モジュール 2 疼痛管理...
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ELNEC-J クリティカルケアカリキュラム モジュール 2:疼痛管理 指導者用アウトライン
指導者用ガイド 2016 Page 1
モジュール 2: 疼痛管理
指導者用アウトライン
スライド 1 :表紙
スライド 2 :モジュールの概要
このモジュールでは、クリティカルケア領域においてエンド・オブ・ライフ
にある患者の疼痛アセスメントおよび管理について理解する。
このモジュールでは、疼痛アセスメントやマネジメントについて、日本版・
集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための
臨床ガイドライン(J-PAD ガイドライン)および日本緩和医療学会緩和医療
ガイドラインにも基づいて説明を進めていく。
スライド 3 :目標
このモジュールの目標は、4 つである。
スライド 4 :講義内容一覧<Ⅰ.クリティカルケア領域における疼痛とは>
このモジュールでは、まず初めに、疼痛について概説し、疼痛アセスメント
やマネジメントについて薬物療法を中心に説明を進めていく。
スライド 5 :疼痛の定義
国際疼痛学会は、痛みを、「実際に何らかの組織損傷が起こったとき、また
は組織損傷を起こす可能性があるとき、あるいはそのような損傷の際に表現
される、不快な感覚や不快な情動体験」と定義している。
(日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン作成委員会 , 2010)
この定義により、疼痛の特性を理解することが出来る。
つまり、痛みは神経系の変化のみならず、患者の疼痛体験や痛みの意味を反
映する。
McCaffery らは、痛みとは、“人が痛みを感じていると言えばどのような
ものであっても痛みであるし、経験していると言えばどのようなものでも
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経験しているのである”と表現する。
(Pasero C, McCaffery M.,2011)
つまり、疼痛は主観的ということである。
患者が自ら言わない限り、いつ疼痛を経験しているかに理解することが
できない。したがって、患者の自己申告は、最も有効な疼痛の評価であ
る。
疼痛は、多くの ICU 患者にとって、非常に一般的、且つ、とても苦痛な
症状である。
(Puntillo et al.,2009)
しかし、クリティカルケア領域の患者は、意識障害や鎮静、気管挿管およ
び人工呼吸管理などにより、多くの場合、疼痛を訴えることができないこ
ともある。
また、エンド・オブ・ライフにある多くの患者は、せん妄、認知症、失語
症、運動麻痺、言葉の障壁などの要因により疼痛を伝えられない可能性が
ある。
患者に不快が考えられる時には、疼痛がないと証明されるまで、疼痛を抱
えていることを考慮する。
(Pasero & McCafery.,2011)
Pain は、「痛み」あるいは「疼痛」と訳される。近年では、「痛み」
と用語を統一するように検討がなされているが、このモジュールでは、
薬物療法を中心とした疼痛管理を理解するため、「疼痛」に統一して説
明することとした。
(日本ペインクリニック学会用語委員会、2009)
スライド 6 :疼痛の神経学的分類と特徴
疼痛は大きく、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の 2 つに分類される。
侵害受容性疼痛
• 急性疼痛のほとんどは侵害受容性疼痛である。
• 侵害受容性疼痛は、体性痛と内臓痛がある。
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• 体性痛は、皮膚や骨、関節、筋肉、結合組織といった体性組織への、切る、
刺すなどの機械的刺激が原因で発生する痛みで、例としては、術後疼痛、
外傷性疼痛、熱傷痛、また、中心静脈カテーテル留置、気管挿管、吸引な
ども含む。
• 内臓痛は、食道、胃、小腸、大腸などの管腔臓器の炎症や閉塞、肝臓や腎
臓、膵臓などの炎症や腫瘍による圧迫に、臓器被膜の急激な進展が原因で
発生する痛み。例としては、肝臓、膵臓、脾臓を占めている腫瘍、腹水、
心疾患と心筋梗塞、急性腹痛と膵炎など。
• ICU ではこれらの疼痛を抱える患者が多くみられる。
神経障害性疼痛
• 末梢または中枢神経系の損傷により引き起こされる。多くの場合、疼痛は、
灼熱、ヒリヒリ、あるいは、性質的に「電気的」にと表現される。
• 糖尿病性神経障害、脊髄損傷による下肢神経障害疼痛、また、脳卒中後の
全般的な神経障害性苦痛(中枢神経系、通常、視床の脳卒中と関連した)
などが含まれる。
(日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン作成委員会 , 2010)
(公益社団法人 日本看護協会、2014)
http://www.nurse.or.jp/nursing/education/ganiryo/pdf/05-03.pdf
スライド 7 :疼痛の伝わり方
侵害受容性疼痛
• 外傷などにより組織損傷や炎症が生じると、プロスタグランジンやヒス
タミンなどの発痛物質が放出される。
• これらの化学物質は侵害受容器を活性化させ、脊髄後根に伝達される。
脊髄に到達すると神経伝達物質が放出され、それぞれの受容体を介して
脊髄後角の二次ニューロンを興奮させ、外側脊髄視床路と内側脊髄視床
路の 2 つに分かれて伝導される。
• 外側脊髄視床路は視床を経由して大脳皮質体性感覚野へ、内側脊髄視床
路は視床下部を通り大脳辺縁系へと伝えられて痛みを認識する。
神経障害性疼痛
• 末梢神経や中枢神経の直接的な損傷や障害によって生じる痛み。神経線
維が炎症や障害、切断などを受けると、電気伝導に変化が生じ、神経が
異常に興奮して痛みを起こす。
(公益社団法人 日本看護協会、2014)
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http://www.nurse.or.jp/nursing/education/ganiryo/pdf/05-03.pdf
スライド 8 :疼痛の分類(時間経過による分類)
疼痛は、臨床的に急性疼痛と慢性疼痛に分類される。
急性疼痛
• 急性疼痛は、明確に定義づけられたものはないが、組織の傷害によって
おこる痛みで、局所組織の障害により侵害受容器が興奮し、侵害入力が
発生しておこる。
• 原因となる病理がなくなると痛みも消失し、傷害、病気を知らせる防御
的働きをしている。
(長櫓、2014)
慢性疼痛
• 治療を要すると期待される時間の枠組みを越えて持続する痛み、あるい
は進行性の非がん性疾患に関連する痛み
(日本神経治療学会,2010)
【参考文献】
・小川節郎(2014)ペインクリニシャンのための新キーワード 135.東京.真興
交易(株)医書出版部.
