heartmate Ⅱ - j-stage

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865 HeartMate 植込み型人工心臓の現状 HeartMate Ⅱ 戸田宏一 国立循環器病研究センター心臓血管外科 はじめに HeartMate Ⅱは,現在,世界で最も多く使われて いる(2011年 3 月末現在にて6,000例以上;Thoratec 社データによる)植込み型補助人工心臓であり,日本 でも2010年 5 月より 6 施設で治験が開始されてい る.この項では,海外のデータをもとに,われわれ の経験を加味して詳述する. システム構成 1血液ポンプ 血液ポンプは,直径35mm,長さ 7 cm,重さ400g と小型の軸流ポンプで,内部のローター(羽根車)が 高速回転することにより,その前後に発生する揚力 により血液を送り出す構造となっている(図1 1) .こ れに心尖部に挿入固定される脱血管と,上行大動脈 に吻合される送血管が接続され,ポンプ本体は腹膜 と腹直筋の間のスペースに植え込まれる.脱血管と ポンプ本体との接続部は可動性が持たせてあり,慢 性期に左室がunloadingされ,左室心尖が内側に移 動しても脱血管が追随でき,脱血管が左室側壁に傾 くことを予防する工夫がなされている. 2コントローラーとバッテリー 血液ポンプにつながる直径 8 mmの体内ケーブル は腹壁を通して体外に出し,コントローラーに接続 され,このコントローラーはケーブルによってバッ テリー,またはパワーモジュールに接続され駆動が 可能となる.コントローラーにはバッテリー残量,ア ラームが表示され,バッテリーはリチウムイオンバッ テリーでバッテリーチャージャーを用いて 4 時間充 電することで, 6 ~10時間使用可能である. 図 1  小型植込み型左心補助 人工心臓HeartMate Ⅱ (文献 1 より改変引用) HeartMate Continuous- flow LVAD 上行大動脈へ モーター Pump housing 左心室より Outlet stator and diffuser 経皮ドライブ ライン ローター 血流 Inlet stator and blood-flow straightener

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Page 1: HeartMate Ⅱ - J-STAGE

865HeartMate Ⅱ

植込み型人工心臓の現状

HeartMate Ⅱ戸田宏一国立循環器病研究センター心臓血管外科

はじめに

 HeartMate Ⅱは,現在,世界で最も多く使われて

いる(2011年 3 月末現在にて6,000例以上;Thoratec

社データによる)植込み型補助人工心臓であり,日本

でも2010年 5 月より 6 施設で治験が開始されてい

る.この項では,海外のデータをもとに,われわれ

の経験を加味して詳述する.

システム構成

 1.血液ポンプ

 血液ポンプは,直径35mm,長さ 7 cm,重さ400g

と小型の軸流ポンプで,内部のローター(羽根車)が

高速回転することにより,その前後に発生する揚力

により血液を送り出す構造となっている(図 1)1).こ

れに心尖部に挿入固定される脱血管と,上行大動脈

に吻合される送血管が接続され,ポンプ本体は腹膜

と腹直筋の間のスペースに植え込まれる.脱血管と

ポンプ本体との接続部は可動性が持たせてあり,慢

性期に左室がunloadingされ,左室心尖が内側に移

動しても脱血管が追随でき,脱血管が左室側壁に傾

くことを予防する工夫がなされている.

 2.コントローラーとバッテリー

 血液ポンプにつながる直径 8 mmの体内ケーブル

は腹壁を通して体外に出し,コントローラーに接続

され,このコントローラーはケーブルによってバッ

テリー,またはパワーモジュールに接続され駆動が

可能となる.コントローラーにはバッテリー残量,ア

ラームが表示され,バッテリーはリチウムイオンバッ

テリーでバッテリーチャージャーを用いて 4 時間充

電することで, 6~10時間使用可能である.

図 1 小型植込み型左心補助人工心臓:HeartMate Ⅱ

(文献1より改変引用)

HeartMate Ⅱ

Continuous-flow LVAD

上行大動脈へ

モーター Pumphousing

左心室より

Outlet statorand diffuser

経皮ドライブライン

ローター

血流

Inlet stator andblood-fl owstraightener

Page 2: HeartMate Ⅱ - J-STAGE

866 心臓 V o l . 4 3 N o . 7 ( 2 0 1 1 )

 3.パワーモジュール(図 2)

 コントローラーは,夜間など非活動時にはバッテ

リーの代わりにパワーモジュールに接続させておく.

