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Page 1: 実験 - Osaka University...系統Ⅰと系統ⅡのいずれがTak1突然変異系統であるかを,免疫応答の有無と塩基配列の決定によって判 別する. 実験に用いるショウジョウバエ系統
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実験スケジュール

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キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)について

なぜキイロショウジョウバエを使うのか

キイロショウジョウバエ(以下ショウジョウバエ)は,1900 年代初頭,

Thomas Morgan の研究室において遺伝学実験に使われ始めた.ショウ

ジョウバエがモデル生物として 100 年以上も用いられてきたのには,

様々な理由がある.その理由の 1 つとして,ショウジョウバエの 1 世

代の短さが挙げられる.25℃で飼育した場合,ショウジョウバエは,

約 10 日で卵から成虫まで生育するため,短期間で遺伝学実験を行うこ

とができる.また,飼育の簡便さも重要な特徴である.エサは容易に

作成でき,飼育に必要なスペースも少ない.そのため,小規模な実験室でも,ショウジョウバエを用い

た研究が可能である.その他にも,染色体数の少なさ(4 対)やゲノム情報が解読されていることなど,モ

デル生物として優れた特徴が多い.

ショウジョウバエは,長く研究に用いられてきたことにより,様々な実験技術やリソースが開発され

てきた.たとえば,世界各地の研究機関で突然変異系統が豊富に保存されており,容易に入手できる.

これ以外にも,遺伝子の強制発現や抑制を容易に行えたり,遺伝子組換えを行う際に多数の手法を選択

できたりと,より便利に実験を行うための技術が蓄積され,現在も開発・改良されている.

これらの特徴を持つショウジョウバエは,発生学,神経学,行動学など,多くの研究分野で利用され

てきた.上述の長所を活かすことで,これまでに,ショウジョウバエを用いた研究に対して 5 回のノー

ベル賞が贈られた.特に,2017 年にノーベル賞を受賞した,概日リズムに関する研究は記憶に新しい.

また,ゲノム研究の成果から,ヒトとショウジョウバエのゲノムには共通する部分が多いことがわか

っている.たとえば,ヒトの病気の原因として知られている遺伝子の 61%は,ショウジョウバエでも保

存されている.すなわち,ショウジョウバエで得られた知識がヒトに応用できる場合が多く,ショウジ

ョウバエはヒト疾患を研究するモデルとしても使われている.

ショウジョウバエは生きた試験管だ!!

ショウジョウバエは“生きた試験管”に喩えることができる.

化学では,試験管内の物質を混ぜ合わせ,その反応を調べる(A

と B からできた C を調べる).ショウジョウバエでは,突然変

異体の雄と雌を交配して,二つの突然変異を同時にもったとき

にどの様なことが起こるのかを調べる(A と B から生まれた C

を調べる).これにより,二つの遺伝子の機能的な関連がわかる.

これは,ショウジョウバエを用いた遺伝学的研究手法の一例

にすぎない.100 年ものあいだに積み重ねられたショウジョウ

バエの知見は,次々に開発されるショウジョウバエの実験ツー

ルと組み合わさり,生命科学の未知の領域を開拓している.

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実験 I 感染実験

実験の背景と原理

自然免疫と獲得免疫

ヒトを含む高等脊椎動物は,大別して 2 つの免疫系をもち,これらは獲得免疫系と自然免疫系と呼ばれ

る.獲得免疫系は後天性免疫系とも呼ばれ,異物の侵入によって,その異物に対する特異的な免疫応答

がはじめて獲得される.自然免疫系は先天性免疫系とも呼ばれ,多くの生物に遺伝的に備えられた免疫

機構である.

現在,確認されている約 120 万種の生物のうち,獲得免疫系と自然免疫系を合わせ持つ生物は 4%ほど

である.一方で,地球上の生物種の約 80%を占める昆虫は,自然免疫系のみを持つ.これらのことから,

自然免疫系が効率よく機能していることがわかる.

昆虫の細菌に対する感受性

ショウジョウバエは,2 つの異なる NF-κB シグナル経路を持ち,そのどちらの経路も自然免疫系におい

て重要な働きをもつ.ひとつは,Toll 受容体を介する経路であり,ショウジョウバエではじめて発見され

た(Jules A. Hoffmann, 2011 年ノーベル賞).もう一つの経路が,Imd 経路である.大腸菌などのグラム陰性

菌が感染すると,Imd 経路が活性化し,抗菌ペプチド(ジプテリシンなど)が産生される.

今回の実験Ⅰで用いる Tak1 突然変異

体は, Imd経路の構成因子であるTGF-β

activated kinase 1 の機能を欠失している.

これにより,抗菌ペプチドが産生されな

くなる.

実験 I−1: 細菌感染実験

2 種類のショウジョウバエ系統に,大腸

菌を塗布したピンを刺すことにより,大

腸菌を感染させる.次に,大腸菌を感染

させたショウジョウバエ,および対照群

のショウジョウバエから mRNA を抽出

する.抽出した mRNA から,逆転写 PCR

法によってジプテリシン cDNA を増幅

して, 電気泳動で検出する.Tak1 突然変

異体では,ジプテリシンを発現できない

ので,電気泳動のバンドの有無をみるこ

とにより,どちらの系統が Tak1 突然変

異体かを判別する. Beinke, S. and Ley, S.C. (2004).

Functions of NF-κB1 and NF-κB2 in immune cell biology.

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実験 I−2: DNA シークエンスによる Tak1 突然変異体の同定

実験 I-2 では,実験 I-1 で同定した Tak1 突然変異体が,実際にどのような突然変異を持っているかを調べ

る.この実験では,Tak1 遺伝子の一部を PCR によって増幅する.次に,PCR 産物を精製し,DNA シー

クエンサーを用いて,塩基配列を解読する.野生型系統と Tak1 突然変異系統の配列を,ホモロジー解析

ソフトを用いて比較し,Tak1 突然変異体の突然変異箇所を明らかにする.

実験の目的

系統Ⅰと系統Ⅱのいずれが Tak1 突然変異系統であるかを,免疫応答の有無と塩基配列の決定によって判

別する.

実験に用いるショウジョウバエ系統

野生型系統,Tak1 突然変異系統

廃液の分類

ISOGEN+クロロホルム … フェノール廃液

イソプロパノール,エタノール … アルコール廃液

その他 … 一般廃液

実験の手順

実験 I−1: 細菌感染実験__________________________________________________

● ショウジョウバエへの大腸菌感染

下表の①〜⑦のように,大腸菌を感染させたショウジョウバエ(+)と, ネガティブコントロールとして大

腸菌含まない LB 培地を打ったショウジョウバエ(−)を準備する.

系統名 大腸菌感染 系統名 大腸菌感染

① 系統Ⅰ − ② 系統Ⅰ +

③ 系統Ⅰ + ④ 系統Ⅱ −

⑤ 系統Ⅱ + ⑥ 系統Ⅱ +

⑦ 系統Ⅱ + ←6 人班は省略

(1) 自分の担当する系統を決める.

