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ISSN-2185-954X EBook2 Weekly Magazine Vol.1 No.23 2242011 オブジェクトテクノロジー研究所

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ISSN-2185-954X

EBook2 Weekly Magazine Vol.1 No.23

2/24/2011

オブジェクトテクノロジー研究所

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Vol.1, No.23, 2/24/2011 EBook2 Weekly Magazine ©2010-11 OTI, Inc.

2011年 2月 24日号 (第 1巻第 23号)

目次

ANALYSIS

ePUB3が拓くオープンE-Bookリンキング(前) 2

ePUB3が拓くオープンE-Bookリンキング(後) 5

9 欧州メディアの円卓会議が定期購読問題で提言

11 INMAがメディアとテクノロジーの対話を提唱

NEWS & COMMENTS

16 米独禁当局がアップルのIAP条項に「注目」

19 B&N PubIt! が大成功。店内イベントも開催

21 米国の出版界、12月は印刷本も好調

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ANALYSIS

ePUB3が拓くオープン E-Bookリンキング(前) 鎌田 博樹(本誌編集長)

ePUB3は、今世紀に入ってからのWebの発展(HTML5)を反映した、新世代のスタンダードだ。このグローバル標準での日本語仕様の開発と実装によって、われわれもフルにその恩恵に浴することになるのだが、そろそろレイアウトは卒業して、E-Bookをビジネスとして成立させる上での ePUB3の真価に

目を向けるべき時だろう。奔放なまでにオープンな Web の血統を継ぐePUBがあれば、出版者は、禁断のリンゴを食べても平気だし、アマゾンの密林も楽に通り抜けられるかも知れないのだ。

ユビキタスなリーディング環境の意味

Kindle (2007)に始まる現世代の E-Reader を過去から区別する最大の特徴は、それがワイヤレス端末として常時Web上のクラウドとつながっていること、同時にクラウドがデバイスから独立している(マルチデバイス)ことにある。Web をオンラインストアとしてだけ使うベンダーも少なくないし、ソニーは最初のリーダを PCのスレイブとして出したが、ショッ

ピングからリーディングまでを一貫させるメリットは、ユーザーにもベンダーにも非常に大きいものがある。それは十分に理解されておらず、時とともに浮上してくる。

市場がいくら急拡大しても、コンテンツ市場

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Vol.1, No.23, 2/24/2011 EBook2 Weekly Magazine ©2010-11 OTI, Inc.

で先行するアマゾンのシェアがそう下がらない理由は、こうしたユビキタスな性格によって、それがたんなるオンライン書店ではなく、ソーシャルネットワーキングのWebサービスともなって、ユーザーの体験から最大のデータを引き出し、活用できるためである。だからKindleのソフトウェアを更新するだけで、SRSのハブとなることも容易だったわけだ。そうなるにはWi-Fiでもまだ不十分で、3G/4Gがついて初めてスマートフォンに匹敵できる。クラウドとしてのアマゾンからみると、ユーザーはすべて(Kindle、PC、スマートフォン…で)オンライン接続できていることになる。

E-BookがWebページとなる

Web常時接続によって、リーダだけでなく、個々の E-Bookコンテンツがダイナミックで対話的なものとなる。Webから多くを継承した E-Bookの最大の利点の一つは、本の内外のリンク先の一発表示にある。紙の本では、目次、索引、脚注、引用・参照情報、参考文献リスト、用語定義などを作成し、本文との対応を示すのだが、かなりの手間がかかる割には、一般には使われないことも多く、最近ではこの面倒な作業を大幅に省略する例も少なくない。しかしWebのようにワンクリックできれば、利用頻度は一気に高まることは間違いない、Web によってリンクは本の情報空間を 2次元から 3次元(n次元)に拡張する。

それによって何が起こるか。E-BookがWebの一部になり、本のページが実質的にWebページとなる。本の中からWebコンテンツをダウンロードすることはもちろん、サービスを呼び出して実行させたり、ブラウザを起動したり、Web で出来ることなら何でもできる。そして、その際に上

