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989 Jpn J Rehabil Med Vol. 55 No. 12 2018 û 発達障害の代替医療―どんぐり 発達クリニックにおける実践― Psychiatry in Children and Adolescence:Practice in Donguri Child Psychiatry Clinic for Developmental Disorders 宮尾益知 Masutomo Miyao Key words:発達障害(developmental disorders)/代替医療(alternative medicine)/ サプリメント(supplements)/学習支援(learningsupport) 発達障害は 1980 年代初めの DSM-Ⅲからわが国において認知されるようになり,2005 年 の発達障害者支援法を機に注目されるようになってきた.精神科の領域においても発達障害 の併存障害として二次障害として精神疾患が考えられるようになり,小児期における発達障 害の治療に注目が集まるようになってきた.筆者は小児神経科医としててんかん,脳性麻痺, 変性疾患などの治療に携わり,2002 年の成育医療研究センターの開院が発達障害の勃興期 にあたっていたり,発達障害と直接かかわり合うようになった.てんかん,錐体外路疾患な どの神経生理学と薬理学,脳性麻痺を基盤としたリハビリテーション医学,同部門の児童精 神科医,臨床心理士などとの共同作業として発達障害に対する独自の治療体系をつくり上げ た.既存の治療だけにこだわらず,発達障害の病理,病態から推測される治療法として「代 替医療」も積極的に取り入れ有効性を確認してきた. * どんぐり発達クリニック (〒157-0062 東京都世田谷区南烏山 4-14-5) E-mail:[email protected] DOI:10.2490/jjrmc.55.989 はじめに 筆者は小児神経科医として長年にわたって,て んかん,脳性麻痺,変性疾患などの診療を行い,神 経研究の一環として事象関連電位を用いた脳機能 解析を,学習障害,注意欠陥多動性障害(attention- deficit hyperactivity disorder:ADHD),高機能 自閉症などに行ってきた.縁あって国立小児病院 神経科から,ù÷÷ù 年国立成育医療研究センターこ ころの診療部に移ることになり,学童期前後の年 齢を対象としたこころの診療部,発達心理科医長 として赴任することとなった.ù÷÷ü 年わが国にお いて発達障害者支援法が成立し,「発達障害とは自 閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性発達障 害,学習障害,注意欠陥多動性障害,その他これ に類する脳機能の障害であってその症状が通常低 年齢で発現するものとして政令に定めるもの」と定 められた.神経疾患として診療と研究を行ってき た立場からは,発達障害は認知障害として理解し ており,脳の神経ネットワークの障害として考え治 療を行ってきた.最近になり DSM-ü では,発達障 害は神経発達障害とされるようになり,神経の発 達に伴って環境などにより変化していく疾患であ ると理解されるようになった. このような考え方を基盤にして,過去の神経疾 患の治療を参考に発達障害の治療戦略を立てるこ 特集 リハビリテーション医療における補完代替医療の可能性 Jpn J Rehabil Med 2018;55:989-993

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Page 1: û C a Ë w E 8 © r Y C a « æ Ç ¿ « t S Z î - JST

989Jpn J Rehabil Med Vol. 55 No. 12 2018

û 発達障害の代替医療―どんぐり発達クリニックにおける実践―Psychiatry in Children and Adolescence:Practice in DonguriChild Psychiatry Clinic for Developmental Disorders

宮尾益知*

Masutomo Miyao

Key words:発達障害(developmental disorders)/代替医療(alternative medicine)/サプリメント(supplements)/学習支援(learning support)

要旨

発達障害は 1980 年代初めのDSM-Ⅲからわが国において認知されるようになり,2005 年の発達障害者支援法を機に注目されるようになってきた.精神科の領域においても発達障害の併存障害として二次障害として精神疾患が考えられるようになり,小児期における発達障害の治療に注目が集まるようになってきた.筆者は小児神経科医としててんかん,脳性麻痺,変性疾患などの治療に携わり,2002 年の成育医療研究センターの開院が発達障害の勃興期にあたっていたり,発達障害と直接かかわり合うようになった.てんかん,錐体外路疾患などの神経生理学と薬理学,脳性麻痺を基盤としたリハビリテーション医学,同部門の児童精神科医,臨床心理士などとの共同作業として発達障害に対する独自の治療体系をつくり上げた.既存の治療だけにこだわらず,発達障害の病理,病態から推測される治療法として「代替医療」も積極的に取り入れ有効性を確認してきた.