スライド 9 :疼痛の現状
ICU の患者の 30%以上は、“安静時に著しい疼痛”があり、50%以上がポ
ジショニング、吸引、創傷ケアの後に著しい疼痛があると報告されているよ
うに ICU に入室している患者のほとんどが安静時でも疼痛を抱えている。
(AACN、2014)
さらに、死の 2 ヵ月前にがん患者の約 40%が痛みを体験し、死の 2 週間前
にがん患者の約 70%が痛みを体験する。
(恒藤, 1996)
しかし、他の致命的な疾患に関する疼痛の有訴率の研究がないのが現状であ
る。
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スライド 10 :クリティカルケア領域における疼痛の原因
クリティカルケア領域における疼痛の原因は様々ある
• 外傷による疼痛
• 術後痛
• 吸引、体位変換、中心静脈カテーテル挿入、胸腔ドレーン留置または抜去
創傷ドレーン抜去などのような介入
• 創傷あるいは熱傷などドレッシング交換時の疼痛
• 心疾患や心筋梗塞
• 急性の腹痛
• 気管挿管
• 膵炎 など
(Herr et all.,2011)
多くは急性疼痛であるが、元々存在する背部痛や腰痛などの慢性疼痛が加
わることも認識しておく必要がある。
クリティカルな状況にある患者の慢性疼痛については今後さらに研究が
必要であり、長期間持続する疼痛を訴える患者の場合、慢性疼痛の存在に
ついて検討することも必要である。
スライド 11 :慢性疼痛の原因
慢性疼痛は、神経障害性疼痛、侵害受容性疼痛、自発性慢性疼痛、心因性疼
痛に分類される。
神経障害性疼痛とは、神経の一時的損傷によって発生する痛みで、疼痛の伝
達・制御のメカニズム異常が原因となって起こる。末梢神経系では、幻視痛、
術後瘢痕症候群や、中枢神経系では、脳卒中後痛などがあげられる。
侵害受容性疼痛とは、長期間にわたり侵害刺激が加わることが原因となって、
持続性の疼痛が生まれる。リウマチ性関節痛や慢性腰背痛などが上げられる。
自発性慢性疼痛は、痛みの原因となる組織病変が存在しないが、疼痛が自覚
される
心因性疼痛では、心理社会的因子が原因となって疼痛が起こる。
(日本神経治療学会、2010 一部改変)
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スライド 12 :疼痛が十分に緩和されない要因
生命維持が優先されるクリティカルケア領域のすべての患者は疼痛緩和が
不十分であると考えられる。例えば、生命維持装置を装着している場合、鎮
静管理はされるが、十分疼痛管理されない患者がいることが懸念される。
多くの患者が処置を受けており、より長時間処置を受けているすべての患者
の疼痛と苦痛は予測されなければならない。
• 基本的疼痛は評価されるべきであり、処置のときに高い効果を得るように
鎮痛薬を投与した場合、最適な疼痛コントロールができる。
• この際、薬物療法とともに薬物療法以外の介入も組み合わせて使わなけれ
ばならない。
鎮痛薬に対する偏見をもつ高齢者
• 高齢者は、疼痛が加齢に伴うものであると考えている可能性があり、また、
高齢者へのコミュニケーション不足がバリアになることもある。
(Pasero & McCaffery,2011)
• 高齢者は、疼痛の症状が典型的でなく、錯乱や不穏として現われ、疼痛と
して評価されないこともある。より理解されず、未処置になることが懸念さ
れる。
• 高齢者は、骨関節炎、癌、糖尿病性神経障害、帯状疱疹、骨粗鬆症などに
より、一般的に慢性痛を経験しており、若い成人よりも緩和されることが
少ないと言われている。
• 高齢者に対する疼痛管理に関する知識不足やオピオイドを処方することへ
の懸念などにより、少なく投薬されることがある。
(American Geriatrics Society,2009)
認知障害あるいは意識障害
• 集中治療が長期に及ぶことによりみられる精神異常、興奮またはせん妄の
患者を評価することが重要である。このような患者の疼痛は対処されない
ことがある。
• 攻撃的になったり、ケアへの抵抗は、患者の疼痛による行動であることが
隠されている可能性がある。
疼痛を訴えない患者
疼痛を否定する患者などが存在する。
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スライド 13 :不十分な疼痛管理が患者に与える影響 1
不十分な鎮痛は、生理的ストレスを増大し、潜在的に免疫能を減弱、活動性
を低下、肺炎や血栓塞栓症のリスクを悪化、呼吸仕事量と心筋酸素需要量を
増加する。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会,2014)
慢性疼痛は、不安障害などの精神状態の悪化をもたらす
(McWilliams,2003)
スライド 14 :不十分な疼痛管理が患者に与える影響 2
疼痛は、身体的な苦痛をもたらすことはもちろん、精神的、社会的にも大き
な影響をおよぼし、患者の QOL を著しく低下させる。さらに、家族にも大
きな影響を及ぼすと考えられている。
クリティカルケア領域での鎮痛・鎮静管理における質の改善には、チームに
よるアプローチが効果的であると言われており、エンド・オブ・ライフにお
いても多職種でのチームアプローチによる疼痛管理が重要である。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会,2014)
【参考文献、資料】
・林章敏(2012)がん看護セレクション がん疼痛マネジメント.東京.学研メ
ディカル秀潤社.
・公益社団法人 日本看護協会(2014)看護師に対する緩和ケア教育テキスト第
3 章 苦痛緩和.
http://www.nurse.or.jp/nursing/education/ganiryo/pdf/05-03.pdf
・Jenny Strong(2010)痛み学 臨床のためのテキスト.熊沢孝朗監訳.愛知.
名古屋大学出版会.