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(2) 各ショウジョウバエ系統を,CO2ガスで麻酔し,実体顕微鏡下に並

べる.

(3) 虫ピンを,70% エタノールで湿らせたキムワイプで拭く.

(4) 虫ピンを乾かした後,LB 培地もしくは大腸菌液に虫ピンの先を浸

ける.

(5) 実体顕微鏡で観察しながら,虫ピンを雄ショウジョウバエ成虫の腹

の側方部に軽く刺す(右図).体表に刺されば十分なので,あまり深

く刺さない.

(6) 合計 6 個体について,(2)から(5)を繰り返す.

(7) 筆を用いて,ショウジョウバエをエサ入りバイアルに入れ,綿栓を

する.ショウジョウバエがエサに付着すると動けなくなって死ぬため,なるべく綿栓側にショウジ

ョウバエを寄せてから栓をし,ショウジョウバエが起きるまで,バイアルを横向きに静置する.

(8) 25℃インキュベーターに一晩放置する(TA が行う).

● ショウジョウバエからの total RNA 抽出

【注意】RNAを用いた実験では,RNaseのコンタミネーションを避けるため,手袋を装着する.

(1) 各ショウジョウバエ系統を麻酔し,4 個体のショウジョウバエを 1.5mL チューブの中に移す.死ん

だショウジョウバエがいる場合は,ショウジョウバエを加えて数をあわせる(TA が行う).

(2) ショウジョウバエの入ったチューブを,−80℃で冷凍する(TA が行う).

(3) 冷凍されたショウジョウバエの入った 1.5 mL チューブを,氷上に移す.

(4) ホモジェナイザーを用いて,氷上でショウジョウバエをよく潰す(右図).

(5) P1000 を用いて,氷上で,800μL の ISOGEN を加え,再度よく潰す.

(6) 室温で 5 分間 静置した後,P200 を用いて,160μL のクロロホルムを加え,数回

転倒混和する.

(7) 室温で 3 分間 静置した後,室温 12,000rpm で 15 分間 遠心する.

(8) 上層 320μL を,新しい 1.5mL チューブに移す.中間層と下層は吸わないよう

にする(右図).

(9) P1000 を用いて,移した上層液に,320μL のイソプロパノールを加える.

(10) チューブを転倒混和してよく撹拌し,室温で 10 分間 静置する.

(11) 4℃ 15,000rpm で 10 分間 遠心する.

(12) P1000 を用いて,上清を除く.P1000 を用いて,沈殿の入った 1.5mL チューブ

に,1mL の 70% エタノールを加え,1.5mL チューブを静かに転倒混和する.

(13) 4℃ 15,000rpm で 10 分間 遠心する.

(14) P1000 を用いて,上清の 70% エタノールを除く.P200 を用いて,わずかに残

るエタノールも除く.

(15) 1.5mL チューブの蓋を開けたまま,室温で 15 分間 静置して,沈殿物を風乾する.

【注意】沈殿物を完全に乾かすと,(16)で沈殿が溶けにくくなるので注意する.

(16) P200 を用いて,40μL の MilliQ water を加える.タッピングして,沈殿を完全に溶かす.

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● 抽出した RNA の逆転写反応

(1) PCR チューブに,3.7μL の MilliQ water と 0.3μL の RNA 溶液を加える.

(2) P2 を用いて,0.5μL の Oligo-dT と 0.5μL の dNTP Mix を加える.

(3) 65℃で 5 分間 インキュベートし,その後,氷上で 10 分間 静置する.

(4) 氷上に置いた 1.5mL チューブに,以下の溶液を人数分まとめて調整する.

□ MilliQ water 2.75 μL

□ 5x Prime Script Buffer 2 μL

□ RNase Inhibitor 0.25 μL

Prime Script RTase 0.25 μL ←TA が加える

Total 5.25 μL

(5) プレミックス溶液を,5μL ずつ(1)の PCR チューブに分注する.

(6) 42℃で 60 分間 インキュベートする.

(7) 95℃で 5 分間 インキュベートする.

(8) 直ちに氷上に静置する.

● 逆転写産物の PCR 反応

(1) 氷上に置いた 1.5mL チューブに,以下の溶液を人数分まとめて調整する.

※ 各サンプルに対し,ジプテリシンと Internal control 用の PCR 反応液をともに調整する.

ジプテリシン Internal control

□ MilliQ water 21 μL □ MilliQ water 21 μL

□ 10x PCR Buffer Ⅱ 2.7 μL □ 10x Reaction Buffer 2.7 μL

□ dNTP Mixture 1.1 μL □ dNTP Mixture 1.1 μL

□ 10μM Dpt F primer 0.53 μL □ 10μM RpL32 F primer 0.53 μL

□ 10μM Dpt R primer 0.53 μL □ 10μM RpL32 R primer 0.53 μL

ExTaq HS 0.125 μL

PrimeTaq DNA Polymerase 0.125 μL ←TA が加える

Total 26 μL Total 26 μL

※ Internal control: ターゲット遺伝子と無関係に一定の発現量がある遺伝子を,ターゲット遺伝子

と同時に増幅することで,ポジティブコントロールや,ターゲット遺伝子の発現量の正規化に

利用する.発現量を正規化することで,サンプル間の発現量比較が行える.今回は,ハウスキ

ーピング遺伝子の Ribosomal protein L32 (RpL32)を使用する.

※ Primer の配列

Dpt F: GTTCACCATTGCCGTCGCCTTAC

Dpt R: CCCAAGTGCTGTCCATATCCTCC

RpL32 F: AGATCGTGAAGAAGCGCACCAAG

RpL32 R: CACCAGGAACTTATTGAATCCGG

(2) プレミックス溶液を,24μL ずつ人数分の PCR チューブに分注する.

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(3) 1μL の逆転写反応液を,(2)の PCR チューブに加える.

(4) 下記の条件で PCR を行う.

94℃ 5min

94℃ 30sec

53℃ 30sec 30cycle

72℃ 30sec

72℃ 4min

4℃ ∞

(5) PCR チューブを回収する(TA が行う).

● アガロース電気泳動による PCR 産物の解析

(1) 10μL の PCR 反応液をラップ上に滴下し,2μL の 6x Loading buffer を加え,ピペッティングでよく混

ぜる.

(2) 12μL のサンプルおよび 5μL の DNA サイズマーカーを,下図のようにアプライする.

(3) 100V で電気泳動する.BPB 色素(速く泳動される濃い青色の色素)がゲルの半分まで移動したら,泳

動を終了する.

(4) 臭化エチジウム染色液(0.05μg/mL in TAE)中にゲルを浸け,20 分間 振盪する.

【注意】臭化エチジウムは発ガン性の疑いがあるので,手袋を装着して操作する.

(5) UV トランスイルミネーター上にゲルをのせ,電気泳動像を撮影する(TA の指示に従う).

(6) 電気泳動像から,系統Ⅰと系統Ⅱのいずれが Tak1 突然変異体か判断する.

