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青少年期か 5 成人期への移行についての追跡的研究 ,、 JELS 17 細分析論文集 (5) 国立大学法人お茶の水女子大学 J apan Education Longitudinal Study

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  • 青少年期か5成人期への移行についての追跡的研究

    ,、

    JELS第 17集細分析論文集 (5)

    国立大学法人お茶の水女子大学

    J apan Education Longitudinal Study

  • :;.~. J;

  • 目次

    はじめに……………………………………・…・………・…・……...・ H ・..……...・ H ・-…………-・耳塚寛明…. 1

    第1部詳細分析報告書

    第 I章 中学 3年生の学歴希望の中日比較

    -4エリアにおける親子ベア調査から ー-……...・・・……..,…・・…・・…・・・・・王

    第E章 学校外学習時間の比較一日本・香港・上海の比較からー・………………・………垂

    第E章 香港の小・中学校における家庭科教育と子どもの家事・ケア頻度・・…………・岩

    第W章 学カランクの推移と環境・価値観・行動との関連と地域差………ー…………・中

    第2部 JELSデータの回収状況報告書

    第V章 調査方法の変更が回収率に与える影響

    茶(傑)・・

    見裕子... 11

    崎 香 織 ・ ・ 19

    島 ゆ り.. 29

    一個人情報の保護および倫理的配慮の結果一…・・・・…-・・…・・…・・・…・・…・・・・・ 蟹 江 教 子・・ 41

    第VI章 JELSパネノレ調査におけるサンプル脱落の傾向

    一「小学 3年一小学 6年中学3年Jを対象として一……………...・ H ・..中西啓喜一 49

    重要な訂正・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・……・…・……………… 59

  • はじ め に

    JELS第 17集をここに発刊する。

    本書の構成は次の通りである。第 1部は、詳細分析報告であるが、今回は主に JELSデータと、上

    海と香港で得られたデータとの比較分析を試みた。第2部では、 JELSがこれまでに実施してきたパネ

    ル調査の脱落サンプルの傾向を詳細に分析している。

    この場を借りて、 JELSの実施状況について紹介しておきたい。 2013年度、 JELSはCエリアの高校

    3年生を対象に第4次調査を実施した。当該生徒は 2004年の第 1次調査の小学3年生で、あった。これ

    により、小学 3年生、小学 6年生、中学 3年生、高校 3年生と 4時点を接続したパネルデータの構築

    が可能となる。

    また一方で、、現在、第 1次調査時に高校 3年生であった方々に対してインタビュー調査を実施して

    いる。対象者はおよそ 28歳であり、彼ら・彼女らの多くは職に就いていたり、すでに自身の所帯を持

    ったりしている。学校から職業への移行のプロセスを質的に研究するという点において、 JELSは現在、

    新たなステージを迎えている。

    2013年度で、 JELSはパネル調査による量的データの構築をひと段落させることができた。これま

    で蓄積された貴重なデータを用い、定点観測の視点から、 21世紀初頭の各調査エリアの児童・生徒の

    学校生活、家庭生活のあり様、学力・進路形成のメカニズムおよびその変化を描き出していくと同時

    に、縦断的方法に適した分析手法を用いて知見を引き出していきたい。

    最後に、本調査の実施にあたって、調査の意義をご理解いただき、長年にわたってご協力をくださ

    った Aエリア、 Cエリアの県教育委員会、市教育委員会、学校現場の教職員、児童生徒の皆様および

    保護者の方々に、改めて深甚の謝意を表する。

    2014年 3月

    I

    JELSメンバーを代表して

    耳塚寛明

  • 第 1 部

    詳細分析 報告 書

  • """

  • A.はじめに

    第 I章 中学 3年生の学歴希望の中日比較

    -4エリアにおける親子ペア調査から-

    王茶(傑)

    欧米などの社会から眺めると、東アジアはこの地域ならではの社会的・文化的接近性をもっ。教育を重んじる

    ことは、この地域の共通点の lっといえよう。近年、経済協力開発機構が実施した生徒学習到達度調査 (PISA)

    では、上海、香港、韓国、日本、台湾などの東アジア諸国(地域)は各科目ランキングの上位をほぼ独占し、教

    育の面からもう 1つの「東アジアの奇跡」を生み出している 1)。一方、教育熱、受験熱、受験競争、受験地獄、

    成績至上主義、学歴主義などの言葉は、この地域ならではの受験競争の織烈ぶりを如実に語る。保護者は子ども

    に高い水準の教育を期待し積極的に投資し、子どもたちは早い時期から将来どの程度の教育を受けるかを考える。

    日本や韓国の小中高校生の学歴希望(教育アスピレーション)、保護者の学歴期待に関して、比較的精微な研究

    は長年にわたって数多く蓄積されている(藤閏 1979、苅谷 1986、鄭 1988、尾嶋 2002、有国 2002、中村 2002、

    片瀬 2005、耳塚 2006、中村ら 2010、王 20日など)。日本でなされた先行研究の視点を整理すると、青少年の

    学歴希望の時系列変化の把握、加齢に伴った学歴希望の変化に関する研究(縦断的研究)、異なるコーホートの同

    じ時点の学歴希望の比較(学年間比較)、同じ年齢の青少年の学歴希望の国際比較、学歴希望と成績、性別、地域、

    学校、家庭の経済的文化的背景との因果関係の推定、学歴希望と実際の教育達成との関連、および子どもの学歴

    希望と親の学歴期待との関連についての研究などが列挙される。このような研究が大きな課題とされる根本的な

    理由をいうと、青少年期の学歴希望の格差は教育達成に向けての動機づけの格差、さらに学力の格差を形成させ、

    結果的に教育達成を左右し、教育機会均等の実現にとって大きな阻害要因になりかねないということであろう。

    ドーア(松居訳 1978)はかつて彼の著書で、「学歴獲得競争は日本だけではなく後発近代化国家に共通の現象

    だJ、「途上国が先進国に追いつくために近代的な制度をもってくるものの、それを支える客観的な環境が準備さ

    れておらず、これが学歴信仰を生み出している」と指摘し、「毛主席のロマンティックな儒教的理想主義にかなり

    の共感をよせ」、当時の中国を例外的なケースとして称賛した。しかし実際、「改革開放」政策を導入した後の中

    国では、大学統一入学試験が再開され、試験による人材選抜、学歴への信仰が勢いよく回帰してきた。園田 (2008)

    の日中比較調査研究によると、現在の中国は日本以上に学歴によって収入が決定され、しかも学歴社会批判が生

    まれない風土をもっとし、う。近年、中国大陸や香港において、大半の青少年が大学以上の教育を受けたがること、

    家庭的背景によって子どもの学歴希望が違うこと、都市部と農村部の子どもの学歴希望の格差が大きいことなど、

    PISA の関連調査を含め一定数の調査結果が公表されている(呉 2005、渇 2012、香港『大公報~ 2013年 4月 25

    日など)。とはいえ、青少年期の学歴希望は関連領域において重要な研究テーマとして注目されていない。

    データコレクションの難しさなどにより、日本と中国の青少年の学歴希望に焦点を絞った比較実証研究はこれ

    まで皆無に近い。ここでは、両国の経済的発展度、高校と大学進学率、学歴による収入の格差などマクロな社会

    的背景の相違を念頭に入れ、日本の関東エリア、東北エリアと中国の上海エリア、山東エリアにおいて中学 3年

    生およびその保護者から収集した親子ベア調査のデータを用いて、中学生の学歴希望の中日比較に挑む。両国の

    学校教育体系はともにアメリカの教育制度の影響を受け、 6・3・3・4制を採用している。調査時の中学 3年生は

    義務教育の終了が残すところあと数か月で、高校受験を控え、自分の進路についていろいろと考える、考えせざ

    るをえない時期にある。そして、具体的に本章では、中日両国の義務教育の最終学年の生徒の学歴希望の共通点

    と特徴をそれぞれ示し、さらに彼らの学歴希望に及ぼす成績、親の教育水準、および家庭収入の影響の有無と強

    さを比較し、一部の分析結果について考察を深めることを研究の目的とする。

  • ]ELS 第 17集 (2014.3)

    B.分析に使用されるデータと調査エリアの代表性

    JELSは日本国内の 2エリアにおいてそれぞれ三波の調査を実施したが、本章では 2009年に関東エリア、2010

    年に東北エリアで実施した第三波調査のデータを使用する。第三波調査の実施時期は中国で実施された調査の時

    期に最も近いためである。そして、上海市での調査は JELSが復旦大学の研究者から協力を得て 2011年 12月に

    実施された。山東省での調査は上海調査と同じ年月に、筆者の日本学術振興会科学研究費助成金若手研究 (B)2)

    の調査研究の一環として山東大学の研究者から協力を得て実施された。中国の 2エリアで実施した質問紙調査の

    設聞は現地の状況に照らし合わせ、日本で使用した質問票に適宜修正を加えたものである。

    調査エリアの抽出法を勘案すると、 2つのエリアで収集したデータはそれぞれ中日両国の状況を代表できると

    はいえない。しかし、日本の関東エリアは大都市圏に立地し、比較的裕福で大学進学率の高いエリアであるとい

    う点で、中国の上海エリアと類似する。一方、日本の東北エリアは経済の発展がやや遅れている地方都市である

    という意味で、中国の山東エリアと呼ばれる Z市に近い(図表 I一1)。ただし、山東省で調査を実施した市の人

    口数は 90万人を上回り、日本の東北エリアと名付けられた市の人口の数倍にのぼる。また、高等教育への進学率

    は全国平均並みであるものの、山東省は「孔孟の故郷」と呼ばれ、儒教の影響が色濃く、教育熱心な土地柄で知

    られている。

    この 4つの事例を通して、中日両国の中学 3年生の学歴希望の水準、格差的状況を考察することは、「木を見て

    森を想像するような作業」ではあるが、マクロな社会的状況を踏まえ、慎重に可能な範囲内で結果を解釈するよ

    うに留意する。

    図表 1-1 4つの調査エリアの概要

    国 エリア 1人当たり市民所得 高校進学率 高等教育進学率

    関東エリア 全国平均を大きく上回る 98%以上 80%以上

    東北エリア 全国平均を下回る 99%以上 60%以上日本

    上海エリア 全国平均を大きく上回る 96%以上 70%弱

    山東エリア 全国平均を若干上回る 90%以上 約25%中国

    注:大抵2010年の数値を使用している。高校進学率には職業系高校や中等職業学校への進学も含まれている。日本の 2エリアの高等教育進学率は大学と短大と専門学校への進学率の合計である。中国の 2エリアの高等教育進学率は中国圏内の高等教育粗就学率という統計指標を用いる。

