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Monitoring Report of Acetylcholine Receptor Antibody

監修:近畿大学 神経内科 楠  進厚生労働省免疫性神経疾患調査研究班 主任研究者

AChRAbアセチルコリンレセプター抗体モニタリング報告集

はじめに

 重症筋無力症 (myasthenia gravis, MG) は、運動神経終末と筋との間(神経・筋接合部)の刺激伝達が障害される疾患であり、全身の骨格筋の易疲労性と脱力を基本症状とする。眼瞼下垂や複視などの眼症状が高頻度にみられ、咀嚼障害、嚥下困難、発声障害などの脳神経領域の症状や四肢筋力低下をきたし、重篤な場合は呼吸筋をおかして呼吸困難におちいる場合もある。症状の程度は動揺し、日内変動や日による症状の変化などがみられることが多い。反復運動による症状増悪や休息による一時的回復も特徴である。 有病率は人口 10 万人あたり5-10人程度といわれており、従来から若年女性に多い疾患として知られていたが、近年高齢の患者の増加が指摘されている。神経・筋接合部の後シナプス膜上にあるアセチルコリン受容体 (AChR) に対する抗体がその病態の中心的役割を果たすと考えられている。 診断にあたっては、上記のような特徴的な臨床症状に加えて、反復神経刺激による誘発筋電図の漸減現象(waning)、抗コリンエステラーゼ阻害薬の静注で症状の改善をみるエドロフォニウム試験とともに、抗 AChR 抗体の測定が有用である。抗 AChR 抗体の本症における陽性率は、約 80%である。一方本症以外で抗 AChR 抗体が陽性となることはきわめてまれである。したがって、抗AChR 抗体は本症の診断にきわめて有用であるが、陰性であっても本症を否定するものではない。抗AChR抗体陰性のMGは「seronegative MG」といわれるが、近年その中の一部の例で、Muscle specific tyrosine kinase (MuSK) を標的とする抗体が検出されることが報告され注目されている。 MGの治療は、対症的には抗コリンエステラーゼ薬が有効であり、眼症状のみの眼筋型では同薬による治療で経過をみることもあるが、全身型では自己免疫機序のコントロールのために、胸腺摘除術を施行したり、ステロイド薬、免疫抑制薬などを用いる。また重篤な症状からの早急な改善を目的として血漿交換も行われる。さらに呼吸筋麻痺をきたした場合には、気道確保や人工呼吸器使用などの全身管理が必要となる。 MGは、神経難病の中では、病態解明や治療法開発が最も進歩した疾患といってもよいが、適切な病態の把握を行い治療方針を立てる上で、抗 AChR 抗体測定の果たす役割は大きい。本冊子では、MG診療のエキスパートである先生方に、さまざまな症例の経過と抗 AChR 抗体価の関連についてご提示いただいたので御一読いただければ幸いである。

近畿大学 神経内科 楠  進

はじめに

 重症筋無力症 (myasthenia gravis, MG) は、運動神経終末と筋との間(神経・筋接合部)の刺激伝達が障害される疾患であり、全身の骨格筋の易疲労性と脱力を基本症状とする。眼瞼下垂や複視などの眼症状が高頻度にみられ、咀嚼障害、嚥下困難、発声障害などの脳神経領域の症状や四肢筋力低下をきたし、重篤な場合は呼吸筋をおかして呼吸困難におちいる場合もある。症状の程度は動揺し、日内変動や日による症状の変化などがみられることが多い。反復運動による症状増悪や休息による一時的回復も特徴である。 有病率は人口 10 万人あたり5-10人程度といわれており、従来から若年女性に多い疾患として知られていたが、近年高齢の患者の増加が指摘されている。神経・筋接合部の後シナプス膜上にあるアセチルコリン受容体 (AChR) に対する抗体がその病態の中心的役割を果たすと考えられている。 診断にあたっては、上記のような特徴的な臨床症状に加えて、反復神経刺激による誘発筋電図の漸減現象(waning)、抗コリンエステラーゼ阻害薬の静注で症状の改善をみるエドロフォニウム試験とともに、抗 AChR 抗体の測定が有用である。抗 AChR 抗体の本症における陽性率は、約 80%である。一方本症以外で抗 AChR 抗体が陽性となることはきわめてまれである。したがって、抗AChR 抗体は本症の診断にきわめて有用であるが、陰性であっても本症を否定するものではない。抗AChR抗体陰性のMGは「seronegative MG」といわれるが、近年その中の一部の例で、Muscle specific tyrosine kinase (MuSK) を標的とする抗体が検出されることが報告され注目されている。 MGの治療は、対症的には抗コリンエステラーゼ薬が有効であり、眼症状のみの眼筋型では同薬による治療で経過をみることもあるが、全身型では自己免疫機序のコントロールのために、胸腺摘除術を施行したり、ステロイド薬、免疫抑制薬などを用いる。また重篤な症状からの早急な改善を目的として血漿交換も行われる。さらに呼吸筋麻痺をきたした場合には、気道確保や人工呼吸器使用などの全身管理が必要となる。 MGは、神経難病の中では、病態解明や治療法開発が最も進歩した疾患といってもよいが、適切な病態の把握を行い治療方針を立てる上で、抗 AChR 抗体測定の果たす役割は大きい。本冊子では、MG診療のエキスパートである先生方に、さまざまな症例の経過と抗 AChR 抗体価の関連についてご提示いただいたので御一読いただければ幸いである。

