Title 尿管自然破裂をきたした転移性尿管腫瘍の1例

Author(s) 善本, 哲郎; 辻本, 幸夫; 北村, 憲也; 畔, 立子

Citation 泌尿器科紀要 (1995), 41(1): 57-60

Issue Date 1995-01

URL http://hdl.handle.net/2433/115428

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌 尿 紀要41:57-60,1995 57

尿管自然破裂をきたした転移性尿管腫瘍の1例

市立川西病院泌尿器科(医 長:田 口恵造)

善 本 哲 郎

兵庫医科大学泌尿器科学教室(主 任:生 駒文彦教授)

辻 本 幸 夫

北村泌尿器科(院 長=北 村憲也)

北 村 憲 也

市立川西病院内科(部 長:伊 藤芳晴)

畔 立 子

SPONTANEOUS RUPTURE OF THE URETER CAUSED BY

METASTATIC URETERIC TUMOR : A CASE REPORT

Tetsuro Yoshimoto

From the Department of Urology, Kawanishi City Hospital

Yukio Tsujimoto

From the Department of Urology, Hyogo College of Medicine

Kenya Kitamura

From Kitamura Clinic

Ritsuko Kuro

From the Department of Internal Medicine, Kawanishi City Hosbital

Spontaneous rupture of the right upper ureter caused by metastatic ureteric tumor in an 80-

year-old man is reported. He was admitted to our hospital with right lower abdominal pain. Ultrasonography showed mild right hydronephrosis and a low echogenicity mass under the right kidney. Drip infusion pyelography and abdominal computerized tomography showed extravasation of contrast medium around the right upper ureter. Retrograde pyelography was unsuccessful because of edema of the bladder wall. Right ureterocutaneostomy was performed under the diag-nosis of spontaneous rupture of the right ureter. The right ureter was completely obstructed 3 cm below the point where it crossed the common iliac artery. At this site, the ureteric wall was hard, thickened, and adherent to the surrounding tissue. The lesion was a metastatic adenocarcinoma. The origin of the tumor could not be found, but pancreatic cancer was suspected on the basis of elevated CEA and PSTI levels. He died of peritonitis carcinomatosis at 8 months after surgery. Thirty three cases of spontaneous rupture of the ureter and 60 cases of metastatic ureteric tumor have been reported in Japan. However, our patient is the first reported case of spontaneous rupture of the ureter caused by a metastatic ureteric tumor in the Japanese literature.

(Acta Urol. Jpn. 41: 57-60, 1995)

Key words: Spontaneous rupture of ureter, Metastatic ureteric tumor

　　　　　　　 緒　　　　　言

　転移性尿管腫瘍は本邦において60例の報告がみられ

るが「-9),上部尿路の自然破裂をきたすことは稀であ

る.今 回われわれは尿管 自然破裂をきた した転移性尿

管腫瘍の1例 を経験 した ので文献的考察 を加 えて報告

す る.

58 泌尿紀要41巻1号1995年

症 例

患者:80歳,男 性

主 訴:右 下腹部痛

既 往歴155歳 時に胃2/3切除術(胃 潰瘍?).72歳 時

に胆管結石にて胆嚢摘 出術.79歳 より糖尿病,高 血圧

症 にて加療を受けている.

家族歴=特 記すべ きことはな し

現病歴1992年8月12日 よ り右下腹部痛が出現 しし

だいに増強す るため近医を受診 した ところ精査 目的に

て当院の内科 に紹介入院 となった.当 科 へは同年8月

21日 に右尿管結石の疑いにて紹介受診 され た.

現症=身 長147cm,体 重39kg,胸 部には理学的に

異常所見を認めず.腹 部所見では右下腹部 に圧痛を認

めた.表 在 リソパ節は触知 しなか った.

入 院 時 検 査 成 績:WBC8,600/mm3,CRP3.75

mg/dl,赤 沈1時 間値22mmと 炎症所見を認 めた.

血液生化学検査ではALP16.2U,CPK144mu/ml,

Cr1.3mg/dl,T-Bi12.3mg/dl,血 糖248mg/d1と

上昇を認めた.止 血検査ではAPTTが48秒 と軽 度延

長 を認 めるのみであった.腫 瘍 マ ーカーではCAI25

が48U/m1と 上昇 してお り,CEA,CAI9-9,SCC

抗原,PSA,γ 一Smは 正常であった.尿 検査所見 では

尿糖が(2+)で あ る以外は異 常を認めなか った.

超音波所見:右 の腎孟腎杯は軽度拡張 してお り,腎

孟尿管移行部 の2cm下 方 まで軽度拡張 した尿管 を認

めた.ま た右腎下方 には内部 エコー均一 な低輝度腫瘤

を認めた(Fig.1).

X線 検査所見:DIPで は右側は軽度水腎水尿管を

示 し,右 上部尿管 の 内側 に 造影 剤 の 溢流 を 認 め た

(Fig.2).腹 部造影CTで も右上部尿管の前後に造影

剤の盗流を認めた(Fig.3).そ の後右逆行性腎孟造影

を試み るも右尿管 口付近は浮腫状で右尿管 口を確認で

きなか ったため施行 できなか った,な お,膀 胱内には

腫瘍性病変は認 めなか った.