* どんぐり発達クリニック(〒157-0062 東京都世田谷区南烏山 4-14-5)E-mail:[email protected]:10.2490/jjrmc.55.989

はじめに筆者は小児神経科医として長年にわたって,て

んかん,脳性麻痺,変性疾患などの診療を行い,神

経研究の一環として事象関連電位を用いた脳機能

解析を,学習障害,注意欠陥多動性障害(attention-

deficit hyperactivity disorder:ADHD),高機能

自閉症などに行ってきた.縁あって国立小児病院

神経科から,ù÷÷ù 年国立成育医療研究センターこ

ころの診療部に移ることになり,学童期前後の年

齢を対象としたこころの診療部,発達心理科医長

として赴任することとなった.ù÷÷ü 年わが国にお

いて発達障害者支援法が成立し,「発達障害とは自

閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性発達障

害,学習障害,注意欠陥多動性障害,その他これ

に類する脳機能の障害であってその症状が通常低

年齢で発現するものとして政令に定めるもの」と定

められた.神経疾患として診療と研究を行ってき

た立場からは,発達障害は認知障害として理解し

ており,脳の神経ネットワークの障害として考え治

療を行ってきた.最近になりDSM-ü では,発達障

害は神経発達障害とされるようになり,神経の発

達に伴って環境などにより変化していく疾患であ

ると理解されるようになった.

このような考え方を基盤にして,過去の神経疾

患の治療を参考に発達障害の治療戦略を立てるこ

特集 リハビリテーション医療における補完代替医療の可能性Jpn J Rehabil Med 2018;55:989-993

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990 Jpn J Rehabil Med Vol. 55 No. 12 2018

宮尾益知

とから始めた.治療は医師だけが行うのではなく,

リハビリテーション医学,心理学,教育学,社会学

の各分野が疾患別,年齢別に適切に対応すること

が最善の治療であるとしたø).

幼児期の発達障害の子どもたちの診療が始まり,

神経学的に診療を行うと,幼児期早期より原始反

射が残り,中脳レベルの立ち直り反射,皮質レベル

の平衡反応が完成せず,各感覚も統合されていな

い状態であるために粗大運動,微細運動ともに不

器用であることがわかり,感覚統合療法を中心と

した作業療法を早期より取り入れることとした.

自閉スペクトラム症では ø 歳前から目が合わない,

指さしがない,共同注意などコミュニケーションの

問題に加えて概念化の障害があるため言語,非言

語によるコミュニケーションが適切に行えないこと

から,言語聴覚士による指導を始めた.当時,自

閉症は知的障害を有する場合が多く,自己の認知

過程を適切に説明することが困難であると考えら

れていた.この頃,高機能の自閉症の人たちから,

自己を語る本が発表されるようになったù, ú).私た

ちも彼らのこころを知る試みとして,思春期以降の

高機能自閉症の人たちのこころを知る試みを始め

たû).こうして発達障害の子どもたちに対する治療

体系を構築していった.発達障害における家族機

能の問題にも気づくようになり,家族機能に影響を

及ぼす家族機能ü)と夫婦相互の関係性の問題ý)に

も気づくようになり家族療法をはじめ,性差医療の

観点から発達障害を考えるþ, ÿ)ことも始めた.ù÷øû

年成育医療センターを退職し,どんぐり発達クリ

ニックを開業することとした.