※ DNA サイズマーカーは右図.

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実験Ⅰ−2: DNA シークエンスによる Tak1 突然変異体の同定__________________

● ショウジョウバエ成虫からのゲノム DNA 抽出

(1) ショウジョウバエを 5匹ずつ 1.5mLチューブに入れ,−80℃で冷凍する(TAが行う).

(2) 2 つの系統(系統Ⅰ,系統Ⅱ)から,自分の担当する系統を決め,番号を振る.

系統Ⅰ: サンプル①〜③, 系統Ⅱ: サンプル④〜⑦ (6 人班は⑦を省略)

(3) P200 を用いて,ショウジョウバエの入った 1.5mL チューブに, 200μL の Buffer A

を加え,ホモジェナイザーを用いてすり潰す(右図).

(4) P200 を用いて,200μL の Buffer A を加え(全量で 400μL の Buffer A),再度よくすり潰す.(3)と(4)は,

室温で操作してよい.

(5) 65℃で 30 分間 インキュベートする.

(6) P1000 を用いて,800μL の Buffer B を加え,10 回 転倒混和し,氷上で 20 分間 インキュベートする.

(7) 室温 12,000rpm で 15 分間 遠心する.

(8) 上清のうちの 1mL を,新しい 1.5mL チューブに移す.沈殿物を取らないようにするため,多少の上

清が残ってもよい.沈殿物が浮かんでいることもあるが,新しいチューブには移さないようにする.

もし必要ならば,(7)と(8)の作業を繰り返し,沈殿物を除く.

(9) P1000 を用いて,上清に 500μL のイソプロパノールを加え,チューブを 5 回 転倒混和する.

(10) 室温 12,000rpm で 15 分間 遠心する.

(11) P1000 を用いて,上清を除く.P1000 を用いて,沈殿の入った 1.5 mL チューブに,1mL の 70% エ

タノールを加える.

(12) 4℃ 12,000rpm で 5 分間 遠心する.

(13) P1000 を用いて,上清の 70%エタノールを除く.P200 を用いて,わずかに残る 70% エタノールも

除く.

(14) 1.5mL チューブの蓋を開けたまま,室温で 20 分間 静置して,沈殿物を風乾する.

(15) P200 を用いて,20μL の TE を加える.タッピングして,沈殿を完全に溶かす.

● PCR 反応による DNA の増幅

(1) 氷上に置いた 1.5mL チューブに,以下の溶液を人数分まとめて調整する.

□ MilliQ water 39 μL

□ 10x Ex Taq Buffer 5.4 μL

□ 2.5mM dNTP Mixture 4.3 μL

□ 5μM Tak1 F primer 1.1 μL

□ 5μM Tak1 R primer 1.1 μL

ExTaq Polymerase 0.26 μL ←TA が加える

Total 51 μL

※ Primer の配列

Tak1 F: GCGTTCGTGTGTTCTACTTG

Tak1 R: ACCTTCGGCGAACTCCATTATC

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(2) プレミックス溶液を,47.5μL ずつ人数分の PCR チューブに分注する.

(3) 2.5μL のゲノム DNA 溶液を,(2)の PCR チューブに加える.

(4) 下記の条件で PCR 反応を行う.

98℃ 3min

98℃ 10s

55℃ 30s 35cycle

72℃ 30s

72℃ 5min

12℃ ∞

(5) サンプルを 4℃で保存する(TA が行う).

● アガロース電気泳動による PCR 産物の解析

(1) 10μL の PCR 反応液をラップ上に滴下し,2μL の 6x Loading buffer を加え,ピペッティングでよく混

ぜる.

(2) 12μL のサンプルおよび 5μL の DNA サイズマーカーを,下図のようにアプライする.

(3) 100V で電気泳動する.BPB 色素(速く泳動される濃い青色の色素)がゲルの上端 1/3 まで移動したら,

泳動を終了する.

(4) 臭化エチジウム染色液(0.05μg/mL in TAE)中にゲルを浸け,30 分間 振盪する.

【注意】臭化エチジウムは発ガン性の疑いがあるので,手袋を装着して操作する.

(5) UV トランスイルミネーター上にゲルをのせ,電気泳動像を撮影する(TA の指示に従う).

● カラムによる PCR 産物の精製

(1) PCR 反応液のうち,残った全量に 120μL の Buffer PB を加えてよく混ぜる.

(2) カラムに(1)の混合液を全量アプライして,30 秒間 静置する.

(3) 室温 12,000rpm で 30 秒間 遠心する.

(4) カラムからの流出液を除き,700μL の Buffer PE を加える.

(5) 室温 12,000rpm で 30 秒間 遠心する.

(6) カラムからの流出液を除き,さらに室温 12,000rpm で 1 分間 遠心する.

(7) カラムを 1.5mL チューブに移し変える.

(8) 10μL の MilliQ water を,カラムの中心にアプライする.

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(9) カラムを 30 秒間 静置する.

(10) 室温 12,000rpm で 30 秒間 遠心する.

(11) 【注意】流出液は捨てずに (8)から(10)までをもう一度繰り返す.

(12) 2 回分の流出液(合計 20μL)を,4℃で保存する(TA が行う).

● 塩基配列の決定 | サイクルシークエンス反応

【注意】以下の作業は,なるべく遮光しながら行う.

(1) 氷上に置いた 1.5mL チューブに,以下の溶液を人数分まとめて調整する.

□ MilliQ water 6.1 μL

□ 5x Sequence Buffer 1.6 μL

□ 5μM Tak1 F primer 0.9 μL

BigDye Premix 1 μL ←TA が加える

Total 9.6 μL

※ Primer の配列

Tak1 F: GCGTTCGTGTGTTCTACTTG

(2) プレミックス溶液を,9μL ずつ人数分の PCR チューブに分注する.

(3) 1μL の精製 PCR 反応液を,(2)の PCR チューブに加える.

(4) 下記の条件で,サイクルシークエンス反応を行う.

96℃ 1min

96℃ 10sec

50℃ 5sec 25cycle

60℃ 4min

12℃ ∞

(5) 反応後の溶液全量を,PCR チューブから 1.5 mL チューブに移す(チューブに班と名前を記入する).

● 塩基配列の決定 | サイクルシークエンス反応物のエタノール沈殿

【注意】以下の作業は,なるべく遮光しながら行う.

【注意】(1)から(3)の順番を守る.

(1) 2μL の 3M 酢酸ナトリウムを加える.

(2) 1μL の 10mg /mL Linear Polyacrylamide (LPA)を加え,ピペッティングで溶液をよく混ぜる.

(3) 50μL の 100% エタノールを加え,転倒混和する.

(4) 氷上で,15 分間 静置する.

(5) 4℃ 15,000rpm で 15 分間 遠心する.

(6) P200 を用いて,上清を除く.125μL の 70% エタノールを加え,タッピングして混ぜる.

(7) 4℃ 15,000rpm で,5 分間 遠心する.

