fugl-meyer 評価法による“脳血管障害の 研究と報告 総合的身体機 …

6
研究 と報 告 Fugl-Meyer 評価法による “脳血管障 害の 総 合 的 身 体 機 能 評 価 ”に 関 す る検 討 赤星 和人* ** 花 耕 三 ** ** 道 ** 森 英 二* 男 ** 千 直 一 ** ▲Key words: 脳卒中, 評価 旨 Fugl-Meyer 評 価法による“脳血管障害の総合的 身体機能評価”に関する検 討 赤星 和人 才藤 栄 一 花山耕三 近藤 道免和久 英二 本村 彰男 千野直一 脳血管障害患者の機能障害の評価 を行 うにあた り, 運動機 能 評価 のみ では その患 者 の抱 える問題 点 を明 らか にで きない症例 に しば しば遭遇 す る こ とか ら, 総合 的身 体 機能 評価法 であ る Fugl-Meyer 評価法 を用い, その意義 を検 討 した. Fugl-Meye 評 価法 は総合 的 身体機 能評 価 法 として患 者 の機 能障 害 を多面 的 に とらえ, 臨床 上 の 問題点 を浮 き彫 りにす る こ とが可能 で あ った. また それは合計 得点 もさる こ となが ら, その得 点パ ター ンに よ く反映 され てい た. Fugl-Meyer 評 価法 は採 点方 法が簡 便 で あ るた め検 者 間の再 現 性が高 く, また Brunnstrom stage や Barthel も高 い相 関 を示 してお り, 身体機能 評価 法 として も十 分を妥 当性 を有 して い る と思 われ た. リハ医学29: 131-136, 1992 は じめ に 脳 血 管 障 害 に よ る 身 体 機 能 障 害 の評 価 と し て わ が 国 で は そ の 運 動 機 能 評 価 法 で あ る Brunnstrom 法1)お よ び, そ の変 法10)が広 く用 い ら れ て い る. し か し, 日 常 臨 床において運動機能のみではその問題点の特性を表現 で き な い ケ ー ス を経 験 す る こ とが し ば し ば あ り, 総 合 的 身 体 機能 評 価 法 の 必 要 性 を痛 感 させ られ る. そ こ で 今回われわれは総合的身体機能評価法の一つである Fugl-Meyer 評 価 法4,5)を用 い て 脳 血 管 障 害 患 者 の 身 体 機 能 評 価 を 行 い, Brunnstrom 法 との比 較, さ らに Barthel index との 関 係 を調 べ た. そ の 結 果, 興 味 あ る知 見 が 得 ら れ た の で 若 干 の 考 察 と あ わ せ て 報 告 す る. 対象お よび評価方法 1 対象 は慶応 大学病 院 お よび小 田原 市立 病院 入院 中, もし くは外来 通 院 中の慢 性期 脳血 管 障 害 患者40名 した. いず れ も発 症後3カ 月以上 を経過 し, ADLレ ルが上 限 に達 した と思われ る患者 で あ った. 性別 は男 性30名, 女 性10名 で年齢 は33~86歳(平 均 年齢6 歳)で あ った. 右 片麻痺18名, 左片麻 痺22名 で, 疾患 は脳梗塞24名, 脳 出血12名, くも膜下出血4名 とな って いた, 1991年9月2日 受理 *小田原 市 立病 院 理 学診 療 科/〒250小 田原 市 久野46 **慶應義塾大学医学部 リハ ビ リテーシ ョン科/〒160新 宿 区信 濃 町35 リハ ビリテー ション医学 VOL. 29 NO. 2 1992年2月 131

Upload: others

Post on 16-Oct-2021

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: Fugl-Meyer 評価法による“脳血管障害の 研究と報告 総合的身体機 …