    図表 1-2は中学 3年生を対象とする親子ベアの質問紙調査の回収状況をエリア別に示す。対象校の選定につ

    いて、東北エリアでは市内のすべての中学校が調査に参加したが、ほかのエリアでは対象校の抽出をおこなった。

    関東エリアでは、市内の公立中学校の約半数を抽出した。中国の 2エリアでは、市(区)内の都市部と郷鎮部か

    らそれぞれ対象校を抽出するように工夫した。生徒を対象とする質問紙調査の場合、質問票の配布と回収はとも

    に学校を通して実施されたため、どのエリアも 80%前後と有効回収率が高い。保護者票の配布と回収について、

    関東エリア以外では生徒票と同じ学校を通して実施できたため、回収率は比較的高い。郵送により質問票を回収

    した関東エリアの回収率は 38.6%にとどまる。なお、中国の 2エリアの場合、同じく学校を通して調査票を配布

    回収したにもかかわらず、生徒調査も保護者調査も地方都市の回収率のほうが約 10%高い。

    質問票は親子ペアの形で配布され、親子から得た回答は同じ IDに入力されている。本章では、関連情報に対

    する親子それぞれの把握状況を案じ、生徒の学歴希望と成績は生徒の回答から、保護者の学歴と家庭収入は保護

    者の回答から入手したものを分析に用いる。

    2

  • 第 I章 中学3年生の学歴希望の中日比較

    図表 1-2親子ペアの質問紙調査の回収状況

    国 エリア 対象校生徒調査 保護者調査

    有効回収数 有効回収率 有効回収数 有効回収率

    関東エリア 7 895 89.4 386 38.6 日本

    東北エリア 10 928 84.3 908 82.5

    上海エリア 5 799 78.1 726 71.1 中国

    山東エリア 3 1065 88.8 980 81.7

    c.比較分析の結果

    1)中学 3年生の学歴希望の水準の比較

    「あなたは、将来どのくらいまで勉強したいと思っていますかJという質問に、どのエリアにおいても、回答

    しなかった生徒と「わからないJと答えた生徒は全体の数パーセントを占める。図表 1-3はそれらを除外した

    後、生徒の学歴希望を 4カテゴリにまとめた分布である。いずれのエリアにおいて 6割以上の生徒が高等教育へ

    のアクセスを希望する。

    中国の 2エリアと日本の 2エリアの回答を比較すると、まず中国の 2エリアの大学院希望率の高さと「高校以

    下」希望率の低さが浮き上がる。日本の 2エリアの生徒の大学院希望率はそれぞれ 4.5%、2.2%にとどまるのに

    対して、中国の上海エリアでは 29.2%、山東エリアではさらに 40.8%と高い。「高校以下Jの希望率は日本の 2

    エリアではそれぞれ 24.6%、32.3%、中国の 2エリアではそれぞれ 13.1%、15.4%となっている。

    さらには年制大学希望率+大学院希望率=大学以上の希望率Jで計算すると、関東エリア 57.3%、東北エリ

    ア39.9%、上海エリア 82.1%、山東エリア 80.6%となり、大学以上の教育を希望する割合の 2か国間の差も非常

    に大きいことがわかる。日本では短期の高等教育(短大、専門学校等)も 2割前後の生徒の希望先となっている。

    一方の中国では、短期高等教育の収容力が拡大されつつあるにもかかわらず、 2エリアの中学生のその希望率は

    5%未満である。

    また一般的に、経済的水準に制約され、大都会より地方、農村部の子どもの学歴希望の水準が低い。しかし、

    山東エリアの生徒の大学以上の進学希望率は上海エリアより若干低く、大学院への希望率は上海エリアより

    11.6%高い。

    図表 1-3エリア別中学 3年生の学歴希望の水準

    ν向

    %

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    。ooonMOonuooo

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    高校以下

    ミ短期高等教育

    114年制大学

    議大学院

    関東エリア 東北エリア 上海エリア 山東エリア

    3

  • JELS 第 17集 (2014.3)

    2)中学 3年生の学歴希望と成績、保護者の教育水準および家庭収入との相関

    多くの先行研究によると、青少年の学歴希望は成績、親の教育水準、ひいては家庭収入と何らかの関連をもっ。

    本項では4つのエリアの中学3年生が自己評価した成績、父親の学歴および家庭収入を記述集計レベルで確認し

    たうえで、生徒の学歴希望とこの三者との相関関係を明らかにする。

    図表 1-4は生徒が回答した在学する学校またはクラスでの成績の5分位評価である。日本の中学3年生では、

    自分の成績が「上」と回答した割合はやや低く(関東エリア 7.7%、東北エリア 11.3%)、上海エリアの 13.6%と

    山東エリアの 25.7%を下回る。「上Jと「中の上Jを合計して見ても、日本の中学生の自己評価成績が「中より

    上」である割合は明らかに小さい。一方、日本の中学生が「下Jと回答する割合はそれぞれ 17.5%、18.5%と大

    きく、上海エリアの 6.9%と山東エリアの 3.7%を上回る。このような成績の自己評価は日常選抜、テスト、試験

    などを通して形成され、一定の客観性を有すると思われているが、セルフエスティーム(自己尊重心)のように

    社会心理や文化的特性の影響を受ける可能性もある。またグループ聞の差を考える場合でも、自己評価成績の低

    さと学歴希望水準の低さと無関係でない可能性がある。

    図表 1-4エリア別生徒の自己評価成績(%)

    国 エリア 下 中の下 中 中の上 上 合計

    日本関東エリア 17.5 21.4 32.8 20.6 7.7 100.0

    東北エリア 18.5 21.5 26.0 22.8 11.3 100.0

    中国上海エリア 6.9 16.0 29.6 33.9 13.6 100.0

    山東エリア 3.7 10.7 23.3 36.6 25.7 100.0

    保護者票の回答は調査に協力する子どもの父親または母親に依頼した。両親による回答が難しい場合、子ども

    のことが最も詳しい方で構わない。実際の回答者と子どもとの続柄を見ると、どのエリアにおいてもほとんど父

    親か母親が回答している。日本の 2エリアでは、母親が回答した割合は圧倒的に高い(関東エリア 91.2%、東北

    エリア 81.7%)。中国の 2エリアの状況はやや異なる九この点について、保護者の読み書き能力、勤務状態、学

    校への対応における役割分担の違いなど、多くの要素に左右されるだろう。中学 3年生という年齢の子どもの教

    育アスピレーションにより強い影響を及ぼすのは父親か母親か、一般家庭とひとり親家庭の違いはなし、かといっ

    た家族社会学的課題の存在を知りながらも、両国において生徒の保護者世代の教育達成に明白な男女差があるこ

    とを考慮し、便宜上、ここでは父親の最終学歴の分布のみ示しているの。

    図表 1-5が示すように、中学3年生の父親の最終学歴のエリア別分布は甚だしく違う。 4年制大学以上の教育

    を受けた父親の割合は関東エリア (52.0%)、上海エリア (28.8%)、東北エリア (22.7%)、山東エリア (9.8%)

    という順である。何らかの高等教育を受けた父親の割合はそれぞれ関東エリア 62.2%、上海エリア 40.3%、東北

    エリア 36.7%、山東エリア 14.0%である。中国の 2エリアでは、とりわけ父親の最終学歴が「小中学校」、「高校」

    である割合が大きく、上海エリアでは 28.5%と31.2%、山東エリアでは 55.0%と31.0%である。中国の高等教育

    の拡大が遅れていたため、上の世代ほど学歴の中日間格差が大きい。

    親世代の教育水準は次世代の学歴希望にどのような影響を及ぼすだろう。高等教育の経験を有する親をもっ子

    どもは自然に何らかの高等教育を希望する可能性が高いという説がある一方、親世代の教育水準が低いだけに

    高学歴への渇望によって親は子どもに高い教育水準を期待し、子どもはその影響を受け、自己への期待が高い可

    能性もあろう。山東エリアの生徒の高い学歴希望について文化的要素のほか、後者による解釈もあるかと推測す

    る。

    4

  • 第 I章 中学3年生の学歴希望の中日比較

    図表 1-5エリア別父親の最終学歴の分布(%)

