pt 触媒粒径解析手法の検討いて,膜側,中心部,gdl側の3ヶ所でtem観察...

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Pt 触媒粒径解析手法の検討 -凝集粒子の計測手法- Pt Electrocatalyst Particle Size Distribution Analysis Techniques of measuring agglomerated Pt particles青柳 貴子 *1 Takako AOYAGI 木口 和博 *1 Kazuhiro KIGUCHI 今村 大地 *2 Daichi IMAMURA Abstract Platinum nanoparticles are used as electrocatalysts of polymer electrolyte fuel cells (PEFCs). Platinum particles become large during long-term operation of PEFCs and degrade the PEFC performance. This study investigated techniques for measuring platinum particle size from transmission electron microscopy images. Three types of measuring techniques, (1) particle outline, (2) detachment of coalescences, and (3) removing agglomerates, were adopted for agglomerated platinum particles. Detachment of coalescences (2) was found to be the most appropriate for a degraded electrocatalyst with complicated agglomerates of platinum particles for distinguishing coalescences of platinum particles that form agglomerates via particle coarsening. 1. はじめに 近年,固体高分子形燃料電池のPt触媒の劣化に 関する研究が進み,触媒活性の低下や物質移動の 阻害などさまざまな劣化現象が解明されつつある 1)~4) .反応表面積の低下を引き起こすPt粒径の粗 大化は主要な劣化モードのひとつである初期品 では粒径23 nmの球体のPt触媒がカーボン担体 に高分散しているが劣化後は粒成長,癒着/凝集 などPt粒子の変化や,カーボン担体からの脱離な どが観察される 5)~7) .透過型電子顕微鏡(TEMによる観察はPt 触媒の微視的な評価をするため に必須の測定手法である. TEM像からPt触媒の劣 化状態を定量的に評価する場合には,画像処理に よりPt 粒径や粒子数を求めてから統計処理を行 8) .しかし,Pt触媒の粒径解析手法について検 討した例は少なく,その手法が解析結果に及ぼす 影響は明らかになっていない.そこで本研究では, Pt粒子の凝集体の分割方法に着目し,分割方法の 違いが計測結果に及ぼす影響を明らかにする.得 られた結果より,粒成長や癒着/凝集などPt粒径を 適切に評価する解析手法について検討を行った. 2. 実験 2. 1 粒径解析対象試料 粒径解析対象は,負荷変動試験後のカソード触 媒とした.電極触媒には田中貴金属製の TEC10E50E,電解質膜にはNafion ® 212を用い、 /電極接合体(MEA)を作製した.作製したMEA JARI標準セルに組み込み,米国エネルギー省 DOE)から提案されている負荷変動試験(0.6 1.0Vvs.RHEの三角波の電位サイクル試験)を 30,000サイクル行った. 試験後のMEAを樹脂包理したのち,ミクロトー ムを使用して薄片化した.作製した薄片試料を用 いて,膜側,中心部,GDL側の3ヶ所でTEM観察 を行った. 2. 2 TEM像の画像処理 2. 2. 1 円相当径計測 Fig.1TEM像の画像処理の加工過程を示す. Fig.1(a)は処理前のTEM像(生画像)であり,色 の濃い粒子状の部分がPt粒子である.まず画像編 集ソフト(Photoshop)を使用して,生画像(Fig. 1(a))のPt触媒の縁取り処理を行い(Fig.1 (b)), JARI Research Journal 20131201 研究速報1 一般財団法人日本自動車研究所 FCEV研究部 2 一般財団法人日本自動車研究所 FCEV研究部 博士(工学) JARI Research Journal (2013.12) 1

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Page 1: Pt 触媒粒径解析手法の検討いて,膜側,中心部,GDL側の3ヶ所でTEM観察 を行った. 2. 2 TEM 像の画像処理 2. 2. 1 円相当径計測 Fig.1にTEM像の画像処理の加工過程を示す.

Pt 触媒粒径解析手法の検討

-凝集粒子の計測手法-

Pt Electrocatalyst Particle Size Distribution Analysis -Techniques of measuring agglomerated Pt particles-

青柳 貴子*1

Takako AOYAGI 木口 和博*1

Kazuhiro KIGUCHI 今村 大地*2

Daichi IMAMURA

Abstract Platinum nanoparticles are used as electrocatalysts of polymer electrolyte fuel cells (PEFCs). Platinum particles become large during long-term operation of PEFCs and degrade the PEFC performance. This study investigated techniques for measuring platinum particle size from transmission electron microscopy images. Three types of measuring techniques, (1) particle outline, (2) detachment of coalescences, and (3) removing agglomerates, were adopted for agglomerated platinum particles. Detachment of coalescences (2) was found to be the most appropriate for a degraded electrocatalyst with complicated agglomerates of platinum particles for distinguishing coalescences of platinum particles that form agglomerates via particle coarsening.