研究 と報告

Fugl-Meyer 評価法による “脳血管障害の

総合的身体機能評価”に 関する検討

赤 星 和 人 * 才 藤 栄 一 ** 花 山 耕 三 **

近 藤 健 ** 道 免 和 久 ** 森 英 二*

木 村 彰 男** 千 野 直 一 **

▲Key words: 脳卒中, 評価

要 旨 Fugl-Meyer 評 価法による“脳血管障害の総合的身体機能評価”に関する検 討

赤星 和人 才藤 栄 一 花 山 耕 三 近藤 健 道 免 和 久 森 英 二 本村 彰男 千野 直 一

脳血管障害患者の機能障害の評価を行うにあたり, 運動機能評価のみではその患

者の抱える問題点を明らかにできない症例にしばしば遭遇することから, 総合的身

体機能評価法である Fugl-Meyer 評価法を用い, その意義を検討した. Fugl-Meyer

評価法は総合的身体機能評価法として患者の機能障害を多面的にとらえ, 臨床上の

問題点を浮き彫 りにすることが可能であった. またそれは合計得点もさることなが

ら, その得点パターンによく反映されていた. Fugl-Meyer 評価法は採点方法が簡

便であるため検者間の再現性が高 く, また Brunnstrom stage や Barthel index とも高い相関を示しており, 身体機能評価法としても十分を妥当性を有していると思

われた.

リハ医 学29: 131-136, 1992

はじめに

脳 血管 障 害 に よる身体機 能障 害 の評 価 としてわ が国

で は その運動 機能 評価 法 で ある Brunnstrom 法1)お よ

び, そ の変 法10)が広 く用 い られて い る. しか し, 日常臨

床 に おい て運動機 能 の みで はその 問題点 の特 性 を表現

で きない ケー ス を経験 す る ことが しば しばあ り, 総合

的 身体 機能 評価 法 の必要 性 を痛 感 させ られ る. そ こで

今 回わ れ わ れ は総 合 的 身体 機 能 評 価 法 の一 つ で あ る

Fugl-Meyer 評 価 法4,5)を用 いて脳 血管 障害 患者 の身体

機 能 評価 を行 い, Brunnstrom 法 との比 較, さ らに

Barthel index との関係 を調 べ た. その結 果, 興 味 あ

る知 見 が 得 られ た の で若 干 の 考察 とあわ せ て報 告 す

る.

対象および評価方法

1 対 象

対象は慶応大学病院および小田原市立病院入院中,

もしくは外来通院中の慢性期脳血管障害患者40名 と

した. いずれも発症後3カ 月以上を経過し, ADLレ ベ

ルが上限に達したと思われる患者であった. 性別は男

性30名, 女性10名 で年齢は33~86歳(平 均年齢61. 7

歳)で あった. 右片麻痺18名, 左片麻痺22名 で, 原

疾患は脳梗塞24名, 脳出血12名, くも膜下出血4名

となっていた,

1991年9月2日 受理*小田原市立病院理学診療科/〒250小 田原市久野46

**慶應義塾大学医学部 リハ ビ リテーシ ョン科/〒160新 宿 区信濃町35

リハ ビリテー ション医学 VOL. 29 NO. 2 1992年2月 131

Page 2: Fugl-Meyer 評価法による“脳血管障害の 研究と報告 総合的身体機 …

2 評 価 方 法

1. Fugl-Meyer 評 価 法

Fugl-Meyer 評価 法 に よる評 価項 目 とその配点 を表

1に 示 す. Fugl-Meyer 評 価法 の 総得 点 は226点 で あ

り, 高 得点 ほ ど, 機能 障害 は軽 度 で ある. 評 価項 目は

運 動機 能, 関 節可 動域, 疼 痛, 感覚, バ ラ ンス よ りな

り, 運 動機 能評 価 項 目は さらに, 上 肢, 手 指 ・手 関節,

下 肢 に分 かれ て い る. 各項 目は それ ぞれ い くつ かの サ

ブ テス ト (0点, 1点, 2点 の3段 階評 価) よ りな り,

そ の加 算 によ り合 計得 点 を求 め る よ うにな ってい る.

2. 検 討 項 目

Fugl-Meyer 評 価 法 の信頼 性, お よび妥 当性 につい

て検 討 した. 信頼 性 は無作 為 に抽 出 した10症 例 におい

て, 同法 に習熟 した検者 間 の評価 の比 較 に よ り検討 し

た. また妥 当性 につ い ては Brunnstrom stage, Barthel

index との比 較 を行 った. 統 計 的手法 として ス ピアマ

ンの順位 相 関係 数 (以下, rsと す る) を用 いた.

