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-1- このレポートは投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づ いて作成されていますが、その情報の正確性、完全性を保証するものではありません。また本資料に記載された意見や予 測等は、資料作成時の当社の判断であり、今後予告なしに変更されることがあります。投資判断等のご利用に際してはご 自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。 PSJ モデルについて 大和証券キャピタル・マーケッツ株式会社 金融市場調査部 松下浩司 1.はじめに 当レポートでは、本邦 MBS 市場における標準期限前償還(Prepayment Standard Japanモデル(以下、PSJ モデル)の導入意義や背景、目的との整合性、利用可能性について、 弊社での取組みにも照らして確認する。 (1)RMBS 評価と PSJ モデルの背景 PSJ モデルは、米国の PSA モデルと同様、住宅ローン証券化商品(以下、RMBS)評価 の透明性を高めて市場参加者の当該商品への取組を円滑化することを目的に、本邦に導入 された市場インフラである。市場参加者のコンセンサス形成のためには、RMBS の特性で あるキャッシュフロー(以下、CF)の不確実性に一定の目安を置くことが最大の要件と考 えられる。市場参加者が共有する CF を前提に置くことで、市場参加者間や各社内、例えば 運用セクションと評価管理セクション等での合意形成は容易になる。即ち通常の(元本償 還が確定したハードブレットの)利付債を扱う場合と同様の出発点を得ることが出来る。 RMBS CF の不確実性の源泉である将来の任意繰上償還の発生程度(以下、CPRConditional Prepayment Ratio)は、手前の時点では推定により見積もることしか出来な い。個々の住宅ローン債務者の返済行動は個々の判断に基づくものであるため事前に特定 出来ないからである。個別の投資家や証券会社、または業者は独自に傾向を分析して CPR 予想モデルを自製したり何らかの予想値を選択することが出来る。但し、如何なる予想モ デルの CPR 見通しを用いることが正しいか、又は最適であるかは保証されるものではない。 またそもそも銘柄を分析する観点は多岐に亘ってよい。他方、コンセンサス形成のために は別途、市場参加者が一定の評価をもって認知し、横断的に用いることができるよう、 CPR 見通しが集約されることが求められた。 ところで、各種見通しのうち公開性が高いと思われるものから統計量を取れれば、透明 性が高く、個別性の影響が極力排除されたデータとして用いることが出来ると考えられる。 PSJ モデルはこうした観点から、日本証券業協会(以下、日証協)が、証券会社各社との 「日本版 PSA モデルに関するワーキング」での検討を経て導入したものである。各社モデ ルによる見通し(「PSJ 予測値」)の提出を受けた日証協が統計量(「PSJ 予測統計値」)を 算出して一般に公開するフローが構築されている。 PSJ モデル内容や用例は、右ワーキングのまとめた『PSJ モデル ガイドブック』(日本 証券業協会、平成 18 4 24 日)に詳しく記され、広く紹介されている。 ◆ 協会による PSJ 予測統計値の公開開始は平成 18 7 18 日で、以降毎月 2 回、情報 提供が行なわれている。

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Page 1: PSJモデルについて - jsda.or.jp · 測等は、資料作成時の当社の判断であり、今後予告なしに変更されることがあります。投資判断等のご利用に際してはご

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このレポートは投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づ

いて作成されていますが、その情報の正確性、完全性を保証するものではありません。また本資料に記載された意見や予

測等は、資料作成時の当社の判断であり、今後予告なしに変更されることがあります。投資判断等のご利用に際してはご

自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。

PSJ モデルについて

大和証券キャピタル・マーケッツ株式会社 金融市場調査部 松下浩司

1.はじめに

当レポートでは、本邦MBS市場における標準期限前償還(Prepayment Standard Japan)モデル(以下、PSJ モデル)の導入意義や背景、目的との整合性、利用可能性について、

