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TOPICS TOPICS 56 経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室長/素形材産業室長 渡 邉 政 嘉 経済産業省 技術戦略マップ 2009の概要 パワーアップした最先端テクノロジー・バイブル1.はじめに 素形材分野の技術戦略 1),2) は、昨年多くの関係者の 皆様のご支援とご協力のもと「素形材技術戦略 2008」 として改定を行ったところであるが、素形材のみなら ず産業技術全般にわたる技術戦略が平成21年 4 月30 日に「技術戦略マップ2009」としてとりまとめられ 3) 。2005年 3 月に技術戦略マップの初版として「技 術戦略マップ 2005」が策定・公開されて以来、技術の 進歩に応じて毎年改訂されてきている 4)~7) 。経済産業 省が実質 5 年以上の継続した取り組を地道につづけて いる。このことは、技術戦略マップが経済産業省とし ての研究開発マネジメント・ツールとして定着した証 であると考えている。素形材技術分野についても素形 材技術戦略をベースにし、技術ロードマップを改定し ながら中長期的な技術トレンドを踏まえた重要技術の 絞り込みとそれらの実現に向けた技術開発の取り組み を行ってきているが、これらは、全省的な流れを受け たものであることが御理解されよう。 なお、素形材技術戦略で抽出された重要技術は、こ の全省的な技術戦略マップの「生産・設計・加工技術 分野」の中にもらすことなく反映されている(図1)。 ものづくり技術を担う素形材産業の関係者の皆様に は、素形材技術戦略とともに、他の産業技術分野を総 覧した技術戦略マップについても是非ご覧いただきた い。新たなイノベーションの創出を行うためには、異 分野技術の融合がカギだといわれている。素形材技術 に限らず、他分野技術領域の動向や今後の方向性につ 1 素形材技術戦略と技術戦略マップ生産・設計・加工技術分野の関係等

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経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室長/素形材産業室長 渡 邉 政 嘉

経済産業省「技術戦略マップ2009」の概要~パワーアップした最先端テクノロジー・バイブル~

1.はじめに      素形材分野の技術戦略1),2)は、昨年多くの関係者の皆様のご支援とご協力のもと「素形材技術戦略 2008」として改定を行ったところであるが、素形材のみならず産業技術全般にわたる技術戦略が平成21年 4 月30日に「技術戦略マップ2009」としてとりまとめられた3)。2005年 3 月に技術戦略マップの初版として「技術戦略マップ2005」が策定・公開されて以来、技術の進歩に応じて毎年改訂されてきている4)~ 7)。経済産業省が実質 5年以上の継続した取り組を地道につづけている。このことは、技術戦略マップが経済産業省としての研究開発マネジメント・ツールとして定着した証であると考えている。 素形材技術分野についても素形

材技術戦略をベースにし、技術ロードマップを改定しながら中長期的な技術トレンドを踏まえた重要技術の絞り込みとそれらの実現に向けた技術開発の取り組みを行ってきているが、これらは、全省的な流れを受けたものであることが御理解されよう。 なお、素形材技術戦略で抽出された重要技術は、この全省的な技術戦略マップの「生産・設計・加工技術分野」の中にもらすことなく反映されている(図 1)。ものづくり技術を担う素形材産業の関係者の皆様には、素形材技術戦略とともに、他の産業技術分野を総覧した技術戦略マップについても是非ご覧いただきたい。新たなイノベーションの創出を行うためには、異分野技術の融合がカギだといわれている。素形材技術に限らず、他分野技術領域の動向や今後の方向性につ

図 1 素形材技術戦略と技術戦略マップ生産・設計・加工技術分野の関係等

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いて俯瞰する最適な技術書である。 技術戦略マップ2009は経済産業省のホームページ3)

を通してすべてのデータが入手可能である。また、印刷物は経済産業省研究開発課(含む地域経済産業局)から配布が行われている。電子データだけではなく最新版を是非手にとってご覧頂きたい。 本稿は、経済産業省プレス発表資料等をもとに最新版「技術戦略マップ2009」の概要を解説するものである。

