしたが、塩味への鋭敏さが高い場合に、塩味嗜好は亜鉛欠乏群の方が非亜鉛欠乏群より高いことが示されました。高い塩味嗜好は透析間体重の増加につながるとされています6)。亜鉛不足でもう1つ問題になるのは貧血です。透析患者の

血清亜鉛濃度と貧血のパラメータの関連をみた報告7)では、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、網状赤血球のいずれもが血清亜鉛濃度と正の相関を示し、透析患者で亜鉛不足があると貧血の状態は不良であるとされています。これに対し亜鉛補充を行うと貧血が改善され4)、造血刺激因子製剤の使用

量も減少することが報告されています8)。亜鉛はそれ自体が赤血球の構成成分であるだけでなく、造血促進ホルモンの産生分泌に必要な細胞内の亜鉛濃度調節の仕組みにも関与していたり(図3)9)、赤血球分化に関わるEKLF(図4)10)やGATA-1などの転写因子に亜鉛を含むzinc finger構造11-13)を持っているなど、様々な面から赤血球産生に関わっています。

血清亜鉛濃度が低ければ早期に補充を開始

秋澤 治療についてお話しいただけますか。柏原 日本臨床栄養学会の亜鉛欠乏症の診療指針では、確診例はもちろん、診断基準の1~3を満たす「probable」の症例も亜鉛補充の適応になるとしています(4ページ参照)3)。注目したいのは腎不全を含め、亜鉛欠乏症をきたしやすい疾患で血清亜鉛濃度が低い場合は、亜鉛欠乏症状が認められなくても亜鉛補充を考慮してよい、としていることです(表2)3)。補充量は成人で1日50~100mgとされています。2017年3月からノベルジン®錠が低亜鉛血症に適応を持ったことで血清亜鉛濃度のコントロールはかなり行いやすくなったと思います。秋澤 亜鉛補充はいつ始めればよいとお考えですか。中元 全身倦怠感、食欲不振、貧血、血糖コントロール不良などは、どれも亜鉛欠乏症の可能性があるので、そうした症例には一度、血清亜鉛濃度を調べてみる意義があると思います。血清亜鉛濃度が低ければ、できるだけ早期に開始した方がよいと思います。秋澤 補充はいつまで続けるべきでしょうか。柏原 定まった考えはありませんが、定期的に亜鉛を測定しながら維持療法を行うという形でよいのではないかと思います。亜鉛は様々な要因に影響されるので、個別化治療、それぞれの患者さんに応じた投与量と投与期間を考える必要があると思います。

5)永野伸郎ほか. 透析会誌. 2018; 51: 369-377. より改変

2

※日本臨床栄養学会の「亜鉛欠乏症の診療指針」に準拠して、60μg/dL未満を亜鉛欠乏症とした。

図2 血清亜鉛値の度数分布ならびに血清亜鉛値で判定した亜鉛欠乏症※および潜在性亜鉛欠乏患者の割合

中元 秀友先生

51.0%(264例)

44.4%(230例)

4.6%(24例)

人数

(μg/dL)

(n=518)100

80

60

40

20

0

中央値(Q1-Q3); 59(52-67)μg/dL最頻値; 59μg/dL(n=25)非正規分布(p<0.001; Shapiro-Wilk検定)歪度; 0.712±0.107尖度; 1.466±0.214  Q1: 第1四分位  Q3: 第3四分位

(人)

30 40 50 60 70 80 90 100 110 120血清亜鉛濃度

亜鉛欠乏症 潜在性亜鉛欠乏 基準値

医療法人社団日高会日高病院腎臓病治療センター(群馬県高崎市)の透析センターへ外来通院中の全維持血液透析患者518名。[年齢中央値(第1四分位数~第3四分位数):69.8(62.9~76.8)歳、透析歴中央値(第1四分位数~第3四分位数):5.4(2.3~10.8)年、男性割合:66.8%、糖尿病割合:55.2%]なお、血清亜鉛濃度の測定は、定期採血検査時(中2日を空けた週初めの透析前)の血清を用い、原子吸光分光光度法にて行った。