近畿大学 神経内科 楠  進

MEMO

2 3

症例 治療により抗体価が下がった例血漿交換とプレドニゾロンを併用し、クリーゼを離脱した症例

1

症例 症状と抗体変化が合致した例筋無力症状の寛解とともに抗体低下、症状再燃し抗体再上昇した症例

2

症例 治療により抗体価が下がった例全身の筋無力症状が強く、免疫吸着療法を2回施行し症状が改善した症例

3

症例 治療により抗体価が下がった例免疫吸着療法と胸腺腫摘除により、症状が改善した症例

4

長崎川棚医療センター松尾 秀徳

47 歳時、易疲労性、四肢脱力が出現し、重症筋無力症の診断。56 歳の時、クリー

ゼを起こし、胸腺摘除(過形成)、その後プレドニゾロン治療で寛解した。63 歳の

時、筋無力症状の増悪あり、血漿交換を行い改善した。74 歳頃より、症状がない

ためプレドニンの内服を自己判断で中止していた。抗 AChR 抗体価は 2.8→101

→255 nmol/L と再上昇。眼瞼下垂、頸部の筋脱力が著明となり受診。血漿交換

を行うもクリーゼになり呼吸管理施行。血漿交換とプレドニゾロンを併用しク

リーゼを離脱。その後は症状は寛解状態で経過した。抗 AChR 抗体価も

30nmol/L 未満に抑えられていた。

患   者

主   訴

76 歳、女性

呼吸困難

既往歴・家族歴

現 病 歴

特記事項なし治 療

症例(76歳、女性)の臨床経過呼吸管理

気管切開

血漿交換

255

480

120 30 10 16.5

X/12 12X+1/11 X+2/1 3 5 7 9

プレドニゾロン(PSL)

症 状 筋力低下

AChRAb(nmol/L)

症例治療により抗体価が下がった例血漿交換とプレドニゾロンを併用し、クリーゼを離脱した症例1

4 5

40mg

47 歳時、易疲労性、四肢脱力が出現し、重症筋無力症の診断。56 歳の時、クリー

ゼを起こし、胸腺摘除(過形成)、その後プレドニゾロン治療で寛解した。63 歳の

時、筋無力症状の増悪あり、血漿交換を行い改善した。74 歳頃より、症状がない

ためプレドニンの内服を自己判断で中止していた。抗 AChR 抗体価は 2.8→101

→255 nmol/L と再上昇。眼瞼下垂、頸部の筋脱力が著明となり受診。血漿交換

を行うもクリーゼになり呼吸管理施行。血漿交換とプレドニゾロンを併用しク

リーゼを離脱。その後は症状は寛解状態で経過した。抗 AChR 抗体価も

30nmol/L 未満に抑えられていた。

患   者

主   訴

76 歳、女性

呼吸困難

既往歴・家族歴

現 病 歴

特記事項なし治 療

症例(76歳、女性)の臨床経過呼吸管理

気管切開

血漿交換

255

480

120 30 10 16.5

X/12 12X+1/11 X+2/1 3 5 7 9

プレドニゾロン(PSL)

症 状 筋力低下

AChRAb(nmol/L)

症例治療により抗体価が下がった例血漿交換とプレドニゾロンを併用し、クリーゼを離脱した症例1

4 5

40mg

200X年 9月中旬に入浴中に左上肢が挙がらないことに気付いた。その後、全身

の倦怠感、脱力感があり、10月頃より増悪。他院で頭部 CT、頚椎MRI などの検

査を受けるも異常なく、抗 AChR 抗体の上昇(50nmol/L) あり当院を紹介され

入院。プレドニゾロン内服で徐々に症状は改善し抗 AChR 価も低下した。しか

し。約半年後より抗体価が徐々に上昇。筋無力症状の再燃あり、メチルプレドニ

ゾロンパルス療法施行し、タクロリムスを併用し症状は改善。抗 AChR 抗体価も

再度低下した。

患   者

主   訴

69 歳、女性

上肢挙上困難、眼瞼下垂

既往歴・家族歴

現 病 歴

高脂血症で治療中治 療

症例(69歳、女性)の臨床経過

50

38

144.9 3.8

1223

43

1613 7.9

X/1 X+1/1 5

メチルプレドニゾロン

筋力低下

AChRAb(nmol/L)

5 7 9 11 33

症例症状と抗体変化が合致した例筋無力症状の寛解とともに抗体低下、症状再燃し抗体再上昇した症例2

6 7

タクロリムスプレドニゾロン(PSL)

症 状

60mg

200X年 9月中旬に入浴中に左上肢が挙がらないことに気付いた。その後、全身

の倦怠感、脱力感があり、10月頃より増悪。他院で頭部 CT、頚椎MRI などの検

査を受けるも異常なく、抗 AChR 抗体の上昇(50nmol/L) あり当院を紹介され

入院。プレドニゾロン内服で徐々に症状は改善し抗 AChR 価も低下した。しか

し。約半年後より抗体価が徐々に上昇。筋無力症状の再燃あり、メチルプレドニ

ゾロンパルス療法施行し、タクロリムスを併用し症状は改善。抗 AChR 抗体価も

再度低下した。

患   者

主   訴

69 歳、女性

上肢挙上困難、眼瞼下垂

既往歴・家族歴

現 病 歴

高脂血症で治療中治 療

症例(69歳、女性)の臨床経過

50

38

144.9 3.8

1223

43

1613 7.9

X/1 X+1/1 5

メチルプレドニゾロン

筋力低下

AChRAb(nmol/L)

