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産衛誌 2011; 53: 117139 抄録:非正規雇用者の健康に関する文献調査:井上まり 子ほか.帝京大学大学院公衆衛生学研究科目的:非正 規雇用者の健康に関する原著論文を収集して整理し,そ の内容を概観することを目的とした.方法:非正規雇用 に関連するキーワードをもとに,米国国立医学図書館の MEDLINEと医学中央雑誌刊行会の医中誌 webで検索 して文献を入手した.各文献を研究方法,調査データの 種類,標本規模,調査国,結果となる健康指標,非正規 雇用の定義,主な研究結果について整理して分析した. 結果:条件に該当したのは英語論文 68 編であった.こ れらの論文を結果指標である労働災害,身体的健康,精 神的健康,代替的健康指標の 4 種類に分け,研究デザイ ン(コホート研究,症例対照研究,横断研究)別に概観 した.非正規雇用者の健康状態が正規雇用者と比べて悪 かったのは,一部の労働災害による傷病と身体的健康に おける死亡率であった.精神的健康では General Health Questionnaire 等の指標を用いた研究で,概して非正規 雇用で健康状態が不良であると結論づけた研究が多くみ られた.そのほかの代替的健康指標として,医療へのア クセスについても非正規雇用で限りがあるという傾向 や,非正規雇用者では正規雇用者と比べて病気による休 職や欠勤が少ないという傾向が認められた.考察:非正 規雇用者で正規雇用者より健康状態が悪い場合が,複数 の研究から示された.不安定な雇用契約や,しばしば変 化する職場環境下で働かざるをえない非正規雇用者の負 の側面が,健康に影響を及ぼす可能性がある.一方,正 規雇用者の健康度が悪いと結論づける研究もあり,雇用 形態が多様化する社会においては雇用形態を問わず健康 度が悪化する可能性がある. (産衛誌 2011; 53: 117139) キーワード: Fixed-term worker, Job insecurity, Part- time worker, Precarious employment, Temporary agency worker, Temporary worker Ⅰ.背  景 非正規雇用が社会問題として認識されている.各省庁 の白書でも 1990 年代の若年層入職困難と非正規雇用者 の増加の関連やそれに伴う収入の低下 1) ,非正規雇用比 率上昇の賃金格差拡大への寄与 2) などが指摘され,非 正規雇用を増大させた結果として日本で経済的格差を生 み出す事実が明らかになってきた.不安定な雇用で働い ても経済的に不利で,かつ失業すれば脆弱なセーフティ ネットしかない 3) のが非正規雇用者の現状である.非 正規雇用にしばしば付随しているのが,自己責任に転嫁 した「本人が希望したのではないか.」「正規雇用になる だけの能力がないのではないか.」という指摘である. しかし,実際に統計をみると,現在の就業形態を選んだ 理由として派遣労働者の 37 %,契約社員の 32 %が「正 社員として働ける会社がなかったから」と回答してお 4) ,不本意にも非正規雇用を選んだ労働者が少なくと も 3 割程度存在する.本人が望むか望まないかにかかわ らず,社会の現象として非正規雇用をとらえた場合の彼 らの不利な現状を考えれば,将来の日本社会の状況を憂 慮せざるを得ない. 2009 年の日本の就業人口は 6,282 万人であった.その うち 5,478 万人(87.2 %)が会社等の雇用者であり,役 員を除く雇用者 5,102 万人の 33.7 %にあたる 1,721 万人 が非正規雇用者であった.非正規雇用者の割合は1990 年には 20.2%,2000年には 26.0%であったことから, 2000 年以降 10 年間の非正規雇用者割合の急増ぶりがう 総 説 非正規雇用者の健康に関する文献調査 井上まり子 1,2 ,錦谷まりこ 3 ,鶴ヶ野しのぶ 2 ,矢野栄二 1,2 1 帝京大学大学院公衆衛生学研究科, 2 帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座, 3 福岡女子大学国際文理学部環境科学科 2011 年 1 月 11 日受付; 2011 年 5 月 6 日受理 J-STAGE 早期公開日: 2011 年 6 月 8 日 連絡先:井上まり子 〒 1738605 東京都板橋区加賀 2111 帝京大学大学院公衆衛生学研究科 (e-mail : [email protected]産業衛生学雑誌

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産衛誌2011; 53: 117–139

抄録:非正規雇用者の健康に関する文献調査:井上まり

子ほか.帝京大学大学院公衆衛生学研究科―目的:非正

規雇用者の健康に関する原著論文を収集して整理し,そ

の内容を概観することを目的とした.方法:非正規雇用

に関連するキーワードをもとに,米国国立医学図書館の

MEDLINEと医学中央雑誌刊行会の医中誌 webで検索

して文献を入手した.各文献を研究方法,調査データの

種類,標本規模,調査国,結果となる健康指標,非正規

雇用の定義,主な研究結果について整理して分析した.

結果:条件に該当したのは英語論文68編であった.こ

れらの論文を結果指標である労働災害,身体的健康,精

神的健康,代替的健康指標の4種類に分け,研究デザイ

ン(コホート研究,症例対照研究,横断研究)別に概観

した.非正規雇用者の健康状態が正規雇用者と比べて悪

かったのは,一部の労働災害による傷病と身体的健康に

おける死亡率であった.精神的健康ではGeneral Health

Questionnaire等の指標を用いた研究で,概して非正規

雇用で健康状態が不良であると結論づけた研究が多くみ

られた.そのほかの代替的健康指標として,医療へのア

クセスについても非正規雇用で限りがあるという傾向

や,非正規雇用者では正規雇用者と比べて病気による休

職や欠勤が少ないという傾向が認められた.考察:非正

規雇用者で正規雇用者より健康状態が悪い場合が,複数

の研究から示された.不安定な雇用契約や,しばしば変

化する職場環境下で働かざるをえない非正規雇用者の負

の側面が,健康に影響を及ぼす可能性がある.一方,正

規雇用者の健康度が悪いと結論づける研究もあり,雇用

形態が多様化する社会においては雇用形態を問わず健康

度が悪化する可能性がある.

