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決算書類にもとづく企業の経営戦略分析 -自動車業界- トヨタ自動車・本田技研工業・日産自動車 の戦略を明らかにする 福田哲也ゼミナール 経済学部 9 期生 稲垣 裕晃 田尾 綾香 出口 公平 松田 将吾

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決算書類にもとづく企業の経営戦略分析

-自動車業界-

トヨタ自動車・本田技研工業・日産自動車

の戦略を明らかにする

福田哲也ゼミナール

経済学部 9 期生

稲垣 裕晃

田尾 綾香

出口 公平

松田 将吾

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

目次

1.はじめに ........................................................................................................................2 2.業界及び企業概要 ...........................................................................................................3 2‐1.業界概要 .................................................................................................................3 (1)国内自動車産業の位置づけ ..................................................................................3 (2)国内市場動向 ......................................................................................................10 (3)海外市場動向 ......................................................................................................18 (4)環境に対する取り組み........................................................................................23 (5)安全に対する取り組み........................................................................................27

2‐2.企業概要 ...............................................................................................................29 (1)3 社の概要 ..........................................................................................................30 (2)3 社の歩み ..........................................................................................................32

3.経営戦略分析.................................................................................................................37 3‐1.企業分析 ...............................................................................................................37 (1)3 社の現状 ..........................................................................................................37 (2)環境への取り組み...............................................................................................49 (3)安全への取り組み...............................................................................................53

3‐2.財務分析 ...............................................................................................................55 (1)成長性分析..........................................................................................................56 (2)収益性分析..........................................................................................................62 (3)安全性分析..........................................................................................................83

4.戦略課題 ........................................................................................................................93 4‐1.業界の機会と脅威.................................................................................................93 (1)新興国市場の開拓...............................................................................................93 (2)クリーンエネルギー車の開発 .............................................................................94 (3)日本国内の車離れ...............................................................................................94

4‐2.機会と脅威に対する取り組み...............................................................................95 (1)トヨタ自動車 ......................................................................................................95 (2)本田技研工業 ......................................................................................................96 (3)日産自動車..........................................................................................................97

5.おわりに ........................................................................................................................98 参考資料 .............................................................................................................................99 参考文献 ........................................................................................................................... 131

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

1.はじめに

(松田将吾) 自動車は、私たち日本人にとって関わりの深い乗り物であるだろう。誰もが乗ったこと

があり、触れたことがあると思う。アクセルを踏めば進み、ハンドルを切れば曲がり、ブ

レーキを踏めば止まる、といった単純な乗り物のように思える。だが、時には人間を死に

至らす危険な乗り物になることもある。日常生活にあって当たり前の自動車は、多くの産

業や人との関わり、多大な資金、時間を費やして完成される乗り物である。日本はこの自

動車を造る産業を中心として、経済成長を遂げてきた。そして、いつしか日本の基幹産業

となり、日本経済を牽引してきた。また、積極的に海外へも進出し、技術力の高さから世

界の自動車メーカーと対等に競い合う産業となった。 現在、自動車市場は国内から海外へと活動の場を拡げ、多くのメーカーが競い合ってい

る。その中で、世界一の自動車大国、アメリカにおいて日本車の人気は高まっている。ト

ヨタ自動車が発売したハイブリッドカー「プリウス」は、アメリカで乗ることはステータ

スになっているほどである。そして、そのトヨタ自動車は、2008 年 2 月、世界一の自動車

メーカーであるアメリカのゼネラル・モーターズ(GM)を世界生産台数において、初めて

追い抜き、世界一の座を仕留めた。販売台数においても、追い抜くのは時間の問題と言わ

れている。 また、日本の自動車メーカー、トヨタ自動車と本田技研工業は、世界三大スポーツの一

つであるフォーミュラー1(F-1)に参戦し、世界の名高い自動車メーカーとレースで争い、

技術力においてしのぎを削っている。 しかし、燃費が悪く二酸化炭素を撒き散らす F-1 を走らせているメーカーは、近年、世

界規模で問題になっている環境に対して、どのような取り組みをしているのだろうか。京

都議定書では、国ごとに二酸化炭素の削減目標を掲げ、各々の企業は技術開発によって削

減を目指している。例えば、ガソリンエンジンに代わる新技術として、ハイブリッド車や

燃料電池車、電気自動車などがある。また、環境と共に安全対策の開発にも力を注いでい

る。例えば、衝突を未然に防ぐ技術や、衝突したとしても被害を 小限に抑える技術など

である。 このように日本の自動車産業は、日本経済の中心的な存在であり、影響力の強い産業で

ある。また、世界を股に掛けて事業を行っていることから、世界からも技術力の高さで注

目を浴びている産業でもある。だが、それゆえに大企業としての使命感や社会的責任が大

きく伸しかかることも事実である。 この論文では、求められるものが多様化してきた日本の自動車産業を、私たちは分析す

る。そして、この業界が置かれている実情を明らかにし、またこの業界に属する企業を取

り上げ、それぞれの動向や戦略を明らかにしたい。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

2.業界及び企業概要

(出口公平) この章では自動車業界及び、それに属する企業の概要について説明する。はじめに業界

の概要を述べ、自動車業界全体の動向を明らかにする。次節の企業概要では、私たちが分

析対象としているトヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車について説明する。また、業

界概要から明らかになった動向に基づき、分析対象となっている 3 社が、業界動向に対応

した行動を採っているのかどうかを明らかにしていく。このような論旨展開で本章を進め

ていくことにする。では、これより業界概要に移る。

2‐1.業界概要

この節では、自動車産業の位置づけを説明する。はじめに自動車産業の歴史を振り返り、

それから自動車産業の現状を見る。その後、国内と海外の市場動向を分析し、 後に環境

問題と安全に対する取り組みを分析する。 では、自動車産業の歴史から見ていこう。

(1)国内自動車産業の位置づけ

①日本自動車産業の歴史

日本で初めて純国産の自動車が作られたのは 1904 年である。このとき、蒸気エンジンに

よるバスが作られた。続いて 1907 年に、山内駒之助と吉田真太郎によってガソリンエンジ

ンの自動車が作られたとされている。その後、1911 年に初めて自動車工場が作られたが、

本格的に発展したのは第二世界大戦後のことである。 1919 年に日本初となる量産自動車工場が設立される。また、1923 年に起こった関東大震

災の復興のため、24 年から東京で市営乗合自動車が開業し、円太郎バス 800 台を導入した。

これが、公共交通輸送の貢献となる。1926 年には国道 1 号が開通したことで交通網も発展

した。 1924 年にゼネラルモーターズ(GM)が、27 年にフォードが日本に組立工場を作り生産

を開始すると、日本政府は、さらなる国産化を目指した政策を打ち出していく。32 年に国

内自動車産業の保護政策を出し、自動車部品の輸入税が引き上げられた。また、国産自動

車工業確立委員会を設置した。同時期の 26 年には日産自動車の前身となるダット自動車製

造が設立し、35 年に初のベルトコンベア方式による量産化を実現させた。この時期、豊田

自動織機によるトラックの量産などが行われた。37 年になるとトヨタ自動車工業として独

立する。同年、いすゞの前身となる東京自動車工業が設立されている。 しかし、戦争が進むにつれ国家統制が強化されていった。39 年には軍と官公庁で使用す

る以外の乗用車の生産が禁止され、41 年にはバスの生産も禁止されるようになった。また

相次ぐ空襲により生産工場は大きな打撃を受け、成長途上にあった日本の自動車産業は衰

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退してしまった。 終戦後しばらくの間は、連合国軍 高司令官総司令部(GHQ)による生産制限などもあ

り、日本の自動車産業は主要生産国の中で生産能力は も低い水準にあった。終戦直後は、

ガソリン不足から電気自動車が見直され、1949 年には保有台数が全体の 3%までになった

が、ガソリン普及と共に姿を消していった。 自動車産業は、1950 年頃から急速に発展し始めた。50 年初頭に国内の自動車産業の遅れ

を取り戻すため、欧米の自動車会社と技術提携をし、欧米の工場で作った部品を日本の工

場で組み立てる「ノックダウン方式」を採った。当初はトラックなどの商用車が中心だっ

たが、1953 年頃から乗用車の生産も活発になり、当時 7,000 台だった国産車は、3 年後の

1956 年には 2 万 3,000 台にまで増えた。この背景には、50 年に始まった朝鮮戦争の特需景

気の影響が大きく現れている。50 年代半ばを過ぎると、日本の製造技術も向上し、欧米水

準の自動車を製造するまでとなり、また、様々な軽自動車も作られるようになった。 1960 年から高度経済成長に入り、日本自動車の生産台数は急速に伸びていった。1961年にはイタリア、1964 年にはフランスを上回り、大量生産・大量販売体制を確立していっ

た。自動車の性能が水準を達したことで、デザインに工夫をこらせるようになり、外国の

デザイナーに頼むことがブームとなった(例:プリンス自動車工業のスカイライン)。 1964 年になると名神高速道路が開通し、ハイウェイ時代の訪れと共に、大型高級車が各

社から発売された。これ以降の自動車普及は著しいものとなった。スポーツカーや大型高

級車、新型車が次々に生まれ、1967 年には生産台数が 300 万台となりアメリカに次いで世

界第 2 位となった。 1970 年代に入ると、日本の自動車メーカーは輸出を強化し始め、輸出台数を年々増加さ

せてゆき、1974 年に輸出台数世界第 1 位となった。その反面、70 年代には 2 度のオイルシ

ョックが起きたため、生産面で被害を受けてしまった。 1980 年代のバブル経済絶頂期には各メーカーとも高性能高級車が飛ぶように売れ、こぞ

って工場の新設など大規模な設備投資を行っていた。80 年代にはハイテク技術が採用され

自動車が進化した。また、自動車買い替えが中心の時代になった。その一方で、日本はア

メリカとの貿易摩擦に悩まされた。アメリカの自動車産業、労働組合、議会は、日本の自

動車メーカーに対してアメリカ国内での生産の強化と、完成車輸出の自主規制を強く要求

した。日本の自動車産業は、アメリカの自動車産業が回復するまでという条件で、81 年か

ら 3 年間、日本車のアメリカへの輸出台数を 168 万台に減らす自主規制を採ることに決定

した。この自主規制は 94 年に撤廃された。 このような背景から国内自動車メーカーは、海外に生産の拠点を移転させる方向を強め

ていった。海外の工場を稼働させ完成車の逆輸入や、部品、資材の海外調達を通して、貿

易不均衡の是正に力を注いだ。 1990 年代に入りバブルが崩壊すると国内の販売台数は急速に落ち込んだ。そのため、日

本の自動車産業は、過大な投資や在庫の処理に追われることになった。一方で、深刻化す

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る環境問題に対応するため低燃費エンジンや電気自動車などの技術開発に投資を行ってき

た。この状況を打破するためにはコスト削減と開発投資の効率化が不可欠であり、各自動

車メーカーは世界的な規模で業務提携や合併を進めた。 現在、自動車産業は 90 年代のバブル崩壊後の販売低迷状況から脱出できていないが、日

本はアメリカと並ぶ世界 大の自動車生産国となっており、世界中で生産される自動車の 4台に 1 台は日本車だと言われている。 では、自動車産業の歴史がわかったところで、次に現在の自動車産業について説明する。

②自動車産業の市場規模

自動車産業では現在、自動車を 1 台製造するためには、鉄鋼・ガラス・ゴム・プラスチ

ックといった部品や素材が必要であり、使用される主要な材料、部品は多岐にわたってい

る。その部品数はおよそ 2 万~3 万点もの数になる。どんなに大きな自動車工場でもそれら

の部品を全て生産しているわけではない。外注加工に出すものや、タイヤ、バッテリーな

ど完成した構成部品を購入するものが数多くあり、その中には外国製のものも多数含まれ

ている。他にも、自動車販売等の流通業、化学や電気などあらゆる分野の協力が必要な産

業である。自動車産業以外の分野にも関係が深く、他産業に与える影響が大きいことが特

徴であると言える。そのため、自動車産業の発展は他の産業の発展にも繋がる。 では、自動車産業は日本にある製造業の中で、どれくらいの規模として位置づけられて

いるのだろうか。次に示す 4 つの指標を見てみよう。

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2008 年 7 月 10 日)

【図表 2‐1‐1】 【図表 2‐1‐2】

B

A

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 2‐1‐1】は 2006 年度の全製造業の製造品出荷額を表したものである。自動車産

業の出荷額は図中 A で表されている。2006 年度の全製造業の製造品出荷額は約 315 兆円で

ある。製造業の中で自動車産業は も大きな金額(全体の約 17%)になっており、その出

荷額は約 54 兆円である。 次に、【図表 2‐1‐2】の 2006 年度の主要製品別輸出額を見てみよう。この図表では、

図中 B が自動車産業の金額を表している。2006 年度の輸出総額は約 75 兆円である。この

うち、自動車産業の輸出額は約 16 兆円で、輸出総額全体の約 21%を占めている。この金額

でも自動車産業は も割合が高くなっている。これらの数値から、自動車産業は日本経済

を支える重要な産業(基幹産業)としての地位を占めていることがわかる。 続いて、設備投資額と研究開発費を見る。なぜなら、これらの金額の動向は経済界のバ

ロメーターとして重視されているからである。

【図表 2‐1‐3】 【図表 2‐1‐4】

単位:億円

D

C

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2008 年 7 月 10 日) まず、【図表 2‐1‐3】で 2006 年度主要製造業の設備投資額を見てみよう。自動車産業

の金額は図中 C で示した。2006 年度の主要全製造業の設備投資額は約 6 兆 7,000 億円であ

るが、このうち自動車産業は約 23%の 1 兆 5,000 億円もの金額を占めており、全製造業の

中で も高い。 後に示すのは研究開発費だ。総務省が発表した 2006 年度主要製造業の研究開発費の金

額(図表 2‐1‐4)によると、2006 年度の主要全製造業の研究開発費は約 11 兆 7,000 億円

である。自動車産業の金額は図中 D で示した。このうち、自動車産業は 2 兆 2,000 億円と

全体の約 19%を占めている。この金額でも自動車産業は、全製造業の中で も高い金額と

なっている。 ここまで見てきてわかったように、自動車産業というのは非常に規模が大きく、日本経

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

済に対して影響力のある産業だと言える。では、自動車産業に属する企業は、製造業の中

でどの程度の売上高を上げているのだろうか。他の産業と売上高を比較してみよう。

【図表 2‐1‐5】

2007年度製造業の売上高ランキング

0

5,000,000

10,000,000

15,000,000

20,000,000

25,000,000

30,000,000

(百万円)

売上高(百万円) 26,289,240 12,002,834 11,226,735 10,824,238 10,680,891 9,068,928 8,871,414 7,668,076 7,523,990 6,409,726

トヨタ自動車 本田技研工業 日立製作所 日産自動車 NTT パナソニック ソニー 東芝 新日本石油 JT

(『NIKKEI NET』,http://www.nikkei.co.jp/,2008 年 11 月 14 日)

【図表 2‐1‐5】は 2007 年度製造業の売上高上位 10 社のランキングである。 名だたる企業が多い中、自動車メーカーは上位 10 社の中に 3 社ランクインしている。ま

た、どの自動車メーカーも売上高 10 兆円を超えている。順位は、1 位トヨタ自動車、2 位

本田技研工業、4 位日産自動車である。トヨタ自動車の売上高は約 25 兆円で、2 位の本田

技研工業と 2 倍以上も金額に差があり圧倒的に高い。この金額は全ての日本企業の中でも 1位である。後述する企業概要では、売上高ランキング上位 10 社にランクインしているトヨ

タ自動車、本田技研工業、日産自動車の 3 社について詳しく説明する。 では、自動車産業を構成するメーカーは、世界とどのような関わりを持っているのだろ

うか。この項の 後で自動車メーカーの世界情勢について触れておく。

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【図表 2‐1‐6】

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

※2007 年 3 月 31 日現在

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2007 年 9 月 20 日)

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【図表 2‐1‐6】は自動車メーカーの世界情勢を表したものである。 日本の自動車メーカーは国内メーカーだけではなく、米国・欧州・中国など世界中のメ

ーカーと資本・業務提携や技術供給をしていることがわかる。これは他国の自動車メーカ

ーにも言えることであり、現在、世界規模で業界再編が進んでいることがわかる。日本の

自動車メーカーも海外メーカーから出資や技術供給を受けているが、トヨタ自動車と本田

技研工業の 2 社は、他のメーカーから供給を受けていない。この 2 社はもっぱら出資や技

術供給する立場にある。 以上から自動車産業の位置づけをまとめてみよう。自動車産業は、全製造業の製造品出

荷額、主要製品別輸出額、主要製造業の設備投資額、研究開発費と全てにおいて も金額

が高かった。これらの金額から、自動車産業というのは非常に規模が大きく、日本経済を

支える基幹産業としての地位を占めていることがわかった。また、他の製造業と比較して

も売上高は大きかった。 では、次に市場動向を見る。

(2)国内市場動向

この項では国内の新車自動車の市場動向を見る。まずは、自動車業界 8 社の国内売上高

合計とその割合の推移を見て、現在、市場がどのような状況にあるのかを分析する。 【図表 2‐1‐7】

業界8社の国内売上高合計とその割合

0

2,000,000

4,000,000

6,000,000

8,000,000

10,000,000

12,000,000

14,000,000

16,000,000

(百万円)

0.00%

5.00%

10.00%

15.00%

20.00%

25.00%

30.00%

35.00%

40.00%

業界8社の国内売上高合計 13,788,232 13,804,008 13,373,440 13,591,656 13,975,344 14,145,488

国内売上高割合 36.35% 33.29% 31.13% 29.82% 27.41% 24.71%

2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度

(『日経経営指標』,2003 年から 2007 年)

【図表 2‐1‐7】は国内自動車メーカー8 社(トヨタ自動車・本田技研工業・日産自動車・

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スズキ・三菱自動車・ダイハツ工業・マツダ・富士重工業)の国内売上高合計とその割合

を表したものである。この指標を用いた理由は、国内と海外を対等に比較する際に も適

していたからである。 2001 年度以降、売上高は伸び悩んでおり、ほぼ横ばいの状況が 6 年間続いている。国内

売上高に大きな増減はないものの、国内売上高割合は右肩下がりで減少していることがわ

かる。2001 年度と 2006 年度の国内売上高割合を比較すると、約 10%落ち込んでいる。国

内の売上高は減少していないものの、その割合は減少していることがわかった。つまり、

近年の国内の自動車産業は成熟市場であり、海外で売上を伸ばしているのである。 では実際、国内の新車販売動向はどのようになっているのだろうか。以降で探っていく。 【図表 2‐1‐8】

四輪車新車販売台数の推移

3,600,000

3,800,000

4,000,000

4,200,000

4,400,000

4,600,000

4,800,000

5,000,000

台数(台)

四輪車新車販売台数 4,093,148 4,154,084 4,259,872 4,289,683 4,441,354 4,715,920 4,768,131 4,748,409 4,641,732 4,400,299

1998年度 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

※2002 年まではシャシーベース、2003 年からはナンバーベース調

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2008 年 9 月 16 日) 【図表 2‐1‐8】で四輪車新車販売台数の推移を表した。1998 年度から 2004 年度まで

は右肩上がりに販売台数を伸ばしており、近年は販売台数が減少している。2003 年度から

カウント基準がシャシーベースからナンバーベースに変更されている。なお、この 2 つの

基準は道路運送車両法(車両法)に基づいて分類されており、シャシーベースでは、車体

の大きさや排気量で分類されている。これに対しナンバーベースでは、自動車の種別と用

途などにより分類されている。詳しくは巻末に資料を添付したので参照していただきたい。 では、国内ではどのような車種の売れ行きが好調なのだろうか。車種別新車販売台数(図

表 2‐1‐9)の推移を見てみよう。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 2‐1‐9】

車種別四輪車新車販売台数の推移

0

1,000,000

2,000,000

3,000,000

台数(台)

普通車新車 756,117 723,999 770,220 741,489 674,094 1,229,907 1,358,281 1,271,349 1,225,867 1,299,168

小型自動車新車 2,389,671 2,193,920 2,208,387 2,274,996 2,406,103 2,194,194 2,037,767 2,089,992 1,908,267 1,654,025

軽自動車新車 947,360 1,236,165 1,281,265 1,273,198 1,307,157 1,291,819 1,372,083 1,387,068 1,507,598 1,447,106

1998年度 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

※2002 年まではシャシーベース、2003 年からはナンバーベース調

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2008 年 9 月 16 日)

【図表 2‐1‐9】は四輪車新車販売台数を普通車、小型自動車、軽自動車の 3 車種に区分

し、その販売台数の推移を表したものである。まず、普通車の販売台数を見てみると 1999年度以降、ほぼ横ばいで推移している。ここ 10年間は伸び悩んでいる状況であると言える。 次に、小型自動車の動向を見る。小型自動車の販売台数は、緩やかに減少している。し

かし、3 車種の中では も多くの台数が売れているということが特徴として挙げられる。 後に、軽自動車の販売動向を見る。軽自動車の販売台数は、わずかながらも年々増加

していることがわかる。普通車と小型自動車の販売台数が減少傾向にある中で、軽自動車

のみ増加傾向にあることは注目すべき点であろう。 ここまで国内新車自動車の市場動向を見てきた。国内では新車の売れ行きは、ほぼ横ば

いの状況が続き伸び悩んでいることがわかった。しかし、売れ行きが伸び悩んでいる中、

唯一、軽自動車は販売台数を伸ばしていた。軽自動車は、他の車種よりも比較的購入価格

が安い車種である。国内では価格の安い車種が売れているのだろうか。それを確かめるた

め、新車よりも価格が安い中古車の市場動向を見てみる。

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【図表 2‐1‐10】

中古車販売台数の推移

5,000,000

5,500,000

6,000,000

6,500,000

台数(台)

合計 5,914,452 5,952,869 6,241,419 6,296,660 6,321,125 6,360,313 6,287,192 6,353,127 6,297,534 5,938,584

1998年度 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

※ナンバーベース調。

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2008 年 9 月 16 日)

【図表 2‐1‐10】は中古車販売台数の推移を表したものである。国内の新車販売台数と

比較すると、2007 年度の国内新車販売台数は約 440 万台であるのに対して、同年の中古車

販売台数は約 590 万台と約 1.3 倍の差がある。このことから中古車市場規模は新車市場規

模と比べ大きいと言える。 販売台数の推移については、わずかな増減はあるものの、2000 年度から 2005 年度にか

けてほぼ横ばいの状況が続き、それ以降の販売台数は減少している。この点は新車市場も

中古車市場も同じであった。 次に中古車市場をさらに詳しく分析するために販売車種を普通車、小型自動車、軽自動

車の 3 車種に分けた図表を見てみよう。

13

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 2‐1‐11】

車種別中古車販売台数の推移

0

500,000

1,000,000

1,500,000

2,000,000

2,500,000

3,000,000

3,500,000

台数(台)

普通車 1,493,744 1,551,703 1,742,786 1,830,588 1,861,694 1,910,017 1,984,562 2,002,563 1,959,739 1,810,596

小型自動車 3,309,426 3,127,783 3,050,087 2,913,775 2,744,604 2,640,456 2,524,764 2,460,410 2,304,226 2,105,122

軽自動車 1,111,282 1,273,383 1,448,546 1,552,297 1,714,827 1,809,840 1,777,866 1,890,154 2,033,569 2,022,866

1998年度 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

※ナンバーベース調。

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2008 年 9 月 16 日)

【図表 2‐1‐11】は中古四輪車販売台数を普通車、小型自動車、軽自動車の 3 車種に区

分し、その販売台数の推移を表したものである。中古車市場でも軽自動車が販売台数を伸

ばしており、小型自動車は新車市場と同様に販売台数が減少している。新車市場と異なる

点は、普通車が販売台数をわずかに伸ばしていたということだ。 軽自動車は新車・中古車市場共に販売台数を伸ばしていた。他車種が伸び悩んでいる中

で、軽自動車の人気の秘密は何なのだろうか。この点に注目し、以降では軽自動車につい

て深く分析していく。まずは軽自動車に関するアンケート結果を見てみよう。

【図表 2‐1‐12】

年度 ‐複数回答‐

運転がしやすい

狭い道で使いやすい

買い物や用足しに使うのに向いているから

駐停車が容易だから

長距離を走ることがあまり無いから

2台目の車だから

通勤・通学専用の車だから

荷物の積み下ろしがしやすいから

車の安全性から

合計

2001年度 61 60 52 39 33 27 16 16 2 302003年度 61 56 46 33 23 23 19 6 4 2712005年度 57 61 45 50 29 18 20 9 2 291

車使用面からの選択理由(最近2年間新車)

6

2007年度 66 57 46 39 30 20 17 8 2 285

14

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2009 年 1 月 23 日)

【図表 2‐1‐12】は軽自動車を使用する際の選択理由をアンケート調査し、結果をまと

めたものである。調査対象は自家用軽自動車を保有する世帯及び事業所で、調査地域は全

国、調査期間は 2007 年 5 月中旬から 6 月中旬に行われたものである。 アンケート結果から軽自動車の選択理由は「運転がしやすい」「狭い道で使いやすい」「買

い物や用足しに使うのに向いているから」といった意見が多いことがわかった。また、荷

物の積み下ろしや、安全性については重視されていないようだ。この結果から、消費者は

使い勝手の良さから軽自動車を選択しているということがわかる。次に、経済性・法規・

税制面からの選択理由を見てみよう。

【図表 2‐1‐13】 年度 ‐複数回答‐

税金が安い

燃費が良い

価格が安い

車検費用が安い

保険が安い

この中にはない

合計

2001年度 87 44 46 45 38 4 22003年度 86 47 45 38 24 5 22005年度 87 52 46 47 29 3 22007年度 83 53 45 32 22 4 2

経済性・法規・税制面からの選択理由(最近2年間新車)

64456439

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2009 年 1 月 23 日) このアンケートも先の軽自動車を使用する際の選択理由アンケート調査と同様の調査方

法で行ったものである。【図表 2‐1‐13】では、経済性・法規・税制面からの選択理由を表

している。図表を見ると、「税金が安い」という選択理由が圧倒的に多いことがわかる。「こ

の中にはない」という解答は少数で、多くの人は税金を重視し、軽自動車を選択している

ことがわかる。 2 つのアンケート結果から、使い勝手が良く、税金が安いから軽自動車を選択していると

いうことがわかった。これが軽自動車人気の 1 つの要因になっていると言えるだろう。 ここまで軽自動車のメリットを探ってきたが、軽自動車にもデメリットはある。例えば、