パワーモジュールは,システムモニターを接続させ

ることで電源供給以外に,pump speed(ポンプ回転

数),pump flow(推定ポンプ流量),pulsatility index,

pump powerを表示させることができ,ポンプ回転

数と最低ポンプ回転数の調節,ポンプの始動と停止

ができる.またコントローラーに記憶されたポンプ

の駆動履歴を確認することができる.

装着手術

 通常の胸骨正中切開よりやや腹部へ延長した切開

で行う.ヘパリン投与前に横隔膜の肋骨付着部を切

断し,腹壁と腹膜の間にデバイスのためのスペース

を作るが,腹部正中に近いところは腹膜前脂肪の層

は比較的剝がしやすいが,外側では腹膜が薄く,腹

横筋の筋膜を落とす層での剝離となることもある.横

隔膜切断部,筋膜の剝離部の止血は念入りに行う.

十分に外側の剝離を行い,実際に脱血管をつけた状

態のデバイスをおいて脱血管が僧帽弁の方向を向く

か確認する.この時点でドライブラインは腹壁を貫

いているが,日本人では体格が小さく,また,移植

待機期間が長いので,ドライブライン感染を予防す

るために,われわれはドライブラインを, 1 度腹直

筋を貫いて,右側腹部に出した後,再度皮下を通し

て左側腹部から出すようにしている.

 体外循環開始後,卵円孔開存(patent foramen

ovale;PFO)があれば,心室細動下に閉鎖する.Mod-

erate以上のTR,特に術前右心不全が強い場合は人

工弁輪を用いた三尖弁輪形成術を心拍動下に行う.

中程度以上の大動脈弁閉鎖不全は生体弁による大動脈

弁置換術,または弁尖をedge to edge suture(Park’s

stitch)で縫合を要する2).まず,デバイスをポンプポ

ケットにおいて人工血管を伸ばした状態でoutflow

graftの長さを決め,上行大動脈を部分遮断してfat

bandの位置に人工血管部分を吻合する.われわれ

は,止血を確実にするために 4 点を4-0 prolene with

feltマットレスで固定した後,人工血管が外反するよ

うに4-0 prolene連続で吻合している.次に,心尖カ

フに移る.Head downした状態で,Lima sutureで心

尖部を持ち上げ,まず心尖に小切開を置き,フォー

リーバルーンを挿入.バルーンを膨らませ,これを

左室長軸方向に引きつつ,心拍動下に備え付けの

coring deviceで心尖部をcoring outする.この時,

coring deviceが心室中隔に切り込まないように切除

図 2 HeartMate Ⅱシステム構成(Thoratec社提供資料より

改変引用)

バッテリー駆動 パワーモジュール駆動

バッテリーバッテリー

システムコントローラー

電源ケーブル

コンセント

パワーモジュール(PM)

ディスプレイモジュール

血液ポンプ

血液ポンプ

経皮ドライブラインシステムコントローラー

Page 3: HeartMate Ⅱ - J-STAGE

867HeartMate Ⅱ

部はLAD末梢より外側にずらし,coring deviceを進

める方向は心室中隔と平行となるように注意する.

心筋切除後,suckerで視野を保ちつつ,脱血管の流

入障害となりそうな肉柱があれば切除する.カフの

固定には3-0 prolene with felt×12針でマットレス縫

合を行う.この時,運針はまず外内に全層に通し,

剝がれかけている肉柱があればそれを固定するよう

にかけて,再び全層で心外膜に出してカフに固定す

る.カフ縫着後,ポンプに接続した脱血管を挿入し

カフに糸で固定している.脱血管の位置は最終的に

経食道心エコーで確認している.空気抜きはこの状

態で中心静脈圧(central venous pressure;CVP)を上

げ,head downのままポンプとoutflow graftの接続部

から自己心拍出を漏れ出させることで行う.Outflow

graftを完全に接続した後,outflow graftを遮断した

まま6,000回転でポンプの駆動を開始し,outflow graft

に針を刺して空気抜きを完了する.次に,人工心肺

からの離脱を開始し,補助流量を半分にした状態か

ら補助流量を減らしつつ,左室容量を経食道心エコー

で確認しながらポンプ回転数をゆっくりと9,000rpm

に上昇させ,outflow graftの遮断を解除する.人工

心肺を終了後,volume,カテコラミン,PDEi,NO吸

入などにより十分な左心還流血を維持しつつ,経食

道心エコーで心室中隔が左室寄りにシフトしないよ

う気をつけつつ,回転数を9,000~10,000rpmに設定

する.閉胸に際しては,肺,胸壁との癒着を防止す

るため人工血管部分は必ずGore-texシートなどでカ

バーしている.