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述した本のメタデータは、本と外界(Web)をつなぐインタフェースの役割を果たす。Web上のクラウドは、サービスを呼び出した本の IDが分かれば、メタデータを通じて、その本(誰が何について、いつ書いたものか)のコンテクストをほぼ正確に知り、間接的に読者の関心やニーズを知ることになる。これは経済価値を生む。

本を売りたい側は、文献リストや引用から本を販売する機会が生まれる。本だけではなく、本が対象としているものに関連した商品やサービスを販売する機会も生まれる。そして機会が生まれたならば、多くのサービスが接続し、取引・決済が行われる。もちろん、アマゾンやアップル、Google が狙っているのもそこだ。ではその環境はオープンになり得るだろうか、それによって、ビッグ 3 以外の参入の可能性と形態が決まる。 ◆ (02/24/2011)

関連記事

「WebとE-Bookの融合を進めるePUB 3最終段階」• 、EBook2.0 Magazine、02/17/2011

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ANALYSIS

ePUB3が拓くオープン E-Bookリンキング(後) 鎌田 博樹(本誌編集長)

プラットフォームは、コンテンツに紐を付けておきたい。コンテンツはプラットフォームを必要としながら、それから独立したい、という矛盾を孕みながら、E-Book の市場は、たんなる静的コンテンツの配信を超えた、ダイナミ ッ ク で ソ ー シ ャ ル な 方 向(E-Book2.0)へと進化している。そ

して 2.0 の水準をオープンなサービスとして実現する上での大きな前進が、ePUB3 におけるオープンなリンク機能といえる。出版界がビッグスリーと共存していく上で、これを使いこなし、ePUB3 の達成水準を高めていくことが将来を決定することになる。そろそろ組版・レイアウトは卒業したい。[全文=♥会員]

ePUB3で、コンテンツはデバイスから独立する

さて、E-Book(正確には E-Book+クラウド)が古典的な読書体験を超えて様々なオンラインサービスと結びついたものを、本誌では EBook2.0と称しているのだが、アップルの「iOSアプリ決済規制」は重要なテストケースになる。アップルとしては、デバイスの優位を発揮するために、ユーザーがアマゾンや Googleなど外部のサービスにアクセスし、決済されるのを好まない。そして外部サービスにアクセスする手段がアプリだけで

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あるならば、アップルの API を使って開発するほかないので、アップルもコントロールできる。しかし、ブラウザで足りてしまうならば、このコントロールも無効になる。ではWebはそこまでサポートできるだろうか。可能であるならば EBook2.0はメーカーのコントロールを受けない形で発展することになる。

EBook2.0の完全Web化の鍵を握るのが ePUB3.0である。日本ではもっぱら日本語表示に関心が集中しているわけだが、ePUB3 は、もちろんその程度の拡張ではない。この 10年間のWebの構造・機能・表現の定義における進化(HTML5/JavaScript/CSS3)が反映されており、したがって基本的に現在のWebでできることなら ePUB3でもできる。ePUB2ではWeb機能のサポートが不十分で、本の構造定義も粗かった。E-Book利用が拡大し、レベルが高度化したことで、ePUBじたいも進化する必要があったのだ。

現在、iOSもAndroidも、E-BookアプリはオープンソースのWebkitを使用している。KindleデバイスにもWebkitが使われており、同時にアマゾンはそれ以外のハードウェアでKindleフォーマット(MOBI/AZW)の本を表示するのに使っている。ちなみにアマゾンの「独自フォーマット」はじつに巧妙につくられており、ePUBを「中間フォーマット」にすることもできるし、自らのデバイスにロックインされることもない。だから、アップルがKindleアプリやKindleコンテンツからAmazon.comへのアクセスを禁止しても、アマゾンはHTMLやJavaScriptの処理エンジンであるWebkitを使い、Webブラウザによるサービスに完全移行することで対抗できる。アマゾン以外も同じ。アップルの規制が強まれば、iOSアプリではなく、ブラウザをフル活用し、Webkitをモバイル・プラットフォームにも使用することで対応できるのである。