スライド 15 :講義内容<Ⅱ.疼痛管理におけるバリア>
スライド 16 :疼痛管理におけるバリア
疼痛管理を行う上で、まずは、それを妨げる要因について考えていく。
「疼痛管理におけるバリア」とは、疼痛管理する上で障壁(妨げ)となるも
のを示す。
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疼痛管理のバリアは、医療のいたるところにある。
看護師は、適切な疼痛管理を妨げているバリアについて、知っておく必要が
ある。
具体的なバリアの説明として、医療スタッフ、医療システム、患者・家族に
関連するものが挙げられる。
• 医療スタッフの関連するバリアとして、疼痛管理の不十分な知識、不十分
な疼痛アセスメント、鎮痛薬の副作用に対する懸念などが挙げられる。
• 医療システムに関連するバリアとしては、疼痛管理の優先度の低さ、これ
により評価スケールの導入がされない、など。
• 患者家族に関連したバリア、疼痛の訴えを患者が嫌がるなどが挙げられる。
(Batiha, A.M.M.,2014)
(Pasero & McCafery,2011)
ICU に入室中のがん患者に対して、緩和ケアチームにコンサルトした結果、
患者がより疼痛コントロールができ、呼吸困難、不安、せん妄の程度が改善
した調査報告がされており、緩和ケアチームの介入を適切に行って疼痛管理
のバリアをなくすことが必要である。
(Delgado-Guay, M.O.2009)
参加者に、臨床において最も多い疼痛緩和の 3 つのバリアを考えるように投
げかける。
スライド 17 :講義内容<Ⅲ.疼痛アセスメント>
スライド 18 :疼痛アセスメント項目<疼痛の特徴>
個々の患者の疼痛緩和のために、疼痛のアセスメントを適切に行うことが重
要である。
疼痛アセスメントの項目はスライドに示した通り。
疼痛経過
• いつから疼痛が存在するか経過を知る。
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• 急性疼痛か、もともと慢性疼痛をもっているかも捉えることも必要である。
疼痛部位
• 多くの患者は、疼痛部位を複数抱えている。例えば、腹腔鏡手術後の患者
は腹部だけでなく肩の疼痛も訴える場合もある。
強さ
• 標準的なスケールを使用して疼痛を定量化することは重要である。
• 人工呼吸の有無にかかわらず患者が疼痛を申告できる場合は NRS や VAS
の使用が推奨される。
いずれのスコアも 3 を超えると患者に有意な疼痛が存在していることを示
している。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会,2014)
※補助教材 1 疼痛の評価
• NRS (Numeric Rating Scale:数値評価スケール)
• VAS (Visual Analogue Scale:視覚的評価スケール)
• 患者が数値で疼痛を概念化することができないとき、簡単なカテゴリーが
役立つことがある(例えば、疼痛なし、軽度、中等度、重度、疼痛)
性質
体性痛や内臓痛などの侵害受容性疼痛か、神経障害性疼痛か性質を知ること
でアセスメントにつながることもある。
パターン
疼痛は常に存在する持続痛と断続的に起こる突出痛がある。エンド・オブ・
ライフの患者は両方の疼痛を抱える場合がある。
現在行っている治療の反応
使用している鎮痛薬の種類、副作用の有無や程度などを確認する。
増悪因子と軽快因子
何が疼痛を緩和させて、何が悪化させているかを検討する。これらの要因か
ら、可能な治療のみならず、疼痛の原因も予測されるかもしれない。例えば、
マッサージで疼痛が良くなる場合は、神経障害よりも筋骨格系に原因がある
と言われている。
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また、慢性疼痛は心理的な側面から疼痛が増悪する場合があるため、うつ状
態の有無なども確認する。
投薬歴および薬剤耐性
患者がこれまでどのような薬剤を使用し、有効だったか、あるいは薬剤耐性
があったかなど認識しておくことは不可欠である。
(日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会 , 2014)
スライド 19 :疼痛アセスメント項目:フィジカルイグザミネーション
視診
• 疼痛を訴えることができない患者において、しかめ面、うめき声、いらい
ら感、抵抗するような動きなど疼痛を示唆する可能性がある非言語的な手
がかりを観察する。
• 生理学的な徴候として、頻脈、頻呼吸、平均血圧の上昇、発汗なども観察。
• 外傷、皮膚損傷などが存在する場合、その疼痛部位を観察する。
触診
• 触診では、圧痛部位を捉える
聴診および打診
• 聴診では、肺炎や腸閉塞症などを判断するために呼吸音または腸音を聴診
し、また、体液やガスが貯留したところを打診する。腸閉塞や腹水などの
腹痛を判断できる。
感覚または運動麻痺(反射神経の変化と同様に)を評価するために、ピンプ
リックテストなど、神経学的検査を行う場合もある。
このような場合は、デルマトーム分布を使用するとよい。
※補足教材 2 デルマトーム
フィジカルイグザミネーションによる情報は、疼痛の根本的な原因を確定す
ることに寄与し、可能な治療に至ることもある(例えば、便秘に対する緩下
剤や便軟化剤など)。
病歴は患者の病気の経緯をより理解するための基本的なものであり、慢性的
な状態から段階的あるいは急激な変化に直面したときにも積極的な治療に
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役立つ場合がある。
フィジカルイグザミネーションで判定できない場合は、治療目標によって付
加的な検査を検討する。
例えば、患者が腹痛を訴え、フィジカルイグザミネーションでは断定できな
い場合、レントゲンあるいは CT 所見によって、場合によっては穿刺で緩和
するような腹水や、腸閉塞による疼痛を見極める。
検査とその侵襲性にかかわらず、この検査結果によって治療方針をどのよう
に変更しなければならないか、医師とともに常に検討なければならない。
【参考文献】
・林章敏(2012)がん看護セレクション がん疼痛マネジメント.東京.学研メ
ディカル秀潤社.