弊社での取組みにも照らして確認する。

(1)RMBS 評価と PSJ モデルの背景

PSJ モデルは、米国の PSA モデルと同様、住宅ローン証券化商品(以下、RMBS)評価

の透明性を高めて市場参加者の当該商品への取組を円滑化することを目的に、本邦に導入

された市場インフラである。市場参加者のコンセンサス形成のためには、RMBS の特性で

あるキャッシュフロー(以下、CF)の不確実性に一定の目安を置くことが 大の要件と考

えられる。市場参加者が共有する CF を前提に置くことで、市場参加者間や各社内、例えば

運用セクションと評価管理セクション等での合意形成は容易になる。即ち通常の(元本償

還が確定したハードブレットの)利付債を扱う場合と同様の出発点を得ることが出来る。 RMBS の CF の不確実性の源泉である将来の任意繰上償還の発生程度(以下、CPR。

Conditional Prepayment Ratio)は、手前の時点では推定により見積もることしか出来な

い。個々の住宅ローン債務者の返済行動は個々の判断に基づくものであるため事前に特定

出来ないからである。個別の投資家や証券会社、または業者は独自に傾向を分析して CPR予想モデルを自製したり何らかの予想値を選択することが出来る。但し、如何なる予想モ

デルのCPR見通しを用いることが正しいか、又は 適であるかは保証されるものではない。

またそもそも銘柄を分析する観点は多岐に亘ってよい。他方、コンセンサス形成のために

は別途、市場参加者が一定の評価をもって認知し、横断的に用いることができるよう、CPR見通しが集約されることが求められた。 ところで、各種見通しのうち公開性が高いと思われるものから統計量を取れれば、透明

性が高く、個別性の影響が極力排除されたデータとして用いることが出来ると考えられる。

PSJ モデルはこうした観点から、日本証券業協会(以下、日証協)が、証券会社各社との

「日本版 PSA モデルに関するワーキング」での検討を経て導入したものである。各社モデ

ルによる見通し(「PSJ 予測値」)の提出を受けた日証協が統計量(「PSJ 予測統計値」)を

算出して一般に公開するフローが構築されている。 ◆ PSJ モデル内容や用例は、右ワーキングのまとめた『PSJ モデル ガイドブック』(日本

証券業協会、平成 18 年 4 月 24 日)に詳しく記され、広く紹介されている。 ◆ 協会による PSJ 予測統計値の公開開始は平成 18 年 7 月 18 日で、以降毎月 2 回、情報

提供が行なわれている。

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このレポートは投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づ

いて作成されていますが、その情報の正確性、完全性を保証するものではありません。また本資料に記載された意見や予

測等は、資料作成時の当社の判断であり、今後予告なしに変更されることがあります。投資判断等のご利用に際してはご

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◆ 現在、対象となっている銘柄は、貸付債権担保住宅金融公庫債(以下、住公 RMBS)で

ある。

(2)PSJ モデルの運営とモデルの意義

PSJ モデルの運営は、証券会社の個別の予想モデルから個々に PSJ 予測値を換算するこ

とと、個々の PSJ 予測値から PSJ 予測統計値を算出すること、PSJ 予測統計値(および

PSJ 予測値)を広く公表すること、の 3 段階を内容としている。PSJ モデルの利用者は、

提供・公表された PSJ 予測統計値や PSJ 予測値を用いて CF 評価を行なうことが出来る。 このため、広く運営を含めて「PSJ モデル」と呼称される場合もある。他方、PSJ モデ

ルの意義は予想 CPR の利便性にあり、予想 CPR の記述方法こそが「PSJ モデル」のモデ

ルたる所以である。 ガイドブックに記述されている「より多くの市場参加者が MBS の投資価値分析の実務に

利用可能な、簡易的な期限前償還速度の尺度」として適当なものかどうか、同じく「時間

の経過に伴うCPRの変化を織り込んだ標準的な期限前償還モデル」として相応しいものか、

においては第一に「PSJ モデル」の CPR 記述方法が問われるものと考えられる。 よって当レポートでは、主に予想 CPR の記述方法を指して「PSJ モデル」の意義を確認