結 果

1 Fugl-Meyer 評 価 法 に よ る 身 体 機 能 評 価

全症 例 の プロ フィール と Brunnstrom stage, Barth-

el index (B.I.), Fugl-Meyer 得 点 を表2に 示 す. Fugl

-Meyer 評 価法 の合 計得 点の分布 は89~223点 (平均

151.8) で, その運動 機能評 価項 目の合 計得 点 は8~98

点 (平均46.3) とな ってい た.

2 検 者 間 に お け る 信 頼 性

図1に10症 例 にお け る2検 者 間 の信 頼性 を示す.

横軸 は検 者K.A.,縦 軸 は検者K.K.の 評価 に よる得 点

を示 してい る. 各症 例 の得点 は, 各 々 の得 点 を Fugl

-Meyer 評価 法 の総得 点で あ る226点 で除 し, パ ーセ

ン トで示 した もので ある. 図1に 示す ように検 者 間 に

おい て高 い信 頼性 を示 した (rs=1.00 p<0.01).

表1 Fugl-Meyer 法 に よ る 評 価 項 目

図1 Fugl-Meyer 評価 法合 計得 点 の検 者 間の信 頼 性

rs=1.00

図2 Fugl-Meyer 評 価 法 の 運 動 機 能 評 価 項 目 と

Brunnstrom stage と の 関 係

rs=0.939

図3 Fugl-Meyer 評 価 法 の 合 計 得 点 と

Barthel index との 関 係

rs=0.827

132 リハ ビ リテ ー シ ョ ン医学 VOL. 29 NO. 2 1992年2月

Page 3: Fugl-Meyer 評価法による“脳血管障害の 研究と報告 総合的身体機 …

3 Fugl-Meyer 評 価 法 の 運 動 機 能 評 価 項 目

と Brunnstrom 法 との 関 係

Fugl-Meyer 評 価法 の運 動機 能評価 項 目 と Brunn-

strom 法 との関係 を図2に 示す. 図2は 下 肢運 動機能

を示 した もので あ り, rs=0.939と 高 い相 関 を認 めた

(p<0.01). また上 肢, 手 指お よび手 関節 の運 動機能

にお い て もそれ ぞれrs=0.982 (P<0.01) お よびrs=

0.921 (P<0.01) と同様 の結果 が得 られた. さ らに図2か

ら Brunnstrom stage IIIの症 例 が Fugl-Meyer 評 価 法

の得 点 では広 い範 囲 に分布 してい る こ とがわ か った.

4 Fugl-Meyer 評 価 法 と Barthel index

と の 関 係

Fugl-Meyer 評 価法 の合計 得点 と Barthel index と

表2 全症 例 のプ ロフ ィ-ル

Br. Stage: Brunnsutrom Stage, B.I.: Barthel Index

リハ ビ リテー シ ョン医 学 VOL. 29 NO. 2 1992年2月 133

Page 4: Fugl-Meyer 評価法による“脳血管障害の 研究と報告 総合的身体機 …

の 関係 を図3に 示 す. Fugl-Meyer 評 価法 の合 計得 点

とBarthel index とはrs=0.827と 相関 を認 め た (p<

0.01) が直線 的比 例 関係 で は なか った. つ ま り図3を

みれ ば Fugl-Meyer 評価 が 中 等度 の得 点 以上 で あれ

ば Barthel index は ほぼ満 点 にな って し まう こ とがわ

か る.

Fugl-Meyer 評 価 法 の各項 目 と Barthel index との

相 関 を表3に 示す. 上 肢運 動機 能rs=0.719, 手指 運動

機 能rs=0.597, 下 肢運 動機 能rs=0.838, 関 節可 動域

rs=0.504, 疼 痛rs=0.717, 感覚rs=0.809, バ ラ ンス

rs=0.893で いず れ も有 意 で あ るが (p<0.01), 合計

得 点 その もの よ り下肢 運動 機能, バ ラ ンスが Barthel

index と高 い相 関 を有 した.

以 下 に代表 的症 例 を示 す.

Fugl-Meyer 評 価 法 に よる合 計得 点 が150点 前後 の

2症 例 のプ ロフ ィール を図4に あ げた. レー ダー図 は

Fugl-Meyer 評 価法 に よ る評価 項 目7つ, す なわ ち,

上肢, 手指 お よび手 関節, 下肢 の運 動機 能, バ ラ ンス,

感覚, 疼 痛, 関節 可動域 の7項 目, お よび合計 得点 に

よ り構 成 してあ る. な お各項 目の得 点 はそれ ぞれ の得

点 を その項 目の満 点で除 し, パ ー セ ン トで示 した もの

で あ る.