スライド 20 :疼痛を訴えられない患者の疼痛評価スケール
表情、四肢の動き、人工呼吸器との同調性などから疼痛を評価するスケール
を活用する。
現在、クリティカルケア領域で使用されているツールはスライドに示した
BPS、CPOT で、これらは、J-PAD ガイドラインで推奨される。
いくつか他のスケールもあるが、現在までにこの 2 つのツールよりも信頼性
の高いものは示されていない。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会,2014)
• 施設でツールの妥当性を検討し、すべてのスタッフがツールを十分理解して
使用し、一貫性を図る。
定期的な鎮痛剤投与は疼痛の徴候を隠す可能性があり、注意を要する。
スライド 21 :Behavioral pain scale (BPS)
しかめ面などの表情、上肢の屈曲状態、人工呼吸器との同調性の 3 項目をそ
れぞれ 1~4 点にスコア化した疼痛評価スケール。
人工呼吸中で疼痛を自己申告できない患者に推奨されている。
(人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン、2007)
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会、2014)
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※補助教材 3 BPS: Behavioral pain scale (Payen JF, 2001)
スライド 22 :Critical-Care Pain Observation Tool (CPOT)
BPS と同様にクリティカルケア領域において、疼痛を自己申告できない患
者の疼痛評価スケール。
日本語版 CPOT については現在検証作業が進められており、ここでは、原
文を紹介する。
※補助教材 4 CPOT: Critical-care pain observation tool(Gelinas C , 2006)
スライド 23 :気管挿管・認知障害患者の疼痛アセスメント
気管挿管、認知障害患者の疼痛アセスメントは、可能な限り患者の訴えで評
価するが、せん妄患者や認知能力が低下している場合、意識障害、気管挿管、
鎮静薬や神経筋遮断薬を使用している場合は患者から訴えることは難しい。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会,2014)
(Herr,K.,2011)
会話が出来ない患者は疼痛部位を指せるようにボディチャートの使用を考
慮する。
(Puntillo, K.,2009)
※補助教材 5:会話が出来ない患者のためのボディチャート
意識障害患者では BPS が有効である。
(Young, J., 2006)
考えられる疼痛の原因を特定する。疼痛の一般的な原因は、採血、吸引、ド
レーンおよびカテーテル抜去、および創傷ケアなどの日常的なケアに含まれ
る。
しかめ面、動き、筋緊張などが疼痛を示唆する。薬剤により麻痺が生じてい
る患者はこれらのサインを表せないが、代わりに、急激に動く、発汗などの
サインがみられることもある。
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アセスメントと治療の傾向をみるためにバイタルサインと共に疼痛アセス
メント実施することも重要である。
鎮痛薬を投与してみて再評価する。
スライド 24 :再評価
クリティカルケア領域では、疼痛は常に評価されなければならない。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会,2014)
また、疼痛に変化が生じたり、疼痛管理を変更した場合にも疼痛の再評価は
重要である。
疼痛評価は、疼痛や鎮痛の効果の程度で評価のタイミングを決める。より急
激に進行する疾患では頻繁なアセスメントが求められる。
新しい鎮痛薬を試みたとき、どの程度に疼痛が緩和できたか表現出来れば、
作用が持続している根拠になる。
疼痛は可視化しなければならない。
アメリカ疼痛学会は、疼痛は“5 番目のバイタルサイン”として、体温、脈
拍、呼吸数など他の記録と同じ形で文書化することを推奨しており、疼痛の
再アセスメントと介入を文書化する。
クリティカルケア領域において、看護師が疼痛評価を文書化することは、
主観的な報告をするよりも重要である。これには、不十分な介入の再評
価や再アセスメントも含まれる。
(Gordon et al.,2005)
スライド 25 :講義内容<Ⅳ.薬物療法>
スライド 26 :疼痛管理の目標
クリティカルケア領域において、疼痛管理の目標が明示されたものはないた
め、以下の 2 つから検討する。
人工呼吸中の鎮静・鎮痛の目的として以下の 3 つが挙げられている
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1. 患者の快適性・安全の確保
2. 酸素消費量・基礎代謝量の減少
3. 換気の改善と圧外傷の減少
(人工呼吸中の鎮静ガイドライン作成委員会,2007)
がん性疼痛に対する痛みの治療の目標は大きく分けて 3 つある
1.痛みに妨げられない夜間の睡眠
2.安静時の痛みの消失
3.体動時の痛みの消失
(World Health Organization:WHO 世界保健機関、1996)
クリティカルケア領域においては、患者の認知機能が障害されていたり、意
識障害があることで、疼痛アセスメントが複雑化する。
したがって、フィジカルアセスメントで学んだように身体表現に着目し、ま
ず、疼痛の存在を疑うことが必要である。
ICU において、エンド・オブ・ライフにある患者への最適な疼痛管理は、
患者の疼痛体験をアセスメントすることが前提にある。
ICU で死にゆく患者が自分の疼痛を訴えることができるのはまれである。
そこで、患者からの訴えなしに出来るだけ正確に疼痛の評価を行うためには、
おそらく患者家族の助力を得ることになるだろう。
(Mularski RA.2009)
エンド・オブ・ライフにおいては上記目標と並行して、可能な限り患者家族
とともに具体的な目標に置き換えて設定していく。
※補足説明
・バイタルサイン(またはバイタルサインを含む観察的痛み評価スケール)
のみで成人 ICU 患者の痛みの評価を行わないように提案する(-2C)、
・痛みを評価するタイミングとしてバイタルサインを用いてもよいと提案で
きる(+2C)と J-PAD ガイドラインで述べられており、バイタルサインで
の痛み評価は困難であるとされている。ただ、痛みや苦痛でバイタルサイ
ンが変化しうるため、痛み評価を実行するきっかけになる、とまとめられ
ている。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会、2014)
スライド 27 :WHO 3 段階除痛ラダー
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がん性疼痛に対する治療の場合、鎮痛薬は、WHO 三段階除痛ラダーにした
がって選択する。
・ 軽度の疼痛には第一段階(Ⅰ)の NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)
やアセトアミノフェンを用いる。
・ 第二段階(Ⅱ)では、弱オピオイドを用いる。
・ 第二段階(Ⅱ)で疼痛緩和が不十分な場合は、中等度から高度の痛みに用
いる強オピオイドに変更する。
・強オピオイドには、モルヒネ、フェンタニルが該当する。
・NSAIDs やアセトアミノフェンは可能な限り併用し、必要により鎮痛補助
薬の使用を検討する。
クリティカルケア領域では、静注オピオイド、除痛ラダーでいうと強オピオ
イドを第一選択とすることが推奨されている。
また、静注オピオイドの必要量を減量もしくはなくすために、またオピオイ