(産衛誌2011; 53: 117–139)

キーワード:Fixed-term worker, Job insecurity, Part-

time worker, Precarious employment, Temporary

agency worker, Temporary worker

Ⅰ.背  景

非正規雇用が社会問題として認識されている.各省庁

の白書でも1990年代の若年層入職困難と非正規雇用者

の増加の関連やそれに伴う収入の低下1),非正規雇用比

率上昇の賃金格差拡大への寄与2)などが指摘され,非

正規雇用を増大させた結果として日本で経済的格差を生

み出す事実が明らかになってきた.不安定な雇用で働い

ても経済的に不利で,かつ失業すれば脆弱なセーフティ

ネットしかない3)のが非正規雇用者の現状である.非

正規雇用にしばしば付随しているのが,自己責任に転嫁

した「本人が希望したのではないか.」「正規雇用になる

だけの能力がないのではないか.」という指摘である.

しかし,実際に統計をみると,現在の就業形態を選んだ

理由として派遣労働者の37%,契約社員の32%が「正

社員として働ける会社がなかったから」と回答してお

り4),不本意にも非正規雇用を選んだ労働者が少なくと

も3割程度存在する.本人が望むか望まないかにかかわ

らず,社会の現象として非正規雇用をとらえた場合の彼

らの不利な現状を考えれば,将来の日本社会の状況を憂

慮せざるを得ない.

2009年の日本の就業人口は6,282万人であった.その

うち5,478万人(87.2%)が会社等の雇用者であり,役

員を除く雇用者 5,102万人の 33.7%にあたる 1,721万人

が非正規雇用者であった.非正規雇用者の割合は1990

年には 20.2%,2000年には 26.0%であったことから,

2000年以降10年間の非正規雇用者割合の急増ぶりがう

総 説

非正規雇用者の健康に関する文献調査

井上まり子1,2,錦谷まりこ3,鶴ヶ野しのぶ2,矢野栄二1,2

1帝京大学大学院公衆衛生学研究科,2帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座,3福岡女子大学国際文理学部環境科学科

2011年1月11日受付;2011年5月6日受理

J-STAGE早期公開日:2011年6月8日

連絡先:井上まり子 〒173–8605 東京都板橋区加賀2–11–1

帝京大学大学院公衆衛生学研究科

(e-mail: [email protected]

産業衛生学雑誌

かがえる.総務省・労働力調査の定義によると,2009

年の非正規雇用者の内訳は,パート814万人(47.3%),

アルバイト 339万人(19.7%),契約社員・嘱託が 321

万人(18.7%),派遣社員108万人(6.3%),その他139

万人(8.1%)であった5).非正規雇用の雇用形態自体

は全く新しいわけではない.しかし,非正規雇用者を対

象とした問題は,労働経済や社会学的側面から取り上げ

られるのが主であり,健康については個別の事例を除く

と明らかにされてこなかった.現在,日本の労働者の約

3割が非正規雇用で仕事に就いているという実情から

いっても,非正規雇用者の健康は産業衛生上決して無視

できない研究課題の一つのはずである.

国外に目を向けると,非正規雇用を中心とした雇用形

態多様化は日本固有の問題ではないことに気がつく.非

正規雇用は労働者の社会保障や職の安定性を妨げうる新

しい雇用形態といわれ,その特徴として臨時雇用の労働

者であり,使用者に対して力が弱く,待遇が悪く,低賃

金であるという傾向がみられる6).呼称や身分が各国で

異なったり,良い待遇を整えて非正規雇用の推進を図る

国もあったりと,必ずしも同等に議論できないものの,

日本と同様に非正規雇用を課題として抱える国も存在す

る.そうした中で,非正規雇用者の健康に関する学術的

研究はすでに国外で進められており,代表的な系統的レ

ビュー論文が3編出版されている7–9).この3編を仔細

に検討すると,Quinlanらは不安定な労働として,小規

模事業主や外注による委託業務などと並列して非正規雇

用に言及しているが,出版年は2001年であり,論文数

が急増した2000年以降の研究を扱っていない7).Ferri

らは不安定な労働として非正規雇用以外に失業や企業規

模の縮小についても言及しており8),不安定な就労全体

を総合的に扱っているレビューであるが,各論文につい

ての詳しい比較検討は行っていなかった.メタ分析を

行ったVirtanenらは,非正規雇用者の健康に関する論

文に特化していたものの,健康に関する検索のキーワー

ドを“morbidity”,“mortality”,“health”に限定してお

り,その他の語を用いた疫学研究を含んでいない可能性

がある9).したがって,現在日本で増加しているような

非正規雇用者について多くの疾病を対象にしたレビュー

は行われていなかった.さらに,レビュー論文を日本語

で提供することは,日本国内の産業衛生に携わる者や,

労働者の健康に興味を持つ人々との情報の共有ならびに

知識の普及に資すると考えた.

以上の背景より,本稿の目的は非正規雇用労働の健康

に関して出版された原著論文を収集して整理し,その内

容を概観することである.

Ⅱ.方  法

学術雑誌に過去に掲載されている文献を検索し,非正

規雇用者と正規雇用者の健康に関する疫学研究を取り上

げて,その研究方法,調査データの種類,標本規模,調

査国,結果となる健康指標,非正規雇用の定義,主な研

究結果について文献を整理して分析した.なお,非正規

雇用のほかに非典型雇用という呼称もあるが,本稿では

非正規雇用で統一し,非正規雇用の定義は総務省の労働

力調査と同じものを使用した.

文献検索は,英文の論文についてはNational Library

of Medicine(米 国 国 立 医 学 図 書 館 )の MEDLINE

(Ovid),日本語の論文については医学中央雑誌刊行会

の医中誌webを用いて2009年9月に行った.

英語による非正規雇用やその具体的形態を示す言葉は

多様であり,各国の定義というのもしばしば異なる.事

前検討の時点で多く該当した“precarious”,“contin-

gent”,“non-standard”,“non-traditional”,“non-regu-

lar”,“flexible”,“peripheral”,“irregular”,“unstable”,

“atypical”,“alternative”を用いた.また,具体的な非

正規雇用者を示す語として“temporary”,“fixed-term”,

“term-limited”,“non-permanent”,“on-call”,“season-

al”,“contractor”,“contract”,“part-time”と い う 語

を取り上げた.そして正規雇用者を示す“permanent”

を用いた.これら21語について“work”,“worker(s)”,

“job(s)”,“employment”,“employee(s)”を掛け合わ

せ,標題と抄録に含む文献を検索した.検索に用いた語

のうち,たとえば“seasonal”“precarious”“non-stan-

dard”などはそれぞれ一般的な形容詞であり,雇用に

特化した形容詞ではない.したがって,検索に用いると

対象論文が極めて多くなってしまう.的を射た文献検索

を実施するために標題と抄録のみの検索を行った.健康

に関するキーワードを採用しなかったのは,多様な健康

指標について研究した論文を探し,傷病を限定すること

を避けるためである.出版期間は1950年から2009年 8

月に限り,英語で発表された文献を検索対象とした.