クリニックでの治療クリニックでは,発達障害の子どもたちを見守る

視点ではなく,治療するという明白な視点から,す

べての子どもたちに対し適切な治療を提供するこ

ととした.治療は,行動療法に基づいた日常生活

の指導,心理療法,ソーシャルスキルトレーニング

(SST),ペアレントトレーニング,夫婦セミナー,

WMトレーニング(ジャングルメモリー),ニュー

ロフィードバック,薬物療法,サプリメントよりな

り,リハビリテーション部門では作業療法士による

感覚統合訓練,視覚認知トレーニング,言語聴覚

士によるコミュニケーション,言語訓練などに加え,

自費部門として教育専門家により知的・認知評価

を基盤にした漢字訓練,学習支援(読み書き,算

数)なども始めたø).

発達障害の治療ADHD は小児期の精神疾患で最も頻度が高い.

治療は行動療法に基づいた日常生活の指導(ペア

レントトレーニング),SST である.ADHD の病態

仮説として,脳の神経伝達物質であるドパミンやノ

ルアドレナリンの機能が十分に発揮されないため

に,ADHD の症状である不注意や多動性・衝動性

があらわれると考えられている.病態モデルであ

るトリプルパスウェイモデルにより,薬物療法(メ

チルフェニデート〔コンサータ®〕,アトモキセチン

〔ストラテラ®〕,グアンファシン〔インチュニブ®〕)

を行う.合併する不器用などは作業療法士による

感覚統合訓練,視覚認知トレーニングなどを行う.

加えて WM 低下が明らかな場合,WMトレーニン

グ(ジャングルメモリー),衝動性などが強く知的

能力が高い場合には,ニューロフィードバックを行

うことがある.サプリメント(オメガ ú,ホスファチ

ジルセリン,鉄)は薬物療法に抵抗のある場合,薬

物療法だけで十分な効果が期待されない場合には

使用している.漢方薬による治療を選択すること

もある.漢方薬を用いた ADHD の治療は肝をい

たわり,その機能を回復させることが中心となる.

十じゅう

全ぜん

大たい

補ほ

湯とう

,補ほ

中ちゅう

益えっ

気き

湯とう

などを用いる.いらい

ら感が強く怒りっぽい状態が顕著ならば抑よく

肝かん

散さん

抑よく

肝かん

散さん

加か

陳ちん

皮ぴ

半はん

夏げ

,黄おう

耆ぎ

建けん

中ちゅう

湯とう

などが用いられ

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991Jpn J Rehabil Med Vol. 55 No. 12 2018

4 │発達障害の代替医療―どんぐり発達クリニックにおける実践―

る.柴さい

胡こ

加か

竜りゅう

骨こつ

牡ぼ

蛎れい

湯とう

,桂けい

枝し

加か

竜骨牡蛎湯も気持

ちを鎮める効果に優れている.ADHD では,視覚

的 WM が低いために書き順が覚えられず漢字が特

異的に書けない場合いことが多い.部首を覚え,

象形文字であることを教え,意味づけと組み合わ

せの観点から専門家に依頼して行う漢字訓練など

を行う.これらの治療法をタイプ診断,合併症,年

齢,症状,環境,保護者の理解度などにより組み合

わせるようにしている.

ø.サプリメントの選択ノルアドレナリンはドパミンからつくられる神経

物質なので,まずはドパミンを脳内で増やすことが

第一と考えられる,サプリメントに求めるのは,①

ドパミンを増加させる.②ドパミンやノルアドレナ

リンのネットワークでの機能を高める,ことが考え

られ,下記のように考え,サプリメント選択を行っ

ている.