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オープンで相互運用可能な E-Bookリンキングを目ざして

出版社はどうだろうか。Kindleなどオンラインストアが、自社コンテンツが他社コンテンツの宣伝に利用されるのは好まないだろう。しかし、もしユーザーが引用元の

本を持っていて、すぐに表示して確認したいと考えると、リンク先の本(の章、節、パラグラフ)のIDが問題になる。ePUB3のプロパティ(たとえばdcterms:modified)を使うことで、本の構造に深く分け入って参照個所を探索・表示することが可能になる、と言われている。もちろん、そのための開発が必要になり、さらにePUBの(オープン/プライベートな)拡張も必要になるかもしれない。たとえば、W3CのSWEO (Semantic Web

Education and Outreach Interest Group)のLinking Open Dataというプロジェクトは、オープンなE-Book環境の拡大に貢献するだろう。(下図を参照)

ePUB3の作業は、完全な E-Bookリンキングの標準を目ざしたものではないが、その入口をつけた。アップルの「アプリ規制」は、結果的に ePUB3を使ったオープンな E-Book環境への志向を拡大するだろう。アマゾンはePUBをサポートしていないが、直接間接に同期させていくことになろう。すでに Kindle環境での「E-Bookリンキング」は技術的には完成されている可能性が強く、市場投入のスケジュールを測っていると思われる。ePUB とアマゾンとの「競争」が、E-Book を新しい段階に引き上げることを期待したいが、ダイナミックな E-Book環境のためのインタフェースも開発課題だ。日本のテクノロジーベンダーも、出版社、著者、読者とともに、E-Bookリンクを前提とした環境の開発と事業化に取組むことを期待したい。 ◆ (鎌田、02/24/2011)

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関連記事

「ePUB3が拓くオープンE-Bookリンキング(前)」• 、EBook2.0 Magazine、02/22/2011 「WebとE-Bookの融合を進めるePUB 3 が最終段階」• 、EBook2.0

Magazine、02/17/2011 「アップルのIAP規制がePUB3 への移行を加速する!?• 」、EBook2.0

Forum、02/22/2011

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欧州メディアの円卓会議が定期購読問題で提言

ニュースメディア経営者の国際団体であるINMAは 2月 17日、ロンドンに欧州のメディア業界の代

表者 60名を招待して円卓会議を開催し、アップルとGoogleの新しい定期購読プランやHTML5の可能性について議論を行い、声明を発表した。主催者は会議の雰囲気を「楽観的だが現実的」と表現し、アップルの「ルールが不透明」でタブレット市場の主役との協力関係が不確実であることに苛立ちを隠さなかった、としている。

「私たちはタブレットについて語る時、これまではもっぱらマルチメディアなどコンテンツについて目を向けていました。いまこそビジネスモデルとパートナーシップの詳細を議論すべき時です。それがテクノロジー分野のパートナーにとっても新しいテーマであることは理解しています。」(INMA Europe グジゴルツ・ピエツォタ会長)

INMA によれば、会議の参加者は、イノベーションをもたらしたアップル、Google その他の企業を称賛し、出版者は顧客との関係を築き、サービスを向上させ、豊かなユーザー体験を実現する方法について、多くを学ぶことができる、という点で一致した。また、タブレットは技術的にも、またビジネスエコシステムとその仕組みについてもまだ未成熟な段階にあると認識している。したがってテクノロジー企業の間の競争を促進することがユーザーとコンテンツ企業にとって重要であり、その点で出版者は協力すべきであると考えている。今回の欧州ミーティングがステートメントで提唱しているのは以下の 4点。

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ットフォームも放棄

1. コンテンツに対する検閲(の排除)