日本語の論文については医中誌webを用いて検索し

た.キーワードは「非正規雇用」,「非正規労働」,「非典

型雇用」,「非典型労働」,「パート社員」,「パート雇用」,

「パート労働」,「パートタイマー」,「アルバイト」,「派

遣社員」,「派遣労働」,「派遣雇用」,「契約社員」,「契約

雇用」,「契約労働」,「嘱託社員」,「嘱託雇用」,「嘱託労

働」,「任期雇用」,「期間工」,「フリーター」,「雇用形態」,

「就業形態」であった.

得られた文献は英語日本語共に,著者不明である文献,

研究を主とした原著論文以外の文献,標題が明らかに今

回の目的と合致しない論文を除き,該当抄録の内容を検

討することとした.次に,抄録検討の時点で今回の研究

目的である非正規雇用者の疾病について言及していない

文献を除くことにした.具体的には,短期の労働障害

(temporary work disability),医療系大学の学生や医療

118 産衛誌53巻,2011

井上ほか:レビュー:非正規雇用者の健康 119

従事者の労働環境,労働者の海外派遣,疾病罹患後や手

術後の仕事復帰とその雇用形態を扱った論文等である.

また,研究対象が非正規雇用者を雇う経営者等ではなく,

労働者本人の健康に関するデータを収集した研究に限定

した.

Ⅲ.結  果

1.対象論文の概要

医中誌での検索の結果208編の文献を得たが,そのう

ち除外条件により 14編に限定して通読した.一方,

MEDLINEによる検索の結果,該当した論文は重複を

除くと961編であった.このうち文献の除外条件により

172編に限定した.文献検索で得た論文以外に,2010年

3月までに関連学術雑誌の目次や引用文献などを通じて

得た文献34編を合わせ,合計206編の論文を通読した.

本研究の目的は,非正規雇用者の健康状態を明らかに

することから,非正規雇用者と正規雇用者の比較を量的

分析で行っている論文を取り上げることにした.こうし

た条件に該当したのはMEDLINEで検索した英語論文

68編であった.日本語論文では該当する論文が得られ

なかったため,本研究の対象から除くことにした.

対象となった68編を研究デザインで分類すると,20

編はコホート研究,1編が症例対照研究,47編が横断研

究(観察研究やパネル研究等を含む)であった.科学的

根拠として価値が高いコホート研究が全体の29%を占

めていた.論文が出版された年代では2000年以降の論

文が 58編(85.3%)であった.研究に用いられたデー

タは公的統計や国家の調査による研究が25編,標本数

の多い調査や既存のコホート研究を用いた調査による研

究が24編(うち1編は公的統計も同時に使用),当該研

究のために調査を実施したものが19編であった.既存

のデータを用いた研究の方が多かった.

研究が行われた国ではフィンランドの研究が18編と

最も多く,次いで米国の10編,スウェーデンの7編で

あった.その他,欧州連合(EU)やスペイン,カナダ,

ドイツといった国の研究が続いており,先行研究の多く

は欧米での研究であった.

対象論文で用いられた健康の指標は主に4つに分類で

きる.第1に労働災害(21編),第2に身体的健康(27

編),第3に精神的健康(27編),第4に代替的指標から

健康を測定した研究(20編)である.第 4の代替的指

標とは,病気による休職や欠勤,保健医療サービスへの

アクセス,健康にかかわる生活習慣の有無等であり,当

事者の健康に関連していると考えられるものである.4

種類の健康の指標を単独で扱う論文もあったが,重複し

て取り扱う論文もみられた.次節からはこの4種類の健

康指標について研究デザイン別に概観する.

2.労働災害

労働災害による負傷やそれに伴う筋骨格系の痛みの訴

えなどの論文21編について検討する10–30).Table 1で

はそれぞれの筆頭著者名,出版年,調査対象国,標本数,

データの出所,研究デザイン,雇用形態,結果指標,主

な研究結果について要約した.

(1)コホート研究

負傷や疾病罹患に関する2編のコホート研究はいずれ

も欧州の研究であった.その2編によると,労働に伴う

負傷や筋骨格系の障害の発生については正規雇用と非正

規雇用で相違が認められなかった10,11).

(2)症例対照研究

今回の文献検索の結果,全体のうちで症例対照研究を

行っていたのは台湾における労働災害に関する論文の1

編のみであった.労働災害で眼を負傷した入院患者を対

象に調査した結果,負傷者における臨時雇用者の割合は

正規雇用者より約11倍多くみられた12).

(3)横断研究

労働災害による負傷に関する研究は横断研究として多

数報告されていた.労働災害の負傷申告に関して,正規

雇用者より非正規雇用者の方が多いという結果を得た研

究25,26,29,30)とその反対の結果19,22)に分かれていた.

部位別にみると,正規雇用者より非正規雇用者の方が負

傷率が高いという結果を得た研究は,腰痛13),上部腰

痛15),腰痛と筋肉痛16),筋骨格系の障害21,28)でみら

れた.その反対の結果を得た研究では,腰痛17),筋骨

格系の障害 18),手根管症候群 27)であり,雇用形態に

よって負傷部位に偏りはなかった.Benachらは欧州連

合(EU)加盟国のデータから,社会経済的要因などを

考慮して分析した結果,正規と非正規雇用者の間の腰痛

発生率に違いはなかったとしている23).コホート研究

では負傷について雇用形態での差がみられなかったよう

に,横断研究ではコホート研究とは部分的に異なる結論

を得ていることになる.

3.身体的健康

身体的健康は死亡率,疾病罹患,主観的健康感で測定

されている.身体的健康について調査している研究の概

要をTable 2に示す10,11,20,28,31–53).研究デザインの

内訳は,コホート研究は12編,横断研究は15編であり,

症例対照研究はなかった.