5 7 9 11 33

症例症状と抗体変化が合致した例筋無力症状の寛解とともに抗体低下、症状再燃し抗体再上昇した症例2

6 7

タクロリムスプレドニゾロン(PSL)

症 状

60mg

X 年 9 月腰部脊柱管狭窄症の手術後に呼吸困難と嚥下障害が出現。重症筋無

力症を疑われ、当院転院。エドロフォニウム(テンシロン試験)陽性、誘発筋電図

でwaningを認め、抗 AChR 抗体価 67nmol/Lと上昇を認め、重症筋無力症と

診断。全身の筋無力症状が強いため 2 回の免疫吸着療法を行いその後プレドニ

ゾロン開始。症状は急速に改善し良好な経過で退院した。抗 AChR 抗体価は免

疫吸着療法後、急速に低下しその後もプレドニゾロンで10nmol/L 以下に抑えら

れていた。

患   者

主   訴

76 歳、女性

呼吸困難、嚥下障害

既往歴・家族歴

現 病 歴

X-4 年に胸腺腫で拡大胸腺摘出術施行治 療

症例(76歳、女性)の臨床経過

67

20

12 6.8 7.5 5.8

X/9 X+1/1

症 状 筋無力症状

AChRAb(nmol/L)

32121110

症例治療により抗体価が下がった例全身の筋無力症状が強く、免疫吸着療法を2回施行し症状が改善した症例

3

8 9

免疫吸着 抗コリンエステラーゼ薬プレドニゾロン(PSL)

40mg

X 年 9 月腰部脊柱管狭窄症の手術後に呼吸困難と嚥下障害が出現。重症筋無

力症を疑われ、当院転院。エドロフォニウム(テンシロン試験)陽性、誘発筋電図

でwaningを認め、抗 AChR 抗体価 67nmol/Lと上昇を認め、重症筋無力症と

診断。全身の筋無力症状が強いため 2 回の免疫吸着療法を行いその後プレドニ

ゾロン開始。症状は急速に改善し良好な経過で退院した。抗 AChR 抗体価は免

疫吸着療法後、急速に低下しその後もプレドニゾロンで10nmol/L 以下に抑えら

れていた。

患   者

主   訴

76 歳、女性

呼吸困難、嚥下障害

既往歴・家族歴

現 病 歴

X-4 年に胸腺腫で拡大胸腺摘出術施行治 療

症例(76歳、女性)の臨床経過

67

20

12 6.8 7.5 5.8

X/9 X+1/1

症 状 筋無力症状

AChRAb(nmol/L)

32121110

症例治療により抗体価が下がった例全身の筋無力症状が強く、免疫吸着療法を2回施行し症状が改善した症例

3

8 9

免疫吸着 抗コリンエステラーゼ薬プレドニゾロン(PSL)

40mg

眼瞼下垂

X年 2月眼瞼下垂が出現。眼科受診し。当院を紹介。エドロフォニウム(テンシロ

ン試験)陽性、誘発筋電図でwaningを認め、AChRAb20nmol/Lと上昇を認

め、重症筋無力症と診断。胸部Xp・CTで胸腺腫あり。術前に免疫吸着療法を

行い眼瞼下垂は改善し、胸腺腫摘出術施行。術後プレドニゾロン開始。症状は術

後も増悪なく良好な経過で退院した。抗 AChR 抗体価は免疫吸着療法後、急

速に低下しその後もプレドニゾロンで10nmol/L 以下に抑えられていた。

患   者

主   訴

68 歳、女性

眼瞼下垂

既往歴・家族歴

現 病 歴

特記事項なし治 療

症例(68歳、女性)の臨床経過

20

4

9.56

X/2

症 状

AChRAb(nmol/L)

5 6 7 8 9

症例治療により抗体価が下がった例免疫吸着療法と胸腺腫摘除により、症状が改善した症例4

10 11

免疫吸着プレドニゾロン(PSL)胸腺腫摘除

40mg

眼瞼下垂

X年 2月眼瞼下垂が出現。眼科受診し。当院を紹介。エドロフォニウム(テンシロ

ン試験)陽性、誘発筋電図でwaningを認め、AChRAb20nmol/Lと上昇を認

め、重症筋無力症と診断。胸部Xp・CTで胸腺腫あり。術前に免疫吸着療法を

行い眼瞼下垂は改善し、胸腺腫摘出術施行。術後プレドニゾロン開始。症状は術

後も増悪なく良好な経過で退院した。抗 AChR 抗体価は免疫吸着療法後、急

速に低下しその後もプレドニゾロンで10nmol/L 以下に抑えられていた。

患   者

主   訴

68 歳、女性

眼瞼下垂

既往歴・家族歴

現 病 歴

特記事項なし治 療

症例(68歳、女性)の臨床経過

20

4

9.56

X/2

症 状

AChRAb(nmol/L)