することになる。特に、時系列(月次)の CF に対する CPR の年限構成(以下、CPR ベク

ター)、ないしその基本形状(以下、基本 CPR ベクター)の適性を考察する。

【PSJ モデル(標準モデル)の基本 CPR ベクター】

PSJモデルの基本CPRベクター

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140

信託債権の資金実行後経過月数(WALA)

(C

PR

水平CPR

シーズニング期間:60ヶ月

切片CPR:0%

(出所:日本証券業協会「PSJ モデルガイドブック」を基に大和証券 CM にて加工)

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(3)標準モデルとカスタマイズドモデル

PSJ モデルの導入検討においては、公募債として安定発行されている住公 RMBS が当面

の対象銘柄とされ、住公 RMBS の CPR ベクターを簡便に表現するものとして「標準モデ

ル」が設定された。一方で、状況変化に備えて、あるいは民間金融機関の発行等 MBS 一般

にも PSJ モデルが応用できるよう「カスタマイズドモデル」の表現方法も設定された。裏

付資産となる住宅ローンプールの相違等によって、想定されるべき CPR の年限構成の基本

形が異なる場合への対応可能性が念頭に置かれたものである。 「カスタマイズドモデル」は切片 CPR とシーズニング期間を変えたものであり、装備と

して意味深いが、ここでは、具体的な説明対象を置いて PSJ 予測統計値が集計・広く公表

されている「標準モデル」について、意義と内容を確認する。 以下の考察において「PSJモデル」と言う場合、標準モデル(「PSJ モデル(標準モデル)」)のことを指す。

2.PSJ モデルの内容の考察

(1)モデル化対象とソースデータ

パススルー型 RMBS の元金償還 CF は、基本的に、住宅ローンプールに発生するローン

償還実績を受けて同等割合を RMBS 保有者への償還に充当することで実現する。RMBS の

建て付けによって主に、①先に元本償還を受ける優先部分と後になる劣後部分を分けるシ

ークエンシャル型と、②RMBS と超過担保部分に当初額面の割合に応じて償還金を割り振

るプロラタ型があるが、何れの場合も、裏付となった住宅ローンプールの償還実績から配

分されることに相違はない。即ち、RMBS の将来 CF を予想するには、住宅ローンプール

の償還動向を予想しなければならない。 PSJ モデルの検討における主要な基礎データとして、住宅金融公庫が広く公開している

公庫保有住宅ローンプールの『償還履歴データ』が用いられた。公庫が住宅ローンの証券

化を行なうにあたって情報開示拡充を進めてきたデータベースであり、融資種別や目的で

選別したうえ層化抽出されている為、正に「証券化対象」住宅ローンの償還実績状況が取

得できるものと認められる故である。又、住宅金融公庫 RMBS に対する個別の期限前償還

予想モデルの構築においても、概ね右データベースが基礎データに用いられていることに

照応している。 『償還履歴データ』に見られる実績 CPR 分布からは、住宅ローンの資金実行からの経過

年数(WALA)がゼロから数十ヶ月の間で CPR が徐々に上昇し、百数十ヶ月から以降では

逓減する傾向が認められる。

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【住宅金融公庫「償還履歴データ」にみる CPR 分布】

住宅金融公庫『償還履歴データ』にみるCPR分布

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

0 50 100 150 200 250 300

(WALA、月)

(CP

R、

%)

(出所:住宅金融公庫「償還履歴データ」を基に大和証券 CM にて加工。近似曲線は多項式による)