2.技術戦略マップ 2009 の概要     2.1 背景 我が国産業が世界に先駆けてイノベーションを創出しそれが持続的・自律的に達成されるようにするためには、一層明確に出口を意識して、すなわち、事業化を見据えた研究開発・導入シナリオに基づき、戦略分野への重点化を図るとともに、規制改革、標準化等の関連施策と研究開発施策との一体的な取組を一層強化することが必要である(「新産業創造戦略8)」(2004年 5月経済産業省))。 経済産業省では、市場のニーズに応じて、科学に遡った研究開発や異分野の融合、顧客との一体的な垂直統合を進め、研究開発プロジェクトに拠点形成・制度改革・省庁間連携・国際標準化をビルトインするなどの施策を展開し、研究開発成果を素早く市場化に繋げる仕組みを構築しようとしている。これを着実に実現するためには、ナショナル・イノベーション・システムを構成する各主体である政府、産業界、学界等の研究者が政府研究開発投資の判断の基盤となる戦略やシナリオを共有し、関係機関が連携をしながら、研究開発を効果的に展開することが必要となります。そのような観点から当省では(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)等と協力し、産学官の専門家による技術ロードマッピングを研究開発マネジメント・ツールの方法論として取り入れ、その成果物として広く公開し活用している。

2.2 目的 技術戦略マップ及びその策定プロセスを通じて、以下の 3点を実現することを主な目標としている。(1)産業技術政策の研究開発マネジメント・ツール整備 主要産業技術分野にかかる技術動向、市場動向等を把握するとともに、国または民間において取り組まれるべき重要度が高いと考えられる技術(重要技術)の絞り込み等を行い、当省が研究開発プロジェクトを企画立案するための政策インフラを整備すること。

(2)産学官における知の共有と総合力の結集 専門化する技術、多様化する市場ニーズ・社会ニーズに対応するため、異分野・異業種の連携、技術の融合、関連施策の一体的実施を促進するとともに、産学官の総合力を結集すること。(3)国民理解の増進 技術戦略マップを活用して、適時に適切なプロジェクトを立案するとともに、実施中のプロジェクトについて不断の検証を行い、当省の研究開発投資の考え方、内容、成果等に関して、国民の理解を増進すること。

2.3 構成(1)導入シナリオ 研究開発とともにその成果を製品、サービス等として社会、国民に提供していくために取り組むべき関連施策を含めて記載しており 、 次のような目的がある(図 2参照)。• 将来のあるべき社会や革新技術が切り拓く市場を見据え、そこに至るまでの主要な研究開発への取組を体系化することで、将来像・最終目標(National Goal)を明確化した研究開発を立案・遂行する。• 制度改革・標準化等、イノベーション実現に不可欠な関連施策を整理・明確化し、必要な施策を一体的に位置づける。• 関係者・関係機関が時間軸上でNational Goal を共有することで、産学官の研究開発の立案・実施を効率化する。

(2)技術マップ 市場ニーズ・社会ニーズを実現するために必要な技術的課題、要素技術、求められる機能等を俯瞰するとともに、その中で重要技術を選定しており、次のような目的がある。• 実現すべき技術を俯瞰し体系化することで、目標(イノベーション)実現に必要な技術を俯瞰して整合性・一貫性ある研究開発を推進したり、専門家以外にも理解しやすい技術俯瞰図を提供することによって異分野からの参入障壁を軽減する。• 構成技術の体系的比較の中で国が行うべき観点から時間展開すべき重要技術(キーテクノロジー)を提示する。

(3)技術ロードマップ 研究開発への取り組みによる要素技術、求められる機能等の進展の道筋を時間軸上にマイルストーンとして記載しており、次のような目的がある。・ 研究開発の中で達成すべき技術的目標を時間軸上で明確化することで、研究開発の進捗状況の評価を容易にしたり、同時並行で展開される関連技術・競合

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技術開発との整合性をチェックできるようにする。・ 産学官の全ての関係者が研究開発の設定目標・道筋を共有することで、各々の研究開発の位置づけや相互関係を理解しやすくするとともに、異分野からの参入による連携・融合を容易にする。