2. フレームワークの透明性 3. 顧客との直接の関係 4. 公正なビジネスパートナーシップ

ピエツォタ会長(Grzegorz Piechota=写真)は、会議を踏まえて次のようにコメントしている。「出版者の目ざすところは、顧客にコンテンツへのアクセスを妥当な価格で、彼らが選ぶデバイスとプラットフォームで提供するということです。ですから、どんなプラしたいとは考えていません。まして多くの利用者に

使われ、決済システムも整備しているものは。敵対的な行動をとる前に、出版社はすべてのテクノロジー・プロバイダー、プラットフォーム・プロバイダー、ステークホルダーとそれらが関係する団体との間で協議を計画しています。」 ◆

INMA (International Newsmedia Marketing Association、本部米国ダラス)は、1930

年に創立されたニュースメディアの経営者による国際的な NPO で、変革のためのベストプラクティスとマーケティング・モデルに関する情報を提供している。80 ヵ国以上のメディア企業経営者約 5,000 名が会員として参加。C

(Chief)レベルの幹部(最高経営責任者を含むマーケティング、広告、購読、デジタル、編集のトップ)を擁している。

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ANALYSIS

INMAがメディアとテクノロジーの対話を提唱 鎌田 博樹(本誌編集長)

INMA のロンドン円卓会議ではアップル批判が渦巻いたが、もちろんアップルがメディアビジネスの存立にかかわる基本を尊重することを期待してのことだ。提言の内容を検討し、ウィルキンソン CEO のコメントを読めば、ニュースメディア産業がテクノロジー企業と協力しつつ新しいビジネスモデルを構築していくためのイニ

シアティブをとろうとしていることが理解できる。アップルのケースはコンテンツとテクノロジーの関係が変化するきっかけとなり、2011 年はその転換点となるかもしれない。日本もこの流れに乗っていきたい。

コンテンツビジネスの尊重を求める

INMAの円卓会議で提唱された内容をまとめると以下のようになる。

コンテンツに対する検閲(の撤廃):言論の自由はメディアの存立基盤に関わる。テクノロジー企業がデジタル出版物の編集上の決定に関して介入することは容認できない。欧州その他の諸国で適法と認められたアプリを拒否するルールおよび行為を改めることを要請する。

フレームワークの透明性:アプリの開発は複雑で費用がかかる。テクノロジー企業は、コンテンツ企業を含む開発者が開発をスムーズに行える

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よう、そのリソースを使い要件と指針を分かりやすく説明すべきである。

顧客との直接の関係:出版者にとり顧客との関係ほど重要なものはなく、(a)商品とサービスを提供し、(b)価格設定、商品構成などを柔軟に変更し、(c)商品、価格、総合的体験に対するユーザーの反応を知り、(d)それによって商品、サービス、ポリシーを改善し、(e)新旧の商品とサービス、ポリシーを顧客に説明することができなければ、それは維持できない。

公正なビジネスパートナーシップ:出版者はこれが新興市場であり、事業の手法を開発し、その有効性を検証するには時間が必要であることを理解している。こうした実践はパートナー間で広汎に議論されることによって社会全体のものとなる。そこにはデジタル市場の経済性に関するテーマも含まれる。プラットフォームが売上の 30%を徴収するのであれば、出版社は新技術、商品、サービスへの投資を行うことは不可能である。欧州では消費税も加算されて 50%にもなるからだ。

「ニュースメディアはアップルを必要としている」

NMAのアール・ウィルキンソンCEOは 18 日のブログで、欧州会議のステートメントの背景を説明し、誤解と紛糾を避けるためにユーモアを持って微妙な陰影を与えようとしている。

1. アップルとは交渉を持っているが、回答は得ていない。聞いた話ではアップルは出版社の反応に当惑し、回答に苦慮しているらしい。

2. コンテンツ検閲は欧州にとって主要な問題となっている。Android記

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事やピンナップ写真を拒否され「アメリカの一企業の基準を押しつけられるのは沢山」と憤激している。

