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Title 前立腺肥大症に対する経尿道的高温度治療 --International Prostate Symptom Score(I-PSS)による評価-- Author(s) 荒井, 陽一; 大西, 裕之; 寺井, 章人; 大石, 賢二; 竹内, 秀雄; 吉田, 修 Citation 泌尿器科紀要 (1993), 39(11): 1003-1009 Issue Date 1993-11 URL http://hdl.handle.net/2433/117985 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

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Page 1: Title 前立腺肥大症に対する経尿道的高温度治療 --International ......Title 前立腺肥大症に対する経尿道的高温度治療 --International Prostate Symptom

Title 前立腺肥大症に対する経尿道的高温度治療 --InternationalProstate Symptom Score(I-PSS)による評価--

Author(s) 荒井, 陽一; 大西, 裕之; 寺井, 章人; 大石, 賢二; 竹内, 秀雄;吉田, 修

Citation 泌尿器科紀要 (1993), 39(11): 1003-1009

Issue Date 1993-11

URL http://hdl.handle.net/2433/117985

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

Page 2: Title 前立腺肥大症に対する経尿道的高温度治療 --International ......Title 前立腺肥大症に対する経尿道的高温度治療 --International Prostate Symptom

泌尿 紀 要39=1003-1009,1993 1003

前立腺肥大症に対する経尿道的高温度治療一lnternationalProstateSymptomScore(I -PSS)に よ る 評 価 一

京都大学医学部泌尿器科学教室(主 任=吉 田 修教授)

荒井 陽一*,大 西 裕之,寺 井 章 人,大 石 賢 二

竹 内 秀雄,吉 田 修

TRANSURETHRAL MICROWAVE THERMOTHERAPY

FOR BENIGN PROSTATIC HYPERPLASIA :

CLINICAL EVALUATION WITH INTERNATIONAL

PROSTATE SYMPTOM SCORE (I-PSS)

Yoichi Arai, Hiroyuki Onishi, Akito Terai,

Kenji Oishi, Hideo Takeuchi and Osamu Yoshida

From the Department of Urology, Faculty of Medicine, Kyoto University

Forty patients with symptomatic benign prostatic hyperplasia were treated with a single session of transurethral microwave thermotherapy (TUMT) using a Prostatron. The clinical effectiveness was evaluated by analyzing the subjective and objective responses following the treatment. The International Prostate Symptom Score (I-PSS) and quality of life (QOL) scale were used to evalu-ate the subjective symptoms. At three months after treatment, significant improvements in I-PSS

(p<0.0001). QOL (P<0.0001), and peak flow rate (Qmax) (p<0.05) were observed. Improvement of both I-PSS and Qmax was found in 90% (18/20) of the patients at 2 months. Although 15

patients noted transient urinary retention and 15 patients had mild to moderate macroscopic hema-turia immediately after TUMT, no severe adverse effects occurred during the follow-up period. A significant correlation was found between I-PSS improvement and the total thermal dose delivered. However, the thermal dose could not be predicted in each case.

The preliminary findings suggest that TUMT by Prostatron is safe and effective as a nonsur-

gical treatment for benign prostatic hyperplasia. The clinical response seems to be thermal dose dependent. I-PSS is clinically sensitive and is useful in practice.

(Acta Urol. Jpn. 39: 1003-1009, 1993)

Key words: Benign prostatic hyperplasia, Thermotherapy

緒 言

前立腺肥大症に よる排尿障害の治療は従来,薬 物療

法 と手術療法が主流であった.し か し最近,よ り侵襲

が少な く短期間で治療 できる方法 として種 々の方法が

報告 され るようになって きた.そ の中で も特に温熱療

法の有用性が注 目されつつあ る1}3).

われわれ もこれ まで マイ クロウェーブに よる経直腸

的温熱療法の治療 をおこないその成績 についてはすで

に報告 した4).こ の方法では,経 直腸的 な加温のため

に前立腺肥大症 の組織に十分な熱変性 を引 き起 こす ほ

*現:倉 敷中央 病院 泌尿器科

どの温熱効果 をえることが困難 であ った。ついで経 尿

道的に前立腺組織を加温す る方法がSapozinkら5)に

よ り臨床応用 された.し か し,彼 らの報告では,尿 道

粘膜を保護す るため十分な加温が えられず,そ のため

8な い しIO回 の治療が必要 であった.し か もその成績

は必ず しも満足すべ きものではなか った.

