*版下-001〜051 (page 1)...25 調査報告 1.明神穴の位置...

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─ 25 ─ 調査報告 1.明神穴の位置 巻町の南端、国道340号線沿いにある車門地区の東側にある山『突柴森』の南側山林に所在しています。 国道340号線沿いにある車門公民館(ふるさと会館・前に車門バス停有り)から国道を約300m南下した左 側に民家の間にある本内沢(ほんないさわ)から下の沢(しものさわ)沿いにある林道に入り、沢沿いに 2km程進むと直線道路の左側斜面に石灰岩の露頭が表れます。 石灰岩の露頭が表れた地点(4台分の駐車可能)の対岸(ガードレール側)の沢へ降りて行くとすぐに 赤い鳥居と祠が有り、鳥居の裏5m地点に洞口が在ります。 10月11日から13日に実施した調査で、明神穴を利用しているコウモリ類が繁殖に使用している可能性が 高い事と、所有者や管理している車門自治会への連絡をしないで安易に洞穴に入る方がいる事からコウモ リ類の保護と事故を未然に防ぐ目的で、洞口にコウモリが出入り出来る隙間の横格子扉を車門自治会が11 月に設置しました。 明神穴に入るには、洞口に設置された鍵を開ける為に鍵を管理している車門自治会へ事前に連絡が必要 と成りました。 (菊地敏雄) 葛巻管内図(1/50,000を使用) 調査報告

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Page 1: *版下-001〜051 (Page 1)...25 調査報告 1.明神穴の位置 巻町の南端、国道340号線沿いにある車門地区の東側にある山『突柴森』の南側山林に所在しています。国道340号線沿いにある車門公民館(ふるさと会館・前に車門バス停有り)から国道を約300m南下し

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調査報告

1.明神穴の位置

巻町の南端、国道340号線沿いにある車門地区の東側にある山『突柴森』の南側山林に所在しています。

国道340号線沿いにある車門公民館(ふるさと会館・前に車門バス停有り)から国道を約300m南下した左

側に民家の間にある本内沢(ほんないさわ)から下の沢(しものさわ)沿いにある林道に入り、沢沿いに

2km程進むと直線道路の左側斜面に石灰岩の露頭が表れます。

石灰岩の露頭が表れた地点(4台分の駐車可能)の対岸(ガードレール側)の沢へ降りて行くとすぐに

赤い鳥居と祠が有り、鳥居の裏5m地点に洞口が在ります。

10月11日から13日に実施した調査で、明神穴を利用しているコウモリ類が繁殖に使用している可能性が

高い事と、所有者や管理している車門自治会への連絡をしないで安易に洞穴に入る方がいる事からコウモ

リ類の保護と事故を未然に防ぐ目的で、洞口にコウモリが出入り出来る隙間の横格子扉を車門自治会が11

月に設置しました。

明神穴に入るには、洞口に設置された鍵を開ける為に鍵を管理している車門自治会へ事前に連絡が必要

と成りました。

(菊地敏雄)

葛巻管内図(1/50,000を使用)

調査報告

Page 2: *版下-001〜051 (Page 1)...25 調査報告 1.明神穴の位置 巻町の南端、国道340号線沿いにある車門地区の東側にある山『突柴森』の南側山林に所在しています。国道340号線沿いにある車門公民館(ふるさと会館・前に車門バス停有り)から国道を約300m南下し

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調査報告

2.測量方法と作図

明神穴の測量は、測量精度を高める為にトランシットコンパスとレーザー距離計を使用して行ないまし

た。特に「ちびっ子広場」と呼ばれるホールでは放射測量を行ない、正確な壁面計測を行ないました。

作図を1/100と設定して方位、傾斜、距離データに沿って下書き洞内スケッチ図を現地で作成し、洞内の

段差や二次生成物(鍾乳石類)、頁岩、グアノの分布、地下水流の流れなどの景観情報も下書き洞内スケッ

チ図に書き込みました。

測量データは、洞穴測量ソフト(On Station)に入力し、ループして接続する方位データは微調整を測量

ソフト上で補正しました。

作図は、測量ソフトからの測量基線と壁面データを1/100の縮尺でプリントアウトして、基線に沿って洞

穴の壁面を記入してから段差、二次生成物の分布、地下水流、土砂や散岩、傾斜の方向などの景観情報を

記号で記入し、天井高、傾斜角度、段差の高さは数値(単位m)で記入して平面図を作成しました。

また、今回作成した平面図には、洞穴全体の分布範囲を表す為に洞口を0mとして東西と南北方向の範囲

を数値で表しました。

(菊地敏雄)