5 6 7 8 9

症例治療により抗体価が下がった例免疫吸着療法と胸腺腫摘除により、症状が改善した症例4

10 11

免疫吸着プレドニゾロン(PSL)胸腺腫摘除

40mg

MEMO

12 13

症例 症状拡大とともに抗AChR抗体が陽性化した症例眼症状発症から8年後に全身型へ移行同時にAChRAbが陽性化した症例

1

症例 症状の推移と抗体価の増減が合致した症例筋無力症状の寛解とともに抗体は陰性化したが、症状の再燃とともに抗体が再陽性化した症例

2

症例 胸腺腫再発とともに抗体価が急上昇した症例胸腺摘除16年後に浸潤型胸腺腫の再発、筋無力症状急性増悪、抗体価上昇がみられた症例

3

千葉大学大学院医学研究院 神経内科学川口 直樹

MEMO

12 13

症例 症状拡大とともに抗AChR抗体が陽性化した症例眼症状発症から8年後に全身型へ移行同時にAChRAbが陽性化した症例

1

症例 症状の推移と抗体価の増減が合致した症例筋無力症状の寛解とともに抗体は陰性化したが、症状の再燃とともに抗体が再陽性化した症例

2

症例 胸腺腫再発とともに抗体価が急上昇した症例胸腺摘除16年後に浸潤型胸腺腫の再発、筋無力症状急性増悪、抗体価上昇がみられた症例

3

千葉大学大学院医学研究院 神経内科学川口 直樹

1999 年一過性に複視が出現した。2001年複視が再度出現し、当科受診した。左眼瞼下垂、眼球運

動障害・複視を認め、エドロホニウム(テンシロン)試験陽性であることから、眼筋型MGと診断し

た。抗 AChR 抗体価は陰性、胸腺異常は認めず、プレドニゾロン(PSL)治療により症状は完全に消

失し、治療を終了した。2004 年に左眼球運動制限と左眼瞼下垂が出現し、PSL 再開で軽快したが

PSL 漸減中に同様の症状が出現したため、PSLを増量してタクロリムスを導入した。以後症状は消

失し、2007年 8月にPSLを終了した。同年11月に眼瞼下垂、眼球運動制限が出現し、更に四肢近

位筋筋力低下、咬筋筋力低下も出現した。この時、抗 AChR 抗体が 0.5と初めて陽性化した。電気

生理検査の結果も全身型であり、PSLを導入して症状の改善の後、胸腺摘除を施行した。抗体価も

陰性化した。術後 PSL 減量中に眼瞼下垂、複視が出現したためプログラフを導入した。以後症状は

改善・安定しており免疫治療を中止した。

発症年齢 30 歳、 男性。 萎縮胸腺

症例症状拡大とともに抗AChR抗体が陽性化した症例眼症状発症から8年後に全身型へ移行同時にAChRAbが陽性化した症例

1

14 15

MGADL

プログラフ プログラフ

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

2004年1999年~ 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

AChRAbMGADL

01

2

3

45

67

8

9

10胸腺摘除

眼筋症状

四肢筋筋力低下

咬筋筋力低下

プレドニゾロン(PSL)(mg/日)

AChRAb(nmol/L)

症 状

0

50

1999 年一過性に複視が出現した。2001年複視が再度出現し、当科受診した。左眼瞼下垂、眼球運

動障害・複視を認め、エドロホニウム(テンシロン)試験陽性であることから、眼筋型MGと診断し

た。抗 AChR 抗体価は陰性、胸腺異常は認めず、プレドニゾロン(PSL)治療により症状は完全に消

失し、治療を終了した。2004 年に左眼球運動制限と左眼瞼下垂が出現し、PSL 再開で軽快したが

PSL 漸減中に同様の症状が出現したため、PSLを増量してタクロリムスを導入した。以後症状は消

失し、2007年 8月にPSLを終了した。同年11月に眼瞼下垂、眼球運動制限が出現し、更に四肢近

位筋筋力低下、咬筋筋力低下も出現した。この時、抗 AChR 抗体が 0.5と初めて陽性化した。電気

生理検査の結果も全身型であり、PSLを導入して症状の改善の後、胸腺摘除を施行した。抗体価も

陰性化した。術後 PSL 減量中に眼瞼下垂、複視が出現したためプログラフを導入した。以後症状は

改善・安定しており免疫治療を中止した。

発症年齢 30 歳、 男性。 萎縮胸腺

症例症状拡大とともに抗AChR抗体が陽性化した症例眼症状発症から8年後に全身型へ移行同時にAChRAbが陽性化した症例

1

14 15

MGADL

プログラフ プログラフ

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

2004年1999年~ 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

AChRAbMGADL

01

2

3

45

67

8

9

10胸腺摘除

眼筋症状

四肢筋筋力低下

咬筋筋力低下

プレドニゾロン(PSL)(mg/日)

AChRAb(nmol/L)