3. アップルのポリシーは、独自の CRM(購読者管理システム)を持たない小規模なゲーム開発者やメディア企業には必ずしも悪いものではない。しかし大手はそうではない。

4. 国によっては定期購読や宅配を使わない新聞も多数ある。こうした新聞は読者の素性については関心がないから、アップルのポリシーでも問題はない。

5. 出版者が読者と関係を持たないケースは今回が最初ではなく、過去にはサードパーティの流通企業に読者管理を委ねていたこともあり、国によっては現在も続いている。ただし、現在では出版社もこの流通モデルから必死で抜け出ようとしている。現代ではとても生き残れないからだ。

6. iTunesの音楽配信の場合、アップルは商品管理を行う小売業者だが、ニュースコンテンツではコンテンツをサーバに置くわけでもなく、付加価値の低い再販業者に過ぎない。

7. アップルに対して言いたいことは言うが、メディアニュース産業は、希望をもたらしてくれたアップルを崇拝し、必要としている、とウィルキンソン会長は言う。「ロンドンの会議でも、参加者たちは口々にアップルを批判しつつ、iPad、iPhone、MacBook Airを使ってノートをとっていた。」

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メディアとテクノロジーのパートナーシップへ向け国際的合意形成を

INMA Europeのピエツォタ(Grzegorz Piechota)会長は、会議を踏まえて以下のようにコメントしている。「出版者の目ざすところは、顧客にコンテンツへのアクセスを妥当な価格で、彼らが選ぶデバイスとプラットフォームで提供するということです。ですから、どんなプラットフォームも放棄したいとは考えていません。まして多くの利用者に使われ、決済シス

テムも整備しているものは。敵対的な行動をとるより前に、出版社はすべてのテクノロジー・プロバイダー、プラットフォーム・プロバイダー、ステークホルダーとそれらの団体との間で協議を計画しています。」

流石に世界のニュースメディアの代表だけあって、書籍出版社に比べると論理が明快で対応も鮮やかだ。アップルへのチャレンジャーとしてGoogleが登場したタイミング(INMAの声明を参照)を捉えて、「全関係者による協議」をニュースメディアがリードして交渉を開始し、産業の存続と発展のための要求を、時間をかけて実現しようというもので、婉曲な表現ながら「最悪の場合は放棄することになるかもしれない」と対抗手段も匂わせている。会議の雰囲気は「アップル糾弾」の声が渦巻いたというが、怒りや不平、泣き言ではなく、あくまで理性で目的を実現しようとする政治力は、われわれも見習うべきものだろう。

INMA の要求は本誌も支持するし、社会的にも公正であると認められる

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だろう。とすると、Google のほかにもコンテンツ側に有利な提案をする企業が現れ、アップルはしだいに不利になるだろう。メディア側に「言論の自由」「競争の公正」「消費者の利益」という大義があり、それがメディアビジネス(とくに新聞・雑誌)の存立基盤に関わるからである。おそらくアップルは新しいモデルを提案してくると思われる。現在の恣意的な約款はメディアビジネスに利益をもたらさない以上、ここで争うことに意味がないからである。

もしかすると、アップルのケースはコンテンツとテクノロジーの関係が変化するきっかけとなり、2011 年はその転換点となるかもしれない。これまで、日本ではイノベーションを掲げるテクノロジー企業の「大義」が、メディア業界の複雑な感情を封じてきたために、まともな議論が行われてこなかった印象がある。「三省デジ懇」でもプラットフォームの問題は「フォーマット」の問題に集中しすぎていた。フォーマットは「顧客にコンテンツへのアクセスを妥当な価格で、彼らが選ぶデバイスとプラットフォームで提供する」という大義に関わりがあるが、ePUB3 という標準が実現する以上、われわれも社会的に妥当な「ビジネスモデル」の議論を進め、国際的な合意形成に参加する段階に移行すべきだろう。 ◆ (鎌田、02/23/2011)

