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Title ミストCVD法とその酸化亜鉛薄膜成長への応用に関する 研究( Abstract_要旨 ) Author(s) 川原村, 敏幸 Citation Kyoto University (京都大学) Issue Date 2008-03-24 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k13825 Right Type Thesis or Dissertation Textversion author Kyoto University

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Page 1: Title ミストCVD法とその酸化亜鉛薄膜成長への応用 …...果は,ZnO透明導電膜への応用に向けた波及効果と意義の高いものであることを指摘している。

Title ミストCVD法とその酸化亜鉛薄膜成長への応用に関する研究( Abstract_要旨 )

Author(s) 川原村, 敏幸

Citation Kyoto University (京都大学)

Issue Date 2008-03-24

URL https://doi.org/10.14989/doctor.k13825

Right

Type Thesis or Dissertation

Textversion author

Kyoto University

Page 2: Title ミストCVD法とその酸化亜鉛薄膜成長への応用 …...果は,ZnO透明導電膜への応用に向けた波及効果と意義の高いものであることを指摘している。

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【494】

氏     名 川かわ

原はら

村むら

敏とし

幸ゆき

学位(専攻分野) 博  士 (工  学)

学 位 記 番 号 工 博 第 2929 号

学位授与の日付 平 成 20 年 3 月 24 日

学位授与の要件 学 位 規 則 第 4 条 第 1 項 該 当

研究科・専攻 工 学 研 究 科 電 子 工 学 専 攻

学位論文題目 ミストCVD法とその酸化亜鉛薄膜成長への応用に関する研究

(主 査)論文調査委員 教 授 藤 田 静 雄  教 授 三 浦 孝 一  教 授 川 上 養 一

論   文   内   容   の   要   旨

本論文は,酸化物薄膜の成長に対し,安全な原料が利用できかつ環境負荷の小さい新規な気相成膜技術としてミスト気相

成長(CVD)法を開発し,酸化亜鉛(ZnO)薄膜の成長における成長特性と成長機構に関する研究成果をまとめたもので

あって,8章からなっている。

第1章は序論であり,酸化物薄膜の応用上の利点とその成長技術について言及し,これをふまえた本研究の目的と意義を

述べている。

第2章では,酸化物薄膜の成長原料としてミストを用いる意義と特徴について述べ,超音波噴霧と気相反応を組み合わせ

たミストCVD法を提案している。超音波噴霧における基礎的な現象解析と成膜実験をふまえ,ZnO薄膜成長法として3つ

の手法を述べている。

第3章では,ミストを含む流体の挙動に関する解析をもとにその整流機構について考察し,大面積基板への成膜に求めら

れる整流装置の構造を明らかにしている。また,液体中への超音波伝搬の解析から,周波数数MHzのもとで効果的な噴霧

を行いうる噴霧装置の構造,および噴霧量増加のための手法に関して述べている。さらに,基板上1mm程度の流路高を持

つファインチャネル反応部を提案し,内部での温度分布,ミストの加熱・蒸発,ミストが受ける力について解析し,100%

近い原料分解と基板への押し付け効果によって高効率で薄膜が成長することを明らかにしている。原料として酢酸亜鉛水溶

液を用い,最大100mm角ガラス基板を用いて300-500℃においてZnOの成長実験を行い,膜厚分布は40mm角内で±0.45%,

原料利用効率約10%,可視光透過率95%以上(膜厚300nm),波長370nmに急峻な光吸収端を持ち,室温においてバンド端

フォトルミネセンスのみが見られるという高品質のZnO薄膜が得られたことを述べている。

第4章では,サファイア基板上に高温成長によって単結晶ZnO薄膜を成長する研究結果について述べている。高温での

成長可能なファインチャネルミストCVD装置を開発し,成長温度800℃において,体積比0.01%程度回転ドメインが混入す

るものの,ほぼ単結晶といえるZnO薄膜を成長し得たことを示している。室温フォトルミネセンス測定では強いバンド端

発光のみが見られたものの,膜中の欠陥や不純物に起因すると思われるドナの影響が大きいことを指摘し,それが原因で室