以上 よ り右尿管破裂の診断の もとに1992年9月17日

手術を施行 した,

手術所見:右 腰部斜切開 にて後腹膜腔に到達 した.

後腹膜腔 には淡黄色で清な液が貯留 していた.右 尿管

に明 らか な破裂部位は確認で きなか ったが,血 管交叉

部 よ り3cm下 方 の尿 管は壁が硬 く肥厚 してお り,完

全な閉塞 を認めた.ま た周囲 との癒着 も強か ったが尿

管外 に明らかな腫瘍性病変は認めなかった.狭 窄部以

下の尿管 の剥離は困難 であ ったため,狭 窄部尿管を一

部生検 したのち尿管皮膚痩術を施行 した.

病理組織所見:尿 管上皮には悪性所見 を認めず,核

旨'

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Flg.LUltrasonographyshowedmildright

hydronephrosisandlowechoicmass

undertherightkidney.

Fig.2.DIPshowedtheextravasationof

contrastmediumaroundtheright

upperureter・

異型,構 造異性 のあ る管状構造 の腺 を散在性に認め転

移性腺癌 と診断 された(Fig.4).

以上 よ り右尿管転移 に よる尿管破裂 と診断 し,原 発

巣検索 のため諸検査施行 した が不 明であ り,術 後8カ

月 目に癌性腹膜炎にて死亡 した.

善本,ほ か:尿 管 自然破裂 ・転移性尿管腫瘍 59

Tablel。CauseofureteralruptureinJapan

,ρ

輿ロ

電

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4

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彰

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U「ete『a置ston¢

ureteralstcnosis

suspect・fureteralst・ne

m¢tastaticU「et¢ 「a且tumo「

且igatureofureter

b脆 」ddercancer

diverticulum

unknown

19cases(55.9%)

3(8.8%>

2(5.9%)

1■(2.9%)

1(2.9%)

且(2.9%)

1(2.9%)

6(且7.6%)

tota且 34cases

.P「esentcose

Fig.3.AbdominalCTshowedtheextravasa-

tionofcontrastmediumaroundthe

rightupPerureter・

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鍵

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Fig・4・

麹醗σ,

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ドガ ノロ ロ

釜・ 、

顯 摩麹獺:駕.Submucosalarea

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ofstenoticoftherighturetershowedmetastaticadenocarcinoma.(H&E,x25)

考 察

`

羅

,憲;拶.、

regiOn

本邦での尿管 自然破裂 は児玉 ら10)が31例を集計 して

いるが,そ の後2例 の報告ll・12》があ り自験例は34例 目

である.本 症は男性17例,女 性17例 と性差な く,患 側

は右14例,左20例 と左右差 も認めなか った.破 裂部位

は上部尿管 が24例(70.6%),中 部尿管 が4例(11.8

%),下 部尿管が1例(Z9%),不 明が5例(14.7%)

であ り上部尿管に多いのは構造的に弱いため といわれ

てい るIo).自 験例 の場合,肉 眼的に破裂部位は確認 で

きなか ったが,DIPやCTや 手術所見か ら腫瘍 の存

在 した部分の尿管の閉塞 による内圧充進に より上部尿

管が破裂 した と考 えている.原 因 としては結石に よる

ものが19例(55.9%)と 最 も多 く,転 移性 尿管腫瘍に

よるものは自験例 が本邦1例 目であ る(Table1).治

療はendouro!ogyの 普及 と進歩に よ り重症例で なけ

れば非観血的治療で治癒す る例が増加 してお り1983年

以降の報 告例では16例 中10例(62.5%)が 非観血的に

治療され ている.し か し自験例の様 に悪性腫瘍が原因

となる場合 もあ り,原 因不明の場合 はた とえ尿管破裂

Table2.OriginofmetastaticureteraltumorinJapan

stomach

kidncy

prostate

uterUS

oo且on

breast

panc「eas

gallbladdcr

r㏄tum

testis

pelvis

bileduct

unknown

25cascs(41.0%)

且4(23,0%)

3(4.9%)

2(3.3%)

2(3.3%)

2(3.3%)

2(3.3%)

2(3.3%)

2(3.3%)

1(且.6%)

1(1.6%)

1(1.6%)

4(6.6%)