ù.ドパミンそのものを増やすサプリチロシンは,神経伝達物質およびストレス処理に

関するパフォーマンス,記憶,注意力および幸福感

をサポートする.チロシンは,ドパミン,アドレナ

リン,ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の前駆

体である.これらの神経伝達物質の合成は,脳内

のチロシンの量によって制限を受けることが知られ

ている.l-チロシンは,必須アミノ酸であるフェニ

ルアラニンから合成されるため,食事中のフェニル

アラニンの十分な摂取に依存する.また,ストレス

耐性のサポートにも役立つと考えられている.必

要となる補酵素が葉酸,鉄,ナイアシン,L-ドパか

らドパミンに代謝される際に必要な補酵素として

ビタミン Bý,ドパミンからノルアドレナリンに代謝

される際に必要な補酵素として銅,また大腸炎を

起こす腸内細菌の一種である「クロストリジウム」

が,ドパミンからノルアドレナリンへの代謝を阻害

することがわかっている.

ú.ドパミンやノルアドレナリンが脳内で伝わりやすくするサプリ

オメガ ú 脂肪酸(EPA/DHA)は脳内の神経細

胞が脂肪酸でできているため,オメガ úを飲むこと

により神経細胞が強化される.ADHD では血漿や

赤血球膜で不飽和脂肪酸が低下しているとの研究

があり,ドコサヘキサエン酸(DHA)欠乏で注意や

衝動性症状,攻撃性が増強したとの報告もある.

û.ホスファチジルセリンホスファチジルセリン(PS)は水溶性,脂溶性両

性質をもつリン脂質で,大豆や卵黄から抽出・分離

されるレシチンとして知られている.リン脂質はヒ

トを含む生物の細胞膜を構成する重要な成分であ

り,PS は特に脳の細胞膜に多く含まれ,øĀÿ÷ 年代

よりPSと脳機能に関する研究が進められ,高齢者

の認識力・記憶力を改善させ,若年者の集中力,ス

ポーツ選手の集中力など幅広い世代に向けての研

究が進んでいる.

ü.ギンコ(イチョウ葉)銀杏の葉抽出物は,主な植物活性化合物として,

銀杏フラボノイド化合物,テルペンラクトンによる.

フリーラジカルからのダメージに対して,身体の構

造,機能を防御する.特に,老化脳に対する脳機

能,認知機能に関するの衰えの改善に有用である

ことが示されている.フリーラジカルの蓄積の有

害作用を相殺し,血流の流動性を高めるといわれ

ている.老化脳と同様の記憶障害が生じている場

合には有効である.

ý.鉄サプリ(ヘム鉄)Hb の値により貧血を診断するが,血液中のフェ

リチン値を調べ,かくれ貧血を診断することにより,

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宮尾益知

ADHD の治療薬としてヘム鉄を選択する根拠とし

ている.鉄は体中の細胞に酸素を運ぶ重要な役割

を果たしているが,ほかにも神経伝達物質であるド

パミンやセロトニンをつくる手助けをしたり,肝臓

の解毒酵素や抗酸化酵素を活性化したりする役割

も担っている.

自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder)の治療目標

自閉スペクトラム症の治療目標は,中核症状お

よび関連症状を最小化し,他の人と同じような行

動をするようになることである.そのために,時間

と場所と順番を視覚化する構造化,言語的説明で

状況を理解するなどを基盤にして,構造化と時間

概念の観点から日常生活は øü 分単位で考えるよう

にし,時間を時刻から時間に変えていくように指導

している.新規なことに出会う場合には,不安にな

り,ときにパニックとなることもあるため,画像的

情報が理解できるように,理由と具体的状況を用

いて視覚的にあらかじめ理解させる.ペアレントト

レーニング,SSTも有用である.「自閉スペクトラ

ム」については,向精神薬や ADHDに使用する薬

剤などが用いられることはあるが,メイヨークリ

ニックでは,クリエイティブ療法や音楽療法などの

代替療法を利用している.また,食事療法も取り

入れており,代表的なものでは,プロバイオティッ

クス,ビタミン A,C,Bý,Bøù,マグネシウム,葉

酸,オメガ ú 脂肪酸などサプリメントの服用も頻繁

に試みている.