    国 エ日ア 小中学校 高校 短期高等教育 4年制大学以上 合計

    日本関東エリア 3.6 34.2 10.2 52.0 100.。東北エリア 4.5 58.8 14.0 22.7 100.0

    中国上海エリア 28.5 31.2 11.5 28.8 100.。山東エリア 55.0 31.0 4.2 9.8 100.。

    高校や大学の教育費の私的負担を考えると、経済的発展度の高い地域の子どもほど、収入の多い家庭の子ども

    ほど、教育費への心配が少なく、自分に高い水準の教育を期待する。続きは中学3年生の家庭収入の分布をエリ

    ア別に見てみる。

    家庭の収入について、中日両国の所得水準に応じて別々にカテゴリを設けている。日本では源泉徴収票の発行

    が普及しているため、調査時の前の年度の税込み世帯所得を質問した。一方、中国では日常生活で馴染みのある

    支配できる家庭年収(調査時の前の年度のもの)をうかがっている。図表 1-6が示すように、 2か国ともに大都

    会エリアに「中より上J(日本では年収 700万円以上、中国では年収 6万元以上)である裕福な家庭の割合は比較

    的大きく(関東エリア 52.6%、上海エリア 45.0%)、低所得家庭の割合が比較的小さい。それに対して、地方都

    市には「中より下J(日本では年収 500万円未満、中国では年収 3.5万元未満)である家庭の割合は大きい(東北

    エリア 50.2%、山東エリア 66.1%)。さらに、東北エリアでは家庭年収が 300万円未満である割合は 19.3%あり、

    山東エリアでは家庭年収が1.5万元未満である割合は 32.5%と高い。経済的に最も恵まれていないこの層の子ど

    もの学歴希望は図表 1-7に示す。図表 1-1と比較すると、どのエリアにおいてもこの層の子どもの「高校以下」

    の希望率が明らかに高く、 4年制大学の希望率が明らかに低い。なお、この層の子どもの大学院希望率と各層の

    平均値との差はエリアによって異なる。上海エリアではこの層の大学院希望率は明らかに低いが、関東エリアと

    山東エリアでは逆に各層の平均値を上回る。山東エリアに限って、経済的に恵まれていない層の子どもの学歴希

    望の分布は全体の分布と大きく違わない。

    図表 1-6エリア別家庭収入の状況(%)

    国 エリア 300万円未満300万円以上 500万円以上 700万円以上

    合計500万円未満 700万円未満 1000万円未満 1000万円以上

    関東エリア 10.0 12.1 25.3 35.3 17.3 100.0

    東北エリア 19.3 30.8 22.5 19.5 7.9 100.0 日本

    1.5万元未満1.5万元以上 3.5万元以上 6万元以上

    12万元以上 合計3.5万元未満 6万元未満 12万元未満

    上海エリア 17.2 20.4 17.4 22.2 22.8 100.。山東エリア 32.5 33.6 18.4 11.0 4.5 100.0

    中国

    図表 I一7経済的に恵まれていない層の子どもの学歴希望何色)

    国 エリア 両校以下 短期両等教育 4年制大学 大学院 合計

    日本関東エリア 43.7 21.9 25.0 9.4 100.。東北エリア 44.6 33.8 19.7 1.9 100.0

    中国上海エリア 29.5 6.7 45.7 18.1 100.。山東エリア 16.2 3.5 37.3 43.0 100.0

    さらに、中学 3年生の学歴希望は自己評価成績、父親の教育水準および家庭収入との聞にそれぞれどのような

    関連性をもつかを明らかにするために、 4つの変数を連続変数に変換し 5)、エリア別に二者聞の Pearsonの相関係

    数を求めた(図表 1-8)。山東エリアでは、生徒の学歴希望と家庭収入との聞に 10%水準の弱b、相闘が示され、

    生徒の学歴希望と自己評価成績、父親の教育水準との聞に顕著な相闘が示される。ほかの 3エリアでは、生徒の

    5

  • JELS 第 17集 (2014.3)

    学歴希望は自己評価成績、父親の教育水準および家庭収入との聞に、いずれも統計的に有意かつ顕著な相関があ

    ることが裏付けられる。相関係数の値を比較すると、関東エリアと上海エリアと山東エリアでは、生徒の学歴希

    望と自己評価成績の相関係数>生徒の学歴希望と父親の教育水準の相関係数>生徒の学歴希望と家庭収入の相関

    係数という順となる。東北エリアでは、生徒の学歴希望と自己評価成績の相関係数>生徒の学歴希望と家庭収入

    の相関係数>生徒の学歴希望と父親の教育水準の相関係数となり、わずかながら、生徒の学歴希望と家庭収入と

    の相関 (.337) は生徒の学歴希望と父親の教育水準との相関 (.289) より強い。むろんこれらは 2つの変数の聞

    の関連のみ示す。生徒の学歴希望は実際、これらの変数にそれぞれどの程度直接的に規定されているか。次項で

    重回帰分析を取り入れて明らかにする。

    図表 1-8 中学3年生の学歴希望と自己評価成績、父親の教育水準、家庭収入との相関

    エリア 自己評価成績 父親の教育水準 家庭収入

    関東エリア .465事** .339*帥 .266命事*

    本人の学歴希望東北エリア .515料* .289*** .337***

    上海エリア .530*** .391 *** .259**キ

    山東エリア .514*帥 .207キ** .062+

    注:表中は Pearsonの積率相関係数である。料*p

  • 第 I章 中学3年生の学歴希望の中日比較

    図表 1-9エリア別中学 3年生の学歴希望の重回帰分析

    関東エリア 東北エリア 上海エリア 山東エリア

    モデル 1 モデル2 モデル l モデル2 モデル l モデル2 モデル l モデル2

    父親教育年数 .318キキ* .207 *** .193 **キ .145 *** 338本** 265 *** .209 *** .127傘牟傘

    家庭収入 .127 * .067 .271 *** .171 *** .084 + 036 .061 + .038

    自己評価成績 .416 *** .417 *** .444キキ* .483 *キ*

    調整済みR2 .144 .295 .149 .306 .147 .332 .046 .271

    F 11直 26.988*** 43.880 *** 62.858ホ** 104.846 *** 45.907 *** 87.515 *** 21.344 *材 106.836***

    N 308 707 522 852

    注・表中の回帰係数は標準化されている。 ***p

  • ]ELS 第 17集 (2014.3)