(2)モデルの検討内容

PSJ モデルは、将来 CF の展開・評価を容易ならしめることを意図している。明解な形で

その統計値を取得することが可能なように配慮されている一方で、証券会社が個々に予想

する CPR 形成の説明力をなるべく損なわずに予想 CF を展開できるものでなければならな

い。即ち、PSJ 予測値を用いて展開した個別銘柄の CF が、個別モデルの予想 CPR から展

開した CF と大きく異ならない再現性を備えることが望ましい。 従来、個別予想の CPR 見通しを読み替える尺度として便宜的に、長期平均 CPR が用い

られた。長期平均 CPR は、個別銘柄について CF 時点毎に発生年限に関わらずすべて同じ

CPR が発生することを仮定したモデル(CPR ベクターの表現形式)であると考えることが

出来る。任意のモデルの CPR ベクターをひとつの数値で表すことができる為に比較対照や

その集約は容易となる。 ◆ 個別の期限前償還予想モデルから長期平均 CPR の値を勘案する際には通常、先にモデ

ル予想の CPR ベクターを用いて展開した予想 CF の平均年限(WAL)を計算しておき、

右のモデル予想 WAL に一致する WAL が展開した CF から得られる長期平均 CPR の値

を求める。長期平均 CPR は、モデル予想 WAL の比較を簡便に CPR 比較に置き換える

方法として有効なものである。 ◆ 但し、将来に亘る元利払日のCPRの年限構成が平均化されてしまうため、長期平均CPR

から展開した CF 分布は、元の個別モデルによる CPR ベクターから展開される CF 分

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布に較べると年限間の CF 分布への配慮が一切失われてしまう。CPR ベクターが簡略化

しすぎるために現実の CPR 形成との乖離が大きく、個々のモデル予想との整合性が損

なわれる面が大きい。即ち長期平均 CPR は、個々のモデル予想を読み替えて比較対照

に用いる尺度として一定の意味はあるものの、CF を展開し評価に用いるには簡略過ぎ

た。 PSJ モデルの検討は、長期平均 CPR よりも個々のモデル評価に近く、より現実の CPR

実績への説明力が高いと考え得るものが要求されたものと言える。

(3)長期平均 CPR と PSJ モデル

長期平均 CPR の抱える 大の問題は、経過年数に従う CPR の変化が捨象されてしまう

ことである。このため、特に住宅ローンの資金実行後間もない債権が証券化される買取型

月次債の住公 RMBS では、長期平均 CPR は発行当初期について実現 CPR より大きな予想

CPR を想定する可能性が非常に高いと考えられる。他方、「償還履歴データ」に照らすと資

金実行後十数年以降の将来時点の CPR についても過大に見積もる可能性が疑われるが、元

本残存割合が相対的に小さくなった後のことであるため CF 評価上の影響度は小さいと考

えられる。PSJ モデルではこの問題を解消するため、経過年数(WALA)の小さい期間で

は漸次 CPR が拡大する「シーズニング期間」が仮定されるよう CPR ベクターの基本構成

が工夫された。 【モデルによる CPR ベクター相違】

モデルによるCPRベクター相違

0.00%

2.00%

4.00%

6.00%

8.00%

10.00%

12.00%

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 10011

012

013

014

015

016

017

018

019

020

021

022

023

024

0

発行後経過月数

CF時

点毎

のC

PR

(年

率、

%)

PSJモデル

長期平均CPR

弊社統計モデル

(出所:大和証券 CM。2006 年 3 月末における住公 RMBS_41 回債の推計値)

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【CPR ベクターによる CF(元本償還)の相違】

CPRベクターによるCF(元本償還)の相違

0

2

4

6

8

10

12

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31

発行後経過年数

1年

毎の

元本

償還

(額

面=100)

PSJモデル

長期水平CPR

参考:約定償還のみ(CPR=0)の場合

(出所:大和証券 CM。2006 年 3 月末における住公 RMBS_41 回債の推計値、クリーンアップコールを考慮)

(4)個別の期限前償還予想モデルとPSJモデル

『償還履歴データ』の住宅ローンプール、個別 RMBS の信託債権にみられる CPR 実績

の双方において広く、①経年要因、②金利要因、③季節性、④その他要因が認められると

考えられている。一般に個別の期限前償還予想モデルはこれら要因を説明変数とすること

で精緻さを追求する。他方、PSJ モデルは①への配慮を前面に置き、②~④は集約的に取

り扱われる(②については金利水準の前提を変えた PSJ 予測値が別途提供される)。 ところで、個別予想モデルのメンテナンスと利用は一般的に、以下の手順で行なわれる