2.4 対象領域 対象とした技術領域は、前年度版では29分野であったものが、新たに 1分野(計量・計測システム)追加され以下の30分野となった(図 3参照)。○ 情報通信(半導体、ストレージ・メモリ、コンピュータ、ネットワーク、ユーザビリティ(ディスプレイ等)、ソフトウェア)○ ナノテクノロジー・部材(ナノテクノロジー、部材、ファイバー、グリーン・サスティナブルケミストリー)○ システム・新製造(ロボット、MEMS、設計・製造・加工、航空機、宇宙)○ バイオテクノロジー(創薬・診断、診断・治療機器、再生医療、〔応用事例:がん対策等に資する技術〕、生物機能活用技術)○ 環境(CO2 固定化・有効利用、脱フロン対策、3R、

化学物質総合評価管理)○エネルギー(エネルギー、超電導技術)○ソフト(人間生活技術、サービス工学、コンテンツ)○ 融合戦略領域(持続可能なものづくり技術、計量・計測システム(※))

 (※)技術戦略マップ2009から追加した技術分野 各分野は、それぞれの技術領域に対応した政策目的に沿った技術の俯瞰や重点技術の絞り込みが行われている。そのため、同様の要素技術が、複数の技術分野のマップの中に重複して記載されているものもある。これらは、異なる政策的目的から位置づけられているので、重要技術の絞り込みの観点

図 2 技術戦略マップの構成(出所:技術戦略マップ 2009)

図 3 技術分野の拡充(出所:技術戦略マップ 2009)

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からは、必ずしも相互に整合性がとられてはいない場合もある。分野特性や政策的な位置づけに応じた自由な議論や新たな可能性の模索を奨励するため、「技術戦略マップ」ではこのような分野間の重要技術に関する扱いや考え方の違いを許容している。

2.5 策定プロセス 上記「構成」の技術マップ及び技術ロードマップについては、例年と同様に、NEDO等に設置したタスクフォースに、第一線の若手研究者、ユーザー・メーカー企業の研究者や現場の方々などが参画のもと議論が行われた。今般の改定に至るまで、総勢835人の産学官の専門家の英知が結集された。また、産業構造審議会産業技術分科会研究開発小委員会(委員長:橋本和仁東京大学教授)において、全体的な策定方針や「技術戦略マップ」を活用した官民の研究開発推進方策等について審議が行われた。

3.改訂のポイント      技術戦略マップには、①成果物としてのマップに含まれる技術情報のみならず、②マップ策定のプロセスから得られる政策当局と産業界、学協会とのコミュニケーション・ツールとしての意義がある。①の観点からは、技術は日々進歩しておりマップの内容が陳腐化することのないようなフォローアップが必要であり、また②の観点からは構築された人的ネットワークを活用してコミュニケーションを継続的に維持することが重要となる。 このようなローリングの重要性を踏まえて、2005年 3 月に第 1版として「技術戦略マップ2005」を策定・公開して以来、毎年継続的に改定が行われ、今般「技術戦略マップ2009」としてとりまとめられた。研究開発マネジメントの政策インフラとして、経済産業省の研究開発の企画立案、資源配分、評価等の各プロセスで適切に活用していくローリングサイクル(図 4)を

定着させることとされている。 「技術戦略マップ2009」を策定するにあたっては、基本方針として、①技術の進展や社会環境の変化に応じた各分野の改訂及び拡充、②アカデミアからの提言への対応、③ナノテクノロジー分野のシーズプッシュ型による再構築の検討、④タスクフォース /ワーキンググループ委員の入れ替え、⑤ベンチマーキングの強化(各分野における国際競争ポジションの付不)、⑥研究開発戦略と標準化戦略の一体化、⑦要素技術のラベル化の 7 つを掲げ、ローリングが行われた。今年度は特に、分野間の「つながり」、シーズ・ニーズ間の「つながり」、産学官の間の「つながり」を重視し、「技術戦略マップ」の研究開発コンパスとしての更なる機能強化を図ることとされた。