最近,Devonecら1・2)は,尿 道粘膜を冷却装置で保

護 しながら単回で前立腺を高温度に加温す ることがr'if

能な温熱療法装置を開発 した。 これは従来の温熱療法

と異 な り,前 立腺を45。C以 上の高温度に加熱 して行

うもので,transurethralthermotherapy(TUMT)

と呼んで区別 され るようにな った.本 邦 で も馬場 ら3)

福庭 ら5)によってTUMTの 短期効果についてす でに

Page 3: Title 前立腺肥大症に対する経尿道的高温度治療 --International ......Title 前立腺肥大症に対する経尿道的高温度治療 --International Prostate Symptom

IOO4 泌尿紀要39巻11号1993年

良 好 な 成績 が 報告 され た.今 回わ れ わ れ も前立 腺 肥 大

症 に 対 し,TUMTの 治 療 を行 った の で そ の成 績 につ

い て 報 告す る.

前 立 腺肥 大 症 の 自覚 症 状 の評 価 につ い て は,こ れ ま

で 施 設 に よっ て異 な った方 法 が と られ,こ の こ とが 施

設 問 や 治療 法 別 の成 績 の評 価 を 困 難 に して いた.そ こ

で 今 回 の検 討 では,1991年 パ リに てWHOのThe

InternationalConsensusCommitteeが 答 申 した

Internationalprostatesymptomscore(1-PSS)と

QOL評 価 法7)を 用 い て 自覚症 状 の評 価 を行 った .

対 象 と 方 法

1992年9月 よ り1993年2月 までに京都大学医学 部泌

尿器科で排 尿障害 を主訴 とす る前立腺 肥 大症41例 に

TUMTを 施行 した.う ち1例 は治療前 よ り尿道 にカ

テーテル留置 がなされていたため今 圓の検討では40例

を対象 とした.16例 は薬物に よる治療歴があ り,う ち

10例 で は アンチア ン ドロゲン剤 の 投与がなされてい

た.薬 物療法 の行わ れて いた 症例はTUMTの2週

聞前に中止 し,TUMT後 の観察期間中は薬物療法な

どの他の治療 は行わなかった.

患者 背景 の詳細をTablelに 示 した.前 立腺体積

は経直腸的超音波断層法 を用い,Terrisら8)の 方法に

て算 出 した.内 腺部の体積 も同様な方法 にて求めた.

前立腺尿道長 も経尿道 的超音波断層法にて計測 した,

治療装置はProstatron(TechnomedInternatio-

nal社)を 用 いて行 い,secondversionの ソフ トウ

ェァProstasoft2に 従 って行 った.Prostasoft2で

は最大 出力が50Watt,尿 道 内最高温度44.5。C,直 腸

内最高温度42.5℃ に設定 されている.装 置全体 の構

成についてはす でに報告 されて い るの で 省略す る2・3)

まず尿道に粘膜麻酔剤を施 して約20分 間の後22Fr

の治療用カテーテルを尿道 内に留置 し,同 時に直腸 内

に温度セ ソサー一のプローブを挿入す る.第6例 目か ら

は粘膜麻 酔剤 とともにイ ン ドメサ シソ系の座剤 を併用

して,尿 道の加温か らくる刺激症状を緩和す るよ うに

Tablel.Baselinepatientassessment(n==40)

McanSDRange

Table2. Intemat三 〇nalprostatesymptomsco「e

(modi丘ed)

Agc

Pr・stateV・lumc(cm3)

ProstatcLength(mm)

1-PSS(O-35)拳

Obstructive(0-15)

Irritative(o-20)

QOL(0-6)

71.6

38,1

42.6

21,3

12.5

9.2

4,6

7,3

14.9

7.6

7.3

4.7

4,3

1.1

55-84

15-85

30-58

10-35

4-25

0-16

1-6

.InternationalProstateSymptomScore

L排 尿 後,尿 が まだ残 ってい る感 じが します か?