症 状

0

50

2003 年 5月複視、眼瞼下垂が出現した。6月眼筋症状の増悪に加えて上肢、ついで下肢筋力低下が

出現した。エドロホニウム(テンシロン)試験陽性、反復刺激試験にてwaning 現象陽性、抗アセチ

ルコリン受容体抗体陽性であり全身型 MG と診断した。呼吸症状も出現してきたが、血液浄化療

法および PSL 導入したところMG 症状は改善し、胸腺摘除を施行した。症状は安定しており抗体

価も陰性化した。PSLを漸減、2005 年 3月に中止したが、同年 6月複視、8月上肢の脱力にて症状

の再発あり、PSLを再導入されたが、9月になり四肢近位の筋力低下の増悪傾向みられ、立つことが

出来なくなり呼吸症状も出現した。抗体も陽性化しており、再度血液浄化療法施行しPSL 増量した

ところ症状の改善を得た。しかし眼筋症状は十分な改善を得なかったためタクロリムスを導入、以

後MG 症状は消失し抗体も陰性化した。現在は免疫治療を中止しているが安定している。

発症年齢 67 歳、 男性。 萎縮胸腺

症例症状の推移と抗体価の増減が合致した症例筋無力症状の寛解とともに抗体は陰性化したが、症状の再燃とともに抗体が再陽性化した症例

2

16 17

0

50

MGADL

プログラフ

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

2003年 2004年 2005年 2006年07年 08年09年10年

AChRAbMGADL

0

14

2

4

6

8

10

12

胸腺摘除血液浄化

眼筋症状

四肢筋筋力低下

構音障害呼吸症状球症状

プレドニゾロン(PSL)(mg/日)

AChRAb(nmol/L)

症 状

2003 年 5月複視、眼瞼下垂が出現した。6月眼筋症状の増悪に加えて上肢、ついで下肢筋力低下が

出現した。エドロホニウム(テンシロン)試験陽性、反復刺激試験にてwaning 現象陽性、抗アセチ

ルコリン受容体抗体陽性であり全身型 MG と診断した。呼吸症状も出現してきたが、血液浄化療

法および PSL 導入したところMG 症状は改善し、胸腺摘除を施行した。症状は安定しており抗体

価も陰性化した。PSLを漸減、2005 年 3月に中止したが、同年 6月複視、8月上肢の脱力にて症状

の再発あり、PSLを再導入されたが、9月になり四肢近位の筋力低下の増悪傾向みられ、立つことが

出来なくなり呼吸症状も出現した。抗体も陽性化しており、再度血液浄化療法施行しPSL 増量した

ところ症状の改善を得た。しかし眼筋症状は十分な改善を得なかったためタクロリムスを導入、以

後MG 症状は消失し抗体も陰性化した。現在は免疫治療を中止しているが安定している。

発症年齢 67 歳、 男性。 萎縮胸腺

症例症状の推移と抗体価の増減が合致した症例筋無力症状の寛解とともに抗体は陰性化したが、症状の再燃とともに抗体が再陽性化した症例

2

16 17

0

50

MGADL

プログラフ

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

2003年 2004年 2005年 2006年07年 08年09年10年

AChRAbMGADL

0

14

2

4

6

8

10

12

胸腺摘除血液浄化

眼筋症状

四肢筋筋力低下

構音障害呼吸症状球症状

プレドニゾロン(PSL)(mg/日)

AChRAb(nmol/L)

症 状

1993 年、複視および両腕の筋力低下が出現し、その後構音障害、嚥下障害、眼瞼下垂が出現した。

近医を受診し、エドロホニウム(テンシロン)試験陽性、反復刺激試験にてwaning 現象が認められ

MGと診断された。1994 年、球症状が著明なことから血液浄化療法、PSL 導入後に胸腺摘除が施

行された。術後 PSL を漸減すると球症状などが増悪し血液浄化療法やステロイドパルスが繰り返

され、2002 年プログラフが導入された。2003 年、当科を受診した後もMG 症状および抗 AChR 抗

体価は安定せず、適宜免疫治療を施行した。2010 年 1月頃から眼瞼下垂・四肢体幹筋筋力低下、

構音・嚥下障害および呼吸筋症状が出現し急性増悪し、抗体価も急上昇した。増悪の原因検索の

結果、胸腺腫再発が発見された。血液浄化や PSL 増量にて MG 症状の改善傾向および抗体価減

少傾向を得たが、胸腔内の胸腺腫播種もあり、放射線照射、化学療法施行され、経過観察している。

発症年齢 30 歳、 女性。 浸潤型胸腺腫

症例胸腺腫再発とともに抗体価が急上昇した症例胸腺摘除16年後に浸潤型胸腺腫の再発、筋無力症状急性増悪、抗体価上昇がみられた症例

3

18 19

MGADL

プログラフシクロスポリン

0

20

40

60

80

100

120

2004年

1994年

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

AChRAbMGADL

0

20

2

4

6

8

10

12

14

16

18胸腺摘除 血液浄化

シスプラチン10mg

プレドニゾロン(PSL)(mg/日)

AChRAb(nmol/L)