管理

 1.循環管理

 通常の循環管理同様,後負荷,前負荷,収縮能〔左

心補助装置(left ventricular assist device;LVAD)

の駆動設定〕,拡張能をコントロールすることにな

る.収縮能に相当するポンプの回転数を上げればポ

ンプ流量が増加するが,それ以外にHeartMate Ⅱの

ような連続流ポンプは後負荷に大きく影響される.

図 3 にHeartMate Ⅱの圧-流量関係を示す.両者に

は負の相関があり,ポンプ出口の圧が高くなると拍

出流量が減少する.つまり,良好なポンプ流量を維

持するには後負荷を下げて血圧を下げてやる必要が

ある.当院では平均血圧:70~80mmHgを目処に血

圧管理を行っている.LVAD前負荷のコントロールと

しては肺血管抵抗の高い症例では,NO(一酸化窒素)

吸入,PDEi〔ホスホジエステラーゼ阻害薬:milri-

none(経静脈投与),sildenafil(経口投与)〕などを用い

ることによって,右心の後負荷を軽減し右心拍出量

を増やす.これは,LVADの前負荷を増しLVAD拍

出量を増加させ得る.また,右心に対しても輸液な

どで適切な前負荷,またカテコラミンによる収縮能

350

300

250

200

150

100

50

00 2 4 6 8 10 12 14

Flow Rate(L/分)

Pressure Difference

8,000 RPM

10,000 RPM

12,000 RPM

14,000 RPM

15,000 RPM

(mmHg)ポンプ回転数

図 3 HeartMate Ⅱの圧-流量関係

Page 4: HeartMate Ⅱ - J-STAGE

868 心臓 V o l . 4 3 N o . 7 ( 2 0 1 1 )

の改善が拍出量増加のためには必要である.拡張能

として問題になるのは術後急性期の心タンポナーデ

であり,術後 2 週間目までは常に念頭に置く必要が

ある.また,連続流ポンプに共通した問題として脱

血管の吸い付きに注意する必要がある.これは強力

に左室のunloadingを行った場合,狭小化した左室内

腔で脱血管が左室壁に吸い付き,脱血不良となる現

象である.時に,左室のunloadingは心室中隔を左室

側にシフトさせることにより右心不全を引き起こす

ことがあり,これにより左心還流血が減少し,吸い

付き現象を起こし,ポンプ流量が低下することが起

こり得る.HeartMate Ⅱには自動的にこれを解除す

るシステムがあるが,急なポンプ流量の低下を認め

たら,まず経胸壁心エコーにて左室腔の大きさを確

認し,十分unloadingされていればポンプ回転数を下

げ,それでも左室腔が小さいままであれば,輸液,

カテコラミンで右心拍出量を改善させる必要がある.

 術後急性期は,スワン・ガンツカテーテルにてモ

ニターし,最大限のLVAD拍出量が得られるように

するが,われわれは,術後 1 週間経過して一般病棟

に移動するころになるとカテコラミンも減らし,ポン

プの回転数も9,000rpm前後に若干減らしている.体

格が大きく,ある程度自己心機能が保たれていれば

ときどき自己大動脈弁が開く状態に回転数を減らす

という海外の施設もある(私信).

 さらに,慢性期の問題としてHeartMate Ⅱの長期補

助が術後,大動脈弁逆流(aortic regurgitation;AR)

発生の有意な危険因子であるといわれている(図 4)3).

原因には諸説あるが,連続的に左室脱血を行うため自

己心に前負荷がかからず大動脈弁の開放がなくなり,

このため大動脈弁-大動脈基部に持続的に圧がかか

り,大動脈基部の形態を変化させARにつながるので

はないかと考えられている3).ARがひどくなるとポン

プから上行大動脈へ拍出された血液の多くが再び左室

-ポンプと再循環することなり,全身灌流量が減り,

長期循環補助での問題となる.ARの予防のためにも,

大動脈弁が時折開くようにポンプ回転数を少し落とし

て左室に前負荷をかけたほうが良いという意見もある.