0.な い

1.あ ま りない(5回 に1回 よ り少 ない)

2.と き どきある(3-5回 に1回 ぐらい)

3.2回 に1回 ぐらいあ る

4.し ば しば ある(2回 に1回 よ り多 い)

5.ほ とん どい つ もある

2.排 尿後2時 間以内 に もう一度行 かな くては ならない こ

とがあ ります か?

0.な い

1.あ ま りない(5回 に1回 より少 ない)

2.と きど きあ る(3-5回 に1回 ぐらい)

3.2回 に1回 ぐ らいあ る

4.し ば しばあ る(2回 に1回 よ り多い)

5.ほ とん どいつ もあ る

3.排 尿の途 中で,尿 が途 切れ るこ とがあ りますか?

0.な い

Lあ まりない(5回 に1回 よ り少 ない)

2.と きどきある(3-5回 に 置回 ぐらい)

3.2回 に 監回 ぐらいあ る

4.し ば しばある(2回 に1回 よ り多い)

5.ほ とん どいつ もある

4.排 尿 した くな る と,が まんす る ことがつ らい ことがあ

りますか?

0.な い

Lあ ま りな い(5回 に1回 よ り少 ない)

2.と き どきある(3-5回 に1回 ぐらい)

3.2回 に ⊇回 ぐらいあ る

4.し ば しば ある(2回 に1回 よ り多 い)

5.ほ とん どいつ もある

5.尿 ので る勢 いが弱 い ことがあ ります か?

0.な い

1.あ ま りな い(5回 に 孟回 よ り少 ない)

2.と き どきある(3-5回 に1回 ぐらい)

3.2回 に1回 ぐらい ある

4.し ば しば ある(2回 に 旦回 よ り多 い)

5.ほ とん どいつ もある

6.排 尿 を始 める とき.い きむ必要 があ ります か?

O.な い

1.あ ま りない(5回 に1回 よ り少 ない)

2.と きどきある(3-5回 に1回 ぐらい)

3.2回 に1回 ぐらいあ る

4.し ば しばある(2回 に1回 より多い)

5.ほ とん どいつ もある

7,夜 床 につ い てか ら朝 起 き る まで何 回排 尿 に起 きます

か?

0.0回

1.1回

2.2回

3,3回

4.4回

5.5回 以 上

8.排 尿に 関す る現 在の状 態が今 後ず っ と続 くとした らど

の よ うに感 じますか?

0.非 常 に満 足

1,満 足

2.大 体 満足

3.半 分満足

4.や や不満

5.不 満

6.ま った く我慢 で きない

Page 4: Title 前立腺肥大症に対する経尿道的高温度治療 --International ......Title 前立腺肥大症に対する経尿道的高温度治療 --International Prostate Symptom

荒井,ほ か:前 立腺肥大症 ・高温度治療

した.治 療 は 最初 の尿道冷却時間5分,加 温時間55

分,計60分 で終 了す る.原 則 として外来治療 とし,治

療終了後は 自排 尿を確認 してか ら帰宅 させ た,自 尿後

の腹部超音波断層像にて多量 の残 尿 が 認 め られた場

合は,導 尿 または尿道 カテーテル留置 とした.

患老 の 自覚症状 に つ いて は,1-PSSの 質問 紙表

に患者 自身に直接記入 しても らい,こ れをス コア化 し

た.1-PSSは 自覚症 状 につ い て の7つ の質問項 目か

らな り,各 質問に対 して6つ の答が用意 されている.

各項 目毎 に0~5点 の ス コア を つけ,合 計値(0~

35)に て表 した.た だ し,1-PSSで は各質問項 目が

すべて 「xax1ヵ 月間の症状」 につ いて質問する内容

にな ってお り,TUMTの 短期成績を評価す るには質

問形式がやや不適当 と考え られた.そ こで各項 目につ

いて 「現在の症状」に関す る質問形式 に修正 した もの

を作成 して用 いた.質 問紙表 には排尿 に関す るQOL

(0~6)の 項 目も加 えて検討 した(Table2).