    2)議論

    ・中学 3年生の学歴希望の水準と高等教育機関への進学の現状

    日本の 2エリアの中学 3年生の学歴希望の分布は、地元の高校卒業者の決定進路の分布に類似し、現実とのず

    れはわずかである。高校在学期間中、一部の生徒の学歴希望は加熱、冷却するだろうが、分布としては大きく変

    化しないと推測される。

    日本の状況と違って、中国の 2エリアの中学 3年生の学歴希望は明らかに現実離れしている。大学以上の教育

    への希望率は 8割を超えることは、これほどの割合の生徒は普通科高校への進学を希望することを意味する。し

    かし現実では、 2エリアとも普通科高校への進学率は 50%台にとどまり、ほかの生徒は各種中等職業教育機関へ

    進学する。山東エリアの実際の高等教育粗進学率は中学 3年生の高等教育希望率の三分のーしかなく、上海の実

    際の粗進学率は非常に高いものの、中学 3年生の高等教育希望率を 10%以上下回る。生徒の進学希望と高等教育

    の収容力は、つまり需要と供給は、釣り合わない。とりわけ地方都市では、半数以上の生徒の高い学歴希望は高

    校受験、大学受験で強制的に冷却されると推測する。結果的に、短期高等教育機関も多くの生徒の進学先となる。

    さらに、東北エリアと山東エリアの実際の高等教育進学率はともに都会より低いが、そうなる理由は一様でな

    い。日本の東北エリアでは、経済的理由は背景にあろうが、一部の生徒の進学意欲の欠如が高等教育進学率の低

    さにつながる。一方、中国の山東エリアでは、たくさんの生徒は進学しようと思っても合格できないという現実

    に直面せざるを得ない。生徒の進学意欲というより収容力の問題である。このような地域にとって、高等教育の

    収容力の拡大が急務である。中国の大都市と地方との進学機会の格差は往々として、意欲、学力によるというよ

    り、地域内の高等教育機関の多寡およびその定員の地域的割り当てによるものである。

    -中学 3年生のタテ型の学歴希望

    日本社会では「タテの学歴Jより出身大学の知名度を重視する「ヨコの学歴」に価値をおくという議論が知ら

    れている。しかし、ここで見た中学 3年生の学歴希望は「大学院に憧れないタテの学歴希望」と言ってよいだろ

    う。このタテ型の学歴希望のメイン構造は大学、短期高等教育と高校の 3層からできている。いわゆる「ヨコの

    学歴Jは、大学の学部教育に着目する際の表現ではないかと推測する。 1990年代以降、日本も大学院の拡充へ転

    換し、大学院在学者が急増してきた。しかし、青少年たちにとって大学院は魅力的な選択肢になっていない。日

    本の大学院の選抜度や教育効果は未だに十分な社会的信認を得ていなし、かもしれない。

    日本と対照的に、中国では大学院は数割の生徒の希望先である。学部教育段階の急速な拡大に伴い、狭き円で

    ある大学院は代わりに多くの青少年の憧れとなっている。また日本と比べると、中国の中学3年生の学歴希望は

    「短期高等教育に憧れないタテの学歴希望」といえよう。そのメイン構造は大学院、学部、高校という 3層であ

    る。高等教育の大きな部分である短期高等教育機関は、 4年制大学の落第者の受け皿のままでよいのか、議論に

    値する課題である。

    〈注〉

    1) 1993年、世界銀行は『東アジアの奇跡ー経済成長と公共政策』という研究報告書を発表した。本報告書の中で、研究対象の[4匹

    の虎J(韓国、香港、台湾、シンガポール)とインドネシア、マレーシア、タイからなる東南アジアの 3つの新興工業経済が「東ア

    ジアの代表」とされ、中国、フィリピン、北朝鮮、インドシナ三国等はそれに含まれていない。筆者がここで述べたもう lつの「東

    アジアの奇跡」は、中国のことも考慮している。周知のように、 PISA2009とPISA2012において、上海の中高生は二連覇を勝ち取っ

    た。上海は全土を代表できないが、中国の沿海部、中部地域などの広い地域では急速な経済成長とともに基礎教育の水準も著しく向

    上しているのは事実である。

    2)課題名、中高生の進路選択に及ぼす経済的知識所有の効果に関する研究 (2011-2012年度)。

    3)上海エリアでは、母親と父親による回答率はそれぞれ 60.7%と32.8%である。山東エリアでは、母親による回答は 42.3%、父親に

    よる回答は 56.9%である。

    4) そのため、一部の母子家庭のデータが欠損値となっている。またいずれのエリアにおいて、生徒の母親の最終学歴の分布は父親の

    分布と比べると、相対的に水準が低い。

    5) 4つの変数は以下の基準で、連続量に変換された。

    生徒の学歴希望:[高校以下J12、「短期高等教育J14、[4年制大学J16、「大学院J18 (日本)、 19(中国)。

    8

  • 第 I章 中学3年生の学歴希望の中日比較

    自己評価成績:r上J5、「中の上J4、「中J3, r中の下J2、「下J1。

    父親の学歴:r中学校J9、f高校J(12)、「短期高等教育J(14)、「大学以上J(16)。

    日本の生徒の家庭の年収:最小 1500000、最大 12500000、ほかは各カテゴリの中央値。

    中国の生徒の家庭の年収..最小 10000、最大 240000、ほかは各カテゴリの中央値。

    〈主な参考文献〉

    Dore, R.P. 1976、松居弘道訳『学歴社会新しい文明病』岩波書底。

    藤田英典 1979、「社会的地位形成過程における教育の役割」富永健一『日本の階層構造』東京大学出版会、 329・361頁。

    鄭字絃 1988、「高校生の教育期待および職業的抱負と関連要因に関する研究」高麗大学校『教育問題研究』創刊号、 pp.29・70。

    苅谷剛彦 1986、「閉ざされた将来像一教育選抜の可視性と中学生の『自己選抜』ーJW教育社会学研究』第41集、 95・109頁。尾嶋史寧 2002、「社会階層と進路形成の変容-90年代の変化を考えるJW教育社会学研究』第 70集、東洋館出版社。

    有田伸 2002、「教育アスピレーションとその規定構造J中村高康・藤田武志・有国伸編著『学歴・選抜・学校の比較社会学一教育か

    らみる日本と韓国』東洋舘出版社、 pp.53・72。

    中村高康 2002、「教育アスピレーションの過熱・冷却J中村高康・藤岡武志・有国伸編著『学歴・選抜・学校の比較社会学一教育か

    らみる日本と韓国』東洋館出版社、 pp.73・89。

    中村高康編著 2010、『進路選択の過程と構造』、ミネルヴァ書房。

    片瀬一男 2005、『夢の行方一高校生の教育・職業アスピレーションの変容』東北大学出版会。

    呉碕来 2005、f中国非都市地場における中学生の教育アスピレーションJ、『東京大学大学院教育学研究科紀要』第 45巻。

    耳塚寛明 2006、「教育アスピレーションの規定要因JW青少年期から成人期への移行についての遺跡的研究 JELS第 8集ーCエリア基

    礎年次調査報告~, pp.31・360

    闘田茂人 2008、『不平等国家 中国』中公新書。

    渇珊 2012、《北京市流劫青少年自我学厨期望研究》首都経済貿易大学修士学位論文。

    ( = http://www.docin.comlp・685238783.html)

    主主祭 2013、「影日向日本青少年学厨期待自民向変化的原因分析J(r日本の青少年の学歴希望の縦断的変化に影響を与える諸要因J)、中日

    教育研究協会ジャーナル『中日教育論壇』第 3期、 46・54頁。

    「草根学生不敢者望升大学J(r社会下層の子どもにとって、大学への進学を希望することすら賛沢である J) 香港『大公報~ 2013年

    4月 24日。

    (=h旬:I/news.takun即 ao.comlhkol/education/2013・04/1572824.h加1)。

    9

  • !J

    、 40 ・ '.! . 一 一一、 占一 一一一

  • A.はじめに

    第E章学校外学習時間の比較

    一日本・香港・上海の比較から-

    垂見裕子

    日本の児童生徒の学力低下の要因のーっとして、「家庭で、の学習時間」の減少が挙げられる。また学力格差の要

    因として、 r(塾などの)学校外教育投資Jの格差が注目される。「家庭での学習時間Jと「塾などでの学習時間」

    は別々に議論されることが多いが、以下の理由から、本章では併せて検討することとする。第一に国際比較の観

    点から、一方のみに注目した場合、児童生徒の放課後の学習量の真の比較をしていない可能性がある。例えば塾

    が普及している社会では、家庭での学習時聞が必然的に短くなることも考えられる。第二に教育格差という観点

    から、一方のみを検討することは、格差の過小評価をする可能性が考えられる。例えば、自宅での学習も通塾も

    行っていない児童生徒は、学力の面において二重に不利となる。

    よって本章では、自宅での学習時間と塾などでの学習時聞をともに「学校外学習時間Jと定義する。上海、香

    港の児童生徒との比較、学校段階別の比較をすることにより、日本の児童生徒の学校外学習時間の変化、また学

    校外学習時間の格差について明らかにする。

    B.分析手法

    1)データ

    本章では、「青少年期から成人期への移行についての追跡的研究J(JELS, Japan Education Longitudina1 Study)

    の Aエリアの第三波調査、および香港調査の Aエリア、上海調査の Aエリアのデータを用いる。それぞれの調

    査回収率は図表II-1のとおりである。

    図表Eー1調査の回収率

    学年 学校数生徒票 保護者票

    回収数 回収率 回収数 回収率

    小3 14 1,091 90.2%

    日本A小6 14 1,172 96.7% 605 49.9%

    中3 7 895 89.4% 386 38.6% 高3 9 1,964 92.6% 寸、3 7 348 94.3%

    ノl、6 7 407 96.7% 325 77.2%

    中3 5 414 92.8% 361 80.9% 香港A

    高3 5 323 93.9%

    小3 5 957 95.5%

    小6 4 1,116 87.2% 1,107 86.5%

    中3 5 799 78.1 % 726 70.9% 上海A

    高3 6 1,280 88.4%

    学校単位の集合調査であるため児童生徒調査は、各社会、各学年において比較的高い回収率 (78.1%~96.7%)

    となっている。一方、保護者調査は日本のAエリアにおいてのみ郵送回収のため回収率が低い (38.6%~49.9%) 。

    標本の吟味からも、学歴が高い親、子どもの学力が高い親ほど、保護者調査に回答している傾向が見えるため、

    保護者調査を使った三つの比較はバイアスがあることは否めない。

    11

  • JELS 第 17集 (2014. 3)

    2)各社会・教育システムの比較図表ll-2 は、各社会の人口・経済指標を比較したものであるが、日本、香港、上海とも人口密度が高く、ま

    た少子化が進んでいる社会である。

    図表II-2 日本・香港・上海の比較

    面積 人口 人口密度 出生率 GDP(PPP)/capita Gini Index

    日本 377,914km' 126,530,000 337人/km' 9人/1000人 36,179ド/レ 0.376

    香港 1,104km' 7,071,576 6,450人/km' 12.5人/1000人 43,810 ドノレ 0.537

    上海 6,340km' 14,123,200 3,631人/km' 7.13人/1000人 20,313 ドノレ (中国 0.474)

    このような三つの社会で、 JELSが対象とした地域は、日本 Aエリアは、関東地方、大都市圏近郊に位置する人

    口約 25万人の中都市である。香港Aエリアは、香港の中心部(九龍)に立地する、人口約 28万人の区である。

    上海の Aエリアは、上海の東部に立地する、人口約 504万人の区である。

    いずれの社会も国際比較学力調査で上位群に入っており、試験による選抜が厳しく、学業達成と職業地位の関

    連が高いなど、教育システムにおける共通点がある。図表ll-3は、各社会の教育システムを比較したものであ

    るが、大学進学率や入試制度から、選抜システムの相違点も見られる。例えば、香港の中学は、 l学区 l校とい

    う概念がないため、中学入学時における選抜が非常に厳しい。政府が競争を緩和するための施策として、公立校

    においては学校が独自に選べる生徒(自校分配)を 30%、ランダムに選ぶ生徒(統一分配)を 70%と定める制度

    を開始したが、依然としてレベルの高い中学に入学するための競争は激しいようである(山田 2011)。一方、高

    校に目を向けると、香港は中高一貫校のため選抜がないが、上海は、 1学区 l校ではなく、特に市重点校、区重

    点校への入学をめぐる競争が厳しい (OECD2010; Cheng & Yip 2006)。さらに、香港では、 2009年に中等教育を

    7年から 6年に、 2012年に高等教育を 3年から 4年に変える改革が行われているが、我々がデータを収集した高

    3に該当する生徒は、旧制度、つまり予科 1年生にあたるため、非常に選抜された生徒である。これらの相違点

    は、小 6、中 3、高 3のデータを比較する上で、留意が必要である。

    図表II-3 日本・香港・上海の教育システムの比較

    教育制度 高校進学率 大学進学率 中学入試 高校入試

    51%

    日本 6-3-3-4 94% (非大学型高等教育を 中学入試一部あり 高校入試あり

    含めた進学率 79.5%)

    6-3-2-2-3から18% 中学入試あり 両校入試なし

    香港6-3-3-4への移行

    95% (非大学型高等教育を→政府の軽減化政策 (中高一貫校)

    含めた進学率 66%)

    45%

    上海 5-4-3・4 96% (非大学型高等教育を 中学入試なし 高校入試あり

    含めた進学率 75%)

    3)変数

    本章で扱う変数は、家庭での学習時間と、塾などでの学習時間である。家庭における学習時間は図表ll-4の

    質問で聞いており、分析に使う変数は、二つの値(問 lア、問 lイ)を乗じて算出した。

    12

  • 図表 II-4家庭における学習時間質問項目

    聞1 あなたはふだん、家でどのくらい勉強をしますか。

    第H章学校外学習時間の比較

    ア.1週間あたり、イ.1日あたり にあてはまる番号1つにOをつけてください。

    ア.1週間あたりけつだけ〉

    1 ほとんど毎日 2 週に4~5日 3. 週に2~3日 4. 週に1日くらい 5. 家ではほとんど勉強しない

    イ.1日あたり (1つだけ)

    1 ほとんどしない 2. 30分ぐらい 3. 1時間ぐらい 4. 1時間30分ぐらい

    5. 2時間ぐらい 6. 2時間30分ぐらい 7. 3時間ぐらい 8. 3時間30分ぐらい 9. 4時間以上

    学校外における学習時間は、図表II-5の質問で聞いており、変数は、「塾・家庭教師Jの時間数(問 8ア)を

    基本的に使用したり。なおいずれの質問も、高 3のみ、時間数を自筆としたため、連続変数である。

    c.結果

    図表 II-5塾などにおける学習時間質問項目

    間7 あなたは、塾や習い事などをしていますか。あてはまる番号すべて!こOをつけてください。

    (0はいくつでちょい〕

    1. 家庭教師に習っている

    3. 受験のための勉強をする墾に行っている

    5. 習い事をしている

    2 学校の勉強の復習をする重量に行っている

    4. 通信教育をしている

    6. 重量や習い事は、なにもしていない

    間8 あなたは、ア.整・家庭教師と、イ.習い事、それぞれ1逓閤あたりどのくらい教わっていますか。

    それぞれあてはまる番号を 1つ選んで、仁コに記入してください。複数通っている揚合には、合計

    時間にあてはまる番号を記入してください。

    : 1. 教わっていない 2 週に1跨閤未満 3.週に2時間未満 4. 週に2~4時間未満 l

    :5 週に4~6時間宋満 6 週lこ6~8時間未満 7 週に8時間以上 !