(8) P200 を用いて,上清を除く.1.5 mL チューブの蓋を開けたまま,室温で 20 分間静置し,沈殿物を

風乾する.

(9) 乾燥したサイクルシークエンス反応物を TA にわたす.

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● 野生型と Tak1 突然変異体との Tak1 遺伝子の塩基配列比較

FlyBase に記載されている CDS (Coding DNA Sequence; タンパク質をコードしている配列のこと.ATG か

ら始まり,終止コドンで終わる) 配列をリファレンスとして,シークエンスで得られた野生型および Tak1

突然変異体の Tak1 遺伝子を Multiple Alignment する.これにより,Tak1 突然変異体の突然変異箇所を同

定する.塩基配列解析ソフトには様々なものがあるが,今回は,GENETYX というソフトウェアを用い

る.この実習書では,例として Myosin31DF(Myo31DF)遺伝子を扱う.なお,Myo31DF の野生型対立遺伝

子(Myo31DF wild type)を Myo31DF,突然変異が起こった対立遺伝子を Myo31DFL152 と表記している.

(1) FlyBase(http://flybase.org)にアクセスする.

(2) ページ上部の“Search FlyBase”(下図①)をクリックして“Jump to Gene”を選択し,調べたい遺伝子名

(例: “Myo31DF”)を入力して“Go”をクリックする(下図②).

(3) Myo31DF 遺伝子のページへ移動する.“Gene region”をクリックし(下図①),“CDS”を選択する.続

いて,“Get Sequence”をクリックする(下図②).

(4) Myo31DF の CDS 配列情報が記載されたページへ飛ぶので,ダウンロードボタン(次項上図①)をクリ

ックする.複数のスプライシングバリアントがある場合は,異なるバリアントを選択し(次項上図②),

同様にすべて保存する.これらのバリアントは,(5)以降で同時に Multiple Alignment にかける.

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(5) GENETYX を開き,“Parallel Editor” (下図)をクリックする.

(6) Parallel Editor の“Add”(下図赤枠①)をクリックして,シークエンスした野生型の Myo31DF 配列ファ

イルを選択する.同様に,“Add”をクリックし,シークエンスした Myo31DFL152 突然変異体の

Myo31DFL152 配列ファイル,および(4)で作成した CDS 配列ファイルを選択する.” Alignment” (下図

赤枠②)をクリックする.

(7) Multi alignment のオプション画面が出てくるので,最下段にある”Match”(次項上図①)を”Local Match”

に合わせて“OK”(次項上図②)をクリックする.すると,シークエンスした野生型と Myo31DFL152

の DNA 配列,および FlyBase 上の Myo31DF 遺伝子の CDS 配列を Multiple Alignment した結果が表

示される.

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(8) “Create picture”をクリックする(下図).

(9) Myo31DF の CDS 配列と,シークエンスした Myo31DF と Myo31DFL152 の配列を比較すると,

Myo31DFL152 は,991 番目の C が T に置換した突然変異体であるとわかる(下図).

● Tak1 突然変異体のアミノ酸レベルでの解析 | 配列の読み枠調整

遺伝子上のどの塩基に突然変異が起こったか分かったので,次に,その DNA レベルの突然変異が,アミ

ノ酸レベルでどのような突然変異を引き起こしているかを調べる.アミノ酸配列の比較を行う前に,シ

ークエンスデータの読み枠調整を行う.

多くの場合,得られたシークエンスデータは,シークエンス反応時や読み取り時に,ランダムなミス

が生じている.特に,塩基の挿入や欠失が起こると,アミノ酸配列に変換したとき,読み枠がずれて,

異なるアミノ酸配列データがアウトプットされる.これは,次に行うアミノ酸配列の比較解析を困難に

する.そのため.アミノ酸レベルでの突然変異体解析を行う際には,複数のシークエンスデータを比較

して,“確からしい”配列に調整することが必要となる.本来は,統計的に計算を行い,確からしい配列

を求める必要があるが,今回の実習では,目で見て大まかに配列を調整する.

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(1) GENETYX を開き,“File”の“Parallel Editor”(前項(5))をクリックする.表示されている配列ファ

イルを選択して, “Remove”(下図赤枠)をクリックして,配列ファイルを削除する.

(2) Parallel Editor の“Add”(13 項(6)①)をクリックして,シークエンスした野生型の Myo31DF 遺伝子配

列ファイルをすべて選択する.同様に,p.12 (4)で作成した CDS ファイルも開く.このとき,異なる

系統(今回の場合,Myo31DFL152 突然変異体)の配列ファイルを選択してはならない.突然変異体と野

生型を混ぜて比較すると,突然変異によって生じたかもしれない読み枠のずれを消してしまうおそ

れがあるためである.

(3) “Alignment”をクリックする(13 項(6)②).Multi alignment のオプション画面が出てくるので,最下段

にある”Match” (13 項(7)②)が”Local Match”になっていることを確認して“OK” (13 項(7)②)をクリッ

クする.すると,シークエンスした野生型の Myo31DF 遺伝子配列,および FlyBase 上の Myo31DF

遺伝子の CDS 配列を Multiple Alignment した結果が表示される.続いて,“Create picture”をクリック

する(下図).

(4) シークエンスミスが生じている部分を探す(次項上図).今回の例では,シークエンスによって

得られた 3 つのデータのうち,ある 1 つのデータ(Myo31DF_wildtype_3)の 111 番目の T が,シ

ークエンスミスによって挿入されたものであると考えられる.

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(5) “Open Sequence”(下図)をクリックし,読み枠を調整したい DNA 配列ファイルを開く(今回の場合,

Myo31DF_wildtype_3).

(6) 111 番目の T をドラッグで選択し(下図左),“delete”キーを押下して T 塩基を削除する(下図右).

(7) “File”の“Save As…”を選択し(下図①),読み枠を調整したと分かるように名前を変更して保存す

る(下図②).

(8) 以上の操作を,全てのシークエンスデータについて行う.上述した例では,データ上での塩基挿入

を修正するやり方を示したが,データ上で塩基欠失が起こったと推測される場合は,複数の配列デ

ータを比較し,確からしい塩基を挿入して調整する.突然変異体のシークエンスデータを調整する

際は,前項(2)でも述べた理由から,野生型の配列ファイルを混ぜてはいけない.

● Tak1 突然変異体のアミノ酸レベルでの解析 | アミノ酸配列の比較

読み枠調整を行った DNA 配列データを用いて,突然変異体で生じたアミノ酸レベルの突然変異を同定す

る.今回は,FlyBase から得た CDS 配列を元にして,Myo31DF のアミノ酸配列ファイルを作成する.同

様に,読み枠調整した突然変異体の DNA 配列ファイルからもアミノ酸配列ファイルを作成する.CDS

から得られたアミノ酸配列と,突然変異体のアミノ酸配列とを比較し,突然変異の入ったアミノ酸を同

定する.この実習書では,突然変異体についてのみ解析を行うが,実際は,野生型についても同様の解

析を行い,同定したアミノ酸レベルの突然変異が,野生型では生じていないことを確認する.