他覚的所見 の評価は,尿 流量率検査,残 尿量測定 に

ておこな った.ま た尿検査 も定期的に行い,尿 路感染

の有無を観察 した.治 療後2~3ヵ 月後には射精 障害

の有無について問診にて調査 した.自 覚症状 および他

覚的所見は,治 療前 と治療後3ヵ 月 目までは1ヵ 月毎

に評価す ることとした.

統計学的検定 に はunpairedWilcoxontestを 用

いた.

1005

2)自 覚症 状 の変 化

治 療1週 目まで は 尿 道 粘膜 の浮 腫 に よる と思 わ れ る

自覚 症 状 の増 悪 傾 向 が み られ た が,多 くの症 例 で2~

3週 後 か ら改善 傾 向 が 現 れ た.1-PSS合 計 値 の1カ

月毎 の 変 化 をFig.1に 示 した.治 療 前 の1-PSSの

合 計 値2L3±7.31(mean±S.D.)は1ヵ 月 目で13。5

30

25

20

望 ・5

5

寧Pく0.0001

車 庫

結 果

1)治 療所見

40例 全例で治療が完遂 された.温 度計測 システムに

使用されてい る光 ファイバ ーの不調のために,5例 で

治療用 カテーテルの交 換が必要であ った.1例 では尿

道 口がやや狭いために金属 ブジーに よる拡張 の後に治

療用カテーテルを 挿入 した.前 立腺長 が30~55mm

の範囲にあった38例 ではblackcatheterを 使用 した

が,そ れ以上 で あった 他 の2例 にはwhitecathetcr

を用いた.1例 では施行中に便意が著明 となったため

に治療 を一時中断 し,数 日後に再開 して完遂 された.

治療中,尿 道 内温度が38。C以 上になる とほぼ全例

で尿意 を訴え,特 に強い症例 では カテーテル周囲 より

排尿が認 められた.し か し,マ イ クロウェーブの出力

を一時5Watt下 げ ることで治療は完遂できた.症 例

6か らは,治 療20分 前にイ ン ドメサシ ン座剤を予 防的

に使用 したところ,上 記の刺激症状 がかな り緩和 され

ることがわか った.2例 において治療中に陰茎部の疹

痛 ・不快 感を訴 え,出 力 を5~10Watt下 げる と症

状は消失 した.

Fig・1・

20

15

玉10

5

Ba8011noMonth1

{n=40}⊂n=32}

閣onth2Month3

{n=23,(n=14}

ChangeinInternationalProstateSym-

ptomScore.Mean±StandardDeviatlon

●一→Irritativ●sealO

〔レ.くコObstructl》oscale

ゆ■

*P《0.001》88a50line

帥P《0.OOOIVSB8setine

寧掌

唖8a8elineMonth1麟onth2Month3

(n=40}{n=32}〔n=23}(n=14,

Fig.2.Changeinirritativeandobstructive

scale.Mean±StandardDeviation

mt/sec

20

15

ε1。

5

PくO.㎜1P《0.001 Pく0,05

Ba5el曇noMonthlMon電h2Mon豊h3

(n=40}{n=27)(n=22)(n=14}

Fig.3.Changeinpeaknowrate(Qmax).

Mean±StandardDeviation

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1006

0

泌尿紀要39巻11号1993年

一1

8-2

一3

P《0.OOOI P(O.001 P《0.005

Basel薗neMon電hlMon電h2Month3

Fig.4.ChangeinSiroky'sSDofpeakHow

rate.Mean±StandardDev三ation

郵 。o

睾god80

窪ll

l::

1:l

l1:隻:1:

'

'''

''

ρ」'

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''J

ρP

、噺噺亀1

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㌦oOmax

ARV

''

'旧'一 ・■6'

Baseline

Fig.5・

墨1・

窪o

き.10

岩 一20

吉 一30

隻 一40

Month1 Month2 Mon電h3

ImprovementofI-PSS,peakflowrate

(Qmax)andpostvoidedurine(RV).

o

0

  くヨリ

。 麗8。 ・・ 。

a80eo

o

oo

21t26(81%1

10

一1005101520

amax,CHANGEFROM8ASELI閥E{mVsee}

1・

1二::

1覗

望 一⑳

o

マむ

。 罪%宅 。()

800

o

18〆20(90%)

O

一10-5051015202530

0m8麗,CHANG巨FROM8ASEL旧E{ml18●o}

Fig.6。ScattergramofchangeinI・PSSand

Qmaxatlmonth(upper)and2months

(lower).