症 状

眼筋症状

四肢筋筋力低下

呼吸症状球症状

胸腺腫再発

0

50

1993 年、複視および両腕の筋力低下が出現し、その後構音障害、嚥下障害、眼瞼下垂が出現した。

近医を受診し、エドロホニウム(テンシロン)試験陽性、反復刺激試験にてwaning 現象が認められ

MGと診断された。1994 年、球症状が著明なことから血液浄化療法、PSL 導入後に胸腺摘除が施

行された。術後 PSL を漸減すると球症状などが増悪し血液浄化療法やステロイドパルスが繰り返

され、2002 年プログラフが導入された。2003 年、当科を受診した後もMG 症状および抗 AChR 抗

体価は安定せず、適宜免疫治療を施行した。2010 年 1月頃から眼瞼下垂・四肢体幹筋筋力低下、

構音・嚥下障害および呼吸筋症状が出現し急性増悪し、抗体価も急上昇した。増悪の原因検索の

結果、胸腺腫再発が発見された。血液浄化や PSL 増量にて MG 症状の改善傾向および抗体価減

少傾向を得たが、胸腔内の胸腺腫播種もあり、放射線照射、化学療法施行され、経過観察している。

発症年齢 30 歳、 女性。 浸潤型胸腺腫

症例胸腺腫再発とともに抗体価が急上昇した症例胸腺摘除16年後に浸潤型胸腺腫の再発、筋無力症状急性増悪、抗体価上昇がみられた症例

3

18 19

MGADL

プログラフシクロスポリン

0

20

40

60

80

100

120

2004年

1994年

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

AChRAbMGADL

0

20

2

4

6

8

10

12

14

16

18胸腺摘除 血液浄化

シスプラチン10mg

プレドニゾロン(PSL)(mg/日)

AChRAb(nmol/L)

症 状

眼筋症状

四肢筋筋力低下

呼吸症状球症状

胸腺腫再発

0

50

20 21

MEMO

金沢大学 保健管理センター吉川 弘明

症例 症状と抗体の変化が一部合致した例胸腺腫を合併した全身型重症筋無力症

1

症例 治療により抗体価が下がった例重症筋無力症初期に抗体価が陰性であった10歳代患者の症例

2

症例 治療で抗体価が下がらない例眼瞼下垂より発症し、次第に全身の筋力低下を来した症例

3

20 21

MEMO

金沢大学 保健管理センター吉川 弘明

症例 症状と抗体の変化が一部合致した例胸腺腫を合併した全身型重症筋無力症

1

症例 治療により抗体価が下がった例重症筋無力症初期に抗体価が陰性であった10歳代患者の症例

2

症例 治療で抗体価が下がらない例眼瞼下垂より発症し、次第に全身の筋力低下を来した症例

3

症例症状と抗体の変化が一部合致した例胸腺腫を合併した全身型重症筋無力症 1

22 23

プレドニゾロン(PSL)(mg/ 隔日)

メスチノン(mg/日)

ネオーラル(mg/日)

AChRAb(nmol/L)

100

20

30

40

50

60

70

初診 400200 600 800 1000 1200 1400

退院

入院

易疲労感咬筋の筋力低下 眼瞼下垂 脱力感

症 状

Masaoka I 期

初診年齢

MGFA分類

40 歳台、女性

IIb -> MGFA 0

MG 胸腺腫

手術所見

反復刺激誘発筋電図では、右眼輪筋、右僧帽筋で10%以上のwaningを認めた。

右短母指内転筋ではwaningなし

検査所見

本例は初診時のアセチルコリン受容体抗体価は高値、反復刺激誘発筋電図でもwaningあり、エド

ロホニウム(テンシロン)試験も陽性で診断は容易であった。精査の過程で胸腺腫が見つかったた

め、胸腺摘除術を施行。胸腺腫合併のため十分な免疫抑制薬による初期治療が必要と判断したこ

と、患者がステロイド大量投与による副作用を懸念したことより、初期からカルシニューリン阻害薬

併用にて加療を開始した。その後、臨床症状の改善とアセチルコリン受容体抗体価の低下に伴い、

免疫抑制薬を減量した。初診後 610日程経過した時点で、全身の易疲労感の訴え(MG-ADLでは

0点)とアセチルコリン受容体抗体価の上昇があったため、今後、筋無力症状が増悪する可能性があ

ると判断し、ステロイドの増量をした。900日程経過時で、眼瞼下垂を訴えたが、アセチルコリン受容

体抗体価の上昇はなかったため、経過観察にとどめた。1100日程経過時に、アセチルコリン受容体

抗体価の上昇があり、遅れて脱力感を訴えたため、ステロイドの増量とともにカルシニューリン阻害

薬の変更をして症状が安定し、さらにステロイドを減量した。

重症筋無力症の治療において心がけることは、治療薬の副作用をなるべく少なくして、最良の治療

効果を得られるコントロールをすることである。そのためには、注意深い症状の把握と、アセチルコ

リン受容体抗体価の推移が参考になる。

胸腺摘除

(日)

プロブラフ3mg/日

100

2030405060

500

100150200

50

0

100

150

陽性エドロホニウムテスト

初診2年前から自覚した、咬筋の易疲労感主  訴

症例症状と抗体の変化が一部合致した例胸腺腫を合併した全身型重症筋無力症 1

22 23

プレドニゾロン(PSL)(mg/ 隔日)

メスチノン(mg/日)

ネオーラル(mg/日)

AChRAb(nmol/L)