3.1 改訂のポイント「技術戦略マップ2009」の改定の主なポイントは以下のとおりである(図 5)。(1)技術分野の拡充 2009年版は技術分野を30に拡充し、総勢延べ 835名の産学官の専門家の英知を結集したこと。 ※新たに追加した分野は、計量・計測システム分野

(2)アカデミアからの提言への対応 5つの学会・連合※から提言のあった分野において、提言内容について検討のうえ、適宜技術戦略マップに反映したこと。 ※ ①日本機械学会、②応用物理学会、③日本化学会、④

ロボット学会 /人工知能学会 /人間工学会、⑤横幹連合(43学会で構成される横断的な学会連合)

(3)ナノテクノロジー分野の再構築 同分野の学術体系に基づいてナノテクの要素技術を体系化し、技術の重要性・技術の適用範囲を明記。ユーザーの利便性を向上させたこと。(4)異分野技術の融合手法の試行 持続可能なものづくり技術分野にて、個々の技術

と社会ニーズの関連性を可視化し、異分野技術の融合のツールとしての可能性を検討したこと。

3.2 ナノテクノロジー分野の再構築 ナノテクノロジー分野は我が国の強みとする分野であり、我が国産業の技術革新を生み出す源泉である。今回の改定に際し、同分野の学術体系に基づいてナノテクの要素技術を体系化し、技術の重要性・技術の適用範囲を明記。また、主要技術には解説を加えるなど、ユーザーの利便性を向上させた(図 6)。

図 4 技術戦略マップを活用した研究開発マネジメントの年間サイクル (出所:技術戦略マップ 2009)             

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図 6 ナノテクノロジー分野の再構築(出所:経済産業省プレス発表資料より)

図 5 経済産業省技術戦略マップ 2の展開状況(出所:経済産業省プレス発表資料より)

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3.3 異分野技術の融合手法の試行 持続可能なものづくり技術分野において、技術戦略マップ2008に記載されている技術テーマを基に、異分野技術の融合のツールとしての可能性が検討された。具体的には、個々の技術と社会ニーズの関連性を分析し、統計的手法により可視化・グループ化を行うことにより、異分野であっても同一の特性を有する技術を特定。異分野技術の融合や、新たな出口の探索を行う際の助けになることが期待されている。図 7に、今般の検討結果の事例として技術と社会ニーズの関連性を統計的にグループ化した結果を示す。

3.4  技術戦略マップ検索システムの構築・公開 (独)産業技術総合研究所は、(独)科学技術振興機構による委託研究事業の成果を活用し、技術戦略マップ2008の高度検索システム(文章等の意味構造を用いた

検索システム:名称:Kamome)を公開している。 検索システムを活用することによって、産業界及び関係学会等で新たな研究や技術開発テーマの発掘、他分野との共同研究等の連携活動の検討材料、知的財産の維持管理等に有益な情報となることを期待しています。当該検索システムは、技術戦略マップ2009版についてもアップデートが行われ検索対象となることが予定されている。 当該検索システムは、URL:http://kamome.i-content.org/tsm2008.html で公開されているので、ご活用いただきたい(図 8)。

3.5  技術戦略マップを活用した技術マッチングの試行的運用

 イノベーションの大きな流れが、①オープン化、②異分野融合、③シーズベースからニーズベースへ、に

図 7 技術と社会ニーズの関連性を統計的にグループ化した結果 (出所:経済産業省プレス発表資料より)      

図 8 産総研による技術戦略マップ検索システムの構築・公開(出所:経済産業省プレス発表資料より)

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ある中、技術戦略マップをウェブサイトに掲載し、技術シーズを有する者と調達サイドの双方がウェブ上で書き込むことによって情報共有・情報交換の場を構築する取り組みを、(独)産業技術総合研究所の協力のもと進められている。 現在、技術戦略マップ2008におけるナノテクノロジー分野の技術マップを対象としてウェブサイトのプロトタイプを作成しており、本格運用の方法について

検討されている。今後は「技術戦略マップ」をオープン・イノベーション下のプラットォームとして活用し、シーズとニーズのマッチングを可能とする企業間ネットワークの形成を促進していく予定である。図 9に技術マッチングのためのウェブサイトのイメージを示す。