±6.2と 有意(p<O.OOOI)に 減 少 して いた.1-PSSは

2ヵ 月 目で も10.9±5.6と さ らに 減 少 し,3ヵ 月 目で

10.5±5.8と ほ ぼ横 ば いに な る傾 向 が 認 め られ た.

自覚 症 状 をirritativesymptomとobstructive

symptomに 分 け て,そ の 変 化 をFig・2に 示 した ・

いず れ の 症 状scoreも 治療1ヵ 月 目 か ら 有 意 に減 少

し,2~3ヵ 月 目で も平 行 して 減 少 して い た.

3)他 覚 的所 見 の変 化

最 大 尿 流 量 率(Qmax)は,治 療 前 の6.9±2.6

(mean±s.D.)ml/secか ら1カ 月 目 に はlo・6±3・8

ml/secと 有 意(p<0。0001)に 改善 し,そ の傾 向 は2

~3カ 月 目で も持 続 して いた(Fig.3).Sirokyら9)に

よるnomogramか らQmaxの 標 準 偏 差 値(Qmax

SD)を 求 め て そ の変 化 を 検 討 した が,Qmaxと ほ ぼ

同様 に改 善 して い る こ とが 認 め られ た(Fig.4).残 尿

量 で は,治 療 前 の81.3±78.5(mean±S・D・)m1か ら

1ヵ 月 目で は65.1±61。Om1と 有 意(p<0.05)に 減

少 して い た.し か し,2ヵ 月 後,3カ 月 後 に お け る残

尿量 は そ れ ぞ れ6L1±6L4,62.2±60.Omlで あ り,

改善 傾 向 は それ ほ ど顕 著 では な か った.

4)自 覚 症 状 と他 覚所 見 の変 化 お よびQOL

自 覚症 状 と 他 覚所 見 の変 化 を 比 較 す る た め に,1-

PSS,Qmaxお よび残 尿 量 につ い て 治 療 前 値 に 対す

る 改善 率 を 検 討 した.Fig.5に 各parameterの 改善

率 と して,1-PSSの 減 少 率,Qmaxの 増 加 率,残 尿

量 の減 少 率 の お の お の の平 均 値 の変 化 を 示 す.Qmax

と1・PSSの 改善 率は 治 療 後1~2ヵ 月 目が 最 も顕 著

で あ り,そ の 後 は 大 き な変 化 が み られ ない こ とが わ か

る.一 方,残 尿量 の減 少 率 か らみ る と,1ヵ 月 目で は

ほ とん ど変 化 が な く,そ の後 に 改善 傾 向を 示 す もの の

そ の程 度 は1-PSSやQmaxに 比 して 緩 徐で あ った.

自覚 症 状 と他 覚 所見 の変 化 が1~2ヵ 月 目で 最 も顕

著 で あ る こ とか ら,1カ 月 目 と2ヵ 月 目 に お け る1-

PSSとQmaxの 変 化 を 分 散 図(scattergram)に て

検討 した(Fig.6).1・PSSとQmaxの 両 者 と もに

改善 し た 症 例 は,1ヵ 月 目で81%(21126)で あ り,

2ヵ 月 目で は90%(18!20)に 達 して いた.