と考えられる。 1.【モデル設定】 住宅ローンプールの期限前償還の過去実績に照らして、①~④の要因を入

れた関係式(≒CPR ベクターの基本形)を用意。 2.【パラメータ更新】 金利見通しの変化や住宅ローン償還データの 新情報を入れて関係式

のパラメータを更新する。 3.【個別銘柄の CPR 推計(予想)】 個別銘柄の WALA、WAC 等属性に照らして、右関係式

から個別銘柄の将来の元利払い時点の CPR を推計(予想)する。 このとき、1.が土台作りであるモデル構築に相当し、2.と3.が定期作業となる。 対して、PSJ モデルは1.だけでなく2.に相当する部分もモデル構築として終えている。

つまり、個別の予想モデルでは CPR ベクターの基本形もパラメータ更新によって随時変化

するが、PSJ モデルでは CPR ベクターの基本形が定まっている。このため、定期作業とな

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るのは3.に相当する部分のみであり、個々の予想モデルから PSJ 予測値が換算されること

がその作業となる。 個別の期限前償還予想モデルとして弊社モデルを例に取ると、CPR は、CF 時点(=元利

払日)t の CPRtについて、次のような関係式で推定される。

),,,,( tttttt MonthRWACWAMWALAfCPR =

ttttt MonthRWACWAMWALA ,,,, : 時点 t の銘柄属性、市中金利、月(ダミー変数)

実際のモデル式では全額繰上償還と部分繰上償還を分けて扱っているが、全額繰上償還

についても部分繰上償還についても、WALAに従うCPRの基本曲線を先に推定したうえで、

将来の各 CF 時点の金利や季節性を勘案して予想 CPR を求める格好となっている。所謂比

例ハザード性を前提としたもので、WALA の時間軸に従うベースラインハザード(≒「基

本 CPR ベクター」)を先に推定している点において PSJ モデルの手順と共通する。但し、

CF 時点毎に基本曲線を上下して時点毎の CPR を求めるので、水平 CPR を平行移動させる

PSJ モデルの「基本 CPR ベクター」の扱いとは異なる。 弊社モデルを例に、個別モデルと PSJ モデルとの関係をまとめると以下になる。

◆ 弊社モデルでは、ベースラインハザードの関数形に 3 次スプラインを採用している。「償

還履歴データ」の実績 CPR の年限構成へのフィットを高め、RMBS の CPR 見通しに

精緻さを加えるための工夫である。このとき、複雑な関数形であること、並びにソース

データである「償還履歴データ」の更新に応じて暫時パラメータを更新するために再現

や尺度として直接用いる利便性には欠ける。 ◆ また、ベースラインハザードの関数形の相違に限らず、個別の期限前償還予想モデルに

よって予想される CPR ベクターの形状は、多様且つそれぞれに複雑。よって、個別の

CPR ベクターを用いて計測した各種属性は横断的に扱えても(例:予想平均年限やス

プレッドは相互比較や集計が可能)、CPR ベクター自体を横断的に扱うことは困難。 ◆ 対して、PSJ モデルは関数形がシンプルであるため、CPR ベクター自体を横断的に扱

える。

個別の予想モデルとの関係上、PSJ モデルは、そのシンプルな CPR ベクターゆえに精緻さの

追求を犠牲にする一方で、異なる予想モデルによる予想 CPR ベクター同士を仲介する役割を果

たせるという意義を持つ。様々な予想モデルによる CPR 見通しは、一旦 PSJ 予測値に変換さ

れることでその集約が可能となり、PSJ 予測統計値を通した集約的な予想 CPR ベクターか

ら集約的な CF 評価が利用出来る。

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【弊社予想モデルのハザード関数(≒基本 CPR ベクター)】

弊社期限前償還予想モデルのハザード関数(CPRベクターの基本形)

0.0%

1.0%

2.0%

3.0%

4.0%

5.0%

6.0%

7.0%

8.0%

9.0%

10.0%

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 170 180 190 200 210 220 230 240

経過年数(WALA)

CP

R

CPR

(うち部分償還)

(出所:大和証券 CM)