(1)コホート研究

コホート研究では死亡率を検討した研究が3編あり,

いずれも非正規雇用が死亡率を上昇させると結論付けて

いた.フィンランドでのコホート研究によれば,年齢と

職位,給与を調整しても,総死亡率は正規雇用者より非

正規雇用者で高くなっていた.そのうち,男性では喫煙

とアルコールに関連するがんによる死亡が正規雇用者と

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比べて非正規雇用者で多く,女性では臨時雇用から正規

雇用に転職した者で死亡率が下がる傾向が見られた35).

さらに,臨時雇用者で不安定な職に満足していない者や

本人の意に反して非正規雇用労働をしている者では,正

規雇用者より死亡率が高くなっていた40).スウェーデ

ンの研究では,パート労働者の男性はそのほかの労働者

と比べて死亡率が高い傾向にあったが,女性には同様の

傾向がみられなかった31).

慢性疾患の数については,任期付雇用を継続している

者と任期付雇用から正規雇用に変わった者との間に違い

がない 36)という報告がみられた.Body Mass Index

(BMI)については,非正規雇用者を追跡した結果,

BMIが 30未満の者で正規の職を得ている労働者が多い

ことや34),正規雇用から非正規雇用になった者では非

正規雇用から正規雇用になった者に比べて体重増加が大

きいとも報告されていた39).

標本数の多い研究では,簡便な指標として主観的健康

感が用いられる.主観的健康感と死亡率との関連は知ら

れており54),本稿でも身体的健康を裏付けるものとし

て検索した.コホート研究では,非正規雇用者の主観的

健康感が悪いという研究があり32),正規雇用から非正

規雇用になった者では主観的健康感が悪いという研究が

あった39).さらに,ベースラインでの主観的健康感の

良さが将来の正規雇用への転換を予測するということも

報告されていた34).一方で,主観的健康感は正規も非正

規雇用でも違いがみられないという研究もあるため11),

主観的健康感を検討したコホート研究については一定の

結果を得られなかったことになる.

(3)横断研究

各種疾病については,ブラジルの研究では関節炎/リ

ウマチと気管支炎/喘息,肝硬変はパート労働者でフル

タイムの者より多くみられ51),韓国の研究では非正規

雇用者では肝臓の疾患が多かったと報告されている28).

一方,フィンランドの研究では慢性疾患の有無は任期付

労働者で正規雇用者より少なかったとも報告されてい

た46).

最後に主観的健康感に関する横断研究では,非正規雇

用で正規雇用より悪かったという研究41,44,45,52)があ

る一方で,逆の結果46)もあり,コホート研究同様に結

果が一定していなかった.

4.精神的健康

非正規雇用が不安定な就労状況であることから,非正

規雇用者の精神的健康に関する注目が高まっている.本

研究では精神的健康に関して10編のコホート研究,17

編の横断研究の報告を対象とした(Table 3).精神的健

康は,標準的診断分類や妥当性や信頼性が確立した尺

度といった,標準化された指標で測定した研究と,アン

ケート調査等でストレスの有無を尋ねるような簡便な方

法をとる研究の2種類に分類できる.標準的診断分類と

しては国際疾病分類第10版(ICD-10)と精神障害の診

断と統計の手引き(DSM-IV)が用いられ,標準化され

た尺度としては抑うつ尺度(Center for Epidemilogic

Studies Depression Scale: CES-D)や精神健康調査票

(General Health Questionnaire: GHQ),WHO国際統合

診断面接(Composite International Diagnostic Interview:

CIDI)が用いられていた.

(1)コホート研究

コホート研究としてGHQ-12で精神的健康を測定した

研究からは,非正規雇用を過去に経験した人で精神的健

康度が低い38),非正規雇用であったのに正規雇用の職

を得た人では心理的苦悩が少ない34)といった特徴がみ

られた.非正規雇用者は正規雇用者と比べて精神的健康

が悪化する37),軽度の精神的疾患の罹患に雇用形態間

の差がない32)とも報告されており,結果は一定してい

ない.

精神的健康については一歩踏み込んだ形で,自殺や抗

うつ薬の処方に関する研究も行われていた.パート労働

者ではフルタイム労働者と比べて自殺企図率が高いこと

が,カナダの医療施設利用調査で示された.同調査は,

パート労働者でかつフルタイム労働者と同居していない

者や,世帯所得が中央値以下では自殺企図率が高まるこ

とも示した55).フィンランドの医療保険の使用状況を

分析したコホート研究は,男女ともに非正規雇用者で正

規雇用者と比べて抗うつ薬の処方が多いことを明らかに

した58).

それ以外にもコホート研究からは,調査期間中に非正

規雇用に転じた労働者はベースラインでうつ症状が多

かったこと11),正規雇用者は不安定な雇用形態の者よ

り精神的症状の訴えが少なかったこと57)が示され,総

じて,非正規雇用が精神的健康障害に関連するという結

果であった.一論文のみ,現在の非正規雇用者の過去の

状況について検討した研究があり,8歳の時点での高い

不安感が42歳になった時点での非正規雇用率に影響す

ること,精神的疾病を抱えた非正規雇用者はそのまま非

正規雇用で留まり続けること56)が示唆された.

(2)横断研究

横断研究からもコホート研究同様に非正規雇用者で精

神的健康度が不良であるという結果が得られている.非

正規雇用の女性は正規雇用の女性と比べてICD-10によ

る精神疾患の保有者が多いこと28),不本意ながら働く

パート労働者で,パート労働をしたことがない労働者と

比べてCES-Dで評価したうつ症状を有する者の割合が

高いことが示された67).CIDIを用いた研究ではパート

労働者で子供がいる者63),季節労働者の既婚女性66)で

正規雇用者と比べてうつ状態が高いことが示唆されてい

井上ほか:レビュー:非正規雇用者の健康 125

126 産衛誌53巻,2011T

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る.なお,DSM-IVによる診断でのみ結果が異なり,雇

用形態の違いによるうつ気分の割合に差が見られない49)

と報告されていた.コホート研究でも多くみられた

GHQは横断研究でも用いられている.GHQを使用した

研究は全て,非正規雇用者は正規雇用者と比べて心理的

苦悩が高いと結論づけている46,48,62).概して非正規雇

用者は正規雇用者より精神的健康状態が不良であるとい

える.

そのほか標準化された質問票以外による横断研究で

は,ストレスについて評価しており,非正規雇用者は正

規雇用者と比べてストレスが少ないという結果で一致

していた23,60).仕事のプレッシャーについては,非正

規雇用より正規雇用者で高いという結果が得られてい

る65).しかし反対に,女性の非正規雇用者では正規雇

用者と比べてうつと自殺願望が高いことが示されるな

ど64),横断研究では結果が一致していない点もある.