海外の現状では,øĀĀþ~ù÷÷ú 年にかけ,「自閉ス

ペクトラム症」と診断され,ボストンのチルドレン

ズホスピタルで治療を受けた小児患者 øøù 人を対

象にしたアンケート調査では,þû%が代替医療を

既存医療と併用していることが報告されている.

最も利用率が高かったのは食事療法で úÿ%,栄養

成分の摂取では,ビタミン・ミネラル(中でもビタ

ミン Bý)が ú÷%,オメガ ú 脂肪酸やフィッシュオ

イルが ùú%.その他,祈り療法,バイオフィード

バック,マッサージ療法,ハーブ療法,カイロプラ

クティスなどで,利用率は ø÷~øý%だった.ただ

し,治療法別の効果に関する項目で,SST といっ

た既存の治療プログラムや処方箋薬で症状が軽減

したという回答が,いずれも úÿ~Āû%と高く,代

替療法については,食事療法が øþ%,祈り療法が

øý%,フードサプリメントが øü%,ビタミン・ミネ

ラルが øù%という回答であった(ワールドヘルス

レポート,ù÷ø÷ 年 ý 月記事 vol.þú).

自閉スペクトラム症では,睡眠障害,消化器機

能不全があることはよく知られている.クリニック

では,幼児期の場合は極端な偏食があることから

栄養の偏りがあると考えている.極端な便秘,繰

り返す下痢をきたすことが多く,脳内の神経伝達

物質などの不均衡を起こしていると考えており,生

野菜や果物などに対し偏食がある場合には総合的

ビタミン・ミネラルを投与している.乳幼児期早期

にはマグネシウム,ビタミン Bý,乳酸菌製剤を用い

る.Pyroxidine(ビタミン Bý)は,自閉症に対して

ビタミン Býの大量投与により,小児で発話や言語

能力の改善が認められたとする報告がある.ビタ

ミン Býとマグネシウムを併用する効果について,

ビタミン Býの吸収や副作用の減少に有効である.

ビタミン Býは神経伝達をスムーズにする効果があ

り,睡眠時に必要な副交感神経の働きを高めると

の報告があるø÷).

自閉症では,睡眠体内時計の乱れがあり,夜に

なってもなかなか眠れないなどの睡眠障害が引き

起こす.睡眠のリズムを整える働きをしているメラ

トニンの補酵素であるビタミン Bøùであるøø, øù).

ビタミン Dはステロイドホルモンに変換され,遺

伝子を制御している可能性がある.ビタミン D 受

容体の複合体は,DNA の深部にまで到達し,遺伝

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4 │発達障害の代替医療―どんぐり発達クリニックにおける実践―

子をオン(活性化する)か,オフ(不活化する)か

をビタミン D に伝達する.自閉症の増加には,妊

娠中のビタミン D 欠乏が関係している.ビタミン

D がセロトニンの分泌にかかわる遺伝子を不活化

することで腸内の炎症が抑えられ,脳内のセロトニ

ン濃度が上昇する.脳内においてセロトニンは,

情緒,自己制御,長期的な計画,長期的な行動,不

安,記憶やその他さまざまな認知機能や感覚ゲー

ティング(重要でない情報や,余計な刺激への反応

を抑える)のような反応において重要な役割をもっ

ている.すなわち,ビタミン D,セロトニンの低下

と自閉症の関連性については多くの研究者によっ

て指摘されているøú, øû).

自閉症と消化器症状の関連は,腸脳相関(腸脳

循環ともいう)の破壊によると考えられている.自

閉症児の便ではクロストリジウム属(Clostridium)

の増加がみられ,また,ルミノコッカス属(Rumi-

nococcus)やステレラ属(Sutterella)の割合が増

えることが報告され,腸内細菌叢は多様性が低下

しており,発酵性の細菌が減少している.そのた

め,腸脳に関して,プロバイオティクスの有効性を

検討し,薬物療法や細菌叢移植よりも侵襲性の少

ないプロバイオティクスで,消化器症状のみではな

く自閉症の症状そのものまで改善されると考えら

れるようになってきているøü, øý).