ド関連の副作用を減少させるためにも非オピオイド性鎮痛薬の使用を考慮
することが推奨されている。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会、2014)
スライド 28 :投与経路
クリティカルケア領域では嚥下困難や消化管吸収能の低下を認めること
が多いため、静脈投与が最も一般的である。
皮下投与は、静脈内ボーラス投与(臨時投与)と比較し、効果発現がゆ
るやかで最大効果への到達も遅い。皮下注射は 1-3ml が理想的だが、
2-5ml/時まで増量することがある
髄腔内投与は手術後の鎮痛として適切である。ただし、単独で実施する
ことはない。
筋肉注射は、吸収量が変わりやすいため推奨しない。薬剤吸収が遅延す
る可能性、疼痛を生じる可能性がある。
スライド 29 :疼痛管理に使用する薬剤
疼痛管理に用いられる薬剤は大きく 4 つに分けられる。
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1.非オピオイド鎮痛薬
2.オピオイド鎮痛薬
3.関連する薬剤(鎮静薬など)
4.鎮痛補助薬
スライド 30 :1.非オピオイド性鎮痛薬
非ステロイド性消炎鎮痛薬 (Non-Steroidal Anti-Inflammatory
Drugs : NSAIDs)
• クリティカルケア領域に限らず、頻繁に使用されている抗炎症鎮痛薬で
ある。
(鈴木、2014)
• ステロイド構造以外の鎮痛作用、抗炎症作用、解熱作用を有する薬物の
総称である。特に、炎症を伴った痛みに対して有効である。
副作用には胃腸障害、腎機能障害、肝機能障害、血小板・心血管系障害な
どがある。 NSAIDs は COX(シクロオキシゲナーゼ)阻害により、プロ
スタグランジン産生を抑制し、これにより発痛物質であるブラジキニン
を抑制する。
(日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2010)
脱水、総アウト量が少ない、発熱、解熱目的、高齢者、人工呼吸管理中、
持続鎮痛・鎮静中の患者では、血圧低下に注意とされる。
(岩田 恵子 2003、吉川 佐栄子 1995)
アセトアミノフェン
• 抗炎症作用、COX 阻害作用はなく、作用機序は明確ではない。代謝産物
が中枢性に作用し、痛覚閾値を上昇させるとされている。
• 軽度から中等度の疼痛、中等度から重度の疼痛に対して投与されるオピ
オイドの補助薬として使用される。
• 最大鎮痛効果は 1 時間で出現する。鎮痛効果持続は 4-6 時間である。
• これまで、我が国では静注薬がなかったために、ICU にて使われる頻度が
低かったが、ようやく使用可能となった。即効性が期待できるが、急速に
血中濃度が上昇しないように 15 分かけて静注しなくてはならない。
(鈴木、2014)
スライド 31 :2.オピオイド
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ICU 患者の疼痛を治療するためには静注オピオイドが第一選択である。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会、2014)
オピオイドとは、脊髄後角などの中枢に存在するオピオイド受容体に作用
して、鎮痛効果を発揮する薬剤のことである。
(林, 2007)(鯉沼、2014)
内臓には痛覚線維の C 線維が多く、C 線維が主に含まれる脊髄伝達系に
はオピオイド受容体が多く含まれるため、オピオイドの鎮痛効果が高くな
る。
(梅田、2007b)
オピオイドは、麻薬性鎮痛薬と麻薬拮抗性鎮痛薬に分類される。
(日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2010)
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会、2014)
※補足説明
麻薬拮抗薬であるナロキソンなどもオピオイド受容体に結合するため、オ
ピオイドに含まれる。
スライド 32 :麻薬性鎮痛薬(静注)
本邦で使用できる麻薬性鎮痛薬で代表的なものを示した。クリティカルケ
ア領域では、多くが注射薬を用いると考え、注射薬を示した。
フェンタニル
• ICU で最も使用されている。脂溶性が高いため、比較的発現時間が早く、
持続時間も短く使用しやすい。
• 循環動態が不安定な患者にも用いやすい。
• 合成麻薬であり、モルヒネよりも長期投与に伴う耐性を生じやすい。
(大庭、2011)(鯉沼、2011)(鈴木、2014)(井上、2014)
モルヒネ
• 多くのオピオイド受容体(μ、κ、δ)に作用する。
(林、2010)
• モルヒネの代謝産物である M6G(モルヒネ-6-グルクロニド) や M3G
は、強い鎮痛効果を持つ。
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• フェンタニルと同様に耐性や離脱症状とともに、モルヒネ特有のヒスタ
ミン遊離作用による低血圧や気管支収縮に注意を要する。
(林、2010)(鈴木、2011)
スライド 33 :麻薬拮抗性鎮痛薬
薬剤の種類について表に示し、それぞれ代表的な薬剤を挙げた。
麻薬拮抗性鎮痛薬は、軽度から中程度の疼痛に用いる。オピオイド作動
薬が存在しない状況では作動薬として作用するが、オピオイド作動薬が
投与中であると、その作用に拮抗する作用をもつ。
オピオイド受容体に作用して痛みの閾値をあげることによって疼痛を緩
和する作用も持ち、それを部分作動という
部分作動薬とは 100%の受容体活性化を起こさない薬である。完全作動薬
と比べ、鎮痛作用はそれだけ弱いということになる。
また、天井効果(ある程度の量以上、投与量を増やしても鎮痛効果が頭
打ちになること)がある。
麻薬性拮抗性鎮痛薬は、まだ、十分なエビデンスが集まっていないため、
鎮痛の作用機序を理解したうえで使用を考慮してもよいとされる。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会、2014)
ブプレノルフィン
• ブプレノルフィンは μ オピオイド受容体に対して作動薬として作用する。
• モルヒネより 25~50 倍強い効力をもち、モルヒネと類似する作用を示す
が、大量投与しても鎮痛作用はモルヒネと同等にならず天井効果を示す。
(土井、2009)
トラマドール
• μオピオイド受容体に対する作用のほかに、セロトニン、ノルアドレナ
リン作動性ニューロンに対する作用をもつ。高容量では精神神経症状が
出現し得ることが注意点である。
• 心臓手術症例でモルヒネの使用量の減少や開胸手術後の硬膜外鎮痛で効
果が認められているとの報告がある。
(井上、2014)
ペンタゾシン
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• κ オピオイド受容体に対して作動薬として作用し、主に脊髄レベルで鎮
痛作用を発揮し、不快感や幻覚、せん妄を引き起こす。
• モルヒネなどμオピオイド受容体作動薬の効果を減弱し、 鎮痛の質が低
いため、クリティカルケア領域では推奨されない。
(土井、2009)
スライド 34 :臨時追加投与の方法
疼痛が増強した際には、臨時追加投与する。
原則的には定期投与している鎮痛薬と同じ種類の速放製剤(突出痛を抑え
る製剤)を選択する。
持続静注、持続皮下注では 1 時間量を投与し、15~30 分以上空けることが
推奨されている。
鎮痛薬の追加がほぼ等間隔で必要な場合は、オピオイドの定期投与量の増
量を検討する。
投与経路は、定期投与されているオピオイドと同じ経路を使用することを
原則としている。
臨時投与の評価は、15 分〜30 分後に効果判定する。
(緩和ケア普及のための地域プロジェクト、2008)
