1.血管系 blood vessel system循環器系 the circulatory system 循環器系は脈管系...

8
44 実習内容: 循環器系(血管) SBO 1. 弾性型動脈、筋型動脈の形態を理解する。 2. 大静脈・中等大の静脈の形態を理解する。 3. 毛細血管の形態を理解する。 キーワード 動脈 artery, 大動脈 aorta, 小動脈 arterioles, 静脈 vein, 大静脈 vena cava, 門脈 portal vein, 小静脈 venules 内皮細胞・血管内膜・血管中膜・弾性型動脈・筋型動脈・動静脈吻合・静脈弁 循環器系 The circulatory system 循環器系は脈管系 vascular system ともよばれ、血管系 blood vessel system とリンパ管系 lymphatic system を区別する。両者の管腔内にはそれぞれ血液 blood とリンパ lymph が流れる。また、両者に心 臓を加えて cardiovascular system と呼ぶ場合もある。 1.血管系 blood vessel system 1.血管系の基本 体循環の概略 大動脈 aorta 中等大の動脈 細(小)動脈 arteriole 心臓 毛細血管 capillary 大静脈 cava 中等大の静脈 細(小)静脈 venule 特殊例 ・門脈 portal vein 例:門脈,下垂体門脈 (心臓→動脈→毛細血管→静脈1(門脈)→毛細血管2→静脈2→心臓) 怪網 rete mirabile 例:腎臓の腎糸球体 心臓→動脈1→毛細血管→動脈2→毛細血管→静脈→心臓) 動静脈吻合:指先・腸管粘膜固有層など (毛細血管を介さずに動脈から直接静脈へ短絡する回路) 肺循環 体循環 心臓 動脈 静脈 血液は必ず血管の中を流れる。→閉鎖血管系 (出血とはなにか?) 動脈 artery 静脈 vein 物質交換の場 リンパ系

Upload: others

Post on 01-Aug-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 1.血管系 blood vessel system循環器系 The circulatory system 循環器系は脈管系 vascular system ともよばれ、血管系blood vessel systemとリンパ管系lymphatic

44

実習内容: 循環器系(血管) SBO 1. 弾性型動脈、筋型動脈の形態を理解する。

2. 大静脈・中等大の静脈の形態を理解する。

3. 毛細血管の形態を理解する。

キーワード 動脈 artery, 大動脈 aorta, 小動脈 arterioles, 静脈 vein, 大静脈 vena cava, 門脈 portal

vein, 小静脈 venules

内皮細胞・血管内膜・血管中膜・弾性型動脈・筋型動脈・動静脈吻合・静脈弁

循環器系 The circulatory system

循環器系は脈管系 vascular system ともよばれ、血管系 blood vessel system とリンパ管系 lymphatic system を区別する。両者の管腔内にはそれぞれ血液 blood とリンパ lymph が流れる。また、両者に心

臓を加えて cardiovascular system と呼ぶ場合もある。

1.血管系 blood vessel system

1.血管系の基本

体循環の概略 大動脈 aorta → 中等大の動脈 → 細(小)動脈 arteriole 心臓 毛細血管 capillary 大静脈 cava ← 中等大の静脈 ← 細(小)静脈 venule

特殊例

・門脈 portal vein 例:門脈,下垂体門脈

(心臓→動脈→毛細血管→静脈1(門脈)→毛細血管2→静脈2→心臓)

・怪網 rete mirabile 例:腎臓の腎糸球体

(心臓→動脈1→毛細血管→動脈2→毛細血管→静脈→心臓)

・ 動静脈吻合:指先・腸管粘膜固有層など

(毛細血管を介さずに動脈から直接静脈へ短絡する回路)

肺循環

体循環 心臓

動脈

静脈

* 血液は必ず血管の中を流れる。→閉鎖血管系

(出血とはなにか?)

動脈 artery

静脈 vein 物質交換の場

リンパ系

Page 2: 1.血管系 blood vessel system循環器系 The circulatory system 循環器系は脈管系 vascular system ともよばれ、血管系blood vessel systemとリンパ管系lymphatic