まとめクリニックにおける代替医療は,自閉症研究を

基盤に上記のような根拠で行われている.

定まった治療法が確立されていない自閉症にお

いて,代替医療はますます重要性を増していくと思

われる.

文 献ø) 宮尾益知 編:「気になる子ども」へのアプローチ

ADHD・LD・高機能 PDD のみかたと対応.医学書院,東京;ù÷÷þ

ù) ドナ・ウィリアムズ 原著,河野万里子 翻訳:自閉症だったわたしへ.新潮社,東京;øĀĀú

ú) グニラ・ガーランド 原著,ニキ リンコ 翻訳:ずっと「普通」になりたかった。花風社,東京;ù÷÷÷

û) 宮尾益知 監修:アスペルガー症候群―治療の現場から.出版館ブック・クラブ,東京;ù÷÷Ā

ü) 宮尾益知 監修:発達障害の親子ケア―親子どちらも発達障害だと思ったときに読む本.講談社,東京,ù÷øü

ý) 宮尾益知,滝口のぞみ:夫がアスペルガーと思ったときに妻が読む本.河出書房新社,東京;ù÷øý

þ) 宮尾益知 監修:女性のアスペルガー症候群(健康ライブラリーイラスト版).講談社,東京;ù÷øü

ÿ) 宮尾益知 監修:女性の ADHD(健康ライブラリーイラスト版).講談社,東京;ù÷øü

Ā) 宮尾益知:小児科発達障害の外来診療.月刊精神科ù÷øÿ;úú:úúþ-úû÷

ø÷) Nye C, Brice A:自閉症スペクトラム障害の小児に対するビタミン Býとマグネシウムの併用療法.

øø) Veatch OJ, Reynolds A, Katz T, Weiss SK, Loh A,Wang L, Malow BA:Sleep in Children With AutismSpectrum Disorders:How Are Measures of ParentReport and Actigraphy Related and Affected bySleep Education? Behav Sleep Med ù÷øý;øû:ýýü-ýþý

øù) Veatch OJ, Sutcliffe JS, Warren ZE, Keenan BT,Potter MH, Malow BA:Shorter sleep duration isassociated with social impairment and comorbidi-ties in ASD. Autism Res ù÷øþ;ø÷:øùùø-øùúÿ

øú) Vinkhuyzen AAE, Eyles DW, Burne THJ, BlankenLME, Kruithof CJ, Verhulst F, Jaddoe VW, Tiemei-er H, McGrath JJ:Gestational vitamin D deficiencyand autism-related traits:the Generation R Study.Mol Psychiatry ù÷øÿ;ùú:ùû÷-ùûý

øû) Chandana SR:発達期のセロトニンが自閉症に重要―脳内セロトニンを回復させることで症状が改善.ù÷÷ü;J Dev Neurosci. Available from URL:http://www.riken.jp/pr/press/ù÷øþ/ù÷øþ÷ýùù_ø/

øü) Santocchi E, Guiducci L, Fulceri F, Billeci L,Buzzigoli E, Apicella F, Calderoni S, Grossi E,Morales MA, Muratori F:Gut to brain interactionin Autism Spectrum Disorders:a randomizedcontrolled trial on the role of probiotics on clinical,biochemical and neurophysiological parameters.BMC Psychiatry ù÷øý;øý:øÿú

øý) Shaaban SY, El Gendy YG, Mehanna NS, El-Senousy WM, El-Feki HSA, Saad K, El-AsheerOM:The role of probiotics in children with autismspectrum disorder:A prospective, open-labelstudy. Nutr Neurosci ù÷øÿ;ùø:ýþý-ýÿø