左 は69歳 男 性, 右MCA領 域 の脳 梗塞 後左 片麻痺

の症 例 (No. 15) で, Fugl-Meyer 評価法 の合 計点 が

146点 (65%), Barthel index 85点 の症例 で あ る. こ

の症 例 の運動 機能 は Brunnstrom stage 上 下肢 ともIV

であ った. 手 指 の随意運 動 は認 めず, 上肢 機能 はほぼ

全 廃で, 片手 で 日常生 活動作 を行 っていた. 肩関節,

足 関節 で若干 の可 動域制 限 を認 め るが疼 痛 はな く, 大

きな問題 とは な らな か った. 短下肢 装 具 と杖 の使用 で

歩 行可 能で あ った.

右 は75歳, 男 性, 右MCA領 域 の脳 梗塞 後左 片麻

痺 の症 例 (No. 17) で ある. Fugl-Meyer 評 価法合 計

得 点 は166点 (73%), Barthel index は90点 であ っ

た. 運 動機 能 は Brunnstrom stage 上 下肢 ともV, 手

指 の分離運 動 も可能 であ った. 手指, 膝, 肩の 関節拘

縮 お よび他 動運 動時 の疼痛 が著 明で あ り, 特 に膝 関節

の疼痛 が 日常愁 訴 とな る こ とが 多か った. 短 時 間の健

側片 脚立位 が可 能 であ ったが, 関節 可動域 制限 のた め

更衣, 整容 動作 に介助 を必要 とした.

図4 Fugl-Meyer 法 に よる総合 的 身体機 能評価 の プ ロフ ィール例

表3 Fugl-Meyer 評 価 法 の 各 項 目 と

Barthel index との 相 関

*p<0.01

134 リハ ビ リテー シ ョン医 学 VOL. 29 NO. 2 1992年2月

Page 5: Fugl-Meyer 評価法による“脳血管障害の 研究と報告 総合的身体機 …

考 察

1 信 頼 性 と妥 当性

1. 信 頼 性

Fugl-Meyer 評 価 法 は検 者 間で高 い信 頼性 を有 した

(図1) が, これ は採 点方法 が, 各 テ ス ト3段 階評価 と

簡 便 で あるた め と考 え られ た. また そのた め に評価 時

間 も短 時 間 (10分 程 度) です み, 日常 臨床 に用 い るに

も適 してい る と思 われ た. しか し, 項 目に よって, 3

段 階評 価 で は不 充分 と思わ れ る点が あ る ことは多 くの

研 究者 の指摘 す る と ころで あ る7).

2. 運 動 機 能 評 価

運 動機 能評価 項 目の得点 と Brunnstrom stage とは

きわめ て高 い相関 を示す のみ な らず, Brunnstrom 法

の “stage III”レベ ル の症例 で は Fugl-Meyer 評価 法

の運 動機 能評 価 を用 い る とさ らに細 か い評 価 が可能 と

思 われ た (図2).

脳 血 管障 害 に よる片麻痺 の運 動機 能評価 としては,

Demeurisse2), Wade11)ら の Mortricity index に代 表

され る麻痺 筋 の筋 力 を評価 の対 象 とす る方法 と, 共 同

運 動一 分離 運動 とい う運 動パ タ ー ンを評 価 す る方 法 と

が あ る. 後 者 はTwitchellg)の 研 究 に 基 づ い た

Brunnstrom1)法 が 代表 的 であ る, Fugl-Meyer の運動

機 能評 価法 は, この運動 パ ター ンの評 価 であ るた め,

Brunnstrom stage との相関 が きわ めて高 い ことも当

然で あ ろ う.

3. 能 力低 下 との 関 係

機能 障 害か ら能 力低下 を予 測 す る ことは, その患者

の リハ ビリテー シ ョン上 の ゴー ル を設 定 す る うえで重

要 な要素 で あ る. したが って, ADLと 高 い相 関 を有 す

る ことは身体機 能評 価 法 に課 せ られ た重 要 な課題 の一

つ であ る とい え よう.