100

20

30

40

50

60

70

初診 400200 600 800 1000 1200 1400

退院

入院

易疲労感咬筋の筋力低下 眼瞼下垂 脱力感

症 状

Masaoka I 期

初診年齢

MGFA分類

40 歳台、女性

IIb -> MGFA 0

MG 胸腺腫

手術所見

反復刺激誘発筋電図では、右眼輪筋、右僧帽筋で10%以上のwaningを認めた。

右短母指内転筋ではwaningなし

検査所見

本例は初診時のアセチルコリン受容体抗体価は高値、反復刺激誘発筋電図でもwaningあり、エド

ロホニウム(テンシロン)試験も陽性で診断は容易であった。精査の過程で胸腺腫が見つかったた

め、胸腺摘除術を施行。胸腺腫合併のため十分な免疫抑制薬による初期治療が必要と判断したこ

と、患者がステロイド大量投与による副作用を懸念したことより、初期からカルシニューリン阻害薬

併用にて加療を開始した。その後、臨床症状の改善とアセチルコリン受容体抗体価の低下に伴い、

免疫抑制薬を減量した。初診後 610日程経過した時点で、全身の易疲労感の訴え(MG-ADLでは

0点)とアセチルコリン受容体抗体価の上昇があったため、今後、筋無力症状が増悪する可能性があ

ると判断し、ステロイドの増量をした。900日程経過時で、眼瞼下垂を訴えたが、アセチルコリン受容

体抗体価の上昇はなかったため、経過観察にとどめた。1100日程経過時に、アセチルコリン受容体

抗体価の上昇があり、遅れて脱力感を訴えたため、ステロイドの増量とともにカルシニューリン阻害

薬の変更をして症状が安定し、さらにステロイドを減量した。

重症筋無力症の治療において心がけることは、治療薬の副作用をなるべく少なくして、最良の治療

効果を得られるコントロールをすることである。そのためには、注意深い症状の把握と、アセチルコ

リン受容体抗体価の推移が参考になる。

胸腺摘除

(日)

プロブラフ3mg/日

100

2030405060

500

100150200

50

0

100

150

陽性エドロホニウムテスト

初診2年前から自覚した、咬筋の易疲労感主  訴

症例治療により抗体価が下がった例重症筋無力症初期に抗体価が陰性であった10歳代患者の症例 2

24 25

プレドニゾロン(PSL)(mg/ 隔日)

AChRAb(nmol/L)

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0

初診 10050 150 200 250 300

0.5

0

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

顔面筋力低下

右眼瞼下垂

症 状

初診年齢 10 歳台、男性

MGFA分類 I -> IIa

初診の2ヶ月前から、右眼瞼下垂を自覚。正常胸腺(胸腺摘除術なし)主  訴

陰性

低頻度刺激誘発筋電図(3Hz)では右眼輪筋で 30%のwaningを認めた。

右小指外転筋ではwaningなし

検査所見

エドロホニウムテスト

MG正常胸腺(胸腺摘除術なし)

本例は他院より紹介を受けたケースである。症状が軽微で当初はアセチルコリン受容体抗体価が

陰性であった。当院でもアセチルコリン受容体抗体価の上昇は軽度であったが、低頻度反復刺激誘

発筋電図で有意のwaning 所見が認められたことより、重症筋無力症と診断して治療を開始した。

成長期にあたる年齢であったため、ステロイドの総投与量を抑える意味もあり、初期からカルシ

ニューリン阻害薬を併用した。画像検査上、年齢相応の胸腺であったため、胸腺摘除術は施行して

いない。経過中、全身の顔面筋の筋力低下も出現したが、治療に伴い改善、軽度上昇したアセチルコ

リン受容体抗体価は陰性化した。臨床症状の改善・消失とアセチルコリン受容体抗体価の上昇が

ないのを確認しながら、治療薬を減量している。

 

重症筋無力症の初期には、アセチルコリン受容体抗体価が陰性であることもあり、また他院でステ

ロイド等の免疫抑制薬を使用された場合は、抗体価が陰性化していることもある。その際は、低頻

度刺激誘発筋電図(手指筋のみでなく、顔面筋、上肢近位筋も調べる必要がある)の所見とアセチ

ルコリン受容体抗体価の推移が診断、治療評価に参考になる。

プロブラフ3mg/日

100

2030405060

(日)

MGADL

AChRAbMGADL

症例治療により抗体価が下がった例重症筋無力症初期に抗体価が陰性であった10歳代患者の症例 2

24 25

プレドニゾロン(PSL)(mg/ 隔日)

AChRAb(nmol/L)

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0

初診 10050 150 200 250 300

0.5

0

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

顔面筋力低下

右眼瞼下垂

症 状

初診年齢 10 歳台、男性

MGFA分類 I -> IIa

初診の2ヶ月前から、右眼瞼下垂を自覚。正常胸腺(胸腺摘除術なし)主  訴

陰性

低頻度刺激誘発筋電図(3Hz)では右眼輪筋で 30%のwaningを認めた。

右小指外転筋ではwaningなし

検査所見

エドロホニウムテスト

MG正常胸腺(胸腺摘除術なし)