1. はじめに 近年,固体高分子形燃料電池のPt触媒の劣化に

関する研究が進み,触媒活性の低下や物質移動の

阻害などさまざまな劣化現象が解明されつつある

1)~4).反応表面積の低下を引き起こすPt粒径の粗

大化は主要な劣化モードのひとつである.初期品

では粒径2~3 nmの球体のPt触媒がカーボン担体

に高分散しているが,劣化後は粒成長,癒着/凝集

などPt粒子の変化や,カーボン担体からの脱離な

どが観察される5)~7).透過型電子顕微鏡(TEM)

による観察はPt触媒の微視的な評価をするため

に必須の測定手法である.TEM像からPt触媒の劣

化状態を定量的に評価する場合には,画像処理に

よりPt粒径や粒子数を求めてから統計処理を行

う8).しかし,Pt触媒の粒径解析手法について検

討した例は少なく,その手法が解析結果に及ぼす

影響は明らかになっていない.そこで本研究では,

Pt粒子の凝集体の分割方法に着目し,分割方法の

違いが計測結果に及ぼす影響を明らかにする.得

られた結果より,粒成長や癒着/凝集などPt粒径を

適切に評価する解析手法について検討を行った.

2. 実験 2. 1 粒径解析対象試料

粒径解析対象は,負荷変動試験後のカソード触

媒とした.電極触媒には田中貴金属製の

TEC10E50E,電解質膜にはNafion®212を用い、

膜/電極接合体(MEA)を作製した.作製したMEAをJARI標準セルに組み込み,米国エネルギー省

(DOE)から提案されている負荷変動試験(0.6~1.0Vvs.RHEの三角波の電位サイクル試験)を

30,000サイクル行った. 試験後のMEAを樹脂包理したのち,ミクロトー

ムを使用して薄片化した.作製した薄片試料を用

いて,膜側,中心部,GDL側の3ヶ所でTEM観察

を行った. 2. 2 TEM像の画像処理

2. 2. 1 円相当径計測 Fig.1にTEM像の画像処理の加工過程を示す.

Fig.1(a)は処理前のTEM像(生画像)であり,色

の濃い粒子状の部分がPt粒子である.まず画像編

集ソフト(Photoshop)を使用して,生画像(Fig. 1(a))のPt触媒の縁取り処理を行い(Fig.1 (b)),

JARI Research Journal 20131201 【研究速報】

*1 一般財団法人日本自動車研究所 FC・EV研究部

*2 一般財団法人日本自動車研究所 FC・EV研究部 博士(工学)

- - JARI Research Journal (2013.12)

1

Page 2: Pt 触媒粒径解析手法の検討いて,膜側,中心部,GDL側の3ヶ所でTEM観察 を行った. 2. 2 TEM 像の画像処理 2. 2. 1 円相当径計測 Fig.1にTEM像の画像処理の加工過程を示す.

Pt触媒のみの画像(Fig. 1(c))とした.さらに画

像解析ソフト(WinROOF)で2色化処理を行った

(Fig. 1(d))のち,Pt触媒の個数および円相当径

を求め,表計算ソフト(Excel)にて解析を行っ

た(Fig. 1(e)).粒径分布の信頼性を確保するため,

TEM像1視野に含まれる全てのPt粒子を測定した.

2. 2. 2 粒子分割方法 Fig. 2に粒子分割方法を示す.本研究では以下

に述べる3種類の粒子分割方法を適用した.TEM像(Fig. 2(a))の画像処理により,2個以上の粒子

が結合したとみられる凝集体を1個の粒子とし計

測する方法を“particle outline(Fig. 2(b))”,ほ

ぼ球体を維持している粒子同士が接している場合

には癒着接点を切り離して球体に近似するように

計測し,それ以外の複雑な凝集体はFig. 2(b)と同

様に1個の粒子として表面を縁取り計測する方法

を“detachment of coalescence(Fig. 2(c))”,Fig. 2(c)の分割処理を施した後に残った複雑な凝集体

に球体を維持している粒子が認められる場合には,

球体の粒子のみを計測し他の部分を計測しない

(球体を維持したPt粒子が認められない場合は

その凝集体を計測しない)方法を“removing agglomerate(Fig. 2(d))”とした.これら3種類

の方法における粒径解析結果を比較することで,

粒成長や癒着/凝集の特色が最も反映される適切

なPt粒径解析手法について検討した.