total 61cases

が軽症 であって も悪性腫瘍を念頭に置 く必要があ ると

考える.転 移性尿管腫瘍 をPresmanD.andEhrlich

L.13》は1)組 織学的に腫瘍細胞が尿管の血管周囲 リソ

バ組織あるいは血管に認 め られ る,2)尿 管壁の一部

に腫瘍細胞が見 られ隣接組織か らの直接浸潤がない,

のいずれか一方を満たす ことと定義 してお りこれが一

般 に認 め られてい る,自 験例 の場合,手 術所見 よ り尿

管外に明 らか な腫瘍性病変は認めず,病 理組織所見で

は尿管上皮には悪性所見 は認めず尿管壁に腫瘍細胞を

認 めていた.以 上 よ り転移性尿管腫瘍 と判 断 した.本

邦 における転移性尿管腫瘍はわれわれの調 べたか ぎ り

では 自験例を含め61例 報告 され てい る.原 発巣は胃が

25例(41%)と 最 も多 く,つ いで腎が14例(23%)で あ

り,両 者が60%以 上を占めていた(Table2).自 験例

の場合,25年 前に 胃2/3切 除術 を受けてお りその詳細

は不 明であったが,胃 カメラでは異常所見は認めなか

った.ま た各種X線 検査,腹 部超音波検査にて,腎,

結腸,直 腸,胆 管には明 らか な腫瘍性病変は認めず,

他院に て摘出 された胆嚢 も悪性所見は認め られなか っ

た.ま たPSA,γ 一Smは 上 昇 しておらず,前 立腺,

60 泌尿紀要41巻1号1995年

陰嚢内容に も触診上は異常所見を認めなか った.し か

し術 前よ り48U/m1と 軽 度上昇 していたCA125が

術後283U/mlと 上昇 し て お り,ま た 術後PSTI

(pancreaticsecretorytrypsininhibitor)カ ミ113ng!

m1と 上昇 していることよ り膵癌 の存在を示唆 された

が確定診断はえ られ なか った.原 発巣 と転移部位が明

らか な転移性尿管腫瘍52例 では 患側については 右15

例,左25例,両 側12例 で,転 移部位は64尿 管中上部20

例,中 部23例,下 部24例 と共に明 らかな差を認めなか

った.ま た原発巣 と転移部位 との関係をみ ると,胃 原

発24例33尿 管中では転移部位は上部 が15例,中 部が12

例,下 部が9例 であ りやや上部尿管 に多い傾向があっ

た.腎 原発10例10尿 管では転移部位は上部が1例,中

部が4例,下 部が5例 であ り申部尿管以下に多いのは

腎摘出後の遣残尿管転移が多いためであ ると考 える.

転移性 尿管腫瘍の予後は藤本 ら1>は75%が6ヵ 月以 内

に大薮 ら6)は半数以上が1年 以内に死亡 していると報

告 している様に全身転移 の1つ としておこることが多

く不 良であ る.自 験例 も術後8ヵ 月で死亡 してお り予

後不 良であった。

結 語

80歳,男 性で尿管 自験破裂をきた した転移性尿管腫

瘍 の1例 を報告す るとともに本邦報告の尿管自然破裂

34例,転 移性尿管腫瘍61例 について文献的考察を行 っ

た.

本論文の要旨は 第142回 日本泌尿器科学会関西地方会にて

発表した.

文 献

1)藤 木 宣 正,市 川 靖 二,中 野 悦 次,ほ か=転 移 性 尿

管腫 瘍 の1例 西 日泌 尿49=137-142,1987

2)三 浦 秀 信,岩 佐 厚,菅 尾 英 木,ほ か:子 宮 頸 癌

を原 発 とした 転 移 性 尿 管 腫 瘍 の1例.泌 尿 紀 要

35=1577-1580,1989

3)田 村 隆 美,上 原 徹=直 腸 原 発 転移 性尿 管腫 瘍.

臨 泌43=793-796,1989

4)片 山 孔 一,加 藤 良成,江 左 篤宣,ほ か:転 移 性 尿

管 腫 瘍 の1例.泌 尿 紀 要36:343--346,1990

5)横 木 広幸,山 崎 陽 治,石 部 知 行=転 移 性 尿 管 腫 瘍

の1例.西 日泌尿53=1070-1072,1991

6)大 薮裕 司,鮫 島 博,江 藤 耕 作:転 移 性 尿 管 腫 瘍

(腺 癌)の2例.泌 尿 器 外 科3(臨 増)=467-470,

1990

7)入 江 啓,青 輝 昭,平 田 滋:胆 嚢腺 癌 尿 管転

移 の1例.泌 尿 器 外 科4(9):1009-1011,1991

8)吉 永 英 俊,松 下 和 弘,安 芸雅 史,ほ か=遣 残 尿管

転 移 を 起 こ した 腎細 胞 癌 の1例.西 日泌 尿54:

482-485,1992

9)久 保 博 幸,川 原 和 也,西 山 賢龍,ほ か=腎 摘 除 術

9年 目に 発 見 され た腎 細 胞 癌 の遺 残 尿 管 転 移 の1

例.西 日泌 尿5511129-1133,1993

10)児 玉 光 博,植 田 覧:尿 管 自然 破 裂 の1例.西 日

泌 尿53:258-262,1991

11)米 山威 久,保 坂 恭 子,清 河 英 雄:尿 管 自然破 裂 に

よ る尿管 結 石 の尿 管 外 脱 出.臨 泌44:809-・811,

1990

12)永 松 秀 樹,山 田拓 己,川 上 理,ほ か:上 部 尿 路

自然破 裂 の2例.西 日泌 尿55:1273-1277,1993

13)PresmanDandEhrlichL:Metastatic

tumorsoftheureter・Jurol59:3i2-325,

1948

(ReceivedonApril5⊃1994AcceptedonSeptember24,1994)