 2.抗凝固療法と出血

 術翌日,または術翌々日から経口でワルファリン

投与開始する.ワルファリンが効くまでのヘパリン

投与は出血のリスクを上げるため推奨されない.慢

性期にはワルファリン(目標PT-INR:2 前後),お

よび抗血小板薬の併用が行われる.表に示すように

HeartMate Ⅱの抗血栓性は優れており,虚血性脳梗

塞の発症率は0.06回/1 患者/1 年間で心不全に伴っ

た慢性心房細動のそれと大きく変わらない.ただ,逆

に出血イベントがやや多いことが最近指摘されてい

る.輸血が必要な出血が1.66回/1 患者/1 年間起こっ

ており,特に消化管出血が多く,20~30%の患者に

消化管出血が起こっている.原因としては,von Wil-

lebrand因子の減少4),連続流による脈圧低下のため

のAV-malformationの発生などがあげられている.

von Willebrand因子は傷害された血管内皮に血小板

が吸着凝集を開始するのに重要な役割を果たしてい

るが,これがポンプ内で高速回転するローターに

よって生ずるsheer stressのために破壊され,血小板

凝集が抑制されると考えられている.輸血が必要な

消化管出血に対する治療法としては,内視鏡下での

処置(クリッピングなど)に加えてワルファリンの中

止,ポンプ回転数を下げて自己拍出による脈圧を増

加させる,などのことが推奨されている.

Time(months)

Aortic insufficiency grade

HeartMate Ⅱ

HeartMate XVE

3.0

2.5

2.0

1.5

1.0

0.5

00 3 6 9 12 15 18 21 24

図 4 長期左心補助における大動脈弁閉鎖不全の発生(文献3より改変引用)

Page 5: HeartMate Ⅱ - J-STAGE

869HeartMate Ⅱ

 3.感染対策

 ドライブラインが細くなり,ポンプが小さくなっ

たことにより,HeartMate XVE(拍動流型)に比べる

とLVADに関連した感染症,菌血症は減少したが,

依然として大きな問題である(表).感染予防として

は,外科的には,まずLVADポケットに血腫を残さ

ないことが大切である.そのためにLVAD周囲にも

術後 2 日目まではドレーンを留置している.また,再

手術で広範囲な剝離による術後血腫が予想される場

合はルーチンに術翌日に再開胸-洗浄を行う施設も

ある(私信).われわれは,前述したようにドライブ

ラインをなるべく長く腹壁内を通すようにして,も

しドライブライン出口感染(exit site infection)が起

こっても,すぐにLVADポンプポケットに感染が波

及しないようにしている.

臨床成績

 1.Bridge to transplant(BTT)としての使用

 2005年から2006年にかけて行われた米国での多

施設研究では,NYHA Ⅳの心移植待機患者133名に

HeartMate Ⅱが使われた(BTT pivotal trial)5).対象

患者は平均年齢50歳,特発性心筋症(idiopathic car-

diomyopathy;ICM)が37%を占め,89%がカテコラ

ミン,41%がIABPのサポートを受けていた〔なお,

経皮的心肺補助法(percutaneous cardiopulmonary

support;PCPS)施行患者は除外されている〕.術後

cardiac indexは2±0.6->2.8±0.7L/分/m2に,肺動

脈楔入圧は26±8->16±5mmHgに改善し,術後 3

表  NYHA Ⅳの末期的重症心不全患者における植込み型拍動流LVAD

Subgroup no.(%) no.(%)イベント/患者/1年間

イベント/患者/1年間

ポンプ入替手術 12(9) 0.06 20(34) 0.51

脳梗塞 24(18) 0.13 8(14) 0.22

 虚血性 11(8) 0.06 4(7) 0.10

 出血性 15(11) 0.07 5(8) 0.12

LVADに関連した感染 47(35) 0.48 21(36) 0.90

LVADに関係ない局部感染 65(49) 0.76 27(46) 1.33

敗血症 48(36) 0.39 26(44) 1.11

出血

 輸血を要する出血 108(81) 1.66 45(76) 2.45

 手術を要する出血 40(30) 0.23 9(15) 0.29

 ほかの神経学的障害 29(22) 0.17 10(17) 0.29

右心不全

 長期カテコラミン使用 27(20) 0.14 16(27) 0.46

 RVAD 5(4) 0.02 5(5) 0.07

不整脈 75(56) 0.69 35(59) 1.31

呼吸不全 50(38) 0.31 24(41) 0.80

腎不全 21(16) 0.10 14(24) 0.34

肝不全 3(2) 0.01 0 0.00

LVAD内血栓症 5(4) 0.02 0 0.00

再入院 107(94) 2.64 42(96) 4.25

<0.001

0.21

0.38

0.33

0.01

0.02

<0.001

0.06

0.57

0.14

<0.001

0.12

0.006

<0.001

<0.001

0.02

0.0 0.5 1.0 1.5

HeartMate Ⅱ(n=133)(211患者数×使用年数)

HeartMate Ⅱのほうが良い

HeartMate XVE(n=59)(41患者数×使用年数)

HeartMate XVEのほうが良い

相対リスク(95% CI)p値

(相互作用)