5.代替的健康指標

身体的・精神的疾病の罹患率等ではないが,代替的指

標を採用して健康を測ることも試みられている.具体的

には,医療保険加入率,病気による休職や欠勤(病欠),

健康にかかわる生活習慣などである.こうした代替的健

康指標による研究は20編あった.このうちコホート研

究は9編,横断研究は11編であった(Table 4).扱わ

れていた指標としては,病欠が最も多い 10編であり,

次いで健康にかかわる生活習慣が6編,医療のアクセス

に関して2編,医療保険に関して1編,労働者の子ども

の出生体重に関するものが1編であった.

(1)コホート研究

病欠に関しては,本稿で対象となったコホート研究で

は正規雇用者の方が非正規雇用者より高い頻度で病欠を

とっていることを示していた32,36).リストラ等による

企業規模の縮小が起こった企業において,病欠は非正規

雇用より正規雇用で増加する68)といわれている.また

一方で,病欠は雇用形態の変化に関係ないとする報告34)

もみられた.1編のみ,病欠が雇用中断を予測する因子

であることが正規雇用より非正規雇用で多くみられた70)

が,今回対象となった論文からは,非正規雇用者が正規

雇用者より病欠を多くとることを積極的に示す結果は得

られなかった.

健康にかかわる生活習慣は,活動的(座ることが少な

い)生活習慣であることが後に正規雇用になることと関

連していた34).また,非正規への雇用身分変化を経験

した群では,ベースラインでアルコール消費が高いこと

が示された 11).特に女性では,非正規(失業を含む)

への変化傾向にある群では一定して,職のある群に比べ

て運動習慣の割合が減少していた39).

次世代にかかわる健康の課題として,母親の雇用形態

と子どもの出生体重を検討した研究がみられ,望まない

パート労働に転職した母親は低体重児を出産する割合が

高かったという特徴があり,雇用形態が有する健康への

影響が次の世代に及ぶ可能性も示唆されている69).

(2)横断研究

正規雇用者の方が非正規雇用者より高い頻度で病欠を

とっているのは横断研究でも同様であり72,73),そのほ

かは両者の病欠率に違いがみられないという研究77,78)

のみであった.

生活習慣に関しては,非正規雇用者でアルコール消費

が多く,朝食の欠食率が高いこと49)が報告されている.

今回の対象論文の中では,パート労働者で喫煙率が低い

こと75)を示した米国の研究以外は,総じて非正規雇用

者では生活習慣が健康的ではないという研究が主であっ

た.

医療のアクセスについてはどの研究も非正規雇用者で

の不利な立場を示唆していた.フィンランドの研究では

正規雇用者と比べて非正規雇用者は産業衛生上の健康診

断を受けないこと76),ブラジルの研究では医療施設で

の受診がフルタイムでもパート労働者でも社会保険がな

い者で少ないこと51)が示された.

Ⅳ.考  察

過去の文献を概観し,同じ労働者でも雇用形態によっ

て健康に差が生じることを複数の健康指標で確認した.

非正規雇用者の健康状態が正規雇用者と比べて悪いの

は,特に死亡率,一部の労働災害による傷病,精神的健

康状態,医療へのアクセスであった.また,非正規雇用

者では病気による休職や欠勤が少ないという結果も得ら

れた.

1.労働災害

労働に伴う負傷や筋骨格系の障害については,コホー

ト研究では雇用形態による差がみられず,横断研究では

結果が定まっていなかった.特に労働災害の研究では実

際の主たる作業内容がデスクワーク主体である事務を執

る労働者と,身体的作業を有する製造業や建設業等の現

場では労働災害の種類も発生率が違うと推測される.労

働災害は産業によって発生も異なるため,産業や職種別

の分析を進める必要があると考えられた.

労働災害についてはデータの入手について公的統計や

保険利用データ等を用いている研究と,質問票による調

査による研究があった.前者は確実な情報として優れて

いる半面,記録されていない労働災害―いわゆる労災隠

し―が起こっている場合に見えてこない情報が含まれて

いるといえる.本研究においては公的統計と質問票によ

る調査の二者で結果が大きく異なる傾向はなかったが,

公的統計等のみを信頼するだけではなく,非正規雇用者

井上ほか:レビュー:非正規雇用者の健康 129

130 産衛誌53巻,2011T

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の実際の労働災害発生状況を確認する必要がある.

日本の統計によれば,労働者の労働災害による休業4

日以上の死傷者数は製造業への派遣が解禁された2004

年には667人であったのが,2008年には5,631人と 8倍

に増加していた79).特に注目すべきは,日本の全労働

者に対する労働災害死傷者の発生率は減少しているにも

かかわらず,派遣労働者の労働災害死傷者発生率では増

加しているということである80).同様にして,2009年

度の労働災害申請に対する支給決定割合は,脳・心臓疾

患では正規雇用者が47%,非正規雇用者が14%,同様

に精神障害等では正規雇用者が28%,非正規雇用者が

17%と異なっており81),雇用形態での違いが労働災害

の申請に対する支給決定の差にも繋がっている.

2.身体的健康

身体的研究について死亡率を検討したコホート研究で

は,いずれも非正規雇用は死亡率を上昇させるという関

連が示された.健康指標として最悪である死亡において,

非正規雇用は悪影響を及ぼしているということになる.

これらは年齢や給与等を調整したうえで得られた結果で

あることから,従来指摘されている所得の不平等といっ

た経済的要因による健康への影響82)以外に,非正規雇

用という雇用形態が健康を害するといえる.この理由と

して,次の精神的健康の部分で述べるように,不安定な

雇用や不満足な就労からくるストレスゆえに生活習慣が

悪化すること,所得が低いために掛け持ちで仕事をして

体調を崩すこと,そして体調不良ゆえに正規雇用での働

き口がないという悪循環などが考えられる.今回取り上

げた文献では,死亡率は全死亡とがんに関する死亡に限

られていた.いかなる理由による死亡が非正規雇用と関

連が強いかについては,他の疾病を含めてさらなる検討

を要する.