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
スライド 35 :疼痛のパターン
オピオイドの臨時追加投与を検討するため、ここで、疼痛パターンについて
解説する。
1 日の大半を占める持続痛と、一過性の疼痛の増悪である突出痛とに分けら
れる。
突出痛は、持続痛の有無や程度、鎮痛薬治療の有無にかかわらず発生する一
過性の疼痛の増強を示す。
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疼痛のパターンを知ることは治療方針の決定に役立つ。例えば、持続痛の場
合には鎮痛薬の増量、突出痛の場合には臨時投与を使うなど、そのパターン
によって治療方針が異なるからである。
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
※補助教材 6 疼痛のパターン
スライド 36 :臨時追加投与の実際
鎮痛薬の不足により、疼痛緩和できていない場合、疼痛の増強に合わせ臨
時投与する。
定時のオピオイドの使用で疼痛が残存する場合(薬の血中濃度が無効域の
場合) は、定時のオピオイドに加えて処方されている量を臨時追加投与
し、疼痛緩和に努め、継続的に評価する。
臨時追加投与の回数が多い場合、臨時追加投与の使用回数を評価して、定
時の鎮痛薬の投与量を増量し、薬の血中濃度が鎮痛適切域を維持できるよ
うにする。
定時のオピオイドの増量により、眠気が増強する(薬の血中濃度が毒性発
現域の場合)ことがあるため、副作用の程度を観察しながら、継続的に評価
していく。
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会, 2010)
スライド 37 :オピオイド投与時の留意点
オピオイドの使用により良く見られる副作用は、呼吸抑制や嘔気・嘔吐、
便秘などの消化器症状である。これらの副作用を理解し、予測しながら
副作用が回避できるよう予防を図ることが重要。
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
(鯉沼、2011)
呼吸抑制
人工呼吸中ではあまり問題にならないが、PSV(pressure support
ventilation:圧支持呼吸)、CPAP(continuous positive airway
pressure:持続的陽圧呼吸)など、自発呼吸モードでは呼吸数低下、一回
換気量低下に注意する
(人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン、2007)
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便秘
オピオイドの処方と同時に緩下剤も処方してもらい、継続的に投与する
ことが重要。
悪心・嘔吐
一旦出現すると継続投与が困難になることが多いため、状況に応じて制
吐剤の投与を検討する。
腎機能障害患者
• モルヒネを使用すると M3G および M6G など代謝産物が蓄積し、鎮静な
どの副作用への対処が困難になるため、腎機能障害患者にはモルヒネを
使用しないほうが望ましい。
• 使用する際は減量あるいは投与間隔を延長する。特に、高度な腎機能障
害を有する患者では、モルヒネを使用すべきではない。
• フェンタニルは蓄積しないため、非透析物質であるが投与可能である。
血中濃度が上昇するため減量して使用する。長期間に及ぶ際は効果およ
び副作用を注意深く観察する必要がある。
肝機能障害患者
モルヒネ、フェンタニルはほとんど肝臓で代謝されるため、肝障害時に
は代謝能が減少する。したがって、肝機能障害時には投与量の減量ある
いは投与間隔を延長して、薬物の蓄積を防止する必要がある。
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
スライド 38 :オピオイド使用時の注意点
オピオイドを使用する際に注意していくべきことが耐性、精神依存、身
体依存の 3 つである。
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
スライド 39 :3.鎮静薬およびその他の薬剤
人工呼吸器装着中の患者では、様々な鎮静薬が投与されている。鎮静の
前に鎮痛ありきであり、疼痛管理の見直しにより鎮静薬を減らすことが
可能かもしれない。ここでは、相互作用の点から鎮痛薬およびその他の
薬剤を挙げた。
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デクスメデトミジン
• 選択性の高い α2 アドレナリン受容体作動薬で、鎮静・鎮痛作用、交感
神経抑制作用を有する。
• 単独の鎮痛作用は強くないが、他の鎮痛薬と併用する場合は、相互作用
により鎮痛薬の必要量を低減できる(オピオイド節減効果)。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会、2014)
プロポフォール
• 静脈内投与の鎮静薬で、神経伝達を抑制する。鎮静、催眠、抗不安、健忘、
制吐、抗けいれん作用をもつ。
• 鎮痛作用はない。
• 用量依存的に呼吸抑制や低血圧を引き起こす。この作用は他の鎮痛・鎮静
薬を併用する時に強く生じる。
• 頭部外傷などの重症患者に長期、大量投与すると、まれに、プロポフォー
ルインフュージョン症候群(propofol infusion syndrome:PRIS)と呼ば
れる重篤な状態に陥ることがある。
• 心不全、不整脈、横紋筋融解、代謝性アシドーシス、高トリグリセリド血
症、腎不全、高カリウム血症、カテコラミン抵抗性の低血圧を示す。
• 18 歳未満では特に死亡率が高く、小児の集中治療における人工呼吸中の
鎮静には原則禁忌である。症状が疑われたら直ちにプロポフォールを中止
することがきわめて重要である。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会、2014)
(日本麻酔科学会、2012)
(日本集中治療医学会、2014)
http://www.jsicm.org/pdf/propofol01.pdf
ベンゾジアゼピン(ドルミカム)
• ベンゾジアゼピン受容体に働き、鎮静、催眠、抗痙攣、抗不安、健忘の
各作用を有する。
• 鎮痛作用はない。
• 副作用として、呼吸抑制や低血圧を誘発する可能性があり、特に麻薬性
鎮痛薬との併用投与では、中枢神経作用が増強されるため、呼吸抑制を
誘発する傾向が強くなる。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会、2014)
ケタミン
• 鎮静ならびに鎮痛作用を併せもつ。
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• 大脳辺縁系には作用せず、大脳皮質を抑制するために、解離性麻薬とも
よばれている。NMDA 受容体(侵害情報伝達に重要な役割をもつ)拮抗
薬である。
• 呼吸抑制が少なく強い鎮痛作用をもつため、挿管患者の疼痛、熱傷患者
のドレッシング交換等処置時の鎮痛薬に適している。
• ノルアドレナリンニューロンを刺激し、カテコラミンの取り込みを阻害
することによって心筋収縮力を増強させ、血管を収縮させることで血圧
は上昇し、心筋の酸素需要は増加する。脳圧は上昇するため脳圧上昇患
者に対する投与は禁忌となる。気管支平滑筋を弛緩させる。
• これらの副作用により鎮静薬としての使用が制限されるが、少量のケタ
ミンは、オピオイドの必要量を減少させる。
(日本麻酔科学会、2012)(鈴木、2014)
スライド 40 :4.鎮痛補助薬
鎮痛補助薬とは、鎮痛薬と併用することにより鎮痛効果を高め、特定の状
況下で鎮痛効果を示す薬剤を指す。
クリティカルケア領域での鎮痛補助薬投与については人工呼吸器管理中
の患者の神経障害性疼痛に対し、オピオイドに加えて抗けいれん薬(ガ