Fug1-Meyer 評価 と Barthel index は高い相 関 関係

を有 し (図3), そ して Fugl-Meyer 評 価 が中等 度 の得

点 以上 で あれ ば, Barthel index は ほぼ満足 にな り日常

生活 の必 要最 低 限 を満 た す こ とがで きる レベ ル にな る

と考 え られ た. つ ま り両者 は相 関 を認 め るが直 接 的 な

もので はな か った. さ らに Fugl-Meyer 評価法 の各 項

目 ご と に Barthel index との 関 係 をみ る とバ ラ ンス,

下肢 運 動機能 評価 項 目が合 計得 点 よ り高 い相 関 を示 し

てい た (表3). Fugl-Meyer 評 価法 は関 節可 動域 疼痛,

手 指機 能 な ど Barthel index との相 関が比 較 的低 い項

目 も含 ん で い る た め, 合 計 得 点 そ の もの と Barthel

index との相関 はや や低 い もの にな らざ るを得 ない.

以 上 の結果 をみ る と, ADLの 予測 に関 して は下肢運

動機 能評価 の 方が有 用 であ るよ うに思わ れ るが, 才藤

ら8)が指 摘 して い る よ うに, 能力 低下 の評 価 法 として

の Barthel index に も問題 が あ る こ とを忘れ て はな ら

ない. すな わち, Barthel index を含 めた多 くのADL

評 価法 は, あ くまで 日常生活 の必 要最低 限 の評 価 で あ

り, その項 目の ほ とん どが 片手動作 で遂 行可 能 であ る

た め, 上 肢, 手 指機能 の変 化 に対 し, ‘非感受 性’であ る

点 であ る. 実際 に Barthel index が90点 以上 の症例

をみて も, 患側上 肢 の機能 によ りその能力 低下 に は大

きな差 が あ る ことは, わ れわ れ も日頃か らよ く経 験 す

る ところで あ る. 今 後, 上 肢機 能 を十分 に反映 す る能

力低 下評 価法 の確立 をまちた い.

2 総 合 的 身 体 機 能 法 と して の

Fugl-Meyer 評 価 法

日常 臨床 にお いて運 動機能評 価 の みでは その患者 の

もつ リハ ビ リテー シ ョン的問題 点 を明 らか にす るに は

不 十分 で ある こ とは言 うまで もない. 脳 血管 障害 の総

合 的 身 体 機 能 評 価 に は Wade11), Garraway6),

Feigenson3), らの方法 が あ るが, い ずれ も基 本動 作,

歩行能 力 な ど能 力低下 の項 目 も含 まれてお り, か な ら

ず しも機能 障害 の評価 で はな い. 一 方, Fugl-Meyer 評

価法 に おいて はバ ラ ンス項 目の なか に座位 ・立位 評価

項 目な ど能 力低下 と明 確 に は区別 で きな い項 目が含 ま

れ ては いる ものの, Barthel index に代 表 され るADL

評価 法 の項 目 と重複 す る もの では ない.

‘総合的’身体機 能評 価 とい う視 点 で Fugl-Meyer 評

価法 を用 い る と, 機 能障 害 を多面的 に評価 す る こ とが

で き, 図4の 症 例 で示 した よ うに, そ の臨 床的 特徴 を

捉 え, 患者 の もつ 日常臨床 にお ける問題 点 を明 らか に

す る こ とが可 能で あ った. また, 経 時的 に患者 の臨床

的 問題点 の移 り変 わ りを容 易 に捉 え る ことが で き, そ

の変化 に対応 した治 療方 針 をたて る こ とが可能 で あ っ

た. しか し,‘総合 的’評価 で あ るが ゆえに, その合計 得

点 のみ を評価 の対 象 とす るこ とは不 合理 が生 ず る. な

ぜ な ら Fugl-Meyer 評 価 法 の各項 目の配 点 は単 に そ

れ ぞれ の項 目の評価 に必 要 なサ ブテス トの合計 にす ぎ

ないか らで あ る. つ ま り Fugl-Meyer 評価 法 にお いて

は, 同程 度 の 得 点 の 症 例 に お い て も異 な った プ ロ

フ ィール を示 す こと もあ り, その合 計得 点 もさる こと

リハ ビ リテ ー シ ョン医学VOL. 29 NO. 2 1992年2月 135

Page 6: Fugl-Meyer 評価法による“脳血管障害の 研究と報告 総合的身体機 …

なが ら, そ の得 点パ タ ー ンに こそ, 重 要 な意義 が ある

と考 え られ る.