(3)PSJ モデルのシーズニング期間と切片 CPR について

様々な予想モデルすべてにおいて、その精緻さに関わらず、個別銘柄の CF 評価に対す

る適性は保証されるものではない。即ちPSJモデルの適性は、様々な予想モデルによるCPRベクターとPSJ予測値により記述されるCPRベクターの間でCF評価のための重要な情報

がなるべく失われないことで判断される。端的には個別銘柄において、個別の予想モデル

による CF 評価と一旦 PSJ 予測値に焼き直した後に展開した CF の評価に大きな相違がな

ければよいと考えられる。 ところで PSJ モデルではシーズニング期間を 60 ヶ月、また、切片 CPR をゼロとして

いる。ガイドブックにもある通り PSJ 値の利便性が優先されたものであり、CPR 分布に対

する説明力の面に限れば必ずしもこうしたキリのいい数値が 善ではない。例えば、弊社

の予想モデルと照らして、シーズニング期間が 62 ヶ月で切片 CPR を 1%とした場合のほう

がややフィットが高まる可能性も認められた。 仮にシーズニング期間 62 ヶ月、切片 CPR を 1%とした場合を“モデル(B)”、現行 PSJ

モデルを“モデル(A)”として、2 つのモデルによる CF 評価を比較したとき、以下のよう

な結果が得られた。試算は、発行当時の住公 RMBS29 回債を対象に、仮に WAL が 10 年

となる場合の CPR ベクターとそのときの CF 評価を行なったものである。米国 PSA モデ

ルと長期一定 CPR も比較検証した。

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【CPR ベクター】

29回債のWAL=10年となる等価償還速度比較

0%

1%

2%

3%

4%

5%

6%

7%

8%

0 30 60 90 120

経過月数

繰上

返済

速度

(CPR

)

モデル(A)

モデル(B)

米国PSA

長期一定CPR

【CF 分布の相違】 【スプレッド評価の相違】

短期

(~3年)中期

(3~7年)長期

(7~12年)超長期

(12年~) 29回債

モデル(A) 18 33 29 38 モデル(A) 25

モデル(B) 19 32 29 38 モデル(B) 24

米国PSA 22 31 27 39 米国PSA 22

長期平均CPR 26 28 25 40 長期平均CPR 18

キャッシュフロー分布

(発行額100円とした場合、単位:円) イールドカーブスプレッド(YCS、単位bp)

(出所:大和証券 CM)

右表の通り、住公 RMBS の CF 分布とその評価において、モデル(A)とモデル(B)の間

にほとんど差がないことが確認できた。 また、PSJ モデルの導入目的のひとつとして、モデルを通した予想 CF のコンセンサスを

基に RMBS のトランチングによる CMO 組成等、市場のバリエーション拡大にも貢献する

ことが挙げられている。短期トランシェと長期トランシェに分割した CMO 組成を想定して、

モデル(A)とモデル(B)を比較したところ、以下のような結果が得られた。

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【短期トランシェの CF 分布相違】 【長期トランシェの CF 分布相違】

短期

(~3年)

中期

(3~7年)

長期

(7~12年)

超長期

(12年~)

短期

(~3年)

中期

(3~7年)

長期

(7~12年)

超長期

(12年~)

モデル(A)14 29 10 0

モデル(A)3 4 20 38

モデル(B)15 28 10 0

モデル(B)3 4 20 39

米国PSA18 27 8 0

米国PSA3 4 19 39

長期平均CPR22 23 7 0

長期平均CPR3 4 19 41

CF分布(発行額50円とした場合、単位:円)CF分布(発行額50円とした場合、単位:円)

(出所:大和証券 CM)

右表の通り、短期トランシェと長期トランシェに分けても、双方においてモデル(A)と

モデル(B)のキャッシュフロー分布の差は小さい。RMBS とこれら CMO でのスプレッド

評価の格差をまとめると以下のようになる。

【スプレッドの相違(モデル(A)との YCS 格差)】

モデル算出YCSの格差 - 対モデル(A)