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(1) “Open Sequence” (下図)をクリックし,Myo31DF の CDS 配列ファイルを開く.

(2) “Nucleotide”の“Translate to AA” (下図)をクリックする.

(3) Translate to AA for Thesis の画面が現れる.“Add”をクリックし,配列全長を選択した状態にする(下

図①).“1-Frame”のラジオボタンを選択する(下図②).“Project Window”のラジオボタンを選択し(下

図③),“OK”をクリックする(下図④).

(4) Myo31DF CDS 由来のアミノ酸配列が表示される.“Ctrl+S”を押し,アミノ酸配列情報を保存する.

(5) 再度“Open Sequence”(下図)をクリックし,読み枠調整したシークエンスした Myo31DFL152 突然変異

体の配列ファイルを開く.

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(6) “Nucleotide”の“Translate to AA”をクリックする(下図).

(7) Translate to AA for Thesis の画面が現れる.“Add”をクリックし,配列全長を選択した状態にする(下

図①).“3-Frame”のラジオボタンを選択する(下図②).“Project Window”のラジオボタンを選択し(下

図③),“OK”をクリックする(下図④).

(8) 読み枠がずれた 3 つのアミノ酸配列が表示される(下図).“Ctrl+S”を押し,3 つのアミノ酸配列情報

をそれぞれ別名で保存する.

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(9) “File”の“Parallel Editor” (下図)をクリックする.

(10) 選択されているファイルを削除し(15 項(1)), Parallel Editor の“Add”(下図赤枠)をクリックして,(4)で

作成した CDS 由来のアミノ酸配列ファイルを選択する.同様に,“Add” (下図赤枠)をクリックし,

(8)で作成した 3 つのアミノ酸配列ファイルを選択する.

(11) 中段にある”Amino Acid” (下図①)のラジオボタンをクリックし, “Alignment”(下図赤枠②)をクリック

する.パラメータを変更せずに“OK”をクリックする.すると,CDS 由来のアミノ酸配列,および,

シークエンスした Myo31DFL152 突然変異体の配列を元に 3 つの読み枠を想定して作成したアミノ酸

配列を Multiple Alignment した結果が表示される.

(12) CDS 由来のアミノ酸配列をリファレンスとして,3 つの変異体のアミノ酸配列の Alignment 結果を

眺めると,3 つの配列のうち,ただ 1 つの配列だけが CDS 由来のアミノ酸配列と正しく Alignment

されていることがわかる(次項上左図).読み枠の異なる残り 2 つの配列は必要ないので,要らない

配列をクリックして選択し,“Remove Sequence”をクリックし,選択した配列を除く次項上右図).

もう一つの要らない配列に対しても,同様の操作をする.

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(13) “Create picture”(下図)をクリックする.

(14) Myo31DF の CDS 配列由来のアミノ酸配列と,シークエンスした Myo31DFL152 のアミノ酸配列を比

較する.Myo31DFL152 は,331 番目のグルタミン(Q)が,終止コドン(−)に変わったことがわかる(下図).

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実験Ⅱ 表現型の共通性を指標とした遺伝子解析

実験の背景と原理

順遺伝学(Forward genetics)

順遺伝学とは,“突然変異の導入→目的となる表現型の探索→表現型の責任遺伝子の同定”という流れで

構成される研究手法のことを指す.多くの場合,順遺伝学は,染色体のランダムな位置に突然変異を導

入し,多数の突然変異体を樹立することから始まる.ほとんどの突然変異体は,ホモ接合体でのみ表現

型を示すため,それぞれの系統の突然変異ヘテロ接合体ショウジョウバエどうしを交配し,次世代で得

られる突然変異ホモ接合体の表現型を観察する.例えば,Notch 情報伝達系の構成因子をコードする遺伝

子の突然変異ホモ接合体胚では,神経過形成の表現型を示すことが知られている.そのため,Notch 情報

伝達系の構成因子を探索する場合は,突然変異ホモ接合体胚が神経過形成の表現型を示す突然変異体の

探索を行う.表皮の形成に関連する因子を探索するならば,突然変異ホモ接合体の表皮が異常な形態を

示す突然変異体を探索する.このように,目的に応じて表現型を設定し,その表現型を示す突然変異体

を探索することで,その表現型に関与する遺伝子を網羅的に得られる.次に,その突然変異体の責任遺

伝子を決定する.責任遺伝子の候補を絞り込むときには様々な手法が用いられるが,最終的には,候補

遺伝子の発現によって,表現型が救済されるかを確認することで,責任遺伝子を同定する.

今回の実習では,この 3 つの流れの内の“目的となる表現型の探索”という部分に焦点をあて,実験を

行う.与えられた突然変異体について,神経の観察,核形態の観察,表皮形成の観察を行う.各系統の

示す表現型にもとづいて,“観察結果のまとめ”を作成し,各系統が示した表現型をグループ分けする.

抗β-galactosidase 抗体染色による突然変異ホモ接合体の判別

以下では,本実習で用いる wingless(wg)突然変異系統(以下,wg 突然変異体)を例にとり,実際に研究室で

用いられる系統の維持法および突然変異ホモ接合体の判別方法を説明する.

発生において重要な機能をもつ遺伝子の突然変異ホモ接合体は,多くの場合,胚性致死の表現型を示

す.Wg は,Wnt シグナル経路のリガンドとして働き,胚発生過程において重要な役割を果たす.そのた

め,wg 突然変異ホモ接合体は,胚期において劣性致死表現型を示す.これらの劣性致死突然変異系統を

研究室内で維持する場合,次世代を残すことができる突然変異ヘテロ接合体の状態で維持する必要があ

る.このとき,突然変異ヘテロ接合体の状態で維持されている wg 突然変異体の遺伝子型を wg / +と表記

する.“wg”は機能喪失型対立遺伝子とし,“+”は wg 遺伝子の野生型対立遺伝子を示す.

実験室においては,突然変異体解析の効率化のために,劣性致死対立遺伝子を持つ染色体と,“バラン

サー染色体”と呼ばれる特別な相同染色体とのヘテロ接合体の状態で維持している.詳しい説明は省略

するが,バランサー染色体は,(i)バランサー染色体とその対となる相同染色体との間の組換えを(見かけ

上)抑制する,(ii)バランサー染色体ホモ接合体は次世代を残すことができない,(iii)表現型の識別が容易

な優性突然変異を持つ,という特徴を持つ.p.22 に載っている wg 変異体を例にとると,バランサー染色

体を持つ wg 突然変異体の遺伝子型は wg / CyO, ftz-lacZ である.“CyO”とは,“Curly of Oster”と呼ばれる

バランサー染色体を意味し,“ftz-lacZ”とは,fushi tarazu エンハンサー下流に lacZ 遺伝子が挿入された遺

伝子を持つことを意味する.後述するが,lacZ は優性マーカーとして用いられている.