他車種と比べると車内が狭いために乗車できる人数が少ないことや、荷物を多く積めない

といったことだ。その他にも、排気量が小さいため加速力が弱く、走りに力がないことや、

高級車、普通車と比較すると、走行性能や安全性能など車体の性能が劣る点がデメリット

として挙げられるだろう。 しかし、このようなデメリットがあっても、運転がしやすいことや、用足し程度に使用

するということ、経済的選択理由を考慮すれば、軽自動車を選択することは理解できる範

囲だと思われる。

15

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

国内の自動車市場は、新車、中古車共に販売台数が減少していることがわかった。しか

し、軽自動車だけは、他の 2 車種が販売台数を減らす中、唯一販売台数が減少していない。

総合的に見ると自動車販売台数は変わらないのだが、軽自動車の販売台数が伸びることで、

2 車種の減少分を補っているのだ。この軽自動車の人気は、使い勝手のよさや、税金が安い

といった点にあった。 だがそれでも、国内で自動車が売れている状況とは言い難い。では、国内で自動車が売

れなくなっている要因はいったい何なのだろうか。以降で探ることにしよう。

【図表 2‐1‐14】

乗用車の平均使用年数の推移

6.72

11.66

6

7

8

9

10

11

12

年数

平均使用年数 6.72 7.76 8.7 9 9.11 9.26 9.33 9.27 9.63 10.55 10.93 11.66

1975年 1978年 1981年 1984年 1987年 1990年 1993年 1996年 1999年 2002年 2005年 2007年

約5年

(『財団法人自動車検査登録情報協会』,http://www.airia.or.jp/,2007 年 12 月 13 日)

【図表 2‐1‐14】は、乗用車の平均使用年数の推移を表したものである。平均使用年数

とは、乗用車が国内で新車登録されてから登録抹消されるまでの期間の平均年数のことで

ある。この数値は、人間で言えば平均寿命に相当する。 1975 年から 2007 年の期間を 3年ごとに区切り、乗用車の平均使用年数を調べたところ、

使用年数は右肩上がりに伸びる傾向にある。2007年の国内の乗用車の平均使用年数は11.66年で過去 長である。また、1975 年と 2007 年の平均使用年数を比較してみると約 5 年伸

びていることがわかる。 このデータの背景には、車体そのものの耐久性能の向上がある。車体性能の向上により、

1 台の自動車を長期間乗ることが可能になったため、自動車を買い替えるサイクルが長引い

たと考えられる。こうしたことが国内の新車販売不振に拍車を掛けている 1 つの要因にな

っているものと思われる。 次に、今日、価格の高騰が注目されているガソリン店頭価格の推移を見てみよう。なぜ

なら、自動車の主燃料であるガソリン価格の動向が、自動車の使用頻度に影響を与えるか

らだ。ゆえに、ガソリン価格の高騰によって国内での自動車販売台数減の要因になる。

16

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【図表 2‐1‐15】

レギュラーガソリン店頭価格の推移

93

140

80

90

100

110

120

130

140

150

(円/ℓ)

価格 93 94 101 103 99 101 111 125 136 140

1998年平均 1999年平均 2000年平均 2001年平均 2002年平均 2003年平均 2004年平均 2005年平均 2006年平均 2007年平均

約50円

(『石油情報センター』,http://oil-info.ieej.or.jp/,2008 年 6 月 23 日)

【図表 2‐1‐15】はレギュラーガソリン店頭価格の推移を表したものである。1998 年と

2007 年の平均価格を比較すると、ガソリン価格は 1 リットル当たり約 50 円値上がりして

いることがわかる。1998 年から 2002 年にかけてわずかに価格の増減があるものの、ガソ

リン価格はほぼ一貫して右肩上がりに上昇しており、特に 2003 年以降から価格の高騰が目

立っている。価格の高騰が続く状態なら、消費者は自動車の使用を控えるようになるだろ

う。また、公共交通機関を使用したほうが安く済む場合もあり得るので、自動車自体を購

入しないといった人が現れることも考えられる。 このようなガソリン価格高騰の要因は、新興国の経済が発展し石油の需要が増えたこと

や、投資マネーが石油市場に流れたことが考えられる。今後もガソリン価格が大幅に安く

なることは考えにくく、自動車販売台数に影響していくと思われる。 こうした理由の他に社会的要因も挙げられる。代表的なものは交通発展である。 地方では十分に交通インフラが整っていない地域もあるが、都会では自動車が不必要な

ほど交通インフラが整っている。例えば、都会では電車に乗るときに電車の時刻表を見な

いで駅に行っても頻繁に電車は来るため、不便と感ずることは少なく、 終電車の時刻も

遅い。しかし、交通インフラの整備が不十分な地域では、電車の利用は都会と比べて不便

であり、自動車なしでの移動は困難である。そういった地域では自動車は生活必需品であ

るため需要はあるが、都会では生活必需品ではなくなりつつあるため、購入する人が減り

販売台数減少の要因の 1 つになっていると思われる。このように、自動車を購入する人々

が減少していることは「車離れ」と呼ばれている。 では、どうすれば自動車を購入するようになるのだろうか。

17

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 2‐1‐16】

どうなったら自動車を購入するか

185

150

100

92

56

45

6

91

0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200

所得が増えたら

維持費が安くなったら(駐車場代を除く)

自動車がもっと安くなったら

駐車場代が安くなったら

家族が増えたら

魅力的な自動車が発売されたら

自動車を持つことが「カッコいい」と言われるようになったら

その他 ※複数回答

人数(人)

(『ガリバー自動車研究所』,http://www.glv.co.jp/company/research/,2009 年 1 月 29 日)

【図表 2‐1‐16】はガリバー自動車研究所が行った「どうなったら自動車を購入するか」

というアンケート調査を加工したものである。調査対象は 18 歳以上の自動車運転免許保有

者でマイカーを保有していない435人を対象とした。調査期間は2007年9月13日から2007年 9 月 14 日である。 調査結果によれば、「所得が増えたら」「維持費が安くなったら」「自動車がもっと安くな

ったら」といった経済的要因を理由に挙げている。一方で、「魅力的な自動車が発売された

ら」「自動車を持つことがカッコいいと言われるようになったら」といった自動車自体の魅

力が購入要因になるといった意見は多くなかった。 つまり、国内の自動車販売不振は、先に述べた乗用車の平均使用年数が伸びたことや、

交通発展により需要が低下したこと、自動車の価格や所得の額、ガソリン価格が高騰して

いることなどの経済的要因によって販売台数を伸び悩ませているとわかった。 後になる

が、自動車の選択理由に税金を重視する声が多かったため、巻末で自動車に関わる税金の

一覧表を添付した。 (3)海外市場動向

以上の分析により、国内市場は縮小していることがわかった。この項では海外の自動車

市場動向について見ていく。

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【図表 2‐1‐17】

業界8社の海外売上高合計とその割合

0

5,000,000

10,000,000

15,000,000

20,000,000

25,000,000

30,000,000

35,000,000

40,000,000

45,000,000

50,000,000

(百万円)

55.00%

60.00%

65.00%

70.00%

75.00%

80.00%

業界8社の海外売上高合計 24,147,032 27,656,968 29,580,768 31,992,744 37,008,536 43,104,288

海外売上高割合 63.65% 66.71% 68.87% 70.18% 72.59% 75.29%

2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度

(『日経経営指標』,2003 年から 2007 年)

【図表 2‐1‐17】は国内自動車メーカー8 社(トヨタ自動車・本田技研工業・日産自動

車・スズキ・三菱自動車・ダイハツ工業・マツダ・富士重工業)の海外売上高合計とその

割合を表したものである。海外売上高は 2001 年度以降、右肩上がりに上昇していることが

わかる。この動きは、日本国内の動きとは対照的である。海外売上高割合も同様であり、

海外市場は国内市場に比べて好調と言える。つまり、自動車産業は近年、海外での売上を

主な収益源にしていることがわかる。新興国の経済成長も盛んであり、今後、海外売上高、

海外売上高割合はますます増加していくものと思われる。 では、主にどの地域で自動車産業は売上を得ているのか。北米、欧州、アジアの主要 3

市場での生産動向を見ることにしよう。

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【図表 2‐1‐18】

主要3市場(北米、欧州、アジア)の生産台数の推移

0

500,000

1,000,000

1,500,000

2,000,000

2,500,000

3,000,000

3,500,000

4,000,000

4,500,000

台数(台)

北米 2,664,588 2,674,299 2,797,175 2,991,924 3,061,612 3,375,453 3,487,012 3,840,744 4,080,713 4,001,639

欧州 814,689 920,985 929,303 953,170 1,032,004 1,153,059 1,338,476 1,454,903 1,545,355 1,702,836

アジア  2,003,286 1,215,202 1,547,671 1,673,740 1,872,521 2,380,621 3,007,348 3,638,978 3,964,209 4,129,856

1997年度 1998年度 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2008 年 5 月 26 日)

【図表 2‐1‐18】は主要 3 市場(北米、欧州、アジア)での生産台数 10 年間の推移を

表したものである。3 市場とも共通して言えることは 1997 年度以降、生産台数を年々増加

させていることである。欧州での増加率は、それほど高いものではないが、北米、特にア

ジアでの生産台数が近年増加している。以前から北米市場は自動車市場の中核を担ってい

たと言えるが、2006 年度にアジアでの生産台数が北米を上回った。 以上のように、主に北米やアジア地域での生産が伸びたことが海外売上高の増加要因で

あると言えるが、近年、さらに注目されている市場がある。それは BRICs と呼ばれる新興

国市場である。 BRICs とは、「ブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)

の 4 カ国の英語の頭文字をつなげた造語で、『BRICK(レンガ)』をもじったものである。

中長期な視点でとらえた場合に、高い成長ポテンシャルを有する新興国のことを指す。米

国の証券会社ゴールドマン・サックス社が、2003 年 10 月 1 日に発表した『Dreaming with BRICs : The Path to 2050』というタイトルの投資家向けレポートの中で初めて登場し、そ

の後 1 年半の間に広く人口に膾炙するようになった」(門倉貴史,『図説 BRICs 経済』日本

経済新聞社,2005 年,2 頁参照)。 BRICs を構成する 4 つの国に共通する特徴は、「国土面積や人口規模が圧倒的に大きいこ

とだ。国土面積が広ければ、それだけ各種の天然資源を自国内で産出できる確率が高まり、

資源不足が経済成長の制約要因になる度合いは低くなる。また、人口規模が大きければ、

経済発展の過程で必要となる良質な労働力を潤沢に供給できるので、労働力不足を心配す

る必要もない」(門倉貴史,『図説 BRICs 経済』日本経済新聞社,2005 年,12 頁)。 では、実際に国土面積と人口規模を見てみよう。

20

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

順位 国名 国土面積(平方km) 順位 国名 人口(1,000人)1位 ロシア 17,075,200 1位 中国 1,315,8442位 カナダ 9,984,670 2位 インド 1,103,3713位 米国 9,629,091 3位 米国 298,2134位 中国 9,596,960 4位 インドネシア 222,7815位 ブラジル 8,547,403 5位 ブラジル 186,4056位 オーストラリア 7,686,850 6位 パキスタン 157,9357位 インド 3,287,590 7位 ロシア 143,2028位 アルゼンチン 2,766,890 8位 バングラディッシュ 141,8229位 カザフスタン 2,717,300 9位 ナイジェリア 131,53010位 スーダン 2,505,810 10位 日本 128,08561位 日本 377,873

国土面積の上位10カ国 人口規模の上位10カ国

【図表 2‐1‐19】 【図表 2‐1‐20】

(門倉貴史,『図説 BRICs 経済』日本経済新聞社,2005 年,13 頁)

【図表 2‐1‐19】は国土面積の広さ上位 10 カ国を表したものである。BRICs に含まれ

る 4 カ国全てが 10 カ国の中にランクインしている。BRICs4 カ国で世界の陸地の 3 割を占

め、世界規模で見ても非常に広大な国土面積であることがわかる。【図表 2‐1‐20】は人口

規模の大きさ上位 10 カ国を表したものであるが、この図でも BRICs に含まれる 4 カ国全

てがランクインしている。特に中国は国土面積、人口規模が BRICs の中でも大きく、さら

なる経済成長が期待できる。ちなみに、同年の世界人口は約 64億 6,000万人であり、BRICs4カ国だけで世界人口の 42.5%を占めていることになる。 では、BRICs4 カ国は、実際、どの程度の経済成長を果たしているのだろうか。BRICs4

カ国の実質経済成長率の推移を見てみよう。 【図表 2‐1‐21】

各国の実質経済成長率の推移

-6-5-4-3-2-10123456789

101112

1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年

(%)

ブラジル

ロシア

インド

中国

アメリカ

日本

世界平均

ブラジル

ロシア

インド

中国

21

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

年度 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年ブラジル 0 0.3 4.3 1.3 2.7 1.1 5.7 3.2 3.8 5ロシア -5.3 6.4 10 5.1 4.7 7.3 7.2 6.4 7.4 8.1インド 6 6.9 5.7 3.9 4.6 6.9 7.9 9.1 9.8 9.3中国 7.8 7.6 8.4 8.3 9.1 10 10.1 10.4 11.6 11.9アメリカ 4.2 4.4 3.7 0.8 1.6 2.5 3.6 2.9 2.8 2日本 -2 -0.1 2.9 0.2 0.3 1.4 2.7 1.9 2.4 2.1世界平均 2.5 3.5 4.7 2.2 2.8 3.6 4.9 4.5 5.1 5

.4

(『International Monetary Fund』,http://www.imf.org/external/index.htm, 2008 年 9 月 16 日)

【図表 2‐1‐21】は BRICs4 カ国とアメリカ、日本、世界平均の実質経済成長率 10 年

間の推移を表したものである。BRICs の成長力を他国と比較するために、先進国であるア

メリカ、日本と、世界平均の GDP を取り上げた。 やはり、注目市場と言われているだけのことはあり、BRICs4 カ国は世界平均を上回る経

済成長をしていることがわかる。もちろん、アメリカ、日本の成長力を上回っている。中

でも、中国の成長力は も高く、2003 年以降、年間 10%を上回る高成長を続けている。ブ

ラジルの成長力は BRICs の中ではさほど高くないが、マイナス成長がなく、着々と成長し

ている。ロシア、インドは中国ほどではないが、1999 年以降、世界平均値を常に上回って

おり、6%前後の成長を見せている。中国の成長率を上回る年度もあり、比較的高い成長力

を見せている。 国土面積や人口規模、経済成長力などにおいて非常に魅力的な BRICs であるが、「BRICs

のマクロ経済がこのまま好調に推移していけば、いずれは現在の経済大国であるG7(米国、

日本、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ)を凌駕する巨大な経済圏を形成する

と言われている。まだまだ先の話と思われるかもしれないが、すでに BRICs 経済の台頭は

世界経済に無視できない影響を及ぼし始めている。例えば、 近の国際商品市況の高騰で

ある。原油や鉄鋼、銅、アルミニウムといった原材料価格高騰の背景には、工業化の進む

BRICs が、大量の素材を海外の市場から調達していることがある。さらに、経済発展に伴

い購買力のある中間層が多数出現してきたことから、 終消費市場としての魅力も急速に

高まっている。国内市場が飽和気味の先進国の企業は、BRICs の巨大市場を狙って輸出構

成をかけようとしている。日本でも、多くのメーカーが BRICs への輸出や現地生産の拡大

を図っているところだ」(門倉貴史,『図説 BRICs 経済』日本経済新聞社,2005 年,2 頁参

照)。 ただし、国土と人口規模が大きいだけに、地球レベルで大気汚染をはじめとする環境破

壊が深刻化する恐れもある。 以上、自動車産業の海外市場の動向を見てきた。海外市場は国内市場と異なり、成長市

場であることは明らかである。日本企業の海外売上高割合の上昇や、新興国の成長があり

自動車各社にとっては今後、海外市場での戦略がカギになると思われる。 次項では、自動車産業にとって重要である環境、安全対策を見ていくことにしよう。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

(4)環境に対する取り組み

この項では自動車産業が取り組む環境問題対策について取り上げる。自動車産業にとっ

て環境問題への配慮は避けて通れない。現在、自動車が排出するガスによって引き起こさ

れる環境問題は数多くあり、問題視されている。例えば、地球温暖化問題や、酸性雨によ

る森林の減少、大気汚染などが挙げられる。このような環境問題を解決するためには、で

きるだけ温室効果ガスの排出を減らすことが必要である。自動車産業が環境問題を防止す

るために、ガソリン節約技術の開発や、ハイブリッド車・燃料電池車といったクリーンエ

ネルギー車の開発に力を入れ、地球環境に優しい車作りを積極的に行っているのはこうい

った理由からだ。 はじめに環境規制の歴史を振り返り、その後、現在どのような環境対策を採っているの

か説明する。 では、環境規制の歴史を振り返ってみよう。

①環境規制の歴史

自動車の環境問題への影響は製造段階、使用段階、廃棄段階に分けられる。製造段階で

は主に製造時に発生する二酸化炭素放出、塗料や電子部品の化学反応によって有害物質が

発生する。使用段階では走行時の二酸化炭素や一酸化炭素、窒素等の放出、粉塵の発生に

よって光化学スモッグが起こる。廃棄段階では冷却溶媒によるオゾン層破壊、不法投棄に

よる汚染が問題となっている。 日本が本格的なモータリゼーションの時代を迎えて、自動車による地球環境への影響が

深刻となったのは 1960 年代半ばと言われている。その流れを受けて 1967 年の「公害対策

基本法」、1968 年の「大気汚染防止法」が成立し、法整備や自動車の排出ガス規制の強化が

行われてきた。 1970 年代に入ると公害に対する国民の意識が高まり始め、翌年の 1971 に環境庁が発足

された。1978 年になると、自動車排出ガス規制を求める世論の高まりの中で日本版マスキ

ー法(自動車排出ガス規制)が実施された。 自動車から排出される窒素酸化物による大気汚染が著しい地域については、二酸化窒素

(NO2)の環境基準の確保を図るため、自動車 NOx 法が 1992 年 6 月に公布され、車種規

制をはじめとする施策が実施された。 翌年の 1993 年に都市・生活公害や身近な自然の減少、さらには地球環境問題の進行に対

応するため、「公害対策基本法」(1967 年制定)を発展的に継承し、環境に関する分野につ

いての国の政策の基本的な方向を示す法律として環境基本法が 11 月に公布・施行された。

環境への影響評価基準(環境アセスメント)は 1997 年に施行された「環境影響評価法」が

示している。 2001 年 6 月には、自動車 NOx 法の一部が改正された。1992 年 6 月に公布された自動車

NOx 法が対策の目標とした NO2 に係る大気環境基準を達成することは困難な状況にあっ

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

たため、NOx に対する従来の施策をさらに強化すると共に、自動車交通に起因する粒子状

物質の削減を図った。この改正により対策の対象となる物質が増え、対象地域も従来の首

都圏、大阪・兵庫圏から新たに愛知・三重圏の地域が追加された。 現在、自動車業界各社ではそれらの法整備や規制とは別に独自の目標を掲げ(この目標

は日本の法律や規制よりも厳しい、世界の法律や規制を標準としている場合が多い)、その

目標を達成するために技術の開発を行っている。 このように、環境規制が厳しくなっていく中で、自動車産業は環境に優しい車作りに取

り組んできたが、その効果を燃費とクリーンエネルギー車の普及の観点から見てみよう。 【図表 2‐1‐22】

ガソリン乗用車の平均燃費の推移

15.5

12.4

12

13

14

15

16

燃費(km/l)

燃費 12.4 12.5 12.5 12.4 12.6 13.1 13.5 13.8 14.3 14.9 15.1 15.4 15.5

1993年度 1994年度 1995年度 1996年度 1997年度 1998年度 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度

約3km/ℓ

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2008 年 6 月 23 日)

【図表 2‐1‐22】はガソリン乗用車の平均燃費の推移を表したものである。1996 年度以

降、ガソリン乗用車の平均燃費は右肩上がりに上昇しており、年間約 0.4km/ℓ燃費が向上し

ている。1993 年度から 2005 年度の 13 年間で、燃費は約 3km/ℓ向上した。 自動車の燃費が向上すれば、少ないエネルギーでより長い距離を走行することが可能に

なり、ガソリンの節約ができる。ガソリンが節約されれば、その分だけ温室効果ガスの排

出量を減らせるため、より環境に優しい。今後も自動車メーカー各社は、燃費向上の技術

を追求していくため、燃費はさらに右肩上がりに推移していくだろう。 このようにガソリン車の燃費が上昇していることがわかったが、近年、ガソリン使用量

がさらに低い自動車、またはガソリンを全く使用しないで走行できる環境に優しい自動車

が注目を浴びている。このような自動車はクリーンエネルギー車と呼ばれており、各社は

環境問題対策のために、開発に力を注いでいる。ここで、クリーンエネルギー車について

触れておこう。 クリーンエネルギー車とは、石油以外をエネルギー源として、ハイブリッド車や天然ガ

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ス(CNG)、ディーゼル代替 LPG、電気などを利用する自動車のことを言う。近年、CO2排出量削減、排出ガスの清浄化の観点から注目されている。将来は燃料電池自動車の普及

も期待されている。 まず、一般に普及されているハイブリッド車について説明する。ハイブリッド車はエン

ジンと電気モーターという 2 つの動力源を併せ持った車両のことを言う。従来は、エンジ

ンとモーターを状況に応じて使い分けるパラレル型と、エンジンで発電した電力を使って

電気モーターを駆動するシリーズ型の 2 つが代表的であったが、 近では両方の機能を併

せ持ったコンバインド型が注目されるようになっている。ハイブリッド車は、厳密な意味

ではクリーンエネルギー車ではない。しかし、発進時はモーターで、加速時など駆動力が

必要な時にはエンジンとモーターを併用し、一定速度走行時はエンジンで走りながら、余

剰の動力は充電して、排出ガス低減と燃費効率を大幅に向上することが可能である。 日本では、トヨタ自動車と本田技研工業から発売されているが、実際にハイブリッド車

の普及は進んでいるのだろうか。 【図表 2‐1‐23】

ハイブリッド車の普及台数の推移

200

256,600

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

台数(台)

ハイブリッド車 200 3,700 22,500 37,400 50,400 74,600 91,000 132,500 196,800 256,600

1996年度 1997年度 1998年度 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度

プリウス発売

インサイト発売

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2008 年 6 月 23 日) 【図表 2‐1‐23】はハイブリッド車の普及台数の推移を表したものである。1996 年度に

はわずか 200 台であったものの、1997 年にトヨタ自動車から発売されたハイブリッド車、

プリウスの普及と、1999 年ホンダから発売されたハイブリッド車、インサイトにより普及

台数を伸ばした。近年になると急激に普及台数は伸びており、2005 年度時点の普及台数は

約 25 万台となっている。企業側は、今後も環境問題に対応していくため、ハイブリッド車

の車種を増加させることが見込まれており、消費者もなるべくなら燃費が良い自動車に乗

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

りたいと考える。そのため、購入者も増えると思われる。また、ハイブリッド車を保有す

ることは一種のステータスアップになるとも言われている。今後、高まっていくと思われ

る環境意識により、普及台数は伸びていくだろう。 次に、ガソリンを全く使用しないで走行できる自動車、電気自動車(EV)とソーラーカ

ーについても触れておこう。 電気自動車は、使用過程において排気が一切発生しないクリーンな自動車である。電気

自動車の動力装置は、電気モーター、バッテリー、パワーコントロールユニット(動力制

御装置)の 3 点が基本構成である。モーターから動力を直接車輪に伝える。騒音が少ない

ことも特長である。充電に長時間を要することと、1 回の充電による航続距離が短いことが

弱点となっていたが、現在では、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などエネルギー

密度の高いバッテリーが開発され、コンパクトで軽量なバッテリーを搭載することで航続

距離を伸ばしている。2007 年に三菱自動車が開発した電気自動車「i MiEV(アイ・ミーブ)」は、1回の充電で航続距離 160km が実現されている。 今後、エコステーションなどの充電スタンドの普及が進めば、石油燃料に代わる将来有

望な代替エネルギー車として期待されている。 ソーラーカーは太陽エネルギーを利用し、太陽電池で発電してモーターを駆動する電気

自動車の 1 つである。すでに実験車両は多く開発されているが、実用化のためには、太陽

電池を自動車のエネルギー源として考えた場合まだまだ性能が低いこと、太陽電池の変換

効率、高価格、低いパワー密度、さらに太陽電池を設置するスペースの確保などが課題と

して残されている。 後に燃料電池自動車について説明する。燃料電池自動車は「水素を反応させて電気を

作り出す。この電気でモーターを駆動して走るのが燃料電池自動車である。ガソリンエン

ジンやディーゼルエンジンは燃料を消費すると、一酸化炭素(CO)や窒素酸化物(NOx)などの排出ガスが発生する。ハイブリッド車もガソリンエンジンなどの内燃機関を利用す

るので、排出ガスをゼロにすることはできない。しかし、燃料電池は水素を反応させるの

で、排出するのは水だけである。排出ガス問題解決にも地球温暖化防止にも貢献する、と

てもクリーンな動力源だ。そして、この水素は原油からも作り出せるが、現在植物などか

ら取り出す方法も実用化されており、化石燃料枯渇問題にも効果が期待されている」(住商

アビーム自動車総合研究所,『図解入門業界研究 新自動車業界の動向とカラクリがよ~く

わかる本』株式会社秀和システム,2005 年,208 頁参照)。 自動車産業が取り組む環境対策を見たが、主に業界では燃費の向上、排出ガスの削減、

クリーンエネルギー車の開発に取り組んでいることがわかった。燃費は企業の努力により

年々向上しており、これにより排出ガスの削減も見込まれる。クリーンエネルギー車に関

しては、ハイブリッド車の普及台数が年々増加していることがわかった。また、電気自動

車や、ソーラーカー、燃料電池車の開発が進められていた。 次項では、自動車産業や私たち利用者にとっても重要である安全に対する取り組みを見

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

ることにしよう。

(5)安全に対する取り組み

この項では、自動車産業が取り組む安全対策について見ていく。 安全対策は自動車産業の社会的使命と言われており、自動車産業では事故回避のための

予防安全装備の充実や、交通事故死者数減少や事故による負傷の軽減に貢献するための安

全装備の開発、普及へ積極的に取り組んでいる。安全技術の例としてエアバッグや、衝撃

吸収ボディーの製造、コンピューターを使った ITS システムなどが挙げられる。自動車メ

ーカー各社は新技術開発を競い、より安全な自動車の開発を目指している。 では、現在、どのような技術が開発されていて、どの程度普及が進んでいるのだろうか。

【図表 2‐1‐24】

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2008 年 11 月 6 日)