なお本稿 の要旨の一部は第58回 関東 リハ ビリテーショ

ン医学懇話会 において発表 した.

文 献

1) Brunnstrom S: Movement Therapy in Hemiplegia. Harper & Row, New York, 1970.

2) Demeurisse G, Deml O, Robaye E: Motor evalua- tion in vascular hemiplegia. Eur Neurol 19: 382 -389, 1980.

3) Feigenson J, Polkow L, Meikle R, Fergsun W: Burke stroke time-oriented profile (BUSTOP)-an overview of patient function. Arch Phys Med Re- habil 60: 508-511, 1979.

4) Fugl-Meyer AR: The post stroke hemiplegic

patient. A method for evaluation of physical perfor- mance. Scand J Rehabil Med 7: 13-31, 1975.

5) Fugl-Meyer AR: Post stroke hemiplegia, assess- ment of physical properties. Scand J Rehabil Med

Suppl 7: 85-93, 1980.

6) Garraway WM, Akhtar AJ, Gore SM, Prescott RJ,

Smith RG: Observer variation in the clinical

assessment of stroke. Age Ageing 5: 233-240,

1976.

7) 大川嗣雄, 佐鹿博信: 運動障害の評価-機 能障害 と社

会的不利の関係について. シンポジウム 「脳卒中の リ

ハ ビリテーシ ョンにお ける機能障害の評価」. リハ医学

16: 243-248, 1979.

8) 才藤栄一, 千野直一: 脳血管障害患者の身体機能評価

総合 リハ 17: 481-489, 1989.

9) Twitchell TE: The restoration of motor function

following hemiplegia in man. Brain 74: 443-480,

1951.

10) 上田 敏, 福屋靖子, 間 得之, 長谷川恒雄, 他: 片

麻痺機 能テス トの標準化一12段 階片麻痺 回復 グ レー

ド法. 総合 リハ5: 749-766, 1977.

11) Wade DT, Hewer RL, Skilbeck CE, David RM:

Assessment of Physical Function. In Wade DT, et

al: Stroke. Chapman & Hall, London, 1985. pp. 137 -157.

* *

Comprehensive Assessment of Physical Function in Stroke Patients

by Fugl-Meyer Physical Performance Scale

by

Kazuto AKABOSHI*, Eiichi SAITOH**, Kozo HANAYAMA**, Ken KONDO**,

Kazuhisa DOMEN**, Eiji MORI*, Akio KIMURA**, Naoichi CHINO**

from *Department of Rehabilitation Medicine, Odawara City Hospital

**Department of Rehabilitation Medicine, Keio University School of Medicine

When evaluating the level of impairment of stroke patients, we cannot clarify their problems only by the

assessment of motor function. We used the Fugl-Meyer physical performance scale to make a comprehen-

sive assessment of physical function in stroke patients, including ROM, pain, balance, sensory and motor

function. We examined 40 stroke patients with hemiplegia (24 cerebral infarction, 12 intracranial hemor-

rhage, 4 subarachnoid hemorrhage), right side: 18, left side; 22, who had all been rehabilitated for more

than three months and had achieved their rehabilitation goals. There were 30 males and 10 females, with an

average age of 61.7 years. In 10 patients, two examiner evaluated their physical function at the same time

to assess inter-examiner variation.

Using the Fugl-Meyer physical performance scale, we could evaluate patient impairment effectively, and

detect the problems in the rehabilitation easily. Such problems were reflected not only in the total score of

the test but also by the scoring pattern. Looking at chart, we could understand the patients' problems quite

easily.

In the Fugl-Meyer physical performance scale, the method of scoring is so simple that the inter-examiner

correlation was high (rs=1.0, p<0.01), and we could finish the evaluation quite rapidly, making it useful for

daily clinical practice.

The total score of the Fugl-Meyer physical performance scale correlated well with the Barthel index (rs=

0.827, p<0.01). This means that we could predict the patients' disabilities, besides understanding their

impairments and rehabilitation problems using Fugl-Meyer physical performance scale.

136 リハ ビ リテー シ ョン医 学 VOL. 29 NO. 2 1992年2月