小 19 猫の尿管閉塞にsubcutaneous ureteral bypassを使用し ...小 19...

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19 猫の尿管閉塞に Subcutaneous Ureteral ByPass を使用した 8 症例 1 1尿管 ○麻生暁秀 1)2) 神尾知佐子 1) 安保美埜里 2) 田内利樹 1) 大杉真由子 1) 豊川 2) 岩崎宗弘 2) 花田紗季 1) 1)動物医療センター・ALOHA 2)あそう動物病院 20 会陰尿道造瘻術を実施した猫 33 例における予後調査 ○川﨑美苗 髙島一昭 髙島久恵 小笠原淳子 水谷雄一郎 陶山雄一郎 坂本 惠 山根 剛 小西 翔 谷 亮真 伊藤千恵子 山根義久 公益財団法人 動物臨床医学研究所・鳥取県 1)動物医療センター・ALOHA 2)あそう動物病院 1.はじめに:近年、猫の尿管閉塞は増加傾向にあり、内科療法への反応の悪さから一般的には外科手術が選択され る場合が多い。今回当院に来院した尿管閉塞の猫のうち Subcutaneous Ureteral ByPass(以下SUB)を使用した症 例8例11尿管について治療成績や合併症について検討した。 2.材料および方法:症例は2014年9月~2016年8月までに当院に来院した猫の尿管閉塞26例で内科療法、 尿管ステント、SUB、尿管切開、尿管膀胱吻合術を実施した猫のうち、SUBを設置した8症例 1 1尿管を対象とした。 全ての症例で NorforkVets 社のSUBシステムを使用した。3例に関しては両側の腎臓に設置し、皮下で PantsPort を介して膀胱と接続した。この 8 例のうち2例は腎機能の残存が不明または患者の状態がかなり悪いため腎瘻カテー テルを挿入し、腎数値の低下を確認した後にSUBを設置した。 3.成績: 症例の品種は 7 例が雑種、1 例がアメリカンショートヘアで、性別は避妊雌 4 例、去勢雄 2 例、雌 2 例であっ た。症例の年齢中央値は9.13歳(3~17歳)であった。1 1尿管の閉塞のうち 9 例は尿管結石による閉塞で、2 例が retrocaval ureter(後大静脈下尿管)であった。症例のなかには明確な腎盂拡張、尿管拡張を呈さず、レントゲ ンやエコー検査で診断がつかず、CT検査で確定した症例が2例あった。現在 8 例中 5 例が生存中で、死亡した 3 例 のうち 1 例は悪性腫瘍による転移、1 例は食道重積によって死亡し、SUBを入れた症例で、周術期に死亡した症例 は 1 例だった。周術期合併症はKinkingが 1 例、腎瘻ポートからの一時的な腹腔内への少量の尿の漏出が 2 例(2 ~3日で自然消失)であった。中長期的な合併症では 1 例に腎周囲の後腹膜腔への好酸球主体の軽度液体貯留が認め られSUBへの異物反応を疑い、プレドニゾロンを投与したところ、消失した。術中に腎盂から採取した尿の細菌培 養では 1 例が細菌の繁殖を認め、SUB設置後に細菌性の膀胱炎を起こした症例は 1 例であった。以上のようにSU Bは猫の尿管閉塞に対して非常に有効な方法だと思われるが、尿管閉塞の症例がかなり若齢の症例も多い事、ステン トと同様、長期的に見ると閉塞などの合併症も起こってくる可能性も考えられることから、すべての症例にSUBを 使用するのではなく、年齢や閉塞部位、患者や尿管の状態によって術式を選択すべきだと考えている。 1.はじめに:会陰尿道造瘻術は、尿道閉塞を繰り返す雄猫や尿道カテーテルによる閉塞の解除が困難である症例に おいて一般的に行われる。術後合併症は、尿道瘻狭窄や創部裂開、尿路感染症(UTI)、下部尿路疾患(FLUTD) の 再発などが報告されている。しかし、術後長期予後に関する調査報告例は少なく、包皮粘膜と尿道粘膜を縫合する手 法(包皮粘膜縫合法)における予後については演者の調べる限り報告がない。今回、当院で包皮粘膜縫合法による会 陰尿道造瘻術を実施した猫を対象に、本術式の適応および治療成績について検討した。 2. 材料および方法:倉吉動物医療センターにて本術式を適応した猫を対象とし、カルテ記録を基に次の 4 項目につ いて回顧的調査を実施した:①シグナルメント、②来院理由・術前診断、③尿道閉塞 /FLUTD の既往歴・手術適応理由、 ④術後経過。④については、i) 短期(<1 か月)、ii) 中期(<4 か月)、iii) 長期(<6 か月)に分類し、各期間における合 併症や再発の有無とその内容について評価した。 3. 結果:調査対象症例は計 33 例で、全頭が雑種猫、雄(未去勢)12 頭、(去勢済み)21 頭、年齢 1 ~ 10 歳(中央値 3歳)、体重2.1 ~7.65 kg(中央値5.1 kg)であった。全症例の約70% が何らかの排尿異常(排尿なし13例、排尿困難・ 頻尿 8 例、血尿・尿失禁 1 例)を主訴に来院していた。来院時の尿検査および臨床所見に基づく診断は、ストルバイ ト結晶が最多(12 例)で、ストルバイト結晶 +UTI8 例、ストルバイト結晶 +UTI+ 栓子 6 例、UTI3 例、結晶 + 栓子 2 例、尿道損傷 2 例と続いた。主な手術適応理由は、反復的な尿閉の再発 10 例、内科療法にて改善しなかったもの 9 例、尿道狭窄を認め再閉塞の可能性が高いと考えられたもの 6 例、導尿が不可能であったもの 3 例、その他 4 例であっ た。術後経過の追跡期間は 2 週間~ 12 年と様々(中央値 3 年)であった。短期経過の追跡は 33 例全てにおいて可能 であり、うち 8 例で合併症(UTI6 例、尿道瘻狭窄 2 例、治癒遅延 2 例)が認められた。中期経過の追跡が可能であっ たのは 27 例で、この間の合併症は UTI3 例のみであった。長期経過を追跡できた症例は 24 例あり、うち 3 例で重度 FLUTD/UTI の再発を認めた。その他の症例(短期 18 例、中期 21 例、長期 21 例)においては合併症や再発をほと んど認めず(0 ~ 2 回 / 年以下)、経過は良好であった。 4.考察:本調査で認められた術後合併症は、尿道瘻狭窄・治癒遅延・UTI の 3 種のみで、いずれも短期経過での発 症が主であった。Wilson 法では、この他に長期経過において尿道瘻開口部の狭小化や周囲被毛の内反、尿やけによる 皮膚炎などが問題となりやすい。本調査では、2 例において縫合糸反応性肉芽腫が原因とみられる尿道瘻狭窄を認め たものの、その他、Wilson 法で問題とされる長期合併症は一切認めなかった。また、術後も術前同様の会陰部の外観 を維持できる点も、包皮粘膜縫合法を採用する利点であると考えられた。 68