排 尿 に 関す るQOLス コア で は,治 療 前 の4.6±

1.1(mean±S.D.)か ら,1ヵ 月 目2.9±1.4,2カ 月

目2.1±1.1,3ヵ 月 目2.5±1.2,と い ず れ も有 意(p

<O.OOOI)に 改善 して い た(F三g.7).QOLス コア の

変 化 は1-PSSやQmaxの それ とほ ぼ平 行 して お

り,自 他 覚 所見 の動 向 を よ く反 映 して い る と考 え られ

た,

5)前 立 腺 体 積 と 自覚 症 状 の変 化

治 療前 の前 立 腺 体 積 と2カ 月 目の1・PSSの 改 善 率

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6

§

4

603

2

1

荒井,ほ か:前 立腺肥大症 ・高温度治療

ゆ伊《0.0001

3ase舗 胸eMonthlMonth2

`n=40}(n蹴32}(n=23,

Month3

(n含141

罫董9.7,Change玉nquaiityof蓋ife(QOL)scale。

霧100

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50馨go6壌ooρ ◎o睾5◎ 筆ooo200饗 鋼

OOSEΩoul}

1007

(37.5%)で あったが,経 過観察 のみ で数 四以 内で消

失 した.た だ し,1例 では娼血 が著明で膀胱 タ ンポナ

ーデとな り,当 露入院 となった.携 立線部尿道の急性

期浮腫に よると思われ る尿閉が15例(37.5%)に み ら

れた、 うち2例 ではi~2圃 の導尿のみで 衝尿可能 と

な ったが,残 りの13例 では尿道 カテーテルが留置され

た.カ テーテル留綴期閣 は2~14(平 均4.9)舞 閣で

あった.経 過2~4週 間の時点 での検尿で 白血球10個

鉱上 の濃尿が認 め られたのは2倒(5%)で,い ずれ

も残 尿量100ml以 上の症例であった.う ち膿尿が高

度 な}例 では急性精巣上体炎の岱発がみ られた・悶診

にて治療後に勃起 障害や射精障害を起 こした症例は1

佛 もなか った.

e

難 琶.8.G韓elat至 ・轟hetween猷a… 撫 懸a至d・ §e

deliveredandI-PSS。

を検討 した.爾5麹 こは一定の灘麗弓§孫がみられず,葱

立腺体積 の大小に よ り自覚症状 の改善程度を予測す る

ことは協難であ った.

6)温 熱量 と自他覚所見 の変化

鰹 々の痙倒に与え られた混熱量をマイ ク鐸ウ凱一ブ

の総出力量(jou1)で 算出 し,肉 他覚所見の変 化との

蘭係を検討 した.2力 弩 §での 検討 で は 湿熱量 とL

PSSの 改善率 に有意な相関(rexO,487,Pく0.05)が 認

められ,温 熱量 が多いほ ど1-PSS改 善率が高い傾 向

が示 され た(F三9.8).一 方,2ヵ 月 目でのQmax

の増勲 と温熱量 との換討で も弱い正 の穣闘がみ られた

が統計的には有意 ではなか った(r=0.227,p=0323).

1回 の治療 におけ るマイ クロウェーブの最高娼力,

お よびthermaidose(温 熱量)は 症例に よってかな

りの違いがあ り,前 立腺体積や前立腺長 などの贋見か

らは予測す ることが困難 であった・

7)治 療後副作用

治療終 了直後にはほ とん どの盤擁で軽度の撫尿が認

め られた.治 療翌 日以降まで血 尿が持続 したのは15例

考 察

前立腺肥大症に対す る治療法をめ ぐる状況は ここ数

年 で大 き く変わろ うと してい る.従 来 の経尿道的切除

術 や薬物療法に加えて,尿 道 ステソ ト留置術,バ ル ソ

拡張術,レ ーザ ー治療,温 熱療法な ど多 くの治療法が

試 みられてい る.箭 立腺肥大症に薄す る治療 が,初 老

か ら超高齢悲 まで対象 がきわめて広い こと,ま た排尿

障霧の内容が多彩である こと,な どを考える と患考 の

選 択枝が よ り広 くなる ことはむ しろ歓迎すべ きことと

も擬え られ る.