-1.0

-3.0

-7.0

0.0

6.0

8.0

-

-2.0

-5.0

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

10

モデル(B) 米国PSA 長期平均CPR

スプ

レッ

ド格

差(B

P)

29回債

短期

長期

(出所:大和証券 CM)

右表の通り、モデル(A)とモデル(B)とでは、長期トランシェと短期トランシェにト

ランチングした場合でも CF 評価においてほとんど差がない。即ち評価価格に対して同等の

スプレッド評価が出来ることになる。他方で、CPR ベクターの基本形が大きく異なる米国

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このレポートは投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づ

いて作成されていますが、その情報の正確性、完全性を保証するものではありません。また本資料に記載された意見や予

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自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。

PSA や長期平均 CPR を用いた場合はスプレッド評価の乖離が大きく、こうした場合、要求

されるスプレッドを基に考えるときに評価価格が大きく異なることとなる。 以上のように、PSJ モデルに採用されているモデル(A)は、利便性に配慮してより簡便

な(シーズニング期間、切片 CPR)が用いられているとはいえ、より CPR ベクターにおい

て精緻と考えられるモデル(B)と対比して、CF 評価のうえで大差はない。 利便性との兼ね合いからも、統計モデル一般について広く言われる所謂オーバーフィッティン

グの危険性を回避する観点からも、PSJ モデルは適度な簡略さに落ち着いているものと考えるこ

とが出来るだろう。

3.PSJ モデルに関わる弊社の対応

(1)弊社の期限前償還予想モデルとPSJ予測値

弊社予想モデルのハザード関数と PSJ モデルの基本 CPR ベクターの関係と、個別銘柄に

対する CPR ベクターの記述の相違については、概略は既に述べた通りである。ここでは、

弊社が提供する PSJ 予測値についてまとめておく。 ◆ 弊社では住公 RMBS の個別銘柄の PSJ 予測値を毎日提供している(前日引け値ベース)。 ◆ そのうち、定められた日付の 新データを日証協に報告している。 ◆ PSJ 予測値は、弊社予想モデルによる CF の WAL に対して、展開した CF の WAL が

同じになる PSJ 値を導き出している。 (2)GSP モデルについて

弊社では従前、予想モデルの他に、住公 RMBS の予想 CPR ベクターを簡便に記述する

方法として独自に「GSP モデル(GHLC Standard Prepayment Model)」を提供していた。

GSP モデルは PSJ モデルと同様、一旦精緻に予想した CPR ベクターから、WAL を介して

GSP モデルの簡易な CPR ベクターに変換するものである。 ◆ GSP モデルによる CPR ベクターは、個別銘柄毎に「等価 GSP 値」によって表現した。

これは、PSJ モデルによる CPR ベクターが「PSJ 予測値」によって表現されるのと同

様である。 ◆ GSP モデルの CPR ベクターの基本形は、PSJ モデルと同様に、長期平均 CPR に対し

て 60 ヶ月の「シーズニング期間」を加えたものであった。PSJ モデルとの相違は、切

片 CPR が 0%でなく 1%と設定していたことである。 ◆ GSP 値は、予想モデルによって予想した CPR ベクターからの CF に対して、WAL が

等しくなる水平 CPR の高さを調整し、水平 CPR が 6%の CPR ベクターを基準

(「100%GSP」)に置いた。 ◆ 個別銘柄の等価 GSP 値は、シーズニング期間の CPR 拡大幅が基準拡大幅(5%。基準

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水平 CPR6%-切片 CPR1%)の X 倍のとき、「【X×100】%GSP」と表現した(例えば、

水平 CPR が 8.5%なら等価 GSP 値は 150%GSP となる)。

GSPモデルは市場参加者がCF評価を共有するための利便性の高い尺度の提供を目指し、

開発・提供したものであった。同様の目的の下でより広く導入される PSJ モデルの登場を

もって、GSP モデルは一定の役割を終えたものと弊社では判断している。弊社は、PSJ モ

デルの導入を機に、GSP モデルの提供を終了することとした。

以上