【図表 2‐1‐24】は保有台数に占める安全装置の装備割合を表したものである。気体に

より瞬時に膨らむバッグによって、衝突時に乗員にかかる衝撃を緩和する機能のエアバッ

クシステム、後続車に見えやすいよう高い位置に取り付けられたブレーキランプであるハ

イマウントストップランプ、ブレーキ時にタイヤがロックしてしまうことを防ぐ ABS など、

どの安全装置の装備率も 1990 年から 2002 年にかけて右肩上がりに上昇している。 この図表は 2002 年時点のものだが、安全装置の開発に積極的な各企業の取り組みによっ

て、現在では、さらに装備率が上昇しているものと思われる。 では実際に、このような安全装備率の上昇は、交通事故による被害を軽減させる効果を

出しているのだろうか。

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【図表 2‐1‐25】

道路交通事故件数と人口10万人あたり死亡者数の推移

0

1

2

3

4

5

6

7

8

死亡者(人)

700,000

750,000

800,000

850,000

900,000

950,000

1,000,000

事故件数(件)

死亡者数(人)

事故件数

死亡者数(人) 7.28 7.11 7.14 6.87 6.53 6.04 5.76 5.38 4.97

事故件数 803,878 850,363 931,934 947,169 936,721 947,993 952,191 933,828 886,864

1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年

(『総務省統計局』,http://www.stat.go.jp/,2008 年 6 月 16 日)

【図表 2‐1‐25】は道路交通事故件数と 10 万人当たりの死亡者数の推移を表したもの

である。道路交通事故件数は年度によって大きな差があり、不安定な動きをしていること

がわかる。一方、道路交通時事故による死亡者数は 2000 年度以降年々減少していることが

わかる。2003 年度から 2005 年度にかけて事故件数は増加しているが、死亡者数は減少し

ている。 こうした死亡者数の減少は、自動車業界が取り組んできた安全対策の成果である。交通

事故を起こしても自動車の安全性能の向上により、死に至るほどの事故は起きにくくなっ

ているのだ。

業界概要まとめ 以上の分析結果を踏まえて、自動車産業は、国内市場縮小により販売台数が伸び悩んで

いることがわかった。国内市場が縮小している要因は、自動車の平均使用年数の延長、ガ

ソリン価格の高騰、交通発展、自動車の魅力がなくなったことなどが挙げられる。こうい

った理由から、今後、国内の市場規模が拡大していく可能性は低いと思われる。 一方で、海外市場は北米やアジア、新興国の台頭により成長市場であった。自動車産業

は、主に海外で収益を得ていることになる。国内市場の状況を考慮すれば、今後、海外市

場での戦略がカギになると思われる。 環境問題対策では燃費の向上やクリーンエネルギー車の開発を進め、環境に優しい車作

りを目指していた。こうした取り組みによって、燃費は 1993 年度から 2005 年度の 13 年

間で約 3km/ℓ向上していた。また、ハイブリッド車の普及やその他のクリーンエネルギー

車の開発も進んでおり、環境問題への取り組みの成果は出ていた。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

安全対策では、事故のない社会を目指すために、自動車産業全体で安全装置の開発に積

極的に取り組み、普及を進めていた。この努力により道路交通事故による死亡者数は年々

減少しており、成果を出していた。 では、自動車産業全体の動きと同様の動きが 3 社にも見られるのだろうか。次節の企業

概要で明らかにしていく。 2‐2.企業概要

この節では、自動車産業で活躍する 3 社について、まず全体を掴むために概要を見る。

その後、3 社の現在に至るまでの歩みを詳しく見て、特徴を探っていこう。 【図表 2‐2‐1】

2007年度自動車産業主要8社の売上高

0

5,000,000

10,000,000

15,000,000

20,000,000

25,000,000

30,000,000

(百万円)

売上高 26,289,24 12,002,83 10,824,23 3,475,789 3,502,419 2,682,103 1,572,346 1,702,602

トヨタ ホンダ 日産 マツダ スズキ 三菱 富士重 ダイハツ

(8 社ホームページ,2008 年 11 月 8 日)

【図表 2‐2‐1】は 2007 年度自動車産業主要 8 社の売上高を表したものである。自動車

産業には 8 社の企業が存在するが、その中で売上高において他社に差をつけているトヨタ

自動車、そのトヨタ自動車に対抗する本田技研工業、日産自動車の 3 社を取り上げ、詳し

く見ていこうと思う。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

(1)3 社の概要

(田尾綾香) ここでは 3 社の概要を比較し、特徴を述べていく。

【図表 2‐2‐2】 社名 トヨタ自動車株式会社 本田技研工業株式会社 日産自動車株式会社 創業 1937 年 8 月 28 日 1948 年 9 月 24 日 1933 年 12 月 26 日 本社所在地 〒471-8571

愛知県豊田市トヨタ町 1 番

〒107-8556 東京都港区南青山 2 丁目 1番 1 号

〒104-8023 東京都中央区銀座 6 丁目 17番 1 号

代表者 渡辺 捷昭 福井 威夫 カルロス・ゴーン 資本金 3,970 億円 860 億円 6,058 億 1,300 万円 従業員数 69,478 人(連結:316,121 人) 26,583 人(連結:178,960 人) 31,453 人(連結:180,535 人)

売上高 12 兆 792 億円 (連結:26 兆 2,896 億円)

4 兆 88 億円 (連結:12 兆 28 億万円)

3 兆 9,233 億円 (連結:10 兆 8,242 億円)

事業内容・売上構

成比 ・自動車 92% ・金融 5% ・その他(住宅・GAZOO・情

報通信・マリン等)3%

・四輪事業 81% ・二輪事業 12% ・金融 3% ・汎用事業 4%

・自動車 93% ・金融 7%

主なグループ企業 ※カッコ内は出資

比率を示す

・豊田自動織機(23.5%) →産業車両の製造・販売 ・デンソー(22.9%) →電気器機器具の製造・販

売 ・アイシン精機(22.2%) →自動部品の製造・販売 ・ダイハツ工業(51.1%) →乗用車・商用車及び部品の

製造・販売 ・日野自動車(50.1%) →トラック・バス・乗用車等

の製造・販売

・本田技研研究所(100%) →二輪車・四輪車・汎用品の

研究開発 ・ホンダエンジニアリング

(100%) →生産設備製造・生産技術 ・八千代工業(34.4%) →軽自動車の受託生産・燃料

タンク等の部品製造 ・ショーワ(33.4%) →ショックアブソーバー・パ

ワーステアリング・油圧・

空圧機等の製造

・日産車体(43.1%) →自動車及び部品の製造・販

売 ・愛知機械工業(41.5%) →自動車部品製造・販売 ・ジヤトコ(75.0%) →自動車部品製造・販売 ・ オ ー テ ッ ク ジ ャ パ ン

(100%) →特装を含む少量限定生産

車の開発・製造・販売 ・日産専用船(60.0%) →海外向け自動車輸送

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

展開地域 ・研究・開発 →日本・米国・欧州など 22

箇所 ・国内生産→15 箇所 ・海外生産 →中国・台湾・米国など 54 箇

所 ・販売会社→国内 295 社

・研究・開発 →日本・米国・欧州など 15

カ国 31 箇所 ・国内生産→6 箇所 ・海外生産 →中国・北米・欧州など 28カ国 134 箇所

・販売会社→国内 1,043 社

・研究開発 →国内7箇所・海外3箇所(米

国・欧州) ・国内生産→14 箇所 ・海外生産 →米国・中国・タイ・スペイン

など 22 箇所 ・販売会社 →海外 54 箇所国内 158 箇所

※2008 年 3 月 31 日現在 (3 社ホームページ,2008 年 6 月 25 日)

【図表 2‐2‐2】は、3 社の企業概要をまとめたものである。これらを比較して分析して

いこう。 まず創業を見ると、日産自動車が も古く、トヨタ自動車と共に戦前からの企業である。

本田技研工業は戦後に創業した、3 社の中では も若い企業となっている。 次に所在地と代表者を見てみよう。本田技研工業と日産自動車が東京に本社を構える中、

トヨタ自動車は愛知県に本社を構え、グループ会社も愛知県周辺に展開している。愛知県

周辺にグループ会社を集めることで、輸送コストを減らしているのだ。代表者を見ると、

トヨタ自動車と本田技研工業に対し、日産自動車の代表者はフランス・ルノーから来たカ

ルロス・ゴーンである。カルロス・ゴーンは 1999 年に業務提携したルノーから日産自動車

に派遣され経営改革を行い、経営危機から立て直した人物である。日産自動車が、海外企

業と業務提携を行っていることも大きな特徴だ。 次に連結従業員数と連結売上高を見てみよう。トヨタ自動車の従業員数は、本田技研工

業、日産自動車の約 1.8 倍ある。また売上高でも 2 倍以上の差があり、トヨタ自動車は規模

の大きい企業であると言える。 次に事業内容を見てみよう。3 社の歩みでも触れるが、本田技研工業は二輪事業から始ま

った企業であり、現在も事業を続けている。他にも汎用事業を行うなど、活動の場を広げ

ている。トヨタ自動車も住宅事業を行うなど、自動車以外での活動も積極的に行っている

ことがわかる。この事業内容については、次節の企業分析で詳しく述べていく。 後にグループ力を見てみよう。2007 年度自動車部品メーカー売上高ランキング(日経

業界地図〈2009 年版〉)では、上位 10 社のうち 7 社を、トヨタ自動車のグループ会社が占

めている。またデンソーは世界の自動車部品メーカーでも上位を争う企業であることから、

トヨタ自動車のグループ力が強いと言える。 以上が企業概要から言える 3 社の比較点である。この比較から、トヨタ自動車は 3 社の

中で売上高や従業員数、グループ力からも企業規模が大きく、企業のグループ力が高いと

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

言える。本田技研工業は、自動車以外の事業に積極的に取り組んでおり、2 社とは違う特徴

を持った企業である。日産自動車は、業務提携を組んでいるフランス・ルノーから来たカ

ルロス・ゴーンが代表を務めており、海外企業との提携が大きな違いと言える。 ここでは現在の 3 社について見てきたが、歴史はどのようになっているのだろうか。

(2)3 社の歩み

ではここで、現在に至るまで 3 社はどのような歴史を辿ってきたのか、詳しく見ていこ

う。 ①トヨタ自動車株式会社

(田尾綾香) トヨタ自動車(以下、トヨタ)は、1933 年豊田自動織機製作所内に豊田喜一郎が自動車

部を設立し、4 年後の 1937 年 8 月に「トヨタ自動車工業」として独立したことがはじまり

である。当時、 新技術で自動車業界をリードしていた欧米メーカーとの技術力を縮める

ために、喜一郎は自主性を重視し自分たちの力で技術力を身に付けようと考え、また自ら

が技術者として自動車開発の中心となって事業を進めていた。本拠地は、喜一郎の父であ

る佐吉の時代から築いた地盤や人々との繋がり、農村を重視する思想があり、また企業と

しての求心力を維持するためにも、早くから工業が発達していた中部地区にこだわる姿勢

を持っていた。 1941 年になり戦争色が濃くなると、航空エンジンや軍用トラックの生産を行うようにな

った。資材不足が深刻となる中、喜一郎は乗用車の試作を諦めず続けた。これは軍部に対

する抵抗の姿勢でもあった。1944 年になると軍需管轄に置かれ、航空機関係の部品製造を

作ることとなった。思うように自動車が作れなくなり、喜一郎は仕事への意欲をなくして

いった時期でもあった。 終戦を迎え連合国軍 高司令官総司令部(以下、GHQ)による統制の下、工場の被害が

少なかったこともあり、立て直しを早く進め、生産を早く開始することができた。 1947 年に自動車取締令が改正されると、新規開拓のため小型車の生産に力を入れるよう

になった。しかし技術的な評価は高かったが資金難で設備が整わず、銀行からの借入れも

困難になり、生産ができない時代を迎えた。さらに、追い討ちをかけるように「ドッジラ

イン」による不況の波で、銀行融資は困難となった。だが、その状況でも製品改良をない

がしろにせず、生産方式の改革を行い、作業能率を高めていった。 このような努力を重ねてきたトヨタであったが、1949 年ついに経営危機に陥ってしまう。

この時期、資金難で生産設備を整えられず生産に影響が出たことや、ドッジラインによる

金融引き締めの影響もあり、融資がなければ期限の来た 2 億円分の手形を決済できない事

態に陥った。日本銀行の融資により危機は乗り切ったが、販売面が弱いことを指摘され、

32

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

強化のために「トヨタ自動車販売会社」を設立することとなった。 1950 年代になってもトヨタの要となったのは、戦前から作っていたトラックの生産であ

る。しかし乗用車が今後伸びると考えたトヨタは、後の「クラウン」となる乗用車の開発

を始めた。また、当時売れていた日産自動車の「ダットサン」に対抗できる小型車「コロ

ナ」も誕生した。この時代のトヨタ 大の試みは、アメリカへ輸出の準備を始めたことで

ある。輸出の足がかりとなるアメリカでの法人設立も行った。1960 年代には本格的に輸出

を開始している。 1960 年代の成長は著しいものであった。この時期「カンバン方式」の基礎部分を擁立さ

せたことや、不良品ゼロを目指すための品質管理活動があり、経営手法の重要な柱とされ

ていた TQC(Total Quality Control)を積極的に導入し、体制作りを強化した。また 1966年から 67 年にかけてトヨタと日野自動車との提携が行われた。次いでダイハツとも提携を

行い、トヨタは販売面の経営強化も行っていった。 1970 年代は反クルマキャンペーンにより、「自動車の技術的な欠陥の解決をしていない」

(桂木洋二,『日本における自動車の世紀 トヨタと日産を中心に』,グランプリ出版,1999年 8 月,487 頁参照)と、新聞で攻撃されるメーカー叩きが広がった。トヨタも批判を浴び

たため、品質管理の体制と方法を徹底追及するリコール特別委員会を発足させて改善に努

めた。また公害問題は も重要視され、グループ全体の技術を集約し排気対策も行われた。

当時、排気ガス規制において世界で も厳しいと言われた「1970 年大気清浄法(以下、マ

スキー法)」をいち早くクリアした CVCC エンジンの技術を導入するため、本田技研工業と

技術提携を行うこともあった。しかし車種やエンジンバリエーションが他社より多かった

ため、排気規制をクリアするのが遅くなり、消費者にはマイナスのイメージを与えること

となった。 1980 年代から 90 年代にかけては、世界のトヨタとして躍進を遂げている。オイルショ

ックにより生産面で被害を受けたが、生産台数ではフォードを抜き世界第 2 位となってい

る。オイルショックや排気対策で莫大な設備投資があったが、自動車は順調に売上げを伸

ばし借金を無くすまでとなった。またトヨタ自動車工業株式会社とトヨタ自動車販売会社

が合併したことで、資本金 1,209 億 491 万円、従業員数 5 万 6,700 人と、「トヨタは押しも

押されもしない日本一の企業となった」(桂木洋二,『日本における自動車の世紀 トヨタ

と日産を中心に』,グランプリ出版, 1999 年 8 月,310 頁)。 1990 年代には海外進出も目立ち、北米や欧州で組み立て工場を完成させ生産拠点を拡大

し、2007 年度には生産台数で世界第 1 位の実力を持つ企業に成長した。 以上のようにトヨタは、戦前戦中は国の為にトラックを作り、戦後は資金難に見舞われ

経営危機にも陥ったが、そのような困難も乗り越え、「モノづくり」の精神を忘れずに、ト

ヨタ生産方式の確立やハイブリッドシステムの実現を経て、企業として成長を続けている。

2003 年にフォーミュラー1(以下、F-1)へ参戦、2007 年にはプリウスが累計販売台数を

100 万台達成し、ハイブリッドカーでの知名度を上げている。

33

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

現在でも、「モノづくり」の精神を忘れず、「自動車を通じ豊かな社会作りに貢献するこ

と」を企業理念として、クリーンエネルギー車の開発や海外企業との技術提携や共同生産

を積極的に行い、不得意分野を減らす動きを見せている。 ②本田技研工業株式会社

(稲垣裕晃) 本田技研工業(以下、ホンダ)は、1946 年に本田宗一郎が設立した「本田技術研究所」

を前身とし、創業当初は旧陸軍の無線発電機を応用した自転車用補助エンジンの生産を主

な業務としていた。1947 年に補助エンジン付き自転車の「A 型」を発売し、その大ヒット

を足掛けとして 1948 年「本田技研工業株式会社」へと社名が変更された。 ホンダにとって本格的な二輪車業界へ進出となったのは、1948 年に販売を開始した「D

型」である。この D 型を 初の一台として、ホンダの累計販売台数は 1997 年に一億台を

突破することになる。その D 型が発売された直後、本田宗一郎は共にホンダを世界有数の

二輪、四輪車メーカーに育て上げるパートナー「藤澤武夫」と出会い、翌年の 1949 年にそ

の藤澤武夫を常務取締役に就任させている。この藤澤武夫は本田宗一郎の良き補佐として

特に経営面で力を発揮し、1973 年 10 月の退任まで本田宗一郎と共にホンダを牽引するこ

とになる。 ホンダに藤澤武夫が就任してから 6 年後の 1954 年、ホンダは当時世界 高のオートバイ

レースと言われていた「マン島 T・T レース」への出場を宣言し、1959 年にそのレースで

団体優勝を成し遂げる。このマン島 T・T レースでの優勝がホンダの名を世界に知らしめ、

同年、ホンダはアメリカン・ホンダ・モーターを設立し、アメリカ進出を果たす。 1962 年、ホンダは「ホンダスポーツ・S360、S500」と軽トラックの「T360」を発表し、

本格的に四輪車業界への進出を果たす。しかし、当時のホンダは資金面の問題からトヨタ

や日産のような大型店舗の設置が難しく販売実績もなかったため、新規の委託販売店の獲

得も進まないだろうと思われた。そこで二輪車で培った、地域に密着した販売網を活用し、

消費者からのニーズが強かった修理・点検業務に注力して四輪車販売網を展開していくこ

とになる。そして同年、本田宗一郎の強い意志から三重県鈴鹿市に日本初の本格的なロー

ドサーキットである「鈴鹿サーキット」を建設する。これは、高速道路網の整備に伴う二

輪車、四輪車の高速耐久性向上に大きく貢献することとなった。 1960 年代半ばから日本は急激なモータリゼーションの時代を迎えた。それと同時に日本

各地で排出ガスによる公害が問題視され、1967 年には公害対策基本法が、1968 年には大気

汚染防止法が施行された。当時のホンダは四輪車業界への進出を果たしたばかりで、さら

なる自動車の開発が急がれていた。その上、F-1 への参戦を宣言しており、大気汚染の研究

に要員を割けるような状況ではなかった。そのような時、米国においてマスキー法が発効

された。本田宗一郎はこれを、四輪の 後発メーカーであるホンダにとって他社と技術的

に同一ラインに立つ絶好のチャンスであるとして、大気汚染対策研究室を発足した。「CVCC

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エンジン」を開発し、1974年そのCVCCエンジンでマスキー法を世界で初めてクリアした。

これによりホンダは早期の排出ガス対策技術の向上を、業界全体に投げかけたのである。

そして、特にアメリカでは二輪のホンダとしての名声に加え、四輪でも知名度を高め、現

在の強力な販売網の基本を作り上げるきっかけとなったのである。 ホンダがその CVCC エンジン開発に注力していた 1970 年代、年ごとに厳しさを増す排

出ガス規制から自動車を電子制御しようという動きが活発化した。このことから、ホンダ

は自動車の電装化を模索し、1981 年に世界初の自動車用ナビゲーションシステムを開発し

た。 また、1987 年には交通事故数の高まりから、より旋回性能の高い自動車が求められた。

その結果、世界で初めてハンドルの角度に応じて後輪の駆動が変化する四輪駆動車を開発

した。 10 年後の 1997 年には、現在のクリーンエネルギー車に繋がる電気自動車を開発し、同

年には自動車が好きな人に夢を持ってもらいたいという想いから、バブル崩壊の逆風の中

でも巨費を投じて、鈴鹿サーキットの約 3 倍もの広さを持つレースサーキット「ツインリ

ンクもてぎ」を栃木県茂木市に建設した。 このようにホンダは、消費者に夢を持ってもらうこと、自らの夢を叶えることに全力を

注いだ本田宗一郎の意志を絶やすことなく引き継ぎ、積極的に新規分野への進出を果たし

ている。 近では、2000 年に本格的二足歩行ロボット「ASIMO」を、2003 年には全てが

自社製の飛行機「ホンダジェット」を発表している。 歴史を見てわかることは、ホンダの技術開発が同業他社とは違った視点であり、それが

今日の自動車という製品の魅力を高める一翼を担ってきたということである。それは、商

品に対してより厳しい視点を持ち、常に商品を使う人のことを考えた選択の連続でもある。

これからもホンダは「The Power of Dreams(夢を原動力に)」をスローガンとして「存在

を期待される企業」であるべく、独創とアイディアを持って商品開発にチャレンジし続け

ている。 ③日産自動車株式会社

(田尾綾香) 1911 年、後の「ダット自動車商会」となる「快進自動車工場」が設立され、自動車の生

産を始めた。1931 年になると、大阪の「実用自動車」と東京の「ダット自動車商会」が合

併し、「ダット自動車製造株式会社」となる。1934 年に「日産コンツェルン」の創業者であ

る鮎川義介がダット自動車製造株式会社を買収し、「日産自動車」としたことが「日産自動

車株式会社(以下、日産)」の始まりである。 鮎川義介は、先進国メーカーとの差を縮めるためにアメリカ企業と提携して事業化する

方針を立て、1937 年にアメリカ・デトロイトの「グラハム・ペイジ社」の生産ラインの機

械を買い取り、自動車組み立てラインの工場を横浜に作った。この生産ラインで、製造も

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強化され、販売台数も伸ばしていった。しかし戦争がはじまると、戦時体制強化と共に、

自動車の開発・生産は制限されるようになった。また乗用車販売も禁止されたため、軍用

トラックや航空エンジンの製造を任されるようになった。 終戦を迎えると、GHQ 統制の下、自動車産業の建て直しがはじまった。日産は欧米に対

抗する国産自動車の旗振り役として政府から認知されたが、物不足やドッジ・ラインによる

金融・財政により急激なデフレに見舞われ、資金不足に陥り経営危機に直面するようにな

った。 1952 年 GHQ 占領時代が終わると、日産は欧州の自動車水準に追いつこうと、日本でも

技術面の評価が高かったイギリス「オースチン社」と技術提携を行った。この提携により、

1956 年 3 月までにほとんどの部品を国産化し、日産の技術は向上した。これは国際的な競

争力に対抗するための取り組みであった。1957 年になると、アメリカでの小型車需要の高

まりに目をつけ、輸出に積極的に乗り出した。アメリカのショーに出展した際、シンプル

なデザインとスタイルが評価を受けたが、実際に走るとエンジン力において海外車と比べ

大きな差があることを知り、エンジン開発に取り組み始めた。この時期は、自動車のデザ

インよりもエンジン力が自動車の評価の 1 つであったため、初のエンジン自主開発を行っ

ている。 1960 年代に入ると、乗用車専門工場として追浜工場が誕生した。この工場は、当時世界

新の設備を整えていた。また 1 つの工場で資材調達から完成車まで作れるようになって

おり、工場の効率を上げる上で欠かせないものとなった。また技術力が高い「プリンス自

動車」と合併したことで、トヨタとの生産台数を縮めると共に技術力も向上させ、「技術の

日産」と呼ばれるようになった。 1970 年代に入るとマスキー法対策のため、新世代車の開発ではなく排気対策を中心に行

った。そのため、デザインのマンネリ化により人気が落ち込み、トヨタに大きな差をつけ

られる要因となった。排気対策ではトヨタと同様、車種数やエンジンバリエーションが多

かったため、技術開発が遅れ、消費者へ悪い印象を与えてしまった。 1980 年代になると、以前より海外進出を考えていた日産は、アメリカの販売会社である

ニッサンアメリカの出資により、「米国日産自動車株式会社」を設立させ、現地生産を開始

した。またアメリカ以外にも積極的に進出を図り、欧州にも進出を進めていった。ドイツ

やイギリスの販売会社と提携を結び、生産体制の強化を図った。 バブル時代の影響もあり、スポーツ系車種が高評価を受け販売を伸ばすが、バブル崩壊

後は販売戦略の不得意や商品戦略やデザイン面の失敗で、1998 年には約 2 兆円の有利子負

債を抱えるまでになった。経営危機に陥る中、マーチやエルグランドといった車種が販売

台数を伸ばし日産を支えていたが、ついに国内シェアで本田技研工業に抜かれ国内 3 位に

転落してしまう。 販売不振や巨額の研究開発費により、約 2 兆円の負債を抱える日産を救ったのが、1999

年 3 月に行われたフランス・ルノーとの資本提携である。ルノーから来たカルロス・ゴーン

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により、経営再建計画「日産リバイバルプラン」が行われ、大規模なリストラや工場閉鎖

などが行われた。ゴーンによる再建計画は成功し、2003 年までの 4 年間で約 2 兆円あった

負債を完済し経営復活を果たした。 その後、相手先ブランド生産(以下、OEM)を行いながら、苦手とする車種に対応した

り、他業種企業と共同で新技術の開発を行っている。また、クリーンエネルギー車販売の

ため、ディーゼルエンジンの開発やトヨタとの技術提携によるハイブリッド車開発も力を

入れて行っている。自社開発が困難な分野では、様々な企業と提携を行い、自社に優位な

結果が出るような活動を積極的に行っている。 以上のことから、日産は 3 社の中で創業が も古く、海外進出にも積極的な歴史ある企

業であることがわかった。また、以前から様々な企業と提携や合併を繰り返し成長するこ

とは、現在でも引き継がれている部分だ。戦後の復帰も早く、常に先を見た戦略を立てて

いたが、バブル経済崩壊と共に日産自身も経営危機に直面した。しかし、このとき業務提

携を行い、ルノーから来たカルロス・ゴーンにより経営復活を遂げている。2008 年にはク

リーンディーゼル車の販売を開始したり、日本電気株式会社(NEC)と技術提携を行い、

電気自動車の開発にも取り組むなど、クリーンエネルギー車の開発に積極的に取り組んで

いる。 現在は「より良いもの、より日産らしいものを目指して様々な課題に取り組む」ことを

ビジョンとし、自社の技術力では補えない部分は、分野の違う企業と技術提携を行いなが

ら、日産らしい商品の開発を進めている。

3.経営戦略分析

この章では 3 社の経営戦略を把握するために、企業分析と財務分析を行っていく。

3‐1.企業分析

(田尾綾香) 今まで企業の全体を掴み、3 社の歩みを詳しく追って比較を行ってきたが、これから 3 社

の現状がどのようになっているのか、詳しく見ていこう。

(1)3 社の現状

この項では、現在 3 社がどのように売上高を出し、どのような事業展開を行っているの

か、詳しく見ていこう。

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①国内売上高 【図表 3‐1‐1】

国内売上高

0

1,500,000

3,000,000

4,500,000

6,000,000

7,500,000

9,000,000

(百万円)