Tags: INMA, アップル, ニュースメディア, ビジネスモデル, 定期購読

関連記事

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NEWS & COMMENTS

米独禁当局がアップルの IAP条項に「注目」

米国司法省(DoJ)と公正取引委員会(FTC)は、アップル製デバイスを使ったコンテンツ定期購読サービスの提供を希望するメディア企業との間の約款に関連して予備的調査を開始した、と 2 月 18 日の Wall Street Journal紙が伝えた。アプリから外部サイトへのリンクを禁止し、また iTunesでの取引を最優遇することを要

求する内容(いわゆる最恵国待遇)が、価格を不当に拘束する可能性があるためである。欧州委員会(EC)も「状況を慎重に検討している」と表明した。もちろん立証責任は当局側にあり、先は長い。

認定において重要な要素となるのが、「市場支配力の行使」あるいは「優越的地位の濫用」ということだが、本件において「市場」をどう定義するかは簡単ではない。それによってどのような「優越的地位」を持っているかは違ってくるからだ。約款は iOS を使ったアプリを対象としている。ここで市場が「モバイルアプリ市場」なのか、デバイス市場(スマートフォン/メディアタブレット)なのか。iPhone のシェアは、スマートフォン市場全体の 2 割に満たず、iPad はシェア 8 割に近いが、まだ市場は揺籃期にあり、競争者が揃っていないので評価の対象にならない可能性がある。アップルは「優越的地位」など存在しないと主張するだろう。

DoJ/FTC が関心を持っているのは、WSJ の取材によればメディア企業の顧客を iTunesの決済システムに集めて 30%の手数料をとる商法であるという。メディア企業は独自に販売することが出来るが、「最恵国条項」が

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あるので、iTunes での販売に 30%の手数料を上乗せすることはできない。アップルは iOS デバイス(iPod/iPhone/iPad)のアプリをすべての面にわたって厳格に管理しており、ユーザーは iTunes ストアから提供されたコンテンツしか商業的には利用できない。もちろん、30%のマージンが高すぎる、と

いうこともある。会員制音楽配信では、著作権者への支払いに加えて 30%を支払うとビジネスモデルがほとんど成り立たなくなる。関係業界から強い圧力を受けている当局は、30%というマージンが過大でないかどうかも調査するという。

アップルはこれまでに、アドビの Flash を使えなくしていた件、Googleの広告を制限していた件でFTC調査を受け、昨年 9月に約款を改訂した。DoJはオンライン音楽配信で 70%のシェアを持つiTunes に関する調査を行っている。独禁法に抵触するかどうかで調査を受けるのは、IT企業にとっては成功者の勲章のようなものでもあるが、マー

ケティング的にも、経営的にも「法務」が大きな意味を持つことで、長期化すれば損失も大きい。マイクロソフトもそうだったが、数百人もの弁護士がいつも会社を出入りしていると、創造的な雰囲気が薄れていくからだ。彼らは紛争が長引くことを歓迎する。

アドビや Googleのケースは、Flashや Googleの広告(adMob)の浸透を喰い止めた形になったので、想定内の戦術的退却であったかもしれないのだが、そのために Android の浮上を速めたように思われる。またメーカー

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がメディアと広告業を兼業するという異常さは、シナジーを生まない。そして定期購読サービスの一件では、後発の Googleに思わぬチャンスをもたらした。Google はアップルの後をフォローして、失策を待つことで着実に前進している。◆ (鎌田、02/22/2011)

参考記事

Regulators Eye Apple Anew: Enforcers Interested in Whether •

Digital-Subscription Rules Stifle Competition, By Thomas Cantan and

Nathan Koppe, Wall Street Journal, 2/18/2011

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NEWS & COMMENTS

B&N PubIt! が大成功。店内イベントも開催

B&Nの自主出版サービスPubIt!は、10月のスタートから 4 ヵ月あまりで、11,000 の独立小出版社と著者の支持を得て、すでに 65,000ものE-Bookを発行した。この成功によって同社はマーケティングを強化しており、新たにベストセラー・リストを整備し