3.洞穴記載

洞 穴 名:明神穴(Miyuugin-ana)

別  名:マミ穴(Mami-ana)、熊の穴(kuma-no-ana)、車門鍾乳洞(Kurumakado-shiyuuniyudo)

総 延 長:209.2m+α(斜距離 2008年10月13日現在)

高 低 差:±10.9m(測量基線(床面から) 洞口を0mとして +10.2m、-0.7m)

洞 口 数:1ヶ所

洞口標高:720m(国土地理院発行・陸中五日市1/25000の洞口設定地点から)

分  類:構造支配型溶食石灰岩横穴洞穴 

水  流:有り(流出)

鉱 業 権:試掘権・採掘権設定無し(2008年10月15日現在)

所 在 地:岩手県岩手郡 巻町江刈第31地割224番地70

所 有 者:佐々木恒雄( 巻町江刈第31地割90番地1 TEL 0195-68-2252)

調査団体: 巻町教育委員会(依頼)・日本洞穴学研究所(受諾)

調 査 日:平成20年(2008)7月19日(土)、10月11日(土)~13日(月)、10月25日(土)、12月1日(月)、

12月7日(月)、12月13日(土)

4.内部記載

本報告書における内部記載は、測量調査によるデータを基に記入されており、洞内における名称は近畿

大学文化会探検部の安家カルスト鍾乳洞調査合宿報告書(1996)の内部記載中と平面図に記入されている

名称を使用しました。

Page 3: *版下-001〜051 (Page 1)...25 調査報告 1.明神穴の位置 巻町の南端、国道340号線沿いにある車門地区の東側にある山『突柴森』の南側山林に所在しています。国道340号線沿いにある車門公民館(ふるさと会館・前に車門バス停有り)から国道を約300m南下し