トヨタ 6,621,054 7,167,704 7,408,136 7,735,109 8,152,884 8,418,620

ホンダ 1,748,706 1,628,493 1,699,205 1,694,044 1,681,190 1,585,777

日産 2,554,374 2,559,806 2,556,683 2,674,549 2,478,549 2,507,145

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

(3 社ホームページ,2008 年 7 月 2 日)

【図表 3‐1‐1】は 3 社の国内売上高の推移を表している。これを見ると、トヨタが 2

社を 3 倍以上離す売上を上げていることがわかる。ではなぜこのような差がでるのだろう

か。3 社の戦略を詳しく見ていこう。

②国内販売網 【図表 3‐1‐2】

トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車トヨタ店 1,109 ホンダカーズ 1,692 ブルー&レッドステージ 2,851トヨペット 1,098カローラ 1,358ネッツ 1,666DUO 134

レクサス 163合計 5,528 1,692 2,851

(出所:『自動車年鑑 2007-2008 年版』,日刊自動車新聞社株式会社,2008 年 10 月 21 日)

【図表 3‐1‐2】はメーカー別営業所数を表した図表である。これを見ると、トヨタの営

業所数が 2 社より 2 倍以上あることがわかる。またチャネルも、ホンダ、日産が 1 チャネ

ルに統合し、1 つの販売店で全車種を販売できる体制を採っているのに対し、トヨタは、6チャネルで販売を展開しており、各店で若者をターゲットにした販売店作りや、チャネル

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

ごとの目的を明確にした販売を戦略として行っている。また現在複数チャネルで販売を行

っているのはトヨタだけである。複数チャネルは、多くの商品投入や販売を行わなければ

いけないため、店舗が多いことは、企業の力があるといえる。 この販売網が大きい分、必然的に投入車種は多くなるが、戦略によりどのような車種が

投入されているのか、次に投入車種を見ていく。 ③投入車種. 【図表 3‐1‐3】

車種別比較

0

5

10

15コンパクトカー

軽自動車

SUV

高級車

ハイブリッドカー

ワゴン

スポーツ

セダン

トヨタ

ホンダ

日産

トヨタ ホンダ 日産

コンパクトカー 9 2 6軽自動車 15 4 4SUV 8 2 3高級車 11 3 5ハイブリッドカー 8 1 0ワゴン 15 8 6スポーツ 0 2 3セダン 14 7 7

※トヨタは軽自動車にダイハツを含む (3 社ホームページ,2008 年 10 月 21 日)

【図表 3‐1‐3】は投入車種をセダン、コンパクトカー、軽自動車、SUV 、高級車、ハ

イブリッドカー、ワゴン、スポーツカーの 8 車種にわけて表したものである。これを見て

わかるように、トヨタはフルラインナップを戦略とし、多くのニーズに対応する戦略を採

っている。スポーツカーを取り扱っていないのは、業界動向で述べた様に、憧れよりも実

用性を重視した車種を、顧客が望むようになったためである。ホンダはセダンやワゴンと

いった車種が多く、ファミリーカーを中心に販売する戦略を採っている。日産はバランス

良く車種を投入しているが、ハイブリッドカーの開発は遅れている。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

以上のことから、3 社の中で も多い車種、営業所で販売できるトヨタがより多くのニー

ズに対応できるため、売上に大きな差が生まれるものと考えられる。 では次に、視点を変え地域別売上高から戦略分析を見ていく。

④地域別売上高 3 社地域別の売上高がどのようになっているのか、業界 8 社の状況を見た上で、比較して

特徴を探っていく。 【図表 3‐1‐4】

8社 地域別売上高

0

5,000,000

10,000,000

15,000,000

20,000,000

25,000,000

(百万円)

 日本 13,979,138 14,453,656 15,367,423 16,029,151 16,425,344 16,582,670

 北米 15,225,150 15,670,280 16,644,456 19,350,218 21,923,062 22,323,823

 欧州 4,085,381 5,294,344 6,529,311 7,241,883 9,354,369 10,782,993

 アジア 1,141,937 1,432,344 3,517,258 4,078,236 4,479,189 5,880,599

 その他 2,738,645 3,722,164 3,709,190 4,556,853 5,400,649 6,863,251

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

(8 社ホームページ,2008 年 7 月 2 日)

【図表 3‐1‐4】は国内 8 社(トヨタ自動車・本田技研工業・日産自動車・スズキ・三菱

自動車・ダイハツ工業・マツダ・富士重工業)の地域別売上高を表したものである。 8 社を総合的に見ると、全地域で右肩上がりに増加しており、アジア・その他の地域は特

に増加傾向になっていることがわかる。しかし日本は業界概要でも述べたように伸びが鈍

い状況である。 では、トヨタ、ホンダ、日産の 3 社ではどのように展開しているのか、見てみよう。

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【図表 3‐1‐5】

トヨタの地域別売上高

0

5,000,000

10,000,000

15,000,000

20,000,000

25,000,000

30,000,000

(百万円)

 日本 6,621,054 7,167,704 7,408,136 7,735,109 8,152,884 8,418,620

 北米 5,929,803 5,910,422 6,187,624 7,455,818 8,771,495 9,248,950

 欧州 1,514,683 2,018,969 2,305,450 2,574,014 3,346,013 3,802,814

 アジア 1,572,113 1,836,855 1,969,957 2,790,987

 その他 1,436,013 2,197,665 1,078,203 1,435,113 1,707,742 2,027,869

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

※その他の地域:中南米、オセアニア、アフリカ、中近東ほか (『トヨタ自動車株式会社』,http://www.toyota.co.jp/,2008 年 7 月 2 日)

【図表 3‐1‐6】

トヨタ地域別四輪車販売台数割合

0.00%

10.00%

20.00%

30.00%

40.00%

日本 35.51% 34.28% 32.14% 29.65% 26.67% 24.55%

北米 31.73% 31.29% 30.66% 32.05% 34.52% 33.19%

欧州 12.42% 13.37% 13.21% 12.83% 14.35% 14.40%

アジア 11.04% 9.26% 10.73%

その他 20.34% 21.06% 23.99% 14.43% 15.20% 17.13%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

※その他の地域:中南米、オセアニア、アフリカ、中近東ほか

(『トヨタ自動車株式会社』,http://www.toyota.co.jp/,2008 年 7 月 2 日)

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐1‐5】はトヨタの地域別売上高を表したものであり、【図表 3‐1‐6】はトヨ

タの地域別四輪車販売台数割合を表したものである。 この 2 つを見ると、売上高は右肩上がりの成長を見せているが、販売台数割合を見ると、

2005 年度よりその他地域からアジアが分かれたため、売上高も販売台数も減少しているが、

それ以外では国内だけが右肩下がりになっている。また、売上高も販売台数割合も日本と

北米の規模が大きく、この 2 つを中心に販売を行う戦略を採っていることがわかる。 売上高で右肩上がりの成長をしていると述べたが、トヨタの地域別売上高(図表 3‐1‐5)

から伸び率を算出したところ、2007 年度の日本は約 2%、北米は約 12%と低下している。

対照的にアジア地域で約 34%の上昇を見せている。ただ、アジアに含まれる新興国の 2006年度の販売台数シェアを表すと、インドは 2.5%で中国は 4.3%、ブラジルは 3.7%しかない。

そのため、この地域での販売強化が今後の成長に繋がると考えられる。 【図表 3‐1‐7】

ホンダの地域別売上高

0

2,000,000

4,000,000

6,000,000

8,000,000

10,000,000

12,000,000

14,000,000

(百万円)

 日本 1,748,706 1,628,493 1,699,205 1,694,044 1,681,190 1,585,777

 北米 4,567,926 4,542,930 4,575,076 5,463,359 5,980,876 6,068,425

 欧州 661,961 770,110 870,795 1,009,421 1,236,757 1,519,434

 アジア 645,526 801,611 977,011 1,085,451 1,283,154 1,577,266

 その他 347,380 419,456 528,018 655,721 905,163 1,251,932

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

※その他の地域:南米、中近東、アフリカ、大洋州

(『本田技研工業株式会社』,http://www.honda.co.jp/,2008 年 7 月 2 日)

42

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐1‐8】

ホンダ地域別四輪車販売台数割合

0.00%

10.00%

20.00%

30.00%

40.00%

50.00%

60.00%

日本 29.40% 24.84% 21.96% 20.52% 18.40% 15.67%

北米 52.70% 54.04% 48.58% 49.60% 48.96% 47.13%

欧州 7.17% 8.01% 8.24% 8.58% 8.87% 9.96%

アジア 7.10% 8.36% 15.79% 15.36% 16.98% 19.24%

その他 3.64% 4.75% 5.43% 5.93% 6.79% 8.00%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

※その他の地域:南米、中近東、アフリカ、大洋州 (『本田技研工業株式会社』,http://www.honda.co.jp/,2008 年 7 月 2 日)

【図表 3‐1‐7】はホンダの地域別売上高を表したものであり、【図表 3‐1‐8】はホン

ダの地域別四輪車販売台数割合を表したものである。 この 2 つを見ると、売上高は右肩上がりで成長しているが、販売台数割合は日本と北米

で減少している。また日本よりも北米の売上高は約 4 倍あり、販売台数割合も 3 倍近くあ

るため、北米を中心に販売を行う戦略を採っていることがわかる。しかし、ホンダの地域

別売上高(図表 3‐1‐7)から伸び率を算出したところ、2005 年度を境に日本、北米は減

少している。対照的に、残りの 3 地域では約 7~14%の伸びを見せているため、トヨタ同様

この地域での販売強化が課題となる。

43

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐1‐9】

日産の地域別売上高

0

2,000,000

4,000,000

6,000,000

8,000,000

10,000,000

12,000,000

(百万円)

 日本 2,554,374 2,559,806 2,556,683 2,674,549 2,478,549 2,507,145

 北米 2,879,500 3,278,966 3,726,456 4,100,662 4,550,498 4,414,509

 欧州 963,440 1,164,032 1,254,007 1,414,674 2,038,026 2,157,015

 その他 431,274 426,415 1,039,131 1,238,407 1,401,510 1,745,569

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

※その他地域:中東、中国、台湾、インド、ブラジル、タイ、インドネシア

(日産自動車株式会社,『http://www.nissan-global.com/jp/』,2008 年 7 月 2) 【図表 3‐1‐10】

日産地域別四輪車販売台数割合

0.00%

10.00%

20.00%

30.00%

40.00%

日本 28.56% 30.08% 23.60% 22.92% 19.36% 18.51%

北米 39.34% 39.48% 40.17% 38.72% 39.03% 37.06%

欧州 18.44% 17.39% 15.99% 16.88% 20.05% 19.07%

その他 13.66% 13.05% 20.24% 21.48% 21.56% 25.36%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

※その他地域:中東、中国、台湾、インド、ブラジル、タイ、インドネシア

(日産自動車株式会社,『http://www.nissan-global.com/jp/』,2008 年 7 月 2)

44

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐1‐9】は日産の地域別売上高を表したものであり、【図表 3‐1‐10】は日産の

地域別四輪車販売台数割合を表したものである。 この 2 つを見ると、他の 2 社同様、売上高は右肩上がりの成長を見せているが、販売台

数割合ではその他地域以外で減少している。また北米の割合が高く、販売の中心国である

ことがわかる。しかし、日産の地域別売上高(図表 3‐1‐9)から伸び率を算出したところ、

北米はマイナス成長し、日本と欧州も伸び率は低下して、その他の地域だけが成長してい

る。しかし、2006 年度のその他の地域の販売台数シェアを見てみると、インドが 0.01%で

中国が 5.0%、ブラジルが 4.3%であるため、販売強化が今後の課題となる。 以上のことから、3 社共に北米を中心とした戦略を採っているが、地域別売上高伸び率を

見てみると、3 社とも日本や北米で低下していることがわかる。しかし、アジアやその他の

地域の伸び率は大きく成長しているため、この地域での販売強化は共通の課題であると言

える。 では次に、3 社の事業別の割合を見ていこう。

⑤事業別割合

(稲垣裕晃) 自動車メーカーは、自動車にだけ力を入れているのではなく、自動車と関係のある事

業を展開している。自動車以外の事業で、どれだけの売上を上げているのか見ていく。 【図表 3‐1‐11】

トヨタの自動車以外の売上高

0

500,000

1,000,000

1,500,000

2,000,000

2,500,000

(百万円)

 金融 707,527 716,727 760,664 977,416 1,277,994 1,468,730

 住宅 94,407 121,142 136,100 138,103 155,843 143,594

 通信 47,425 50,222 44,661 51,485 59,611 56,220

 その他 351,395 443,569 511,686 544,289 540,475 460,442

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

(『トヨタ自動車株式会社』,http://www.toyota.co.jp/,2008 年 7 月 2 日)

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐1‐11】は、トヨタの自動車以外の売上高推移を表したものであり、その事業

内容は金融、住宅、通信、その他である。 金融事業は、トヨタ車の販売と購入のサポート、顧客の要求に合わせた金融商品やサー

ビスの提供、法人向け金融支援などを目的に 2000 年に開始された。現在は「トヨタファイ

ナンスサービス」が事業体となり活動している。事業内容は、自動車関連金融サービス(ロ

ーン、リース等)、クレジットカード、住宅ローン、保険、社債、投資信託、保険の取り扱

いで、資本金は 785 億 2,500 万円(トヨタ自動車 100%出資)である。 住宅事業は、豊田喜一郎の「人は誰でも、ある一定水準以上の住宅に住む権利を持つ」

と言う意志から、1975 年「トヨタホーム」の設立によって本格的に開始された。事業内容

は住宅の企画・販売・建設・アフターサービスで、資本金は 30 億円(トヨタ自動車 100%出資)である。

通信事業は、21 世紀の自動車社会が情報通信技術と融合しながら成長を遂げていくもの

として主に、道路交通上の問題(事故、渋滞、高齢化、大気汚染など)を電子通信技術に

よって解決しようとしている「高度道路交通システム( ITS:Intelligent Transport Systems)」と、この ITS の一部であり、有料道路などの料金所を無停車で通過可能にする

ことで渋滞の緩和が可能な「自動料金収受システム(ETC:Electronic Toll Collection System)」の推進を行ったり、自動車情報の他にメディア製品の販売、総合物販、メールな

どのコミュニティ・サービスを発信する「GAZOO」や、企業間コミュニケーション支援の

推進を行っている。ITS を除く活動には運営事業体があり、個々で事業活動を行っている。 その他事業では、自動車事業で培った技術を海で活かしたいという思いから進出したマ

リン事業、地球環境の悪化や人口増大の傾向がある世界の中でバイオテクノロジーや環境

技術によってさらに成長する方法を模索するバイオ緑化事業などを行っている。 上記の図表では近年、特に 2005 年度~2006 年度にかけての金融事業の成長が著しい。

これは「トヨタファイナンシャルサービスグループ」が「Quickpay サービス」を始めたた

めと考えられる。「Quickpay」とは、クレジット機能を有した携帯電話やカードを端末にか

ざすことでサインや事前チャージを必要としない支払いが可能となるサービスである。ま

た、同社が運営する「TS CUBIC CARD(クレジットカード)」の利用者数が 7 年で 600万人を突破したことが、トヨタの金融事業を伸ばし、自動車以外の事業の伸びを支えたと

考えられる。 トヨタは自動車事業の規模が非常に大きいことから、必然的に付帯事業(金融事業、情

報通信事業)も大きいものと考えられる。しかしながら、上記の図表で金融事業の売上高

が増加しているにも関わらず、情報通信事業の売上高がほとんど増加していないことを見

ればその必要性が問われてくる。情報の中には渋滞情報やイベント情報等の無料で提供さ

れているものもあるが、それら以外に消費者にとってさらに魅力的な、事業の拡大を促進

するようなコンテンツの作成が求められるだろう。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐1‐12】

ホンダの四輪以外の売上高

0

500,000

1,000,000

1,500,000

2,000,000

2,500,000

(百万円)

 二輪 996,290 978,095 1,097,754 1,225,812 1,370,617 1,558,696

 金融 242,696 237,958 255,741 306,869 409,701 533,553

 汎用・その他 331,590 315,352 332,975 370,621 417,742 421,194

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

(『本田技研工業株式会社』,http://www.honda.co.jp/,2008 年 7 月 2 日)

【図表 3‐1‐12】は、ホンダの四輪部門以外の売上高推移を表したものであり、事業内

容は二輪、金融、汎用及びその他である。 二輪事業は 1948 年「D 型」の発売から開始された。ホンダは元来、二輪事業を主事業と

していた企業であるため海外での、特に自動車事業が進出していないような発展途上国で

の販売網は広く、現在では「スーパーカブ」が累計売上台数で世界一の 6000 万台を達成す

るなど世界的な評価も高い。 金融事業は、ホンダ商品の国内販売における販売金融支援を目的に設立された「ホンダ

信販」を前身とし、1999 年「ホンダファイナンス」の設立によって本格的に開始された。

事業内容は自動車関連金融サービス(ローン、リース等)、クレジットカード、事業者金融、

保険などの取り扱いで、資本金は 110 億 9,000 万円(本田技研工業 100%出資)である。 汎用及びその他事業は、二輪事業で培ったエンジン技術や生産技術を活用して消費者に

より良い生活を提供するために、1952 年から始められた。現在では主に、農耕器具や船外

機などの開発・生産を行う汎用製品事業、世界 高水準のホンダの技術を結集して「ASIMO」

を作り上げたロボット事業、自動車事業で培った技術を使い世界で初めて完全自社製の「ホ

ンダジェット」を開発した航空機事業などを行っている。 上記の図表では特に二輪事業の 2004 年度から 2007 年度にかけての段階的な伸びが顕著

である。これは BRICs(新興国)の急成長により大きな海外需要が発生したことや、それ

に伴ってインドネシアやベトナムに相次いで工場を建設したことが要因と考えられる。ま

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

た、金融事業が 2007 年に大きな伸びを示したのは、情報セキュリティマネジメントシステ

ムに関する世界標準規格「ISO27001」を認証取得し、事業規模がわずかながら拡大したた

めと考えられる。 ホンダは元来、二輪車メーカーであることから四輪事業以外では二輪車の割合が大きい。

そして、二輪車事業の伸びは付帯する金融事業の増加にも繋がる。しかし、それらの事業

に比べて汎用及びその他事業はほとんど伸びていない。近年の国内一次産業の衰退や景気

低迷が、農耕器具や船外機など汎用製品の売上減少に繋がっていると考えられるが、この

まま成長しない事業はやがて企業の成長にとって負担となる可能性がある。農耕器具や船

外機の販売を強化しないのであれば、ロボット事業や航空機事業など新しい分野での積極

的な販売が必要不可欠になってくるだろう。 【図表 3‐1‐13】

日産の自動車以外の売上高

0

500,000

1,000,000

1,500,000

2,000,000

2,500,000

(百万円)

 金融 384,128 356,237 398,436 533,149 678,099 753,255

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

(『日産自動車株式会社』,http://www.nissan-global.com/jp/,2008 年 7 月 2 日)

【図表 3‐1‐13】は日産自動車の自動車以外の売上高を表したものであり、事業内容は

金融である。 金融事業は、日産商品の販売促進と販売支援を目的として、1963 年「日産フィナンシャ

ルサービス」の前身である「株式会社日産箱根サービスセンター」を設立する事で本格的

に開始された。事業内容は自動車関連金融サービス(ローン、リース等)、クレジットカー

ド、事業者金融、保険などの取り扱いで、資本金は 163 億 8,750 万円、日産自動車 100%出資である。

1989 年に「日産フィナンシャルサービス」が設立した「日産カーライフネットワーク」

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

が行っている「日産 IC カード(クレジットカード)」の会員が 1989 年から 2000 年までの

11 年間で 200 万人に止まっていることや、日産ブランドの自動車購入時に日産販売金融会

社の利用率が低いことが 2002 年から 2004 年まで自動車事業以外の成長を鈍化させている

要因と考えられる。しかし、それ以降の 2006 年から 2007 年にかけての 11%の成長が目立

つ。これは年ごとに外部顧客への売上高が増加していったものと考えられる。 日産は自動車事業以外に主たる事業を持たないため、自動車事業の成長が日産の成長に

直結すると考えられる。しかし、その自動車事業も伸び率が低下しつつあるため、さらに

事業を拡大させるか、逆に不必要な事業に見切りをつけて自動車事業に注力するなど、事

業体制の再編を行う必要性も今後出てくる可能性がある。 ここまでそれぞれの展開地域や事業ごとの売上高を見てきた。地域ごとでは、3 社共に北

米を中心とした戦略を採っているが、地域別売上高伸び率を見てみると、3 社とも北米や日

本で低下していることがわかる。しかし、アジアやその他の地域の伸び率は大きく成長し

ているため、この地域での販売強化は共通の課題であると言える。 事業別では、3 社それぞれ事業の構成内容が違ったが、共通して金融事業が存在していた。

3 社ともこの金融事業では自動車ローンを取り扱っており、自動車事業にとって必要不可欠

であることから、自動車事業の動向が金融事業に大きな影響を及ぼすだろう。しかし、自

動車事業に付帯するだけでなく、将来のクリーンエネルギー車需要を見据えた企業投資や

産業投資など金融事業独自の活動を行っていくことで企業の可能性をさらに開拓できると

思われる。 ここまで企業の現状について、地域別や事業別の売上高を見てきた。次の項から、業界

で述べた環境と安全に対する取り組みを、企業ごとに見ていこう。 (2)環境への取り組み

(稲垣裕晃) 【図表 3‐1‐14】

トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車〈車での取り組み〉ハイブリッド車 ○ ○ ○電気自動車 ○ ○ディーゼルエンジン車 ○ ○ ○燃料エンジン ○燃料電池車 ○ ○ ○太陽電池 ○バイオ燃料 ○ ○ ○低排出車 ○圧縮天然ガス車 ○

(3 社ホームページ,2008 年 7 月 1 日)

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐1‐14】は 3 社の環境への取り組みについてまとめたものである。 この表を見ると、3 社の環境に対する車での取り組みに若干の違いがあることがわかる。

この項では、その取り組みについて詳しく見ていこう。

①トヨタ自動車 トヨタ自動車は 1992 年に「トヨタ地球環境憲章」を策定して以来、環境対策を経営の

重要課題の 1 つとして環境対策に取り組み、2005 年には「社会・地球の持続可能な発展へ

の貢献」と題する CSR 方針を策定し、社会的責任を果たすとしている。また、取引先に対

して「グリーン調達ガイドライン」を発行し、取引先の事業活動に対しても環境取り組み

推進への協力を仰いでいる。 自動車を生産するにあたっては、1998 年から環境評価システム「Eco-VAS(エコバス)」

を取り入れている。この Eco-VAS とは、車両開発責任者の環境に対するマネジメント強化

を目的としているシステムで、担当車両の開発プロセスを通じて自動車の生産、使用、廃

棄に至るまでの全段階での負荷低減目標値を考慮し、環境パフォーマンスを効果的に高め

ることができるとしている。また CO2 削減に向けた燃費の向上、大気汚染防止に寄与する

排出ガスのクリーン化、エネルギー多様化への対応の 3 つの観点を踏まえてパワートレー

ンの技術開発に取り組んでいる。トヨタを代表するハイブリッド技術はこのパワートレー

ンのあらゆる面に応用することができるコア技術と位置づけられ、積極的な開発が進めら

れている。 トヨタのクリーンエネルギー車開発は現在、ハイブリッド技術を中心に据えた究極のエ

コカーを目標に行われている。これは、ガソリンに代わる自動車用燃料とバイオ燃料を組

み合わせた「代替燃料ハイブリッドヴィークル(以下:HV)」、ディーゼルエンジンと電気モー

ターを組み合わせた「ディーゼルHV」、家庭電源から充電ができるプラグイン技術と高性

能エンジンを組み合わせた「プラグインHV」、ニッケル水素とFCスタッグを組み合わせた

「燃料電池HV」、そして、電気モーターとエンジンを組み合わせた「THSⅡ(Toyota Hybrid System Ⅱ)」の研究をそれぞれに行い 終的に究極のエコカーを作り出すことを意味して

いる。現時点で「THSⅡ」(プリウス、トヨエース等)、「代替燃料HV(天然ガス、LPガス)」

(プロボックスバン、コンフォート等)の技術から商品化された自動車が存在する。 しかし現在、トヨタに究極のエコカーに対する明確なビジョンはなく、上記に挙げたク

リーンエネルギー車技術の中から選抜して製品化するのか、全ての技術を製品化するのか

も未定である。

②本田技研工業 本田技研工業は環境に対しても、存在を期待される企業へをコンセプトに掲げている。

1980 年の「エネルギー委員会」設置を皮切りに本格的に環境活動を開始した。しかし、こ

の環境活動組織発足以前からバイクや自動車の排気ガスクリーン化に取り組んでおり、実

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

質的な環境活動は 1951 年の、環境に配慮したエンジンの開発から始まっていた。具体的に

は「ドリーム E 型4ストロークエンジンの開発(バイク)」や「CVCC エンジンの開発(自

動車)」が挙げられる。その後、1991 年に「日本環境会議」を設置し、1992 年に「HONDA環境宣言」を発表する。この HONDA 環境宣言によって環境活動の方針を明確化し、その

具現化を目標に、組織の整備・拡大を行っている。日本から始まった環境会議の設置は北

米・南米、欧州、アジア・大洋州へと広がり、1995 年に「世界環境会議」の設置に至った。

この世界環境会議は 1999 年に経営会議と同等の位置づけとされ、これにより経営活動の環

境領域に対する判断をより迅速に、グローバルに展開できるようになった。 ホンダのクリーンエネルギー車開発は排出ガスの低減、燃費の向上、代替エネルギーの

実用化を進めることでの環境性能の向上を目標に行われている。排出ガスの低減は、期間

毎にホンダ独自の目標を掲げて取り組まれ、1970 年代の CVCC エンジンの開発から現在ま

で行われている。現在は排出ガスのクリーン化に重点が置かれており、排出ガスからいか

にして有害物質を取り除くかが課題となっている。 燃費の向上に関しては、独自に開発したハイブリッドシステム「Honda IMA(Integrated

Motor Assist)システム」を搭載した「インサイト」を 1999 年に発売し、量産車としては

燃費性能世界一を達成している。その後も商品の改良としてハイブリッドシステムの搭載

や燃費技術の更新を行うことで、商品の特徴を保ったまま環境性能の向上を行っている。

代替エネルギーの実用化は、排出ガスが極めて少ない自動車の普及を行うために行われて

おり、現在は主に電気自動車、燃料電池自動車において開発が進められている。特に燃料

電池自動車においては、1999 年に実験車を公開して以来多くの技術が開発され、現在はカ

ナダにて家庭用天然ガス自動車の販売と天然ガス充填装置の販売を行えるまでになってい

る。このことから、燃料電池自動車開発がホンダの代替エネルギー技術の先鋒になってい

ると考えられる。

③日産自動車 日産自動車は「人とクルマと自然の共生」を理念として 1992 年に環境活動を開始した。

二酸化炭素排出量の削減、エミッションのクリーン化(大気・水・土壌の保全)、資源循環

の推進の 3 つを重要課題としいる。そして自動車や事業活動に伴って発生する環境負荷を

自然が吸収可能なレベルに抑えることを 終的な目標とし、目指すべき自社の姿を「Sincere Eco-Innovator(シンシア・エコイノベーター)」と呼んでいる。2005 年にこの 3 つの重要