われわれ は,Prostatronに よるTUMTを 行い,

2ヵ 月 国で判定 しえた20例 で90%(18120)に 自他覚

症状の改善 が 認 め られ た.本 邦 では馬場 ら3),副 庭

ら5》力塗 力碧までの漏様 な短期治療成績を報告 してい

る,今 回,3ヵ 月 目まで観察で きた症例は まだ少ない

ものの改善傾向が持続 してい ることが示 された.灘 作

用 ほ一過性の尿閉 と血 尿がみ られたのみで箪 篤な含併

症 ほなか った.経 尿道約前立腺切除衛後に しば しば見

られる尿路感染症はTUMTで は 稀で あった・ これ

綜本機種 の大 ぎな特懲である尿遂糠膜の冷輝録護 シス

テ ムに よるところが大 きい と思われ る.さ らにこれ ま

での手術療法では術後に比較的高率に射精 障害が起 こ

ることが知 られてい るが,TUMTで は これ までの と

ころ経験 していない.ま た外来単 醐治療であ ることを

考 えれば,本 治療法は短期成績なが らもかな り有胴性

の高い治療 として位置づけ られ よう.

前立線肥大症 に蛎す る他の温熱療 法 との比較は,こ

れ まで絞一 された基準,特 に 自覚癌 状に対す る評 緬基

準 がなか ったために困難であった.わ れわれ が今 圓,

自覚症状 の評価に レPSSを 用 いた.1-PSSは 先に述

べた よタこ1§§}年パ 鞭こてW}{0の τ細 至Rterna-

tionalConsensusCommitteeが 答申 したsymptom

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1008 泌尿紀要39巻II号1993年

scoreで ある7).そ の基本構造 は排尿障害 に対 す る7

つの質問項 目か らな り,米 国泌尿器科学会で検討 され

たAUAsymptomindexio  mが 踏襲された形にな

ってい る・AUAsymptomindexの 信 頼 性,再 現

性,こ れまで用 いられ て きたBoyarskyス コァ且2)や

Madesnス コア13)との相関性,お よ び手術前後の変

化や反応性,な どについては最近詳細な検討結果が報

告 された10,11).今後多 くの施設 で検討 され ることに よ

り,前 立腺肥 大症治療成績の国際的な比較も可能にな

ろ う。

TUMTに おける今回の検討 でも1・PSSは 治療後

に鋭敏に反応 し,irritativesymptomとobstructive

symptom別 の詳細 な 検 討 も可 能 で あった.た だ

1-PSSで は いずれ の 質問項 目も過去1カ 月間の排 尿

症状について尋ね る形式になってお り,今 回のよ うな

短期成 績を検討す る際はそのまま用い るには若干問題

があ った.そ こで現在の排尿状態についての質問形式

に修正 して用 いたが,自 覚症状を十分評価 しえるもの

と考え られた.さ らにLPSSで は排 尿状態に対する

QOLや 項 目を設けて患者 自身 の 自己評価 に よ り幅

をもたせ るように設定 されている.わ れわれ の検討で

も,QOLス コアの動ぎはsymptomscoreの 改善

を よ く反 映 していた.前 立腺肥大症が良性疾患であ る

ことを考える とこのQOL項 目は最終的に特に重み

のあ るものであ り,治 療法が異 なる場 合にはぜひ とも

検討 され るこ とが必要であろ う。

前立腺肥大症 の治療効果を諭 じる際はいわゆ るプラ

セボ効果の可能性を常に念頭 にお く必要がある.経 過

観察のみで も60%以 上に自覚症状 の改善が認 められた

とす る報告 もあ り夏4).前立腺肥大症の治療 で有用 であ

ると結論するには少な くともこれ以上の改善 率が えら

れ るこ とが 必要 で あ ろ う.こ の点で 最近,Ogden

ら15)はTUMTと そのsham治 療のrandomized

study結 果を報告 した.す なわち,TUMT治 療群で

はsham治 療群に比 して自他覚所見の改善率が有意

に高か った ことか ら,TUMTの 効果は プラセボ効果

に よるものではない,と 結論 されて いる,

われわれは 今回の検討でTUMTに よる 前立腺へ

の温熱量 と症状 の改善度に正 の相関があ ることを示 し

た.こ の結果 はTUMTの 効果 が プラセボ 効果 では

ない とするOgdenら の報告15)を 間接的 に 支持す る