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洞口から「ちびっ子広場」

洞口(幅0.7m、高さ0.8m)を腹這いで2m進むと左右(西北西方向と南南東方向)に分岐しています。左

側(西北西方向)は3mで行き止まりとなりますが、分岐地点には一段高い位置に本洞通路と並行して南南

東に延びる狭い通路があり、5mで地下水流が現れる本洞と合流しています。

分岐地点から南南東の通路を腹這いで5m進むと中腰で立てる空間となり、洞奥からの地下水流が表れ西

北西方向の狭い通路に流れ込んでいます。

この地下水流は、洞口から地下水流までの通路や洞口から目の前の沢までに流れ出た痕跡が今回の調査

で確認出来なかった事から大雨でも洞口から流れ出す可能性は小さいと考えられました。

この地点から先は地下水流(平均水深5cm)の流れる通路となり立って歩く(部分的に中腰か四つん這

い)事が出来る様になります。

通路を12m南南東方向に進むと右側天井部分が高くなってキクガシラコウモリとコキクガシラコウモリを

確認。壁面は石灰岩中に頁岩が露出しています。

この地点から地下水流の通路は北東方向に曲がり7m進むと通路は北北西方向に延びています。

北北西に延びる通路の左壁面は、石灰岩中に頁岩が長さ10m露出しています。

通路を5m進むと左側壁面に小規模なフローストーンが見られ、このフローストーンの場所に土砂で出来

たナチュラルブリッジが残されています。

北北西方向に延びる通路をそのまま進む事が出来ますが、天井高0.6m(水平天井)となり、地下水流に

浸かりながら進む事は可能ですが、右側にトレンチ状の迂回ルートが2箇所あり、通常は迂回ルートを通

過します。

迂回ルートの2ヶ所目は、北東方向に延びており、狭いルートを抜けると「ちびっ子広場」と呼ばれる

ホールに出ます。

ホールに出る手前に北北西方向に延びる通路があり、1m入ると右側壁面に頁岩が露出しており、その下

から地下水流が湧き出ています。

前記した北北西方向に延びる通路を10m進むと通路は直角に曲がり東北東方向に延びており、行き止まり

地点は、ホール手前の北北東方向に延びる通路に見られた頁岩が現れ、両通路は合流しています。

「ちびっ子広場」

「ちびっ子広場」と呼ばれるホールは、幅(北西‐南東)9m、長さ(北東‐南西)24m、天井高10mの

空間です。

ホールの南西側は、ナチュラルブリッジを抜けると土砂で覆われたホールとなっており、ホールの末端

へ31 ~゚37 の゚傾斜を10m登ると到着し、更に南西方向に延びる空間がありますが土砂の堆積によって入口は

狭くなっています。

登った地点のレベルの壁面両側は棚状の溶食形態が残されており、この棚はホールの北西方向末端まで

続いています。

この南西方向側のホールの天井にはコキクガシラコウモリが多く見られ、洞床にグアノが堆積しており、

グアノの上にはイワテコメツブトビムシなどの生物が見られます。

このホールの東側壁面にはホールを二分する形で頁岩が北西方向から南東方向に露出しています。

洞内で見られる頁岩は、全て北西方向から南東方向に延びており、厚さは20cm前後です。

林道に露出している石灰岩(標高730mから800m)に頁岩は見られません。

調査報告

Page 4: *版下-001〜051 (Page 1)...25 調査報告 1.明神穴の位置 巻町の南端、国道340号線沿いにある車門地区の東側にある山『突柴森』の南側山林に所在しています。国道340号線沿いにある車門公民館(ふるさと会館・前に車門バス停有り)から国道を約300m南下し