課題について具体的な目標と活動計画を定めた中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプ

ログラム」を発表、2008 年現在時点、その目標をほぼ達成した。そして新たに「ニッサン・

グリーンプログラム 2010」を発表した。 日産のクリーンエネルギー車開発は、二酸化炭素排出量の削減や排出ガスの清浄化と代

替エネルギー車の開発によって社会全体の環境負荷低減に繋げることを目標に行われてい

る。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

二酸化炭素排出量の削減や排出ガスの清浄化は、日産独自の目標を掲げて取り組まれて

おり、現在は「1ℓ当たり 30km 以上の燃費実現」を目標にして自動車の開発が行われてい

る。その中でも、ガソリン車よりも燃費が良く排気ガス中の有害物質を触媒によって取り

除いたクリーンディーゼル車の開発が活発に行われており、すでに 2007 年に欧州で「キャ

シュカイ」、2008 年には日本で「X-TRAIL」を発売し、今後も中国や北米で販売を開始す

る予定である。代替エネルギー車の開発は、燃料電池車、電気自動車、ハイブリッド車、

天然ガス車の 4 種に注力して行われている。開発は 4 種でほぼ平行して行われており、現

在、実用化のメドが立つものはないように見える。だが、燃料電池車は 2005年に「X-TRAIL FCV」が限定リース販売されており、先行している。 これらから、日産が現時点で も先行して開発が行われているのはクリーンディーゼル

車であると考えられる。なぜなら、それが現在 も実用性が高く、且つガソリン車よりも

低燃費のディーゼル車は欧州で人気があり、今後も開発の進行具合によって需要の拡大が

見込めるからである。 ④燃費別車種数

(田尾綾香) 前述したように、3 社共に様々な開発を行っていることがわかった。では、現在販売され

ている自動車の燃費はどのようになっているのか、車種別に見ていこう。

【図表 3‐1‐15】

燃費 車種数

0

5

10

15

2016㎞/ℓ以上

13~16㎞/ℓ

10~13㎞/ℓ

10㎞/ℓ以下

トヨタ

ホンダ

日産

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

台数 トヨタ ホンダ 日産16㎞/ℓ以上 16 9 1013~16㎞/ℓ 8 5 510~13㎞/ℓ 15 5 510㎞/ℓ以下 5 2 7

(3 社ホームページ,2008 年 10 月 21 日) 【図表 3‐1‐16】

燃費別車種数割合 トヨタ ホンダ 日産16㎞/ℓ以上 36.36% 42.86% 37.04%13~16㎞/ℓ 18.18% 23.81% 18.52%10~13㎞/ℓ 34.09% 23.81% 18.52%10㎞/ℓ以下 11.36% 9.52% 25.93%

(3 社ホームページ,2008 年 10 月 21 日)

【図表 3‐1‐15】は車種を燃費別に表したものであり、【図表 3‐1‐16】はその割合を

表したものである。 【図表 3‐1‐15】を見ると、16 ㎞/ℓ以上の燃費車はトヨタが多いように感じるが、【図

表 3‐1‐16】では、少ない車種数でより低燃費の自動車を販売しているのがホンダである

ことがわかる。また、ホンダは 10 ㎞/ℓ以下の割合も も少ないことから、環境に対応でき

ている。日産は 16 ㎞/ℓ以上がトヨタよりも多かったが、10 ㎞/ℓ以下の割合も多く環境に対

応しきれていない。トヨタは車種数と比較すると 10 ㎞/ℓ以下の割合は少なく、低燃費の車

種も多い。しかし業界概要でも述べたように、自動車の平均燃費は 15.5 ㎞/ℓであるため、

13 ㎞/ℓ以上の割合を増やしていく必要がある。 ここまで環境について詳しくを見てきた。次に安全について見ていこう。 (3)安全への取り組み

(田尾綾香) 業界概要で安全への取り組みは自動車業界の社会的使命であると述べた。では実際に、3

社がどのような取り組みを行っているのか見てみよう。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐1‐17】 トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車

〈未然防止〉→視界の確保、被視認性の向上車速・車間制御機能 ○ ○ ○

車線維持 ○ ○ ○ヘッドライトサポート ○ ○ ○モニター確認機能 ○ ○ ○

追突警告 ○ ○ ○

〈危険回避〉→ドライバーの負担を軽減し、〔走る〕〔曲がる〕〔止まる〕の性能向上事故操作アシスト(ABS) ○ ○ ○スピード減速サポート ○ ○ ○

ブレーキアシスト(EBD) ○ ○ ○プリクラッシュセーフティー ○ ○ ○

〈傷害軽減〉→乗員の障害を最小限に留めること。また歩行者への衝撃も緩和する空間確保 ○ ○ ○

傷害軽減ボディ ○ ○ ○首への衝撃吸収 ○ ○ ○

エアバック ○ ○ ○シートベルト ○ ○ ○

チャイルドシート ○ ○ ○

〈被害拡大防止〉→衝突後に被害を拡大しない対策ITS ○ ○

カーナビによる通報支援 ○燃料漏れ防止 ○ ○ ○室内難料材 ○ ○ ○

ドアロック解除 ○ ○ ○

〈安全普及活動〉安全教育の教材配布 ○ ○ ○販売会社による活動 ○ ○

海外での活動 ○ ○飲酒運転撲滅活動 ○

(3 社ホームページ,2008 年 7 月 2 日) 自動車に求められる機能として、安全性機能がある。これは、自動車の付加価値を向上

させる上で欠かせない性能であり、各メーカーもさまざまな安全技術の開発に取り組んで

いる。 現在自動車メーカーが開発する安全関連技術には、「乗員の安全を守る技術」「歩行者の

安全を守る技術」「衝突を避けるための技術」の 3 つがある。【図表 3‐1‐17】は、3 社が

取り組んでいるものを表したものである。3 社とも同じように技術開発を進めているが、特

に注目できる項目について説明を行う。 トヨタは「プリクラッシュセーフティー」技術を世界で初めて開発し、現在発売されて

いる高級車に搭載を完了させている。プリクラッシュセーフティーとは、レーザーを使用

した自動車の追突を防ぐシステムである。高性能なセンサーと高度な制御技術が必要とな

るため、一般車への搭載には時間がかかっている。 ホンダは「エアバックシステム」の開発に力を入れている。エアバックシステムとは、

気体により瞬時に膨らむバッグによって、衝突時に乗員にかかる衝撃を緩和する機能のこ

とを言う。1987 年、世界初となる助手席用エアバックシステムの開発を行い、2008 年には

54

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

世界初でホンダ独自の技術として乗員への衝撃を 3 割軽減したエアバックを開発している。 日産は、IT 技術を使った ITS を活用し、「SKY プロジェクト」を進めている。SKY プロ

ジェクトとは、事故防止システムであり、道路上の通信設備等のインフラと提携し、交差

点の事故や渋滞緩和を目指すものである。 安全技術への取組みは 3 社同じように取り組んでいるが、3 社ごとに得意な分野や、力を

入れている分野は違っている。また、技術的な取り組み以外にも、安全普及活動を行って

おり、イベントの開催や幼稚園、小学校に赴き安全活動の呼びかけも行っている。 企業分析まとめ この節では企業分析を行ってきた。トヨタは創業から「モノづくり」の精神を持って現

在まで様々な車種や技術を生み出してきた。現在では国内自動車メーカーで 1 位、世界販

売台数では 2 位の経営を誇っている。 ホンダは 3 社の中で も遅い起業で、二輪事業からの参入している。しかし「夢を原動

力に」の精神で、いち早くモータースポーツに参戦したり、ロボットやジェットの開発を

するなど、他社とは一味違った経緯を持ち、現在も新分野への進出を図ろうとしている。 日産は、3 社の中で創業の も古い企業である。創業当初から海外の技術を多く取り込み、

技術力の高い企業と提携することで、技術の日産として有名になった。現在、「より良いも

の、より日産らしいものを目指して様々な課題に取り組む」ことをビジョンに、創業から

の他社の受け入れの広さを引き継ぎ、現在も様々な企業と技術提携を行い、課題に取り組

んでいる。 以上のことから企業戦略を分析すると、トヨタは「モノづくり」を 1 番に考え、多くの

車種の投入や複数の販売店舗を展開することで、ニーズに合わせた販売戦略を採っている。 ホンダは「夢を原動力に」の精神で、自動車以外の新分野での開発に積極的に取り組ん

でいる。販売店舗は、1 チャネルに統一することで全車種を販売する戦略を採っている。 日産はビジョンから他社との技術提携を積極的に行い、様々な課題に取り組む戦略を採

っている。販売はホンダと同様に 1 チャネルで行い、バランスの良い車種の投入を行って

いることがわかる。 ここまで企業分析を見てきた。次節で財務分析を行い財務面からの戦略を見ていこう。

3‐2.財務分析

(松田将吾) 前節の企業概要や企業分析では 3 社の動向や特徴など定性的要因を比較してきたが、こ

の節では企業が公開している財務諸表を用いて定量的要因から 3 社の比較分析を行う。 まず、トヨタ、ホンダ、日産の過去 6 年間(2002 年度から 2007 年度)の財務諸表を用

いて分析を行う。その方法として、成長性、収益性、安全性といった 3 つの視点から見る。

55

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

成長性では、売上高や利益、規模がどのように成長しているかを分析する。収益性では、

利益に焦点をあて、利益率の高い企業であるか、持っている資産を有効活用できているか

を分析する。安全性では、借金を返済する能力や、不況に対する耐久力はあるのかを分析

する。なお、この順序で分析を進めるのには理由がある。まず成長性を見るのは、企業が

存続していく限り成長が大前提であるからだ。次に収益性を見るのは、営利企業として利

益を追求していかなければならず、利益の量だけでなく質(どのような利益の上げ方をし

ているか)はどうなのか、どのような戦略で利益を上げているのかが重要であるためだ。

後に安全性を見るのは、利益を上げていても黒字倒産ということが起こりうる。また、

長期的に事業を行うには安全な設備投資が行えていることが重要であるためだ。 そして 3 社の分析を行った後に、業界平均と比較してどの程度、成長力、収益力、安全

性があるのかを判断する。その方法として、標準化を用いる。なぜならば、各指標を見て

高いから良い(あるいは低いから悪い)というように直感的に判断することは、根拠がな

く好ましくないからだ。そのため、各指標の基準を統一し、客観的に判断を行う。また、

業界平均をゼロとし、業界と比較してどの程度上回っているか(あるいは下回っているか)

を見ていく。 では、トヨタ、ホンダ、日産と売上高の高い順に、成長性、収益性、安全性の分析を行

っていこう。なお、使用する図表は 3 社のホームページ上に公開されている有価証券報告

書を基に作成したものである。 (1)成長性分析

企業はゴーイングコンサーンという考え方が前提であり、永遠に存続していくものと考

えられている。そのためには、企業の規模を拡大し、成長していくことが重要になってく

る。 成長性分析では、3 社の規模に注目し、2002 年度から 2007 年度の 3 社の総資産、売上

高、営業利益、経常利益の推移を見る。近年、各指標はどのように推移しているかを見る

ことで、3 社の動向を知ることができ、成長しているかどうかがわかる。 まずはトヨタの成長性分析から行っていこう。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐2‐1】

  総資産、売上高、営業利益、経常利益の推移-トヨタ-

0

10,000,000

20,000,000

30,000,000

40,000,000

総資産・売上高(百万円)

0

1,000,000

2,000,000

3,000,000

営業利益・経常利益(百万円)

総資産 20,152,974 22,040,228 24,335,011 28,731,595 32,574,779 32,458,320

売上高 15,501,553 17,294,760 18,551,526 21,036,909 23,948,091 26,289,240

営業利益 1,271,646 1,666,890 1,672,187 1,878,342 2,238,683 2,270,375

経常利益 1,226,652 1,765,793 1,754,637 2,087,360 2,382,516 2,437,222

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

【図表 3‐2‐2】

 総資産、売上高、営業利益、経常利益の前年度比伸び率-トヨタ-

-5.00%

5.00%

15.00%

25.00%

35.00%

45.00%

総資産 1.33% 9.36% 10.41% 18.07% 13.38% -0.36%

売上高 2.62% 11.57% 7.27% 13.40% 13.84% 9.78%

営業利益 13.19% 31.08% 0.32% 12.33% 19.18% 1.42%

経常利益 10.16% 43.95% -0.63% 18.96% 14.14% 2.30%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

【図表 3‐2‐1】はトヨタの総資産、売上高、営業利益、経常利益の過去 6 年間の推移を

表したものであり、【図表 3‐2‐2】はトヨタの総資産、売上高、営業利益、経常利益の過

去 6 年間の前年度比伸び率を表したものである。 4 指標とも右肩上がりに増加している(図表 3‐2‐1)が、その中でも 2002 年度から 2003

年度にかけて営業利益、経常利益が大きく増加している(図表 3‐2‐2)。その要因は、金

融費用と販売費及び一般管理費(以下、販管費)の減少、為替の影響である。金融費用は、

前年度比マイナス 14.1%であり、ヘッジ指定されず時価評価されたデリバティブ金融商品

にかかる評価益の計上、米国の金利低下によるものである。販管費は前年度比マイナス 7.1%である。これは、原価改善努力によるものであり、具体的には商品の種類の絞込みにつな

がる商品共通化、車両生産コストの低減を目的とした製造活動によるものである。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

一方、2003 年度から 2004 年度にかけて営業利益、経常利益の伸び率は大きく減少した

(図表 3‐2‐2)。これは 2003 年度の伸び率が高かったことも影響しているが、米ドル安

による為替の影響、研究開発費の増加によるものである。研究開発費は前年度比プラス

10.7%であり、競争力強化のため、ハイブリッド・燃料電池などの環境技術、衝突安全性能・

走行制御などの安全技術といった先端技術開発への積極的な取り組み、グローバル展開の

中での開発車種の拡充によるものである。 また、2007 年度に総資産が減少しているが、これは未払い法人税の支払いの増加と長期

借入債務の返済の増加による現金及び預金の減少と、時価評価した際の評価損による投資

有価証券の減少である。 トヨタは、4 指標とも右肩上がりに増加している(図表 3‐2‐1)ため成長していると言

えるが、近年 10%以上の伸び率を示していたものが 2007 年度には鈍化している(図表 3‐2‐2)。 続いてホンダの成長性を分析する。 【図表 3‐2‐3】

総資産、売上高、営業利益、経常利益の推移-ホンダ-

0

3,000,000

6,000,000

9,000,000

12,000,000

15,000,000

総資産・売上高(百万円)

0

200,000

400,000

600,000

800,000

1,000,000

営業利益・経常利益(百万円)

総資産 7,681,291 8,328,768 9,316,970 10,631,400 12,036,500 12,615,543

売上高 7,971,499 8,162,600 8,650,150 9,907,996 11,087,140 12,002,834

営業利益 724,527 600,144 630,920 730,889 851,879 953,109

経常利益 609,755 641,927 656,805 691,888 792,868 895,841

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐2‐4】

総資産、売上高、営業利益、経常利益の前年度比伸び率-ホンダ-

-20.00%

-10.00%

0.00%

10.00%

20.00%

総資産 10.67% 8.43% 11.86% 14.11% 13.22% 4.81%

売上高 8.27% 2.40% 5.97% 14.54% 11.90% 8.26%

営業利益 13.33% -17.17% 5.13% 15.84% 16.55% 11.88%

経常利益 10.59% 5.28% 2.32% 5.34% 14.59% 12.99%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

【図表 3‐2‐3】はホンダの総資産、売上高、営業利益、経常利益の過去 6 年間の推移を

表したものであり、【図表 3‐2‐4】はホンダの総資産、売上高、営業利益、経常利益の過

去 6 年間の前年度比伸び率を表したものである。 ホンダは、トヨタと同様に 4 指標が右肩上がりに増加している(図表 3‐2‐3)。注目す

べき点は、2002 年度から 2003 年度にかけて営業利益が減少していることである(図表 3‐2‐4)。これは 2002 年度の営業利益が高かったためである。その要因として、2002 年度

の売上高に対する売上原価の割合が2003年度に比べ約1.4%抑えられたことによるものだ。

また、2003 年度における営業利益の減少は、米ドル安による為替の影響や売上原価、販管

費の増加によるものである。販管費の増加は、営業外費用に含めて表示していた固定資産

売廃却損益を 2003 年度から販管費に含めていることと、退職給付費用などの一般管理費が

増加したためである。しかし、経常利益が 2003 年度に減少しなかった要因として、営業外

収益(為替差益)が大幅に増え、営業外費用(為替差損、雑支出)が減少したためである。 【図表 3‐2‐3】と【図表 3‐2‐4】の両方を見ても、ホンダはプラス成長である。 後に日産の成長性を分析する。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐2‐5】

総資産、売上高、営業利益、経常利益の推移-日産-

0

3,000,000

6,000,000

9,000,000

12,000,000

15,000,000

総資産・売上高(百万円)

0

200,000

400,000

600,000

800,000

1,000,000

営業利益・経常利益(百万円)

総資産 7,349,183 7,859,856 9,848,523 11,481,426 12,402,208 11,939,482

売上高 6,828,588 7,429,219 8,576,277 9,428,292 9,700,983 10,824,238

営業利益 737,230 824,855 861,160 871,841 755,539 790,830

経常利益 710,069 809,692 855,700 845,872 742,551 766,400

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

【図表 3‐2‐6】

総資産、売上高、営業利益、経常利益の前年度比伸び率-日産ー

-20.00%

0.00%

20.00%

40.00%

60.00%

80.00%

総資産 1.86% 6.95% 25.30% 16.58% 8.02% -3.73%

売上高 10.21% 8.80% 15.44% 9.93% 2.89% 11.58%

営業利益 50.70% 11.89% 4.40% 1.24% -13.34% 4.67%

経常利益 71.21% 14.03% 5.68% -1.15% -12.21% 3.21%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

【図表 3‐2‐5】は日産の総資産、売上高、営業利益、経常利益の過去 6 年間の推移を表

したものであり、【図表 3‐2‐6】は日産の総資産、売上高、営業利益、経常利益の過去 6年間の前年度比伸び率を表したものである。

2002 年度から 2006 年度にかけて総資産と売上高は伸びていたが、2007 年度に総資産が

減少している(図表 3‐2‐5)。これは、主に自動車ローンである販売金融債権や有形固定

資産である機械装置が減少したことが要因である。また、2005 年度から 2006 年度にかけ

て営業利益、経常利益が減少している(図表 3‐2‐5)。これは、米ドル安による為替の影

響や売上原価(原材料価格、エネルギー費)の増加によるコスト増、販売台数の減少(前

年度比マイナス 11.66%)、北米でのリコール費用の増加によるものである。その後、2007

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

年度には営業利益、経常利益は増加した(図表 3‐2‐6)が、これは国内市場以外での販売

台数の増加や、原材料・エネルギーコスト、購買コストの削減によるものである。 前年度比伸び率を見ると、年々下降傾向にあり、2004 年度から伸び悩んでいることがわ

かる(図表 3‐2‐6)。よって成長力は鈍化している。 以上のように 3 社の成長性を分析してきた。トヨタとホンダは右肩上がりに成長してき

ていたが、2007 年度に両社とも前年度比伸び率は減少しており、成長力が鈍化しているこ

とがわかった。一方、日産は 2004 年度以降伸び悩んでいる状況にあり、2006 年度には営

業利益、経常利益が前年度比マイナス 10%以上減少した。2007 年度には増加しているが、

以前の水準に戻っただけであり、成長したとは言えない。 では、自動車業界全体と比較して、どの程度成長力があるのかを標準化を用いて判断し

てみよう。成長性の標準化による評価は、総資産、売上高、営業利益、経常利益の過去 6年間での伸び率を用いて行う。

【図表 3‐2‐7】

総資産 61.06% 64.24% 62.46% 52.25%売上高 69.59% 50.12% 58.51% 51.68%営業利益 78.54% 31.55% 7.27% 50.05%経常利益 98.69% 46.92% 7.93% 64.45%

標準化後総資産 0.18 0.24 0.20売上高 0.48 -0.03 0.18営業利益 0.31 -0.20 -0.46経常利益 0.33 -0.17 -0.55

合計 1.30 -0.16 -0.62

6ヵ年伸び率 8社平均トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車

【図表 3‐2‐7】は総資産、売上高、営業利益、経常利益におけるトヨタ、ホンダ、日産、

業界 8 社平均の過去 6 年間での伸び率と、それらを標準化しポイント付けした数値を表し

たものである。 これを見ると、トヨタは全ての指標で業界平均以上の伸び率を示している。よって、業

界平均以上の成長を遂げており、3 社の中では も成長力がある。ホンダは、総資産のみ業

界平均以上の伸び率を示しており、売上高、営業利益、経常利益は業界平均以下の伸び率

を示している。よって、業界平均以下の成長力であり、3 社の中ではトヨタに次ぐ成長力で

ある。日産は、総資産と売上高では業界平均以上の伸び率であるが、営業利益、経常利益

は業界平均以下の伸び率である。よって、業界平均以下の成長力であり、3 社の中でも も

成長力は弱いことがわかる。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

成長性まとめ このように、右肩上がりに増加しているから成長していると判断していたが、標準化を

用いて業界の動きと比較すると、明確に成長力を把握することができた。トヨタは、4 指標

とも右肩上がりに増加しており、業界平均以上の成長力を誇っていた。ホンダは、4 指標と

も右肩上がりに増加していたが、業界平均以下の成長力であった。日産は、近年 4 指標と

も伸び悩んでおり、業界平均以下の成長力であった。 次に収益性分析を行っていこう。 (2)収益性分析

前項では成長性を分析してきたが、売上高や利益の規模だけを見るのではなく、その利

益をどのように上げているかの質を見ることが必要である。利益といっても、本業の営業

活動からの利益であるのか、または本業以外の財務活動によるものか、あるいはまた一時

的なリストラクチャリングによる利益の計上によるものかによって大きく性質が変わって

くる。この項では、成長を支える利益をどのように上げているのかを見てみよう。また、

利益を上げる上でどのような戦略を採っているのかも分析する。具体的には、売上原価や

販管費などの費用を抑えることで、多くの利益を上げているか、また持っている資産を有

効活用し、利益へ結びついているかを見ていく。 まずは 3 社の総合的な収益力を測るために、総資産経常利益を見る。次にこの指標を、

利幅を表す売上高経常利益率と、効率を表す総資産回転率の 2 つに分解し、どのような要

因によって変動し、どのような特徴があるかを分析する。 まず、総資産経常利益率から見てみる。

【図表 3‐2‐8】

総資産経常利益率

4.00%

6.00%

8.00%

10.00%

12.00%

トヨタ 6.09% 8.01% 7.21% 7.27% 7.31% 7.51%

ホンダ 7.94% 7.71% 7.05% 6.51% 6.59% 7.10%

日産 9.66% 10.30% 8.69% 7.37% 6.14% 6.42%

業界平均 6.97% 7.49% 6.85% 7.44% 6.98% 7.03%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

62

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

総資産経常利益率=総資産

経常利益×100(%)

【図表 3‐2‐8】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の総資産経常利益率の

推移を表したものである。 この指標は企業の総合業績を測るものであり、企業が保有する全ての資産が、企業の営

業活動及び財務活動の成果である経常利益にどの程度結びついているかを見るものである。

よって、この指標が高ければ高いほど企業全体の総合的な収益力が高いと言える。 まず、3 社の推移を見てみる。トヨタの 2002 年度から 2003 年度にかけての上昇は、経

常利益が大きく伸びたためである(図表 3‐2‐2)。その後は業界平均よりも高い数値を推

移しており、安定した収益力を保っている。ホンダも業界平均付近を推移し、大きな変動

はなく安定した収益力である。日産は 2002 年度から 2003 年度にかけて極めて高い収益力

を誇っていたが、2003 年度から減少傾向にある。この要因として、2003 年度から 2004 年

度にかけては、総資産である自動車ローンやリースなどの販売金融事業の債権が増加した

ためである。2004 年度から 2006 年度にかけて減少している要因は、総資産は伸びている

にもかかわらず経常利益が減少しているためである(図表 3‐2‐6)。 次に総資産経常利益率の変動要因をつかむために、利幅を表す売上高経常利益率と効率

を表す総資産回転率の 2 つに分解して分析を行う。 まず、利幅を表す売上高経常利益率を見てみる。

【図表 3‐2‐9】

売上高経常利益率

4.00%

6.00%

8.00%

10.00%

12.00%

トヨタ 7.91% 10.21% 9.46% 9.92% 9.95% 9.27%

ホンダ 7.65% 7.86% 7.59% 6.98% 7.15% 7.46%

日産 10.40% 10.90% 9.98% 8.97% 7.27% 7.08%

業界平均 7.20% 7.79% 6.95% 7.97% 7.55% 7.42%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

売上高経常利益率=売上高

経常利益×100(%)

【図表 3‐2‐9】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の売上高経常利益率の

63

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

推移を表したものである。 この指標は、「売上高と経常利益との比率である。経常利益は、企業本来の営業活動によ

る営業利益に、その営業活動に付随した資産の調達・運用などの財務活動から生じた財務

上の収益・費用を加減して算出された利益で、企業の通常の状態から生じた利益である。

したがって、売上高経常利益率は、企業の購買、生産、販売、金融など、企業の当期の営

業力、収益力などの当期業績を見る場合に も適しているものである」(倉田三郎,藤永弘,

石崎忠司,坂下紀彦,『入門 経営分析 四訂版』同文舘出版,2008 年,63 頁参照)。よっ

て、この比率が高ければ高いほど収益力が高く、利幅の高い高付加価値型であると言える。 まず、3 社の推移を見てみる。トヨタは 2002 年度から 2003 年度にかけて約 2%増加して