対 象

Page 4: 慢性腎臓病診療 Tuneup 亜鉛を管理する慢性腎臓病(CKD)や糖尿病患者の増加に対し、国を挙げて様々な取り組みが進められているが、

亜鉛補充療法では銅欠乏に要注意

秋澤 柏原先生は、亜鉛含有製剤に伴う銅欠乏をご経験されたそうですね。柏原 亜鉛は吸収の段階で銅と拮抗的に働きますので、亜鉛の血中濃度が上がりすぎると銅の吸収が阻害され、顕著な銅欠乏を起こすことがあります。その患者さんはIgA腎症で透析に移行された方で、食欲低下と全身倦怠感で来院されました。他院で処方された薬剤の中に亜鉛含有製剤が入っていたのですが、主治医が胃薬の1つとして継続したようです。入院して調べてみると、明らかな汎血球減少症が認められました。いろいろと原因を探ったのですが、主治医がふと気づいて微量元素を測ったところ、血清亜鉛濃度が182μg/dLと高値で、血清銅が4μg/dL(院内基準値70~140μg/dL)と著明な銅欠乏がみられました。そこで、亜鉛含有製剤を中止したところ、銅の値が正常に復し、汎血球減少症も回復しました。秋澤 ノベルジン®錠は、もともとウィルソン病の治療薬で銅吸収を妨げることから注意が必要ですね。中元 ノベルジン®錠を使用する際には、同時に銅も測った方

がよいのでしょうか。柏原 CKD患者は栄養不良の方が多く、亜鉛だけでなく銅も低い方が少なからずおられます。「高齢」「食が細い」ような方には、亜鉛とともに銅も測定された方がよいと思います。

疑う、測る、補充する

中元 我々は長い間、透析治療を行っていますが、亜鉛について十分な認識がなかったのが実情です。サルコペニア・フレイルに至らぬよう栄養管理への関心が高まってきていますので、今後は亜鉛を含めた微量元素の管理にもっと注意を向けたいと思います。柏原 亜鉛不足の症状は、食欲不振や全身倦怠感など、これまで“不定愁訴”といわれてきたような症状が多いのですが、それが実は身体的な基盤のある症状であり、また、低亜鉛血症治療薬の上市によって亜鉛を補充できる方法が手に入ったということが重要だと思います。今後は、経験から学びつつ、治療薬の適正な使い方を求めていく必要があると考えています。秋澤 今日のお話から、CKDは亜鉛不足の予備軍であり、何らかの症状がみられたら亜鉛不足を疑ってみる。そして測定の結果、低ければ補充し、症状や血清亜鉛濃度の変化をみる、

そういったことが重要であることが確認できたかと思います。

『亜鉛欠乏症の診療指針2018』より

3

9)西山宗六. 小児科. 2003; 44: 832- 839.

*:血球分化転写遺伝子(亜鉛含有蛋白)

3)児玉浩子ほか. 日本臨床栄養学会雑誌. 2018; 40: 120-167.

(亜鉛):産生分泌に関与

図3 亜鉛と赤血球産生機構 表2 亜鉛欠乏の治療指針

10)Siatecka M. Bieker JJ. Blood. 2011; 118: 2044-2054. 改変

図4 造血幹細胞から赤芽球分化、赤血球産生にEKLFが必須

亜鉛として成人50~100mg/日、小児1~3mg/kg/日または小児体重20kg未満で25mg/日、体重20kg以上で50mg/日を分2で食後に経口投与する。症状や血清亜鉛値を参考に投与量を増減する。

慢性肝疾患、糖尿病、慢性炎症性腸疾患、腎不全では、しばしば血清亜鉛値が低値である。血清亜鉛値が低い場合、亜鉛投与により基礎疾患の所見・症状が改善することがある。したがって、これら疾患では、亜鉛欠乏症状が認められなくても、亜鉛補充を考慮してもよい。

1)日本腎臓学会(編).CKD診療ガイド2012.日腎会誌. 2012; 54: 1031-1189.

2)新田孝作ほか.透析会誌. 2018; 51: 699-766.3)児玉浩子ほか. 日本臨床栄養学会雑誌. 2018; 40: 120-167.

4)福島達夫.日本臨牀. 2016; 74: 1138-1143.5)永野伸郎ほか.透析会誌. 2018; 51: 369-377.6)Kim SM. et al. Hemodial Int. 2016; 20 : 441-446.7)福島達夫.治療. 2009; 91: 臨時増刊号: 77-82.8)岩田鉄矢ほか.亜鉛栄養治療. 2014; 4: 53-57.9)西山宗六.小児科. 2003; 44: 832-839.10)Siatecka M. Bieker JJ. Blood. 2011; 118: 2044- 2054.

11)Perkins A. et al. Blood. 2016; 127: 1856-1862.12)Tsai SF. et al. Nature. 1989; 339: 446-451.13)Evans T. Felsenfeld G. et al. Cell. 1989; 58: 877- 885.