    ?・墾・家庭教師 亡つイ習い事 亡コ

    1 )学校外学習時間の水準の比較

    まず家庭における学習時聞が 3つの社会で、どの程度異なるのか、また学年を上がるにつれての変化がどのよう

    に異なるのかをみてみよう。図表II-6は、各社会の各学校レベルにおける 1週間あたりの平均学習時間(分)

    をあらわしたものである。どの学年においても上海Aの児童生徒の家庭での学習時聞が最も長く、日本 Aの児童

    生徒の家庭での学習時聞が最も短いことが分かる。例外は、中 3では香港 Aの児童生徒が最も短い。香港は中高

    一貫校が多く、高校入試がないことに起因すると考えられる。

    変化に着目すると、日本 Aにおいては、高 3の児童生徒の平均は小 3の児童生徒の平均の1.2倍であるが、上

    海Aにおいては、1.7倍である。日本の児童生徒は、上海の児童生徒に比べて、家庭での学習習慣が定着するの

    が遅いのみならず、学校段階を上がるにつれ、その増加率が低いことを現わしている。これは、日本においては

    塾などの学校外教育の機会が普及しているために、家庭での学習時聞が相対的に短いことを現わしているのであ

    ろうか。

    13

  • ]ELS 第 17集 (2014. 3)

    図表 II-6家庭における学習時間

    800 一 一一一一一一一一一一一一一一一一…一一一一一一一一一一一 一一一一一一一一一一

    700

    600

    500

    " 400 余

    300

    200

    100 1-一一…一一一一一一一一…一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

    。小3 小6 中3 高3

    -企・日本A

    -)←香港A

    -←上海A

    そこで次に、塾や家庭教師での学習時間を合体した学校外学習時聞がどの程度なのか、学年の推移とともにど

    のように変化するのかを比較してみよう。図表E一7から、塾などにおける学習時間を足すと、上海 Aと日本A

    の差は縮小する(例えば、高 3時の家庭における学習時間では上海 Aは日本 Aの 2.2倍だ、ったのが、1.7倍に縮

    小する)ものの 2)、どの学年においても、上海の児童生徒の学習時聞が最も長く、日本の児童生徒の学習時聞が

    最も短い(香港の中 3は例外)という傾向が依然と見られる。つまり、日本の児童生徒の放課後の学習時間の平

    均は、塾などでの学習時間を考慮しでも、国際比較から低いということを示している。

    1000

    900

    800

    700

    600

    寵 500

    ミ400...... 300

    200

    100

    0

    図表Eー7学校外(家庭および塾・家庭教師)における学習時間

    ...“・-E一一一一一一一一一ι三亘ーーーーーメhh-"', ,

    -,'ー句、“ " 一日--Il- 司、ぐ'

    , K

    ,ーも,

    ,............一一五五ー世世ー…一一一一 町一一一 一一… 一一一一

    小3 小6 中3 高3

    2)学校外学習時間のばらつきの比較

    -... -日本A

    -浄香港A

    -・ー上海A

    日本の特徴として、学校外学習時間の平均値の低さよりも、さらに顕著なのが、ぱらつきが大きいという点で

    ある。図表II-8の変動係数は、標準偏差を平均で割った値で、相対的なばらつき具合を示す。中 3を除くすべ

    ての学年において、日本Aの変動係数が最も大きい。高 3においては、上海A、香港Aの2倍以上の値となって

    いる。つまり、日本においては、勉強を非常に長くしている生徒と、全くしてない生徒が存在することを示唆し

    ている。

    14

  • 第E章学校外学習時間の比較

    図表 II-8学校外(家庭および塾・家庭教師)における学習時聞のばらつき(変動係数)

    1.8

    1.6

    k 一一戸‘・・・・・ー 、、、.‘・.

    p , , /一一一, , ,

    p一時一一

    1.4

    1.2

    事誕 1 H長

    露。8

    , , ,

    .‘ー日本A

    -浄香港A

    -・ー上海A

    島畳一ーー油剛一ーー行為乞.~........._...…司、、--、且『句×

    0・6 ト一一 'h』『~~可--戸__.一一0.4 ト一一一一一一一

    0.2 ト一一一…ー………………一一 一……一一一一一… … ……一…一…ー

    。小3 民U、‘ー 中3 高3

    興味深いことに、家庭での学習時間と塾などでの学習時間の相閣の程度をみてみると、上海A、香港Aではど

    の学年においても 0.15""'0.25で推移しているのに対して、日本Aでは小 6は0ム高 3は0.5と相関係数が高い。

    すなわち、日本では塾で長く勉強している子は家でも長く勉強している、あるいは塾に全く通っていない子は家

    でも勉強しない傾向があることがうかがえる。そこで、それぞれの社会において、家庭でも塾でも全く勉強しな

    い、所謂勉強を放棄している生徒がどの程度いるのかみてみよう。図表n-9から、他の社会に比べて、日本 A

    ではこのような生徒の割合が高く、中 3においては、 10%の生徒が、高 3においては、 43%の生徒が、家庭でも

    塾でも全く勉強しないという結果である。他の二つの社会では、どの学年においても、このような生徒の割合が

    ーケタ台であることと比べると、その特徴はさらに顕著である。つまり、日本の生徒の学校外学習時間のばらつ

    きが大きい理由のーっとして、家庭での学習時間と塾での学習時間の相闘が高く、家庭でも塾でも全く勉強しな

    い生徒の割合が高いことが起因していると考えられる。

    図表 II-9家庭でも塾でも勉強していない生徒の割合

    50%一

    45%

    40%吋

    35%

    日日本A30%

    由香港AN 図上海A20%

    5%

    0%

    小3 小6 中3 高3

    日本の生徒の学校外学習時間のばらつきが大きい現象を示すものとして、図表n-10をみてみよう。これは、

    先の図表E一7に、日本Aの中 3の生徒を希望進路別に分け、それぞれのグ、ループの平均学習時間を足したもの

    である。進学率の高い普通科高校を希望する生徒と、専門学科高校を希望する生徒の学校外学習時間の差異は、

    上海 Aと日本Aの生徒の平均の差異よりも大きいことが分かる。

    15

  • JELS 第 17集 (2014. 3)

    図表E一10学校外(家庭および塾・家庭教師)における学習時間:中 3希望進路別(日本 A)

    1000

    700

    ... 山川町川町山一一一一一川川山一一山町内山川叩仰山山山一…コ, 一目 ……一一_.."-,,川叩川叩山一一一 川川叩一…一一一日…

    進学率の高い普通科高校希望

    900

    800

    600

    300

    ,企F“ー〉.~~企 司・・__-L:ミ

    ,/ - z '‘企ーーーーみら ha"'Jふつうの普通科奇伊希望

    _,“・..,, 'v日戸・~' 、、ィ'

    -... -日本A

    -)←香港A

    -←上海A

    照 500¥ 余 400

    量E・・・専門学科高校希望

    200

    100

    。qu 、

    J

    RU 、

    ー 中3 高3

    3)学校外学習時間と家庭の経済的・文化的要因

    では、学校外学習時間は、児童生徒の家庭背景によりどの程度異なるのだろうか。本章では家庭の経済的要因

    として家庭の収入変数を、家庭の文化的要因として家庭における本の数、親の学歴、親の教育期待変数を使用す

    る。これらの変数をすべて聞いている保護者調査は、小 6と中 3のみで実施しているため、右二学年の結果のみ

    示す。表II-11、表E一12は、各グ、ループ(例えば親が非大卒のグループと親が大卒のグループ)の学校外学習

    時間の平均値とともに、参考値として上位グ、ループと下位グ、ループの学校外学習時間の比率を示している。日本

    Aにおいては、家庭の経済的要因・文化的要因による児童生徒の学習時間の差異が、香港 A、上海 Aに比べて、

    両方の学年において大きいことが分かる。特に早期の段階(小 6) において、その傾向が顕著である。例えば、

    日本Aにおける小 6では、親の教育期待が高い家庭の子どもは、親の教育期待が低い家庭の子どもの 3.42倍長く

    放課後学習するのに対して、香港Aにおいてはこの差異は1.26倍、上海Aにおいては1.76倍にとどまる。

    表Eー11学校外学習時間と家庭の経済的・文化的要因の関係(小 6)

    日本A 香港A 上海A

    学習時間比率

    学習時間比率

    学習時間比率

    (分/週) (分/週) (分/週)