いる。これは、総資産経常利益率と同様、経常利益が増加したためである。ホンダは大き

な変動はなく安定している。日産の減少要因は、売上高が増加しているにもかかわらず経

常利益が減少しているためである。 次に 3 社で比較すると、トヨタは業界平均よりも高い水準を推移しており、3 社の中で

も利幅が高い。ホンダは業界平均とほぼ同じ水準を推移しているが、3 社の中で も低い水

準を推移しているため利幅は低い。日産は 2002 年度から 2004 年度までは収益性が優れて

いたが、年々利幅が減少している。 次に、効率を表す総資産回転率を見てみる。

【図表 3‐2‐10】

総資産回転率

0.60

0.70

0.80

0.90

1.00

1.10

(回)

トヨタ 0.77 0.78 0.76 0.73 0.74 0.81

ホンダ 1.04 0.98 0.93 0.93 0.92 0.95

日産 0.93 0.95 0.87 0.82 0.84 0.91

業界平均 0.97 0.96 0.94 0.93 0.92 0.95

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

総資産回転率=総資産

売上高×100(%)

【図表 3‐2‐10】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の総資産回転率の推

移を表したものである。 この指標は「総資産 1 単位が 1 年間にどれだけの収益を上げたかを示す。この比率が良

64

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

好ならば、資産の循環が効率的に行われ、資産が無駄に利用されていないことを意味する」

(倉田三郎,藤永弘,石崎忠司,坂下紀彦,『入門 経営分析 四訂版』同文舘出版,2008年,33 頁参照)。よって、企業が保有する全ての資産がどれだけ売上高に結びついているか

を見るものであり、資産運用上の効率を意味する。この比率が高ければ高いほど、少ない

資産で多くの収益を上げていることになり、高効率型であると言える。 まず、3 社の推移を見てみる。トヨタは、業界平均よりも低い水準を推移しており、回転

率が低いことがわかる。一方、ホンダは 2004 年度まで減少しているものの、業界平均とほ

ぼ同じ水準を推移している。日産は、業界平均に近い推移であったが、2003 年度から減少

している。これは売上高の伸び率のほうが低く、総資産の伸び率のほうが高いためである。

よって、資産は増えてもそれが効率良く売上高に結びついていないことを表す。 次に 3 社で比較すると、トヨタは 3 社中 も低く、業界平均とも差が大きいため効率は

も低い。よって、資産を有効に使えていないことになる。ホンダは、3 社の中で も比率

が高いため効率が良く、資産を有効に使えている。日産は、業界平均以下のため効率が良

いとは言い難いが改善傾向にある。3 社に共通して言えることは、2006 年度から 2007 年

度にかけて改善されていることである。その中でもトヨタと日産の上昇率は高く、資産が

減少して売上高を伸ばしていることが要因である。この資産の減少要因として、トヨタに

おいては、保有する投資有価証券が時価評価によって前年度比で 6.8%減少したためである。

日産においては、販売金融債権が前年度比で 10%、機械装置及び運搬具が前年度比で 8.3%減少したためである。 ここまで、収益性の総合的な判断を行うために総資産経常利益率を比較し、その変動要

因を把握するために、利幅を表す売上高経常利益率と効率を表す総資産回転率に分解し比

較してきた。 売上高経常利益率では、トヨタが安定した推移で も高く、ホンダは も低いが業界平

均とほぼ同じ水準を推移していた。日産は年々減少傾向であり利幅を落としていた。一方、

総資産回転率では、ホンダが も高く、トヨタは も効率が低かった。日産は、効率を落

としていたが改善傾向にあった。 そこで、これらの企業の戦略や効率を視覚的に把握するために、売上高経常利益率と総

資産回転率の推移を 1 つの図にまとめた戦略ポジショニングマップ(=Strategy Positioning Map。以下、SPM)を見てみよう。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐2‐11】

自動車業界SPM

4

6

8

10

12

0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1

総資産回転率(回)

売上高経常利益率(%)

トヨタ自動車

本田技研工業

日産自動車

業界平均

線形(業界傾向線)

高効率型

高付加価値型

【図表 3‐2‐11】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の売上高経常利益率

と総資産回転率を SPM として図に表したものである。 SPM とは、企業が採っている戦略を視覚的に判別するために用いられる図であり、縦軸

と横軸に比較対象となる指標を置いて作成されるものである。ここでは、縦軸に売上高経

常利益率、横軸に総資産回転率を採り、3 社の戦略の違いや動きを判別する。それにより、

図の上に位置するほど売上高経常利益率が高いことを意味し、利幅の高い高付加価値型戦

略であると言える。また、図の右に位置するほど総資産回転率が高いことを意味し、効率

の高い高効率型戦略であると言える。よって、図の右上に位置するほど総資産経常利益率

が高く、企業の総合的な業績が良好であると言える。 図中の点線は、業界平均値の各点を回帰分析によって導き出した直線であり、業界の平

均的な業績を表す線である。この点線を境に、高付加価値型戦略であるか高効率型戦略で

あるかを判断することができる。 ここで 3 社の位置や動きを見てみる。トヨタは、高付加価値型戦略を採っており、効率

を落としていたが改善していることがわかる。ホンダは、業界平均とほぼ同じところに位

置し、3 社の中で売上高経常利益率と総資産回転率との双方のバランスが取れた経営戦略を

採っていると言える。また、効率を落としている傾向にあったが、近年改善されている。

日産は元々、高付加価値型戦略を採っており、また右上に位置していたため、理想に近い

戦略を採っていたことがわかる。しかしその後、利幅と効率の双方を落としていき、近年

では高効率型戦略へとシフトする動きが見られる。 これより、SPM で判断できることを 3 社で比較すると、トヨタは高付加価値型戦略、ホ

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ンダは高効率型戦略を採っていることがわかる。日産は高付加価値型から高効率型の戦略

へとシフトしていることがわかる。 以上、企業の総合的な収益性を見てきた。ここからはどういった要因でこのような戦略

になるのか、どこに問題点があるのかを明らかにするため、さらに分析を続ける。具体的

に以下で行うことをまとめると、トヨタは利幅が高いこと(高付加価値型戦略)と効率が

低いこと、ホンダは利幅が低いことと効率が高いこと(高効率型戦略)、日産は利幅と効率

を落としていたこと(高付加価値型戦略から高効率型戦略へシフト)を分析によって明ら

かにしていく。分析にあたり、縦軸である利幅面と横軸である効率面の 2 つに分けて細分

化していく。 まずは、利幅面からの分析として営業利益と売上高の比率を見てみる。 【図表 3‐2‐12】

売上高営業利益率

6.00%

8.00%

10.00%

12.00%

トヨタ 8.20% 9.64% 9.01% 8.93% 9.35% 8.64%

ホンダ 9.09% 7.35% 7.29% 8.77% 7.68% 7.94%

日産 10.80% 11.10% 10.04% 9.25% 7.42% 7.31%

業界平均 7.40% 7.55% 7.26% 7.78% 7.51% 7.33%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

売上高営業利益率=売上高

営業利益×100(%)

【図表 3‐2‐12】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の売上高営業利益率

の推移を表したものである。 売上高営業利益率は、「売上高と営業利益との比率である。営業利益は、売上総利益から

販売費及び一般管理費を控除して算出されるもので、その営業利益の性質は、企業の本来

の営業活動から生まれた利益である。本来の営業活動とは、製造業なら製品を製造して販

売することを目的とした活動である。したがって、売上高と営業利益との比率は、企業の

営業成績の良否、企業の営業力、営業収益力を知ることのできる重要な指標である。また、

この指標が高いほど販売費及び一般管理費が少なく、営業力と営業収益性が良いとされる」

(倉田三郎,藤永弘,石崎忠司,坂下紀彦,『入門 経営分析 四訂版』同文舘出版,2008年,59~60 頁参照)。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

これを見ると、売上高経常利益率(図表 3‐2‐9)の推移と大きな変動はなく推移してい

る。よって、本業以外での活動による影響は 3 社に見られず、この段階で明らかにするこ

とはできない。 さらにさかのぼって営業利益が算出されるまでの過程を見る。そこで、 も早く算出さ

れる売上総利益と売上高の比率を見てみる。 【図表 3‐2‐13】

売上高総利益率

15.00%

20.00%

25.00%

30.00%

トヨタ 20.41% 19.80% 19.84% 19.45% 19.71% 18.14%

ホンダ 27.23% 25.77% 24.79% 24.09% 24.08% 23.93%

日産 28.65% 28.52% 25.94% 25.32% 23.32% 22.33%

業界平均 23.83% 23.13% 22.63% 22.39% 22.00% 21.06%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

売上高総利益率=売上高

売上総利益×100(%)

【図表 3‐2‐13】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の売上高総利益率の

推移を表したものである。 売上高総利益率は、「売上高と売上総利益との比率である。売上総利益は、粗利、荒利と

も言われ、購買活動、製造活動の結果を評価・判断するための資料として役立つものであ

る。また売上総利益は、売上高から売上原価を控除して算出されたもので、売上によって

初にもたらされる利益である。売上原価は販売した商品や製品の仕入れや、販売した製

品の製造のために費やした費用(仕入原価、製造原価)のことである。したがって、売上

高総利益率は、独創的な製品を製造・販売している企業や販売政策の優れている企業、購

買管理や生産管理の優れている企業では比率が高くなる」(倉田三郎,藤永弘,石崎忠司,

坂下紀彦,『入門 経営分析 四訂版』同文舘出版,2008 年,56 頁参照)。 これを見ると、トヨタは も比率が低く、製造のために費やした費用である売上原価が

高いため、売上総利益を圧迫している。ホンダは、業界平均より製造にかかる費用が抑え

られている。日産は、年々減少しており、製造にかかる費用を抑え切れていない。よって、

日産が利幅を落としていた要因は、売上原価の上昇によるものである。 では、日産の原価の上昇要因を把握するために、事業別の売上高原価率を見てみる。

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【図表 3‐2‐14】

日産 事業別売上高原価率

50.00%

60.00%

70.00%

80.00%

自動車事業 71.78% 72.18% 74.64% 74.88% 76.72% 77.72%

金融事業 64.40% 57.96% 62.40% 71.37% 76.12% 77.00%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

【図表 3‐2‐14】は日産の過去 6 年間の事業別に見た売上高原価率の推移を表したもの

である。 これを見ると、2003 年度以降、金融事業での売上原価が増加している。金融事業での売

上原価とは、リースを行うものの原価や自動車ローンの資金を集めるためにかかった費用

などが含まれる。よって、金融事業の拡大と共に原価も増加し利幅を落としている。 また 3 社の売上総利益率は、売上高経常利益率(図表 3‐2‐9)、売上高営業利益率(図

表 3‐2‐12)との推移が全く異なっている。売上高経常利益率と売上高営業利益率では、

トヨタが も高い水準を推移していたが、売上高総利益率では、トヨタが も低い水準を

推移している。よって時系列で見ると、トヨタは売上総利益から営業利益・経常利益を算

出する過程に何か特徴があり、比率の減少を抑えていることがわかる。一方、ホンダと日

産はその過程で何らかの原因があり、大きく利益率を落としていることになる。 では、その売上総利益から営業利益を算出する過程にある販管費と売上高の比率を見て

みよう。

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【図表 3‐2‐15】

売上高販管費率

8.00%

12.00%

16.00%

20.00%

トヨタ 12.20% 10.16% 10.83% 10.52% 10.36% 9.50%

ホンダ 18.14% 18.42% 17.49% 16.72% 16.40% 15.98%

日産 17.85% 17.42% 15.90% 16.07% 15.90% 15.02%

業界平均 16.43% 15.59% 15.37% 14.87% 14.48% 13.74%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

売上高販管費率=売上高

販売費及び一般管理費×100(%)

【図表 3‐2‐15】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の売上高販管費率の

推移を表したものである。 「販売費は、商品や製品を販売するためにかかる費用で、企業の販売政策によって増減

する。これは売上高の増加に貢献する費用なので、ほぼ売上高と比例的に増加する性質の

ものである。これに対して一般管理費は、企業を維持・管理していくための費用で、売上

高が増加しても減少してもほぼ一定金額が発生するものである」(倉田三郎,藤永弘,石崎

忠司,坂下紀彦,『入門 経営分析 四訂版』同文舘出版,2008 年,60 頁参照)。 これを見ると、トヨタは他社に比べて圧倒的に比率が低い。よって、販管費を他社より

も低く抑えることができており、営業利益を圧迫することなく経営を行えていることにな

る。これがトヨタの利幅の高い高付加価値型戦略である要因だ。一方ホンダは、業界平均

以上に販管費がかかっており、営業利益を圧迫している。よって、これが利幅の低くなっ

ている要因である。日産も業界平均以上の水準を推移しており、販管費を抑えきれていな

い。 ここからは、トヨタが売上高販管費率を抑えられており利幅が高い要因と、それとは対

照的にホンダが売上高販管費率を抑えられず利幅が低い要因について見ていく。また、日

産の位置も判断できるように図表上に残しておく。 では、水準の違いを把握するため、売上高販管費率を細分化して分析を行う。しかし、3

社は連結財務諸表での販管費の内訳を公開していないため、ここでは単体での財務諸表の

販管費を用いて分析を行っていく。 まず、単体での売上高販管費率を見てみる。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐2‐16】

売上高販管費率 単体

8.00%

10.00%

12.00%

14.00%

16.00%

トヨタ 10.82% 10.53% 10.97% 10.75% 10.26% 9.86%

ホンダ 15.52% 14.19% 14.03% 14.09% 14.12% 13.97%

日産 9.69% 11.49% 11.15% 11.60% 10.89% 9.90%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

【図表 3‐2‐16】はトヨタ、ホンダ、日産の過去 6 年間の単体での売上高販管費率の推

移を表したものである。 これを見ると、トヨタは 3 社の中で も比率を抑えられている。一方、ホンダは販管費

を抑えることができず、比率が高くなっている。この 2 社の位置関係は連結の売上高販管

費率(図表 3‐2‐15)と変わらない。 ではこの指標を細分化していく。使用する指標は、金額の割合が高い給料賃金手当、運

送費、広告宣伝費の 3 つである。 【図表 3‐2‐17】

売上高給料賃金手当比率 単体

1.00%

1.50%

2.00%

2.50%

3.00%

トヨタ 1.58% 1.60% 1.59% 1.51% 1.35% 1.29%

ホンダ 2.51% 2.51% 2.33% 2.21% 1.83% 1.75%

日産 1.82% 1.76% 1.63% 1.89% 1.75% 1.70%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

売上高給料賃金手当比率=売上高

給料賃金手当×100(%)

71

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐2‐18】

売上高運送費率 単体

1.50%

2.00%

2.50%

3.00%

3.50%

トヨタ 2.07% 2.00% 2.01% 2.12% 2.29% 2.38%

ホンダ 3.03% 2.96% 3.00% 3.08% 3.19% 3.31%

日産 2.60% 2.43% 2.38%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

売上高運送費率=売上高

運送費×100(%)

【図表 3‐2‐19】

売上高広告宣伝費率 単体

0.50%

1.00%

1.50%

2.00%

2.50%

トヨタ 1.30% 1.06% 0.89% 1.01% 0.91% 0.90%

ホンダ 1.77% 1.79% 1.74% 2.00% 2.02% 2.23%

日産 1.31% 1.24% 1.23% 1.21% 1.33% 1.01%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

売上高広告宣伝費率=売上高

広告宣伝費×100(%)

【図表 3‐2‐17】【図表 3‐2‐18】【図表 3‐2‐19】はトヨタ、ホンダ、日産の過去 6

年間の売上高給料賃金手当比率(単体)、売上高運送費率(単体)、売上高広告宣伝費率(単

体)の推移を表したものである。 売上高給料賃金手当比率(図表 3‐2‐17)は、売上高に対して従業員に支払われる給料

賃金や手当がどの程度かかっているのかを見るもので、比率が高ければ支払われる給料賃

金や手当が高いということになる。売上高運送費率(図表 3‐2‐18)は、売上高に対して

製品などを運送する費用がどの程度かかっているのかを見るもので、比率が高ければ製品

や部品などの運送にかかる費用が多いことになる。売上高広告宣伝費率(図表 3‐2‐19)

72

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

は、売上高に対して広告宣伝費がどの程度かかっているかを見るもので、比率が高ければ

広告宣伝にかける費用が多いことになる。 これらを見ると、トヨタは 3 つ全ての費用を低く抑えることができており、効率良く売

上を上げていることがわかる。よって、これらの費用を抑えられていることが利幅の高い

高付加価値型の戦略である要因だ。一方、ホンダはトヨタと対照的で 3 つ全ての費用にお

いて抑えることができておらず、投じた費用が売上高に結びついていない状況だ。よって、

売上高に対する費用の割合が高いことが利幅の低い要因である。 ここまで利幅面から売上高経常利益率を分解し分析を行ってきた。トヨタは、販管費の

給料賃金手当、運送費、広告宣伝費を有効に使い、売上高に結びつけていたため、利幅の

高い高付加価値型の戦略である。ホンダは、原価を抑え売上高総利益率では利幅が高かっ

たが、販管費を抑えることができていないため、売上高経常利益率での利幅は低くなって

いる。日産は、収益性に優れた企業であったが、売上原価の上昇を吸収することができず

利幅を落としている。 ここで視点を変えて、業界概要で述べた業界の特徴について分析していく。自動車業界

は設備投資額や研究開発費の金額が大きい産業であった。よって、3 社においてそれぞれの

金額が売上高に対してどの程度あるのかを見てみる。 まずは設備投資額と売上高の比率を見てみる。

【図表 3‐2‐20】

売上高設備投資額比率

2.00%

4.00%

6.00%

8.00%

トヨタ 6.23% 5.74% 5.86% 7.27% 6.19% 5.63%

ホンダ 3.98% 3.53% 4.32% 4.62% 5.66% 5.45%

日産 5.53% 5.75% 5.57% 5.04% 4.86% 3.96%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

売上高設備投資額比率=売上高

設備投資額 ×100(%)

【図表 3‐2‐20】はトヨタ、ホンダ、日産の過去 6 年間の売上高設備投資額比率の推移

を表したものである。 これは、設備投資額と売上高の比率であり、売上高のうち、どの程度設備投資に充てて

73

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

いるかを見るものである。この比率が高ければ、将来に対する投資として積極的な設備投

資を行っていることになる。 トヨタは 3 社の中で も比率が高く、積極的に設備投資を行っている。よって、将来の

事業拡大に期待ができ、企業規模も成長していくだろう。ホンダは も比率が低かったが、

年々上昇しており設備投資を拡大していることがわかる。一方、日産はトヨタに迫る水準

であったが、年々減少しており設備投資を縮小していることがわかる。よって、将来の事

業拡大が期待できず、企業規模の成長は見込めないだろう。 次に研究開発費と売上高の比率を見てみる。 【図表 3‐2‐21】

売上高研究開発費率

3.00%

4.00%

5.00%

6.00%

トヨタ 4.33% 3.95% 4.07% 3.86% 3.72% 3.65%

ホンダ 5.48% 5.50% 5.41% 5.15% 4.98% 4.90%

日産 4.40% 4.77% 4.64% 4.75% 4.44% 4.23%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

売上高研究開発費率=売上高

研究開発費×100(%)

【図表 3‐2‐21】はトヨタ、ホンダ、日産の過去 6 年間の売上高研究開発費率の推移を

表したものである。 これは、研究開発費と売上高の比率であり、この比率が低ければ少ない研究開発費で多

くの売上高を上げていることになる。反対に高ければ、投じた研究開発費が有効に使われ

ておらず、売上高に結びついていないことを表す。 これを見ると、トヨタは他の 2 社に比べて低いところを推移しており、投じた研究開発費

を有効に使い、売上高に結びつけている。一方、ホンダは多くの研究開発費を投じている

が、有効に使えておらず売上高に結びついていない。しかし、設備投資と同様に将来に対

する投資であるため、比率が高いから悪いとは言えず、積極的に研究開発を行っているこ

とになる。日産もトヨタ以上に研究開発費を投じていることがわかる。 このように業界の特徴であった設備投資額と研究開発費を見た結果、設備投資に積極的な

トヨタと研究開発に積極的なホンダであることがわかった。

74

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

次に、効率面から分析を行っていく。総資産回転率を軸に、さまざまな資産を有効活用

できているかを見ていく。 まずは、固定資産と売上高の比率を見てみよう。 【図表 3‐2‐22】

固定資産回転率

1.00

1.20

1.40

1.60

1.80

2.00

(回)

トヨタ 1.34 1.31 1.25 1.17 1.16 1.29

ホンダ 1.82 1.75 1.63 1.64 1.62 1.63

日産 1.87 1.82 1.82 1.73 1.77 1.92

業界平均 1.72 1.66 1.57 1.53 1.53 1.66

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

固定資産回転率=固定資産

売上高×100(%)

【図表 3‐2‐22】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の固定資産回転率の

推移を表したものである。 固定資産回転率は、「固定資産の利用度を示す比率であり、この比率の高低によって固定

資産への過大投資や遊休資産の有無を検証することができる」(倉田三郎,藤永弘,石崎忠

司,坂下紀彦,『入門 経営分析 四訂版』同文舘出版,2008 年,41 頁)。 これを見ると、トヨタは他の 2 社、業界平均に比べ回転率が低いことがわかる。よって、

固定資産を 1 回転以上は使用しているが、他社に比べて持っている固定資産を有効活用で

きていない。これがトヨタの効率の低さの要因であると言える。一方、ホンダと日産は業

界平均よりも回転率が高く、固定資産を有効活用し、売上高を上げていることになる。 では、このような比率になる要因を把握するため、固定資産をさらに細分化して分析を

行う。 まずは、固定資産の中でも自動車を製造するのに不可欠な有形固定資産と売上高の比率

を見てみる。

75

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【図表 3‐2‐23】

有形固定資産回転率

0.00

2.00

4.00

6.00

8.00(回)

トヨタ 2.98 3.23 3.20 2.98 3.08 3.37

ホンダ 5.72 5.69 5.46 5.46 5.33 5.45

日産 2.28 2.32 2.26 2.12 2.15 2.34

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

有形固定資産回転率=有形固定資産

売上高 ×100(%)

【図表 3‐2‐23】はトヨタ、ホンダ、日産の過去 6 年間の有形固定資産回転率の推移を

表したものである。 これは、固定資産回転率(図表 3‐2‐22)の固定資産部分を細分化し、有形固定資産を

用いたものである。よって、自動車を製造するために必要な有形固定資産を用いることで、

製造に近い面から見ることができ、製造するために有効活用できているか分析を行うこと

ができる。 これを見ると、ホンダが も効率良く有形固定資産を使い、製造していることがわかる。

よって、これがホンダの高効率型戦略の要因であると言える。トヨタとホンダは、固定資

産から有形固定資産に指標を絞ることで比率が大きく伸びているが、日産はその比率の伸

び幅が小さく、有形固定資産回転率では も低い。よって、日産は有形固定資産の割合が

大きく、有効に使えていないと言える。 では、さらにこの有形固定資産を細分化し、土地、建物、機械装置及び運搬具に分け、

それぞれの売上高に対する比率を見てみる。

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【図表 3‐2‐24】

土地回転率

5.00

10.00

15.00

20.00

25.00

30.00

(回)

トヨタ 14.57 15.23 15.68 17.30 19.42 20.83

ホンダ 23.24 23.01 23.68 25.77 25.82 26.24

日産 8.73 9.78 10.97 12.73 14.27 15.03

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

土地回転率=土地

売上高×100(%)

【図表 3‐2‐25】

建物回転率

4.00

8.00

12.00

16.00

(回)

トヨタ 6.15 6.17 6.32 6.66 6.95 7.34

ホンダ 8.46 8.43 8.39 8.62 8.38 8.59

日産 13.06 13.63 13.20 13.55 14.68 15.26

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

建物回転率=建物

売上高×100(%)

77

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【図表 3‐2‐26】

機械装置及び運搬具回転率

0.00

2.00

4.00

6.00

(回)

トヨタ 1.78 1.88 1.91 1.90 1.98 2.16

ホンダ 3.94 3.94 3.83 3.87 3.71 3.83

日産 5.71 5.60 4.81 4.06 3.84 4.30

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

機械装置及び運搬具回転率=機械装置及び運搬具

売上高×100(%)

【図表 3‐2‐24】【図表 3‐2‐25】【図表 3‐2‐26】はトヨタ、ホンダ、日産の過去 6

年間の土地回転率、建物回転率、機械装置及び運搬具回転率の推移を表したものである。 土地回転率(図表 3‐2‐24)は、保有する土地でどの程度売上高を上げているかを見る

ものであり、建物回転率(図表 3‐2‐25)は保有する建物でどの程度売上高を上げている

かを見るものである。また、機械装置及び運搬具回転率(図表 3‐2‐26)は保有する機械

装置及び建物運搬具でどの程度売上高を上げたかを見るものである。よって、資産の利用

効率を表すものであり、比率が高ければ資産を有効活用し売上高に結びついていることに

なる。 これら 3 つの指標を用いて、3 社の比較を行う。トヨタは、建物回転率(図表 3‐2‐25)

と機械装置及び運搬具回転率(図表 3‐2‐26)を見ると、他の 2 社に比べて比率が低い。

よって、建物と機械装置及び運搬具を有効活用できておらず、売上高に結びついていない。

これがトヨタの効率の低い要因である。ホンダは、土地回転率(図表 3‐2‐24)において、

他の 2 社に比べて も比率が高い。よって、土地を有効活用できており、これがホンダの

高効率型戦略の要因である。日産は、固定資産回転率(図表 3‐2‐22)では比率が高かっ

たが、有形固定資産回転率(図表 3‐2‐23)では比率が低くなっている。その要因として、

土地回転率(図表 3‐2‐24)が低いためである。 ここまで総資産のうち、固定資産の側面から分析を行ってきたが、次に流動資産の側面

からも分析を行う。 まず、流動資産と売上高の比率を見てみる。

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【図表 3‐2‐27】

流動資産回転率

1.40

1.70

2.00

2.30

2.60

(回)

トヨタ 1.80 1.95 1.97 1.96 2.02 2.18

ホンダ 2.42 2.23 2.16 2.17 2.14 2.29

日産 1.85 1.97 1.67 1.57 1.61 1.72

業界平均 2.13 2.23 2.13 2.03 2.04 2.21

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

流動資産回転率=流動資産

売上高×100(%)

【図表 3‐2‐27】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の流動資産回転率の

推移を表したものである。 これは、換金性の高い流動資産がどれだけ売上高に結びついているかを見るものである。 固定資産回転率(図表 3‐2‐22)と比較しながら見てみる。トヨタは、固定資産回転率