バペンチン)やプレガバリン(リリカ○R )を投与することの有効性につい
ての報告が紹介されている。ただし、本邦において一般的に実施されて
いない。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会、2014)
神経障害性疼痛が生じている場合、副作用コントロール困難でオピオイ
ドを増量できない場合などは、緩和ケアチーム、薬剤師などの専門家へ
相談することが望ましい。
※補助教材 7 慢性疼痛の内科的治療に使用される薬剤一覧
スライド 41 :講義内容<Ⅴ.薬物療法以外の介入>
スライド 42 :薬物療法以外の介入
薬物療法以外の介入は、クリティカルケア領域ではあまり活用されておらず、
その効果を検証した研究も少ない。しかしながら、急性疾患患者もこれらの
方法を加えることで利益を得る可能性があると文献的には示されている。
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(Berenson,2007、Erstad ら,2009、
Kravits&Berenson,2010、Pasero&McCaffery,2011)
不必要な処置・検査を行わない
エンド・オブ・ライフにある患者の疼痛や苦痛を助長する可能性があるだけ
でなく、尊厳を傷つけることにもなり得る。患者家族と十分話し合い、患者
家族の意思を尊重して不要な検査・処置を差し控えていくことが疼痛・苦痛
の緩和には必要である。
(AACN、2006)
クリティカルケア領域における環境の調整も検討する。周囲の音(騒音)の
コントロールや心地よい音楽は処置の間、疼痛レベルの緩和を助ける。
(Cole&LoBiondo-Wood,2012)
患者の状態や希望に応じて、好きな音楽をかけていくことも良い。
明りや色調の調整も疼痛の閾値を高めることに有効である。
自律訓練法や呼吸法などの様々な訓練・鍛錬法、気分転換なども疼痛緩和に
有効。
深呼吸法は、オピオイドなどの薬物療法と併用することで処置時の疼痛緩和
に有効になるという研究もあり、体位変換時の疼痛緩和にも多く用いられて
いる。
(Friesner SA, et al,2006)(Faigeles B,et al,2010)
スライド 43 :講義内容<疼痛管理における看護師の役割>
スライド 44 :クリティカルケア看護における疼痛管理の課題 1
アメリカ看護師協会は、エンド・オブ・ライフにある患者に対して専門的な
ケアを提供する看護師の役割と責務ついて、
「看護師は、個々でも、また、チームにおいても、患者の生命維持のための
積極的な治療を断念する際に意思決定する家族や代理人に対して、快適性
や疼痛緩和、支援を含む包括的で特別に配慮したエンド・オブ・ライフケ
アを提供する」と表明しており、疼痛管理は重要な要素となっている。
(ANA,2010)
http://www.nursingworld.org/MainMenuCategories/EthicsStandards/
Ethics-Position-Statements
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指導者用ガイド 2016 Page 25
スライド 45 :クリティカルケア看護における疼痛管理の課題 2
クリティカルケア看護師は、患者家族の疼痛管理において、適切なアセスメ
ントを行い、積極的に緩和を図るための重要な役割を担わなければならない。
この役割を全うすることで、患者家族の権利を擁護し、教育的な関わりが可
能となる。同時に、協働する看護師を教育していくことで疼痛管理の効果を
高め、そして、専門性の発展につながる。
さらに、疼痛管理の質の改善に向けた戦略として、根拠に基づいた方法を検
討し、また未知の領域における研究を発展させていくことが挙げられる。こ
れらの課題を解決していくことがクリティカルケア看護師に求められ、専心
し続けていくべき事柄であると言える。
スライド 46 :講義内容<Ⅶ.結論>
スライド 47 :結論
疼痛は、生体のストレスを増大させるだけでなく、患者の QOL を低下させ
る。
疼痛のメカニズムを理解し、アセスメントを継続的に行うことが重要である。
多職種と連携をはかり、適切な薬物療法とアセスメントを提供する。
クリティカルケア看護師は、疼痛管理に関して、患者家族および看護師を教
育し、さらに研究を発展させ、専門性を高めていく必要がある。
スライド 48 :補足スライド
これ以降のスライドは、必要に応じて使用して下さい。
スライド 49 :疼痛の程度
NRS (Numeric Rating Scale:数値評価スケール)
• NRS は、現在の疼痛が 0 から 10 の 11 段階のどの程度かを患者自身により
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口頭ないし目盛が入った線上に記入してもらう方法。
• 疼痛が全くないのを 0、考えられるなかで最悪の痛みを 10 として、痛みの
点数を問うものである。
VAS(Visual Analogue Scale:視覚的評価スケール)
• VAS は、一端が「全く痛まない」、他端が「これ以上ない痛み、もしくは想
像し得る最大の痛み」を配した 10cm のスケールに、現在の痛みがどこに相
当するかを患者に記してもらう方法。
• ただし、「想像し得る最大の痛み」の決定があいまいになりやすく、緊急入
室患者などでは十分に理解されない場合もあるので注意が必要。
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会、2014)
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
スライド 50 :疼痛の性質
疼痛の性質は、痛みの神経学的分類を判断するうえで参考となる
• 体性痛:「うずくような」
• 内臓痛:「押されるような」
• 神経障害性疼痛:「灼けるような」、「ビーンと走るような」
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
疼痛の神経学的な分類がわかることで、それに応じた治療ができる。
スライド 51 :デルマトーム
脊髄後根に含まれる知覚神経によって支配される皮膚の領域
疼痛の原因部位に隣接する、あるいは離れた部位に発生する関連痛を理解す
るために役立つ。
※ 補足説明
内臓が侵害刺激を入力する脊髄レベルに侵害刺激を入力する皮膚の感覚異
常や疼痛、筋肉の収縮や疼痛が起こることが原因である。
(日本緩和医療学会、2014)
スライド 52 :ボディチャート
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会話ができない患者が疼痛部位を指すために活用する。
(Puntillo, K.,2009)
ボディチャートは、身体所見、画像所見、検査所見と合わせて疼痛の原因と
なる病変を確認するために活用できる。
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
スライド 53 :麻薬性鎮痛薬の種類(経口、坐薬、経皮薬)
わが国で使用できる静脈注射以外の麻薬性鎮痛薬の種類を表に示し、それぞ
れ代表的な薬剤を挙げた。
薬剤の多くががん性疼痛の適応であるが、疼痛管理中にクリティカルケアの
対象となることがあり、注射薬へ移行することもあるため、一覧とした。
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
(日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会、2014)
経口投与
• 侵襲がなく、簡便で経済的であり、がん性疼痛では基本の投与経路とされ
る。