3.6  要素技術の俯瞰性に関する分析 技術戦略マップは、技術や製品による分野構成と

図 9 技術マッチングのためのウェブサイト(イメージ)(出所:経済産業省プレス発表資料より)

図10 俯瞰性に関する分析結果の一部

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なっていますが、異分野融合を考えるに当たっては、分野をまたがって俯瞰的に眺めることができれば有用であるとの考え方がある。このため、技術戦略マップ2008の各分野間で共通に用いられている語句のうち、重要と考えられるものを表形式に整理した。 具体的には、技術戦略マップ2008全体をコンピュータで分析し、分野間で共通に用いられている語句(約2万 7 千語)を抽出し、そのなかから技術的にほぼ同じと考えられる単語を束ね、重要と考えられる約1,100 語を選定しました。技術戦略マップ 2008の全分野における俯瞰性分析の結果の一部を図 10に示す。 これによって、ある技術が他のどの分野でも共通に用いられる可能性があるか、あるいは出口としてどのような分野があり得るかといった検討の際の参考資料となることが期待される。

4.おわりに      平成17年 3月に第 1版として「技術戦略マップ2005」の策定・公開して以来、毎年の改訂作業が続けられてきたが、このたび「技術戦略マップ2009」の第 5版がとりまとめられた。 今年の改訂のポイントを最後に改めて述べると、①計量・計測システム分野が新規に追加(前年の29分野から新たな 1分野の追加で全体では30分野に拡充)されたこと、②アカデミアからの提言への対応、③ナノテクノロジー分野の再構築、④異分野技術の融合手法の試行の 4つがメインとなる。

 特に、アカデミアからの提言への対応については、7つの学会・連合(①日本機械学会、②応用物理学会、③日本化学会、④ロボット学会 /人工知能学会 /人間工学会、⑤横幹連合(43学会で構成される横断的な学会連合))から提言のあった分野において、提言内容について検討のうえ、適宜技術戦略マップに反映できたことは大きな収穫である。これら学会によるアカデミック・ロードマップの取り組みの概要をまとめたパンフレット9)も策定・公開しているのでそちらも参照されたい(図11)。ロードマップの報告書も経済産業省のホームページ(http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/kenkyu_kaihatu/19 fy-pj/19 fypj.html)10)~18)にあるので参照されたい。なお、㈳日本塑性加工学会、㈳日本鋳造工学会においてもビジョンやロードマップの策定が進められているが、これらの検討は素形材技術戦略に反映され、それらのプロセスを経て選定された重要技術として、結果的に技術戦略マップの生産・設計・加工技術分野に反映されている。 また、持続発展可能なものづくり技術分野では、異分野技術の融合手法の試行として、個々の技術と社会ニーズの関連性を可視化し、異分野技術の融合のツールとしての可能性を検討したことである。 技術は日々進化している。従って技術戦略マップも策定・公開した瞬間から陳腐化が始まる。陳腐化したものをもとにした政策的判断は時に誤った結果を招く危険性を含む。生き物である技術を扱う以上、そのような事態にならないようにする継続的な努力が求めら

図11 アカデミック・ロードマップの紹介パンフレット

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れる。常にアンテナを高くし、ネットワークを維持し、毎年のローリング(アップデート)を重ねることが必要になる「技術戦略マップ」は産学官それぞれの研究開発の企画・実施に携わる方々とのコミュニケーション・ツールとしても活用されている。本マップは、産業技術に関する膨大な技術情報を体系的かつ戦略的にとりまとめたものであり、産業界及び学協会等で新たな研究や技術開発テーマの発掘、他分野にまたがる共同研究等の連携活動の検討材料、知的財産の維持管理にも有益な情報となる。本マップを幅広く産学官で共有することで、異分野・異業種の連携、技術の融合等、イノベーションを促進していきたい。 なお、技術戦略マップ2009の印刷物を御入手されたい方は、送付先ご明記の上、[email protected]にメールをお送りいただければ無料にて送付がされるので活用されたい。 最後にはなるが、筆者らは今後技術ロードマップ作りに挑戦されてようとしている方々のテキストを編纂したので是非とも参考にしていただきたい19)。