主観的健康感に関しては,コホート研究も横断研究も

非正規雇用者の健康が良いという研究と悪いという研究

に二分されていた.主観的健康感をアウトカムにした研

究で結論が分かれる理由は,国の制度による非正規雇用

者への支援の違い,アウトカム測定指標の違い,そして

非正規雇用労働を選んだ人々の理由の違いによる本人の

受け止め方の差が考えられる.特に,非正規雇用者の中

でも,家庭との両立をはかるなど本人の都合で非正規雇

用を積極的に選んだ人と,就職時の不況の影響で正規採

用されずに消極的に非正規雇用労働を選んだ人とは状況

が異なる.それぞれの就業理由で分けて健康を測定する

ことも必要であろう.

非正規雇用という雇用形態が古くから存在することは

知られているが,それは健康に伴う研究についても同様

であった.特に,季節労働者を中心にした,人の移動を

伴う労働者の感染症の問題は古くから扱われていたテー

マであった.その対象感染症はSARS83)からB型肝炎84)

に至るまで様々である.このような季節労働者や移民に

関する研究は今も引き続き行われている.しかし,現在

の非正規雇用者に対する健康の主眼は,人の移動に伴う

感染症というよりは不安定な就労の結果としての死亡

率,労働災害,医療保険へのアクセスなどにあり,過去

の研究と性質が異なっていた.研究報告を読み進めるこ

とで,対象や注目されるアウトカムが変化していること

が分かり,非正規雇用者の健康問題に関する研究着眼点

の変遷を理解できた.

さらに,身体的健康を測る指標として,今回のレビュー

では健康指標として死亡率や疾病の有無といった,すで

に発生した事象を扱う研究が多く,それ以外は主観的健

康感による測定が行われていた.しかし,その二つの中

間にある,いわば疾病の発生を客観的に測定する方法と

して,臨床検査結果を用いているものは極めて少なかっ

た.そのような論文は,本研究の対象となった中ではナ

チュラルキラー細胞の活性について検討した1編だけで

あった53).疾病の罹患については本人の自己申告など

ではなく,身体検査や診断に持いた血液検査などの指標

も有用な情報となりうる.今後,このような臨床検査結

果は,非正規雇用者の健康状態を表すより確実な指標と

してさらなる分析が期待される.

3.精神的健康

精神的健康に関しては,GHQのように標準化された

質問や,自殺企図ならびに抗うつ薬の使用といった記録

を用いたコホート研究から,概して非正規雇用は正規雇

用と比べて精神面での健康度が低いことが示唆された.

横断研究でもGHQを使用した研究では,正規雇用者と

比べて非正規雇用者の精神的健康度が低いことで全ての

研究が一致していた.特に標準化された指標や尺度にお

いて,正規雇用者より非正規雇用者の精神的健康度が低

い状態にあると結論付けた調査が多かったことや,国を

問わず同じ結果に至ることから,非正規雇用者の精神的

健康度が低いことが認められたといえる.これは

Virtanenらのレビュー論文9)とも一致する結果であっ

た.非正規雇用は不安定な就業形態であり,いつまでも

事業所内の人と思われない人間関係の希薄さ,幾度とな

く新しい職場を経験することによる人間関係構築の困難

さ,常に任期と次の雇用を考えているという将来への不

安などが,精神状態の悪さに関連しているものと考えら

れる.さらに,こうした精神的ストレスが身体的健康に

及ぼす影響も推測される.

本稿では非正規雇用が健康状態に及ぼす影響を念頭に

置いているが,文献の中のコホート研究では,精神的健

康状態が悪いことが理由で非正規雇用になっているとい

う結果も見られた.精神的健康を害していることで正規

132 産衛誌53巻,2011

雇用としては採用されず,その不安定さや職場での立場

からますます精神的健康を損なう恐れがある.十分な福

祉的素地がない状況であれば,治療を続けながら働き続

けることが叶わない可能性がある.ゆえに,このような

側面にこそ社会の介入が必要であると考えられた.

非正規雇用であるがゆえに精神的に健康を害している

ことは,研究でもしばしば捉えられている点である.し

かし反対に,精神的健康を害して長期的に治療が必要で

あり,かつ少しでも収入を得るために非正規雇用で働か

ざるをえないという二つの側面があることを区別して考

えねばならない.「非正規雇用であるから健康を害した

のか.」あるいは「健康を害しているから非正規雇用を

選ばざるを得なかったのか.」という二つの可能性があ

るため,コホート研究によって検証してこの両者を区別

することの重要性が考えられた.

4.代替的健康指標

代替的健康指標としては,病気休暇については,正規

雇用者の方が多くとることができるようである.これは

そもそも,制度として正規雇用者の方が休暇・休業につ

いて優遇されていることが十分にありうる.仮に休暇・

休業に関する労働者の権利が雇用形態によって違いがな

いのであれば,正規雇用者では遠慮なく休むことができ

るという状態を表しており,非正規雇用者にある精神的

な障壁を表すものともいえる.非正規雇用者では病気休

暇をとることによって不調を印象付けることを避けた

り,減給されることを避けたりするために,体調が悪く

ても働かざるを得ない状況にあると推測された.この場

合,健康問題を抱えて出勤している労働者の職務遂行能

力の低下―いわゆる presenteeism― 85,86)が懸念され

る.

医療のアクセスについては,非正規雇用ゆえに労働者

の権利が制限されている可能性がある.レビューで取り

上げたのは国外の研究であり,それらは非正規雇用者の

医療保険や健康診断といった医療へのアクセスの悪さを

指摘する結果であった.日本においては国民皆保険制度

が整備されていても,そこから漏れてくる人口が少なか

らず発生することもありうる.雇用されていても,被用

者健康保険加入率は契約社員で 83.4%,派遣労働者で

80.2%,臨時雇用者で 29.3%,パートタイム労働者で

28.7%など,健康保険適用を受けている者が少ない4).

健康保険の被保険者の家族になっていたり,国民健康保

険に加入していたり,そもそも全て自費で賄う経済力が

あるのであれば別であるが,同じ労働者でも差があるの

は否めない.特に,日本は被用者健康保険に加入できな

かった場合に制度上国民健康保険に移行できるが,今度

はその保険料滞納などにより無保険になることが問題に

なることもある.現在,日本では実際に無保険者が存在

し,そのうち中学生以下の子どもについては救済措置が

講じられている.特に低所得世帯においては,健康保険

がないことが受診抑制につながることが懸念される.国

民皆保険制度から漏れてくる人口についてその理由を検

討する必要がある.