では も低く、これが効率の悪い要因であった。だが、流動資産回転率ではホンダに迫る

水準であり、流動資産の効率は良い。ホンダは、固定資産回転率と流動資産回転率の両方

において比率が高く、効率の良さがわかる。日産は、固定資産回転率では も高い比率で

あったが、流動資産回転率では も低い比率である。よって、日産が効率を表す総資産回

転率で比率を落としている要因は、流動資産の運用にあると言える。 次に、この流動資産をさらに細分化し、現金及び預金、棚卸資産を用いて分析を行う。

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【図表 3‐2‐28】

現金及び預金回転率

0.00

10.00

20.00

30.00

40.00

50.00(回)

トヨタ 9.41 9.62 11.99 12.99 12.43 14.91

ホンダ 14.56 11.27 11.18 13.82 11.73 11.42

日産 25.44 38.75 28.56 22.73 22.86 18.98

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

現金及び預金回転率=現金及び預金

売上高×100(%)

【図表 3‐2‐29】

棚卸資産回転率

8.00

10.00

12.00

14.00

16.00

18.00

(回)

トヨタ 15.11 15.96 14.20 12.98 13.28 14.40

ホンダ 10.60 10.66 10.03 9.56 9.37 10.01

日産 12.56 13.69 12.11 11.01 10.42 10.77

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

棚卸資産回転率=棚卸資産

売上高×100(%)

【図表 3‐2‐28】【図表 3‐2‐29】は、トヨタ、ホンダ、日産の過去 6 年間の現金及び

預金回転率、棚卸資産回転率の推移を表したものである。 現金及び預金回転率は、保有する現金及び預金でどれだけの売上高を上げているかを見

る指標である。棚卸資産回転率は、「棚卸資産回転率の低下は、販売不振、仕入れ及び生産

管理などのまずさによる在庫増を示し、資金繰り悪化の引き金になる」(倉田三郎,藤永弘,

石崎忠司,坂下紀彦,『入門 経営分析 四訂版』同文舘出版,2008 年,39 頁)。

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この流動資産を分解した指標で 3 社の比較を行う。現金及び預金回転率(図表 3‐2‐28)では、トヨタとホンダは大きな変動はなく推移している。一方、日産は 2003 年度に比率が

高くなっているが、これは固定資産の取得、投資有価証券の取得、短期借入金の返済によ

り現金が減少したためである。現金の割合が小さく、比率は高い水準を推移していたが、

2003 年度以降、現金の増加に伴い比率は減少している。よって、この減少が流動資産回転

率の低下の要因である。棚卸資産回転率(図表 3‐2‐29)では、トヨタが も比率が高い。

しかし、2003 年度から 2005 年度にかけて減少傾向であり、これは棚卸資産の増加による

ものである。ホンダは流動資産回転率で も高かったが、ここでは も低い比率である。

よって、ホンダは棚卸資産の割合が高く、流動資産の中でも比較的換金性の低い在庫を多

く抱えていることになる。日産は 2003 年度から減少傾向にあり、これは棚卸資産の増加が

要因である。よって、この減少も流動資産回転率の低下要因である。これらより、日産の

効率を落としている要因は、現金及び預金回転率と棚卸資産回転率の減少であることがわ

かる。 では、業界平均と比較してどの程度収益力があるのかを、成長性分析と同様に標準化を

行い見てみる。収益性の標準化による評価は、売上高営業利益率、売上高経常利益率、総

資産回転率の過去 6 年間での平均値と変化率を用いて、トヨタ、ホンダ、日産の 3 社の 3指標と業界 8 社平均を比較する。なお、3 指標のうち、財務活動を含めた全ての企業活動で

得た経常利益が も重要視されるため、売上高経常利益率は重要度が高いと判断し、ポイ

ントを 2 倍とする。また、6 年間での変化率は、平均値よりも重要度は低いと考えるため、

ポイントを 2 分の 1 にする。 【図表 3‐2‐30】

売上高営業利益率 8.97% 7.95% 9.08% 7.47%売上高経常利益率 9.51% 7.66% 8.87% 7.50%総資産回転率 0.76 0.95 0.88 0.91標準化・ウエイト後売上高営業利益率 0.47 0.15 0.50売上高経常利益率 1.14 0.09 0.77総資産回転率 -0.49 0.14 -0.10

小計 1.12 0.39 1.17

売上高営業利益率 0.43% -0.71% -3.49% -0.08%売上高経常利益率 1.36% -0.19% -3.32% 0.58%総資産回転率 0.04 -0.09 -0.02 -0.01標準化・ウエイト後売上高営業利益率 0.10 -0.17 -0.84売上高経常利益率 0.20 -0.19 -0.99総資産回転率 0.17 -0.25 -0.04

小計 0.47 -0.62 -1.87合計 1.59 -0.23 -0.70

8社平均

8社平均

6ヵ年平均

6ヵ年変化率 トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車

トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐2‐30】は売上高営業利益率、売上高経常利益率、総資産回転率におけるトヨ

タ、ホンダ、日産、業界 8 社平均の過去 6 年間での平均値と変化率、さらにそれらを標準

化しポイント付けした数値を表したものである。 これを見ると、トヨタは売上高営業利益率、売上高経常利益率の平均値は業界平均を上

回っているが、総資産回転率は下回っている。変化率では、業界平均以上の伸び率を示し

ている。よって、業界平均以上の収益力であり、3 社の中では も収益力が高い。ホンダは、

平均値において全て業界平均を上回っているが、変化率では全て業界平均以下の伸び率を

示している。日産は、総資産回転率のみ業界平均を下回っているが、平均値では も高い

ポイントである。しかし、変化率は全て業界平均を下回っている。よって、3 社の中で も

収益力が低い。

収益性まとめ この項では収益性の分析として、企業の総合的な業績を見る総資産経常利益率から始ま

り、その高低の要因を明らかにするために、利幅を表す売上高経常利益率と効率を表す総

資産回転率に分解してきた。そして、これを視覚的に判断するために 1 つの図にまとめた

SPM を見て、3 社の戦略を掴むことができた。トヨタは、利幅の高い高付加価値型であり、

効率は高くない戦略であった。ホンダは、トヨタと対照的で効率の高い高効率型であり、

利幅は高くない戦略であった。日産は、利幅も効率も理想の位置にいたが、年々両方とも

減少傾向にあり、現在は高効率型の戦略であった。 そして、このように 3 社の戦略を把握し、なぜそのような戦略になるのかを分析するた

めに、売上高経常利益率と総資産回転率をさらに分解して見てきた。それにより、3 社の優

れた点、問題点を把握することができた。トヨタは、利幅の高い要因として、販管費の中

でも給料賃金手当、運送費、広告宣伝費を抑えることで、費用を節約し売上高に結びつけ

ているためであった。しかし問題点として、売上原価が高く、また固定資産の中でも建物

と機械装置及び運搬具の回転率が低いため、効率が低くなっていた。ホンダは、効率の高

い要因として、有形固定資産の土地の回転率が高く、流動資産の回転率も高いためであっ

た。しかし問題点として、販管費の給料賃金手当、運送費、広告宣伝費を抑えることがで

きておらず、利幅が低くなっていた。また、棚卸資産を多く抱えており売上高に結びつい

ていなかった。日産は、固定資産の回転率が高く、その中でも建物と機械装置及び運搬具

を有効活用できていた。しかし問題点として、利幅は高かったが売上原価を抑えることが

できておらず、年々利幅を落としていた。また、現金及び預金回転率の減少や棚卸資産の

増加により、効率を落としていることであった。 さらに、標準化によって業界平均と比較した収益力を把握することができた。トヨタは

業界平均以上の収益力を誇っているが、ホンダと日産は業界平均以下の収益力であること

がわかった。 このように収益性分析によって、3 社ともそれぞれ戦略に特徴を持っており、収益力につ

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いて理解することができた。 後に安全性分析を行っていこう。

(3)安全性分析

前項では成長力や収益力を分析してきたが、いくら成長していて収益力があっても企業

を存続していくためには、安全性も兼ね備えた経営が必要になってくる。よって、安全性

分析では、短期的に見た安全性と、長期的に見た安全性の両面から分析を進めていく。 短期的な安全性では、流動比率、当座比率、現金比率の分析を行い、短期間で返済しな

ければいけない負債を返済する能力があるかの短期的な支払能力を比較する。長期的な安

全性では、自己資本比率、固定比率、固定長期適合率の分析を行い、返済義務のない資金

をどれほど持っているかの資本構造の安全性、また長期的に資金が拘束される資産は何で

賄われているかの資金源泉と使途の適合性を比較する。 まず、短期的な支払能力を測る指標として流動比率を見る。 【図表 3‐2‐31】

流動比率

80.00%

100.00%

120.00%

140.00%

トヨタ 122.23% 116.46% 114.74% 107.04% 100.96% 101.22%

ホンダ 105.44% 109.55% 106.94% 130.97% 121.11% 111.82%

日産 126.64% 121.42% 129.30% 124.13% 116.46% 120.06%

業界平均 110.40% 105.42% 94.02% 112.69% 108.22% 107.61%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

流動比率=流動負債

流動資産×100(%)

【図表 3‐2‐31】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の流動比率の推移を

表したものである。 流動比率は、「流動資産と流動負債との比率であり、企業の短期的な支払能力を示す も

基本的な指標である。すなわち、ただちに支払に充当しうる現金及び預金や短期間(営業

循環期間または 1 年以内)に販売や債権回収によって現金化しうる流動資産と、短期間に

支払期限が到来する流動負債を比較することによって、短期的な支払能力を判断するので

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

ある。欧米諸国では、この比率が 200%以上の場合は、短期的な支払能力が良好であると判

断している」(倉田三郎,藤永弘,石崎忠司,坂下紀彦,『入門 経営分析 四訂版』同文

舘出版,2008 年,12 頁)。 これを見ると、トヨタは 2005 年度以降、業界平均を下回っており、3 社の中では も支

払能力が低い。ホンダは 2005 年度に大きく上昇したが、これは返済により短期債務が前年

度比マイナスになったためである。その後は元の比率へ戻りつつある。日産は常に業界平

均を上回っており、3 社の中では も支払能力があると言える。この指標より 3 社に共通し

ているのは、100%以上の水準を保っているため支払能力はあると言えるが、3 社とも減少

傾向にあることだ。これは、流動資産の増加率よりも流動負債の増加率のほうが大きく、

金融事業の拡大と為替換算レートの影響により短期借入金が増加したためである。 では、流動比率より厳密に短期的な支払能力を見るために当座比率を見てみる。 【図表 3‐2‐32】

当座比率

60.00%

70.00%

80.00%

90.00%

100.00%

トヨタ 95.66% 89.47% 88.36% 81.26% 76.32% 76.80%

ホンダ 66.92% 70.84% 68.98% 83.32% 79.94% 72.96%

日産 91.31% 92.21% 97.58% 92.84% 84.70% 86.17%

業界平均 77.89% 77.86% 71.30% 80.47% 77.77% 76.58%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

当座比率=流動負債

当座資産×100(%)

【図表 3‐2‐32】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の当座比率の推移を

表したものである。 当座比率は、「当座資産と流動負債との比率であり、企業の短期的な支払能力を示す指標

である。一般的に、流動比率の補助的な比率として利用される。すなわち、流動資産のう

ちただちに支払に充当しうる現金及び預金、短期間に現金化される売上債権、売買目的有

価証券などの当座資産と短期間に支払期限が到来する流動負債を比較することによって、

短期的な支払能力を判断するのである。欧州諸国では、この比率が 100%以上の場合は、短

期的な支払能力は良好と判断している」(倉田三郎,藤永弘,石崎忠司,坂下紀彦,『入門

経営分析 四訂版』同文舘出版,2008 年,16 頁)。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

これを見ると、流動比率とさほど推移が変わらず、流動比率より厳密に支払能力を見る

と、3 社とも 100%を下回っており、短期的な支払能力があるとは言えない。しかし、業界

平均も 100%を下回っており、業界の動向として支払能力は高くないことがわかる。 ここで、流動比率と当座比率の差を見てみる。流動資産から換金性の低い棚卸資産を差

し引いたことによって、どれだけ変化したかを把握する。よって差が大きいほど棚卸資産

の割合が大きいことになり、在庫を余剰に持っていることになる。 【図表 3‐2‐33】

流動比率と当座比率の差

20.00%

30.00%

40.00%

50.00%

トヨタ 26.57% 26.99% 26.38% 25.79% 24.64% 24.42%

ホンダ 38.53% 38.71% 37.96% 47.65% 41.17% 38.86%

日産 35.32% 29.21% 31.72% 31.29% 31.75% 33.89%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

流動比率と当座比率の差=流動比率-当座比率

【図表 3‐2‐33】はトヨタ、ホンダ、日産の過去 6 年間の流動比率と当座比率の差の推

移を表したものである。 これを見ると、トヨタの差は 25%前後であり も小さく、棚卸資産の割合が小さいと考

えられる。一方、ホンダの差は 40%前後であり も大きいため、棚卸資産の割合が大きい

ことが考えられる。では、実際に棚卸資産の割合を見てみる。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

【図表 3‐2‐34】

棚卸資産比率

4.00%

6.00%

8.00%

10.00%

12.00%

トヨタ 5.09% 4.92% 5.37% 5.64% 5.54% 5.62%

ホンダ 9.79% 9.19% 9.26% 9.75% 9.83% 9.51%

日産 7.40% 6.91% 7.19% 7.46% 8.10% 8.42%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

棚卸資産比率=総資産

棚卸資産×100(%)

【図表 3‐2‐34】はトヨタ、ホンダ、日産の過去 6 年間の棚卸資産比率の推移を表した

ものである。 この指標は、総資産に対して棚卸資産がどれくらいあるかを表すものである。トヨタは

も棚卸資産が少なく、ホンダは も多いことがわかる。よって、ホンダが当座比率で支

払能力を大きく下げたのは、棚卸資産が多いことが要因である。 では、当座比率よりもさらに即時的な支払能力を見るために、現金及び預金と流動負債

の比率を見てみる。 【図表 3‐2‐35】

現金及び預金比率

0.00%

5.00%

10.00%

15.00%

20.00%

25.00%

トヨタ 23.35% 23.67% 18.81% 16.15% 16.38% 14.77%

ホンダ 17.53% 21.72% 20.64% 20.52% 22.05% 22.46%

日産 9.19% 6.18% 7.55% 8.55% 8.21% 10.88%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

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現金及び預金比率=流動負債

現金及び預金×100(%)

【図表 3‐2‐35】はトヨタ、ホンダ、日産の過去 6 年間の現金及び預金比率の推移を表

したものである。 現金及び預金比率は、「現金及び預金と流動負債との比率であり、企業の即時的な支払能

力を示す比率である。一般に、当座比率と同様に流動比率の補助的な比率として利用され

る。当座資産のなかには、現金化するために、一定の期間を必要とする受取手形、売掛金

や売買目的有価証券が含まれており、すべてが即時に支払に利用できるわけではない。し

かし、現金及び預金には、ただちに流動負債の支払の準備に充てることができる。欧州諸

国では、この比率が 20%以上の場合は、即時的な支払能力が良好と判断している」(倉田三

郎,藤永弘,石崎忠司,坂下紀彦,『入門 経営分析 四訂版』同文舘出版,2008 年,18頁参照)。 これを見ると、トヨタは年々減少しているが、これは流動比率(図表 3‐2‐31)や当座

比率(図表 3‐2‐32)と同様に流動負債が増加しているためである。ホンダは、当座比率

では も低かったが、現金及び預金比率で見ると も高い。よって現金及び預金が多く、

20%を超えているため、即時的な支払能力があると言える。日産は、流動比率や当座比率

を見れば も支払能力があると言えるが、この現金及び預金比率では も低く、現金が少

ないため即時的な支払能力は低い。 ここまで短期的な支払能力を見てきた。次に、長期的な安全性を見ていく。まずは資本

構造の安全性を表す自己資本比率を見てみる。 【図表 3‐2‐36】

自己資本比率

20.00%

25.00%

30.00%

35.00%

40.00%

トヨタ 35.33% 37.11% 37.17% 36.76% 36.34% 36.57%

ホンダ 34.24% 34.51% 35.30% 38.81% 37.24% 36.02%

日産 24.61% 25.75% 25.04% 26.90% 31.26% 32.24%

業界平均 31.25% 32.11% 33.17% 33.94% 33.90% 35.00%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

自己資本比率=総資本

自己資本×100(%)

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【図表 3‐2‐36】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の自己資本比率の推

移を表したものである。 自己資本比率は、「総資本に占める自己資本(純資産)の割合である。自己資本は、株主

が拠出した払込資本と利益の留保などの稼得資本からなり、負債とは異なり返済義務がな

いため、経営者にとって永続的に安定して利用できる資本である。したがって、自己資本

比率が高いということは、経営者にとって景気変動の影響を大きく受けずに資金を安定的

に利用して企業経営を行うことができ、債権者にとっては自らの債権の回収可能性が高い

ため長期的な観点からは企業の安定性が高いと言える。なお、この比率は、一般的に 50%以上の場合には、安定性が高いと判断することができる」(倉田三郎,藤永弘,石崎忠司,

坂下紀彦,『入門 経営分析 四訂版』同文舘出版,2008 年,20 頁参照)。 これを見ると、3 社とも 50%を下回っているが、トヨタとホンダは業界平均を上回って

おり、安全であると言える。一方、日産は他の 2 社と比べ水準は低く、負債による資金調

達の割合が高いことになる。さらに、業界平均を下回っているため安全性は低いが、ここ 3年間は比率が上昇している。これは固定負債である退職給付引当金の減少や長期借入金を

返済したためである。 次に資金源泉と使途の適合性を表す固定比率と固定長期適合率を見てみる。

【図表 3‐2‐37】

固定比率

140.00%

180.00%

220.00%

トヨタ 161.93% 161.30% 164.68% 170.41% 174.84% 171.63%

ホンダ 166.90% 162.66% 161.38% 146.78% 152.68% 162.49%

日産 201.68% 202.14% 190.94% 176.77% 152.42% 146.65%

業界平均 178.92% 176.22% 172.35% 168.06% 164.87% 162.90%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

固定比率=自己資本

固定資産×100(%)

【図表 3‐2‐37】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の固定比率の推移を

表したものである。 固定比率は、「自己資本と固定資産との比率であり、固定資産が将来返済する義務のない

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自己資本によって調達されている割合を示している。固定資産の購入は長期にわたり資金

が固定化されるが、建物などの減価償却を行う固定資産(償却資産)は、減価償却を通じ

て投下した資金を長期間で回収することになるから、返済義務のない資金によって調達し

ていることが好ましく、それによって企業の財務構造の安定性を保持することができる。

固定資産と自己資本とがほぼ同一額の場合は、固定資産が自己資本によって全額調達され

ていることを意味している。したがって理論的には、この比率が 100%以下の場合は安定性

が良好ということができる。また、この比率が 100%以上の場合には、固定資産の一部が負

債によって資金調達されていることを意味している」(倉田三郎,藤永弘,石崎忠司,坂下

紀彦,『入門 経営分析 四訂版』同文舘出版,2008 年,25~26 頁参照)。 これを見ると、3 社とも 100%を上回っているため安全であるとは言えない。トヨタは

170%前後を推移しており、大きな変動は見られない。ホンダは、2005 年度に下がったが、

これは自己資本比率(図表 3‐2‐36)でもわかるように、自己資本が増加したためである。

その後は同じ水準に戻り、大きな変動はなく安定している。日産は 2003 年度以降下がって

いるが、その要因は自己資本の増加率が固定資産の増加率より大きいためである。また、

自己資本比率において自己資本の構成割合が改善されているため、この比率も下がってい

る。 3 社とも 100%を大きく超えているため、固定資産の一部が負債によって資金調達されて

おり、決して安全とは言えない。しかし、土地・建物、機械装置など固定資産が多い産業

であり、業界平均としても 170%前後を推移しているため、比率が高くなるのは業界の特徴

である。 では、固定比率よりも厳密に資金源泉と使途の適合性を測るために固定長期適合率を見

てみる。 【図表 3‐2‐38】

固定長期適合率

70.00%

80.00%

90.00%

100.00%

110.00%

トヨタ 90.20% 94.25% 95.46% 99.35% 102.55% 102.57%

ホンダ 96.27% 93.62% 95.33% 85.89% 89.74% 94.72%

日産 84.05% 87.92% 83.82% 86.05% 86.56% 84.30%

業界平均 94.74% 96.59% 95.69% 95.13% 96.49% 96.94%

2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度

固定長期適合率=)(自己資本+固定負債

固定資産×100(%)

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【図表 3‐2‐38】はトヨタ、ホンダ、日産、業界平均の過去 6 年間の固定長期適合率の

推移を表したものである。 固定長期適合率は、「固定資産と長期資本(自己資本と固定負債の合計)との比率であり、

企業の長期的な財務構造の安定性にとって基本的な条件を示す指標である。すなわち、市

場の拡大、市場占有率の上昇、コストの低減の要求などによって、大量生産が行われるに

したがい工場における建物・機械・装置などの生産設備も巨大化する。このため、純資産

で固定資産を調達することが困難な状況が生ずる。このような場合、自己資本の不足額を

長期間にわたって返済することができる固定負債によって資金を調達し、充当することが

必要である。長期にわたり資金を運用できる長期資本によって、固定資産が調達されてい

る限り安定的である。したがって、この比率が 100%以下であることが望ましい。この比率

が 100%以上である場合は、流動負債によって固定資産を調達しているので、資金繰りが困

難になることが予想される。このような場合、収益性の高い企業であっても倒産する、い

わゆる、黒字倒産が生ずることがある」(倉田三郎,藤永弘,石崎忠司,坂下紀彦,『入門

経営分析 四訂版』同文舘出版,2008 年,28~29 頁参照)。 これを見ると、トヨタは年々上昇し 2006 年度には 100%を超えているため、長期的に資

金が拘束される資産に短期的な返済義務のある負債が注入されていることになる。これは

積極的に設備投資を行ったり、自動車ローンの長期金融債権が増加したりしているためで

ある。このように事業の拡大によるため、一概に危険であるとは言えない。ホンダは、固

定比率(図表 3‐2‐37)とさほど変わらず、100%を下回っているため安全であると言え

る。2005 年度以降、増加傾向にあるが、2005 年度に自己資本が増加し比率を押し下げたた

め、元の水準に戻ったと考えられる。日産は、固定比率では高かったが、この指標では低

くなっている。これは固定負債の割合が大きいためである。また、固定比率では減少して

いるが、固定長期適合率では一定の推移を保っている。これは、自己資本の増加に伴い固

定負債が減少したためである。そして 100%を下回っており、3 社の中で も低いため安全

である。 では、成長性分析や収益性分析と同様に、業界平均と比較してどの程度安全性が高いの

か、標準化を行い見てみる。安全性の標準化による評価は、当座比率、自己資本比率、固

定長期適合率の過去 6 年間での平均値と変化率を用いて、トヨタ、ホンダ、日産の 3 社の 3指標と業界 8 社平均を比較し、ポイント付けを行う。なお、6 年間での変化率は、平均値よ

りも重要度は低いと考えるため、ポイントを 2 分の 1 にする。 【図表 3‐2‐39】

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

当座比率 83.22% 74.07% 80.33% 76.91%自己資本比率 36.56% 36.21% 28.11% 33.50%固定長期適合率 101.88% 106.93% 117.03% 104.17%標準化・ウエイト後当座比率 0.20 -0.09 0.11自己資本比率 0.33 0.30 -0.59固定長期適合率 -0.12 0.15 0.70

小計 0.41 0.36 0.21

当座比率 -18.86% 6.04% -5.14% -1.31%自己資本比率 1.23% 1.79% 7.64% 4.05%固定長期適合率 -13.37% 1.70% -0.34% -2.40%標準化・ウエイト後当座比率 -0.53 0.22 -0.12自己資本比率 -0.29 -0.24 0.37固定長期適合率 -0.33 0.12 0.06

小計 -1.16 0.11 0.32合計 -0.76 0.47 0.54

8社平均

6ヵ年変化率 トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車 8社平均

6ヵ年平均 トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車

【図表 3‐2‐39】は当座比率、自己資本比率、固定長期適合率におけるトヨタ、ホンダ、

日産、業界 8 社平均の過去 6 年間での平均値と変化率、さらにそれらを標準化しポイント

付けした数値を表したものである。この 3 つの指標を用いたのは、より厳密に短期的、長

期的な安全性を測ることができるためである。 これを見ると、トヨタは当座比率と自己資本比率では業界平均を上回っているが、固定

長期適合率では下回っている。平均値では 3 社の中で も高いが、変化率では 3 指標とも

業界平均を下回っている。よって業界平均以下の安全性であり、総合的な安全性は も低

い。ホンダは、当座比率では業界平均を下回っているが、自己資本比率と固定長期適合率

では業界平均を上回っている。変化率では、自己資本比率のみ業界平均を下回っているが、

総合的な安全性は業界平均以上である。日産は、自己資本のみ業界平均を下回っているが

変化率では 3 社の中で も高く、業界平均以上の安全性を誇り、総合的な安全性は も高

い。 安全性まとめ 安全性分析では短期的な支払能力と資本構造の安全性、資金源泉と使途の適合性を比較

してきた。短期的な支払能力では、3 社とも比率が減少しており支払能力が高いとは言えな

い。しかし、業界平均と比較すると業界としてもこのような動向であるため、必ずしも危

険であるとは言えない。また、3 社にそれぞれ特徴があった。トヨタは、換金性の低い棚卸

資産が少ないためリスクは低いが、流動負債が増加し各指標とも減少傾向にあり、支払能

力が低下していた。ホンダは、棚卸資産が多いため当座比率は低くなっているが、即時的

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

な支払能力を表す現金及び預金比率では も高かった。日産は、流動比率、当座比率では

も高い支払能力であったが、現金及び預金の額が少ないため即時的な支払能力は も低

くなっていた。資本構造の安全性では、トヨタとホンダは自己資本比率の水準は高く安定

しており、日産は水準が低かったものの改善されてきていた。資金源泉と使途の適合性で

は、業界の特徴として固定資産が多く比率は高くなるため、一概に危険であるとは言えな

い。3 社別に見ると、固定長期適合率においてトヨタは 100%を超えており、長期的な安全

性は低下していた。ホンダは、比率が一度減少したものの増加傾向にあった。しかしこれ

は、元の水準へ戻ったと考えられ、これ以上増加することはないだろう。よって、100%以

下のため安全であった。日産は、自己資本の増加により固定比率は減少していた。また、

固定長期適合率は も低い水準であり安全であった。 さらに、標準化によって業界平均と比較した安全性を把握することができた。トヨタは

業界平均を下回る安全性であり、ホンダと日産は業界平均を上回る安全性であることがわ

かった。 以上のように成長性、収益性、安全性において標準化を行ってきた。それを基に、それ

ぞれのポイントを単純合計し、企業の総合的な評価を行う。 【図表 3‐2‐40】

総合評価 トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車成長性  1.30 -0.16 -0.62収益性  1.59 -0.23 -0.70安全性  -0.76 0.47 0.54