 参考文献1 ) 経済産業省、素形材技術戦略 2009(http://www.meti.go.jp/press/20081030001/20081030001.html),2008

2 ) 渡邉政嘉、形材技術戦略~ものづくり基盤を支える素形材技術の羅針盤~、pp57 -61, 素形材 ,Vol.50 No.1(2009)

3 ) 経済産業省,技術戦略マップ2009,(http://www.meti.

go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/kenkyu_kaihatu/

str2009.htm),20094 ) 経済産業省,技術戦略マップ2008,(http://www.meti.go.jp/press/20080418003/20080418003.html),2008

5 ) 経済産業省,技術戦略マップ2007,(http://www.meti.go.jp/press/20070423006/20070423006.html),2007

6 ) 経済産業省,技術戦略マップ2006,(http://www.meti.go.jp/press/20060428011/20060428011.html),2006

7 ) 経済産業省,技術戦略マップ2005,(http://www.meti.go.jp/press/20050330012/20050330012.html),2005

8 ) 経済産業省,新産業創造戦略(http://www.meti.go.jp/policy/economic_industrial/press/0005221/1/040518

  sinsangyou_honsi.pdf),20049 ) 経済産業省,アカデミック・ロードマップのご紹介パンフレット(http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_

  kakushin/kenkyu_kaihatu/arm/arm2008.pdf),2008

10) 経済産業省(日本機械学会),機械分野のアカデミック・ロードマップ平成18年度報告書,http://www.meti.go.jp/

policy/kenkyu_kaihatu/18 fy-pj/machine.pdf, 200711) 経済産業省(日本機械学会),機械分野のアカデミック・ロードマップ平成19年度報告書,http://www.meti.go.jp/

   policy/economy/gijutsu_kakushin/kenkyu_kaihatu/19 fy-pj/

oubu.pdf, 200812) 経済産業省(応用物理学会),応用物理分野のアカデミック・ロードマップ平成18年度報告書,http://www.meti.

go.jp/policy/kenkyu_kaihatu/18 fy-pj/machine.pdf, 2007   経済産業省(応用物理学会),応用物理分野のアカデミック・ロードマップ平成19年度報告書,http://www.

meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/kenkyu_kaihatu/

19 fy-pj/oubu.pdf, 200813) 経済産業省(日本化学会),化学分野のアカデミック・ロードマップ平成18年度報告書、http://www.meti.go.jp/policy/kenkyu_kaihatu/18fy-pj/18 fy-chemi.pdf, 2007

14) 経済産業省(日本化学会),化学分野のアカデミック・ロードマップ平成 19 年度報告書,http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/kenkyu_kaihatu/19fy-pj/chemi.pdf, 2008

15) 経済産業省(日本ロボット学会、人工知能学会、日本人間工学会),日本ロボット学会,人工知能学会,日本人間工学会のアカデミック・ロードマップ平成18年度報告書,http://www.meti.go.jp/policy/kenkyu_kaihatu/18 fy-pj/robo.

pdf, 200716) 経済産業省(日本ロボット学会、人工知能学会、日本人

間工学会),ロボット分野のアカデミック・ロードマップ平成19年度報告書,http://www.meti.go.jp/policy/economy/

gijutsu_kakushin/kenkyu_kaihatu/19 fy-pj/robot.pdf, 200817) 経済産業省(横断型基幹科学技術研究団体連合),平成

19年度技術戦略マップローリング委託事業(アカデミック・ロードマップ作成支援事業)学会横断型アカデミック・ロードマップ報告書,http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/kenkyu_kaihatu/19 fy-pj/robot.pdf, 2008

18) 経済産業省(横断型基幹科学技術研究団体連合),平成20年度技術戦略マップローリング委託事業(アカデミック・ロードマップ作成支援事業)学会横断型アカデミック・ロードマップ報告書,http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/kenkyu_kaihatu/20 fy-pj/oudan2.pdf, 2009

19) 香月祥太郎監修,技術ロードマップの設計・導入・実施と研究開発戦略への活用,技術情報協会,2008