    家庭における本の数

    10冊未満 180.53 233.52 411.18

    10冊以上 200冊未満 335.76 3.78 458.41 2.34 638.59 1.89

    200冊以上 683.16 545.36 775.34

    親の学歴

    非大卒 241.07 437.93 587.55

    大卒1.84 1.01 1.23

    442.47 444.49 720.26

    親の収入

    低位層 222.91 407.11 509.78

    中低位層 240.00 2.67

    494.78 608.12 1.25 1.52

    中高位層 374.31 423.05 690.65

    高位層 595.83 510.00 774.80

    親の教育期待 1

    短大以下 207.79 385.45 395.21

    普通の大学 340.78 3.42 479.17 1.26 650.07 1.76

    難関の大学以上 711.55 487.29 696.37

    1 :香港、上海では、 「普通の大学J 「難関の大学Jではなく、 「大学」 「大学院」が用いられた。

    16

  • 第E章学校外学習時間の比較

    表n-12学校外学習時間と家庭の経済的・文化的要因の関係(中 3)

    日本 A 香港A 上海 A

    学習時間比率

    学習時間比率

    学習時間比率

    (分/週) (分/週) (分/週)

    家庭における本の数

    10冊未満 345.94 268.48 643.55

    10冊以上 200冊未満 574.43 2.07 333.55 1.23 957.33 1.60

    200冊以上 715.14 331.54 1028.68

    親の学歴

    非大卒 430.89 306.16 875.59

    大卒 682.76 1.58 1.26 1.20

    385.00 1046.59

    親の収入

    低位層 477.26 318.40 811.10

    中低位層 579.26 253.91 878.36

    中高位層 683.01 1.57 1.26 1.33

    338.57 1032.18

    高位層 748.18 399.88 1082.72

    親の教育期待'

    短大以下 394.19 286.74 634.69

    普通の大学 725.79 2.21 314.90 1.26 945.48 1.68

    難関の大学以上 869.74 362.65 1064.67

    1 :香港、上海では、「普通の大学Jr難関の大学」ではなく、「大学Jr大学院Jが用いられた。

    D.考察

    本章では、家庭での学習時間と塾などでの学習時間を併せて「学校外学習時間」と定義し、日本 A、香港 A、

    上海 Aのデータを比較分析したところ、日本 Aの児童生徒の学校外学習時聞が短く、さらに学校段階を上がるに

    つれ、その増加率が低いことが明らかになった。また、比較から日本 Aの児童生徒の学校外学習時間は、ぱらつ

    きが顕著に大きいことも示された。そのばらつきを大きくしている理由として、日本 Aにおいては家庭での学習

    時間と塾での学習時間の相闘が高いこと、家庭でも塾でも全く勉強しない生徒の割合が際立つて高いことが明ら

    かになった。また、学校外学習時間と家庭の経済的・文化的要因の関係が、日本 Aでは相対的に高いことも示さ

    れた。

    日本の教育社会学では、「家庭での学習時間」は努力の代替指標として論じられることが多い(金子 2004;苅

    谷 2000)。しかし本章から示された上述の日本に固有な結果は 3)、高学歴、高い教育期待を持つ親が、早い段階

    から子どもに学ぶかまえを習得させることにより、子どもの家庭での学習時聞が長くなる。さらに、そのような

    親が塾に投資することにより、子どもが有効な学習方略を教わり、自律的に学ぶ習慣が備わり、子どもの家庭で

    の学習時聞が長くなることのをも示唆している。つまりそのような子どもは学力の面において二重に有利となり、

    逆に日本の中 3、高 3で割合が高くなる「家庭でも塾でも勉強しなし、」子どもは二重に不利となっていることを

    示唆している。家庭での学習時間と塾での学習時間を併せて検討することにより、より包括的な国際比較が可能

    となること、また格差の程度をより正確に指摘できたことは重要な知見である。

    〈注〉

    1)欠損値が多かったため、問 7のl、2、3いずれにもOが付いていないケースに関しては、問 8アに 0を代入した。

    2)学校外学習時間に占める、塾などでの学習時間の割合は、小 3、小 6では香港が最も大きく (30%、37%)、中 3、高 3では日本が

    最も大きく (42%、40%)、上海ではどの学年でも 20%台と、他の二つの社会に比べて低い。

    3)本結果は、日本でも、 Aエリアのように塾が普及している大都市圏近郊の都市に限定された結果であることは留意が必要である。

    4)他にも、塾で宿題が課されるので、通塾している子は家庭での学習時聞が必然的に長くなるということも考えられる。

    {参考文献〉

    金子真理子 2004、「学力の規定要因一家庭背景と個人の努力は、どう影響するかJW学力の社会学ー調査が示す学力の変化と学習の課

    題』岩波書居、 153・172頁。

    17

  • JELS 第 17集 (2014.3)

    苅谷間IJ彦 2000、「学習時間の研究ー努力の不公平とメリトクラシ一一JW教育社会学研究』第 66築、 213・230頁。

    山田美香 2011、『香港の中等教育』名古屋市立大学大学院人間文化研究科『人間文化研究』第 15号。

    Kai Ming Cheng and Hak Kwong Yip 2006, Facing the Knowledge Society: Reforming secondary education in Hong Kong and Shanghai, the

    World Bank Education working paper series, No. 5.

    OECD 2010, Shanghai and Hong Kong: Two Distinct Exarnples of Education Reform in China, S仕ongperformers and successful reformers in

    education: lesson from PISA for the United States, pp83-115.

    18

  • A.目的

    第皿章 香港の小・中学校における家庭科教育と

    子どもの家事・ケア頻度

    岩崎香織

    香港は、 PISA2012においても学力の高い地域(数学的リテラシー3位、読解力 2位、科学的リテラシー2位)

    として注目され(国立教育政策研究所 20l3)、既刊の JELS報告書(第 15集・第 16集)においても香港の子ど

    もの学業成績と学校制度、学校外教育に注目し、分析が進められてきた。では、いわゆる主要教科の授業以外の

    学校生活や家庭生活は、どのように営まれているのだろうか。

    日本においては、特に PISA2003・2006において国際比較順位を下げたことが、子どもの学力低下に関する社

    会的な不安をあおり、現行学習指導要領(平成 20年版)以降、国語、算数・数学、社会、理科、外国語の授業時

    数を増やす動きにつながったc 前述の教科の授業時数が増えた結果、総合的な学習の時間や選択教科の授業時数

    が削減され、日本の小・中学校における教育内容は、いわゆる主要教科の学習に偏り、学びの幅は狭められる傾

    向にある。香港は、 PISA2012の国際比較順位において日本より上位に位置したことから、香港の子ども達の学業

    成績の背景にある学校・家庭での生活の様子を知ることは、日本の今後の教育を検討する上で参考になると考え

    られる。

    本章では、香港の小・中学校における家庭科教育に注目する。家庭科教育は、欧米においては、カリキュラム

    改編により、必修教科から選択教科に変更となる動きや教科から総合学習の一部として変更される動きがあり(国

    立教育政策研究所 2005)、今後、アジアにおいても義務教育の必修教科として学習されなくなる可能性があるた

    めである。家庭科教育を義務教育に取り入れているアジアの国・地域としては、日本・韓国・シンガポール・台

    湾・香港等があり(国立教育政策研究所 2005)、いずれも経済発展が進んでいる国・地域である。中国本土では、

    学校教育に家庭科教育がないことから、今後、香港において、家庭科教育が義務教育の必修科目として存続でき

    るのか、不透明であると考えられる。

    本章では、香港の家庭科教育の現状について JELS香港調査の前に視察した小・中学校の事例を中心に報告す

    ると共に、 JELS香港調査データにみられる小・中学生の家事・ケア頻度の特徴を明らかにすることを通して、今

    後の日本の家庭科教育への示唆を得ることを目的とする。

    B.方法

    1)香港の家庭科教育の現状について

    JELSの研究グループは、 JELS香港調査実施前の 2010年 3月 8日・9日に香港大学の程介明 (Kai・MingCheng)

    教授と江腕愉 (PeggyA. Kong)助教等の協力(肩書きは調査実施時点)を得て、調査対象となる小学校と中高一

    貫校(各 l校、いずれも北区)を訪問し、小・中学生の授業や学校生活の様子について視察した。本章では、訪

    問校における家庭科関連学習の実施状況について、参観した授業や収集した資料を元に報告する。香港の小・中

    学校の家庭科関連カリキュラムに関しては、香港教育局のホームページを参考とした(香港の学校制度に関して

    は、 JELS第 15集第 3部、 JELS第 16集第 3部に詳しし、)。

    2)JELS香港調査データにみられる小・中学生の家事分担の特徴

    前述の訪問校が調査対象に含まれる JELS香港調査(小 6・中 3)北区データを分析の対象とした(小 6データ:

    サンプル数 410、回収率 92.4%、中 3データ:サンプル数 416、回収率 93.1%)0 JELS香港調査は、 2010年 2月

    ~6 月に香港大学の研究者の協力を得て、香港の二つの区(中心部:油尖旺区、郊外:北区)の小学校 15 校及び

    中高一貫校 10校を対象として実施した質問紙調査である(香港調査の概要に関しては、 JELS第 15集第 1部・第

    3部参照のこと)。

    19

  • ]ELS 第 17集 (2014.3)

    C.香港の小・中学校における家庭科関連カリキュラムと訪問校での実施状況

    香港の義務教育は、小・中学校の 9年間である(香港の学校制度は、 2009年 9月に 6・3・3・4制が導入され

    たが、義務教育期間に変更はない)。日本の家庭科に相当する教育内容は、小学校の常識科 (GeneralStudies)の

    一部と、中学・高等学校の家政科 (HomeEconomics)である。教科として学習されているのは、中学・高等学校

    の家政科であり、中学校の 3年間は、必修科目であるが、高等学校では、選択科目として学習されている。

    1 )小学校常識科の教育内容

    常識科 (GeneralStudies)は、以下の 6点に関する児童の科学的知識・一般的技術・肯定的な価値と態度を発達

    させることをねらいとした教科である [TheGeneral Studies (GS) for Primary Schools Curriculum Guide (Primary