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北東方向に延びるホールは、奥に行く通路となっています。

右側(東側)の緩やかな傾斜を登って奥に行きますが、左側(西側)は地下水流が奥から流れて来てお

り、「ちびっ子広場」に出る地点の頁岩の反対面によってダムの用に地下水流が一時溜まって、ゆっくり下

流側に流れ出ています。

右側の通路と地下水流共に傾斜面から水平面に変わる地点には、頁岩が入っています。

この地点の天井面にポケットと呼ばれる溶食跡が見られます。

水平面に変わった地点の左側奥(北北東方向)から地下水流が流れ出ていますが、奥は天井が低くなっ

て通過不可能となります。終点の右側(東方向)に奥に行く通路の途中に抜けられます。

地下水流と並行して北東に延びる「ちびっ子広場」の延長空間(北東)があり、7m進むと奥へは堆積し

た土砂の斜面を登って向う事になります。

登る地点の西方向には地下水流通路に行く通路と北北西方向に延びる通路が床面に開いており、北北西

方向に延びる通路は地下水流の上流通路となっており、地下水流が流れています。

上流側地下水流通路は奥に向う途中に接続する支洞があり、支洞の奥には別の地下水流と予想される水

流が流れていましたが、未測量です。

2つの通路の他にも北東方向に延びる支洞があり、腹這いで5m進むと左側(北西方向)に通路は延びて

いましたが未探検です。

この北東方向に延びる支洞の入口右側(南東)壁面に窪み状の壁面があり、土砂の床面に2つの凹が並

んであり、凹の廻りには熊の爪跡が確認され、熊の冬眠場所と考えられます。

奥は北東方向に延びていますが、2mの段差となっている為、北西方向の土砂の斜面(30 )゚を4m登る

と平坦面となり、東方向に7m行くと奥に向う通路と平坦面から1段登って東方向に9m進むとトレンチ通

路と成り、トレンチ通路となった地点から2.3m降りた地点と接続しています。

「ちびっ子広場」から上層・中層

トレンチ通路に変わった地点からフローストーンや石筍などの二次生成物が見られる様に成ります。

トレンチ通路を東南東方向に7m進むと、通路は北北東方向に延びる割れ目に沿って直線的に延びていま

す。通路全体にフローストーンが発達しています。

この通路を6m進んだ地点にフローストーンで形成された床があり、この地点から4m降りると中層に行

けます。

フローストーンの床の裏側には土砂が残されており、流礫棚である事が判ります。

この流礫棚地点から5m進むと通路はフローストーンで覆われた壁面と成っていますが、足元に中層に行

ける空間があります。

流礫棚の床から崩落岩の隙間を4m降りて中層に入ります。

中層も北北東方向に直線的に延びています。

降りた地点の通路で頭骨、下顎骨を発見、採取しました。

降りた地点の通路2m地点に左右に空間が在り、右側(南東)は、段差0.5mを上がると南方向に延びていま

すが、すぐに行き止まりになります。

左側(北西)は、天井高0.3mの空間となって、天井に数本のストローが見られ更に西方向に延びていま

すが未探検です。

通路を3m進むと右側に流礫棚下に形成された石柱とリムストーンが見られます。これより19m地点まで

調査報告

Page 5: *版下-001〜051 (Page 1)...25 調査報告 1.明神穴の位置 巻町の南端、国道340号線沿いにある車門地区の東側にある山『突柴森』の南側山林に所在しています。国道340号線沿いにある車門公民館(ふるさと会館・前に車門バス停有り)から国道を約300m南下し

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見られるフローストーンのせり出した棚は全て流礫棚です。

19m地点までに山の様に堆積したグアノと下層に至る空間(未探検)があります。

19m地点から北東方向と下方方向、北西方向の3通路に分岐しています。

北東方向は、細かな崩落が堆積した登り通路となって5m上れますが、右側壁面に頁岩が露出しており、

通路は終っています。

下方方向に延びる通路は、北東方向に至る入口部分の床にあり、垂直に下方に延び、床面が見え南南西

方向に通路が延びている事が判るが今回は未探検です。

北西方向に延びる通路が奥に至る通路となっていますが、これまでの通路と変わって土砂で覆われた通

路となっています。

最 奥

天井高0.3mの通路入口から腹這いで入ると天井高0.7mの小空間となり、南南西方向と北西方向に延びて

おり、南南西方向へは緩やかな下り傾斜となり、5mで土砂によって行き止まりとなります。

北西方向へは、天井高0.3mの筒状の土砂の通路で3m進むと天井高1mの前記の小空間より少し大きい空

間となり、南南西方向と北北東方向に延びています。

南南西方向へトレンチ通路を5m進むと通路は小規模な曲がり通路となって南南西方向に下り通路となっ

て続いていますが、今回は未探検です。また、このトレンチ通路の途中に北北西方向に延びる天井の低い

通路があり、今回は未探検です。

空間の周辺は土砂の堆積で囲まれています。また、前記の小空間からの続きと思われる水平天井が見ら

れ、この水平天井は北北東方向の洞奥空間へも続いています。

北北東方向に6m進むと通路は幅6m、天井高2mとなって周囲を土砂の堆積で囲まれた空間で、更に北

北西方向に直線的に通路は延びています。

土砂で囲まれた空間入口部分にトレンチ通路があり、3m降りると通路は2方向に分かれており、腹這い

で進むと一つは小規模なプールとなって空間は終わりとなっています。

もう一つの通路は天井の低い通路となって奥に延びていますが未探検ですし、2つの通路は未測量です。

北北西方向に進むと天井高は1.4mから次第に低くなり、通路の左側はトレンチの溶け残し母岩が見られ、

大きな崩落岩が数個見られ12m地点で北西方向に崩落岩の先に延びる通路がありますが未探検です。

この地点の右側に壁面に沿って北方向に延びる通路があり、22°から15°の斜面を四つん這いで上って行

くと崩落岩で覆われた一人分の空間となって更に通路は西方向と北方向に分岐しています。

西方向に延びる通路は2m進むと窪地となって崩落岩で覆われて終っています。

北方向へは狭い通路となっており、頁岩が右側壁面に露出して、その切れ目から奥に通路は延びていま

すが未探検です。

この部分が、今回探検、測量した明神穴の最奥です。

二次生成物の発達した通路奥から入った土砂の堆積で覆われた空間は、土砂の堆積が無ければ「ちびっ

子広場」に匹敵する空間と予想されます。

(菊地敏雄)

調査報告