45

2.血管壁の基本構造

脈管系の共通の要素は、その内腔が必ず内皮細胞 endothelium と呼ばれる単層扁平上皮により被われて

いる点である。

また基本的に動脈・静脈の壁は内膜・中膜・外膜の3層構造からなる。各層の状態(組織学的特徴)はその

脈管がおかれた状態により大きく変化する*1。

内膜 tunica intima :内腔を被う内皮細胞とそれを裏打ちする基底膜と僅かな結合組

織、場合により縦走する平滑筋がみられる。

中膜 tunica media *2 :輪走する平滑筋線維*3と弾性線維などから形成される。

動脈でよく発達

外膜 tunica adventitia :中膜外側の結合組織であり、外側の境はない。

動脈とその伴行静脈を一緒に包むこともある*4。

*1 内圧に対する抵抗性を獲得するために輪走する線維が、また伸展ストレスに対して縦走する線維が

発達する。

*2 内膜と中膜、中膜と外膜の間には弾性線維性の構造がある事があり、それぞれを内弾性板、外弾性板

と呼ぶ。

*3 平滑筋線維間にはギャップ結合が発達

*4 大型の血管では、動静脈に加えて血管栄養血管 vasa vasorum が発達する。

3.血管内皮細胞(毛細血管に限らない)の性質

1) 間葉由来

2) 管腔形成

3) 明確な極性 polarity を示す。

4) 分裂能がある。→増殖能がある。

血管新生 angiogenesis

血管新生(増殖)因子: 血管増殖抑制因子:

・VEGF (vascular endothelial growth factor) ・TGF-β

・FGF

5) 選択的物質透過機構

6) Weibel- Palade 果粒

・血液凝固促進因子(von Willebrand 因子)等を含有する。

7) 管腔側自由表面における特殊性

①抗血栓性

ヘパラン硫酸,プロスタサイクリン(PG-I2),プラスミノーゲンアクチベーター,トロンボモデュリン

②細胞接着因子

(ⅰ)血管アドレッシン

GlyCAM-1, MAdCAM-1 など。

(ⅱ)内皮細胞がサイトカインにより刺激されて誘導される接着分子

セレクチン, ICAM-1, 2, PECAM-1, VCAM-1 など。

8) 血流調節(小動脈〜)に関わる物質の産生

収縮:エンドセリン endothelin

アンギオテンシン変換酵素(ACE) など。

弛緩:一酸化窒素 nitic oxide (NO) など。

9) ずり応力 shear stress

Page 3: 1.血管系 blood vessel system循環器系 The circulatory system 循環器系は脈管系 vascular system ともよばれ、血管系blood vessel systemとリンパ管系lymphatic

46

中膜の平滑筋により 管腔径を変化

血管の分布領域の需要に 応じて血流量を調節

4.動脈の基本構造

1)動脈の種類:

動脈は、その特徴から弾性型動脈と筋型動脈、(小動脈・細動脈)に分ける。すなわち、大動脈など

は弾性型動脈の形態をとり、末梢の動脈は筋型の動脈であることが多い。 ① 弾性型動脈 elastic artery

大動脈・腕頭動脈・鎖骨下動脈・総頚動脈・総腸骨動脈など

中膜がきわめて発達

有窓性弾性層板が存在する(40~70層)(→生の大動脈は黄色に見える事がある。)

心収縮時 拡張 心拡張時 自己の弾力により収縮 脈圧の低下 伝導型動脈

②筋型動脈 muscular artery

末梢の中等大の動脈 D = ~0.5mm

中膜はほぼ輪走する平滑筋の密な層より構成 内外の弾性板が明瞭に発達する。

③小動脈 small arterie ・細動脈 arteriole

D=25~300µm

末梢抵抗の大部分を形成 → 抵抗血管

内皮細胞 内弾性板 弾性層板 平滑筋線維 外弾性板

内膜

中膜

外膜

管腔

弾性型動脈(模式図)

内膜

中膜

外膜

筋型動脈(模式図)

分配型動脈

ギャップ結合 内皮細胞

基底膜 平滑筋(1~2層)

弾性(板)線維+~- 神経終末

線維芽細胞 疎性結合組織

管腔

小動脈断面 透過電顕像模式図

Page 4: 1.血管系 blood vessel system循環器系 The circulatory system 循環器系は脈管系 vascular system ともよばれ、血管系blood vessel systemとリンパ管系lymphatic

47

5.毛細血管の一般的構造

4〜10μm/D 物質交換の場。中膜、外膜に相当するものは無く、内皮とその基底膜および,部分的に

存在する周皮細胞から成る。分岐・吻合する。

構成細胞;内皮細胞 endothelial cell、周皮細胞 pericyte

内腔に血液(赤血球、白血球、血小板を含む)を通す。

赤血球よりも細いものが存在する。

1) 光顕像:

2) 電顕像による分類:

①連続型:中枢神経,筋 ②有窓性:内分泌系,吸収上皮,腎糸球体

③不連続型1(洞様毛細血管) : 肝臓,骨髄 ④不連続型2(洞様毛細血管) :脾臓

線維芽細胞ないし周皮細胞の核

内皮細胞の核

不完全な基底膜

基底膜

φ80〜100nm の窓

密着帯

内皮細胞 周皮細胞

Page 5: 1.血管系 blood vessel system循環器系 The circulatory system 循環器系は脈管系 vascular system ともよばれ、血管系blood vessel systemとリンパ管系lymphatic