もの と考え られ る.Devonecら16),Babaら17)も,

Prostatronの バ ージmン アップに よって温熱量 を上

げ ると臨床効果 も向上す ると述 べ て い る.ま た最近

Bergら18)は,TUMTのresponderとnon-res・

ponderの 背景因子を検討 し,前 者での湿熱量が有意

に高いことを報告 している.し か しわれわれの経験で

も個 々の症例で温熱量 をあ らか じめ予測す ることは困

難であった,与 え られ る温熱量 の多寡は前立腺組織の

上皮 。閲質の構成 比や前立腺周囲 の血流状態な どと密

接 な関係があ るもの と考え られ る2・18).温熱量 の問題

を含めTUMTの 効果 に関与 す る因子の 検討は・そ

の適応 を考え る意味 で も重要 であ り,今 後 の課題であ

る.

TUMTの 作用機序 につ いては現在い くつかの因子

が考え られてい る.す なわ ち,高 温度に よる前立腺組

織の壊死性 変化,前 立腺 に 存 在 す る α一adrenergic

receptorの 変 化,尿 道パル ンカテーテルに よる拡張

作用,な どであ る.前 立腺組織 の壊死性変化につ いて

は,Devonecら2),馬 場 ら3)がすでにTUMT後 の前

立腺摘除組織の病理 組織像 につい てその詳細を報告 し

ている.前 立腺組織の壊死性変化 を生 じさせ るた めに

は少 な くとも45。C以 上の高温に加温 され る必要があ

るとされ てい る2).こ の点 で尿道 粘膜 の冷却装置 の意

義が大 き く,本 機種では じめて尿道 粘膜 を保護 しなが

ら前立腺組織 のみを効率 よく高温 度にす る ことが可能

にな った.経 直腸的加温 を 行 うProstathermer3)や

Primusl9)が6回 以上の治療 が必要 である とされ てい

るが,Prostatronが 単 回治療で 優れ た 効果 を示す の

はま さにこの前立腺組織内の温度差に よる もの と考 え

られる.

高温度治療 が 前立腺 の α一adrenergicreceptorセ こ

質的変 化を与 える可能性については これ まで諸家の指

摘がな されて きた2・3).最近,Perachinoら20)はTU-

MT後 に摘出 され た前立腺 にS-100蛋 白やneuros-

pecificenolaseに よる免疫組 織学的 検討を行い,神経

線維の障害が重 要な因子で あることを明 らかに してい

る.こ の所見か ら彼 らは,治 療後に しば しば尿閉が起

こるのは,神 経 線維 の断裂直後に大量に放 出された神

経伝 達 物 質 が α1-receptorを ブロック し てsuper-

sensitivityの 状態を引 き起 こす た め で あ ろ う,と 推

論 している.ま たあ らか じめ α一blockerへ の 反応性

を見 ることに よってTUMTの 効果 を 予知 しうる可

能性 さえも示竣 してい る.

先 にTUMT効 果の温熱量依存性 につ いて 報告 し

たが,前 立腺肥大症 の高温度治療では さらに高 い温熱

量を与 える ものも登場 しつ つ あ る.す なわ ちther・

mocoagulationか らthermoablationへ の指 向であ

る15)し か しすべての症例が この ような超高温度 の治

療 を必要 とす るかについては明確 ではない.す なわち

作用機序を 含め治療効果 を最大にす るための至適温度

や治療時間な どについてはほとん ど未解 決のま まだか

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荒井,ほ か:前 立腺肥大症 ・高温度治療 1009

である.現 在,QOLを 含 め 前立腺肥大症 の治療 の

評価基準についてはその環境が よ うや く整 いつつあ る

ところである,今 後は種 々の治療法の詳細 な比較検討

を行 うことが可能 とな り,そ れぞれの適応 も明らか と

な るこ とが期待 され る.

本論文 の要 旨は第81回 日本泌尿器科学会 総会 サテ ライ トシ

ソポジウムおよび第143回 日本泌尿器 科学会関西地 方会にて

発表 した.

文 献

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(ReceivedonJuly5,1993AcceptedonAugust19,1993)

(迅速掲載)