Fig. 2 Comparison of the Pt/C electrocatalyst particles

coarsening measurements

3. 結果と考察

初期および試験後のMEA(断面方向にGDL側,

中心部,膜側の3箇所)について各3枚ずつのTEM像から解析を行った.

Fig. 3に初期および試験後のTEM像を示す.初

期MEA(Fig. 3(a))ではPt粒子の粒径は約2~3 nmで,薄く灰色に写っている担体カーボン上に高

分散していた.負荷変動試験後は初期と比較する

と全体にPt粒径が増大し粒子数が大幅に減少し

ている様子が観察された.その中でも膜側(Fig. 3(b))はPt粒子がやや少なく見受けられ,中心部

(Fig. 3(c)),GDL側(Fig. 3(d))ではPt粒子3個以上の凝集体が葡萄状の複雑な配置で癒着してい

るケースが観察された.

Fig. 4に分割方法別の触媒層中心部Pt粒径の頻

度分布および累積頻度分布を示す.“particle outline”と“detachment of coalescence”では巨

大粒子が数個見られた.“particle outline”では

粒径14~25 nm の範囲で他より個数が多く,一方

で“detachment of coalescence”と“removing agglomerate”では5.5 nm~7.5 nm付近の粒子数

が大幅に増加した.これらの結果から,凝集体の

計測が重要であることと,粒成長により5.5 nm~

TEM

(a) Raw TEM image (b) Edge cutting

(d) Two-color diagram

Fig. 1 Procedure of TEM image processing

(c) Pt parts separation

20 nm

(e) Pt distribution analysis

- -

JARI Research Journal (2013.12) 2

Page 3: Pt 触媒粒径解析手法の検討いて,膜側,中心部,GDL側の3ヶ所でTEM観察 を行った. 2. 2 TEM 像の画像処理 2. 2. 1 円相当径計測 Fig.1にTEM像の画像処理の加工過程を示す.

7.5 nmに粗大化した粒子の癒着を分割し同面積

の巨大凝集体から区別すると計測結果に差が出る

ことが確認された.

Fig. 3 TEM image of Pt/C from (a) the pristine and

(b)-(d) cycled MEA

(a) Frequency distribution of Pt particle size

(b) Cumulative frequency distribution of Pt particle size

Fig.4 Effect of Pt Particles measuring method on

particle size distribution and cumulative frequency

Fig. 5 に分割方法別の粒径解析結果を示す.

平均粒径(Fig. 5(a))については,“particle

outline”では凝集体をそのまま一つの粒子として

計測したため GDL 側,中心部,膜側のすべてで

大きくなり,“removing agglomerate”では,複

雑に癒着した巨大粒子を計測していないため,最

も小さくなった. 最大粒径(Fig. 5(b))については, GDL 側,

中心部で“particle outline”>“detachment of coalescence”>“removing agglomerate”とな

った.部位別にはGDL側>中心部>膜側になり,

(1) (2)では GDL 側と中心部で巨大凝集体の影響

が確認された.一方で膜側は(3)と近い結果になっ

た. 最小粒径(Fig. 5(c))については,凝集体の分

割方法の影響はなく全て同じ結果となっている. TEM 像 3 視野での標本数(Fig. 5(d))はすべ

ての分割方法で中心部>GDL 側>膜側の順にな

った.“detachment of coalescence”では“particle outline”と比較すると各観察部位で約 2 割多い結

果となった. 標準偏差(Fig. 5(e))は“particle outline”と

“detachment of coalescence”では中心部>GDL側>膜側の順になった.膜側の最大粒径も小さく,

最小粒径には部位別の差がないことから,膜側で

は凝集体が極めて少ないことがわかる.

“removing agglomerate”では,観察部位別の標

準偏差について有意差が表れない. 以上のように,凝集体の粒子分割方法の違いが

計測結果に影響を及ぼすことが明らかになった.

試験時間やサイクル数,電位など試験条件によっ

て Pt 粒子の粗大化は多様に観察され,試験条件

の影響を評価する上で凝集体をどのように計測す

るかは重要である. 4. まとめ Pt/C触媒のPt粒径解析手法について,劣化後に

観察されるPt凝集体の分割方法を中心に検討を

行った.“particle outline”では,凝集体の分割

処理を施さず,数個のPt粒子で形成される複雑な

構造の巨大凝集体と,粒子が単純に隣接している

Pt粒子を区別せず同様に計測している.巨大凝集

体は分割が不可能でありこの方法が有効であるが,

単純に隣接した癒着粒子は分割して円相当径を求

めることでより実態を反映した計測になる.