本例は他院より紹介を受けたケースである。症状が軽微で当初はアセチルコリン受容体抗体価が

陰性であった。当院でもアセチルコリン受容体抗体価の上昇は軽度であったが、低頻度反復刺激誘

発筋電図で有意のwaning 所見が認められたことより、重症筋無力症と診断して治療を開始した。

成長期にあたる年齢であったため、ステロイドの総投与量を抑える意味もあり、初期からカルシ

ニューリン阻害薬を併用した。画像検査上、年齢相応の胸腺であったため、胸腺摘除術は施行して

いない。経過中、全身の顔面筋の筋力低下も出現したが、治療に伴い改善、軽度上昇したアセチルコ

リン受容体抗体価は陰性化した。臨床症状の改善・消失とアセチルコリン受容体抗体価の上昇が

ないのを確認しながら、治療薬を減量している。

 

重症筋無力症の初期には、アセチルコリン受容体抗体価が陰性であることもあり、また他院でステ

ロイド等の免疫抑制薬を使用された場合は、抗体価が陰性化していることもある。その際は、低頻

度刺激誘発筋電図(手指筋のみでなく、顔面筋、上肢近位筋も調べる必要がある)の所見とアセチ

ルコリン受容体抗体価の推移が診断、治療評価に参考になる。

プロブラフ3mg/日

100

2030405060

(日)

MGADL

AChRAbMGADL

症例治療で抗体価が下がらない例眼瞼下垂より発症し、次第に全身の筋力低下を来した症例3

26 27

初診年齢 50 歳台、男性

MGFA分類 I -> II -> 0

初診の2年前から右眼瞼下垂を自覚主  訴

低頻度刺激反復刺激誘発筋電図 左母指内転筋で 30% を越す waning あり、

左僧帽筋で 30%を越すwaningあり

検査所見

症状が進行性に悪化したため、まず血液浄化療法を導入した。画像検査上は正常胸腺であり、ステ

ロイド大量投与単独で治療した。経過中、耐糖能異常を併発したため、臨床症状を目安として積極

的にステロイドの減量を図った。経過中、若干の眼症状(眼瞼下垂)を認めたため、ステロイドを増量

しているが、症状改善すれば減量を再開して、結果的に中止することができた。

アセチルコリン受容体抗体価は陽性のままであるが、臨床症状がなければステロイドは中止してか

まわない。ただ、症状増悪の際には直ちに主治医連絡、対応できるよう、患者教育は十分しておくこ

とが必要である。

プレドニゾロン(PSL)(mg/ 隔日)

メスチノン(mg/日)

AChRAb(nmol/L)

20

40

60

80

100

120

0

初診 300 600 900 1200 1500

全身筋力低下 眼瞼下垂

入院血液浄化 6 回

症 状

200

0

406080100120

50

100

150

200

(日)

陽性エドロホニウムテスト

MG正常胸腺(胸腺摘除術なし)

症例治療で抗体価が下がらない例眼瞼下垂より発症し、次第に全身の筋力低下を来した症例3

26 27

初診年齢 50 歳台、男性

MGFA分類 I -> II -> 0

初診の2年前から右眼瞼下垂を自覚主  訴

低頻度刺激反復刺激誘発筋電図 左母指内転筋で 30% を越す waning あり、

左僧帽筋で 30%を越すwaningあり

検査所見

症状が進行性に悪化したため、まず血液浄化療法を導入した。画像検査上は正常胸腺であり、ステ

ロイド大量投与単独で治療した。経過中、耐糖能異常を併発したため、臨床症状を目安として積極

的にステロイドの減量を図った。経過中、若干の眼症状(眼瞼下垂)を認めたため、ステロイドを増量

しているが、症状改善すれば減量を再開して、結果的に中止することができた。

アセチルコリン受容体抗体価は陽性のままであるが、臨床症状がなければステロイドは中止してか

まわない。ただ、症状増悪の際には直ちに主治医連絡、対応できるよう、患者教育は十分しておくこ

とが必要である。

プレドニゾロン(PSL)(mg/ 隔日)

メスチノン(mg/日)

AChRAb(nmol/L)

20

40

60

80

100

120

0

初診 300 600 900 1200 1500

全身筋力低下 眼瞼下垂

入院血液浄化 6 回

症 状

200

0

406080100120

50

100

150

200

(日)

陽性エドロホニウムテスト

MG正常胸腺(胸腺摘除術なし)

28

MEMO

おわりに

 3人の先生方から10 例の症例提示をいただいた。

 治療により抗体価が低下した症例、症状再燃の際に抗体価の上昇をみた例、

抗体価の急上昇が症状の急性増悪と胸腺腫再発に伴ってみられた例、当初眼筋

型であり抗体は陰性であったが全身型になるとともに抗体陽性になった例、抗体

価は高値ながらほぼ一定の値を続けて臨床的にも安定している例など、多様な経

過が紹介されている。

 これらの症例の記載から、抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体は、重症

筋無力症(MG)の診断に有用であるとともに、抗体価の絶対値ではなく値の増

減が、病勢の判定や治療効果の判定に役に立ち、フォローアップに有用であるこ

とを理解することができる。

 本冊子が日常のMG診療の一助となることを願っている。

近畿大学 神経内科 楠  進

〒112-0002 東京都文京区小石川 2-7-3 富坂ビルTEL:03-5802-5971  FAX:03-5802-5974URL http://www.cosmic-jpn.co.jp  e-mail cc@cosmic-jpn.co.jp本誌の無断複写、複製、転載を禁じます 148-01-1012-2000S

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