生活習慣については1編を除いて,非正規雇用者は健

康的ではない生活習慣を有することを示唆していた.不

安定な職業生活からくるストレス,社会経済的要因や経

済的余裕の不足からより良い生活習慣をとることを妨げ

られていると考えられた.将来にわたる健康も考慮する

ならば,非正規雇用者の生活習慣の悪さというのは顧み

るべき課題である.なぜならば,現在は体力が維持でき

て働けるほど健康であるものの,健康的ではない生活習

慣を有していたことで将来の健康を害する可能性が生じ

るためである.

生活習慣と同様に将来の健康を予見するという観点か

ら,雇用形態の次世代への影響も取り上げられていた.

本稿では子どもの出生体重に関する研究をとりあげた

が,その他にも母乳育児を雇用形態別に検討した研究が

あり87),それらは一様にして非正規雇用の方が母乳育

児を推進できるものとしていた.現在では母乳育児によ

る恩恵は母親の将来の健康リスクを軽減することや,

母乳で育った子供の将来の高血圧罹患低下が知られてい

る88).さらに,母親の雇用形態によって子どもの生活

習慣が異なり,フレックス制をとる勤務形態の母では子

の果物摂取が良好であることなど88)が知られている.

個人の好みにも左右されることではあるが,次世代にわ

たる健康を左右する問題として,親の雇用形態とそれに

伴う家族との時間を考慮する必要性が示唆された.

5.日本における調査の必要性

非正規雇用者の待遇については様々な議論があるにも

かかわらず,日本においては健康に関する研究は極めて

少なかった.本稿でとりあげた日本の研究は,男性の任

期付労働者は正規雇用者より疲労を訴える割合が高く,

飲酒率と朝食欠食率が高いことを示したNakaoらの論

文49)と,女性の正規雇用者で仕事のプレッシャーや仕

事や家庭からくるジョブストレインを非正規雇用者より

多く報告したというSetoらの論文65)の 2編であった.

実際にはその他に検索できた論文もあったが,調査対象

として非正規雇用者である派遣会社やパート労働者を対

象にしているものの,正規雇用と比較した論文ではな

かったために精読対象から割愛した90–94).また,正規

雇用者と比較しているものの,複数の就業形態の群間差

の比較に留まっていることや95),統計的比較がなされ

ていない96)という限りがあった.本研究の検索後に今

回用いた医中誌のデータベースに追加され,2010年 3

月までに出版された2編の論文があった.パート社員は

井上ほか:レビュー:非正規雇用者の健康 133

正規雇用者と比べて裁量度が低く,上司と同僚の支援が

少ないことが示された97).また,ストレス対処能力と

して知られるsense of coherence(SOC)が非正規雇用

者で特に製造業従事者―いわゆるブルーカラー―で低い

こと98)が示唆されるといった研究の発展がみられた.

こうしてみると,現在非正規雇用者は雇用者の約3割

を占めるという事実や,国際比較においても非正規雇用

者の割合が高いという事実と比して,日本では彼らの健

康問題に関する研究が少ないと言えそうである.実際に

経済協力開発機構(OECD)30ヶ国の労働統計による

と,日本は先進国の中でも非正規雇用者の割合が高い国

である.雇用者に占める非正規雇用者の割合は,日本の

臨時雇用者は男性で8.1%(OECD平均10.8%)である

が,女性で 21.3%(OECD平均 12.4%)であり,女性

は37ヶ国中上位5位と,臨時雇用者の割合が高い.ま

た,パート労働者は男性で 10.5%であり上位 9位

(OECD平均7.2%),女性で33.8%(OECD平均17.8%)

で上位8位であり,先進国においても非正規雇用者の占

める割合が高い99).このような事情からも,非正規雇

用者の健康問題に注目することが必要だといえる.なお,

非正規雇用者の健康に関する研究は,各国の労働政策や

経済事情との関連から,ある国の研究成果を別の国にあ

てはめることが困難であるという事情もある.また,非

正規雇用の定義は各国で様々で,必ずしも日本の非正規

雇用が他国の非正規雇用と同様であるということも当て

はまらない.したがって,日本国内独自の研究が求めら

れているといえよう.

さらに,日本では非正規雇用が所得の低さとも関連し

ている2).所得と健康状態との負の関連は以前から報告

されており,相対的貧困や経済的格差が大きい場合に健

康状態がより悪いことが知られている100).働く貧困層

―いわゆるワーキングプア―は,先進国において少なく

とも 1960年代から存在が認められていたものの 101),

現在ほどの扱いではなかった.日本では相対的貧困への

注目度の低さや,貧困問題への危機感の希薄さといった

理由から注目されてこなかった.しかし,現在働く貧困

層の所得が低い理由が雇用形態に起因するのであれば,

社会経済的格差を生み出す根本的な原因の一つとして,

雇用形態による健康の違いも検証すべきである.特に若

年層は現時点で健康で働けているかもしれないし,親世

代がまだ現役で働いているために頼れる存在があるかも

しれない.しかし,現在の若年層が中高年になったとき

―すなわち20年から30年後といった長期的健康の予測

を行うことも重要である.ある時点で不安定な就労状態

にあったという曝露がいかに健康に影響を及ぼすかにつ

いて,わが国でも研究に取り組む必要があるのではない

だろうか.

6.研究の限界

本研究の限界の一つは,精読する対象を正規・非正規

雇用者の比較を研究デザインに用いている量的研究に限

定したことである.実際には正規と非正規雇用者を比較

していない症例研究や,質的研究の中でも有用な情報を

記述している論文が多くみられた.フランス核施設での

請負社員らの労働衛生問題 102)や,米国の石油プラン

ト事故での死亡者に契約・請負社員が多かったこと103)

を指摘する論文など,危険な仕事に従事する非正規雇用

の実情は国を超えて共通していた.また,質的研究手法

を用いた研究からは,非正規雇用者の置かれた内容につ

いて具体的に,かつその労働者のことばで語られた内容

が印象的であった.現場では労働災害がしばしば報告さ

れないこと104),定期的な運動習慣,食事,そして睡眠

が持てないこと 105)などは,日本で報じられている非

正規雇用者の劣悪な労働条件と似ている.このような質

的研究や症例報告などは著者の研究手法の専門性から選

択したと考えられるが,非正規雇用者が国外においても

比較的アプローチしにくい人口であることに起因するも

のとも考えられた.