たほか、Nookユーザーのための店内E-Book立ち読みサービス(Read In

Store)への登録も可能にした。そして実際の書店でPubIt!の著者を招いて使い方をコーチするイベント・シリーズも開始した。(同社のリリース)

デジタルと現実、読者と著者を結びつける

自主出版サービスは日本でも雨後の筍状態だが、小出版社や著作者に使ってもらい、読者にも評価されて商業的に成功するところまでいくのは簡単ではない。技術的な面より、サービス的な面で数多くのチェックポイントがあり、抜けがあると必ず失敗するというものだ。出版者、著者、読者のそれぞれの立場に立ったキメ細かさが不可欠なのだが、この種のプロジェクトに出版ビジネス(編集・制作・流通・販売)のプロが揃っていることはほとんどない。ビジネスセンス、本に対する情熱、著者に対するケア(忍耐)などがないといけないのだが、けっきょく出版社を立ち上げるのと変わらない。中途半端だと、著者の期待を裏切る結果となり、恨みを買って死屍累々…ということにもなりかねない。

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B&Nの PubIt!の成功は、いくつもの関門をパスして成し遂げたものだ。5月の発表、10 月のサービス開始を経て、ライブ(ブックストア)への展開となった。もともと、著者を招いて各地でイベント(講演+サイン会)を開催している実績があり、これはアマゾンにはない B&Nの強味を存分に発揮するものといえる。デジタルコンテンツ担当のテレサ・ホーナー副社長は「PubIt!タイトルが早い段階で成功したことを非常に喜んでいます。数百万のお客様が PubIt!の著作者と出版者からの新著を探すのを楽しみにしています。」と述べ、さらにこうコメントしている。

「PubIt!のインストア・イベントは、デジタルと現実の読書世界を一つにするという Barnes & Nobleの戦略の一環です。本のフォーマットがどうあれ、読者と著者を結びつけることの重要性を認識しています。そしてPubIt!の著者を私たちの店で支援するために、さらに多くのイベントを計画しています。」◆(02/24/2011)

Tags: B&N, PubIt!, 米国, 自主出版

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NEWS & COMMENTS

米国の出版界、12月は印刷本も好調

米国出版協会(AAP)は 2月 16日、2010年 12 月度の出版統計(大手 14 社分の卸販売額)を発表し、E-Bookの

売上が前年同月比 2.5倍強(164%増)の 4,950万ドルとなったことを明らかにした。2010年全体では 4億 4,100万ドルに達し、2008年から続く爆発的成長のテンポを維持し、電子化率はついに 8.3%と、年内に 1割を超えて 15%をうかがう水準となるのが確実となった。全体のトレンドについての分析は、EBook2.0 Forumのほうで行っているので(「数字から読み取る米国の『電子書籍元年』」02/19)、本誌では中身を簡単にみていきたい。

2010 年の印刷本は、主要なカテゴリーのすべてで若干の落ち込みを示しており、とくに児童向けハードカバーの落ち込み(-9.5%)が大きい。最も市場が大きい成年向けハードカバーは 5.1%減少した。しかし、12月度の数字だけを見れば、成年向けハードカバーは+23.1%と好調で、ペーパーバックも+4.5%、量販本も+14.6%と、E-Book の影響を感じさせない活況を呈していた。また児童・青少年向けも+4.5%と悪くない。したがって2010 年の落ち込みは、必ずしも在来型書籍出版が衰退に向かっている兆候と見ることはできない。印刷本はベストセラーなどの「季節要因」が働きやすいということが言えるように思われる。また、高等教育(+7.8%)、初等中等教育(+3.2%)向けの本は、年ベースではいずれも堅調で、専門書(+5.0)も安定成長といえる。◆ (02/24/2011)

「アップルのIAP規制がePUB3 への移行を加速する!? 」、EBook2.0 Forum、02/22/2011

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