(a) pristine Pt/C (b) Membrane side

(c) Center (d) GDL side

0

20

40

60

80

100

120

140

0.5

1.5

2.5

3.5

4.5

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12.5

13.5

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20.5

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22.5

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24.5

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27.5

28.5

29.5

30.5

Num

ber o

f Par

ticle

s

Pt particle diameter (nm)

(1)Particle Outline

(2)Detachment of coalescences

(3)Removing agglomerates

0

20

40

60

80

100

120

0.5

1.5

2.5

3.5

4.5

5.5

6.5

7.5

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9.5

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11.5

12.5

13.5

14.5

15.5

16.5

17.5

18.5

19.5

20.5

21.5

22.5

23.5

24.5

25.5

26.5

27.5

28.5

29.5

30.5

amou

nt o

f par

ticle

s ac

cum

ulat

ion(

%)

Pt particle diameter (nm)

(1)Particle Outline

(2)Detachment of coalescences

(3)Removing agglomerates

20nm 20nm

20nm 20nm

- - JARI Research Journal (2013.12)

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Page 4: Pt 触媒粒径解析手法の検討いて,膜側,中心部,GDL側の3ヶ所でTEM観察 を行った. 2. 2 TEM 像の画像処理 2. 2. 1 円相当径計測 Fig.1にTEM像の画像処理の加工過程を示す.

(a)Mean of Particle size

(b) Maximum Pt particle size

(c) Minimum Pt particle size

(d) Number of Pt particles

(e) Standard deviation

Fig. 5 Results of Pt particle size distribution analysis

“particle outline”は,癒着凝集体を含むが巨大

凝集体は観察されない場合などにも混同した結果

になるため,不向きである.

“detachment of coalescence”は粒成長した粒

子の分布,癒着凝集体,巨大凝集体をふまえた計

測をすることが可能になった.Pt 触媒層の劣化要

因には粒成長や凝集体,電気化学的な溶解・再析

出などが報告されており 9)~11),さまざまな粒子粗

大化の確認が必要であるため,区別して計測でき

ることは重要である.凝集体の有無に影響を受け

ずTEM像からPt粒径を適切に評価するには本手

法が適していると考えられる.

“removing agglomerate”は凝集体が明らかに

観察されない場合には簡便で十分な方法であるが,

劣化後の Pt 粒径解析には適さないと考えられる. 今後は今回検討した手法による粒径解析結果と

電気化学表面積(ECA)との相関検証や耐久試験

プロトコルによる Pt 粒径粗大化の傾向評価など

についても検討を進めて行きたい.

参考文献

1) P. J. Ferreira, et al., J. Electrochem.Soc., 152(11), A2256-A2271 (2005)

2) 加藤ら, 第 15 回燃料電池シンポジウム講演要旨集,

p.45- p.48 (2008) 3) 燃料電池実用化推進評議会, 「固体高分子形燃料電池

の劣化機構解析と劣化現象の解明」 (2011) 4) 五百蔵ら,第47回電池討論会講演要旨集1A-07 p.10-11

(2007) 5) L. M. Roen, et al., Electrochem. Solid-State Lett.,

7(1), A19-22 (2004) 6) Y. Shao-Horn, et al.,Top.Catal 46, p.285-305 (2007) 7) 吉田ら, 第 48 回電池討論会講演要旨集, 2E05, p.8-9

(2008) 8) 常盤ら, 第 54 回電池討論会講演要旨集,2H07,p522

(2013) 9) W. Xiaoping, et al., Electrochem. Solid-State Lett.,

9(5), A225-A227 (2006) 10) R. M. Darling, et al., J. Electrochem.Soc, 150(11),

A1523-A1527 (2003) 11) C. S. Matt, et al., J. Am.Chem.Soc., 130, p.8112-8113

(2008)

1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0

GDL side center membrane side

Pt p

artic

le d

iam

eter

(nm

)

(1)Particle Outline

(2)Detachment of coalescences

(3)Remove aggromerates

pristine

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

GDL side center membrane side

Pt p

artic

le d

iam

eter

(nm

)

(1)Particle Outline

(2)Detachment of coalescences

(3)Remove aggromerates

pristine

1.5

1.7

1.9

2.1

2.3

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GDL side center membrane side

Pt p

artic

le d

iam

eter

(nm

)

(1)Particle Outline

(2)Detachment of coalescences

(3)Remove aggromerates

pristine

0

1000

2000

3000

4000

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6000

0

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400

600

800

1000

1200

GDL side center membrane side

Num

ber o

f Pt P

artic

les (1)Particle

Outline

(2)Detachment of coalescences

(3)Remove aggromerates

pristine

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0

GDL side center membrane side

Sta

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ion (1)Particle

Outline

(2)Detachment of coalescences

(3)Remove aggromerates

pristine

- - JARI Research Journal (2013.12)

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