    1・6)J。

    • Health and Living (健康と生活)

    • People and Environment (人間と環境)

    • Science and Technology in Everyday Life (日々の生活の中の科学・技術)

    ・Communityand Citizenship (コミュニティと市民性)

    • National Identity and Chinese Culture (国民意識と中国文化)

    . G10bal Understanding and the Information Era (国際理解と情報時代)

    常識科の内容には、日本の小学校の生活科・理科・社会科・家庭科等の内容が幅広く盛り込まれている。

    2)訪問校(小学校)における常識科の実施状況

    JELS研究グループが訪問した小学校(香港郊外)は、 1936年創立の伝統校であり、 l学年 2クラス(1クラス

    約 40名)程度の規模の学校であった(図表田一1)。校舎は、中庭を囲む平屋造りであり、歴史を感じさせるもの

    の、教室設備は充実しており、パソコン・オーデ、ィオ・プロジェクター・スクリーンが各教室に導入されていた。

    常識科の授業の様子を参観することはできなかったが、中国語や数学(算数)、電脳(コンビューター)の授業を

    参観することができた(図表II1-2・3)。

    ITの利用は、香港の学校教育全体の特徴でもあるが、訪問校にもいても、電脳(コンビューター)の授業だけ

    でなく、全ての教科がパソコン・プロジェクターを活用して進められており、生徒が各教室やパソコンを自由に

    操作できる環境が整えられていた(図表皿-4・5)。教室前方のスクリーンに映し出される映像は、教師が自作し

    た教材よりも、教科書にパッケージとして付けられた CD-ROMを活用した教材が多く、中国語や数学(算数)等

    の教科学習においても、授業においてパソコンが活用されていた(図表皿-6)。

    授業は、 l コマ 30 分単位で行われており、時間割は、月曜日から金曜日までの 1~9 時間目を基準として構成

    されていた(図表II1-8・9)。休み時間は、 1・2時間目終了後に 20分間、 3・4・5・6時間自終了後の昼休み 45

    分、 7・8・9時間目終了後の 15分のみであり、 9時間目終了後に月~木曜日は、導修(個別指導)20分と閲読 15

    分、金曜日は課外活動の時間 35分が設けられていた。休み時間の回数・時聞が短いため、児童が 1日の学校生活

    の中で学習に費やす時聞が、日本の小学校よりもトータルで 1時間以上も長くなるが、参観した様子では、授業

    中に立ち歩く児童もなく、どの学年・クラスも授業に集中して取り組むことができていた。

    常識科は、小学校 lへ-6年生に共通して学習される教科であるが、授業は、学校独自の指導計画に基づき、主に

    担任がクラスに合わせて計画を立て実施するとのことであった。授業は、プロジェクト学習を中心に進められて

    おり、校内学習(文献・インターネットによる調べ学習)だけでなく校外学習も積極的に取り入れられていると

    いう。例として、 3年生と 6年生の授業時間割を見ると、常識科は 3年生で週 5コマ、 6年生で週 5コマの授業が

    実施されている(図表町-8・9)。日本の家庭科に相当する内容がどの程度含まれるのか、量的に把握することは

    できなかったが、具体例として栄養教育を中心とした活動が紹介された(図表皿-7)。

    常識科の他にも、 1・2年生には、「生活技能科Jとして日本の生活科に相当する学習が取り入れられ、身だし

    なみや暑さ寒さにあった生活、生活時間の工夫といった内容が学ばれていた。また、「生命教育科J (1 ~6 年生)

    では、秩序を守る・中国人としての礼儀・教養を身につける等の道徳学習が中心となるが、女性の健康講座や親

    子のふれあい活動等の内容も含めて学習されていた。

    20

  • 第田章 香港の小・ 中学校における家庭科教育と子どもの家事 ・ケア頻度

    図表E一1訪問校外観 図表ill-2 授業の様子(中国語)

    図表直一3 授業の様子(算数) 図表直一4 教員の補助としてPCで、プロジェク9一画面を操作する児童

    図表ill-5 パソコン室(休み時間に児童が自由に利用できる) 図表ill-6 授業で使われる教材(CD-ROM等)

    21

  • ]ELS 第 17集 (2014.3)

    図表E一7常識科における家庭科関連学習の例

    図表ill-8 小学 3年生の時間割 図表ill-9 小学 6年生の時間割

    上課時間表 上課時間表

    班>JIJ:三手ニ 星期一 星期四 星期五 寧jj'J:大 4ニ 星期一 星期二 星期三|星期四 星期五

    08・45-08・55 諜 前 集 舎 08:45-08:55 課 前 集 舎

    08:55-09:05 fH 主 任 警最 08:55-09:05 班 主 任 課

    09:05・09:35 英文 数墜 ct文 中文 英文 09:05-09・35 数祭 常識 英文 数祭 英獣

    09:35-10:05 英文 数撃 中歎 中交; 英歎 09:35-10:05 数塁塁 常識 英文 数寄F 英関

    10:05-10:25 怠 10:05-10目25 怠

    10:25-10:55 中文 英文 英関 NET 数翠 園/生命 10:25-10:55 英文 英文 骨警脊

    10:55-11 :25 中作 英r.aNET 英関NET 数塁塁 常識 10:55-11 :25 英文 中文 中黙 英文 電脳

    11 :25-11・55 9こI{'乍 中文: 電脳 英文 数号皇 11 :25-11 :55 中文 数祭 常識 音築 電脳

    11・55-12・25 普通話 中文 電脳 英文 数筆 11 :55-12:25 中文 数祭 数墜 常識 常識

    12:25-13:10 午 際 12:25-13:10 午 膳

    13:10-13:40 常識 常識 数撃 常識 中文 13:10-13:40 Ef祭 英関 普遇話 中文 中文

    13:40-14:10 髄脊 常識 回見毒事 穏育 中関 13:40-14:10 箇/生命 英関 調整 中作 中関

    14:10-14:40 数祭 音型韓 税著書 普通話 音繁 14:10-14:40 苦手遁話 億脊 税~ï 中イ乍 数皐

    14:40-14:55 怠 14目40-14:55 小 怠

    14:55-15:15 導 修 課外 14・55-15・15 導 修 課外

    15:15-15:30 関 讃 活動 15:15-15:30 |剣 讃 活動

    22

  • 第四章香港の小・中学校における家庭科教育と子どもの家事・ケア頻度

    3)中学校家政科の教育内容

    家政科 (HomeEconomics)は、 TechnologyEducation (TE)カリキュラムの一部として位置付けられる教科であ

    り、中学 1~3 年生が必修で学び、高校では、選択科目として位置付けられている (The Education Department

    HKSER2002)。日本の中学校において、技術・家庭科が技術分野と家庭分野の内容を含むのと同様に、 Technology

    Education (TE)は、 BusinessSubjects、ComputerEducation、HomeEconomics、TechnologicalSubjectsの4教科か

    ら構成されており、日本の家庭科において教科内容に含まれる FashionDesignや Textilesは、 TechnologicalSu何回ts

    の一部に位置付けられる。ゆえに、家政科 (HomeEconomics)の教育内容は、食生活と家庭生活、消費生活の学

    習が中心である。

    中学校家政科 (HomeEconomics)教科書2社(天行教育出版、文遠出版)の目次を以下に示した。

    • w家政科技輿生活(Technology& Living Home Economics)一食物奥営養・家庭生活・食品加工

    (Food & Nutrition. Family Living. Food Processing)~

    (天行教育出版)

    Food and Nutrition

    1 Food and healt

    2 Common food from animal sources

    3 Common food丘omplant sources

    4 Knowing nutrients (1): proteins, fats, and

    carbohydrates

    5 Knowing nu仕ients(2): vitamins and minerals

    6 Healthy eating

    7 Nutritional Disorders

    8 How do we choose our food?

    9 Compare the nu出tionalvalues of food

    Familv Living

    10 Different meal plans

    Food Processing

    11 Food processing for food preservation

    12 Convenience food

    l3 Food Additives

    14 New horizοns of food products

    • w新中学家政 1(New Home Economics)第4版』

    (文達出版)

    Food‘Nutrition and Diet

    1 Food and health

    2 Healthy eating and meal planning

    3 Food preparation and processing in modem

    soclety

    Home and Familv

    1 Making a quality family

    2 Be a smart consumer!

    Needlework. Dress and Design

    1 Fashion and dress sense

    2 Fiber and fabric

    3 Clothing construction

    国:ワークシートブック

    CD-ROM (以下 CD-ROM目次)

    Fun with nutrition / Coloring your room /

    Creative design on clothing / HE cinema /

    Experiment / Cooking comer / Image bank / Info

    online

    教科書は、同じ出版元から同一内容の中国語版と英語版の 2種類が出されており、各校で選択して使用するこ

    とができる。天行教育出版の教科書は、かなり食生活の内容に偏っており、家庭生活や消費生活の内容も食生活

    の一部として扱われていた(家庭生活の内容:Family Livingの 10Different meal plans、消費生活の内容:Food

    Processing)。文達出版の教科書は、食生活の内容が多いものの、家庭生活、消費生活に加え、衣生活の内容も含

    まれており、日本の中学校家庭科教科書の内容構成に比較的近かった。しかし、衣生活の内容に注目すると見出

    し (Needlework,Dress and Design)にも示されるように、被服構成学と被服材料学の内容が中心であり、洗濯等の

    被服生理学の内容が含まれなかった。日本の家庭科教育に含まれる保育の内容に関しては、記載がなかった。

    文達出版の教科書の特徴としては、生徒用教科書にもワークシートブックと CD・ROMが標準付録としてセット

    されており、 CD-ROMには、食物の実験映像等が収録されていた。香港の教育全体の特徴である ITの利用は、

    家政科の授業においても深く浸透していると考えられる。

    23

  • jELS 第 17集 (2014.3)