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wg / CyO, ftz-lacZ どうしが交配して生まれる次世代の遺伝子型は,①wg / wg,②wg / CyO, ftz-lacZ,③

CyO, ftz-lacZ / CyO, ftz-lacZ の 3 種類となる.①の遺伝子型の個体は,wg 突然変異ホモ接合体である.発

生の異常は wg ヘテロ接合体胚では観察されないので,Wg の機能を解析するときは,①の個体と野生型

の個体との間で表現型を比較する必要がある.②の遺伝子型の個体は,親の遺伝子型と同じであり,次

世代を残すことができる.③の遺伝子型は,上述した(ii)の特徴から,次世代を残すことができない.以

上から,バランサー染色体を用いることで,見かけ上つねに wg / CyO, ftz-lacZ の個体のみを維持できる.

解析したい①の個体は,“lacZ を持たない”という表現型で,②と③の個体から区別できる.

今回の実験Ⅱでは,野生型系統を除くすべての系統に,優性マーカーとして lacZ を持たせている.lacZ

は,β-galactosidase をコードする.今回の実験では,lacZ の有無を判別するために,抗β-galactosidase

抗体を用いた抗体染色を行う.抗β-galactosidase 抗体を用いた抗体染色を行っても染色されなかった胚

が,目的の突然変異ホモ接合体胚であり,効率的に変異体の表現型解析が可能となる.

実験Ⅱ−1: 蛍光抗体染色による神経形成異常および核形態異常の観察

抗体は,様々なタンパク質を特異的に認識できる.発生学の研究においても,任意の組織や細胞を観察

し,その発生機構を解析する上で無くてはならないツールとなっている.例えば,特定の細胞だけで発

現しているタンパク質を,抗体を用いて特異的に染色することで,突然変異体におけるその細胞の有無

や空間的配置の異常といった表現型を明確に判別できる.

実験 II-1 では,1 次抗体として,Elav タンパク質を特異的に認識する抗 Elav 抗体を用いる.elav 遺伝

子は,分化した神経系で特異的に発現する.抗 Elav 抗体を用いた染色によって神経細胞をラベルし,神

経の形成異常を示す突然変異体を探索する. また核形態を観察するために DNA に特異的に結合する蛍光

色素である 4′,6-Diamidine-2′-phenylindole(DAPI)を用いる. DAPI は DNA の副溝に結合し強い蛍光を示

す. DAPI を用いて, 核形態を観察することで, 核の形態異常を示す突然変異体を探索する.

実験Ⅱ−2: 表皮形成異常の観察

ショウジョウバエの表皮は,1 層の上皮細胞シートからなり,クチクラ(Cuticle)と呼ばれる体表を保護す

る物質によって守られている.幼虫期のクチクラには,短い毛状の突起が帯状に密集した構造があり,

これは歯状突起帯と呼ばれる.歯状突起帯は,胚発生の終わり頃に,胚の腹側に形成される.それぞれ

の帯を形成する歯状突起の向きと配置は,遺伝的に厳密に決まっており,その形成には,Hedgehog シグ

ナル,Wnt シグナル,EGF シグナル,Notch シグナル経路などが関与することが分かっている.これらの

シグナルは,表皮の形態を指標の一つとして研究されてきた.

胚の表皮を観察するには,胚を乳酸処理する.これにより,表皮のクチクラ構造は無傷のまま,胚の

内容物のみを分解することができ,クチクラ構造の観察や保存が容易になる.

実験Ⅱ−2 では,乳酸処理した胚のクチクラ形態を顕微鏡で観察し,表皮の形成異常を示す突然変異体

を探索する.

実験の目的

配布されたショウジョウバエについて,胚期の表現型を観察する.その観察結果をもとに,突然変異系

統を表現型ごとにグループ分けする.

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実験に用いるショウジョウバエ系統

野生型系統(CS; Canton-S の略), neuralized(neur)突然変異系統,Delta(Dl)突然変異系統,string(stg)突然変

異系統,pebble(pbl)突然変異系統,wingless(wg)突然変異系統,armadillo(arm)突然変異系統

廃液の分類

ヘプタン(Heptane),メタノール(Methanol, MtOH) … 有機廃液

パラホルムアルデヒド(PFA) in PBS … 固定廃液

その他 … 一般廃液

実験手順

実験Ⅱ−1: 蛍光抗体染色による神経形成異常および核形態異常の観察________

● 採卵の準備(TA が行う)

羽化後 25℃で飼育したショウジョウバエ成虫に,酵母ペーストを 2 日間食べさせる.その後,25℃の採

卵ケージ内で飼育する.

● コリオン膜の除去

7 系統のショウジョウバエ(CS(野生型), neur/TM6B, ftz-lacZ, Dl/TM6B, ftz-lacZ, stg/TM3, ftz-lacZ, pbl/ TM3,

Ubx-lacZ, wg/CyO, ftz-lacZ, arm/FM7c, ftz-lacZ)が配られる.以下の作業は,1 人あたり,1 つまたは 2 つの

系統について行う.

【注意】CS以外の 6系統は,遺伝子組換え体であるため,以下の作業を松野研究室内で行う.

(1) 採卵用寒天プレートをファルコンチューブから取り出す.胚は,寒天表面にあり,全長 0.5mm 程度

で白い.ポイフル型をしており,2 本の突起がある.

(2) 採卵用寒天プレートに PBT をかける.筆を用いて,胚をプラスチック皿内に洗い落とす.

(3) ナイロンメッシュを付けたプラスチック管を,空のプラスチック皿の中に置く.

(4) プラスチックケース内で PBT に懸濁した胚を,プラスチック管に注ぎ入れる.プラスチック管から

溢れさせないように注意する.プラスチック皿を PBT ですすぎ,プラスチック皿に張り付いた胚を

プラスチック管に移す.

(5) 50% ハイターを新しいプラスチック皿に入れ,胚の入ったプラスチック管を浸ける.

(6) プラスチック管を 4 分間 振盪する(コリオン膜が除去された胚は浮かび上がってくる).

(7) 洗ビンの PBT で,プラスチック管の底にある卵を,5 秒間 洗う.

(8) 採卵が終了したショウジョウバエの親を,TA にわたす.

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● 胚の固定

(1) 2mL チューブに,900μL の 8% パラホルムアルデヒド(PFA) in PBS を加える.

(2) (1)の 2mL チューブに,900μL のヘプタンを加える.

(3) 【● コリオン膜の除去(7)から続き】プラスチック管をペーパータオルに載せ,ナイロンメッシュや

キャップに付いた PBT を除く.

(4) 筆の水分を拭った後,(2)の 2mL チューブ上層のヘプタンに筆先を浸け,筆をヘプタンで湿らせる.

(5) ナイロンメッシュをプラスチック管からはずし,ヘプタンで湿らせた筆を用いて,胚を 8% PFA in

PBS とヘプタンが入った 2mL チューブに沈める(使用したプラスチック管とナイロンメッシュは捨

てない).PFA(下層)まで筆を挿し込むと胚が筆から離れないので注意する.