MEP:(megakaryocyte-erythroid progenitor)巨核球・赤芽球前駆細胞

EKLF: (Erythroid Krüppel-like factor)赤血球クルッペル様因子

BFU-E:(burst-forming unit-erythroid)赤芽球バースト形成細胞

CFU-E: (colony-forming unit-erythroid)赤芽球コロニー形成細胞

MKP: (megakaryocyte progenitor)巨核球前駆細胞

meg:(megakaryocyte)巨核球

赤血球

前赤芽球CFU-EBFU-E

EKLFFli-1

EKLFEKLF

MEP

多色赤芽球 網状赤血球 赤血球

血小板late megearly meg

MKP

造血促進ホルモンエリスロポエチンソマトメジンC(亜鉛)男性ホルモン(亜鉛)

赤血球構成成分蛋白鉄亜鉛脂肪酸

視床下部、下垂体成長ホルモン(亜鉛)性腺刺激ホルモン

血球分化因子葉酸ビタミンB12亜鉛GATA-1(亜鉛)*

Page 5: 慢性腎臓病診療 Tuneup 亜鉛を管理する慢性腎臓病(CKD)や糖尿病患者の増加に対し、国を挙げて様々な取り組みが進められているが、

4

監修 帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科 教授/学科長 児玉 浩子 先生

亜鉛欠乏症に関しては、今まで国内で信頼できる診療指針が発表されていませんでした。2016年に日本臨床栄養学会のミネラル栄養部会が「亜鉛欠乏症の診療指針」を部会報告として発表しました(日本臨床栄養学会誌 2016; 38(2): 104-148.)。亜鉛欠乏は症状が多彩であることから、診療科も皮膚科、小児科、泌尿器科、消化器内科、腎臓内科、総合内科など多岐にわたります。本指針を広く周知してもらうために、今回、学会承認の指針として改定されました。

亜鉛欠乏症をきたす要因

亜鉛欠乏症を引き起こす可能性がある疾患

亜鉛欠乏の要因は様々であり、年齢的な特徴がある。成長期にある乳幼児・小児では摂取量不足や吸収障害、成人では摂取量不足、薬剤投与や糖尿病・肝疾患など慢性疾患により発症することが多い。

血清亜鉛の基準値80~130μg/dL

慢性肝炎、肝硬変、肝性脳症、慢性腎臓病、慢性腎不全(透析)、糖尿病、クローン病、潰瘍性大腸炎、リウマチ、薬剤性亜鉛欠乏など

亜鉛欠乏症は、亜鉛欠乏の臨床症状と血清亜鉛値によって診断される。下表に亜鉛欠乏症の診断基準を示す。亜鉛欠乏症の症状があり、血清亜鉛値が亜鉛欠乏または潜在性亜鉛欠乏であれば、亜鉛を投与して、症状の改善を確認することが推奨される。

1. 下記の症状/検査所見のうち1項目以上を満たす1)臨床症状・所見 皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥瘡(難治性)、食欲低下、発育障害(小児で体重増加不良、低身長)、性腺機能不全、易感染性、味覚障害、貧血、不妊症

2)検査所見 血清アルカリホスファターゼ(ALP)低値

2. 上記症状の原因となる他の疾患が否定される

3. 血清亜鉛値 3-1:60μg/dL 未満:亜鉛欠乏症 3-2:60~80μg/dL 未満:潜在性亜鉛欠乏 血清亜鉛は、早朝空腹時に測定することが望ましい

4. 亜鉛を補充することにより症状が改善する

亜鉛欠乏症の診断指針

亜鉛欠乏症の診断基準

上記項目の 1、2、3-1、4をすべて満たす場合を亜鉛欠乏症と診断する上記項目の 1、2、3-2、4をすべて満たす場合を潜在性亜鉛欠乏と診断する

亜鉛補充前に1、2、3 を満たすもの。亜鉛補充の適応になる

Definite(確定診断)

Probable

以下、診療指針の抜粋を紹介いたします。

「亜鉛欠乏症の診療指針2018」日本臨床栄養学会

注:肝疾患、骨粗しょう症、慢性腎不全、糖尿病、うっ血性心不全などでは亜鉛欠乏であっても低値を示さないことがある。

Page 6: 慢性腎臓病診療 Tuneup 亜鉛を管理する慢性腎臓病(CKD)や糖尿病患者の増加に対し、国を挙げて様々な取り組みが進められているが、

NBZ-51-SW2019年12月作成