HeartMate XVEと小型植込み型LVAD(HeartMate Ⅱ)との術後合併症の比較 (文献1より改変引用)

Page 6: HeartMate Ⅱ - J-STAGE

870 心臓 V o l . 4 3 N o . 7 ( 2 0 1 1 )

カ月においては83%の症例で心不全症状はNYHA Ⅱ

以下に,6 分間歩行は300m近くに改善し,Minesota

Living with Heart Failure scoreなどで評価される生

活の質(QOL)も改善を示した.累積生存率は術後 6 カ

月で42%が心移植に到達し75%, 1 年生存率は68%

であった.早期合併症としては 4%の症例で機械的

右心補助を要した.術後遠隔期の合併症としては脳梗

塞-出血が0.08回/1 患者/1 年間,輸血を必要とする

出血(消化管出血など)が0.85回/1 患者/1 年間,ポン

プポケット感染は認めなかったが,敗血症が0.39回/

1 患者/1 年間起こっている.ポンプに起因するもの

としては 2 例(1.5%)がポンプ血栓症のため入れ替え

手術を要したが,ポンプ自身の機械的故障は報告さ

れていない.以上の優れた成績により米国では2008

年よりBTTデバイスとしてFDAの認可を受けている.

 2.Destination therapy(DT)としての使用

 年齢などの理由で心移植の適応にならなかったNYHA

Ⅳの末期的重症心不全患者に対して,植込み型LVAD

が内科的治療よりも心不全症状を改善するのみなら

ず, 1 年生存率を25%から51%に有意に改善するこ

とがHeartMate Ⅱの 1 世代前の機種:HeartMate

VEによって示され(REMATCH trial)6),destination

therapy(DT:移植を前提としないLVAD治療)が米

国では2003年より開始されている.HeartMate VE

では,機器の不具合による入れ替え再手術の必要性

が比較的多いことが問題であったが,HeartMate Ⅱ

ではこの点が改善され,HeartMate ⅡとHeartMate

XVEのランダム化比較が末期的重症心不全患者200人

について行われた1).結果,平均年齢は62歳とBTT

trialに比して高齢で,患者の77%が術前カテコラミン

の持続投与,22%が術前IABP補助を要していたにも

かかわらず,86%の患者が平均術後 1 カ月で退院可

能となり,従来のHeartMate XVEに比べて感染,脳

梗塞の頻度が半減,感染,機器の不具合によるLVAS

入れ替え再手術の必要性が1/8となり,2 年生存率も

24%から58%に改善した(図 5)1).REMATCH trial

の結果から対象患者の内科的治療の 2 年生存率が

10%以下であることを考えると6),HeartMate Ⅱによ

るDTの生命予後改善効果は顕著であることが示され

た.以上の知見をもとに米国FDAはHeartMate Ⅱを

2010年よりDTを行うLVADとして認可し,Medicare

(政府によって運営される高齢者医療保険制度)も保

険給付を行っている.

文 献

1)Slaughter MS, Rogers JG, Milano CA, et al : Advanced heart failure treated with continuous-flow left ventricu-lar assist device. N Engl J Med 2009 ; 36 : 2241-2251

2)Park SJ, Liao KK, Segurola R, et al : Management of aortic insufficiency in patients with left ventricular assist devices : a simple coaptation stitch method (Park’s stitch). J Thorac Cardiovasc Surg 2004 ; 127 : 264-266

3)Cowger J, Pagani FD, Haft JW, et al : The development of aortic insufficiency in left ventricular assist device-supported patients. Circ Heart Fail 2010 ; 3 : 668-674

4)Crow S, Chen D, Milano C, et al : Acquired von Wille-brand syndrome in continuous-flow ventricular assist device recipients. Ann Thorac Surg 2010 ; 90 : 1263-1269

5)Miller LW, Pagani FD, Russell SD, et al : Use of a con-tinuous-flow device in patients awaiting heart transplan-tation. N Engl J Med 2007 ; 357 : 885-896

6)Rose EA, Gelijns AC, Moskowitz AJ, et al : Long-term use of a left ventricular assist device for end-stage heart failure. N Engl J Med 2001 ; 345 : 1435-1443

HeartMate VE

Medical therapy

Months since Randomization

Survival

HeartMate Ⅱ

0 6 12 18 24 30

100

80

60

40

20

0

(%)

図 5  NYHA Ⅳの末期的重症心不全患者における内科的治療と植込み型拍動流LVAD(HeartMate VE)を比較したREMATCH trial(黒線)にHeartMate Ⅱによるdestination therapyの成績(赤線)を付け加えた

(文献1,6より改変引用)