(6) 30 分間 室温で振盪する(水平方向に振盪する装置を使用する).

(7) 胚を吸わないように注意しながら,ヘプタン(上層)と PFA(下層)を除く.

【注意】ヘプタンは有機廃液に,PFA は固定廃液に捨てる.

● ビテリン膜の除去およびブロッキング

【注意】(1)と(2)の順番を守る.

(1) P1000 を用いて,900μL のヘプタンを,胚が入った 2mL チュー

ブに加える.

(2) P1000 を用いて,900μL のメタノールを,胚が入った 2mL チュ

ーブに加える.30 秒間 強く振る.

(3) 30 秒間 2mL チューブを静置し,上層(ヘプタン)と下層(メタノ

ール)が分離するのを待つ.チューブの底に約 2/3 の胚が沈む

(右図).この沈んだ胚は,ビテリン膜が除去されており,染色

に適している.P1000 を用いて,できる限りの液と沈んでいな

い胚を除く.

【注意】ヘプタンとメタノールは有機廃液に捨てる.

(4) P1000 を用いて,1.5mL のメタノールを加えて, 転倒混和する.P1000 を用いて,メタノールを除く.

【注意】メタノールは有機廃液に捨てる.

(5) P1000 を用いて,1mL の PBT を加える.室温で 5 分間 振盪する.

(6) P1000 を用いて,PBT を除く.

(7) (5)と(6)の作業を,さらに 2 回 繰り返す(合計 3 回).

(8) P1000 を用いて,1mL の 2% Block Ace を加え,室温で 30 分間 振盪する.

● 1 次抗体反応

(1) 以下に示した 1 次抗体反応液(マスターミックス)を調整する.

1 次抗体液

□ Rat anti-Elav antibody (IgG) 3 μL

□ Chicken anti-β-galactosidase antibody (IgG) 1.5 μL

□ 2% Block Ace 750 μL

Total 755 μL

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(2) P1000 を用いて,チューブから 2% Block Ace を除く.

(3) P200 を用いて,チューブに 100μL の 1 次抗体液を加える.

(4) 4℃で一晩 振盪する.

● 2 次抗体反応

(1) P200 を用いて,一晩 振盪させたチューブから 1 次抗体液を除く.

(2) P1000 を用いて,1mL の PBT を加える.室温で 5 分間 振盪する.

(3) P1000 を用いて,PBT を除く.

(4) (2)と(3)の作業を,さらに 2 回 繰り返す(合計 3 回).待ち時間に,以下に示した 2 次抗体反応液(マ

スターミックス)を調整する.

2 次抗体液

□ Cy3-conjugated anti-Rat antibody (IgG) 3 μL

□ Alexa488-conjugated anti-Chicken antibody (IgG) 3 μL

□ 2% Block Ace 1.5 mL

Total 1.5 mL

(5) P200 を用いて,チューブに 200μL の 2 次抗体液を加える.

(6) 遮光して室温で 1 時間 振盪する.

(7) P200 を用いて,チューブから 2 次抗体反応液を除く.

(8) 750μL の PBT に対して, 1.5μL の DAPI solution を加えて, DAPI 溶液を調整する.

(9) P200 を用いて, チューブに 100μL の DAPI 溶液を加える.

(10) 遮光して室温で 10 分間振盪する.

(11) P1000 を用いて,1mL の PBT を加える.室温で 5 分間 振盪する.

(12) P1000 を用いて,PBT を除く.

(13) (8)と(9)の作業を,さらに 2 回 繰り返す(合計 3 回).

(14) P1000 を用いて,胚を吸わないように PBT を除く.P1000 を用いて,500μL の 50% Glycerol in PBS

を加える.

● ショウジョウバエ胚の神経および核形態の観察

【注意】以下の操作は, 使用する顕微鏡によって異なる場合があるので, 教員, TAからの説明を受け, 観

察, 測定する.

(1) 22 x 22mm のカバーガラス 2 枚を,スライドガラスの両端にビニールテープで貼り付ける.

(2) 先端を切ったチップを装着した P200 を用いて,サンプルをスライドガラスへ適量(約 65μL)乗せ,22

x 32mm のカバーガラスをかぶせる(右図).

(3) x10 レンズに合わせ,顕微鏡,パソコンの電源を入れる.光路切り替えバーを押し入れ,接眼レン

ズ側に光路を切り替える.

(4) デスクトップから, 観察用のソフトウェアを開く.

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(5) “カメラ制御”をクリックする(下左図①).

(6) 緑色蛍光用フィルターが装着された状態で,適切な発生ステージ(p.30 参照)の突然変異ホモ接合体

胚(lacZ ネガティブ)を探す.不明な場合は,TA に訊く.

(7) 突然変異ホモ接合体胚を見つけたら,フィルターを赤色蛍光用に切り替える.焦点を合わせ,視野

中央で胚が観察できるようにステージを移動する.

(8) 光路切り替えバーを引き出し,カメラ側へ光路を切り替える.

(9) “ライブ”をクリックする(下左図②).

(10) 画面で蛍光強度を確認しながら,露光時間(下左図③)を調節する.

(11) “ライブ”をクリックし, 観察を静止させた状態で, “スナップ”(下左図④)をクリックする.

(12) 撮影した写真は,画面上部に新しいタブで表示される(下左図⑤).

(13) “ファイル(下左図⑥)” の“名前を付けて保存”をクリックし, 画像名を撮影者の名前+撮影者が撮っ

た枚数して, “実習”フォルダ内の,自分の班のフォルダに保存する(例: matsuno1.tif).

(14) 次に, フィルターを青色蛍光用に切り替える.

(15) 対物レンズを x20か x40に合わせて, 画面上部に表示されているタブの中から, 現在自分が使用して

いるレンズを選択する(下左図⑦).

(16) 核の形態が明瞭に観察されるように, 焦点, ステージを合わせる. 核の大きさを測りやすいように,

必要に応じて映像をズーム(下左図⑧)する.

(17) 光路切り替えバーを引き出し,カメラ側へ光路を切り替える.

(18) “ライブ”をクリックする(下左図②).

(19) 画面上部の“計測”(下右図①)タブを選択し, 続いて画面下部の計測ツールの中から“任意の直線”

(下右図②)を選択する.

(20) 測りたい核の長端をクリックして, 核の大きさを測定する.

(21) 各系統で3個の核を計測する. 測定結果は画面下部(下右図③)に一覧が表示されている. エクセル

のボタン(下右図④)をクリックすると, 測定結果を保存する保存することができるので必要に応じ

て使用する.

(22) “取り込み”(下右図⑤)を選択し, “ライブ”(下右図⑥)をクリックして静止状態にして,次の撮影者へ

交代する.

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実験Ⅱ−2: 表皮形成異常の観察____________________________________________

● 採卵の準備(TA が行う)

羽化後 25℃で飼育したショウジョウバエ成虫に,酵母ペーストを 2 日間食べさせる.その後,25℃の採

卵ケージ内で飼育する.