• 内服した薬剤は腸管から吸収される際、腸管の酵素によってある程度代謝
され、さらに肝臓での初回通過効果(肝初回通過効果)を受ける。そのた
めに他の経路と比較すると投与量は多く必要である。
• 口内炎、嚥下障害、消化管閉塞、嘔気・嘔吐、せん妄などで投与継続が困
難な場合は他の投与経路に変更する。
※肝初回通過効果とは
経口投与した薬物は小腸で吸収され、肝臓を経て全身を循環するが、こ
のとき肝臓に存在する多くの酵素によって薬物が代謝されること。内用
剤は肝初回通過効果が大きい。
直腸内投与
• 投与は比較的簡便で、吸収も速やかであるが、投与に不快感を伴うため、
長期的な使用は適さないことがある。
• 直腸炎、下痢、肛門・直腸に創部が存在する場合、重度の血小板減少・白
血球減少時は投与を避ける。
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• 人工肛門を造設している患者の場合、人工肛門からの投与は、その生体内
利用率にばらつきがあると報告されており、長期的な使用は推奨されない。
• 静脈叢が乏しいため吸収が悪く不安定で、薬剤が便と混じりやすく、排出
の調節も困難なことなどが理由と考えられている。
経皮投与
• 72 時間作用が持続するフェンタニル貼付剤が使用されている。効果の発現
は貼付開始後 12~14 時間後であり、貼付中止後(剥離後)16~24 時間は
鎮痛効果が持続するので、投与開始時間や中止時間に注意する。
• 迅速な投与量の変更が難しいため、原則として疼痛コントロールの安定し
ている場合に使用する。突出痛に対しては他の投与経路でのオピオイド投
与が必要となる。
• 貼付部位の皮膚の状態が悪い場合、発汗が多い場合は、吸収が安定しない
ため投与を避ける。また、貼付部位の温度上昇でフェンタニルの放出が増
すため、発熱している患者や貼付部位の加温に注意する。
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
※補助教材 8 麻薬性鎮痛薬の種類(経口、坐薬、経皮薬)一覧
スライド 54 :オピオイド力価表
頻繁に投与されるオピオイドの力価変換を示す。
オピオイドの力価換算比に関しては多くの報告がなされており、その数値に
はばらつきがある。
多くの報告は痛みの安定している患者での対モルヒネでの単回投与の結果
に基づいた換算となっている。
実際の診療では、痛みの不安定な患者での変更が多く、換算表のみに頼った
変更はするべきではない。
換算表を目安に決定した変更後の投与量から、個々の患者の痛み、副作用を
観察したうえできめ細かい調節をすることが必要である。
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
※補助教材 9 等力価換算表の例
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スライド 55 : オピオイドの耐性と離脱症状(症候群)
耐性
• 初期に投与されていた薬物の用量で得られていた薬理学的効果が時間経
過とともに減退し、同じ効果を得るためにより多くの用量が必要になる、
身体の薬物に対する生理的順応状態である。
• オピオイドスイッチングの実施により鎮痛効果が適切に発揮されることが
ある。
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
離脱症候群
• 薬物の突然の中止や、急速な投与量の減少、大量のオピオイドを別のオピ
オイドに切り替えた場合などに生じ、これによりある薬物の身体依存が明確
になる。
オピオイドの場合、離脱症状として下痢、鼻漏、発汗、身震いをふくむ自
律神経症状と、中枢神経症状が起こる。
離脱症状は、薬の急な中断を回避することや、投与量を減量する際に鋭角的
に漸減していくことで予防できる。また、もとに使用していたオピオイドを
少量投与することでも改善する。
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
(人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン、2007)(今中、2009)
スライド 56 : オピオイドスイッチング
オピオイドスイッチングとは疼痛緩和や薬物耐性の改善に向けてオピオ
イドを別のオピオイドへ変更することである。
クリティカルケア領域では使い慣れない用語ではあるが、オピオイドを
使用する上で基本的な知識であり、知っておく必要がある。
オピオイドの投与量を適切に漸増(タイトレーション)した後にも効
果が見られないとき、あるいは副作用が生じたときには、別のオピオイ
ドを用いる。例えば、モルヒネの効果が薄い場合には、フェンタニルに
切り替える。
オピオイドスイッチングを行った後には、疼痛の変化や眠気、嘔気・嘔
吐などの副作用の増減を観察していくことが重要である。
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例えば、モルヒネからフェンタニルへのオピオイドスイッチングでは腸
蠕動の亢進が起こることが多いため、緩下薬の減量などが必要になるこ
ともある。
(日本緩和医療学会 緩和ケアガイドライン作成委員会、2010)
スライド 57:薬物療法以外の介入 2
理学的方法
• 疼痛が増強しない体位やポジショニングを調整する。
• 疼痛の状況に応じて、温めたり冷やすこと、疼痛部位やその周囲をマッサー
ジすることや温浴は疼痛緩和に有用な方法である。これらは、皮膚や皮下組
織の血流を促進し、障害部位の炎症や浮腫を抑え、筋緊張を緩和する効果が
ある。
(Mobily,1994)
入浴・温浴などにおけるアロマセラピー、またはローション、スプレーミス
トも有効な場合もある。
(Berenson, 2007)(Kravits & Berenson, 2010)
これらの方法は、鎮痛治療の有益な補助療法として実施可能であり、処置に
ともなう疼痛に対し役立つ。また、これらの方法は、短時間作用型オピオイ
ドの臨時投与後でも用いることができる。
オピオイドの効果が現われるまでに時間を要することがあるが、薬物療法以
外の技法は、この間の疼痛を減少させることに役立つ。
(Berenson,2007)(Kravits&Berenson,2010)
スライド 58 :ケーススタディ
事例紹介
• 70 代の男性
• 大腸癌(多発性)肝転移
• 糖尿病の既往あり
• 家族は妻と息子がおり同居
• 大腸癌に対して部分切除のみ実施、術後、敗血症となり ICU に入室
• 腫瘍切除術後 3 日目、敗血症にて ICU に入室
• 患者に予後についての話はしていない。
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• 医療チームは未だ治療目標を決定しておらず、緩和ケアチームの介入につい
ても未定である。
スライド 59 :ケーススタディ
患者の疼痛についていくつかの問題がある。
• 術後 24 時間 は、硬膜外 PCA(Patient Controlled Analgesia:自己調節
鎮痛法)によりフェンタニルが投与され、十分に管理されていた。
• 現在は、医師より疼痛時にソセゴンとロピオンの投与指示があるが、看護師
から疼痛の有無を聞かれないと訴えない。
• 看護師が尋ねると、切開部の疼痛を NRS(11 段階の数値評価スケール)で 8
程度であると訴える。
• 妻は、患者に麻薬を使用してもよいのか迷っている。
受講者と 4-5 分のディスカッションをする。
• この事例における疼痛に関するバリアは何か?
→ 現時点でバリアになっているのが、患者家族のバリアである。
患者は、何らかの理由で疼痛を我慢する傾向であり、また、妻も薬剤の使
用に躊躇している様子が伺える。
また、緩和ケアチームによる介入が検討されておらず、医療システムのバ
リアも存在すると考える。
以上