温での電子密度1.2×1018cm-3,移動度は9.1cm2/Vsと多量のドナ不純物に支配されている特性を示した。

第5章では,ZnOの成長反応に対して原料の溶媒が及ぼす効果が大きいことを見出し,その機構を考察するとともに,

溶媒の最適化によって単結晶ZnO薄膜の高品質化を図る結果を示している。誘電率の低い溶媒の利用によって反応の活性

化エネルギーが低くなることから,成長反応は2分子反応系によるものであること,および酢酸亜鉛をもとにした反応機構

について提言している。メチルアセテートを溶媒として利用し,水を溶媒にした場合(800℃)より低い温度(700℃)で,

回転ドメインが観測されない単結晶ZnO薄膜を作成し得たことを示している。また移動度は20cm2/Vsと向上した。この移

動度の値はまだ低いが,これはサファイア基板上にバッファ層等を導入していないためであることを提言し,スパッタリン

グ成長ZnOバッファ層の導入により,移動度70cm2/Vsという値が別途得られており,ミストCVD法のポテンシャルは高

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いことを示唆している。

第6章では,ガラス基板上のZnO薄膜に対してドナのドーピングを行い,透明導電膜としての応用可能性を議論してい

る。ドナとしてAlを選び,原料溶液中にアルミニウムアセチルアセトナートを加えて成長することで,最低抵抗率6×10-4

Ω・cmを達成できるとともに,キャリアの増加によるバースタイン・モスシフトを観測し得たことを述べている。この結

果は,ZnO透明導電膜への応用に向けた波及効果と意義の高いものであることを指摘している。

第7章では,ミストを用いる各種応用技術について述べ,その広い可能性を示している。ミストCVDでは,酸化マグネ

シウム,酸化銅,酸化カドミウム等の薄膜の成長に成功するとともに,酸化マグネシウム亜鉛,酸化ガリウム単結晶薄膜を

実現して,紫外領域の光機能応用につながりうるものと指摘している。また直径3-5nmとサイズの揃ったZnO微粒子の

作製にも応用できることを述べている。

第8章は結論であり,本論文で得られた成果について要約するとともに,研究成果の波及効果および今後の展開について

提言を行っている。

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨

本論文は,酸化物薄膜の成長に対し,安全な原料が利用できかつ環境負荷の小さい新規な気相成膜技術としてミスト気相

成長(CVD)法を開発し,酸化亜鉛(ZnO)薄膜の成長における成長特性と成長機構に関する研究成果をまとめたもので,

得られた主な成果は次のとおりである。

1.酢酸亜鉛等の亜鉛化合物溶液を超音波霧化してキャリアガスで反応部に輸送し基板上に成膜するという基本技術をもと

に,溶媒中の超音波伝搬,気体の衝突混合,流路中での分布,熱伝導等のシミュレーション等を通じて原料の利用効率

と均一性に優れた成膜を行うための条件を見出し,新規な成膜装置を開発して実験的にそれを実証した。

2.ガラス基板上に300-500℃で多結晶ZnO薄膜を成長し,厚さ分布±0.45%,可視域光透過率90%以上,波長370nmに急

峻な光吸収端を持ち,室温でバンド端フォトルミネセンスのみを示す高品質ZnO薄膜を実現した。

3.サファイア基板上の800℃での成長により,体積比0.01%程度回転ドメインが混入するものの,ほぼ単結晶といえる

ZnO薄膜を得た。低温フォトルミネセンスはドナ束縛励起子による発光が主で,ドナ不純物混入が示唆された。実際,

室温での電子密度1.2×1018cm-3,移動度は9.1cm2/Vsと多量のドナ不純物に支配されている特性を示した。

4.原料溶媒の効果によって反応の活性化エネルギーや結晶性が変化すること,適切な溶媒の選択が高品質薄膜の実現に重

要なことを示した。メチルアセテートを溶媒に用い,上で問題となったZnO単結晶薄膜への回転ドメインの混入をほ

ぼ完全に除去でき,移動度は20cm2/Vsに向上した。

5.ガラス基板上透明導電膜への応用を目指してAlのドーピングを行い,6×10-4Ωcmの低い抵抗率を得た。これは大き

な環境負荷が昨今の問題になっている酸化インジウムスズ(ITO)透明導電膜に対し,成膜技術・特性の点で高い利点

を与える優れた結果である。また,ミストCVD法が,Al,Cu,Ga等の酸化物薄膜,混晶半導体,微粒子等幅広い酸

化物材料の成長に利用できる有益な技術であることを実証した。

以上,本論文は,環境負荷の少ない気相成膜技術を開発し,ZnO薄膜成長への応用においてその機構と有益性を明確に

したものであり,学術上,実際上寄与するところが少なくない。よって,本論文は博士(工学)の学位論文として価値ある

ものと認める。また,平成20年2月9日,論文内容とそれに関連した事項について試問を行った結果,合格と認めた。