    4)訪問校(中学校)における家政科授業の様子

    JELS研究グ、/レープが訪問した中高一貫校(香港郊外)は、 2002年創立の新しい学校であり、 l学年平均 5クラ

    スと比較的規模が大きく、最新の教育設備が整い、教師の専門性も高く(修士の学位を持つ教員 58%)、香港の

    中でも高い教育水準の学校であった(図表E一10)。家政科は、訪問校の場合、中学校の 3年間のみ開講されてい

    るとのことであり、調理実習の授業を参観することができた。

    学校全体の様子としては、校舎は、香港島という土地柄もあり、 地上 8階建て(地下 l階)であり、普通教室

    以外に最新設備の整った各種実験 ・実習室、図書館、広い自習室(パソ コンも使用可能)等が充実する一方、体

    育館 ・運動場等の設備は狭く、訪問した際には、雨天であったこと もあり、体育の授業(中国ゴ‘マ)を校舎のエ

    ントランスで取り組んでいる生徒の姿が印象的であった(図表直 11 )。教室の廊下にクラスの成績が貼り出され、

    授業中は、皆が集中して学習に取り組む姿勢が見られると同時に、音楽 ・美術 ・体育等の授業にも熱心に取り組

    む様子が見られた。美術室や音楽室の前には、生徒の作品の展示スペースやミニコンサー ト用のステージも設け

    られており 、課外活動も盛んであるとのことだ、った(図表1lI-12・13)。家政科に関連する課外活動としては、家

    庭科部と手芸部の 2つがあり、活動の様子が学校のホームベージにも記載されていた。

    訪問校の中学校家政科の教育目標( 日 本語訳)を以下に示した。 使用していた教科書は、『家政科技奥生活~ (天

    行教育出版)の中国語版であることもあり(図表1lI-14)、食生活が教科の中心である。

    図表Eー 10訪問校外観 図表ill-11 工ントランス(体育授業中国コマ)

    図表国一12音楽室前廊下コンサート用スペース 図表Eー 13課外活動の紹介

    24

  • 第皿章 香港の小 ・中学校における家庭科教育と子どもの家事 ・ケア頻度

    図表E一14 家政科教科書 図表ill-15 家政科授業の様子(調理実習)

    図表ill-16 教室設備(食生活・調理台) 図表ill-17 教室設備(衣生活・ミシン)

    図表Eー 18教室設備(洗たく機・アイロン等) 図表E一19生徒作品例

    25

  • ]ELS 第 17集 (2014.3)

    -家政科 目標

    家政科授業の活動(例:料理、裁縫、人と人との聞を繋ぐこと、生活設計)を通して生徒が生活技術を身につ

    けることを促し、生活に対する豊かな経験を養い、正しい健康に対する価値観を育成する。

    ・中学 l年生…「健康なライフスタイル」概念(自分と家族のために健康によい食物を選ぶことができること)

    を持つ学生の育成。自己教育能力の育成。

    ・中学2年生…食物のピラミッドを活用し、食生活を通して心身の健康を維持することが出来るようになる。正

    しい消費生活態度を身につけることができる。

    ・中学 3年生…健康的な食習慣を理解し、身につけることが、一生に渡り役立つことを理解する。

    参観した授業は、調理実習であったが、調理手順等の説明は、実習室前方のスクリーンに映しだされ、教師が

    解説する形で授業が進められていた(図表ill-15)oITの利用は、訪問校の各教科で進められており、家政科も

    学校のホームページに独自のページを持ち、上述の教科の目的や調理実習のレシピ、授業での活動の様子が掲載

    され、生徒への実習日程等の連絡も出来る形で活用されていた。訪問校で使用している教科書(天行教育出版)

    には、調理のレシピが記載されていないため、実習用のレシピは、教師が用意し、中華料理・西洋料理・お菓子

    作りの実習が進められていた。授業は、クラスをグループに分け、 16名の生徒(男女)が家政科の調理実習に参

    加していた。クラスの残りのグループは、 TechnologyEducation (TE)の他の教科を別室で学んでいるとのことで

    あった。

    訪問校の家政室(実習室)の設備は、日本の家庭科室とよく似ているが、普通教室程度の面積であり、手狭な

    印象で、あった。しかし、生徒用の調理台 (4台)には、コンロが 8口あり、教室の外周にも別のコンロが用意さ

    れ、生徒の作業効率に配慮、のある設備が用意されていた(図表国一16)。調理台の他には、洗たく機やミシン等も

    あり、被服製作の生徒作品も展示されていた(図表ill-17・18・19)。本間校の使用教科書には、衣生活の内容が

    記載されていないものの、家政科の目標には、裁縫とし、う活動例の記載もあり、家政科のカリキュラムとして、

    衣生活の内容も取り入れられている様子であった。

    教科独自の HPの活用と、クラスをグループ化し、閉じ時間に別教科を履修させることにより、生徒一人一人

    が実習に取り組むことのできる環境が用意されていた点は、日本の家庭科教育においても参考になると考えられ

    る。

    D. JELS香港調査データにみられる小・中学生の家事分担

    ここでは、 JELS香港調査(小 6・中 3データ)にみられる香港の小・中学生の家事・ケア頻度の特徴について

    述べる。データは、前述の訪問校が調査対象に含まれる北区を分析の対象とした。

    図表ill-20は、生活時間調査(平日の朝 6時前から深夜 I時までを対象として、 1時間ごとに行った活動を複

    数回答でチェックする調査)において、家事時間にチェックがあった者の割合を示したものである。平日に家事

    をしない者(チェック数=0)の割合は、小 6の45.9%、中 3の 48.2%であった。平日のどこかの 1時間で家事

    をした者(チェック数=1)の割合は、小 6の42.8%、中 3の41.0%であった。複数の時間帯に家事をした者(チ

    ェック数=2以上)の割合は、両学年とも 1割程度であった。性差は、どちらの学年においても有意で、はなかっ

    た。

    図表ill-2lは、家事・ケアの内容別頻度を示したものである。「皿を洗う」、「料理や食事の準備をするJとい

    った食生活に関する家事頻度、「お年寄りがいたら助ける」、「障がいを持つ人がいたら助ける」というケア頻度に

    ついては、小 6・中 3共に性差がみられなかった。性差がみられた内容は、「洗濯をするJ、「小さい子どもと遊ぶ」

    という衣生活(被服生理学)と保育に関する行動頻度であり、どちらも香港の家政科において学習されていない

    内容であった。

    学校教育は、男女の生活行動に影響を与えうる要因の一つである。義務教育を通して、食生活・消費生活以外

    にも両性の広範な家事・育児能力を育成することが、香港の家政科教育の課題であると考えられる。

    26

  • 小6

    家事

    中3

    家事

    ケア

    第田章 香港の小・中学校における家庭科教育と子どもの家事・ケア頻度

    図表m-20生活時間調査における平日の家事時間の有無

    。IJ、6

    男子 N=195 49.2

    女子 N=193 42.5

    合計 N=388 45.9

    中3

    男子 N=226 48.2

    女子 N=255 48.2

    家事を行った時間帯のチェック数

    2 3 4

    39.5 8.7 2.1 0.5

    46.1 8.3 2.6 0.5

    42.8 8.5 2.3 0.5

    42.9 6.6 1.3 0.4

    39.2 8.2 3.1 0.8

    5

    0.4

    0.4

    合計 N=481 48.2 41.0 7.5 2.3 0.6 0.4

    注 :χ 二乗検定の結果、小6・中 3共に家事時間と性別には有意な関連はみられなかった。

    (JELS香港調査)

    図表Eー21 家事・ケアの肉容別頻度

    ょくする時々する あまり しない機会が

    しない なかった

    皿を洗う 男子 N=193 11.9 29.5 36.3 22.3

    女子 N=192 12.5 41.1 32.3 14.1

    χ二乗検定有意確率

    …“一』 …… 一一一…一 一一一ー 一一戸町一 回一料理や食事の準備 男子 N=192 18.8 34.9 32.3 14.1

    をする 女子 N=191 22.5 40.8 25.7 11.0 … ……… -_....................……一一一一 …ー陶 町一一__........._.........H

    洗濯をする 男子 N=193 20.2 16.1 29.5 34.2 * 女子 N=191 18.3 24.6 34.0 23.0

    皿を洗う 男子 N=222 13.1 32.0 37.8 17.1

    女子 N=254 18.9 33.9 33.9 13.4 ・"・....................“・H・....................H.."'..........................................・輔 H町"""柿.........園町圃圃圃圃圃圃圃圃ー “.. .. 胃 回目・・・ m・・・・・.....“"“........“句・““ ・帥・H・・H・・H・.................“ー・料理や食事の準備 男子 N=222 17.6 34.7 34.7 13.1

    をする 女子 N=254 18.9 39.8 30.3 11.0 一一一一一……一一一一一…山…………山…………山一………叫山………山山………...山………山山………叫山………山山……山山………山山……山山……山山……山山……山山……叫山……山山……...山……山…………町……一…山一…一…山一一…….目山…………山…………山…………町…………町…………山…………向…………町叩……………山………向…………圃町山一一……戸一…圃目一一圃目吋圃叫'洗濯をする 男子 N=222 13.5 21.6 34.2 30.6 *市

    女子 N=254 18.1 26.8 37.8 17.3

    お年寄りが困って 男子 N=222 14.0 48.2 20.3 4.1 13.5

    いたら助ける 女子 N=254 12.6 52.8 18.9 2.4 13.4 ......................... .. 町,.........・ “““・........_....・-“ …・.....................…........・M・・m・・H・ 一…一……一一一…...........・H・・H・-障がいを持つ人が 男子 N=221 8.6 40.7 24.9 5.9 19.9

    いたら助ける 女子 N=254 11.4 41.7 24.8 3.9 18.1 一…………一…一… 圃圃圃圃圃圃一一一…一圃目吋一圃町叩…………山