合計 2.13 0.08 -0.78

【図表 3‐2‐40】は成長性、収益性、安全性におけるトヨタ、ホンダ、日産の標準化し

たポイントを単純合計したものである。 これにより、財務面から評価した結果、トヨタとホンダは業界平均以上に優れた財務体

質であり、日産は業界平均以下の財務体質であることがわかった。 財務分析まとめ ここまでは、財務分析を行ってきた。この分析で明らかになったことを簡単にまとめる

と次のようになる。 トヨタは、成長性において業界平均以上の成長力を誇っていた。収益性においては、業

界平均以上の収益力を誇り、販管費を抑えることで利幅を高め、高付加価値型戦略であっ

た。しかし、建物や機械装置の回転率が低く効率を落としていた。安全性では、短期的に

も長期的にも安全性は低下傾向にあり、業界平均を下回る安全性であった。 ホンダは、成長性において右肩上がりに指標は増加していたが、業界平均以下の成長力

であった。収益性においては、トヨタと対照的で販管費を抑えることができず利幅を下げ

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

ていた。しかし、土地を有効活用できており高効率型戦略であった。安全性では、短期的

な支払能力では低かったが、長期的には業界平均以上の安全性を誇っていた。 日産は、成長性において伸び悩んでおり業界平均以下の成長力であった。収益性におい

ては、高い収益力を誇っていたが右肩下がりの状態であり、高付加価値型から高効率型戦

略へとシフトしていた。安全性では、資本構造の安全性では低かったが、その他の安全性

では業界平均以上の安全性を誇っていた。

4.戦略課題

これまで業界概要、3 社の戦略を分析してきた。業界概要では、自動車産業の位置づけ、

市場動向、環境・安全に対する取り組みを分析した。企業概要では 3 社の概要、歴史を説

明してきた。さらに、企業分析で 3 社の販売戦略や環境、安全への取り組みを見て、財務

分析で財務面からの戦略を分析した。 この章では、分析結果に基づき、業界の動向と 3 社の動向を照らし合わせ、業界の動向

に対して 3 社がどのような戦略を採っているのかを明らかにし、課題を見つけて行く。 4‐1.業界の機会と脅威

(出口公平) 業界の機会としては、新興国市場の開拓とクリーンエネルギー車の開発があった。脅威

として国内の車離れが挙げられる。では、3 つを振り返って見てみよう。 (1)新興国市場の開拓

海外市場が成長しており、北米や欧州、アジアといった地域で売上を右肩上がりに伸ば

していた。そして近年、BRICs と言われる比較的経済成長力の高い新興国市場に注目が集

まるようになっていた。対照的に国内市場は、新車、中古車共に売上が伸び悩んでいる状

況にあった。つまり自動車産業は、海外での売上を主な収益源にしていたことが国内、海

外市場動向の分析結果からわかった。新興国の経済成長も盛んであり、今後、海外売上高、

海外売上高割合はますます増加していくものと思われる。 こういった要素を踏まえたうえで、自動車産業は成長市場である海外、特に成長要素が

豊富な BRICs と呼ばれる新興国市場の開拓をチャンスと捕らえるべきだろう。そして新興

国市場に力を注ぎ、販売シェアを拡大していくことがこれからの自動車産業の発展につな

がっていくことであり、今後求められることでもあるだろう。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

(2)クリーンエネルギー車の開発

自動車業界と環境については環境に対する取り組みで取り上げたが、自動車が排出する

ガスによって数多くの環境問題が起きており、問題視されている。そのため、世界中で環

境問題に対する意識が高くなっている。自動車産業は温室効果ガスの排出削減を目指し、

ガソリン節約技術開発や、ハイブリッド車・燃料電池車といったクリーンエネルギー車の

開発に力を入れていることがわかった。それゆえに、自動車企業各社は環境問題に対応し

た自動車を開発することが課題であると言える。 上記で述べたクリーンエネルギー車の普及は、環境対策の有効な手段のひとつであるが、

道路を走行できるクリーンエネルギー車は開発されているものの、普及が進んでいる状況

ではなく、さほど市場に出回っていない。現時点ではハイブリッド車がほとんどだ。その

他のクリーンエネルギー車は一般に広く市販される段階まで到達していないため、人々に

普及されるのはまだまだ先の話だ。もし出回っても、クリーンエネルギー車の購入価格は

高額になることが予想されるため、なかなか普及しない。また、こうしたクリーンエネル

ギー車はガソリンをエネルギーとして走行しないため、ガソリンスタンドに変わるエネル

ギー補給できるインフラ整備も必要になってくるといった課題がある。 (3)日本国内の車離れ

日本国内での売上高の伸び悩みは、国内市場動向で明らかになった。日本国内では、売

上高は横ばいで推移しており、販売割合は年々減少していた。中古車の販売台数も年々減

少しており、国内では自動車の販売動向が芳しくないことがわかった。つまり日本国内の

自動車市場は成熟市場である。今後、日本市場での売上高と販売台数を繋ぎ止めていくこ

とが求められる。 このように自動車が売れなくなってきている要因には、所得の減少や、交通インフラの

発達による必要性の欠落といった社会的問題が背景にある。自動車自体の魅力が無くなっ

てしまったことも挙げられる。社会的問題による要因を解決することは難しいが、企業側

も努力すべきだ。ここまでの分析結果で経済的要因により自動車を購入しない、できない

人がいることが明らかになった。そこで自動車各社は、できる限り購入価格を抑えること

はもちろんだが、低所得者でも購入できる価格設定を行うべきだ。また、価格以外でも消

費者の購買意欲を高め、自動車に興味を持ってもらえるように新デザインの提案や工夫、

販売拡大のための制度を取り入れることが各企業に求められる。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

4‐2.機会と脅威に対する取り組み

(田尾綾香) では、前節で挙げられた業界の機会と脅威に対して、3 社がどれだけ対応できているか、

この節で見ていこう。 (1)トヨタ自動車

国内市場は企業分析でも述べたように、売上高伸び率が低下している。しかし、アジア

地域での伸び率は 2007 年度に 34%と高い上昇を見せているため、新興国市場の販売は順

調である。だが新興国の中でも、2007 年のインドの販売シェアは 2.94%、ブラジルの販売

シェアは 2.68%と獲得できていないため、今後の成長には新興国全地域での販売強化が課

題となる。 財務分析の売上高設備投資額比率を見ると、設備投資を積極的に行えているため、今後

生産や販売活動が行える基盤が整ってくると考えられる。よって、新興国での生産や販売

活動に関しても有利に働き、シェアの拡大が期待できる。しかし、トヨタは 3 社の中で唯

一、長期的な安全性を見る固定長期適合率において危険判断の目安となる 100%を超えてい

るため、大規模な固定資産投資は注意が必要だろう。 クリーンエネルギー車の開発では、ハイブリッド技術を中心に開発が行われている。ト

ヨタはこのハイブリッド技術を活用し、1997 年にガソリンエンジンと電気モーターのハイ

ブリッドカー「プリウス」を発売した。プリウスは 2008 年 4 月時点で 100 万台を販売して

おり、現在もなお改良が続けていることから、今後もトヨタが注力していく自動車である

と考えられる。 しかし、プリウスだけに頼った販売をいつまでも続けるわけには行かない。そこでトヨ

タはプラグインハイブリッドカーの開発を進めている。これは家庭用コンセントから自動

車へ充電できる技術であり、エンジンより電気モーターを使う用量をさらに多くすること

で、燃費効率を高めるクリーンエネルギー車である。このプラグインハイブリッドカーは、

すでに国土交通大臣から公道走行を可能とする資格が与えられており、2010 年の実用化を

目指して開発が進められている。その他、電気自動車や燃料電池車の開発も行っているが、

実用化のメドは立っていないため、一般市場への早期投入が課題となる。 財務面から見ると、売上高研究開発費率より 3 社の中では も比率が低く、研究開発に

投じる資金が少ない。現在は、少ない研究開発費で多くの売上高を上げているため問題は

ないが、今後クリーンエネルギー車の開発に注力していくならば、それに割り当てる資金

が必要になってくる。よって、高い収益力を活かして、今以上に研究開発費を投じていく

べきである。 国内の車離れ対策としては、複合商業施設での展示やモーターショーへの出展など、若

者の集まる場所へのアプローチや商品開発を行っている。具体例として、人気の高いミニ

バン「アルファード」を若者向けに改良した「ヴェルファイア」を発売したり、音楽プレ

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イヤー搭載の自動車「bB」を若者向け自動車として発売している。またパレットタウンや

トレッサ横浜に店舗出店も行っている。しかしこのような対策を採っているが、国内販売

台数は減少傾向にあるため、今後もさらなる取り組みが必要となる。 (2)本田技研工業

日本の自動車メーカーの中でいち早く中国進出を始めたホンダは、インドや中国等で経

済新興国向けの小型車を開発した。2008 年 10 月からは、それら地域工場での生産能力を

24 万台に増やしシェアの拡大を進めている。しかし、2007 年に中国でのシェアをトヨタに

追い抜かれ、2010 年の発表を目指して取り組んでいる独自ブランドの開発成功がより一層

の急務となっている。 財務面を見ると、設備投資額の割合は低かったが年々設備投資を増やしているため、ト

ヨタと同様に新興国での生産や販売活動の基盤が整ってくるだろう。よって、事業の拡大

に有利に働き、新興国でのシェア拡大が期待できる。固定長期適合率においても危険水準

に達していないため、積極的に投資を続けることができる。 クリーンエネルギー車の開発では、低燃費を環境問題対策への主な目標に掲げ、低燃費

車の開発に大きな力を注いでおり、具体的には燃費の向上と代替エネルギーの実用化を推

進している。燃費の向上では、独自に開発したハイブリッドシステム「Honda IMA(Integrated Motor Assist)システム」を搭載した「インサイト」を 1999 年に発売してい

る。代替エネルギーの実用化は電気自動車、燃料電池自動車において開発が進められてお

り、2008 年 6 月には水素によって走行する「FCX クラリティ」を、一部の法人向けでは

あるが販売した。また、天然ガス車においては、カナダにて家庭用天然ガス自動車の販売

と天然ガス充填装置の販売を行えるまでになっている。このことから、燃料電池自動車開

発がホンダの代替エネルギー技術の先鋒になっていると考えられる。しかし、クリーンエ

ネルギー車を消費者に浸透させるためのイメージ作り、コスト削減、インフラ整備など、

周辺課題も多く残っている。 財務面から見ると、売上高研究開発費率は 3 社の中では も比率が高く、多くの研究開

発費を投じている。よって、この研究開発への投資が実を結べば、新たなクリーンエネル

ギー車の開発に期待が持てるが、製造原価を抑え、実用化できるまでにコストを下げるこ

とが必要になってくる。 車離れに対しては、HP 上において自動車のコミュニティーを設置したり、購入者の体験

談を掲載することで、消費者の車を購入する意識、車を持ち続ける意識を刺激している。

また、女性をターゲットとした「フィット」が好調で、現在も生産・改良が続けられてい

る。若者向けの車種は「インスパイア」を販売しているが、近年の消費者の小型志向に合

わせて「ゼスト」や「バモス」、「ライフ」の販売も開始している。しかし、交通インフラ

の整備や所得低下などの要因により、それらの施策の効果が十分に発揮されているとは言

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い難い。

(3)日産自動車

国内市場や北米はトヨタ、ホンダ同様に売上高伸び率が低下している。しかし、アジア

や欧州での売上高伸び率は 2005 年度から上昇傾向にあるため、今後は販売シェアが全体で

10%を満たしていない新興国でのさらなる販売強化が課題となる。 財務面を見ると、トヨタ、ホンダとは対照的に売上高設備投資額比率が減少しており、

設備投資を積極的に行えていない。そのため、新興国での設備も十分に整えることができ

ず、生産や販売活動が劣ってしまうだろう。よって、新興国でのシェア獲得も難しくなる。 クリーンエネルギー車では、2008 年にクリーンディーゼル車の販売を開始した。このク

リーンディーゼル車はルノーと共同開発したもので、2009 年に改正予定である「新長期規

制」に対応している。この新長期規制とは、自動車から排出されるガスを削減することを

目標としているものである。具体的には、酸性雨の原因となる窒素酸化物(NOx)と、発

がん性物質に変化する恐れのある粒子状物質(PM)を従来の基準より 40%~60%まで削

減する規制である。ディーゼル車への規制はより厳しいものとなり、ガソリン車と同レベ

ルの基準に設定されている。クリーンディーゼル車は、従来のディーゼル車よりもススの

排出量を 99%カットしたことや騒音を抑えることができたこと、二酸化炭素排出量の削減

や燃費を 3 割向上させたことで、大きな注目を集めている。その他、トヨタから技術供給

を受けてハイブリッドカーの開発や、NEC と業務提携をし、燃料電池車に使うリチウムイ

オン電池の開発を行っているが、販売には至っていない。ハイブリッド技術ではトヨタと

ホンダに出遅れており、早期の市場投入が課題となる。 車離れへの対応としては、2 社同様にモーターショーへの出展を行ったり、若者向けにデ

ィスプレイオーディオを搭載した自動車の販売や CM 戦略、デザイン戦略などを行ってい

る。具体例を挙げると、「マーチ」は女性をターゲットとし、ボディーにパステルカラーを

使用するなど、女性らしさをアピールするデザインにしている。また CM では旬な俳優や

ミュージシャンを起用し、若者の注目を集めている。しかし、現在国内販売の減少は続い

ているため、継続的な取り組みが必要だ。 戦略課題まとめ 以上のことから、業界の動きである新興国への機会に対しては、3 社とも積極的に展開を

行っているが、世界中の自動車メーカーが参入している新興国でのシェア獲得は難しく、

必ずしも優位に立っているとは言えない。だが、戦略次第でさらにシェアは獲得できると

考えられるため、シェア拡大が 3 社の課題となる。 次にクリーンエネルギー車の機会に対しては、3 社共にクリーンエネルギー車開発に積極

的な姿勢を見せている。トヨタはハイブリッドエンジン技術の先行導入に成功し、プリウ

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スは世界中で乗られている。ホンダは 2008 年に燃料電池車クラリティの法人向け販売を開

始した。日産は 2008 年にクリーンディーゼル車の発売を開始し、排ガス規制に対応してい

ることもあり、注目を集めている。3 社共にクリーンエネルギー車への取り組みは行ってい

るが、実際に一般販売されている車種は一部である。今後開発コストの削減やインフラ整

備を行っていく必要がある。 車離れの脅威に対しては、3 社モーターショーへ出展したり、若者向けの自動車を発売す

るなど対策を採っているが、世界的な金融危機や不景気による所得の減少など世相の影響

もあり、自動車メーカーだけでの解決は困難な状況である。 このように、業界の機会と脅威に対して 3 社とも取り組みを行っているが、完璧に対応

できているわけではない。しかし、この課題に取り組み続けなければ、今後の企業成長は

見込めないだろう。

5.おわりに

(田尾綾香) 今まで自動車産業の特徴や動向をつかみ、業界でトップを争うトヨタ自動車、本田技研

工業、日産自動車の現状や戦略を企業分析や財務分析等、多方面から分析してきた。 自動車産業は、国内市場の伸び悩みとは対照的に海外での売上高を伸ばしており、海外

で活躍している産業である。現在、世界的に注目されている環境問題対策や新市場の開拓

など機会に恵まれている反面、国内の車離れという脅威に直面している。この機会と脅威

に対して、しっかりとした対策を行わなければ、自動車産業の成長は難しいだろう。特に

脅威に対しては、海外の売上は為替の影響を受けやすく、安定した経営を続けるには不安

定になってしまう。そのため、国内市場の活性化は必要不可欠である。 この機会と脅威に対して、3 社とも積極的に取り組んでいる。クリーンエネルギー車に対

しては、トヨタは特にハイブリッド技術で先行している。ホンダは燃料電池車、日産はク

リーンディーゼル車と、それぞれ得意とする技術を持っている。新興国への進出も、現地

工場の建設や、現地販売会社との業務提携を結ぶなど、シェア拡大に向けて積極的に取り

組んでいる。 車離れの脅威に対しては、3 社モーターショーに出展したり、若者向けの車作りを行って

いる。中でもトヨタは、お台場のパレットタウンやトレッサ横浜など複合商業施設への店

舗出店を進めており、若者の関心を集める努力をしている。 このように自動車産業を取り巻く環境は厳しくなっているが、3 社ともできる限りの取り

組みを行い、成長を続けようとしている。また自動車産業は日本の基幹産業であるため、

今後も日本経済を牽引していくだろう。取り巻く環境が厳しくなっているが、どのように

対応していくのか、注目していきたい。

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

参考資料

1.普通車、小型自動車、軽自動車の区分 ・シャシーベースによる分類

普通車 小型自動車 軽自動車全長 4.7m超 3.4m超、4.7m以下 3.4m以下全幅 1.7m超 1.48m超、1.7m以下 1.48m以下全高 2m超 2m以下 2m以下

総排気量 2000cc超 660cc超、2000cc以下 660cc以下 ※以上の各条件を 1 つでも超えれば上位の類別に属することになる。

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2009 年 1 月 29 日)

・ナンバーベースによる分類

(『社団法人日本自動車工業会』,http://www.jama.or.jp/,2009 年 1 月 29 日)

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2.税額一覧 取得段階 保有段階

税目 消費税 自動車取得税 自動車重量税 自動車税 軽自動車税仕組み 自動車の購入 新車・中古車に 車検事後とに車の 毎年4月1日現在の 毎年4月2日現在の

価格に課税 関わらず、購入した 総重量に応じて課税 持ち主に対して 持ち主に対してときの取得価格を 定額で課税 定額で課税基準に課税

国・地方税 国・地方税 道府県税 国税 道府県税 市町村税使途 一般財源 地方道路特定財源 税収の2/3は国の道路 一般財源 一般財源

財源など、税収の1/3は地方の道路特定財源

税率及び 5%(うち1%相当分 (自家用) ①乗用車(自重0.5ごと) 乗用車(自家用) ①軽自動車(自家用)税額 は地方消費税) ・取得価格の5%(営  6300円/年 ・~1000cc ・四輪自動車

業用及び軽自動車は②トラック(総重量1tごと)  29,500円/年  7200円/年 3%) ・2.5t:6300円/年 ・1001~1500cc ・トラック※2008年までの ・2.5t以下:4400円/年   34,500円/年  4000円/年 暫定税率 ③バス(総重量1tごと) ・1501cc~2000ccc ②二輪車

  6300円/年   45,000円/年 ・~50cc:1000円/年④軽自動車(定額) ・2501cc~3000cc ・51cc~90cc 4400円/年   51,000円/年   1200円/年⑤二輪車 ・3001cc~3500cc ・91cc~125cc・251cc以上(定額)   58,000円/年   1600円/年  2500円/年 ・3501cc~4000cc ・126cc~250cc・160cc~250cc  66,500円/年   2400円/年  6300円/届出時 ・4001cc~4500cc ・251cc~

  76500円/年   4000円/年 ・4501cc~6000cc  88,000円/年・6001cc~  111,000円/年

                                走行段階税目 揮発油税 地方道路税 軽油取引税 石油ガス税 消費税

仕組み           ガソリンに課税 軽油に課税 LPGに課税 燃料の購入価格に              燃料の価格に含まれ、消費量に応じて負担する    課税

国・地方税            国税 都道府県税 国税 国・地方税使途 国の道路特定財源        地方の道路特定財源 国(税収の1/2)と地方 一般財源

(税収の2/3)の道路特定財源

税率および 48.6円/ℓ 5.2円/ℓ 32.1円/ℓ 17.5円/ℓ 燃料購入価格の5%税額 (うち1%は地方消費税)

※軽油については、軽油取引税を除く軽油価格に課税

(出所:住商アビーム自動車総合研究所,『 新自動車業界の動向とカラクリがよ~くわか

る本』秀和システム出版,2005 年 12 月 15 日,158 頁) (図)乗用車の自動車税税率表(神奈川県の場合 2007 年 3 月 30 日現在)

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

3.自動車税税額表(神奈川県の場合)

50%軽課 25%軽課 10%重課営業用 7,500 4,000自家用 29,500 15,000営業用 7,500 4,000 6,000 8,200自家用 29,500 15,000 22,500 32,400営業用 8,500 4,500 6,500 9,300自家用 34,500 17,500 26,000 37,900営業用 9,500 5,000 7,500 10,400自家用 39,500 20,000 30,000 43,400営業用 13,800 7,000 10,500 15,100自家用 45,000 22,500 34,000 49,500営業用 15,700 8,000 12,000 17,200自家用 51,000 25,500 38,500 56,100営業用 17,900 9,000 13,500 19,600自家用 58,000 29,000 43,500 63,800営業用 20,500 10,500 15,500 22,500自家用 66,500 33,500 50,000 73,100営業用 23,600 12,000 18,000 25,900自家用 76,500 38,500 57,500 84,100営業用 27,200 14,000 20,500 29,900自家用 88,000 44,000 66,000 96,800営業用 40,700 20,500 31,000 44,700自家用 111,000 55,500 83,500 122,100

グリーン化税制による特例税率

電気自動車適用はありません。適用はありません。

 3.0㍑超3.5㍑以

 2.5㍑超3.0㍑以

区分 税率

 6.0㍑超

 4.5㍑超6.0㍑以

 4.0㍑超4.5㍑以

 3.5㍑超4.0㍑以

 2.0㍑超2.5㍑以

 1.5㍑超2.0㍑以

総排気量 1.0㍑以下

 1.0㍑超1.5㍑以

(『神奈川県ホームページ』,http://www.pref.kanagawa.jp/,2008 年 9 月 16 日)

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・トヨタ自動車 財務諸表

連結貸借対照表(2006 年度・2007 年度)

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

連結損益計算書(2006 年度・2007 年度)

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

連結貸借対照表(2005 年度・2004 年度)

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

連結損益計算書(2005 年度・2004 年度)

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

連結貸借対照表(2003 年度・2002 年度)

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

連結損益計算書(2003 年度・2002 年度)

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・本田技研工業 財務諸表

連結貸借対照表(2006 年度・2007 年度)

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連結損益計算書(2006 年度・2007 年度)

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連結貸借対照表(2004 年度・2005 年度)

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

連結損益計算書(2004 年度・2005 年度)

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連結貸借対照表(2003 年度・2002 年度)

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連結損益計算書(2003 年度・2002 年度)

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・日産自動車 財務諸表

連結貸借対照表(2006 年度・2007 年度)

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連結損益計算書(2006 年度・2007 年度)

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連結貸借対照表(2004 年度・2005 年度)

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自動車業界 ~トヨタ自動車 本田技研工業 日産自動車~

連結損益計算書(2004 年度・2005 年度)

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連結貸借対照表(2002 年度・2003 年度)

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連結損益計算書(2002 年度・2003 年度)

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参考文献

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~くわかる本』,株式会社秀和システム,2005 年 高木敏行,『比較日本の会社 自動車[新訂版]』,株式会社実務教育出版,2005 年 12 月 日本経済新聞社,『日経業界地図〈2009 年版〉』,日本経済新聞出版社,2008 年 9 月 皆川絵里・吉永繭子,『大人のための社会化見学 トヨタ』,株式会社日本出版社,2008 年

4 月 喜多恒雄,『日経 経営指標 2003<全国上場・店頭上場会社版>』,日本経済新聞社,2002年 9 月 斎田久夫,『日経 経営指標 2004<全国上場・店頭上場会社版>』,日本経済新聞社,2003年 9 月 小林俊太,『日経 経営指標 2005<全国上場・店頭上場会社版>』,日本経済新聞社,2004年 9 月 小林俊太,『日経 経営指標 2006<全国上場会社版>』,日本経済新聞社,2005 年 9 月 小林俊太,『日経 経営指標 2007<全国上場会社版>』,日本経済新聞社,2006 年 10 月 羽土力,『日経 経営指標 2008<全国上場会社版>』,日本経済新聞社,2007 年 10 月 トヨタ自動車株式会社『平成 15 年 3 月期有価証券報告書』 トヨタ自動車株式会社『平成 16 年 3 月期有価証券報告書』 トヨタ自動車株式会社『平成 17 年 3 月期有価証券報告書』 トヨタ自動車株式会社『平成 18 年 3 月期有価証券報告書』 トヨタ自動車株式会社『平成 19 年 3 月期有価証券報告書』 トヨタ自動車株式会社『平成 20 年 3 月期有価証券報告書』 本田技研工業株式会社『平成 14 年度有価証券報告書』 本田技研工業株式会社『平成 15 年度有価証券報告書』 本田技研工業株式会社『平成 16 年度有価証券報告書』 本田技研工業株式会社『平成 17 年度有価証券報告書』 本田技研工業株式会社『2006 年度有価証券報告書』

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本田技研工業株式会社『2007 年度有価証券報告書』 日産自動車株式会社『2002 年度決算有価証券報告書』 日産自動車株式会社『2003 年度決算有価証券報告書』 日産自動車株式会社『2004 年度決算有価証券報告書』 日産自動車株式会社『2005 年度決算有価証券報告書』 日産自動車株式会社『2006 年度決算有価証券報告書』 日産自動車株式会社『2007 年度決算有価証券報告書』 トヨタ自動車株式会社,『http://www.toyota.co.jp/』 本田技研工業株式会社,『http://www.honda.co.jp/』 日産自動車株式会社,『http://www.nissan-global.com/JP/』 トヨタホーム株式会社,『http://www.toyotahome.co.jp/』 矢野経済研究所,『http://www.yano.co.jp/』 Yahoo!リサーチのヤフー・バリュー・インサイト,『http://www.yahoo-vi.co.jp/』 社団法人日本自動車工業会ホームページ,『http://www.jama.or.jp/』 財団法人自動車検査登録情報協会ホームページ,『http://www.airia.or.jp/』 石油情報センターホームページ,『http://oil-info.ieej.or.jp/』 IMF ホームページ,『http://www.imf.org/external/index.htm』 総務省統計局ホームページ,『http://www.stat.go.jp/』 日刊工業新聞社,『http://www.nikkan.co.jp』 日経産業新聞,『http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/』 msn エンカルタ百科事典ダイジェスト,『http://jp.encarta.msn.com/ 』 独立行政法人環境再生保全機構,『http://www.erca.go.jp/』 ガリバー自動車研究所,『http://www.glv.co.jp/company/research/』 NIKKEI NET,『http://www.nikkei.co.jp/』 環境省,『 http://www.env.go.jp/』

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