次に,今回の分析対象とした研究は,対象国が特定の

国に集中している傾向あった.この理由として問題意識

の形成上,雇用政策が奏功した国では非正規雇用が社会

問題として扱われない可能性がある.今回分析対象とし

た論文は欧州のフィンランドや米国,スウェーデン,ス

ペインでの研究が突出して多く,限られた国の結果であ

ることが否めない.先述のOECDの統計によれば,北

欧諸国やスペインなどは2000年以降に非正規雇用者の

割合が増えている国である.米国は正規雇用であっても

成果が挙がらなければ解雇されるなど,不安定な雇用が

付きまとう雇用形態をとっている.したがって,研究対

象の国特有の背景を考慮する必要がある.

さらに,本研究では英語論文については検索で標題と

抄録にのみ限定して検索したため,キーワードとして広

く取り扱っている研究を検索で得ていない可能性があ

る.しかし,関連する論文の参考文献を探し,代表的な

学術雑誌は別途読むことで論文を探したため,カバーし

きれていない論文は少ないと考える.検索に際しては医

学以外の分野―具体的には社会科学系や心理学系等―の

データベースをあたっていないことから,それらに含ま

れる非正規雇用者の健康に関する研究を扱っていない可

能性は否定できない.

Ⅴ.おわりに

過去の文献を概観し,コホート研究,症例対照研究,

横断研究と多岐にわたる疫学研究を通じ,同じ労働者で

も雇用形態によって健康に差が生じることを複数の健康

指標で確認することができた.世界保健機関では不安定

134 産衛誌53巻,2011

な雇用を健康の社会経済的決定要因として位置付けてお

り106),研究の蓄積によってその根拠が提示されている

ことが理解できた.

文献レビューを行った中で,非正規雇用者と正規雇用

者のけがの発生に差がないという結果もみられた11,23).

今回は非正規雇用者に焦点を当てたが,正規雇用者が必

ずしも健康状態に恵まれているというわけではないこと

を補足しておく.実際に正規雇用者が少ない職場で大き

な責任が発生することや,正規雇用という雇用形態であっ

ても給与が低い,長時間労働,福利厚生が悪いという職

場も存在し,周辺的正社員と呼ばれることがある 107).

このような職場では,正規雇用者とはいえ待遇や安全教

育等に恵まれずに負傷する可能性が否めない.職場では

実際に,正規雇用の同期がいない事態になり,相談相手

がいなくなるなど108),雇用の非正規雇用化による影響

は当事者である非正規雇用者以外にまで波及している可

能性がある.

現在の日本の労働人口における非正規雇用者の多さや

歴史的経緯をみても,非正規雇用そのものの存在がなく

なることはないと考えられる.今後,一部の労働者が引

き続き非正規雇用であり続ける中で,同じ労働者であっ

ても雇用形態によって健康度が異なることや,労働者の

健康を守る仕組みが異なるという点がますます問題にな

ると考えられる.多様化する雇用形態がこのような健康

の差をもたらしているのだとしたら,非正規雇用者の健

康特性やその医療へのアクセスの低さの程度について検

討して予防措置を講じるべきである.そして雇用形態で

の健康の違いや医療へのアクセスといった差を当たり前

とするような社会の潮流があるのだとすれば,それは社

会規範の変化として指摘されるように109)産業衛生を

超えて論ずべき課題かもしれない.この点については本

稿のレビューを超えた観点からの議論を要する.

非正規雇用者の健康に関する問題を放置できないの

は,それが非正規雇用者だけでなく,彼らをとりまく正

規雇用者や次世代を担う家族にも影響を及ぼしうるとい

うことである.ひいては,社会の一部で弱い立場にある

労働者が影響を受けるだけではなく,現状の非正規雇用

という雇用形態を認めている社会全体への負の影響が懸

念されるためである.実際に,労働経済の分野では非正

規雇用を存続させることによって,労働生産性が低下す

ることや技術伝承と人材育成にとって負の影響が大きい

ことが指摘されており110),正規と非正規雇用の比較に

とどまらず,労働者全体に対する問題提起が必要になっ

ている.非正規雇用者の仕事の責任を正規雇用者が負う

ことで,精神的負担や労働時間の拘束が長くなることも

推測できる.非正規雇用者の健康問題を放置することは,

労働者本人の健康を害するだけでなく,サービスの低下

や製品安全の低下,職場の働きやすさの悪化というよう

に,一見関係ないところで問題が顕在化する可能性があ

る.こうした大きな社会への影響を予防するためにも,

そして労働者個人の健康を守るためにも,非正規雇用者

の健康に関する現状把握は必要だといえよう.本研究の

文献調査で示された知見を実際の産業衛生活動で活かす

ことや,まだ研究が少ない日本国内での非正規雇用者の

健康に関する研究の蓄積に努め,問題の所在を明確化す

ることが今後の課題である.

文  献

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The Health of Permanent Workers and Workers with Precarious Employment: A Literature Review

Mariko INOUE1, 2, Mariko NISHIKITANI

3, Shinobu TSURUGANO2 and Eiji YANO

1, 2

1Graduate School of Public Health, Teikyo University, 2–11–1 Kaga, Itabashi-ku, Tokyo 173-8605, Japan, 2Department of Hygieneand Public Health, School of Medicine, Teikyo University and 3Department of Environmental Science, International College ofArts and Sicences, Fukuoka Women’s University

Abstract: Objectives: The purpose of this study was toreview research articles about the health of workers withprecarious employment (precarious workers). Methods:Articles that compared the health status between perma-nent and precarious workers were systematically searched.The collected articles are discussed with respect to theirstudy design, data source, sample size, country, healthoutcome, definition of precarious employment, and pri-mary findings. Results: Sixty-eight articles were identi-fied by the inclusion criteria. Health outcomes were cat-egorized into four types: occupational injuries, physicalhealth, mental health, and alternative health measure-ments. Precarious employment was associated with a highprevalence of occupational injuries, higher mortality rate,

and inferior degree of mental health. For alternative healthmeasures, access to health services were limited amongprecarious workers. Sickness absence or leave was takenless often by precarious workers than permanent workers.Conclusions: Unstable employment and the limited wel-fare of precarious workers might affect their health inrelation to a variety of health-related characteristics whileseveral studies concluded that permanent workers had aninferior health status. Therefore, the current social climate,which allows precarious employment with low benefitsand diverse work contracts, might be detrimental forworkers’ health, in general. (San Ei Shi 2011; 53: 117–139)