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    猫の尿管閉塞に Subcutaneous Ureteral ByPass を使用した 8 症例 1 1尿管○麻生暁秀 1 ) 2 )  神尾知佐子 1 )  安保美埜里 2 )  田内利樹 1 )  大杉真由子 1 )  豊川 剛 2 )  

    岩崎宗弘 2 )  花田紗季 1 )  

    1)動物医療センター・ALOHA 2)あそう動物病院

    小 20

    会陰尿道造瘻術を実施した猫 33 例における予後調査○川﨑美苗 髙島一昭 髙島久恵 小笠原淳子 水谷雄一郎 陶山雄一郎 坂本 惠 山根 剛 小西 翔 

    谷 亮真 伊藤千恵子 山根義久

    公益財団法人 動物臨床医学研究所・鳥取県

    1)動物医療センター・ALOHA 2)あそう動物病院1.はじめに:近年、猫の尿管閉塞は増加傾向にあり、内科療法への反応の悪さから一般的には外科手術が選択される場合が多い。今回当院に来院した尿管閉塞の猫のうち Subcutaneous Ureteral ByPass(以下SUB)を使用した症例8例11尿管について治療成績や合併症について検討した。2.材料および方法:症例は2014年9月~2016年8月までに当院に来院した猫の尿管閉塞26例で内科療法、尿管ステント、SUB、尿管切開、尿管膀胱吻合術を実施した猫のうち、SUBを設置した8症例 1 1尿管を対象とした。全ての症例で NorforkVets 社のSUBシステムを使用した。3例に関しては両側の腎臓に設置し、皮下で PantsPortを介して膀胱と接続した。この 8 例のうち2例は腎機能の残存が不明または患者の状態がかなり悪いため腎瘻カテーテルを挿入し、腎数値の低下を確認した後にSUBを設置した。3.成績:症例の品種は 7 例が雑種、1 例がアメリカンショートヘアで、性別は避妊雌 4 例、去勢雄 2 例、雌 2 例であった。症例の年齢中央値は9.13歳(3~17歳)であった。1 1尿管の閉塞のうち 9 例は尿管結石による閉塞で、2例が retrocaval ureter(後大静脈下尿管)であった。症例のなかには明確な腎盂拡張、尿管拡張を呈さず、レントゲンやエコー検査で診断がつかず、CT検査で確定した症例が2例あった。現在 8 例中 5 例が生存中で、死亡した 3 例のうち 1 例は悪性腫瘍による転移、1 例は食道重積によって死亡し、SUBを入れた症例で、周術期に死亡した症例は 1 例だった。周術期合併症はKinkingが 1 例、腎瘻ポートからの一時的な腹腔内への少量の尿の漏出が 2 例(2~3日で自然消失)であった。中長期的な合併症では 1 例に腎周囲の後腹膜腔への好酸球主体の軽度液体貯留が認められSUBへの異物反応を疑い、プレドニゾロンを投与したところ、消失した。術中に腎盂から採取した尿の細菌培養では 1 例が細菌の繁殖を認め、SUB設置後に細菌性の膀胱炎を起こした症例は 1 例であった。以上のようにSUBは猫の尿管閉塞に対して非常に有効な方法だと思われるが、尿管閉塞の症例がかなり若齢の症例も多い事、ステントと同様、長期的に見ると閉塞などの合併症も起こってくる可能性も考えられることから、すべての症例にSUBを使用するのではなく、年齢や閉塞部位、患者や尿管の状態によって術式を選択すべきだと考えている。

    1.はじめに:会陰尿道造瘻術は、尿道閉塞を繰り返す雄猫や尿道カテーテルによる閉塞の解除が困難である症例において一般的に行われる。術後合併症は、尿道瘻狭窄や創部裂開、尿路感染症(UTI)、下部尿路疾患(FLUTD) の再発などが報告されている。しかし、術後長期予後に関する調査報告例は少なく、包皮粘膜と尿道粘膜を縫合する手法(包皮粘膜縫合法)における予後については演者の調べる限り報告がない。今回、当院で包皮粘膜縫合法による会陰尿道造瘻術を実施した猫を対象に、本術式の適応および治療成績について検討した。2. 材料および方法:倉吉動物医療センターにて本術式を適応した猫を対象とし、カルテ記録を基に次の 4 項目について回顧的調査を実施した:①シグナルメント、②来院理由・術前診断、③尿道閉塞 /FLUTD の既往歴・手術適応理由、④術後経過。④については、i) 短期(