48

3)毛細血管内皮細胞を通る物質の移動

①内皮細胞経由の物質の取り込み(transcytosis と endocytosis)

飲み込み小胞 pinocytotic vesicle、チャンネル channel

②内皮細胞間の物質流通について

密着帯 tight junction の役割

毛細血管後細静脈 post capillary venule (high endothelical venule)

③特定の臓器における物質取り込みの選択性

血液脳関門

血液神経関門

血液眼球関門

血液胸腺関門、など。

図:脳血液関門 blood brain barrier

6.静脈の基本構造

①小静脈・細静脈 venule

ⅰ.毛細血管後細静脈 D= 15~20µm 中膜± ヒスタミン等血管透過性亢進物質に感受性が高い。

物質の透過性が高い。リンパ球などは血管壁を通過し血管外に出ることができる。 ⅱ.D = 50~200 µm ~ 中膜には不連続もしくは数層の平滑筋がみられるようになるが、発達は悪い。 ②中等大の静脈

D = 2 ~ 9 mm 外膜:よく発達しており縦走する太い膠原線維・弾性線維がみら

れる。また、若干の縦走する平滑筋がみられることもある。

中膜:動脈に比べ薄いが、輪走する線維・平滑筋が観察される。 四肢特に下肢の末梢部や、皮静脈で発達

内膜:静脈弁 venous valve が発達する。

静脈弁模式図

ニューロン

アストロサイト

アストロサイトの終足

基底膜

内皮細胞

Page 6: 1.血管系 blood vessel system循環器系 The circulatory system 循環器系は脈管系 vascular system ともよばれ、血管系blood vessel systemとリンパ管系lymphatic

49

③大静脈:下大静脈・上大静脈など

外膜:非常に発達しており縦走する平滑筋束、太い膠原線維・弾性線維がみられる。

中膜:発達は悪く、不連続。内外の弾性板の発達も悪い。 内膜:静脈弁は存在しないが、層は比較的あつく、縦走する平滑筋がみられることがある。

7.動静脈吻合 artero-venous anastomoses 血液供給の調節機能に関わる構造 ・ 短絡路

毛細血管網に移行する手前で、動静脈が吻合 吻合部において密な神経支配を持つ平滑筋が括約筋構造をとる。

・ 血管糸球 glomus 手足の指などにみられる 体温調節に関与

8.血管運動

血管の内径を変化させることによる血流量の調節

・ 神経性支配

主に動脈で顕著であり、神経は外膜~中膜に終末網を形成しその平滑筋を支配している。

・ 非神経性調節機構

① 内皮細胞由来因子に因る調節:

おもに細動脈・小動脈などでみられ、血中に存在するヒスタミンやセロトニンの刺激に対し内皮細胞

が内皮細胞由来因子を分泌、その周辺の平滑筋運動を調節する機構 内皮細胞由来因子: 収縮因子 エンドセリン 拡張因子 Nitric Oxide (NO)

② 内皮細胞非依存性の調節: ホルモン(バソプレッシン・ANP など)による調節

発展事項 血管系における臨床症状に動脈硬化がある。血管壁のどの部分に変化が起こるのか考

えてみよう

平滑筋を支配する神経 伝達物質 ⅰアドレナリン作動性神経(交感) カテコールアミン 収縮 ⅱコリン作動性神経(副交感) アセチルコリン 弛緩 ⅲペプチド ペプチド (VIP,NPY など)

平滑筋細胞

内皮細胞

刺激 管腔

Page 7: 1.血管系 blood vessel system循環器系 The circulatory system 循環器系は脈管系 vascular system ともよばれ、血管系blood vessel systemとリンパ管系lymphatic

50

2.リンパ管系 1.リンパ管系の概念

血管 ・・・・閉鎖循環系

リンパ管系・・・排出路系。一方向性に流れる。 弁

リンパ lymph 組織液+リンパ球

2.毛細リンパ管

・係留フィラメント───電顕像で初めて観察される。

・終末の形態:①皮膚や粘膜では網状

②腸では盲端

③卵管では、狭く、扁平な洞状

3.大リンパ管

・1〜2層の平滑筋(輪走筋が主)

・次第に、内・中・外膜の別が判然としてくる。 弁の形成(+)

4.リンパ本管(胸管)

筋層は、内縦層、中輪層、外縦層の3層構造。

内腔には、乳糜(にゅうび、chyle)

Page 8: 1.血管系 blood vessel system循環器系 The circulatory system 循環器系は脈管系 vascular system ともよばれ、血管系blood vessel systemとリンパ管系lymphatic

51

参考資料 (from Weiss: Cell and Tissue Biology – A textbook of Histology,6thed. 1988)

発展事項 1.血管の内皮細胞が刺激されて、新たに作り出す物質の役割について整理してみよう。

2.血管新生に際して、どのような現象が起こっているか調べてみよう。