● コリオン膜の除去

7 系統のショウジョウバエ(CS(野生型), neur/TM6B, ftz-lacZ,Dl/TM6B, ftz-lacZ, stg/TM3, ftz-lacZ, pbl/ TM3,

Ubx-lacZ, wg/CyO, ftz-lacZ, arm/FM7c, ftz-lacZ)が配られる.以下の作業は,1 人あたり,1 つまたは 2 つの

系統について行う.

【注意】CS 以外の 6系統は,遺伝子組換え体であるため,以下の作業を松野研究室内で行う.

(1) 採卵用寒天プレートをファルコンチューブから取り出す.胚は,寒天表面にあり,全長 0.5mm 程度

で白い.ポイフル型をしており,2 本の突起がある.

(2) 採卵用寒天プレートに PBT をかける.筆を用いて,胚をプラスチック皿内に洗い落とす.

(3) ナイロンメッシュを付けたプラスチック管を,空のプラスチック皿の中に置く.

(4) プラスチックケース内で PBT に懸濁した胚を,プラスチック管に注ぎ入れる.プラスチック管から

溢れさせないように注意する.プラスチック皿を PBT ですすぎ,プラスチック皿に張り付いた胚を

プラスチック管に移す.

(5) 50% ハイターを新しいプラスチック皿に入れ,胚の入ったプラスチック管を浸ける.

(6) プラスチック管を 4 分間 振盪する(コリオン膜が除去された胚は浮かび上がってくる).

(7) 洗ビンの PBT で,プラスチック管の底にある卵を,5 秒間 洗う.

(8) 採卵が終了したショウジョウバエは,TA にわたす.

● ビテリン膜の除去

(1) P1000 を用いて,900μL のヘプタンと,900μL のメタノールを,2mL チューブに加える.

(2) 【● コリオン膜の除去(7)から続き】プラスチック管をペーパータオルに載せ,ナイロンメッシュや

キャップに付いた PBT を除く.

(3) 筆の水分を拭った後,2mL チューブ上層のヘプタンに筆先を浸け,筆をヘプタンで湿らせる.

(4) ナイロンメッシュをプラスチック管からはずし,ヘプタンで

湿らせた筆を用いて,胚をヘプタンとメタノールが入った

2mL チューブに沈める(使用したプラスチック管とナイロン

メッシュは捨てない).

(5) 30 秒間 強く振る.

(6) 30 秒間 2mL チューブを静置し,上層(ヘプタン)と下層(メタ

ノール)が分離するのを待つ.チューブの底に約 2/3 の胚が沈

む(右図).この沈んだ胚は,ビテリン膜が除去されており,

観察に適している.P1000 を用いて,できる限りの液と沈ん

でいない胚を除く.

【注意】ヘプタンとメタノールは有機廃液に捨てる.

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(7) P1000 を用いて,1mL のメタノールを加える.P1000 を用いて,メタノールを除く.

(8) (7)の作業を,さらに 2 回 繰り返す(合計 3 回).

(9) P1000 を用いて,1mL の mild PBT を加える.P1000 を用いて,mild PBT を除く.

(10) (9)の作業を,さらに 2 回 繰り返す(合計 3 回).

(11) P1000 を用いて,1mL の mild PBT を加える.

● 乳酸処理

(1) 先端を切断したチップを装着した P200 を用いて,胚を適量スライドグラス上に載せる.

(2) コヨリ状にしたキムワイプを用いて,スライドグラス上の mild PBT を吸い取る.

(3) P200 を用いて,50μL の 75% 乳酸液を胚に垂らし,その上からカバーガラスをかぶせる.この際,

胚が重なっていると,クチクラを観察しにくいので,イエローチップでつつき,胚をスライドグラ

ス上で散らばらせる.

(4) スライドグラスを 60℃インキュベーターに入れ,1 時間 静置する.

● ショウジョウバエ胚のクチクラの観察

【注意】以下の操作は, 使用する顕微鏡によって異なる場合があるので, 教員, TAからの説明を受け, 観

察, 測定する.

(1) x10 レンズに合わせ,顕微鏡,パソコンの電源を入れる.光路切り替えバーを押し入れ,接眼レン

ズ側に光路を切り替える.

(2) デスクトップから, 観察用のソフトウェアを開く.

(3) “カメラ制御”をクリックする(①).

(4) 透過光で観察し, クチクラをさがす.

(5) クチクラに焦点を合わせ,視野中央でクチクラが観察できるようにステージを移動する.

(6) 光路切り替えバーを引き出し,カメラ側へ光路を切り替える.

(7) “ライブ”をクリックする(②).

(8) 画面を見ながら,露光時間(③)を調節する.

(9) “ライブ”をクリックし, 観察を静止させた状態で, “スナップ”(④)をクリックする.

(10) 撮影した写真は,画面上部に新しいタブで表示される(①).

(11) “ファイル(②)” の“名前を付けて保存”をクリックし, 画像名を撮影者の名前+撮影者が撮った枚数

して, “実習”フォルダ内の,自分の班のフォルダに保存する(例: matsuno1.tif).

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レポートに関して

実験Ⅰと実験Ⅱの結果,およびその考察をレポートにする.

結果には,

□ 実験Ⅰ: 電気泳動像

□ 実験Ⅰ: シークエンス結果

□ 実験Ⅱ: 自分が担当した系統の神経染色像

□ 実験Ⅱ: 自分が担当した系統の核染色像

□ 実験Ⅱ: 自分が担当した系統のクチクラ像

□ 実験Ⅱ: 観察結果のまとめ

を載せる.

1 年間, 実習お疲れ様でした.研究室生活楽しんでください.

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参考資料

ショウジョウバエの胚発生の過程

Figure Source: “Atras of Drosophila Development”

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基本試薬組成

● LB 培地

10 mg/mL Bacto Triptone

5 mg/mL Yeast Extract

10 mg/mL 塩化ナトリウム

● Buffer A

0.1 M 塩化ナトリウム

0.1 M EDTA (pH 8.0)

0.1 M Tris-HCl (pH 7.5)

0.05 %(w/v) SDS

● Buffer B

1.43 M 酢酸カリウム

4.29 M 塩化リチウム

● Buffer PB

5 M 塩化グアニジニウム

30 % イソプロパノール

● Buffer PE

10 mM Tris-HCl (pH 7.5)

80 % エタノール

● PBS

130 mM 塩化ナトリウム

2.7 mM 塩化カリウム

8.1 mM リン酸水素二ナトリウム

1.5 mM リン酸二水素カリウム

● PBT

130 mM 塩化ナトリウム

2.7 mM 塩化カリウム

8.1 mM リン酸水素二ナトリウム

1.5 mM リン酸二水素カリウム

0.5 %(w/v) Triton X-100

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観察結果のまとめ

神経 核 表皮

系統 1

(野生型系統)

系統 2

系統 3

系統 4

系統 5

系統 6

系統 7